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  • 特開-皮膚外用剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169304
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241128BHJP
   A61K 36/86 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20241128BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20241128BHJP
   A61K 36/736 20060101ALI20241128BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 133/00 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/86
A61K35/74
A61K8/99
A61K36/736
A61Q19/00
A61Q19/08
A61P17/00
A61P43/00 107
A61K133:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024031603
(22)【出願日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2023085298
(32)【優先日】2023-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】595134504
【氏名又は名称】株式会社テクノーブル
(71)【出願人】
【識別番号】391045554
【氏名又は名称】株式会社クラブコスメチックス
(72)【発明者】
【氏名】羽田 容介
(72)【発明者】
【氏名】岩野 英生
(72)【発明者】
【氏名】井口 将
(72)【発明者】
【氏名】澤木 茂豊
(72)【発明者】
【氏名】坂口 育代
(72)【発明者】
【氏名】重山 佳太
【テーマコード(参考)】
4C083
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC32
4C087BC56
4C087CA10
4C087MA02
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB22
4C088AB12
4C088AB52
4C088AC03
4C088BA09
4C088CA25
4C088MA07
4C088MA08
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB22
(57)【要約】
【課題】老化関連因子の発現を抑制する効果、及び細胞増殖因子の発現を促進する効果を有する皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】スミレ(Viola mandshurica)の花の抽出物及びサクラの花由来の乳酸球菌(Lactococcus lactis)の培養物の混合物を有効成分として含む皮膚外用剤。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スミレ(Viola mandshurica)の花の抽出物及びサクラの花由来の乳酸球菌(Lactococcus lactis)の培養物の混合物を有効成分として含む皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スミレの花の抽出物及び乳酸球菌の培養液を有効成分として含む皮膚外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚の老化を細胞レベルで解明する研究が行われ、例えば、老化した細胞からその周辺の細胞の老化を誘導する因子(炎症性サイトカイン等)、表皮又は真皮の細胞の増殖に関与する因子(細胞増殖因子)の存在が知られている。炎症性サイトカイン等が周辺の細胞の老化を誘導する現象は、細胞老化随伴分泌現象(Senescence-Associated Secretory Phenotype:SASP)と呼ばれており、これらSASP因子の分泌を抑制することや、又は上記表皮又は真皮の細胞の増殖因子を促進することで、皮膚の老化を予防、改善する研究が注目されている(非特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】大谷直子,細胞老化と細胞老化随伴分泌現象 SASP:その誘導機構と生体における役割. 大阪市医学会雑誌. 2017, 66, 1-6.
