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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169232
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】記録装置及び吐出方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/17 20060101AFI20241128BHJP
   B41J 2/165 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B41J2/17 207
B41J2/165 207
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086536
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】愛知 晶子
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】石見 啓太
(72)【発明者】
【氏名】尾形 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大岳
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056EC08
2C056EC11
2C056EC37
2C056EC54
2C056EC72
2C056EE10
2C056EE17
2C056EE18
2C056FA10
2C056HA33
2C056JC15
2C056JC23
(57)【要約】
【課題】 インク受け部でのインクの堆積を抑制することを目的とする。
【解決手段】 予備吐出の受け部に傾斜があり、キャリッジが傾斜を上る方向に走査しながら予備吐出動作を行う場合、堆積抑制インクの着弾位置を、堆積し易いインクの着弾位置と一部を重ねた状態で、傾斜の下流にずらす。
【選択図】 図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出受け部に吐出された場合にインクの堆積が発生する第1インクと、前記第1インクの堆積を抑制する第2インクと、を含む複数種類のインクを吐出可能な記録手段と、
前記記録手段を所定の方向に移動可能な移動手段と、
前記記録手段から吐出した画像の記録に用いられないインクが着弾する吐出受け部と、
前記記録手段からのインクの吐出タイミングを制御する制御手段と、
を有し、
前記吐出受け部は、インクが着弾する位置が、前記所定の方向において一方よりも他方の方が低くなるような傾斜となっており、
前記制御手段は、前記記録手段が前記移動手段により、前記吐出受け部の傾斜の低い位置から高い位置に向かって移動しながらインクの吐出を行う場合に、前記吐出受け部に吐出された前記第1インクの着弾位置と前記第2インクの着弾位置は少なくとも一部が重なっており、前記第1インクの方が前記第2インクよりも前記吐出受け部の傾斜の高い位置に着弾位置がずれるように吐出タイミングを制御することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記記録手段が前記移動手段により、前記吐出受け部の傾斜の高い位置から低い位置に向かって移動しながらインクの吐出を行う場合に、前記吐出受け部に吐出された前記第1インクの着弾位置と前記第2インクの着弾位置は少なくとも一部が重なっており、前記第1インクの方が前記第2インクよりも前記吐出受け部の傾斜の低い位置に着弾位置がずれるように吐出タイミングを制御することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
吐出受け部に吐出された場合にインクの堆積が発生する第1インクと、前記第1インクの堆積を抑制する第2インクと、を含む複数種類のインクを吐出可能な記録手段と、
前記記録手段を所定の方向に移動可能な移動手段と、
前記記録手段から吐出した画像の記録に用いられないインクが着弾する吐出受け部と、
前記記録手段からのインクの吐出タイミングを制御する制御手段と、
を有し、
前記吐出受け部は、インクが着弾する位置が、前記移動手段の移動方向において一方よりも他方の方が低くなるような傾斜となっており、
前記制御手段は、前記記録手段が前記移動手段により、前記吐出受け部の傾斜の高い位置から低い位置に向かって移動しながらインクの吐出を行う場合に、前記吐出受け部に吐出された前記第1インクの着弾位置と前記第2インクの着弾位置は少なくとも一部が重なっており、前記第1インクの方が前記第2インクよりも前記吐出受け部の傾斜の低い位置に着弾位置がずれるように吐出タイミングを制御することを特徴とする記録装置。
