(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169267
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20241128BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20241128BHJP
C08G 63/60 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K3/40
C08G63/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023161807
(22)【出願日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2023086008
(32)【優先日】2023-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】小西 彬人
(72)【発明者】
【氏名】田邉 純樹
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002CF161
4J002DL006
4J002FA016
4J002FD206
4J002GM00
4J029AA06
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD06
4J029AD09
4J029AE01
4J029BB04A
4J029BB09A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029EB05A
4J029EC06A
4J029HA01
4J029HB01
(57)【要約】
【課題】肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、低バリ性である成形部品を得ることが可能な液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供すること。
【解決手段】液晶ポリエステル樹脂(A)と、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ガラスフレーク(B)1~100重量部を含む液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)~(VI)を含む液晶ポリエステル樹脂であって、下記式(a)~(ek)を満たし、ガラスフレーク(B)の液晶ポリエステル樹脂組成物中での平均粒子径が1~200μmである、液晶ポリエステル樹脂組成物。
1≦[I]≦20 ・・・(a)
2≦[II]+[III]≦35 ・・・(c)
25≦[IV]≦75 ・・・(b)
2≦[V]≦35 ・・・(d)
0.01≦[VI]≦10 ・・・(e)
([I]~[VI]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(I)~(VI)の含有量(モル%)を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂(A)と、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ガラスフレーク(B)1~100重量部を含む液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)~(VI)を含む液晶ポリエステル樹脂であって、下記式(a)~(e)を満たし、ガラスフレーク(B)の液晶ポリエステル樹脂組成物中での平均粒子径が1~200μmである、液晶ポリエステル樹脂組成物。
1≦[I]≦20 ・・・(a)
2≦[II]+[III]≦35 ・・・(c)
25≦[IV]≦75 ・・・(b)
2≦[V]≦35 ・・・(d)
0.01≦[VI]≦10 ・・・(e)
([I]~[VI]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(I)~(VI)の含有量(モル%)を示す。)
【化1】
【請求項2】
前記[V]および[VI]が、下記式(f)を満足する、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
0.003≦([VI]/[V])≦0.15・・・(f)
【請求項3】
前記ガラスフレーク(B)の粒子径分布曲線より得られるモード径(最頻度粒子径)における頻度が4.5%以上である、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項5】
成形品が、コネクタ、コイルボビン、カメラモジュールのレンズ保持部品およびカメラモジュールのアクチュエータ部品からなる群から選択されるいずれかである請求項4に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。より詳しくは、液晶ポリエステル樹脂組成物、ならびにそれを用いて得られる成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステル樹脂は、耐熱性、流動性および寸法安定性に優れるため、それらの特性が要求される電気・電子部品に用いられている。このような電気・電子部品は、近年の機器の小型化や軽量化に伴い、形状の薄肉化と複雑化が進んでいる。特に、薄肉かつ複雑な成形部品は、高剛性が求められており、多種多様な充填材を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物が提案されているが、一般的な繊維状充填材は、配向に伴う成形収縮や流動性の悪化による残存圧力によって、成形部品にそりが発生する。そこで、成形収縮やそりの改善のために、平均粒径を規定したガラスフレークを配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献1)、数平均粒子径やアスペクト比を規定した微細ガラスフレークを配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献2)、体積平均粒子径や厚み、大粒径成分の割合を規定したガラスフレークを配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献3)、平均粒子径や厚みを規定したガラスフレークを配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物(例えば、特許文献4)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2022/191099号
【特許文献2】特開2011-74301号公報
【特許文献3】特開2018-168320号公報
