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特開2024-169263ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169263
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241128BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241128BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CEX
B29C55/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133669
(22)【出願日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】63/468,543
(32)【優先日】2023-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】112121004
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】202310658893.8
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ウェン、シャン-ニー
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チア-イン
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
4F210
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB01
2H149AB26
2H149BA02
2H149FA03W
2H149FD02
2H149FD17
2H149FD23
2H149FD28
2H149FD31
2H149FD35
2H149FD47
4F071AA30
4F071AA81
4F071AB17
4F071AC05
4F071AE04
4F071AE19
4F071AF02Y
4F071AF20Y
4F071AF29Y
4F071AF61Y
4F071AG28
4F071AG34
4F071AH12
4F071AH16
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BB07
4F071BC01
4F210AA19
4F210AG01
4F210AH73
4F210AR06
4F210AR12
4F210AR20
4F210QA02
4F210QA03
4F210QA10
4F210QC06
4F210QD01
4F210QD06
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG18
4F210QL16
4F210QM15
4F210QW17
4F210QW50
(57)【要約】
【課題】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムを提供する。
【解決手段】本発明は、ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムに関し、前記ポリビニルアルコールフィルムはケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、55℃の4wt%ホウ酸水溶液に1分間浸漬して得られた前記ポリビニルアルコールフィルムの面積膨潤度は17.0~38.0%で、水中での前記ポリビニルアルコールフィルムの30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃である。本発明のポリビニルアルコールフィルムからなる光学フィルムは、良好な偏光性及び低い偏光低下値という特性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、55℃の4wt%ホウ酸水溶液に1分間浸漬して得られた面積膨潤度は17.0~38.0%であり、水中の30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃である、ポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
前記面積膨潤度は、17.5~35.0%、変曲点温度は37.8~38.5℃である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
55℃の4wt%ホウ酸溶液に1分間浸漬して得られた前記ポリビニルアルコールフィルムのTD(Transverse Direction)方向の膨潤度は、9.0~18.0%であり、MD(Machine Direction)方向の膨潤度は7.5~18.0%である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
前記TD方向の膨潤度は、9.0~16.50%、前記MD方向の膨潤度は8.0~16.0%である、請求項3に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
前記TD方向の膨潤度と前記MD方向の膨潤度との差の絶対値は、5%以下である、請求項3に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
前記TD方向の膨潤度とMD方向の膨潤度との比は、0.9~1.7である、請求項3に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
前記TD方向の膨潤度とMD方向の膨潤度との比は、0.95~1.60である、請求項5に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコールフィルムの平均重合度は、1500~3500である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコールフィルムの平均重合度は、2000~3500である、請求項8に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項10】
前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さは、30~75μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルム。
【請求項12】
偏光フィルムである請求項11に記載の光学フィルム。
【請求項13】
前記偏光フィルムの偏光度は、99.99%以上である、請求項12に記載の光学フィルム。
【請求項14】
前記偏光フィルムが80℃で500時間熱処理され、その偏光度の低下値は、0.01%以下である、請求項12に記載の光学フィルム。
【請求項15】
前記偏光フィルムが80℃で500時間熱処理され、その面積収縮率は、2%以下である、請求項12に記載の光学フィルム。
【請求項16】
前記偏光フィルムが80℃で500時間熱処理され、そのTD方向の収縮率及びMD方向の収縮率は、いずれも1%以下である、請求項12に記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)製品に関し、特に、ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムに関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)フィルムは、ポリビニルアルコール高分子と可塑剤を含む水溶液から塗布、乾燥されて得られた親水性材料で、高透明度、機械的強度、水溶性、良好な加工性等の特性を備えているため、包装材料又は電子機器の各種光学フィルム、例えば偏光フィルムに広く使用されている。
【0003】
