IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横河電機株式会社の特許一覧

特開2024-169206光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法
<>
  • 特開-光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法 図1
  • 特開-光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法 図2
  • 特開-光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法 図3
  • 特開-光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法 図4
  • 特開-光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法 図5
  • 特開-光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法 図6
  • 特開-光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法 図7
  • 特開-光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169206
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/353 20060101AFI20241128BHJP
   G01M 11/00 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
G01D5/353 B
G01M11/00 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086474
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】手塚 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅美
【テーマコード(参考)】
2F103
2G086
【Fターム(参考)】
2F103BA37
2F103CA01
2F103CA08
2F103CA09
2F103EB02
2F103EB11
2F103EC09
2F103EC10
2F103FA02
2G086KK05
(57)【要約】
【課題】ホモダインBOCDR法によるブリルアン散乱光のスペクトルの測定結果に基づく光ファイバ特性の測定精度を向上できる光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法を提供する。
【解決手段】光ファイバ特性測定装置10は、変調光をポンプ光LPと参照光LRとに分岐する第1光分岐部20と、ポンプ光LPを被測定光ファイバ80の一端から入射させ、被測定光ファイバ80内で生じたブリルアン散乱光LSを取り出す第2光分岐部24と、参照光LR又はポンプ光LPの少なくとも1つの周波数を複数の周波数に変更する調整部30と、ブリルアン散乱光LSと各周波数の参照光LRとの干渉光をホモダイン検出した信号の周波数成分のうち、変調光の変調周波数の2倍の周波数の成分である二倍波成分に基づいて、被測定光ファイバ80の特性を測定する演算部54とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調された変調光をポンプ光と参照光とに分岐する第1光分岐部と、
前記ポンプ光を被測定光ファイバの一端から入射させ、前記被測定光ファイバ内で生じたブリルアン散乱光を取り出す第2光分岐部と、
前記参照光又は前記ポンプ光の少なくとも1つの周波数を複数の周波数に変更する調整部と、
前記ブリルアン散乱光と各周波数の前記参照光との干渉光をホモダイン検出した信号の周波数成分のうち、前記変調光の変調周波数の2倍の周波数の成分である二倍波成分に基づいて、前記被測定光ファイバの特性を測定する演算部と
を備える光ファイバ特性測定装置。
【請求項2】
前記干渉光をホモダイン検出した信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングした信号を前記演算部に出力する変換部を更に備え、
前記所定のサンプリング周波数は、前記変調光の変調周波数の2倍の周波数の2倍以上の周波数である、請求項1に記載の光ファイバ特性測定装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記干渉光をホモダイン検出した信号と、前記変調光の変調周波数の2倍の周波数を有する検波信号とを混合して前記二倍波成分を算出する、請求項1又は2に記載の光ファイバ特性測定装置。
【請求項4】
前記変調光を射出して前記第1光分岐部に進行させる光源と、
前記変調光の変調周波数を有する変調信号を前記光源に出力するとともに、前記検波信号を前記演算部に入力する信号発生部と
を更に備える、請求項3に記載の光ファイバ特性測定装置。
【請求項5】
周波数変調された変調光をポンプ光と参照光とに分岐するステップと、
前記ポンプ光を被測定光ファイバの一端から入射させるステップと、
前記被測定光ファイバ内で生じたブリルアン散乱光を取り出すステップと、
前記参照光又は前記ポンプ光の少なくとも1つの周波数を複数の周波数に変更するステップと、
前記ブリルアン散乱光と各周波数の前記参照光との干渉光をホモダイン検出した信号の周波数成分のうち、前記変調光の変調周波数の2倍の周波数の成分である二倍波成分に基づいて、前記被測定光ファイバの特性を測定するステップと
