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特開2024-169407ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169407
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241128BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20241128BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
G02B5/30
C08F8/12
C08J5/18 CEX
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024084382
(22)【出願日】2024-05-23
(31)【優先権主張番号】63/468,543
(32)【優先日】2023-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】113118901
(32)【優先日】2024-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】202410636343.0
(32)【優先日】2024-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ウェン、シャンニー
【テーマコード(参考)】
2H149
4F071
4J100
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AA23
2H149AB01
2H149AB06
2H149AB12
2H149AB15
2H149BA02
2H149FA03W
2H149FD09
2H149FD17
2H149FD23
2H149FD34
2H149FD35
2H149FD47
4F071AA29
4F071AA81
4F071AF05Y
4F071AF15Y
4F071AF20Y
4F071AF30Y
4F071AG28
4F071AG34
4F071AH12
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4J100AD02P
4J100AG04P
4J100BA03H
4J100HA09
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムを提供する。
【解決手段】前記ポリビニルアルコールフィルムは、ポリビニルアルコール樹脂を含み、前記ポリビニルアルコールフィルムを40℃の水に1分間浸漬した場合、ポリビニルアルコールの溶出量は0.20~9.00ppm/mであり、前記ポリビニルアルコールフィルムを水中で1℃/分の昇温速度で30℃から65℃まで昇温し、貯蔵弾性率(E’)対温度曲線が測定され、前記曲線は45℃~55℃の間に傾き値を有し、前記傾きの絶対値は0.20~0.70MPa/℃である。本発明のポリビニルアルコールフィルムの延伸張力が低いため、延伸時にフィルム切れにくい特性を有し、これから製造された光学フィルムは高い単体透過率及び低い赤色光の漏れ率の特性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂を含み、
40℃の水に1分間浸漬した場合、ポリビニルアルコールの溶出量は0.20~9.00ppm/mであり、水中で1℃/分の昇温速度で30℃から65℃まで昇温し、貯蔵弾性率(E')対温度曲線が測定され、前記曲線は45℃から55℃の間に傾き値を有し、傾きの絶対値は0.20~0.70MPa/℃である、
ポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールの溶出量は、1.60~7.20ppm/mであり、前記傾きの絶対値は0.20~0.60MPa/℃である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
前記傾きの絶対値は、0.25~0.60MPa/℃である、請求項2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
前記傾きの絶対値は、0.35~0.55MPa/℃である、請求項3に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
45℃で5.00~14.00MPaの貯蔵弾性率(E’)を有し、55℃で3.00~7.00MPaの貯蔵弾性率(E’)を有する、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
45℃で8.00~11.50MPaの貯蔵弾性率(E’)を有し、55℃で4.00~6.00MPaの貯蔵弾性率(E’)を有する、請求項2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
50℃の2重量%ホウ酸水溶液に30秒間浸漬したとき、13.0~30.0N/mmの延伸張力を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム
【請求項8】
前記ポリビニルアルコール樹脂は、1500~3500の平均重合度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコール樹脂は、3.5以下の多分散性指数(Polymer Dispersity Index、PDI)を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項10】
