(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169391
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】多重反射質量分析計
(51)【国際特許分類】
H01J 49/40 20060101AFI20241128BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01J49/40 600
H01J49/42 450
H01J49/40 500
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024084013
(22)【出願日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】2307867.8
(32)【優先日】2023-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー グリンフェルド
(72)【発明者】
【氏名】ハミッシュ スチュワート
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ホック
(57)【要約】
【課題】多重反射飛行時間型質量分析計を提供する。
【解決手段】補正電極は、ミラー間の空間内で又はその空間に隣接してY方向に沿って延びる。各補正電極は、ミラーのうちの1つからの分離がY方向に沿って変化するように成形されたY-Z平面に平行な表面を有する。補正電極は、Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するようにバイアスされる。第1の成分は、ミラー傾斜から生じる意図された収差を補正し、第2の成分は、最大摂動から最小摂動まで広がる理想飛行時間に対する摂動から生じる意図されない収差を補正する。補正電極の形状は、意図された収差及び意図されない収差に対応するある範囲の飛行時間収差を補償するある範囲の合成電圧オフセットを生成するために、いくつか又は全部の補正電極が励起され得るような形状である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重反射飛行時間型質量分析計であって、
2つのイオン光学ミラーであって、前記ミラーの各々は、イオン注入点から離れるドリフト方向(Y方向)に概ね沿って細長く、前記ミラーの各々は、Z方向において他方に対向し、前記Z方向は、前記Y方向に直交し、前記2つのミラーは、前記Y方向に沿った距離が増加するにつれて前記ミラー間の前記Z方向の分離が減少するような傾斜角で傾斜している、2つのイオン光学ミラーと、
前記ミラー間の空間内で又は前記空間に隣接して前記Y方向の少なくとも一部に沿って延びる少なくとも2つの補正電極と、を備え、
前記補正電極の各々は、Y-Z平面に実質的に平行な表面を有し、前記表面がY方向に沿って変化する距離だけ前記ミラーのうちの1つから分離されるような形状を有し、前記補正電極は、使用時に、前記対向するミラー間に延びる空間の少なくとも一部において、前記Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するように、電圧で電気的にバイアスされ、前記電圧は、前記ミラーの意図された前記傾斜角から生じる意図された収差を補正するための第1の成分と、最大摂動から最小摂動までにわたる理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差を補正するための第2の成分とを含み、第2の成分は、最大値と最小値との間で変化し、
前記少なくとも2つの補正電極の形状は、前記少なくとも2つの補正電極のいくつか又は全部が、前記第1の成分及び最大値と最小値との間で変化する前記第2の成分を含む前記電圧を印加し、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と、前記最大摂動から前記最小摂動までの前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲から生じる前記意図されない収差とに対応する飛行時間収差の範囲を補償する合成電圧オフセットの範囲を生成するような形状である、多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項2】
前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲は、前記ミラーにおける最大正位置ずれ誤差による最大摂動から、前記ミラーにおける最大負位置ずれ誤差による最小摂動までにわたる、請求項1に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項3】
前記合成電圧オフセットは、イオンが反射されて前記ミラーを通って-Y方向にドリフトして戻る前に、前記ミラーを通って+Y方向に前記イオンの平均ドリフト長を短縮又は延長するように作用する、請求項2に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項4】
前記合成電圧オフセットは、イオンが前記ミラーを通ってドリフトするときに前記イオンが行う振動の数を増加又は減少させるように作用する、請求項2又は3に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項5】
前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲は、前記ミラーにおける最大正曲率誤差による最大摂動から、前記ミラーにおける最大負曲率誤差による最小摂動までにわたる、請求項1~4のいずれか一項に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項6】
前記ミラーにおける前記最大正曲率誤差及び前記最大負曲率誤差は、弛みによる前記ミラーにおける曲率に対応する、請求項5に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項7】
前記少なくとも2つの補正電極のうちの一方の電極の形状は、曲率誤差とは無関係に位置ずれ誤差を補償し、前記少なくとも2つの補正電極のうちの別の電極の形状は、位置ずれ誤差とは無関係に曲率誤差を補償する、請求項2に従属する場合の請求項5又は6に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項8】
前記少なくとも2つの補正電極は、1つ以上の対の補正電極を含み、
前記補正電極又は前記各対の補正電極は、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最大値との和に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と前記最大摂動から生じる前記意図されない収差とを補償する電圧オフセットを生成するように成形された第1の補正電極と、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最小値との和に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と前記最小摂動から生じる前記意図されない収差とを補償する電圧オフセットを生成するように成形された第2の補正電極と、を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項9】
前記第1の補正電極及び前記第2の補正電極は、前記ミラーを通るイオンの異なる平均ドリフト長を生成するように成形され、任意選択で、前記第1の補正電極及び前記第2の補正電極のY方向の物理的長さは異なる、請求項8に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項10】
前記少なくとも2つの補正電極は、
前記第1の成分に等しい電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された飛行時間収差を補償する形状を有する少なくとも第1の補正電極と、
必要とされる形状間の差に対応する形状を有する第2の補正電極であって、前記第2の成分の前記最大値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記第2の補正電極が前記最大摂動を補償する電圧オフセットを生成し、前記第2の成分の前記最小値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記第2の補正電極が前記最小摂動を補償する電圧オフセットを生成する、第2の補正電極と、を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項11】
多重反射飛行時間型質量分析計を動作させる方法であって、前記多重反射飛行時間型質量分析計は、
2つのイオン光学ミラーであって、前記ミラーの各々は、イオン注入点から離れるドリフト方向(Y方向)に概ね沿って細長く、前記ミラーの各々は、Z方向において他方に対向し、前記Z方向は、前記Y方向に直交し、前記2つのミラーは、前記Y方向に沿った距離が増加するにつれて前記ミラー間の前記Z方向の分離が減少するように傾斜している、2つのイオン光学ミラーと、
前記ミラー間の空間内で又は前記空間に隣接して前記Y方向の少なくとも一部に沿って延びる少なくとも2つの補正電極と、を備え、
前記補正電極の各々は、Y-Z平面に実質的に平行な表面を有し、前記表面が前記Y方向に沿って変化する距離だけ前記ミラーのうちの1つから分離されるような形状を有し、前記補正電極は、使用時に、前記対向するミラー間に延びる空間の少なくとも一部において、前記Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するように、電圧で電気的にバイアスされ、前記電圧は、前記ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差を補正するための第1の成分と、最大摂動から最小摂動までにわたる理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差を補正するための第2の成分とを含み、前記第2の成分は、最大値と最小値との間で変化し、
前記少なくとも2つの補正電極の形状は、前記少なくとも2つの補正電極のいくつか又は全部が、前記第1の成分及び最大値と最小値との間で変化する前記第2の成分を含む前記電圧を印加し、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と、前記最大摂動から前記最小摂動までの前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲から生じる前記意図されない収差とに対応する飛行時間収差の範囲を補償する合成電圧オフセットの範囲を生成することができるような形状であり、
前記方法は、
イオンに前記ミラーを通るジグザグの経路をたどらせるために、電界を提供するように前記ミラーを励起することと、
前記少なくとも2つの補正電極が、前記意図された飛行時間収差及び前記意図されない飛行時間収差を補償する合成電圧オフセットを生成するように、前記少なくとも2つの補正電極の各々に、前記第1の成分及び/又は前記第2の成分を含む電圧を印加することと、
イオン源から前記ミラーにイオンを注入することと、
前記ミラーの前記イオン源と同じ端部に配置されたイオン検出器を用いて前記イオンを検出することと、を含む、方法。
