(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169340
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】多層樹脂管
(51)【国際特許分類】
F16L 9/133 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
F16L9/133
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078076
(22)【出願日】2024-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2023084803
(32)【優先日】2023-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】508321823
【氏名又は名称】株式会社イノアック住環境
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188075
【弁理士】
【氏名又は名称】石黒 修
(72)【発明者】
【氏名】落合 義人
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111AA04
3H111BA15
3H111BA28
3H111CB03
3H111CB23
3H111CC03
3H111DB03
3H111DB05
3H111DB11
(57)【要約】
【課題】樹脂と炭素繊維とを含み、炭素繊維の含有量が少ない場合であっても小さな線膨張係数を示す新規な多層樹脂管を提供すること。
【解決手段】多層樹脂管は、内層と、前記内層の外側に配置された外層とを備えている。前記内層は、樹脂を含む樹脂層からなる。前記外層は、ポリオレフィン樹脂と、炭素繊維の表面がエポキシ樹脂系サイジング剤及び/又はポリウレタン系サイジング剤で処理された被覆炭素繊維と、結晶核剤とを含む複合体層からなる。前記多層樹脂管は、前記外層の構成比率が5%以上95%以下であるものが好ましい。但し、前記「外層の構成比率(%)」とは、前記内層の厚さt
1と、前記外層の厚さt
2の和に対する前記外層の厚さt
2の割合(=t
2×100/(t
1+t
2))をいう。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と、
前記内層の外側に配置された外層と
を備え、
前記内層は、樹脂を含む樹脂層からなり、
前記外層は、
ポリオレフィン樹脂と、
炭素繊維の表面がエポキシ樹脂系サイジング剤及び/又はポリウレタン系サイジング剤で処理された被覆炭素繊維と、
結晶核剤と
を含む複合体層からなる
多層樹脂管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層樹脂管に関し、さらに詳しくは、樹脂からなる内層と、樹脂と炭素繊維とを含む複合体からなる外層とを備えた多層樹脂管に関する。
【背景技術】
【0002】
給水管、給湯管、排水管、建物の空調用の配管、ガス管等の各種の管には、従来、
(a)ポリオレフィン管、塩化ビニル管などの樹脂管、
(b)鋼管、銅管などの金属管
(c)内面又は外面に樹脂ライニングを施した金属管
などが用いられている。
【0003】
これらの内、樹脂管は、
(A)金属管に比べて軽量である、
(B)金属管に比べて腐食しにくい
(C)金属管に比べて線膨張係数が大きい、
(D)金属管に比べて耐熱性が低い
などの特徴がある。
そのため、樹脂管を温度変化の大きい環境下で使用する場合において、樹脂管の両端が固定されているときには、熱膨張によって樹脂管が大きく撓むことがある。一方、樹脂管の伸縮を吸収する伸縮継手を用いて樹脂管を接続すれば、熱膨張に起因する樹脂管の撓みを抑制することができる。しかし、伸縮継手の使用は、高コスト化を招く。
【0004】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、
(a)内層がポリエチレン樹脂層からなり、
(b)外層がポリエチレン樹脂、再生炭素繊維、及び、イミン変性ポリオレフィン樹脂を含む炭素繊維強化樹脂層からなる
二層パイプが開示されている。
【0005】
同文献には、
(A)樹脂のみからなる単層パイプの熱膨張係数は11.3×10-5/℃であるのに対し、二層パイプの熱膨張係数は6.3×10-5/℃である点、及び、
(B)炭素繊維強化樹脂層に含まれるイミン変性ポリオレフィン樹脂は、炭素繊維とポリエチレン樹脂との接着強度を高める作用がある点
が記載されている。
【0006】
特許文献2には、
(a)内層が塩化ビニル層からなり、
(b)中間層が塩化ビニルと、熱膨張性黒鉛と、硼珪酸ガラスとを含む層からなり、
(c)外層が塩化ビニル層からなる
多層管が開示されている。
【0007】
同文献には、
(A)中間層に硼珪酸ガラスのみを添加した場合、熱変形耐性は得られるが、耐火性能を維持することは困難である点、及び、
(B)中間層に硼珪酸ガラスと熱膨張性黒鉛の双方を添加すると、耐火性能と熱変形抑制性能を有する多層管が得られる点
が記載されている。
【0008】
特許文献1、2に開示されているように、樹脂中に炭素繊維や硼珪酸ガラスなどの無機フィラーを添加すると、樹脂よりも線膨張係数の小さい複合体を得ることができる。しかしながら、従来の方法では、線膨張係数の低減が不十分である。特に、無機フィラーの添加量が同一であっても、樹脂管の口径が大きくなると、線膨張係数が大きくなり、樹脂管の膨張量が増加するという問題がある。
一方、線膨張係数をより小さくするために、無機フィラーの含有量を増加させることも考えられる。しかしながら、無機フィラーの含有量の増加は、高コスト化を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2022-072698号公報