【特許文献4】特開2009-215530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~4に示された発明では、精密コネクタなどの肉厚みが変化する複雑形状の成形部品を各樹脂の推奨温度条件で射出成形すると、流動性が低下し成形圧が高くなり、キャビティ内全体に樹脂が充填される前に固化してしまい、金型から取り出された際には製品の一部が欠けた状態になってしまう現象、いわゆるショートショットが生じることにより、不良品が生じ生産性が低下する課題があった。一方で、各樹脂の推奨条件以上の高温で射出成形すると、金型の合わせ面の隙間や突き出しピンなどの隙間から樹脂が溢れる現象、いわゆるバリが生じることにより、不良品が生じ生産性が低下する課題もあった。
【0005】
本発明の課題は、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットやバリがなく成形可能な、液晶ポリエステル樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の構造単位を有する液晶ポリエステル樹脂に対して、特定の平均粒子径を有するガラスフレークを含む、液晶ポリエステル樹脂組成物により、上記した課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成を有する。
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)と、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ガラスフレーク(B)1~100重量部を含む液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂(A)が下記構造単位(I)~(VI)を含む液晶ポリエステル樹脂であって、下記式(a)~(e)を満たし、ガラスフレーク(B)の液晶ポリエステル樹脂組成物中での平均粒子径が1~200μmである、液晶ポリエステル樹脂組成物。
1≦[I]≦20 ・・・(a)
2≦[II]+[III]≦35 ・・・(c)
25≦[IV]≦75 ・・・(b)
2≦[V]≦35 ・・・(d)
0.01≦[VI]≦10 ・・・(e)
([I]~[VI]は、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対する、下記各構造単位(I)~(VI)の含有量(モル%)を示す。)
【0007】
【0008】
(2)前記[V]および[VI]が、下記式(f)を満足する、(1)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
0.003≦([VI]/[V])≦0.15・・・(f)
(3)前記ガラスフレーク(B)の粒子径分布曲線より得られるモード径(最頻度粒子径)における頻度が4.5%以上である、(1)または(2)に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
(5)成形品が、コネクタ、コイルボビン、カメラモジュールのレンズ保持部品およびカメラモジュールのアクチュエータ部品からなる群から選択されるいずれかである(4)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、低バリ性である成形部品を得ることができる。特に、小型の電気・電子部品用途などを成形する際に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ガラスフレーク(B)の粒子径分布曲線の一例を示す図である。
【
図2】肉厚変動充填性評価に用いる成形品の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
<液晶ポリエステル樹脂(A)>
液晶ポリエステル樹脂は、異方性溶融相を形成するポリエステルである。このようなポリエステル樹脂としては、例えば、後述するオキシカルボニル単位、ジオキシ単位、ジカルボニル単位などから異方性溶融相を形成するよう選ばれた構造単位から構成されるポリエステルが挙げられる。
次に、液晶ポリエステル樹脂を構成する構造単位について説明する。
【0013】
本発明に用いられる液晶ポリエステル樹脂(A)は、オキシカルボニル単位として、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する下記構造単位(I)を、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して1~20モル%含むことを特徴とする。構造単位(I)はナフタレン環構造を有しており、後述するp-ヒドロキシ安息香酸やテレフタル酸、ハイドロキノンなどのベンゼン環を有するモノマーと比べて、分子鎖長が僅かに長く、少し曲がった構造をしている。これにより、液晶ポリエステル樹脂の分子鎖が液晶性を保持しつつも強固にパッキングすることを抑制することができ、が向上する。また、液晶性は保ちつつもパッキング性を落とすことができるため、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性が改善し、生産性が向上する。また、前述した通り構造単位(I)を含むことで分子鎖が折れ曲がるため、溶融混錬時に液晶ポリエステル樹脂の分子鎖同士で適度に絡み合うことができ、見かけの粘度が増すためガラスフレーク(B)の平均粒子径を特定の範囲に制御することやガラスフレークのモード径における頻度を好ましい範囲に制御することが容易になる。液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、構造単位(I)は2モル%以上が好ましく、3モル%以上がより好ましい。また、構造単位(I)は15モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0014】
【0015】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、オキシカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(IV)を25~75モル%含む。30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、45モル%以上がさらに好ましい。一方、65モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、55モル%以下がさらに好ましい。
【0016】
【0017】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、ジオキシ単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、ハイドロキノンに由来する、下記構造単位(II)と4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(III)の合計量を2~35モル%を含む。構造単位(II)と(III)の合計量は3モル%以上が好ましく、8モル%以上がより好ましく、13モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位(II)と(III)の合計量は20モル%以下が好ましく、17モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。
