IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社U-Factorの特許一覧

<>
  • 特開-培養上清液の製造方法 図1
  • 特開-培養上清液の製造方法 図2
  • 特開-培養上清液の製造方法 図3
  • 特開-培養上清液の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169274
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】培養上清液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20241128BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20241128BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/0775
C12M1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182964
(22)【出願日】2023-10-25
(62)【分割の表示】P 2023086187の分割
【原出願日】2023-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】520239274
【氏名又は名称】株式会社U-Factor
(74)【代理人】
【識別番号】110003018
【氏名又は名称】弁理士法人プロテクトスタンス
(72)【発明者】
【氏名】舒 宇静
(72)【発明者】
【氏名】堀 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼田 康弘
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029CC11
4B029DG10
4B029GA08
4B029GB10
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC41
4B065BC50
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】 有効成分を高濃度に含む培養上清液を大量に作製する、培養上清液の製造方法を提供する。
【解決手段】 培養上清液の製造方法は、(a)担体、間葉系幹細胞、及び血清を含む培養液(以下、FBS-DMEM)を培養槽に供給する工程と、(b)間葉系幹細胞を担体へ接着させる工程と、(c)FBS-DMEMを使って間葉系幹細胞を培養する工程と、(d)フィルタ内に担体に接着した間葉系幹細胞を残し、FBS-DMEMを除去する工程と、(e)培養槽、担体に接着した間葉系幹細、及びフィルタを洗浄する工程と、(f)血清を含まない上清液用の培養液(以下、CM-DMEM)を培養槽に供給する工程と、(g)CM-DMEMを使って間葉系幹細胞を培養する工程と、(h)フィルタ内に担体に接着した間葉系幹細胞を残し、CM-DMEMを回収する工程と、を備える。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞を培養した培養液から前記間葉系幹細胞を除去した培養上清液を製造する培養容器であって、
前記培養液、前記間葉系幹細胞を入れる円筒形の側面と円形の底面とを有する培養槽と、
前記培養槽内に配置され、前記円筒形の側面に沿うように、縦横の伸びる針金で組み合わせて形成された円筒形のフィルタ保持枠と、
前記培養槽と前記フィルタ保持枠との間に配置される、フィルタと、
を備える培養容器。
【請求項2】
前記フィルタは、前記フィルタ保持枠に沿った円筒部と該円筒部の下側のボウル形状の底部とからなる、請求項1に記載の培養容器。
【請求項3】
前記フィルタのメッシュサイズが、70メッシュから400メッシュである、請求項1または請求項2に記載の培養容器。
【請求項4】
前記培養槽の容量が5l(リットル)から20l(リットル)である、請求項1又は請求項2に記載の培養装置。
【請求項5】