【特許文献2】特開2022-052466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、樹脂と炭素繊維とを含む新規な多層樹脂管を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、炭素繊維の含有量が少ない場合であっても小さな線膨張係数を示す新規な多層樹脂管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る多層樹脂管は、
内層と、
前記内層の外側に配置された外層と
を備え、
前記内層は、樹脂を含む樹脂層からなり、
前記外層は、
ポリオレフィン樹脂と、
炭素繊維の表面がエポキシ樹脂系サイジング剤及び/又はポリウレタン系サイジング剤で処理された被覆炭素繊維と、
結晶核剤と
を含む複合体層からなる。
【発明の効果】
【0012】
ポリオレフィン樹脂に対し、
(a)炭素繊維の表面がエポキシ樹脂系サイジング剤及び/又はポリウレタン系サイジング剤で処理された被覆炭素繊維、及び、
(b)結晶核剤
を添加すると、従来の複合体に比べて、線膨張係数が小さい複合体が得られる。また、このような複合体を多層樹脂管の外層として用いると、炭素繊維の含有量が少ない場合であっても小さな線膨張係数を示す多層樹脂管が得られる。
【0013】
本発明に係る複合体が従来の複合体に比べて小さな線膨張係数を示すのは、
(A)フィラーとして、炭素繊維の表面がサイジング剤で処理された被覆炭素繊維を用いることによって、被覆炭素繊維のポリオレフィン樹脂に対する濡れ性が向上し、被覆炭素繊維がポリオレフィン樹脂中に均一に分散しやすくなるため、
(B)ポリオレフィン樹脂と炭素繊維とがサイジング剤を介して強固に結合し、炭素繊維がポリオレフィン樹脂の熱膨張を抑制するため、及び、
(C)結晶核剤を添加することによって、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が高くなるため
と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】外層の構成比率と線膨張係数との関係を示す図である。
【
図2】
図2(A)は、実施例3で得られた2層管の外層の軸方向断面及び長手方向断面の光学顕微鏡写真である。
図2(B)は、実施例4-2で得られた2層管の外層の軸方向断面及び長手方向断面の光学顕微鏡写真である。
【
図3】実施例6~11で得られた2層管の外層の構成比率と線膨張係数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 多層樹脂管]
本発明に係る多層樹脂管は、
内層と、
前記内層の外側に配置された外層と
を備えている。
多層樹脂管は、
(a)内層と外層の間に挿入された第3層、及び/又は、
(b)外層の外側に配置された第4層
をさらに備えていても良い。
【0016】
[1.1. 内層]
[1.1.1. 材料]
内層は、樹脂を含む樹脂層からなる。本発明において、内層を構成する樹脂の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0017】
内層を構成する樹脂としては、例えば、
(A)ポリオレフィン樹脂、
(B)熱可塑性ポリウレタンエラストマ-(TPU)等の熱可塑性エラストマー、
(C)ポリオレフィン樹脂に、耐摩耗性の向上、摩擦係数の軽減などの機能を付与するための添加剤を分散させたコンパウンド材、
などがある。
【0018】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、
(a)ポリプロピレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンとアクリル酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル)との共重合体、ポリブテン、ABS、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ナイロン、PET、
(b)上記樹脂のハロゲン化物(例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、PTFEなど)
などがある。
【0019】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、スチレン系熱可塑性エラストマー(SBC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)などがある。
【0020】
内層には、これらのいずれか1種の樹脂が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0021】
樹脂層は、樹脂のみからなるものでも良く、あるいは、樹脂に加えて他の成分が含まれていても良い。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、分散剤、静電防止剤などがある。
【0022】
なお、飲料水を殺菌する際に塩素が用いられるが、塩素は飲料水中において酸化力の高い次亜塩素酸(HClO)として存在する。HClOは不安定であり、HClとO(発生期の酸素)に分解しやすい。発生したOは、樹脂を酸化劣化させる。
カーボンブラック、炭素繊維などのカーボン材料は、樹脂の耐候性を向上させる作用がある。しかしながら、カーボン材料は、次亜塩素酸の分解を促す触媒としても機能する。そのため、内層にカーボン材料を含む複合体を用いた多層樹脂管中に飲料水を流すと、樹脂が酸化して水疱状の膨れが発生し、表面が剥離する場合がある(水疱剥離現象)。
