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特開2024-169231情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169231
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G01M17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086529
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川眞田 智
(72)【発明者】
【氏名】濱谷 光吉
(57)【要約】
【課題】車両の走行に応じて変化する車両の乗員に対する入出力を考慮して、タイヤの評価に関係する情報を推定する。
【解決手段】情報処理装置は、タイヤが取り付けられている車両の走行に応じて時系列に変化し、かつ車両の乗員に対する入出力を示す複数の一連の時系列情報を取得する取得部(S202)と、複数の一連の時系列情報を入力とし、タイヤに対する評価を示す第1評価情報を出力とする第1モデルを用いて、車両の走行を複数の時間区間に分割した複数の走行シーンの各々における入出力に対する特徴を示す複数の特徴情報を抽出する抽出部(S206)と、抽出した複数の特徴情報を入力とし、タイヤに対する評価を示す第2評価情報を出力とする第2モデルを用いて、複数の走行シーンの各々における第2評価情報と入出力との関連を示す関連情報を導出する導出部(S212)と、を備える。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤが取り付けられている車両の走行に応じて時系列に変化し、かつ前記車両の乗員に対する入出力を示す複数の一連の時系列情報を取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記複数の一連の時系列情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第1評価情報を出力とする第1モデルを用いて、前記車両の走行を複数の時間区間に分割した複数の走行シーンの各々における前記入出力に対する特徴を示す複数の特徴情報を抽出する抽出部と、
前記抽出部で抽出した前記複数の特徴情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第2評価情報を出力とする第2モデルを用いて、前記複数の走行シーンの各々における前記第2評価情報と前記入出力との関連を示す関連情報を導出する導出部と、
を備えた情報処理装置。
【請求項2】
前記抽出部は、前記複数の走行シーンの各々に対応する予め定めた複数の異なるタイミングにおける前記第1モデルの内部状態を示す情報を前記複数の特徴情報として抽出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記導出部は、前記複数の走行シーンの各々における前記第2モデルの内部状態を示す情報に基づいて、前記第2評価情報に対する前記入出力の関連性の度合いを示す重要度を前記関連情報として導出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記時系列情報は、乗員の腕に関する入出力を示す腕部情報、乗員の腰への入力を示す腰部情報、および乗員の頭部への入力を示す頭部情報を含み、
前記腕部情報は、操舵角および操舵トルクの少なくとも一方を示すデータであり、前記腰部情報は、座席シート上の乗員の重心位置を示すデータであり、前記頭部情報は、頭部加速度および角速度を示すデータである、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記第1モデルは、リカレントニューラルネットワークモデルであり、
前記第2モデルは、ランダムフォレストモデルである、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記第1モデルの内部状態を示す情報は、前記リカレントニューラルネットワークモデルにおけるニューロン値であり、
前記第2モデルの内部状態を示す情報は、前記ランダムフォレストモデルにおける条件分岐の結果を示す情報である、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
コンピュータが、
タイヤが取り付けられている車両の走行に応じて時系列に変化し、かつ前記車両の乗員に対する入出力を示す複数の一連の時系列情報を取得し、
前記取得した前記複数の一連の時系列情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第1評価情報を出力とする第1モデルを用いて、前記車両の走行を複数の時間区間に分割した複数の走行シーンの各々における前記入出力に対する特徴を示す複数の特徴情報を抽出し、
前記抽出した前記複数の特徴情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第2評価情報を出力とする第2モデルを用いて、前記複数の走行シーンの各々における前記第2評価情報と前記入出力との関連を示す関連情報を導出する、
ことを処理する情報処理方法。
【請求項8】
コンピュータに
タイヤが取り付けられている車両の走行に応じて時系列に変化し、かつ前記車両の乗員に対する入出力を示す複数の一連の時系列情報を取得し、
前記取得した前記複数の一連の時系列情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第1評価情報を出力とする第1モデルを用いて、前記車両の走行を複数の時間区間に分割した複数の走行シーンの各々における前記入出力に対する特徴を示す複数の特徴情報を抽出し、
前記抽出した前記複数の特徴情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第2評価情報を出力とする第2モデルを用いて、前記複数の走行シーンの各々における前記第2評価情報と前記入出力との関連を示す関連情報を導出する、
ことを処理させる、情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
センサからの時系列データを用いて、当該時系列データを入力として利用するモデルの出力に対する重要度を算出する情報処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、処理対象に関する時系列データを取得し、取得された時系列データから所定の時間幅の時系列データを切り出して得られる、時間幅がそれぞれ異なる複数の時系列データをそれぞれグループとして設定する。そして、設定されたグループごとに、時系列データを入力値として利用するモデルの出力値に対する重要度に関するスコアを算出する。