45~75μmの厚さを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルム。
【請求項12】
偏光フィルムである、請求項11に記載の光学フィルム。
【請求項13】
前記偏光フィルムは、42.5%以上の単体透過率及び5.0%未満の赤色光の漏れ率を有する、請求項12に記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)製品に関し、特に、ポリビニルアルコールフィルム及びこれから製造された光学フィルムに関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol、PVA)フィルムは、ポリビニルアルコール高分子と可塑剤を含む水溶液から塗布、乾燥されて得られた親水性材料で、高透明度、機械的強度、水溶性、良好な加工性等の特性を備えているため、包装材料又は電子機器の各種光学フィルム、例えば偏光フィルムに広く使用されている。
【0003】
ポリビニルアルコールフィルムを偏光工程で加工して得られた偏光フィルムは、特定の方向からの光だけを通さない性質を持つため、通過する光の明さを制御することができる。この性質に基づいて、偏光フィルムは各種ティスプレイ、メガネ及びウェアラブル端末に応用され、欠かせない部品となっている。偏光工程とは、一般に、膨潤、延伸、及び染色などの工程を含み、具体的に言えば、ポリビニルアルコールフィルムを溶液中に入れて前述の工程を実施することにより、染料分子をポリビニルアルコールフィルム中の分子内に拡散させ、延伸により比較的規則的な配列が得られ、偏光フィルムは配列方向に平行な光成分を吸収し、垂直方向の光成分を通過して偏光の性質を生じることができるようにする。しかしながら、従来のポリビニルアルコールフィルムは、過度の延伸張力により、偏光フィルムの製造中にフィルム切れを起こしやすいことが多かった。
【0004】
特許文献1に開示されたポリビニルアルコール薄膜などの先行技術に関しては、このポリビニルアルコール薄膜の少なくとも片面において、飛行時間型二次イオン質量分析法に基づく陽イオン解析により得られる正のシリコンフラグメントイオンの検出強度の平均値が0.001~0.01であり、この正のシリコンフラグメントイオンの検出強度の平均値はポリビニルアルコール薄膜のTD方向に平行な任意の直線上において、ポリビニルアルコール薄膜をTD方向に6等分する5点において、飛行時間型二次イオン質量分析装置に基づく陽イオン解析により得られる正のシリコンフラグメントイオンの検出強度の平均値を技術的手段として一軸延伸時に延伸切れが発生しにくいことを実現した。
【0005】
なお、従来技術には、ポリビニルアルコールの構造を変更し、ポリビニルアルコールフィルム又は偏光フィルムの製造工程を調整することで、偏光フィルムの特性を改善することも開示されている。例えば特許文献2は、偏光性能に優れると共にクロスニコル状態における赤色光の漏れの少ない偏光フィルムを開示している。また、特許文献3などの先行技術にも、偏光フィルム製造時に良好な延伸性を有し、切れにくいポリビニルアルコール系薄膜であるため、高い延伸倍率で延伸して偏光特性の高い偏光フィルムが得られ、偏光フィルム製造時のポリビニルアルコール系樹脂の溶出、析出を抑制できるため、偏光フィルム製造装置の汚染が抑えられ、高い歩留まりで製造することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】台湾特開第202233739号公報
【特許文献2】台湾特開第201719207号公報
【特許文献3】台湾特開第202400694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術において、ポリビニルアルコールフィルムを使用して偏光フィルムを製造する場合、ポリビニルアルコールフィルムは、過度の延伸張力により偏光フィルムの製造中にフィルム切れを起こしやすいことが多く、且つこのポリビニルアルコールフィルムから作られた偏光フィルムは、単体透過率が低く、赤色光の漏れ率が高いという問題を抱えていることが多い。これに関して、本発明者らは、ポリビニルアルコールフィルムを調整することにより、特定の温度及び時間で水に浸漬した場合、特定のポリビニルアルコールの溶出量を有させ、特定の条件下で測定された貯蔵弾性率(E’)対温度の曲線は、特定の温度範囲で特定の傾きの絶対値を有させることで、ポリビニルアルコールフィルムが延伸時に切れやすいという問題が改善されて、さらにその後製造された偏光フィルムの低い単体透過率及び高い赤色光の漏れ率の問題が改善されることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、本発明の一態様は、ポリビニルアルコール樹脂を含み、40℃の水に1分間浸漬した場合、ポリビニルアルコールの溶出量は、0.20~9.00ppm/mであり、水中で1℃/分の昇温速度で30℃から65℃まで昇温し、貯蔵弾性率(E')対温度曲線が測定され、前記曲線は45℃から55℃の間に傾き値を有し、傾きの絶対値は0.20~0.70MPa/℃であるポリビニルアルコールフィルムを提供する。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールの溶出量は、1.60~7.20ppm/mであり、前記傾きの絶対値は0.20~0.60MPa/℃である。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記傾きの絶対値は、0.25~0.60MPa/℃である。