【0018】
【0019】
液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、構造単位(II)は2モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、8モル%以上がさらに好ましい。また、構造単位(II)は20モル%以下が好ましく、17モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。
【0020】
さらに、芳香族ジオールとして、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(III)を1~25モル%含むことが好ましい。3モル%以上がより好ましく、5モル%以上がさらに好ましい。一方、20モル%以下がより好ましく、15モル%以下がさらに好ましい。
【0021】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、ジカルボニル単位として、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、テレフタル酸に由来する構造単位(V)を2~35モル%含む。5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上がさらに好ましい。一方、30モル%以下が好ましく、25モル%以下がより好ましい。
【0022】
【0023】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、液晶ポリエステル樹脂(A)の全構造単位100モル%に対して、イソフタル酸に由来する構造単位(VI)を0.01~10モル%含む。イソフタル酸はベンゼン環の1位と3位にカルボキシル基を有しており、他の直線性が高いモノマーと比べて、大きく曲がった構造をしている。これにより、液晶ポリエステル樹脂の分子鎖が強固にパッキングすることを抑制することができるため、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性が向上する。0.05モル%以上が好ましく、0.1モル%以上がより好ましい。一方、8モル%以下が好ましく、6モル%以下がより好ましく、4モル%以上がさらに好ましい。
【0024】
【0025】
本発明の液晶ポリエステル樹脂(A)は、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、下記式(f)を満足することが好ましい。
0.003≦([VI]/[V])≦0.15・・・(f)
【0026】
肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、[VI]/[V]は、0.02以上がさらに好ましく、0.03以上がより好ましい。一方、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、[VI]/[V]は、0.12以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。
【0027】
また、上記構造単位に加えて、エチレングリコール、p-アミノ安息香酸、p-アミノフェノールなどから生成した構造単位を、液晶性や特性を損なわない程度の範囲でさらに有することができる。
【0028】
上記の各構造単位を構成する原料となるモノマーは、各構造単位を形成しうる構造であれば特に限定されない。また、そのようなモノマーの水酸基のアシル化物、カルボキシル基のエステル化物、酸ハロゲン化物、酸無水物などのカルボン酸誘導体などが使用されてもよい。
【0029】
液晶ポリエステル樹脂(A)について、各構造単位の含有量の算出法を以下に示す。各構造単位の含有量は1H-核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定により求める。粉砕した成分(A)を5mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITY INOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃で1H-NMR測定を実施し、7~9.5ppm付近に観測される各構造単位に由来するピーク面積比から組成を分析する。
【0030】
液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)は、280℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、320℃以上がさらに好ましい。一方、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)は、370℃以下が好ましく、360℃以下がより好ましく、350℃以下がさらに好ましい。融点(Tm)の測定は、示差走査熱量測定により行う。具体的には、まず、液晶ポリエステル樹脂(A)を室温から20℃/分の昇温条件で加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm1)を観測する。吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、吸熱ピーク温度(Tm1)+20℃の温度でポリマーを5分間保持する。その後、20℃/分の降温条件で室温までポリマーを冷却する。そして、20℃/分の昇温条件でポリマーを加熱することにより吸熱ピーク温度(Tm2)を観測する。融点(Tm)とは、該吸熱ピーク温度(Tm2)を指す。
【0031】
液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の製造の際に、好ましい粘度範囲に制御しやすい観点から、3Pa・s以上が好ましく、5Pa・s以上がより好ましく、10Pa・s以上がさらに好ましい。一方、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の製造の際に、好ましい粘度範囲に制御しやすいうえ、流動性が向上する観点から、液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度は、50Pa・s以下が好ましく、40Pa・s以下が好ましく、30Pa・s以下がさらに好ましい。
【0032】
なお、この溶融粘度は、液晶ポリエステル樹脂の融点(Tm)+20℃の温度において、かつ、せん断速度1000/秒の条件下で、高化式フローテスターによって測定した値である。
【0033】
<液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法>
