(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169398
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】電荷低減方法及びイオン光学系
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20241128BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20241128BHJP
H01J 49/08 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
H01J49/00 310
H01J49/06 300
H01J49/08
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024084044
(22)【出願日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】2307689.6
(32)【優先日】2023-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100123630
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(72)【発明者】
【氏名】ドミトリー ストレルニコフ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー マカロフ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン-ペーター ハウシルト
(57)【要約】
【課題】イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するための方法を提供する。
【解決手段】第1の態様によれば、本開示は、イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するための方法を提供し、汚染表面は、その上に帯電汚染物質層を有する。この方法は、イオン光学系の汚染表面とは別個の放射源を励起することによって荷電粒子を生成することと、荷電粒子を帯電汚染物質の層と相互作用させることによって帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和することとを含み、(i)放射源が電磁放射源を含み、放射源を励起することが電磁放射源に電磁放射を放出させることを含み、荷電粒子を生成することが電磁放射を帯電汚染物質の層及び/若しくはイオン光学系と相互作用させて荷電粒子を生成することを含み、かつ/又は(ii)放射源が電子源を含み、放射源を励起することが電子源に自由電子を放出させることを含む。第2の態様では、イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するように構成されたイオン光学系が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するための方法であって、前記汚染表面は、その上に帯電汚染物質の層を有し、前記方法は、
前記イオン光学系の前記汚染表面とは別個の放射源を励起することによって荷電粒子を生成することと、
前記荷電粒子を前記帯電汚染物質の層と相互作用させることによって、前記帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和することと、を含み、
(i)前記放射源は電磁放射源を含み、前記放射源を励起することは、前記電磁放射源に電磁放射を放出させることを含み、前記荷電粒子を生成することは、前記電磁放射を前記帯電汚染物質の層及び/若しくは前記イオン光学系と相互作用させて前記荷電粒子を生成することを含み、並びに/又は
(ii)前記放射源は電子源を含み、前記放射源を励起することは、前記電子源に自由電子を放出させることを含む、方法。
【請求項2】
前記イオン光学系が発光材料を含み、前記荷電粒子を生成することが、前記電磁放射を前記発光材料と相互作用させて前記荷電粒子を生成することを含み、任意選択で、前記発光材料が金属材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発光材料は、前記イオン光学系の前記汚染表面を含み、好ましくは、前記汚染表面は、前記イオン光学系の電極の表面である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記発光材料の少なくとも一部は、前記汚染表面とは別個である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記電磁放射源からの光子が前記発光材料と相互作用するとき、前記発光材料が電子及び/又は光子を生成する、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記イオン光学系は、1つ以上の開口部を有するハウジングを備え、前記方法が、前記電磁放射を前記1つ以上の開口部に通過させて前記発光材料と相互作用させて前記荷電粒子を生成することを更に含む、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電磁放射源が、紫外線(UV)放射源を含み、及び/又は前記電磁放射源が、1つ以上の発光ダイオード(LED)を含む、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記電子源は、前記イオン光学系の前記汚染表面とは別個であり、及び/又は前記電子源は、フィラメントを備え、前記放射源を励起することは、前記フィラメントを加熱して前記自由電子を放出することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン光学系は、1つ以上の電極を備え、前記汚染表面は、前記1つ以上の電極の表面であり、任意選択で、前記方法は、電子の平均自由行程が前記イオン光学系内の電極間の間隔よりも小さくなるように、前記イオン光学系内のガス圧を制御することを更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記イオン光学系は、一対の電極を備え、前記放射源は、前記一対の電極を二等分する平面から変位され、任意選択で、前記イオン光学系は、複数対の電極及び複数の放射源を備え、各放射源は、それぞれの一対の電極を二等分する平面から変位される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン光学系は、1つ以上の電極を備え、前記荷電粒子を加速し、それによって前記帯電汚染物質の層の前記少なくとも一部を中和するための追加の放射を生成するために、前記イオン光学系の少なくとも1つの電極に電圧を印加することを更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記荷電粒子を前記帯電汚染物質の層に向かって誘導するために、前記イオン光学系内に磁場を適用することを更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記イオン光学系は、四重極電極システムであり、及び/又は前記荷電粒子は、陽子、電子、イオン及び/又はアニオンのうちのいずれか1つ以上を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記帯電汚染物質の層は、正帯電汚染物質の層である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記イオン光学系は、前記イオン光学系にイオンを提供するように構成されたイオン源を備える分析機器の一部であり、前記放射源は、前記汚染表面及び前記イオン源とは別個である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記イオン光学系は、イオンを前記イオン光学系に提供するように構成されたイオン源を備える分析機器の一部であり、前記荷電粒子を前記帯電汚染物質の層と相互作用させることによって前記帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和するステップは、前記イオン源からのイオン流の中断を必要とせずに実行される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