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記傾きの絶対値は、0.35~0.55MPa/℃である。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムは、45℃で5.00~14.00MPaの貯蔵弾性率(E’)を有し、55℃で3.00~7.00MPaの貯蔵弾性率(E’)を有する。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムは、45℃で8.00~11.50MPaの貯蔵弾性率(E’)を有し、55℃で4.00~6.00MPaの貯蔵弾性率(E’)を有する。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムは、50℃の2重量%ホウ酸水溶液に30秒間浸漬したとき、13.0~30.0N/mmの延伸張力を有する。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコール樹脂は、1500~3500の平均重合度を有する。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコール樹脂は、3.5以下の多分散性指数(Polymer Dispersity Index、PDI)を有する。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムは、45~75μmの厚さを有する。
【0018】
本発明の別の態様は、上記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供する。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記光学フィルムは、偏光フィルムである。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記偏光フィルムは、42.5%以上の単体透過率及び5.0%未満の赤色光の漏れ率を有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリビニルアルコールフィルムは、様々な用途への使用に適することができ、特に偏光フィルムなどの光学フィルムへの使用に適する。本発明の技術内容に基づいて得られたポリビニルアルコールフィルムは、偏光フィルム製造時の延伸張力が小さいため、フィルムが切れにくい。前記ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光フィルムの赤色光の漏れ率が低く、単体透過率が高い。
【0022】
さらに、本発明者らは、前記ポリビニルアルコールフィルムが温度45℃及び55℃の条件下で特定の貯蔵弾性率(E’)の範囲をそれぞれ有するように制御することで、前記ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光フィルムの赤色光の漏れ率をさらに改善できることも見出した。
【0023】
本発明の上記目的及びその他の目的、特徴、利点及び実施形態をより理解しやすくするため、図面を参照しつつ以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの貯蔵弾性率(E')対温度曲線の傾きの絶対値を分析した概略図である。
図2】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの貯蔵弾性率(E')対温度曲線の傾きの絶対値を分析した概略図である。
図3】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの貯蔵弾性率(E')対温度曲線の傾きの絶対値を分析した概略図である。
図4】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムの貯蔵弾性率(E')対温度曲線の傾きの絶対値を分析した概略図である。
図5】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムに相当する偏光フィルムの単体透過率及び赤色光の漏れ率を分析した概略図である。
図6図6(A)及び図6(B)は、本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムに相当する偏光フィルムの単体透過率及び赤色光の漏れ率を分析した概略図である。
図7】本発明の一実施形態によるポリビニルアルコールフィルムに相当する偏光フィルムの赤色光の漏れ率を分析する際のサンプリングを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の説明をより詳細かつ完全にするため、以下は、本発明の実施形態及び具体的実施例の例示的な説明を提供するが、これは、本発明の具体的実施例を実施又は運用する唯一の形態ではない。本明細書及び添付される特許請求の範囲において、文脈が別段の指示をしない限り、「一」及び「該」も複数形として解釈され得る。
【0026】
本発明を特定する数値範囲及びパラメータは、概数値であるが、ここで具体的実施例内の関連数値をできる限り正確に提示されている。ただし、任意の数値は、本質的に個々のテスト方法による標準偏差が必然的に含まれている。本明細書で述べる場合、「約」という用語は、実際値が平均の許容可能な標準誤差内にあり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者の考えによって定めることを示す。
【0027】
[ポリビニルアルコールフィルム]