を含む、光ファイバ特性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ内で発生したブリルアン散乱光のスペクトルのピーク周波数の周波数シフト量を算出することによって光ファイバの特性を測定する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-22609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバの特性を測定するために用いるブリルアン散乱光のスペクトルの測定方法として、ホモダインBOCDR(Brillouin Optical Correlation Domain Reflectometry)法が用いられることがある。ホモダインBOCDR法は、周波数変調した変調光をポンプ光と参照光とに分岐し、ポンプ光を被測定光ファイバに入射させ、ポンプ光によって被測定光ファイバで生じたブリルアン散乱光と参照光との干渉光をホモダイン検出することによって、ブリルアン散乱光のスペクトルを測定する方法である。
【0005】
ホモダインBOCDR法において、変調光に含まれる振幅変調(AM)の成分がノイズになる。AMの成分は、周波数変調(FM)に伴って生じたり、変調光を分岐するカプラの分岐比の温度ドリフトによる変化によって生じたりする。AMノイズによってブリルアン散乱光のスペクトルの測定精度が低下する。また、ブリルアン散乱光のスペクトルに基づく光ファイバの特性の測定精度が低下する。
【0006】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、ホモダインBOCDR法によるブリルアン散乱光のスペクトルの測定結果に基づく光ファイバ特性の測定精度を向上できる光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)幾つかの実施形態に係る光ファイバ特性測定装置は、周波数変調された変調光をポンプ光と参照光とに分岐する第1光分岐部と、前記ポンプ光を被測定光ファイバの一端から入射させ、前記被測定光ファイバ内で生じたブリルアン散乱光を取り出す第2光分岐部と、前記参照光又は前記ポンプ光の少なくとも1つの周波数を複数の周波数に変更する調整部と、前記ブリルアン散乱光と各周波数の前記参照光との干渉光をホモダイン検出した信号の周波数成分のうち、前記変調光の変調周波数の2倍の周波数の成分である二倍波成分に基づいて、前記被測定光ファイバの特性を測定する演算部とを備える。
【0008】
二倍波成分に基づいてブリルアン散乱光のスペクトルが測定されることによって、AMノイズの影響が低減される。その結果、ブリルアン散乱光のスペクトルの測定精度が高められる。また、ブリルアン散乱光のスペクトルに基づく光ファイバの特性の測定精度が高められる。また、干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分が検出されることによって、直流成分を検出する場合に必要であった、ノイズ又はバイアスを取り除くためのノーマライズ処理が不要になる。また、BGSの測定結果が長周期の時間で変化する、ノイズ又はバイアスを含むノーマライズ波形の影響を受けにくくなる。その結果、長期にわたってBGSを測定する場合の安定性が高められる。
【0009】
(2)上記(1)に記載の光ファイバ特性測定装置は、前記干渉光をホモダイン検出した信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングした信号を前記演算部に出力する変換部を更に備えてよい。前記所定のサンプリング周波数は、前記変調光の変調周波数の2倍の周波数の2倍以上の周波数であってよい。干渉光をホモダイン検出した信号をサンプリングしてソフトウェア処理することによって、回路が簡易化される。
【0010】
(3)上記(1)又は(2)に記載の光ファイバ特性測定装置において、前記演算部は、前記干渉光をホモダイン検出した信号と、前記変調光の変調周波数の2倍の周波数を有する検波信号とを混合して前記二倍波成分を算出してよい。
【0011】
(4)上記(3)に記載の光ファイバ特性測定装置は、前記変調光を射出して前記第1光分岐部に進行させる光源と、前記変調光の変調周波数を有する変調信号を前記光源に出力するとともに、前記検波信号を前記演算部に入力する信号発生部とを更に備えてよい。信号発生部が光源に変調信号を入力し、演算装置に検波信号を入力することによって、変調波と検波信号の周波数差および相対的な位相差が一定に保たれる。その結果、長期的な測定の安定性が高められる。
【0012】
(5)幾つかの実施形態に係る光ファイバ特性測定方法は、周波数変調された変調光をポンプ光と参照光とに分岐するステップと、前記ポンプ光を被測定光ファイバの一端から入射させるステップと、前記被測定光ファイバ内で生じたブリルアン散乱光を取り出すステップと、前記参照光又は前記ポンプ光の少なくとも1つの周波数を複数の周波数に変更するステップと、前記ブリルアン散乱光と各周波数の前記参照光との干渉光をホモダイン検出した信号の周波数成分のうち、前記変調光の変調周波数の2倍の周波数の成分である二倍波成分に基づいて、前記被測定光ファイバの特性を測定するステップとを含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る光ファイバ特性測定装置及び光ファイバ特性測定方法によれば、ホモダインBOCDR法によるブリルアン散乱光のスペクトルの測定結果に基づく光ファイバ特性の測定精度が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】比較例に係る光ファイバ特性測定装置の構成を示すブロック図である。
図2】比較例に係る測定方法のフローチャートである。
図3】本開示に係る光ファイバ特性測定装置の構成例を示すブロック図である。
図4】演算装置の構成例を示すブロック図である。
図5】変調光の周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
図6】干渉光をホモダイン検出した信号の周波数スペクトルの一例を示すグラフである。
図7】本開示に係る光ファイバ特性測定方法の手順例を示すフローチャートである。
図8】他の実施形態に係る光ファイバ特性測定装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
光ファイバの長さ方向の各位置における温度又は歪み等の特性を測定するために、光ファイバに入射した光に応じて光ファイバの内部で生じる散乱光又は反射光を検出する方法が考えられる。光ファイバの特性の測定法の1つとして、ブリルアン光相関領域反射計測法(BOCDR法:Brillouin Optical Correlation Domain Reflectometry)が挙げられる。BOCDR法は、周波数変調された変調光から分岐したポンプ光を光ファイバに入射することと、変調光から分岐した参照光と光ファイバの内部で生じたブリルアン散乱光とを干渉させた干渉光を検出することとを含む。ブリルアン散乱光は、光ファイバに入射したポンプ光に起因するブリルアン散乱によって生じた後方散乱光であり、ポンプ光が入射した端部に戻ってくる。