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。公知のポリエステルの重縮合法としては、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構造単位、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位、ハイドロキノンに由来する構造単位、テレフタル酸およびイソフタル酸に由来する構造単位からなる液晶ポリエステル樹脂(A)を例に、以下が挙げられる。
【0034】
(1)p-アセトキシ安息香酸、6-アセトキシ-2-ナフトエ酸、4,4’-ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼン、テレフタル酸、およびイソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0035】
(2)p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重合することによって液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0036】
(3)p-ヒドロキシ安息香酸フェニル、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸フェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸ジフェニル、およびイソフタル酸ジフェニルから脱フェノール重縮合反応により液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0037】
(4)p-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、テレフタル酸およびイソフタル酸の芳香族カルボン酸に所定量のジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物を加え、脱フェノール重縮合反応により液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法。
【0038】
なかでも(2)p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアセチル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶ポリエステル樹脂(A)を製造する方法が、液晶ポリエステル樹脂(A)の末端構造の制御および重合度の制御に工業的に優れる点から、好ましく用いられる。
【0039】
本発明で使用する液晶ポリエステル樹脂(A)の製造方法として、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。固相重合法による処理としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、液晶ポリエステル樹脂(A)のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕する。粉砕したポリマーまたはオリゴマーを、窒素気流下、または、減圧下において加熱し、所望の重合度まで重縮合することで、反応を完了させる。上記加熱は、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点-50℃~融点-5℃(例えば、200~300℃)の範囲で1~50時間行うことができる。
【0040】
<ガラスフレーク(B)>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部に対して、ガラスフレーク(B)1~100重量部を含むことを特徴とする。肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、5重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましく、15重量部以上がさらに好ましい。耐熱性と肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、80重量部以下が好ましく、60重量部以下がより好ましく、50重量部以下がさらに好ましい。
【0041】
本発明でのガラスフレーク(B)は、液晶ポリエステル樹脂組成物での平均粒子径が、1~200μmである。肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、2μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。一方、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、180μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0042】
ここでいう平均粒子径は、次の方法により求めることができる。液晶ポリエステル樹脂組成物50gを空気中で550℃にて3時間加熱することにより樹脂成分を除去し、不燃物として残った残渣をガラスフレークとする。得られたガラスフレークを100mg秤量し、水6gと界面活性剤10mgとともに10分間超音波洗浄機で分散させた後に、レーザー回折/散乱式粒子度分布計(Microtrac社製“MT3300EXII”)を用いて粒子径分布を3度測定し、そこで得られた数平均粒子径をガラスフレーク(B)の平均粒子径とした。
【0043】
本発明において(B)成分として用いられるガラスフレークは、本発明の液晶性ポリエステル樹脂組成物の樹脂中における分散性を向上させるという観点からアルカリ成分の含有量が少ないEガラスが好ましいが、アルカリ成分を含有するCガラスも用いることができる。
【0044】
また、本発明に用いるガラスフレークは、誘電性を向上させる観点から、低誘電ガラスフレークを用いてもよい。前記の形状を有する低誘電ガラスフレークを用いることで、成形品としたときの誘電測定において、常温よりも温度上昇させた条件下でも誘電正接の増加が抑制される。この結果は、前記したガラスフレークの特定の範囲に制御しつつ特に低融点ガラスフレークのモード径の頻度を制御することによって、低誘電ガラスフレークの粒子径の分布幅が狭くなり、粒径がより均一に近づくことで、液晶ポリエステル樹脂(A)と低融点ガラスフレークとの密着性がより向上するためだと考えられる。
【0045】
低誘電ガラスフレークの液晶ポリエステル樹脂組成物での平均粒子径は、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、2μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。一方、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、190μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましい。
【0046】
