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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169223
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
B41J2/14 301
B41J2/14 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086512
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆晃
(72)【発明者】
【氏名】垣内 徹
(72)【発明者】
【氏名】水野 泰介
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AG02
2C057AG11
2C057AG29
(57)【要約】
【課題】高い駆動周波数で圧電素子を駆動させる場合にも、圧電素子に付与する駆動電圧を低くでき、かつ、ノズルから安定して液滴を吐出させることができるようにする。
【解決手段】ヘッドは、ノズルの直径D[μm]及びノズルのテーパー角度θ[°]が下記式(1)(2)(3)を満たす。
θ≧2.1×D-36.4 ・・・式(1)
D>22 ・・・式(2)
θ<45 ・・・式(3)
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと前記ノズルに連通する圧力室とを含む流路を有する流路部材と、
前記流路部材に固定され、前記圧力室内の液体に圧力を付与して前記ノズルから液滴を吐出させる圧電素子と、を備え、
前記流路の固有周波数Frが120kHz以上であり、
前記ノズルの直径D[μm]及び前記ノズルのテーパー角度θ[°]が下記式(1)(2)(3)を満たすことを特徴とする、液滴吐出ヘッド。
θ≧2.1×D-36.4 ・・・式(1)
D>22 ・・・式(2)
θ<45 ・・・式(3)
【請求項2】
前記圧電素子の限界駆動周波数が50kHz以上であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記ノズルの直径D[μm]がさらに下記式(2’)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
D≧25 ・・・式(2’)
【請求項4】
前記ノズルは金属部材で画定され、
前記ノズルのテーパー角度θ[°]がさらに下記式(3’)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
θ≦25 ・・・式(3’)
【請求項5】
前記ノズルの直径D[μm]及び前記ノズルのテーパー角度θ[°]がさらに下記式(1’)を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
θ≧2.1×D-18.2 ・・・式(1’)
【請求項6】
前記ノズルの厚みが50μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記ノズルは、液滴が吐出される一端と、前記一端よりも前記圧力室に近い他端とを有し、前記一端から前記他端に亘って一定の前記テーパー角度を有することを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記ノズルが一列300dpi以上のピッチで配置されたことを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記ノズルの開口が円形状であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ノズルの直径が18~22μmという条件で、50kHz以上の駆動周波数で圧電素子を駆動させる場合、ノズルのテーパー角度が6°以上であると、ノズルから安定して液体を吐出させることができる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-84283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高速記録を行うため、駆動周波数をより高くすることが考えられる。駆動周波数を高めるための手段の1つは、流路の固有周波数Frを高めることである。
【0005】
しかしながら、固有周波数Frを高めると、ノズルの直径及びノズルのテーパー角度によっては、ノズルから所定量の液滴を吐出させるために圧電素子に高い駆動電圧を付与する必要が生じる。
【0006】
圧電素子は、高い駆動電圧が付与されると、ジュール熱の法則に基づいて、発熱量が増大する。圧電素子の熱が流路内の液体に伝わると、液体の粘度が低くなる。液体の粘度が低くなるほど、ノズルから吐出される液滴のサイズが大きくなる。ノズルから吐出される液滴のサイズが大きくなると、その液滴により形成される画像の濃度が高くなる。ひいては、記録中に圧電素子の発熱量が変動することで、画像に濃度ムラが生じてしまう。
【0007】