従って、本発明に係る多層樹脂管を飲料水用の給水管として用いる場合、内層は、カーボン材料を含まないものが好ましい。
【0023】
[1.1.2. 内径及び厚さ]
内層の内径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。内層の内径d1は、15mm以上235mm以下が好ましい。
また、内層の厚さt1は、後述する条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。
【0024】
[1.2. 外層]
[1.2.1. 材料]
内層の外側には、外層が配置される。本発明において、外層は、
ポリオレフィン樹脂と、
炭素繊維の表面がエポキシ樹脂系サイジング剤及び/又はポリウレタン系サイジング剤で処理された被覆炭素繊維と、
結晶核剤と
を含む複合体層からなる。
複合体層を構成する材料の詳細については、後述する。
【0025】
[1.2.2. 外層の構成比率]
「外層の構成比率(%)」とは、内層の厚さt1と、外層の厚さt2の和に対する外層の厚さt2の割合(=t2×100/(t1+t2))をいう。
【0026】
本発明において、外層の構成比率は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、外層の構成比率が大きくなるほど、多層樹脂管の線膨張係数が小さくなる。このような効果を得るためには、外層の構成比率は、5%以上が好ましい。外層の構成比率は、さらに好ましくは、10%以上、15%以上、20%以上、あるいは、25%以上である。
一方、外層の構成比率が大きくなりすぎると、製造コストが増大する場合がある。従って、外層の構成比率は、95%以下が好ましい。外層の構成比率は、さらに好ましくは、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、あるいは、70%以下である。
【0027】
[1.2.3. 内層と外層の総厚さ]
内層と外層の総厚さt(=t1+t2)は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。tは、多層管の内径又は外径により異なるが、1.0mm以上31.0mm以下が好ましい。
また、内層と外層の総厚さtに対する、多層管の外径Dの比(=D/t、以下「SDR(Standard Dimension Ratio)」ともいう)は、9以上26以下が好ましい。
【0028】
[1.3. 第3層]
[1.3.1. 材料]
本発明に係る多層樹脂管は、内層と外層との間に挿入された第3層をさらに備えていても良い。第3層の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。第3層の材料としては、例えば、耐圧性能を向上させるためのアルミニウム、ステンレス鋼などがある。
【0029】
[1.3.2. 第3層の厚さ]
本発明において、第3層の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。
【0030】
[1.4. 第4層]
[1.4.1. 材料]
本発明に係る多層樹脂管は、外層の外側に配置された第4層をさらに備えていても良い。第4層の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。第4層の材料としては、例えば、
(a)酸素透過防止のためのエチレン・ビニルアルコール樹脂(EVOH)、
(b)耐摩耗性を向上させるためのポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、超高分子ポリエチレン
などがある。
【0031】
[1.4.2. 第4層の厚さ]
本発明において、第4層の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。
【0032】
[1.5. 線膨張係数]
本発明において、「線膨張係数α(/℃)」とは、次の式(1)を用いて算出される値をいう。
α=(Lh-Lc)/{Lc(60-20)} …(1)
但し、
Lhは、60℃における線膨張係数測定用試料の長さ、
Lcは、20℃における線膨張係数測定用試料の長さ。
【0033】
本発明に係る多層樹脂管は、外層が炭素繊維及び結晶核剤を含む複合体層からなるので、従来の樹脂管に比べて、線膨張係数が小さい。各層の組成、構成比率、厚さ、多層管の内径又は外径などを最適化すると、次の式(2)を満たす多層樹脂管が得られる。
【0034】
α≦-0.035×10-5×δt2+5.5×10-5 …(2)
但し、
αは、前記多層樹脂管の線膨張係数の平均値(/℃)、
δt2は、前記外層の構成比率(%)、
前記「外層の構成比率(%)」とは、前記内層の厚さt1と、前記外層の厚さt2の和に対する前記外層の厚さt2の割合(=t2×100/(t1+t2))。
【0035】
[2. 複合体層]
本発明において、外層を構成する複合体層は、
ポリオレフィン樹脂と、
炭素繊維の表面がエポキシ樹脂系サイジング剤又はポリウレタン系サイジング剤で処理された被覆炭素繊維と、
結晶核剤と
を含む。
【0036】
[2.1. ポリオレフィン樹脂]
ポリオレフィン樹脂は、複合体層のマトリックスを構成する。本発明において、ポリオレフィン樹脂の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。
【0037】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、
