(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169237
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】複合構造梁
(51)【国際特許分類】
E04B 1/30 20060101AFI20241128BHJP
E04C 3/293 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
E04B1/30 K
E04C3/293
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086543
(22)【出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100208269
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 雅士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英之
(72)【発明者】
【氏名】田畑 卓
(72)【発明者】
【氏名】古谷 祐希
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163DA00
2E163FA12
2E163FB02
2E163FD31
2E163FF11
2E163FF12
2E163FF15
(57)【要約】
【課題】 施工性が優れ、完成後において合理的な力学的挙動を発揮できる材端部鉄筋コンクリート梁中央部鉄骨梁の複合構造梁を提供する。
【解決手段】 鉄筋コンクリート柱1を挟んで対向するように接合された、材端部鉄筋コンクリート梁中央部鉄骨梁からなる複合構造梁10であって、鉄筋コンクリート柱1を挟んで接合された複合構造梁10の一方の材端部鉄筋コンクリート梁11内に埋設された鉄骨梁のフランジ21U(L)と、他方の材端部鉄筋コンクリート梁21内に埋設された鉄骨梁のフランジフランジ21U(L)とを、鉄筋コンクリート柱を貫通させた平鋼15(16)材で連結する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート柱を挟んで対向するように接合された、材端部鉄筋コンクリート梁中央部鉄骨梁からなる複合構造梁であって、前記鉄筋コンクリート柱を挟んで接合された前記複合構造梁の一方の材端部鉄筋コンクリート梁内に埋設された鉄骨梁のフランジと、他方の前記材端部鉄筋コンクリート梁内に埋設された鉄骨梁のフランジとが、前記鉄筋コンクリート柱を貫通した鋼材で連結されたことを特徴とする複合構造梁。
【請求項2】
前記鋼材は、平鋼であり、前記鉄筋コンクリート柱を貫通し、その両端が前記フランジに固定された請求項1に記載の複合構造梁。
【請求項3】
前記鉄骨梁の上下のフランジのうち、発生する設計応力の大きな側の前記フランジに前記鋼材が連結された請求項1に記載の複合構造梁。
【請求項4】
前記鉄骨梁は、その終端部のウェブ側面と、該ウェブ側面に連なるフランジ内面とに沿って溶接固定された支圧プレートが設けられた請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の複合構造梁。
【請求項5】
前記平鋼は、ボルト接合により前記フランジに固定された請求項2に記載の複合構造梁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合構造梁に係り、特に材端部鉄筋コンクリート梁中央部鉄骨梁の複合構造からなり、その材端部が鉄筋コンクリート柱に接合される際の施工性が優れ、完成後において合理的な力学的挙動を発揮できる複合構造梁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材端部鉄筋コンクリート梁中央部鉄骨梁(本明細書において、以下単に複合構造梁と記す。)において、鉄骨の埋め込み部分の終端部の鉄骨フランジに平鋼やカプラーを溶接して取り付け、これらを介して梁材軸方向に所定長の鉄筋を鉄骨の終端部に接合し、その鉄筋を接合する鉄筋コンクリート柱内に定着させることで、鉄骨のフランジに作用する材軸方向力の一部を鉄筋コンクリート柱に伝達するようにした力学架構が提案されている(特許文献1,特許文献2)。
【0003】
これらの提案の材端部の複合構造によれば、鉄骨が負担する曲げモーメントの一部を材端部の鉄筋コンクリート梁部分に材軸方向の偶力として伝達することができるため、鉄骨が埋め込まれた範囲の鉄筋コンクリート梁部分に作用するせん断力を軽減することができる。