【0003】
また、フレームごとの特徴ベクトルの系列から、時間区間ごとに特徴量を選択して代表特徴ベクトルを生成する生成装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。この技術では、フレームごとの特徴ベクトルの系列から、時間区間ごとに、時間区間に含まれる複数のフレームの特徴ベクトルを選定する手段と、時間区間ごとに、選定された時間区間内の異なるフレームの特徴ベクトルから、特徴ベクトルの異なる次元の特徴量を選択し、時間区間を代表する代表特徴ベクトルを生成する手段とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-166442号
【特許文献2】国際公開第2010/087125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両に取り付けられたタイヤの性能、例えば、操縦安定性能は、車両が走行する状態で、車両の乗員による官能評価を行う場合がある。ところが、この官能評価は車両の乗員による走行の結果として得られるが、官能評価の結果に関する根拠,例えば、どのタイミングで、どの情報が寄与するのかを特定することが困難であった。また、近年の技術進歩に従って官能評価の結果を予測するモデルの開発が行われている。このモデルを用いて官能評価の結果を予測することが可能になる。ところが、このモデルを用いたとしても、官能評価の予測結果に関する根拠、例えば、どのタイミングで、どの情報が寄与するのかを特定することが困難であった。従って、車両に取り付けられたタイヤの性能を評価するのには改善の余地がある。
【0006】
本開示は、車両の走行に応じて変化する車両の乗員に対する入出力を考慮して、タイヤの評価に関係する情報を推定することができる情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1態様は、
タイヤが取り付けられている車両の走行に応じて時系列に変化し、かつ前記車両の乗員に対する入出力を示す複数の一連の時系列情報を取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記複数の一連の時系列情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第1評価情報を出力とする第1モデルを用いて、前記車両の走行を複数の時間区間に分割した複数の走行シーンの各々における前記入出力に対する特徴を示す複数の特徴情報を抽出する抽出部と、
前記抽出部で抽出した前記複数の特徴情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第2評価情報を出力とする第2モデルを用いて、前記複数の走行シーンの各々における前記第2評価情報と前記入出力との関連を示す関連情報を導出する導出部と、
を備えた情報処理装置である。
【0008】
第2態様は、第1態様の情報処理装置において、
前記走行シーンは、前記車両の走行における少なくとも一部の走行を切り出した走行状態であり、
前記抽出部は、前記複数の走行シーンの各々に対応する予め定めた複数の異なるタイミングにおける前記第1モデルの内部状態を示す情報を前記複数の特徴情報として抽出する。
【0009】
第3態様は、第1態様または第2態様の情報処理装置において、
前記導出部は、前記複数の走行シーンの各々における前記第2モデルの内部状態を示す情報に基づいて、前記第2評価情報に対する前記入出力の関連性の度合いを示す重要度を前記関連情報として導出する。
【0010】
第4態様は、第1態様から第3態様の何れか1態様の情報処理装置において、
前記時系列情報は、乗員の腕に関する入出力を示す腕部情報、乗員の腰への入力を示す腰部情報、および乗員の頭部への入力を示す頭部情報を含み、
前記腕部情報は、操舵角および操舵トルクの少なくとも一方を示すデータであり、前記腰部情報は、座席シート上の乗員の重心位置を示すデータであり、前記頭部情報は、頭部加速度および角速度を示すデータである。
【0011】
第5態様は、第1態様から第4態様の何れか1態様の情報処理装置において、
前記第1モデルは、リカレントニューラルネットワークモデルであり、
前記第2モデルは、ランダムフォレストモデルである。
【0012】
第6態様は、第5態様の情報処理装置において、
前記第1モデルの内部状態を示す情報は、前記リカレントニューラルネットワークモデルにおけるニューロン値であり、
前記第2モデルの内部状態を示す情報は、前記ランダムフォレストモデルにおける条件分岐の結果を示す情報である。
【0013】
第7態様は、
コンピュータが、
タイヤが取り付けられている車両の走行に応じて時系列に変化し、かつ前記車両の乗員に対する入出力を示す複数の一連の時系列情報を取得し、
前記取得した前記複数の一連の時系列情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第1評価情報を出力とする第1モデルを用いて、前記車両の走行を複数の時間区間に分割した複数の走行シーンの各々における前記入出力に対する特徴を示す複数の特徴情報を抽出し、
前記抽出した前記複数の特徴情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第2評価情報を出力とする第2モデルを用いて、前記複数の走行シーンの各々における前記第2評価情報と前記入出力との関連を示す関連情報を導出する、
ことを処理する情報処理方法である。
【0014】
第8態様は、
コンピュータに
タイヤが取り付けられている車両の走行に応じて時系列に変化し、かつ前記車両の乗員に対する入出力を示す複数の一連の時系列情報を取得し、
前記取得した前記複数の一連の時系列情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第1評価情報を出力とする第1モデルを用いて、前記車両の走行を複数の時間区間に分割した複数の走行シーンの各々における前記入出力に対する特徴を示す複数の特徴情報を抽出し、
前記抽出した前記複数の特徴情報を入力とし、前記タイヤに対する評価を示す第2評価情報を出力とする第2モデルを用いて、前記複数の走行シーンの各々における前記第2評価情報と前記入出力との関連を示す関連情報を導出する、
ことを処理させる、情報処理プログラムである。
【0015】
なお、前記時系列情報は、前記車両の挙動を示す車両情報を含むことが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、車両の走行に応じて変化する車両の乗員に対する入出力を考慮して、タイヤの評価に関係する情報を推定することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係る推定装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】乗員と車両の間の相関関係を示す概念図である。