【請求項4】
前記第2インクは前記第1インクよりも多い量のインクを前記吐出受け部に吐出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記所定の方向において前記吐出受け部における前記第2インクの着弾位置は前記第1インクの着弾位置より長く、前記第2インクの着弾位置は、前記第1インクの着弾位置の全領域と重なるように吐出タイミングを制御することを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記第1インクはブラックインクまたはイエローインクの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第1インクはブラックインクとイエローインクを含むことを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記第2インクはシアンインク、マゼンタインク、グレーインクの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記第2インクはシアンインク、マゼンタインク、グレーインクを含むことを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項10】
前記第2インクは色材を含まないインクであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項11】
吐出受け部に吐出された場合にインクの堆積が発生する第1インクと、前記第1インクの堆積を抑制する第2インクと、を含む複数種類のインクを吐出可能な記録手段と、
前記記録手段を所定の方向に移動可能な移動手段と、
前記記録手段から吐出した画像の記録に用いられないインクが着弾する吐出受け部と、
を有し、
前記吐出受け部は、インクが着弾する位置が、前記所定の方向において一方よりも他方の方が低くなるような傾斜となっている記録装置の吐出方法であって、
前記記録手段が前記移動手段により、前記吐出受け部の傾斜の低い位置から高い位置に向かって移動しながらインクの吐出を行う場合に、前記吐出受け部に吐出された前記第1インクの着弾位置と前記第2インクの着弾位置は少なくとも一部が重なっており、前記第1インクの方が前記第2インクよりも前記吐出受け部の傾斜の高い位置に着弾位置がずれるように吐出タイミングを制御することを特徴とする吐出方法。
【請求項12】
吐出受け部に吐出された場合にインクの堆積が発生する第1インクと、前記第1インクの堆積を抑制する第2インクと、を含む複数種類のインクを吐出可能な記録手段と、
前記記録手段を所定の方向に移動可能な移動手段と、
前記記録手段から吐出した画像の記録に用いられないインクが着弾する吐出受け部と、
を有し、
前記吐出受け部は、インクが着弾する位置が、前記移動手段の移動方向において一方よりも他方の方が低くなるような傾斜となっている記録装置の吐出方法であって、
前記記録手段が前記移動手段により、前記吐出受け部の傾斜の高い位置から低い位置に向かって移動しながらインクの吐出を行う場合に、前記吐出受け部に吐出された前記第1インクの着弾位置と前記第2インクの着弾位置は少なくとも一部が重なっており、前記第1インクの方が前記第2インクよりも前記吐出受け部の傾斜の低い位置に着弾位置がずれるように吐出タイミングを制御することを特徴とする吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置及び吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置においては記録ヘッドの吐出口内のインクが増粘することにより吐出ができなくなることを防ぐために吐出口内のインクを記録媒体以外の場所に排出する予備吐出動作を行うものがある。特許文献1では、予備吐出されたインクを受けるインク受け部として、プラテン上にキャリッジ走査方向に高低差がある溝が設けられることが開示されている。また、インク受け部の傾斜部分に着弾したインクは傾斜の低い方に流れ、プラテン上から排出される構造になっていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-73581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、先行文献のように傾斜のあるインク受け部であっても、使用するインクの性質や、記録装置の置かれた温湿度環境によっては、インク受け部内でインクが傾斜部分を流れ落ちずに斜部分に留まって増粘し、インクが堆積してしまうことがある。