本発明の一態様は、ポリビニルアルコール樹脂を含み、40℃の水に1分間浸漬した場合、ポリビニルアルコールの溶出量は0.20~9.00ppm/mであり、水中で1℃/分の昇温速度で30℃から65℃まで昇温し、貯蔵弾性率(E')対温度曲線が測定され、前記曲線は45℃から55℃の間に傾き値を有し、傾きの絶対値は0.20~0.70MPa/℃であるポリビニルアルコールフィルムを提供する。本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムは、45~75μmの厚さを有する。具体的には、下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば45μm、50μm、55μm、60μm、65μm、70μm及び75μmであり、前述の値は一例に過ぎず、これらに限定されるものではない。
【0028】
本明細書で述べる「弾性率」とは、材料力学における応力とひずみの関係を解析するために用いられる物理的特性で、応力とひずみの比である。材料にかかる応力が垂直抗力の場合に得られる弾性率はEで表される。「貯蔵弾性率(E’)」は、材料が加えられたエネルギーを吸収して変換され、材料内部に保存する成分であり、通常、変形を回復し、材料の元の外観を維持するために使用され、材料の弾性特性に関係する。
【0029】
本明細書で述べる「前記ポリビニルアルコールフィルムを水中で1℃/分の昇温速度で30℃から65℃まで昇温し、貯蔵弾性率(E')対温度曲線(以下、貯蔵弾性率対温度曲線と称する)が測定される」は、図1に示すような二重の傾き特性を持ち、変曲点温度を超えた後の傾き(図1内の破線)の絶対値が、昇温過程中のポリビニルアルコールフィルム内の結晶の水に対する溶解速度を表す。分析時の昇温速度度は一定であるため、傾きの絶対値が大きいほど、同じ時間内での結晶の溶解速度が速く、前記ポリビニルアルコールフィルム内の結晶がより小さく均一であることが分かる。特定の理論にも拘束されないが、おそらく、ポリビニルアルコールフィルム内の結晶の適当なサイズと均一性により、偏光フィルム製造時の延伸及び染色が容易になり、単体透過率が高く、赤色光の漏れ率が低い偏光フィルムが製造されると考えられる。さらに、適当な結晶により延伸時の延伸張力が低下し、フィルム切れの発生が減少する。本発明者らは、前記傾きの絶対値が大きすぎると、前記ポリビニルアルコールフィルムは機械的強度の不足により破断されやすくなり、前記傾きの絶対値が小さすぎると、前記ポリビニルアルコールフィルムは溶け残りの結晶(つまり完全に溶けないで残る結晶)が多すぎると、延伸張力が大きくなりすぎてフィルム切れが発生しやすくなる。
【0030】
したがって、延伸時の過度の延伸張力によりポリビニルアルコールフィルムが切れやすく、その後得られた偏光フィルムの単体透過率が低く、赤色光の漏れ率が高いという問題を改善するには、傾きの絶対値を特定の範囲内に制御する必要がある。具体的には、ポリビニルアルコールフィルムを水中で1℃/分の昇温速度で30℃から65℃まで昇温し、貯蔵弾性率(E')対温度曲線が測定され、前記曲線は45℃から55℃の間に傾き値を有し、傾きの絶対値は0.20~0.70MPa/℃である。具体的には、下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば0.20MPa/℃、0.25MPa/℃、0.30MPa/℃、0.35MPa/℃、0.40MPa/℃、0.45MPa/℃、0.50MPa/℃、0.55MPa/℃、0.60MPa/℃、0.65MPa/℃及0.70MPa/℃であり、好ましくは0.20MPa/℃~0.60MPa/℃であり、より好ましくは0.25MPa/℃~0.60MPa/℃、特に好ましくは0.35MPa/℃~0.60MPa/℃である。分析温度が55℃を超えると、ポリビニルアルコールフィルムの結晶化が完全に消失し、物性が急激に変化する可能性があるため、傾きの絶対値を分析する場合、設定する分析温度範囲は55℃を超えないようにすることに留意されたい。
【0031】
また、前記傾きの絶対値の分析方法については、ポリビニルアルコールフィルムは水分(空気中の水分も含む)を吸収してし、その結晶形態、分子配列等の状態に影響を与える可能性があるため、ポリビニルアルコールフィルムの貯蔵弾性率(E’)対温度曲線を測定する前、前処理により測定対象となる各ポリビニルアルコールフィルムの含水率を同じに調整することで、測定対象となる各ポリビニルアルコールフィルムの状態を同じさせることができる。含水率は、通常約8~9重量%に調整することができるが、本明細書においてこれに限定されるものではない。
【0032】
本明細書で述べる「ポリビニルアルコールの溶出量」とは、ポリビニルアルコールフィルムを水に浸漬した後、ポリビニルアルコール溶出の現象があり、水の温度が上昇し、浸漬時間が長くなるに伴い、前記ポリビニルアルコールの溶出量は多くなる。染色槽内の染色浴の温度は、一般的に約20~45℃であるため、ポリビニルアルコールフィルムの染色時もポリビニルアルコール溶出の現象がある。特定の理論にも拘束されないが、おそらく、前記ポリビニルアルコールの溶出量は、ポリビニルアルコールフィルム内の非晶質領域における自由に拡散可能なポリビニルアルコールの量に関連する。つまり前記ポリビニルアルコールの溶出量が高いほど、自由に拡散できるポリビニルアルコールが多くなることを示し、これは前記ポリビニルアルコールフィルム内の非晶質領域の構造が緩いが緊密ではないことを示し、相対的に言えば染色液は前記緩い構造を介して前記ポリビニルアルコールフィルム内に容易に拡散して入り、ポリビニルアルコールの周囲に吸着することができる。本発明者らは、前記ポリビニルアルコールの溶出量が多すぎると、前記ポリビニルアルコールフィルムが染色液を過剰に吸着しやすくなり、その後製造される偏光フィルムの色が濃くなりすぎることで、単体透過率が低くなりすぎ、ポリビニルアルコールの溶出量が少なすぎると、前記ポリビニルアルコールフィルムの延伸や染色が困難になり、その後に製造される偏光フィルムの単体透過率が低くなりすぎる場合があることを見出した。