(a)ポリプロピレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンとアクリル酸エステル(例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル)との共重合体、ポリブテン、ABS、ポリアクリロニトリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ナイロン、PET、
(b)上記樹脂のハロゲン化物(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、PTFEなど)
などがある。
複合体層には、これらのいずれか1種のポリオレフィン樹脂が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
さらに、内層がポリオレフィン樹脂からなる場合、外層に含まれるポリオレフィン樹脂は、内層に含まれるポリオレフィン樹脂と同一の材料であっても良く、あるいは、異なる材料であっても良い。
【0038】
[2.2. 被覆炭素繊維]
被覆炭素繊維は、
炭素繊維と、
炭素繊維の表面を被覆するエポキシ樹脂系サイジング剤及び/又はポリウレタン系サイジング剤と
を含む。
【0039】
[2.2.1. 炭素繊維]
[A. 材料]
本発明において、炭素繊維の種類は特に限定されない。炭素繊維は、
(a)未使用の炭素繊維、
(b)炭素繊維強化樹脂成形体から回収された炭素繊維(再生炭素繊維)、あるいは、
(c)未使用の炭素繊維と再生炭素繊維の混合物
のいずれであっても良い。
なお、後述するように、市販されている未使用の炭素繊維は、通常、表面がサイジング剤で処理された被覆炭素繊維である。
【0040】
また、炭素繊維は、
(a)長繊維を裁断することにより得られるチョップドファイバー、
(b)長繊維を粉砕することにより得られるミルドファイバー、あるいは、
(c)チョップドファイバーとミルドファイバーの混合物
のいずれであっても良い。
【0041】
[B. 平均繊維長]
「平均繊維長」とは、無作為に選択された10本以上の炭素繊維について測定された繊維長さの平均値をいう。
【0042】
炭素繊維の平均繊維長は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
例えば、未使用のチョップドファイバーの場合、平均繊維長は、3mm~24mm程度である。また、未使用のミルドファイバーの場合、平均繊維長は、20μm~500μm程度である。未使用の炭素繊維は、
(a)繊維長のばらつきが小さい、
(b)個々の単繊維にばらけやすい、
(c)ポリオレフィン樹脂中に均一に分散しやすい
などの特徴がある。
【0043】
再生炭素繊維の場合、平均繊維長は、その炭素繊維を回収した炭素繊維強化樹脂成形体の種類や製造履歴により異なる。再生炭素繊維の場合、平均繊維長は、通常、20μm~3mm程度である。平均繊維長は、好ましくは、100μm~400μmである。再生炭素繊維は、通常、繊維長のばらつきが大きい。また、複合材料から再生炭素繊維を回収する際に複合材料の加熱が行われるが、加熱後に残存する炭化物の量によって、再生炭素繊維のばらけ方が異なり、溶融したポリオレフィン樹脂と相溶しにくくなる場合がある。しかしながら、本発明に係る方法を用いると、繊維長のばらつきが大きい再生炭素繊維であっても、再生炭素繊維と溶融したポリオレフィン樹脂との相溶性が向上する。
【0044】
[C. 直径]
「炭素繊維の直径」とは、単繊維の断面の最大寸法をいう。
【0045】
複合体層に含まれる被覆炭素繊維の含有量が同一である場合、炭素繊維の直径が小さくなるほど、複合体層内に分散している炭素繊維の数が多くなる。その結果、複合体層の機械的特性が向上する。また、炭素繊維とポリオレフィン樹脂との間の接触面積が大きくなるので、複合体層の線膨張係数も小さくなる。
このような効果を得るためには、炭素繊維の直径は、6.5μm以下が好ましい。直径は、さらに好ましくは、6.3μm以下、6.0μm以下、5.7μm以下、あるいは、5.5μm以下である。
【0046】
[D. 弾性率]
「炭素繊維の弾性率」とは、単繊維の弾性率をいう。通常、サイジング剤は炭素繊維の弾性率に及ぼす影響が小さいので、炭素繊維の弾性率は、被覆炭素繊維の弾性率と同等と見なすことができる。
【0047】
ポリオレフィン樹脂中に炭素繊維を分散させる場合において、炭素繊維の弾性率が大きくなるほど、複合体の機械的特性が向上する。このような効果を得るためには、炭素繊維の弾性率は、250GPa以上が好ましい。弾性率は、さらに好ましくは、260GPa以上、260GPa以上、270GPa以上、280GPa以上、あるいは、290GPa以上である。炭素繊維の弾性率は、高いほど良い。
【0048】
[F. 線膨張係数]
「炭素繊維の線膨張係数」とは、単繊維の10℃から200℃までの平均線膨張係数をいう。通常、サイジング剤は炭素繊維の線膨張係数に及ぼす影響が小さいので、炭素繊維の線膨張係数は、被覆炭素繊維の線膨張係数と同等と見なすことができる。
【0049】
ポリオレフィン樹脂中に炭素繊維を分散させる場合において、炭素繊維の線膨張係数が小さくなるほど、複合体の線膨張係数も小さくなる。このような効果を得るためには、炭素繊維の線膨張係数は、-1.4×10-6/℃以下が好ましい。線膨張係数は、さらに好ましくは、-1.5×10-6/℃以下、あるいは、-1.6×10-6/℃以下である。
【0050】
[2.2.2. サイジング剤]
[A. 材料]
「エポキシ樹脂(EP)系サイジング剤」とは、エポキシ樹脂を分散媒に分散させた液状樹脂をいう。
「ポリウレタン(PU)系サイジング剤」とは、ポリウレタンを分散媒に分散させた液状樹脂をいう。
【0051】
エポキシ樹脂系サイジング剤及びポリウレタン系サイジング剤(以下、これらを総称して「サイジング剤」ともいう)は、一般に、炭素繊維を被覆して収束し、炭素繊維の損傷を抑え、炭素繊維を取り扱いやすくするためのものである。なお、再生炭素繊維と異なり、市販されている未使用の炭素繊維は、通常、表面がサイジング剤で処理された被覆炭素繊維である。
