(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169384
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用リード端子の製造方法及び蓄電デバイス用リード端子
(51)【国際特許分類】
H01G 9/00 20060101AFI20241128BHJP
H01G 9/012 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01G9/00 290D
H01G9/012 301
H01G9/012 303
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024083778
(22)【出願日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2023084886
(32)【優先日】2023-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】392017004
【氏名又は名称】湖北工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 治人
(72)【発明者】
【氏名】西宮 秀栄
(72)【発明者】
【氏名】中村 壮志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 学
(57)【要約】
【課題】 主にアルミニウム又は銅を含む線材から成る電極端子を備える蓄電デバイス用のリード端子を適切に製造する製造方法、及び、当該製造方法により製造されたリード端子を提供する。
【解決手段】 主にアルミニウム又は銅を含む線材100から成る電極端子2と、電極端子に溶接部4を介して接続されているリード線3とを備える蓄電デバイス用のリード端子の製造方法は、線材とリード線とを直線状に整列させるとともに線材のリード線側の端面100bとリード線の線材側の端面3bとの距離が所定の距離に維持された状態で線材とリード線とを保持する第1工程と、レーザー照射機400で線材のリード線側の端部100aにレーザービームを照射して端部を溶融させる第2工程と、第2工程におけるレーザービームの照射開始時点から所定時間経過後に線材とリード線の一方を他方に向かって軸方向に押し込んで溶接部を形成する第3工程を備える。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主にアルミニウム又は銅を含む線材から成る電極端子と、前記電極端子に溶接部を介して接続されているリード線とを備える蓄電デバイス用のリード端子の製造方法であって、
前記線材と前記リード線とを直線状に整列させるとともに前記線材のリード線側の端面と前記リード線の線材側の端面との距離が所定の距離に維持された状態で前記線材と前記リード線とを保持する第1工程と、
レーザー照射機で前記線材の前記リード線側の端部にレーザービームを照射して前記端部を溶融させる第2工程と、
前記第2工程における前記レーザービームの照射開始時点から所定時間経過後に前記線材と前記リード線の一方を他方に向かって軸方向に押し込んで前記溶接部を形成する第3工程と、
を備える、
リード端子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記リード線としてCP線又は主に銅を含む金属線が用いられる、
リード端子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第2工程では、前記線材の前記端部の外周面に前記レーザービームを前記軸方向と直交する方向から照射する、
リード端子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第2工程では、前記線材の前記外周面上の所定の位置に前記レーザービームを照射する、
リード端子の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主にアルミニウムを含む線材が用いられ、
前記第3工程の前記所定時間は、前記レーザービームの照射時間である、
リード端子の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主にアルミニウムを含む線材が用いられ、
前記第3工程の前記所定時間は、前記レーザービームの照射時間である、
リード端子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第2工程では、前記線材の前記端部の端面に前記レーザービームを前記軸方向と斜めに交差する方向から照射する、
リード端子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主にアルミニウムを含む線材が用いられ、
前記第3工程の前記所定時間は、前記レーザービームの照射時間である、
リード端子の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主にアルミニウムを含む線材が用いられ、
前記レーザー照射機は赤外線レーザーである、
リード端子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項4及び請求項7の何れか一項に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主に銅を含む線材が用いられ、
前記レーザー照射機は短波長レーザー又はハイブリッドレーザーである、
リード端子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記線材及び前記リード線には、前記線材に対する前記リード線の線径比が83%以上、且つ、100%以下である線材及びリード線が用いられる、
リード端子の製造方法。
【請求項12】
主にアルミニウム又は銅を含む線材から成る電極端子と、前記電極端子に溶接部を介して接続されているリード線と、を備える蓄電デバイス用のリード端子であって、
前記線材に対する前記リード線の線径比は、83%以上、且つ、100%以下である、
リード端子。
【請求項13】
請求項12に記載のリード端子であって、
前記リード線は、CP線又は主に銅を含む金属線である、
リード端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用のリード端子の製造方法及び蓄電デバイス用リード端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、蓄電デバイス用のリード端子が知られている。蓄電デバイス用のリード端子は、何れも金属製の電極端子とリード線とを備える。リード線は、溶接部を介して電極端子に接続されている。例えば、電解コンデンサ(蓄電デバイスの一種)用のリード端子では、電極端子はコンデンサ素子(電解コンデンサの構成要素)を形成する電極箔に接続され、リード線は電気回路に接続される。
【0003】