イオン光学系を動作させる方法であって、
(i)試料を前記イオン光学系に導入することと、
(ii)前記イオン光学系を使用して前記試料を操作して、排出することと、
(iii)先行請求項のいずれか一項に記載の電荷を低減する方法を前記イオン光学系に対して実行することと、
任意選択で、ステップ(i)、(ii)及び(iii)を1回以上回繰り返すことと、を含む、方法。
【請求項18】
イオン光学系であって、前記イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するように構成され、前記イオン光学系は、
表面と、
荷電粒子を生成するように構成された放射源であって、前記表面とは別個の放射源と、を備え、
前記イオン光学系は、前記荷電粒子を帯電汚染物質の層と相互作用させることによって、前記表面上の前記帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和するように構成され、
(i)前記放射源は、前記帯電汚染物質の層及び/又は前記イオン光学系と相互作用して前記荷電粒子を生成する電磁放射を放出するように構成された電磁放射源を含み、及び/又は
(ii)前記放射源は、自由電子を放出するように構成された電子源を含む、イオン光学系。
【請求項19】
前記イオン光学系は、発光材料を含み、前記電磁放射源は、前記荷電粒子を生成するために前記発光材料と相互作用する電磁放射を放出するように構成される、請求項18に記載のイオン光学系。
【請求項20】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成された、請求項18又は19に記載のイオン光学系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するためのイオン光学系及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン光学系は、イオンを操作及び輸送するために様々な分析機器において使用される。例えば、イオン光学系は、異なる領域からイオンを集束させ、輸送し、放出するために質量分析計において広く使用されている。典型的なイオン光学系に見られるイオン光学素子の例としては、イオンガイド、レンズ、カーペット及びファンネルが挙げられる。これらの素子では、イオンを操作するための適切な場が電極によって適用される。イオン光学系は、典型的には、電場及び/又は磁場をイオン光学系内に適用して、荷電イオンを操作し、荷電イオンは、そのような場を通って移動するときに電気力及び/又は磁力を受ける。いくつかのイオン光学系は、1つの領域から別の領域にイオンを輸送する唯一の機能を実行するが、いくつかのイオン光学系は、異なる時間にイオンを捕捉、輸送、及び/又は放出することができる。
【0003】
質量分析計を含む様々なシステム(例えば、真空システム)におけるイオン光学系は、表面上へのイオンの堆積によって引き起こされる汚染に悩まされ得る。これらの汚染は、イオンが堆積されるときに高度に荷電され得る。そのような汚染は、イオン光学系内に確立された場に影響を及ぼすことによって、イオン光学系の性能に悪影響を及ぼし得る。例えば、イオン光学系内の電極上の電荷の蓄積は、透過されたイオン電流を減少させ得るか、又は(例えば、四重極において)分離プロファイルの拡大を引き起こし得る。
【0004】
これらの問題を解決する試みは、多くの場合、システムを通気し、汚染領域を機械的に洗浄することを含む。イオン光学系を比較的汚染されないように維持する他の方法は、(例えば、米国特許第9,543,131号に記載されているように)露光時間を短縮するか、又は電荷蓄積がそれほど問題にならない領域にイオンを偏向させる。例えば、英国特許第2,555,032号に記載されているように、四重極ロッドにスリットを設けて、関連するロッドの表面の大部分を清浄に保つことができる。しかしながら、この技術の欠点は、四重極表面の幾何学的変化が四重極の質量分解能に影響を及ぼす(例えば、ある程度減少させる)場合があることである。
【0005】
別のアプローチは、追加の質量フィルタ又は電極を四重極に追加することであり、これは、不要な種をフィルタリングし、主要な四重極ロッドの汚染を低減する。このアプローチの例は、米国特許第7,211,788号及び米国特許第9,929,003号に見出すことができる。これらの解決策は機能することが知られているが、より長い時間間隔ではあるが、依然として追加のロッドの洗浄を必要とする。
【0006】
本開示の目的は、既存のイオン光学系に関するこれら及び他の問題に対処することである。
【発明の概要】
【0007】
この背景に対して、また第1の態様によれば、請求項1に記載の方法が提供される。請求項18に記載のイオン光学系も提供される。
【0008】
本開示は、帯電汚染領域を部分的又は完全に中和することによってイオン光学系の性能を改善しようとするものである。イオン光学系の表面上の電荷を低減することにより、帯電汚染によって引き起こされる摂動電位を低減することができる。摂動電位はイオン光学系の性能を劣化させるので、電荷を中和することは非常に有利であり得る。
【0009】
本開示の実施形態は、そのような中和を実行するために荷電粒子(例えば、陽子、電子、イオン及び/又はアニオン)を使用する。電子が使用される場合、電子は、光電子(すなわち、光電効果によって材料から放出される電子)又は熱電子(すなわち、材料からの熱電子放出によって放出される電子)などの他のタイプの電子であってもよい。
【0010】
本開示の実施形態は、高スループット質量分析システムのイオン光学系において特に有用であり得る。本開示の実施形態はまた、真空条件において、及びイオン光学系の動作中に有用である。例えば、本開示は、イオン光学系内の帯電汚染物質を周期的に除去(又は少なくとも低減)することを可能にし得る方法及びシステムを提供する。
【0011】
第1の態様によれば、本開示は、イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するための方法を提供し、汚染表面は、その上に帯電汚染物質層を有する。この方法は、イオン光学系の汚染表面とは別個の放射源を励起することによって荷電粒子を生成することと、荷電粒子を帯電汚染物質の層と相互作用させることによって帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和することとを含み、(i)放射源が電磁放射源を含み、放射源を励起することが電磁放射源に電磁放射を放出させることを含み、荷電粒子を生成することが電磁放射を帯電汚染物質の層及び/若しくはイオン光学系と相互作用させて荷電粒子を生成することを含み、かつ/又は(ii)放射源が電子源を含み、放射源を励起することが電子源に自由電子を放出させることを含む。「放射源を励起する」とは、放射源(すなわち、電磁放射源及び/又は電子源)が、電磁放射(電磁放射源の場合)及び/又は自由電子(電子源の場合)を放出するように活性化される(すなわち、オンにされる)ことを意味する。
