(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169333
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ゲル化凍結製剤
(51)【国際特許分類】
A61L 27/38 20060101AFI20241128BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20241128BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20241128BHJP
C12N 5/077 20100101ALN20241128BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20241128BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20241128BHJP
A61P 19/08 20060101ALN20241128BHJP
A61P 1/02 20060101ALN20241128BHJP
A61K 35/28 20150101ALN20241128BHJP
A61K 47/42 20170101ALN20241128BHJP
A61K 47/02 20060101ALN20241128BHJP
A61K 35/35 20150101ALN20241128BHJP
A61K 35/51 20150101ALN20241128BHJP
A61K 35/50 20150101ALN20241128BHJP
A61K 35/32 20150101ALN20241128BHJP
A61K 35/545 20150101ALN20241128BHJP
【FI】
A61L27/38 300
A61L27/38 111
A61L27/44
A61L27/52
A61L27/22
A61L27/02
C12N5/077
C12N5/0775
C12N5/10
A61P19/08
A61P1/02
A61K35/28
A61K47/42
A61K47/02
A61K35/35
A61K35/51
A61K35/50
A61K35/32
A61K35/545
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076385
(22)【出願日】2024-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2023084517
(32)【優先日】2023-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】513232130
【氏名又は名称】株式会社Regene Pharm
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】松山 華雪
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4C076AA09
4C076BB22
4C076BB23
4C076BB32
4C076CC09
4C076DD23
4C076DD23P
4C076EE41P
4C076FF35
4C076GG01
4C081AB03
4C081AB04
4C081AB06
4C081BA12
4C081BC02
4C081CD18
4C081CD34
4C081CF21
4C081DA12
4C081EA02
4C081EA12
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB44
4C087BB46
4C087BB58
4C087BB59
4C087BB64
4C087CA04
4C087DA32
4C087MA05
4C087MA28
4C087NA20
4C087ZA67
4C087ZA96
(57)【要約】
【課題】解凍後すぐに使用でき、解凍洗浄において遠心器等の特別な機器必要とせず、移植のための特別な手技を必要としない細胞製剤を提供する。
【解決手段】間葉系細胞を含む凍結ゲル化製剤、および間葉系細胞をゲルに包埋し、ゲルを凍結することを含む、凍結ゲル化剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系細胞を含む凍結ゲル化製剤。
【請求項2】
間葉系細胞が脂肪組織由来である請求項1記載の凍結ゲル化製剤。
【請求項3】
間葉系細胞が多能性幹細胞由来である請求項1記載の凍結ゲル化製剤。
【請求項4】
間葉系細胞が脂肪組織由来幹細胞(ADMSC)、脂肪組織由来細胞(ASC)、骨髄由来幹細胞(BSC)、臍帯由来幹細胞、歯髄由来幹細胞、胎盤由来幹細胞、軟骨由来幹細胞、または多能性幹細胞由来間葉系幹細胞である請求項1記載の凍結ゲル化製剤。
【請求項5】
