(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169264
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルム
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241128BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20241128BHJP
B29C 55/06 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CEX
B29C55/06
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133674
(22)【出願日】2023-08-18
(31)【優先権主張番号】63/468,543
(32)【優先日】2023-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】112121003
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】202310659561.1
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ウェン、シャン-ニー
(72)【発明者】
【氏名】チェン、チア-イン
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
4F210
【Fターム(参考)】
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4F210QW50
(57)【要約】
【課題】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムを提供する。
【解決手段】本発明は、ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムに関し、前記ポリビニルアルコールフィルムはケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、水中での前記ポリビニルアルコールフィルムの30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃である。本発明のポリビニルアルコールフィルムは、フィルムを延伸しても破断しにくい特性を持ち、これから製造された光学フィルムは赤色光の漏れの少ない特性を持っている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、水中の30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃である、ポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
45℃以下の軟化点温度を有する、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、99.90モル%超である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、99.95モル%以上である、請求項3に帰鎖のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、99.97モル%以上である、請求項4に帰鎖のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、2000~3300である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、2400~3300である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さは、40~75μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルム。
【請求項10】
偏光フィルムである、請求項9に記載の光学フィルム。
【請求項11】
前記偏光フィルムの赤色光漏れ率は、5%未満である、請求項10に記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)製品に関し、特に、ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムに関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)フィルムは、ポリビニルアルコール高分子と可塑剤を含む水溶液から塗布、乾燥されて得られた親水性材料で、高透明度、機械的強度、水溶性、良好な加工性等の特性を備えているため、包装材料又は電子機器の各種光学フィルム、例えば偏光フィルムに広く使用されている。
【0003】
ポリビニルアルコールフィルムを偏光工程で加工して得られた偏光フィルムは、特定の方向からの光だけを通さない性質を持つため、通過する光の明さを制御することができる。この性質に基づいて、偏光フィルムは各種ティスプレイ、メガネ及びウェアラブル端末に応用されている。偏光工程とは、一般に、膨潤、延伸、及び染色などの工程を含み、具体的に言えば、ポリビニルアルコールフィルムを溶液中に入れて前述の工程を実施することにより、染料分子をポリビニルアルコールフィルム中の分子内に拡散させ、延伸により比較的規則的な配列が得られ、偏光フィルムは配列方向に平行な光成分を吸収し、垂直方向の光成分を通過して偏光の性質を生じることができるようにする。しかしながら、ポリビニルアルコール系フィルムは、偏光フィルムを製造する際に、延伸によりフィルムが破断するという問題が生じることが多かった。
【0004】
特許文献1などの先行技術では、ポリビニルアルコール系フィルムが開示されている。このフィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を連続キャスト法により製膜する製膜工程、製膜して得られたフィルムを加熱ローラで乾燥させる乾燥工程、及び乾燥したフィルムに熱処理を施す熱処理工程を使用してポリビニルアルコール系フィルムを製造し、弾性率と厚さの比率を制御して、フィルム破断の問題を改善する。前記乾燥工程において、製膜して得られたフィルムを乾燥させる温度、すなわち使用する複数の加熱ローラのうち最も温度が高い加熱ローラの表面温度は100℃~115℃であり、前記乾燥工程において、最も温度が高い加熱ローラと製膜して得られたフィルムの接触時間は4~30秒であり、前記熱処理工程は乾燥したフィルムを50℃以下に冷却してから60~99℃で加熱する工程である。
【0005】