炭素繊維の表面をサイジング剤で処理すると、炭素繊維の表面のポリオレフィン樹脂に対する濡れ性が向上する。そのため、サイジング剤で処理された炭素繊維(被覆炭素繊維)を用いて複合体層を作製すると、炭素繊維がポリオレフィン樹脂中に均一に分散する。また、補強材として長さが不均一な再生炭素繊維を用いた場合であっても、ポリオレフィン樹脂中に再生炭素繊維を均一に分散させることができる。
【0052】
本発明において、サイジング剤に含まれるエポキシ樹脂又はポリウレタンの種類、サイジング剤中に含まれるエポキシ樹脂又はポリウレタンの濃度等は、特に限定されない。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、クレゾール型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などがある。
また、サイジング剤に含まれるエポキシ樹脂又はポリウレタンの濃度は、通常、0.1mass%~8.0mass%程度である。
【0053】
[B. 被覆量]
「被覆量(mass%)」とは、被覆炭素繊維の総質量に対する、エポキシ樹脂又はポリウレタンの質量の割合をいう。
【0054】
本発明において、被覆量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、被覆量が少なくなりすぎると、被覆炭素繊維のフィード性が低下する場合がある。また、ポリオレフィン樹脂との濡れ性が低下し、ポリオレフィン樹脂中に被覆炭素繊維が分散しにくくなる場合がある。一方、被覆量を必要以上に多くしても、効果に差がなく、実益がない。被覆量は、通常、1.0mass%~8.0mass%程度である。被覆量は、好ましくは、1.0mass%~5.0mass%、あるいは、1.5mass%~4.0mass%である。
【0055】
[2.3. 結晶核剤]
「結晶核剤」とは、少量で結晶性樹脂の結晶化を著しく促進し、均一で微細な結晶を生成させる作用がある添加剤をいう。
ポリオレフィン樹脂に結晶核剤を添加し、溶融及び固化させると、ポリオレフィン樹脂からなる微細な結晶が生成する。その結果、結晶核剤を添加しない場合に比べて、外層の外観と物性品質を改善でき、また、外層の線膨張係数が小さくなる。
【0056】
本発明において、結晶核剤の種類は、特に限定されない。結晶核剤としては、例えば、
(a)オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミドなどの脂肪酸アミド、
(b)ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウムなどの脂肪族金属塩
などがある。
外層には、これらのいずれか1種の結晶核剤が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0057】
[2.4. その他の成分]
複合体層は、ポリオレフィン樹脂、被覆炭素繊維、及び、結晶核剤のみからなるものでも良く、あるいは、これらに加えて他の成分が含まれていても良い。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、分散剤、静電防止剤などがある。
【0058】
[2.5. 含有量]
[2.5.1. 被覆炭素繊維の含有量]
「被覆炭素繊維の含有量」とは、ポリオレフィン樹脂の質量を100とした時の、被覆炭素繊維の質量をいう。
【0059】
一般に、被覆炭素繊維の含有量が多くなるほど、外層の機械的特性が向上する。このような効果を得るためには、被覆炭素繊維の含有量は、0.5質量部以上が好ましい。含有量は、より好ましくは、1.0質量部以上、2.0質量部以上、あるいは、3.0質量部以上である。
一方、被覆炭素繊維の含有量が過剰になると、外層の成形性が低下する場合がある。従って、被覆炭素繊維の含有量は、15質量部以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、13質量部以下、11質量部以下、あるいは、10質量部以下である。
【0060】
[2.5.2. 結晶核剤の含有量]
「結晶核剤の含有量」とは、ポリオレフィン樹脂Bの質量を100とした時の、結晶核剤の質量をいう。
【0061】
一般に、結晶核剤の含有量が多くなるほど、ポリオレフィン樹脂Bの結晶が微細となる。このような効果を得るためには、結晶核剤の含有量は、0.01質量部以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、0.02質量部以上である。
一方、結晶核剤を必要以上に添加しても、効果に差がなく、実益がない。従って、結晶核剤の含有量は、0.05質量部以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、0.04質量部以下である。
【0062】
[3. 多層管の製造方法]
本発明に係る多層管は、種々の方法により製造することができる。多層管の製造方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法などがある。特に、押出成形法は、炭素繊維が一方向に配向しやすいので、成形方法として好適である。
【0063】
[4. 作用]
ポリオレフィン樹脂に対し、
(a)炭素繊維の表面がエポキシ樹脂系サイジング剤及び/又はポリウレタン系サイジング剤で処理された被覆炭素繊維、及び、
(b)結晶核剤
を添加すると、従来の複合体に比べて、線膨張係数が小さい複合体が得られる。また、このような複合体を多層樹脂管の外層として用いると、炭素繊維の含有量が少ない場合であっても小さな線膨張係数を示す多層樹脂管が得られる。
【0064】