ポリビニルアルコールフィルムを偏光工程で加工して得られた偏光フィルムは、特定の方向からの光だけを通さない性質を持つため、通過する光の明さを制御することができる。この性質に基づいて、偏光フィルムは各種ティスプレイ、メガネ及びウェアラブル端末に応用され、欠かせない部品となっている。偏光工程とは、一般に、膨潤、延伸、及び染色などの工程を含み、具体的に言えば、ポリビニルアルコールフィルムを溶液中に入れて前述の工程を実施することにより、染料分子をポリビニルアルコールフィルム中の分子内に拡散させ、延伸により比較的規則的な配列が得られ、偏光フィルムは配列方向に平行な光成分を吸収し、垂直方向の光成分を通過して偏光の性質を生じることができるようにする。
【0004】
偏光フィルムは、適切な光学特性(例えば高い偏光度および低い偏光度低下値)、を有していなければならない。このため、先行技術ではポリビニルアルコールの構造を変化させるか、官能基を加えて光学特性を改善している。特許文献1などの先行技術は、偏光フィルム製造時総ネッキング率(A)、延伸工程におけるネッキング率(B)、乾燥工程におけるネッキング率(C)を同時制御し、偏光性能に優れ、収縮応力が小さい偏光フィルムを提供する。総ネッキング率(A)を制御することで偏光性能及び歩留まりの低下を抑制し、延伸工程におけるネッキング率(B)と乾燥工程におけるネッキング率(C)を適切に制御することで偏光性能に優れ、収縮応力が小さい偏光フィルムを製造できる。
【0005】
なお、特許文献2などの先行技術に開示された偏光フィルムは、高温高湿下での偏光フィルムの偏光度の低下を抑制するため、保護層として染色されたセルローストリアセテートフィルムを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】台湾特許公開第202231448号
【特許文献2】台湾特許公開第202212872号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術において、ポリビニルアルコールフィルムを使って光学フィルムを製造する場合、長期間の使用により偏光度が著しく低下する状況が一般的によく目にするものである。これに関して、本発明者らは、ポリビニルアルコールフィルムを特定の温度、時間及び濃度のホウ酸溶液に浸漬して特定の範囲の表面膨潤を有し、特定の温度範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が特定の範囲であるように調整することにより、製造される偏光フィルムは優れた偏光度を有し、長期間使用後の光学フィルムの偏光度低下の問題を改善することができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、本発明の一態様は、ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、55℃の4wt%ホウ酸水溶液に1分間浸漬して得られた面積膨潤度は17.0~38.0%であり、水中の30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃であるポリビニルアルコールフィルムを提供する。
【0009】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムは、17.5~35.0%の面積膨潤度、37.8~38.5℃の変曲点温度を有する。
【0010】
一又は複数の実施形態において、55℃の4wt%ホウ酸溶液に1分間浸漬して得られた前記ポリビニルアルコールフィルムのTD(Transverse Direction)方向の膨潤度は、9.0~18.0%であり、MD(Machine Direction)方向の膨潤度は7.5~18.0%である。
【0011】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度は、9.0~16.50%、前記MD方向の膨潤度は8.0~16.0%である。
【0012】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度と前記MD方向の膨潤度との差の絶対値は、5%以下である。
【0013】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度とMD方向の膨潤度との比は、0.9~1.7である。
【0014】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度とMD方向の膨潤度との比は、0.95~1.60である。
【0015】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムの平均重合度は、1500~3500である。
【0016】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムの平均重合度は、2000~3500である。
【0017】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さは、30~75μmである。
【0018】
本発明の別の態様は、上記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供する。
【0019】
一又は複数の実施形態において、前記光学フィルムは、偏光フィルムである。
【0020】
一又は複数の実施形態において、前記偏光フィルムの偏光度は、99.99%以上である。
【0021】
一又は複数の実施形態において、前記偏光フィルムが80℃で500時間熱処理され、その偏光度の低下値は、0.01%以下である。
【0022】
一又は複数の実施形態において、前記偏光フィルムが80℃で500時間熱処理され、その面積収縮率は、2%以下である。
【0023】
一又は複数の実施形態において、前記偏光フィルムが80℃で500時間熱処理され、そのTD方向の収縮率及びMD方向の収縮率は、いずれも1%以下である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリビニルアルコールフィルムは、様々な用途の使用に適することができるが、特に偏光フィルムなどの光学フィルムの製造に好適である。本発明の技術内容により得られるポリビニルアルコールフィルムを用いて製造された偏光フィルムは、優れた偏光度を有し、長期間使用後の偏光度低下状況を改善することができる。
【0025】
なお、本発明者らは、本発明のポリビニルアルコールフィルムを、特定の温度、時間及び濃度のホウ酸溶液に浸漬し、特定の範囲の膨潤度を有するように制御すると、改善された収縮を有する光学フィルムが製造され得、さらに前記ポリビニルアルコールフィルムが特定範囲のTD膨潤度及び特定範囲のMD膨潤度を有する場合、ポリビニルアルコールフィルムによって製造された光学フィルムは対応する方向において改良された収縮率を有することを見出した。これにより、本発明は、高温環境下での長期間の使用による光学フィルムの角隅部の反りを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態による水中で分析した温度変化に伴うポリビニルアルコールフィルムの貯蔵弾性率(E’)のグラフである。
図2】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの変曲点温度を分析するためのサンプル製造方法を示す概略図である。
図3】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの変曲点温度を分析するためのサンプル製造方法を示す概略図である。
図4】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの変曲点温度を分析するためのサンプル製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の説明をより詳細かつ完全にするため、以下は、本発明の実施形態及び具体的実施例の例示的な説明を提供するが、これは、本発明の具体的実施例を実施又は運用する唯一の形態ではない。本明細書及び添付される特許請求の範囲において、文脈が別段の指示をしない限り、「一」及び「該」も複数形として解釈され得る。
【0028】
本発明を特定する数値範囲及びパラメータは、概数値であるが、ここで具体的実施例内の関連数値をできる限り正確に提示されている。ただし、任意の数値は、本質的に個々のテスト方法による標準偏差が必然的に含まれている。本明細書で述べる場合、「約」という用語は、実際値が平均の許容可能な標準誤差内にあり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者の考えによって定めることを示す。