【請求項12】
前記少なくとも2つの補正電極は、1つ以上の対の補正電極を含み、
前記補正電極又は各対の補正電極は、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最大値との和に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記意図された収差及び前記最大摂動から生じる前記意図されない収差を補償する電圧オフセットを生成するように成形された第1の補正電極と、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最小値との和に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記意図された収差及び前記最小摂動から生じる前記意図されない収差を補償する電圧オフセットを生成するように成形された第2の補正電極と、を含み、
本方法は、
(i)前記第1の成分及び前記第2の値の前記最大値に等しい値を有する電圧を、前記第1の補正電極に印加し、前記第2の補正電極に印加しないことによって、前記最大摂動を補償すること、
(ii)前記第1の成分及び前記第2の成分の前記最小値に等しい値を有する電圧を、前記第2の補正電極に印加し、前記第1の補正電極に印加しないことによって、前記最小摂動を補償すること、又は
(iii)前記第1の寄与の半分と前記最大値と前記最小値との間の値を有する前記第2の寄与との和に等しい値を有する電圧を、前記第1の補正電極に印加し、前記第1の成分の半分と前記最大値と前記最小値との間の値を有する前記第2の成分との和に等しい値を有する電圧を、前記第2の補正電極に印加することによって、前記最大摂動と前記最小摂動との間の摂動を補償することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも2つの補正電極は、
前記第1の成分に等しい電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる飛行時間収差を補償する形状を有する少なくとも第1の補正電極と、
前記第2の成分の前記最大値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が前記最大摂動を補償する電圧オフセットを生成し、前記第2の成分の前記最小値を有する電圧を印加されたときに、前記第2の補正電極が前記最小摂動を補償する電圧オフセットを生成するように、必要とされる前記形状間の差に対応する形状を有する前記第2の補正電極と、を含み、
本方法は、
(i)前記意図された飛行時間収差を補償するために、前記第1の成分に等しい電圧を前記少なくとも第1の補正電極に印加し、前記意図されない飛行時間収差を補償するために、前記第2の成分の前記最大値を有する電圧を前記第2の補正電極に印加することによって、前記最大摂動を補償すること、
(ii)前記意図された飛行時間収差を補償するために、前記第1の寄与に等しい電圧を前記少なくとも第1の補正電極に印加し、前記意図されない飛行時間収差を補償するために、前記第2の成分の前記最小値を有する電圧を前記第2の補正電極に印加することによって、前記最小摂動を補償すること、又は
(iii)前記意図された飛行時間収差を補償するために、前記第1の成分に等しい電圧を前記少なくとも第1の補正電極に印加し、前記意図されない飛行時間収差を補償するために、前記最大値と前記最小値との間の値を有する前記第2の成分に等しい値の電圧を前記第2の補正電極に印加することによって、前記最大摂動と前記最小摂動との間の摂動を補償することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
多重反射飛行時間型質量分析計を設計する方法であって、前記多重反射飛行時間型質量分析計は、
イオン源と、イオン検出器と、2つのイオン光学ミラーとの理想配置を構成することであって、前記ミラーの各々は、イオン注入点から離れるドリフト方向(Y方向)に概ね沿って細長く、前記ミラーの各々は、Y方向に直交するZ方向において互いに対向しており、それにより、前記イオン源から供給されたイオンは、前記イオン注入点において前記ミラーに入り、次いで、前記ミラーが電界を提供するように励起されるときに、前記ミラーを通るジグザグの経路をたどる、前記理想配置を構成することと、
前記ミラー間の空間内の又は前記空間に隣接する前記Y方向の少なくとも一部に沿って延びる少なくとも2つの補正電極を構成することであって、前記補正電極の各々は、Y-Z平面に実質的に平行な表面を有し、前記表面がY方向に沿って変化する距離だけ前記ミラーのうちの1つから分離されるような形状を有し、前記補正電極は、使用時に、対向する前記ミラー間に延びる空間の少なくとも一部において、前記Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するように、電圧で電気的にバイアスされ、前記電圧は、前記ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差を補正するための第1の成分と、最大摂動から最小摂動までにわたる理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差を補正するための第2の成分とを含み、第2の成分は、最大値と最小値との間で変化する、前記補正電極を構成することと、
前記ミラーの前記理想配置から離れた最大摂動及び最小摂動、並びに前記ミラーを通るイオンの飛行時間における結果として生じる最大収差及び最小収差を決定することと、
前記少なくとも2つの補正電極のいくつか又は全部が、前記第1の成分及び最大値と最小値との間で変化する前記第2の成分を含む前記電圧を加えられて、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と、前記最大摂動から前記最小摂動までの前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲から生じる前記意図されない収差とに対応する飛行時間収差の範囲を補償する合成電圧オフセットの範囲を生成することができるように、前記少なくとも2つの補正電極の形状を決定することと、を含む、方法。
【請求項15】
前記ミラーにおける最大正位置ずれ誤差による最大摂動から前記ミラーにおける最大負位置ずれ誤差による最小摂動までの範囲の摂動に対応する飛行時間収差の範囲を、前記理想飛行時間に対して補償するために、前記少なくとも2つの補正電極の形状を決定することを含み、
前記合成電圧オフセットは、前記イオンが反射されて前記ミラーを通って-Y方向にドリフトして戻る前に、前記ミラーを通って+Y方向に前記イオンの平均ドリフト長を短縮又は延長するように作用する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記合成電圧オフセットは、前記イオンが前記ミラーを通ってドリフトするときに前記イオンが行う振動の数を増加又は減少させるように作用する、請求項15に記載の飛行質量分析計の方法。
【請求項17】
前記ミラーにおける最大正曲率誤差による最大摂動から前記ミラーにおける最大負曲率誤差による最小摂動までの範囲の摂動に対応する飛行時間収差の範囲を、前記理想飛行時間に対して補償するために、前記少なくとも2つの補正電極の形状を決定することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ミラーの前記最大正曲率誤差及び前記最大負曲率誤差は、弛みによる前記ミラーの曲率に対応する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
曲率誤差とは無関係に位置ずれ誤差を補償するように前記少なくとも2つの補正電極のうちの一方の電極の形状を、位置ずれ誤差とは無関係に曲率誤差を補償するように前記少なくとも2つの補正電極のうちの別の電極の形状を決定することを含む、請求項15に従属する場合の請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも2つの補正電極は、1つ以上の対の補正電極を含み、
前記方法は、前記補正電極又は前記各対の補正電極について、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最大値との和に等しい電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差及び前記最大摂動から生じる前記意図されない収差を補償する電圧オフセットを生成するように、第1の補正電極の形状を決定することと、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最小値との和に等しい電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と前記最小摂動から生じる前記意図されない収差とを補償する電圧オフセットを生成するように、第2の補正電極の形状を決定することと、を含む、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の補正電極及び前記第2の補正電極は、前記ミラーを通るイオンの異なる平均ドリフト長を生成するように成形され、任意選択で、前記第1の補正電極及び前記第2の補正電極のY方向の物理的長さは異なる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の成分に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記Y方向に沿った前記ミラーの前記意図された傾斜角に対応する飛行時間収差を補償する少なくとも第1の補正電極の形状を決定することと、
前記第2の成分の前記最大値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が前記最大摂動を補償する電圧オフセットを生成し、前記第2の補正電極の前記最小値を有する電圧を印加されたときに、前記第2の補正電極が前記最小摂動を補償する電圧オフセットを生成するように、必要とされる前記形状間の差に対応するように前記第2の補正電極の形状を決定することと、を含む、請求項14~19のいずれか一項の記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析計の分野に関し、具体的には、飛行時間型質量分析法、及びイオン飛行経路を延長するための多重反射技術を利用した静電トラップ質量分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
多重反射を利用して質量分析計内のイオンの飛行経路を延長する様々な配置が公知である。飛行経路の延長は、イオン間の小さな質量差を区別する能力を高めるので、飛行時間型(ToF)質量分析計内のイオンの飛行時間による分離を増大するために望ましい。
【0003】
多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器の例は、国際公開第2013/110587号に見出される。2つの平行な対向するミラー電極は、ドリフト方向(Y方向)に細長い。イオンは、イオントラップから抽出され、ミラー電極に注入され、次いで、イオンは、ミラー電極間(Z方向)で反射される一方で、ドリフト方向においてミラー電極の延長長さに沿って比較的ゆっくりとドリフトする。したがって、イオンは、質量分析器を通るジグザグの飛行経路をたどる。
【0004】