代表的なリード端子として、アルミニウム製又は銅製の電極端子を備えるリード端子が知られている。このようなリード端子の溶接部は、これまでパーカッションアーク溶接により形成されることが一般的であった(例えば、特許文献1参照)。これは、その他の溶接方法、例えば、ろう付け(ろう接の一種)により当該溶接部を形成する場合は異物が混入するおそれがあり、抵抗溶接(圧接の一種)により当該溶接部を形成する場合は被溶接材の溶融速度が比較的に遅いといった欠点があったため、当時検討されていた溶接方法の中ではパーカッションアーク溶接が最も高い歩留まりを実現できたからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、パーカッションアーク溶接による溶接方法は最善とは言えず、アルミニウム製又は銅製の電極端子を備えるリード端子の製造方法及び当該製造方法により製造されるリード端子には改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、主にアルミニウム又は銅を含む線材から成る電極端子を備える蓄電デバイス用のリード端子を適切に製造する製造方法、及び、当該製造方法により製造されたリード端子を提供することにある。
【0007】
本発明のリード端子の製造方法は、主にアルミニウム又は銅を含む線材(100)から成る電極端子(2)と、前記電極端子に溶接部(4)を介して接続されているリード線(3)とを備える蓄電デバイス用のリード端子の製造方法である。
当該リード端子の製造方法は、
前記線材(100)と前記リード線(3)とを直線状に整列させるとともに前記線材のリード線側の端面(100b)と前記リード線の線材側の端面(3b)との距離が所定の距離に維持された状態で前記線材と前記リード線とを保持する第1工程と、
レーザー照射機(400)で前記線材(100)の前記リード線側の端部(100a)にレーザービームを照射して前記端部を溶融させる第2工程と、
前記第2工程における前記レーザービームの照射開始時点から所定時間経過後に前記線材(100)と前記リード線(3)の一方を他方に向かって軸方向に押し込んで前記溶接部(4)を形成する第3工程と、
を備える。
【0008】
また、本発明のリード端子(101)は、
主にアルミニウム又は銅を含む線材から成る電極端子(102)と、前記電極端子に溶接部(104)を介して接続されているリード線(103)と、を備える蓄電デバイス用のリード端子である。
当該リード端子では、
前記線材の径に対する前記リード線の径の比は、83%以上、且つ、100%以下である。
【0009】
本発明によれば、主にアルミニウム又は銅を含む線材から成る電極端子を備える蓄電デバイス用のリード端子を適切に製造する製造方法、及び、当該製造方法により製造されたリード端子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る蓄電デバイス用リード端子の製造方法により製造されるリード端子を示す斜視図である。
【
図2A】
図1のリード端子の製造方法を説明するための図(その1)である。
【
図2B】
図1のリード端子の製造方法を説明するための図(その2)である。
【
図2C】
図1のリード端子の製造方法を説明するための図(その3)である。
【
図2D】
図1のリード端子の製造方法を説明するための図(その4)である。
【
図3】溶接部に形成される打痕について説明するための図である。
【
図4】変形例1に係る蓄電デバイス用リード端子の製造方法を説明するための図である。
【
図5A】パーカッションアーク溶接を用いて製造された不良品のリード端子の部分拡大図である。
【
図5B】パーカッションアーク溶接を用いて製造された別の不良品のリード端子の部分拡大図である。
【
図5C】パーカッションアーク溶接を用いて製造された更に別の不良品のリード端子の部分拡大図である。
【
図6】変形例3に係る蓄電デバイス用リード端子の製造方法により製造されるリード端子を示す斜視図である。
【
図7A】線径比が83%であるリード端子の部分拡大図である。
【
図7C】線径比が83%であるサンプルSの断面におけるEPMA画像の模式図である。
【
図8A】パーカッションアーク溶接を用いて製造された線径比が83%であるリード端子の部分拡大図である。
【
図8C】線径比が83%であるサンプルScの断面におけるEPMA画像の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態に係る蓄電デバイス用のリード端子の製造方法について、蓄電デバイスの一種である電解コンデンサ用のリード端子を例に挙げて説明する。まず、リード端子の構成について説明する。
図1に示すように、リード端子1は、アルミニウム製の電極端子2と、CP線から成るリード線3とを備える。
【0012】
電極端子2は、主にアルミニウムを含む線材(以下、単に「アルミニウム線」と称する。)の軸方向における一部を径方向にプレス加工することにより形成され、一端側に棒状部21を有するとともに他端側に圧延部22を有している。棒状部21は、プレス加工されずに残存している部分(即ち、アルミニウム線の軸方向における他部)である。圧延部22は、アルミニウム線の上記一部を平板状にプレス加工するとともに、その外周を厚み方向に沿って切断することにより形成される。圧延部22の軸線(幅方向及び厚み方向における中心を通る線)は、棒状部21の軸線と同軸である。但し、圧延部22が棒状部21に対して偏心している構成が採用されてもよい。このアルミニウム線には予め周知の陽極酸化処理が施されており、その外周面には酸化被膜が形成されている。アルミニウム線の直径は約2mmである。なお、電極端子2は、陽極酸化処理が施されていないアルミニウム線を用いて形成されてもよい。
【0013】
リード線3は、棒状部21の一端に溶接部4を介して接続されている。リード線3の直径は約0.8mmであり、棒状部21よりも小径である。リード線3の軸線は、棒状部21の軸線と同軸である。本実施形態では、リード線3を構成するCP線として、鉄線の外周面が銅めっき層で被覆され、当該銅めっき層が更にスズめっき層で被覆された金属線が用いられる。銅めっき層及びスズめっき層の厚みは何れも数十μmのオーダーである。但し、スズめっき層に代えて、ニッケルめっき層、銀めっき層又は鉛フリーはんだめっき層で被覆されたCP線が用いられてもよい。あるいは、リード線3を構成するCP線として、鉄線の外周面が銅めっき層のみにより被覆された金属線が用いられてもよい。
【0014】
次に、
図2A乃至
図2Dを参照してリード端子1の製造方法について説明する。まず、電極端子2の材料である長尺のアルミニウム線(厳密には、陽極酸化処理が施されたアルミニウム線)を所定の長さに切断して線材100を形成する。また、リード線3の材料である長尺のCP線を所定の長さに切断してリード線3を形成する。
【0015】
続いて、
図2Aに示すように、線材100を治具200に保持させ、リード線3を治具300に保持させて、線材100とリード線3とを両者の軸線が同軸となるように直線状に整列させるとともに、線材100の一方の端部100aの端面100bと、リード線3の他方の端部3aの端面3bとの距離が所定の距離(本実施形態では、2mm)に維持された状態にする(第1工程)。
