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特開2024-169372鋳造部品のための統合された仮想製品とプロセス設計
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169372
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】鋳造部品のための統合された仮想製品とプロセス設計
(51)【国際特許分類】
   B22D 46/00 20060101AFI20241128BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20241128BHJP
【FI】
B22D46/00
G06F30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024083113
(22)【出願日】2024-05-22
(31)【優先権主張番号】23175003
(32)【優先日】2023-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506138269
【氏名又は名称】マグマ ギエッセレイテクノロジ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】MAGMA Giessereitechnologie GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】シュトゥルム イェルク シー.
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーデマン ニクラス
(72)【発明者】
【氏名】オロフソン ヤーコプ
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA06
5B146DG01
5B146DJ02
5B146DJ11
5B146DJ14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鋳物の局所特性の確率分布を予測することにより、対象物を鋳造するプロセスを改善するための方法及びシステムを提供する。
【解決手段】単一の鋳造プロセスシミュレーション(2)及びプロセスばらつきパラメータ(40)を使用して、局所微細構造に基づく機械的特性(8)及び局所損傷因子(9)の確率分布を予測し、鋳物の各部分において、局所微細構造に基づく機械的特性(8)にそれぞれの局所損傷因子(9)を適用し、それぞれの材料性能における局所的な弱化及びその確率分布を予測する。本方法は更に、鋳物の各部分において局所欠陥確率及びプロセス性能を決定するために、パラメータで表現された入力変数セットを使用する単一の鋳造部品又は仮想実験計画法の統計解析を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳物の局所的な機械的特性の確率分布を予測することによって、鋳造プロセスを改善するための方法であって、コンピュータにより実装される方法において、
鋳物の設計、鋳造に使用される鋳型又は工具の設計、鋳造材料の組成、鋳造材料の前処理のいずれか、鋳造プロセス条件、後処理プロセス条件の少なくとも1つを定義する入力変数を取得することと;
前記プロセス条件のばらつきを確率分布で定義するプロセスばらつきパラメータを取得することと;
前記鋳造プロセスの数値モデルを使用して、コンピュータ装置上で前記鋳造プロセスのシミュレーションを実行することと;
を含み、前記数値モデルは、前記入力変数の関数として、前記鋳物の各部分の局所微細構造及び前記鋳物の設計にマッピングされた局所欠陥を予測するように構成され、
前記方法は、前記コンピュータ装置によって、
前記鋳物の各部分の局所微細構造に基づく機械的特性を、前記局所微細構造の関数として計算すると共に、前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布を、前記プロセスばらつきパラメータの関数として計算するステップと;
前記局所欠陥の関数として前記鋳物の各部分の局所損傷因子を計算すると共に、前記鋳物の各部分における局所的な材料性能に対する前記局所欠陥の有害な影響の確率及び大きさを表すために、前記プロセスばらつきパラメータの関数として前記局所損傷因子の確率分布を計算するステップと;
前記鋳物の各部分において、前記材料性能のいずれかについての局所的な弱化を表す、前記局所微細構造に基づく機械的特性のそれぞれに、局所的な損傷因子を適用することによって、調整された局所機械的特性を計算するステップと、
前記鋳物の各部分において、前記調整された局所機械的特性の確率分布を、前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布と前記局所的な損傷因子の確率分布とを組み合わせた関数として計算するステップと、
を実行することを含む、方法。
【請求項2】
前記シミュレーションを実行することは、鋳造中の鋳型充填及び凝固の統合微細構造予測モデルを使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調整された局所機械的特性を計算することは、前記鋳物の各部分において、局所的な損傷因子のそれぞれを局所的な応力-歪み曲線に適用して、各部分において、機械的性能のそれぞれの局所的な弱化を計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記予測される局所欠陥は、前記鋳物の所与の部分の属性であって、前記材料性能を局所的に低下させうる属性を含み、前記属性は、例えば混入した空気及びガス、コールドシャット、溶接線、ポロシティ、その他の有害な含有物を含み、
前記鋳物のサンプリング領域のそれぞれについて、各サンプリング領域内における局所欠陥のサイズ、形状、分布のいずれかのような前記属性の関数として、局所損傷因子が計算される、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
鋳造のプロセスを改善するための方法であって、コンピュータにより実装される方法において、
公称プロセス条件による鋳造プロセスの公称動作点を定義する固定入力変数のセットを取得することと;
前記公称プロセス条件のばらつきを確率分布で定義するプロセスばらつきパラメータを取得することと;
前記鋳造の少なくとも1つの評価領域を選択することと;
前記少なくとも1つの評価領域の設計性能を決定することと;
を含み、前記設計性能を決定することは、
前記固定入力変数を用いる前記鋳造プロセスの数値モデルを用いて前記鋳造プロセスのシミュレーションを実行し、前記評価領域の各点において、局所微細構造の確率分布及び局所欠陥の確率分布を前記プロセスばらつきパラメータの関数として予測することと;
前記評価領域の各点において、前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布を、前記局所微細構造の確率分布の関数として計算することと;
前記評価領域の各点において、前記局所欠陥の確率分布の関数として、局所損傷因子の確率分布を計算することと;
前記評価領域の各点において、調整された局所機械的特性の確率分布を、前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布と前記局所損傷因子の確率分布を組み合わせた関数として計算することと、