なお、偏光フィルムは、適切な光学特性を有していなければならない。このため、先行技術では、ポリビニルアルコールの構造を変化させるか、官能基(カチオン基など)を加えることで、光学特性を改善することも開示されている。特許文献2などの先行技術では、良好な偏光性能を有し、クロスニコル状態における赤色光の漏れの少ない偏光フィルム及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】台湾特許出願公開第201817576号
【特許文献2】台湾特許出願公開第201719207号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術において、ポリビニルアルコールフィルムを使用して光学フィルムを製造する場合、延伸中にフィルムが破断することがよくあった。これに関して、本発明者らは、ポリビニルアルコールフィルムの特定温度範囲での貯蔵弾性率(E’)が、特定範囲の変曲点温度を有するようにポリビニルアルコールフィルムを調整することにより、ポリビニルアルコールフィルムの延伸中にフィルムが破断されやすくなる問題を改善できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、本発明の一態様は、ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、水中の30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃であるポリビニルアルコールフィルムを提供する。
【0009】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムは、45℃以下の軟化点温度を有する。
【0010】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、99.90モル%を超である。
【0011】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、99.95モル%以上である。
【0012】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、99.97モル%以上である。
【0013】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、2000~3300である。
【0014】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、2400~3300である。
【0015】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムの厚さは、40~75μmである。
【0016】
本発明の別の態様は、上記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供する。
【0017】
一又は複数の実施形態において、前記光学フィルムは、偏光フィルムである。
【0018】
一又は複数の実施形態において、前記偏光フィルムの赤色光漏れ率は、5%未満である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリビニルアルコールフィルムは、様々な用途への使用に適することができ、特に偏光フィルムなどの光学フィルムへの使用に適する。本発明の技術内容に基づいて得られたポリビニルアルコールフィルムは、光学フィルムの製造に用いた場合のフィルム破断状況を大幅に改善する。
【0020】
なお、本発明者らは、さらにポリビニルアルコールフィルムに特定の軟化点温度を有させるよう調整した場合、ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムは、クロスニコル(crossed nicol)状態における赤色光の漏れの少ない特性を有することも見出した。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態による水中で分析した温度変化に伴うポリビニルアルコールフィルムの貯蔵弾性率(E’)のグラフである。
【
図2】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの変曲点温度を分析するためのサンプル製造方法を示す概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの変曲点温度を分析するためのサンプル製造方法を示す概略図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの変曲点温度を分析するためのサンプル製造方法を示す概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの軟化点温度分析における寸法変化(dimension change)対温度を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態による赤色光漏れ評価におけるポリビニルアルコールフィルムのサンプル製造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の説明をより詳細かつ完全にするため、以下は、本発明の実施形態及び具体的実施例の例示的な説明を提供するが、これは、本発明の具体的実施例を実施又は運用する唯一の形態ではない。本明細書及び添付される特許請求の範囲において、文脈が別段の指示をしない限り、「一」及び「該」も複数形として解釈され得る。
【0023】
本発明を特定する数値範囲及びパラメータは、概数値であるが、ここで具体的実施例内の関連数値をできる限り正確に提示されている。ただし、任意の数値は、本質的に個々のテスト方法による標準偏差が必然的に含まれている。本明細書で述べる場合、「約」という用語は、実際値が平均の許容可能な標準誤差内にあり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者の考えによって定めることを示す。
【0024】
[ポリビニルアルコールフィルム]
本発明の一態様は、ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、水中の30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃であるポリビニルアルコールフィルムを提供する。いくつかの実施形態によれば、本発明のポリビニルアルコールフィルムの厚さは、40~75μmである。具体的には、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば40μm、45μm、50μm、55μm、60μm、65μm、70μm、75μm又は80μmであり、前記の値は単なる例であるが限定するものではない。
【0025】