【0016】
BOCDR法は、干渉光を検出した信号からブリルアン散乱光のスペクトルを取得することを更に含む。ブリルアン散乱光のスペクトルは、ブリルアンゲインスペクトル(BGS)とも称される。本開示に係るBOCDR法において、ブリルアン散乱光のスペクトルは、ホモダイン検出によって取得される。ホモダイン検出は、参照光の周波数をオフセットしてブリルアン散乱光と干渉させて信号を検出する手法である。
【0017】
BGSのピーク周波数は、ブリルアン散乱光を測定した光ファイバの特性に応じて定まる。したがって、BGSのピーク周波数を算出することによって、光ファイバの特性が測定される。BGSのピーク周波数は、ブリルアン周波数シフト(BFS)とも称される。
【0018】
BOCDR法において、ブリルアン散乱光と参照光とを干渉させることによって、光ファイバの中において相関ピークが現れる特定の位置におけるブリルアン散乱光が選択的に抽出される。相関ピークは、ブリルアン散乱光と参照光とが強め合うことによって干渉光に現れるピークである。相関ピークが現れる特定の位置は、光ファイバの中において、参照光と強め合って干渉光の相関ピークを出現させるブリルアン散乱光が生じた位置である。相関ピークが現れる特定の位置は、光ファイバの中に周期的に現れる。また、相関ピークが現れる特定の位置は、ポンプ光及び参照光の変調周波数の変化に応じて、光ファイバの長さ方向に沿って移動する。したがって、変調周波数を掃引することによって、相関ピークが現れる特定の位置を移動させることができる。BOCDR法において、相関ピークを移動させつつ各相関ピークが現れる位置におけるBFSを求めることによって、光ファイバの長さ方向の各位置における温度又は歪み等の特性の変化が検出される。その結果、光ファイバの長さ方向における温度分布又は歪み分布等の特性分布が測定される。
【0019】
(比較例)
図1に示されるように、比較例に係る光ファイバ特性測定装置90は、光源911と、光分岐部920と、調整部930と、合波部940と、光検出器941と、増幅器942と、変換部943と、演算装置950とを備える。
【0020】
光ファイバ特性測定装置90において、光源911は、周波数変調(FM)した光を射出する。光ファイバ特性測定装置90は、駆動電源912と信号発生部913とを更に備える。信号発生部913は、周波数変調の変調周波数(f)に対応する信号を発生して駆動電源912に入力する。駆動電源912は、信号発生部913から入力された信号に基づいて光源911を駆動する。光源911は、変調周波数(f)に基づいて周波数変調した光を射出する。
【0021】
光源911から射出された光は、光分岐部920でポンプ光LPと参照光LRとに分岐される。参照光LRは、調整部930を通って合波部940に進行する。調整部930は、参照光LRをシングルサイドバンド(SSB)変調することによって、参照光LRの周波数をオフセット量(f)だけオフセットする。光ファイバ特性測定装置90は、信号発生部931を更に備える。信号発生部931は、調整部930における参照光LRの周波数のオフセット量(f)に対応する信号を発生する。
【0022】
ポンプ光LPは、光分岐部920で分岐した後、被測定光ファイバ980に向けて進行する。光ファイバ特性測定装置90は、光分岐部920と被測定光ファイバ980との間に、スイッチ921と、遅延ファイバ922と、偏波スクランブラ(PS)923と、サーキュレータ924とを更に備える。スイッチ921は、ポンプ光LPをチョッピングすることによってパルス光Pに変換する。パルス光Pは、遅延ファイバ922と偏波スクランブラ923とサーキュレータ924とを通って被測定光ファイバ980に進行する。遅延ファイバ922は、パルス光Pの位相を調整する。偏波スクランブラ923は、パルス光Pの偏光を均一に近づける。サーキュレータ924は、光分岐部920から進行してきたパルス光Pを被測定光ファイバ980の方に進行させる。
【0023】
パルス光Pが被測定光ファイバ980に入射することによって被測定光ファイバ980の中でブリルアン散乱が生じる。被測定光ファイバ980の中でブリルアン散乱によって生じたブリルアン散乱光LSは、サーキュレータ924に戻ってくる。サーキュレータ924は、被測定光ファイバ980から戻ってくるブリルアン散乱光LSを光分岐部920の方に進行させずに、合波部940の方に進行させる。
【0024】
光ファイバ特性測定装置90は、周波数をオフセットした参照光LRとブリルアン散乱光LSとが干渉した干渉光を合波部940で生じさせ、干渉光を光検出器941で検出する。つまり、光ファイバ特性測定装置90は、ホモダイン検出を実行する。光ファイバ特性測定装置90は、干渉光をホモダイン検出した信号を増幅器942で増幅し、増幅した信号を変換部943でデジタル信号に変換する。
【0025】
光ファイバ特性測定装置90は、干渉光をホモダイン検出したデジタル信号を演算装置950で処理し、干渉光をホモダイン検出した信号の直流成分を検出する。具体的に、演算装置950は、干渉光をホモダイン検出した信号をローパスフィルタで処理し、直流成分及び直流成分に近い低周波成分を積分することによって、干渉光をホモダイン検出した信号の直流成分を検出する。
【0026】
干渉光をホモダイン検出した信号の直流成分は、ブリルアン散乱光LSの周波数スペクトルであるBGSのうち、参照光LRの周波数のオフセット量(f)に対応する周波数成分である。光ファイバ特性測定装置90は、信号発生部931によって参照光LRの周波数のオフセット量(f)を掃引しつつ、各オフセット量(f)に対応する周波数成分を取得することによって、ブリルアン散乱光LSの周波数スペクトルであるBGSを取得できる。
【0027】
光ファイバ特性測定装置90は、BGSのピーク周波数をBFSとして算出する。BFSは、被測定光ファイバ980の相関ピークの位置における温度又は歪み等の特性に基づいて定まる。したがって、光ファイバ特性測定装置90は、BFSを算出することによって、被測定光ファイバ980の特性を測定できる。