間葉系幹細胞を培養した培養液から前記間葉系幹細胞を除去した培養上清液の製造方法であって、
(a) 繊維から構成される不織布からなる担体、前記間葉系幹細胞、及び血清を含む培養液(以下、FBS-DMEM)を培養槽に供給する工程と、
(b) 前記(a)工程後、前記間葉系幹細胞を前記担体へ接着させる工程と、
(c) 前記FBS-DMEMを使って前記間葉系幹細胞を培養する工程と、
(d) フィルタ内に前記担体に接着した前記間葉系幹細胞を残し、前記FBS-DMEMを除去する工程と、
(e) 前記(c)工程後、前記培養槽、前記担体に接着した前記間葉系幹細、及び前記フィルタを洗浄する工程と、
(f) 前記(d)工程後、血清を含まない上清液用の培養液(以下、CM-DMEM)を培養槽に供給する工程と、
(g) 前記CM-DMEMを使って前記間葉系幹細胞を培養する工程と、
(h) 前記フィルタ内に前記担体に接着した前記間葉系幹細胞を残し、前記CM-DMEMを回収する工程と、
を備える培養上清液の製造方法。
【請求項6】
前記不織布からなる担体は、その不織布の繊維の平均繊維径が10―100μmである請求項5に記載の培養上清液の製造方法。
【請求項7】
前記不織布からなる担体は、Φ3mm-Φ9mmの円盤状である、請求項5に記載の培養上清液の製造方法。
【請求項8】
前記不織布からなる担体は、前記FBS-DMEM又は前記CM-DMEM1000ml当たり5g-40g供給される、請求項5に記載の培養上清液の製造方法。
【請求項9】
前記(a)工程から前記(e)工程後に、前記(f)工程、前記(g)工程及び前記(h)工程が連続して繰り返される、請求項5に記載の培養上清液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の培養上清液を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞を使った医療においては、幹細胞自体が治療効果をもたらすだけでなく、幹細胞が分泌するサイトカインやエクソソーム等の種々の生理活性物質が治療効果に大きく寄与していることが分かっている。間葉系幹細胞を人工的に培養すると、培養液中に細胞からこれらのサイトカイン等が放出されることから、間葉系幹細胞を除去した培養液を培養上清液として回収し有効利用することができる。
【0003】
特許文献1には、透過性膜中空糸の内表面に播種した間葉系幹細胞に培養液を供給する工程と、間葉系幹細胞に培養液を接触させて間葉系幹細胞を培養する工程と、間葉系幹細胞が分泌した成分を含む培養液を回収する工程を含む培養上清液の製造方法が開示されている。特許文献1の発明は、培養上清液を簡便に作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許6958350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の発明は、作製される培養上清が少ないという問題がある。
そこで本発明は、間葉系幹細胞を使って、有効成分を高濃度に含む培養上清液を大量に作製する、培養上清液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態は、間葉系幹細胞を培養した培養液から間葉系幹細胞を除去した培養上清液の製造方法である。その製造方法は、(a)担体、間葉系幹細胞、及び血清を含む培養液(以下、FBS-DMEM)を培養槽に供給する工程と、(b)間葉系幹細胞を担体へ接着させる工程と、(c)FBS-DMEMを使って間葉系幹細胞を培養する工程と、(d)フィルタ内に担体に接着した間葉系幹細胞を残し、FBS-DMEMを除去する工程と、(e)培養槽、担体に接着した間葉系幹細、及びフィルタを洗浄する工程と、(f)血清を含まない上清液用の培養液(以下、CM-DMEM)を培養槽に供給する工程と、(g)CM-DMEMを使って間葉系幹細胞を培養する工程と、(h)フィルタ内に担体に接着した間葉系幹細胞を残し、CM-DMEMを回収する工程と、を備える。
【0007】
(b)工程は、担体がFBS-DMEM中に浮遊するようにFBS-DMEMを攪拌する第一期間と、攪拌を止める第二期間とを有してもよい。