間葉系細胞が脂肪組織由来幹細胞(ADMSC)である請求項1記載の凍結ゲル化製剤。
【請求項6】
間葉系細胞が活性化されたものである請求項1記載の凍結ゲル化製剤。
【請求項7】
組織治癒用である請求項1~6のいずれか1項記載の凍結ゲル化製剤。
【請求項8】
歯科用である請求項1~6のいずれか1項記載の凍結ゲル化製剤。
【請求項9】
間葉系細胞をゲルに包埋し、ゲルを凍結することを含む、凍結ゲル化剤の製造方法。
【請求項10】
間葉系細胞が脂肪組織由来である請求項9記載の方法。
【請求項11】
間葉系細胞が多能性幹細胞由来である請求項9記載の方法。
【請求項12】
間葉系細胞が脂肪組織由来幹細胞(ADMSC)、脂肪組織由来細胞(ASC)、骨髄由来幹細胞(BSC)、臍帯由来幹細胞、歯髄由来幹細胞、胎盤由来幹細胞、軟骨由来幹細胞、または多能性幹細胞由来間葉系幹細胞である請求項9記載の方法。
【請求項13】
間葉系細胞がADMSCである請求項9記載の方法。
【請求項14】
間葉系細胞が活性化されたものである請求項9~13のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞製剤に関する。詳細には、本発明は、間葉系細胞を含む凍結ゲル化製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
移植や組織治癒に用いる細胞は、凍結細胞懸濁液の形態で医療機関に輸送されることがある。細胞の凍結方法についても様々な工夫が報告されている(例えば特許文献1等参照)。しかし通常の凍結細胞懸濁液では、その解凍洗浄において遠心機などの機器が必要であり、当該機器の医療機器としての承認も必要である。遠心機等の機器を持たない医療機関も多い。そのうえ、解凍した細胞の移植や適用には、細胞の再懸濁等の特別な手技が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
凍結後すぐに使用でき、解凍洗浄において遠心器等の特別な機器必要とせず、移植や適用のための特別な手技を必要としない凍結細胞製剤が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決せんと鋭意研究を重ね、間葉系細胞を包埋したゲルを凍結することにより作製した凍結ゲル化製剤により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下を提供する:
(1)間葉系細胞を含む凍結ゲル化製剤。
(2)間葉系細胞が脂肪組織由来である(1)記載の凍結ゲル化製剤。
(3)間葉系細胞が多能性幹細胞由来である(1)記載の凍結ゲル化製剤。
(4)間葉系細胞が脂肪組織由来幹細胞(ADMSC)、脂肪組織由来細胞(ASC)、骨髄由来幹細胞(BSC)、臍帯由来幹細胞、歯髄由来幹細胞、胎盤由来幹細胞、軟骨由来幹細胞、または多能性幹細胞由来間葉系幹細胞である(1)記載の凍結ゲル化製剤。
(5)間葉系細胞が脂肪組織由来幹細胞(ADMSC)である(1)記載の凍結ゲル化製剤。
(6)間葉系細胞が活性化されたものである(1)~(5)のいずれか記載の凍結ゲル化製剤。
(7)組織治癒用である(1)~(6)のいずれか記載の凍結ゲル化製剤。
(8)歯科用である(1)~(7)のいずれか記載の凍結ゲル化製剤。
(9)間葉系細胞をゲルに包埋し、ゲルを凍結することを含む、凍結ゲル化剤の製造方法。
(10)間葉系細胞が脂肪組織由来である(9)記載の方法。
(11)間葉系細胞が多能性幹細胞由来である(9)記載の方法。
(12)間葉系細胞が脂肪組織由来幹細胞(ADMSC)、脂肪組織由来細胞(ASC)、骨髄由来幹細胞(BSC)、臍帯由来幹細胞、歯髄由来幹細胞、胎盤由来幹細胞、軟骨由来幹細胞、または多能性幹細胞由来間葉系幹細胞である(9)記載の方法。
(13)間葉系細胞がADMSCである(9)記載の方法。
(14)間葉系細胞が活性化されたものである(9)~(13)のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の凍結ゲル化製剤は、解凍後すぐに使用でき、解凍洗浄において遠心器等の特別な機器を必要とせず、移植や適用のための特別な手技も必要としない。本発明の凍結ゲル化製剤は、細胞をそのまま凍結したものではなく、細胞をゲルに包埋した後に凍結して得られるものであり、医療現場で凍結ゲルを解凍するだけで、そのまま移植するという手技を可能にする。また、本発明の凍結ゲル化製剤は凍結保存状態で輸送できるので、運搬し易いという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1の破線の左3つの像はIL-1βで活性化していないヒトADMSCのアリザリンレッド染色像、
図1の破線の右3つの像はIL-1βで活性化したヒトADMSCのアリザリンレッド染色像を示す。
【
図2】