更に、ミラー電極は、ドリフト方向に延びるにつれてX方向におけるそれらの分離が減少するように、角度Θだけ傾斜している。対向するミラー電極間で振動を開始するイオンはまた、イオンがミラー電極に注入された初期傾斜に起因してY方向にもドリフトする。ミラー集束傾斜角Θは、2回の反射を含む振動毎に軌道傾斜角を2Θだけ減少させる。その結果、イオンがミラー電極を通って戻り、イオントラップに隣接して配置されたイオン検出器によって検出されるように、ドリフト方向が最終的に反転される。
【0005】
しかしながら、傾斜したミラー電極は、ToF収差を引き起こす。これは、全部のイオンがミラー電極を通る共通経路をたどるわけではないからである。イオンがミラー電極に注入されるビーム角の有限の広がりは、一部のイオンが他のイオンよりもミラー電極の更に下方にドリフトすることをもたらす。ミラー電極を通って長手方向軸に対して浅い角度で入るイオンは、比較的急な角度で注入されるイオンよりもミラー電極の更に下方にドリフトする。有利なことに、イオンは、イオン検出器に戻るときにもう一度空間的に集束される。しかしながら、イオンの振動周期が、ミラー電極間の間隔の減少の結果としてドリフト方向に沿った距離の関数として減少するので、時間収差が導入される。
【0006】
これらのToF収差は、イオンがストライプ電極を使用してミラー電極間を横切るときにイオンを減速することによって修正される。ストライプ電極は、ミラー電極に沿った距離の関数として変化する電圧を有する電界を生成するように成形される。電界は、イオンがミラー電極に沿って更にドリフトするほど減速されるように、ドリフト方向に沿って増加する。この減速は、振動の周期をドリフト方向に沿った距離の関数として増加させ、それによって集束ミラー電極による周期の減少を緩和する。
【0007】
ストライプ電極に印加される電圧は、ミラー電極に注入されるイオンの角度広がりから生じるToF収差を相殺する電界を生成するように調整することができる。この補正は、ミラー間の距離が変化しても、ドリフト長に沿った全部の位置において、対向するミラー電極間のイオンの各振動に対して実質的に等しい振動時間を生成するのに役立つ。
【0008】
これらのストライプ電極は、必要とされる傾斜によって完全なミラー電極においてさえ引き起こされる不可避のToF収差を補償するように設計される。
【0009】
代替的なMR-ToF分析器は、米国特許出願公開第2020/0243322号に記載されている。分析器は、傾斜しているのではなく平行であるミラー電極を備え、したがって、イオンは、一定のドリフト速度でミラー電極の長さに沿って進行し、イオンが注入されるイオントラップとは反対側のミラー電極の端部で検出される。
【0010】
米国特許出願公開第2020/0243322号はストライプ電極を含むが、国際公開第2013/110587号とは異なる理由で、ミラー電極を意図的に傾斜させることから生じるToF収差を補正する必要がない。その代わりに、第1の対の湾曲したストライプ電極が、ミラー電極における任意の曲率を補正するために使用される。第2の対のストライプ電極は、ミラー電極間の位置ずれを補正するために使用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様によれば、2つのイオン光学ミラーを備える多重反射飛行時間型質量分析計が提供され、各ミラーは、イオン注入点から離れるドリフト方向(Y方向)に概ね沿って細長く、各ミラーは、Z方向において他方に対向し、Z方向は、Y方向に直交する。2つのミラーは、Z方向に沿った距離が増加するにつれてZ方向におけるミラー間の分離が減少するように傾斜される。
【0012】
質量分析計は、ミラー間の空間内で又はその空間に隣接してY方向の少なくとも一部分に沿って延びる少なくとも2つの補正電極を更に備える。各補正電極は、Y-Z平面に実質的に平行な表面を有し、表面がY方向に沿って変化する距離だけミラーのうちの1つから分離されるような形状を有する。使用時、補正電極は、対向するミラー間に延びる空間の少なくとも一部において、Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するように、電圧で電気的にバイアスされる。電圧は、ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差を補正するための第1の成分、及び/又は最大摂動から最小摂動(ミラーの機械的不完全性から生じる摂動など)に及ぶ理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差を補正するための第2の成分を含み、第2の成分は、最大値と最小値との間で変化する。少なくとも2つの補正電極の形状は、少なくとも2つの補正電極のいくつか又は全部が、第1の成分及び最大値と最小値との間で変化する第2の成分を含む電圧でバイアスされて、ある範囲の合成電圧オフセットを生成することができるように選択される。これらのオフセットは、ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差に対応する飛行時間収差の範囲と、最大摂動から最小摂動まで延びる理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差とを補正する。
【0013】
質量分析計を通るイオンの理想飛行時間は、ミラーが完全に平坦であり、意図された傾斜角に設定されて完全に位置合わせされているときの、ミラーを通るイオンの飛行時間に対応する。補正電極は、第1の成分を介してミラー間の意図された傾斜角に対する補正と、第2の成分を介してミラーの実際の構成における誤差に対する補正との両方を提供する。例えば、ミラーが位置ずれして、正確に意図された傾斜角にない場合がある。また、ミラーは、完全に直線ではなく、弛み(重力と、ミラー内の応力の解放及び他の機械加工の不完全性などの他の要因との両方によって引き起こされる)による曲率を有する場合がある。
【0014】
理想飛行時間に対する摂動の範囲は、ミラーにおける最大正位置ずれ誤差による最大摂動から、ミラーにおける最大負位置ずれ誤差による最小摂動まで広がり得る。最大正位置ずれ誤差及び最大負位置ずれ誤差は、質量分析計に影響を及ぼすと予想される最大及び最小の位置ずれ誤差であり得る。最大正位置ずれ誤差及び最大負位置ずれ誤差は、製造公差に対応し得る。単なる例として、シムを使用して、他の平行ミラー対に意図された傾斜を導入し得、その場合、最大正位置ずれ誤差及び最大負位置ずれ誤差は、シムの公称厚さ付近の製造公差に対応し得る。
【0015】
補正電極は、合成電圧オフセットが、イオンが反射されてミラーを通って-Y方向にドリフトバックする前に、ミラーを通って+Y方向にイオンの平均ドリフト長を短縮又は延長するように作用するように成形され得る。この構成は、より小さな位置ずれ誤差が補償されることを可能にする。より大きな位置ずれ誤差については、イオンがミラーを通ってドリフトするときにイオンが行う振動の数を増加又は減少させる、より大きな合成電圧オフセットが使用され得る。
【0016】
理想飛行時間に対する摂動の範囲は、ミラーにおける最大正曲率誤差による最大摂動からミラーにおける最大負曲率誤差による最小摂動まで広がり得る。最大正曲率誤差及び最大負曲率誤差は、質量分析計に影響を及ぼすと予想される最大曲率誤差及び最小曲率誤差であり得る。ミラーにおける最大正曲率誤差及び最大負曲率誤差は、弛みによるミラーの曲率に対応し得る。
【0017】
少なくとも1つの補正電極は、位置ずれ誤差及び曲率誤差の両方を補償するように成形され得る。代替的に、少なくとも2つの補正電極のうちの1つの電極の形状は、曲率値とは無関係に位置ずれ値を補正し得、少なくとも2つの補正電極のうちの別の電極の形状は、位置ずれ値とは無関係に曲率値を補正し得る。
【0018】
任意選択で、少なくとも2つの補正電極は、1つ以上の対の補正電極を含む。補正電極の対又は各対は、第1の成分+第2の成分の最大値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差及び最大摂動から生じる意図されない収差を補償する電圧オフセットを生成するように成形された第1の補正電極を含み得る。補正電極の対又は各対は、第1の成分+第2の成分の最小値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差と最小摂動から生じる意図されない収差とを補償する電圧オフセットを生成するように成形された第2の補正電極を含み得る。第1の補正電極及び第2の補正電極は、ミラーを通るイオンの異なる平均ドリフト長を生成するように成形され得る。第1の補正電極及び第2の補正電極のY方向の物理的な長さは異なっていてもよい。最大摂動の補正が必要な場合、第1の補正電極は、第1の成分+第2の成分の最大値に等しい値を有する電圧を印加される一方、第2の補正電極は接地される。最小摂動に対する補正が必要とされるとき、第2の補正電極は、第1成分+第2の成分の最小値に等しい値を有する電圧を印加される一方、第1の補正電極は接地される。最大摂動と最小摂動との間の摂動の補正が必要とされる場合、第1の補正電極及び第2の補正電極は、第1の成分の半分+第2の成分の所定の最小値と最大値との間の値に等しい電圧を印加される。次に、各補正電極は、必要とされる第1の成分の半分に寄与して、それらが合計されてミラーの傾斜の補正を提供し、次に、第2の成分によって必要に応じて調整されて、意図されない摂動を補正する。ミラーが正確に意図したものである場合、意図されない収差の補正は必要なく、第1の補正電極及び第2の補正電極は、第1の成分の半分の値+第2の成分の同じ値を有する等しい電圧で付勢されることによって最大摂動及び最小摂動に対して与えられる補正を相殺する。第2の成分値は、0であってもよい。そのような構成では、各補正電極は、意図された飛行時間収差と意図されない飛行時間収差の両方を補償するので、補正電極の形状は、両方の機能を反映する複合形状でなければならない。
【0019】
代替的に、異なる補正電極を使用して、意図された飛行時間収差及び意図されない飛行時間収差を補償することができる。例えば、少なくとも2つの補正電極は、少なくとも、意図された飛行時間収差を補償するための形状を有する第1の補正電極と、必要とされる形状間の差に対応する形状を有する第2の補正電極であって、第1の成分+第2の成分の最大値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が最大摂動を補償する電圧オフセットを生成し、第1の成分+第2の成分の最小値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が最小摂動を補償する電圧オフセットを生成する、第2の補正電極とを含み得る。ミラーが正確に意図されたものである場合、意図されない収差の補正は必要とされず、したがって、第2の補正電極は接地され、少なくとも第1の補正電極が意図された収差を補償するために使用される。意図されない収差の補正が必要とされる場合、第2の電極は、必要な補正を提供するために第2の成分の最大値と最小値との間の電圧で付勢され、最大値は最大摂動を補正し、最小値は最小摂動を補正し、最大値と最小値との間の第2の成分の値は最大摂動と最小摂動との間の摂動を補正する。少なくとも第1の補正電極は、第2の補正電極を挟む一対の電極であってもよい。電極対の各々は、第1の成分の半分に等しい電圧を印加され得る。
【0020】