本明細書で述べる「弾性率」とは、材料力学における応力とひずみの関係を解析するために用いられる物理的特性で、応力とひずみの比である。材料にかかる応力が垂直抗力の場合に得られる弾性率はEで表される。「貯蔵弾性率(E’)」は、材料が加えられたエネルギーを吸収して変換され、材料内部に保存する成分であり、通常、変形を回復し、材料の元の外観を維持するために使用され、材料の弾性特性に関係しており、材料の剛性も反映することができる。分子の観点からは、E’が大きいほど分子間力が強くなる。ポリビニルアルコールの場合、E’が大きいほど、結晶化度と分子鎖の絡み合いの度合いが高くなる。
【0026】
本明細書で述べる「水中での30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度(以下、E’変曲点温度と略称する)」は、ポリビニルアルコールフィルムを水に浸漬し、昇温方法でポリビニルアルコールフィルムのE’変化を測定することで得られるものである。フィルムに大量の水分が吸収された後、ポリビニルアルコールの-OH基と水素結合を形成し、ポリビニルアルコールの分子鎖が膨潤して分子鎖が離れ、分子鎖間の絡み合いが減少したため、水に浸したポリビニルアルコールのE’分析は、異なる温度でのフィルム内の結晶化度の変化を評価するために用いられることができる。さらに、水中でのポリビニルアルコールフィルムの分析は、温度に応じたE’変化曲線が
図1に示す特徴を持ち、30℃~55℃の間の変化曲線には2つの異なる傾きがあり、前記2つの傾きの接線交点がE’変曲点であり、対応する温度がE’変曲点温度である(
図1の矢印で示す箇所)。
【0027】
E’変曲点温度で表される物理的意味には、ポリビニルアルコールフィルム中の結晶が大量に溶解し始める温度が含まれ、E’変曲点温度が高いほど、フィルム中の平均結晶粒子が大きいことを示すため、比較的高温でのみ大量の結晶溶解が起こる。本発明者らは、E’変曲点温度が40℃を超えると、偏光子の製造工程におけるポリビニルアルコールフィルムの膨潤・延伸過程中でフィルムが破断しやすいことを見出した。いかなる理論にも拘束されないが、おそらく、未溶解の結晶領域に過剰な応力が集中するため、フィルムは破断しやすくなる。E’変曲点温度が37℃未満であると、結晶粒子が小さすぎるためにフィルムの機械的強度が不足し、フィルムが柔らかすぎて膨潤・延伸時に破れやすくなる。
【0028】
したがって、ポリビニルアルコールフィルムが延伸時に破断しやすいという状況を改善できるように、E’変曲点温度を特定の範囲に制御する必要があり、具体的には水中での本発明のポリビニルアルコールフィルムの30℃~55℃範囲(偏光子の製造工程における初回延伸の温度範囲)におけるE’の変曲点が示す温度が37~40℃であり、例えば37℃、37.1℃、37.3℃、37.5℃、37.7℃、37.9℃、38℃、38.1℃、38.3℃、38.5℃、38.7℃、38.9℃、39℃、39.1℃、39.3℃、39.5℃、39.7℃、39.9℃又は40℃であるが、これらに限定されない。測定温度が55℃を超えると、ポリビニルアルコールフィルムの結晶化が完全に消失し、物性が急激に変化する可能性があるため、変曲点温度を分析する場合、設定する分析温度範囲は55℃を超えないようにする。
【0029】
また、前記E’変曲点温度の測定方法については、ポリエチレンフィルムは水分(空気中の水分も含む)を吸収してし、その結晶形態、分子配列等の状態に影響を与える可能性があるため、ポリエチレンフィルムのE’変曲点温度を測定する前、前処理により測定対象となる各ポリエチレンフィルムの含水率を同じに調整することで、測定対象となる各ポリエチレンフィルムの状態を同じさせることができる。含水率は、通常約8~9wt%に調整することができるが、本明細書においてこれに限定されるものではない。
【0030】
本明細書で述べる「ケン化度」とは、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、より良い光学特性を得るため、95モル%以上であり、例えば95モル%以上、95.5モル%以上、96モル%以上、96.5モル%以上、97モル%以上、97.5モル%以上、98モル%以上、98.5モル%以上、99モル%以上又は99.5モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、95%以上の場合、フィルムの機械的強度及び光学特性を向上させることができる。本発明の一実施形態によれば、本発明のポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、99.90モル%を超え、例えば99.90モル%超、99.92モル%超、99.94モル%超、99.96モル%超又は99.98モル%超であり、好ましくは、該ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、99.95モル%以上であり、例えば、99.95モル%以上、99.97モル%以上、又は99.99モル%以上であり、より好ましくは、該ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、99.97モル%以上であり、例えば99.97モル%以上、99.98モル%以上、又は99.99モル%以上である。
【0031】
1つ以上の実施形態によれば、本発明のポリビニルアルコールフィルムは、軟化点温度を有し、前記軟化点温度は45℃以下である。本明細書で述べる「軟化点温度」とは、材料に一定の垂直抗力を加え、徐々に温度を上げ、フィルムの寸法が顕著に変化し始める温度(変曲温度)のことである。軟化点温度は、一定の垂直抗力の作用下で非晶質領域の分子鎖が大きく動き始める温度と見なすことができ、非晶質領域の機械的性質を反映する。軟化点温度が高いということは、非晶質領域の分子鎖が大きく動くにはより多くのエネルギーが必要であることを示している。ポリビニルアルコールフィルムの軟化点温度が高すぎると、非晶質領域の分子鎖が動きにくくなり、偏光子製造のポリビニルアルコールフィルムの膨潤・延伸工程の時にポリビニルアルコールフィルムの染色に使用されるヨウ化物イオンが非晶質領域に入り込みにくく、ポリマー鎖に吸着することで、ポリビニルアルコールフィルムの染色が困難となり、製造した偏光子において赤色光漏れが発生するという問題が生じることを示している。
【0032】
したがって、偏光子の赤色光漏れを改善できるように、前記軟化点温度を特定の値以下に制御する必要があり、具体的には、本発明の前記ポリビニルアルコールフィルムは、45℃以下の軟化点温度を有し、例えば45℃以下、44.5℃以下、44℃以下、43.5℃以下、43℃以下、42.5℃以下、42℃以下、41.5℃以下、41℃以下、40.5℃以下、40℃以下又は35.5℃以下である。