図2は、ビーグル犬2壁性骨欠損モデルの移植部分のCT像を示す。左がIL-1βで活性化していないヒトADMSCを含むゲル化製剤を移植した部分のCT像、右がIL-1βで活性化したヒトADMSCを含むゲル化製剤を移植した部分のCT像である。骨新生部分を白く強調してある。
【
図3】
図3は、ビーグル犬2壁性骨欠損モデルにおいて、IL-1βで活性化していないヒトADMSCを含むゲル化製剤を移植した群の新生骨量の平均値(mm
3)および標準偏差(control, 左のバー)、IL-1βで活性化したヒトADMSCを含むゲル化製剤を移植した群の新生骨量の平均値(mm
3)および標準偏差(test, 右のバー)を示す。
【
図4】
図4は、ビーグル犬2壁性骨欠損モデルの移植部分の切片像を示す。左がIL-1βで活性化していないヒトADMSCを含むゲル化製剤を移植した動物から得た切片像、右がIL-1βで活性化したヒトADMSCを含むゲル化製剤を移植した動物から得た切片像を示す。骨新生部分を破線で囲んである。スケールバーは1000μmである。
【
図5】
図5は、培養24時間目、48時間目、72時間目および96時間目における細胞Aの遺伝子発現と細胞Bの遺伝子発現との相関を示す図である。横軸は細胞AのmRNA発現量、縦軸は細胞BのmRNA発現量である。
【
図6】
図6は、96時間培養後の細胞AおよびBにおける8遺伝子(CSF2、CSF3、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL6、CXCL8およびIL-1β遺伝子)の発現の相関を示す図である。横軸は細胞AのmRNA発現量、縦軸は細胞BのmRNA発現量である。
【
図7】細胞Aにおける培養24時間目および96時間目の8遺伝子(CSF2、CSF3、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL6、CXCL8およびIL-1β遺伝子)の発現の相関を示す図である。横軸は24時間培養のmRNA発現量、縦軸は96時間培養のmRNA発現量である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、1の態様において、間葉系細胞を含む凍結ゲル化製剤を提供する。
【0010】
凍結ゲル化製剤は、間葉系細胞を包埋したゲルを凍結したものである。
【0011】
組織治癒のための細胞移植を行う場合、細胞で凍結し、医療現場において凍結した細胞を解凍、洗浄したうえでゲルに包埋し、包埋直後に移植するというのがこれまでの常識である(従来法)。しかし、細胞を洗浄するには、遠心分離機が必要であり、利用する遠心分離機自体も医療機器承認を取得する必要があり、大学病院等でなければこの医療を届けることが難しいという問題点がある。
【0012】
これに対し、本発明の凍結ゲル化製剤は、医療現場で凍結ゲルを解凍するだけで、そのまま移植するという手技を可能にする。そのため、本発明の凍結ゲル化製剤を用いると、移植の手技が簡単なうえ、遠心分離機について医療機器承認を取得する必要がないため、小規模クリニック等でも移植を実施することができる。しかも、本発明の凍結ゲル化製剤中の細胞の遺伝子発現は、従来法で用いられる移植用細胞の遺伝子発現と差異がなく、しかも移植後長時間組織治癒効果を発揮することができる。
【0013】
間葉系細胞は公知であり、間葉系組織、例えば脂肪組織、骨髄、臍帯、歯髄、骨髄などから分離することができる。また、多能性幹細胞等からも誘導できる。間葉系細胞の分離方法も公知である。間葉系細胞の例としては、脂肪組織由来幹細胞(ADMSC)、脂肪組織由来細胞(ASC)、骨髄由来幹細胞(BSC)、臍帯由来幹細胞、歯髄由来幹細胞、胎盤由来幹細胞、軟骨由来幹細胞などの間葉系幹細胞(MSC)、ならびに多能性幹細胞由来間葉系幹細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。いずれの間葉系細胞であっても本発明の凍結ゲル化製剤に使用することができる。
【0014】
間葉系細胞は市販されているものであってもよく、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)(米国)、JCRB(日本)などの機関から分譲されるものであってもよい。あるいは、間葉系細胞を間葉系組織から得てもよい。間葉系組織からの間葉系細胞の取得手段・方法は公知である。脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADMSC)の取得方法については、例えばH. Okura et al., Tissue Engineering Part C: Methods Vol, 16, No. 4 (Published Online: 18 Dec 2009|https://doi.org/10.1089/ten.tec.2009.0208)を参照することができる。
【0015】