【0016】
次に、線材100の軸線と直交する方向(以下、単に「直交方向」とも称する。)から、線材100の端部100aの所定の位置Pに、レーザー照射機400によりレーザービームを照射する。位置Pは、端部100aの外周面100c上において、その端面100bから所定の距離L(本実施形態では、0.10mm)だけ離間した位置に位置している。線材100をレーザービームの照射方向から平面視すると、位置Pは、線材100の径方向中央に位置している。即ち、レーザービームは、線材100の軸線に向かって照射される。照射機400は、700Wの出力を有するシングルモードの赤外線レーザー(IRレーザー)である。レーザービームは、30μmのスポット径で0.030s間照射される。照射機400により線材100の位置Pにレーザービームが照射されることにより、
図2Bに示すように、端部100aが全体に亘って溶融して溶融池Aが形成される(第2工程)。なお、距離Lは、照射機400の出力、スポット径及び照射時間等に応じて適宜変更されてもよい。
【0017】
治具300には、図示しない押し込み機構が設けられている。押し込み機構は、所定の方向に外力を付与可能に構成されている。本実施形態では、押し込み機構は、照射機400によるレーザービームの照射が終了した直後(別言すれば、レーザービームの照射開始時点から照射時間経過後)にリード線3を線材100に向かって軸方向に押し込む外力をリード線3に付与する。この外力は、リード線3が所定の速度(本実施形態では、200mm/s)で所定の距離だけ移動するように付与される。これにより、
図2Cに示すように、リード線3の端部3aが線材100の溶融池Aに押し込まれる。すると、溶融池Aの一部がリード線3の端部3aの外周面3cを覆うように濡れ広がっていく。その後、溶融池A(端部3aが部分的に溶融している場合は、溶融池A及び端部3aの溶融部分)が凝固すると、
図2Dに示すように、線材100とリード線3との間に円錐状(厳密には、線材100からリード線3に向かって縮径する略円錐台状)の溶接部4が形成されて線材100とリード線3とが接続される(第3工程)。
【0018】
その後、線材100の他端側をプレス加工して、
図1に示される圧延部22を形成し、必要に応じて周知の陽極酸化処理及び樹脂コーティング処理を施す。これにより、リード端子1が製造される。なお、強度試験の結果、レーザー溶接により製造されたリード端子1の強度は、パーカッションアーク溶接により製造されたリード端子の強度と同等であることが確認された。
【0019】
本実施形態に係るリード端子の製造方法によれば、従来のパーカッションアーク溶接(以下、単に「アーク溶接」とも称する。)を用いた製造方法と比較して、リード端子をより適切に製造することが可能となる。以下、具体的に説明する。従来のアーク溶接による溶接方法には次に述べる複数の問題があった。1つ目の問題は、溶接部形状の再現性の低さである。即ち、アーク溶接では、アーク発生時の環境条件(シールドガスの種類及び流量、線材及びリード線の各端面の形状及び状態)によってワーク毎に入熱量に差が発生し易くなり、その結果、リード端子の形状にばらつきが生じ易いという問題があった。
図5A乃至
図5Cは、アーク溶接を用いて製造されたリード端子11の不良品の部分拡大図である。リード端子11は、アルミニウム製の電極端子12と、電極端子12に溶接部14を介して接続されているCP線から成るリード線13とを備える。
図5Aでは、溶接部14の一部14aがリード線13の外周面を覆っている一方で溶接部14の他部は当該外周面を覆っておらず、溶接部14がいびつな形状となっている(いわゆる片盛り)。
図5Bでは、溶接部14から肉眼で視認できる程度の大きさを有する突起(いわゆる溶接とげ)14bが発生している。
図5Cでは、溶接部14の周方向における一部14cが径方向に張り出すことにより溶接部14の径が局所的に増大している(いわゆるはみ出し)。
図5A乃至
図5Cのリード端子11に例示される溶接部形状の再現性の低さは、歩留まりの向上を阻む要因となっていた。
【0020】
2つ目の問題は、ワーク(特に、電極端子)に異種金属が付着してしまうことである。即ち、アーク溶接ではアーク放電により線材とリード線との間にアークが発生して双方の先端部がそれぞれ溶融することにより、線材及びリード線の双方からスパッタが発生する。リード線が例えば銅めっき層及びスズめっき層で被覆されたCP線である場合、リード線から発生するスパッタは銅及びスズを含む。このため、リード線から発生した銅及びスズを含むスパッタがアルミニウム製の線材に付着すると、ワーク(厳密には、製品完成後に電極端子となる部分)に異種金属が付着することになる。電極端子に異種金属が付着したリード端子を用いてコンデンサ素子(電解コンデンサの構成要素)を製造すると、当該異種金属がコンデンサ素子内部の電解液と反応することがあり、その場合、品質特性が低下する可能性がある。この問題は、リード線がアルミニウム以外の材料を含んでいる限り避けることができない。ワークへの異種金属の付着は、歩留まりの向上を阻む別の要因となっていた。
【0021】
3つ目の問題は、ワークの製造速度の改善に限界があることである。即ち、アーク溶接では線材とリード線とを一旦接触させてから離間させることによりアークを発生させ、線材及びリード線の先端部がそれぞれ溶融してから再度両者を接触させる(厳密には、一方を他方に押し込む)ため、1つのワークに対し複数回の往復運動が必要となり、製造工程が複雑化している。また、このような一連の往復運動を実現可能なアクチュエータの性能には限界があるため、アクチュエータを高速で制御することが難しい。これらの問題は、ワークの製造速度アップを阻む要因となっていた。
【0022】
これに対し、本実施形態では溶接方法としてレーザー溶接を採用している。このため、溶接部4の形状を比較的に容易に制御することができる(別言すれば、レーザービーム照射時の環境条件が一旦決定されたら、その後の調整は基本的に不要となる)。その結果、溶接部形状の再現性を格段に向上させることができる。また、レーザー溶接ではレーザービームが照射されるのは線材100のみであるため、レーザー溶接により線材100からスパッタが発生したとしても、電極端子2に異種金属が付着するという事態は発生し得ない(線材100から発生したスパッタがリード線3に付着することは特に問題視されていない。)。加えて、レーザー溶接では線材100の溶融池Aにリード線3の端部3aが押し込まれることにより溶接部4が形成されるため、1つのワークに対しリード線3が一方向に1回移動するだけで溶接処理を実施でき、製造工程を簡素化できる。また、このような単純な移動を実現するアクチュエータは容易に入手可能であるため、高速で作動するアクチュエータを導入することによりアクチュエータの作動に要する時間を大幅に短縮できる。以上より、溶接方法としてレーザー溶接を採用することにより、アーク溶接に係る上記3つの問題を解決でき、リード端子1の歩留まり及び製造速度を向上させることができる。
【0023】