また(c)工程は、担体がFBS-DMEM中に浮遊するようにFBS-DMEMが攪拌されてもよい。
また(g)工程は、担体がCM-DMEM中に浮遊するようにCM-DMEMが攪拌されてもよい。
【0008】
フィルタのメッシュサイズが、70メッシュから400メッシュであることが好ましい。
(a)工程から(e)工程後に、(f)工程から(h)工程が連続して繰り返されることが好ましい。
また(f)工程から(h)工程が2回から4回連続して繰り返されても良い。
【0009】
回収したCM-DMEMに、サイトカイン及びエクソソームの少なくとも一方が所定値よりも少ない場合に、(c)工程及び(e)工程が一度だけ行われ、
回収したCM-DMEMに、サイトカイン及びエクソソームの少なくとも一方が所定値よりも多い場合に、(f)工程から(h)工程が連続して繰り返されても良い。
【0010】
間葉系幹細胞が不死化された幹細胞であることが好ましく、さらに不死化された幹細胞が乳歯歯髄幹細胞であることが好ましい。
【0011】
本実施形態は、間葉系幹細胞を培養した培養液から間葉系幹細胞を除去した培養上清液の製造方法である。そして培養上清液の製造方法は、(p)血清を含む培養液(以下、FBS-DMEM)を使って担体に接着された間葉系幹細胞を培養槽内で培養し、その後培養槽内に配置されたフィルタ内に担体に接着した間葉系幹細胞を残し、FBS-DMEMを除去する工程と、(q)(p)工程後、培養槽、担体に接着した間葉系幹細、及びフィルタを洗浄する工程と、(r)(q)工程後、血清を含まない上清液用の培養液(以下、CM-DMEM)を培養槽に供給し、CM-DMEMを使って間葉系幹細胞を培養した後、フィルタ内に担体に接着した間葉系幹細胞を残し、CM-DMEMを回収する工程と、を備える。
【0012】
(p)工程及び(q)工程が一度だけ行われ、その後、(r)工程が2回から4回連続して繰り返され、再び、(p)工程及び(q)工程が一度だけ行われ、その後、(r)工程が2回から4回連続して繰り返されてもよい。
【0013】
培養槽の容量が5l(リットル)から20l(リットル)であり、フィルタのメッシュサイズが、70メッシュから400メッシュであることが好ましい。また間葉系幹細胞が不死化された幹細胞であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の培養上清液の製造方法によれば、有効成分を高濃度に含む培養上清液を大量に連続して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】フィルター30が装着されていない状態の培養容器100の一例を示した概略断面図である。
図2】(A)はフィルター30の斜視図であり、(B)は担体40の斜視図である。
図3】培養上清液の製造方法の一例を示したフローチャートである。
図4】(A)は培養容器100に培養液が満たされている状態を示した概念図であり、(B)は培養容器100から培養液がほとんど排出された状態を示した概念図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<培養の対象となる幹細胞>
本実施形態の幹細胞としては、特に限定されるものではないが、骨髄間葉系幹細胞、あるいは脂肪組織由来間葉系幹細胞が好適である。動物種も特に限定されず、ヒト、マウス、ラット等のいずれの動物由来のものも使用できる。また、細胞の種類も特に限定されず、例えば、線維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞、神経細胞、幹細胞、白血球、骨細胞、筋肉細胞、脂肪細胞などであってよく、好ましくは線維芽細胞または内皮細胞であってよい。さらに好ましい幹細胞として、ヒト由来の歯髄幹細胞であり、特に乳歯歯髄幹細胞である。
【0017】
<間葉系幹細胞の不死化>
間葉系幹細胞の不死化方法は、例えば米国特許10494606B2に開示されている。この開示方法は、間葉系幹細胞を初期培養して得られた初代培養細胞に、hTERT、bmi-1、E6、及びE7という4種類の遺伝子を導入して、間葉系幹細胞を不死化させることが可能である。