【0028】
被測定光ファイバ980の相関ピークが現れる特定の位置は、変調周波数(f)の変化に応じて移動する。したがって、光ファイバ特性測定装置90は、変調周波数(f)を変化させて相関ピークの位置を移動させつつ各相関ピークの位置における被測定光ファイバ980の特性を測定することによって、被測定光ファイバ980の特性の分布を測定できる。
【0029】
比較例に係る光ファイバ特性測定装置90は、図2に示されるフローチャートの手順を含む測定方法を実行することによって、被測定光ファイバ980の特性を測定する。
【0030】
光ファイバ特性測定装置90は、変調周波数で変調された変調光を光源911から出力する(ステップSC1)。光ファイバ特性測定装置90は、光分岐部920で変調光をポンプ光LPと参照光LRとに分岐する(ステップSC2)。光ファイバ特性測定装置90は、スイッチ921でポンプ光LPをパルス化して被測定光ファイバ980に入力する(ステップSC3)。
【0031】
光ファイバ特性測定装置90は、調整部930で参照光LRの周波数を変更する(ステップSC4)。光ファイバ特性測定装置90は、光検出器941で被測定光ファイバ980から戻ってきたブリルアン散乱光LSと参照光LRとの干渉光のホモダイン検出を実行する(ステップSC5)。光ファイバ特性測定装置90は、演算装置950で干渉光をホモダイン検出した信号の直流成分を取得する(ステップSC6)。
【0032】
光ファイバ特性測定装置90は、参照光LRの周波数の掃引が完了したか判定する(ステップSC7)。参照光LRの周波数は、BGSのピーク周波数を算出するために必要な範囲で掃引されるとする。光ファイバ特性測定装置90は、参照光LRの周波数の掃引が完了していない場合(ステップSC7:NO)、ステップSC4の参照光LRの周波数の変更手順に戻る。
【0033】
光ファイバ特性測定装置90は、参照光LRの周波数の掃引が完了した場合(ステップSC7:YES)、各周波数の成分に基づいて定まるBGSのピーク周波数をBFSとして算出する(ステップSC8)。
【0034】
光ファイバ特性測定装置90は、変調周波数の掃引が完了したか判定する(ステップSC9)。変調周波数は、被測定光ファイバ980の特性分布の測定位置に相関ピークを出現させるために必要な範囲で掃引されるとする。光ファイバ特性測定装置90は、変調周波数の掃引が完了していない場合(ステップSC9:NO)、ステップSC1の変調光の出力手順に戻って変調周波数を変更し、ステップSC1からSC8までの手順を繰り返す。光ファイバ特性測定装置90は、変調周波数の掃引が完了した場合(ステップSC9:YES)、被測定光ファイバ980の特性分布の測定結果を出力する(ステップSC10)。光ファイバ特性測定装置90は、ステップSC10の手順の終了後、図2のフローチャートの手順の実行を終了する。以上述べてきたように、比較例に係る光ファイバ特性測定装置90は、被測定光ファイバ980の特性分布を測定できる。
【0035】
ここで、BOCDR法で用いられる周波数変調した光は、振幅変調(AM)の成分を含む。AMの成分は、干渉光の低周波成分に含まれる。上述したように干渉光をホモダイン検出した信号をローパスフィルタで処理して低周波成分を積分することによって、BGSの周波数成分を取得する場合、AMの成分は、BGSを取得する際のノイズになる。したがって、比較例に係る光ファイバ特性測定装置90は、AM成分を抑圧してBGSに含まれるノイズを低減できるように、光源911の後段に、AM成分を抑圧するAM抑圧部990を更に備える必要がある。AM抑圧部990は、例えば光アンプによって信号を飽和させることによって振幅を一定にするように構成されてよい。
【0036】
しかし、AM抑圧部990を備えることによって、光ファイバ特性測定装置90の構成が複雑になる。
【0037】
そこで、本開示は、BGSを取得する際にAM成分の影響を低減できる光ファイバ特性測定装置10を説明する。
【0038】
(本開示に係る光ファイバ特性測定装置10の構成例)
以下、図3及び図4を参照して、光ファイバの特性を測定する光ファイバ特性測定装置10の実施形態が説明される。本開示の一実施形態に係る光ファイバ特性測定装置10は、BOCDR法を用いて、被測定光ファイバ(FUT:Fiber Under Test)80の特性を測定する。被測定光ファイバ80の特性は、例えば、被測定光ファイバ80の長さ方向における温度分布若しくは歪み分布、被測定光ファイバ80の振動、又は、被測定光ファイバ80の他の特性を含む。被測定光ファイバ80内において生じる散乱光又は反射光の周波数、振幅、又はスペクトル等の特性は、被測定光ファイバ80に影響を及ぼす温度又は歪み等の物理量に応じて変化する。したがって、光ファイバ特性測定装置10において、被測定光ファイバ80そのものがセンサとして用いられる。
【0039】
図3に示されるように、本開示の一実施形態に係る光ファイバ特性測定装置10は、光源11と、光分岐部20と、調整部30と、合波部40と、光検出器41と、増幅器42と、変換部43と、演算装置50とを備える。
【0040】
光源11は、周波数変調した光を射出する。光源11は、例えば、分布帰還型レーザダイオード(DFB-LD:Distributed Feed-Back Laser Diode)等の半導体レーザ素子を含んで構成されてよい。光ファイバ特性測定装置10は、駆動電源12と信号発生部13とを更に備える。信号発生部13は、周波数変調の変調周波数(f)を有する変調信号を発生し、変調信号を駆動電源12に入力する。駆動電源12は、信号発生部13から入力された変調信号に基づいて光源11を駆動する。光源11は、変調周波数(f)に基づいて周波数変調した光を射出する。
【0041】
光分岐部20は、入力された光を2つ以上の方向に分岐する。光分岐部20は、例えば光カプラを含んで構成されてよい。
【0042】
光ファイバ特性測定装置10は、光分岐部20と被測定光ファイバ80との間に、スイッチ21と、遅延ファイバ22と、偏波スクランブラ(PS)23と、サーキュレータ24とを更に備える。
【0043】