本発明の目的は、高い駆動周波数で圧電素子を駆動させる場合にも、圧電素子に付与する駆動電圧を低くでき、かつ、ノズルから安定して液滴を吐出させることができる、液滴吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、ノズルと前記ノズルに連通する圧力室とを含む流路を有する流路部材と、前記流路部材に固定され、前記圧力室内の液体に圧力を付与して前記ノズルから液滴を吐出させる圧電素子と、を備え、前記流路の固有周波数Frが120kHz以上であり、前記ノズルの直径D[μm]及び前記ノズルのテーパー角度θ[°]が下記式(1)(2)(3)を満たすことを特徴とする。
θ≧2.1×D-36.4 ・・・式(1)
D>22 ・・・式(2)
θ<45 ・・・式(3)
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係るヘッド1を含むプリンタ100の平面図である。
図2】プリンタ100の電気的構成を示すブロック図である。
図3】ヘッド1の平面図である。
図4図3のIV-IV線に沿ったヘッド1の断面図である。
図5】ノズルの直径D及びノズルのテーパー角度θと、駆動電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<プリンタ100の全体構成>
プリンタ100は、図1に示すように、本発明の一実施形態に係るヘッド1を有する。
【0011】
プリンタ100は、筐体100Aと、ヘッドユニット1Xと、プラテン3と、搬送機構4と、制御部5とを備えている。ヘッドユニット1X、プラテン3、搬送機構4及び制御部5は、筐体100A内に配置されている。
【0012】
ヘッドユニット1Xの紙幅方向の長さは、ヘッドユニット1Xの搬送方向の長さよりも長い。紙幅方向は、用紙9の幅に沿った方向であり、鉛直方向と直交する。ヘッドユニット1Xは、筐体100Aに固定されている。ヘッドユニット1Xの種類は、ライン式である。
【0013】
ヘッドユニット1Xは、4つのヘッド1を含む。4つのヘッド1は、紙幅方向に千鳥状に配置されている。ヘッド1の紙幅方向の長さは、ヘッド1の搬送方向の長さよりも長い。
【0014】
プラテン3は、鉛直方向と直交する平面に沿った板であり、ヘッドユニット1Xの下方に配置されている。プラテン3の上面に用紙9が支持される。
【0015】
搬送機構4は、2つのローラを有するローラ対41と、2つのローラを有するローラ対42と、図2に示す搬送モータ43とを含む。搬送方向において、ヘッドユニット1X及びプラテン3が、ローラ対41とローラ対42との間に配置されている。搬送方向は、鉛直方向及び紙幅方向と直交する。
【0016】
制御部5の制御により搬送モータ43が駆動されると、ローラ対41,42のローラが回転する。ローラ対41,42のローラが回転することによって、ローラ対41,42のローラに挟持された用紙9が搬送方向に搬送される。
【0017】
制御部5は、図2に示すように、CPU51と、ROM52と、RAM53とを含む。
【0018】
CPU51は、外部装置から入力されたデータに基づいて、ROM52やRAM53に記憶されているプログラム及びデータにしたがい、各種制御を実行する。外部装置は、例えばpersonal computer (PC)である。
【0019】
ROM52には、CPU51が各種制御を行うためのプログラム及びデータが格納されている。RAM53は、CPU51がプログラムを実行する際に用いるデータを一時的に記憶する。
【0020】
<ヘッド1の構成>
ヘッド1は、図4に示すように、流路部材12と、アクチュエータ部材13とを含む。
【0021】
流路部材12の上面には、図3に示すように、2つの供給口12X及び2つの帰還口12Yが開口している。2つの供給口12Xは、流路部材12における紙幅方向の一端に配置されている。2つの帰還口12Yは、流路部材12における紙幅方向の他端に配置されている。供給口12X及び帰還口12Yは、チューブを介してインクタンクと連通している。
【0022】
流路部材12は、2つの共通流路12Aと、複数の個別流路12Bとを有する。
【0023】
2つの共通流路12Aは、搬送方向に並び、かつ、それぞれ紙幅方向に延びている。共通流路12Aにおける紙幅方向の一端に、供給口12Xが接続されている。共通流路12Aにおける紙幅方向の他端に、帰還口12Yが接続されている。共通流路12Aは、供給口12X及び帰還口12Yを介してインクタンクに連通し、かつ、複数の個別流路12Bに連通している。
【0024】
個別流路12Bは、図4に示すように、ノズル12Nと、ノズル12Nに連通する圧力室12Pと、ノズル12Nと圧力室12Pとを接続する接続路12Dとを含む。個別流路12Bは、本発明の「流路」に該当する。本実施形態において、個別流路12Bの固有周波数Frは、高速記録に対応すべく圧電素子13Xの駆動周波数を高める観点から、120kHz以上である。
【0025】