堆積物が高くなると、インク受け部上を記録媒体が通過した時に堆積物に接触して記録媒体が汚れたり、キャリッジが通過した時にキャリッジに付着してしまったりする虞がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、インク受け部でのインクの堆積を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、吐出受け部に吐出された場合にインクの堆積が発生する第1インクと、前記第1インクの堆積を抑制する第2インクと、を含む複数種類のインクを吐出可能な記録手段と、前記記録手段を所定の方向に移動可能な移動手段と、前記記録手段から吐出した画像の記録に用いられないインクが着弾する吐出受け部と、前記記録手段からのインクの吐出タイミングを制御する制御手段と、を有し、前記吐出受け部は、インクが着弾する位置が、前記所定の方向において一方よりも他方の方が低くなるような傾斜となっており、前記制御手段は、前記記録手段が前記移動手段により、前記吐出受け部の傾斜の低い位置から高い位置に向かって移動しながらインクの吐出を行う場合に、前記吐出受け部に吐出された前記第1インクの着弾位置と前記第2インクの着弾位置は少なくとも一部が重なっており、前記第1インクの方が前記第2インクよりも前記吐出受け部の傾斜の高い位置に着弾位置がずれるように吐出タイミングを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インク受け部でのインクの堆積を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の外観図である。
図2】第1の実施形態に係るキャリッジおよびプラテンの周辺を示した断面図である。
図3】第1の実施形態に係るインクジェット記録装置内部の模式的な上面図である。
図4】第1の実施形態に係る記録ヘッドの吐出口の並びを説明する図である。
図5】第1の実施形態における予備吐出受け部の断面図である。
図6】第1の実施形態における記録動作中の予備吐出発数を示す表である。
図7】第1の実施形態における予備吐出受け部の断面図である。
図8】第1の実施形態に係る適用可能なインクジェット記録装置のブロック図である。
図9】第1の実施形態における各インクの堆積し易さを判定する実験例の結果である。
図10】第1の実施形態における各インクの堆積を抑制するインク量の判定をする実験例の結果である。
図11】第1の実施形態における堆積抑制インクと堆積し易いインクの予備吐出開始位置と、着弾位置の関係を示した図である。
図12】第2の実施形態における堆積抑制インクと堆積し易いインクの予備吐出開始位置と、着弾位置の関係を示した図である。
図13】第3の実施形態における記録動作中の予備吐出発数を示す表である。
図14】第3の実施形態における堆積抑制インクと堆積し易いインクと発数が異なるインクの、予備吐出開始位置と、着弾位置の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0010】
本明細書中で用いる「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表す。
【0011】
また、本明細書中で用いた「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、ビニール、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも含まれる。また、本明細書中で用いた「インク」とは、広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表す。
【0012】
(第1の実施形態)
(インクジェット記録装置)
図1は、本発明を適用可能なインクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)100の外観図である。本実施形態のインクジェット記録装置100は、10インチ~60インチサイズのロール状の記録媒体に記録可能な形態となっている。尚、記録媒体のサイズはこれに限られず、またロール状ではなくカットされた記録媒体でも良い。図1において、101は記録装置本体100を乗せるスタンド、102は排紙された記録媒体を積載するスタッカである。記録装置100は、種々の記録情報や設定結果などを表示するための表示パネル103と、記録モードや記録媒体などの設定をするための操作部104が設けられている。また開閉可能なアッパーカバー106を備えている。また記録装置100の両脇には、インクタンクを収容して記録ヘッドにインクを供給するためのインクタンク供給ユニット105が配置されている。
