(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169234
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】光学粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20241128BHJP
【FI】
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086539
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
【テーマコード(参考)】
4J004
【Fターム(参考)】
4J004AA05
4J004AA07
4J004AA08
4J004AA09
4J004AA10
4J004AA11
4J004AA13
4J004AA14
4J004AA15
4J004AA16
4J004AB01
4J004BA02
4J004DA02
4J004DA03
4J004DB02
4J004EA05
4J004FA01
4J004FA05
(57)【要約】
【課題】フレキシブルデバイス用途に適した光学粘着シートを提供する。
【解決手段】粘着シート10は、光学粘着シートであって、-20℃において70kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有し、-30℃での第1せん断損失弾性率の、60℃での第2せん断損失弾性率に対する比率が、14以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学粘着シートであって、
-20℃において70kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有し、
-30℃での第1せん断損失弾性率の、60℃での第2せん断損失弾性率に対する比率が14以下である、光学粘着シート。
【請求項2】
前記第1せん断損失弾性率が100kPa以下である、請求項1に記載の光学粘着シート。
【請求項3】
-20℃での第3せん断損失弾性率に対する前記第1せん断損失弾性率の比率が2.8以下である、請求項1に記載の光学粘着シート。
【請求項4】
前記第3せん断損失弾性率が50kPa以下である、請求項3に記載の光学粘着シート。
【請求項5】
-50℃~150℃において損失正接tanδが1以上3以下の極大値を有する、請求項1に記載の光学粘着シート。
【請求項6】
40℃および相対湿度92%の条件で測定される透湿度が400g/m2・24h以下である、請求項1に記載の光学粘着シート。
【請求項7】
25℃、剥離角度180°および引張速度60mm/分の条件での剥離試験における粘着力が2.0N/10mm以上である、請求項1から6のいずれか一つに記載の光学粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイパネルは、例えば、画素パネル、偏光フィルム、タッチパネルおよびカバーフィルムなどの要素を含む積層構造を有する。そのようなディスプレイパネルの製造過程では、積層構造に含まれる要素どうしの接合のために、例えば、光学的に透明な粘着シート(光学粘着シート)が用いられる。
【0003】
一方、スマートフォン用およびタブレット端末用に、繰り返し折り曲げ可能(フォルダブル)なディスプレイパネルの開発が進んでいる。フォルダブルディスプレイパネルは、具体的には、屈曲形状とフラットな非屈曲形状との間で、繰り返し変形可能である。このようなフォルダブルディスプレイパネルでは、積層構造中の各要素が、繰り返し折り曲げ可能に作製されており、そのような要素間の接合に薄い光学粘着シートが用いられている。フォルダブルディスプレイパネルなどフレキシブルデバイス用の光学粘着シートについては、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フォルダブルディスプレイパネルの折り曲げ箇所では、従来、被着体としての要素から光学粘着シートが剥がれやすい。ディスプレイパネルが折り曲げられたとき、光学粘着シートの折り曲げ部分には、比較的大きな引張り応力が局所的に発生するからである。光学粘着シートの折り曲げ部分では、要素(被着体)に対する例えばせん断方向の引張り応力が大きいほど、光学粘着シートと要素との間で、剥がれが発生しやすい。当該剥がれの発生は、デバイスの機能不良の原因となり、好ましくない。フォルダブルディスプレイパネル用の光学粘着シートには、ディスプレイ屈曲時に要素(被着体)から剥がれにくいことが、高いレベルで求められている。
【0006】
一方、フレキシブルデバイスとしては、巻き取り可能(ローラブル)なディスプレイパネルの開発も進んでいる。ローラブルディスプレイパネルは、例えば、全体または一部が巻き取られた後の巻回し形状と、全体が繰り出された後のフラット形状との間で、繰り返し変形可能である。このようなローラブルディスプレイパネルでは、積層構造中の各要素が、繰り返し変形可能に作製されており、そのような要素間の接合に薄い光学粘着シートが用いられている。ローラブルディスプレイパネルの巻回し形状時には、巻回し形状の要素に接合している光学粘着シートは当該要素から引張り応力を受け続ける。このような光学粘着シートには、ディスプレイの巻回し形状時に要素(被着体)から剥がれにくいことが、非常に高いレベルで求められる。
【0007】
フレキシブルデバイス用の光学粘着シートには、優れた応力緩和性を有するように、高度に軟質であることが求められる。このような光学粘着シートは、従来、切断刃によって切断加工される前に、例えば-20℃以下の低温に、冷却される。切断刃に対する光学粘着シートの付着を、避けるためである(光学粘着シートは、低温なほど、高弾性化し、切断刃に付着しにくくなる)。しかし、切断加工工程中、光学粘着シートの温度は徐々に高くなる。従来の光学粘着シートでは、光学粘着シートにおける温度上昇による弾性率の低下(軟質化)が比較的大きく、切断加工温度のマージンが比較的狭い。
【0008】
本発明は、フレキシブルデバイス用途に適した光学粘着シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明[1]は、光学粘着シートであって、-20℃において70kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有し、-30℃での第1せん断損失弾性率の、60℃での第2せん断損失弾性率に対する比率が14以下である、光学粘着シートを含む。
【0010】
本発明[2]は、前記第1せん断損失弾性率が100kPa以下である、上記[1]に記載の光学粘着シートを含む。
【0011】
本発明[3]は、-20℃での第3せん断損失弾性率に対する前記第1せん断損失弾性率の比率が2.8以下である、上記[1]または[2]に記載の光学粘着シートを含む。
【0012】
本発明[4]は、前記第3せん断損失弾性率が50kPa以下である、上記[3]に記載の光学粘着シートを含む。
【0013】
本発明[5]は、-50℃~150℃において損失正接tanδが1以上3以下の極大値を有する、上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の光学粘着シートを含む。
【0014】
本発明[6]は、40℃および相対湿度92%の条件で測定される透湿度が400g/m2・24h以下である、上記[1]から[5]のいずれか一つに記載の光学粘着シートを含む。
【0015】
本発明[7]は、25℃、剥離角度180°および引張速度60mm/分の条件での剥離試験における粘着力が2.0N/10mm以上である、上記[1]から[6]のいずれか一つに記載の光学粘着シートを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光学粘着シートは、上記のように、-20℃において70kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有する。このように軟質の光学粘着シートは、同粘着シートが貼り合わされた被着体の変形時に、光学粘着シートおよび被着体に生ずる応力を緩和するのに適する(応力緩和機能)。光学粘着シートにおける応力緩和は、被着体からの光学粘着シートの剥離を抑制するのに適する。被着体における応力緩和は、当該被着体の割れなどの破損を抑制するのに適する。加えて、本発明の光学粘着シートは、上記のように、-30℃での第1せん断損失弾性率の、60℃での第2せん断損失弾性率に対する比率(G1/G2)が14以下である。このような光学粘着シートは、光学粘着シートの温度上昇による軟質化を抑制して、切断加工温度について広いマージンを確保するのに適する。以上のような光学粘着シートは、フレキシブルデバイス用途に適する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の光学粘着シートの一実施形態の断面模式図である。
【
図2】本発明の光学粘着シートの使用方法の一例を表す。
図2Aは、光学粘着シートを第1被着体に貼り合わせる工程を表し、