第2の態様によれば、多重反射飛行時間型質量分析計を動作させる方法が提供される。分析計は、2つのイオン光学ミラーを備え、各ミラーは、イオン注入点から離れるドリフト方向(Y方向)に概ね沿って細長く、各ミラーは、Z方向において他方に対向し、Z方向は、Y方向に直交する。2つのミラーは、Y方向に沿った距離が増加するにつれてZ方向におけるミラー間の分離が減少するように傾斜される。分析計は、ミラー間の空間内で又はその空間に隣接してY方向の少なくとも一部分に沿って延びる少なくとも2つの補正電極を更に備える。各補正電極は、Y-Z平面に実質的に平行な表面を有し、表面がY方向に沿って変化する距離だけミラーのうちの1つから分離されるような形状を有する。使用時に、補正電極は、対向するミラー間に延びる空間の少なくとも一部において、Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するように、電圧で電気的にバイアスされ、電圧は、ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差を補正するための第1の成分と、最大摂動から最小摂動まで広がる理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差(ミラーの機械的不完全性によって生じる収差など)を補正するための第2の成分とを含み、第2の成分は、最大値と最小値との間で変化する。少なくとも2つの補正電極の形状は、少なくとも2つの補正電極のいくつか又は全部が、第1の成分及び最大値と最小値との間で変化する第2の成分を含む値を有する電圧を印加されて、最大摂動から最小摂動まで広がる理想飛行時間に対する摂動の範囲に対応する飛行時間収差の範囲を補償する合成電圧オフセットを生成するように選択される。
【0021】
この方法は、イオンにミラーを通るジグザグの経路をたどらせる電界を提供するためにミラーを励起することを含む。本方法はまた、少なくとも2つの補正電極の各々に、第1の成分及び/又は第2の成分を含む値を有する電圧を印加して、少なくとも2つの補正電極が、最大摂動から最小摂動に広がる理想飛行時間に対する摂動の範囲内の飛行時間収差を補償する合成電圧オフセットを生成するようにすることを含む。本方法は、イオン源からミラーにイオンを注入することと、ミラーのイオン源と同じ端部に配置されたイオン検出器でイオンを検出することとを更に含む。
【0022】
任意選択で、少なくとも2つの補正電極は、1つ以上の対の補正電極を含む。補正電極又は各対の補正電極は、第1の補正電極が第1の成分+第2の成分の最大値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、第1の補正電極が最大摂動を補償する電圧オフセットを生成するように成形された第1の補正電極を少なくとも含み得る。補正電極又は各対の補正電極は、第2の補正電極が第1の成分+第2の成分の最小値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が最小摂動を補償する電圧オフセットを生成するように成形された第2の補正電極を更に含み得る。次いで、本方法は、(i)第1の成分+第2の成分の最大値に等しい値を有する電圧を、第1の補正電極に印加し、第2の補正電極に印加しないことによって、最大摂動を補償すること、(ii)第1の成分及び第2の成分の最小値に等しい値を有する電圧を、第2の補正電極に印加し、第1の補正電極に印加しないことによって、最小摂動を補償すること、又は(iii)第1の成分の半分+第2の成分の最大値と最小値との間の値に等しい値を有する電圧を、第1の補正電極に印加し、第1の成分の半分+第2の成分の最大値と最小値との間の値に等しい値を有する電圧を、第2の電極に印加することによって、最大摂動と最小摂動との間の摂動を補償することを含み得る。
【0023】
任意選択で、少なくとも2つの補正電極は、第1の成分に等しい値を有する電圧を印加されたときに、Y方向に沿ったミラーの意図された傾斜角に対応する飛行時間収差を補償する形状を有する第1の補正電極を少なくとも含む。少なくとも2つの補正電極は、必要とされる形状間の差に対応する形状を有する第2の補正電極であって、第2の成分の最大値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が最大摂動を補償する電圧オフセットを生成し、第2の成分の最小値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が最小摂動を補償する電圧オフセットを生成する、第2の補正電極を更に含み得る。次に、本方法は、(i)意図された飛行時間収差を補償するために、第1の成分に等しい電圧を少なくとも第1の補正電極に印加し、第2の成分の最大値を有する電圧を第2の電極に印加することによって、最大摂動を補償すること、(ii)意図された飛行時間収差を補償するために、第1の成分に等しい電圧を少なくとも第1の補正電極に印加し、第2の成分の最小値を有する電圧を第2の電極に印加することによって、最小摂動を補償すること、又は(iii)意図された飛行時間収差を補償するために、第1の成分に等しい電圧を少なくとも第1の補正電極に印加し、第2の成分の最大値と最小値の間の値を有する電圧を第2の電極に印加することによって、最大摂動と最小摂動との間の摂動を補償することを含み得る。少なくとも第1の補正電極は、第2の補正電極を挟む一対の電極であってもよい。電極対の各々は、第1の成分の半分に等しい電圧を印加され得る。
【0024】
第3の態様によれば、多重反射飛行時間型質量分析計を設計する方法が提供される。本方法は、イオン源と、イオン検出器と、2つのイオン光学ミラーとの理想配置を構成することであって、ミラーの各々は、イオン注入点から離れるドリフト方向(Y方向)に概ね沿って細長く、ミラーの各々は、Y方向に直交するZ方向において互いに対向しており、それにより、イオン源から供給されたイオンは、イオン注入点においてミラーに入り、次いで、ミラーが電界を提供するように励起されるときに、ミラーを通るジグザグの経路をたどる、構成することを含む。本方法はまた、ミラー間の空間内の又は空間に隣接するY方向の少なくとも一部に沿って延びる少なくとも2つの補正電極を構成することであって、補正電極の各々は、Y-Z平面に実質的に平行な表面を有し、表面がY方向に沿って変化する距離だけミラーのうちの1つから分離されるような形状を有し、補正電極は、使用時に、対向するミラー間に延びる空間の少なくとも一部において、Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するように、電圧で電気的にバイアスされ、電圧は、ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差を補正するための第1の成分と、最大摂動から最小摂動までにわたる理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差(ミラーの機械的不完全性によって生じる収差など)を補正するための第2の成分とを含み、第2の成分は、最大値と最小値との間で変化する、構成することを含む。本方法はまた、ミラーの理想配置から離れた最大摂動及び最小摂動、並びにミラーを通るイオンの飛行時間における結果として生じる最大収差及び最小収差を決定することを含む。本方法はまた、少なくとも2つの補正電極のいくつか又は全部が、第1の成分及び最大値と最小値との間で変化する第2の成分を含む値を有する電圧を印加されて、最大摂動から最小摂動まで広がる飛行時間収差の範囲を補償する合成電圧オフセットの範囲を生成するように、少なくとも2つの補正電極の形状を決定することを含み得る。
【0025】
本方法は、ミラーにおける最大正位置ずれ値による最大摂動からミラーにおける最大負位置ずれ値による最小摂動までの範囲の摂動に対応する飛行時間収差の範囲を、理想飛行時間に対して補償するために、少なくとも2つの補正電極の形状を決定することを含み得る。
【0026】
合成電圧オフセットは、イオンが反射されてミラーを通って-Y方向にドリフトして戻る前に、ミラーを通って+Y方向にイオンの平均ドリフト長を短縮又は延長するように作用し得る。合成電圧オフセットは、イオンがミラーを通ってドリフトするときにイオンが行う振動の数を増加又は減少させるように作用し得る。
【0027】
本方法は、ミラーにおける最大正曲率誤差による最大摂動からミラーにおける最大負曲率誤差による最小摂動までの範囲の摂動に対応する飛行時間収差の範囲を、理想飛行時間に対して補償するために、少なくとも2つの補正電極の形状を決定することを含み得る。ミラーにおける最大正曲率誤差及び最大負曲率誤差は、弛みによるミラーの曲率に対応する。
【0028】
本方法は、曲率誤差とは無関係に位置ずれ誤差を補償するように少なくとも2つの補正電極のうちの一方の電極の形状を、位置ずれ誤差とは無関係に曲率誤差を補償するように少なくとも2つの補正電極のうちの別の電極の形状を決定することを含み得る。
【0029】
任意選択で、少なくとも2つの補正電極は、1つ以上の対の補正電極を含む。次に、本方法は、補正電極又は各対の補正電極について、第1の成分+第2の成分の最大値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、第1の補正電極が最大摂動を補償する電圧オフセットを生成するように第1の補正電極の形状を決定することを含み得る。本方法はまた、第2の補正電極が第1の成分+第2の成分の最小値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が最小摂動を補償する電圧オフセットを生成するように第2の補正電極の形状を決定することを含み得る。第1の補正電極及び第2の補正電極は、ミラーを通るイオンの異なる平均ドリフト長を生成するように成形され得る。第1の補正電極及び第2の補正電極のY方向の長さは異なっていてもよい。
【0030】
任意選択で、本方法は、第1の成分に等しい電圧を印加されたときに、Y方向に沿ったミラーの意図された傾斜角に対応する飛行時間収差を補償する少なくとも第1の補正電極の形状を決定することを含む。本方法はまた、第2の成分の最大値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が最大摂動を補償する電圧オフセットを生成し、第2の成分の最小値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が最小摂動を補償する電圧オフセットを生成するように、必要とされる形状間の差に対応するように第2の補正電極の形状を決定することを含み得る。
【0031】
本発明をより容易に理解することができるように、添付の図面を例としてのみ参照する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】従来技術の多重反射飛行時間型質量分析計の概略図である。
【
図2】シムを介して集束角度を提供するミラーアセンブリ設計の概略図である。
【
図3A】補正電極についての正規化された形状関数を示す。
【
図3B】補正電極及びミラー傾斜が一緒に作用するときに得られる飛行時間補正を示す。
【
図4】物理的長さが等しくない補正電極を有する多重反射飛行時間型質量分析計の第1の実施形態の概略図である。
【
図5A】異なるドリフト長L1及びL2に正規化されたドリフト座標「y」の関数としての補正電極形状を示す。
【
図5B】300mm~400mmの可変有効ドリフト長Lを提供し、それにより、ミラー位置ずれを補正するために、異なる形状で異なる電気バイアスを有する2対の補正電極を伴う配列を示す。
【
図6A】形状関数が、対応して375mm及び325mmの有効ドリフト長に正規化された形状関数間の差に等しい差動補正電極の形状関数を示す。
【
図6B】電圧U1で付勢される1対の差動補正電極を含む3対の補正電極を有する構成を示す。