また別の間葉系幹細胞の不死化方法として、不死化幹細胞に、米国特許6146888に開示されている。この開示方法は、SV40遺伝子をウィルスベクターにより導入して、間葉系幹細胞を不死化させることが可能である。別の間葉系幹細胞の不死化方法して、間葉系幹細胞にテロメラーゼ逆転換酵素(TERT)遺伝子を導入する方法などもあり、この方法で間葉系幹細胞を不死化させることが可能である。
【0018】
<間葉系幹細胞の培養上清液>
本明細書において、間葉系幹細胞を培養して得られ、間葉系幹細胞を除去したものを培養上清液という。なお、安全性を高めるため、培養上清液は動物血清を含まないことが好ましい。培養上清液に対して、透析や溶媒置換などを利用して動物血清を無くすこともできる。
【0019】
培養上清液は、凍結または凍結乾燥されてもよいし、凍結乾燥した培養上清液を適切な溶媒に溶解されてもよい。凍結乾燥により良好な保存安定性が得られる。細胞培養上清液の凍結乾燥方法としては、タンパク質を含む液体の凍結乾燥に通常用いられている方法を適用することができる。
【0020】
本実施形態の間葉系幹細胞の培養上清液は、特に乳歯歯髄幹細胞の培養上清液であることが好ましい。乳歯歯髄幹細胞は、増殖能力が高くその培養上清液にはサイトカインやエクソソーム等が多く含まれている。
【0021】
<培養液及びその調整>
本実施形態の培養上清液の製造方法に用いる培養液は、特に限定されない。例えば、DMEM、αMEM、IMDM、ハムF-12、RPMI-1640またはそれらの混合物などを基礎培養液として、ウシ胎児血清(FBS)などの血清、またはKSR(KnockOutTM Serum Replacement)などの血清代替物、グルコース、アミノ酸、ビタミン、抗生剤などを適宜添加した培養液でよい。
【0022】
本実施形態の培養液は、血清を含む培養液(以下、FBS-DMEMと呼ぶ。)と、上清液回収用の血清を含まない培養液(以下、CM-DMEMと呼ぶ。)との2種類を用意することが好ましい。FBS-DMEMは、DMEM、5-20%体積のFBS、及び抗生剤等が含まれることが好ましい。CM-DMEMは、上清液を得るため、DMEM及び抗生剤等が含まれ血清がほとんど含まれない若しくはまったく含まれないものが好ましい。
【0023】
<培養槽及び培養装置>
図1は、本実施形態で用いられる培養容器100の一例を示した概略断面図である。図1は、後述するフィルター30を装着する前の状態を示した図である。
【0024】
培養容器100は、5l(リットル)から20l(リットル)の容量の培養槽10を有する。培養槽10は、内部に培養液を保持する部材で、その形状や容量、材質は、培養の目的に合わせて適宜選択される。本実施形態では、培養槽10は、円形の底面と円筒形の側面とを有する。培養槽10の構成材料は特に限定されるものではないが、本実施形態では、培養槽10は、ガラス、ポリカーボネート材、ステンレス等で構成されていることが好ましく、特に培養状況もしくは攪拌状況を目視で確認できるように、透明材料で構成されることが好ましい。培養槽10の下方には、培養槽10内の温度を調整するヒータ25が巻き付けられている。
【0025】
培養容器100は、天板22を有する。天板22は、培養槽10の上部開口を覆う部材であり、気密性を高めるように天板22と培養槽10との間に複数のOリングORが配置されている。天板22は、例えばポリカーボネート材もしくはステンレス材によって構成することができる。天板22には複数の開口孔が形成されていて、種々の部品の取り付けが可能になっている。本実施形態では、天板22には、攪拌シャフト13、各種センサ18、ガス供給チューブ19、培養液排出ノズル24、培養液供給ノズル(不図示)、ガス排出チューブ(不図示)などが取り付けられている。
【0026】