【0029】
[ポリビニルアルコールフィルム]
本発明の一態様は、ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、55℃の4wt%ホウ酸水溶液に1分間浸漬して得られた面積膨潤度は17.0~38.0%で、水中の30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃であるポリビニルアルコールフィルムを提供する。いくつかの実施形態によれば、本発明のポリビニルアルコールフィルムの厚さは、30~75μmである。具体的には、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば30μm、35μm、40μm、45μm、50μm、55μm、60μm、65μm、70μm、75μmであり、前記の値は単なる例であるが限定するものではない。
【0030】
本明細書で述べる「膨潤度」には、ポリビニルアルコールフィルムの「面積膨潤度」、「TD方向(Transverse Direction)の膨潤度(以下、TD方向の膨潤度という)、及び「MD方向(Machine Direction)膨潤度(以下、MD方向の膨潤度という)」が含まれる。本明細書で述べる「55℃の4wt%ホウ酸水溶液に1分間浸漬して得られた面積膨潤度(以下、面積膨潤度という)」は、ポリビニルアルコールフィルムを55℃の4wt%ホウ酸溶液に1分間浸漬した後、ポリビニルアルコールフィルムの面積変化量を計算して得られるものである。
【0031】
ポリビニルアルコールフィルムは、結晶領域と非晶質領域とを有する。ポリビニルアルコールフィルムをホウ酸溶液に浸漬すると、ホウ酸を含む水溶液がフィルムの非晶質領域に入り込み、結晶の一部を溶解し、溶液中のホウ酸もさらに分子を架橋する。本発明者らは、前記面積膨潤度の数値範囲が、その後製造した光学フィルムの偏光度、偏光度低下状況及び光学フィルムの収縮率に関係することを見出した。おそらく、より多くの結晶が溶解すると、ホウ酸との結合の数が増加し、分子間構造がより安定になる。結晶部分が溶解すると、溶解部位の鎖セグメントが比較的秩序あり配列され、自由に移動して鎖セグメント間の距離を変化でき、ホウ酸結合に適した位置がより多く生成されることができると考えられる。自体が非晶質である鎖セグメントは、その間隔が不定で配列が乱れているため、ホウ酸と結合する位置が少なくなる。このように、前記ポリビニルアルコールフィルムの膨潤度が低すぎると、溶解された結晶が少なくなり、ホウ酸で架橋できる鎖セグメントの数及び領域も少なくなることで、分子間構造が不安定になり、分子間構造は受熱して変化しやすいため、その後の光学フィルムの偏光度の低下につながり、ならびに面内の収縮を起こして偏光フィルムを変形させやすくなることを示している。一方、膨潤度が高すぎると、ポリビニルアルコールフィルム中の結晶が容易に溶解されすぎて、ポリビニルアルコールフィルムの結晶量が不足となり、フィルムの物理的強度が低下し、フィルムが破れやすくなる。
【0032】
したがって、ポリビニルアルコールフィルムに安定な分子間構造及び良好な物理的強度を両立させるため、前記面積膨潤度を特定の範囲に制御する必要がある。具体的には、55℃の4wt%ホウ酸水溶液に1分間浸漬して得られた面積膨潤度は17.0~38.0%であり、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば17.0%、17.5%、18.0%、18.5%、19.0%、19.5%、20.0%、20.5%、21.0%、21.5%、22.0%、22.5%、23.0%、23.5%、24.%0、24.5%、25.0%、25.5%、26.0%、26.5%、27.0%、27.5%、28.0%、28.5%、29.0%、29.5%、30.0%、30.5%、31.0%、31.5%、32.0%、32.5%、33.0%、33.5%、34.0%、34.5%、35.0%、35.5%、36.0%、36.5%、37.0%、37.5%、又は38.0%であり、好ましくは、前記ポリビニルアルコールフィルムの面積膨潤度は17.5~35.0%又は35%である。
【0033】
本明細書で述べる「弾性率」とは、材料力学における応力とひずみの関係を解析するために用いられる物理的特性で、応力とひずみの比である。材料にかかる応力が垂直抗力の場合に得られる弾性率はEで表される。「貯蔵弾性率(E’)」は、材料が加えられたエネルギーを吸収して変換され、材料内部に保存する成分であり、通常、変形を回復し、材料の元の外観を維持するために使用され、材料の弾性特性に関係しており、材料の剛性も反映することができる。分子の観点からは、貯蔵弾性率(E’)が大きいほど分子間力が強くなる。
【0034】
本明細書で述べる「水中での30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度(以下、E’変曲点温度と略称する)」は、ポリビニルアルコールフィルムを水に浸漬し、昇温方法でポリビニルアルコールフィルムのE’変化を測定することで得られるものである。フィルムに大量の水分が吸収された後、ポリビニルアルコールの分子鎖が膨潤して分子鎖が離れ、分子鎖間の絡み合いが減少し、このとき貯蔵弾性率(E’)の応答はフィルム内の結晶化の影響をより大きく受け応答性がより大きくなるため、水に浸したポリビニルアルコールの貯蔵弾性率(E’)分析は、異なる温度でのフィルム内の結晶化度の変化を評価するために用いられることができる。さらに、水中でのポリビニルアルコールフィルムの分析は、温度に応じた貯蔵弾性率(E’)の変化曲線が図1に示す特徴を持ち、30℃~55℃の間の変化曲線には2つの異なる傾きがあり、前記2つの傾きの接線交点がE’変曲点であり、対応する温度がE’変曲点温度である(図1の矢印で示す箇所)。
【0035】
本発明者らは、E’変曲点温度で表される物理的意味には、ポリビニルアルコールフィルム中の結晶が大量に溶解し始める温度が含まれ、E’変曲点温度が高いほど、フィルム中の平均結晶粒子が大きいことを示すため、比較的高温でのみ大量の結晶溶解が起こることを見出した。特定の理論にも拘束されないが、おそらく、結晶粒度を適切な範囲に制御すると、ポリビニルアルコールフィルムはホウ酸による架橋に最適な結晶溶解量及び領域を有し、前記ポリビニルアルコールフィルムから作られる光学フィルム(偏光フィルムなど)は、高温かつ長期間の使用でも偏光度が低下しにくい効果を有する。
【0036】
したがって、上記の効果を得るため、E’変曲点温度を特定の範囲に制御する必要があり、具体的には水中での本発明のポリビニルアルコールフィルムの30℃~55℃範囲(偏光フィルムの製造工程における初回延伸の温度範囲)における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃であり、例えば37℃、37.1℃、37.3℃、37.5℃、37.7℃、37.9℃、38℃、38.1℃、38.3℃、38.5℃、38.7℃、38.9℃、39℃、39.1℃、39.3℃、39.5℃、39.7℃、39.9℃又は40℃であるが、これらに限定されない。好ましくは、前記ポリビニルアルコールフィルムのE’変曲点温度は、37.8~38.5℃であり、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば37.8℃、37.9℃、38.0℃、38.1℃、38.2℃、38.3℃、38.4℃又は38.5℃である。測定温度が55℃を超えると、ポリビニルアルコールフィルムの結晶化が完全に消失し、物性が急激に変化する可能性があるため、変曲点温度を分析する場合、設定する分析温度範囲は55℃を超えないようにする。
【0037】
また、前記E’変曲点温度の測定方法については、ポリエチレンフィルムは水分(空気中の水分も含む)を吸収して、その結晶形態等の状態に影響を与える可能性があるため、ポリエチレンフィルムのE’変曲点温度を測定する前、前処理により測定対象となる各ポリエチレンフィルムの含水率を同じに調整することで、測定対象となる各ポリエチレンフィルムの状態を同じさせることができる。含水率は、通常約8~9wt%に調整することができるが、本明細書においてこれに限定されるものではない。