図2Bは、光学粘着シートを介して第1被着体と第2被着体とを接合する工程を表し、
図2Cは、エージング工程を表す。
【
図3】
図3Aは、繰返し屈曲試験において試験片がフラットな状態を表し、
図3Bは、繰返し屈曲試験において試験片が湾曲された状態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の光学粘着シートの一実施形態としての粘着シート10は、
図1に示すように、所定の厚さのシート形状を有し、厚さ方向Hと直交する方向(面方向)に広がる。粘着シート10は、厚さ方向Hの一方面に粘着面11を有し、厚さ方向Hの他方面に粘着面12を有する。
図1は、粘着シート10の粘着面11,12にはく離ライナーL1,L2が貼り合わされている状態を、例示的に示す。はく離ライナーL1は、粘着面11上に配置されている。はく離ライナーL2は、粘着面12上に配置されている。はく離ライナーL1,L2は、それぞれ、粘着シート10の使用時に所定のタイミングで剥離される。
【0019】
粘着シート10は、フレキシブルデバイスにおける光通過箇所に配置される光学的に透明な粘着シートである。フレキシブルデバイスとしては、例えば、フレキシブルディスプレイパネルが挙げられる。フレキシブルディスプレイパネルとしては、例えば、フォルダブルディスプレイパネルおよびローラブルディスプレイパネルが挙げられる。フレキシブルディスプレイパネルは、例えば、画素パネル、偏光フィルム、タッチパネルおよびカバーフィルムなどの要素を含む積層構造を有する。粘着シート10は、例えば、フレキシブルディスプレイパネルの製造過程において、積層構造に含まれる要素どうしの接合に、用いられる。
【0020】
粘着シート10は、-20℃において70kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有し、且つ、-30℃での第1せん断損失弾性率の、60℃での第2せん断損失弾性率に対する比率が、14以下である。粘着シート10のせん断貯蔵弾性率およびせん断損失弾性率は、実施例に関して後述する動的粘弾性測定によって求められる。
【0021】
粘着シート10は、上述のように、-20℃において70kPa以下のせん断貯蔵弾性率を有する。このように軟質の粘着シート10は、粘着シート10が貼り合わされた被着体の変形時に、粘着シート10および被着体に生ずる応力を緩和するのに適する(応力緩和機能)。粘着シート10における応力緩和は、被着体からの粘着シート10の剥離を抑制するのに適する。被着体における応力緩和は、当該被着体の割れなどの破損を抑制するのに適する。
【0022】
加えて、粘着シート10は、上述のように、-30℃での第1せん断損失弾性率の、60℃での第2せん断損失弾性率に対する比率が、14以下である。このような粘着シート10は、粘着シート10の温度上昇による軟質化を抑制して、切断加工時の粘着シート10の温度(切断加工温度)について広いマージンを確保するのに適する。
【0023】
以上のような光学粘着シートは、フレキシブルデバイス用途に適する。
【0024】
粘着シート10の-20℃でのせん断貯蔵弾性率は、粘着シート10が変形(屈曲および湾曲など)した場合の当該変形箇所での応力緩和の観点から、好ましくは65kPa以下、より好ましくは55kPa以下、更に好ましくは45kPa以下である。当該せん断貯蔵弾性率は、粘着シート10において良好な粘着性およびハンドリング性(取り扱いのしやすさ)を確保する観点から、好ましくは40kPa超、より好ましくは45kPa以上である。粘着シート10のせん断貯蔵弾性率の調整方法としては、例えば、粘着シート10におけるベースポリマーの種類の選択、分子量の調整、および配合量の調整、並びに、架橋剤の種類の選択および配合量の調整が挙げられる。
【0025】
粘着シート10の第2せん断損失弾性率(60℃)に対する第1せん断損失弾性率(-30℃)の比率(比率R1)は、粘着シート10の温度上昇による軟質化を抑制して、切断加工温度について広いマージンを確保する観点から、好ましくは13以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは11以下、一層好ましくは10以下である。比率R1は、例えば0以上、1以上、3以上、5以上または7以上である。
【0026】
第1せん断損失弾性率(-30℃)は、低温領域での粘着シート10の物性変化を抑制する観点から、好ましくは100kPa以下、より好ましくは90kPa以下、更に好ましくは85kPa以下である。第1せん断損失弾性率(-30℃)は、粘着シート10において良好な粘着性およびハンドリング性を確保する観点から、好ましくは30kPa以上、より好ましくは40kPa以上、更に好ましくは50kPa以上である。粘着シート10のせん断貯蔵弾性率の調整方法としては、例えば、粘着シート10におけるベースポリマーの種類の選択、分子量の調整、および配合量の調整、並びに、架橋剤の種類の選択および配合量の調整が挙げられる。
【0027】
第2せん断損失弾性率(60℃)は、高温領域での粘着シート10の物性変化を抑制する観点から、好ましくは3kPa以上、より好ましくは5kPa以上、更に好ましくは6kPa以上、一層好ましくは7kPa以上である。第2せん断損失弾性率(60℃)は、粘着シート10において、フォルダブルディスプレイパネルなどフレキシブルデバイス用途に求められる応力緩和性を確保する観点から、好ましくは15kPa以下、より好ましくは10kPa以下、更に好ましくは8kPa以下である。
【0028】
粘着シート10の-20℃での第3せん断損失弾性率は、低温領域での粘着シート10の物性変化を抑制する観点から、好ましくは50kPa以下、より好ましくは40kPa以下、更に好ましくは35kPa以下である。第3せん断損失弾性率(-20℃)は、粘着シート10において良好な粘着性およびハンドリング性を確保する観点から、好ましくは10kPa以上、より好ましくは15kPa以上、更に好ましくは20kPa以上である。
【0029】
粘着シート10の25℃での第4せん断損失弾性率は、室温領域において粘着シート10の良好なハンドリング性(取り扱いのしやすさ)を確保する観点から、好ましくは4kPa以上、より好ましくは6kPa以上、更に好ましくは7kPa以上である。第4せん断損失弾性率(25℃)は、粘着シート10において、フレキシブルデバイス用途に求められる応力緩和性を確保する観点から、好ましくは15kPa以下、より好ましくは12kPa以下、更に好ましくは9kPa以下である。
【0030】
粘着シート10の第3せん断損失弾性率(-20℃)に対する第1せん断損失弾性率(-30℃)の比率(比率R2)は、粘着シート10の温度上昇による軟質化を抑制して、切断加工温度について広いマージンを確保する観点から、好ましくは2.8以下、より好ましくは2.6以下、更に好ましくは2.4以下である。比率R2は、例えば0以上、1以上、または2以上である。
【0031】
粘着シート10の-30℃でのせん断貯蔵弾性率(第1せん断貯蔵弾性率)は、粘着シート10における上述の応力緩和の観点から、好ましくは120kPa以下、より好ましくは100kPa以下、更に好ましくは80kPa以下、一層好ましくは70kPa以下である。第1せん断貯蔵弾性率(-30℃)は、粘着シート10において良好な粘着性およびハンドリング性を確保する観点から、好ましくは45kPa以上、より好ましくは50kPa以上、更に好ましくは55kPa以上である。
【0032】
粘着シート10の-20℃でのせん断貯蔵弾性率(第2せん断貯蔵弾性率)に対する第1せん断貯蔵弾性率(-30℃)の比率(比率R3)は、低温領域において粘着シート10の安定した応力緩和機能を確保する観点から、好ましくは1.8以下、より好ましくは1.7以下、更に好ましくは1.6以下である。比率R3は、例えば0.9以上、1.0以上または1.1以上である。
【0033】
粘着シート10の25℃でのせん断貯蔵弾性率(第3せん断貯蔵弾性率)は、粘着シート10における上述の応力緩和の観点から、好ましくは50kPa以下、より好ましくは40kPa以下、更に好ましくは30kPa以下、一層好ましくは23kPa以下である。第3せん断貯蔵弾性率(25℃)は、粘着シート10において良好な粘着性およびハンドリング性を確保する観点から、好ましくは18kPa超、より好ましくは19kPa以上、更に好ましくは20kPa以上である。
【0034】
粘着シート10の60℃でのせん断貯蔵弾性率(第4せん断貯蔵弾性率)は、粘着シート10における上述の応力緩和の観点から、好ましくは50kPa以下、より好ましくは40kPa以下、更に好ましくは30kPa以下、一層好ましくは23kPa以下である。第4せん断貯蔵弾性率(60℃)は、粘着シート10において良好な粘着性、凝集力およびハンドリング性を確保する観点から、好ましくは13kPa以上、より好ましくは15kPa以上、更に好ましくは17kPa以上である。
【0035】