【
図7A】弛みパラメータ±0.01mmの弛みを有するミラーの最適解を実現する補正電極の形状関数を示す。
【
図7B】その形状が
図7Aの形状間の差から推定され、弛みを補正するためにバイアスされる一対の補正電極を有する構成を示す。
【
図8】両方の曲線を補正する差動補正電極の対を含む補正電極を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
上述したように、質量分析計は、通常、イオンの飛行経路を延長するために多重反射を利用し、これは、イオンの飛行時間分離を増加させ、したがって、飛行時間(ToF)質量分析計内の分解能を増加させるので望ましい。
図1は、多重反射飛行時間型(MR-ToF)質量分析器10の一例を示す。一対のイオン光学ミラーは、ドリフト方向(y方向)に細長い2つの平行な対向ミラー電極12によって提供される。イオン20はイオントラップ14から抽出され、ミラー電極12に注入される。イオン20は、第1のミラー電極12から反射される前にレンズ/偏向器18によってビーム成形される。次いで、拡大するイオンビームは、第2の偏向器及びドリフト集束レンズ19に当たり、第2の偏向器及びドリフト集束レンズ19は、最終的な注入角度を設定し、イオンビーム20を達成可能な限り平行化する。イオン20は、その後、ミラー電極12の間で(z方向に)多重反射される一方で、ドリフト(y)方向にミラー電極12の延長長さに沿って比較的ゆっくりドリフトする。したがって、イオン20は、質量分析器10を通るジグザグの飛行経路をたどる。
【0034】
更に、ミラー電極12は、ドリフト方向に延びるにつれてz方向におけるそれらの分離が減少するように、角度Θ(典型的には、約0.05度)だけ傾斜している。集束角度Θは、イオン20の軌道傾斜角度を、振動毎に2Θだけ減少させる(各振動は2回の反射を含む)。その結果、イオン20のドリフトは最終的に反転され、イオン20はミラー電極12を通って戻り、イオントラップ14に隣接して配置されたイオン検出器16によって検出される。
【0035】
イオン20は、注入角度の広がりが小さいので、イオンビーム20は、ミラー電極12に沿ってドリフトするにつれて広がる。したがって、ミラー電極12に沿ったイオンのドリフト長は、そのイオンの注入角度に応じて変化し、比較的急な角度で注入されたイオン20は、y方向により低い速度成分を有し、したがって、y方向により高い速度成分を有する比較的浅い角度で注入されたイオンよりもミラー電極12に沿ってドリフトする距離が短くなる。小さい傾斜角度Θは、ミラー電極12に沿って更にドリフトするイオン20は、それほど遠くにドリフトしないイオン20よりもミラー電極12間のより狭い間隙を経るため、イオン20の飛行時間に広がりを生じさせるように作用する。このことは、同じm/z比を有するが、異なる注入角度を伴うイオン20に対して異なる飛行時間をもたらし、ひいては、分解能の損失をもたらす。
【0036】
傾斜ミラー電極12によって導入される誤差は、ドリフト次元の長さに沿って一対の補正電極24を追加することによって対処され、一方の補正電極24はイオンビーム20の上方に配置され、他方の補正電極24はイオンビーム20の下方に配置される。各補正電極24のエッジは、補正すべき誤差に対応する形状関数S(y)によって決定される形状を有する。形状関数は、ドリフト(y)方向に沿った位置の関数として、補正電極24の幅(z方向)を定義し得る。補正電極24は、イオン20が伝搬する領域で電界を修正し、したがって、イオン20に追加のドリフト偏向及び飛行時間摂動を引き起こす。更に、電界に対する修正は、補正電極24が、開始点y0及び初期ドリフト速度v0=dy0/dtの任意の変動にかかわらず、全部のイオン20がイオントラップ14からイオン検出器16まで同じ飛行時間を有することを確実にするように、ミラー電極の集束の影響に対抗するように設定することができる。
【0037】
この補正は、補正電極24の特定の形状を採用することによって、ミラー電極の集束角度Θの値を変化させるために達成することができる。この形状は、ドリフト方向yに沿った各値yにおけるz方向の補正電極24の幅を記述する多項式である形状関数S(y)によって定義され得る。
【0038】
【数1】
式中、yはドリフト方向の座標であり、c
0及びk
0は係数である。k
0は、補正電極24に印加される電圧によって較正されるので、任意である。c
0も任意であり、ある程度の自由度をもって設定することができる。補正電極の必要とされる成形は、無次元関数s(y/L)によって記述され、その引数が、(関数が無次元であるように)平均ドリフト長Lに正規化される。正規化された関数は、多項式で表され得る。
【0039】
【数2】
式中、例えば、c[1]=0.78、c[2]=-7.54、c[3]=14.0、c[4]=-9.14、c[5]=2.1である。
【0040】
係数c[n]を最適化すると、同じm/z比を有するイオン20の飛行時間の分散が最小になる。関数s(y/l)は負の値をとることができるが、形状関数S(y)は、ストライプ幅S(y)がyの全部の値に対して正であることを保証するc0を選択することによって正に保たれる。
【0041】
正規化された関数s(y)の例を、
図3Aに示す。
図3Bは、得られた飛行時間誤差対イオンの注入角度を示し、特に、注入角度の30%の範囲内で達成された非常に低減された飛行時間誤差プラトーを示す。この飛行時間分散の減少は、初期イオン速度の熱分散によって引き起こされる検出イオンピークの幅を最小化する。
【0042】
イオンのドリフトは、電圧Us及び集束角度Θでバイアスされた補正電極24から生じる2つの疑似電位Φs(y)及びΦm(y)によって断熱近似で説明することができる。
【0043】
【数3】
式中、Wはミラー間の有効平均距離であり、U
0は(イオントラップ14によって供給される)イオンの加速電圧である。イオン20がz軸の正方向に向かって角度
【0044】
【数4】
で注入される場合、その初期ドリフトエネルギー(電荷当たり)は、
【0045】
【数5】
であり、イオンのドリフトは、位置y=Lで反転され、ここで、疑似電位の和は、初期ドリフトエネルギーに正確に等しく、すなわち、
【0046】
【0047】
イオン20がイオン検出器16に入射することを確実にするために、y=0からy=Lまで、及びy=0に戻る総ドリフト時間は、振動あたりの時間K
0T
oscillの倍数でなければならず、ここで、K
0は、(y方向における)ドリフトあたりの(z方向における)振動の数である。この要件は、飛行時間誤差の補正の要件と共に、正規化座標y/Lにおいて
図3Aに示されるような形状の補正電極24を用いて、ミラー集束角度Θが特定の値をとるときに満たすことができる。
【0048】
無次元関数s(y/L)は最適解に対して厳密に定義されるが、ドリフト長Lは選択すべき自由パラメータである。ドリフト長Lは、以下の式によってミラー集束角度Θに関連付けられる。
【0049】
【0050】
上記は、ミラー電極12の所定の集束角度Θを有する飛行時間型質量分析器10を説明している。しかしながら、機械的不完全性は、補正電極24によってもたらされる飛行時間補正に対抗するように作用し得る。例えば、機械的不完全性は、ミラー電極12の所定の集束角度Θからの位置ずれ、及び弛みなどのミラー電極12の曲率であり得る。これらの欠陥は、分解能に直接影響する。
【0051】
図2は、ミラー電極12を定位置に保持するための典型的な構成を示す。2つの平行なロッド26がミラー電極12を保持し、集束角度Θは、ミラー電極12のうちの1つの端部間に配置されたある厚さのシム28によって画定され、シム28は、2つの平行なロッド26のうちの1つによって所定の位置に保持され、それによってミラー電極12を平行な位置合わせから移動させる。ロッド26は、インバールから製造され、ミラー電極の集束角度Θを安定に保つために正確に等しい長さを有する。
図2はまた、潜在的な機械的欠陥、すなわち、位置ずれ30及び弛み32を示す。
【0052】
質量分析器10は、ドリフトのイオンエネルギー成分が典型的には全運動エネルギーのわずか1/1000である(例えば、前者は電荷当たり5eVであり、後者は電荷当たり4000eVである)ため、ミラーの機械的不完全性に非常に敏感である。ミラー傾斜及び補正電極24は、一緒に作用して、ドリフト反転有効電位を生成し、これは数ボルト強にすぎない。ミラー形状のいかなる摂動も、振動方向とドリフト方向とを結合することによってこの有効電位に影響を及ぼし、イオン光学収差のさもなければ精密にバランスのとれていた補償を乱す。ドリフトの空間集束とToF収差補償の両方が問題となる。
【0053】
ToFにおける収差に対抗する1つの方法は、質量分析器10に極めて厳しい公差を課すことであり、例えば、構成要素を10ミクロン未満の精度に機械加工することである。しかしながら、0.5m~3mの典型的な寸法を有する複雑なシステムの場合、そのような精度は、ほぼ達成不可能であり、及び/又は法外に高価であり、大量生産に適さない。
【0054】
既存の補正電極24は、10ミクロンほどの小さな機械的位置ずれが存在する場合でも解像度を維持することができないという欠点がある。これは、傾斜がイオンビームの焦点面をイオン検出器16からシフトさせ、脱焦させるためである。ストライプ電極24の電圧を位置決めするためにストライプ電極24の電圧を調整することは、それらを最適な分解能に必要な電圧から遠ざける。補正電極24は、ビーム焦点を提供し、飛行時間誤差に対抗するための相反する要件を有する。更に、既存の補正電極24は、ミラー電極12に曲率が存在する場合にドリフト集束を適切に提供することができない。米国特許出願公開第2020/0243322号に記載されるようなミラーの機械的誤差に適合する機能を有する追加の補正電極は、ToF収差を補償することができるが、イオンドリフトの空間集束を改善しない。したがって、傾斜ミラー電極12を有する質量分析器10は、イオン20をイオン検出器16上に集束させる能力を失う。
【0055】
ドリフト軸の各Y位置におけるToF収差の単純な補償(米国特許出願公開第2020/0243322号の補正電極による)の代わりに、ToF収差は、イオン振動の全数に対して平均してより良好に補償される。これらの条件はあまり正確ではないが、質量分析器10の高い質量分解能を維持するには依然として十分である。同時に、補正電極24はまた、イオン検出器16上へのイオン20の空間集束を回復すべきである。
【0056】
補正電極24の形状関数S(y)の正確な最適化は、ミラー電極12の特定の形状及び特定のミラー電極の集束角度Θに対してのみ可能である。実際には、ミラー電極12は、±0.01mmの精度で直線状である。シムの厚さは同様の精度を有し、飛行時間分解能の残留損失をもたらす。
【0057】
ミラー電極の集束角度Θが誤って設定された場合、又は経時的に変化した場合、ミラー電極の集束角度Θの調整は、ミラー電極ユニットの分解及び再組み立てを必要とする。原則として、これは製造中に可能であるが、追加の製造時間及び試験時間を要する。質量分析器の使用中にミラー電極の集束角度Θが偶発的に変化すると、困難で時間のかかる点検が必要になる。ミラー製造及び位置決め精度へのこのような重大な依存は、質量分析器の設計の重大な欠点である。
【0058】
補正電極24の形状関数S(y)及び補正電極24に印加される電圧の更なる改良が、傾斜ミラーMR-ToF分析器10内の様々な機械的偏差を補償するために使用され得ることが認識されている。これにより、ミラー電極12間のイオン飛行時間を全体的に又はイオン注入角度の関数として調整することができ、ミラー電極の傾斜角度Θ又はミラー電極の曲率の誤差の特定の補正、より広い範囲のイオン注入角度の受け入れ、又はイオンビームの焦点面位置の調整さえも可能になる。