【0038】
本明細書で述べる「ケン化度」とは、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、95モル%以上であり、例えば95モル%以上、95.5モル%以上、96モル%以上、96.5モル%以上、97モル%以上、97.5モル%以上、98モル%以上、98.5モル%以上、99モル%以上又は99.5モル%以上である。本発明の一実施形態によれば、本発明のポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、99.90モル%を超え、例えば99.90モル%超、99.92モル%超、99.94モル%超、99.96モル%超又は99.98モル%超であり、好ましくは、該ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、99.95モル%以上であり、例えば、99.95モル%以上、99.97モル%以上、又は99.99モル%以上であり、より好ましくは、該ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、99.97モル%以上であり、例えば99.97モル%以上、99.98モル%以上、又は99.99モル%以上である。
【0039】
本明細書で述べる「55℃の4wt%ホウ酸水溶液に1分間浸漬して得られたTD方向の膨潤度(以下、TD方向の膨潤度という)及びMD方向の膨潤度(以下、MD方向の膨潤度という)」は、ポリビニルアルコールフィルムを55℃の4wt%ホウ酸溶液に1分間浸漬した後、ポリビニルアルコールフィルムのTD方向及びMD方向に沿った長さの変化量をそれぞれ計算して得られたものである。ここで、TD方向は横方向とも呼ばれ、MD方向は機械方向とも呼ばれる。特定の理論に拘束されることなく、ポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度及びMD方向の膨潤度をそれぞれ特定の範囲に制御すると、その後の光学フィルムのTD方向及びMD方向の収縮率を下げることができるため、ディスプレイに貼り付けられた光学フィルムは、高温かつ長期間使用下での光学フィルムの角隅部の反りを避けることができる。
【0040】
したがって、上記の効果を得るため、本発明のポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度は9.0~18.0%であり、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%、16.0%、16.5%、17.0、17.5%又は18.0%であり、より好ましくは、前記ポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度は、9.0~16.5%である。前記ポリビニルアルコールフィルムのMD方向の膨潤度は、7.5~16.0%であり、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値のように例えば7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%又は16.0%であり、より好ましくは前記ポリビニルアルコールフィルムのMD方向の膨潤度は8.0~16.0%である。
【0041】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度とMD方向の膨潤度との差の絶対値は5%以下、例えば5%以下、4.5%以下、4%以下、3.5%以下、3%以下、2.5%以下、2%以下、1.5%以下、1%以下又は0.5%以下である。
【0042】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度とMD方向の膨潤度との比は、0.95~1.60であり、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値のように例えば0.95、1.00、1.05、1.10、1.15、1.20、1.25、1.30、1.35、1.40、1.45、1.50、1.55又は1.60である。
【0043】
特定の理論に拘束されることなく、上記TD方向の膨潤度とMD方向の膨潤度との差の絶対値或いは比が大きすぎると、その後製造される前記ポリビニルアルコールフィルムを含むディスプレイにおいては、偏光フィルムと保護層又は偏光フィルムとガラスの剥離現象が生じて前記ディスプレイの劣化という問題が発生する可能性がある。
【0044】
本明細書で述べる「平均重合度」は、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムの平均重合度は、1500~3500であり、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値のように例えば1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400又は3500であり、好ましくは、前記ポリビニルアルコールフィルムの平均重合度は2000~3500である。
【0045】
本発明者らは、特定の理論に拘束されるものではないが、上記面積膨潤度、E’変曲点温度、TD方向の膨潤度及びMD方向の膨潤度はポリビニルアルコールフィルムの樹脂原料の平均重合度の調整により制御されることができるほか、製造方法における原料の溶解温度及び時間、50℃を超える温度での総乾燥時間及びポリビニルアルコールフィルムにおけるポリビニルアルコール高分子の分子配向を調整することによっても制御することができるが、これに限定されるものではないことを見出した。
【0046】
[ポリビニルアルコールフィルムの製造方法]
本発明のポリビニルアルコールフィルムの製造方法は、(a)ポリビニルアルコール系樹脂を加熱溶解し、前記ポリビニルアルコール系樹脂の濃度を調整して、ポリビニルアルコール流延溶液を形成する溶解工程、(b)前記ポリビニルアルコール流延溶液をキャストドラムに流延し、前記キャストドラムから剥離した後、予備成形フィルムを得る流延工程、(c)前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムを複数の加熱ローラと接触させた後でポリビニルアルコールフィルム半成形品を得る加熱ローラ工程、及び(d)前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品をオーブン内に入れて乾燥させた後、ポリビニルアルコールフィルム成形品を得るオーブン工程、及び(e)前記ポリビニルアルコールフィルム成形品を温湿度調節器に入れて、温度と湿度を調整してポリビニルアルコールフィルムを得る温湿度調整工程を含む。ここで、上記加熱ローラ及びオーブン工程において、50℃を超える温度での総乾燥時間を10~20分に制御する。
【0047】
[溶解工程]
いくつかの実施形態によれば、溶解工程は、ポリビニルアルコール系樹脂、溶媒、可塑剤などを攪拌しながら温度を130~165℃に上げ、1~5時間溶解させ、樹脂を適切な濃度に調整することで、ポリビニルアルコール流延溶液を得る。前記樹脂の適切な濃度は約20wt%~50wt%であり、例えば20、30、40又は50wt%であり、樹脂濃度が低すぎると、その後のフィルムの乾燥負荷が高くなり、逆に樹脂濃度が高すぎると粘度が高くなりすぎ、製膜が困難になる。
【0048】
一又は複数の実施形態において、前記溶解工程で使用されるポリビニルアルコール樹脂は、ビニルエステル系樹脂モノマーによって重合され、平均重合度1500~3500のポリビニルアルコール系樹脂が形成されてからケン化反応を実施して、95%を超えるケン化度を有するポリビニルアルコール樹脂を得る。おそらく、平均重合度は、水中でのポリビニルアルコール分子の溶解と伸長に影響を及ぼすことで、ポリビニルアルコールフィルム成形品の結晶粒子及び結晶化度に影響を与える。重合度が大きいほど、ポリビニルアルコールフィルム成形品の結晶粒子が大きくなり、結晶化度が高くなるが、重合度が高すぎると結晶粒子が大きくなりすぎ、E’変曲点温度に影響を与えるほか、重合度が低すぎると、E’変曲点が低くなりすぎ、フィルムの機械的強度も低くなりすぎる。
【0049】