【0033】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、2000~3300であり、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値のように例えば2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200或3300であり、好ましくは、前記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、2400~3300であり、例えば2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200又は3300である。本明細書で述べる「平均重合度」は、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。
【0034】
上記E’変曲点温度及び軟化点温度は、ポリビニルアルコールフィルムの樹脂原料の粒子径、ケン化度及び平均重合度の調整により調整されることができるほか、製造プロセスにおける原料の撹拌温度、時間、溶解材料の流動温度、及びオーブン乾燥の最高温度を調整することによって調製されることもできるが、これに限定されるものではない。
【0035】
[ポリビニルアルコールフィルムの製造方法]
本発明のポリビニルアルコールフィルムの製造方法は、(a)ポリビニルアルコール系樹脂を加熱溶解し、前記ポリビニルアルコール系樹脂の濃度を調整して、ポリビニルアルコール流延溶液を形成する溶解工程、(b)前記ポリビニルアルコール流延溶液をキャストドラムに流延し、前記キャストドラムから剥離した後、予備成形フィルムを得る流延工程、(c)前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムを複数の加熱ローラと接触させた後でポリビニルアルコールフィルム半成形品を得る加熱ローラ工程、及び(d)前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品をオーブン内に入れて乾燥させた後、ポリビニルアルコールフィルム成形品を得るオーブン工程を含み、また状況に応じて(e)前記ポリビニルアルコールフィルム成形品を温湿度調節器に入れて、温度と湿度を調整する温湿度調整工程をさらに含む。
【0036】
[溶解工程]
いくつかの実施形態によれば、,溶解工程は、ポリビニルアルコール系樹脂、溶媒、可塑剤などを攪拌しながら温度を130~165℃に上げ、均一に溶解した後、樹脂を適切な濃度に調整することで、ポリビニルアルコール流延溶液を得る。樹脂の適切な濃度は約20wt%~50wt%であり、例えば20、30、40又は50wt%であり、樹脂濃度が低すぎると、その後のフィルムの乾燥負荷が高くなり、逆に樹脂濃度が高すぎると粘度が高くなりすぎ、製膜が困難になる。
【0037】
一又は複数の実施形態において、前記溶解工程で使用されるポリビニルアルコール樹脂は、ビニルエステル系樹脂モノマーによって重合され、平均重合度2000~3300のポリビニルアルコール系樹脂が形成されてからケン化反応を実施して、好ましくは95%を超えるケン化度を有するポリビニルアルコール樹脂を得る。前記ビニルエステル系樹脂モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル又はオクト酸ビニル等のビニルエステル類、或いはこれらの組み合わせが挙げられ、本発明において、これに限定されない。好ましくは酢酸ビニルの使用である。なお、オレフィン類化合物又はアクリレート誘導体と前記ビニルエステル系樹脂モノマーとの共重合によって形成されるコポリマーも使用でき、ここで、前記オレフィン類化合物としては、エチレン、プロピレン又はブテンなどが挙げられ、本発明において、これに限定されない。前記オレフィン類化合物の添加量は、2~4モル%、例えば2、2.5、3、3.5又は4モル%などであり得るが、これらに限定されない。前記アクリレート誘導体としては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル又はアクリル酸n-ブチルなどが挙げられ、本発明において、これに限定されない。
【0038】
前記ポリビニルアルコール系樹脂は、粒状を呈し、ポリビニルアルコール系樹脂の粒子径が大きいほど(すなわちメッシュ数が小さいほど)、原料の樹脂結晶の溶解不完全が生じやすく、加工成形品の結晶粒径と結晶化度に影響を及ぼして、成形品の結晶粒子が大きくなり、結晶化度が高まる。一又は複数の実施形態において、粒子径は、篩メッシュによって定義され、20メッシュ(mesh)以上であり、具体的には例えば、20メッシュ以上、30メッシュ以上、又は40メッシュである。
【0039】
一又は複数の実施形態において、上記溶解工程で使用される溶媒は、ポリビニルアルコール樹脂を溶解できる限り、本発明において、特に限定されない。溶媒として、例えば水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが挙げられるが、これらに限定されなく、上記の溶媒は、1種を単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。環境及び経済的側面を考慮した場合、本発明において溶媒として水を使用することが好ましい。
【0040】
一又は複数の実施形態において、本明細書で述べる「可塑剤」は、具体的にグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセロール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンなど、或いはこれらの組み合わせであるがこれらに限定されない。本発明において、好ましくはグリセリンである。また一又は複数の実施形態において、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して前記可塑剤の添加量は5~15wt%であり、具体的に例えば6、7、8、9、10、11、12、13、14及び15wt%であるがこれらに限定されない。好ましい実施形態において、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して前記可塑剤の添加量は10wt%である。
【0041】
上記可塑剤以外に、溶解工程において必要に応じて、界面活性剤等を含むがこれらに限定されない他の添加剤をさらに添加してもよい。界面活性剤は、陽イオン性、陰イオン性又は非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されず、具体的にはラウリン酸カリウムなどのカルボン酸塩型、ラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸塩型、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリチレングリコールモノオクチルフェニルエーテルなどのアルコールフェニルエーテル型、モノラウリン酸ポリエチレングリコールなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウラミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型、又はラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル硫酸ナトリウムなどであるがこれらに限定されない。