【0004】
さらに、出願人は、鉄骨の抜け出し防止や鉄骨埋め込み部分の鉄筋コンクリート部のせん断抵抗を確保するために、鉄骨の埋め込み部分の終端部に、上下フランジ内面側とウェブ側面とに支持された支圧板を応力伝達部材として機能させるようにした複合構造梁を提案をしている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-173155号
【特許文献2】特開2007-291636号
【特許文献3】特開2005-076379号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に開示された鉄筋を用いた梁材端部の定着構造は、複合構造梁が隅柱に接合されるような場合には比較的有効であるが、建物内部の中柱に接合される場合には柱を挟んで両側に複合構造梁が接合されるため、柱を挟んで両側から延びる定着部の鉄筋が輻輳する。特に鉄骨フランジの高さが等しい場合は、接合される鉄筋同士が仕口部で干渉し、直交する鉄骨梁が柱梁接合部を貫通する場合は必要な配筋ができなくなるおそれもある。
【0007】
ところで、梁部材の断面で曲げモーメントを負担するためには材軸方向の引張力とそれに釣り合う圧縮力が必要であるが、特許文献1,2では圧縮側は圧縮鉄筋のみが配筋されており、これらの圧縮鉄筋に圧縮力を負担させると鉄筋が座屈し、十分な応力伝達ができないという問題がある。
【0008】
また、鉄筋を鉄骨フランジに保持するための平鋼と鉄筋、並びに鉄骨フランジと継手用カプラーは、それぞれ炭素量成分等が全く異なり、強度や伸びなどの材料特性も異なる全く異質な材料である。これらを溶接することは施工性も力学性能を含めた溶接性能も悪く、一般の建設工事では避けられている。
【0009】
さらに、特許文献3に開示された支圧板を取り付ける構造では、分割配置された支圧板は鉄骨の抜け出し防止、および鉄骨が埋め込まれた部分の鉄筋コンクリート部のせん断抵抗に有効であることが実験で確認されているが、梁鉄骨フランジの埋め込み終端での曲げ抵抗については補助要素として考えるのが妥当であり、その分鉄筋コンクリート梁断面を大きくして対応していた。
【0010】
加えて、各特許文献に開示された鉄骨梁端は、梁材端部と柱梁接合部の施工段階において、柱内で支持されていないため、コンクリートを現場打設とする場合には仮設時に多数の仮設支保材が必要となる。また、プレキャストコンクリート部材とした場合でも部材搬入の際、鉄骨梁の材端部を所定位置に保持させるための手段が必要である。
【0011】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、鉄筋コンクリート柱に接合される際の施工性が優れ、完成後において合理的な力学的挙動を発揮できる、材端部鉄筋コンクリート梁中央部鉄骨梁からなる複合構造梁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の複合構造梁は、鉄筋コンクリート柱を挟んで対向するように接合された、材端部鉄筋コンクリート梁中央部鉄骨梁からなる複合構造梁であって、前記鉄筋コンクリート柱を挟んで接合された前記複合構造梁の一方の材端部鉄筋コンクリート梁内に埋設された鉄骨梁のフランジと、他方の前記材端部鉄筋コンクリート梁内に埋設された鉄骨梁のフランジとが、前記鉄筋コンクリート柱を貫通した鋼材で連結されたことを特徴とする。
【0013】
前記鋼材は、平鋼であり、前記鉄筋コンクリート柱を貫通し、その両端が前記フランジに固定されたことが好ましい。
【0014】
前記鉄骨梁の上下のフランジのうち、発生する設計応力の大きな側の前記フランジに前記鋼材が連結されたことが好ましい。
【0015】
前記鉄骨梁は、その終端部のウェブ側面と、該ウェブ側面に連なるフランジ内面とに沿って溶接固定された支圧プレートが設けられたことが好ましい。
【0016】
前記平鋼は、ボルト接合により前記フランジに固定されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複合構造梁の鉄筋コンクリート柱への接合における施工性に優れ、完成後において合理的な力学的挙動を発揮できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】隣接する鉄筋コンクリート柱間に材端部鉄筋コンクリート梁中央部鉄骨梁(複合構造梁)を架設した状態を示した断面図。
【
図2】