上記のようなガラスフレークの製造方法は、例えば、溶融したガラスを風船のように膨らませ、急冷させた後に粉砕する方法やガラスを溶融槽で加熱溶融し、その槽底から溶融ガラス素地を引き出し、この溶融ガラス素地内に気体を吹き込むことで中空薄膜上に成形したものを押圧ローラーにて粉砕するなどが挙げられる。
【0047】
また、本発明に用いるガラスフレークは、カップリング剤で表面処理されても良く、具体的にはγ―(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ―メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、γ―アニリノプロピルトリメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ―ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビニルアセトキシシランなどのシランカップリング剤や、イソプロピルトリスイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネートなどのチタンカップリング剤、またアセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどのアルミニウムカップリング剤でカップリングしても良い。
【0048】
本発明において、ガラスフレーク(B)を配合した液晶ポリエステル樹脂組成物の肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、ガラスフレークの粒子径分布曲線より得られるモード径の頻度が4.5%以上であることが好ましい。
【0049】
ここで、モード径における頻度は、ガラスフレーク(B)の粒子径を、横軸を粒子径(μm、常用対数表示)、縦軸を頻度(%)でプロットして得られる粒子径分布曲線において、粒子径分布曲線におけるモード径に対応する最も高い点における頻度をモード径における頻度とする。粒子径分布曲線とモード径は、次の方法により求めることができる。液晶ポリエステル樹脂組成物50gを空気中で550℃にて3時間加熱することにより樹脂成分を除去し、不燃物として残った残渣をガラスフレークとする。得られたガラスフレークを100mg秤量し、水6gと界面活性剤10mgとともに10分間超音波洗浄機で分散させた後に、レーザー回折/散乱式粒子度分布計(Microtrac社製“MT3300EXII”)を用いて粒子径分布を3度測定し、そこで得られた頻度(単位(%)、縦軸)と粒子径(単位(μm)、横軸、常用対数表示)の関係から得られる曲線を粒子径分布曲線とした。また、粒子径分布曲線における最頻度粒子径をモード径とした。
【0050】
図1に、レーザー回折/散乱式粒子度分布計によって得られる、ガラスフレーク(B)の粒子径分布曲線の概略図を示す。横軸は、常用対数表示とした粒子径(μm)、縦軸は各粒子径に対応するガラスフレークの頻度(%)を示す。
図1において、モード径における頻度Qは、粒子径分布曲線Pの最頻値(モード径)における頻度を示す。すなわち、モード径における頻度Qはガラスフレークにおいて、粒子径の分布幅が狭くなる、いわゆるシャープな正規分布曲線に近くなる指標である。モード径の頻度Qの値が大きいほど、ガラスフレークにおける、粒子径の分布幅が狭くなることになる。一般的な液晶ポリエステル樹脂組成物として、例えば、公知の液晶ポリエステル樹脂にガラスフレークを含んだ組成物について粒子径分布を測定すると、モード径における頻度は、4.5未満の値となる。この結果は、公知の液晶ポリエステル樹脂組成物の場合、溶融混練によるガラスフレークの折損によって、粒子径の分布幅が広くなってしまうとともに、ガラスフレークの溶融混練前の粒子径である大粒子径側がある程度残ってしまい、小粒径側比、大粒子径側が増加し、粒子径の分布幅が広くなってしまうためだと考えられる。
【0051】
本発明のガラスフレーク(B)のモード径における頻度は、肉厚みが変化する複雑形状の成形部品でもショートショットが少なく、バリ性を改善させる観点から、5.0%以上がより好ましく、5.5%以上がさらに好ましい。一方、ガラスフレークのモード径における頻度の上限はないが、一般的には10.0%以下となる。
【0052】
液晶ポリエステル樹脂組成物の射出成形時には、液晶ポリエステル樹脂(A)の流れ方向に沿ってガラスフレーク(B)は長手方向に配向する。このとき、ガラスフレークを前記した特定の範囲に制御しつつ特にガラスフレークのモード径の頻度を制御することによって、液晶ポリエステル樹脂(A)が長手方向へ配向して流れるだけではなく、短手方向にも流れることができる。これにより、成形金型内での液晶ポリエステル樹脂の流れ方向が多岐に渡り、肉厚みが変わる複雑形状の成形部品であっても低い圧力で成形することが可能となり、特に構造単位(I)~(VI)を全て含む液晶ポリエステル樹脂(A)と組み合わせることによって、特異的に成形性が向上する。
【0053】
本発明のガラスフレーク(B)のモード径における頻度の値を前述の範囲にする手段としては、充填材の折損を抑制し、粒子径分布において範囲が広がらないようにすることであり、上述の構造単位(I)~(VI)からなる、剪断速度依存性の低い液晶ポリエステル樹脂を用いる手法、折損しても粒子径範囲が広がらないように、ガラスフレークの平均粒子径を上記の特定の範囲とする手法や、後述する液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法において好ましい方法とすることが挙げられる。
【0054】
<その他添加剤>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、前述した液晶ポリエステル樹脂(A)とガラスフレーク(B)を含有するが、その他の特性を付与するためにその他の充填材を含有してもよい。本発明で使用される充填材は、特に限定されるものではないが、例えば、繊維状、ウィスカー状、板状、粉末状、粒状などの充填材を挙げることができる。具体的には、繊維状、ウィスカー状充填材としては、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、および針状酸化チタンなどが挙げられる。板状充填材としては、マイカ、タルク、カオリン、クレー、二硫化モリブデン、およびワラステナイトなどが挙げられる。粉状、粒状の充填材としては、シリカ、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などが挙げられる。本発明に使用される上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理されていてもよい。また、本発明に使用される上記の充填材は、2種以上を併用してもよい。
【0055】
一方で、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、充填材の含有量は多すぎると、流動性が悪化し、ショートショットの原因となることがある。充填材の含有量は、液晶性ポリエステル樹脂100重量部に対し、5重量部以下であることが好ましく、より好ましくは3重量部以下である。
