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特開2024-169346ヒゲゼンマイを処理する方法、及びヒゲゼンマイを製造する方法
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  • 特開-ヒゲゼンマイを処理する方法、及びヒゲゼンマイを製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169346
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ヒゲゼンマイを処理する方法、及びヒゲゼンマイを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20241128BHJP
   C23C 8/28 20060101ALI20241128BHJP
   F16F 1/10 20060101ALI20241128BHJP
   F16F 1/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
C23C8/28
F16F1/10
F16F1/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024079968
(22)【出願日】2024-05-16
(31)【優先権主張番号】23175181.9
(32)【優先日】2023-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ミシェレト、 リオネル
(72)【発明者】
【氏名】シャルボン、 クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ベラルド、 マルコ
【テーマコード(参考)】
3J059
【Fターム(参考)】
3J059AD04
3J059AE10
3J059BA37
3J059BC01
3J059EA09
3J059EA20
3J059GA50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】速度ドリフトを低減するためのヒゲゼンマイを処理する方法を提供する。
【解決手段】時計ムーブメントを装備することを意図した少なくとも一つのヒゲゼンマイを処理する方法であって、ヒゲゼンマイは、Nb-Ti合金から作られ、この方法は、60から99%までの間の相対湿度を有する雰囲気における、30から100℃までの間の温度範囲での、気候スチーミングと称される水蒸気処理のステップを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ムーブメントを装備することを意図した少なくとも一つのヒゲゼンマイを処理する方法であって、
前記ヒゲゼンマイはNb-Ti合金から作られ、
前記方法は、60から99%までの間の相対湿度を有する雰囲気における、30℃から100℃までの間の温度範囲での、気候スチーミングと称される水蒸気処理のステップを含む、方法。
【請求項2】
前記気候スチーミングのステップが、100から250℃までの間の温度範囲における周囲空気下で行われる標準スチーミングステップよりも先行することを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記気候スチーミングのステップの前記温度範囲は、40から80℃までの間であり、好ましくは40から60℃までの間であることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
前記相対湿度は70から97%までの間であり、好ましくは85から95%までの間であり、さらに好ましくは87から95%までの間であることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項5】
常圧下で行われることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項6】
1から1000mbarまでの間の分圧下で、又は1から5barまでの間の圧力による過圧下で行われることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項7】
前記方法は、40から60℃までの間の温度を有する87から95%までの間の相対湿度を含む雰囲気において常圧下で行われることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項8】
前記Nb-Ti合金は、40から90%までの間の、好ましくは40から50%までの間の重量パーセンテージのTiを、O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される一以上の他の元素の可能な痕跡で含み、前記元素はそれぞれが、全重量の0から1600ppmまでの間であり、100%の残部はNbによって構成されることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
【請求項9】
プレートの中の複数のヒゲゼンマイ、又は前記時計ムーブメントのアセンブリの中に取り付けられた一のヒゲゼンマイを含む、個別のヒゲゼンマイに対して行われ、いくつかのヒゲゼンマイに対して同時に行われ、前記処理は、前記プレート又は前記アセンブリそれぞれに対して適用される、請求項1に記載の処理方法。
【請求項10】
前記アセンブリが前記ヒゲゼンマイ及びコレットを含むことを特徴とし、
前記アセンブリが、テンプ、ヒゲゼンマイ、プレート及び軸を含む振動子によって形成されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の処理方法。