粘着シート10は、好ましくは、-50℃~150℃において損失正接tanδ(= せん断損失弾性率/せん断貯蔵弾性率)が極大値を有し、より好ましくは、-40℃以下の低温領域に損失正接tanδが極大値を有する。この極大値は、粘着シート10の耐衝撃性の確保の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.4以上であり、また、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2以下である。粘着シート10の損失正接tanδは、実施例に関して後述する動的粘弾性測定によって求められる。
【0036】
粘着シート10の厚さは、粘着シート10において良好な応力緩和機能を確保する観点から、好ましくは45μm以上、より好ましくは48μm以上、更に好ましくは50μm以上である。粘着シート10の厚さは、フレキシブルデバイスの薄型化の観点から、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下、特に好ましくは70μm以下である。
【0037】
粘着シート10の、40℃および相対湿度92%の条件で測定される透湿度は、多湿環境下での粘着シート10の膨潤を抑制する観点から、好ましくは400g/m2・24h以下、好ましくは395g/m2・24h以下、より好ましくは390g/m2・24h以下、更に好ましくは380g/m2・24h以下である。粘着シート10の透湿度とは、粘着シート10の厚さを50μmとしたときの透湿度を意味するものとする。低透湿度の粘着シート10は、当該粘着シート10によって被着体間を接合している状態において、粘着シート10の端部の部分的な膨潤を抑制するのに適する(端部への湿気の浸透によって膨潤が生ずる)。粘着シート10の端部における部分的膨潤の抑制は、被着体からの同端部の剥がれを抑制するのに適する。粘着シート10の透湿度の調整方法としては、例えば、粘着シート10におけるベースポリマーの種類の選択、分子量の調整、および配合量の調整が挙げられる。ベースポリマーの種類の選択には、ベースポリマーの側鎖の種類の選択および量の調整が含まれる。ベースポリマーの側鎖の種類の選択には、側鎖におけるアルキル部位の長さの調整、および、側鎖に含まれる官能基の種類の選択および量の調整が含まれる。粘着シート10の透湿度の調整方法としては、ベースポリマー以外の添加剤の種類の選択および配合量の調整も挙げられる。粘着シート10の透湿度の測定方法は、実施例に関して後述するとおりである。
【0038】
粘着シート10の、100kHzにおける比誘電率D1(後述の加湿前の比誘電率)は、ディスプレイパネルが備えるタッチセンサにおいて良好なセンシング感度を実現する観点から、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.8以下、更に好ましくは3.6以下である。比誘電率D1は、例えば3.0以上、3.3以上または3.5以上である。比誘電率D1の調整方法としては、例えば、粘着シート10におけるベースポリマーの種類の選択、分子量の調整、および配合量の調整が挙げられる。ベースポリマーの種類の選択には、ベースポリマーの側鎖の種類の選択および量の調整が含まれる。ベースポリマーの側鎖の種類の選択には、側鎖におけるアルキル部位の長さの調整、および、側鎖に含まれる官能基の種類の選択および量の調整が含まれる。比誘電率D1の調整方法としては、ベースポリマー以外の添加剤の種類の選択および配合量の調整も挙げられる(後述の比誘電率D2についても同様である)。比誘電率の測定方法は、具体的には、実施例に関して後述するとおりである。
【0039】
粘着シート10の、40℃および相対湿度92%の環境下で24時間経過の後(加湿後)の比誘電率D2は、ディスプレイパネルが備えるタッチセンサにおいて加湿環境下で良好なセンシング感度を実現する観点から、好ましくは4.0以下、好ましくは3.8以下、更に好ましくは3.6以下である。比誘電率D2は、例えば2.8以上、3.0以上または3.2以上である。
【0040】
比誘電率D1に対する比誘電率D2の比率(D2/D1)は、粘着シート10において安定した誘電特性を得る観点から、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上であり、また、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.05以下である。
【0041】
粘着シート10の、25℃、剥離角度180°および引張速度60mm/分の条件での剥離試験(第1剥離試験)における粘着力F1は、常温領域において被着体からの粘着シート10の剥離を抑制する観点から、好ましくは2.0N/10mm以上、より好ましくは2.2N/10mm以上である。粘着力F1は、ポリイミド(PI)フィルムに対する25℃での粘着力を意味する。粘着力F1の測定方法は、具体的には、実施例に関して後述するとおりである。粘着力F1の調整方法としては、例えば、粘着シート10におけるベースポリマーの種類の選択、分子量の調整、および配合量の調整が挙げられる。ベースポリマーの種類の選択には、ベースポリマーを形成するモノマーの組成の調整が含まれる。粘着力F1の調整方法としては、粘着シート10におけるベースポリマー以外の成分の種類の選択、および、当該成分の配合量の調整も挙げられる。当該成分としては、架橋剤、シランカップリング剤、およびオリゴマーが挙げられる。以上のような粘着力調整方法は、後記の粘着力F2についても同様である。
【0042】
粘着シート10の、65℃、剥離角度180°および引張速度60mm/分の条件での剥離試験(第2剥離試験)における粘着力F2は、高温領域において被着体からの粘着シート10の剥離を抑制する観点から、好ましくは1.3N/10mm以上、好ましくは1.5N/10mm以上、更に好ましくは1.7N/10mm以上である。粘着力F2は、PIフィルムに対する65℃での粘着力を意味する。粘着力F2の測定方法は、具体的には、実施例に関して後述するとおりである。
【0043】
粘着シート10は、粘着剤組成物から形成されたシート状の感圧接着剤である。粘着シート10(粘着剤組成物)は、少なくともベースポリマーを含む。
【0044】
ベースポリマーは、粘着シート10において粘着性を発現させる粘着成分である。ベースポリマーとしては、例えば、アクリルポリマー、シリコーンポリマー、ポリエステルポリマー、ポリウレタンポリマー、ポリアミドポリマー、ポリビニルエーテルポリマー、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィンポリマー、エポキシポリマー、フッ素ポリマー、およびゴムポリマーが挙げられる。ベースポリマーは、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。粘着シート10における良好な透明性および粘着性を確保する観点から、ベースポリマーとしては、アクリルポリマーが好ましい。
【0045】
アクリルポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルを50質量%以上の割合で含むモノマー成分の共重合体である。「(メタ)アクリル」は、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられ、より好ましくは、アルキル基の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが用いられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、直鎖状または分岐状のアルキル基を有してもよく、脂環式アルキル基を有してもよい。
【0047】
直鎖状または分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル(即ちラウリル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸イソトリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸イソテトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル、および(メタ)アクリル酸ノナデシルが挙げられる。
【0048】
脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、二環式の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステル、および、三環以上の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘプチル、および(メタ)アクリル酸シクロオクチルが挙げられる。二環式の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸イソボルニルが挙げられる。三環以上の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロペンタニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、および、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0049】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、粘着シート10において、フレキシブルデバイス用途の粘着シートに求められる軟質性および粘着力と、粘着シートの低透湿性とのバランスをとる観点から、好ましくは、炭素数6~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される少なくとも一つが用いられ、より好ましくは、炭素数8~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される少なくとも一つが用いられ、更に好ましくは、炭素数8~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される少なくとも二つが用いられる。炭素数6~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)、アクリル酸n-オクチル(NOAA)、アクリル酸イソノニル(INAA)、およびラウリルアクリレート(LA)が好ましい。
【0050】
モノマー成分における(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、粘着シート10において軟質性、粘着力および低透湿性を適切に発現させる観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは97質量%以上である。同割合は、例えば99.9質量%以下、99.5質量%以下または99質量%以下である。炭素数8~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される第1の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、炭素数8~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される別の第2の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを併用する場合、モノマー成分における第1の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。モノマー成分における第2の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの割合は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは35質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下である。
【0051】
モノマー成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な共重合性モノマーを含んでもよい。共重合性モノマーとしては、例えば、極性基を有するモノマーが挙げられる。極性基含有モノマーとしては、例えば、ヒドロキシ基含有モノマー、窒素原子含有環を有するモノマー、およびカルボキシ基含有モノマーが挙げられる。極性基含有モノマーは、アクリルポリマーへの架橋点の導入、アクリルポリマーの凝集力の確保など、アクリルポリマーの改質に役立つ。
【0052】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、および(4-ヒドロキシメチルシクロへキシル)メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。ヒドロキシ基含有モノマーとしては、好ましくは、アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)、およびアクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)からなる群から選択される少なくとも一つが用いられる。
【0053】
モノマー成分におけるヒドロキシ基含有モノマーの割合は、アクリルポリマーへの架橋構造の導入、および、粘着シート10における凝集力の確保の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。同割合は、アクリルポリマーの極性(粘着シート10における各種添加剤成分とアクリルポリマーとの相溶性に関わる)の調整の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0054】
窒素原子含有環を有するモノマーとしては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-(メタ)アクリロイル-2-ピロリドン、N-(メタ)アクリロイルピペリジン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン、N-ビニルモルホリン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-2-カプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン、N-ビニルピラゾール、N-ビニルイソオキサゾール、N-ビニルチアゾール、およびN-ビニルイソチアゾールが挙げられる。
【0055】
窒素原子含有環を有するモノマーを用いる場合、モノマー成分における、窒素原子含有環を有するモノマーの割合は、粘着シート10における凝集力の確保、および、粘着シート10における対被着体密着力の確保の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。同割合は、アクリルポリマーのガラス転移温度の調整、および、アクリルポリマーの極性(粘着シート10における各種添加剤成分とアクリルポリマーとの相溶性に関わる)の調整の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0056】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、およびイソクロトン酸が挙げられる。
【0057】
カルボキシ基含有モノマーを用いる場合、モノマー成分におけるカルボキシ基含有モノマーの割合は、アクリルポリマーへの架橋構造の導入、粘着シート10における凝集力の確保、および、粘着シート10における対被着体密着力の確保の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上である。同割合は、アクリルポリマーのガラス転移温度の調整、および、酸による被着体の腐食リスクの回避の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0058】
モノマー成分における極性基含有モノマーの割合(複数の極性基含有モノマーが含まれる場合には、複数の極性基含有モノマーの総量の割合)は、ベースポリマーのガラス転移温度を低くして粘着シート10の軟質性を確保する観点から、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3.5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。同割合は、例えば0.1質量%以上、0.5質量%以上、0.8質量%以上である。
【0059】
モノマー成分は、他の共重合性モノマーを含んでいてもよい。他の共重合性モノマーとしては、例えば、酸無水物モノマー、スルホン酸基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、シアノ基含有モノマー、アルコキシ基含有モノマー、および芳香族ビニル化合物が挙げられる。これら他の共重合性モノマーは、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。
【0060】
ベースポリマーを形成するモノマー成分は、好ましくは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと極性基含有モノマーとを含み、より好ましくは、炭素数8~12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとヒドロキシ基含有モノマーとを含む。この場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとヒドロキシ基含有モノマーとの合計量におけるヒドロキシ基含有モノマーの割合は、アクリルポリマーへの架橋構造の導入、および、粘着シート10における凝集力の確保の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは0.8質量%以上である。同割合は、ベースポリマーのガラス転移温度を低くして粘着シート10の軟質性を確保する観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3.5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、一層好ましくは2質量%以下、より一層好ましくは1.5質量%以下である。