【0056】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲でさらに酸化防止剤、熱安定剤(例えば、ヒンダードフェノール、ホスファイト、チオエーテル類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(例えば、レゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料または顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤から選択される通常の添加剤を配合することができる。
【0057】
<液晶ポリエステル樹脂組成物の製造方法>
液晶ポリエステル樹脂(A)に対して、ガラスフレーク(B)やその他の添加剤を配合し、液晶ポリエステル樹脂組成物とする方法としては、例えば、液晶ポリエステル樹脂(A)にガラスフレーク(B)およびその他の固体状の添加剤等を配合するドライブレンド法や、液晶ポリエステル樹脂(A)にガラスフレーク(B)およびその他の液体状の添加剤等を配合する溶液配合法、ガラスフレーク(B)およびその他の添加剤を液晶ポリエステル樹脂(A)の重合時に添加する方法、液晶ポリエステル樹脂(A)にガラスフレーク(B)およびその他の添加剤を溶融混練する方法を用いることができ、なかでも溶融混練する方法が好ましい。
【0058】
溶融混練には、公知の方法を用いることができる。例えば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを挙げることができる。なかでも二軸押出機が好ましい。
【0059】
本発明のガラスフレーク(B)の平均粒子径を特定の範囲に制御することやガラスフレークのモード径の頻度を上記の好ましい範囲に制御する製造方法を以下に記載する。
【0060】
ガラスフレーク(B)の平均粒子径を特定の範囲に制御することやガラスフレークのモード径の頻度を上記の好ましい範囲に制御する観点から、本発明の液晶ポリエステル樹脂を製造する方法として、二軸押出機を用いて溶融混練をする方法が好ましい。なかでも、スクリュー長さをL,スクリュー直径をDとすると、L/D>30の二軸押出機を使用して溶融混練する方法が特に好ましい。ここで言うスクリュー長さとは、スクリュー根元の原料が供給される位置から、スクリュー先端部までの長さを指す。二軸押出機のL/Dの上限は150であり、好ましくはL/Dが30を越え、100以下のものが使用できる。
【0061】
ガラスフレーク(B)のモード径における頻度を上記の好ましい範囲に制御する観点から、溶融混練時の押出機のシリンダーの設定温度は、液晶ポリエステル樹脂(A)の融点+15~+30℃の範囲に設定することが好ましい。設定温度が低いほど、押出機内での剪断発熱が高温となり、ガラスフレークの余分な折損が生じ、粒子径の分布幅が広くなる。
【0062】
また、剪断速度1000/秒の条件下で測定した液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度が3~50Pa・sとなるような温度で溶融混錬することが好ましい。このような溶融粘度となる温度で溶融混錬することで、ガラスフレーク(B)の平均粒子径を特定の範囲に制御することやガラスフレークのモード径の頻度を上記の好ましい範囲に制御することが容易となる。
【0063】
<成形品>
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、通常の射出成形、押出成形、プレス成形、溶液キャスト製膜、紡糸などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)、機械的性質、耐熱性を有する成形品に加工することが可能である。ここでいう成形品としては、射出成形品、押出成形品、プレス成形品、シート、パイプ、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどの各種フィルム、未延伸糸、超延伸糸などの各種繊維などが挙げられる。特に加工性の観点から射出成形であることが好ましい。溶融成形する場合、液晶ポリエステル樹脂組成物の劣化を抑制し、機械強度を向上させる観点から、370℃以下で溶融成形するのが好ましく、360℃以下がより好ましい。
【0064】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形品は、電気・電子部品として好ましく用いることができる。電気・電子部品としては、例えば、パソコン、GPS内蔵機器、携帯電話、衝突防止用レーダーなどのミリ波および準ミリ波レーダー、タブレットやスマートフォンなどの移動通信・電子機器のアンテナに用いられるフレキシブルプリント基板、積層用回路基板、プリント配線基板および三次元回路基板;LEDなどのランプリフレクターやランプソケット、移動通信端末の通信基地局スモールセルやマイクロセル部材、アンテナカバー、筐体、センサー、カメラモジュールのレンズ保持部品、カメラモジュールのアクチュエータ部品、コネクタ、リレーケースおよびベース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサーなどが挙げられる。なかでも、複雑形状の成形部品を各樹脂の推奨温度条件で射出成形した場合に、流動性を保ち、成形圧も低いまま、キャビティ内全体に樹脂が充填され、ショートショットが生じることがなく、かつ各樹脂の推奨条件以上の高温で射出成形した場合にも、バリ性が改善することが可能であるため、肉厚が変動する複雑形状部を有するコネクタ、コイルボビン、カメラモジュールのレンズ保持部品およびカメラモジュールのアクチュエータ部品などに有用である。
【実施例0065】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明が実施例により限定されるものではない。液晶ポリエステル樹脂(A)の組成および特性評価は以下の方法により測定した。
【0066】
(1)液晶ポリエステル樹脂(A)の組成分析
液晶ポリエステル樹脂(A)の組成分析は、1H-核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)測定により求めた。粉砕した成分(A)を5mg秤量し、溶媒(ペンタフルオロフェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2=65/35(重量比)混合溶媒)800μLに溶解して、UNITY INOVA500型NMR装置(バリアン社製)を用いて観測周波数500MHz、温度80℃で1H-NMR測定を実施し、7~9.5ppm付近に観測される各構造単位に由来するピーク面積比から組成を分析した。
【0067】
(2)液晶ポリエステル樹脂(A)の融点(Tm)測定