【0042】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を溶解する温度は、130~165℃であることが好ましく、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、具体的に例えば130℃、135℃、140℃、145℃、150℃、155℃、160℃又は165℃である。おそらく、溶解温度はポリビニルアルコール樹脂の溶解や添加剤の分散に影響を与え、溶解温度が低すぎると、成形品フィルムのE’変曲点温度及び軟化点温度も高くなりすぎ、溶解温度が高すぎると、成形品フィルムに部分的に黄変が発生する。
【0043】
一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液之時間を溶解する時間は、1~5時間であることが好ましく、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値ように具体的に例えば1時間、2時間、3時間、4時間又は5時間である。おそらく、溶解時間が短すぎると、ポリビニルアルコール樹脂の溶解及び添加材の分散が悪くなり、成形品フィルムのE’変曲点温度及び軟化点温度が高くなりすぎる。
【0044】
[流延工程]
いくつかの実施形態によれば、流延工程は、主に前記ポリビニルアルコール流延溶液をダブルスクリュー押出機に送り、押出機で再び均一に混合され、脱泡(例えばダブルスクリュー押出機で脱泡することがこれに限定されない)された後、Tダイリップから吐出し、回転する高温キャストドラム(流延ドラムとも呼ばれる)、エンドレスベルトなどの支持体としてのキャストドラムに流延して製膜して、ポリビニルアルコール予備成形フィルムを得る。一又は複数の実施形態において、流延工程では、ポリビニルアルコール流延溶液輸送時の送り温度は、好ましくは少なくとも90℃以上(例えば90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99℃であるが、これらに限定されない)である。なお、押出機で再び均一に混合され、脱泡された後のポリビニルアルコール流延溶液も少なくとも90℃以上(例えば90、91、92、93、94、95、96、97又は98℃であるが、これらに限定されない)に制御しなければならない。
【0045】
一又は複数の実施形態において、ポリビニルアルコール流延溶液を回転する高温キャストドラム時に流延する際、前記キャストドラムの温度は85~95℃であることが好ましく、ポリビニルアルコールがキャストドラムに滞留する時間は、0.6~1.2分であることが好ましい。
【0046】
[加熱ローラ工程]
いくつかの実施形態によれば、加熱ローラ工程は、主にキャストドラムから剥離した前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムの上面と下面を複数の加熱ローラで接触乾燥させた後、ポリビニルアルコールフィルム半成形品を得る。複数の加熱ローラ(例えば15本の加熱ローラ)の温度は、高いものから低いものへと徐々に逓減し、最初の加熱ローラが全ての加熱ローラの中で温度が最も高いローラ(例えば90~99℃であるがこれに限定されなく、具体的には例えば90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99℃であるが、これらに限定されない)であり、最後の加熱ローラの温度が全ての加熱ローラの中で最も低い(例えば30~50℃であるがこれに限定されなく、具体的には例えば30、35、40、45又は50℃であるが、これらに限定されない)
【0047】
[オーブン工程]
いくつかの実施形態によれば、オーブン工程は、主にオーブンで加熱ローラから剥離した前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品の上面と下面を熱風で乾燥させることで、ポリビニルアルコールフィルム成形品を得ることである。
【0048】
一又は複数の実施形態において、前記オーブンは、好ましくはフローティングオーブンを用い、温度は100℃~120℃の範囲に制御され、具体的には下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば100、105、110、115又は120℃である。オーブン乾燥過程で、ポリビニルアルコールの再結晶が起こり、おそらく、このプロセスの最高温度が再結晶の効果に影響を与え、温度が高すぎると結晶粒が大きくなりすぎ、結晶化度が高くなりすぎる可能性があり、温度が低すぎると結晶粒子が小さくなりすぎ、結晶化度が低くなりすぎる。なお、フィルム中のポリビニルアルコールの配列はオーブンに入れる前に固定されているため、前記温度調整は軟化点温度に大きな影響を与えない。
【0049】
[温湿度調整工程]
本発明の好ましい実施態様によれば、前記ポリビニルアルコールフィルム成形品は、上記工程を終えた後、さらに温湿度調節器に入れて温度と湿度を調整することができる。
【0050】
一又は複数の実施形態において、前記温湿度調節器の温度は、35~45℃の範囲であり、具体的には下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値のように例えば35、40又は45℃で、45℃であることが好ましい。一又は複数の実施形態において、前記温湿度調節器の相対湿度は、下記値のうち任意の2つの間の範囲内の値、例えば40、45、50、55又は60%で、40~60%の範囲であることが好ましい。一又は複数の実施形態において、前記ポリビニルアルコールフィルムを前記温湿度調節器に静置する時間は例えば20、25、30、35又は40分で、20~40分の範囲であることが好ましい。一又は複数の実施形態において、例えば前記ポリビニルアルコールフィルムを温度45℃、相対湿度50%の温湿度調節器内に40分間置かれる。
【0051】
[光学フィルム及びその製造方法]