前記ビニルエステル系樹脂モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル又はオクト酸ビニル等のビニルエステル類、或いはこれらの組み合わせが挙げられ、本発明において、これに限定されない。好ましくは酢酸ビニルの使用である。なお、前記ビニルエステル系樹脂モノマーは、オレフィン類化合物又はアクリル酸エステル誘導体を添加して共重合させて変性することもできる。ここで、前記オレフィン類化合物としては、エチレン、プロピレン又はブテンなどが挙げられ、本発明において、これに限定されない。前記オレフィン類化合物の添加量は、2~4モル%、例えば2モル%、2.5モル%、3モル%、3.5モル%又は4モル%などであり得るが、これらに限定されない。前記アクリレート誘導体としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸n-ブチルなどが挙げられ、本発明において、これに限定されない。
【0050】
一又は複数の実施形態において、上記溶解工程で使用される溶媒は、ポリビニルアルコール樹脂を溶解できる限り、本発明において、特に限定されない。溶媒として、例えば水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが挙げられるが、これらに限定されなく、上記の溶媒は、1種を単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。環境及び経済的側面を考慮した場合、本発明において溶媒として水を使用することが好ましい。
【0051】
一又は複数の実施形態において、本明細書で述べる「可塑剤」は、具体的にグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセロール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンなど、或いはこれらの組み合わせであるがこれらに限定されない。本発明において、好ましくはグリセリンである。また一又は複数の実施形態において、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して前記可塑剤の添加量は5~15wt%であり、具体的に例えば5wt%、6wt%、7wt%、8wt%、9wt%、10wt%、11wt%、12wt%、13wt%、14wt%及び15wt%であるがこれらに限定されない。好ましい実施形態において、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して前記可塑剤の添加量は10wt%である。
【0052】
上記可塑剤以外に、溶解工程において必要に応じて、界面活性剤等を含むがこれらに限定されない他の添加剤をさらに添加してもよい。界面活性剤は、陽イオン性、陰イオン性又は非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されず、具体的にはラウリン酸カリウムなどのカルボン酸塩型、ラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸塩型、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリチレングリコールモノオクチルフェニルエーテルなどのアルコールフェニルエーテル型、モノラウリン酸ポリエチレングリコールなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウラミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型、又はラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル硫酸ナトリウムなどであるがこれらに限定されない。
【0053】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を溶解する温度は、130~165℃であることが好ましく、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、具体的に例えば130℃、135℃、140℃、145℃、150℃、155℃、160℃又は165℃である。おそらく、溶解温度はポリビニルアルコール樹脂の溶解や添加剤の分散に影響を与える。溶解温度が高いほど、ポリビニルアルコール樹脂の溶解と添加剤の分散効果が良好となり、形成されるポリビニルアルコールフィルムの結晶粒子が小さくなり、結晶化度が低くなるが、該溶解温度が高すぎると、形成されたポリビニルアルコールフィルムが局部的に黄変する場合がある。逆に、特定の理論に拘束されるものではないが、該溶解温度が低すぎると、ポリビニルアルコール樹脂の溶解と添加剤の分散効果が悪く、形成されたポリビニルアルコールフィルムの結晶粒子が比較的大きくなるため、ポリビニルアルコールフィルムのE’変曲点温度が高くなりすぎる。
【0054】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液之時間を溶解する時間は、1~5時間であることが好ましく、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値ように具体的に例えば1時間、2時間、3時間、4時間又は5時間である。おそらく、該溶解時間はポリビニルアルコール樹脂の溶解と添加剤の分散に影響を与える。該溶解時間が長いほど、ポリビニルアルコール樹脂の溶解と添加剤の分散が良好となり、ポリビニルアルコールフィルムの結晶粒子が小さくなり、結晶化度が低くなる。逆に、特定の理論に拘束されるものではないが、該溶解時間が短すぎると、ポリビニルアルコール樹脂の溶解と添加剤の分散効果が悪く、形成されたポリビニルアルコールフィルムの結晶粒子が比較的大きくなるため、ポリビニルアルコールフィルムのE’変曲点温度が高くなりすぎる。
【0055】
[流延工程]
いくつかの実施形態によれば、流延工程は、主に前記ポリビニルアルコール流延溶液をダブルスクリュー押出機に送り、押出機で再び均一に混合され、脱泡(例えばダブルスクリュー押出機で脱泡することがこれに限定されない)された後、Tダイリップから吐出し、回転する高温キャストドラム(流延ドラムとも呼ばれる)、エンドレスベルトなどの支持体としてのキャストドラムに流延して製膜して、ポリビニルアルコール予備成形フィルムを得る。一又は複数の実施形態において、流延工程では、ポリビニルアルコール流延溶液輸送時の送り温度は、好ましくは少なくとも90℃以上(例えば90℃、91℃、92℃、93℃、94℃、95℃、96℃、97℃、98℃又は99℃であるが、これらに限定されない)である。なお、押出機で再び均一に混合され、脱泡された後のポリビニルアルコール流延溶液も少なくとも90℃以上(例えば90℃、91℃、92℃、93℃、94℃、95℃、96℃、97℃又は98℃であるが、これらに限定されない)に制御しなければならない。
【0056】
一又は複数の実施形態において、ポリビニルアルコール流延溶液を回転する高温キャストドラム時に流延する際、前記キャストドラムの温度は85~95℃であることが好ましく、ポリビニルアルコールがキャストドラムに滞留する時間は、0.6~1.2分であることが好ましい。
【0057】
[加熱ローラ工程]
いくつかの実施形態によれば、加熱ローラ工程は、主にキャストドラムから剥離した前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムの上面と下面を複数の加熱ローラで接触乾燥させた後、ポリビニルアルコールフィルム半成形品を得る。複数の加熱ローラ(例えば13~19本の加熱ローラ)の温度は、高いものから低いものへと徐々に逓減し、最初の加熱ローラが全ての加熱ローラの中で温度が最も高いローラ(例えば90~99℃であるがこれに限定されなく、具体的には例えば90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99℃であるが、これらに限定されない)であり、最後の加熱ローラの温度が全ての加熱ローラの中で最も低い(例えば25~40℃であるがこれに限定されなく、具体的には例えば25、30、35又は40℃であるが、これらに限定されない)
【0058】
[オーブン工程]