図3】計測センサの配置例を示す図である。
図4】車両の走行の一例を模式的に示す図である。
図5】レーンチェンジする場合の操舵角の変化の一例を示す図である。
図6】推定モデルの概念構成を示す図である。
図7】第1モデルの概念構成を示す図である。
図8】第2モデルの概念構成を示す図である。
図9】推定装置の電気的な構成の一例を示す図である。
図10】推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図11】検証に用いたタイヤの計測データの分布特性を示す図である。
図12】乗員の主観による官能評価の結果を示す概念図である。
図13】乗員の官能評価結果と推定モデルの推定結果の対応を示す概念図である。
図14】特徴量の重要度と乗員への入出量の関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本開示の技術を実現する実施形態を詳細に説明する。
なお、作用、機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。また、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
本開示においてタイヤとは、移動体の一例である車両に取り付けられた弾性変形可能な部材であって、車両から着脱可能な部材を含む概念である。また、タイヤの操縦安定性能は、タイヤ性能の一例であり、車両の運動性能に関する特性の一例でもある。タイヤ性能は、タイヤを取り付けた車両における性能に関する特性を含む概念でもある。また、本開示において特徴情報とは、タイヤの走行に関してタイヤの評価に関係する乗員の入出力に対する特徴を示す概念である。また、本開示において関連情報とは、タイヤの評価と乗員の入出力との関連を示す概念である。当該関連情報は、特徴情報の重要度を示す概念であり、タイヤの評価と乗員の入出力との関連の度合いを示す情報を重要度として適用可能である。乗員に対する入出力を示す情報は、時系列の情報が適用可能であり、入出力を示す情報の一例には、乗員の腕に関する入出力を示す情報として、操舵角および操舵トルクを示すデータを適用可能であり、乗員の腰への入力を示す情報として、座席シート上の重心位置を示すデータを適用可能であり、乗員の頭部への入力を示す情報として、頭部加速度および角速度を適用可能である。
【0020】
また、本開示において車両とは、タイヤが取り付けられた自動車等の移動体を含む概念である。
【0021】
<推定装置>
図1は、タイヤの評価に関係する情報を推定する推定処理を実行可能な推定装置1の構成の一例を示す図である。推定装置1は、推定部5を備えている。推定装置1は、後述する処理を実行する実行装置としてのCPUを備えたコンピュータによって実現可能である。
【0022】
推定部5には、車両2の走行を示す走行状態3に応じて変化する車両の乗員に対する入出力を示す情報が入力データとして入力される。乗員に対する入出力を示す情報は、乗員の複数の部位の移動や力の授受による乗員の挙動を示す情報を含む。この乗員に対する入出力を示す情報は、一連の時系列情報であり、乗員に対する入出力(乗員の挙動)を計測センサで計測した時系列の計測データ4が適用される。計測データ4は、検出部118(図9)として機能する計測センサ21、22、23(図3)により取得される。
【0023】
推定部5は、入力される一連の時系列情報(すなわち、時系列の計測データ)に基づいて、推定モデル51を用いて、後述する推定処理によって、車両の走行におけるタイヤの評価に関係する情報を推定し、出力データとして出力する。本実施形態では、車両の走行におけるタイヤの評価に関係する情報として、タイヤに対する評価を示す第1出力データとしての評価データと、乗員の入出力とタイヤの評価とに関連する第2出力データとしての関連データとを適用する場合を一例として説明する。すなわち、推定部5は、時系列の計測データ4を用いて、車両2の走行に対して、タイヤに対する評価を示す評価データ6を推定することができ、また、タイヤの評価に関係する関連データ7を推定することができる。推定モデル51は、第1モデル51A及び第2モデル51Bを含む。これら第1モデル51A及び第2モデル51Bを含む推定モデル51については後述する。
【0024】
具体的には、推定部5は、タイヤの評価に関係する情報を推定する機能部である。推定部5は、計測センサ(図3)を備えた車両2に接続され、時系列の計測データ4が入力される。時系列の計測データ4は、車両2の乗員の入出力を時系列に計測した計測値に対応する。推定部5は、当該計測センサで計測された乗員に対する入出力を示す時系列の計測データ4に基づき、推定モデル51を用いて、タイヤの評価に関連する出力データを推定し、出力する。車両2の乗員の入出力は、車両2の走行を示す走行状態3に応じて変化する。推定部5は、推定モデル51を用いた推定結果として、第1出力データとしてタイヤに対する評価を示す評価データ6と、乗員の入出力とタイヤの評価とに関連する関連データ7を出力する。
【0025】
ここで、乗員と車両の間の相関関係について説明する。
操縦安定性能等に影響するタイヤ性能を評価する場合、車両の乗員による官能評価を行う場合がある。乗員による官能評価は、乗員の感じる量(以下、官能量という。)に基づくものである(例えば、支配的である)と想定される。このため、本実施形態では、推定部5に入力される一連の時系列情報(すなわち、時系列の計測データ4)として、乗員への入出力に関するデータを適用する。
【0026】
図2は、乗員と車両2の間の相関関係を示す概念図である。図2では、乗員が車両2を操舵するときの乗員への入出力に関する相関関係の一例が示されている。
【0027】
乗員は、車両2の走行について目標の走行状態を想定してステアリング等を操作して操舵する。当該操舵は、ステアリング等の操作によって乗員から出力され、操舵角に反映される。車両2では乗員による操舵角に応じて車両2の挙動に反映させ、その応答としてステアリング等に操舵トルクが生じて、乗員へ入力される。これらの乗員への入出力は、乗員の腕部の官能量として計測することが可能である。
【0028】
また、乗員による操舵に応じた車両の挙動となり実際の走行状態に反映され、乗員の挙動に影響する。図に示す例では、影響する乗員の挙動の部位の一例として乗員の頭部及び腰部を適用している。具体的には、実際の走行状態に応じて、座席シートに着座している乗員の姿勢変化や位置移動が生じ、乗員へ入力される。この乗員の姿勢変化や位置移動は、乗員の重心位置および重心位置の変化(または何れか一方)を乗員の腰部の官能量として計測することが可能である。なお、乗員の重心位置は、重心位置の移動速度および移動加速度(または何れか一方)を適用してもよい。