【0059】
ミラー電極12における機械的不完全性の問題に対する解決策は、補正電極24がどのように設計され動作されるかについてある程度の柔軟性を追加することを含む。これにより、ミラー電極12が正確に直線状でなくても、またミラー電極の集束角度Θが意図した値からずれていても、飛行時間誤差を補正することが可能になる。有利なことに、動作中、補正電極24上に設定された電圧付近の小さな修正のみが必要とされ、機械的な修正は必要とされない。
【0060】
図1のような従来技術の質量分析器10では、機械的不完全性による飛行時間誤差の補正を支援するために利用可能な2つの自由度がある。すなわち、補正電極24は、100Vまでの任意の電圧に設定され得、イオン入射の初期角度は、イオン偏向器18への特定の電圧の印加を介して修正され得る。しかしながら、これは、2つのパラメータのみではミラー電極の形状の全部の可能な変動の連続を補償することができないので、ミラー電極12における機械的不完全性によって引き起こされる悪影響を補償するには不十分である。
【0061】
機械的不完全性は、関数s(y)の任意の修正を必要とし、これは電気的手段だけでは達成できず、補正電極24を異なる形状を有する別の補正電極24に変更することを必要とすることが認識されている。したがって、既存の(主)補正電極24を補うために、1つ又はいくつかの追加の補正電極24が導入される。補正電極24の集合に対して電圧を設定することができ、場合によっては、任意の機械的欠陥を補正するために、補正電極24のうちの1つ以上を0電圧バイアスに保持することを含む。補正電極24は、非0バイアスunを印加することによって活性化され得、n=1...Nである。組み合わされた補正電極の結果として得られる有効形状関数は、線形重畳によって与えられる。
【0062】
【数8】
ここで、S
n(y)は追加補正電極の形状関数であり、U
sは主補正電極24のバイアスである。
【0063】
任意の形状関数S
*(y)をエミュレートしようとするのではなく、有限数のパラメータu
nを使用して、最も一般的な機械的不完全性、すなわち、ミラー電極12の位置ずれ(例えば、シム28の厚さの不完全性によって引き起こされる)及びミラー電極12の弛み(すなわち、支持ロッド26の中央に中心があるミラー電極12の任意の曲率)を補償する形状S
n(y)を見つけることができる。これらは、ミラー電極12の1つにおける追加の角度誤差30及び曲率32として
図2に示されている。なお、イオンの運動には2つのミラー電極12の曲率の和のみが有効であるため、1つのパラメータのみで両ミラー電極12の弛みの補正を行うことができる。
【0064】
図4は、例えば、誤ったシム厚さによって引き起こされる、ミラー電極の集束角度Θにおける誤差を補正するために使用され得る質量分析器10を示す。ミラー電極の集束角度Θの不完全性は、完全に位置合わせされたミラー電極12に対する最適解のクラスから補正の問題を排除しない。上記の式(3)によって与えられる最適角度がΘであり、角度がΘ
*として不完全に設定される場合、不完全な角度Θ
*が式(3)を満たすように、ミラー電極12を通るイオン20の平均ドリフト長Lをそれに応じて調整することによって補正が行われ得る。必要とされる平均ドリフト長L
*は、以下の式によって与えられる。
【0065】
【0066】
長さはミラー電極の物理的長さによってのみ制限され、イオン20がミラー電極の電界内のフリンジに近づきすぎるまで増加させ得るため、通常、平均ドリフト長L*にはある程度の余裕がある。したがって、所望の集束角度Θから離れた最大予想誤差及び最小予想誤差を使用して、平均ドリフト長L*に対する必要な最大値及び最小値を計算し得る。
【0067】
別のアプローチは、ドリフト中に別の数のイオン振動に切り替えることである、すなわち、
【0068】
【数10】
式中、角括弧は、最も近い整数への丸めを示す。このようにして、飛行時間誤差の補正は、イオン20がイオン検出器16に到達する前の設計された振動の数K
0(例えば、25の振動)ではなく、集束角度Θ
*の予想範囲をカバーするための異なる振動の数(例えば、24又は26)で達成されてもよい。それにもかかわらず、振動の数は整数値でなければならず、したがって、ドリフト長L
*を調整することによる補正が依然として必要とされ得る。
【0069】
平均ドリフト長L*を測定する際の技術的な困難さは、無次元関数s(y)によって与えられる補正電極24の形状が特定の(公称)ドリフト長Lに正規化されることである。しかしながら、公称ドリフト長Lを有する補正電極24は、異なるドリフト長を有する2つの補正電極24を個々の電圧で電気的にバイアスすることによって(Lの特定の間隔で)エミュレートされ得る。
【0070】
図4は、2対の補正電極24を備える質量分析器10を示す。空間25は、隣接する補正電極24を分離し、効果的に接地される。この場合、意図されたミラー電極の集束角度Θ=0.05°であり、公称平均ドリフト長は350mmである。しかしながら、電極の集束角度Θは、±15%だけ異なり得ることが予想される。これに対応するために、主補正電極24の対は、補正電極24
1及び24
2の2つの対応する対に効果的に分割され、更に、意図されたミラー電極の集束角度Θの予想される±15%変動から生じる最小平均ドリフト長L
*及び最大平均ドリフト長L
*を提供するように適合される。
【0071】
図4は、300mmの平均ドリフト長のために設計された追加の補正電極24
1の短縮された対と、400mmの平均ドリフト長のために設計された追加の補正電極24
2の延長された対とを示す。補正電極24
1及び24
2の物理的長さは、イオン20が補正電極24
1及び24
2の端部付近に生じるフリンジ電界を経験しないことを確実にするために、平均ドリフト長L
*よりも大きいことに留意されたい。延長された補正電極24
2ではなく、短縮された補正電極24
1に電圧を印加することは、平均ドリフト長L
*=300mmを設定し、したがって、Θ
*=0.05°×300/350=0.04285°の実際の集束角度を補正する。短縮された補正電極24
1ではなく、延長された補正電極24
2に電圧を印加することは、平均ドリフト長L
*=400mmを設定し、したがって、Θ
*=0.05°×400/350=0.05714°の実際の集束角度を補正する。したがって、集束角度Θが±15%の不完全性を有するミラー電極12であっても、飛行時間補正が達成される。
【0072】
更に、異なる平均ドリフト長L1及びL2を有する2対の補正電極241、242を提供することは、L1の値とL2の値との間の任意の有効ドリフト長L*が、補正電極241、242の両方の対に適切な電圧を印加することによって達成され得ることを意味する。補正電極241、242の両方が、単一の主補正電極24によって提供される補正に寄与するので、各補正電極241、242には、機械的不完全性を補正するために、1/2U0プラス又はマイナス調整Δuの固定電圧が提供される。1/2U0の2つの寄与は合計して傾斜に必要な補正を提供するが、補正オフセットΔuを補正電極241、242のうちの一方に加算し、補正電極241、242のうちの他方から減算することは、一方の補正電極の有効平均ドリフト長Leffが他方よりも優勢であり、それによって有効平均ドリフト長Leffを公称値L*から離れるように移動させることを意味する。
【0073】
したがって、補正電極241、242は、異なる電圧U1=1/2U0+Δu及びU2=1/2U0-Δuでバイアスされ得る。有効平均ドリフト長Leffは、以下の仮定によって与えられる。
【0074】
【0075】
予想されるように、Δu=U0のとき、短縮された補正電極241のみが励起され、有効ドリフト長Leff=L1であり、Δu=-U0のとき、延長された補正電極242のみが励起され、有効ドリフト長Leff=L2である。しかしながら、短縮電極241及び延長された電極242の両方が同じ電圧U1=U2=U0(すなわちΔu=0)でバイアスされる場合、有効ドリフト長Leff=1/2×(L1+L2)、すなわち、平均ドリフト長の平均は、機械的欠陥のないミラー電極12に必要な公称ドリフト長L*である。Δuの値をU1=U2の間の有限値に調整することにより、0mm~40mmの間の任意の平均ドリフト長を設定することが可能になる。
【0076】
今説明したように、有効ドリフト長L
effを有する補正電極24は、異なる平均ドリフト長L
1及びL
2を有する2つの補正電極24
1及び24
2に異なる電圧で電気的にバイアスをかけることによってエミュレートされ得る。また、補正電極24
1及び24
2の物理的長さは、イオン20が補正電極24
1及び24
2の端部付近で生じるフリンジ場を経験しないことを確実にするために、平均ドリフト長L
*よりも大きいことに留意されたい。したがって、
図4は、異なる物理的長さL
1及びL
2を有する追加の補正電極24
1及び24
2を示しているが、これは必ずしもそうである必要はない。追加の補正電極24
1及び24
2は、それらの形状関数S(y)が異なる平均ドリフト長L
1及びL
2を生成するという条件で、同じ物理的長さを有し得る。
【0077】
図5Aは、同じ物理的長さの追加の補正電極24
1及び24
2が、L
1=300及びL
2=400mmの異なる平均ドリフト長を有する例を示す。
図5Bは、同じ物理的長さを有するが、中心軸Z=0の両側に配置された異なるドリフト長L
1、L
2を有する、結果として生じる補正電極24
1、24
2を示す。可変電源は、必要な電圧U
1=1/2U
0+Δu及びU
2=1/2U
0-Δuを提供する。
【0078】
上記の実施形態では、一対の補正電極241、242が使用され、これらは、傾斜ミラー電極12から生じる飛行時間分散を補正し、機械的不完全性も補正する(すなわち、補正電極241、242は、主補正電極及び追加補正電極の役割を果たす)。代替的な実施形態では、傾斜ミラー電極12から生じる飛行時間分散を補正するために2対の主補正電極24が使用され、機械的不完全性を補正するために1対の追加補正電極243が追加される。追加の補正電極243の対は、ドリフト長L1=L0+ΔLを有する短縮された補正電極241と、ドリフト長L2=L0-ΔLを有する延長された電極242との間の差によって与えられる形状を有するエッジを有し、
【0079】
【数12】
式中、前述したように、乗法定数k
1は任意であり、加法定数c
1は、補正電極24
3の全長に沿ってS
1(y)>0(すなわち、幅が正である)となるように任意に選択され得る。前述のように、短縮及び延長された補正電極24
1、24
2の平均ドリフト長は、集束角度Θの予想誤差範囲に基づいて計算され得る。
【0080】
有効ドリフト長Leffは次式で与えられる。
【0081】
【数13】
「差動」補正ストリップ24
3に印加される電圧u
1は、0に設定されてもよく、この場合、ミラー電極12は、それらの位置合わせに機械的欠陥がない正確な所望の集束角度Θを有する。この場合、有効ドリフト長L
effは、ちょうど公称ドリフト長L
0となる。ミラー電極の集束角度Θにおける正の誤差の場合、有効ドリフト長L
effは比例して増加されるべきであり、この場合、正の電圧が差動補正電極24
3に印加されて、L
eff>L
0となる。ミラー電極の集束角度Θに負の誤差がある場合には、差動補正電極24
3に負電圧を印加してL
eff<L
0とする。
【0082】
図6Aは、そのような差動補正電極24
3の形状関数S(y)を示し、