いくつかの実施形態によれば、オーブン工程は、主にオーブンで加熱ローラから剥離した前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品の上面と下面を乾燥(例えば熱風や赤外線で乾燥することであるが、これらに限定されない)させることで、ポリビニルアルコールフィルム成形品を得ることである。一又は複数の実施形態において、前記オーブンは、好ましくはフローティングオーブンを用い、温度は100℃~120℃の範囲(例えば100℃、105℃、110℃、115℃又は120℃であり、好ましくは110℃である)に制御される。
【0059】
一又は複数の実施形態において、上記加熱ローラ工程及びオーブン工程では、50℃を超える温度での総乾燥時間は、10~20分(例えば10分、15分又は20分)である。 おそらく、前記50℃を超える温度での総乾燥時間は、ポリビニルアルコールフィルムの面積膨潤度、TD方向の膨潤度、MD方向の膨潤度及びE’変曲点温度に影響を与える。いかなる理論にも拘束されないが、おそらく、含水率が2wt%の場合、ポリビニルアルコールフィルム成形品のガラス転移温度は40~50℃であるため、乾燥温度が50℃を超えるとポリマー鎖が狭い範囲で自由に動けるようになる。したがって、前記総乾燥時間が長いほど、結晶粒子が大きくなり結晶化度が高くなり、逆に前記総乾燥時間が短いほど、結晶粒子が小さくなり結晶化度が低くなることで、ポリビニルアルコールフィルムの膨潤度及びE’変曲点温度に影響を与える。
【0060】
[温湿度調整工程]
本発明の好ましい実施態様によれば、前記ポリビニルアルコールフィルム成形品は、上記工程を終えた後、さらに温湿度調節器に入れて温度と湿度を調整することができる。
【0061】
一又は複数の実施形態において、前記温湿度調節器の温度は、35~45℃の範囲であり、具体的には下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値のように例えば35℃、40℃又は45℃で、45℃であることが好ましい。一又は複数の実施形態において、前記温湿度調節器の相対湿度は、40~60%の範囲であることが好ましい、具体的には下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば40%、45%、50%、55%又は60%で、50%であることが好ましい。一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムを前記温湿度調節器に静置する時間は例えば20分、25分、30分、35分又は40分で、20~40分の範囲であることが好ましい。一又は複数の実施形態において、例えば前記ポリビニルアルコールフィルムを温度45℃、相対湿度50%の温湿度調節器内に30分間置かれる。
【0062】
なお、本発明の好ましい実施態様によれば、オーブン工程において、フィルムの両側をさらにクランプで挟持し、TD方向の引っ張り力を別途加えてTD方向におけるフィルムの寸法を維持することで、フィルムの分子配向を調整できる。ポリビニルアルコールフィルムは、一般的にMD方向に延伸され、ポリビニルアルコールポリマーはMD方向に沿って配向しやすいため、フィルムにTD方向に力を別途加えた後、ポリビニルアルコールポリマーの配向のバランスを保つことで、両方向の膨潤度の差を小さくすることができる。
【0063】
[光学フィルム]
本発明の別の目的は、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供することである。本明細書で述べる「光学フィルム」は、偏光フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム或いは輝度上昇フィルムなどであり得、特に偏光フィルムである。
【0064】
本明細書で述べる「偏光度」は、JIS Z 8722規格に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。一又は複数の実施形態において、本発明の偏光フィルムの偏光度は、99.99%以上であり、例えば99.990%以上、99.992%以上、99.994%以上、99.996%以上、99.998%以上である。
【0065】
一又は複数の実施形態において、前記偏光フィルムが80℃で500時間熱処理され、その偏光度の低下値は、0.01%以下であり、例えば0.010%以下、0.009%以下、0.008%以下、0.007%以下、0.006%以下又は0.005%以下である。
【0066】
一又は複数の実施形態において、前記偏光フィルムが80℃で500時間熱処理され、その面積収縮率は、2%以下であり、例えば2%以下、1.9%以下、1.8%以下、1.7%以下、1.6%以下、1.5%以下、1.4%以下である。
【0067】
一又は複数の実施形態において、前記偏光フィルムが80℃で500時間熱処理され、そのTD方向の収縮率及びMD方向の収縮率は、いずれも1%以下であり、例えばいずれも1%以下、いずれも0.95%以下、いずれも0.90%以下、いずれも0.85%以下、いずれも0.80%以下、いずれも0.75%以下である。
【0068】
[光学フィルムの製造方法]
いくつかの実施形態によれば、本発明の「光学フィルムの製造方法」は、偏光フィルムの製造方法を指し、さらにポリビニルアルコールフィルムを偏光フィルムに製造する。前記偏光フィルムの製造方法は、ヨウ化物イオンを吸着させる染色工程と、ホウ酸処理工程と、水洗工程とを含み、ホウ酸処理工程又はこの前の段階で一軸延伸の延伸工程を実施できる。好ましくは、染色工程の前に、ポリビニルアルコールフィルムを水で膨潤させる膨潤工程を設けることができる。なお、水洗工程の後に通常、最終乾燥工程が設けられる。
【0069】
膨潤工程では、上記ポリビニルアルコールフィルムを、例えば温度30℃~55℃の処理浴(例:純水)に浸漬して、フィルム表面の水洗及び膨潤処理を施す。膨潤処理時間は、通常5~300秒、好ましくは20~240秒である。いくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムを搬送するため、処理浴を収容した膨潤タンク内に複数のガイドローラーが配置される。次に、ポリビニルアルコールフィルムをMD方向に元の長さの1.05~2.5倍に延伸した後、染色工程を実施する。
【0070】
染色工程では、上記膨潤工程を経たポリビニルアルコールフィルムを、染浴を収容した染色タンクに浸漬する。染色処理の条件は、ヨウ素をポリビニルアルコールフィルムに吸着させる範囲内でフィルムに極度の溶解や失透などの不良を起こさない範囲によって決定することができる。染色工程における染浴としては、例えばヨウ素とヨウ化カリウムを含む水溶液が挙げられ、染浴中のヨウ素の濃度は0.01~0.5wt%、ヨウ化カリウムの濃度は0.01~10wt%が好ましい。具体例としては、0.037wt%のヨウ素と1.85wt%のヨウ化カリウムの濃度の水溶液を挙げることができるが、これらに限定されない。また、ヨウ化カリウムの代わりにヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよいし、ヨウ化カリウムに加えて他のヨウ化物を併用してもよい。染浴の温度は通常20~40℃、例えば20、30又は40℃であり、染色処理の時間(染色時間)は通常10~600秒、好ましくは30~200秒である。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの2~4倍に延伸した後、ホウ酸処理及び延伸工程を実施する。
【0071】
ホウ酸処理及び延伸工程では、ヨウ素で染色されたポリビニルアルコールフィルムをホウ酸含有水溶液で処理して架橋し、吸着したヨウ素を樹脂に定着させて実施する。前記工程は通常、染色工程を経たポリビニルアルコールフィルムを、ホウ酸含有処理浴を収容した定着槽に浸漬することにより実施される。前記ホウ酸処理浴は、ホウ酸に加えてヨウ化物を含むことが好ましく、ここで用いられるヨウ化物としては、ヨウ化カリウム又はヨウ化亜鉛などが挙げられ、例えばホウ酸とヨウ化カリウムをそれぞれ5.5wt%の濃度で含む水溶液が挙げられる。なお、ホウ酸処理浴中にヨウ化物以外の化合物、例えば塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が共存していてもよい。ホウ酸処理及び延伸工程は通常、50~70℃、好ましくは温度55℃下で実施され、処理時間は通常、10~600秒、好ましくは20~300秒、より好ましくは20~100秒である。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの3倍以上に延伸して、その後の工程を実施する。延伸倍率の上限は特に限定されないが、例えば8倍未満であることが好ましい。延伸は、3.3倍以上、例えば3.3~8.0倍、より好ましくは3.5~6.0倍、特に好ましくは4.0~5.5倍を含むが、これらに限定されない。