ここで、溶接方法としてレーザー溶接を用いる場合であっても、以下の製造方法、即ち、「線材100の端面100bとリード線3の端面3bとを突き合せた(接触させた)状態でレーザービームを線材100に照射しながら線材100とリード線3の一方を他方に向かって軸方向に押し込む製造方法M」では、溶接部4を適切に形成できない場合がある。
図3を参照して具体的に説明する。
図3は、製造方法Mにより溶接部4を形成したときのリード端子1の部分拡大図を示す。この例では、レーザービームは、直交方向から照射されている。
図3に示すように、溶接部4にはクレーター状の打痕dが形成されている。打痕dは、レーザービームが線材100の外周面100c上の一カ所に照射され続けることに起因して形成される窪みである。打痕dが形成されている部分の溶接部4の高さhdは、打痕dが形成されていない部分の溶接部4の高さhよりも大きく、その比率(hd/h)は約1.5~2倍になる傾向があることが分かった。このような打痕dが形成された溶接部4は溶接部4の一般的な規格から大きく逸脱するため、歩留まりの向上を阻む要因となる。また、溶接部4に打痕dを有するリード端子1を用いて電解コンデンサを製造すると、樹脂製の封口体とリード端子1との間に隙間が生じて当該隙間から電解液(コンデンサ素子が保持している電解液)が漏出することがあり、その場合、電解コンデンサの品質特性が低下する可能性がある。
【0024】
そこで、本実施形態では、線材100の端面100bとリード線3の端面3bとの距離を所定の距離に維持した状態でレーザービームの照射を開始し、照射開始時点から所定時間Tの経過後に線材100とリード線3の一方を他方に向かって軸方向に押し込むように構成されている。この構成によれば、溶接部4に打痕dが発生し難くなり、結果として、リード端子1の歩留まりを向上させるとともに電解コンデンサの品質特性の低下を抑制できる。
【0025】
以上より、本実施形態に係るリード端子の製造方法によれば、主にアルミニウムを含む線材から成る電極端子を備えるリード端子を適切に製造することが可能となる。なお、リード端子1は、電解コンデンサに限らず、他の蓄電デバイスの構成要素として用いられてもよい。他の蓄電デバイスは、例えば、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ(EDLC:Electric Double Layer Capacitor)、又は、リチウムイオン電池を含む。リード端子1が他の蓄電デバイスの構成要素として用いられる場合であっても、同様の効果を奏する。
【0026】
本願発明者らは、所定時間T(レーザービームの照射開始時点から、リード線3を線材100に向かって押し込むまでの時間)を変更しながら打痕dの発生率を検証した。その結果、レーザービームを直交方向から照射する場合、0<T<照射時間のときは、T=0のときと比較して打痕dの発生率を低減できるものの、T=照射時間のときよりも打痕dの発生率が高いことが分かった。また、T>照射時間のときは打痕dの発生率はT=照射時間のときと同程度に抑制できたものの、リード線3を線材100に向かって押し込むタイミングが遅れる分だけ溶融池Aの温度が低下するため、線材100とリード線3とを適切に接続できない(即ち、リード端子1の強度が低下する)可能性があることが分かった。そこで、本実施形態では、レーザービームを直交方向から照射する場合において、レーザービームの照射終了直後にリード線3を線材100に向かって押し込むようにしている(即ち、所定時間T=照射時間)。この構成によれば、リード端子1の強度を担保しながら溶接部4における打痕dの発生率をより低減することができる。
【0027】
なお、レーザービームを直交方向から照射する場合、照射機400の位置調整は、その照射口の軸線を線材100の軸線と直交させることにより行われる。このため、レーザービームを線材100の軸線と斜めに交差するように照射する構成と比較して照射機400の位置調整を容易に行うことができる。
【0028】
更に、本実施形態では、照射機400に赤外線レーザーを使用している。このため、照射機400に短波長レーザー(典型的には、ブルーレーザー又はグリーンレーザー)を用いる場合と比較してリード端子1の製造設備に掛かるコストを低減できる。但し、アルミニウムの吸収率は赤外線及び可視光線の全波長帯域で同等であるため、製造コスト以外の観点では、短波長レーザーを用いた場合であっても本実施形態と同様の作用効果を奏することができる。なお、レーザーの方式(例えば、ファイバーレーザー又は半導体レーザー)は特に限定されない。
【0029】
レーザービームは、線材100の位置Pに限られず、端部100aの外周面100cにおける所定の範囲に例えば線状又は楕円状に照射されてもよい。また、レーザービームの照射中は、線材100が軸線周りに所定の速度で回転されてもよい。
【0030】
(変形例1)
次に、本発明の変形例1に係る蓄電デバイス用のリード端子の製造方法について
図4を参照して説明する。実施形態と同一の構成部材には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。これは、その他の変形例についても同様である。
図4に示すように、変形例1の製造方法は、レーザービームの照射方向が線材100の軸線に対して斜めである点で実施形態の製造方法と相違している。具体的には、本変形例では、照射機400は、線材100の軸線と45°で交差する方向から、線材100の端面100bの中心Cにレーザービームを照射する。押し込み機構は、レーザービームの照射終了直後にリード線3を線材100に向かって軸方向に押し込む外力をリード線3に付与する(即ち、所定時間T=照射時間)。スポット径及び照射時間は、実施形態と同じでもよいし異なっていてもよい。
【0031】
この構成によっても、実施形態と同様の作用効果を奏することができる。特に、本変形例では、レーザービームは線材100の外周面100cではなく端面100b(即ち、溶融池Aの内部となる部分)に照射される。このため、溶接部4に打痕dが形成されることがなくなり、リード端子1の歩留まりをより好適に向上させることができるとともに、蓄電デバイスの品質特性の低下をより一層抑制できる。
【0032】
なお、レーザービームが線材100の端面100bに照射される限り、レーザービームの照射方向は線材100の軸線と45°で交差する方向に限られない。また、レーザービームの照射位置は端面100bの中心Cから偏心していてもよいし、端面100bにおける所定の範囲に例えば線状又は円状に照射されてもよい。更に、本変形例では溶接部4に打痕dが形成されることがないため、リード線3が線材100に向かって押し込まれるタイミングは、レーザービームの照射が終了する時点より早くてもよい(典型的には、照射終了時点より数十msだけ早くてもよい。)。即ち、所定時間Tは、0<T≦照射時間を満たす任意の値に設定され得る。
【0033】
(変形例2)
続いて、本発明の変形例2に係る蓄電デバイス用のリード端子の製造方法について説明する。変形例2の製造方法では、電極端子2を構成する線材100としてアルミニウム線の代わりに主に銅を含む線材を用いている点、及び、照射機400として赤外線レーザーに代えて短波長レーザーを用いている点で実施形態及び変形例1の製造方法と相違している。
【0034】