【0061】
ベースポリマーは、好ましくは、架橋構造を有する。ベースポリマーへの架橋構造の導入方法としては、例えば、次の第1の方法および第2の方法が挙げられる。第1の方法では、架橋剤と反応可能な官能基を有するベースポリマーと架橋剤とを粘着剤組成物に配合し、ベースポリマーと架橋剤とを粘着シート中で反応させる。第2の方法では、ベースポリマーを形成するモノマー成分に、架橋剤としての多官能化合物を含め、当該モノマー成分の重合により、ポリマー鎖に分枝構造(架橋構造)が導入されたベースポリマーを形成する。これらの方法は、併用されてもよい。
【0062】
上記第1の方法で用いられる架橋剤としては、例えば、ベースポリマーに含まれる官能基(水酸基およびカルボキシ基など)と反応する化合物が挙げられる。そのような架橋剤としては、例えば、イソシアネート架橋剤、過酸化物架橋剤、エポキシ架橋剤、オキサゾリン架橋剤、アジリジン架橋剤、およびカルボジイミド架橋剤が挙げられる。第1の方法における架橋剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。第1の方法における架橋剤としては、ベースポリマーにおける水酸基およびカルボキシ基との反応性が高くて架橋構造の導入が容易であることから、好ましくは、イソシアネート架橋剤が用いられる。
【0063】
イソシアネート架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、およびポリメチレンポリフェニルイソシアネートが挙げられる。また、イソシアネート架橋剤としては、これらイソシアネートの誘導体も挙げられる。当該イソシアネート誘導体としては、例えば、イソシアヌレート変性体およびポリオール変性体が挙げられる。イソシアネート架橋剤の市販品としては、例えば、コロネートL(トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体,東ソー製)、コロネートHL(へキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体,東ソー製)、コロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体,東ソー製)、タケネートD110N(キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体,三井化学製)、および、タケネート600(1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン,三井化学製)が挙げられる。
【0064】
過酸化物架橋剤としては、ジベンゾイルペルオキサイド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-sec-ブチルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、およびt-ブチルパーオキシピバレートが挙げられる。
【0065】
エポキシ架橋剤としては、ビスフェノールA、エピクロルヒドリン型のエポキシ樹脂、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジアミングリシジルアミン、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、および1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
【0066】
第1の方法における架橋剤の配合量は、粘着シート10の凝集力を確保する観点から、ベースポリマー100質量部あたり、例えば0.01質量部以上であり、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上である。粘着シート10において良好なタック性を確保する観点から、ベースポリマー100質量部に対する架橋剤の配合量は、例えば5質量部以下であり、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.2質量部以下である。
【0067】
上記第2の方法では、モノマー成分(架橋構造を導入するための多官能化合物と単官能モノマーとを含む)は、一度で重合させてもよいし、多段階で重合させてもよい。多段階重合の方法では、まず、ベースポリマーを形成するための単官能モノマーを重合させ(予備重合)、これによって部分重合物(低重合度の重合物と未反応の単官能モノマーとの混合物)を含有するプレポリマー組成物を調製する。次に、プレポリマー組成物に、架橋剤としての多官能化合物を添加した後、部分重合物と多官能化合物とを含む反応系にて重合反応を進行させる(本重合)。
【0068】
多官能化合物としては、例えば、エチレン性不飽和二重結合を1分子中に2個以上含有する、多官能モノマーおよび多官能オリゴマーが、挙げられる。多官能モノマーとしては、多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0069】
多官能(メタ)アクリレートとしては、二官能(メタ)アクリレート、三官能(メタ)アクリレート、および、四官能以上の多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0070】
二官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(BPAEODE)、およびネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0071】
三官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、およびトリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートが挙げられる。
【0072】
四官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、およびジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0073】
多官能オリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリオール(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、および、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0074】
第2の方法における架橋剤としての多官能化合物は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。多官能化合物としては、好ましくは、多官能モノマーが用いられ、より好ましくは、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、およびトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)からなる群から選択される少なくとも一つが用いられる。
【0075】
モノマー成分における架橋剤としての多官能化合物の配合量は、粘着シート10の凝集力を確保する観点から、単官能モノマー100質量部あたり、好ましくは0.02質量部以上、より好ましくは0.04質量部以上、更に好ましくは0.06質量部以上である。多官能化合物の配合量は、粘着シート10において良好なタック性を確保する観点から、単官能モノマー100質量部あたり、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。
【0076】
アクリルポリマー(ベースポリマー)は、上述のモノマー成分を重合させることによって形成できる。重合方法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、および無溶剤での光重合(例えば紫外線重合)が挙げられる。溶液重合の溶媒としては、例えば、酢酸エチルおよびトルエンが用いられる。重合においては、連鎖移動剤を用いてもよい。また、重合の開始剤としては、例えば、熱重合開始剤および光重合開始剤が用いられる。重合開始剤は、単独で用いられてもよいし、二種類以上が併用されてもよい。重合開始剤の使用量は、モノマー成分100質量部あたり、好ましくは0.03質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.07質量部以上であり、また、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは0.3質量部以下である。
【0077】