【請求項11】
請求項1に記載の処理方法よりも前に、固定ステップを含む、少なくとも一つのヒゲゼンマイを製造する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法によって得られるヒゲゼンマイであって、前記気候スチーミングのステップから5か月の使用後に、その速度が3s/d以下である特徴を有するヒゲゼンマイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計ムーブメントのためのヒゲゼンマイ(balance spring)を処理する方法に関する。これはまた、この処理方法から得られるヒゲゼンマイにも関する。
【背景技術】
【0002】
時計製造者は、ヒゲゼンマイ振動子の周波数が時間の関数としてドリフトすることをよく知っている。
【0003】
このドリフトを低減するべく、100から250℃までの間の温度で6時間から24時間までの間、ヒゲゼンマイを加熱することからなる水蒸気処理を行うことが一般的である。水蒸気処理は、材料を回復させるとともに、格子間元素すなわち炭素、窒素及び酸素の拡散及び再配列も許容する効果と、自然酸化物層を安定化させる効果とを有する。水蒸気処理にもかかわらず、Nb-Ti合金製のヒゲゼンマイにおいては、1年後にも依然として6s/dを超える速度ドリフトが観察された。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、速度ドリフトを低減するためのヒゲゼンマイを処理する新規な方法を提案することにある。方法は、常磁性合金製のヒゲゼンマイに適用され、特に、合金の総重量に対するTiの重量パーセントが40から90%までの間、好ましくは40から50%までの間、であるNb-Ti合金製のヒゲゼンマイに適用される。
【0005】
本発明によれば、ヒゲゼンマイの処理方法は、気候スチーミングと称される水蒸気処理のステップを含む。この水蒸気処理は、制御されたレベルの相対湿度を有する雰囲気において行われるからである。
【0006】
詳しくは、本発明は、時計ムーブメントを装備することを意図した少なくとも一つのヒゲゼンマイを処理する方法に関する。前記ヒゲゼンマイは、Nb-Ti合金から作られ、この方法は、60から99%までの間の相対湿度を有する雰囲気における、30から100℃までの間の温度範囲での、気候スチーミングと称される水蒸気処理のステップを含む。
【0007】
試験によれば、本発明に係る方法によって処理されたヒゲゼンマイの速度ドリフトに明確な減少が示されている。この改善は、湿度によるヒゲゼンマイの表面上の異なる形態のTiOの生成及び成長に起因し得る。これはまた、ヒゲゼンマイの表面に吸着された水分子の存在にも関連し得る。
【0008】
本発明はまた、気候スチーミングステップが行われた時点から5か月の使用後に、その速度が3s/d以下である特徴を有するヒゲゼンマイに関する。
【0009】
本発明の他の特徴及び利点が、以下の説明及び図から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る方法を使用して処理されたヒゲゼンマイと、比較として、未処理のヒゲゼンマイと標準的なスチーミング方法を使用して処理されたヒゲゼンマイとの2つのヒゲゼンマイとに対する速度(s/d)を時間(月)の関数として示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、時計ムーブメントのテンプ(balance wheel)を装備することを意図したヒゲゼンマイを処理する方法に関する。
【0012】
本発明によれば、処理方法は、個別のヒゲゼンマイに対して、又はいくつかのヒゲゼンマイに対してバッチ処理で、行うことができる。これは、例えば、いくつかのヒゲゼンマイを香箱(barrel)に含むプレートに対して行うことができる。これはまた、ヒゲゼンマイが取り付けられた時計ムーブメント全体に対して行うこともできる。例として、これは、ヒゲゼンマイ及びコレットを含むアセンブリであってよく、又はテンプ、ヒゲゼンマイ、プレート及び軸を含む振動子によって形成されるアセンブリであってもよい。
【0013】
ヒゲゼンマイは、常磁性合金、特にNb-Ti合金から作られる。この合金は、40から90重量%までの間のチタンを、O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu、Alから選択される一以上の元素の可能な痕跡で含み、前記元素はそれぞれが、全重量の0から1600ppmまでの間であり、100%の残部はニオブによって構成される。
【0014】
本発明によれば、ヒゲゼンマイの処理方法は、60から99%までの間の相対湿度を有する雰囲気における30から100℃までの間の温度範囲でのスチーミングステップを含む。好ましくは、温度範囲は40から80℃までの間、さらに好ましくは40から60℃までの間である。好ましくは、相対湿度は70から97%までの間、好ましくは85から95まで%の間、さらに好ましくは87から95%までの間である。さらに好ましくは、試験は常圧で行う。1から1000mbarまでの間の分圧で試験を行うことも可能である。例えば、スチーマーにおいて1から5barまでの間の圧力において過圧下試験を行うことも可能である。10分から100時間までのかなり広い範囲で異なる保持時間が可能であり、時間は結果に有意な影響を与えない。
【0015】
本発明に係る気候スチーミング処理は、好ましくは、先行技術において周知の標準スチーミング処理に先行する。この標準スチーミング処理は、100から250℃までの間の温度における周囲湿度下で行われ、1から30時間までの間で行われるのが好ましい。
【0016】
標準スチーミング処理及び気候スチーミング処理は、当業者に周知の熱処理であるヒゲゼンマイ固定ステップの後に行われる。