この線材100には予め周知の陽極酸化処理が施されており、その外周面には酸化被膜が形成されている。線材100の径及び電極端子2を形成する方法は実施形態と同様である。なお、電極端子2は、陽極酸化処理が施されていない線材を用いて形成されてもよい。
【0035】
リード端子1は、基本的には、実施形態又は変形例1で述べた製造方法で製造され得る。但し、第2工程では、照射機400として短波長レーザーが用いられる。短波長レーザーは、2kWの出力を有するマルチモードのブルーレーザーである。レーザービームは、600μmのスポット径で70μs間照射される。ブルーレーザーにより線材100の位置Pにレーザービームが照射されることにより、実施形態と同様に、端部100aが全体に亘って溶融して溶融池Aが形成される。なお、短波長レーザーとして、ブルーレーザーに代えてグリーンレーザーが用いられてもよい。この場合、スポット径及び照射時間はグリーンレーザーの出力に応じて適宜調整され得る。
【0036】
ここで、線材100として主に銅を含む線材を用いる場合、所定時間T(レーザービームの照射開始時点から、リード線3を線材100に向かって押し込むまでの時間)が0<T<照射時間であっても打痕dは発生しない。このため、本変形例では、所定時間Tは必ずしもT=照射時間を満たす必要は無い。所定時間Tは、線材100に対するリード線3の線径比、短波長レーザーの出力、スポット径及び照射時間等に基づいて適宜設定され得る。
【0037】
以上より、変形例2に係る蓄電デバイス用のリード端子の製造方法によれば、実施形態で述べたアーク溶接に係る3つの問題を解決でき、リード端子1の歩留まり及び製造速度を向上させることができる。即ち、主に銅を含む線材から成る電極端子を備えるリード端子1を適切に製造することが可能となる。
【0038】
また、実施形態と同様の製造方法でリード端子1を製造する場合は、レーザービームを線材100の軸線と斜めに交差するように照射する構成と比較して短波長レーザーの位置調整を容易に行うことができる。
【0039】
更に、一般に、レーザービームの金属に対する吸収率は、レーザービームの波長及び金属の種類によって変化するが、銅に対する吸収率は、短波長レーザーのレーザービームのほうが、赤外線レーザーのレーザービームに比べて格段に高い。このため、線材100が主に銅を含む線材である場合には短波長レーザーを用いることにより、線材100の端部100aを適切に溶融することができる。
【0040】
(変形例3)
次いで、本発明の変形例3に係る蓄電デバイス用リード端子及びその製造方法について、電解コンデンサ用のリード端子を例に挙げて
図6乃至
図8Cを参照して説明する。変形例3のリード端子は、線材に対するリード線の線径比(後述)が比較的に大きい点で、実施形態、変形例1及び2のリード端子1と相違している。
【0041】
図6に示すように、本変形例に係るリード端子101は、アルミニウム製の電極端子102とCP線から成るリード線103とを備える。電極端子102は、一端側に棒状部121を有するとともに他端側に圧延部122を有している。リード線103は、棒状部121の一端に溶接部104を介して接続されている。線材(アルミニウム線)の直径(即ち、棒状部121の直径)は、例えば1.2mmであり、リード線103の直径は、例えば1.0mmである。以下では、線材の直径(即ち、棒状部の直径)に対するリード線の直径の比率を「線材に対するリード線の線径比」又は「リード端子の線経比」と称する。線径比は小数点以下を四捨五入することにより整数値として算出される。線径比の上限値は100%である。上記の例では、リード端子101の線径比は1.0/1.2=83%であり、実施形態、変形例1及び2に係るリード端子1の線径比である40%(=0.8/2)よりも大きい。本変形例に係るリード端子は、線径比が83%以上、且つ、100%以下の範囲内であることを特徴としている。即ち、リード端子101の線径比がこの範囲内である限り、線材及びリード線103の直径は上記の値に限られない。
【0042】
リード端子101は、実施形態の第1工程において、線径比が83%以上、且つ、100%以下である線材及びリード線103を用いることにより製造され得る。また、リード端子1は、変形例1の製造方法によっても製造され得る。
【0043】
図7Aは、リード端子101の溶接部104及びその近傍を示す図である。棒状部121の直径は1.2mmであり、リード線103の直径は1.0mmである。
図7Bは、
図7AのX線画像の模式図である。
図7Cは、サンプルSの軸線を含む断面におけるEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)画像の模式図である。サンプルSは、リード端子101と同じ寸法の材料を用いてレーザー溶接(厳密には、実施形態に係る製造方法)により製造されている。一方、
図8Aは、アーク溶接により製造された比較例としてのリード端子111の溶接部114及びその近傍を示す図である。棒状部131の直径は1.2mmであり、リード線113の直径は1.0mmである。
図8Bは、
図8AのX線画像の模式図である。
図8Cは、サンプルScの軸線を含む断面におけるEPMA画像の模式図である。サンプルScは、リード端子111と同じ寸法の材料を用いてアーク溶接により製造されている。
【0044】
図7Aと
図8Aとを比較すると、
図7Aでは、リード端子101の溶接部104の表面は比較的に滑らかであるのに対し、
図8Aでは、リード端子111の溶接部114の表面には多数の凹凸が形成されている。また、溶接部104は部分的に僅かに膨らみを有しているものの、その形状は軸線周りにほぼ対称となっている。これに対し、溶接部114は径方向に大幅にはみ出しており、その形状は軸線周りに非対称となっている。一般に、溶接部の形状が軸線周りに非対称であるリード端子を用いて電解コンデンサを製造すると、封口体とリード端子との間に隙間が生じて当該隙間から電解液が漏出することがあり、その場合、電解コンデンサの品質特性が低下する可能性がある。
【0045】
そこで、本変形例では、溶接部の最大径dmに上限値dmuを設け、dm<dmuを満たすリード端子のみを良品としている。上限値dmuは電解液の漏出を十分に抑制できる程度の値であり、例えば、「線材の直径+0.100mm」に設定され得る(dmu=線材の直径+0.100mm)。
図7A及び
図8Aの例では、溶接部104の最大径dmは上限値dmu未満であるのに対し、溶接部114の最大径dmは上限値dmuを大きく上回っている。このため、線径比が83%のリード端子を用いて電解コンデンサを製造する場合、レーザー溶接では電解液の漏出を適切に抑制できるが、アーク溶接では電解液の漏出に起因して電解コンデンサの品質特性低下を招く可能性がある。
【0046】