本発明の別の目的は、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供することである。本明細書で述べる「光学フィルム」は、偏光フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム或いは輝度上昇フィルムなどであり得、特に偏光フィルムである。いくつかの実施形態によれば、本発明の「光学フィルムの製造方法」は、偏光フィルムの製造方法を指し、さらにポリビニルアルコールフィルムを偏光フィルムに製造し、製造プロセス中の引っ張り/延伸による破断状況及びフィルムの赤色光漏れの程度を評価する。前記製造方法は、ヨウ化物イオンを吸着させる染色工程と、ホウ酸処理工程と、水洗工程とを含み、ホウ酸処理工程又はこの前の段階で一軸延伸の延伸工程を実施できる。好ましくは、染色工程の前に、ポリビニルアルコールフィルムを水で膨潤させる膨潤工程を設けることができる。なお、水洗工程の後に通常、最終乾燥工程が設けられる。
【0052】
膨潤工程では、上記ポリビニルアルコールフィルムを、例えば温度30℃~55℃の処理浴(例:純水)に浸漬して、フィルム表面の水洗及び膨潤処理を施す。膨潤処理時間は、通常5~300秒、好ましくは20~240秒である。いくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムを搬送するため、処理浴を収容した膨潤タンク内に複数のガイドローラーが配置される。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向(MD、Machine Direction)に元の長さの1.05~2.5倍に延伸した後、染色工程を実施する。
【0053】
染色工程では、上記膨潤工程を経たポリビニルアルコールフィルムを、染浴を収容した染色タンクに浸漬する。染色処理の条件は、ヨウ素をポリビニルアルコールフィルムに吸着させる範囲内でフィルムに極度の溶解や失透などの不良を起こさない範囲によって決定することができる。染色工程における染浴としては、例えばヨウ素とヨウ化カリウムを含む水溶液が挙げられ、染浴中のヨウ素の濃度は0.01~0.5wt%、ヨウ化カリウムの濃度は0.01~10wt%が好ましい。具体例としては、0.037wt%のヨウ素と1.85wt%のヨウ化カリウムの濃度の水溶液を挙げることができるが、これらに限定されない。また、ヨウ化カリウムの代わりにヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよいし、ヨウ化カリウムに加えて他のヨウ化物を併用してもよい。染浴の温度は通常20~40℃、例えば20、30又は40℃であり、染色処理の時間(染色時間)は通常10~600秒、好ましくは30~200秒である。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの2~4倍に延伸した後、ホウ酸処理及び延伸工程を実施する。
【0054】
ホウ酸処理及び延伸工程では、ヨウ素で染色されたポリビニルアルコールフィルムをホウ酸含有水溶液で処理して架橋し、吸着したヨウ素を樹脂に定着させて実施する。前記工程は通常、染色工程を経たポリビニルアルコールフィルムを、ホウ酸含有処理浴を収容した定着槽に浸漬することにより実施される。前記ホウ酸処理浴は、ホウ酸に加えてヨウ化物を含むことが好ましく、ここで用いられるヨウ化物としては、ヨウ化カリウム又はヨウ化亜鉛などが挙げられ、例えばホウ酸とヨウ化カリウムをそれぞれ5.5wt%の濃度で含む水溶液が挙げられる。なお、ホウ酸処理浴中にヨウ化物以外の化合物、例えば塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が共存していてもよい。ホウ酸処理及び延伸工程は通常、50~70℃、例えば温度55℃下で実施され、処理時間は通常、10~600秒、好ましくは20~300秒、より好ましくは20~100秒である。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの3倍以上に延伸して、その後の工程を実施する。延伸倍率の上限は特に限定されないが、例えば8倍未満であることが好ましい。延伸は、3.3倍以上、例えば3.3~8.0倍、より好ましくは3.5~6.0倍、特に好ましくは4.0~5.5倍を含むが、これらに限定されない。
【0055】
ポリビニルアルコールフィルムが上記工程及びその後の水洗工程と乾燥工程にかけられた後、偏光膜を形成した。水洗及び乾燥工程では、フィルム表面に残ったヨウ素溶液及びホウ酸を水又はヨウ化物を含む水溶液(例えば濃度5.5wt%のヨウ化カリウム水溶液などで水洗することであるがこれに限定されない)を用いて洗浄する。次に、乾燥工程(温度60℃のオーブンで5分間乾燥させることであるがこれに限定されない)を経た後、偏光フィルムが形成される。さらに、該偏光膜の少なくとも一方の面に保護層を形成して、偏光膜完成品(偏光子とも呼ばれる)に製造することができる。詳しく言えば、該保護層は、偏光膜の表面の摩耗防止などの機能を有し、透明樹脂を含む構成要素であることが好ましい。異なる実施形態によれば、前記保護層は前記偏光膜の片面のみに設けられるが、前記偏光膜の両面に形成されることが好ましい。前記保護層は、透明樹脂材料の保護フィルムであり得る。透明樹脂は、メタクリル酸メチル系樹脂などのアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂など))、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリイミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂等であり得、三酢酸セルロース(TAC)などのセルロース系樹脂が好ましい。
【実施例0056】
以下では、具体的実施例を参照しつつ本発明を詳細に説明する。しかしながら、これらの具体的実施例は、本発明の理解を助けることを意図し、本発明の範囲を如何ようにも限定することを意図しないことを理解されたい。
【0057】
1.ポリビニルアルコールフィルムの調製
ここで、本発明はポリビニルアルコールフィルムの非限定的な調製方法を提供する。以下に開示される方法と類似の方法で、非限定的な実施例のポリビニルアルコールフィルム(実施例1~16)及び比較例のポリビニルアルコールフィルム(比較例1~8)を調製する。
【0058】
以下は、本実施例及び比較例におけるポリビニルアルコールフィルムを製造する主要工程であり、かつ以下の表1は、本実施例及び比較例の1つ又は複数の工程パラメータの違いを詳細に示す。
【0059】
1.まず、溶解バレルに特定の粒子径、ケン化度を有し、及び重合度がそれぞれ2000~3000(具体的な重合度を表1に示す)のポリビニルアルコール樹脂1800kg、水4000kg、可塑剤グリセロール180kgをそれぞれ加え、撹拌しながら溶解温度を所定の温度まで上げ、溶解時間を制御し、均一に溶解した後、水を加えて樹脂濃度を30wt%に調整してポリビニルアルコール流延溶液(製膜原液とも呼ばれる)が得られた。実施例及び比較例におけるポリビニルアルコール樹脂は、酢酸ビニルによって重合され、変性されていない(すなわち、他のコモノマーを含まない)ポリビニルアルコール樹脂である。なお、ポリビニルアルコール樹脂の特定の粒子径、ケン化度、重合度、溶解温度、及び溶解時間は表1に示されている。
