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特開2024-169366匂い測定装置用のセンサ素子、匂い測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169366
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】匂い測定装置用のセンサ素子、匂い測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20241128BHJP
【FI】
G01N27/12 B
G01N27/12 M
G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024082770
(22)【出願日】2024-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2023086415
(32)【優先日】2023-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】金澤 岳
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA18
2G046AA24
2G046AA25
2G046BA02
2G046BA07
2G046BA08
2G046BA09
2G046BD02
2G046BD06
2G046BG05
2G046EA03
2G046EA04
2G046EA10
2G046FA01
2G046FB02
2G046FE03
2G046FE38
(57)【要約】
【課題】匂いの識別性能が向上したセンサ素子などを提供する。
【解決手段】センサ素子(31)は、樹脂組成物を含む匂い物質受容層(315)と、匂い物質受容層(315)と接している金属配線(313)と、匂い物質受容層(315)の、金属配線と接している側とは反対側を覆う匂い物質透過層(317)とを備える。匂い物質透過層(317)は、樹脂(E)およびゼオライトを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)およびフィラー(B)を含む樹脂組成物(P)を含む匂い物質受容層と、
前記匂い物質受容層の少なくとも一部と接している第1金属配線、および該第1金属配線と離間しており、かつ該匂い物質受容層の少なくとも一部と接している第2金属配線と、
前記匂い物質受容層の、前記第1金属配線および前記第2金属配線と接している側とは反対側の少なくとも一部を覆う匂い物質透過層と、
を備え、
匂い物質透過層は樹脂(E)およびゼオライト(F)を含む樹脂組成物(Q)を含む、匂い測定装置用のセンサ素子。
【請求項2】
前記樹脂組成物(Q)は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤のうちの少なくとも何れか1以上を含む、請求項1に記載の匂い測定装置用のセンサ素子。
【請求項3】
前記樹脂(E)は、シリコーン樹脂を含む、請求項1に記載の匂い測定装置用のセンサ素子。
【請求項4】
前記ゼオライトの含有量は、前記樹脂(E)と前記ゼオライトとの合計量を100重量%とした場合に、10~80重量%である、請求項1に記載の匂い測定装置用のセンサ素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の匂い測定装置用のセンサ素子を複数備える、
匂い測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は匂い測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理技術の発達により、人間の五感のうち機械的な測定が十分に達成できていない嗅覚を何らかの方法で数値化することができれば、医療分野、環境分野、バイオガス利用の分野、安全分野、食品分野、およびマーケティング分野などの幅広い産業分野で利用可能であることが期待される。このような嗅覚に関する技術は、例えば、下記のように多様な目的に利用可能である。
・医療分野:介護・介助、未病予防診断や疾病検査など。
・環境分野:工場などでの臭気管理など。
・バイオガス利用の分野:発酵工程管理や排水処理の管理など。
・安全分野:土砂崩れや水害などの予兆検知、エンジンオイルや機械動作油の劣化検知など。
・食品分野:植物(例えば野菜および穀類)や肉などの食材の熟成状態検知、酒類などの発酵食品の工程管理、植物の栽培管理、および食品の生産過程・保管過程・流通過程での品質管理など。
・マーケティング分野:香粧品、体臭対策、香り環境、商材の香りのプロデュースなど。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、半導体ガスセンサの半導体を導電性高分子に置き換えて導電性高分子表面への匂い成分の吸着を検出する仕組みを提案している。特許文献1では、熱分解しやすい匂い成分およびセンサの検出部表面で酸化還元反応を生じない物質の検出が可能になることを報告している。
【0004】
また、特許文献2においては、有機ポリマーと導電性物質の混合物の電気抵抗が有機ガスに曝露されることで変化する性質に着目している。特許文献2では、上記混合物のうち有機ポリマーの組成が異なる有機ポリマー/導電性物質の組み合わせを複数調製し、これらを電気抵抗アレイとしてセンサに用いると、同一の有機ガスに曝露された際の電気抵抗変化がそれぞれ異なることが記載されている。これを利用して、電気抵抗変化のパターンと匂い(=有機ガスの混合物)の種類を帰属することによって匂いを識別できることが特許文献2では報告されている。
【0005】
さらに、特許文献3において、上記の有機ポリマーに対して可塑剤を添加することでセンサの応答速度が向上することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-23508号公報
【特許文献2】特表平11-503231号公報
【特許文献3】特開2002-519633
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載のような従来技術には、匂いの識別性能の観点から改善の余地があった。
【0008】
本発明の一態様は、匂いの識別性能が向上したセンサ素子などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、樹脂(A)およびフィラー(B)を含む樹脂組成物を含む匂い物質受容層と、前記匂い物質受容層の少なくとも一部と接している第1金属配線と、前記第1金属配線と離間しており、かつ前記匂い物質受容層の少なくとも一部と接している第2金属配線と、前記匂い物質受容層の、前記第1金属配線および前記第2金属配線と接している側とは反対側の少なくとも一部を覆う匂い物質透過層と、を備え、匂い物質透過層は樹脂(E)およびゼオライトを含む樹脂組成物を含む匂い測定装置用のセンサ素子、および該センサ素子を複数備える匂い測定装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、匂いの識別性能が向上したセンサ素子などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る匂いセンサの構成の一例を示す概略図である。
図2】センサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図3図2に示すセンサ素子の構成の一例を示す断面図である。
図4】センサ素子の断面を観察したSEM画像である。
図5】本発明の一実施形態に係る匂い測定装置の構成の一例を示す概略図である。
図6】匂い測定装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図7】推定装置が推定モデルを生成する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】匂い測定装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図9】推定装置が匂い物質を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図10】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図11】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す上面図である。
図12】本発明のセンサ素子の構成の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上B以下」を意図する。
【0013】
〔1.センサ素子31〕
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
【0014】
本発明の一実施形態に係る匂い測定装置用のセンサ素子31は、樹脂組成物を含む匂い物質受容層315と、匂い物質受容層315の少なくとも一部とそれぞれ接している第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bと、匂い物質透過層317と、を備えている。ここで、樹脂組成物は、樹脂(A)およびフィラー(B)を含んでいる。第1金属配線313Aは第2金属配線313Bと離間している。
【0015】
センサ素子31は、匂い物質受容層315の、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bと接している側とは反対側の少なくとも一部を覆う匂い物質透過層317を備えている。例えば、匂い物質透過層317は、匂い物質受容層315の、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bと接している側とは反対側を完全に覆うように設けられてもよい。匂い物質透過層317と匂い物質受容層315とは、匂い物質受容層315の第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bとの接面を含む面とは異なる面において接している。匂い物質透過層317は、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bとは接していない。
【0016】
匂い物質透過層317は、匂い物質を選択的に匂い物質受容層315に到達させる機能を備える。匂い物質透過層317は、匂い物質受容層315が測定環境の湿度などによって劣化する速度を低下させる保護層としても機能し得る。
【0017】
〔2-1.匂い物質透過層〕
匂い物質透過層317は、樹脂(E)およびゼオライトを含む樹脂組成物を含んでいる。ここで、ゼオライトとは、結晶性ケイ酸塩の総称である。ゼオライトが有する結晶構造(骨格構造ともいう)の基本的な単位は、ケイ素原子又はアルミニウム原子を取り囲んだ4個の酸素原子からなる四面体であり、これらが3次元方向に連なって結晶構造を形成している。
【0018】
<ゼオライト>
匂い物質透過層317に適用するゼオライトの結晶構造は、特に制限はなく、例えば、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association)が定めるアルファベット3文字からなる構造コードにて表される各種の結晶構造が挙げられる。構造コードの例としては、例えば、LTA、FER、MWW、MFI、MOR、LTL、FAU、BEAのコードが挙げられる。当該結晶構造の好適な一態様を結晶構造の名称で示すと、好ましくはA型、X型、β型、Y型、L型、ZSM-5型、MCM-22型、フェリエライト型、モルデナイト型、およびチャバサイト型からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0019】
例えば、匂い物質透過層317に適用するゼオライトとして、結晶形がベータ型、ZSM-5型、モルデナイト型またはY型であり、細孔径が5.8~9オングストロームであり、結晶の大きさが0.1×0.5~2×5μmであり、粒子の大きさが2.5~12μmのものが適用されてよい。
【0020】
一般に、ゼオライトは、その結晶構造中に、陽イオンを有しており、当該陽イオンが、アルミノケイ酸塩から構成される前記結晶構造中の負電荷を補償して、正電荷の不足を補っている。ゼオライトは、特に制限はないが、陽イオンとして、好ましくは、水素イオン、リチウムイオン、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、およびバリウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するゼオライトである。
【0021】
匂い物質透過層317に適用するゼオライトとしては、シリカアルミナを含むゼオライトが好ましい。ゼオライトのシリカ成分とアルミナ成分との比が大きいゼオライト(すなわち、ハイシリカゼオライト)は、疎水性の挙動を示し、極性の小さい成分と極性の大きい成分との混合物から極性の小さい成分を収着する性質がある。そのため、匂い物質受容層315を覆う匂い物質透過層317の疎水性を向上させたい場合、アルミナ成分に対するシリカ成分の比(すなわち、シリカ成分含有量/アルミナ成分含有量)が高いゼオライトが好ましい。
【0022】
一方、ゼオライトのシリカ成分とアルミナ成分の比が小さいゼオライト(すなわち、ハイアルミナゼオライト)は親水性の挙動を示し、極性の小さい成分と極性の大きい成分との混合物から極性の大きい成分を収着する性質がある。そのため、匂い物質受容層315を覆う匂い物質透過層317の親水性を向上させたい場合、シリカ成分とアルミナ成分との比が低いゼオライトが好ましい。
【0023】
ハイシリカゼオライトの市販品の例としては、例えば東ソー(株)社製のHSZ-300、HSZ-500、HSZ-600、HSZ-700、HSZ-800、HSZ-900、HSZ-690HOA、HSZ-390HUA、およびHSZ-330HUA等が挙げられる。
【0024】
匂い物質透過層317は添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤の少なくとも何れかであることが好ましく、シランカップリング剤が更に好ましい。添加剤の使用量は、ゼオライト100質量部に対して1~30質量部が好ましく、1~15質量部がより好ましい。添加剤を含むことで、ゼオライトの樹脂(E)への分散性、および溶媒への溶解度が向上する。また、センサ素子31の匂い識別能を向上させることができる。