リード端子101がリード端子111に比べて溶接部の形状を整えられるのは、溶接方法の違いによるものであると考えられる。即ち、レーザー溶接では、照射時の環境条件を線径比に見合った条件に予め設定しておくことにより、線径比がいかなる値であっても溶接部104の形状を適切に制御することができる。これに対し、アーク溶接では線径比が大きくなるにつれて(別言すれば、線材とリード線113との線径差が小さくなるにつれて)CP線から成るリード線113が溶融し難くなる。このため、十分に溶融していないリード線113の先端が、線材の端部に形成された溶融池に勢いよく挿入されることにより、溶融池がリード線113の先端の少量の溶融金属と混ざり合いながら径方向に押し出され、結果として溶接部114が径方向に大幅にはみ出した形状になってしまうと考えられる。
【0047】
また、電解コンデンサの品質特性を低下させる別の要因として、リード端子の溶接部の折り曲げ強度が挙げられる。折り曲げ強度とは、溶接部の強度を表す指標であり、リード線を線材に対して一方に90°折り曲げて戻してから他方(一方とは反対側の方向)に90°折り曲げて戻す動作を1サイクルとした場合においてリード線が破断するまでのサイクル数nで表す。例えば、リード線が2サイクルで破断した場合、n=2である。サイクル数nが多いほど、溶接部の強度が高い。なお、リード線を線材に対して一方に90°折り曲げて戻した際にリード線が破断した場合、サイクル数nは、「それまでのサイクル数+0.5」と規定される。折り曲げ強度が低いリード端子を用いて電解コンデンサを製造すると、使用中の振動又は軽度の衝撃に起因してリード端子が破断することがあり、その場合、電解コンデンサの品質特性が低下する可能性がある。
【0048】
そこで、本変形例では、サイクル数nに下限値nlを設け、n≧nlを満たすリード端子のみを良品としている。下限値nlは振動又は軽度の衝撃に起因するリード端子の破断を十分に抑制できる程度の値であり、本変形例の寸法規格では、例えば1.0サイクルに設定され得る。リード端子101及び111に対して折り曲げ強度試験を行った結果、リード端子101のサイクル数nは1.5サイクルであり、n≧nlを満たしていたのに対し、リード端子111のサイクル数nは0.5サイクルであり、n<nlであった。このため、線径比が83%のリード端子を用いて電解コンデンサを製造する場合、レーザー溶接ではリード端子の破断を適切に抑制できるが、アーク溶接ではリード端子の破断に起因して電解コンデンサの品質特性低下を招く可能性がある。
【0049】
リード端子101がリード端子111に比べて折り曲げ強度が高いのは、溶接部104と溶接部114との組成の違いによるものであると考えられる。以下、
図7B、
図7C、
図8B及び
図8Cを参照して説明する。
図7Bでは、部分p1が棒状部121に相当し、部分p2と部分p3の上端部とが溶接部104に相当し、部分p3の残部がリード線103に相当する。溶接部104の大部分は部分p2が占めている。部分p1乃至p3の色の濃淡は、X線の透過量に起因するものである。部分p1は線材の主成分(アルミニウム)に由来する色を示しており、部分p3はリード線103の主成分(鉄)に由来する色を示している。部分p2は両者の中間の色を示しているため、部分p2ではアルミニウムと鉄(厳密には、鉄に加え、微量の銅及びスズ)が溶融して凝固していると考えられる。
【0050】
このことは、
図7Cによっても裏付けられる。即ち、
図7Cでは、部分p4が棒状部121に相当し、部分p5と部分p6の上端部とが溶接部104に相当し、部分p6の残部がリード線103に相当する。溶接部104の大部分は部分p5が占めている。部分p4乃至p6の色の濃淡は、元素の種類及び濃度に起因するものである。部分p4は線材の主成分(アルミニウム)に由来する色を示しており、部分p6はリード線103の主成分(鉄)に由来する色を示している。部分p5は、部分p2と同様に、両者の中間の色を示している。以上より、溶接部104では、その大部分がアルミニウムと鉄(厳密には、鉄に加え、微量の銅及びスズ)が溶融して混ざり合った後に凝固した組成を有していることが分かる。以下では、このような組成を「混合組成」と称する。
【0051】
一方、
図8Bでは、部分p11のうち下端部を除く部分が棒状部131に相当し、部分p11の下端部と部分p12と部分p13の上端部(別言すれば、部分p13のうち部分p11及びp12に覆われている部分)とが溶接部114に相当し、部分p13の残部がリード線113に相当する。溶接部114の大部分は部分p13が占めている。部分p11は線材の主成分(アルミニウム)に由来する色を示しており、部分p13はリード線103の主成分(鉄)に由来する色を示している。部分p12は両者の中間の色を示しているため、部分p12ではアルミニウムと鉄(厳密には、鉄に加え、微量の銅及びスズ)が溶融して凝固していると考えられる。
【0052】
このことは、
図8Cによっても裏付けられる。即ち、
図8Cでは、部分p14のうち下端部を除く部分が棒状部131に相当し、部分p14の下端部と部分p15と部分p16の上端部(別言すれば、部分p16のうち部分p14及びp15に覆われている部分)とが溶接部114に相当し、部分p16の残部がリード線113に相当する。溶接部114の大部分は部分p16が占めている。部分p14は線材の主成分(アルミニウム)に由来する色を示しており、部分p16はリード線113の主成分(鉄)に由来する色を示している。部分p15は、部分p12と同様に、両者の中間の色を示している。以上より、溶接部114では、その大部分が鉄組成を有しており、且つ、溶接部114内には、部分p13とp11との間(又は、部分p16とp14との間)において異種金属(鉄とアルミニウム)同士の境界が形成されていることが分かる。加えて、混合組成は、溶接部114内の外周部分にしか形成されていないことが分かる。
【0053】
このように、溶接部104ではその大部分がアルミニウムと鉄の混合組成を有する。このため、リード端子101に対して曲げ荷重を加えると、溶接部104が緩衝材の役割を果たすことにより溶接部104に応力が集中し難くなり、結果として折り曲げ強度が高くなると考えられる。これに対し、溶接部114では、その大部分が鉄組成を有しており、且つ、溶接部114内には、異種金属(鉄とアルミニウム)同士の境界が形成されている。このため、リード端子111に対して曲げ荷重を加えると、鉄とアルミニウムとの物性(典型的には、硬さ及び曲げ易さ)の違いにより溶接部114に応力が集中する。特に、
図8A乃至8Cの例では線径比が比較的に大きい(別言すれば、線材とリード線113との線径差が小さい)ため、鉄とアルミニウムとの境界の面積が増加し、その分だけ大きな応力が集中する。その結果、折り曲げ強度が低くなると考えられる。
【0054】
本願発明者らは、線径比の観点におけるアーク溶接に対するレーザー溶接の優位性を検証するために、線径比の異なる7個のリード端子のサンプル(サンプル1乃至7)をレーザー溶接及びアーク溶接によりそれぞれ製造し、その品質を調査する試験を行った。以下の表1は、線材がアルミニウム線であり、リード線がCP線であるリード端子のサンプル1乃至7の試験結果を示す。
【表1】
【0055】