間葉系細胞は、移植または適用を受ける対象に由来するものであってもよく、別の対象に由来するものであってもよい。対象動物は典型的にはヒトであるが、特に限定されず、ヒト以外の動物、例えばイヌ、ネコ等のペット動物であってもよい。
【0016】
ゲルに包埋される間葉系細胞は、活性化されていなくてもよく、活性化されたものであってもよい。間葉系細胞を活性化させる因子としては、炎症性サイトカイン、炎症性サイトカイン誘導ポリペプチド、増殖因子、インターフェロン、リポ多糖などが挙げられる。好ましい因子としては、インターフェロン-β(IFN-β)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、インターロイキン-1アルファ(IL-1α)、インターロイキン-1ベータ(IL-1β)、インターロイキン-17A(IL-17A)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFβ)、I型インターフェロン(INF-I)、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)リポ多糖などが挙げられるが、これらに限定されない。間葉系細胞を活性化させる因子の例として、IL-1αまたはIL-1βを挙げることができる。
【0017】
活性化因子での間葉系細胞の活性化は、細胞と活性化因子を公知の方法にて接触させることによって行うことができる。典型的には、活性化因子を含む培地にて細胞をインキュベーションすることにより、間葉系細胞を活性化させることができる。活性化因子の濃度は特に限定されず、適宜決定することができる。活性化因子の濃度は、活性化因子の種類や細胞の種類にもよるが、例えば5pg/mL~100mg/mLであってもよい。当業者は、細胞の種類に応じて適切な培地を選択することができる。培地は、例えばDMEM、DMEM/F12、MEM等であってもよい。インキュベーション温度および時間も特に限定されず、適宜決定することができる。インキュベーション温度は、例えば30℃~38℃であってもよい。インキュベーション時間は、例えば6時間~168時間であってもよい。
【0018】
いずれの間葉系細胞を活性化してもよい。例えばASCを活性化させてもよく、ADMSCを活性化させてもよい。活性化された間葉系細胞は、活性化されていない間葉系細胞よりも組織治癒能が高い、抗炎症作用が強いといった特徴を有する。また、活性化された間葉系細胞は、活性化されていない間葉系細胞よりも、組織治癒に関与する因子を多く発現および産生する。かかる因子としてはアディポネクチン、HGF、CSF2(GM-CSF)、CSF3(G-CSF)、LIF、MMPファミリーの因子、FGFファミリーの因子、ADAMファミリーの因子、アンジオポエチン様タンパク質ファミリーの因子、プレイオトロフィン、R-スポンジンファミリーの因子、VEGFファミリーの因子などが挙げられるが、これらに限定されない。上記因子の発現や産生の増加は、活性化されていない細胞と比較して、例えば10倍以上、好ましくは30倍以上、より好ましくは50倍以上、さらに好ましくは100倍以上であってもよい。
【0019】
ゲル材料の種類は特に限定されないが、包埋する細胞や移植または適用される対象に対して毒性が認められないものが好ましい。またゲル材料は、室温ないし体温の範囲にてゲル状態となり得るものが好ましい。そのようなゲル材料の例として、フィブリン、アガロース、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、ラミニン、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
細胞のゲルへの包埋は、すでに形成されているゲル中に細胞を包埋してもよく、あるいはゲル材料の懸濁液中に細胞を添加し、次いで細胞を含む懸濁液をゲル化させてもよい。ゲル材料をゲル化させる手段は公知であり、ゲル材料に応じて選択することができる。例えば架橋剤(カルシウムなど)や、フィブリンゲルの添加、温度変化等の手段が知られている。
【0021】
包埋する細胞数は当業者が適宜選択しうるものであり、例えばゲル1mLあたり1x104~1x108個であってもよい。
【0022】
ゲルのサイズ、形状、固さは、移植部位の種類や大きさ、包埋する細胞の種類や量などに応じて当業者が適宜選択しうる。好ましいゲルの固さは、細胞が流出せず、ピンセット等で把持できる程度であってもよい。
【0023】
ゲルが凍結保護剤を含むことが好ましい。凍結保護剤は公知であり、例えばDMSO、グリセロール、ポリエチレングリコールやプロピレングリコール、グリセリン、ポリビニルピロリドン、ソルビトール、デキストラン、トレハロースなどが知られているが、これらに限定されない。凍結保護剤の濃度も適宜決定しうる。
【0024】
細胞を包埋したゲルの凍結温度は例えば-20℃以下、液体窒素下での凍結であってもよい。あるいは、細胞を包埋したゲルを-80℃や-150℃の冷凍庫に直接入れて凍結してもよい。