【0012】
第1の態様によれば、電磁放射は、イオン光学系の汚染表面と相互作用して荷電粒子を生成することができる。
【0013】
第2の態様では、本開示は、イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するように構成されたイオン光学系を提供する。イオン光学系は、表面と、荷電粒子を生成するように構成された放射源とを備え、放射源は、汚染表面とは別個である。イオン光学系は、荷電粒子を帯電汚染物質の層と相互作用させることによって、表面上の帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和するように構成される。放射源は、(i)帯電汚染物質の層及び/若しくはイオン光学系と相互作用して荷電粒子を生成する電磁放射を放出するように構成された電磁放射源、並びに/又は(ii)自由電子を放出するように構成された電子源を含む。
【0014】
第2の態様によれば、電磁放射は、イオン光学系の表面と相互作用して荷電粒子を生成することができる。
【0015】
第3の態様では、上述のイオン光学系を備える分析機器が提供され、イオン光学系は、イオン光学系にイオンを提供するように構成されたイオン源を備える。放射源は、汚染表面及びイオン源とは別個であってもよい。
【0016】
これらのシステム及び方法は、イオン光学系(例えば、電極)の重要な表面上の帯電汚染物質(例えば、蓄積イオン)が荷電粒子によって少なくとも部分的に中和されることを有利に可能にする。このような電荷を中和することにより、通常使用から生じるイオン光学系の性能劣化を抑制することができる。これらの方法は頻繁に繰り返すことができるので、スループットを増加させることができる(手動整備イベント間により長い間隔が必要とされるため)。これらの方法及びシステムは、1つ以上の放射源を追加することによって既存のシステムに容易に後付けすることができるような電荷を低減する比較的低コストの方法を提供する。
【0017】
本開示はまた、その上に帯電汚染物質の層を有する汚染表面を備えるイオン光学系の汚染を低減する方法を提供し、この方法は、荷電粒子源を励起して、0eVを超える運動エネルギーを有する荷電粒子を生成することと、荷電粒子を帯電汚染物質の層に入れることによって、帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和することとを含む。これは、上述した方法と同様に、汚染物質を少なくとも部分的に中和するための荷電粒子を提供する。
【0018】
上述した利点及び様々な他の利点は、本開示から明らかになるであろう。
ここで、本開示を、添付の図を参照して、例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態におけるイオン光学系を示す。
【
図2】第2の実施形態におけるイオン光学系を示す。
【
図3】第3の実施形態における四重極イオン光学系を示す。
【
図4】第4の実施形態の四重極イオン光学系を示す。
【
図5】分離プロファイルに対する汚染の影響を示す。
【
図6】分離プロファイルに対する本開示の実施形態の効果を示す。
【
図7】本開示の実施形態が実施されている間のイオンの連続透過を示す。
【
図8】第5の実施形態における放射源及び四重極電極の配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1には、イオン光学系100の第1の実施形態の概略図が示されている。イオン光学系100は、その上に帯電汚染物質102の層を有する汚染表面101を備える。帯電汚染物質102の層は、汚染表面101に沿って正電荷(+)を有するものとして示されている。イオン光学系100はまた、荷電粒子を生成するように構成された放射源103を備える。この実施形態では、荷電粒子は電子(e-として示される)であるが、他のタイプの荷電粒子を使用することもできる。放射源103は、汚染表面101とは別個である。
【0021】
図1の実施形態では、放射源103は、破線の矢印によって示されるように、電磁放射を放出する。電磁放射は電子の放出を引き起こし、これは別の形態の放射、すなわちβ放射である。これらの電子の経路は実線の矢印で示されている。
【0022】
使用中、イオン光学系100は、イオン光学系100の汚染表面101上の電荷を低減するための方法を実行する。電子は、放射源103による電子の励起に続く光電効果を通じて生成される。イオン光学系100は、電子を帯電汚染物質102の層と相互作用させることによって、帯電汚染物質102の層の少なくとも一部を中和する。これにより、電子が帯電汚染物質102の層の電荷を中和し、それによって帯電汚染物質102の層を部分的に中和することができる。
【0023】
図1の放射源103は光電効果によって電子を生成し、放射源103は電磁放射源である。放射源103を励起することは、電子を生成するように(すなわち、光子に光電子を生成させることによって自由電子を間接的に生成するように)電磁放射源103に電磁放射を放出させることを含む。イオン光学系100は、発光材料を含み、電子(又は他の荷電粒子が使用される場合、他の荷電粒子)を生成することは、電磁放射を発光材料と相互作用させて電子を生成することを含む。電磁放射源は発光材料に向けられてもよく、及び/又は適切な光学系が電磁放射を発光材料に向けて誘導してもよい。
【0024】
図1の実施形態では、発光材料は、イオン光学系100の2つの別個の要素内に存在する。発光材料104の第1の部分は、汚染表面101とは別個である。更に、汚染表面101自体が発光材料の第2の部分として機能する。
【0025】
使用中、放射源103は、発光材料の部分に向かって移動し、発光材料の部分と相互作用する電磁照射(例えば、UV光照射)を放出することによって、汚染表面101を放電及び洗浄するための電子を生成する。この放射は、汚染表面101自体に電子を放出させ(本明細書では「内部光電効果」と記載される)、発光材料の第1の部分104に自由電子を放出させる(本明細書では「外部光電効果」と記載される)。したがって、
図1の第1の実施形態では、放射源103は、2つの異なる方法で光電子を生成するように構成される。次いで、これらの光電子は、帯電汚染物質102を少なくとも部分的に中和し、それによって汚染表面101上の電荷を減少させる。
【0026】
外部光電効果の場合、
図1に示されるように、電子は、典型的には、比較的低いエネルギーで汚染領域の周囲の金属表面(又は他の発光表面)を離れ、電荷だけによって引き付けられている帯電汚染領域に向かって飛ぶ。
図1における電子の湾曲した経路は、自由電子が帯電汚染物質102に向かって方向付けられ得る道筋を示す。
【0027】
場合によっては、比較的高い電圧が電極上に存在してもよく、光電子が加速されて、二次電子、脱離した中性粒子、真空紫外線(vacuum ultraviolet、VUV)及びX線制動放射(X-ray bremsstrahlung)も生成することができる。したがって、本開示は、高速電子による衝撃を使用して汚染表面101を洗浄する方法も提供する。したがって、一般論として、本開示のイオン光学系は、1つ以上の電極を備えてもよく、本明細書に説明される方法は、荷電粒子(例えば、自由電子)を加速し、それによって、帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和するための追加の放射を生成するために、イオン光学系の少なくとも1つの電極に電圧を印加することを含んでもよい。これは、帯電汚染物質の中和を高めることができる。場合によっては、本方法は、イオン光学系内に磁場を適用して、電子又は他の荷電粒子を帯電汚染物質の層に向かって誘導することを伴ってもよい。これもまた、電荷の中和を改善することができる。