【0072】
ポリビニルアルコールフィルムが上記工程及びその後の水洗工程と乾燥工程にかけられた後、偏光膜を形成した。水洗及び乾燥工程では、フィルム表面に残ったヨウ素溶液及びホウ酸を水又はヨウ化物を含む水溶液(例えば濃度5.5wt%のヨウ化カリウム水溶液などで水洗することであるがこれに限定されない)を用いて洗浄する。次に、乾燥工程(温度60℃のオーブンで5分間乾燥させることであるがこれに限定されない)を経た後、偏光フィルムが形成される。さらに、該偏光膜の少なくとも一方の面に保護層を形成して、偏光膜完成品(偏光子とも呼ばれる)に製造することができる。詳しく言えば、該保護層は、偏光膜の表面の摩耗防止などの機能を有し、透明樹脂を含む構成要素であることが好ましい。異なる実施形態によれば、前記保護層は前記偏光膜の片面のみに設けられるが、前記偏光膜の両面に形成されることが好ましい。前記保護層は、透明樹脂材料の保護フィルムであり得る。透明樹脂は、メタクリル酸メチル系樹脂などのアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂など))、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリイミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂等であり得、三酢酸セルロース(TAC)などのセルロース系樹脂が好ましい。
【実施例0073】
以下では、具体的実施例を参照しつつ本発明を詳細に説明する。しかしながら、これらの具体的実施例は、本発明の理解を助けることを意図し、本発明の範囲を如何ようにも限定することを意図しないことを理解されたい。
【0074】
1.ポリビニルアルコールフィルムの調製
ここで、本発明はポリビニルアルコールフィルムの非限定的な調製方法を提供する。以下に開示される方法と類似の方法で、非限定的な実施例のポリビニルアルコールフィルム(実施例1~12)及び比較例のポリビニルアルコールフィルム(比較例1~5)を調製する。
【0075】
以下は、本実施例及び比較例におけるポリビニルアルコールフィルムを製造に共通する主要工程であり、かつ以下の表1は、本実施例及び比較例の1つ又は複数の工程パラメータの違いを詳細に示す。
【0076】
[溶解工程]
溶解バレルに平均重合度がそれぞれ1500~3500(表1参照)で、ケン化度99.95モル%のポリビニルアルコール樹脂1800kg、水4000kg、可塑剤グリセロール180kgをそれぞれ加え、撹拌しながら溶解温度を130~165℃(表1参照)まで上げ、溶解時間を1~5時間(表1参照)にそれぞれ制御し、均一に溶解した後、水を加えて樹脂濃度を30wt%に調整してポリビニルアルコール流延溶液が得られた。実施例及び比較例におけるポリビニルアルコール樹脂は、酢酸ビニルによって重合され、変性されていない(すなわち、他のコモノマーを含まない)ポリビニルアルコール樹脂である。なお、ポリビニルアルコール樹脂の具体的な平均重合度、溶解温度、及び溶解時間は表1に示されている。
【0077】
[流延工程]
前記ポリビニルアルコール流延溶液をダブルスクリュー押出機に輸送し、押出機で再び均一に混合され、脱泡され、前記流延溶液の温度を98℃に制御してから前記流延溶液をTダイリップから吐出し、回転する高温キャストドラムに流延し、乾燥・製膜し、予備成形フィルムを形成する。
【0078】
[加熱ローラ工程]
前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムをキャストドラムから剥離した後、フィルムの上面と下面を13本の加熱ローラで接触乾燥させ、1本目の加熱ローラは、全ての加熱ローラの中で最も温度が高いローラ(95℃)で、後続の加熱ローラの温度が高温から低温へと徐々に下がり、13本目の加熱ローラの温度が30℃まで下げる。
【0079】
[オーブン工程]
フローティングオーブンで乾燥し、フィルムの上下両面を熱風及び赤外線で乾燥させてポリビニルアルコールフィルム成形品に製造される。別の例において、フローティングオーブンで乾燥させる時、フィルムの両側にクランプをさらに挟持し、TD方向の引っ張り力を加えてTD方向におけるフィルムの寸法を維持する。
【0080】
ここで、上記の流延、熱ローラ及びオーブン工程において、50℃を超える温度での総乾燥時間を制御する(具体的な持続時間は、表1に示す)。
【0081】
[温湿度調整工程]
その後、前記ポリビニルアルコールフィルム成形品を、温度45℃、相対湿度50%の温湿度調節器に30分間入れて、ポリビニルアルコールフィルムを得た。
【0082】
【表1】
【0083】
2.偏光フィルムの調製
ここで、本発明はポリビニルアルコールフィルムから光学フィルムを調製する非限定的な方法、特に偏光フィルムを調製するための非限定的な方法を提供する。以下に開示される方法に従い、非限定的な実施例のポリビニルアルコールフィルム(実施例1~12)及び比較例のポリビニルアルコールフィルム(比較例1~5)を対応する偏光子に調製する。
【0084】
本発明の実施例及び比較例における偏光フィルムの調製に共通する主な工程は以下のとおりである。ポリビニルアルコールフィルムを巻き出した後、30℃の純水を満たした膨潤槽に投入してフィルム表面の水洗及び膨潤処理を施し、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの1.2倍に延伸した後、次に温度を30℃に制御し、0.037wt%ヨウ素と1.85wt%ヨウ化カリウムの濃度の水溶液を含む染色槽に入れて染色すると共にポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの3.4倍に延伸する。染色後、温度を55℃に制御し、ホウ酸とヨウ化カリウムの各々5.5wt%濃度のヨウ化カリウム水溶液を含む延伸槽に入れ、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に沿って元の長さの6倍に延伸した後、フィルム表面に残ったヨウ素水とホウ酸を5.5wt%ヨウ化カリウムを含む水溶液で洗浄する。次に、60℃のオーブンで5分間乾燥させ、上面と下面にセルローストリアセテート保護フィルムを貼り合わせ、乾燥させて偏光フィルムを製造した。
【0085】
3.分析方法
ここで、本発明は、上記実施例1~12及び比較例1~5のポリビニルアルコールフィルムの分析及び試験方法を提供する。
【0086】
<ケン化度>
本発明のケン化度の測定方法は、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法による。
【0087】
<平均重合度>
本発明の重合度の測定方法は、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法による。
【0088】
<膨潤度>
1.試験条件:ポリビニルアルコールフィルムをMD方向10cm×TD方向10cmの正方形のサンプルに切り出し、ロングテールクリップでサンプルの端をガラスと一緒に挟み、55℃濃度4wt%のホウ酸溶液に1分浸漬して膨潤させ、膨潤が完了したら、サンプルとガラスを取り出し、ロングテールクリップを外して膨潤後のサンプルを平らにし、ノギスで膨潤後のMD方向及びTD方向の長さをそれぞれ測定する。
【0089】
2.各方向(MD方向及びTD方向)の膨潤度の計算式は、次のように表される。
【0090】
【数1】
【0091】
3.面積膨潤度の計算式は、次のように表される。
【0092】
【数2】
【0093】
<E’変曲点温度>
1.機器及びそのブランド:TA機器のDMA 850