図6Bは、ミラー電極の傾きを補正するように動作する2つの主補正電極24の間の定位置にあるそのような差動補正電極24
3を示す。主補正電極24は公称有効ドリフト長L
0を有し、機械的不完全性を補正するために異なる有効ドリフト長L
effが必要とされる場合、特定の値及び極性の電圧が差動補正電極24
3に印加される。主補正電極24に印加される電圧U
S=1/2U
0は、主補正電極24が組み合わされて傾斜角Θの必要な補正を提供することを確実にする。
図5Bの補正電極配置に対する
図6Bの補正電極配置の利点は、どのような補正電圧u
1が差動補正電極24
3に印加されても、y軸の周りの対称性を維持することである。
【0083】
ミラー電極12の集束角度Θにおける機械的な不完全性を補償することに加えて、補正電極24は、ミラー電極12における任意の曲率を補正するために使用され得る。ミラー電極の形状における最も一般的な機械的不完全性は、弛みパラメータhによって近似され得る支持ロッド26間の弛みであり、ミラー電極の形状の二次関数は、以下によって与えられる。
【0084】
【数14】
ここで、Y
1及びY
2は、支持ロッド26の位置である。
【0085】
図7Aは、予測誤差範囲h=±0.01mmに対して最適化された形状関数を、完全に真っ直ぐなミラー電極12に対する最適な形状関数(すなわち、h=0)と比較して示す。差動補正電極24
3が使用される場合、hの決定された最大誤差値(h=+0.01mm及びh=-0.01mm)に対する形状関数間の差は、
図7Bに示されるように、差動補正電極24
3の形状関数を定義する。動作中、差動補正電極24
3は、電圧u
s∈[-0.5U
s,0.5U
s]でバイアスされる。実際のミラー電極の曲率がh=0.01mmに達する場合、差分補正電極24
3は、0.5U
sに等しい電圧でバイアスされるべきであり、したがって、ミラー電極12の実際の曲率に対して最適化された形状をエミュレートする。反対の最大予測負弛みh=-0.01mmの場合、差動補正電極24
3は、機械的不完全性を補償するために-0.5U
sの電圧でバイアスされる。
【0086】
図8は、ミラー電極12の集束角度Θにおける機械的不完全性を補正する一対の主補正電極24と、機械的不完全性を補正する更なる差動補正電極24
3とを含む更なる実施形態を示す。別個の対の差動補正電極24
3は、傾斜及び曲率の個々に補正する。
【0087】
上述の実施形態は、主に傾斜及び曲率の機械的誤差を補正することを意図しているが、飛行時間収差を引き起こす他の機械的不完全性を少なくとも部分的に補正することもできる。すなわち、補正電極24に印加される電圧は、最適な分解能を提供するように調整され得、これは、他の不完全性を本質的に説明する。
【0088】
当業者であれば、上記の実施形態が、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、多くの異なる点で変更され得ることを理解するであろう。
【0089】
例えば、ミラー電極12の集束角度Θの誤差は、シム28を用いて集束させる例を参照して説明するが、他の構成でもよい。集束角度Θは、ミラー電極12に切り込まれるか、又は取付けロッド26の長さを設定すること、もしくは支持フレーム内の取付け点を位置決めすることなどによって、取付けのサイズによって設定され得る。ミラーは、電極又はそれらのセパレータの厚さを変化させることによって、その構造に組み込まれた角度を有することができる(本発明のミラーは、アルミニウム電極及びセラミックスペーサのスタックとして構築される)。
【0090】
なお、ここではミラー電極12の湾曲が弛みとなる場合について説明したが、この弛みは必ずしも重力によるものではない。曲率は、ミラー電極12の中央でピークとなる曲線に従う任意の歪みであり得る。これは、金属ミラー電極12内の応力の解放から生じる可能性があり、機械加工中及び機械加工後にミラー電極12を歪ませる。熱シフト及び組立誤差/不十分な力などの他の要因も、弛みを引き起こす可能性がある。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重反射飛行時間型質量分析計であって、
2つのイオン光学ミラーであって、前記ミラーの各々は、イオン注入点から離れるドリフト方向(Y方向)に概ね沿って細長く、前記ミラーの各々は、Z方向において他方に対向し、前記Z方向は、前記Y方向に直交し、前記2つのミラーは、前記Y方向に沿った距離が増加するにつれて前記ミラー間の前記Z方向の分離が減少するような傾斜角で傾斜している、2つのイオン光学ミラーと、
前記ミラー間の空間内で又は前記空間に隣接して前記Y方向の少なくとも一部に沿って延びる少なくとも2つの補正電極と、を備え、
前記補正電極の各々は、Y-Z平面に実質的に平行な表面を有し、前記表面がY方向に沿って変化する距離だけ前記ミラーのうちの1つから分離されるような形状を有し、前記補正電極は、使用時に、前記対向するミラー間に延びる空間の少なくとも一部において、前記Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するように、電圧で電気的にバイアスされ、前記電圧は、前記ミラーの意図された前記傾斜角から生じる意図された収差を補正するための第1の成分と、最大摂動から最小摂動までにわたる理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差を補正するための第2の成分とを含み、第2の成分は、最大値と最小値との間で変化し、
前記少なくとも2つの補正電極の形状は、前記少なくとも2つの補正電極のいくつか又は全部が、前記第1の成分及び最大値と最小値との間で変化する前記第2の成分を含む前記電圧を印加し、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と、前記最大摂動から前記最小摂動までの前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲から生じる前記意図されない収差とに対応する飛行時間収差の範囲を補償する合成電圧オフセットの範囲を生成するような形状である、多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項2】
前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲は、前記ミラーにおける最大正位置ずれ誤差による最大摂動から、前記ミラーにおける最大負位置ずれ誤差による最小摂動までにわたる、請求項1に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項3】
前記合成電圧オフセットは、イオンが反射されて前記ミラーを通って-Y方向にドリフトして戻る前に、前記ミラーを通って+Y方向に前記イオンの平均ドリフト長を短縮又は延長するように作用する、請求項2に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項4】
前記合成電圧オフセットは、イオンが前記ミラーを通ってドリフトするときに前記イオンが行う振動の数を増加又は減少させるように作用する、請求項2又は3に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項5】
前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲は、前記ミラーにおける最大正曲率誤差による最大摂動から、前記ミラーにおける最大負曲率誤差による最小摂動までにわたる、請求項1に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項6】
前記ミラーにおける前記最大正曲率誤差及び前記最大負曲率誤差は、弛みによる前記ミラーにおける曲率に対応する、請求項5に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項7】
前記少なくとも2つの補正電極のうちの一方の電極の形状は、曲率誤差とは無関係に位置ずれ誤差を補償し、前記少なくとも2つの補正電極のうちの別の電極の形状は、位置ずれ誤差とは無関係に曲率誤差を補償する、請求項2に従属する場合の請求項5又は6に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項8】
前記少なくとも2つの補正電極は、1つ以上の対の補正電極を含み、
前記補正電極又は前記各対の補正電極は、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最大値との和に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と前記最大摂動から生じる前記意図されない収差とを補償する電圧オフセットを生成するように成形された第1の補正電極と、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最小値との和に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と前記最小摂動から生じる前記意図されない収差とを補償する電圧オフセットを生成するように成形された第2の補正電極と、を含む、請求項1又は2に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項9】
前記第1の補正電極及び前記第2の補正電極は、前記ミラーを通るイオンの異なる平均ドリフト長を生成するように成形され、任意選択で、前記第1の補正電極及び前記第2の補正電極のY方向の物理的長さは異なる、請求項8に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項10】
前記少なくとも2つの補正電極は、
前記第1の成分に等しい電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された飛行時間収差を補償する形状を有する少なくとも第1の補正電極と、
必要とされる形状間の差に対応する形状を有する第2の補正電極であって、前記第2の成分の前記最大値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記第2の補正電極が前記最大摂動を補償する電圧オフセットを生成し、前記第2の成分の前記最小値に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記第2の補正電極が前記最小摂動を補償する電圧オフセットを生成する、第2の補正電極と、を含む、請求項1又は2に記載の多重反射飛行時間型質量分析計。
【請求項11】
多重反射飛行時間型質量分析計を動作させる方法であって、前記多重反射飛行時間型質量分析計は、
2つのイオン光学ミラーであって、前記ミラーの各々は、イオン注入点から離れるドリフト方向(Y方向)に概ね沿って細長く、前記ミラーの各々は、Z方向において他方に対向し、前記Z方向は、前記Y方向に直交し、前記2つのミラーは、前記Y方向に沿った距離が増加するにつれて前記ミラー間の前記Z方向の分離が減少するように傾斜している、2つのイオン光学ミラーと、
前記ミラー間の空間内で又は前記空間に隣接して前記Y方向の少なくとも一部に沿って延びる少なくとも2つの補正電極と、を備え、