【非特許文献2】大谷 直子,細胞老化の誘導機構とその生体における役割‐腸内細菌代謝物による肝星細胞の細胞老化と肝がん促進‐, 日本女性科学者の会学術誌/15 巻 (2015) 1 号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術に鑑みて、炎症性サイトカインの発現を抑制する効果、及び細胞増殖因子の発現を促進する効果を有する皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、スミレ(Viola mandshurica)の花の抽出物及びサクラの花由来の乳酸球菌(Lactococcus lactis)培養物の混合物を有効成分として含む皮膚外用剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、スミレ(Viola mandshurica)の花の抽出物及びサクラの花由来の乳酸球菌(Lactococcus lactis)培養物を有効成分とすることで、炎症性サイトカイン因子の発現を抑制する効果、及び細胞増殖因子の発現を促進する効果を有する皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】表皮角化細胞-線維芽細胞間SA-β-ガラクトシダーゼ(senescence-associated β-galactosidase)活性抑制評価の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の皮膚外用剤は、スミレ(Viola mandshurica)の花の抽出物及びサクラの花由来の乳酸球菌(Lactococcus lactis)培養物の混合物を有効成分として含むことを特徴とする
【0009】
本発明で用いる「スミレ」は、スミレ科(Violaceae)スミレ属(Viola)のスミレ(Viola mandshurica)である。
【0010】
抽出に用いるスミレの花は、そのまま使用することも可能であるが、抽出前に洗浄、乾燥又は細断等の処理を行うことでも良い。
【0011】
抽出溶媒としては、一般的に植物の抽出に用いられる溶媒であれば適宜用いることができ、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール)又は多価アルコール類(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン)が挙げられる。上記抽出溶媒は1種又は2種以上の混液のいずれを使用しても良い。混液を使用する場合は、例えば、水とエタノール、又は水と1,3-ブチレングリコールの混液が好ましい。
【0012】
抽出物の調製に際して、そのpHに特に限定はないが、一般には3~9の範囲とすることが好ましい。かかる意味で、必要であれば、前記抽出溶媒に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ性調整剤、又はクエン酸、塩酸、リン酸、硫酸等の酸性調整剤を配合し、所望のpHとなるように調整してもよい。
【0013】
抽出温度、抽出時間等の抽出条件は、用いる溶媒の種類やpHによっても異なるが、例えば、水、水とエタノールとの混液、又は水と1,3-ブチレングリコールの混液を溶媒とする場合であれば、一般的には、抽出温度は0℃~80℃の範囲であり、抽出時間は1~168時間(1時間~1週間)の範囲である。
【0014】
次に、本発明で用いる乳酸球菌は、サクラの花由来の「Lactococcus lactis」である。
【0015】
乳酸球菌を培養する際の炭素源は、特に限定はなく、炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、ラクトース、ラフィノース等が挙げられる。また、炭素源に加えて、窒素源を添加することでも良く、例えば、窒素源としては、アミノ酸やペプトン等が挙げられる。
【0016】
乳酸球菌の培養温度は、一般的に20℃~40℃の範囲で、好ましくは25℃~37℃の範囲であり、pHは、一般的には3.0~8.5の範囲で、好ましくは3.5~7.5の範囲である。また培養時間は、一般的に12時間~10日間の範囲で、好ましくは1日~7日間の範囲である。