本発明に係る複合体が従来の複合体に比べて小さな線膨張係数を示すのは、
(A)フィラーとして、炭素繊維の表面がサイジング剤で処理された被覆炭素繊維を用いることによって、被覆炭素繊維のポリオレフィン樹脂に対する濡れ性が向上し、被覆炭素繊維がポリオレフィン樹脂中に均一に分散しやすくなるため、
(B)ポリオレフィン樹脂と炭素繊維とがサイジング剤を介して強固に結合し、炭素繊維がポリオレフィン樹脂の熱膨張を抑制するため、及び、
(C)結晶核剤を添加することによって、ポリオレフィン樹脂の結晶化度が高くなるため
と考えられる。
【実施例0065】
(実施例1~2、比較例1~3)
[1. 試料の作製]
[1.1. 原料]
ポリオレフィン樹脂には、
(A)ポリオレフィン樹脂1:高密度ポリエチレン(HDPE)((株)プライムポリマー製、ハイゼックス(登録商標)7700M)、又は、
(B)ポリオレフィン樹脂2:高密度ポリエチレン(HDPE)((株)プライムポリマー製、SP5505)
を用いた。
【0066】
フィラーには、
(a)カーボンブラック((株)プライムポリマー製、5505BKMB1)、
(b)炭素繊維1:再生炭素繊維(リサイクルCF)(ミルドファイバー、平均繊維長:25μm)、
(c)炭素繊維2:再生炭素繊維(リサイクルCF)(チョップドファイバー、平均繊維長:3mm)、
(d)被覆炭素繊維1:表面がエポキシ樹脂(EP)系サイジング剤で被覆された再生炭素繊維(リサイクルCF)(チョップドファイバー、平均繊維長:3mm)、又は、
(e)被覆炭素繊維2:表面がポリウレタン(PU)系サイジング剤で被覆された未使用の炭素繊維(V-CF)(チョップドファイバー、平均繊維長:6mm)
を用いた。
【0067】
結晶核剤には、結晶核剤含有マスターバッチ(理研ビタミン(株)製、リケマスター(登録商標)CN-002、(結晶核剤)ステアリン酸亜鉛1.36%/(主成分)高密度ポリエチレン(HDPE))を用いた。
炭素繊維の相溶化剤には、
(a)相溶化剤1:酸変性ポリオレフィン樹脂(三洋化成(株)製、ユーメックス(登録商標))、
(b)相溶化剤2:イミン変性ポリオレフィン樹脂(1)(三井化学(株)製、アドマー(登録商標)IP AT309)、又は、
(c)相溶化剤3:イミン変性ポリオレフィン樹脂(2)(三井化学(株)製、アドマー(登録商標)IP AT334)
を用いた。
【0068】
酸化防止剤には、
(a)酸化防止剤1:株式会社ADEKA製、アデカスタブ(登録商標)AO-60、又は、
(b)酸化防止剤2:株式会社ADEKA製、アデカスタブ(登録商標)2112
を用いた。
滑剤には、三菱ケミカル株式会社製、メタブレン(登録商標) L-1000を用いた。
【0069】
[1.2. 複合体ペレットの作製]
上記原料を所定の比率で配合し、混練押出機((株)神戸製鋼所製、KTX-30)で溶融混練した。溶融させた組成物を、直径3mmのストランド状で水中冷却層に押し出し、ペレタイザー((株)タナカ製、ストランドカッター)で長さ3~4mmに切断し、複合体ペレットを得た。溶融混練条件は、以下の通りである。
バレル及びダイ温度:200℃、
スクリュー回転数:400rpm、
吐出量:20kg/h。
【0070】
[1.3. 樹脂管の作製]
[1.3.1. 単層管の作製]
得られた複合体ペレットを、押出成形機(三菱油化エンジニアリング(株)製、MK-65I型/MK-50II型)に投入し、押出成形によって、単層管を製造した。単層管の外径は、32mmとした。単層管の厚さは、3.0mmとした。成形条件は、以下の通りである。
ダイ温度:215℃、
スクリュー回転数:63.3rpm、
引取速度:2.5m/min。
【0071】
[1.3.2. 2層管の作製]
内層用ペレット、及び、外層用ペレットを、押出成形機に投入し、押出成形によって2層管を作製した。小口径の2層管を製造するための押出成形機には、三菱油化エンジニアリング(株)製、MK-65I型/MK-50II型を用いた。大口径の2層管を製造するための押出成形機には、Reifenhauser製、RH-801-1-90-33WE/RH-501-1-60-33Dを用いた。2層管の外径は25mm~250mm、外層の構成比率は16%~100%、2層管の総厚さは、2.3~22.7mm(SDR=11)とした。成形条件は、2層管の総厚さに応じて、最適な条件を選択した。
2層管の外径が32mmであるときの成形条件は、以下の通りである。
ダイ温度:215℃、
スクリュー回転数(内層/外層):52.8rpm/34.6rpm、
引取速度:2.5m/min。
【0072】
[2. 試験方法]
以下の手順に従い、単層管又は2層管の線膨張係数を測定した。すなわち、線膨張係数測定用の試料には、長さ200mmの管を用いた。試料を20℃の恒温槽において2時間保以上持した後、試料の長さLcを測定した。次に、試料を60℃の恒温槽において2時間以上保持した後、試料の長さLhを測定した。得られたLc及びLhを式(1)に代入し、線膨張係数を算出した。
【0073】
[3. 結果]
表1~5に、結果を示す。また、
図1に、外層の構成比率と線膨張係数との関係を示す。表1~5及び
図1より、以下のことが分かる。
【0074】
(1)比較例1は、外層にカーボンブラックを添加した2層管である。比較例1の線膨張係数は、10.0×10-5/℃であった。
【0075】
(2)比較例2-1~2-3、及び2-6~2-10(以下、これらを総称して「比較例2」ともいう)は、サイジング剤で処理されていない再生炭素繊維(リサイクルCF)と相溶化剤とを含む複合体層からなる単層管、又は、このような複合体層を外層若しくは内層とする2層管である。
比較例2は、線膨張係数のバラツキが大きく、かつ、外層の構成比率を変えても、線膨張係数があまり変化しなかった。
図1参照。これは、相溶化剤の効果が不十分であり、HDPEと炭素繊維との間の結合力が弱いためと考えられる。