【0013】
図2は、インクジェット記録装置100内の、記録ヘッドを移動可能な移動手段として機能するキャリッジ201および空気を吸引して記録媒体を吸着させて支持する吸着型のプラテン207(支持部材)の周辺を示した断面図である。図3は、インクジェット記録装置内部の模式的な上面図であり、図3(a)は記録媒体205が搬送される前の状態、図3(b)は記録媒体205がプラテン上に搬送されている状態を示している。キャリッジ201には、複数種類のインクを吐出可能な記録ヘッド200と、記録媒体205の端部位置等を検知できる光学式の検知センサ202が設けられている。記録ヘッド200はインクを吐出する複数の吐出口からなる吐出口列をインクの種類ごとに備えている。記録ヘッド200にはインクタンク1からチューブを通してインクが供給されている。そしてキャリッジ201はシャフト206により支持されておりキャリッジベルト(不図示)を介してキャリッジモータ(不図示)によって駆動されることで、記録媒体の搬送方向(Y方向)と交差する方向(X方向、所定の方向)に往復走査される。このようなキャリッジ201の位置情報は、エンコーダスケール204のメモリをエンコーダセンサ203で読みとることによって確認される。また記録媒体205は記録動作時には記録媒体205の記録面と記録ヘッドとの距離を一定に保つためにプラテン207によって支持されている。プラテン207は、記録ヘッド200の走査領域の全域にわたって記録ヘッド200と対向する位置に設けられている。さらに記録媒体205は搬送ローラ対(不図示)とニップローラ400及び排紙ローラ401とからなる排紙ローラ対によって搬送方向(Y方向)搬送される。このような記録媒体205の搬送方向への搬送動作と、キャリッジ201の往復走査とを繰り返し行うことにより、記録媒体205に画像が形成される。
【0014】
プラテン207には複数の吸引口208と縁無し印字インク受け部209と予備吐出インク受け部(以降、「予備吐出受け部」と呼ぶ)210とが設けられている。印字インク受け部209と予備吐出インク受け部210の吐出したインクが着弾する領域は、X方向において一方が高く、他方が低くなるような高低差がある傾斜になっている。本実施形態では、全ての予備吐出受け部が、X正方向側が高くなるような傾斜となっている。傾斜の底部分は開口しており、傾斜の底に流れ落ちたインクは、プラテン上から吸引ダクト212へ排出される。また、縁無し印字インク受け部209と予備吐出受け部210は互いに連通しており吸引ダクト212を介して共通の吸引ファン211によって空気が吸引できるように設けられている。吸引口208は、記録媒体が搬送される位置に設けられており、吸引ファン211によって空気を吸引口208から吸入して負圧を発生させることで記録媒体205を吸着することができる。このように記録媒体205を吸着させている状態で記録動作を行うことで、記録媒体の浮きなどを防止することができ、安定した記録動作を行うことができる。
【0015】
(記録ヘッド)
図4は記録ヘッド200を、記録媒体205やプラテン207側から見た図である。記録ヘッドには、複数の吐出口220が記録媒体205の搬送方向(Y方向)に列状に並んでいる。220のa~fは異なるインク種類に設定することができ、本実施形態では、次のインクの吐出口となっている。
220a:シアンインク
220b:マゼンタインク
220c:イエローインク
220d:フォトブラックインク
220e:マットブラックインク
220f:グレーインク
【0016】
(記録動作中の予備吐出)
インクジェット記録装置100では、吐出口から水分が蒸発して増粘したインクや吐出口内の気泡を除去して吐出口の状態を回復させるために吐出口から定期的に画像の記録に用いないインクを排出する予備吐出動作を行っている。予備吐出受け部210は、このような予備吐出動作で排出されたインクを受容するために用いられる。予備吐出受け部210はプラテン207にX方向に複数設けられており、記録媒体205のサイズに応じて使用する予備吐出受け部210を選択する。記録媒体205の外側であって、記録媒体205に近い予備吐出受け部210を予備吐出する予備吐受け部210に選択する。それにより、キャリッジ201の走査距離が短くなり、記録動作にかかる時間を短くすることができる。例えば、図2の(a)と(b)は記録媒体205のX方向の長さが異なる場合の例であるが、図2(a)の場合は、予備吐出受け部210(b)や210(c)を使い、図2(b)の場合は210(a)や210(c)を使うのが、記録動作時間の観点で望ましい。
【0017】