スイッチ21は、ポンプ光LPをチョッピングすることによってパルス光Pに変換する。パルス光Pは、遅延ファイバ22と偏波スクランブラ23とサーキュレータ24とを通って被測定光ファイバ80に進行する。遅延ファイバ22は、パルス光Pの進行を所定の時間だけ遅延させる。遅延ファイバ22は、例えば所定の長さの光ファイバを含んでよい。偏波スクランブラ23は、パルス光Pに含まれる偏波の成分が偏波の各方向において均一に近づくように偏波の状態を制御する。
【0044】
サーキュレータ24は、光分岐部20から進行してきたパルス光Pを被測定光ファイバ80の方に進行させる。また、サーキュレータ24は、被測定光ファイバ80から戻ってきたブリルアン散乱光LSを光分岐部20の方に進行させずに、合波部40の方に進行させる。ブリルアン散乱光LSは、被測定光ファイバ80の中でブリルアン散乱によって生じた光である。ブリルアン散乱は、パルス光Pが被測定光ファイバ80に入射することによって被測定光ファイバ80の中で生じる現象である。
【0045】
サーキュレータ24は、光カプラに置き換えられてもよい。光分岐部20は、第1光分岐部とも称される。サーキュレータ24は、第2光分岐部とも称される。
【0046】
調整部30は、光の周波数を所定量だけオフセットする。調整部30は、シングルサイドバンド(SSB)変調器を含んで構成されてよい。図3において、調整部30は、参照光LRの周波数を所定量だけオフセットする。後述するように、調整部30は、光分岐部20とスイッチ21との間に設置されてよい。この場合、調整部30は、ポンプ光LPの周波数を所定量だけオフセットする。つまり、調整部30は、参照光LR又はポンプ光LPの少なくとも1つの周波数を変更する周波数変調器であってよい。
【0047】
合波部40は、入力された2つ以上の光を1つの光として合わせて出力する。合波部40は、例えば光カプラを含んで構成されてよい。
【0048】
光検出器41は、入力された光の強度を検出し、検出した光の強度に対応する電気信号を出力する。光検出器41は、例えばフォトダイオード(PD)又はフォトトランジスタを含んで構成されてよい。
【0049】
増幅器42は、電気信号を増幅する。増幅器42は、例えばアンプを含んで構成されてよい。
【0050】
変換部43は、アナログの電気信号をデジタル信号に変換する。変換部43は、例えばA/D変換器を含んで構成されてよい。
【0051】
演算装置50は、図4に示されるように、取得部52と、演算部54と、記憶部56とを備える。
【0052】
取得部52は、有線又は無線によって、例えば変換部43又は信号発生部13若しくは31と通信する通信インタフェースを含んでよい。通信インタフェースは、LAN(Local Area Network)等の通信規格に基づいて通信可能に構成されてよい。通信規格はLANに限られず他の種々の規格であってもよい。
【0053】
演算部54は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等の専用回路を含んで構成されてよい。演算部54は、演算装置50の機能を実現するプログラムを実行するように構成されてよい。
【0054】
記憶部56は、演算装置50の動作に用いられる各種情報、又は、演算装置50の機能を実現するプログラム等を格納してよい。記憶部56は、演算部54のワークメモリとして機能してよい。記憶部56は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部56は、演算部54と一体で構成されてもよいし別体で構成されてもよい。
【0055】
演算装置50又は光ファイバ特性測定装置10は、ユーザからの入力を受け付ける入力デバイスを含んでもよい。入力デバイスは、例えば、キーボード又は物理キーを含んでもよいし、タッチパネル若しくはタッチセンサ又はマウス等のポインティングデバイスを含んでもよい。
【0056】
演算装置50又は光ファイバ特性測定装置10は、表示デバイスを備えてもよい。表示デバイスは、例えば液晶ディスプレイ等の種々のディスプレイを含んでよい。演算装置50又は光ファイバ特性測定装置10は、表示する情報を外部の表示装置に出力するインタフェースを備えてもよい。演算装置50又は光ファイバ特性測定装置10は、スピーカ等の音声出力デバイスを備えてもよい。演算装置50又は光ファイバ特性測定装置10は、音声情報を外部のスピーカ等に出力するインタフェースを備えてもよい。
【0057】
(本開示に係る光ファイバ特性測定装置10の動作例)
光ファイバ特性測定装置10において、光源11は、駆動電源12及び信号発生部13の制御によって、変調周波数(f)に基づいて周波数変調(FM)した光を射出する。
【0058】
光源11から射出された光は、光分岐部20でポンプ光LPと参照光LRとに分岐される。参照光LRは、調整部30を通って合波部40に進行する。調整部30は、参照光LRをシングルサイドバンド(SSB)変調することによって、参照光LRの周波数をオフセット量(f)だけオフセットする。光ファイバ特性測定装置10は、信号発生部31を更に備える。信号発生部31は、調整部30における参照光LRの周波数のオフセット量(f)に対応する信号を発生し、信号を調整部30に入力する。
【0059】
ポンプ光LPは、光分岐部20で分岐した後、スイッチ21、遅延ファイバ22及び偏波スクランブラ23を通ってサーキュレータ24に向けて進行する。遅延ファイバ22は、光ファイバの長さを変更することによってパルス光Pの遅延時間を調整できる。遅延ファイバ22は、変調周波数(f)を掃引した場合であっても移動しない0次の相関ピークを被測定光ファイバ80の外部に配置するために用いられる。
【0060】
サーキュレータ24は、光分岐部20から進行してきたパルス光Pを被測定光ファイバ80の方に進行させる。また、サーキュレータ24は、被測定光ファイバ80から戻ってきたブリルアン散乱光LSを光分岐部20の方に進行させずに、合波部40の方に進行させる。ブリルアン散乱光LSは、被測定光ファイバ80の中でブリルアン散乱によって生じた光である。ブリルアン散乱は、パルス光Pが被測定光ファイバ80に入射することによって被測定光ファイバ80の中で生じる現象である。
【0061】
第1光分岐部とも称される光分岐部20、及び、第2光分岐部とも称されるサーキュレータ24の動作は、以下のように言い換えられる。第1光分岐部は、周波数変調された変調光をポンプ光LPと参照光LRとに分岐し、ポンプ光LPを第2光分岐部に進行させ、参照光LRを合波部40に進行させる。第2光分岐部は、ポンプ光LPを被測定光ファイバ80の一端から入射させるように被測定光ファイバ80に向けて進行させる。また、第2光分岐部は、被測定光ファイバ80内で生じて戻ってきたブリルアン散乱光LSを合波部40に進行させる。つまり、第2光分岐部は、ポンプ光を被測定光ファイバ80の一端から入射させ、被測定光ファイバ80内で生じたブリルアン散乱光LSを取り出す。