流路部材12は、7枚のプレート121~127を含む。7枚のプレート121~127のうち、最上層のプレート121に複数の圧力室12Pが形成され、最下層のプレート127に複数のノズル12Nが形成されている。プレート121の上面に複数の圧力室12Pが開口し、プレート127の下面に複数のノズル12Nが開口している。圧力室12Pの開口は略矩形状であり、ノズル12Nの開口は円形状である。
【0026】
プレート127は、金属製であり、本発明の「金属部材」に該当する。ノズル12Nは、金属部材であるプレート127で画定され、レーザー加工又はパンチング加工により形成されたものである。プレート127の厚み(即ち、ノズル12Nの厚み)Xは、50μm以下である。
【0027】
ノズル12Nは、下端(一端)と、当該下端よりも圧力室12Pに近い上端(他端)とを有する。ノズル12Nは、上端から下端に向かって先細りの形状を有する。ノズル12Nの下端は、インク滴が吐出される開口であり、ノズル12Nの上端よりも小さい直径を有する。ノズル12Nを画定する側壁は、鉛直方向に対して傾斜している。ノズル12Nは、下端から上端に亘って一定のテーパー角度θを有する。テーパー角度θは、ノズル12Nを画定する側壁の鉛直方向に対する鋭角側の角度である。
【0028】
ノズル12Nは、図3に示すように、紙幅方向に千鳥状に配置され、4つのノズル列R1~R4を構成している。各ノズル列R1~R4は、紙幅方向に並ぶ複数のノズル12Nで構成されている。
【0029】
各ノズル列R1~R4において、複数のノズル12Nは、紙幅方向に300dpi以上のピッチPで配置されている。本実施形態では、各ノズル列R1~R4における記録解像度が300dpiであり、ピッチPは約84μmである。記録解像度とは、ノズル12Nから吐出されたインク滴により記録される画像の解像度である。
【0030】
搬送方向に互いに隣接する2つのノズル列間では、紙幅方向におけるノズル12Nの位置が、ピッチPの半分ずれている。これにより、各ノズル列R1~R4における記録解像度が300dpiの場合、4つのノズル列R1~R4により1200dpiの記録解像度が実現される。本実施形態のヘッド1は、紙幅方向及び搬送方向において1200dpi×1200dpiの記録解像度を有する。
【0031】
圧力室12Pの幅Wは、300μm以下である。圧力室12Pの長さLは、350μm以下である。幅Wは紙幅方向の長さであり、長さLは搬送方向の長さである。圧力室12Pの幅Wは、例えば225μmである。圧力室12Pの長さLは、例えば330μmである。
【0032】
接続路12Dは、図4に示すように、圧力室12Pの搬送方向の一端と、ノズル12Nの上端とを接続している。接続路12Dは、円柱状である。接続路12Dの直径は、ノズル12Nの上端の直径よりも大きい。
【0033】
インクタンク内のインクは、制御部5の制御により図2に示すポンプ10が駆動されることで、供給口12Xを介して共通流路12Aに供給され、共通流路12Aから複数の個別流路12Bに分配される。
【0034】
後述する圧電素子13Xの駆動により圧力室12Pの容積が減少すると、圧力室12P内のインクに圧力が付与される。圧力が付与されたインクは、接続路12Dを通って、ノズル12Nからインク滴として吐出される。
【0035】
供給口12Xを介して共通流路12Aに供給されたものの個別流路12Bへ分配されなかったインクは、帰還口12Yを通じてインクタンクに戻る。
【0036】
アクチュエータ部材13は、図4に示すように、流路部材12の上面に固定されている。アクチュエータ部材13は、金属製の振動板131と、圧電層132と、複数の個別電極133とを含む。
【0037】
アクチュエータ部材13において圧力室12Pと鉛直方向に重なる部分が、圧電素子13Xとして機能する。圧電素子13Xは、個別電極133に付与される電位に応じて独立して変形可能である。
【0038】
圧電素子13Xは、薄膜圧電素子である。薄膜圧電素子の厚みTは、5μm以下である。本実施形態では、厚みTは、例えば3μmである。薄膜圧電素子とは、いわゆるmicro electro mechanical systems(MEMS)である。圧電素子13Xは、振動板131の上面に圧電層132となる薄膜と個別電極133となる薄膜とを順に形成したものである。
【0039】
振動板131は、流路部材12の上面に、複数の圧力室12Pを覆うように配置されている。圧電層132は、振動板131の上面に配置されている。個別電極133は、圧電層132の上面に、圧力室12Pと鉛直方向に重なるように配置されている。
【0040】
振動板131及び複数の個別電極133は、ドライバIC14と電気的に接続されている。ドライバIC14は、振動板131の電位をグランド電位に維持する一方、個別電極133の電位を変化させる。振動板131は、複数の圧電素子13Xに共通の電極である共通電極として機能する。
【0041】
ドライバIC14は、制御部5からの制御信号に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を個別電極133に供給する。駆動信号は、個別電極133の電位を所定の駆動電位とグランド電位との間で変化させる。
【0042】
次いで、本願発明者等が行った実験及び解析について説明する。
【0043】