【0029】
また、実際の走行状態に応じて、乗員の頭部の挙動が変化する。例えば、乗員の頭部の位置の変化が生じて、乗員へ入力される。本実施形態では、乗員の頭部の挙動として、乗員の頭部の加速度および角速度を適用する。この乗員への入力である、乗員の頭部の加速度および角速度を、乗員の頭部の官能量として計測することが可能である。当該乗員の頭部の挙動は、乗員の頭部の加速度および角速度の少なくとも一方を適用することができる。なお、乗員の頭部の挙動は、乗員の頭部の位置および位置変化(または何れか一方)を計測した計測値を適用してもよい。また、乗員の頭部の挙動として、乗員の視線方向や視野を含めてもよい。
【0030】
なお、上述した乗員が想定する目標の走行状態は、走行条件と考えることができる。すなわち、目標の走行状態は、乗員が望む走行状態を想定して操舵することを示す走行条件として適用することができる。
【0031】
乗員は、車両2の走行において、上述した乗員への入出力を基に(すなわち、計測データ4に対応する力の授受や乗員の移動等を感じる量で)、官能評価を行い、その結果を官能評価値として提供する。
【0032】
上記では、乗員の挙動、すなわち乗員への入出力に影響する部位の一例として、乗員の腕部、腰部、及び頭部を適用した場合を説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、乗員の脚部を含めてもよく、他の部位を含めてもよい。また、各部位を細分化してもよいし、これらの部位を複数組み合わせた複数部位を適用部位としてもよい。
【0033】
次に、計測センサについて説明する。計測センサは、一連の時系列情報(すなわち、時系列の計測データ4)を取得することが可能である。計測センサは、乗員の挙動の種類に対応して配置され、車両2に搭乗している乗員の挙動として乗員への入出力を計測する。
図3は、計測センサの配置例を示す図である。本実施形態では、計測センサの一例として、乗員の挙動の種類である乗員への入出力の種類に対応して時系列情報を得る計測センサ21、22、23を適用する。
【0034】
計測センサ21は、乗員の腕の挙動を計測するセンサであり、当該計測センサ21によって、乗員の腕に関する入出力を示す情報を示す計測データを得ることが可能となる。計測センサ21により計測される計測データには、操舵角および操舵トルク(または何れか一方)を示すデータを適用することができる。例えば、計測センサ21は、操舵角および操舵トルク(または何れか一方)を計測するセンサを適用すればよい。
【0035】
計測センサ22は、乗員の腰の挙動を計測するセンサであり、当該計測センサ22によって、乗員の腰に関する入力を示す情報を示す計測データを得ることが可能となる。計測センサ22により計測される計測データには、座席シート上の乗員の荷重、及び重心位置を示すデータを適用することができる。例えば、計測センサ22は、座席シート上の乗員の荷重及び重心位置を計測するセンサを適用すればよい。当該センサの一例には、六分力計を適用可能であり、例えば、座席シート等に複数(例えば4個)六分力計を設置し、それらの値から荷重と重心位置を求めればよい。
【0036】
計測センサ23は、乗員の頭部の挙動を計測するセンサであり、当該計測センサ23によって、乗員の頭部に関する入力を示す情報を示す計測データを得ることが可能となる。計測センサ23により計測される計測データには、乗員の頭部加速度および角速度(または何れか一方)を示すデータを適用することができる。例えば、計測センサ23は、乗員の頭部加速度および角速度(または何れか一方)を計測するセンサを適用すればよい。当該センサの一例には、モーションセンサを眼鏡型のデバイスを適用可能であり、モーションセンサの加速度・角速度を計測すればよい。
【0037】
なお、上述した計測センサ21、22、23は、位置検出センサ、モーションセンサ、及びトルクセンサ等の専用の計測センサを用いてもよく、乗員を撮影した画像から計測してもよい。また、計測センサは、乗員の挙動を直接することに限定されず、操舵角、及び操舵トルク等の車両2で検出可能なデータを取得し、計測データとして適用してもよい。すなわち、時系列情報としての計測データ4は、車両2の挙動を示す車両情報を含むことが可能である。
【0038】
次に、車両2の走行状態について説明する。
ところで、車両2は、乗員の指示および道路等の状態に応じて、車速や操舵等が制御されることで車両2の挙動が時々刻々と変化されて走行する。例えば、車両2は、右左折や車線変更(レーンチェンジ)等のように様々な走行状態により走行する。よって、乗員は、様々な走行状態に対応して官能評価を行う。ところが、官能評価の結果に寄与する要因を特定することは困難であった。そこで、本実施形態では、車両2の走行状態において、乗員の官能評価の結果(例えば、判定根拠)に関係する複数の異なるタイミングを考慮する。
【0039】
図4は、車両2の走行(走行状態)の一例を模式的に示す図である。図の例では、片側2車線の道路の一方のレーン(図では右レーン)から他方のレーン(図では左レーン)へ車線変更(レーンチェンジ)する場合における走行状態を示している。図5は、図4に示すレーンチェンジする場合の操舵角の変化を示す図である。
【0040】
具体的には、乗員は、車両のステアリング(図示省略)を時計回り及び反時計回りに回転操作してレーンチェンジを行う。当該レーンチェンジでは、例えば、初期、中期、及び後期の3つの段階の走行シーンに分類可能である。走行シーンは、車両2の走行における少なくとも一部の走行を切り出した走行状態である。初期の走行シーンは、レーンチェンジを開始する段階の走行状態である。中期の走行シーンは、レーンチェンジによる車両2を移動する段階の走行状態である。後期の走行シーンは、レーンチェンジの後期に車両2の姿勢を整える段階の走行状態である。初期の走行シーン及び中期の走行シーンは、操舵角の特性における最大値又は最小値の変曲点を含むようにすることが好ましい。
【0041】
本実施形態では、予め定めたタイミングまでの時間区間を走行シーンに対応する区間として定める。具体的には、タイミングtsまでの時間区間を初期の走行シーンに対応する区間Ts、タイミングtmまでの時間区間を中期の走行シーンに対応する区間Tm、タイミングteまでの時間区間を後期の走行シーンに対応する区間Teとして定める。以降では、区間Ts、Tm、Teを、走行シーンTs、Tm、Teと称する場合がある。なお、上記の予め定めたタイミングは、例えば、上述した操舵角の特性における最大値及び最小値の変曲点を含むタイミングを実験値や統計値から定めることができる。これらのタイミングは、車両2の走行時の環境、例えば車速により変動する場合を想定して、車速等の車両2の挙動値をパラメータとして変更するようにしてもよい。
【0042】