【0028】
内部光電効果の場合、汚染物質102の層の下の発光材料(例えば、金属)からの可動電子は、汚染表面101に移動する。いくつかの光子は、周囲の表面(例えば、周囲の金属表面)から反射された後に汚染領域に到達し得る。層の厚さは、好ましくは、電磁放射(例えば、UV光子)に対して透過性であるように十分に薄い。典型的な厚さは、5nm超から数マイクロメートル(例えば、1~2μm)までであり得る。このような層は、本開示を用いて完全に又は少なくとも部分的に中和することができる。場合によっては、汚染物質の層が1~2μmの厚さを有する場合、その層はほぼ完全に中和され得る。
【0029】
好ましい実施形態では、発光材料は金属材料である。金属材料は、中和を行うのに十分多い数の電子の生成を可能にする適切な仕事関数を有することができる。したがって、金属は良好な電子源となり得る。しかしながら、他の材料が使用されてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、発光材料は、イオン光学系の汚染表面を含む。汚染表面は、例えば、イオン光学系の電極の表面であってもよい。イオン光学系内の電極は、通常動作中に汚染される場合がある。本開示のいくつかの実施形態は、電極が、帯電汚染物質を中和するために使用され得る電子又は他の荷電粒子の良好な供給源としても機能し得るという事実を利用する。
【0031】
図1において、発光材料104の第1の部分は、一般的な発光材料として示されている。発光材料104の第1の部分は、イオン光学系の電極であってもよく、又は発光材料104の第1の部分は、汚染表面101の近くの別の発光表面であってもよいことが理解されよう。場合によっては、イオン光学系は、複数の電極を備えてもよく、汚染表面は、複数の電極のうちの1つであってもよく、発光材料は、複数の電極のうちの別のもの(又はイオン光学系内の何らかの他の発光表面)であってもよい。複数の電極の各電極は、汚染される場合があり、複数の電極の各電極は、複数の電極の別の電極を洗浄するための電子を提供するように構成されてもよい。したがって、イオン光学系は、発光材料の少なくとも一部とは別個の1つ以上の電極、及び/又は発光材料の少なくとも一部である1つ以上の電極を備えてもよい。
【0032】
本明細書に記載の電磁放射源は、紫外線(UV)放射源を含んでもよい。UV光は、一般的な発光材料から電子の放出を引き起こすのに適切なエネルギーを有する光子を提供することができる。使用される光の波長は、発光材料の仕事関数に応じて変えることができる。本明細書に記載される電磁放射源は、1つ以上の発光ダイオード(light emitting diode、LED)を含み得る。LEDは広く利用可能であり、電子を生成するための適切なエネルギーを有する光子を提供することができる。しかしながら、他の光子源が提供されてもよい。
【0033】
図1に示される第1の実施形態では、放射源103は、2つの異なる方法で光電子を生成するように構成される。しかしながら、電子を提供する他の方法も可能である。
【0034】
図2には、イオン光学系200の第2の実施形態の概略図が示されている。この実施形態は、汚染表面101がその上に帯電汚染物質102の層を有するという点で、
図1のイオン光学系100と同様である。汚染表面101及び帯電汚染物質102は、
図1に関連して上述した通りである。
【0035】
図2のイオン光学系200の放射源203は、
図1のイオン光学系100の放射源とは異なる。この第2の実施形態では、放射源203は、自由電子を放出し(すなわち、自由電子を直接生成し)、したがって、
図1のような電磁放射源ではなく、ベータ放射源である。イオン光学系200の放射源203が励起されると、イオン光学系200は、放射源203によって放出された自由電子を帯電汚染物質102の層と相互作用させることによって、帯電汚染物質102の層の少なくとも一部を中和する。したがって、汚染表面101上の電荷は減少する。加速された自由電子はまた、汚染物質102を蒸発させることができ、これは、蒸発した材料が適切な動作表面にとって重要な他のものを被覆しない場合に有益であり得る。
【0036】
放射源203は、様々なタイプの放射源とすることができる。例えば、自由電子は高温フィラメントからの電子の熱放出によって生成され得る。タングステン及びレニウムなどの様々な材料を使用することができる。いくつかの実施形態では、電界放出源を使用することができる。
【0037】
図1及び
図2のシステムは組み合わされてもよい。例えば、少なくとも1つの電磁放射源(例えば、103)及び少なくとも1つのベータ放射源(例えば、203)が単一のシステム内に設けられてもよい。他の放射源も存在し得る。
【0038】
先に使用された一般論に戻ると、いくつかの実施形態では、放射源は電子源を含み(すなわち、荷電粒子は電子であってもよい)、放射源を励起することは、電子源に自由電子を放出させることを含む。したがって、そのような場合、放射源はベータ放射源である。電子源は、イオン光学系の汚染表面とは別個であることが好ましく、電子源はフィラメントを含むことができる。放射源を励起することは、フィラメントを加熱して自由電子を放出することを含むことができる。汚染物質の性質及び必要とされる電子のエネルギーに応じて、フィラメントのための様々な材料を選択することができる。
【0039】
上述した実施形態では、電荷を低減するために荷電粒子として電子を用いたが、他の荷電粒子を用いることもできる。例えば、ある実施形態は、放電を行う自由電子に関して説明されるが、放電は、実際には、陽子、電子、イオン、及び/又はアニオンなどの任意のタイプの電荷キャリアによって行われ得る。したがって、いくつかの実施形態は、陽子源、イオン源、及び/又はアニオン源を使用して荷電粒子を生成し、それらの荷電粒子を汚染物質の層と相互作用させることとを含み得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、荷電粒子は電磁放射によって活性化されてもよい。この活性化は、荷電粒子を可動化させることができ、荷電粒子は荷電分子に引き付けられ、それによってそれらの分子を中和することができる。例えば、可動陽子は帯電を行うことができ、又は堆積物自体内の可動電子又はイオン/アニオンは放電を行うことができる。これらの機構は、
図1及び
図2に関連して上述した機構に加えて、又はその代わりに実行されてもよい。
【0041】
次に、
図3及び
図4を参照すると、本開示の第3及び第4の実施形態が、Thermo Scientific(商標)Orbitrap Exploris(商標)480質量分析計内(これは四重極イオン光学系として説明され得る)。265nm発光波長(4.68eV)の6個のUV LEDを、四重極の両側に配置するため、放出されたUV光は、四重極ハウジングの開口部(スリット)を貫通し、四重極ロッドの内面上に部分的に落下する。四重極ハウジング内のスリットは、多くの既知の四重極の構造的特徴であり、したがって、スリットは、いかなる修正も必要とされることなく既存のイオン光学系内にすでに存在する。これは、本開示の実施形態の容易な後付けを可能にし得る。
【0042】
一般的な意味では、本明細書で説明されるイオン光学系は、1つ以上の開口部(例えば、幅よりも長い細長い開口部であるスリット)を有するハウジングを備えてもよい。本明細書に記載の方法は、放射(例えば、