本願発明者等は、ノズル12Nの開口の直径Dと、ノズル12Nのテーパー角度θとが、ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるために圧電素子13Xに付与する駆動電圧に影響することに着眼し、直径D及びテーパー角度θが異なる複数のヘッド1の実験体を用いて実験を行った。直径D及びテーパー角度θ以外の構成は、複数の実験体において共通である。
【0044】
実験では、各実験体の圧電素子13Xに駆動電圧を付与してノズル12Nからインク滴を吐出させ、駆動電圧を実測した。そして、当該実測結果から、直径Dと駆動電圧との関係、及び、テーパー角度θと駆動電圧との関係を導出し、さらにこれらの関係から、直径D及びテーパー角度θと、駆動電圧との関係を導出した。
【0045】
図5に、解析結果を示す。図5では、駆動電圧の基準値を20Vとし、基準値と同じ駆動電圧(±0V)に対応する直径D及びテーパー角度θの組み合わせ、基準値よりも1V低い駆動電圧(-1V)に対応する直径D及びテーパー角度θの組み合わせ、基準値よりも2V低い駆動電圧(-2V)に対応する直径D及びテーパー角度θの組み合わせ、基準値よりも3V低い駆動電圧(-3V)に対応する直径D及びテーパー角度θの組み合わせ、基準値よりも4V低い駆動電圧(-4V)に対応する直径D及びテーパー角度θの組み合わせ、並びに、基準値よりも5V低い駆動電圧(-5V)に対応する直径D及びテーパー角度θの組み合わせを、それぞれプロットで示している。
【0046】
図5において、直線L1は、基準値と同じ駆動電圧(±0V)に対応する直径D及びテーパー角度θの組み合わせのプロットを結ぶ直線であり、直径D[μm]及びテーパー角度θ[°]の式「θ=2.1×D-36.4」に合致する。直線L1’は、基準値よりも5V低い駆動電圧(-5V)に対応する直径D及びテーパー角度θの組み合わせのプロットを結ぶ直線であり、直径D[μm]及びテーパー角度θ[°]の式「θ=2.1×D-18.2」に合致する。
【0047】
図5から、直径D[μm]及びテーパー角度θ[°]が下記式(1)を満たすことで、高い駆動周波数で圧電素子13Xを駆動させる場合にも、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を低く(即ち、上記基準値を超えないように)できることがわかる。さらに、直径D[μm]及びテーパー角度θ[°]が下記式(1’)を満たすことで、圧電素子13Xに付与する駆動電圧をさらに低く(即ち、上記基準値よりも5V低い駆動電圧に)できることがわかる。そこで、本実施形態では、直径D[μm]及びテーパー角度θ[°]が下記式(1),(1’)を満たすように、ヘッド1を構成する。
θ≧2.1×D-36.4 ・・・式(1)
θ≧2.1×D-18.2 ・・・式(1’)
【0048】
また、本願発明者等は、直径Dが小さ過ぎる(具体的には22μm以下である)と、記録に十分な量のインク滴を吐出させることができないこと、及び、テーパー角度θが大き過ぎる(具体的には45°以上である)と、ノズル12Nを画定する側壁の勾配が大き過ぎることで、ノズル12Nのメニスカスが後退し、ノズル12Nのメニスカスが壊れ易いことを知見している。そこで、本実施形態では、直径D[μm]及びテーパー角度θ[°]が式(1)に加えて下記式(2)(3)を満たすように、ヘッド1を構成する。式(2)を満たすことで、記録に十分な量のインク滴を吐出させることができる。式(3)を満たすことで、ノズル12Nのメニスカスが壊れ難い。つまり、式(2)(3)を満たすことで、ノズル12Nから安定してインク滴を吐出させることができる。ここで、「安定した吐出」とは、記録に十分な量のインク滴を吐出させることと、ノズル12Nのメニスカスが壊れ難いことと、の両方が実現されることをいう。
D>22 ・・・式(2)
θ<45 ・・・式(3)
【0049】
記録に十分な量のインク滴を吐出させることができるという効果をさらに高めるため、本実施形態では、直径D[μm]がさらに下記式(2’)を満たすように、ヘッド1を構成する。
D≧25 ・・・式(2’)
【0050】
本実施形態のノズル12Nは金属製のプレート127で画定される。この場合、パンチング加工でノズル12Nが形成されることが多く、テーパー角度θが25°を超えると、パンチング加工時のプレート127に対する金型の押し込み量によって、ノズル12Nの直径Dに大きなバラつきが生じてしまう。そこで、本実施形態では、ノズルのテーパー角度θ[°]がさらに下記式(3’)を満たすように、ヘッド1を構成する。これにより、パンチング加工でノズル12Nが形成される場合にも、ノズル12Nの直径Dに大きなバラつきが生じ難い。
θ≦25 ・・・式(3’)
【0051】