【0033】
したがって、前記ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光フィルムの単体透過率を改善させるため、前記ポリビニルアルコールの溶出量を特定の範囲に制御する必要がある。具体的には、前記ポリビニルアルコールフィルムを40℃の水に1分間浸漬した後のポリビニルアルコールの溶出量は、0.20~9.00ppm/mであり、具体的には、下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば0.20ppm/m、1.00ppm/m、1.60ppm/m、2.40ppm/m、3.20ppm/m、4.00ppm/m、4.80ppm/m、5.60ppm/m、6.40ppm/m、7.20ppm/mppm/m、8.00ppm/m及び9.00ppm/mであり、好ましくは1.60ppm/m~7.20ppm/mである。
【0034】
本明細書で述べる「ポリビニルアルコールフィルムの45℃での貯蔵弾性率(E’)(以下、45℃での貯蔵弾性率と称する)」は、温度45℃の時前記ポリビニルアルコールフィルムの水中の結晶の溶け残り程度を表すことができる。特定の理論にも拘束されないが、おそらく、偏光フィルム製造工程における染色工程の染料吸着程度は、前記45℃での貯蔵弾性率に関係する。本発明者らは、前記45℃での貯蔵弾性率が大きいほど、45℃時ポリビニルアルコールフィルムの水中の溶け残りの結晶の程度が高くなるため、染料吸着程度が低くなり、すなわち、染料吸着量が少なくなることを見出した。ポリビニルアルコールフィルムの染料吸着量が少ない場合、延伸槽での延伸後に生成するI の生成量が低くなりすぎることで、最終的に製造される偏光フィルムが赤色光の漏れ問題が発生しやすくなる。
【0035】
したがって、前記ポリビニルアルコールフィルムの45℃での貯蔵弾性率を特定の範囲に制御することにより、製造される偏光フィルムの赤色光の漏れ率を改善することができ、具体的に言えば、前記ポリビニルアルコールフィルムの45℃での貯蔵弾性率(E’)は、5.00~14.00MPa、具体的には下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば5.00MPa、5.5MPa、6.00MPa、6.5MPa、7.00MPa、7.5MPa、8.00MPa、8.5MPa、9.00MPa、9.5MPa、10.00MPa、10.5MPa、11.00MPa、11.5MPa、12.00MPa、12.5MPa、13.00MPa、13.5MPa及び14.00MPaであり、好ましくは8.00~11.50MPaである。
【0036】
本明細書で述べる「前記ポリビニルアルコールフィルムの55℃での貯蔵弾性率(E’)(以下、55℃での貯蔵弾性率と称する)」は、温度55℃の時前記ポリビニルアルコールフィルムの水中の結晶の溶け残り程度を表すことができる。偏光フィルムの製造中、通常、55℃で延伸し、ホウ酸溶液に浸漬する。特定の理論にも拘束されないが、おそらく、偏光フィルムの製造工程における延伸工程の原フィルムの結晶の溶け残り程度は前記55℃での貯蔵弾性率に関係する。本発明者らは、前記55℃での貯蔵弾性率が大きいほど、ポリビニルアルコールの原フィルムの溶け残り程度が高くなり、ホウ酸架橋量が少なくなるということを見出した。ホウ酸架橋量が少ないと、前記ポリビニルアルコールフィルムに吸着した染料が洗い流され失われやすくなり、延伸後に生成するI 生成量が低くなりすぎることで、最終的に製造される偏光フィルムが赤色光の漏れ問題が発生しやすくなる。
【0037】
したがって、前記ポリビニルアルコールフィルムの55℃での貯蔵弾性率を特定の範囲に制御することにより、製造される偏光フィルムの赤色光の漏れ率を改善することができ、具体的に言えば、前記ポリビニルアルコールフィルムの55℃での貯蔵弾性率(E’)は3.00~7.00MPaであり、具体的には、下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば3.00MPa、3.50MPa、4.00MPa、4.50MPa、5.00MPa、5.50MPa、6.00MPa、6.50MPa及7.00MPaであり、好ましくは4.00~6.00MPaである。
【0038】
本発明のいくつかの好ましい実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムは、より低い延伸張力を有するため、偏光フィルムとして製造される際の過度の延伸張力によるフィルム切れの状況を低減することができる。具体的に言えば、50℃の2重量%ホウ酸水溶液に30秒間浸漬したとき、前記ポリビニルアルコールフィルムの延伸張力は13.0~30.0N/mmであり、具体的には、下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば13.0N/mm、15.0N/mm、17.0N/mm、19.0N/mm、21.0N/mm、23.0N/mm、25.0N/mm、27.0N/mm、29.0N/mm、30.0N/mmである。
【0039】