熱重合開始剤としては、例えば、アゾ重合開始剤および過酸化物重合開始剤が挙げられる。アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4'-アゾビス-4-シアノバレリアン酸、アゾビスイソバレロニトリル、および2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライドが挙げられる。過酸化物重合開始剤としては、例えば、ジベンゾイルペルオキシド、t-ブチルペルマレエ-ト、および過酸化ラウロイルが挙げられる。
【0078】
光重合開始剤としては、例えば、ラジカル系光重合開始剤、カチオン系光重合開始剤、およびアニオン系光重合開始剤が挙げられる。
【0079】
ラジカル系光重合開始剤としては、例えば、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、およびアセトフェノン系光重合開始剤が挙げられる。
【0080】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,4-ジ-n-ブトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、および、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイドが含まれる。ベンゾインエーテル系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、および2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンが挙げられる。アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、および4-(t-ブチル)ジクロロアセトフェノンが挙げられる。
【0081】
ベースポリマーの重量平均分子量は、粘着シート10における凝集力の確保の観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは30万以上、更に好ましくは50万以上である。ベースポリマーの重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)によって測定してポリスチレン換算により算出される。
【0082】
ベースポリマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下、更に好ましくは-20℃以下である。同ガラス転移温度は、例えば-80℃以上である。
【0083】
ベースポリマーのガラス転移温度(Tg)については、下記のFoxの式に基づき求められるガラス転移温度(理論値)を用いることができる。Foxの式は、ポリマーのガラス転移温度Tgと、当該ポリマーを構成するモノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tgiとの関係式である。下記のFoxの式において、Tgはポリマーのガラス転移温度(℃)を表し、Wiは当該ポリマーを構成するモノマーiの重量分率を表し、Tgiは、モノマーiから形成されるホモポリマーのガラス転移温度(℃)を示す。ホモポリマーのガラス転移温度については文献値を用いることができる。例えば、「Polymer Handbook」(第4版,John Wiley & Sons, Inc., 1999年)には、各種のホモポリマーのガラス転移温度が挙げられている。一方、モノマーのホモポリマーのガラス転移温度については、特開2007-51271号公報に具体的に記載されている方法によって求めることも可能である。
【0084】
Foxの式 1/(273+Tg)=Σ[Wi/(273+Tgi)]
【0085】
粘着剤組成物は、シランカップリング剤を含有してもよい。粘着剤組成物におけるシランカップリング剤の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上である。同含有量は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0086】
粘着剤組成物は、必要に応じて他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、溶剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、および帯電防止剤が挙げられる。溶剤としては、例えば、アクリルポリマーの重合時に必要に応じて用いられる重合溶媒、および、重合後に重合反応溶液に添加される溶媒が、挙げられる。当該溶媒としては、例えば、酢酸エチルおよびトルエンが用いられる。
【0087】
粘着シート10は、例えば、上述の粘着剤組成物をはく離ライナーL1(第1はく離ライナー)上に塗布して塗膜を形成した後、当該塗膜を乾燥させることによって、製造できる。粘着シート10は、上述の粘着剤組成物をはく離ライナーL1(第1はく離ライナー)上に塗布して塗膜を形成し、当該塗膜上にはく離ライナーL2(第2はく離ライナー)を積層した後、はく離ライナー間で塗膜を乾燥させることによって製造してもよい。
【0088】
はく離ライナーL1としては、例えば、可撓性を有するプラスチックフィルムが挙げられる。当該プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、およびポリプロピレンフィルムが挙げられる。はく離ライナーL1の厚さは、例えば3μm以上であり、また、例えば200μm以下である。はく離ライナーL1の表面は、好ましくは剥離処理されている。
【0089】
粘着剤組成物の塗布方法としては、例えば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、およびダイコートが挙げられる。塗膜の乾燥温度は、例えば50℃~200℃である。乾燥時間は、例えば5秒~20分である。
【0090】
はく離ライナーL2は、好ましくは、表面が剥離処理された可撓性のプラスチックフィルムである。はく離ライナーL2としては、はく離ライナーL1に関して上述したプラスチックフィルムを用いることができる。
【0091】
以上のようにして、はく離ライナーL1,L2によって粘着面11,12が被覆保護された粘着シート10を製造できる。
【0092】
粘着シート10のヘイズは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下である。粘着シート10のヘイズは、JIS K7136(2000年)に準拠して、ヘイズメーターを使用して測定できる。ヘイズメーターとしては、例えば、日本電色工業社製の「NDH2000」、および、村上色彩技術研究所社製の「HM-150型」が挙げられる。
【0093】
粘着シート10の全光線透過率は、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは85%以上である。粘着シート10の全光線透過率は、例えば100%以下である。粘着シート10の全光線透過率は、JIS K 7375(2008年)に準拠して、測定できる。
【0094】
【0095】
本方法では、まず、
図2Aに示すように、粘着シート10を、第1部材21(被着体)の厚さ方向Hの一方面に貼り合わせる。第1部材21は、例えば、フレキシブルディスプレイパネルが有する積層構造中の一要素である。当該要素としては、例えば、画素パネル、偏光フィルム、タッチパネルおよびカバーフィルムが挙げられる(後記の第2部材22についても同様である)。本工程により、第1部材21上に、他の部材との接合用の粘着シート10が設けられる。
【0096】
次に、
図2Bに示すように、第1部材21上の粘着シート10を介して、第1部材21の厚さ方向Hの一方面側と、第2部材22の厚さ方向Hの他方面側とを接合する。第2部材22は、例えば、フレキシブルディスプレイパネルが有する積層構造中の他の要素である。
【0097】
次に、
図2Cに示すように、第1部材21と第2部材22との間の粘着シート10をエージングする。エージングにより、粘着シート10と部材21,22との間の接合力が高まる。エージング温度は、例えば20℃~160℃である。エージング時間は、例えば1分から21日である。エージングとしてオートクレーブ処理(加熱加圧処理)する場合、温度は例えば30℃~80℃であり、圧力は例えば0.1~0.8MPaであり、処理時間は例えば15分以上である。
【実施例0098】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替できる。
【0099】
〔実施例1〕
〈プレポリマー組成物の調製〉
フラスコ内で、アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)60質量部と、ラウリルアクリレート(LA)39質量部と、アクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA)1質量部とを含有するモノマー混合物に、第1の光重合開始剤としての2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(品名「Omnirad651」,IGM Resins社製)0.05質量部と、第2の光重合開始剤としての1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(品名「Omnirad184」,IGM Resins社製)0.05質量部とを加えた後、当該混合物に対して窒素雰囲気下で紫外線を照射することによって混合物中のモノマー成分の一部を重合させて、重合率約10%の第1プレポリマー組成物(重合反応を経ていないモノマー成分を含有する)を得た。