【0060】
2.前記ポリビニルアルコール流延溶液をダブルスクリュー押出機に輸送し、前記輸送温度は99℃で、押出機で再び均一に混合され、脱泡され、前記流延溶液の温度を98℃に制御してから前記流延溶液をTダイリップから吐出し、回転する高温キャストドラムに流延し、乾燥・製膜し、予備成形フィルムを形成する。
【0061】
3.前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムをキャストドラムから剥離した後、フィルムの上面と下面を15本の加熱ローラで接触乾燥させ、1本目の加熱ローラは、全ての加熱ローラの中で最も温度が高いローラ(95℃)で、後続の加熱ローラの温度が高温から低温へと徐々に下がり、15本目の加熱ローラの温度が40℃まで下げる。
【0062】
4.次に、前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムの上下両面をフローティングオーブンで熱風乾燥して、ポリビニルアルコールフィルム成形品を製造した。オーブンの具体的な最高乾燥温度を表1に示す。
【0063】
5.その後、前記ポリビニルアルコールフィルム成形品を、温度45℃、相対湿度50%の温湿度調節器に40分間入れて、ポリビニルアルコールフィルムを得た。
【0064】
【0065】
2.偏光子の調製
ここで、本発明はポリビニルアルコールフィルムから偏光子を調製する非限定的な調製方法を提供する。以下に開示される方法に従い、非限定的な実施例のポリビニルアルコールフィルム(実施例1~16)及び比較例のポリビニルアルコールフィルム(比較例1~8)を対応する偏光子に調製する。
【0066】
本発明の実施例及び比較例における偏光子の調製に共通する主な工程は以下のとおりである。ポリビニルアルコールフィルムを巻き出した後、30℃の純水を満たした膨潤槽に投入してフィルム表面の水洗及び膨潤処理を施し、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの1.2倍に延伸した後、次に温度を30℃に制御し、0.037wt%ヨウ素と1.85wt%ヨウ化カリウム水溶液を含む染色槽に入れて染色すると共にポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの3.4倍に延伸する。染色後、温度を55℃に制御し、ホウ酸とヨウ化カリウムの各々5.5wt%濃度のヨウ化カリウム水溶液を含む延伸槽に入れ、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に沿って元の長さの6倍に延伸した後、フィルム表面に残ったヨウ素水とホウ酸を5.5wt%ヨウ化カリウムを含む水溶液で洗浄する。次に、60℃のオーブンで5分間乾燥させ、上面と下面にセルローストリアセテート保護フィルムを貼り合わせ、乾燥させて偏光子を製造した。
【0067】
3.分析方法
ここで、本発明は、上記実施例1~16及び比較例1~8のポリビニルアルコールフィルムの分析及び試験方法を提供する。
【0068】
<樹脂粒子径>
具体的には、表1に示す「通過」とは、樹脂原料の粒子径が測定に用いたふるいの目開き以下であることを意味し、「残留」とは、樹脂原料の粒子径が測定に用いたふるいの目開き以上であることを意味する。
【0069】
<ケン化度>
本発明のケン化度の測定方法は、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法による。
【0070】
<平均重合度>
本発明の平均重合度の測定方法は、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法による。
【0071】
<E’変曲点温度>
機器及びそのブランド:TA機器のDMA 850
サンプルの作製方法:ポリビニルアルコールフィルムを機械方向(MD)5cm、横方向(TD)5mmの長尺状に切り出し、機械にセットする前にポリビニルアルコールフィルムの含水率を8~9wt%に調整し、ポリビニルアルコールフィルムの状態を一致させる。次に、
図2を参照すると、ポリビニルアルコールフィルム2の一端を約1.11gのダブテールクリップ3で固定し、他端を浸漬延伸治具1に挿通し、ポリビニルアルコールフィルム2の一部を上部固定軸1aと下部固定軸1bとの間に配置させ、ダブテールクリップ3の底端3aが浸漬延伸治具1から1cm(
図2に示す距離a)離し、ポリビニルアルコールフィルム2の上端2aと該浸漬延伸治具1の上端との間に空間を持たせる。次に、上部固定軸1aを締め付けてポリビニルアルコールフィルム2を固定する。
図3を参照すると、純水を満たした100mLビーカー4に、浸漬延伸治具1全体と保持されたポリビニルアルコールフィルム2及びダブテールクリップ3をビーカーの液面が上部固定軸1aに位置するように垂直に入れ、ビーカー4を30℃の恒温水槽(図示せず)で温調し、ポリビニルアルコールフィルム2に荷重(ダブテールクリップ3の重量)を加えて20分間膨潤させる。最後に、
図4を参照すると、浸漬延伸治具1をビーカー4から取り出して垂直に保ち、ダブテールクリップ3の自重でポリビニルアルコールフィルム2を引き伸ばし、ポリビニルアルコールフィルム2が中心にあることを確認した後、浸漬延伸治具1の下部固定軸1bを締め付けてから余分なポリビニルアルコールフィルム2c(
図4のメッシュ状の部分)を切り取り、サンプルは、浸漬延伸治具1にクランプされた荷重・膨潤を経たポリビニルアルコールフィルム2bである。
【0072】
試験条件:上述のサンプルがまだ浸漬・延伸治具に固定されている場合、振動昇温モードを選択し、サンプルとサンプルを保持している浸漬延伸治具1を一緒に脱イオン水で満たされた浸漬槽に入れ、周波数を1Hzに、振幅を200μmに、保圧(force track)を200%に設定し、温度を30℃から65℃まで測定するように設定し、分析前にまず0.15Nの静的力でフィルムを引き伸ばしてから1℃/分の昇温速度で分析し始め、貯蔵弾性率(E’)対温度変化曲線を描く。ここで、熱電対の検出端は水槽の底から5mmの高さに配置される。
【0073】
データ処理:貯蔵弾性率(E’)の座標軸を線形座標軸に変換し、機器に付属のソフトウェアに組み込まれたonset分析を使用し、onset分析温度範囲を30~45℃に設定すると、ソフトウェアは変曲点温度を自動入力する。
【0074】
<軟化点温度>
機器及びそのブランド:TA機器のTMA Q400
【0075】
サンプルの作製方法:ポリビニルアルコールフィルムをパンチングマシンで直径5mmの円形に切り出し、機器にセットする前にフィルムの含水率を8~9wt%にフィルムの状態を一致させる。
【0076】