によって行う、方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの評価領域の前記設計性能を決定することは、前記評価領域の各点において、前記調整された局所機械的特性の前記確率分布に基づいて、前記鋳物の前記少なくとも1つの評価領域の期待される局所機械的特性の最小値を決定することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法であって、
複数の入力変数のばらつきを定義する、パラメータで表現された入力変数のセットを取得することと;
実験計画法を実行することと;
を更に含み、前記実験計画法を実行することを、
前記パラメータで表現された入力変数のセットの可能な組み合わせについて、前記鋳造プロセスの前記数値モデルを使用して、鋳造プロセスの複数のシミュレーションを実行して、前記鋳物の各部分における局所微細構造のばらつき及び局所欠陥のばらつきを予測することと;
前記鋳物の各部分において、前記パラメータで表現された入力変数のセットの統計的な強度評価を決定することと;
によって行い、前記統計的な強度評価を決定することを、
前記鋳物の各部分において、局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布のばらつきを、前記局所微細構造のばらつき及び前記プロセスばらつきパラメータの関数として計算することと;
前記鋳物の各部分において、局所損傷因子の確率分布のばらつきを、前記局所的欠陥のばらつき及び前記プロセスばらつきパラメータの関数として計算することと;
前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布の前記ばらつきと、前記局所損傷因子の確率分布の前記ばらつきとを組み合わせた関数として、調整された局所機械的特性の確率分布のばらつきを計算することと;
によって行う、
方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記鋳造プロセスの統計的ロバスト性分析を定義するために、前記パラメータで表現された入力変数のセットに対する設計性能に関する情報を決定することを更に含み、該決定することを、
鋳造部品の品質に及ぼす様々な入力パラメータの影響を表現する主効果及び相関図;
予め定義された品質基準に基づく、前記鋳物に期待される機械的特性の最小値及び分布;
前記パラメータで表現された入力変数のセットに対するロバストなプロセスウィンドウ;
の少なくとも1つを決定することにより行う、方法。
【請求項9】
前記期待される機械的特性の前記最小値及び分布の少なくとも一方を、前記鋳物の品質基準に関する予め定義されたユーザー要件と比較することと;
前記ユーザー要件を満たすように調整された、パラメータで表現された入力変数のセットを決定することと;
を更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
入力変数、固定入力変数、パラメータで表現された入力変数のセットの少なくとも1つを取得するように構成される入出力インタフェースと;
コンピュータプログラム製品を含む不揮発性の機械可読記憶媒体と;
前記コンピュータプログラム製品を実行し、前記入出力インタフェースとやりとりし、請求項1、請求項5、又は請求項7の方法に従う処理を実行するように動作可能な少なくとも1つのプロセッサと;
実行された方法の少なくとも1つのステップの決定された結果を出力するように構成されるディスプレイと;
を備える、コンピュータシステム。
【請求項11】
不揮発性の機械可読記憶媒体に符号化され、請求項1、請求項5、又は請求項7に記載の方法に従う処理をプロセッサに実行させるように動作可能なコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示事項(以下、本開示という)は、鋳型内のキャビティに対象物を鋳造するプロセスに関する。特に、本開示は、設計段階における鋳造体設計を最適化するための統合鋳造プロセスシミュレーションを通じて鋳造の局所的な特性を予測し、製造段階における鋳型及びツール設計並びに鋳造プロセス条件を最適化するための統計解析を適用することによって、このような鋳造プロセスを改善することに関する。
【背景】
【0002】
鋳造とは、所望の形状の中空キャビティを有する鋳型に液体材料を流し込む製造プロセスである。環境(鋳型、空気など)との局所的な熱交換に依存して、液体材料は冷却され、材料固有の相変態物理に従って凝固する。凝固した部品は鋳造品としても知られ、鋳型から取り出されて、又は鋳型を破壊して、工程が完了する。鋳造は、他の方法では製造が困難であったり、不経済であったりするような複雑な形状を製造するために、頻繁に使用される。鋳造材料が金属である場合、この金属材料は溶融温度よりも高い注湯温度まで加熱され、鋳型に注湯される。鋳型には、鋳物の制御された充填と凝固を可能にする湯道や押湯が含まれることもある。その後、鋳型内で金属が冷却され、金属が凝固し、凝固した部分(鋳物)が、工程や材料に応じた金属温度や工程時間で鋳型から取り出される。その後の作業で、鋳造工程で必要とされる余分な部品(湯道や押湯など)が取り除かれる。
【0003】
金属鋳造プロセスのシミュレーションは、鋳型の充填、凝固、及び更なる冷却を考慮して鋳造部品の品質を計算するために、数値的方法を含む複数の技術を使用することができる。また、鋳造プロセス全体及び熱処理等の追加処理ステップ中の各時点における鋳造機械的特性の定量的予測を提供することができる。従って、このようなシミュレーションは、生産開始前に鋳造部品の品質を前もって説明することができる。そして、要求される部品の品質と特性に関して、鋳造方法をデザインすることができる。鋳造システム全体の正確なレイアウトは、エネルギー、材料、工具の節約にもつながるため、これは生産前のサンプリングの削減にとどまらない利点がある。シミュレーションは、金型や工具の製作を含む鋳造方法の決定や、その後の熱処理や仕上げの決定について、設計や製造段階での製品設計をサポートしうる。これにより、鋳物製造ルート全体のコスト、資源、時間を節約しうる。
【0004】
特定の部品のための鋳物の設計では、特定の耐用年数を考慮する必要がある。このため、一般に、所定の規格に基づく材料の機械的特性が使用される。鋳造特性は、基本的な材料と部品を製造するためのプロセス条件に関連している。一般に、最終的な機械的特性に影響を与える主なパラメータは2つある。1つは合金組成、金属処理、局所凝固条件によって決まる鋳造部品の局所組織(局所微細構造)である。もう1つはプロセスレイアウトとプロセス条件に依存する局所欠陥の有無である。局所組織と局所欠陥の両方が、部品の最終的な特性を決定する。
【0005】
鋳物設計の際、製造中に満たされるべき一定の品質要件が指定される。これらの要件は、予想される使用負荷を満たす、鋳物の特定領域の特性レベルで表される。これは、使用中の破損リスクを最小限に抑えるために行われる。設計中は最終的なプロセス条件がわからないため、プロセス、組織(微細構造)、最終的な特性の間の関係はリスクとみなされる。この不確実性は、部品設計に適用される安全係数となり、鋳造材料の最適なポテンシャルを減少させる。その結果、通常、要求される使用負荷に対して重すぎる部品となる。
【0006】