【0017】
本発明においては、上記の条件で培養した乳酸球菌培養液を、培養終了後、濾過処理し、培養上清を有効成分として使用する。
【0018】
本発明は、上記スミレの花の抽出物と上記乳酸球菌培養液の混合物を有効成分とするものである。ここで、スミレの花の抽出物と、乳酸球菌培養液の配合比は7:3~3:7の範囲であり、より好ましくは1:1である。
【0019】
本発明の有効成分である上記混合物は、皮膚外用剤(化粧料、医薬部外品、外用医薬品)に配合することができる。皮膚外用剤としては、例えば、乳液、クリーム、ローション、エッセンス、パック、口紅、ファンデーション、リクイドファンデーション、メイクアッププレスパウダー、ほほ紅、白粉、洗顔料、ボディシャンプー、頭皮,頭髪用シャンプー、頭髪用コンディショナー、育毛,養毛用のシャンプー又はトニック、石けん等の清浄用化粧料、さらには浴剤等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
本発明に係る混合物を皮膚外用剤(化粧品、医薬部外品及び外用医薬品等)に配合する際には、通常、皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、油性成分、界面活性剤(合成系、天然物系)、増粘剤、乳化剤又は乳化助剤、防腐・殺菌剤、粉体成分、紫外線吸収剤、抗酸化剤、金属イオン封鎖剤、色素、香料を適宜配合することができる。また、保湿剤、抗炎症剤、色素沈着予防剤、抗シワ剤及びその他生理活性成分等も必要に応じて適宜配合することができる。
【0021】
保湿剤としては、例えば、ムコ多糖類(ヒアルロン酸及びその誘導体、ヒアルロン酸発酵液、コンドロイチン及びその誘導体又はヘパリン及びその誘導体等)、エラスチン又はその誘導体、コラーゲン又はその誘導体、コラーゲンペプチド、アミノ酸又はその誘導体が挙げられる。
【0022】
また、抗炎症剤としては、アラントイン、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、β-グリチルレチン酸、グリチルレチン酸ステアリル、ε-アミノカプロン酸、バクチオール、トラネキサム酸、パントテニルアルコール、パルミチン酸レチノール、ビタミンE又はその誘導体(酢酸トコフェロール等)等が挙げられる。
【0023】
また、色素沈着予防剤としては、例えば、アスコルビン酸又はその誘導体、ハイドロキノン又はその誘導体、エラグ酸又はその誘導体、レゾルシノール誘導体、4-メトキシサリチル酸カリウム塩、ニコチン酸又はその誘導体等が挙げられる。アスコルビン酸誘導体としては、例えば、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルナトリウム、L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルマグネシウム、L-アスコルビン酸-2-硫酸エステルナトリウム、L-アスコルビン酸-2-硫酸エステルマグネシウム、L-アスコルビン酸-2-グルコシド、L-アスコルビン酸-5-グルコシド、テトラヘキシルデカン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルリン酸3Na、3-O-エチルアスコルビン酸等が挙げられ、ハイドロキノン誘導体としては、アルブチン(ハイドロキノン-β-D-グルコピラノシド)、α-アルブチン(ハイドロキノン-α-D-グルコピラノシド)等が挙げられる。
【0024】
また、抗シワ剤としては、ナイアシンアミド、ビタミンA又はその誘導体等が挙げられる。
【0025】
次に、製造例及び試験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0026】
製造例1.本発明に係る混合物の調製
[スミレの花の抽出物の調製]
スミレ(Viola mandshurica)の花56gに精製水を2800g添加し、4℃で18時間撹拌した。これをろ過し、淡紫色のスミレ花の粗抽出物2640gを得た(固形分濃度0.11%)。得られたスミレ花の粗抽出物を濃縮し、濃縮液363gを得た。濃縮液363gに1,3-ブチレングリコールを添加して、ろ過し、黄色透明のスミレ花抽出物510gを得た(固形分濃度0.40%)。
[乳酸球菌培養液の調製]
グルコール及びペプトンを含む液体培地を調製して滅菌し、その滅菌した液体培地900gに、予めGYP液体培地で培養しておいたサクラの花由来の乳酸球菌(Lactococcus lactis)の前培養液18gを添加し、30℃で6日間静置培養した。この乳酸球菌の培養液を加熱殺菌して濾過し、749gの乳酸球菌培養液を得た(固形分濃度1.10%)。