このように、車両2の走行状態は、車両が走行する一連の走行に含まれる一部で、かつ異なる走行シーンが時系列に連続する状態である。従って、詳細は後述するが、各走行シーンにおける計測データ4を用いることで、各走行シーンにおいて官能評価の結果に寄与する要因を特定することが可能となる。
【0043】
なお、走行シーンは、上述した初期、中期、及び後期の3つの走行シーンに限定されるものではなく、例えば、2つ以上の複数の走行シーンでもよい。また、複数の走行シーンは、隣り合う走行シーンの一部が重複するようにしてもよく、隣り合う走行シーンが離れた走行シーンでもよい。また、上述したタイミングts、tm、teは、各走行シーンを代表するタイミングであればよく、上記のタイミングts、tm、teに限定されるものではない。
タイミングts、tm、teは、本開示の技術における複数の異なるタイミングの一例である。
【0044】
<推定モデル>
次に、推定モデル51について説明する。
推定モデル51は、車両2に搭乗する乗員の官能評価に関するアルゴリズムをモデル化した機械学習モデルである。すなわち、推定モデル51は、入力される時系列の計測データ4により示される車両2の乗員の挙動(すなわち、入出力)から、車両の走行状態におけるタイヤの評価に関係する情報を示す出力データ(評価データ6と関連データ7)を推定する機械学習モデルである。
【0045】
図6は、推定モデル51の概念構成を示す図である。
推定モデル51は、乗員の腕部、腰部、及び頭部への時系列の計測データ4を入力とし、第1出力データとしての官能評価値を示す評価データ6を出力とする。また、推定モデル51は、第2出力データとしての関連データ7も出力とすることが可能である。
評価データ6は、本開示の第1評価情報及び第2評価情報の少なくとも一方の評価情報の一例であり、関連データ7は、本開示の関連情報の一例である。乗員の腕部、腰部、及び頭部への時系列の計測データ4は、本開示の腕部情報、腰部情報、および頭部情報の一例である。
【0046】
推定モデル51は、時系列の計測データ4を考慮する。時系列の計測データ4は過去の履歴が重要であり、その過去の履歴を利用することを可能とするモデルとしてリカレントニューラルネットワーク(RNN)によるリカレントニューラルネットワークモデルを適用することができる。本実施形態では、当該RNNの一例であるESN(Echo State Network)を利用する。ESNは、リザバコンピューティング(Reservoir Computing)と呼ばれるニューラルネットワークの一例でもある。
【0047】
本実施形態では、推定モデル51は、第1モデル51A及び第2モデル51Bを含む。第1モデル51A及び第2モデル51Bは連結して、推定モデル51を形成する。この第1モデル51AにはESNを適用する。なお、詳細は後述するが、第2モデル51Bに連結する第1モデル51Aは、ESNの一部である。
【0048】
図7は、第1モデル51Aに適用するESNの概念構成を示す図である。ESNは、ニューラルネットワークを構成するノード(ニューロン)同士の間の結合の重み(強度)の情報の集合として表現され、ESNの内部状態を、各ノード(ニューロン)の値を示す状態データとして得ることが可能である。以降では、ノードをニューロンと称する場合がある。
【0049】
第1モデル51Aに適用可能なESNは、乗員への入出力を示す計測データ4を入力とし、官能評価値であるタイヤに対する評価を示す出力値を出力とするように学習することが可能である。すなわち、第1モデル51Aに適用可能なESNは、乗員の官能評価をモデル化したモデルである。なお、本実施形態では、タイヤに対する評価を示す出力値の一例として、良い(適正)/普通(中程度)/悪い(不適)の3つの指標を用いている。
【0050】
ESNは、計測データ4を入力とし、官能評価値であるタイヤに対する評価を示す出力値を出力とする、乗員の官能評価をモデル化したモデルを適用可能である。第1モデル51Aは、後述するように、ESNの一部を利用する。なお、本実施形態では、タイヤに対する評価を示す出力値の一例として、良い(適正)/普通(中程度)/悪い(不適)の3つの指標を用いている。
【0051】
具体的には、第1モデル51Aに適用するESNは、入力層510、出力層514、およびリザバ層512と呼ばれる中間層から構成されている。リザバ層512には、ランダムに接続されたニューロンが含まれており、リザバコンピューティングで知られるように、リザバ層512の重みWres と入力層510とリザバ層512の結合の重みWinは学習の対象とならず、予めランダムに初期化される。このランダムな構造により、ニューロンの個数等の適切なパラメータを設定した場合に過去の情報が伝播した状態を形成することができ、長期的な依存関係を表すことができる。なお、後述するように、本実施形態では、第1モデル51Aに適用するESNは、出力層514を利用せず、リザバ層512までのニューロン構成(具体的には、内部状態を示すニューロン値のみ)を用いる。
【0052】
上記ESN(第1モデル51A)は次の(1)式、(2)式で表すことが可能である。
x(t) = (1-α)・x(t-1) + α・f(Win・u(t) + Wres・x(t-1)) -(1)
y(t) = fout(Wout・x(t)) -(2)
【0053】
ここで、u(t)は、時刻tにおける入力データである計測データ4であり、本実施形態では計測データ4である入力となる計測値毎にスカラー量として扱う。y(t)は出力データであり、関数foutで表現している。リザバ層512のニューロンの数をNとすると、x(t)は時刻tでのリザバ層512のニューロンが保持する状態量を示す状態データであり、N次元のベクトルである。Winは入力層510とリザバ層512の結合の重みであり、N次元のベクトルである。Wresはリザバ層512の重みであり、リザバ層512内部のニューロン同士の結合量を表すNxN次元の行列である。αは、Leaky Integrator (LI)と呼ばれ、内部パラメータが逐次更新される際の比率を制御する。換言すれば、αはニューロンの忘却する速さを制御している。従って、ESNは各時間ステップで内部状態を保持し、内部状態は上記関数fを含む(1)式に従って時間発展していく。
【0054】
本実施形態では、計測データ4の種類ごとに、ESNを構築し、第1モデル51Aを形成する。
【0055】
なお、上述した第1モデル51Aに適用するモデルはESNに限定されるものではなく、時系列の計測データ4による過去の履歴を利用することが可能な回帰モデルである他のRNNを適用してもよい。
【0056】
図6に示すように、推定モデル51は、第1モデル51AであるESNに対して、任意のタイミングでの状態データを記憶するメモリ52を備えている。すなわち、推定モデル51は、任意のタイミングにおけるESNの内部状態を抽出し、メモリ52に記憶することが可能である。本実施形態では、上述した走行シーン、例えば、レーンチェンジの初期の走行シーン、中期の走行シーン、後期の走行シーンを規定するタイミングts、tm、teのそれぞれでESNの内部状態を抽出して、メモリ52に保存する。従って、計測データ4の種類ごとに、ESNの内部状態が抽出され、メモリ52に保存される。