また、記録動作中の予備吐出は、キャリッジを停止させて予備吐出を行うと、記録動作時間が長くなるため、キャリッジ201を移動させながら、予備吐出受け部210に向けて吐出を行う。図5は記録動作中の予備吐出について説明するための、記録ヘッド200と吐出口220、予備吐出受け部210のインクが着弾する斜面の周辺を示した断面図である。
【0018】
図5(a)はキャリッジ201が記録動作のためにX正方向に向かって移動中(矢印H)に予備吐出を行う場合の、予備吐出受け部210にシアンインクを吐出口220aから吐出開始する時の記録ヘッド200と予備吐出受け部210の位置を示した図である。図5(b)は図5(a)の後、シアンインクを吐出終了した時の記録ヘッド200、シアンインク吐出口220aと予備吐出受け部210の位置を示した図である。X正方向にキャリッジ201を移動しながら、予備吐出受け部210に予備吐出する場合は、予備吐出受け部210の傾斜が低い(溝が深い)所から高い(溝が浅い)所にインクが着弾することになる。予備吐出受け部210の斜面に着弾したシアンインクを示したものが230である。
【0019】
本実施形態では記録動作中の予備吐出は1つの吐出口あたり、図6に示す発数を吐出する。1色あたり、吐出口の数は1548個あり、予備吐出実施時は、全吐出口から吐出させる。予備吐出1発のインク滴の重量は4.5ngである。また、同じインクで複数ドット吐出する予備吐出の吐出間隔は、水平方向(X方向)に300dpiの間隔であり、1ノズル当たり16発吐出した場合の水平方向の着弾幅d1は1.35mmである。
【0020】
また、各吐出口列220は、それぞれの吐出開始タイミングを制御することができる。図5(c)、(d)は、キャリッジをX正方向に移動しながら、吐出口220fからグレーインクの予備吐出をする場合の例であり、図5(c)が予備吐出の吐出開始位置、図5(d)が予備吐出の吐出終了位置となる。このように、吐出口列220それぞれ吐出開始タイミングを調整することで着弾位置を制御可能である。ただし、着弾位置は予備吐出受け部210の中に納まるようにする。
【0021】
また、キャリッジをX負方向に移動しながら、予備吐出受け部210に予備吐出させる場合は、図7(a)が予備吐出の開始位置、図7(b)が吐出終了位置となり、予備吐出受け部210の傾斜の高い所から低い所に向かう順でインクが着弾することになる。
【0022】
(縁無し印字)
縁無し印字インク受け部209は、図3(b)に示すように記録媒体の両端部近傍に位置しており、記録媒体への縁無し全面印字動作を行う際に吐出されたインクを受容するために用いられる。縁無し印字は、記録媒体205よりはみ出した位置までインクを吐出することによって記録媒体205の全面に記録を行う方法である。なお縁無し印字インク受け部209は記録媒体のサイズに応じて選択できるようにX方向に複数設けておくことができ、記録媒体のサイズに応じて複数の縁無し印字インク受け部209のうちの一対を選択して用いることができる。
【0023】
(ブロック図)
図8は、インクジェット記録装置100の内部ブロック図である。記録すべき画像データやプリンタドライバ等を介して制御を行なうためのパソコン(PC)300が、記録装置100に接続される。記録装置100は、装置全体を制御するための制御ユニット301、駆動ユニット各部、並びに、記録ヘッド200を積載したキャリッジ201を備えている。キャリッジユニット302は、キャリッジベルト(不図示)を介しキャリッジ201を駆動するためのキャリッジモータやエンコーダスケール204を読み取るエンコーダセンサ203等によって構成される。記録媒体搬送ユニット303は、記録媒体205を搬送する搬送ローラ、排紙ローラ401、並びにこれらローラを駆動するための搬送モータ等により構成される。吸引ユニット304は、プラテン207、吸引口208、縁無し印字インク受け部209、予備吐出受け部210、および吸引ファン211、吸引ダクト212により構成される。電源ユニット306は、外部電源と接続され、制御ユニット301を制御し、かつ各駆動ユニットを動作させるために用いられる。操作部ユニット307は、記録装置100本体を操作するためのユニットであり、表示パネル103および操作部104から構成されている。
【0024】
制御ユニット301は、ドライバ部308、シーケンス制御部309、画像処理部310、タイミング制御部311、ヘッド制御部312で構成される。シーケンス制御部309は、各機能ブロックの起動および停止、記録媒体の搬送制御、キャリッジの走査制御等の制御全般を行なう。さらに、シーケンス制御部309は、吸引ファン211の駆動電圧(回転数)を制御して、吸引ユニット304の吸引力を変更させる機能も有する。
【0025】