本明細書で述べる「平均重合度」は、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法で得られた測定値を意味する。特定の理論にも拘束されないが、おそらく、前記ポリビニルアルコールフィルムの平均重合度は、生成する結晶粒子のサイズに関係する。本発明者らは、前記平均重合度が高すぎると、前記ポリビニルアルコールの鎖セグメントが長くなり、移動しにくくなり、生成する結晶粒子のサイズが不均一になり、ポリビニルアルコールが溶出しにくくなり、前記平均重合度が低すぎると結晶が生成しにくくなり、結晶粒子も比較的不均一になるため、ポリビニルアルコールが溶出しやすくなる。したがって、サイズの均一な結晶粒子を形成するため、ポリビニルアルコールフィルムの平均重合度を特定の範囲に制御する必要があることを見出した。具体的に言えば、前記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は1500~3500であり、具体的には、下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば1500、1700、1900、2100、2300、2500、2700、2900、3100、3300及び3500である。
【0040】
本明細書で述べる「多分散性指数(Polymer Dispersity Index,PDI)」は、ポリビニルアルコール樹脂の分子量分布を記述するために用いられ、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)である。本発明のいくつかの好ましい実施形態によれば、前記ポリビニルアルコール樹脂の多分散性指数は、3.5以下であり、具体的には例えば、3.5以下、3.3以下、3.1以下、2.9以下、2.7以下、2.5以下、又は2.3以下である。特定の理論にも拘束されないが、本発明者らは前記多分散性指数が高すぎると、前記ポリビニルアルコールフィルムが低分子量のポリビニルアルコールを溶出しやすくなり、前記ポリビニルアルコールの溶出量が多くなりすぎることを見出した。
【0041】
上述したように、本発明のポリビニルアルコールフィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を含むフィルム形成材料を加工、成形して得られるフィルムである。フィルムの製造時、可塑剤、界面活性剤、又はその他の公知の添加剤をフィルム形成材料として添加する場合がある。
【0042】
使用されるポリビニルアルコール樹脂は、ビニルエステル系樹脂モノマーから重合され、重合度1500~3500及び多分散性指数3.5以下のポリビニルエステル樹脂を形成し、次いでケン化反応を経てポリビニルアルコール系樹脂が得られる。前記ビニルエステル系樹脂モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、吉草酸ビニル、オクト酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバル酸ビニル、2,2,4,4-テトラメチル吉草酸ビニル、エテニル 2,2-ジメチルプロパノエートが挙げられるが、本発明はこれらに限定されず、例えば酢酸エチレンである。前記ビニルエステル系重合体は、単量体としてビニルエステル系単量体を1種以上用いて得られる重合体であることが好ましく、単量体としてビニルエステル系単量体を1種用いて得られる重合体がより好ましい。なお、ビニルエステルポリマーは、1種以上のビニルエステル系単量体と他の共重合可能な単量体とのコポリマーであってもよい。
【0043】
前記共重合単量体としては、添加量は例えば2~4モル%であり得るが、これらに限定されず、例えば2.0、2.5、3.0、3.5又は4.0モル%などであるエチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレンなどの炭素数3~30のオレフィン類の化合物;アクリル酸又はその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸又はその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸メタクリル酸などのメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド又はその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロピルスルホン酸又はその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその塩、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド又はその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドンなどのN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸又はその塩、エステル或いは無水物;イタコン酸又はその塩、エステル或いは無水物、マレイン酸及びその塩又はエステル、プロパルギルアセテートなど;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリコン化合物;イソプロペニルアセテートなどが挙げられる。また、前記ビニルエステル系ポリマーは、これらの共重合単量体に由来する構造単位を1種以上有していてもよい。
【0044】