より最適化された軽量な鋳物設計を実現するために、プロセスシミュレーションから得られる局所的に変化する特性を考慮し、応力解析に利用することが提案されている。このためには、鋳造品に期待される最小の局所特性を、設計段階で、実験的な検証を行うことなく、統計的に証明する必要がある。
【0007】
更に、鋳造部品の設計が固定されている場合、適用される方法と金型又は工具の設計に関する決定、及びロバストプロセス条件の設定に関する決定が必要となる。このため、部品の品質や関連する機械的特性に影響を与えるパラメータの種類が大幅に増加する。ロバストな金型・工具設計とプロセス条件を実現するためには、期待される最終部品特性に影響するパラメータについて、統計的に証明された情報が必要である。その目的は、仕様に応じて部品に要求される機械的特性を確実に達成するための、最適な公称動作点とロバストなプロセスウィンドウを決定することである。この情報により、期待される部品品質に基づいた鋳造・工程設計が可能になる。また、シームレスで短い立ち上げ段階を確保するのに役立つ運転条件を製造者が確立することも可能とする。また、最初の鋳造品を製造する前に、部品の期待される信頼性に関する定量的な情報を提供することも可能とする。
【0008】
市販されているシミュレーションソフトウェアソリューションの中には、金属鋳造プロセス中に形成される可能性のある気孔に関する情報や、予想される微細構造に基づく機械的特性に関する情報を提供するなど、限られた範囲で鋳造対象物の局所的な機械的特性を予測するための手段を提供することができるものがある。しかしながら、これらの既知のシミュレーションソフトウェアソリューションは、得られた情報を、ロバストな鋳造部品の設計や、製造プロセス全体の最適化のために使用することができるような形で、鋳造対象物の所与の部品領域の変化する局所特性に関するロバストな統計的証拠を提供することはまだできていない。
【摘要】
【0009】
本発明は、前述の課題を克服するか少なくとも緩和する、改良された方法及びシステムを提供することを目的とし、鋳物の局所特性の確率分布を予測することにより、対象物を鋳造するプロセスを改善するための方法及びシステムを提供することを目的とする。
【0010】
上述の課題やその他の課題が、独立請求項に記載の特徴により解決される。更なる実装形態は、従属請求項や発明の詳細な説明、図面から明らかになるだろう。
【0011】
第1の捉え方によれば、鋳物の局所的な機械的特性の確率分布を予測することによって、対象物を鋳造するプロセスを改善するための方法であって、コンピュータにより実装される方法が提供される。この方法は、
鋳物の設計、鋳造に使用される鋳型又は工具の設計の少なくとも1つ、鋳造材料の組成、鋳造材料の前処理のいずれか、鋳造プロセス条件、後処理プロセス条件の少なくとも1つを定義する入力変数を取得することと;
前記プロセス条件のばらつきを確率分布で定義するプロセスばらつきパラメータを取得することと;
前記鋳造プロセスの数値モデルを使用して、コンピュータ装置上で前記鋳造プロセスのシミュレーションを実行することと;
を含み、前記数値モデルは、前記入力変数の関数として、前記鋳物の各部分の局所微細構造及び前記鋳物の設計にマッピングされた局所欠陥を予測するように構成され、前記方法は更に、
前記鋳物の各部分の局所微細構造に基づく機械的特性を、前記局所微細構造の関数として計算すると共に、前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布を、前記プロセスばらつきパラメータの関数として計算することと;
前記局所欠陥の関数として前記鋳物の各部分の局所損傷因子を計算すると共に、前記鋳物の各部分における局所的な材料性能に対する前記局所欠陥の有害な影響の確率及び大きさを表すために、前記プロセスばらつきパラメータの関数として前記局所損傷因子の確率分布を計算することと;
前記鋳物の各部分において、前記材料性能のいずれかについての局所的な弱化を表す、前記局所微細構造に基づく機械的特性のそれぞれに、局所的な損傷因子を適用することによって、調整された局所機械的特性を計算することと、
前記鋳物の各部分において、前記調整された局所機械的特性の確率分布を、前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布と前記局所的な損傷因子の確率分布とを組み合わせた関数として計算することと、
を含む。
【0012】
この第1の捉え方は、単一のシミュレーションから、確率論的な方法で、微細構造及び局所欠陥のシミュレーション情報を使用することによって、鋳造プロセスの結果を予測するための改良された方法を提供する。この単一のシミュレーションは、予測される局所欠陥及び局所微細構造の両方の確率及び分布の影響を考慮して、鋳造される対象物の局所的な機械的特性のロバストな統計的分析を提供する。このアプローチは、微細構造及び機械的特性の決定論的予測を目的とする公知の先行技術の方法とは異なる。公知の先行技術では、統計的分析は一般に、繰り返し決定論的シミュレーションに基づいている。このアプローチは、特許請求の範囲に記載される方法に従い、入力パラメータとしてプロセスのばらつき値を使用し、繰り返し試験で明らかになるばらつきだけでなく、上記のようにプロセスのばらつきも考慮することにより達成される。
【0013】
本方法は、鋳物の各部分について、予測された局所欠陥が局所的な材料性能及びばらつきに及ぼす様々な有害な影響を表す局所損傷因子を計算することを含む。それによって、鋳物の各部分について、これらの局所欠陥によって引き起こされる機械的性能の局所的な弱化の予測精度を高める。
【0014】
前記第1の捉え方の実装形態の一例において、前記シミュレーションを実行することは、鋳造中の鋳型充填及び凝固の統合微細構造予測モデルを使用することを含む。
【0015】
実施形態によっては、前記統合微細構造予測モデルは、相形成、凝固速度論、偏析、潜熱及び凝固、並びに鋳型充填及び凝固プロセスの熱平衡を定義する方程式を統合した数値モデルを含む。
【0016】
実施形態によっては、前記統合微細構造予測モデルは、鋳物の所与の部分の結晶粒径、初晶相及び金属間化合物の相分布、及び関連する相サイズに関する局所情報の少なくとも1つを含む局所微細構造に関する出力を提供する。
【0017】
実施形態によっては、前記統合微細構造予測モデルは、鋳物の所与の部分の降伏強さ、引張強さ、伸びなどの機械的性能を記述する、局所微細構造に基づく機械的特性及び関連する局所応力-ひずみ曲線を計算する。
【0018】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記調整された局所機械的特性を計算することは、前記鋳物の各部分において、局所的な損傷因子のそれぞれを局所的な応力-歪み曲線に適用して、各部分において、機械的性能のそれぞれの局所的な弱化を計算することを含む。
【0019】
実施形態によっては、前記調整された局所機械特性を計算することは、
シミュレートされた局所欠陥を鋳物の幾何学的モデルにマッピングすることにより、シミュレートされた局所欠陥マップを決定することと;
前記局所欠陥マップ上の仮想局所引張強度試験を反映し得る1つ又は複数の評価領域を前記幾何学モデル内に定義することと;
各局所欠陥を前記局所引張強度試験に適用し、局所応力-ひずみ曲線を決定することと;
を含む。
【0020】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記予測される局所欠陥は、前記鋳物の所与の部分の属性であって、前記材料性能を局所的に低下させうる属性を含み、前記属性は、例えば