図1並びに
図3及び
図4の電磁放射、又は
図2の自由電子)に1つ以上の開口部を通過させることを更に含んでもよい。放射が電磁放射である場合、これは、電磁放射を発光材料と相互作用させて電子を生成させ得る。電子又は他の荷電粒子はまた、ハウジング内のそのような開口部(スリット)を通過させられてもよい。
【0043】
図3及び
図4において、UV LEDは、ロッドの照射の効率を増加させるために、イオン軸平面に対して上又は下にわずかに変位される。これは、
図8及び
図9に関連してより詳細に説明される。四重極ロッドは、予めユビキチンで汚染されている。本開示の実施形態を使用しない場合、ユビキチンの更なる堆積は、汚染領域の急速な帯電をもたらし、これは分離プロファイルの拡大を引き起こす。拡大は、
図5に示すように、低m/z69でFlexMix較正溶液を用いて観察することができる。異なる曲線は、ユビキチンイオンへの四重極の異なる曝露時間に対応する。10μl/分又は250ng/分のユビキチン流に対応する濃縮ユビキチン溶液の直接注入を、これらのデータセットに使用する。
図5では、最初の2時間の動作後にm/z69分離プロファイルの拡大が見られる。
【0044】
UV LEDをオンにしてユビキチンの堆積を繰り返すと、
図6に示すように、57時間後であっても分離プロファイルの拡大は観察されない。特に、四重極は、
図7に示されるように、光電子の存在にもかかわらず、通常通り動作し続け、イオンを透過させる。イオン及び電子は、それらの極めて低い濃度が四重極におけるイオンの滞留時間(典型的にはマイクロ秒程度である)にわたって相互作用の確率を無限小にするので、干渉しない。必要に応じて、四重極中和及び動作期間を変更することができる。したがって、本開示の実施形態は、整備又は洗浄の間隔を大幅に増加させることができることが分かる。
【0045】
次に
図8を参照すると、放射源及び四重極電極の配置が第5の実施形態に示されている。
図8の配置は、内部及び/又は外部光電効果を使用する実施形態を含む、前述の実施形態のいずれかにおいて実施することができる。
図8(a)は側面図であり、
図8(b)は正面図である。
図8において、複数の放射源1が、四重極ロッド2に面するように示され、四重極ロッド2に近接して位置付けられている。
図8では、放射源がロッドの長さに沿って間隔を置いて配置されていることが分かり得る。すなわち、各放射源は、ロッドの長さに沿って異なる距離にある。更に、LEDは、ロッドの軸からずれている。放射源1は、UV LEDなどのLEDであることが好ましいが、他の放射源を同様の配置で設けることもできる。
【0046】
図9は、
図8の配置の利点を示す。
図9(a)は放射源の水平配置を示し、
図9(b)は放射源の変位配置を示す。四重極内の光の透過を概略的に示す図である。
図9(a)及び
図9(b)では、放射源1は四重極ロッド2に面しており、四重極ロッド2はその上に汚染物質3(小さな長方形として示されている)を有する。
図9(b)から分かるように、汚染領域のより大きな表面積が、
図9(b)の変位した配置を使用して照射される。
【0047】
イオン光学系が一対の電極(又は任意の他の対の汚染表面)を備える場合、一対の電極を二等分する平面が存在する。
図9に示されるように、1つ以上の(すなわち、複数の)放射源が、一対の電極を二等分する平面から変位される(すなわち、平面上に位置付けられない)ことが有利であり得る。これは、照射され、したがって中和される電極の面積を増加させ得る。いくつかの実施形態では、イオン光学系は、複数対の電極及び複数の放射源を備えてもよく、各放射源は、それぞれの電極対を二等分する平面から変位される。電極対のいずれかを二等分する平面上に放射源がないことが有利であり得る。
【0048】
本明細書に記載の実施形態は、分析機器内の構成要素に適用することができる。実際、本明細書に記載されるイオン光学系は、イオン光学系にイオンを提供するように構成されたイオン源を備える分析機器の一部であり得る。汚染表面の電荷汚染を低減する本明細書に記載の方法は、分析機器の任意の構成要素(イオン源を除く)に適用することができる。
【0049】
例示的な分析機器1の概略図が
図10に示される。
図10に概略的に示すように、例示的な分析機器1は、イオン源10と、質量フィルタ20と、断片化装置30と、質量分析器40とを含む。
図10は単なる概略的なものであり、機器は任意の数の1つ以上の追加の構成要素を含むことができ、実施形態ではもちろんイオン光学装置など、任意の数の1つ以上の追加の構成要素を含むことに留意されたい。例えば、分析機器1は、例えば、イオンの一部又は全部が機器1を通して適切に透過され得るように構成された大気圧インターフェースを含む、図示される構成要素のいずれかの間に配置された1つ以上のイオン移送ステージを含んでもよい。イオン移送ステージは、任意の適切な数及び構成のイオン光学装置、例えば、1つ以上のイオンガイド、レンズ及び/又は他のイオン光学装置を任意選択で含むことができる。
【0050】
本明細書に記載されるイオン光学系は、分析機器1の記載された構成要素のいずれか(イオン源10を除く)を備えてもよく、同様に、汚染表面は、分析機器1の記載された構成要素のいずれか(イオン源10を除く)の表面であってもよい。同様に、本明細書に記載される光学系の汚染表面上の電荷を低減する方法は、分析機器1の任意の構成要素(イオン源10を除く)の表面に適用することができる。特に、イオン光学系は、質量フィルタ20及び/又は断片化装置30及び/又は質量分析器40の少なくとも一部及び/又は分析機器1の他の光学装置を備え得る。汚染されるイオン光学系の表面は、質量フィルタ20の表面及び/又は断片化装置30の表面及び/又は質量分析器40の表面及び/又は分析機器1の他の光学装置の表面であってもよい。例として、汚染表面は、分析機器1の構成要素の電極の表面であってもよい。質量フィルタ20は特に汚染されやすいので、本明細書で説明する汚染表面上の電荷を低減する方法は、分析機器1の質量フィルタ20に最も有効に適用することができる。同様に、好ましい実施形態では、イオン光学系は、分析機器1の質量フィルタ20を備え、汚染表面は、質量フィルタ20の表面である。
【0051】
イオン源10は、試料からイオンを生成するように構成されている。イオン源10は、液体クロマトグラフィー(liquid chromatography、LC)分離装置、ガスクロマトグラフィー(gas chromatography、GC)分離装置、又はキャピラリー電気泳動分離装置などの分離装置(図示せず)に結合され得、それにより、イオン源10においてイオン化される試料は、分離装置からもたらされる。イオン源10は、エレクトロスプレーイオン化(electrospray ionisation、ESI)イオン源、大気圧イオン化(atmospheric pressure ionisation、API)イオン源、化学イオン化イオン源、電子衝撃(electron impact、EI)イオン源、又は類似物などの任意の適切なイオン源であり得る。多数の他のタイプのイオン化が可能である。
【0052】
上述したように、本開示の方法及び本開示のイオン光学系は、放射源(
図10には図示せず)を用いる。放射源は、
図1、
図3及び
図4によって例示されるような電磁放射源及び/又は