ステンレス材の攪拌シャフト13の先端にはステンレス材の攪拌パドル12が取り付けられ、攪拌シャフト13の後端には回転モータ16が取り付けられている。また攪拌シャフト13はベアリング15で回転可能に保持されている。例えば攪拌シャフト13は、回転モータ16によって5-100rpmで回転し、培養液を攪拌することができる。培養容器100に、攪拌パドル12、回転モータ16及び攪拌シャフト13を設ける代わりに、テフロン(登録商標)で被覆した攪拌子(磁石の棒)を培養槽10内に入れて、マグネットスターラー(撹拌機)で攪拌子を回転させて、培養液が攪拌されてもよい。
【0027】
各種センサ18は、天板22の開口孔に取り付けられており、培養液中の酸素濃度、二酸化炭素濃度、pH、温度等を測定する。ガス供給チューブ19は、天板22の開口孔に取り付けられ、酸素などのガスを培養液中に供給する。ガス供給チューブ19は、例えば、耐化学薬品性のフッ素樹脂等の材料で構成され多孔質の貫通穴からガスを供給する。ガス排出チューブ(不図示)も天板22の開口孔に取り付けられ、二酸化炭素等の不要なガスを排出する。培養液供給ノズル(不図示)は、天板22の開口孔に取り付けられ、培養液を培養槽10に供給する。培養液排出ノズル24は、天板22の開口孔に取り付けられ、ステンレス等で構成され、培養液もしくは上清液を培養槽10から排出する。なお、天板22の開口孔の代わりに、培養槽10に開口孔を設けて、各種センサ18又は培養液排出ノズル24等が取り付けられても良い。
【0028】
また、天板22もしくは培養槽10に、フィルタ保持枠28が取り付けられている。フィルタ保持枠28は、後述するフィルタ30を例えば円筒形状の所定形状に保持するために設けられている。フィルタ保持枠28は、例えばステンレス等の針金を円筒形状になるように縦横に組み合わせて製作されている。
【0029】
不図示の制御部は、制御プログラムによって、培養液供給ノズル(不図示)で培養液を培養槽10に供給し、攪拌パドル12で培養液を攪拌する。またガス供給チューブ19は、各種センサ18からの測定結果に基づいて、ガス供給チューブ19から酸素を供給したり、ガス排出チューブ(不図示)で二酸化炭素等を排出したり、ヒータ25で培養液の温度を上げたりする。また制御プログラムは、予定時間になると、培養液排出ノズル24で培養液を培養槽10の外に排出する。本実施形態の制御プログラムは、培養液の供給、培養液の温度・pH・酸素濃度等の管理、培養液の回収、培養槽内の洗浄を自動化することができる。
【0030】
<フィルタ>
図2(A)は、本実施形態で用いられるフィルタ30の一例を示した斜視図である。フィルタ30は、全体的に円筒形状で、円筒部32と円筒部32の下部に形成された底部33とを有しており、底部33は円形のボウル形状である。円筒部32の上部には開口部31が形成されている。またフィルタ保持枠28もしくは天板22にフィルタ30を取り付けるための取り付け紐35が開口部31の周辺に設けられている。フィルタ30の大きさは、培養槽10の大きさに依存するが、例えば長さLLが150mmから500mmであり、直径ΦDMがΦ100mmから300mmである。フィルタ30は、軽量性、耐薬品性および熱接着性に優れている点から、ポリプロピレン、ポリエステル、又はポリプロピレンとポリエチレンの組み合わせのフィルタが好ましい。
【0031】
後述するように、間葉系幹細胞は担体40に接着されて浮遊する。このため、フィルタ30は、担体40が貫通せず、接着しなかった間葉系幹細胞が貫通するようなメッシュサイズが好ましい。生きている間葉系幹細胞は担体40に接着したままであるが、死んでしまった幹細胞は担体40から剥がれ、もしくは担体40から剥がれた間葉系幹細胞は死んでしまう。担体40は一般に200μm以上の大きさであり、死んだ間葉系幹細胞の大きさは20μm前後であるため、例えば、フィルタ30のメッシュサイズは、70メッシュ(網目の大きさ約185μm)から400メッシュ(網目の大きさ約35μm)が好ましい。
【0032】
<担体(キャリア)>