【0021】
混入した空気及びガス、コールドシャット、溶接線、ポロシティ、その他の有害な含有物を含み、前記局所損傷因子は、これらの属性の関数として計算される。例えば欠陥のサイズ、形状、又は分布のような属性の関数として計算される。
【0022】
実施形態によっては、前記鋳物の各部分の前記局所損傷因子は、所与のサンプリング領域における局所的欠陥のサイズ及び他の特性の関数として計算される。各サンプリング領域は、それぞれの損傷因子を決定するためのサンプリング基準に基づく、前記鋳物の小領域に対応してもよい。前記サンプリング基準は、例えば引張強度サンプルの寸法を反映するものであってもよい。
【0023】
第2の捉え方によれば、コンピュータにより実装される方法であって、鋳造のプロセスを改善することが、
公称プロセス条件による鋳造プロセスの公称動作点を定義する固定入力変数のセットを取得することと;
前記公称プロセス条件のばらつきを確率分布で定義するプロセスばらつきパラメータを取得することと;
前記鋳造の少なくとも1つの評価領域を選択することと;
前記少なくとも1つの評価領域の設計性能を決定することと;
によって行われる方法が提供される。この方法において、前記設計性能を決定することは、
前記固定入力変数を用いる前記鋳造プロセスの数値モデルを用いて前記鋳造プロセスのシミュレーションを実行し、前記評価領域の各点において、局所微細構造の確率分布及び局所欠陥の確率分布を前記プロセスばらつきパラメータの関数として予測することと;
前記評価領域の各点において、前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布を、前記局所微細構造の確率分布の関数として計算することと;
前記評価領域の各点において、前記局所欠陥の確率分布の関数として、局所損傷因子の確率分布を計算することと;
前記評価領域の各点において、調整された局所機械的特性の確率分布を、前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布と前記局所損傷因子の確率分布を組み合わせた関数として計算することと、
によって行われる。
【0024】
実施形態によっては、前記評価領域は鋳物の幾何学的モデル全体に対応する。
【0025】
実施形態によっては、各サンプリング領域は、それぞれの損傷因子を決定するためのサンプリング基準に基づく、前記鋳物の小領域に対応してもよい。前記サンプリング基準は、例えば引張強度サンプルの寸法を反映するものであってもよい。
【0026】
実施形態によっては、各評価領域は、適用される各負荷レベルに基づく、鋳物の小領域に対応する。
【0027】
実施形態によっては、負荷レベルは、静的ケース、動的ケース、及び/又は破壊関連の負荷ケースのいずれかに対応する。
【0028】
実施形態によっては、本方法は、公称動作点に基づいて公称プロセス条件を定義する固定入力変数のセットを取得することを更に含む。
【0029】
実施形態によっては、前記固定入力変数のセットは、鋳造材料の組成、現在の部品設計、鋳造に使用される工具の設計、及び充填と冷却の公称プロセス条件を定義する。
【0030】
実施形態によっては、前記設計性能を決定することは、各評価領域において調整された局所引張強さを決定することと、前記評価領域の各々について、前記局所引張強さサンプルに対応する局所応力-ひずみ曲線に基づいて、統計的評価を適用することとを含む。前記統計的評価は、調整された局所機械的特性のばらつきを、前記入力変数のセットのうちの1つのばらつきに基づいて定義する、
【0031】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記少なくとも1つの評価領域の前記設計性能を決定することは、前記評価領域の各点において、前記調整された局所機械的特性の前記確率分布に基づいて、前記鋳物の前記少なくとも1つの評価領域の期待される局所機械的特性の最小値を決定することを含む。
【0032】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記方法は、
鋳物の形状及び少なくとも1つの評価領域を定義するコンピュータ支援エンジニアリング(CAE)モデル(例えば有限要素モデル)に、決定された期待される局所機械的特性の最小値と、調整された局所機械的特性の分布及び/又は確率分布との少なくとも1つをマッピングすることと;
有限要素解析(FEA)を使用するなどして前記CAEモデルを解析し、少なくとも1つの評価領域に適用される局所負荷を定義するユーザー要件に基づいて機械的性能を評価することと;
を含む。
【0033】
実施形態によっては、前記方法は更に、CAEモデルを調整すること、及び/又は、ユーザー要件を満たすように調整された入力変数のセットを決定することを含む。
【0034】
前記第2の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記方法は、
複数の入力変数のばらつきを定義する、パラメータで表現された入力変数のセットを取得することと;
前記パラメータで表現された入力変数のセットの可能な組み合わせについて、前記鋳造プロセスの前記数値モデルを使用して、鋳造プロセスの複数のシミュレーションを実行することにより、実験計画法を実行して、前記鋳物の各部分における局所微細構造のばらつき及び局所欠陥のばらつきを予測することと;
前記鋳物の各部分において、前記パラメータで表現された入力変数のセットの統計的な強度評価を決定することと;
によって行われ、前記統計的な強度評価を決定することは、
前記鋳物の各部分において、局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布のばらつきを、前記局所微細構造のばらつき及び前記プロセスばらつきパラメータの関数として計算することと;
前記鋳物の各部分において、局所損傷因子の確率分布のばらつきを、前記局所的欠陥のばらつき及び前記プロセスばらつきパラメータの関数として計算することと;
前記局所微細構造に基づく機械的特性の確率分布の前記ばらつきと、前記局所損傷因子の確率分布の前記ばらつきとを組み合わせた関数として、調整された局所機械的特性の確率分布のばらつきを計算することと;
によって行なう。
【0035】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記方法は、鋳造の各部分において、パラメータで表現された入力変数のセットの各々について、局所欠陥のばらつき及びプロセスばらつきパラメータの関数として局所欠陥確率を決定することを含む。
【0036】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記方法は、パラメータで表現された入力変数のセットの全ての可能な組み合わせについて鋳造プロセスのシミュレーションを実行することによる、完全要因評価(full factorial assessment)を含む。
【0037】
前記第1の捉え方の実装形態の別の例において、前記方法は、パラメータで表現された入力変数のセットを統計的な支持に基づいて削減することによる限定的評価と、削減した入力変数のセットおよび固定入力変数のセットについて、鋳造プロセスの複数のシミュレーションを実行することとを含む。