図2によって例示されるような自由電子源を含んでもよい。放射源は、分析機器1のイオン源10とは別個である。放射源は、イオン光学系の一部を形成する構成要素の汚染表面とは別個である。イオン光学系の放射源は、分析機器1のイオン源10とは別個であるため、帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和することは、イオン源10からのイオン流の中断を必要としない。実際、イオン源10は、放射源の励起中、及び励起によって生成された荷電粒子との相互作用による帯電汚染物質の層の一部の中和中に動作させることができる。換言すれば、帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和することは、イオン源10からイオンが流れている間に行うことができる。
【0053】
図3及び
図4の実施形態の文脈で論じたように、放射源は、任意選択で、分析機器の構成要素を取り囲むハウジングの外側に配置されてもよく、放射線、自由電子又は他の荷電粒子がハウジング内の開口部を通過して、ハウジング内の構成要素の汚染表面を中和する。代替として、
図8及び
図9の実施形態の文脈で説明されるように、放射源は、分析機器の構成要素に近接して位置付けられてもよい。任意選択で、
図8及び
図9によって例示されるように、複数の放射源を使用することができる。
【0054】
分析機器1は、追加的に又は代替的に、イオン源の下流に配置され、かつ物理化学的特性に従って試料イオンを分離するように構成されたイオン分離装置(図示せず)を含んでもよい。例えば、機器1は、イオン移動度(ion mobility、IM)セパレータ、微分イオン移動度セパレータ、又はイオンをそれらの質量電荷比(m/z)に従って分離するように構成された装置を含んでもよい。本明細書で説明されるイオン光学系は、そのようなイオン分離装置を備えてもよく、汚染表面は、イオン分離装置の表面であってもよい。
【0055】
質量フィルタ20は、イオン源10の下流に配置され、イオン源10から(任意選択で、イオン分離装置を介して)イオンを受け取るように構成される。質量フィルタ20は、受け取ったイオンをそれらの質量電荷比(m/z)に従ってフィルタリングするように構成される。質量フィルタ20は、質量フィルタのm/z透過窓(又は「分離窓」)内のm/zを有する受け取られたイオンが質量フィルタによって前方に透過される一方で、m/z透過窓の外側のm/zを有する受け取られたイオンが質量フィルタによって減衰される、すなわち質量フィルタによって前方に透過されないように構成することができる。透過窓のm/z幅及び/又は中心m/zは、例えば、質量フィルタ20の電極に印加されるRF及び/又はDC電圧の好適な制御によって制御可能(可変)であり得る。したがって、例えば、質量フィルタ20は、比較的広いm/z窓内のほとんど又は全てのイオンが質量フィルタ20によって前方に透過される透過動作モードと、比較的狭いm/z窓(所望のm/zを中心とする)内のイオンのみが質量フィルタ20によって前方に透過されるフィルタリング動作モードとで動作可能であってもよい。質量フィルタ20は、四重極質量フィルタなどの任意の好適なタイプの質量フィルタであり得る。
図3及び
図4は、特許請求される発明の実施形態が四重極質量フィルタに適用された例である。
【0056】
断片化装置30は、質量フィルタ20の下流に配置され、質量フィルタ20によって透過されたほとんど又は全てのイオンを受け取るように構成される。断片化装置30は、受け取られたイオンの一部又は全部を選択的に断片化するように、すなわち断片イオンを生成するように構成され得る。断片化装置30は、断片イオン(断片イオンは次いで断片化装置30から前方に透過され得る)を生成するためにほとんど又は全ての受け取られたイオンが断片化される断片化動作モードと、ほとんど又は全ての受け取られたイオンが(意図的に)断片化されることなく前方に透過される非断片化動作モードとで動作可能であり得る。イオンに断片化装置30をバイパスさせることによって、非断片化動作モードを実施することも可能である。断片化装置30はまた、例えば、断片化の程度が制御可能(可変)である1つ以上の中間動作モードで動作可能であってもよい。断片化装置30はまた、例えば、断片イオンが断片化装置30によって1回以上更に断片化される、高次(MSN)断片化動作モードで動作可能であり得る。
【0057】
断片化装置30は、例えば、衝突誘起解離(collision induced dissociation、CID)断片化装置、電子誘起解離(electron induced dissociation、EID)断片化装置、光解離断片化装置などの任意の適切なタイプの断片化装置であり得る。多数の他のタイプの断片化が可能である。
【0058】
質量分析器40は、断片化装置30の下流に配置され、断片化装置30からイオンを受け取るように構成される。したがって、質量分析器40は、断片化装置30の動作モードに応じて、断片化されていない前駆体イオン及び/又は断片イオンを受け取り得る。質量分析器40は、イオンの質量電荷比(m/z)及び/又は質量を決定するために、すなわちイオンの質量スペクトルを生成するために、受け取ったイオンを分析するように構成される。質量分析器40は、任意の適切なタイプの質量分析器、例えば、イオントラップ質量分析器、静電軌道トラップ質量分析器(Thermo Fisher Scientificによって製造されたOrbitrap(商標)FT質量分析器など)、多重反射飛行時間型(multi-reflecting time-of-flight、MR-ToF)質量分析器などの飛行時間型(time-of-flight、ToF)質量分析器、又は四重極質量分析器であり得る。他の多くのタイプの質量分析器が可能である。
【0059】
いくつかの実施形態では、機器1は、1つ以上の質量分析器を含んでもよい。例えば、機器1は、欧州特許第3,410,463号に記載されるタイプの二重質量分析器ハイブリッド質量分析計であってもよく、その内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0060】
また、
図10に示すように、機器1は、機器の様々な構成要素の動作を制御し、例えば機器の様々な構成要素に印加される電圧を設定する、適切にプログラムされたコンピュータなどの制御ユニット50の制御下にある。制御ユニット50はまた、分析器を含む様々な構成要素からデータを受け取り、処理し得る。制御ユニット50は、イオン源10の動作及び放射源の動作を独立して制御するように構成されてもよい。
【0061】
機器は、様々な動作モードで動作可能であってよい。特に、機器は、MS1動作モード及びMS2動作モードで動作可能なタンデム質量分析計であってもよい。
【0062】
MS1(又は「全質量スキャン」)動作モードでは、例えば、広いm/z範囲(例えば、全質量範囲)の断片化されていない(「前駆体」又は「親」)イオンが分析器40によって分析され、MS1スペクトルが生成されるように、質量フィルタ20は、その透過動作モードで動作し、断片化装置30は、その非断片化動作モードで動作する。
【0063】
MS2動作モードでは、例えば、選択された狭いm/z範囲の前駆イオンが断片化され、結果として生じる断片(「生成物」又は「娘」)イオンが分析器40によって分析されて、MS2スペクトルを生成するように、質量フィルタ20は、そのフィルタリング動作モードで動作し、断片化装置30は、その断片化動作モードで動作する。
【0064】
機器はまた、例えば、MS3動作モードなどの1つ以上の高次断片化動作モードで動作可能であってもよく、それによって、前駆体イオンが断片化され、得られた断片イオンのうちの少なくとも一部がそれ自体断片化され、第2世代断片イオン(「孫娘イオン」)が分析器40によって分析され、MS3スペクトルが生成される。全般的に、機器は、任意の順序の断片化動作モード、すなわち、N≧2であるMSN動作モードで動作可能であってもよい。