図2(B)は、本実施形態で用いられる担体40の一例を示した斜視図である。本実施形態は、担体に接着した幹細胞を培養液に浮遊させた状態で増殖させる培養方法を採用する。大きな培養面積と培養容量とを確保し大量培養を行うため、浮遊培養に担体を用いることが好ましい。担体は多孔質の球形状・多角形状であったり円盤状であったりしてもよい。一般に多孔質の球形状等の担体の大きさは140μmから280μmである。本実施形態では、大量培養のため、厚さLTが200μmから500μmで直径ΦDUがΦ3mmから9mmの大きさの円盤状の不織布の担体40が採用されている。不織布は多孔質性を有するものであることが好ましい。不織布を構成する繊維は、繊維径の小さい繊維であることが望ましく、平均繊維径は好ましくは10~100μm、特に好ましくは15~50μmである。
【0033】
担体の材料は、有機物、無機物、又はこれらの複合材料であってよい。有機物として、例えば、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系ポリマ、アクリルアミド系ポリマ、ポリビニルアルコール、シリコーン系ポリマ、エポキシ樹脂等の合成高分子;コラーゲン、ゼラチン等の天然高分子;ペクチン、ペクチン酸塩等のポリガラクツロン酸;アルギン酸塩、セルロース、架橋アガロース、デキストラン、キトサン等の多糖類などが挙げられる。無機物として、例えば、ガラス、セラミック等が挙げられる。
【0034】
培養槽10に入れられる担体の量は、培養液1000mlに対して、5gから40g(乾燥状態)が好ましい。担体が5gより少ないと、培養される間葉系幹細胞が少なくなり回収される上清液のカイトサイン等の量が少なくなる。一方、担体が40gより多いと、培養条件の管理が難しくなり、間葉系幹細胞が死にやすくなる。
【0035】
<培養方法>
図3は、上清液を製造する製造方法を示したフローチャートである。図1で示された培養容器100の培養槽10内に、フィルタ30が取り付け紐35を使って取り付けられる。図4(A)及び(B)は、フィルタ30がフィルタ保持枠28に取り付けられた概念図である。フィルタ30の外側に培養液排出ノズル24が配置されるようになっている。なお、担体30を見やすくするため、図1に示された各種センサ18、ガス供給チューブ19等は描かれていない。
【0036】
間葉系幹細胞、EDTA溶液等で洗浄された担体40、及び36-38℃に温められたFBS-DMEMが培養槽10に投入される(ステップS31)。なお間葉系幹細胞は、凍結された間葉系幹細胞をフラスコで培養し、培養槽10に必要な量になるまで培養された幹細胞である。各種センサ18は温度、pH、酸素濃度を適宜測定し、FBS-DMEMは、制御プログラムによって、温度調整、pH調整及び酸素濃度調整される。
【0037】
次に、間葉系幹細胞が担体40に接着させられる(ステップS32)。間葉系幹細胞が担体40に接着されるように、攪拌パドル12がFBS-DMEMを所定の回転数で攪拌し、担体40がFBS-DMEM中に浮遊するようにする。さらに、間葉系幹細胞が確実に担体40に接着するように、攪拌パドル12の回転が停止し培養槽10内のFBS-DMEMを落ち着かせる。FBS-DMEMを攪拌する第一期間は、一時間当たり例えば1分から59分に対して、攪拌を止める第二期間は59分から1分である。この攪拌と攪拌の停止とを48時間から72時間続ける。攪拌パドル12の回転は一定であっても良いし、可変させるようにしても良い。
【0038】
次に、間葉系幹細胞が培養される(ステップS33)。攪拌パドル12がFBS-DMEMを所定の回転数で攪拌し、担体40がFBS-DMEM中に浮遊するようにする。これにより、間葉系幹細胞が担体40で三次元的に増殖していく。間葉系幹細胞が増殖し担体40の重量が重くなってくると、攪拌パドル12の回転数を上げないと、担体40がFBS-DMEM中に浮遊しなくなる。このため、攪拌パドル12の回転数を徐々に上げることが好ましい。間葉系幹細胞が担体40の全ての領域を占有すると、プラトー期(静止期)に入る。このため攪拌パドル12の回転数を一定に保ったままでも担体40がFBS-DMEM中に浮遊している。プラトー期になったら培養完了になり、この培養時間は72時間から96時間である。図4(A)は、担体40がFBS-DMEM中に浮遊している状態を示した図である。
【0039】