【0057】
これらのタイミングにおけるESNの内部状態を示す状態データは、各走行シーンにおける計測データ4(すなわち時系列情報)の特徴を示す特徴量に対応する。状態データである特徴量は、乗員への入出力を示す計測データ4(すなわち時系列情報)と、官能評価値であるタイヤに対する評価値との関係性を数量化した情報に対応する。
当該特徴量は、本開示の特徴情報の一例である。
【0058】
ところで、ESNを用いた出力の推定では、出力層514とその重みWoutを用いることが一般的である。しかし、本実施形態におけるESNを適用する第1モデル51Aでは出力層514とその重みWoutを使用しない。具体的には、メモリ52に保存される所定のタイミングで抽出された状態データを出力として、第2モデル51Bへ渡す。すなわち、本実施形態では、ESNの出力層514とその重みWoutを利用せず、リザバ層512までのニューロンの内部状態を用いる。
【0059】
次に、推定モデル51の第2モデル51Bについて説明する。
【0060】
第2モデル51Bは、乗員への入出力を示す計測データ4による第1モデル51Aの状態データを入力とし、乗員のタイヤに対する官能評価値である評価データ6を出力とする。第2モデル51Bも、乗員の官能評価をモデル化したモデルである。なお、本実施形態では、評価データ6の一例として、良い(適正)/普通(中程度)/悪い(不適)の3つの指標を用いている。
【0061】
図8は、第2モデル51Bの概念構成を示す図である。本実施形態では、第1モデル51Bに、分類モデルの一例としてランダムフォレストモデルを適用する場合を説明する。
【0062】
ランダムフォレストモデルは、公知の技術であるため詳細な説明を省略するが、決定木を学習器としてバギングを用いたアンサンブル学習アルゴリズムである。このランダムフォレストモデルでは、入力に対して、並列に学習した複数の決定木に予測を行わせ、多数決や平均値を算出した結果を出力とする。
【0063】
例えば、第2モデル51Bは、グルーピング、モデリング、仮推定、および最終推定を行う各機能部を含んで構成される。
【0064】
第2モデル51Bでは、まず、元データ(状態データ)からランダムにデータをブートストラップ(復元抽出と呼ばれる処理)でサンプリングし、所定数(ここではM個)のグループのデータグループを生成する(グルーピング)。次に、M個のグループの各々で決定木516を生成する(モデリング)。決定木516は、条件分岐(例えば、if~then~)によって出力を選択するモデルである。次に、M個のグループの各々の決定木で一旦推定する(仮推定)。そして、M個のグループの多数決(または平均)を取り、出力データ(評価値)を最終予測する(最終予測)。
【0065】
このランダムフォレストモデルを適用した第2モデル51Bでは、例えばN個の元データ(状態データ)の値の各々を特徴量として、その一部の特徴量をランダムに選択し、モデリングにおける決定木516の分割に用いる。そして、元データをバギングにより微小に変更し、ランダム性により特徴量を微小に変更することで、互いに相関の低い、複数の決定木516を生成する。この決定木516の生成では、条件分岐による分割で、その分割点を評価する予めた指標(例えば、誤差やジニ不純度)を用いて分割を繰り返す。この指標は、分割点による条件分岐の適否に応じた値となる。具体的には、指標が小さくなるに従って、条件分岐が適正となる。従って、指標が小さくなるに従って、特徴量の重要度が高くなる。よって、決定木516の各特徴量について分割時の指標の減少の度合いの演算(例えば、合計値)を算出することで、特徴量の重要度を導出することが可能となる。つまり、評価データに対する乗員への入出力の関連性の度合いを示す重要度を示す関連情報として導出することが可能となる。
特徴量の重要度は、本開示の関連情報の一例である。
【0066】
本実施形態の第2モデル51Bは、上述した特徴量の重要度を導出する導出部518を含んでいる。具体的には、元データ(状態データ)の値を特徴量として、決定木516の各特徴量に対する指標の減少の度合いの演算することで、当該特徴量の重要度を導出する。
導出部518は、本開示の導出部の一例である。
【0067】
このように、第2モデル51Bには、第1モデル51A(ESN)の内部状態を抽出した状態データを入力とするランダムフォレストモデルを適用する。第2モデル51Bでは、一連の時系列の計測データ4を第1モデル51A(ESN)に入力し終えたところで、走行シーン各々に対応して抽出されたESNの内部状態を示す状態データを入力とし、官能評価値を示す評価データ6を出力とするランダムフォレストモデルを構築する。また、第2モデル51Bは、上述した特徴量の重要度を導出する導出部518を含む。
【0068】
従って、例えば、レーンチェンジの際における、例えば、操舵に関して初期、中期、及び後期の走行シーンを示す各タイミングの状態データ(ニューロンの情報)を用いることで、官能評価の結果にどのタイミングのどのデータが重要であるかを示す情報を出力可能になる。
【0069】
なお、第1モデル51Bには、上述したランダムフォレストモデルに代えてディープフォレストを適用してもよい。
【0070】
上述のように、推定モデル51の第1モデル51Aでは、車両2の走行状態に応じて変化する時系列の計測データ4を入力とし、走行シーンに対応する所定タイミングでの第1モデル51A(ESN)の内部状態値を示す状態データを出力とするモデルが構築される。
【0071】
また、推定モデル51の第2モデル51Bでは、第1モデル51A(ESN)の内部状態値を示す状態データを入力とし、出力データを出力とするモデルが構築される。入力である状態データは、車両2の走行状態に応じて変化する時系列の計測データ4により推移する走行シーンに対応する所定タイミングにおける第1モデル51A(ESN)の内部状態値を示す。また、第2モデル51Bの出力データは、評価データ6、および関連データ7を含む。評価データ6は、乗員の官能評価の結果(すなわち官能評価値)に対応するデータである。関連データ7は、乗員の官能評価の結果(例えば、判定根拠)に寄与する走行シーン(例えば,タイミング)とその走行シーンで重要とされる特徴量(つまり特徴量の重要度)に対応するデータである。すなわち、関連データ7は、乗員の官能評価の結果に関連し、走行シーンごとに重要とされる乗員への入出力を示す情報に対応する。
【0072】