[混合物の調製]
上記スミレ花抽出物500gに上記乳酸球菌培養液500gを混合して、ろ過し、淡黄褐色透明のスミレ花抽出物及び乳酸球菌培養液の混合物970gを得た(固形分濃度0.63%)。
【0027】
試験例1.細胞増殖因子発現の促進効果の評価試験
ヒト由来正常表皮細胞(NHEK)をHuMedia-KG2(クラボウ社製)を用いて24 well plate(IWAKI)に6×10cells/wellとなるように細胞を播種し、5%COの存在下、37℃で一日間培養した。次に、HuMedia-KB2(クラボウ社製)に交換し、さらに同培地に試料溶液として、製造例1の混合物をその最終濃度が2.0%となるように添加した試料溶液と、試料溶液(製造例1の混合物)に代えて30%1,3-ブチレングリコールを同様の濃度で添加したコントロール(Control)溶液を調製し、各wellに追添加してさらに24時間培養した。この培養上清を用いてHuman Growth Factor Antibody Array - Membrane (41 Targets), ab134002(アブカム)で解析を行なった。細胞増殖因子の発現量は、30%1,3-ブチレングリコール添加区をコントロール(Control)とし、その値を100としたときの相対量で示した。
【0028】
試験例1の結果を表1に示す。
[表1]
【0029】
表1に示すように、本発明に係る混合物は、細胞増殖因子の発現を顕著に促進することが確認された。
【0030】
表1に示す「VEGF」、「VEGF-D」、「VEGFR2」及び「VEGFR3」は、血管内皮細胞増殖因子であることから、本発明に係る混合物は、これらの因子の発現を促進することで、血管新生による育毛効果を発揮することが示唆される。
【0031】
また、表1に示す「PDGF-AA」、「PDGF-AB」、「PDGF-BB」及び「PIGF」は、線維芽細胞の増殖因子として知られている血小板由来増殖因子であり、「PDGFRα」及び「PDGERβ」は、血小板由来増殖因子の受容体因子であることから、本発明に係る混合物は、線維芽細胞の増殖を促進することで、線維芽細胞でのコラーゲン等の細胞外マトリックスの産生を促進し、シワやタルミの改善の効果を発揮することが示唆される。
【0032】
表1に示す「TGF-α」、「TGF-β」、「TGF-β2」及び「TGF-β3」は、コラーゲンの合成を開始させる因子として知られているトラスフォーミング増殖因子であることから、本発明に係る混合物は、コラーゲンの合成を促進し、シワやタルミの改善の効果を発揮することが示唆される。
【0033】
また、表1に示す「IGF-1」は、線維芽細胞の増殖を促進するインスリン様成長因子-1であり、「IGF-ISR」はインスリン受容体基質因子であることから、本発明に係る混合物は、線維芽細胞の増殖を促進して、コラーゲン等の細胞外マトリックスの産生を促進し、シワやタルミの改善の効果を発揮することが示唆される。
【0034】
また、表1に示す「FGF-7」は、線維芽細胞増殖因子であることから、本発明に係る混合物は、線維芽細胞の増殖を促進して、コラーゲン等の細胞外マトリックスの産生を促進し、シワやタルミの改善の効果を発揮することが示唆される。
【0035】
また、表1に示す「HGF」は、肝細胞増殖因子は、種々の上皮細胞に対して増殖促進効果を示すことから、本発明に係る混合物は、皮膚のターンオーバーを改善する効果が示唆される。
【0036】
試験例2.サイトカイン分泌抑制効果の評価試験
ヒト由来正常表皮細胞(NHEK)をHuMedia-KG2(クラボウ社製)を用いて24 well plate(IWAKI)に6×10cells/wellとなるように細胞を播種し、5%COの存在下、37℃で一日間培養した。次に、HuMedia-KB2(クラボウ社製)に交換し、さらに同培地に溶液として、製造例1の混合物をその最終濃度が2.0%となるように添加した試料溶液と、試料溶液(製造例1の混合物)に代えて30%1,3-ブチレングリコールを同様の濃度で添加したコントロール(Control)溶液を調製し、各wellに追添加してさらに24時間培養した。その後、紫外線ランプ(TL20W/12RS, Phillips社製)を用いて培養器底面より、約50mJ/cmの紫外線B(UV-B)波を照射した。さらに24時間培養を行い、上清を回収した。この上清を用いてHuman Cytokine Antibody Array(42 Target 8memb) ab133997(アブカム)で解析を行なった。サイトカイン量は、紫外線(UV-B)未照射での30%1,3-ブチレングリコールの添加区をコントロール(Control)とし、その値を100としたときの相対量で示した。