図1に示した複合構造梁において、複合構造梁と鉄筋コンクリート柱との接合部の平面(a)及び立面(b)を拡大して示した拡大断面図。
【
図3】本発明の第2の実施形態としての複合構造梁と鉄筋コンクリート柱との接合部を拡大して示した拡大断面図。
【
図4】従来例(特許文献3)における鉄骨梁の終端部に支圧プレートを取り付けた構造例と、本発明の連結プレートと支圧プレートとを取り付けた構造例における鉄骨埋め込み部における鉄筋コンクリートと鉄骨との負担の状態を示した曲げモーメント図(M図)、せん断力図(Q図)。
【
図5】本発明の第3の実施形態としての複合構造梁と鉄筋コンクリート柱との接合部を示した拡大断面図。
【
図6】本発明の第4の実施形態としての複合構造梁と鉄筋コンクリート柱との接合部を示した拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の複合構造梁のいくつかの実施形態の構成について添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、隣接する鉄筋コンクリート柱1A,1B間に架設された材端部鉄筋コンクリート梁中央部鉄骨梁(複合構造梁)10全体を示した断面図である。
図1長丸内、
図2(b)に示したように、本発明は、たとえば建物内部の鉄筋コンクリート柱1Aにおける柱梁接合部2において、鉄筋コンクリート柱1Aと一体的にせん断パネル(図示せず)を形成し、柱側端1aから所定長さの片持ち形状に突き出した材端部鉄筋コンクリート梁11(以下、単に鉄筋コンクリート梁11と記す。)と、この鉄筋コンクリート梁11内に所定の埋設長を確保して埋め込まれて固定された鉄骨梁21とから構成されている。
【0021】
図2(a)は、
図1のうち建物内部の鉄筋コンクリート柱1Aにおける柱梁接合部2の平面を、
図2(b)は立面を拡大して示している。両図に示したように、鉄筋コンクリート梁11は、梁上下段に配筋された所定長さの主筋12,13と、これら主筋12,13を囲んで梁長手方向に所定間隔で配筋されたせん断補強筋14とで補強され、上下段の主筋12,13の間のコンクリート部分に鉄骨梁21の材端部が埋設されている。
【0022】
鉄骨梁21は、
図1に示したように、ほぼ柱間スパン長に及ぶ長さを有する複合構造梁の主体構造であり、両側の材端部21a、21bが鉄筋コンクリート梁11内に埋設され、中央部に中央部鉄骨21cが露出した状態で鉄筋コンクリート柱1A,1B間に架設されている。さらに、鉄筋コンクリート柱1Aを挟んで位置する両側の埋め込み部位置の鉄骨梁21の材端部21a、21bには、
図2(a)、(b)に示したように、2枚の連結プレート15,16が鉄筋コンクリート柱1Aを挟んでそれぞれ鉄骨梁の上下のフランジ21U,21Lに掛け渡されている。上側の連結プレート15の端部は、上側のフランジ21U上に載置され、6本の固定ボルト17によって上側フランジ21Uに固定されている。下側の連結プレート16の端部は、下側フランジ21Lの下面に接するように保持された状態で、6本の固定ボルト17によって下側フランジ21Lに固定されている。鉄骨梁21の上下に位置する連結プレート15,16には、鉄骨梁21のフランジ幅よりわずかに狭い幅の平鋼が用いられている。本実施形態(
図1,2)では、柱せい1000mm□、鉄筋コンクリート梁幅650mm、鉄骨梁の鉄骨サイズ700×300mmであり、このときの連結プレート15(16)として長さ1900mm、幅280mm、厚さ20mmの平鋼が用いられている。本実施形態の連結プレートには上述した平鋼に限定されず、平鋼に代えて、設置スペースが確保できる断面積を有する山形鋼、溝形鋼等の各種形鋼や鋼材を用いることも可能である。
【0023】
上述した鉄骨梁21のフランジ21U,21Lと、フランジ21U,21Lに取り付けられる連結プレート15,16との関係において、連結プレートとして用いられた平鋼(熱間圧延平鋼:JIS規格品)の断面積は、取り付け対象のフランジの面積以下とすることが好ましい。また、鉄骨フランジと連結プレートとに所定の応力伝達を可能にするために、固定ボルトの接合強度あるいは平鋼の降伏強度を適宜設定することが好ましい。
【0024】
本発明の複合構造梁では、製作、施工面において、鉄筋コンクリート柱1A(たとえば
図2各図)を挟んで鉄骨梁21,21間に連結プレート15(16)を掛け渡し、連結プレート15(16)の材端部を鉄骨梁21のフランジ21U(21L)と固定ボルト17によるボルト接合で連結することで、鉄骨梁21の端部を容易に位置保持させることができるので、プレキャストコンクリート製造工場での製作時の取り扱いや、建物建築現場での柱梁の組立時の施工性がきわめて良い。また、鉄筋と鉄骨のような異種材料の溶接がないため、接合手段として高い信頼性が得られる。