【0076】
(3)比較例2-4及び2-5は、サイジング剤で処理されていない再生炭素繊維(チョップドファイバー)を含み、かつ、相溶化剤を含まない複合体層からなる単層管である。
比較例2-4及び2-5は、再生炭素繊維の表面がサイジング剤で処理されておらず、再生炭素繊維の長さが長く、かつ、相溶化剤を含まないために、成形性が極めて悪く、管に穴あきが認められた。そのため、線膨張係数の測定を行わなかった。
【0077】
(4)比較例3-1~3-11(以下、これらを総称して「比較例3」ともいう)は、表面がエポキシ樹脂(EP)系サイジング剤で処理された再生炭素繊維を含むが、結晶核剤を含まない複合体層からなる単層管、又は、このような複合体層を外層とする2層管である。
比較例3は、比較例1、2に比べて、線膨張係数が小さくなった。また、比較例3の線膨張係数は、外層の構成比率が大きくなるほど、小さくなった。
図1参照。これは、フィラーとして表面がEP系サイジング剤で処理された炭素繊維を用いることによって、HDPEと炭素繊維との間の結合力が強くなったためと考えられる。
【0078】
(5)実施例1-1~1~5、参考例1-6、実施例1-7~1-18(以下、これらを総称して「実施例1」ともいう)は、表面がEP系サイジング剤で処理された再生炭素繊維と、結晶核剤とを含む複合体層を外層とする2層管、又は、このような複合体層からなる単層管(参考例1-6のみ)である。
実施例1は、比較例1~3に比べて、線膨張係数がさらに小さくなった。また、実施例1の線膨張係数は、外層の構成比率が大きくなるほど、小さくなった。
図1参照。これは、フィラーとして表面がEP系サイジング剤で処理された炭素繊維を用いることによって、HDPEと炭素繊維との間の結合力が強くなったため、及び、結晶核剤を添加することによってHDPEの結晶化度が増大したためと考えられる
【0079】
(6)実施例2-1~2-5(以下、これらを総称して「実施例2」ともいう)は、表面がPU系サイジング剤で処理された未使用の炭素繊維(V-CF)と、結晶核剤とを含む複合体層を外層とする2層管である。
実施例2は、実施例1に比べて、線膨張係数が若干増大した。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
(実施例3~5)
[1. 試料の作製]
[1.1. ダンベル形引張試験片、及び、ストランドの作製]
外層の機械的特性に及ぼす炭素繊維の物性値の影響を調べるために、以下の2種類の試験片を作成した。
(a)ダンベル形引張試験片(JIS K 7139:タイプA1(ISO3167:タイプA))。
(b)ストランド(直径約5.0mm)。
【0086】
ポリオレフィン樹脂には、高密度ポリエチレン(HDPE)((株)プライムポリマー製、ハイゼックス(登録商標)7700M)を用いた。
結晶核剤には、結晶核剤含有マスターバッチ(理研ビタミン(株)製、リケマスター(登録商標)CN-002、(結晶核剤)ステアリン酸亜鉛1.36%/(主成分)高密度ポリエチレン(HDPE))を用いた。
【0087】
被覆炭素繊維には、以下のものを用いた。表6に、各被覆炭素繊維の詳細を示す。
(a)表面がエポキシ系サイジング剤で被覆された再生炭素繊維(実施例3)
(b)表面がエポキシ系サイジング剤で被覆された未使用の炭素繊維(実施例4-1)
(c)表面がウレタン系サイジング剤で被覆された未使用の炭素繊維(実施例4-2)
(d)表面がウレタン系サイジング剤で被覆された未使用の炭素繊維(実施例5)
【0088】
【0089】
HDPE、結晶核剤、及び、被覆炭素繊維を所定の比率で配合した。被覆炭素繊維の配合量は、HDPE100質量部に対して、6.0質量部とした。結晶核剤(マスターバッチ)の配合量は、HDPE100質量部に対して、2.0質量部とした。以下、実施例1と同様にして複合体ペレットを作製した。
さらに、得られた複合体ペレットを用いて射出成形を行い、ダンベル形引張試験片を得た。射出成形条件は、以下の通りである。
シリンダ温度:210℃
射出速度: 40mm/s
同様に、得られた複合体ペレットを用いて押出成形を行い、ストランドを得た。押出成形条件は、以下の通りである。
ダイ温度:205℃
スクリュー回転数(内層/外層):26.8rpm/34.0rpm
引取速度:2.75m/min
【0090】
[1.2. 2層管の作製]
上記のダンベル形引張試験片及びストランドと同一組成を有する材料を用いて、2層管を作製した。2層管の製造条件は、実施例1-2と同一とした。
【0091】
[2. 試験方法]
[2.1. ダンベル形引張試験片及びストランドを用いた評価]
[2.1.1. 外観評価]
目視により、試験片の外観を評価した。
【0092】
[2.1.2. 引張強度、引張伸び]
ダンベル形試験片を用いて、JIS K 7139(ISO3167)に準拠して、引張強度及び引張伸びを測定した。
【0093】
[2.1.3. 線膨張係数]
ダンベル形試験片及びストランドを用いて、線膨張係数を測定した。線膨張係数の算出には、上述した(1)を用いた。
【0094】
[2.1.4. 切破断面観察]
目視により、ストランドの切破断面を観察した。
【0095】
[2.2. 2層管を用いた評価]
[2.2.1. 光学顕微鏡観察]
2層管の軸方向断面及長手方向断面を光学顕微鏡で観察した。
【0096】
[2.2.2. 炭素繊維の観察]
2層管から炭素繊維を取り出し、繊維径、重量平均アスペクト比、及び、重量平均残存繊維長を測定した。「残存繊維長」とは、2層管から実際に取り出された炭素繊維の長さをいう。
【0097】
[2.2.3. 炭素繊維の接着性評価]
2層管を作製する前の炭素繊維を用いて、引抜強度(IFSS)を測定した。引抜強度の測定には、マイクロドロップレット法を用いた。
【0098】
[3. 結果]