次に、培養液排出ノズル24がFBS―DMEMを除去する(ステップS34)。その際には攪拌パドル12は停止している。培養液排出ノズル24がFBS-DMEMを排出していくと、担体40がフィルタ30に引っかかる。図4(B)は、FBS-DMEMがほぼ除去され、担体40がフィルタ30内に引っかかっている状態を示した図である。
【0040】
次に、リン酸緩衝液(phosphate-buffered saline:PBS)が培養槽10に供給され、攪拌パドル12が高速で数分間から10分程度回転する。これにより、フィルター30、担体40、各種センサ18、ガス供給チューブ19等を含む培養槽10全体が洗浄される(ステップS35)。そして、培養液排出ノズル24がリン酸緩衝液を回収し、その回収されたリン酸緩衝液は除去される。
【0041】
次に、36-38℃に温められたCM-DMEMが培養槽10に投入される(ステップS36)。各種センサ18は温度、pH、酸素濃度を適宜測定し、CM-DMEMは、制御プログラムによって、温度調整、pH調整及び酸素濃度が調整される。
【0042】
次に、間葉系幹細胞を培養する(ステップS37)。攪拌パドル12がCM-DMEMを所定の回転数で攪拌し、担体40がCM-DMEM中に浮遊するようにする。これにより、間葉系幹細胞が担体40で培養される。培養時間は40時間から60時間である。
【0043】
次に、培養液排出ノズル24でCM―DMEMを回収する(ステップS38)。その際には攪拌パドル12は停止している。培養液排出ノズル24がCM-DMEMを回収し、これが間葉系幹細胞の培養上清液として保管される。
【0044】
回収されたCM―DMEM(培養上清液)は、間葉系幹細胞の状態が良いか否かが判断される(ステップS39)。間葉系幹細胞の状態が良いか否かは、例えば、計測されたサイトカイン及びエクソソームの少なくとも一方が所定の閾値よりも多いか否かで判断されてもよい。分泌されたサイトカイン及びエクソソームの少なくとも一方が所定値よりも多い場合には、間葉系幹細胞の状態が良いことを示している。
【0045】
間葉系幹細胞の状態が良い場合には、ステップS36-S38が連続して繰り返される。間葉系幹細胞の状態が悪い場合には、ステップS40に進み36-38℃に温められたFBS-DMEMが培養槽10に投入される。そしてステップS33-S34に進む。つまり血清である栄養素が間葉系幹細胞に与えられ、間葉系幹細胞が増殖しまたは良好の状態に戻る。
【0046】
ステップS39において、間葉系幹細胞の状態が良いか否かがサイトカイン等が所定の閾値よりも多いか否かで判断されたが、必ずしも毎回計測する必要はない。FBS-DMEMによる培養とCM―DMEMによる培養とを交互に繰り返せば、分泌されたサイトカイン等が所定の閾値よりも多いことが把握できているのであれば、毎回計測することなく、FBS-DMEMによる培養とCM―DMEMによる培養とを交互に繰り返してもよい。CM―DMEMによる培養を4回連続し、その後FBS-DMEMによる培養を1回行っても、分泌されたサイトカイン等が所定の閾値よりも多いことが把握できているのであれば、4回連続のCM―DMEMによる培養及び1回のFBS-DMEMによる培養のサイクルであってもよい。
【実施例0047】
<不死化されたヒト歯髄幹細胞の培養>
ヒト歯髄幹細胞として、ヒト乳歯の歯髄組織から調製したヒト乳歯歯髄幹細胞(SHED)を用いた。また、このSHEDは、SV40遺伝子をウィルスベクターにより導入して不死化されたものである。この不死化されたSHED(以下、IM-SHEDと呼ぶ。)は、-80℃の冷凍庫内で保管しており、常温に解凍され、37℃のFBS-DMEMでフラスコ内で培養された。継代を繰り返し、32枚のフラスコがフルコンフルエントになった状態で、培養槽10に入れられた。
【0048】
<IM-SHEDのFBS-DMEMによる培養>
IM-SHED、60g(乾燥重量)の円盤状の不織布である担体40、及び4000mlのFBS-DMEMが、容量10l(リットル)の培養槽10に投入された。フィルタ30のメッシュサイズは、180メッシュ(網目の大きさ約84μm)を採用した。FBS-DMEMは、pH7.0、溶存酸素2.0、温度37℃で用意された。
【0049】