高い駆動周波数で圧電素子13Xを駆動させる場合、先行のインク滴のテールがノズル12Nのメニスカスから分離する前に、後続のインク滴が吐出される。その結果、先行のインク滴のテールに、後続のインク滴が繋がった状態となる。このようなインク滴の繋がりが生じないようにするには、ピンチオフタイム(Pinch-Off-Time)を短くすることが好ましい。ピンチオフタイムとは、インク滴吐出に係る駆動信号が圧電素子13Xに印加された時点から、当該液滴のテールがノズル12Nのメニスカスから分離される時点まで、の時間をいう。ピンチオフタイムは圧電素子13Xの限界駆動周波数と反比例の関係にあり、限界駆動周波数が高くなるにつれてピンチオフタイムが短くなる。そこで、本実施形態では、限界駆動周波数が50kHz以上となるように、ヘッド1を構成する。これにより、高い駆動周波数で圧電素子13Xを駆動させる場合にも、インク滴の繋がりが生じない。
【0052】
以上に述べたように、本実施形態によれば、ノズル12Nの直径D[μm]及びノズル12Nのテーパー角度θ[°]が下記式(1)(2)(3)を満たす。式(1)を満たすことで、高い駆動周波数で圧電素子13Xを駆動させる場合にも、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を低くできる。さらに、式(2)(3)を満たすことで、ノズル12Nから安定してインク滴を吐出させることができる。
θ≧2.1×D-36.4 ・・・式(1)
D>22 ・・・式(2)
θ<45 ・・・式(3)
【0053】
圧電素子13Xの限界駆動周波数が50kHz以上である。これにより、上記のとおり、高い駆動周波数で圧電素子13Xを駆動させる場合にも、インク滴の繋がりが生じない。
【0054】
ノズル12Nの直径D[μm]がさらに下記式(2’)を満たす。これにより、より一層十分な量のインク滴をノズル12Nから吐出させることができる。
D≧25 ・・・式(2’)
【0055】
ノズル12Nが金属製のプレート127で画定され、ノズル12Nのテーパー角度θ[°]がさらに下記式(3’)を満たす。これにより、上記のとおり、パンチング加工でノズル12Nが形成される場合にも、ノズル12Nの直径Dに大きなバラつきが生じ難い。
θ≦25 ・・・式(3’)
【0056】
ノズル12Nの直径D[μm]及びノズル12Nのテーパー角度θ[°]がさらに下記式(1’)を満たす。これにより、図5を参照して説明したとおり、圧電素子13Xに付与する駆動電圧をさらに低くできる。
θ≧2.1×D-18.2 ・・・式(1’)
【0057】
ノズル12Nの厚みXが50μmを超えると、ノズル12Nの流路抵抗が大き過ぎることで、ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるために圧電素子13Xに高い駆動電圧を付与する必要が生じる。この点、本実施形態では、ノズル12Nの厚みXが50μm以下であることで、上記問題が生じない。
【0058】
ノズル12Nは、図4に示すように、インク滴が吐出される下端(一端)と、下端(一端)よりも圧力室12Pに近い上端(他端)とを有し、下端(一端)から上端(他端)に亘って一定のテーパー角度θを有する。この場合、一端と他端との間でテーパー角度θが変化する構成や段差が生じる構成に比べ、ノズル12Nの構成が簡素であり、ヘッド1を低コストで製造できる。
【0059】
ノズル12Nが一列300dpi以上のピッチで配置されている。この場合、ヘッド1を小さくでき、かつ、高画質が得られる。
【0060】
ノズル12Nの開口が円形状である(図3参照)。この場合、ノズル12Nに製造バラつきが生じても、ノズル12Nから吐出されるインク滴の形状や着弾位置のバラつきが生じ難い。
【0061】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0062】
上述の実施形態において、圧電素子を構成する電極は、個別電極及び共通電極を含む2層構成であるが、3層構成であってもよい。3層構成とは、例えば、高電位及び低電位が選択的に付与される駆動電極と、高電位に保持される高電位電極と、低電位に保持される低電位電極とを含む構成である。
【0063】
本発明の液滴吐出ヘッドの種類は、ライン式に限定されず、シリアル式であってもよい。
【0064】
液滴を吐出する対象は、用紙に限定されない。例えば、液滴を吐出する対象は、布、基板又はプラスチックであってもよい。
【0065】
ノズルから吐出される液滴は、インク滴に限定されない。例えば、液滴は、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液の液滴であってもよい。
【0066】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機及び複合機にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液滴吐出装置にも適用可能である。例えば、本発明は、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液滴吐出装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 ヘッド(液滴吐出ヘッド)
12 流路部材
12B 個別流路(流路)
12N ノズル
12P 圧力室
13X 圧電素子
100 プリンタ
127 プレート(金属部材)
図1
図2
図3
図4
図5