この試験では、溶接部の最大径dmがdm<dmuを満たし、且つ、折り曲げ強度試験のサイクル数nがn≧nlを満たす場合にリード端子の品質が良好(○)であると評価し、dm≧dmu、又は、n<nlである場合にリード端子の品質が不良(×)であると評価した。上限値dmuは、線径比に関わらず「線材の直径+0.100mm」である。一方、下限値nlは、リード端子の寸法規格毎に所定の値に設定されている。例えば、線径比が33%の場合はnl=1.5、線径比が40%の場合はnl=2.0、線径比が53%の場合はnl=2.0、線径比が57%の場合はnl=1.5、線径比が67%の場合はnl=1.0、線径比が83%の場合はnl=1.0、線径比が100%の場合はnl=1.0にそれぞれ設定され得る。なお、リード端子の寸法規格に応じて異なる種類のCP線(例えば、銅めっき層の厚みが異なるCP線)が用いられてもよい。
【0056】
レーザー溶接では、全てのサンプル1乃至7について品質が良好である。これに対し、アーク溶接では、サンプル1乃至5については品質が良好であるものの、サンプル6及び7については品質が不良である。
【0057】
全てのサンプル1乃至7についてレーザー溶接によるリード端子の品質が良好であるのは、以下の2つの理由によると考えられる。即ち、1つ目の理由は、レーザー溶接では照射時の環境条件を線径比に見合った条件に予め設定しておくことにより、線径比がいかなる値であっても溶接部の形状を適切に制御できるからである。2つ目の理由は、レーザー溶接では溶接部の大部分が混合組成であるため、溶接部に応力が集中し難くなり、高い折り曲げ強度を実現できるからである。
【0058】
これに対し、サンプル6及び7についてアーク溶接によるリード端子の品質が不良であるのは、以下の2つの理由によると考えられる。即ち、1つ目の理由は、アーク溶接では線径比が大きくなるにつれてCP線から成るリード線が溶融し難くなるため、線径比が83%以上のリード端子においては、十分に溶融していないリード線の先端が、線材の端部に形成された溶融池に勢いよく挿入されることにより、溶接部が径方向に大幅にはみ出した形状となるからである。2つ目の理由は、アーク溶接では溶接部の大部分が鉄組成を有しており、且つ、線径比が83%以上のリード端子においては、溶接部内の異種金属(鉄とアルミニウム)同士の境界の面積が増加するため、リード端子に対して曲げ荷重を加えると溶接部に大きな応力が集中し易くなり、リード端子の折り曲げ強度が低下するからである。
【0059】
なお、サンプル1乃至5についてアーク溶接によるリード端子の品質が良好であるのは、以下の2つの理由によると考えられる。即ち、1つ目の理由は、線径比が67%以下のリード端子においては、アーク溶接であってもCP線から成るリード線が十分に溶融するため、リード線の先端が線材の端部に形成された溶融池に勢いよく挿入されても溶接部が径方向に大幅にはみ出す事態が発生し難くなるからである。2つ目の理由は、線径比が67%以下のリード端子においては、溶接部内の異種金属同士の境界の面積が比較的に小さいため、リード端子に対して曲げ荷重を加えても溶接部にそれほど応力が集中しないからである。
【0060】
表1によれば、レーザー溶接に係るリード端子は、いかなる値の線径比であってもその品質を担保できる。しかしながら、本変形例では、線径比が83%以上、且つ、100%以下のリード端子を発明の対象としている。これは、近年の自動車産業及びコンピュータ産業等の進展に伴い電解コンデンサの用途は今後益々多岐に亘ることが予想され、これにより、様々な寸法規格を有するリード端子の1つとして、線径比が比較的に大きいリード端子の開発が求められているからである。従来のリード端子はアーク溶接で製造されることが殆どであったところ、表1から明らかなように、アーク溶接では線径比が比較的に大きくなると品質を担保することが困難であった。これに対し、本変形例に係るリード端子はレーザー溶接により製造されるため、アーク溶接では品質を担保できなかった線径比(即ち、83%乃至100%)を有するリード端子についてもその品質を適切に担保できる。
【0061】
加えて、線径比が大きいため、線材100の直径が従来と同等である場合は、リード線103に従来よりも太いリード線を用いることができる。リード線103の直径が大きくなると、その分だけ銅めっき層の厚みも大きくなる。リード線103の導電性は主に銅が担っているため、この構成によれば、リード端子101の電気抵抗を低減でき、電解コンデンサの電気特性を向上させることができる。
【0062】
また、リード端子101は、変形例2に係る製造方法により製造されてもよい。即ち、線材100としてアルミニウム線に代えて主に銅を含む線材が用いられてもよい。この場合においても、表1と同様の結果が得られた。
【0063】
更に、リード線103としてCP線に代えて主に銅を含む金属線(以下、「銅リード線」とも称する。)が用いられてもよい。ここで、「主に銅を含む金属線」とは、銅線の外周面がスズめっき層又は銀めっき層で被覆された金属線を意味する。この場合、リード端子101は、「線材100がアルミニウム線であり、リード線103が銅リード線であるリード端子」と「線材100が主に銅を含む線材であり、リード線103が銅リード線であるリード端子」の2種類を含む。どちらの種類のリード端子101においても、表1と同様の結果が得られた。
【0064】
以上より、変形例3に係るリード端子101の製造方法及びリード端子101によれば、主にアルミニウム又は銅を含む線材100から成る電極端子102を備えるリード端子101を適切に製造する製造方法、及び、当該製造方法により製造されたリード端子101を提供できる。なお、リード端子101は、電解コンデンサに限らず、他の蓄電デバイスの構成要素として用いられてもよい。他の蓄電デバイスは、例えば、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、又は、リチウムイオン電池を含む。リード端子101が他の蓄電デバイスの構成要素として用いられる場合であっても、同様の効果を奏する。
【0065】
以上、実施形態及び変形例1乃至3について説明したが、本発明は上記実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0066】
例えば、変形例3と同様に、実施形態、変形例1及び2においても、リード線の種類はCP線に限られない。リード線は、例えば、銅リード線(主に銅を含む金属線)により構成されてもよい。変形例2において銅リード線を用いる場合(即ち、線材100及びリード線3の主な金属材料が何れも銅である場合)、上述した作用効果に加えて、以下の作用効果が得られる。即ち、線材100及びリード線3の主な金属材料が何れも銅である場合、アーク溶接により線材100を溶融しようとするとリード線3が過剰に溶融してしまい線材100とリード線3とを適切に接続できない(別言すれば、溶接部4を適切に形成できない)という問題があった。その一方で、リード線3を適切に溶融するために放電量を抑制すると線材100が十分に溶融せず、この場合にも線材100とリード線3とを適切に接続できないという問題があった。これに対し、変形例2に係る製造方法ではレーザー溶接により線材100の端部100aのみが溶融され、リード線3は溶融池Aに押し込まれた後で溶融池Aの熱により溶融される。端部100aの溶融池Aとリード線3の端部3aの溶融銅とが混ざり合って凝固することにより溶接部4が形成される。この製造方法によれば、リード線3が過剰に溶融したり、線材100の溶融が不十分になったりすることを回避できるため、アーク溶接では製造が困難であった、線材100及びリード線3の主な金属材料が何れも銅であるリード端子101を適切に製造することができる。なお、溶接部4は、その大部分が銅の凝固組織となっており、僅かに銅と他の金属(例えば、スズ)との合金を含んでいる。