【0037】
試験例2の結果を表2に示す。
[表2]
【0038】
表2に示すように、まず、UV-Bの照射により、表皮細胞からサイトカインの分泌が誘導されることが確認され、また、製造例1の混合物により炎症性サイトカイン因子の分泌が抑制されることが確認された。
【0039】
表2に示す「IL-6」、「MCP-1」及び「IL-1α」は、周辺の細胞の老化を誘導するSASP因子であることから、本発明に係る混合物は、この因子の分泌を抑制することで皮膚の老化を抑制する効果が示唆される。
【0040】
また、表2に示す「IL-7」は、サイトカインの一種であり、免疫応答性を亢進する働きがあることから、本発明に係る混合物は、この因子の分泌を抑制することで過剰な免疫応答を抑制し、皮膚を健全に保ち、皮膚の老化を抑制する効果が示唆される。
【0041】
また、表2に示す「IL-10」及び「IL-12p40/70」は、サイトカイン等の炎症シグナル因子であることから、本発明に係る混合物は、この因子の分泌を抑制することで炎症を抑制し、皮膚を健全に保ち、皮膚の老化を抑制する効果が示唆される。
【0042】
また、表2に示す「MCP-2」及び「MCP-3」は、それぞれモノサイト由来、マクロファージ由来のケモカインであることから、本発明に係る混合物は、この因子の分泌を抑制することで白血球の遊走を抑制し、皮膚の老化を抑制する効果が示唆される。
【0043】
試験例3.老化関連因子の抑制効果の評価試験
正常ヒト表皮細胞NHEKを24ウェルプレートに6×10 cells/wellとなるように播種し、5%CO、飽和水蒸気下、37℃で培養した。24時間培養後、試料溶液として製造例1の混合物をその最終濃度が2.0%を添加し、さらに24時間培養した。次に、培養器底面から紫外線ランプ(Philips社製TL20W/12RS)を用いて約50mJ/cmの紫外線(UV-B)の照射を行った。その後、試料溶液を含まない培地に交換して培養し、48時間培養後、上清を回収した(上清A)。
一方で正常ヒト線維芽細胞(新生児由来線維芽細胞、成人由来線維芽細胞をそれぞれ使用)を0.5%NCS含有イーグル最少必須培地にて6×10個/mLに調製し、24ウェルプレートに1mLずつ播種して、5%CO、飽和水蒸気下、37℃で培養した。24時間培養後、上記上清Aを添加して培養した。また、比較対照として、試料溶液に代えて、同濃度の30%1,3-ブチレングリコール水溶液のみを含んで表皮細胞に添加した培養上清を添加した試験区(コントロール区)を設定した。72時間培養後、それぞれの試験区の細胞をISOGEN II試薬(ニッポン・ジーン社製)0.5mLで回収した。回収した細胞に対してRNase フリー水200μL添加して撹拌混合し室温で15分放置後、遠心分離機(TOMY社製/MX-160)で15,000rpm、4℃の条件下で15分間遠心分離した後、上清のみを500μL分取した。回収した上清にイソプロパノール(和光純薬工業社製)500μLを添加して撹拌混合し、室温で10分放置後15,000rpm、4℃の条件下で10分間遠心分離してtotalRNAの沈殿物を得た。totalRNAに75%エタノールを0.5mL添加し、15,000rpm、4℃条件下で3分間遠心分離して沈殿を回収した。上清を捨て、この作業を2回繰り返した。上清を完全に除去した後、風乾し、RNaseフリー水に溶解させた。回収したtotal RNAを所定のキット[PrimeScript RT reagent Kit with gDNA Eraser (Perfect Real Time)(タカラバイオ社製)]を用いて逆転写反応し、cDNAを合成した。合成したcDNAをサンプルとして、Thermal Cycler Dice(登録商標)Real Time System Single(タカラバイオ社製)、及びSYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM II(Perfect Real Time)[タカラバイオ社製]を用いて、各種遺伝子の発現と、内部標準物質ACTB遺伝子の発現の検出を行った。ここで、ACTB(βアクチン)は、ハウスキーピング遺伝子(多くの組織や細胞中に共通して一定量発現する遺伝子であって、常に発現され,細胞の維持,増殖に不可欠な遺伝子である)の一つであり、発現量が常に一定とされていることから、PCRの実験では内部標準として用いられるものである。試験結果は、ACTB遺伝子の発現量を一定とした場合の、それぞれの試験区での各遺伝子の発現量を比較した。本試験系においては、表皮細胞に対して紫外線(UV-B)を照射したコントロール区の遺伝子の発現量を100としたときの他の試験区での遺伝子の発現量の相対値を求めた。