【0025】
匂い物質透過層317に適用する添加剤には、公知のシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤は、未反応のシランカップリング剤を容易に除去できる観点で、常圧において300℃以下の沸点を有するものを有するものが好ましく、275℃以下の沸点を有するものが更に好ましく、250℃以下の沸点を有するものが最も好ましい。
【0026】
チタネート系カップリング剤およびアルミネート系カップリング剤の市販品としては、例えば「プレンアクトシリーズ」(味の素ファインテクノ(株)社製)、および「オルガチックス」(マツモトファインケミカル(株)社製)が挙げられる。
【0027】
シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0028】
匂い物質透過層317に適用するゼオライトは、樹脂(E)と混合される。樹脂(E)としては、ビニル樹脂(例えば、ポリビニルピロリドン、ブチラール樹脂など)、およびシリコーン樹脂が挙げられる。これらのうち、樹脂(E)として最も好適な樹脂はシリコーン樹脂である。
【0029】
匂い物質透過層317に適用するゼオライトと樹脂(E)との混合物を調製する際の混合方法は、一般的な方法であれば特に限定されない。匂い物質透過層317に適用するゼオライトと樹脂(E)との混合物を調製する際の混合のために、例えば、撹拌子、攪拌翼、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ポリトロンホモジナイザー、スタティックミキサー、ナウターミキサー、リボン型ブレンダー、インテンシブミキサー、ゲートミキサー、バタフライミキサー、万能ミキサー、ディゾルバー、超音波照射、自転・公転ミキサー、湿式ジェットミル、ボールミル、ビーズミルなどが使用可能である。これらは単独で用いても、2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。なお、これらのうち、匂い物質透過層317に適用するゼオライトの樹脂(E)中への分散性を向上させる観点で、好ましくは超音波ホモジナイザーである。
【0030】
匂い物質透過層317は、匂い物質受容層315の、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bと接している側とは反対側の少なくとも一部を覆う層である。
【0031】
匂い物質透過層317に含まれる樹脂組成物において、ゼオライトの含有量は、樹脂(E)とゼオライトとの合計量を100重量%とした場合に、10~80重量%であってもよい。匂い物質透過層317に含まれる樹脂組成物において、ゼオライトの含有量は、樹脂(E)とゼオライトとの合計量を100重量%とした場合に、20~70重量%であればより好ましく、30~60重量%であればさらに好ましい。
【0032】
〔2-2.匂い物質受容層〕
センサ素子31が備える匂い物質受容層315は、樹脂(A)およびフィラー(B)を含む樹脂組成物を含む。この樹脂組成物は、界面活性剤(C)をさらに含んでいてもよい。この樹脂組成物をセンサ素子用基板上に塗布し、加熱乾燥させて乾固物としてから、匂い物質受容層315として使用する。この樹脂組成物は、匂い物質の吸着等に応じて電機抵抗値が変化する。すなわち、センサ素子31は、このような樹脂組成物を搭載した匂い検知デバイスであり、センサ素子31の匂い測定方式はケミレジスター型である。樹脂(A)、フィラー(B)、および界面活性剤(C)については後に具体例を挙げて説明する。
【0033】
<樹脂組成物>
本明細書中、「匂い物質」とは、広義において匂い物質受容層315に吸着可能な物質を意味する。従って、一般的に匂いの原因物質とされていない物質も含まれる。「匂い」には原因となる匂い物質が複数含まれることが多く、また、匂い物質として認知されていない物質または未知の匂い物質も存在する。本発明の一実施形態は、匂い物質受容層315への匂い物質の吸着量が匂い物質の種類によって異なることに着目するものである。
【0034】
なお、本明細書中、単に「匂い物質」と記載した場合であっても、個々の匂い物質ではなく、複数の匂い物質が含まれ得る「匂い物質の集合体」を意味する場合がある。
【0035】
「匂い物質」としては特に限定されないが、例えばヘキサン、酢酸エチル、メタノール、炭酸ジエチル、トルエン、d-リモネン、ボルナン-2-オン、シス-3-ヘキセノール、β-フェニルエチルアルコール、シトラール、L-カルボン、γ-ウンデカラクトン、オイゲノール、リナリルアセテート、メントール、ベンズアルデヒド、バニリン、ヘキサナール、エタノール、吉草酸ペンチル、リナロール、2-プロパノール等が挙げられる。
【0036】
また、本明細書中、「匂い物質受容層」とは、識別対象となる匂い物質を吸着する層を意味する。匂い物質受容層315は上述の樹脂組成物から形成される。匂い物質受容層315は、後述のセンサ素子31の一部として設けられ得る。
【0037】
引用文献1に記載のセンサでは、単体の化合物からなる匂いの検出は可能であると考えられる。一方で多くの匂いは複数の物質の混合物である。引用文献1に記載のセンサでは検出部に匂いの成分を識別させる機能がないため、混合物に対する匂い識別性能が十分でない。引用文献2では検出部に用いる導電性を示す高分子の化学構造の違いを利用して、それぞれの導電性高分子を介して検出部が示す種々の化合物に対する応答に違いを持たせることで混合物としての匂いを認識させることができることが示されている。しかしながら、導電性を示す高分子の化学構造は限られており、任意の匂い成分に対する検出部の応答を感度良く分離することが難しく、類似の成分からなる匂い同士を識別させることは難しい。引用文献3では有機ポリマーと可塑剤と導電性物質からなる混合物を検出材料として検出部に用いて匂い成分が有機ポリマー中に浸透することを上記混合物の電気抵抗変化として検出する方法を提案している。異なる組成の有機ポリマーを用いれば浸透する匂い成分が異なることを利用して異なる組成の有機ポリマーを含む上記の検出材料からなる検出部を複数並列して用いるアレイにすることで、混合物としての匂いを認識させることができる。しかしながら、上記の有機ポリマーおよび可塑剤を含有する有機ポリマーでは、有機ポリマー/導電性物質の組み合わせを複数用意したとしても、有機ポリマー同士の化学的な性質の差が小さいため、匂いの識別性能は十分でない。これらの従来技術では例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンを的確に検知できない。
【0038】
上述した樹脂組成物の電気伝導性は、該樹脂組成物に吸着した匂い物質の量に応じて変化する。また、匂い物質の上述の樹脂組成物への吸着過程は、匂い物質毎に異なる。それゆえ、このような樹脂組成物を用いることにより、本発明の一実施形態に係るセンサ素子31は、匂いの識別性能を向上させることができる。例えば、複数の物質が相互作用する現実の匂いパターンまたは組成が不明である物質による現実の匂いパターンをも識別することができる。
【0039】
<樹脂(A)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物に含まれる樹脂(A)は、特に限定されないが、ウレタン樹脂、ポリアルキレンオキサイド、アクリル樹脂、フッ素基含有樹脂、ビニル樹脂(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラールなど)、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、パラフィンワックスおよびポリエステル樹脂等であってもよい。
【0040】
<フィラー(B)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、フィラー(B)を含んでいる。本明細書において、フィラー(B)とは、導電性炭素材料であり、より具体的には、体積固有抵抗が0.1Ω・cm以下の炭素材料のことである。上述の樹脂組成物は、樹脂(A)中にフィラー(B)が分散している状態である。フィラー(B)同士が互いに接触して導電経路を形成することで樹脂組成物が導電性を有する。
【0041】
フィラー(B)としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブおよびグラフェン等などの導電性炭素材料が挙げられる。
【0042】
カーボンブラックの市販品としては、ケッチェンブラックEC(オランダ・アクゾ社製商品名)、ケッチェンブラックEC-300J(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、ケッチェンブラックEC-600JD(ライオンスペシャリティケミカルズ(株)製商品名)、シーストG116、116(東海カーボン社製商品名)、ニテロン#10(新日鉄化学(株)社製商品名)、デンカブラック(デンカ(株)社製商品名)、トーカブラック(東海カーボン(株)製商品名)およびSUPER C-65(米国・MTI Corporation社商品名)等がある。
【0043】
カーボンナノチューブの市販品としては、VGCF-H(昭和電工(株)社製商品名)等がある。
【0044】
グラフェンの市販品としては、シグマアルドリッチ社製がある。
【0045】
前記導電性炭素材料の形状は、好ましくは繊維状または球状である。
【0046】
繊維状である場合、繊維径は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは0.1~5μmである。繊維長は好ましくは0.1~10μmであり、更に好ましくは1~10μmである。
【0047】
球状である場合、1次粒子径が好ましくは10nm~200nmであり、更に好ましくは20nm~150nmである。
【0048】
また、導電性炭素材料は、樹脂組成物中での導電性、およびセンサ感度の観点から、一次粒子径が100nm以下であることが好ましい。導電性炭素材料の粒子径は、公知の方法で求めることが可能である。例えば導電性炭素材料の粒子径は透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、画像処理装置(例えばキーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX-700F)を用いて画像解析することにより測定することができる。導電性炭素材料が公知の物または市販品である場合には、粒子径は、文献値またはカタログ値であってもよい。
【0049】
フィラー(B)の含有量は、樹脂組成物から形成されるセンサ素子が匂いセンサとして十分な導電性を発現する観点、および当該匂いセンサとして十分な感度を発現する観点から、樹脂(A)、フィラー(B)との合計量を100重量%とした場合に、好ましくは10~60重量%である。匂い物質受容層315におけるカーボンブラックの含有量は、樹脂(A)、フィラー(B)との合計量を100重量%とした場合に、より好ましくは10~55重量%であってもよい。
【0050】
樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した樹脂(A)、フィラー(B)および界面活性剤(C)以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分の例には、溶媒(D)が含まれる。当該他の成分は、本発明の効果および当該他の成分による効果の両方が得られる範囲で好適に使用され得る。
【0051】
溶媒(D)は、樹脂(A)とフィラー(B)との相溶性を高める観点、樹脂組成物中における界面活性剤(C)の分散性を高める観点、または樹脂組成物の塗布性を高める観点から樹脂組成物に配合することが可能である。溶媒(D)の例には、N-メチルピロリドン(NMPとも称する)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酪酸エチル、酪酸ブチル、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、トルエンおよびキシレンが含まれる。
【0052】
樹脂組成物における溶媒(D)の含有量は、上記の観点から適宜に決定し得る。
【0053】
<界面活性剤(C)>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、以下で説明するような界面活性剤(C)を含んでいてもよい。界面活性剤(C)は、フィラー(B)の分散剤としての作用を呈する。界面活性剤(C)は、樹脂組成物が上記の作用を発現する範囲において、公知の界面活性剤から適宜に選ぶことが可能である。
【0054】
界面活性剤(C)は、特に制限はないが、8~18のHLB値を有していることが好ましく、更に好ましくは9~17であり、特に好ましくは10~16である。このようなHLB値の界面活性剤(C)を用いることによって、匂い識別性能が向上する。
【0055】
ここでの「HLB値」とは、親水性と親油性のバランスを示す指標であって、例えば「界面活性剤入門」〔2007年三洋化成工業株式会社発行、藤本武彦著〕212頁に記載されている小田法による計算値として知られているものであり、グリフィン法による計算値ではない。
【0056】
HLB値は有機化合物の有機性の値と無機性の値との比率から計算することができる。
【0057】
HLB=10×無機性/有機性
ここで、上式中の無機性および有機性の値は藤田らによって提案された有機性と無機性を表現する指標値を表しており、前記「界面活性剤入門」213頁に記載の表の値を用いて算出できる。
【0058】
イオン性界面活性剤としては、例えばアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤が挙げられる。
【0059】
アニオン性界面活性剤としては、炭素数10~24のカルボン酸のアルカリ金属塩、炭素数14~24のアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩、およびポリエーテル酸エステルのアミン塩等が挙げられる。
【0060】
前記炭素数10~24のカルボン酸としては、例えば、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ペンタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸およびテトラコサン酸等が挙げられる。