【0025】
図3は、第2の実施形態として、鉄筋コンクリート柱1Aを挟んで鉄骨梁21のフランジ間をつなぐ連結プレートとして、上側のフランジ21Uのみに連結プレート15を取り付けた構造例を示している。このとき、連結プレートが取り付けられていない下側のフランジ21Lの材端部21b(鉄骨埋設終端)には、支圧プレート25の2辺がフランジ21Lの内面側とウェブ21wの側面とに沿って溶接固定されている。同図に示した支圧プレートによれば、特許文献3に記載した効果と同様に、効果的に軸方向力の伝達を行うことができる。
【0026】
図2各図では、連結プレート15,16は、それぞれ上下のフランジ21U,21Lに取り付けられているが、一般には柱1Aの側面位置に発生する曲げモーメントの正負曲げ方向に対して設計応力が大きい側となるフランジ21U同士またはフランジ21L同士のいずれかを連結させる。また、
図3に示したように、連結プレート16が取り付けられていないフランジ21L側(梁圧縮側)に支圧プレート25を設けることが好ましい。
【0027】
図4(a)は、従来例としての複合構造梁(特許文献3)、すなわち鉄骨梁21の終端部に支圧プレート25のみを取り付けた構造例と、その構造例における材端部鉄筋コンクリート梁11部分での鉄筋コンクリートRCと鉄骨Sとの曲げモーメントMとせん断力Qの負担比率を模式的に示している。同図に示したように、梁に作用した曲げモーメントMをすべて負担していた中央部鉄骨梁21cに代わって材端部鉄筋コンクリート梁11が曲げモーメントMを負担するようになるため、鉄骨梁21の埋め込み部の始点部21xから急激に曲げモーメントMの負担割合が減少する。その範囲において鉄筋コンクリート梁11は曲げモーメントMの変化率に応じた大きなせん断力Qを負担することとなる。
【0028】
これに対して
図4(b)は、本発明による複合構造梁10の構造例を示している。同図に示したように、鉄骨梁21の材端部に柱1A内を通過するように連結プレート15が設置されている場合には、鉄骨梁21の埋め込み部において、作用曲げモーメントMの一部が鉄骨Sおよび連結プレート15によって負担されるため、鉄筋コンクリート梁11の負担する曲げモーメントMの変化率、せん断力Qを相対的に小さくすることができる。その結果、材端部鉄筋コンクリート梁11の断面積を小さくでき、プレキャストコンクリート部材とした場合には、その部材質量の軽量化により運搬、設置等の省力化を図ることができる。せん断補強筋量を減らすことも可能である。また、鉄筋コンクリート梁11の圧縮側に部分的に支圧プレート25を設置することにより、複合構造梁10内で連結プレート15が負担する引張力と釣り合う圧縮力を支圧プレート25が負担することができる。
【0029】
図5,
図6は、第3,第4実施形態として、鉄骨梁21の材端部の上下のフランジ21U,21Lに取り付けられた連結プレート15,16と、鉄骨梁21の終端部に取り付けられた支圧プレート25,26,27の取付状態を示している。
図5は、鉄骨梁21の上下のフランジ21U,21Lにそれぞれ連結プレート15,16が取り付けられ、さらに鉄骨梁21の終端部のフランジ21U,21Lの内面側とウェブ21w側面とに2枚の支圧プレート25,26が取り付けられた状態を示している。この取付態様によれば、正負交番の曲げモーメントが作用した際に、支圧プレート25,26がそれぞれ梁軸方向の圧縮力の一部を負担するので、連結プレート15,16に作用する圧縮力が減り、座屈しにくくなるという力学的効果が期待できる。また
図6は、支圧プレート27で鉄骨梁21の終端部を完全に閉塞するようにした実施形態を示している。本発明では鉄骨梁21の上下フランジに連結プレート15,16が取り付けられていることにより、鉄骨梁21の終端部でのコンクリートのひび割れ発生が誘発されにくくなっている。このため、終端部全面を塞ぐような支圧プレート27を設置することも可能である。これにより支圧プレートの製作、取り付けを容易にすることができる。
【0030】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1,1A,1B 鉄筋コンクリート柱
2 柱梁接合部
10 複合構造梁
11 材端部鉄筋コンクリート梁
15,16 連結プレート
17 固定ボルト
21 鉄骨梁
21U,21L フランジ
25,26,27 支圧プレート