【0065】
前述の利点を保持しながら、多くの変形が、上記のシステム及び方法に対して行われ得ることが理解されよう。例えば、特定の構成要素について説明してきたが、同じ又は同様の機能を提供する代替の構成要素を提供することができる。
【0066】
本開示は主に正帯電汚染について論じているが、負帯電汚染は、電子衝撃によって、及び/又は電磁放射(例えば、UV光)によって直接中和することができる。したがって、本明細書に記載の方法及びシステムでは、帯電汚染物質の層は、正帯電汚染物質の層又は負帯電汚染物質の層であってもよい。
【0067】
本開示の実施形態は、適切な位置に放射源(例えば、UV源などの電磁放射源、又はフィラメント)を追加するだけで、イオン光学系の幾何形状を変更することなく、様々なイオン光学系において使用することができる。したがって、本開示は、既存の解決策と比較して普遍的な解決策を提供する。更に、本開示の実施形態は比較的低コストであり、LEDは、それらの寿命を延ばすために、それらの公称電力よりはるかに低い電力で動作させることができる。
【0068】
本開示の実施形態は、イオンガイド及びイオントラップ(例えば、四重極)などの様々なイオン光学系において使用することができる。場合によっては、磁場を使用して電子を誘導することができる。異なる電磁放射源(例えば、UV光)が真空領域の外側に配置されてもよく、放射は光ファイバ又は窓を介して入射する。
【0069】
本開示の実施形態は、様々な数の放射源を使用することができる。いくつかの実施形態は6個のLEDを使用するが、放射源の数、タイプ、及び配置は変更され得ることが認識されるであろう。
【0070】
四重極などのRF及び/又はDCイオン光学系のいずれの汚染表面も、そのようなシステムがガスで充填されている場合を含めて、本開示の実施形態で処理することができる。いくつかの実施形態では、ガス圧は、電子の平均自由行程が、異なる電位の最も近い電極間の最小ギャップよりも著しく小さくなるレベルに達する(例えば、達するように調整される)ことができる。したがって、一般化すると、本開示の実施形態は、電子の平均自由行程がイオン光学系内の電極間の間隔(例えば、隣接する電極間の最も近い距離)よりも小さくなるように、イオン光学系内(例えば、四重極などのトラップのハウジング内)のガス圧を制御することを含んでもよい。使用されるガス圧は、ガス圧が内部光電効果に対して重要な役割を果たさないので、外部光電効果に対してより関連性がある。より高いガス圧であっても、特定のエネルギーを有する電子は、帯電領域からの多重散乱後に汚染物質に到達することができる。
【0071】
前述したように、電子のエネルギーは、特定の汚染物質及び特定の汚染表面に応じて変化し得る。光電効果が使用される場合、電磁放射のエネルギーは、電子が発光材料(例えば、固体金属)を離れるのに必要とされる少なくとも最小エネルギー(例えば、仕事関数)を有するように選択され得る。電子は、電極のRF及び/又はDC電圧によって加速され得、及び/又は不純物に起因する電位によっても影響を受け得る。電子エネルギーは、0eV~3keV(又は最大2keV、又は1keVなど)で変化し得る。状況に応じて、他の値も使用することができる。光子エネルギーは、フェルミエネルギーにおける電子分布及び吸着質の可能な効果を考慮するために、発光材料の仕事関数±最大2eV、又は最大1eVとして設定することができる。
【0072】
仕事関数は、表面の清潔度及び測定技術に応じて、ステンレス鋼については4.4~4.5eVであり、インバー(Fe-36Ni)については4.5~5eVである。金で被覆されたインバーからの光電子も使用することができ、4.8~5.4eVの様々な仕事関数が報告されている。したがって、いくつかの実施形態では、電子は、発光面が形成される材料の仕事関数よりも大きいエネルギーを有することができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、電極(例えば、ロッド)は、光電子の生成を促進するために、より低い仕事関数を有する金属で被覆されてもよい。例えば、一般論として、イオン光学系の少なくとも1つの電極(及び任意選択で汚染表面)は、被覆電極の材料よりも低い仕事関数を有する材料で少なくとも部分的に(又は完全に)被覆された被覆電極であってよい。トンネル電流は、タンパク質において5nm未満の距離に対して役割を果たし得るが、インバー(一般的な材料)の仕事関数は約4.5~5eVであるので、トンネルによる実質的な中和は、汚染厚さ>5nmに対して起こりそうにない。いずれにしても、少なくともいくつかの電子は、厳密に自由電子であることなく、汚染表面から汚染物質の層に移動され得る。これらの電子は可動電子である。
【0074】
本明細書に記載される方法及びシステムは繰り返し使用され得ることが認識されるであろう。例えば、イオン光学系は、少なくとも部分的に繰り返し中和されてもよい。したがって、本開示はまた、一般化すると、イオン光学系を動作させる方法を提供し、方法は、試料をイオン光学系に導入することと、イオン光学系を使用して試料を操作して、排出することと、イオン光学系に対して、本明細書に記載される電荷を低減するための方法のいずれかを実行することと、を含む。これらのステップは、1回以上繰り返してもよい。例えば、これらのステップは、規則的な間隔で、又は試料の各ローディングの間に繰り返され得る。場合によっては、本方法は、試料が捕捉され、輸送され、又は別様に操作されている間に、連続的に行われてもよい。これらの方法を用いることにより、イオン光学系の性能を確実に維持することができる。
【0075】
本明細書に開示される各特徴は、別段の指定のない限り、同一、同等、又は類似の目的を果たす代替的な特徴によって置き換えられ得る。したがって、別段の指定のない限り、開示される各特徴は、一般的な一連の同等又は類似の特徴の単なる一例である。
【0076】
特許請求の範囲内を含む本明細書において使用される場合、文脈が別様に示さない限り、本明細書における用語の単数形は、複数形を含むものとして解釈され、文脈により可能な場合、その逆も同様である。例えば、文脈が別様に示さない限り、特許請求の範囲に含まれる本明細書における「a」又は「an」など(電極(an electrode)又は表面(a surface)など)の単数形の言及は、「1つ以上」(例えば、1つ以上の電極、又は1つ以上の表面)を意味する。本開示の説明及び特許請求の範囲を通じて、語「備える(comprise)」、「含む」(including)、「有する(having)」、及び「包含する(contain)」、並びに語の変形、例えば「備えている(comprising)」及び「備える(comprises)」又は同様のものは、説明されている特徴が、追随する追加の特徴を含み、他の構成要素の存在を排除するとは意図されない(及び排除しない)ことを意味する。
【0077】
本明細書において提供されるありとあらゆる例、又は例示的な文言(「例えば(for instance)」、「~など(such as)」、「例えば(for example)」、及び同様の文言)の使用は、単に、本開示をより良く例示することを意図され、特に特許請求されない限り、本開示の範囲への限定を示すものではない。本明細書におけるいずれの文言も、特許請求されていないいかなる要素も本開示の実施に不可欠なものとして示すものとして解釈されるべきではない。
【0078】
本明細書に記載された任意のステップは、別段に記載されていない限り、又は文脈により別の意味が必要とされない限り、任意の順序で、又は同時に実行され得る。更に、あるステップがあるステップの後に実行されると説明されている場合、これは、介在ステップが実行されていることを排除するものではない。