【0061】
前記炭素数14~24のアルキルスルホン酸が有するアルキル基としては、例えば、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基およびテトラコシル基等が挙げられる。
【0062】
前記アルカリ金属塩が含むアルカリ金属としては、例えば、ナトリウムおよびカリウム等が挙げられる。
【0063】
カチオン性界面活性剤としては、炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムのハロゲン化物塩等が挙げられる。
【0064】
前記炭素数12~24のアルキル基を有する第4級アンモニウムとしては、例えばテトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、ジメチルジオクチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、デシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、トリデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム、オクチルトリメチルアンモニウム、トリブチルメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ノナデシルトリメチルアンモニウム、イコシルトリメチルアンモニウム、ヘンイコシルトリメチルアンモニウム、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムおよびペンタデシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0065】
前記ハロゲン化物塩としては、例えばフッ化物塩、塩化物塩、臭化物塩およびヨウ化物塩等が挙げられる。
【0066】
両性界面活性剤としては、例えば、炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウム分子内塩、炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
【0067】
炭素数10~22のアルキル基を有するジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩としては、例えばデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ウンデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ドデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、トリデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ペンタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘキサデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘプタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、オクタデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ノナデシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、イコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、ヘンイコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩およびドコシルジメチル(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩等が挙げられる。
【0068】
炭素数10~22のアルキル基を有するN-アルキル-N,N-ジメチルグリシンとしては、N-ドデシル-N,N-ジメチルグリシンおよびN-オクタデシル-N,N-ジメチルグリシン等が挙げられる。
【0069】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0070】
高級アルコールとしては、1-ヘキシルアルコール、1-ヘプチルアルコール、1-オクチルアルコール、1-ノニルアルコール、1-デシルアルコール、1-ウンデシルアルコール、1-ドデシルアルコール、1-トリデシルアルコール、1-テトラデシルアルコール、1-ペンタデシルアルコール、1-ヘキサデシルアルコール、1-ヘプタデシルアルコール、1-オクタデシルアルコール等が挙げられる。
【0071】
エチレンオキサイド付加モル数は、匂い識別性能の観点から5~50が好ましく、より好ましくは5~40が好ましく、さらに好ましくは5~30である。
【0072】
前記樹脂(A)と前記フィラー(B)とは相溶していても相溶していなくても良い。
【0073】
界面活性剤の含有量は、樹脂(A)、フィラー(B)および界面活性剤(C)の合計100重量%に対し、匂い物質の受容感度の観点より、好ましくは0~40重量%であり、さらに好ましくは3~35重量%であり、最も好ましくは5~30重量%である。
【0074】
<匂い物質受容層315の樹脂組成物の製造方法>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法の具体的な一例を示せば、下記の通りである。
【0075】
前記樹脂組成物は、樹脂(A)、およびフィラー(B)を混合して、撹拌機で均一に混練することでスラリーとして得られる。樹脂(A)およびフィラー(B)の混合時に、必要に応じて界面活性剤(C)および溶媒(D)が添加されてもよい。攪拌機としては、例えば自転・公転ミキサーが用いられる。自転・公転ミキサーとして、例えばARE-310((株)シンキー社製商品名)、またはHR003-04A/V(三星工業株式会社製商品名)が挙げられる。樹脂組成物は、樹脂(A)、およびフィラー(B)を混合して、例えば回転数を2000回転/分とし、回転時間を10~60分程度として撹拌機で混練することで、所望の空隙率を有するスラリーとして得られる。前記樹脂組成物は、必要に応じて界面活性剤(C)および溶媒(D)を添加する場合では、溶媒(D)は樹脂組成物から留去される。溶媒(D)は、均一に混合して生成した樹脂組成物から留去してもよいし、センサ素子31の製造時に生成した塗膜から留去してもよい。
【0076】
〔2.センサ素子31〕
上述した樹脂組成物は、樹脂組成物に匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の経時的な変化が異なる。この性質を利用すれば、匂い物質を検出・識別可能なセンサ素子31を実現することができる。
【0077】
以下では、本発明の一実施形態に係る樹脂組成物を適用したセンサ素子31の概要および効果について説明する。
【0078】
センサ素子31は、上述の樹脂組成物を含む匂い物質受容層315、第1金属配線313A、第2金属配線313B、および匂い物質透過層317を備えている。なお、以下では、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを区別しない場合、金属配線313と記す場合がある。
【0079】
ここで、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bについて、図2および図3を用いて説明する。図2は、センサ素子31の構成の一例を示す上面図であり、図3は、図2に示すセンサ素子31の構成の一例を示す断面図である。
【0080】
第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bはそれぞれ、匂い物質受容層315(すなわち、樹脂組成物)の電気伝導性の変化を計測するための電極として機能する金属配線である。すなわち、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとは互いに離間しており、匂い物質受容層315は、第1金属配線の少なくとも一部と第2金属配線の少なくとも一部とに接している。一例において、第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bは、互いに直接接していない金属配線であり、図2に示すように、互いに略平行な金属配線であってもよい。
【0081】
図2に示すように第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bを含む金属配線313は、基板311上に配置されていてもよい。基板311は、電子回路に一般的に用いられるガラスエポキシ等の基板であり得る。基板311は、ガラスエポキシに限られず、紙フェノール、ガラスコンポジット、ポリイミド、PET、ガラスセラミック、アルミナ、またはアルミニウムの基板であってもよい。金属配線313は、銅、または金等の金属配線であり得る。基板の面に対して垂直な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの太さは10μm~2mmが好ましく、更に好ましくは10μm~1mmである。基板の面に対して平行な方向から見た第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bそれぞれの高さ、すなわち厚さは1μm~100μmが好ましく、更に好ましくは10μm~50μmである。第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bの間隔は1μm~3mmが好ましく、更に好ましくは1μm~1.5mmである。金属配線313の長さは100μm~50mmが好ましく、更に好ましくは500μm~30mmである。
【0082】
図3は、図2のA-A断面を示している。匂い物質受容層315は、第1金属配線313Aの少なくとも一部と第2金属配線313Bの少なくとも一部とに接していてもよい。匂い物質受容層315は、例えば、図2および図3に示すように、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとを完全に覆うように配されていてもよい。匂い物質受容層315の少なくとも一部は、厚さが1μm以上50μm以下の薄膜状であってもよい。この構成により、匂い物質を匂い物質受容層315が吸着したことに起因する該匂い物質受容層315の電気伝導性の変化を電気信号として精度良く検出することができる。
【0083】
匂い物質受容層315の電気伝導性(すなわち、センサ素子31の電気伝導性)が低い場合、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間隔は所定の距離(例えば、500μm)以下であることが望ましい。
【0084】
センサ素子31は、匂い物質Aが吸着した場合と、匂い物質Aとは異なる匂い物質Bが吸着した場合とで、電気伝導性の経時的な変化が異なる樹脂組成物を適用することにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。なお、後述する匂いセンサ30では、匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)が設けられた基板311を備えるセンサ素子31が複数配設されていてもよい。それぞれの基板311には、同じ組成の匂い物質受容層315を含む複数のセットが配設されていてもよい。複数のセンサ素子31が配設される場合、センサ素子31ごとに定電圧電源および電圧計を備える。匂いセンサ30において、各基板311上に匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)が1つ配設されていてもよい。あるいは、匂いセンサ30において、1つの基板311上に匂い物質を検出するための構成(金属配線313および匂い物質受容層315)のセットが複数配設されていてもよい。後者の場合、基板311上に設けられるセットの各々に定電圧電源および電圧計が接続される。
【0085】
匂い物質透過層317は、厚さが0.1μm以上50μm以下の薄膜状であってよく、厚さの下限は0.5μm以上がより好ましく、厚さの上限は20μm以下がより好ましい。匂い物質透過層317の厚さは、匂い物質透過層317の全体に亘って上記数値範囲内であってもよいし、匂い物質透過層317の全体の厚さを平均した値が上記数値範囲内であってもよい。匂い物質透過層317の作成時に、塗工する膜の面積を電極形状等によって規制し、分注する匂い物質透過層317の溶液の蒸発残留分と分注量とを制御することによって、匂い物質透過層317の厚さを制御することが可能である。匂い物質透過層317を透過した匂い物質は匂い物質受容層315に到達可能であるが、匂い物質透過層317を透過できない匂い物質は匂い物質受容層315に到達できない。匂い物質透過層317の厚さが過度に厚い場合、匂い物質受容層315まで到達する匂い物質が少なくなり、測定感度が低下してしまう。また、匂い物質透過層317によって、匂い物質受容層315の体積変化が阻害されると、匂い物質を匂い物質受容層315が吸着したことに起因する該匂い物質受容層315の電気伝導性の変化が小さくなり、測定感度が低下してしまう。一方、匂い物質透過層317の厚さが不足していれば、ほとんどの匂い物質が匂い物質受容層315に到達する。それゆえ、匂い物質透過層317は、匂い物質を選択的に匂い物質受容層315に到達させる機能を十分に発揮できない。また、厚さが不足している匂い物質透過層317は、匂い物質受容層315を十分保護することができない。それゆえ、本発明に係るセンサ素子31の匂い物質透過層317の厚さは上述の範囲であることが好ましい。
【0086】
<匂い物質透過層317の厚さの測定方法>