ドライバ部308は、シーケンス制御部309からの指令に基づく制御信号を各ユニットに出力し、キャリッジ201を走査させるキャリッジモータや、搬送ローラ及び排紙ローラを駆動させる搬送モータ、吸引ファン211等を駆動する。またドライバ部308は、各ユニットからの信号をシーケンス制御部309へ伝達する。
【0026】
画像処理部310は、ホスト装置300からの入力画像データをフォトブラック、シアン、マゼンタ、イエローなどの記録データに色分解・変換する画像処理を行なう。タイミング制御部311は、エンコーダセンサ203により取得されるキャリッジ201の位置と連動して、画像処理部310で変換・生成された記録データをヘッド制御部に転送する機能を果たす。ヘッド制御部312は、タイミング制御部311から入力された記録データをヘッド制御信号に変換して出力するほか、シーケンス制御部309の指令に基づいて記録ヘッド200の温度制御を行なう。
【0027】
(回復ユニット)
図2において、キャリッジ201の移動方向における記録媒体205の外側の領域(記録領域外)には回復ユニット10が設けられている。キャリッジ201は、インクタンク1から記録ヘッド200にインクを初めて充填する際(初期充填時)や、記録ヘッド200の吐出性能を回復する際(回復動作時)に、回復ユニット10と対向する位置へ移動する。回復ユニット10は、記録ヘッド200の吐出口面を覆うことができるキャップ31と、チューブを介してキャップ31と接続されたポンプ(吸引ポンプ)32とを有している。回復ユニット10は、キャリッジ201が回復ユニット10と対向する位置に移動したときに、キャップ31を上昇させ、キャップ31により記録ヘッド200の吐出口面を覆う。回復ユニット10は、キャップ31が記録ヘッド200の吐出口面を覆った状態において、ポンプ32を駆動することで、キャップ31の内部を負圧にして、記録ヘッド200からインクを吸引する吸引動作を行う。また、回復ユニット10は、記録ヘッド200の吐出口面を拭払する拭払動作を行うワイパ(ワイパブレード)30を有している。吸引動作が終了した後にワイパ30により吐出口面を払拭する。
【0028】
(インクの堆積)
次に本実施形態の記録装置において生じるインクの堆積について説明する。本実施形態の記録装置は、6色の顔料インク(シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、フォトブラックインク、マットブラックインク、グレーインク)によって画像を形成する。インクの堆積とは、プラテン207の予備吐出受け部210上にインクが吐出された場合に、予備吐出受け部210の斜面を流れて、インクが吸引ダクト212へ排出されず、予備吐出受け部210の表面にインクが残留してしまう現象のことである。このような現象は、溶解性の低い色材を含むインクや、インクの水分蒸発時の粘度上昇が大きく流動性が低減するインク等を使用した場合に発生する。インクの堆積のし易さは、インク中の顔料濃度や固形成分濃度が高い方が堆積しやすい傾向や、水分蒸発後の粘度が高いものが堆積し易い傾向がある。また他に、以下に示す実験から求めることができる。
【0029】
(実験:インクの堆積し易さの判定)
プラテンの予備吐出受け部の上方にインクを滴下する装置を設置し、高温低湿環境下で対象インクを間欠的に滴下する。ある規定の滴下回数において、予備吐出受け部210に堆積物が発生しているか否かで、対象インクが堆積し易いインクか否かを判定することができる。ここでの堆積物が発生している状態とは、インク滴下量に比べて、予備吐出受け部210から吸引ダクト212へ排出されるインクが少なく、滴下回数が増えるにつれ、滴下位置に溜まったインク量が増えることでインク増粘物の高さが高くなるもののことを指す。堆積が発生しない状態とは、予備吐出受け部210に付着するインクはあるが、前回の滴下位置に新たにインクを滴下し続けても、新たに加わった量のインクが予備吐出受け部210から吸引ダクト212へ流れ落ちることで、滴下位置の付着インクの高さが変わらない状態を指す。
【0030】
また、対象インクの堆積物が発生した滴下回数から、対象インクの堆積し易さを評価することができる。
【0031】
図9に各インクの堆積し易さを評価した実験結果を示す。この実験では、イエローインクは予備吐出インク受け部に500回インクを滴下すると堆積が発生した。また、フォトブラックインクは50回、マットブラックインクは100回インクを滴下すると堆積が発生した。この結果によれば、フォトブラックインク>マットブラックインク>イエローインクの順で堆積し易いインクであることが分かった。一方、シアンインク、マゼンタインク、グレーインクでは堆積は発生しなかった。
【0032】
(実験:堆積を抑制するインク量の判定)