示差走査熱量計DSC-7(パーキンエルマー製)により、液晶ポリエステル樹脂(A)を室温から20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で加熱した際に観測される吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。
【0068】
(3)液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度
高化式フローテスターCFT-500D(オリフィス0.5φ×10mm)(島津製作所製)を用いて、Tm+20℃で、剪断速度1000/秒の条件で液晶ポリエステル樹脂の溶融粘度を測定した。
【0069】
実施例および比較例に用いられる液晶ポリエステル樹脂(A)またはその他液晶ポリエステル樹脂(a)の製造例を次に示す。
【0070】
[製造例1]
撹拌翼および留出管を備えた5Lの反応容器にモノマー仕込みをp-ヒドロキシ安息香酸(HBA)808重量部、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)88重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(DHB)229重量部、ハイドロキノン(HQ)161重量部、テレフタル酸(TPA)428重量部、イソフタル酸(IPA)19重量部および無水酢酸1278重量部(フェノール性水酸基合計の1.07当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で120分反応させた後、145℃から360℃まで4時間かけて昇温した。その後、重合温度を360℃に保持し、1.0時間かけて1.0mmHg(133Pa)に減圧し、更に反応を続け、所定の撹拌トルクに到達したところで重合を完了させた。次に、直径6mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状に吐出し、カッターによりペレタイズして液晶ポリエステル樹脂(A-1)を得た。この液晶ポリエステル樹脂(A-1)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位の割合が50.0モル%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の構造単位の割合が4.0モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位の割合が10.5モル%、ハイドロキノン由来の構造単位の割合が12.5モル%、テレフタル酸由来の構造単位の割合が22.0モル%、イソフタル酸由来の構造単位の割合が1.00モル%であった。4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位とハイドロキノン由来の構造単位の合計はポリエステルの全構造単位100モル%に対して、23.0モル%であった。また、イソフタル酸由来の構造単位に対するテレフタル酸由来の構造単位の割合は0.045であった。さらに、Tmは332℃、溶融粘度は22Pa・secであった。
【0071】
[製造例2]
モノマー仕込みをHBA905重量部、HNA88重量部、DHB109重量部、HQ193重量部、TPA321重量部、IPA68重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂(A-2)を得た。この液晶ポリエステル樹脂(A-2)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位の割合が56.0モル%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の構造単位の割合が4.0モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位の割合が5.0モル%、ハイドロキノン由来の構造単位の割合が15.0モル%、テレフタル酸由来の構造単位の割合が16.5モル%、イソフタル酸由来の構造単位の割合が3.50モル%であった。4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位とハイドロキノン由来の構造単位の合計はポリエステルの全構造単位100モル%に対して、20.0モル%であった。また、イソフタル酸由来の構造単位に対するテレフタル酸由来の構造単位の割合は0.212であった。さらに、Tmは335℃、溶融粘度は22Pa・secであった。
【0072】
[製造例3]
モノマー仕込みをHBA870重量部、DHB352重量部、HQ89重量部、TPA292重量部、IPA157重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂(a-3)を得た。この液晶ポリエステル樹脂(a-3)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位の割合が53.8モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位の割合が16.9モル%、ハイドロキノン由来の構造単位の割合が6.2モル%、テレフタル酸由来の構造単位の割合が15.0モル%、イソフタル酸由来の構造単位の割合が8.08モル%であった。4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位とハイドロキノン由来の構造単位の合計はポリエステルの全構造単位100モル%に対して、23.1モル%であった。また、イソフタル酸由来の構造単位に対するテレフタル酸由来の構造単位の割合は0.538であった。さらに、Tmは310℃、溶融粘度は24Pa・secであった。
【0073】
[製造例4]
モノマー仕込みをHBA970重量部、DHB436重量部、TPA292重量部、IPA97重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂(a-4)を得た。この液晶ポリエステル樹脂(a-4)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位の割合が60.0モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位の割合が20.0モル%、テレフタル酸由来の構造単位の割合が15.0モル%、イソフタル酸由来の構造単位の割合が5.00モル%であった。イソフタル酸由来の構造単位に対するテレフタル酸由来の構造単位の割合は0.333であった。さらに、Tmは339℃、溶融粘度は23Pa・secであった。
【0074】
[製造例5]