【0038】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記方法は、前記鋳造プロセスの統計的ロバスト性分析を定義するために、前記パラメータで表現された入力変数のセットに対する設計性能に関する情報を決定することを含み、該決定することは、
鋳造部品の品質に及ぼす様々な入力パラメータの影響を表現する主効果及び相関図;
予め定義された品質基準に基づく、前記鋳物に期待される機械的特性の最小値及び分布;
前記パラメータで表現された入力変数のセットに対するロバストなプロセスウィンドウ;
を決定することにより行う。
【0039】
実施形態によっては、パラメータで表現された入力変数のセットについて設計性能を決定することは、鋳造の各部分について、局所的な機械的特性の正規分布を計算することを含む。
【0040】
実施形態によっては、ロバストなプロセスウィンドウを決定することは、プロセスのロバスト性のためにプロセスのばらつきを低減することによって、パラメータで表現された入力変数のセットによって定義されるプロセスウィンドウを調整することを含む。
【0041】
実施形態によっては、ロバストなプロセスウィンドウを決定することは、最適動作点を決定するために、パラメータで表現された入力変数のセットによって定義される動作点を調整することを含む。
【0042】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記方法は更に、主効果図と相関図を用いて、パラメータで表現された入力変数セットのばらつきが、期待される部品品質と関連する機械的特性に及ぼす影響を評価することを含む。
【0043】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記方法は、
前記期待される機械的特性の前記最小値及び/又は前記分布を、前記鋳物の品質基準に関する予め定義されたユーザー要件と比較することと;
前記ユーザー要件を満たすように調整された、パラメータで表現された入力変数のセットを決定することと;
を更に含む。
【0044】
前記第1の捉え方の更なる実装形態の一例において、前記方法は、
コンピュータ装置の入出力インタフェースを介して、固定入力変数のセット又はパラメータで表現された入力変数のセットの少なくとも一方を取得することと;
実行された方法の少なくとも1つのステップの決定された結果を前記コンピュータ装置のディスプレイに出力することと;
を含む。
【0045】
第2の捉え方によれば、コンピュータシステムが提供される。このコンピュータシステムは、入出力インタフェースと;
ディスプレイと;
コンピュータプログラム製品を含む不揮発性の機械可読記憶媒体と;
前記コンピュータプログラム製品を実行し、前記入出力インタフェース及び前記ディスプレイと相互作用し、前記第1の捉え方の上記いずれかの形態に従う処理を実行するように動作可能な少なくとも1つのプロセッサと;
を備える。
【0046】
第3の捉え方によれば、不揮発性の機械可読記憶媒体に符号化され、第1の捉え方の上記の実装形態のいずれかに従う方法の処理をプロセッサに実行させるように動作可能なコンピュータプログラム製品が提供される。
【0047】
これらの捉え方及び他の捉え方は、以下に説明される実施例により更に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、様々な側面や実施形態、実装例を詳細に説明する。
図1】第1の捉え方による、鋳造対象物の局所機械的特性を予測する方法を示すフロー図である。
図2】第1の捉え方の実施形態の一例による、鋳造プロセス中の鋳型充填及び凝固のための統合された微細構造予測モデルの、いくつかの側面を示すフロー図である。
図3】第1の捉え方の実施形態の一例に従って、評価領域を仮想的な局所引張強度試験として使用し、調整された局所機械的特性を計算するために、対象物の各部分で局所応力-ひずみ曲線を決定する方法を示すフロー図である。
図4】第1の捉え方の実施形態の一例による、様々な負荷要件を有する鋳造対象物の評価領域に対する設計性能を決定する方法と、当該設計性能の結果を負荷解析の入力としてフィードバックすることを示すフロー図である。
図5】第1の捉え方の実施形態の一例による、仮想的な実験計画法(DoE)アプローチにおいて、パラメータで表現された入力変数のセットを用いて設計性能を決定する方法を示すフロー図である。
図6】2つの設計パラメータを変化させた場合に予測される機械的特性について、仮想DoEの結果を示す散布図である。
図7】第2の捉え方による、鋳造対象物の局所的機械的特性を予測するコンピュータシステムを示すブロック図である。
【詳細説明】
【0049】
新しい鋳造部品を設計する際には、必要な機能に焦点を当て、耐用年数中に予想される負荷ケースに基づいて設計評価を行う。鋳造部品は複数の機能を果たさなければならない。そこで、有限要素解析(FEA)を用いたCAEにより、多様な負荷ケースを検討する。これは、実際の力、振動、熱、流体の流れ、その他の物理的影響に対して製品がどのように反応するかを予測するためのコンピュータ化された手法である。FEAは、製品が壊れるか、磨耗するか、設計通りに動くかを示すことができ、静的、動的(耐久性)、衝突関連のいずれかの特性を入力する必要がある。材料仕様に関しては、設計プロセスは通常、所定の材料とプロセスに関する利用可能な規格に依存する。製造した部品の、受諾した規格からの逸脱は、品質システム上の配慮のもとでのみ認められる。すなわち、部品内の様々な負荷の特定の領域と、それに関連する許容可能な欠陥が指定され、製造はそれを満たさなければならない。この情報は、調達時の仕様書の一部となる。会社の規格によっては、安全上の理由から、鋳造部品の許容負荷を下げる安全係数が加えられる。
【0050】
その結果、鋳造部品は通常、2つの理由で過剰な寸法になる。1つは、局所的な特性の代わりに標準データのみを使用すること、も1つは、未知の局所特性に対処するために追加の安全係数を使用することである。
【0051】
本願で説明する技術革新は、仮想プロセスシミュレーションからの予測(材料性能と局所欠陥)を使用して、局所的な機械的特性を予測する。これにより、鋳造部品の設計プロセスにおいて、特定の部品の負荷レベルと、特定のプロセス条件に基づいて満たされうる予測局所特性とを関連付けることができる。この設計プロセスでは、安全係数を低くすることができ、また、部品の重量を低減するために、予測局所特性が考慮されうる。
【0052】
図1は、本開示に従って、鋳造される対象物を設計するこのようなプロセスを改善するための方法の主要なステップを示すフロー図である。この改善は、前記対象物の各部について、予測される局所的な微細構造6と、局所的な欠陥7との両方を考慮して、前記対象物の局所的な機械的特性の確率分布を予測することによって、行われる。
【0053】
鋳造部品の鋳造プロセスシミュレーション2の入力は、部品のデザイン、選択された鋳造材料の組成、鋳造物又は金型のデザイン、鋳造材料のあらゆる前処理、鋳造及び後処理プロセス条件に関する情報から構成され得る。
【0054】
これらの設計パラメータは通常公称値(nominal)であり、どのような製造プロセスにも内在するばらつきやゆらぎを考慮していない。プロセスばらつきパラメータ40は、プロセス条件のばらつきの観点から予測される、プロセスの信頼性を記述する確率分布を追加する。
【0055】
この段階では、鋳造物の設計や金型設計、プロセス条件の最終決定は行われていないため、過去の参考例やベストプラクティスに基づいて想定が行われる。
【0056】