上述したように、推定モデル51、すなわち、第1モデル51A及び第2モデル51Bは、推定装置1の図示しないメモリに記憶される。そして、上記推定装置1では、推定モデル51を用いることで、車両2の走行について、乗員の官能評価に対応する結果を推定すること、及び乗員の官能評価の結果に関連し、走行シーンごとに重要とされる乗員への入出力を示す情報を推定することも不可能ではない。
【0073】
<推定装置の構成>
次に、上述した推定装置1の具体的な構成の一例についてさらに説明する。
図9は、推定装置1の電気的な構成の一例を示す図である。図9に示す推定装置1は、上述した各種機能を実現する処理を実行する実行装置としてのコンピュータを含んで構成したものである。上述の推定装置1は、コンピュータに上述の各機能を表すプログラムを実行させることにより実現可能である。
【0074】
推定装置1として機能するコンピュータは、コンピュータ本体100を備えている。コンピュータ本体100は、CPU102、揮発性メモリ等のRAM104、ROM106、ハードディスク装置(HDD)等の補助記憶装置108、及び入出力インターフェース(I/O)110を備えている。これらのCPU102、RAM104、ROM106、補助記憶装置108、及び入出力I/O110は、相互にデータ及びコマンドを授受可能にバス112を介して接続された構成である。また、入出力I/O110には、外部装置と通信するための通信部114、ディスプレイやキーボード等の操作表示部116、及び上述した計測センサを含む検出部118が接続されている。検出部118は、車両2に搭乗している乗員から、計測データ4を無線接続または有線接続により取得する機能する。なお、計測データ4は、通信部114を介して取得してもよい。
【0075】
補助記憶装置108には、コンピュータ本体100を本開示の情報処理装置の一例として機能させるための推定プログラム108Pが記憶される。CPU102は、推定プログラム108Pを補助記憶装置108から読み出してRAM104に展開して処理を実行する。これにより、推定プログラム108Pを実行したコンピュータ本体100は、推定装置1として動作する。
推定プログラム108Pは、本開示の情報処理プログラムの一例である。
【0076】
なお、補助記憶装置108には、第1モデル51Aと第2モデル51Bを含む推定モデル51、及び各種データを含むデータ108Dが記憶される。推定プログラム108Pは、CD-ROM等の記録媒体により提供するようにしても良い。
【0077】
<推定処理>
次に、コンピュータにより実現された推定装置1における推定処理についてさらに説明する。
図10は、コンピュータ本体100で実行される推定プログラム108Pによる推定処理の流れの一例を示す図である。図10に示す推定処理は、コンピュータ本体100に電源投入されると、CPU102により実行される。CPU102は、推定プログラム108Pを補助記憶装置108から読み出し、RAM104に展開して処理を実行する。
図10に示す推定処理は、本開示の情報処理方法を実現可能な処理の流れに対応するプロセスを含む。
【0078】
まず、CPU102は、補助記憶装置108の推定モデル108Mから推定モデル51を読み出し、RAM104に展開することで、推定モデル51を取得する(ステップS200)。具体的には、推定モデル51としてニューラルネットワークモデル(図6参照)を、RAM104に展開することによって、第1モデル51A及び第2モデル51Bを含む推定モデル51が構築される。
【0079】
次に、CPU102は、時系列情報である乗員に対する入出力を示す計測データ4を、検出部118を介して時系列に取得し(ステップS202)、取得した時系列の計測データ4を、推定モデル51の第1モデル51Aに順次入力する(ステップS204)。よって、第1モデル51AであるESNに対して、時系列の計測データ4が適用され、ニューロンの値(ニューロン値)が更新される。
上述した計測センサ21、22、23、及び検出部118は、本開示の技術における取得部の一例である。また、ステップS202の処理は、本開示の取得部による処理の一例である。
【0080】
次に、CPU102は、所定タイミングで第1モデル51Aの内部状態を示す状態データを記憶する(ステップS206)。所定タイミングは、上述したように走行シーンに対応する予め定めたタイミングである。すなわち、計測データ4は、車両2の走行に従って時系列に変化する物理量である。また、当該車両の走行では、複数の走行シーンに分類可能である。例えば、上述したレーンチェンジによる車両2の走行では、初期の走行シーン、中期の走行シーン、及び後期の走行シーンに分類可能である。これらの走行シーンに対応して定められたタイミングで、第1モデル51A、すなわちESNのニューロンの値である内部状態を示す状態データが抽出される。また、状態データは計測データ4の種類ごとに抽出される。
ステップS206の処理は、本開示の抽出部による処理の一例である。
【0081】
次に、CPU102は、第2モデル51Bに、メモリに記憶されている第1モデル51Aの内部状態を示す状態データを入力する(ステップS208)。具体的には、車両2の走行、すなわち初期走行シーンから後期走行シーンまでの一連の時系列情報である計測データ4を第1モデル51A(ESN)に入力し終えたときに、第2モデル51B、すなわちランダムフォレストモデルへ状態データが入力される。この状態データは、計測データ4の種類毎の第1モデル51A(ESN)の内部状態で、かつ、走行シーンの各々に対応するタイミングで抽出されたデータである。
【0082】
この一連の時系列の計測データ4を第1モデル51A(ESN)に入力し終えたときに、第1モデル51Aの内部状態を示す状態データを入力とし、官能評価値を示す評価データ6を出力とする第2モデル51B(ランダムフォレストモデル)が構築される。
【0083】
次に、CPU102は、評価データ6を推定する(ステップS210)。具体的には、上記構築された第2モデル51B(ランダムフォレストモデル)の出力を取得することで、推定結果の評価データ6を得る。
【0084】
次に、CPU102は、関連データ7を推定する(ステップS212)。具体的には、導出部518が、上述したように第2モデル51Bの決定木516の各特徴量に対する指標に関して演算することで、当該特徴量の重要度を導出する。例えば、第2モデル51Bにおいて、特徴量に対する指標の減少の度合いの演算、すなわち決定木516の条件分岐を評価する指標の減少の度合いを演算(例えば、合計値)する。
【0085】
導出される関連データ7は、特徴量の重要度であり、官能評価値を示す評価データ6に寄与する乗員への入出力の種類に対する重要度に対応する。よって、車両の走行に含まれる各走行シーンにおいて、乗員への入出力の種類に対応する特徴量の重要度が高くなるに従って評価データ6に寄与する度合いが高くなる。このため、走行シーンにおける特徴量の重要度が最大値、または予め定めた閾値を越える値の特徴量、すなわち乗員への入出力の種類を、該当する走行シーンにおいて評価データ6に寄与する情報として特定することが可能となる。