以下、匂い物質透過層317の厚さの測定方法について、図4を用いて説明する。図4は、匂い物質受容層315および匂い物質透過層317を備えるセンサ素子31の断面を2.5万倍で観察した走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。匂い物質受容層315および匂い物質透過層317を備えるセンサ素子31の断面は、例えばクロスセクションポリッシャ、具体的にはIB-19530CP(日本電子株式会社製商品名)を用いて成形される。図4において符号L1~符号L20で示す線は、それぞれの箇所における匂い物質受容層315と匂い物質透過層317との境界から匂い物質透過層317の表面までの長さを示す線である。以下では、匂い物質受容層315と匂い物質透過層317との境界から匂い物質透過層317の表面までの長さを、匂い物質透過層317の断面長さと称する。なお、匂い物質受容層315と匂い物質透過層317との境界は、例えばSEMの反射観察、電子像SEM-EDX、またはSTEM等を用いて決定することができる。
【0087】
匂い物質透過層317の厚さは、匂い物質透過層317の複数箇所における断面長さの平均値であってもよい。匂い物質透過層317の厚さの算出基準となる断面長さの測定箇所は、最も厚い箇所と最も薄い箇所との2箇所であってもよいし、匂い物質透過層317の中で任意に選択された10箇所であってもよいし、さらに多くともよい。一例として、図4に示す例において符号L1~符号L20で示す20箇所の断面長さの平均値を匂い物質透過層317の厚さとしてもよい。匂い物質透過層317の厚さとして、複数箇所の断面長さの平均値が、上述した数値範囲に収まればよい。
【0088】
匂いセンサ30が備える複数の匂い物質受容層315それぞれの組成は、同じであってもよいし異なっていてもよい。匂いセンサ30が同じ組成の匂い物質受容層315を含む場合、複数の匂い物質受容層315それぞれにおいて同じ匂い物質を検出することができる。また、匂いセンサ30がそれぞれ異なる組成の匂い物質受容層315を含む場合、複数の匂い物質受容層315のそれぞれは、匂い物質に対して異なる応答をする。このように、匂い物質を検出するための構成のセットを複数備えることで、匂いセンサ30における匂い物質の識別精度を向上させることができる。
【0089】
〔3.匂いセンサ30〕
以下では、センサ素子31を適用した匂いセンサ30の概要および効果について、図5を用いて説明する。図5は、センサ素子31を適用した匂いセンサ30の構成の一例を示すブロック図である。
【0090】
匂いセンサ30は、匂い物質を検出するセンサ素子31、定電圧電源32(電源)、および電圧計33(測定機器)を備えている。
【0091】
センサ素子31の第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとはリード線Wで接続されている。図5には、リード線Wに定電圧電源32および電圧計33が配された例を示している。
【0092】
定電圧電源32は、センサ素子31に給電するための電源である。定電圧電源32は、センサ素子31にリード線を介して定電圧を供給する。定電圧電源32が供給する電圧値は、0.5V~10Vであり、例えば2.5Vである。
【0093】
電圧計33は、定電圧電源32から供給された定電圧を匂い物質受容層315に供給した場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間に生じる電位差を測定する。
【0094】
なお、匂いセンサ30は、匂い物質測定用の回路において、電圧計33の前段にアンプ(不図示)を備えており、当該アンプは取得した信号を増幅し電圧計33に供給する。
【0095】
また、匂いセンサ30は、匂い物質測定用の回路のほかにリファレンス回路を備えており、電圧計33は、匂い物質測定用の回路において取得された値とリファレンス回路において取得された値との差(電位差)を電圧値として取得する。
【0096】
匂いセンサ30は、必須の構成ではないが、筐体34をさらに備えていてもよい。筐体34は、匂い物質を含む空気を内包可能な容器である。筐体34を備えている場合、センサ素子31は筐体34内に設置される。
【0097】
筐体34は、匂い物質を導入するための導入口341および匂い物質を含む空気を排出するための排出口342を備えている。匂い物質の導入は、導入口341から匂い物質を浸漬したろ紙等を筐体34内に導入することによって行われてもよいし、匂い物質を含む空気を導入口341から筐体34内に導入することによって行われてもよい。筐体34は、匂い物質を所定の濃度(例えば、200ppm)以上含む空気を内包するための容器である。
【0098】
筐体34の排出口342には、必須では無いが、気流生成用ファン35が配されていてもよい。気流生成用ファン35は、筐体34内に気流を生じさせたり、筐体34内の気体を排出口342から筐体34外へ排出させたりするためのものである。
【0099】
なお、匂いセンサ30は、定電圧電源32の代替として不図示の定電流源(電源)、電圧計33の代替として不図示の電流計(測定機器)を備えていてもよい。この場合、定電流源は、センサ素子31に給電するための電源として機能し、センサ素子31にリード線を介して定電流を印加する。一方、電流計は、匂い物質受容層315に定電流が印加された場合に、第1金属配線313Aと第2金属配線313Bとの間を流れる電流値を測定する。第1金属配線313Aおよび第2金属配線313Bはいずれも電極として機能し得る。以下、金属配線313が電極として機能する場合には、「電極313」と記載する場合もある。
【0100】
匂いセンサ30は、センサ素子31に匂い物質が吸着する前後における、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を示す測定値を出力する。これにより、さまざまな匂い物質を検出したり、識別したりすることが可能である。
【0101】
〔4.匂い測定装置100〕
上述した匂いセンサ30は、センサ素子31にさまざまな匂い物質が吸着した場合、該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を匂い物質毎に出力することができる。この匂いセンサ30を適用すれば、匂い物質Aがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と、匂い物質Bがセンサ素子31に吸着した場合の該センサ素子31の電気伝導性の経時的な変化と比較することができる。このような比較結果に基づいて、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定可能な匂い測定装置100を実現することができる。
【0102】
さらに、匂い測定装置100は、機械学習によって生成した推定モデル22を用いれば、高精度な匂い物質の推定を行うことができる。推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いて生成され得る。
【0103】
以下では、匂いセンサ30を適用した匂い測定装置100の概要および効果について説明する。匂い測定装置100は、上述した樹脂組成物を適用したセンサ素子31に生じた電気伝導性の変化から、センサ素子31に吸着した匂い物質を推定する装置である。
【0104】
本実施形態の匂い測定装置100は、複数のセンサ素子31A(以下、「センサ素子群31A」とも称する)を備えるセンサチャンバ60と、匂い物質を含む対象試料が導入され、対象試料から発生した匂い物質を含む気体が内包される対象試料受入部50とを別々に備える。本実施形態では、センサ素子群31Aに含まれる個々のセンサ素子31を単に「センサ素子31」と記す。
【0105】
本実施形態の匂い測定装置100は、対象試料受入部50の内部の、匂い物質を含む気体を、匂い物質を含む気体とは別の気体を用いてセンサチャンバ60の方へ押し出す構成を採用している。本実施形態において、対象試料受入部50内に対象試料が導入された場合の該対象試料受入部50内の気体(すなわち、検出対象の匂い物質を含む気体)を第1気体と称す。一方、第1気体をセンサチャンバ60の方へ押し出すための気体のことを第2気体と称す。
【0106】
図1は、匂い測定装置100の概略図である。図1に示すように、匂い測定装置100は、匂いセンサ30、対象試料受入部50、センサチャンバ60、気体供給部80、および推定装置10を備える。また、匂い測定装置100は、調節部51をさらに備えてもよい。また、匂い測定装置100は、推定装置10aをさらに備えてもよい。
【0107】
図1は、一例として、気体供給部80から、対象試料受入部50、センサチャンバ60の順に気体が流れる例を示している。気体供給部80、対象試料受入部50、およびセンサチャンバ60は、それぞれ管体で接続されている。
【0108】
[対象試料受入部50]
対象試料受入部50は、匂い物質を含む対象試料を内部に受け入れて第1気体を保持可能である。対象試料受入部50は、内部に進入する第2気体が通過する第1口501と、内部から出る第1気体および第2気体が通過可能な第2口502とを備えている。図1では、第1口501は、対象試料受入部50の紙面上部に設置され、第2口502は、対象試料受入部50の紙面下部に設置される態様を示すが、これに限定されない。例えば、第1口501および第2口502の位置は、第1気体に含まれる匂い成分の種類および組み合わせなどに応じて適宜設定し得る。例えば、第1気体に含まれる匂い成分の単位体積当たりの重量(すなわち、比重)が第2気体より重い場合と、軽い場合とで、第1口501の位置および第2口502の位置を変更してもよい。また、対象試料受入部50は、図5と同じく、気流生成用ファン35を内部に備えていてもよい。
【0109】
対象試料受入部50は、液体または固体の対象試料を受け入れるための試料導入口503を備える。対象試料受入部50は、対象試料を設置するための設置部(不図示)を備えていてもよい。対象試料が液体である場合、設置部は、液体を保持するためのコップであってもよいし、対象試料が固体である場合、設置部は、固体が静置されるシャーレであってもよい。対象試料受入部50には、対象試料が試料導入口503から第1気体として気体状態で導入されてもよい。このように、対象試料受入部50が、液体または固体の対象試料を受け入れ可能であることにより、第1気体中の匂い物質の濃度を調節することが可能である。例えば、同一の匂い物質であっても、第1気体中の匂い物質の濃度の高低を調節することが容易である。
【0110】
対象試料受入部50の内側面には、匂い物質に対して不活性な素材が配されていてよい。匂い物質に対して不活性な素材は、センサチャンバ60に送り出される気体に含まれる匂い物質の各々の濃度を大きく変化させない素材である。例えば、匂い物質に対して不活性な素材は、匂い物質が吸着したり、溶け込んだりしにくい素材である。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0111】
対象試料受入部50の内側面が第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。
【0112】
このように対象試料受入部50の内側面が匂い物質に対して不活性な素材であることにより、内側面の素材と、第1気体に含まれる匂い物質とが反応する、または内側面に匂い物質が吸着するなどの虞が低減される。従って、センサチャンバ60に供給された第1気体に含まれる匂い物質が、対象試料受入部50に内包されている間に変化する、または匂い物質の濃度が薄まるなどの虞が低減する。
【0113】
匂い測定装置100は、対象試料が液体または固体であっても、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60に送り込む前に対象試料受入部50内で第1気体の濃度を均一にすることができる。また、匂い測定装置100は、対象試料受入部50を備えることにより、第1気体をセンサチャンバ60へ一定の流量で押し出すことができる。これにより、匂い測定装置100は、測定を繰り返し行う場合であっても、毎回同じ条件でセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができるため、繰り返し安定した測定を行うことができる。
【0114】
対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の1倍以上200倍以下であることが好ましい。特に、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積よりも大きいことが好ましい。対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の2倍以上がより好ましく、4倍以上であることがさらに好ましい。また、対象試料受入部50内の容積は、センサチャンバ60内の容積の100倍以下であることが好ましく、60倍以下であることがさらに好ましい。対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して1倍以上の大きさであることにより、センサチャンバ60における匂い物質の濃度が適切に調整され、センサチャンバ60が備えるセンサによる測定結果が安定して出力される。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積に対して200倍以下であることにより、対象試料受入部50内の温湿度調整がしやすくなるため、センサによる測定結果が安定して出力されると共に、匂い測定装置100のサイズをコンパクトに収めることができる。
【0115】
対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の1倍未満である場合は、対象試料受入部50で発生した匂い物質がセンサチャンバ60内で希釈され、センサにおける測定感度が低下する虞がある。また、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の200倍よりも大きい場合は、対象試料受入部50の容積が大き過ぎるため、第1気体の濃度、温度、湿度の均一性が低下し、測定を繰り返し行う場合に、同じ条件でセンサチャンバ60に第1気体を送ることができない虞がある。さらに匂い測定装置100全体のサイズが大きくなる虞がある。
【0116】
図1では、一例として、対象試料受入部50内の容積が、センサチャンバ60内の容積の8倍の例を示している。
【0117】
例えば、管体93の内側面が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材である場合、各部に匂い物質が吸着して、後の測定に影響を及ぼす虞がある。そこで、第1気体を対象試料受入部50からセンサチャンバ60へと導く管体93の内側面に、対象試料受入部50の内側面と同様に、匂い物質に対して不活性な素材が配されることが好ましい。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を採用する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。