更に、図4に詳しく示すように、特定の負荷レベルを必要とする特定の評価領域13又はゾーンを定義することができる。
【0057】
シミュレーション2に適用される数値モデル3は、鋳造される部品の充填と凝固を記述する。充填及び凝固中には、統合された微細構造予測モデル5を適用することができる。これは、図2に詳しく示されており、後に説明する。
【0058】
これらの数値モデルの出力は2つの要素からなる。1つは、鋳造される対象物の所定の部位の結晶粒径、一次相(primary phase)及び金属間相(intermetallic phase)の相分布、関連する相サイズに関する局所的な情報を記述する、予測された局所的な微細構造6と、それに関連する材料性能(material peformance)であって、局所的な微細構造に基づく機械的特性からみた材料性能である。この機械的特性は、使用中の材料の基本的な挙動を記述する。
【0059】
一方、局所的な欠陥7も予測される。これは、入力変数1の関数として、鋳造対象物の設計にマッピングされる。予測される局所欠陥7は、鋳造対象物の所定の部分の属性であって、局所的に材料性能を低下させる可能性のある属性を含む。この属性は、例えば、混入した空気やガス、コールドシャット、溶接線、ポロシティ、その他の有害な含有物を含んでもよい。
【0060】
局所微細構造6の評価に基づいて、本方法は、図3に詳細に示すように、局所微細構造6及び関連する局所応力-ひずみ曲線81に基づいて、局所微細構造に基づく機械的特性8を予測することができる。この機械的特性8は、鋳造される対象物の所定の部分の降伏強度、引張強度及び伸びなどの機械的性能を記述する。
【0061】
予測された局所欠陥7は、局所損傷因子9によって、材料性能に対する有害な影響という観点からも評価される。先に概説したように、欠陥とは、材料中の個々の有害な弱点を意味することができ、例えば、混入した空気やガス、コールドシャット、溶接線、ポロシティ、その他の有害な含有物、あるいはこれらの組み合わせなどであることができる。局所的な損傷因子9は、欠陥のサイズや形状、分布の関数であることができ、又は、予測された個々の欠陥7の他の特性の関数であることができる。
【0062】
予測された欠陥が、与えられたサンプリング領域(例えば引張強度サンプルの寸法)の確率分布を表していることを確認するために、サンプリング領域内の全ての欠陥の統計分析が行われる。計算された欠陥確率分布は、各サンプリング領域の損傷因子(damage factor)を決定するために使用される。
【0063】
次に、局所損傷因子9は、予測された微細構造の応力-ひずみ曲線81に局所的に適用され、最適材料性能を低くして引張強さ及び延性の値を低くし、それによって、部品の任意の位置におけるそれぞれの機械的性能の局所的な低下を図る。
【0064】
図示されるフローの最終出力は、鋳造の各部分における調整された局所機械的特性10の確率分布という観点からの部品の総合評価である。この評価はプロセスばらつきパラメータ40及び入力変数1の関数であり、局所的微細構造に基づく機械的特性8及び局所損傷因子9の中間確率分布の計算を伴う。
【0065】
上記の方法論は、所定の部品とプロセス条件に対する単一のシミュレーション2に適用することができ、統計的に確保された調整された局所機械的特性10であって、部品の重量増加につながる不必要な安全マージンを回避するために部品設計に使用される局所機械的特性10を提供する。
【0066】
図2に示すように、充填・凝固のシミュレーション3の間に、統合された微細構造予測モデル5を適用することができる。統合された微細構造予測モデル5は、材料仕様やプロセス条件などの入力パラメータ1と、幾何学的3Dモデル4と、金属処理及びその結果として生じる局所微細構造6と、局所欠陥7と、最終的な微細構造(微細構造に基づく機械的特性)との間のリンクを提供する。統合された微細構造予測モデル5は、鋳造される対象物の任意の点及びプロセスの任意の時間における鋳型充填及び凝固プロセスについて、公称材料組成に基づいて作成される平衡相51、全ての相の成長速度52、関与する全ての成分の偏析(segregation)53、潜熱の放出及び凝固54を定義する方程式を統合した数値モデルを備える。
【0067】
この数値モデルの出力は、位相量(phase amount)や、一次相(primary phase)及び金属間相(intermetallic phase)のサイズのような、局所的な微細構造であり、鋳造部品に生じる局所微細構造6や局所欠陥7に関する情報を提供する。
【0068】
図3が示すように、調整された局所機械的特性10を計算することは、鋳造される対象物の設計に局所欠陥7をマッピングすることによって局所欠陥マップ71を決定することと、局所微細構造マップ6及び欠陥マップ71に基づいて、鋳造される対象物における引張試験又は評価領域82を用いて、調整された局所引張強度81を決定する方法を適用することと、局所引張強度試験又は評価領域82に各局所欠陥7を適用して局所応力-歪み曲線81を決定することとを含んでもよい。
【0069】
特に、局所微細構造に基づく機械的特性8は、局所微細構造6と、局所微細構造6に関連する局所応力-ひずみ曲線81に基づいて計算される。局所応力-ひずみ曲線81は、関連する材料性能を記述する。また局所応力-ひずみ曲線81には、鋳造される対象物の各部分において局所損傷因子9が適用され、対象物の各部分において、それぞれ機械的性能の局所的弱化が計算される。
【0070】
上記方法は、予測された情報を使用して、所定の条件について、鋳造部品全体の調整された局所機械的特性10を計算する。この局所機械的特性10は、応力-ひずみ曲線の調整値の形で定義される。これらは、鋳造される対象物のある例示的な位置における、特定の応力-ひずみ曲線81に沿ったドットの調整された位置として図3に示されている。微細構造に基づく機械的特性8の最適な材料性能(曲線の右上端のドット)が、部品の任意の位置における、調整された機械的特性10(最適な性能の左側のドット)へと、低下させられている。すなわち、引張強さ及び伸びが低い値へと低下させられている。
【0071】
上記の方法は、先に定義したプロセス変動値40と組み合わせて、所与の対象物及びプロセス条件についての単一のシミュレーションに適用することができる。従って、部品の重量増加につながる不必要な安全マージンを回避するために部品設計に使用しうる、統計的に確保された局所的な機械的特性を提供することができる。
【0072】
ユーザーは、部品のどの部分、いわゆる評価領域(EV)13で、解析を行うかを決定することもできる。各評価領域13の全ての位置の解析は、統計的に証明された最小機械的特性をもたらし、これは、部品性能の更なる解析(例えばFEAを使用する解析)などの入力として使用することができる。
【0073】
図4は、そのような目的のために上記の方法論を適用するための流れ図である。すなわち、第1の開示の実施形態の一例に従う、鋳造される対象物の特定の評価領域13の設計性能14を決定するための流れ図を示す。
【0074】
この場合、鋳造対象物の必要な機能とレイアウトは、予想される負荷ケースに基づいて評価される。鋳造される物体は複数の機能を満たす必要があるため、静的、動的(耐久性)、破壊のいずれかに関連する特性入力を必要とする多様な負荷ケースをFEAで検討する。
【0075】