次に、上記の実験でインクの堆積が発生しなかったシアンインク、マゼンタインク、グレーインクについて、その堆積抑制効果を調べる。フォトブラックインクに対して、どの程度の量のシアンインク、マゼンタインク、グレーインクを混合すれば、堆積が発生しないかを実験して調べた。
【0033】
図10に各インクの堆積抑制効果を評価した実験結果を示す。この実験では、フォトブラックインク1の量に対して、シアンインク、マゼンタインク、グレーインク、それぞれ0.5,1,3の量をそれぞれ混合した場合のインクの堆積発生の有無を調べた。
【0034】
この実験結果によれば、インクの堆積を解消するためには、フォトブラックインクに対して半分量(1:0.5)のシアンインクやグレーインク、また、3倍の量(1:3)のマゼンタインクが必要であることが分かった。この結果に基づき、本実施形態ではシアンインク、グレーインク、マゼンタインクをインクの堆積物を溶解し、堆積を抑制する堆積抑制インクとして使用する。
【0035】
(記録動作中の予備吐出動作について)
次に、本実施形態に係る記録動作中の予備吐出動作について説明を行う。記録装置100が印字信号を受信すると、記録ヘッド200はキャリッジ201を停止させた状態でキャップ31上に予備吐出を行う(記録前予備吐出動作)。直前のインク吐出動作から時間が経過している可能性があるため、記録動作中の予備吐出よりも吐出口220内のインク粘度が増加している可能性がある。そのため、記録媒体205への記録動作開始前においては、記録動作中の予備吐出数よりも多い吐出数の予備吐出動作が行われる。続いて記録媒体205を搬送し、プラテン207上に記録媒体205が載った図3(b)の状態にする。その後、キャリッジ201をX方向に往復して記録ヘッド200の吐出口のY方向の幅分の画像を記録し、記録媒体205をY方向に搬送するという動作を繰り返して、記録動作を行う。この記録動作中、X正方向にキャリッジ移動しながら記録する時には、記録媒体205上に吐出する直前に、予備吐出受け部210(c)に予備吐出を行う。
【0036】
この時、堆積抑制インクである、シアンインク、マゼンタインク、グレーインクの吐出開始位置は、堆積し易いインクである、イエローインク、フォトブラックインク、マットブラックインクの吐出開始位置より、X正方向(図中右側)に-0.08mmずらす。これにより堆積抑制インクは堆積し易いインクよりも着弾位置が予備吐出受け部210の傾斜の低い側となる。図11の(a)は、堆積抑制インクであるシアンインクの吐出開始位置であり、図11の(b)は堆積し易いインクである、イエローインクの吐出開始位置であり、それらの開始位置のずれはd2(0.08mm)である。0.08mmは一例であり、一部が重なっていればよく、これに限られない。
【0037】
各インクの記録動作中の予備吐出は、X方向に1.35mmの幅に着弾するため、着弾したインクの位置関係は図11(c)のようになる。図11(c)は図11(a)のC部分の拡大図である。T1は堆積抑制インクの着弾位置、T2は堆積し易いインクの着弾位置、吐出開始タイミングのずれd2、各色のX方向の着弾幅d1である。(図11(c)での記載は、分かりやすさのために、T1,T2には厚みがあり、T2の方がT1より上に記載しているが、実際は、厚みがなく、また、上下の重なり順は吐出口の並び順に依存する)。吐出順は、堆積抑制インクが先でも堆積し易いインクが先でもどちらでもよい。また、最後に吐出されるインクも堆積抑制インクであっても堆積し易いインクであってもよい。
【0038】
堆積し易いインクの着弾位置T2の中でも、傾斜の低い側にあるインク滴ほど、その色の予備吐出の吐出始めのインク滴となっているため、前回の吐出から時間が経過し、着弾したインクが増粘している可能性が高い。本実施形態では、T2の下流部分に重なるように堆積抑制インクT1を吐出する。そのため、堆積抑制インクにより、堆積し易いインクが溶解され、予備吐出受け部210の下流に流れやすくなり、インクの堆積の発生を抑制することができる。
【0039】
本実施形態では、堆積抑制インクはすべてT1の位置、堆積し易いインクはすべてT2の位置としたが、堆積し易いインクの吐出始めのインクに重なるように堆積抑制インクが吐出されれば、色ごとに吐出位置がずれていてもよい。例えば堆積抑制インクであるシアンインクはT1の位置、他のインクはT2の位置としても良い。
【0040】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、記録動作中で、キャリッジ201がX正方向に移動する時にのみ、予備吐出受け部210への予備吐出を行っていた。より高頻度に予備吐出をする必要がある場合には、X正方向に移動する時に加えて、X負方向に移動する時にも、予備吐出を行う。本実施形態ではそのような場合について説明する。第1の実施形態と同じ部分については省略する。