【0118】
対象試料受入部50は、管体92および管体93から着脱可能な構成であってもよい。このように、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、前の測定が終了し、次の測定を行う場合に、対象試料受入部50内をパージせずとも新しい対象試料受入部50を付け替えることができる。これによれば、匂い測定装置100は、複数の測定を短時間で行うことができる。
【0119】
また、対象試料受入部50が着脱可能であることにより、匂い測定装置100とは別体の保温室を用いて、対象試料を導入した対象試料受入部50を所望の温度に保持することができる。これによれば、例えば、後述する調節部51を匂い測定装置100に設けることが出来ない場合であっても、匂い測定装置100は、対象試料受入部50の温度を調節することができる。保温室としては、例えばウォーターバス、ドライバス、ヒートジャケット、シリコンヒーター、順風乾燥機、恒温恒湿機、噴霧器等を用いられてもよい。
【0120】
[調節部51]
調節部51は、対象試料受入部50内に内包されている第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節する。調節部51が温度を調節する場合、調節部51は、例えば、ヒータまたは冷却器である。この場合、調節部51は、対象試料受入部50全体を覆うような構成であってもよい。また、調節部51が湿度を調節する場合、調節部51は、例えば、加湿器または除湿器である。調節部51は、第1気体の種類ごとに温度および湿度の少なくとも一方を調節してもよいし、同じ第1気体の測定中において所定時間毎に温度および湿度の少なくとも一方を変化させてもよい。調節部51としては、例えば温度および湿度の少なくとも一方を変化させることが可能なウォーターバス、ドライバス、ヒートジャケット、シリコンヒーター、順風乾燥機、恒温恒湿機、噴霧器等が用いられてもよい。
【0121】
調節部51が、対象試料受入部50内の第1気体の温度および湿度の少なくとも一方を調節することにより、匂い測定装置100は、例えば、第1気体の種類(気体の重さ、揮発性など)に応じた条件を用いてセンサチャンバ60へ第1気体を送ることができる。
また、これによれば、匂い測定装置100は、安定した濃度の第1気体をセンサチャンバ60へ送ることができ、測定の精度が向上する。
【0122】
[センサチャンバ60]
センサチャンバ60は、匂い物質を測定するためのセンサ素子31を格納する空間である。センサチャンバ60には、対象試料受入部50の第2口502と接続されている。具体的には、センサチャンバ60は、気体供給口601と、気体排出口602とを備え、対象試料受入部50の第2口502と、気体供給口601とが接続されている。
【0123】
センサチャンバ60は、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能な複数のセンサ素子31Aを備える。複数のセンサ素子31Aは、それぞれ異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31であってよい。すなわち、複数のセンサ素子31Aは、それぞれのセンサ素子31の匂い物質に対する感度および特異性が異なっていてよい。図1のセンサチャンバ60は、一例として、センサ素子31と、センサ素子31bとを含むが、これに限定されない。また、図1のセンサチャンバ60は、センサ素子31、31bとは異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31cを備えている。センサ素子31と、センサ素子31bとは、第1気体に含まれる同じ匂い物質に応じた測定結果を出力可能であるが、それぞれが出力する測定結果は異なる。匂い物質に応じた測定結果は、例えば、匂い物質の濃度に応じた測定結果である。なお、以下の説明において特にセンサ素子31、31b、31cおよび後述するセンサ素子31dを区別しない場合、「センサ素子31」と総称する。
【0124】
センサチャンバ60には、それぞれ異なる樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31がどのような組み合わせで、どのような配置で設置されてもよい。また、センサチャンバ60には、同じ樹脂組成物を物質受容層として備えるセンサ素子31が複数設置されていてもよい。
【0125】
ここで、センサ素子31と、センサ素子31bとは、それぞれが異なる匂い物質に応じた測定結果を出力可能なセンサ素子であってもよい。例えば、センサチャンバ60には、第1気体に含まれる匂い物質に応じた測定結果を出力可能なセンサ素子31と、第1気体に含まれる匂い物質とは異なる第2匂い物質に応じた測定結果を出力可能なセンサ素子31bとが配置されていてもよい。例えば、匂いセンサ30は、匂い物質受容層315に用いた樹脂組成物が互いに異なるセンサ素子31、31bを備えていてもよい。
【0126】
匂い物質を吸着する特性が異なる樹脂組成物を匂い物質受容層315に用いたセンサ素子31を複数備えることにより、匂い測定装置100は、複数の匂い物質についての推定を同時に実行することができる。なお、本発明の一実施形態に係るセンサ素子31として、匂い物質受容層315に界面活性剤(C)を含まないセンサ素子31と匂い物質受容層315に界面活性剤(C)を含むセンサ素子31とを併用してもよい。
【0127】
また、匂い測定装置100を用いれば、既知の匂い物質のそれぞれについて、センサ素子31の電気伝導性の変化を示す第1変化パターンと、センサ素子31bの電気伝導性の変化を示す第2変化パターンとを得ることが可能である。推定モデル22は、第1変化パターンおよび第2変化パターンの両方を用いた機械学習によって生成されてもよい。匂い測定装置100は、このように生成された推定モデル22を用いて匂い物質を推定するため、各匂い物質をより精密に識別することが可能である。
【0128】
図1のセンサチャンバ60は、一例として、4個×4列の配置で複数のセンサ素子31Aを備えている。センサ素子31Aの数、ならびにセンサ素子31Aの配列の仕方は限定されない。センサチャンバ60が備えるセンサ素子31Aの合計の数も特に限定されないが、例えば、2個、8個、16個、64個であってよい。センサ素子31Aの合計の数は、8個以上16個以下であってもよい。
【0129】
センサチャンバ60の内側面の素材は、対象試料受入部50と同様に、匂い物質に対して不活性な素材であることが好ましい。匂い物質に対して不活性な素材としては、例えば、ガラス、金属、樹脂が挙げられる。金属を採用する場合、ステンレス鋼(SUS)が好ましく、樹脂を再送する場合、フッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。センサチャンバ60の内側面の素材が、第1気体に含まれる匂い物質を吸着する素材の場合、センサチャンバに匂い物質が吸着することにより、後の測定におけるセンサ素子31からの出力の変化量が小さくなり、匂い測定装置100が正確な測定を行えない虞がある。
【0130】
[複数のセンサ素子31A(センサ素子群31A)]
複数のセンサ素子31Aは薄膜を備えてもよい。一例として、図2および図3の匂い物質受容層315および匂い物質透過層317が薄膜である。
【0131】
センサチャンバ60内に匂い物質を含む第1気体を送り込む態様として、例えば、センサチャンバ60の気体排出口602側に真空ポンプを設置し、真空ポンプを用いて気体を引くことにより、センサチャンバ60の気体供給口601側から匂い物質をセンサチャンバ60へ送り込む態様が採用されてもよい。ただし、センサ素子31、31bが薄膜を備える場合、センサチャンバ60内が陰圧であると、薄膜が膨張して、センサ素子31、31bが安定した測定結果を出力できない虞がある。本実施形態に係る匂い測定装置100であれば、センサチャンバ60および対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100は、複数のセンサ素子31Aが薄膜を備えていても安定した測定結果を得ることができる。これに対して、センサチャンバ60および対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込む構成であれば、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。そこで、本実施形態に係る匂い測定装置100は、センサチャンバ60および対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込む構成を採用することが好ましい。これにより、匂い測定装置100は、複数のセンサ素子31Aが薄膜を備えていても安定した測定結果を得ることができる。
【0132】
また、複数のセンサ素子31Aの薄膜は、導電性炭素材料、樹脂組成物、および界面活性剤を含んでもよい。
【0133】
[気体供給部80]
気体供給部80は、対象試料受入部50の第1口501と接続されており、対象試料受入部50の内部へ第2気体を送ることによって、第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出す。
【0134】
気体供給部80と、対象試料受入部50との間にはバルブ81を備えていてもよい。バルブ81の開閉によって、気体供給部80からのガス供給の開始および停止を調節してもよい。
【0135】
このように、対象試料受入部50の第1口501側から気体供給部80が気体を押すことによりセンサチャンバ60に第1気体を送り込むため、センサチャンバ60内の圧力は陽圧である。このため、匂い測定装置100は、安定した測定結果を得ることができる。また、バルブ81の開閉によって、第2気体を送ることができるため、匂い測定装置100は、任意のタイミングで第1気体を対象試料受入部50内からセンサチャンバ60の方へ送り出すことができる。これによれば、匂い測定装置100は、センサ素子群31Aを用いて第1気体に含まれる匂い物質を繰り返し測定する場合、各センサ素子31が出力する波形の形の再現性を向上させることができる。
【0136】
第2気体は、不活性ガスまたは空気であってよい。不活性ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素などが挙げられる。第2気体が不活性ガスである場合、気体供給部80はガスボンベであってよい。
【0137】
また、第2気体が空気である場合、気体供給部80はポンプであってよい。この場合、対象試料受入部50に内包される第1気体と反応する成分を除去するために、匂い測定装置100は、対象試料受入部50の第1口501側に、例えば、活性炭フィルタ、除湿剤、シリカゲルカラム、または防塵フィルタを備えていてもよい。
【0138】
匂い測定装置100は、対象試料受入部50の第1口501側、さらに具体的にはバルブ81と、気体供給部80との間にマスフローコントローラをさらに備えてもよい。この構成を採用した匂い測定装置100は、対象試料受入部50からセンサチャンバ60へ一定の流量で第1気体を送ることができ、複数のセンサ素子31Aが安定して出力を行うことができる。
【0139】
なお、図1では、対象試料受入部50の内部から出た第1気体および第2気体が管体93およびセンサチャンバ60を通る構成を示したが、この構成に限定されない。匂い測定装置100の対象試料受入部50は、センサチャンバ60に対して大きい容積を持つため、測定時に対象試料受入部50の内部の第1気体の全量をセンサチャンバ60に送り出す必要はない。また、測定後に、対象試料受入部50の内部を、第2気体を用いてパージする場合、対象試料受入部50とセンサチャンバ60とが接続されている必要はない。そこで、匂い測定装置100は、管体93にバルブ(不図示)を配置して、対象試料受入部50の内部から出た第1気体および第2気体がセンサチャンバ60を通さずに排気可能な構成であってもよい。
【0140】
[推定装置10]
推定装置10は、匂いセンサ30によって検出された匂い物質を推定する装置である。推定装置10は、例えばコンピュータであり、不図示のCPUおよびメモリを備えている。推定装置10は、匂いセンサ30と通信可能に接続されている。具体的には、推定装置10は、匂いセンサ30から取得した計測値を解析することによって、匂い物質の推定を実行する。センサチャンバ60が、センサ素子31、センサ素子31bとは異なる樹脂組成物を物質受容層315に用いたセンサ素子31cをさらに備える場合、推定装置10は、センサ素子31cに定電圧を供給して電圧計によって測定される測定値をさらに取得し解析してもよい。また、推定装置10は、測定値そのもの、測定値をプロットした波形、および推定モデルに基づいた未知の匂い物質の推定結果を表示してもよい。また、推定装置10は、複数の匂い物質を含む気体に対して、それぞれの匂い物質の存在割合の変化を示す数値、およびグラフなどを表示してもよい。また、推定装置10は、匂い物質を推定するために用いる推定モデル22を生成してもよい。
【0141】
<推定モデル22の生成>
次に、匂い物質を推定するために用いる推定モデル22を生成する処理を行う匂い測定装置100の構成、および、推定モデル22を生成する処理について、図6および図7を用いて説明する。
【0142】
推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に電圧計33によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される。ここで、匂い物質に固有の識別情報とは、例えば、匂い物質の名称、CAS番号、および化学式等であってもよい。
【0143】
(推定装置10の構成(推定モデル22の生成))
図6は、匂い測定装置100の構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、図1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0144】
図6に示すように、推定装置10は、入力部15、制御部1、記憶部2を備えている。
【0145】