従って、この方法は、様々なユーザー要求11、に従って、鋳造される対象物の少なくとも1つの評価領域13(この場合、EV1、EV2、EV3)を選択することを含む。ここで、ユーザー要求11は、考慮すべき所定の応力レベルに特定のゾーンを割り当てるいわゆるゾーンモデルに基づいて、対象物の様々な部分で予想される、様々な局所負荷11であるしかし、単一の評価領域13が、鋳造される対象物の幾何学的3Dモデル全体に対応する場合もある。
【0076】
前述のように、この段階では、鋳造部品の鋳造プロセスシミュレーション2のための予備的な入力が定義されてもよい。この予備的な入力は、現在の部品設計や、選択された材料の組成、最初の鋳型又は工具設計、充填及び冷却のための公称プロセス条件に関する情報から構成され、固定入力変数セット12として定義される。この段階では、鋳型又は工具の設計やプロセス条件についての最終決定は行われていないため、過去の参考例又はベストプラクティスに基づいて仮定が行われる。
【0077】
固定入力変数セット12に加えて、プロセスばらつきパラメータ40が更に定義され、予期されるプロセスの信頼性を記述する確率分布が追加される。
【0078】
その後、本方法は、調整された局所的な機械的特性10の確率分布を用いて、部品内の予め定義された評価領域13を自動的に評価し、期待される最小特性及び特性分布に関する統計的な情報を提供する。
【0079】
ある実施例では、これは、評価領域(EV1、EV2、EV3)13の各部分の局所微細構造6の確率分布及び局所欠陥7の確率分布を予測するために、鋳造プロセスの数値モデル3を使用して鋳造プロセスのシミュレーション2を実行することと;
評価領域13の各部分において、局所微細構造6の確率分布の関数として、局所微細構造に基づく機械的特性8の確率分布を計算することと;
評価領域13の各部分において、局所欠陥7の確率分布の関数として、局所損傷因子9の確率分布を計算することと;
評価領域13の各部分において、調整後の局所機械的特性10の確率分布を、局所微細構造に基づく機械的特性8の確率分布と局所損傷因子9の確率分布とを組み合わせた関数として計算することと;
によって行われる。
【0080】
この方法は、互いに異なる複数の評価領域又は鋳造される対象物全体における、上記情報の統計的手段による評価を含む。この統計的評価の出力は、任意の評価領域13のミニマルな局所機械的特性101のセットとその散らばり、すなわちこれらの局所機械的特性(降伏強さ、引張強さ、伸びなど)の分布を有する設計性能14である。この出力は、設計プロセスにおいて、特定の部品の負荷レベルと、特定のプロセス条件に基づいて満たされうる予測局所特性とを関連付けることを可能とする。
【0081】
ミニマルな局所機械的特性101に関する情報は、既存のインタフェースを介して、プロセスシミュレーションツールから負荷解析部16にエクスポートされることができる。FEAを使用する負荷解析部16は、当該情報を、部品設計の追加入力や最適化情報とする。
【0082】
その結果、最小限の材料消費でユーザー要件(すなわち局所負荷11)を満たす部品設計(例えば3Dモデル4)が得られる。このように、部品設計は、設計とプロセスの関数として定義された領域で予想される最小の局所特性から恩恵を受け、設計の堅牢性に関する追加情報を得ることができる。
【0083】
言い換えれば、この方法を用いれば、工具レイアウトや設計パラメータ設定に関する不確定要素を設計者が受け入れることができる。なぜなら、この出力は、初期段階で局所特性に関する付加的な価値ある情報を提供することによって、これらの不確定要素を補うからである。それによって、設計者は、安全係数を減らし、予想される局所特性を利用して部品の重量を減らすことができる。
【0084】
製品及びプロセス開発の後の段階で、製造者は鋳造プロセスを詳細に設定しなければならない。製造の主な目標は、ロバストな金型設計、ロバストな操業条件、及び不可避のプロセス変動を許容可能なコストで処理できるロバストなプロセスウィンドウを提供する、鋳造レイアウト、ゲートレイアウト、プロセス条件を使用することである。欠陥のない鋳造品は存在しないため、欠陥を制御すること、及び、(最終的な機械的特性に)指定される品質レベルに欠陥が与える影響を制御することは、非常に重要である。
【0085】
これを支援するために、本開示による方法は、選択されたプロセスウィンドウ又は典型的なプロセス散乱(図6も参照)における製造にも適用することができる。又は、一般に鋳造製造プロセスの責任者である誰にでも適用することができる。これにより、設計及びプロセスの責任者には、鋳造プロセスシミュレーション2を用いる仮想実験セットに基づく統計的分析から得られる情報が提供される。ここで鋳造プロセスシミュレーション2は、設計数1~Nのいわゆる実験計画法(DoE)19にリンクしている。これにより、期待される部品の品質及び関連する機械的特性に対するばらつきの影響を評価することができ、更には、顧客からの仕様を満たすための仮想テストベンチとしてプロセスシミュレーションを使用して、仕様に対する部品の期待される機械的特性のための最適な動作点及びロバストプロセスウィンドウに到達することができる。
【0086】
この方法は、公称動作点25のシミュレートを可能とするだけでなく、形状のパラメータ化や選択された入力変数1のバリエーションの定義を通じて、調整された機械的特性に対する形状、材料、プロセス変数の影響を評価することも可能とする。
【0087】
図5は、本開示の可能な実施例に従って、パラメータで表現された入力変数18の設計性能24及び局所欠陥確率23に関する情報を決定するための、そのような方法を示すフロー図である。
【0088】
適用される方法は、図1-4に関して前述したものと基本的に同じである。しかし、単一の(例えば公称)動作点に対してプロセスシミュレーション2を定義し実行する代わりに、製造は、固定入力変数12に加えて、仮想実験計画法19を実行するための、パラメータで表現された入力変数セット18を定義する。そして、入力変数セット18を定義するために、部品及び鋳型又は工具設計(例:異なるゲートコンセプト又は冷却レイアウト)を変えたり、複数の入力変数を有するプロセスウィンドウ(例:注入時間及び温度、充填時間、鋳型温度などの様々な充填条件)を変えたり、プロセスの散らばり(例えば、部品品質に対する操作の中断の影響)を考慮したりしてもよい。
【0089】
パラメータで表現された入力変数18の数に応じて、複数のプロセスシミュレーション2が、人間が関わることなく自動的に実行されうる。このとき、多数の設計1~Nについてのパラメータで表現された入力変数18の任意の可能な組合せについて、鋳造プロセスの数値モデル3が使用される。
【0090】
実施例によっては、これは、パラメータで表現された入力変数18の全ての可能な組み合わせについて鋳造プロセスのシミュレーション2を実行することにより、完全な要因評価を実行することを含む。
【0091】
実施形態によっては、本方法は、仮想実験計画法の統計的手法(Reduced Factorial又はSobolのような手法を使用する)により、シミュレートされるバリアントの数を削減する。その結果、パラメータで表現された入力変数18の数を削減し、減った数のパラメータ入力変数18及び固定入力変数12のセットで鋳造プロセスのシミュレーション2を実行する。
【0092】
次に、鋳物の各部分の局所的な微細構造に基づく機械的特性8の変動及びその確率分布を、局所的な微細構造6の変動の関数として計算することができる。また、局所的な欠陥21の変動のリストに基づいて、局所的な損傷因子9の変動及びその確率分布も計算することができる。これらの計算には、確率分布を計算するためのプロセスばらつきパラメータ40が使用される。