試験条件:固定垂直抗力0.05N、及び窒素流量100mL/分の浸透プローブを使用し、常温において、上記の円形サンプルの凹面(この凹面は、上述のサンプル作製時パンチングマシンで切り出した円形フィルムが自然に反って凹面を形成する)を上にして、石英ステージに置き、次に浸透プローブの測定チップをサンプルの中心に置いて測定する。ここで、分析温度を10~150℃に設定し、昇温速度は10℃/分である。
【0077】
データ処理:分析ソフトウェアuniversal analysis内のTg analysisボタンをクリックし、分析温度を15℃~120℃に設定し、温度を寸法変化(dimension change)とともにプロットする。
図5に示すように機器によって分析された最低温度が軟化点温度である(丸で囲った場所は軟化点温度である)。
【0078】
4.評価方法及び結果
ここで、本発明は、実施例及び比較例のポリビニルアルコールフィルムと偏光子の評価方法、及び上述の分析内容との対応付け結果を提供する。
【0079】
<フィルム破断評価>
試験条件:ポリビニルアルコールフィルムを8000m連続で引っ張って偏光膜を製造する。
【0080】
評価基準
◎:製造工程中に破れなし
○:製造工程中に1回の破れが発生した
×:製造工程中に1回を超えた破れがある
【0081】
さらに、本明細書の実施例1~16及び比較例1~8のポリビニルアルコールフィルムの破断評価結果及びE’変曲点温度を表2に示す。
【0082】
【0083】
表2から分かるように、実施例1~16のポリビニルアルコールフィルムサンプルのE’変曲点温度分析において測定されたE’変曲点温度パラメータは、いずれも37~40℃の範囲にあり、これらのポリビニルアルコールビニルフィルムサンプルは良好なフィルム破断評価結果を得たことが観察された。その反面、比較例1~5のポリビニルアルコールフィルムサンプルのE’変曲点温度分析において測定されたE’変曲点温度パラメータは、いずれも37~40℃の範囲を超えており、これらのポリビニルアルコールフィルムサンプルは、いずれもフィルム破断評価では良好な結果が得られなかった。これに鑑み、水中でのポリビニルアルコールフィルムの30℃~55℃における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37℃~40℃となるように制御するだけで、延伸する時フィルム破断の状況を改善することができる。
【0084】
<赤色光漏れ評価>
サンプルの作製:本発明の実施形態および比較例のポリビニルアルコールフィルムを、上述の偏光子の製造工程に従い偏光子を調製し、横方向に沿って左端5cmから離れた箇所(
図6に示す距離x)、真中、右端から5cm離れた箇所(
図6に示す距離x)の3箇所を2×2cm2の面積で2枚のサンプル(
図6)に切り取る。次に、同じ箇所で切り出した2枚の偏光子を試験サンプルとする。
【0085】
試験機器:分光光度計Jasco V-7100。
【0086】
<試験方法>
透過率Ts(%):JIS Z 8722(物体色の測定方法)に準拠し、C光源、2度視野の可視光領域における視感度補正を行った。光の方向がx軸、光の方向に垂直な仮想垂直法線がz軸、y軸がx軸及びz軸に垂直であると仮定した。1箇所にあるサンプル1枚を取ってyz平面上に置き、光の方向を回転軸とし、遅相軸(ここではMD方向)と仮想鉛直法線(z軸)のなす角が+45°になるようサンプルを正回転させて光透過率を測定し、並びに遅相軸と仮想鉛直法線(z軸)のなす角が+45°になるようにサンプルを逆回転させてもう1つの光透過率を測定し、両者の平均値を求めてY1を得た。同じ箇所の別のサンプルを採取し、前述の手順と同じように2つの光透過率を得、該2つの光透過率の平均値を求めてY2を得た。次にY1とY2の平均値を求めて該箇所の透過率Ts(%)とする。
【0087】
透過率T700⊥(%):同じ箇所の2枚の試験サンプルを取って互いに重ね合わせ、一方のサンプルを正回転させ、該2枚のサンプル間の遅相軸のなす角が+45°になるようにさせ、長700nm光の透過率T45を測定する。一方の偏光子を逆回転させ、偏光子間の遅相軸なす角が-45°になるようにし、波長700nmの光の透過率T-45を測定する。T45とT-45の平均値を求めて透過率T700⊥(%)とする。
【0088】
赤色光漏れ率:透過率Ts(%)を横軸、透過率T700⊥(%)を縦軸とし、3箇所の分析値から近似直線を作成し、該近似直線から求めた透過率が44%のときの透過率T700⊥(%)(すなわち、波長700nmの光の直交透過率)が赤色光漏れ率となる。
【0089】
評価基準:赤色光漏れ率(すなわち、赤色光漏れ比率)が5%未満であることが好ましい。
【0090】
さらに、本明細書の実施例1~16及び比較例1~8の偏光子の赤色光漏れ評価結果をその軟化点温度とともに表3に示す。
【0091】
【0092】
表3から分かるように、ポリビニルアルコールフィルムの軟化点温度が45℃以下に制御されると、偏光子に製造した後、赤色光漏れ率が5%未満の特性を有し、実施例1~16及び比較例3、4、6~8の通りである(比較例3、4、6~8の赤色光漏れ率は5%未満であるが、これらは上述のフィルム破断評価が悪かったため、悪い比較例と見なされる)逆に、ポリビニルアルコールフィルムの軟化点温度が45℃を超えると、偏光子に製造した後赤色光漏れ率が5%を超えるという問題がある(比較例1、2及び5)。これに鑑み、軟化点温度を45℃以下に制御する場合、ポリビニルアルコールフィルムを偏光子に製造した後赤色光漏れの問題を改善することができる。
【0093】
本明細書において提供される全ての範囲は、所定の範囲内の各特定の範囲、及びび所定の範囲間のサブ範囲の組み合わせを含むことが意図されている。また、本明細書に明確に記載されるあらゆる範囲は、特に明示されていない限り、終点を含む。したがって、1~5の範囲には、特に1、2、3、4、及びび5と、2~5、3~5、2~3、2~4、1~4などのサブ範囲が含まれる。
【0094】
本明細書で引用される全ての刊行物及び特許文献は、参照により本明細書に組み込まれ、ありとあらゆる目的のために、個々の刊行物又は特許文献は、参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別に示されている。本明細書と、参照により本明細書に組み込まれている刊行物または特許文献との間に矛盾がある場合、本明細書が優先される。
【0095】
1 浸漬延伸治具
1a 上固定軸
1b 下固定軸
2 ポリビニルアルコールフィルム
2a 上端
2b 荷重・膨潤を経たポリビニルアルコールフィルム
2c 余分なポリビニルアルコールフィルム
3 ダブテールクリップ
3a 底端
4 ビーカー
ケン化度が95モル%以上のポリビニルアルコール樹脂を含み、水中の30℃~55℃範囲における貯蔵弾性率(E’)の変曲点が示す温度が37~40℃である、ポリビニルアルコールフィルム。