モノマー仕込みを、HBA776重量部、HNA66重量部、DHB534重量部、TPA408重量部、IPA68重量部に変更した以外は実施例1と同様にして、液晶ポリエステル樹脂(a-5)を得た。この液晶ポリエステル樹脂(a-5)について組成分析を行なったところ、p-ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位の割合が48.0モル%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸由来の構造単位の割合が3.0モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位の割合が24.5モル%、テレフタル酸由来の構造単位の割合が21.0モル%、イソフタル酸由来の構造単位の割合が3.50モル%であった。イソフタル酸由来の構造単位に対するテレフタル酸由来の構造単位の割合は0.167であった。また、Tmは332℃、溶融粘度は22Pa・secであった。
【0075】
ガラスフレーク(B)またはその他ガラスフレーク(b)
(B-1)ガラスフレーク1:GF001E(GLASSFLAKE Ltd.製、平均粒子径33μm、厚み1.1μm)を用いた。
(B-2)ガラスフレーク2:GF100E(GLASSFLAKE Ltd.製、平均粒子径161μm、厚み1.2μm)を用いた。
(b-3)ガラスフレーク3:REFG-101(日本板硝子(株)製、平均粒子径600μm、厚み0.7μm)を用いた。
(B-4)低誘電ガラスフレーク4:MX1160FFX(日本板硝子(株)製、平均粒子径158μm、厚み1.3μm)を用いた。
【0076】
[実施例1~5、比較例1~4]
スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)で、各製造例で得られた液晶ポリエステル樹脂(A)またはその他液晶ポリエステル樹脂(a)およびガラスフレーク(B)またはその他ガラスフレーク(b)を表2に示す配合量で二軸押出機に導入した。なお、液晶ポリエステル樹脂(A)は二軸押し出し機の元込め部から、ガラスフレーク(B)またはその他ガラスフレーク(b)は、元込め部とベント部の途中にサイドフィーダーを設置して添加した。シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂(A)またはその他液晶ポリエステル樹脂(a)の融点+25℃に設定し、溶融混合を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通して固化させた後、ストランドカッターによりペレット化した。
【0077】
[実施例6]
シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂(A)またはその他液晶ポリエステル樹脂(a)の融点+5℃に設定した以外は実施例1と同様の方法でペレットを得た。
前記に示すそれぞれの方法にて得られたペレットを用いて、以下(4)~(7)の評価を行った結果を表1に示す。
【0078】
(4)ガラスフレーク(B)の平均粒子径
液晶ポリエステル樹脂組成物50gを空気中で550℃にて3時間加熱することにより樹脂成分を除去し、不燃物として残った残渣をガラスフレーク(B)とした。得られたガラスフレークを100mg秤量し、水6gと界面活性剤10mgとともに10分間超音波洗浄機で分散させた後に、レーザー回折/散乱式粒子度分布計(Microtrac社製“MT3300EXII”)を用いて粒子径分布を3度測定し、そこで得られた数平均粒子径を組成物中におけるガラスフレークの平均粒子径として評価した。
【0079】
(5)ガラスフレーク(B)のモード径における頻度
液晶ポリエステル樹脂組成物50gを空気中で550℃にて3時間加熱することにより樹脂成分を除去し、不燃物として残った残渣をガラスフレーク(B)とする。得られたガラスフレークを100mg秤量し、水6gと界面活性剤10mgとともに10分間超音波洗浄機で分散させた後に、レーザー回折/散乱式粒子度分布計(Microtrac社製“MT3300EXII”)を用いて粒子径分布を3度測定し、そこで得られた頻度(単位(%)、縦軸)と粒子径(単位(μm)、横軸、常用対数表示)の関係から得られる曲線を粒子径分布曲線とした。また、粒子径分布曲線における最頻度粒子径をモード径とし、その頻度を求めガラスフレークのモード径における頻度として評価した。
【0080】
(6)バリ性評価
液晶ポリエステル樹脂組成物を、熱風乾燥機を用いて150℃で12時間乾燥した後、SE50EV-C160射出成形機(住友重機械工業製)に供し、ゲート位置を円板中心部分とした円周上に(p)幅5mm×長さ20mm×厚み1000μm、(q)幅5mm×長さ20mm×厚み700μm、(r)幅5mm×長さ20mm×厚み500μm、(s)幅5mm×長さ20mm×厚み300μm、(t)幅5mm×長さ20mm×厚み100μm、(u)幅5mm×長さ20mm×厚み50μm、(v)幅5mm×長さ20mm×厚み20μm、(w)幅5mm×長さ20mm×厚み10μm、の8つの突起部を有する40mm直径×3mm厚の円盤形状金型を用い、シリンダー温度を液晶ポリエステル樹脂の融点+25℃に設定し、金型温度90℃の温度条件で50本射出成形し、(q)の突起部が先端まで充填される時の(w)の突起部の充填長さについて光学式顕微鏡を用いて測定し、その平均値をバリの長さとして評価した。バリの長さが短いほどバリ性が優れるとした。
【0081】
(7)肉厚変動充填性評価
液晶ポリエステル樹脂組成物を、熱風乾燥機を用いて150℃で12時間乾燥した後、ファナックロボショットα-30C(ファナック(株)製)射出成形機で、樹脂温度を液晶ポリエステル樹脂の融点+10℃に設定し、金型温度90℃として、射出速度150mm/sの条件で、
図2に示すような肉厚が変動する成形品が先端まで充填出来るように20個射出成形した後に、同条件で50ショット成形し、先端まで成形できなかったショートショット数を評価した。ショートショット数が少ないほど、肉厚変動充填性に優れるとした。
【0082】
(8)誘電性評価
液晶ポリエステル樹脂組成物を、熱風乾燥機を用いて150℃で12時間乾燥した後、ファナックロボショットα-30C(ファナック(株)製)射出成形機で、樹脂温度を液晶ポリエステル樹脂の融点+10℃に設定し、金型温度90℃として、70mm×70mm×1mm厚の角板を得た。得られた角板から樹脂の流れ方向に平行に60mm幅で切削し、かつ厚みも0.5mmになるように切削し、長さ70mm×幅60mm×0.5mm厚の誘電性評価用試験片を得た。得られた、試験片をキーサイト・テクノロジー社製ネットワークアナライザーN5290Aおよび(株)関東電子応用開発製スプリットシリンダ共振器CR-740-TCを用いたスプリットシリンダによる複素比誘電率によって80℃、10GHzでの誘電正接を5回測定し、その平均値を誘電性評価の値とした。誘電正接が低いほど、誘電性評価に優れるとした。
【0083】
【0084】
表1の結果から、特定の構造単位を有する液晶ポリエステル樹脂(A)に対して、平均粒子径が特定の範囲に制御された、ガラスフレークを配合することで初めて、バリ性と肉厚変動充填性を高いレベルで両立可能であることが分かる。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、優れた低バリ性と肉厚変動充填性を有するためコネクタ、コイルボビン、カメラモジュールのレンズ保持部品およびカメラモジュールのアクチュエータ部品などの電気・電子部品用途に好適である。