入力部15は、ユーザからの各種入力操作を受付けるためのものであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等であってもよい。
【0146】
制御部1は、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、学習制御部13、および推定モデル生成部14を備えている。
【0147】
測定値取得部11は、電圧計33から測定値を取得する。また測定値取得部11は、取得した測定値を用いて、センサ素子31の電気伝導性を示す値(例えば、抵抗値、およびインピーダンスなど)を算出する。測定値取得部11は、電圧計33から所定の時間間隔(例えば0.1秒間隔)で測定値を取得してもよい。
【0148】
変化パターン解析部12は、少なくとも1つのセンサ素子31の電気伝導性の経時的な変化を解析する。変化パターン解析部12は、測定値取得部11によって算出された抵抗値を用いて、匂い物質が吸着したことによるセンサ素子31の電気伝導性の変化量を示す値を算出する。変化パターン解析部12は、算出した電気伝導性の変化量の時間変化を示す変化パターンを示すデータを生成する。変化パターン解析部12は、生成した変化パターンが既知の匂い物質である場合、生成した変化パターンを該既知の匂い物質に固有の識別情報と対応付けて、変化パターンデータベース21(学習用データ)に格納してもよい。
【0149】
学習制御部13は、記憶部2から変化パターンデータベース21を読み出して、機械学習による推定モデル22の生成を制御する。ここで、変化パターンデータベース21は、複数の匂い物質をセンサ素子31に吸着させた場合に測定される測定値と、該測定値を与えた既知の匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含むデータベースである。学習制御部13は、変化パターンデータベース21から読み出した変化パターンを推定モデル生成部14に入力する。また、学習制御部13は、推定モデル生成部14に入力した変化パターンに対応する匂い物質の識別情報と、推定モデル生成部14から出力される推定結果とを比較し、比較結果に応じた補正指示を推定モデル生成部14に出力する。
【0150】
推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている変化パターンを用いた機械学習アルゴリズムによって、推定モデル22を生成する。推定モデル生成部14は、公知の教師有り機械学習アルゴリズムを用いて推定モデル22を生成する構成であってもよい。推定モデル生成部14に適用可能な機械学習アルゴリズムとしては、例えば、k近似法(k-nearest neighbor method)、ロジスティック回帰、サポートベクトルマシン、ランダムフォレスト、およびニューラルネットワーク等が挙げられる。
【0151】
・特徴量抽出方法
機械学習により推定モデルを生成する場合、基となるデータは、測定値そのものであってもよいし、測定値の統計量、微積分値、ピーク検出値、または自己相関値等、測定値の特徴量を抽出したデータであってもよい。統計量としては、例えば、平均値、分散値、最大値、最小値、最大値と最小値の差、標準偏差等が挙げられる。微積分としては、例えば、傾きや面積等が挙げられる。ピーク検出値としては、例えば、ビークの数、高さ等が挙げられる。自己相関値としては、例えば、階差等が挙げられる。
【0152】
・前処理方法
機械学習により推定モデルを生成する場合、基となるデータは、そのまま機械学習に用いてもよいし、基となるデータに対して必要により前処理を行ってもよい。また前処理を行う場合、前処理は、特徴量抽出を行う前に行われてもよいし、特徴量抽出を行った後に行われてもよいし、特徴量抽出を行う前後の両方で行われてもよい。前処理は公知の方法で行ってよく、補正、ノイズ除去、標準化、データの変換、平滑化、データ拡張等の方法が挙げられる。補正は、複数の素子や市販のセンサ(例えば温度センサや湿度センサ等)、標準ガスの測定結果に基づいて行われてよい。例えば、補正は、出力比算出、独立成分分析(ICA)、統計量算出、積算、加算、減算、除算等の方法によって行われてよい。ノイズ除去としては、例えば、外れ値やホワイトノイズ等の除去が挙げられる。標準化としては、例えば、正規化、正則化等が挙げられる。データの変換としては、例えばトレンドの除去、周波数変換、対数変換等が挙げられる。平滑化としては、例えば、移動平均、階差等が挙げられる。データ拡張としては、例えば、同じサンプルデータの追加(例えば正規分布を仮定)、新しいサンプルデータの追加(例えば、ベクトルの混合比による追加)等が挙げられる。
【0153】
・機械学習アルゴリズム
推定モデル生成部14に適用可能な機械学習アルゴリズムとしては、回帰分析、分類、木、時系列解析、ニューラルネットワーク、クラスタリング等が挙げられる。回帰分析としては、例えば、ロジスティック回帰、Lasso、エラスティックネット、サポートベクター回帰(SVR)、線形、Ridge、アンサンブル回帰等が挙げられる。分類としては、例えば、k近似法(k-nearest neighbor method)、サポートベクター分類(SVC)、単純ベイズ分類(Naibe Bayse classifier)、確率的勾配降下法(SGD)、カーネル近似等が挙げられる。木としては、例えば、決定木、回帰木、ランダムフォレスト、ブースティング(lightGBM、XGboost)、スタッキング等が挙げられる。時系列としては、例えば、AR、MA、ARIMA、状態空間等が挙げられる。ニューラルネットワークとしては、例えば、多層パーセプトロン(MLP)、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)、残渣ニューラルネットワーク(ResNet)、トランスフォーマー、グラフニューラルネットワーク(GNN)等が挙げられる。クラスタリングとしては、例えば、混合ガウスモデル(GMM)、k平均法(kmeas)、minikmeans、変分混合ガウスモデル(VBGMM)、カーネル近似等が挙げられる。
【0154】
(推定モデル22を生成する処理)
以下、匂い測定装置100を用いて推定モデル22を生成する処理について、図7を用いて説明する。図7は、匂い測定装置100の推定装置10が推定モデル22を生成する処理の流れの一例を示すフローチャートである。推定モデル22は、複数の匂い物質のそれぞれを少なくとも1つのセンサ素子31に吸着させた場合に電圧計33によって測定される測定値と、該測定値を与えた匂い物質に固有の識別情報との組み合わせを含む学習用データを用いた機械学習によって生成される。ここで、匂い物質に固有の識別情報とは、例えば、匂い物質の名称、CAS番号、および化学式等であってもよい。
【0155】
まず、測定値取得部11は、匂い物質を対象試料受入部50へ導入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する。抵抗値R0は、好ましくは500~3000Ωであり、さらに好ましくは800~2800Ωであり、最も好ましくは1000~2500Ωである。その後、匂い物質を対象試料受入部50に入れる(ステップS1)。
【0156】
一方、入力部15は、対象試料受入部50内に導入した、既知の匂い物質の名称等の入力を受け付ける(ステップS2)。ステップS2の処理はステップS1の前に行ってもよい。
【0157】
次に、測定値取得部11は、センサ素子31への匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)を取得し(ステップS3)、抵抗値Rの変化量(ΔR)を算出する。
【0158】
続いて、変化パターン解析部12は、匂い物質吸脱着前後の過程における抵抗値Rの変化量(ΔR)データ(波形または経時的変化パターン)と入力された既知の匂い物質の名称とを対応付けて変化パターンデータベースに記憶する(ステップS4)。
【0159】
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶されていない場合(ステップS5にてNO)、すなわち、機械学習に用いるデータがまだ不足している場合、ステップS1に戻る。
【0160】
所定種類の既存の匂い物質について変化パターンが記憶された場合(ステップS5にてYES)、学習制御部13は、変化パターンデータベース21に記憶されている、既知の匂い物質についての変化パターンを読み出して、推定モデル生成部14に入力する。推定モデル生成部14は、変化パターンデータベース21に格納されている経時的変化パターン(または変化パターンから抽出した特徴量)に基づき、機械学習によって推定モデル22を生成する(ステップS6)。
【0161】
推定モデル生成部14は、所定の機械学習によって生成した推定モデル22を記憶部2に格納する(ステップS7)。
【0162】
図6および図7に示す例では、推定装置10が推定モデル22を生成しているが、これに限定されない。例えば、推定装置10とは異なる外部のコンピュータであって、学習制御部13および推定モデル生成部14と同じ機能を備えるコンピュータに変化パターンデータベース21と同じデータを提供して、推定モデル22を作成させてもよい。
【0163】
<匂い物質の推定>
次に、推定モデル22を用いて匂い物質を推定する匂い測定装置100aの構成、および、推定処理について、図8および図9を用いて説明する。
【0164】
(推定装置10aの構成(推定処理の実行))
図8は、匂い測定装置100aの構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、説明の便宜上、図1および図6にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0165】
図8に示すように、推定装置10aは、制御部1a、記憶部2a、および出力部18を備えている。ここで、図8は、図6に示す推定装置10を、匂い物質の推定処理に利用した場合の構成例を示している。すなわち、図6に示す推定装置10と図8に示す推定装置10aとは、同じハードウェア構成を備えるコンピュータであってもよい。
【0166】
出力部18は、ユーザに推定結果を提示するためのものであり、例えば、ディスプレイ、スピーカ、ランプ等であってもよい。
【0167】
制御部1aは、測定値取得部11(取得部)、変化パターン解析部12(解析部)、推定部16、および出力制御部17を備えている。
【0168】
推定部16は、推定モデル22を用いて、匂いセンサ30から取得した測定値を解析した解析結果から匂い物質を推定する。
【0169】
出力制御部17は、推定結果を出力するように出力部18を制御する。
【0170】
(推定処理)
以下、制御部1aの各部が行う具体的な処理については、図9を用いて説明する。図9は、推定装置10aが匂い物質を推定する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0171】
まず、測定値取得部11は、匂い物質を対象試料受入部50へ導入する前の匂いセンサ30において測定された電圧値V0を取得し、抵抗値R0を算出する。その後、未知の匂い物質(性状問わない)を対象試料受入部50に導入する(ステップS11)。
【0172】
次に、測定値取得部11は、センサ素子31への未知の(すなわち、推定対象の)匂い物質吸脱着前後の過程における電圧値Vの変化量(ΔV)データ(波形または経時的変化パターン)を取得する(ステップS12)。また、測定値取得部11は、取得した電圧値Vの変化量(ΔV)データから抵抗値Rの変化量(ΔR)データを算出する。
【0173】
次に、推定部16は、推定モデル22に基づき、経時的変化パターン(または変化パターンから抽出した特徴量)から、未知の匂い物質を推定する(ステップS13)。
【0174】
出力制御部17は、出力部を制御して、推定結果を出力する(ステップS14)。
【0175】
上述の実施形態では、推定モデル22を生成する推定装置10および推定モデル22を用いて匂い物質を推定する推定装置10aについて説明した。なお、推定装置10と推定装置10aとは、別体の装置であってもよいし、1つの装置であってもよい。
【0176】
<センサ素子31cの構成例>
図10は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31cの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31cは、基板311上に配置された金属配線である電極313と、電極313上に形成された円状の匂い物質受容層315cと、を備える。電極313は、第1金属配線313Cと第2金属配線313Dとを含む。第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dはそれぞれ、匂い物質受容層315cの電気伝導性の変化を計測するための電極として機能する金属配線である。図10において、金属配線313aおよび金属配線313dは、基板311の表側(すなわち、紙面手前側)に配されており、匂い物質受容層315cに接している。一方、金属配線313bおよび金属配線313cはそれぞれ、金属配線313aおよび金属配線313dと基板311の表側で接続されており、基板311を裏側に向かって貫通している。それゆえ、金属配線313bおよび金属配線313cは、匂い物質受容層315cに接していない。匂い物質受容層315cの直径Rは、0.2mm以上、5mm以下である。図10において、センサ素子31cが備える匂い物質受容層315cの形状は一例として楕円状であるが、これに限定されない。匂い物質受容層315cの形状が楕円である場合は、短径と、長径との平均が0.2mm以上、5mm以下であってよい。また、匂い物質受容層315cの形状は真円であってもよい。
【0177】
図10に示すように、金属配線313aおよび金属配線313dは、匂い物質受容層315cに接しているが、匂い物質透過層317には接していない。
【0178】
図11は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31dの構成の一例を示す上面図である。センサ素子31dは、基板311上に配置された電極313(第1金属配線313C、第2金属配線313D)と、電極313上に形成された帯状の匂い物質受容層315dと、を備える。匂い物質受容層315dの短方向の幅の長さWは、0.2mm以上、5mm以下である。なお、以下の説明において特に匂い物質受容層315cと315dとを区別しない場合、「匂い物質受容層315」と総称する。