【0062】
光ファイバ特性測定装置10は、周波数をオフセットした参照光LRとブリルアン散乱光LSとが干渉した干渉光を合波部40で生じさせ、干渉光を光検出器41で検出する。つまり、光ファイバ特性測定装置10は、ホモダイン検出を実行する。光ファイバ特性測定装置10は、干渉光をホモダイン検出した信号を増幅器42で増幅し、増幅した信号を変換部43でデジタル信号に変換する。変換部43は、干渉光をホモダイン検出した信号を所定のサンプリング周波数でサンプリングしたデジタル信号を演算装置50に出力する。
【0063】
ここで、変調光のスペクトルは、図5に例示されるように、変調周波数(f)がピークになる成分を有する。また、変調光から分岐した参照光LRのスペクトルは、変調周波数(f)がピークになる成分を有する。また、変調光から分岐したポンプ光LPによって生じたブリルアン散乱光LSのスペクトルは、変調周波数(f)がピークになる成分を有する。一方で、ブリルアン散乱光LSのスペクトルのピーク周波数におけるパワーは、参照光LRのスペクトルのピーク周波数におけるパワーと異なる。その結果、参照光LRとブリルアン散乱光LSとを干渉させた干渉光のスペクトルは、図6に例示されるように、参照光LRとブリルアン散乱光LSとの差周波成分である直流成分と、参照光LRとブリルアン散乱光LSとの和周波成分である二倍波成分とを含む。二倍波成分は、変調周波数(f)の2倍の周波数(2f)の成分である。図5及び図6において、横軸は周波数を表す。縦軸は各周波数成分のパワーを表す。
【0064】
干渉光をホモダイン検出した信号の直流成分のパワー及び二倍波成分のパワーは、両方とも、ブリルアン散乱光LSの周波数スペクトルであるBGSのうち、参照光LRの周波数のオフセット量(f)に対応する周波数成分のパワーを表す。したがって、干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分のパワーを検出することによっても、BGSの周波数成分が取得され得る。
【0065】
本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、干渉光をホモダイン検出したデジタル信号を演算装置50で処理し、干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分を検出する。
【0066】
具体的に、演算装置50は、取得部52でデジタル信号を取得する。また、演算装置50は、取得部52で、信号発生部13から周波数変調の変調周波数(f)に対応する信号又は変調周波数(f)の値を取得し、信号発生部31から参照光LRの周波数のオフセット量(f)に対応する信号又はオフセット量(f)の値を取得する。
【0067】
演算装置50は、演算部54で、デジタル信号を処理して干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分として、変調周波数の2倍の周波数(2f)の成分を検出する。演算部54は、干渉光をホモダイン検出したデジタル信号と、変調光の変調周波数の2倍の周波数を有する検波信号とを混合して二倍波成分を検出する。検波信号は、例えば、変調光の変調周波数の2倍の周波数を有する正弦波であってよい。検波信号は、信号発生部13から演算装置50に入力されてよい。言い換えれば、信号発生部13は、変調周波数に対応する信号を駆動電源12に入力するとともに、検波信号を演算装置50に入力するように構成されてよい。干渉光をホモダイン検出した信号と検波信号との混合は、ロックイン演算によって実行されてよい。つまり、演算部54は、干渉光をホモダイン検出した信号と、変調光の変調周波数の2倍の周波数を有する正弦波とのロックイン演算を実行することによって、干渉光をホモダイン検出した信号の周波数成分のうち周波数が2fである成分のパワーを算出し、二倍波成分として検出してよい。干渉光をホモダイン検出した信号と変調周波数の2倍の周波数を有する正弦波とのロックイン演算を実行できるように、演算装置50の前段の変換部43におけるデジタル信号への変換は、変調周波数の2倍の周波数(2f)の2倍以上の周波数、つまり4f以上のサンプリング周波数で実行されてよい。この場合、所定のサンプリング周波数は、変調光の変調周波数の2倍の周波数の2倍以上の周波数であってよい。また、干渉光をホモダイン検出する光検出器41は、変調周波数の2倍の周波数(2f)に対して十分に速い応答速度を有するように構成される。
【0068】
演算装置50は、取得部52で取得した信号若しくは情報、又は、演算部54でデジタル信号を処理した結果を、記憶部56に格納する。
【0069】
一方で、比較例において、干渉光をホモダイン検出した信号の直流成分が検出されていた。つまり、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、干渉光をホモダイン検出した信号の直流成分ではなく二倍波成分を検出する点で比較例と異なる。
【0070】
直流成分を検出する場合、ローパスフィルタが用いられる。高周波成分を取り除くために、ローパスフィルタのカットオフ周波数は、十分に短くされる必要がある。一方で、テンポラルゲート法のように高速の時間応答が求められる測定において、ローパスフィルタのカットオフ周波数を十分に短くすることが難しい。ローパスフィルタのカットオフ周波数が十分に短くされない場合、ホモダイン検出した信号の直流成分の検出結果は、AMの成分を含む。
【0071】
一方で、干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分を検出する場合、バンドパスフィルタ又はハイパスフィルタが用いられる。バンドパスフィルタ又はハイパスフィルタは、二倍波成分を含む範囲の周波数成分をほとんど減衰させずに通過させるものの低周波成分を十分に減衰させる。したがって、干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分の検出結果は、AMの成分をほとんど含まない。