[3.1. ダンベル形引張試験片及びストランドを用いた評価]
表7に、ダンベル形引張試験片及びストランドを用いた評価の結果を示す。表7より、以下のことが分かる。
(1)未使用の炭素繊維を用いた実施例4-1、5において、試験片表面にザラツキは認められなかった。しかしながら、再生炭素繊維を用いた実施例3において、試験片表面に若干のザラツキが認められた。これは、再生炭素繊維の長さが不揃いであるため、あるいは、再生炭素繊維中に微量の不純物(樹脂の炭化物)が混入しているためと考えられる。
【0099】
(2)実施例5は、機械的特性及び線膨張係数が最も優れていた。
(3)実施例3は、実施例5の炭素繊維をリサイクルしたものに相当する。実施例3は、実施例5に比べて引張伸びが大きくなり、かつ、線膨張係数も若干大きくなった。これは、再生炭素繊維の長さが不揃いであるため、あるいは、再生炭素繊維中に微量の不純物(樹脂の炭化物)が混入しているためと考えられる。
(4)実施例4-1は、実施例3、5に比べて機械的特性及び線膨張係数が劣っていた。
(5)切破断面については、実施例3、4-1、5のいずれも、微細な凹みがある程度(粗大なボイドがほとんど無い状態)であり、良好であった。また、炭素繊維の種類による相違は認められなかった。
【0100】
【0101】
[3.2. 2層管を用いた評価]
表8に、使用した炭素繊維の仕様及び各種の評価結果を示す。また、
図2(A)に、実施例3で得られた2層管の外層の軸方向断面及び長手方向断面の光学顕微鏡写真を示す。
図2(B)に、実施例4-2で得られた2層管の外層の軸方向断面及び長手方向断面の光学顕微鏡写真を示す。表8及び
図2より、以下のことが分かる。
【0102】
(1)実施例3(再生炭素繊維)及び実施例4-2(未使用の炭素繊維)のいずれも、HDPE中における炭素繊維の分散状態に大きな差は無かった。
図2参照。すなわち、実施例3と実施例4-2との間における機械的特性及び線膨張係数の相違は、炭素繊維の分散状態の相違が原因ではないことが分かった。
【0103】
(2)実施例4-2の炭素繊維の重量平均アスペクト比及び重量平均残存繊維長は、実施例3のそれとほぼ同等であった。しかしながら、実施例4-2の炭素繊維の直径は7.0μmであるのに対し、実施例3のそれは5.5μmであった。HDPEに添加する炭素繊維の質量が同等である場合、炭素繊維の直径が小さくなるほど、HDPE中に分散する炭素繊維の数が多くなる。実施例3、5の機械的特性及び線膨張係数が実施例4-2のそれより優れていたのは、炭素繊維の直径が小さいことが一因であると考えられる。
【0104】
(3)実施例3で用いた炭素繊維は、その表面がエポキシ系サイジング剤で被覆されているのに対し、実施例4-2、5で用いた炭素繊維は、その表面がウレタン径サイジング剤で被覆されている。しかしながら、これらの引抜強度は同等であり、サイジング剤の種類による差は、認められなかった。すなわち、サイジング剤の種類は、複合体層の機械的特性及び線膨張係数に与える影響が小さいことが分かった。
【0105】
(4)実施例5で用いた炭素繊維の弾性率は、実施例4-2で用いた炭素繊維のそれより大きい値を示した。同様に、実施例5で用いた炭素繊維の線膨張係数は、実施例4-2で用いた炭素繊維のそれより小さい値を示した。サイジング剤の種類が複合体層の機械的特性及び線膨張係数にほとんど影響を及ぼさなかったことから、実施例3、5の機械的特性及び線膨張係数が実施例4-2のそれらより優れていたのは、炭素繊維の弾性率が大きいこと、及び、炭素繊維の線膨張係数が小さいことも一因であると考えられる。
【0106】
【0107】
(実施例6~11)
[1. 試料の作製]
2層管の線膨張係数に及ぼす外層の構成比率、押出成形時の引落率(金型から押し出されるパイプの外径に対する、キャリブレーション後のパイプの外径の比)、及び、外層に含まれる炭素繊維の含有量の影響を調べた。
【0108】
内層の材料には、高密度ポリエチレン(HDPE)((株)プライムポリマー製、エボリュー(登録商標)H、SP5505)を用いた。
【0109】
外層の材料には、以下のものを用いた。
(a)ポリオレフィン樹脂: 高密度ポリエチレン(HDPE)((株)プライムポリマー製、エボリュー(登録商標)H、SP5505)
(b)結晶核剤: 結晶核剤含有マスターバッチ(理研ビタミン(株)製、リケマスター(登録商標)CN-002、(結晶核剤)ステアリン酸亜鉛1.36%/(主成分)高密度ポリエチレン(HDPE))
(c)被覆炭素繊維: 帝人(株)製、IM C443
【0110】
ポリオレフィン樹脂、結晶核剤、及び、被覆炭素繊維を所定の比率で配合した。被覆炭素繊維の配合量は、外層の総質量に対して6.0mass%又は8.0mass%となる量とした。結晶核剤(マスターバッチ)の添加量は、HDPE100質量部に対して、2.0質量部とした。以下、実施例1と同様にして複合体ペレットを作製した。
次に、 内層用ペレット、及び、外層用ペレットを、押出成形機に投入し、押出成形によって2層管を作製した。押出成形条件は、実施例1と同一とした。
【0111】
[2. 試験方法及び結果]
得られた2層管の線膨張係数を測定した。線膨張係数の算出方法は、実施例1と同一とした。表9に結果を示す。
図3に、実施例6~11で得られた2層管の外層の構成比率と線膨張係数との関係を示す。表9及び
図3より以下のことが分かる。
【0112】
(1)外層の構成比率が大きくなるほど、線膨張係数が小さくなる傾向が見られた。
図3参照。
(2)押出成形時の引落率を変えても、線膨張係数はほとんど変化しなかった。
(3)炭素繊維の含有量が多くなるほど、線膨張係数が小さくなる傾向が見られた。
【0113】
【0114】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。