【0179】
センサ素子群31Aが含むセンサ素子31の電極は、それぞれ第1電極および第2電極を有し、第1電極および第2電極は、平行線状、平行曲線状、櫛形状、または同心円状に配置されていてもよい。第1電極および第2電極は、前記のどの形状が採用される場合においても、互いに線対称、または点対称で配置されていることが好ましい。このように第1電極および第2電極が配置されることにより、匂い測定装置100は、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定することができる。
【0180】
図10のセンサ素子31cは、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dを有している。また、一例として、第1金属配線313Cは、金属配線313aと、金属配線313bとから構成されている第1電極であり、2本の金属配線は、互いに垂直になるようT字状に配されている。第2金属配線313Dは、第1金属配線313Cと同様に2本の金属配線313c、313dから構成されている第2電極であり、2本の金属配線が互いに垂直になるようT字状に配されるよう構成されている。また、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとは、金属配線313aと、金属配線313cとが向かい合うように平行線状に配置されている。
【0181】
第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dは、特に、互いにT字状に配されていることにより、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとを好適な距離に設置することができ、電極の抵抗値を安定化させることができる。例えば、電極が櫛形状に配置されている場合は、電極間の距離が短くなり、電極の抵抗値が小さくなり過ぎる虞がある。また、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが互いにT字状に配されていることにより、後述のセンサ素子31の製造方法の塗布工程において、スラリーが濡れ広がる領域に、濡れ広がりを妨げ得る電極の凹凸部分が存在しないため、スラリーが濡れ広がり易くなる。また、スラリーが濡れ広がり易くなることより、乾燥後の匂い物質受容層315の厚みが一定になるという効果がある。
【0182】
図12は、センサ素子群31Aに含まれる1つのセンサ素子31cの構成の一例を示す斜視図である。図12に示すように、センサ素子31cにおいて、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dは、第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dが互いに対向しない方の端部において、それぞれピン316と接続されている。ピン316は第1金属配線313Cおよび第2金属配線313Dと、匂いセンサ30の他の部材とを電気的に接続するための導電部材である。なお、図示されていないが、図10および図11に示すセンサ素子31cおよびセンサ素子31dも、図12に示すピン316を備えている。
【0183】
<センサ素子31の製造方法>
以下、匂い測定装置100において用いられる、複数種類のセンサ素子31を製造する製造方法について説明する。センサ素子31の匂い物質受容層315は、その原料として様々な組成を有するスラリーを使用し得る。
【0184】
(スラリー調製工程)
まず、導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比が異なる複数種類のスラリーが調製される。導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比は、所望する匂い物質受容層315の感度および検知特異性によって適宜設定されればよい。スラリーは、導電性炭素材料および樹脂組成物以外に溶媒、添加剤、および界面活性剤を含んでいてもよい。フィラーおよび樹脂組成物を含む樹脂組成物のスラリー作成/混錬の際には、フィラーおよび樹脂組成物の混合物に、溶媒としてのNMPを複数回に分けて添加し、混錬を繰り返してもよい。なお、混錬の繰り返し回数を多くすることで、匂い物質受容層315の断面における空隙率は低下する。
【0185】
(電極配置工程)
次に、基板上に電極が配置される。電極は、第1電極および第2電極を備えていてよい。第1電極および第2電極は、平行直線状、平行曲線状、櫛形状、および同心円状に配置されてもよい。また、第1電極および第2電極は、前記のどの形状が採用される場合においても、互いに線対称、または点対称で配置されていることが好ましい。さらに、第1電極および第2電極は平行直線状又は平行曲線状に配置されていることがより好ましい。第1電極および第2電極は、図10および図11に示すような形状となるよう配置されることが特に好ましい。具体的には、第1金属配線313Cが互いに垂直になるようT字状に配された2本の金属配線(313aおよび金属配線313c)によって構成され、第2金属配線313Dが互いに垂直になるようT字状に配された2本の金属配線(313cおよび金属配線313d)によって構成され、第1金属配線313Cと、第2金属配線313Dとは、金属配線313aと、金属配線313cとが向かい合うように平行線状に配置されることが好ましい。このように第1金属配線および第2金属配線が配置されることにより、匂い測定装置100は、気体に含まれる匂い物質を高精度に測定することができる。
【0186】
一例として、図10および図11においては、1枚の基板311上に一組の電極(第1金属配線313Cおよび第2金属配線313D)を配置されているが、1枚の基板上に、複数の組の電極が並んで配置されていてもよい。
【0187】
(領域規定工程)
続いて、電極が配置された基板上に、複数種類のスラリーのそれぞれを塗布する塗布領域が規定される。塗布領域は、例えば、レジストが配されることによって規定されてもよい。また、塗布工程において、スラリーがノズルから滴下される場合は、塗布領域は、ノズル径に合わせて規定されてもよい。レジストMは、塗布領域330を規定するように配されている。塗布領域330は、基板311がむきだしの状態である。
【0188】
塗布領域330の広さは、複数種類のスラリーのそれぞれに対して同じになるよう規定されてもよい。すなわち、導電性炭素材料および樹脂組成物の混合比がそれぞれ異なるスラリーであっても、スラリーを塗布するための塗布領域330の面積は、均一であってよい。これによれば、混合比が異なる、複数種類のスラリーを用いても、乾燥させた後の複数種類の匂い物質受容層315の面積のばらつきが少なくなる。
【0189】
塗布領域330は、一例として円状であるが、塗布領域330の形状はこれに限定されない。塗布領域330の形状は、円状、または帯状であってよい。これにより、円状、または帯状の匂い物質受容層315が形成される。
【0190】
塗布領域330の形状が円状である場合、円の直径は、0.2mm以上、5mm以下であってよく、塗布領域330の形状が帯状である場合、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下であってよい。これにより、円の直径が0.2mm以上、5mm以下の円状の匂い物質受容層315c、また、帯の短方向の長さが0.2mm以上、5mm以下の円状の匂い物質受容層315dが形成される。
【0191】
レジストMが配される方法は特に限定されないが、規定された領域にソルダーレジストをシルク印刷し、その後ソルダーレジストをUV硬化させる方法、レジストフィルムを基板に貼付する方法、規定された領域のレジストのみを硬化し、未硬化部分を除去する方法などが挙げられる。
【0192】
(塗布工程)
続いて、複数種類のスラリーのそれぞれが塗布領域330に塗布される。スラリーが塗布される方法は、従来公知の方法を適用可能であり、ノズルから滴下されてもよく、スプレーされてもよく、スピンコートされてもよい。スラリーが塗布される方法は、特にノズルから滴下される方法が好ましく、例えば武蔵エンジニアリング株式会社製のIMAGE MASTER350PCSmartにSUS製金属ニードルノズル(内径0.1mmΦ,外形0.23mm)を使用することで、所望の塗布形状を得ることができる。
【0193】
(乾燥工程)
最後に、塗布領域330に塗布されたスラリーを乾燥させて、匂い物質受容層315が形成される。スラリーの乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、常圧で100℃、1時間加熱し、その後真空乾燥機内で減圧しながら100℃で1時間加熱する方法を採用することができる。
【0194】
(匂い物質透過層調整工程)
種々の樹脂組成物とNMPとを混練することで、匂い物質透過層317用の樹脂を溶かした溶液が調整される。なお、混錬の繰り返し回数を多くすることで、匂い物質透過層317の断面における空隙率は低下する。
【0195】
(匂い物質透過層317の重畳)
匂い物質透過層317用の樹脂(E)を溶かした溶液とゼオライトとを混合した樹脂組成物(スラリー)を、乾燥した匂い物質受容層315の上から塗布した後乾燥させる。匂い物質透過層317形成時の塗布および乾燥の方法は、匂い物質受容層315形成時の(塗布工程)および(乾燥工程)と同様の方法を用いることが出来る。また、匂い物質透過層317の厚みは、塗布するスラリーの濃度を調整することによって調製可能である。
【0196】
<ソフトウェアによる実現例>
推定装置10、10aの制御ブロック(特に制御部1)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0197】
後者の場合、推定装置10、10aは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路等を用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)等をさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0198】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る匂い測定装置用のセンサ素子は、樹脂(A)およびフィラー(B)を含む樹脂組成物を含む匂い物質受容層と、前記匂い物質受容層の少なくとも一部と接している第1金属配線、および該第1金属配線と離間しており、かつ該匂い物質受容層の少なくとも一部と接している第2金属配線と、前記匂い物質受容層の、前記第1金属配線および前記第2金属配線と接している側とは反対側の少なくとも一部を覆う匂い物質透過層とを備え、匂い物質透過層は樹脂およびゼオライトを含む。
【0199】
本開示の態様2に係る匂い測定装置用のセンサ素子は、上記態様1において、前記匂い物質透過層は、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤のうちの少なくとも何れか1以上を含んでいてもよい。
【0200】
本開示の態様3に係る匂い測定装置用のセンサ素子は、上記態様1または2において、前記匂い物質透過層は、シリコーン樹脂を含んでいてもよい。
【0201】
本開示の態様4に係る匂い測定装置用のセンサ素子は、上記態様1から3のいずれかにおいて、前記ゼオライトの含有量は、前記樹脂(E)と前記ゼオライトとの合計量を100重量%とした場合に、10~80重量%であってもよい。
【0202】
本開示の態様5に係る匂い測定装置は、上記態様1~4のいずれかの匂い測定装置用のセンサ素子を複数備えていてもよい。
【実施例0203】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0204】
実施例および比較例で使用する各種材料に関する説明を以下に示す。
【0205】
<樹脂(A)>
A-1:ポリアミド樹脂(後述の<ポリアミド樹脂A-1>に記載の方法に基づいて製造)
A-2:ブチラール樹脂(クラレ(株)製、「モビタールB75H」)
A-3:シリコーン樹脂(DOWSIL RSN-0255 Flake Reasin、ダウ・東レ(株)製)
<フィラー(B)>
B-1:カーボンブラック(デンカ(株)製、「デンカブラック」、一次粒子径:48nm、DBP吸油量:177cm/100g)
B-2:カーボンブラック(MTI Corporation社製、「SuperC65」、一次粒子径:50nm、DBP吸油量:254cm/100g)
B-3:カーボンナノチューブ(昭和電工(株)製、「VGCF-H」)
<界面活性剤(C)>
C-1:カーボンブラック分散剤(ディスパロンDA-325、楠本化成(株)製)
<溶媒(D)>
D-1:N-メチル-2-ピロリドン
<樹脂(E)>
E-1:シリコーン樹脂(DOWSIL RSN-0255 Flake Reasin、ダウ・東レ(株)製)
E-2:ブチラール樹脂(クラレ(株)製、「モビタールB75H」)
E-3:ポリビニルピロリドン(富士フイルム和光純薬(株)製、「PVP―K90」)
<ゼオライト(F)>
F-1:ハイシリカゼオライト(東ソー(株)製、「HSZ―690HOA」)
F-2:ハイシリカゼオライト(東ソー(株)製、「HSZ―390HUA」)
F-3:ハイシリカゼオライト(東ソー(株)製、「HSZ―330HUA」)
<添加剤(G)>
G-1:シランカップリング剤(信越化学工業(株)製、「KBE-13」)
G-2:シランカップリング剤(信越化学工業(株)製、「KBE-103」)
G-3:チタネートカップリング剤(マツモトファインケミカル(株)製、「オルガチックスTA-8」)
G-4:アルミネートカップリング剤(味の素ファインテクノ(株)製、「プレンアクトAL-M」)
<溶媒(H)>
H-1:N-メチル-2-ピロリドン
<<樹脂組成物の作製>>
以下、匂い物質受容層における樹脂組成物の製造例を示す。
【0206】
<ポリアミド樹脂A-1>
[ポリエステル樹脂(PE-1)の作製]
冷却管、加熱冷却装置、温度計、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、12-ヒドロキシステアリン酸58.2部、ε-カプロラクトン441.8部を仕込み、窒素雰囲気下で140℃まで4時間かけて昇温し、その後2時間反応させ、ε-カプロラクトンの残量が1%以下になった時点で取り出した。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、ポリエステル樹脂(PE-1)を得た。ポリエステル樹脂(PE-1)の数平均分子量(Mn)は2600で、酸価が21.6mg KOH/gであった。