ステップS210の処理、及びステップS212の処理は、本開示の導出部による処理の一例である。
【0086】
次に、CPU102は、上記ステップS210、S212による推定結果の出力データ(評価データ6と関連データ7)を、出力し(ステップS214)、本処理ルーチンを終了する。出力データの出力は、操作表示部116へ表示してもよく、通信部114を介して外部装置へ出力データを出力してもよい。
【0087】
このように、推定装置1によれば、車両の走行に関して乗員の官能評価の結果(例えば、判定根拠)に関係する情報を推定可能である。具体的には、推定装置1では、レーンチェンジ等の車両の走行について、走行シーンを示すタイミングでのモデルの内部状態(ニューロンの情報)を用いることで、官能評価の結果にどのタイミングでどの情報(乗員への入出力の種類)が重要であるかを示す情報を出力することが可能になる。
【0088】
次に、本実施形態にかかる推定装置1により評価データ6および関連データ7を検証した検証結果を説明する。
【0089】
図11は、検証に用いたタイヤの計測データ4の分布特性を示す図である。
検証に用いたタイヤは、異なる3種類のタイヤである。また、計測データ4の分布特性は、車両の走行として車線変更(レーンチェンジ)の走行状態を50回実施し、乗員への入出力データを計測した結果のうちの操舵角の変化特性を示している。計測データ4の分布特性は、タイヤの種類に応じ、第1のタイヤAの特性を実線で示し、第2のタイヤBの特性を点線で示し、第3のタイヤCの特性を一点鎖線で示している。また、図11では、初期の走行シーンTsではタイミングtsであり、中期の走行シーンTmではタイミングtmであり、後期の走行シーンTeではタイミングteであることを示している。また、各々のタイヤの計測データはバラツキを有するので、平均値の特性を示した。なお、第1のタイヤAの特性のばらつきを上下矢印で略記した。図11に示すように、計測データ4の平均値を参照すると、おおむねタイヤの種類毎に特性が分布していることを理解できる。
【0090】
図12は、3種のタイヤについて乗員の主観による官能評価の結果(官能評価値)を示す概念図である。なお、3種のタイヤは、官能評価値Dとして、良い(適正)、普通(中程度)、悪い(不適)の3段階評価の各々の値が判別できる値を用いた。評価を行った乗員の主観では、官能評価値Dとして、各タイヤの各走行シーンで同程度の評価であり、タイヤの種類で異なる官能評価値となった。
【0091】
図13は、乗員の官能評価の結果と、推定モデル51を用いた推定結果との対応を示す概念図である。図13に示すように、乗員の官能評価の結果と、推定モデル51を用いた推定結果とは、概ね対応関係にあると理解できる。
【0092】
図14は、走行シーンごとの特徴量の重要度と乗員への入出量の関係を示す概念図である。図14に示すように、初期の走行シーンでは操舵角の重要度が大きく、中期の走行シーンでは操舵角と操舵トルクの重要度が大きく、後期の走行シーンでは頭部横加速度の重要度が大きいことが推定された。上述した検証結果は、予め取得済みの情報として、乗員が感じていることを記述したコメント等の情報と比較しても違和感がなく、推定結果が有効であることを確認できた。
【0093】
また、本開示の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
【0094】
また、上記実施形態では、推定処理を、フローチャートを用いた処理によるソフトウエア構成によって実現した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば各処理をハードウェア構成により実現する形態としてもよい。
【0095】
また、推定装置の一部、例えば推定モデル等のニューラルネットワークを、ハードウェア回路として構成してもよい。
【0096】
以上、本開示の技術を実施形態を用いて説明したが、本開示の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。要旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も開示の技術的範囲に含まれる。
【0097】
また、上記実施の形態では、補助記憶装置に記憶したプログラムを実行することにより行われる処理を説明したが、少なくとも一部のプログラムの処理をハードウェアで実現してもよい。また、上述した実施形態で説明したプログラムの処理の流れも、一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【0098】
さらに、上述した実施形態における処理をコンピュータにより実行させるために、上述した処理をコンピュータで処理可能なコードで記述したプログラムを光ディスク等の記憶媒体等に記憶して流通するようにしてもよい。
【0099】
上述した実施形態では、汎用的なプロセッサの一例としてCPUを用いて説明したが、上記実施形態において、プロセッサとは広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えばCPU: Central Processing Unit、等)や、専用のプロセッサ(例えばGPU:Graphics Processing Unit、ASIC: Application Specific Integrated Circuit、FPGA: Field Programmable Gate Array、プログラマブル論理デバイス、等)を含むものである。
【0100】
また、上述した実施形態におけるプロセッサの動作は、1つのプロセッサによって成すのみでなく、複数のプロセッサが連携して成すものであってもよく、物理的に離れた位置に存在する複数のプロセッサが協働して成すものであってもよい。
【0101】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
【0102】
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本発明の一実施形態は「No.9」などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【符号の説明】
【0103】
1 推定装置
2 車両
3 走行状態
4 計測データ
5 推定部
6 評価データ
7 関連データ
21、22、23 計測センサ
51 推定モデル
51A 第1モデル
51B 第2モデル
52 メモリ
100 コンピュータ本体
108 補助記憶装置
108P 推定プログラム
114 通信部
116 操作表示部
118 検出部
510 入力層
512 リザバ層
516 決定木
518 導出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14