【0079】
本明細書で開示される態様及び/又は特徴の全ては、そのような特徴及び/又はステップの少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせることができる。特に、本開示の好ましい特徴は、本開示の全ての態様及び実施形態に適用可能であり、任意の組み合わせで使用され得る。同様に、必須ではない組み合わせで記載された特徴は、(組み合わせではなく)別々に使用され得る。
【0080】
更に、本開示はまた、本明細書に説明されるシステムを製造及び使用する方法を提供する。例えば、本明細書に記載されるシステムのいずれかを製造する方法が提供され、本明細書に記載されるシステムを使用する方法も提供される。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するための方法であって、前記汚染表面は、その上に帯電汚染物質の層を有し、前記方法は、
前記イオン光学系の前記汚染表面とは別個の放射源を励起することによって荷電粒子を生成することと、
前記荷電粒子を前記帯電汚染物質の層と相互作用させることによって、前記帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和することと、を含み、
(i)前記放射源は電磁放射源を含み、前記放射源を励起することは、前記電磁放射源に電磁放射を放出させることを含み、前記荷電粒子を生成することは、前記電磁放射を前記帯電汚染物質の層及び/若しくは前記イオン光学系と相互作用させて前記荷電粒子を生成することを含み、並びに/又は
(ii)前記放射源は電子源を含み、前記放射源を励起することは、前記電子源に自由電子を放出させることを含む、方法。
【請求項2】
前記イオン光学系が発光材料を含み、前記荷電粒子を生成することが、前記電磁放射を前記発光材料と相互作用させて前記荷電粒子を生成することを含み、任意選択で、前記発光材料が金属材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発光材料は、前記イオン光学系の前記汚染表面を含み、好ましくは、前記汚染表面は、前記イオン光学系の電極の表面である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記発光材料の少なくとも一部は、前記汚染表面とは別個である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記電磁放射源からの光子が前記発光材料と相互作用するとき、前記発光材料が電子及び/又は光子を生成する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記イオン光学系は、1つ以上の開口部を有するハウジングを備え、前記方法が、前記電磁放射を前記1つ以上の開口部に通過させて前記発光材料と相互作用させて前記荷電粒子を生成することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記電磁放射源が、紫外線(UV)放射源を含み、及び/又は前記電磁放射源が、1つ以上の発光ダイオード(LED)を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記電子源は、前記イオン光学系の前記汚染表面とは別個であり、及び/又は前記電子源は、フィラメントを備え、前記放射源を励起することは、前記フィラメントを加熱して前記自由電子を放出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン光学系は、1つ以上の電極を備え、前記汚染表面は、前記1つ以上の電極の表面であり、任意選択で、前記方法は、電子の平均自由行程が前記イオン光学系内の電極間の間隔よりも小さくなるように、前記イオン光学系内のガス圧を制御することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記イオン光学系は、一対の電極を備え、前記放射源は、前記一対の電極を二等分する平面から変位され、任意選択で、前記イオン光学系は、複数対の電極及び複数の放射源を備え、各放射源は、それぞれの一対の電極を二等分する平面から変位される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン光学系は、1つ以上の電極を備え、前記荷電粒子を加速し、それによって前記帯電汚染物質の層の前記少なくとも一部を中和するための追加の放射を生成するために、前記イオン光学系の少なくとも1つの電極に電圧を印加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記荷電粒子を前記帯電汚染物質の層に向かって誘導するために、前記イオン光学系内に磁場を適用することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記イオン光学系は、四重極電極システムであり、及び/又は前記荷電粒子は、陽子、電子、イオン及び/又はアニオンのうちのいずれか1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記帯電汚染物質の層は、正帯電汚染物質の層である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記イオン光学系は、前記イオン光学系にイオンを提供するように構成されたイオン源を備える分析機器の一部であり、前記放射源は、前記汚染表面及び前記イオン源とは別個である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記イオン光学系は、イオンを前記イオン光学系に提供するように構成されたイオン源を備える分析機器の一部であり、前記荷電粒子を前記帯電汚染物質の層と相互作用させることによって前記帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和するステップは、前記イオン源からのイオン流の中断を必要とせずに実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
イオン光学系を動作させる方法であって、
(i)試料を前記イオン光学系に導入することと、
(ii)前記イオン光学系を使用して前記試料を操作して、排出することと、
(iii)先行請求項のいずれか一項に記載の電荷を低減する方法を前記イオン光学系に対して実行することと、
任意選択で、ステップ(i)、(ii)及び(iii)を1回以上回繰り返すことと、を含む、方法。
【請求項18】
イオン光学系であって、前記イオン光学系の汚染表面上の電荷を低減するように構成され、前記イオン光学系は、
表面と、
荷電粒子を生成するように構成された放射源であって、前記表面とは別個の放射源と、を備え、
前記イオン光学系は、前記荷電粒子を帯電汚染物質の層と相互作用させることによって、前記表面上の前記帯電汚染物質の層の少なくとも一部を中和するように構成され、
(i)前記放射源は、前記帯電汚染物質の層及び/又は前記イオン光学系と相互作用して前記荷電粒子を生成する電磁放射を放出するように構成された電磁放射源を含み、及び/又は
(ii)前記放射源は、自由電子を放出するように構成された電子源を含む、イオン光学系。
【請求項19】
前記イオン光学系は、発光材料を含み、前記電磁放射源は、前記荷電粒子を生成するために前記発光材料と相互作用する電磁放射を放出するように構成される、請求項18に記載のイオン光学系。
【請求項20】
請求項1に記載の方法を実行するように構成された、請求項18に記載のイオン光学系。
【外国語明細書】