【0072】
以上のことから、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分を検出することによって、直流成分を検出する場合と比較して、BGSに含まれるAMの成分の影響を低減できる。干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分を検出する方法として、上述した検波信号を混合する方法の他に、フーリエ変換を利用して計算によって二倍波成分を求める方法、又は、ハードウェアのロックインアンプを利用する方法等が考えられる。
【0073】
また、干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分が検出されることによって、直流成分を検出する場合に必要であったノーマライズ処理が不要になる。ノーマライズ処理は、干渉光をホモダイン検出した信号の直流成分を検出してBGSを測定する場合に、BGSの測定精度を高めるために、検出対象である干渉光をホモダイン検出した信号にもともと重畳しているノイズ、又は、バイアスを取り除く処理である。ノイズ又はバイアスを含むノーマライズ波形は、長周期の時間で変化する。長周期の時間で変化するノーマライズ波形の変化の影響を取り除くために、ノーマライズ処理が定期的に実施される必要があった。しかし、干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分が検出されることによって、検出した信号にノイズ又はバイアスが含まれなくなる。ノイズ又はバイアスが含まれないことによって、ノイズ又はバイアスを取り除くためのノーマライズ処理が不要になる。また、BGSの測定結果が長周期の時間で変化するノーマライズ波形の影響を受けにくくなる。その結果、長期にわたってBGSを測定する場合の安定性が高められる。
【0074】
本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、調整部30によって参照光LRの周波数のオフセット量を掃引して参照光LRの周波数を複数の周波数に変更しつつ、ブリルアン散乱光LSと変更した各周波数の参照光LRとの干渉光をホモダイン検出する。光ファイバ特性測定装置10は、演算装置50で、干渉光をホモダイン検出した信号の周波数成分のうち、変調光の変調周波数の2倍の周波数成分である二倍波成分を検出することによって、BGSのうち掃引したそれぞれのオフセット量に対応する周波数成分のパワーを取得する。光ファイバ特性測定装置10は、演算装置50で、参照光LRの周波数のオフセット量を掃引することによって取得したBGSの各周波数成分のパワーを合わせることによってBGSを取得できる。
【0075】
掃引したオフセット量(f)に対応するブリルアン散乱光LSの周波数は、ブリルアン散乱光LSの測定対象周波数とも称される。掃引したオフセット量(f)が周波数帯域に対応する場合、掃引したオフセット量(f)に対応するブリルアン散乱光LSの周波数は、ブリルアン散乱光LSの測定対象周波数帯域とも称される。
【0076】
光ファイバ特性測定装置10は、BGSのピーク周波数をBFSとして算出する。BFSは、被測定光ファイバ80の相関ピークの位置における温度又は歪み等の特性に基づいて定まる。したがって、光ファイバ特性測定装置10は、BFSを算出することによって、被測定光ファイバ80の特性を測定できる。つまり、光ファイバ特性測定装置10は、演算装置50で、干渉光をホモダイン検出した信号の周波数成分のうち、変調光の変調周波数の2倍の周波数の成分である二倍波成分に基づいて、被測定光ファイバ80の特性を測定できる。
【0077】
被測定光ファイバ80の相関ピークが現れる特定の位置は、変調周波数(f)の変化に応じて移動する。したがって、光ファイバ特性測定装置10は、変調周波数(f)を変化させて相関ピークの位置を移動させつつ各相関ピークの位置における被測定光ファイバ80の特性を測定することによって、被測定光ファイバ80の特性の分布を測定できる。
【0078】
<光ファイバ特性測定方法のフローチャート例>
本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、図7に示されるフローチャートの手順を含む光ファイバ特性測定方法を実行することによって、被測定光ファイバ80の特性を測定してよい。光ファイバ特性測定方法の少なくとも一部は、演算装置50の演算部54等に実行させる光ファイバ特性測定プログラムとして実現されてもよい。光ファイバ特性測定プログラムは、非一時的なコンピュータ読み取り可能な媒体に格納されてよい。
【0079】
光ファイバ特性測定装置10は、変調周波数で変調された変調光を光源11から出力する(ステップS1)。光ファイバ特性測定装置10は、光分岐部20で変調光をポンプ光LPと参照光LRとに分岐する(ステップS2)。光ファイバ特性測定装置10は、スイッチ21でポンプ光LPをパルス化して被測定光ファイバ80に入力する(ステップS3)。
【0080】
光ファイバ特性測定装置10は、調整部30で参照光LRの周波数を変更する(ステップS4)。光ファイバ特性測定装置10は、被測定光ファイバ80内で生じたブリルアン散乱光LSをサーキュレータ24で取り出し、ブリルアン散乱光LSと参照光LRとを合波部40で干渉させた干渉光を光検出器41で検出することによって、ブリルアン散乱光LSと参照光LRとの干渉光のホモダイン検出を実行する(ステップS5)。光ファイバ特性測定装置10は、演算装置50で干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分を取得する(ステップS6)。
【0081】
光ファイバ特性測定装置10は、参照光LRの周波数の掃引が完了したか判定する(ステップS7)。参照光LRの周波数は、BGSのピーク周波数を算出するために必要な範囲で掃引されるとする。言い換えれば、光ファイバ特性測定装置10は、調整部30で、参照光LRの周波数を複数の周波数に変更する。光ファイバ特性測定装置10は、参照光LRの周波数の掃引が完了していない場合(ステップS7:NO)、ステップS4の参照光LRの周波数の変更手順に戻る。
【0082】
光ファイバ特性測定装置10は、参照光LRの周波数の掃引が完了した場合(ステップS7:YES)、各周波数の成分に基づいて定まるBGSのピーク周波数をBFSとして算出する(ステップS8)。