【0017】
したがって、本発明のヒゲゼンマイを製造する方法は、当業者に周知のステップa)からf)を有する以下のステップを含む。
a)上記化学組成を有するNb-Ti合金から作られるブランクの製造。
b)チタン及びニオブを本質的にβ相の固溶体の態様とするための、前記ブランクの、βタイプとして知られる溶解焼入れ処理。
c)随意的に一以上の熱処理を有する合金への変形シーケンスの適用。変形とは、引き抜き及び/又は圧延による変形を意味する。引き抜きは、必要に応じて、同じシーケンス中に又は異なるシーケンス中に一以上のダイスの使用を必要とし得る。ワイヤは、丸い断面になるまで引き抜かれる。圧延は、引き抜きと同じ変形シーケンス又は異なるシーケンスにおいて行われ得る。有利には、合金に適用される最後のシーケンスが圧延であり、好ましくは、巻き取りスピンドルの入口断面に適合する矩形プロファイルによる圧延である。
d)巻き取ってヒゲゼンマイを形成すること。
e)固定のための最終熱処理。
f)任意の標準スチーミング処理。
g)本発明による気候スチーミング処理。
【0018】
本発明はまた、本発明に係る処理方法から得られたヒゲゼンマイに関する。このヒゲゼンマイの特徴は、その表面に酸化チタンと、潜在的に吸着された水分子とを含むことにある。気候スチーミングステップ後の5か月間の使用の後、その速度が3s/d未満であり、又は2s/d未満でさえあるという特徴も有する。
【0019】
気候スチーミングステップ後に試験を行った。その結果を図1に示す。縦軸は室温でWitschi社のChronomaster装置で測定した速度(s/d)、横軸は月単位の時間である。試験は、Tiの重量パーセントが47%のNb-Ti合金ヒゲゼンマイに対して行われた。本発明の方法によれば、このヒゲゼンマイは、周囲湿度において150℃で24時間行われたステップf)に従った標準スチーミング方法を受けた後、常圧下の相対湿度93%の雰囲気において温度50℃で4時間行われたステップg)に従った気候スチーミング方法を受けた。比較として、ステップf)又はg)に従った処理を受けていない同じ化学組成のヒゲゼンマイも試験された。周囲湿度において150℃で24時間行われたステップf)に従った標準スチーミングのみを受けた同じ化学組成のヒゲゼンマイも試験された。本発明に係る処理方法を使用して作られたヒゲゼンマイに、速度ドリフトの明確な減少が観察された。5か月後、速度は、比較対照のヒゲゼンマイの5s/dオーダーの値と比べて2s/dオーダーであった。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-06-07
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計ムーブメントを装備することを意図した少なくとも一つのヒゲゼンマイを処理する方法であって、
前記ヒゲゼンマイはNb-Ti合金から作られ、
前記方法は、60から99%までの間の相対湿度を有する雰囲気における、30℃から100℃までの間の温度範囲での、気候スチーミングと称される水蒸気処理のステップを含む、方法。
【請求項2】
前記気候スチーミングのステップが、100から250℃までの間の温度範囲における周囲空気下で行われる標準スチーミングステップよりも先行する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記気候スチーミングのステップの前記温度範囲は、40から80℃までの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記相対湿度は70から97%までの間である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記方法は常圧下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記方法は1から1000mbarまでの間の分圧下で、又は1から5barまでの間の圧力による過圧下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、40から60℃までの間の温度を有する87から95%までの間の相対湿度を含む雰囲気において常圧下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記Nb-Ti合金は、40から90%までの間の重量パーセンテージのTiを、O、H、C、Fe、Ta、N、Ni、Si、Cu及びAlから選択される一以上の他の元素の可能な痕跡で含み、前記元素はそれぞれが、全重量の0から1600ppmまでの間であり、100%の残部はNbによって構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも一つのヒゲゼンマイは、プレートの中の複数のヒゲゼンマイ、又は前記時計ムーブメントのアセンブリの中に取り付けられた一のヒゲゼンマイを含み、前記処理は、前記プレート又は前記アセンブリそれぞれに対して適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記アセンブリが前記ヒゲゼンマイ及びコレットを含
前記アセンブリが、テンプ、ヒゲゼンマイ、プレート及び軸を含む振動子によって形成される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法よりも前に、固定ステップを含む、少なくとも一つのヒゲゼンマイを製造する方法。
【請求項12】
記気候スチーミングのステップから5か月の使用後の前記少なくとも一つのヒゲゼンマイの速度が3s/d以下である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法
【外国語明細書】