【0025】
本発明の凍結ゲル化剤は、フリーザー等に冷凍保存することができる。本発明の凍結ゲル化剤は、凍結状態で医療機関や歯科クリニック等に運搬されうる。本発明の剤は凍結されているため、運搬し易い。
【0026】
本発明の凍結ゲル化製剤を、使用時に解凍する。解凍は、ゲルを解凍液に添加して加温することにより行ってもよく、ゲルに解凍液を添加して行ってもよい。あるいはゲルの入った凍結バイアルごと加温してもよい。解凍液は、凍結保護剤、等張電解質などの細胞保護成分を含むことが好ましい。解凍液中の成分、解凍温度、解凍時間などの解凍条件は、ゲルのサイズ、ゲル材料の種類、細胞の種類、細胞数などに応じて適宜選択することができる。解凍液として市販の生理的食塩水、セルストア(登録商標)S、セルストア(登録商標)W、ラクテック(登録商標)注などを用いてもよい。解凍温度は例えば4℃~37℃であってもよい。一般的には、早く温度を上げるほうがよい。
【0027】
本発明の凍結ゲル化製剤を解凍、洗浄する際に遠心機などの特段の機器を要しない。本発明の凍結ゲル化製剤を解凍後、そのまま移植または適用することができる。ゲル化製剤を移植または適用する際に特別な手技は不要である。ゲルが存在することによって、組織に接着・定着しやすくなる。本発明の凍結ゲル化製剤を、例えば、外科手術により露出させた組織に直接塗布、包埋すること等により移植または適用してもよく、注射により対象組織に送達してもよい。本発明の凍結ゲル化製剤の移植または適用回数は1回であってもよく、複数回であってもよい。
【0028】
本発明の凍結ゲル化製剤を組織治癒に用いてもよい。組織の治癒は、組織を正常な状態に戻す、あるいは正常な状態に近づけることをいい、組織保護、組織・細胞傷害の修復、組織を構成する細胞の増殖促進、組織の炎症抑制、創傷治癒、組織形状の再構築などを包含する。
【0029】
本発明の凍結ゲル化製剤によって治癒される組織は、動物のあらゆる組織であり、特に限定されない。組織の例としては、歯周組織、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉、骨、軟骨、骨髄、胃、腸、神経、皮膚、粘膜、心臓、毛髪などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
本発明の凍結ゲル化製剤は歯科用であってもよい。本発明の凍結ゲル化製剤を用いて歯肉、セメント質、歯根膜、歯槽骨などの歯周組織を再生させることができる。
【0031】
本発明は、もう1つの態様において、間葉系細胞をゲルに包埋し、ゲルを凍結することを含む、凍結ゲル化剤の製造方法を提供する。
【0032】
以下に実施例を示して本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中の用語は、医学、薬学、生物学、生化学等に分野にて通常に理解されている意味に解される。
【実施例0033】
本発明の凍結ゲル化製剤の解凍に用いる解凍液について検討した。
ヒト脂肪組織から幹細胞(ADMSC)を得て、フィブリンゲルに包埋して凍結し、凍結ゲル化製剤を作製した。具体的手順は以下のとおり:
・ADMSCの単離および培養
脂肪組織を刻み、次に、0.008% リベレース(Roch Lifescience)含有ハンクス緩衝塩類溶液(HBSS)中、37℃のウォーターバスにて振盪しながら1時間消化した。消化産物をCell Strainer(BD Bioscience)で濾過し、800xgにて10分間遠心した。リンパ球分離液(d=1.077)(Nacalai tesque)を用い、比重法により赤血球を除去し、得られたADMSCを含む細胞集団を、10% ウシ胎児血清(Hyclone)を含むDMEM中に細胞を播種して細胞を付着させた後、洗浄し、EDTAで処理して、ADMSCを得た。次に、ADMSCを、培地(60% DMEM-低グルコース、40%MCDB201、10μg/mL EGF、1nM デキサメサゾン、100μM アスコルビン酸、および5%FBS)にてヒトフィブロネクチンコートディッシュに播種し、3から8継代し、培養ADMSCを得た。
・凍結ゲル化製剤の作製
3から8継代した培養ADMSCを、剥離液を用いて剥離し、細胞浮遊液に浮遊させ、当該細胞浮遊液にベリプラストPを添加し、ゲル化したことを確認の上、-80℃の冷凍庫に入れて凍結させ、7日後に-150℃の冷凍庫に移動させた。
クライオチューブに各解凍液(表1に挙げたもの、37℃に加温)を入れ、これに凍結ゲル化製剤を入れて解凍後、上記培地にて24時間培養した。培養開始時および24時間培養後に培養液中の乳酸値を測定した。結果を表1に示す。培養開始時の乳酸値はいずれも1.6mmol/Lであった。
【表1】
いずれの解凍液を用いた場合であっても同程度の乳酸値の上昇が見られ、解凍後の細胞の生存が確認された。