【0041】
X負方向に移動する時の予備吐出タイミングは、記録媒体205上を走査する直前であり、記録媒体205近傍にある予備吐出受け部210に行う。図2(a)のような記録媒体205のサイズの場合は、予備吐出受け部210(b)に、図2(b)のような記録媒体205のサイズの場合は、予備吐出受け部210(a)に予備吐出を行う。X正方向に移動する場合については第1の実施形態と同じであるため説明は省略する。
【0042】
この時、堆積抑制インクである、シアンインク、マゼンタインク、グレーインクの吐出開始位置は、堆積し易いインクである、イエローインク、フォトブラックインク、マットブラックインクの吐出開始位置より、X正方向(図中左側)に+0.08mmずらす。これにより堆積抑制インクの吐出開始位置は堆積し易いインクよりも予備吐出受け部の傾斜の高い側となる。図12の(a)は、堆積抑制インクであるシアンインクの吐出開始位置であり、図12の(b)は堆積し易いインクであるイエローインクの吐出開始位置であり、それらの開始位置のずれはd3(0.08mm)である。
【0043】
各インクの記録動作中の予備吐出は、X方向に1.35mmの幅に着弾するため、着弾したインクの位置関係は図12(c)のようになる。T1は堆積抑制インクの着弾位置、T2は堆積し易いインクの着弾位置、吐出開始タイミングのずれd3、各色のX方向の着弾幅d1である。
【0044】
この場合、堆積し易いインクの着弾位置T2の中でも、傾斜の高い側にあるインク滴ほど、その色の予備吐出の吐出し始めのインク滴となっているため、前回の吐出から時間が経過し、着弾したインクが増粘している可能性が高い。本実施形態では、T2の上流部分と同じ位置に、十分重なるよう堆積抑制インクT1を吐出する。そのため、堆積抑制インクにより、堆積し易いインクが溶解され、予備吐出受け部210の下流に流れやすくなり、インクの堆積の発生を抑制することができる。
【0045】
本実施形態では、堆積抑制インクはすべてT1の位置、堆積し易いインクはすべてT2の位置としたが、堆積し易いインクの吐出始めのインクに重なるように堆積抑制インクが吐出されれば、色ごとに吐出位置がずれていてもよい。例えば堆積抑制インクであるシアンインクはT1の位置、他のインクはT2の位置としても良い。
【0046】
(第3の実施形態)
上述の実施形態では、記録動作中の予備吐出の吐出発数は、全色同じであった。本実施形態では予備吐出の吐出発数を変える形態について説明する。上述の実施形態と同じ部分については省略する。
【0047】
図13は、本実施形態での、記録動作中の予備吐出の吐出発数である。本例では、マゼンタインクのみ、他色の2倍の吐出発数となっている。そのため、予備吐出受け部210内の、予備吐出の着弾する領域も倍の長さとなる。図14は、本実施形態での予備吐出受け部210内に着弾したインクの位置関係を示す。図14(a)はキャリッジがX正方向に移動中の予備吐出、(b)はキャリッジがX負方向に移動中の予備吐出である。予備吐出発数以外の制御については第1の実施形態や第2の実施形態と同じである。図14のT3はマゼンタインクの着弾位置、d4はマゼンタインクのX方向の着弾領域を示している。本実施形態では堆積インクが着弾する領域T2の全領域が堆積抑制インクであるマゼンタインクが着弾する領域T3に重なっている。このように、吐出インクの中に着弾する領域が異なるインクが存在しても、予備吐出受け部での堆積抑制効果がある。本実施形態では、マゼンタインクの予備吐出量を多くしたが、多くするのは他の堆積抑制インクであってもよい。また、予備吐量を多くする堆積抑制インクは2種類以上でも良い。
【0048】
また、上述の実施形態では、シアンインク、マゼンタインク、グレーインク、イエローインク、フォトブラックインク、マットブラックインクなど色材を含むインクの例について述べたが、他の色を吐出する記録ヘッドにも適応できる。また、色材を含まないインク、例えばクリアインクを吐出する記録ヘッドにも適応できる。クリアインクは堆積抑制インクとして使用される。
【符号の説明】
【0049】
100 インクジェット記録装置
200 記録ヘッド
201 キャリッジ
205 記録媒体
207 プラテン(支持部材)
209 縁無し印字インク受け部
210 予備吐出受け部
212 吸引ダクト
図1
図2
図3
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図11
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図13
図14