【0207】
数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(HLC-802A(東ソー(株)製))を用いて下記の条件で測定した。
カラム:G4000PWXL(東ソー(株)製)、G5000PWXL(東ソー(株)製)以上2本を直列に配した。
移動相:20%アセトニトリル(50mM塩化リチウムを含む)
流速:0.8mL/分
カラム温度:40℃
ポンプ:L-6200((株)日立製作所製)
検出器:L-3300(RI:示差屈折計、(株)日立製作所製)およびL-4200(UV-VIS:紫外可視吸光計、(株)日立製作所製)
試料溶液:0.5重量%のアセトニトリル溶液
試料注入量:200μL。
【0208】
また、該分子量を算出するための検量線は、スタンダードポリエチレンオキサイド(TOSOH製、Mnが2.40×10、5.00×10、1.0×10、1.40×10、2.5×10、5.4×10の6種類)を用いて作成した。
【0209】
また、酸価は、JIS K0070(1992年版)に規定の方法で測定した。
【0210】
[ポリエステルアミドの作製]
冷却管、水分離管、加熱冷却装置、温度計、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、キシレン150部と、ポリアリルアミン20%水溶液(ニットーボーメディカル(株)製「PAA-03」、平均分子量約3,000)125.2部を仕込み、160℃まで昇温し、水分離管を使用して水を留去した。この際、水と分離したキシレンは反応溶液に返流した。その後、ポリエステル樹脂(PE-1)75.0部を160℃まで昇温したものを仕込み、2時間160℃で反応を行った。次いで160℃で0.5時間加熱し、キシレンを留去した後、取り出した。取り出した樹脂を室温まで冷却後、粉砕して粒子化し、ポリエステルアミド樹脂を得た。ポリエステルアミド樹脂の数平均分子量(Mn)は10,800で、酸価が0.5mg KOH/gであった。
【0211】
<樹脂組成物P―1>
下記の成分を下記の量でサンプル瓶に量り取り、混合物を得た。
【0212】
樹脂(A-1) 72重量部
フィラー(B-1) 20重量部
界面活性剤(C―1) 8重量部
溶媒(D-1) 400重量部
当該混合物を、自転/公転ミキサー((株)シンキー製ARE-310)を用いて2000回転/分で20分間撹拌して、スラリーを得た。こうして当該スラリーとして樹脂組成物P―1を得た。
【0213】
<樹脂組成物P―2~P―3>
表1に示す配合に従い、樹脂組成物P―1の製造と同じ操作を行い、樹脂組成物P―2~P―3を得た。
【0214】
以下、匂い物質透過層における樹脂組成物の製造例を示す。
【0215】
<樹脂組成物Q―1>
下記の成分全てをサンプル瓶に量り取り、混合物を得た。
【0216】
樹脂(E-1) 70重量部
ゼオライト(F-1) 30重量部
溶媒(H-1) 1900重量部
当該混合物を、超音波ホモジナイザー(ソニックス社製、VC-505)で出力40%にて10分間照射して混合分散させた。こうしてスラリーとして樹脂組成物Q―1を得た。
【0217】
<樹脂組成物Q―2~Q―16>
表1に示す配合に従い、樹脂組成物Q―1の製造と同じ操作を行い、樹脂組成物Q―2~Q―16を得た。
【0218】
<樹脂組成物Q-17>
下記の成分全てをサンプル瓶に量り取り、混合物を得た。
【0219】
樹脂(E-1) 100重量部
溶媒(H-1) 1900重量部
当該混合物を、超音波ホモジナイザー(ソニックス社製、VC-505)で出力40%にて10分間照射して混合分散させた。こうしてスラリーとして樹脂組成物Q―17を得た。
【0220】
<<センサ素子の作製>>(実施例1~18、比較例1~5)
以下、センサ素子の製造例を示す。
【0221】
<実施例1>
武蔵エンジニアリング株式会社製のIMAGE MASTER350PCSmartにSUS製金属ニードルノズル(内径0.1mmΦ,外形0.23mm)を取り付けたものを用いて、作製したセンサ用基板上に樹脂組成物P-1~P-3それぞれを滴下することで、金属配線部に塗布した。塗布後、100℃に加熱した循風乾燥機で3時間乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却した。
【0222】
作製した(Q-1)の溶液を、前述の塗布装置を用いて、樹脂組成物P―1を塗布・乾燥させたセンサ素子の塗布部分に重ね塗りした。塗布後、100℃に加熱した順風乾燥機で1時間乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却することで、センサ素子S-1を得た。
【0223】
<実施例2~実施例18>
表1に示す配合に従い、匂いセンサ素子1の製造と同じ操作を行い、実施例2~実施例18に対応する匂いセンサ素子S-2~S-18を得た。なお、実施例1~14において、樹脂(A)+フィラー(B)を100重量部とすると、樹脂組成物に含まれるフィラー(B)の量は21.74重量部と言える。また、実施例2および4において、ゼオライトを100重量部とすると、樹脂組成物に含まれる添加剤の量は3.3重量部と言える。また、実施例3および5において、ゼオライトを100重量部とすると、樹脂組成物に含まれる添加剤の量は10重量部と言える。
【0224】
<比較例1>
武蔵エンジニアリング株式会社製のIMAGE MASTER350PCSmartにSUS製金属ニードルノズル(内径0.1mmΦ,外形0.23mm)を取り付けたものを用いて、作製したセンサ用基板上に樹脂組成物P―1を滴下することで、金属配線部に塗布した。塗布後、100℃に加熱した循風乾燥機で3時間乾燥させた。乾燥後、室温まで冷却することで、比較例1に係る比較用センサ素子T-1を得た。
【0225】
<比較例2~比較例5>
表1に示す配合に従い、比較用匂いセンサ素子T-1の製造と同じ操作を行い、比較例2~5に係る比較用匂いセンサ素子T-2およびT-5を得た。
【0226】
実施例1~18、比較例1~5について、それぞれの樹脂組成物の組成を表1に示す。
【0227】
【表1】
【0228】
<<匂いセンサおよび匂い測定装置の評価>>
匂いセンサおよび匂い測定装置の評価は、本開示の実施例に係るセンサ素子(S-1~S-18)のみを用いて匂いを識別させた際の正解率と比較用センサ素子(T-1~T-5)のみを用いて匂いを識別させた際の正解率とを比較することで行うことができる。
【0229】
<匂いセンサの構築>
検体(匂い物質)を導入する導入口および温度調整用のアルミブロック恒温槽を備えた対象試料受入部と、気体供給用の窒素ガスボンベ、マスフローコントローラ、センサチャンバとを備えた筐体を作製した。この時、対象試料受入部の容積は、センサチャンバの容積の5倍となるように設計した。
【0230】
センサの端子を外部へ取り出すためのリード線を、評価対象のセンサ素子(S-1~S-18、T-1~T-5)それぞれにはんだ付けし、センサチャンバ内に設置した。センサ素子S-1~S-18、T-1~T-5)それぞれに対し、センサチャンバ外部に取り出したリード線の末端に5Vの定電圧電源と300Ωの固定抵抗を直列に接続し、センサ素子の両端子にかかる電圧を測定するための電圧計を接続した。こうして、センサ素子(S-1~S-18)および比較用センサ素子(T-1~T-5)を有する匂いセンサを構築した。
【0231】
<測定方法>
構築した匂いセンサを実験室内(温度23℃、湿度40%)に設置し、アルミブロック恒温槽を用いて、対象試料受入部内部を30℃に温調した上で、匂いセンサの導入口に検体を5mL入れた。その後、気体供給用の窒素ガスボンベから窒素を対象試料受入部へ、マスフローコントローラによって1L/minの流量で5秒間流し、センサチャンバを経由し外部に排出した。その後、対象試料受入部を経由せずに、直接窒素ガスボンベからセンサチャンバへ、マスフローコントローラによって1L/minの流量で60秒間流し、そのまま外部に排出した。この操作により、センサ素子に付着した匂い物質を除去した。この間、それぞれのセンサ素子に接続されている電圧計の測定値をコンピュータで記録した。また、測定は1つの検体につき、50回繰り返し行った。
【0232】
検体としては、イオン交換水、0.1%エタノール水溶液、0.1%イソプロパノール水溶液、0.1%アセトン水溶液、0.1%酢酸エチル水溶液を用いた。
【0233】
<評価方法>
検体導入前の出力電圧V0および検体導入前の出力電圧V0と検体導入中における電圧値Vの変化量(ΔV)データと、から、検体導入前の抵抗値R0および検体導入前と検体導入中における抵抗値Rの変化量(ΔR)データを算出し、抵抗変化率ΔR/R0(%)を求めた。測定したR0値(Ω)を以下の評価結果の表(表2および表3)に併せて記載した。
【0234】
各々の検体に対するセンサ素子の応答性を、抵抗変化率ΔR/R0(%)の0.1秒間隔の時間変化およびk近傍法を使用して分析した。具体的には、センサ素子S-1~S-18または比較用センサ素子T-1~T-5をそれぞれ供える匂いセンサについて、上述の<測定方法>に記載の測定を行った。各実施例および各比較例に該当する50回×5検体=計250回分の測定データを学習データ数:テストデータ数=80:20となるようランダムに分割し、学習データに対してk近傍法による分類器(学習モデル)を作成した。実施例1~18および比較例1~5に対応する分類器のそれぞれについてテストデータを分類させた際の正解率をセンサ素子それぞれの性能指標とした。正解率が高いほどセンサ素子としての性能が高いと判断できる。各実施例における分類器の作成および正解率算出には、匂い物質透過層を有するセンサ素子(S-1~S-18)によって得られたデータと、比較用センサ素子(T-1~T-5)によって得られたデータとを用いた。ここで、実施例におけるセンサ素子によって得られたデータと共に利用されるデータとしては、当該センサ素子と同一の匂い物質受容層を有し、かつ匂い物質透過層を持たない比較用センサ素子によって得られたデータを利用した。例えば、実施例19では、センサ素子S-1によって得られたデータと、センサ素子S-1と同一組成の匂い物質受容層を有するセンサ素子T-1によって得られたデータと、を用いて正解率を得た。
【0235】
<評価結果>
評価結果を以下の表2および表3に示す。表2は実施例19~36の結果を示す。実施例19~36では、本開示の実施形態に係るセンサ素子S-1~S-18を備える匂いセンサと、当該センサ素子と同一の匂い物質受容層を有し、かつ匂い物質透過層を持たない比較用センサ素子T-1~T-5を備える匂いセンサとを用いた。表3は比較例に係るセンサ素子T-1~T-5を備える匂いセンサを用いた比較例(比較例6~10)の結果を示す。
【0236】
【表2】
【0237】
【表3】
【0238】
実施例19~36と比較例6~10を比較すると、実施例19~36における正解率は、比較例6~10における正解率よりも高い値を示した。つまり、匂い物質透過層を持たないセンサ素子T-1~T-5を単独で用いるよりも、匂い物質透過層を有するセンサ素子S-1~S-18を用いて得たデータと、センサ素子T-1~T-5を用いて得たデータとを組み合わせることで正解率が向上した。すなわち、樹脂とゼオライトとからなる匂い物質透過層をセンサ素子の匂い物質受容層の少なくとも一部を覆うように形成することにより、当該センサ素子を有する匂いセンサの匂い識別性能が向上したと言える。
【0239】
実施例19と比較例9~10とを比較すると、実施例19における正解率は、比較例9~10における正解率よりも高い値を示した。つまり、ゼオライトを含まないセンサ素子T-4または樹脂を含まないセンサ素子T-5とセンサ素子T-1とを用いてデータと組み合わせるよりも、匂い物質透過層を有するセンサ素子S-1を用いて得たデータと、センサ素子T-1を用いて得たデータとを組み合わせることで正解率が向上した。すなわち、樹脂とゼオライトとからなる匂い物質透過層をセンサ素子の匂い物質受容層の少なくとも一部を覆うように形成することにより、当該センサ素子を有する匂いセンサの匂い識別性能が向上したと言える。
【0240】
また、実施例35~36における正解率は、いずれも60%を超えていた。つまり、ゼオライトを5~85重量%含む樹脂組成物を用いてセンサ素子を作成することで、当該センサ素子を有する匂いセンサの匂い識別性能は十分に高くなることが確認された。
【0241】
また、実施例20~23および実施例33~34における正解率は、いずれも80%以上と高い値を示した。つまり、添加剤としてシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤のうちの少なくとも何れか1以上を含む樹脂組成物(Q-2~Q-5およびQ-13~Q-14)を用いてセンサ素子を作成することで、当該センサ素子を有する匂いセンサの匂い識別性能を向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0242】
本発明は、医療用、ガス検知用、農業用およびその他工業や生活に用いられる匂い識別センサとして有用である。例えば、農家が香りのある作物の成熟具合を匂い識別センサを用いて判定して、最適な収穫タイミングを管理することもできる。また、食品または化粧品などの製品の匂いを匂い識別センサでデータ化して、製品開発の効率向上および品質安定化を支援することもできる。
【符号の説明】
【0243】
10、10a 推定装置
11 測定値取得部(取得部)
12 変化パターン解析部(解析部)
16 推定部
30 匂いセンサ
31A 複数のセンサ素子(センサ素子群)
31、31b、31c センサ素子
32 定電圧電源(電源)
33 電圧計(測定機器)
100、100a 匂い測定装置
313A、313C 第1金属配線
313B、313D 第2金属配線
315、315c、315d 匂い物質受容層
317 匂い物質透過層
50 対象試料受入部
51 調節部
60 センサチャンバ
80 気体供給部
91、92、93、94 管体
501 第1口
502 第2口
503 試料導入口
図1
図2
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図12