【0100】
〈粘着剤組成物の調製〉
第1プレポリマー組成物100質量部と、架橋剤としてのジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)0.06質量部と、シランカップリング剤(品名「KBM-403」,信越化学工業製)0.3質量部とを混合し、第1粘着剤組成物を得た。
【0101】
〈粘着剤層の形成〉
片面に剥離処理面を有する第1はく離ライナー(品名「ダイアホイル MRF#75」,厚さ75μm,三菱ケミカル社製)の剥離処理面上に、第1粘着剤組成物を塗布して塗膜を形成した。次に、第1はく離ライナー上の塗膜の上に、片面に剥離処理面を有する第2はく離ライナー(品名「ダイアホイル MRE#75」,厚さ75μm,三菱ケミカル社製)の剥離処理面を貼り合わせた。次に、はく離ライナー間の塗膜に紫外線を照射し、当該塗膜を光硬化させて粘着剤層(厚さ50μm)を形成した。紫外線照射においては、照射光源としてブラックライトを使用し、照射強度を5mW/cm2とした。
【0102】
以上のようにして、両面はく離ライナー付きの実施例1の粘着シート(厚さ50μm)を作製した。実施例1の粘着シートに関する組成について、単位を“質量部”として表1に示す(後記の実施例および比較例についても同様である)。
【0103】
〔実施例2〕
プレポリマー組成物の調製において、2EHAの配合量を51質量部としたこと、および、LAの配合量を48質量部としたこと以外は、実施例1の粘着シートと同様にして、両面はく離ライナー付きの実施例2の粘着シートを作製した。
【0104】
〔実施例3〕
プレポリマー組成物の調製において、2EHAの配合量を58質量部としたこと、および、4HBAの配合量を3質量部としたこと以外は、実施例1の粘着シートと同様にして、両面はく離ライナー付きの実施例3の粘着シートを作製した。
【0105】
〔実施例4〕
まず、フラスコ内で、アクリル酸n-オクチル(NOAA)29質量部と、2EHA 70質量部と、4HBA 1質量部とを含有するモノマー混合物に、第1の光重合開始剤(Omnirad651)0.05質量部と、第2の光重合開始剤(Omnirad184)0.05質量部とを加えた後、当該混合物に対して窒素雰囲気下で紫外線を照射することによって混合物中のモノマー成分の一部を重合させて、重合率約10%の第2プレポリマー組成物を得た。
【0106】
次に、第2プレポリマー組成物100質量部と、架橋剤としてのDPHA 0.06質量部と、シランカップリング剤(KBM-403)0.3質量部とを混合し、第2粘着剤組成物を得た。
【0107】
次に、第1粘着剤組成物に代えて第2粘着剤組成物を用いたこと以外は、実施例1における粘着剤層の形成と同様にして、第1・第2はく離ライナー間に粘着剤層(厚さ50μm)を形成した。
【0108】
以上のようにして、両面はく離ライナー付きの実施例4の粘着シート(厚さ50μm)を作製した。
【0109】
〔実施例5〕
まず、フラスコ内で、アクリル酸イソノニル(INAA)70質量部と、LA 29質量部と、4HBA 1質量部とを含有するモノマー混合物に、第1の光重合開始剤(Omnirad651)0.05質量部と、第2の光重合開始剤(Omnirad184)0.05質量部とを加えた後、当該混合物に対して窒素雰囲気下で紫外線を照射することによって混合物中のモノマー成分の一部を重合させて、重合率約10%の第3プレポリマー組成物を得た。
【0110】
次に、第3プレポリマー組成物100質量部と、架橋剤としてのDPHA 0.06質量部と、シランカップリング剤(KBM-403)0.3質量部とを混合し、第3粘着剤組成物を得た。
【0111】
次に、第1粘着剤組成物に代えて第3粘着剤組成物を用いたこと以外は、実施例1における粘着剤層の形成と同様にして、第1・第2はく離ライナー間に粘着剤層(厚さ50μm)を形成した。
【0112】
以上のようにして、両面はく離ライナー付きの実施例5の粘着シート(厚さ50μm)を作製した。
【0113】
〔実施例6〕
プレポリマー組成物の調製において、2EHAの配合量を50質量部としたこと、および、NOAAの配合量を49質量部としたこと以外は、実施例4の粘着シートと同様にして、両面はく離ライナー付きの実施例6の粘着シートを作製した。
【0114】
〔比較例1〕
次のこと以外は実施例1の粘着シートと同様にして、両面はく離ライナー付きの比較例1の粘着シートを作製した。プレポリマー組成物の調製において、2EHAの配合量を56質量部とし、LAの配合量を34質量部とし、4HBAの配合量を7質量部とし、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)2質量部を配合した。粘着剤組成物の調製において、更に、下記のアクリルオリゴマー 1質量部を配合した。
【0115】
〈オリゴマーの調製〉
まず、撹拌機、温度計、還流冷却器、および窒素ガス導入管を備える反応容器内で、メタクリル酸ジシクロペンタニル(DCPMA)60質量部と、メタクリル酸メチル(MMA)40質量部と、連鎖移動剤としてのα-チオグリセロール3.5質量部と、溶媒としてのトルエン100質量部とを含む混合物を、70℃で1時間、窒素雰囲気下にて撹拌した。次に、混合物に、熱重合開始剤としての2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2質量部を加えて反応溶液を調製し、窒素雰囲気下において、70℃で1時間、および、その後に80℃で2時間、反応させた(重合反応)。次に、反応溶液を130℃に加熱することにより、トルエン、連鎖移動剤および未反応モノマーを揮発させて除去した。これにより、極性基を有しなし疎水性オリゴマーとしてのアクリルオリゴマー(固形状)を得た。このアクリルオリゴマーの重量平均分子量は5100であった。
【0116】
〔比較例2〕
プレポリマー組成物の調製において、INAAの配合量を50質量部としたこと、および、LAの配合量を49質量部としたこと以外は、実施例5の粘着シートと同様にして、両面はく離ライナー付きの比較例2の粘着シートを作製した。
【0117】
〈透湿度〉
実施例1~6および比較例1,2の各粘着シートについて、透湿度を調べた。具体的には、次のとおりである。
【0118】
まず、両面はく離ライナー付き粘着シートを、温度23℃および相対湿度55%の雰囲気下で3日間、静置した。これにより、粘着シートの状態を調整した。次に、粘着シートから一方のはく離ライナーを剥離した後、これによって露出した露出面を、厚さ25μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(透湿度:1070g/m2・24h)に貼り合せた。次に、TCAフィルム上の粘着シートから他方のはく離ライナーを剥離した。これにより、透湿度測定用のサンプルフィルムを得た。
【0119】
次に、粘着シートの厚さ方向の透湿度を、JIS Z0208の透湿度試験(カップ法)に準拠して測定した。具体的には、まず、事前に秤量された所定量の塩化カルシウムを試験用のカップ(直径30mmの円形開口を有するアルミニウム製のカップであって、JIS Z0208のカップ法で用いられるカップ)内に入れた状態で、当該カップの開口をサンプルフィルムで閉塞した。カップの開口を閉塞するサンプルフィルムの面積は、直径30mmの円の面積に相当する。次に、サンプルフィルム付きカップを温度40℃および相対湿度90%の恒温高湿チャンバー内に入れて、24時間、放置した。次に、カップから取り出された塩化カルシウムを秤量した。塩化カルシウムの増加質量(g)を、カップの開口を閉塞するサンプルフィルムの面積(m2)で除した値を算出した。その値を、粘着シートの透湿度(g/m2・24h)として表1,2に示す。このようにして得られた透湿度は、TACフィルム付き粘着シートの透湿度であるが、TACフィルムの透湿度が粘着シートの透湿度よりも十分に大きいので、サンプルフィルムの透湿度を粘着シートの透湿度とみなした。
【0120】
〈比誘電率〉
実施例1~6および比較例1,2の各粘着シートについて、比誘電率を調べた。具体的には、次のとおりである。
【0121】
まず、粘着シートを銅箔と電極の間に挟んで測定サンプルを作製した。次に、測定サンプルについて、アジレント・テクノロジー製の「Precision Impedance Analyzer 4294A」により、JIS K6911に準拠して、下記の条件で周波数100kHzでの比誘電率を測定した(第1の比誘電率測定)。測定結果を、粘着シートの100kHzでの比誘電率D1として表1,2に示す。
【0122】
[比誘電率の測定条件]