IM-SHED、不織布の担体40、及びFBS-DMEMが、攪拌パドル12により攪拌された。IM-SHEDが担体40に接着するように、攪拌パドル12の回転は20-40rpmで所定時間回転した後、回転を停止し、再び所定時間回転させるようにプログラムされている。24時間後1000mlのFBS-DMEMが培養槽10に追加投入された。
【0050】
IM-SHEDが担体40に接着する工程が、48時間から72時間行われた後、攪拌パドル12が40rpmの回転数でFBS-DMEMを攪拌し、担体40がFBS-DMEM中に浮遊するようにした。時間と共に担体40に接着したIM-SHEDが増殖するため、担体40がFBS-DMEM内で浮遊しにくくなる。このため攪拌パドル12が40rpmから70rpmへと徐々に回転数を上げてFBS-DMEMを攪拌した。
【0051】
IM-SHED、担体40、及びFBS-DMEMの投入から216時間後に、IM-SHEDの培養完了となり、培養液排出ノズル24でFBS―DMEMが回収された。そして、5000mlのリン酸緩衝液 が培養槽10に供給され、フィルター30、担体40等を含む培養槽10全体が洗浄された。
【0052】
次に、37℃に温められた7500mlのCM-DMEMが培養槽10に投入され、IM-SHEDが培養された。攪拌パドル12はCM-DMEMを50rpmから60rpmの回転数で攪拌し、担体40がCM-DMEM中に浮遊するようにした。IM-SHEDの培養時間は48時間とした。
【0053】
次に、培養液排出ノズル24でCM―DMEMを回収し、IM-SHEDの培養上清液として冷蔵もしくは冷凍保管された。
【0054】
回収された培養上清液は、表1に示されるように、VEGFが3711.5pg/ml、HGFが2566.7pg/ml等、サイトカインが高濃度で分泌されている。例えばVEGFの閾値が3400pg/ml、HGFの閾値が2300pg/ml等と設定された。このため、FBS-DMEMが投入されることなく、CM-DMEMが培養槽10に投入され、連続して培養上清液を回収した。つまり、図3のステップS36-S38が連続して繰り返された。
【表1】
【0055】
表1において、IM―SHED―AUTO(不死化されたヒト歯髄幹細胞の自動培養)は、本実施例のサイトカインの濃度であり、IM―SHED(不死化されたヒト歯髄幹細胞)は、作業者がフラスコを使った場合の濃度であり、SHED(不死化されていないヒト歯髄幹細胞)は、作業者がフラスコを使った場合の濃度である。
【0056】
FBS-DMEMが投入されることなく、5回連続してCM-DMEMが培養槽10に投入されると上記VEGFの閾値を下回ることが確認できた。確実に閾値を超えるように、実施例では、CM-DMEMが2回連続して投入され、そしてFBS-DMEMが1回投入されるサイクルで、培養上清液を自動回収するようにした。この結果、9か月間で40サイクル(CM-DMEMの投入回数が80回、FBS-DMEMの投入回数が40回)繰り返されても、表1で示された高濃度のサイトカインを含む培養上清液を得ることができている。
【0057】
本実施例では、高濃度のサイトカインを得られるだけでなく、大量に培養上清液を得ることができる。例えば、フラスコを使ってIM―SHEDを培養した場合、1枚のフラスコで30mlの培養上清液が得られる。2人の作業者がフラスコを使って培養できる量は、多くても約100枚であり、1ケ月に得ることができる培養上清液は、24lである。一方、本実施例では、作業者がほぼ介入することなく、自動的に1ケ月に80lを得ることができた。なお、培養槽10の容量が20lであれば、160lを得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
10 … 培養槽、 12 … 攪拌パドル、 13 … 攪拌シャフト
15 … ベアリング、 16 … 回転モータ、 18 … 各種センサ
19 … ガス供給チューブ、22 … 天板、 24 … 培養液排出ノズル
25 … ヒータ、 28 … フィルタ保持枠
30 … フィルタ、 31 … 開口部、 33 … 底部
40 … 担体、 100 … 培養容器
図1
図2
図3
図4