2.サンプルの作製方法:ポリビニルアルコールフィルムを機械方向(MD)5cm、横方向(TD)5mmの長尺状に切り出し、機械にセットする前にポリビニルアルコールフィルムの含水率を8~9wt%に調整し、ポリビニルアルコールフィルムの状態を一致させる。次に、図2を参照すると、ポリビニルアルコールフィルム2の一端を約1.11gのダブテールクリップ3で固定し、他端を浸漬延伸治具1に挿通し、ポリビニルアルコールフィルム2の一部を上部固定軸1aと下部固定軸1bとの間に配置させ、ダブテールクリップ3の底端3aが浸漬延伸治具1から1cm(図2に示す距離a)離し、ポリビニルアルコールフィルム2の上端2aと該浸漬延伸治具1の上端との間に空間を持たせる。次に、上部固定軸1aを締め付けてポリビニルアルコールフィルム2を固定する。図3を参照すると、純水を満たした100mLビーカー4に、浸漬延伸治具1全体と保持されたポリビニルアルコールフィルム2及びダブテールクリップ3をビーカーの液面が上部固定軸1aに位置するように垂直に入れ、ビーカー4を30℃の恒温水槽(図示せず)で温調し、ポリビニルアルコールフィルム2に荷重(ダブテールクリップ3の重量)を加えて20分間膨潤させる。最後に、図4を参照すると、浸漬延伸治具1をビーカー4から取り出して垂直に保ち、ダブテールクリップ3の自重でポリビニルアルコールフィルム2を引き伸ばし、ポリビニルアルコールフィルム2が中心にあることを確認した後、浸漬延伸治具1の下部固定軸1bを締め付けてから余分なポリビニルアルコールフィルム2c(図4のメッシュ状の部分)を切り取り、サンプルは、浸漬延伸治具1にクランプされた荷重・膨潤を経たポリビニルアルコールフィルム2bである。
【0094】
3.試験条件:上述のサンプルがまだ浸漬・延伸治具に固定されている場合、振動昇温モードを選択し、サンプルとサンプルを保持している浸漬延伸治具1を一緒に脱イオン水で満たされた浸漬槽に入れ、周波数を1Hzに、振幅を200μmに、保圧(force track)を200%に設定し、温度を30℃から65℃まで測定するように設定し、分析前にまず0.15Nの静的力でフィルムを引き伸ばしてから1℃/分の昇温速度で分析し始め、貯蔵弾性率(E’)対温度変化曲線を描く。ここで、熱電対の検出端は水槽の底から5mmの高さに配置される。
【0095】
4.データ処理:貯蔵弾性率(E’)の座標軸を線形座標軸に変換し、機器に付属のソフトウェアに組み込まれたonset分析を使用し、onset分析温度範囲を30~45℃に設定すると、ソフトウェアは変曲点温度を自動入力する。
【0096】
4.評価方法及び結果
ここで、本発明は、実施例及び比較例のポリビニルアルコールフィルムと偏光フィルムの評価方法、及び上述の分析内容との対応付け結果を提供する。
【0097】
<偏光度の評価>
試験条件:偏光フィルムをMD方向4cm×TD方向4cmの正方形のサンプル2枚に切り出し、該2枚の偏光フィルムサンプルをMD方向(すなわち流れ方向)に平行になるように重ね合わせ、分光光度計で波長700ナノメートルの光照射下での光透過率(H11)を測定し、次に該2枚の偏光フィルムサンプルをMD方向に直交するように重ね合わせ、波長700ナノメートルの光照射下での光透過率(H1)を測定し、下記の偏光公式により計算される。
【0098】
【数3】
【0099】
<偏光度低下値の評価>
試験条件:偏光フィルムを80℃のオーブンに入れて500時間熱処理して、偏光度を再測定し、次の式で偏光度低下値を計算する。
【0100】
【数4】
【0101】
さらに、本発明の実施例1~12及び比較例1~5のポリビニルアルコールフィルムの面積膨潤度及びE’変曲点温度を対応する偏光フィルムの偏光度評価及び偏光度低下値の評価とともに表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
表2から分かるように、実施例1~12のポリビニルアルコールフィルムサンプルの面積膨潤度及びE’変曲点温度の分析において、それぞれ測定された面積膨潤度はいずれも17.0~38.0%にあり、E’変曲点温度はいずれも37~40℃にあり、これらポリビニルアルコールフィルムからなる偏光フィルムの偏光度はいずれも99.99%を超え、偏光度低下値はいずれも0.010%以下であることで、優れた偏光度の評価及び偏光度低下値の評価が得られる。その反面、比較例1~5のポリビニルアルコールフィルムサンプルの面積膨潤度及びE’変曲点温度の分析において、測定された面積膨潤度及びE’変曲点温度は同時に上記の特定範囲内に収まることができず、これらポリビニルアルコールフィルムからなる偏光フィルムの偏光度低下値はいずれも0.010%を超えて、偏光度の評価及び偏光度低下値の評価ともに理想的な結果を得ることができない。これに鑑み、55℃の4wt%ホウ酸溶液に1分間浸漬したポリビニルアルコールフィルムの面積膨潤度が17.0~38.0%で、水中でのポリビニルアルコールフィルムの30℃~55℃における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37℃~40℃となるように制御するだけで、製造される偏光フィルムは良好な偏光度を有するだけでなく、偏光度の低下状況も改善することができる。
【0104】
<収縮率の評価>
1.試験条件:偏光フィルムをMD方向10cm×TD方向10cmの正方形のサンプルに切り出し、80℃のオーブンに入れて500時間熱処理し、取り出し後室温に戻してからノギスでMD方向及びTD方向の長さを測定し、下記の収縮率公式でMD方向の収縮率、TD方向の収縮率及び面積収縮率を算出する。
【0105】
2.各方向(MD方向及びTD方向)の収縮率公式は、次のように表される。
【0106】
【数5】
【0107】
3.面積収縮率公式は、次のように表される。
【0108】
【数6】
【0109】
さらに、本発明の実施例1~12及び比較例1~5のポリビニルアルコールフィルムのTD方向の膨潤度、MD方向の膨潤度、膨潤度の差及び膨潤度の比(TD/MD)を対応する偏光フィルムの面積収縮率、TD方向の収縮率、及びびMD方向の収縮率とともに表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
表3から分かるように、実施例1~12のポリビニルアルコールフィルムの面積膨潤度、TD方向の膨潤度及びMD方向の膨潤度はそれぞれ17.0~38.0%、9.0~18.0%及び7.5~18.0%の範囲にあるため、製造された偏光フィルムは、面積収縮率が2%以下、TD方向の収縮率が1%以下、MD方向の収縮率が1%以下の特性を有する。さらに観察すると、比較例3は、偏光フィルムの面積収縮率、TD方向の収縮率、MD方向の収縮率の点で理想的であるが偏光度及び偏光度低下値の評価結果が良くないため、本発明の奏する効果を有しないことが分かり、かつ実験過程中に、ポリビニルアルコールフィルムは偏光フィルムの製造工程中にフィルムが破断しやすいことが判明した。要するに、ポリビニルアルコールフィルムの面積膨潤度を17.0~38.0%、TD方向の膨潤度を9.0~18.0%、MD方向の膨潤度を7.5~18.0%に制御すると、製造された偏光フィルムは収縮率が小さく、高温環境下で長期間使用しても変形しにくい特性を有する。
【0112】
本明細書において提供される全ての範囲は、所定の範囲内の各特定の範囲、及びび所定の範囲間のサブ範囲の組み合わせを含むことが意図されている。また、本明細書に明確に記載されるあらゆる範囲は、特に明示されていない限り、終点を含む。したがって、1~5の範囲には、特に1、2、3、4、及びび5と、2~5、3~5、2~3、2~4、1~4などのサブ範囲が含まれる。
【0113】
本明細書で引用される全ての刊行物及びび特許文献は、参照により本明細書に組み込まれ、ありとあらゆる目的のために、個々の刊行物又は特許文献は、参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別に示されている。本明細書と、参照により本明細書に組み込まれている刊行物または特許文献との間に矛盾がある場合、本明細書が優先される。
【符号の説明】
【0114】
1 浸漬延伸治具
1a 上固定軸
1b 下固定軸
2 ポリビニルアルコールフィルム
2a 上端
2b 荷重・膨潤を経たポリビニルアルコールフィルム
2c 余分なポリビニルアルコールフィルム
3 ダブテールクリップ
3a 底端
4 ビーカー
a 距離
図1
図2
図3
図4