【0044】
新生児由来線維芽細胞についての試験例3の評価結果を表3に示し、次に、成人由来線維芽細胞についての試験例3の評価結果を表4に示す。
[表3]
【0045】
[表4]
【0046】
試験例3の結果、新生児由来線維芽細胞及び成人由来線維芽細胞のいずれもSASP因子として知られるマトリックスメタロプロテイナーゼ-3(MMP-3)の発現が紫外線(UV-B)の照射により誘導されることが確認され、特に、成人由来線維芽細胞でより誘導率が高いことが確認された。その上で、新生児由来線維芽細胞及び成人由来線維芽細胞の両細胞において、本発明に係る製造例1の混合物が、「MMP-3」の発現を抑制することも確認された。さらに、成人由来線維芽細胞では他のSASP因子と知られている「IL-6」及び「IL-8」についても、本発明に係る製造例1の混合物は、それらの発現を抑えることが確認された。従って、本発明によれば、SASP因子の分泌を抑えて、他の細胞の老化を誘導するという連鎖的な現象を抑え、シワ又はシミ等の皮膚の老化を抑制する効果が示唆される。
【0047】
試験例4.表皮角化細胞-線維芽細胞間SA-β-ガラクトシダーゼ活性抑制評価試験
表皮角化細胞と線維芽細胞間における間接的な細胞老化への本発明に係る製造例1の混合物が及ぼす効果を評価するために以下のような試験を行った。
まず、正常ヒト表皮角化細胞株(NHEK、クラボウ社製)を24ウェルプレートに6.0×10cells/wellとなるようにHuMedia-KG2(クラボウ社製)を用いて播種し5%CO2下、37℃で24時間培養した。HuMedia-KB2(クラボウ社製)に置き換えたのちに、製造例1の混合物を溶液として最終濃度が2.0%の2倍となるように添加した試料溶液と、製造例1の混合物に代えて30%1,3-ブチレングリコールを同様に添加したコントロール溶液を調製し、各ウェルに追添加してさらに24時間培養した。製造例1の混合物のキャリーオーバーを防ぐために培養液をHuMedia-KB2に再度置換し、UV-Bを50mJ/cm2となるように照射し、48時間培養を行って、各条件における表皮角化細胞の分泌物を培養液中に蓄積させた。同時にUV-B未照射の試験区も準備し、照射区との比較対照とした。それぞれの培養上清を回収し液体窒素で瞬間凍結させて80℃で保管した。成人由来の正常ヒト線維芽細胞(NHDF)を、0.5%NCSを含むイーグルMEM培地を用いてスライド&チャンバー8ウェル(WATSON)に2.0×10cells/wellとなるように播種し、5%CO下、37℃で1日間培養した。次に、上記で回収した培養上清を37℃の温浴で急速解凍したのちに、室温下、約3000×gで遠心した上清を追添加して6日間培養を続けた。PBSで二回洗浄を行い、1μM SPiDER-βGal(同仁化学研究所)を含んだ0.5%NCSを含むイーグルMEM培地に置き換え、37℃、30分間インキュベートを行なった。培養終了後、PBSで二回洗浄した後に、蛍光顕微鏡BZ-X810(キーエンス)のGFPフィルターを用いて撮影を行った。この撮影により、老化指標として広く用いられているSA-β-ガラクトシダーゼの活性が高くなっている細胞を白い矢印で示した。なお、本来、細胞は分裂回数に限りがあり、分裂を繰り返すことで分裂能が低下し、最終的には分裂しなくなる。この現象は細胞老化と呼ばれており、SA-β-ガラクトシダーゼは細胞老化が進行することにより、その活性が高くなることから細胞老化の指標として使われている。
【0048】
試験例4の結果を図1に示す。図1に示すように、UV-Bを照射し、かつ、コントロール溶液を添加して培養した表皮角化細胞上清が、線維芽細胞でのSA-β-ガラクトシダーゼの活性化を促すことが示された。一方、UV-Bを照射し、かつ、本発明に係る混合物を添加して培養した表皮細胞上清を線維芽細胞に添加して培養しても、SA-β-ガラクトシダーゼの活性化が抑えられることが確認された。これにより、本発明に係る混合物は、紫外線の照射を受けた表皮細胞において線維芽細胞を老化させる因子の分泌を抑える効果を有することが示唆される。
図1