【0067】
また、押し込み機構は、治具300ではなく、治具200に設けられてもよい。即ち、押し込み機構は、線材100をリード線3に向かって所定の速度で所定の距離だけ軸方向に押し込む外力を線材100に付与するように構成されてもよい。
【0068】
更に、上記実施形態(及び変形例1乃至3)では、電極端子2の材料である線材100とリード線3とを溶接してから線材100をプレス加工して電極端子2を形成するようにしているが、これに代えて、先に線材100をプレス加工して電極端子2を形成してから、その棒状部21の一端にリード線3を溶接するようにしてもよい。
【0069】
更に、上記実施形態及び変形例1乃至3において、レーザー照射機400として赤外線レーザーと短波長レーザーとを組み合わせたハイブリッドレーザーが用いられてもよい。
【0070】
更に、上記実施形態で述べたように、アルミニウムの吸収率は赤外線及び可視光線の全波長帯域で同等である。このため、線材100にアルミニウム線を用いる場合は、赤外線レーザー又は短波長レーザーに限られず他の安価なレーザー照射機が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1,101:リード端子、2,102:電極端子、3,103:リード線、3a:リード線の端部、3b:リード線の端面、3c:リード線の外周面、4,104:溶接部、21,121:棒状部、22,122:圧延部、100:線材、100a:線材の端部、100b:線材の端面、100c:線材の外周面、200:治具、300:治具、400:レーザー照射機
【手続補正書】
【提出日】2024-10-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主にアルミニウム又は銅を含む線材から成る電極端子と、前記電極端子に溶接部を介して接続されているリード線とを備える蓄電デバイス用のリード端子の製造方法であって、
前記線材と前記リード線とを直線状に整列させるとともに前記線材のリード線側の端面と前記リード線の線材側の端面との距離が所定の距離に維持された状態で前記線材と前記リード線とを保持する第1工程と、
レーザー照射機で前記線材の前記リード線側の端部にレーザービームを照射して前記端部を溶融させる第2工程と、
前記第2工程における前記レーザービームの照射開始時点から所定時間経過後に前記線材と前記リード線の一方を他方に向かって軸方向に押し込んで前記溶接部を形成する第3工程と、
を備える、
リード端子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記リード線としてCP線又は主に銅を含む金属線が用いられる、
リード端子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第2工程では、前記線材の前記端部の外周面に前記レーザービームを前記軸方向と直交する方向から照射する、
リード端子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第2工程では、前記線材の前記外周面上の所定の位置に前記レーザービームを照射する、
リード端子の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主にアルミニウムを含む線材が用いられ、
前記第3工程の前記所定時間は、前記レーザービームの照射時間である、
リード端子の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主にアルミニウムを含む線材が用いられ、
前記第3工程の前記所定時間は、前記レーザービームの照射時間である、
リード端子の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第2工程では、前記線材の前記端部の端面に前記レーザービームを前記軸方向と斜めに交差する方向から照射する、
リード端子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主にアルミニウムを含む線材が用いられ、
前記第3工程の前記所定時間は、前記レーザービームの照射時間である、
リード端子の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主にアルミニウムを含む線材が用いられ、
前記レーザー照射機は赤外線レーザーである、
リード端子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項4及び請求項7の何れか一項に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記電極端子として主に銅を含む線材が用いられ、
前記レーザー照射機は短波長レーザー又はハイブリッドレーザーである、
リード端子の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項8の何れか一項に記載のリード端子の製造方法であって、
前記第1工程では、前記線材及び前記リード線には、前記線材に対する前記リード線の線径比が83%以上、且つ、100%以下である線材及びリード線が用いられる、
リード端子の製造方法。
【請求項12】
主にアルミニウム又は銅を含む線材から成る電極端子と、前記電極端子に溶接部を介して接続されているリード線と、を備える蓄電デバイス用のリード端子であって、
前記線材に対する前記リード線の線径比は、83%以上、且つ、100%以下であり、
前記溶接部は、前記線材を構成する金属と前記リード線を構成する金属とが溶融して凝固した部分である第1部分と、前記リード線を構成する前記金属が単独で存在している第2部分と、を有する、
リード端子。
【請求項13】
請求項12に記載のリード端子であって、
前記第1部分の体積は、前記第2部分の体積よりも大きい、
リード端子。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載のリード端子であって、
前記リード線は、CP線又は主に銅を含む金属線である、
リード端子。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
また、本発明のリード端子(101)は、
主にアルミニウム又は銅を含む線材から成る電極端子(102)と、前記電極端子に溶接部(104)を介して接続されているリード線(103)と、を備える蓄電デバイス用のリード端子である。
当該リード端子では、
前記線材の径に対する前記リード線の径の比は、83%以上、且つ、100%以下であり、前記溶接部(104)は、前記線材を構成する金属と前記リード線(103)を構成する金属とが溶融して凝固した部分である第1部分と、前記リード線(103)を構成する前記金属が単独で存在している第2部分と、を有する。