【0083】
光ファイバ特性測定装置10は、変調周波数の掃引が完了したか判定する(ステップS9)。変調周波数は、被測定光ファイバ80の特性分布の測定位置に相関ピークを出現させるために必要な範囲で掃引されるとする。光ファイバ特性測定装置10は、変調周波数の掃引が完了していない場合(ステップS9:NO)、ステップS1の変調光の出力手順に戻って変調周波数を変更し、ステップS1からS8までの手順を繰り返す。光ファイバ特性測定装置10は、変調周波数の掃引が完了した場合(ステップS9:YES)、被測定光ファイバ80の特性分布の測定結果を出力する(ステップS10)。言い換えれば、光ファイバ特性測定装置10は、演算装置50で、干渉光をホモダイン検出した信号の周波数成分のうち、変調光の変調周波数の2倍の周波数の成分である二倍波成分に基づいて、被測定光ファイバ80の特性を測定する。光ファイバ特性測定装置10は、ステップS10の手順の終了後、図7のフローチャートの手順の実行を終了する。以上述べてきたように、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、被測定光ファイバ80の特性分布を測定できる。
【0084】
(まとめ)
以上述べてきたように、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、干渉光をホモダイン検出した信号の二倍波成分を検出してBGSを取得することによって、BGSに対するAM成分の影響を低減できる。BGSに対するAM成分の影響を低減できることによって、比較例に係る光ファイバ特性測定装置90で用いられていたAM抑圧部990が不要になる。その結果、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、簡易に構成される。
【0085】
また、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、温度ドリフトに起因するAM成分の影響を受けにくくなり、安定に動作できる。また、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、BGSに対するAM成分の影響を低減できることによって、BGSから算出したBFSに基づく、被測定光ファイバ80の特性の測定精度を向上できる。
【0086】
また、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、干渉光をホモダイン検出することによって、BGSを取得できる。干渉光をヘテロダイン検出する場合、ESA(Electric Spectrum Analyzer)を用いて周波数解析を実行する必要がある。干渉光をホモダイン検出することによって、ESAを用いた周波数解析を実行する必要が無い。ESAが不要になることによって、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、簡易に構成される。例えば、光ファイバ特性測定装置10の小型化及び省電力化が実現される。また、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、BGSを取得するために干渉光をホモダイン検出した信号をサンプリングしてソフトウェア処理を実行してよい。このようにすることで、回路が簡易化される。
【0087】
また、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、干渉光をホモダイン検出した信号と、変調光の変調周波数の2倍の周波数を有する検波信号とを混合して二倍波成分を検出する。また、本開示に係る光ファイバ特性測定装置10は、信号発生部31から、光源11に変調信号を入力し、演算装置50に検波信号を入力することによって、変調波と検波信号の周波数差および相対的な位相差が一定に保たれる。その結果、長期的な測定の安定性が高められる。
【0088】
(他の実施形態)
以下、他の実施形態に係る測定方法が説明される。
【0089】
他の実施形態に係る光ファイバ特性測定装置10は、図8に例示されるように、光源11と光分岐部20との間に、周波数変調を実行する調整部32を備えてよい。光ファイバ特性測定装置10は、調整部32に対して変調波の周波数(f)を有する変調信号を入力する信号発生部33を備えてよい。また、調整部30は、光分岐部20とスイッチ21との間に設置されてよい。この場合、調整部30は、ポンプ光LPの周波数をオフセット量(f)だけオフセットする。図3及び図8に例示されるように、調整部30は、参照光LR又はポンプ光LPの少なくとも1つの周波数を変更する周波数変調器であってよい。調整部30が周波数変調器であることによって、干渉光をホモダイン検出できる結果、高価なRF(Radio Frequency)帯域の部品が不要になる。また、ESAが不要になる。ESAが不要になることによって、光ファイバ特性測定装置10の小型化及び省電力化が実現される。
【0090】
光ファイバ特性測定装置10は、ポンプ光LPをパルス化するためのスイッチ21を備えなくてもよい。光ファイバ特性測定装置10は、スイッチ21を用いない二重変調法によって被測定光ファイバ80に入射するパルス光Pを生成してよい。この場合においても、光ファイバ特性測定装置10は、参照光LRとブリルアン散乱光LSとの干渉光をホモダイン検出して二倍波成分を検出することによって、BGSを取得できる。
【0091】
以上、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲においての種々の変更も含まれる。
【符号の説明】
【0092】
10 光ファイバ特性測定装置(11:光源、12:駆動電源、13:信号発生部、20:光分岐部、21:スイッチ、22:遅延ファイバ、23:偏波スクランブラ、24:サーキュレータ、30:調整部、31:信号発生部、32:調整部、33:信号発生部、40:合波部、41:光検出器、42:増幅器、43:変換部、50:演算装置、52:取得部、54:演算部、56:記憶部)
80 被測定光ファイバ
LP ポンプ光
LR 参照光
LS ブリルアン散乱光
P パルス光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8