【0093】
初期出力は、局所的な機械的特性のばらつきに関する情報である。この情報は、局所的な機械的特性の確率分布のばらつき確率分布のばらつき20、及び、プロセス又は設計の変動の関数としての欠陥のばらつき21の形を有する。局所的な機械的特性の確率分布のばらつき20は、局所微細構造に基づく機械的特性8の確率分布のばらつきと、局所損傷因子9の確率分布のばらつきの複合関数である。変化した条件に対するいくつかの欠陥レベル、分布、及び関連する機械的特性が、組み込まれた統計ツールにより、全ての設計1からNについて自動的に分析される。
【0094】
このプロセスの中間結果は、局所的な機械的特性のばらつき20と局所的な欠陥のばらつき21におけるばらつき1~Nの関数として、鋳造される対象物の各部分の統計的強度評価22である。統計解析は、調査された設計1~Nのいずれについても、最低限の特性及びその分布に関する情報を提供する。
【0095】
本方法はまた、調査した設計1~Nのいずれについても、局所欠陥確率23又はその他の予測品質基準に関する情報を提供する。
【0096】
製造業者にとっての最終的な出力は、プロセス性能に関する情報24である。この情報24は、入力変数と期待される鋳造品質との間の相関についての定量的データを(主効果図及び相関図100の形式で)提供すると共に、定義された設計又はプロセス変動に対する、期待される機械的特性の最小値101及び分布102に関する情報を提供する。それによって、最初の実際の部品が製造される前に、選択した設計及びプロセスの決定を評価することができ、あらゆる状況下で信頼性の高い部品を製造するための統計的に証明されたロバスト性103(ロバストプロセスウィンドウの形を有する)に到達することができる。
【0097】
この結果は、安全な生産開始と立ち上げという点で、製造業者に利益をもたらす。また、利用可能な情報は、信頼できる操作条件が選択されたことの証明として、鋳造ユーザーに伝えることができる。
【0098】
上述の設計性能情報24は、図6に示すように、パラメータで表現された入力変数18のセットについてのロバストなプロセスウィンドウ103(26と27の間のグレー領域)を決定するのに役立つ。
【0099】
この図は、2つのプロセス変数の例について、仮想実験計画法(仮想DoE)の出力を説明する散布図である。各ドット/ポイントは、プロセス変数1とプロセス変数2の組み合わせの関数として、予測される機械的特性を反映している。公称動作点25は、設計性能14を決定するための固定変数12のセットを反映するものとして記述されることができる。又は、設計性能24を評価するための入力変数18のセットであって所定の散らばり(scatter)を有するパラメータで表現された入力変数18のセットについてのプロセスウィンドウの公称中心点として記述することができる。太線26は、要求仕様を満たすためのプロセス限界を示す。この線を超える設計は仕様を満たさず、この線を下回る設計は要求仕様を満たす結果を示す。調査結果の数Nに対して、灰色の線27はパレートフロンティア(Pareto frontier)、すなわち最適なロバストプロセス条件の組み合わせの限界を反映している。
【0100】
この図示された実施例において、本開示の方法は、最初のステップにおいて、ロバストプロセスウィンドウ103を決定するべく、プロセスのロバスト性のためにプロセス変動を低減することによって、入力変数12の固定セット及びパラメータで表現された入力変数18のセットによって定義されるプロセスウィンドウを調整することを含む。
【0101】
ロバストプロセスウィンドウ103が確立されると、次のステップで、パラメータで表現された入力変数18によって定義された動作点25を調整し、最適動作点25を決定することができる。
【0102】
図7は、本開示に従って鋳造される対象物の局所的な機械的特性を予測するためのコンピュータシステム28のハードウェア構成の一例を示す概略ブロック図である。
【0103】
コンピュータシステムは、該コンピュータシステムに、上述の実施形態のいずれかによる方法を遂行させる命令を実行するように構成された1つ以上のプロセッサ(CPU)32を有してもよい。
【0104】
コンピュータシステムは、CPU32によって実行されるプログラム製品の一部として、ソフトウェアベースの命令を格納するように構成されたコンピュータ読み取り可能な記憶媒体31を有してもよい。
【0105】
コンピュータシステムは、アプリケーションやプロセスのデータを(一時的に)記憶するように構成されたメモリ33を有してもよい。
【0106】
コンピュータシステムは、システムとユーザー38との間のインタラクションのための入出力インタフェース29を有してもよい。入出力インタフェース29は、ユーザー38から入力を受け取るための入力インタフェース(キーボード及び/又はマウスなど)に接続されていてもよく、又はこれらを備えてもよい。コンピュータシステムはまた、ユーザー38に情報を伝えるための出力デバイス(例えば電子ディスプレイ30など)を更に有してもよい。
【0107】
コンピュータシステムは、コンピュータネットワーク35を介して直接又は間接にリモートクライアント37などの外部装置と通信するための、通信インタフェース34を更に有してもよい。
【0108】
コンピュータシステム内の前述のハードウェア要素は、データ通信及び処理操作を処理するように構成された内部バスを介して接続されてもよい。
【0109】
コンピュータシステムは、上述のシミュレーションの入力として使用されるデータ(鋳造材料の材料特性、実験データなど)を格納するように構成されたデータベース36に更に接続されてもよい。コンピュータシステムとデータベース36との間の接続のタイプは、直接的であってもよいし、間接的であってもよい。コンピュータシステムとデータベース36は、共に同じ物理的装置に含まれ、内部バスを介して接続されてもよいし、物理的に異なる装置の一部であって、通信インタフェース34を介して直接、又はコンピュータネットワーク35を介して間接的に、接続されてもよい。
【0110】
発明の様々な捉え方や実装形態が、いくつかの実施例と共に説明されてきた。しかし、本願の明細書や図面、特許請求の範囲を検討すれば、当業者は、特許請求の範囲に記載される発明を実施するにおいて、説明された実施例に加えて多くのバリエーションが存在することを理解し、また具現化することができるであろう。特許請求の範囲に記載される「備える」「有する」「含む」との語句は、記載されていない要素やステップが存在することを排除しない。特許請求の範囲において記載される要素の数が複数であると明示されていなくとも、当該要素が複数存在することを除外しない。特許請求の範囲に記載されるいくつかの要素の機能は、単一のプロセッサやその他のユニットによって遂行されてもよい。いくつかの事項が別々の従属請求項に記載されていても、これらを組み合わせて実施することを排除するものではなく、組み合わせて実施して利益を得ることができる。コンピュータプログラムは、他のハードウェアと共に又はその一部として供給される光記憶媒体又は固体媒体などの適切な媒体に記憶又は配布されてもよいが、インターネット又は他の有線又は無線電気通信システムを介してなど、他の形態で配布されてもよい。
【0111】
特許請求の範囲で使用されている符号は発明の範囲を限定するものと解釈されてはならない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【外国語明細書】