電極構成:直径12.1mmおよび厚さ0.5mmのアルミニウム板
対向電極:3oz 銅板
測定環境:温度25℃,相対湿度50%
【0123】
また、粘着シートを加湿処理した後、当該粘着シートの比誘電率を測定した(第2の比誘電率測定)。加湿処理では、40℃および相対湿度92%の環境下で24時間、粘着シートを保管した。第2の誘電率測定の方法は、上述の第1の誘電率測定方法と同様である。測定結果を、粘着シートの加湿後の100kHzでの比誘電率D2として表1,2に示す。上述の比誘電率D1に対する比誘電率D2の比率(D2/D1)も表1,2に示す。
【0124】
〈せん断貯蔵弾性率〉
実施例1~6および比較例1,2の各粘着シートについて、動的粘弾性を測定した。
【0125】
粘着シートごとに、必要数の測定用のサンプルを作製した。具体的には、まず、粘着シートから切り出した複数の粘着シート片を貼り合わせて、約1.5mmの厚さのサンプルシートを作製した。次に、このシートを打ち抜いて、測定用サンプルである円柱状のペレット(直径7.9mm)を得た。
【0126】
そして、測定用サンプルについて、動的粘弾性測定装置(品名「Discovery Hybrid Reometeter-2 (DHR-2)」,TA Instruments社製)を使用して、直径7.9mmのパラレルプレートの治具に固定した後に動的粘弾性測定を行った。本測定において、測定モードをせん断モードとし、測定温度範囲を-50℃~150℃とし、昇温速度を5℃/分とし、周波数を1Hzとした。
【0127】
測定結果から、所定温度(-30℃,-20℃,25℃,60℃)におけるせん断貯蔵弾性率G’およびせん断損失弾性率G”を読み取った。各温度でのせん断貯蔵弾性率G’およびせん断損失弾性率G”を表1,2に示す。-30℃でのせん断貯蔵弾性率G’(第1せん断貯蔵弾性率)の、-20℃でのせん断貯蔵弾性率G’(第2せん断貯蔵弾性率)に対する比率も、表1,2に示す。-30℃でのせん断損失弾性率G”(第1せん断損失弾性率)の、60℃でのせん断損失弾性率G”(第2せん断損失弾性率)に対する比率、および、-30℃でのせん断損失弾性率G”(第1せん断損失弾性率)の、-20℃でのせん断損失弾性率G”(第3せん断損失弾性率)に対する比率も、表1,2に示す。また、測定結果から、-50℃~150℃での損失正接tanδ(= せん断損失弾性率G”/せん断貯蔵弾性率G’)の極大値を読み取った。その値も表1,2に示す。
【0128】
〈180°剥離試験〉
実施例1~6および比較例1,2の各粘着シートについて、180°剥離試験により、被着体に対する粘着力を調べた。
【0129】
具体的には、まず、粘着シートごとに必要数の測定用試料を作製した。測定用試料の作製においては、まず、粘着シートから第1はく離ライナーを剥離し、これによって露出した露出面を、表面がプラズマ処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(品名「ルミラーS10」,厚さ50μm,東レ製)に貼り合わせて、積層体を得た。プラズマ処理では、プラズマ照射装置(品名「AP-TO5」,積水工業社製)を使用し、電圧を160Vとし、周波数を10kHzとし、処理速度を5000mm/分とした。次に、積層体(PETフィルム/粘着シート/第2はく離ライナー)から試験片(幅10mm×長さ100mm)を切り出した。次に、この試験片における粘着シートから第2はく離ライナーを剥離し、これによって露出した露出面を、表面がプラズマ処理されたポリイミド(PI)フィルム(品名「GV200」,厚さ80μm,コーロン社製)に貼り合わせた。次に、粘着シート(試験片)付きPIフィルムを、温度50℃、圧力0.5MPaおよび15分間の条件で加温加圧処理した。これにより、PIフィルムに対して試験片を圧着させた。以上のようにして、測定用試料を作製した。
【0130】
次に、測定用試料を室温で30分間静置した後、測定用試料におけるPIフィルムから試験片を剥離する180°剥離試験を実施し、剥離に要する力(剥離強度)を測定した(第1の剥離試験)。本測定には、引張り試験機(品名「オートグラフAG-50NX plus)」,島津製作所製)を使用した。本測定では、測定温度を25℃とし、相対湿度を55%とし、PIフィルムからの試験片の剥離角度を180°とし、試験片の引張速度を60mm/分とし、剥離長さを50mmとした。測定された剥離強度の平均値を、粘着力F1(N/10mm)として表1,2に示す。
【0131】
一方、測定温度を65℃に変えたこと以外は第1の剥離試験と同一の条件で剥離試験を実施した(第2の剥離試験)。その測定結果を、粘着力F2(N/10mm)として表1,2に示す。
【0132】
〈屈曲試験〉
実施例1~6および比較例1,2の各粘着シートについて、次のように屈曲試験を実施した。
【0133】
まず、両面はく離ライナー付き粘着シートから第2はく離ライナーを剥離し、これによって露出した露出面をプラズマ処理した。一方、厚さ51μmの偏光フィルムの両面(第1面,第2面)も、プラズマ処理した。また、厚さ80μmの透明ポリイミドフィルムの表面、および、厚さ125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面も、プラズマ処理した。各プラズマ処理では、プラズマ照射装置(品名「AP-TO5」,積水工業社製)を使用し、電圧を160Vとし、周波数を10kHzとし、処理速度を5000mm/分とした。そして、粘着シートの上記露出面と、偏光フィルムの第1面とを、貼り合わせた。この貼り合わせでは、23℃の環境下において、2kgのローラーを1往復させる作業により、第1はく離ライナー付き粘着シートと偏光フィルムとを圧着させた。次に、偏光フィルム付き粘着シートから第1はく離ライナーを剥離した後、これによって露出した粘着シート露出面に、上記透明ポリイミドフィルムを貼り合わせた。次に、偏光フィルムの第2面に、厚さ15μmの薄強粘着シートを介して、上記PETフィルムを貼り合わせた。この貼り合わせでは、23℃の環境下において、2kgのローラーを1往復させる作業により、偏光フィルムとPETフィルムとを圧着させた。これにより、PETフィルム(厚さ125μm)と、薄強粘着シート(厚さ15μm)と、偏光フィルム(厚さ51μm)と、粘着シート(厚さ50μm)と、透明ポリイミドフィルム(厚さ80μm)との積層構成を有する積層フィルムを得た。
【0134】
次に、このようにして用意された積層フィルムから、評価用の試験片を切り出した。具体的には、切り出される試験片において偏光フィルムの吸収軸方向が長辺方向と平行となるように、35mm×100mmの矩形の試験片を、積層フィルムから切り出した。次に、当該試験片を、35℃および0.50MPaの条件で、15分間、オートクレーブ処理した。
【0135】
次に、試験片について、面状体無負荷U字伸縮試験機(ユアサシステム機器製)によって、屈曲試験を実施した(第1の屈曲試験)。本試験では、
図3Aに示すように、試験片100における長辺方向の両端部のそれぞれに対し、試験機の屈曲治具201,202を取り付けて、試験片100を試験機に固定した。屈曲治具201,202のそれぞれは、試験片100の端縁から20mmの範囲を保持する。試験片100の長辺方向の中央60mmの領域は、屈曲治具201,202に固定されていない状態にある。また、本試験では、温度-20℃の恒温槽内で、試験片100を、PETフィルム側の面が内側となる屈曲形態(
図3B)と非屈曲形態(
図3A)との間で、屈曲速度60rpmで20万回、繰り返し変形(屈曲)させた。本試験での屈曲形態とは、具体的には、試験片100に作用する曲げモーメントの軸方向と偏光フィルムの吸収軸方向とが直交する形態である。当該屈曲形態において、試験片100の曲げ半径は1.3mmとし、曲げ角度は180°とした。そして、試験片100において繰り返し屈曲された被屈曲部分100aを観察し、屈曲試験における粘着シートの対被着体貼着性について、粘着シートとその被着体(透明ポリイミドフィルム,偏光フィルム)との間に剥がれが発生していない場合を“良”と評価し、剥がれが発生している場合を“不良”と評価した。その評価結果を表1,2に示す。
【0136】
一方、温度を25℃に変えたこと以外は第1の屈曲試験と同一の条件で、第1の屈曲試験を経ていない試験片について屈曲試験を実施した(第2の屈曲試験)。その評価結果を表1,2に示す。
【0137】
実施例1~6の各粘着シートは、70kPa以下のせん断貯蔵弾性率(-20℃)を有し、第2せん断損失弾性率(60℃)に対する第1せん断損失弾性率(-30℃)の比率(比率R1)が14以下である。このような実施例1~6の各粘着シートは、第1の屈曲試験(-20℃)および第2の屈曲試験(25℃)のいずれにおいても、被着体に対して良好な密着性を示した。これに対し、比較例1の粘着シートは、せん断貯蔵弾性率が70kPa以下でなく、比率R1が14以下でなく、第2の屈曲試験(25℃)において、被着体に対して良好な密着性を示さなかった。比較例2の粘着シートは、比率R1が14以下でなく、第2の屈曲試験(25℃)において、被着体に対して良好な密着性を示さなかった。
【0138】
【0139】