前記補正電極の各々は、Y-Z平面に実質的に平行な表面を有し、前記表面が前記Y方向に沿って変化する距離だけ前記ミラーのうちの1つから分離されるような形状を有し、前記補正電極は、使用時に、前記対向するミラー間に延びる空間の少なくとも一部において、前記Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するように、電圧で電気的にバイアスされ、前記電圧は、前記ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差を補正するための第1の成分と、最大摂動から最小摂動までにわたる理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差を補正するための第2の成分とを含み、前記第2の成分は、最大値と最小値との間で変化し、
前記少なくとも2つの補正電極の形状は、前記少なくとも2つの補正電極のいくつか又は全部が、前記第1の成分及び最大値と最小値との間で変化する前記第2の成分を含む前記電圧を印加し、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と、前記最大摂動から前記最小摂動までの前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲から生じる前記意図されない収差とに対応する飛行時間収差の範囲を補償する合成電圧オフセットの範囲を生成することができるような形状であり、
前記方法は、
イオンに前記ミラーを通るジグザグの経路をたどらせるために、電界を提供するように前記ミラーを励起することと、
前記少なくとも2つの補正電極が、前記意図された飛行時間収差及び前記意図されない飛行時間収差を補償する合成電圧オフセットを生成するように、前記少なくとも2つの補正電極の各々に、前記第1の成分及び/又は前記第2の成分を含む電圧を印加することと、
イオン源から前記ミラーにイオンを注入することと、
前記ミラーの前記イオン源と同じ端部に配置されたイオン検出器を用いて前記イオンを検出することと、を含む、方法。
【請求項12】
前記少なくとも2つの補正電極は、1つ以上の対の補正電極を含み、
前記補正電極又は各対の補正電極は、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最大値との和に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記意図された収差及び前記最大摂動から生じる前記意図されない収差を補償する電圧オフセットを生成するように成形された第1の補正電極と、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最小値との和に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記意図された収差及び前記最小摂動から生じる前記意図されない収差を補償する電圧オフセットを生成するように成形された第2の補正電極と、を含み、
本方法は、
(i)前記第1の成分及び前記第2の値の前記最大値に等しい値を有する電圧を、前記第1の補正電極に印加し、前記第2の補正電極に印加しないことによって、前記最大摂動を補償すること、
(ii)前記第1の成分及び前記第2の成分の前記最小値に等しい値を有する電圧を、前記第2の補正電極に印加し、前記第1の補正電極に印加しないことによって、前記最小摂動を補償すること、又は
(iii)前記第1の寄与の半分と前記最大値と前記最小値との間の値を有する前記第2の寄与との和に等しい値を有する電圧を、前記第1の補正電極に印加し、前記第1の成分の半分と前記最大値と前記最小値との間の値を有する前記第2の成分との和に等しい値を有する電圧を、前記第2の補正電極に印加することによって、前記最大摂動と前記最小摂動との間の摂動を補償することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも2つの補正電極は、
前記第1の成分に等しい電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる飛行時間収差を補償する形状を有する少なくとも第1の補正電極と、
前記第2の成分の前記最大値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が前記最大摂動を補償する電圧オフセットを生成し、前記第2の成分の前記最小値を有する電圧を印加されたときに、前記第2の補正電極が前記最小摂動を補償する電圧オフセットを生成するように、必要とされる前記形状間の差に対応する形状を有する前記第2の補正電極と、を含み、
本方法は、
(i)前記意図された飛行時間収差を補償するために、前記第1の成分に等しい電圧を前記少なくとも第1の補正電極に印加し、前記意図されない飛行時間収差を補償するために、前記第2の成分の前記最大値を有する電圧を前記第2の補正電極に印加することによって、前記最大摂動を補償すること、
(ii)前記意図された飛行時間収差を補償するために、前記第1の寄与に等しい電圧を前記少なくとも第1の補正電極に印加し、前記意図されない飛行時間収差を補償するために、前記第2の成分の前記最小値を有する電圧を前記第2の補正電極に印加することによって、前記最小摂動を補償すること、又は
(iii)前記意図された飛行時間収差を補償するために、前記第1の成分に等しい電圧を前記少なくとも第1の補正電極に印加し、前記意図されない飛行時間収差を補償するために、前記最大値と前記最小値との間の値を有する前記第2の成分に等しい値の電圧を前記第2の補正電極に印加することによって、前記最大摂動と前記最小摂動との間の摂動を補償することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
多重反射飛行時間型質量分析計を設計する方法であって、前記多重反射飛行時間型質量分析計は、
イオン源と、イオン検出器と、2つのイオン光学ミラーとの理想配置を構成することであって、前記ミラーの各々は、イオン注入点から離れるドリフト方向(Y方向)に概ね沿って細長く、前記ミラーの各々は、Y方向に直交するZ方向において互いに対向しており、それにより、前記イオン源から供給されたイオンは、前記イオン注入点において前記ミラーに入り、次いで、前記ミラーが電界を提供するように励起されるときに、前記ミラーを通るジグザグの経路をたどる、前記理想配置を構成することと、
前記ミラー間の空間内の又は前記空間に隣接する前記Y方向の少なくとも一部に沿って延びる少なくとも2つの補正電極を構成することであって、前記補正電極の各々は、Y-Z平面に実質的に平行な表面を有し、前記表面がY方向に沿って変化する距離だけ前記ミラーのうちの1つから分離されるような形状を有し、前記補正電極は、使用時に、対向する前記ミラー間に延びる空間の少なくとも一部において、前記Y方向に沿った距離の関数として変化する合成電圧オフセットを生成するように、電圧で電気的にバイアスされ、前記電圧は、前記ミラーの意図された傾斜角から生じる意図された収差を補正するための第1の成分と、最大摂動から最小摂動までにわたる理想飛行時間に対する摂動の範囲から生じる意図されない収差を補正するための第2の成分とを含み、第2の成分は、最大値と最小値との間で変化する、前記補正電極を構成することと、
前記ミラーの前記理想配置から離れた最大摂動及び最小摂動、並びに前記ミラーを通るイオンの飛行時間における結果として生じる最大収差及び最小収差を決定することと、
前記少なくとも2つの補正電極のいくつか又は全部が、前記第1の成分及び最大値と最小値との間で変化する前記第2の成分を含む前記電圧を加えられて、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と、前記最大摂動から前記最小摂動までの前記理想飛行時間に対する前記摂動の範囲から生じる前記意図されない収差とに対応する飛行時間収差の範囲を補償する合成電圧オフセットの範囲を生成することができるように、前記少なくとも2つの補正電極の形状を決定することと、を含む、方法。
【請求項15】
前記ミラーにおける最大正位置ずれ誤差による最大摂動から前記ミラーにおける最大負位置ずれ誤差による最小摂動までの範囲の摂動に対応する飛行時間収差の範囲を、前記理想飛行時間に対して補償するために、前記少なくとも2つの補正電極の形状を決定することを含み、
前記合成電圧オフセットは、前記イオンが反射されて前記ミラーを通って-Y方向にドリフトして戻る前に、前記ミラーを通って+Y方向に前記イオンの平均ドリフト長を短縮又は延長するように作用する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記合成電圧オフセットは、前記イオンが前記ミラーを通ってドリフトするときに前記イオンが行う振動の数を増加又は減少させるように作用する、請求項15に記載の飛行質量分析計の方法。
【請求項17】
前記ミラーにおける最大正曲率誤差による最大摂動から前記ミラーにおける最大負曲率誤差による最小摂動までの範囲の摂動に対応する飛行時間収差の範囲を、前記理想飛行時間に対して補償するために、前記少なくとも2つの補正電極の形状を決定することを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ミラーの前記最大正曲率誤差及び前記最大負曲率誤差は、弛みによる前記ミラーの曲率に対応する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
曲率誤差とは無関係に位置ずれ誤差を補償するように前記少なくとも2つの補正電極のうちの一方の電極の形状を、位置ずれ誤差とは無関係に曲率誤差を補償するように前記少なくとも2つの補正電極のうちの別の電極の形状を決定することを含む、請求項15に従属する場合の請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも2つの補正電極は、1つ以上の対の補正電極を含み、
前記方法は、前記補正電極又は前記各対の補正電極について、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最大値との和に等しい電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差及び前記最大摂動から生じる前記意図されない収差を補償する電圧オフセットを生成するように、第1の補正電極の形状を決定することと、
前記第1の成分と前記第2の成分の前記最小値との和に等しい電圧を印加されたときに、前記ミラーの前記意図された傾斜角から生じる前記意図された収差と前記最小摂動から生じる前記意図されない収差とを補償する電圧オフセットを生成するように、第2の補正電極の形状を決定することと、を含む、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の補正電極及び前記第2の補正電極は、前記ミラーを通るイオンの異なる平均ドリフト長を生成するように成形され、任意選択で、前記第1の補正電極及び前記第2の補正電極のY方向の物理的長さは異なる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の成分に等しい値を有する電圧を印加されたときに、前記Y方向に沿った前記ミラーの前記意図された傾斜角に対応する飛行時間収差を補償する少なくとも第1の補正電極の形状を決定することと、
前記第2の成分の前記最大値を有する電圧を印加されたときに、第2の補正電極が前記最大摂動を補償する電圧オフセットを生成し、前記第2の補正電極の前記最小値を有する電圧を印加されたときに、前記第2の補正電極が前記最小摂動を補償する電圧オフセットを生成するように、必要とされる前記形状間の差に対応するように前記第2の補正電極の形状を決定することと、を含む、請求項14~18のいずれか一項の記載の方法。
【外国語明細書】