使用されるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、95モル%以上であり、「ケン化度」はJIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法で得られた測定値である。一又は複数の実施形態において、前記ケン化度は、例えば95モル%以上、96モル%以上、97モル%以上、98モル%以上、99モル%以上又は99.5モル%以上である。好ましくは、前記ケン化度は、99.95モル%以上、より好ましくは99.97モル%以上であり、例えば99.97モル%以上、99.98モル%以上又は99.99モル%以上である。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態によれば、本明細書で述べる「可塑剤」は、具体的にグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセロール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール又はトリメチロールプロパンなど、或いはこれらの組み合わせであるがこれらに限定されない。本発明において、好ましくはグリセリンである。また一又は複数の実施形態において、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して前記可塑剤の添加量は5~15重量%であり、具体的に例えば6重量%、7重量%、8重量%、9重量%、10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%及び15重量%であるがこれらに限定されない。好ましい実施形態において、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して前記可塑剤の添加量は10重量%である。
【0046】
上記可塑剤以外に、溶解工程において必要に応じて、界面活性剤等を含むがこれらに限定されない他の添加剤をさらに添加してもよい。界面活性剤は、陽イオン性、陰イオン性又は非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されず、具体的にはラウリン酸カリウムなどのカルボン酸塩型、ラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸塩型、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などのスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリチレングリコールモノオクチルフェニルエーテルなどのアルコールフェニルエーテル型、モノラウリン酸ポリエチレングリコールなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウラミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型、又はラウリルアルコールポリオキシエチレンエーテル硫酸ナトリウムなどであるがこれらに限定されない。界面活性剤の添加量は、ポリビニルアルコール樹脂の重量に対して600~3000ppmであるが、これに限定されるものではない。
【0047】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、前記ポリビニルアルコールフィルムは、水溶性高分子、脱泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、その他の高分子化合物又はこれらの組み合わせなどの成分をさらに含有してもよい。
【0048】
[ポリビニルアルコールフィルムの製造方法]
本発明のポリビニルアルコールフィルムの製造方法は、(a)ポリビニルアルコール系樹脂を加熱溶解し、前記ポリビニルアルコール系樹脂の濃度を調整して、ポリビニルアルコール流延溶液を形成する溶解工程、(b)前記ポリビニルアルコール流延溶液をキャストドラムに流延し、前記キャストドラムから剥離した後、予備成形フィルムを得る流延工程、(c)前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムを複数の加熱ローラと接触させた後でポリビニルアルコールフィルム予備成形品を得る加熱ローラ工程、(d)前記ポリビニルアルコールフィルム予備成形品を熱処理装置内に入れて熱処理させた後、ポリビニルアルコールフィルム半成形品を得る熱処理工程、及び(e)前記ポリビニルアルコールフィルム成形品を温湿度調節器に入れて、温度と湿度を調整してポリビニルアルコールフィルム成形品を得る温湿度調整工程を含む。
【0049】
<溶解工程>
本発明のいくつかの実施形態によれば、溶解工程は、主に重合度1500~3500及び多分散性指数3.5以下のポリビニルアルコール系樹脂、溶媒、可塑剤などのフィルム形成材料を攪拌しながら温度を140℃~160℃(例えば140℃、150℃又は160℃であるが、これらに限定されない)に上げ、溶解時間は1~3時間、例えば1時間、2時間或いは3時間であり、均一に溶解した後、ポリビニルアルコール水溶液を形成し、前記ポリビニルアルコール水溶液の濃度を25~35重量%(例えば25重量%、30重量%又は35重量%であるが、これらに限定されない)に調整してポリビニルアルコール流延液が得られる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記溶解工程で使用される溶媒は、ポリビニルアルコール樹脂を溶解できる限り、本発明において、特に限定されない。溶媒として、例えば水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどが挙げられるが、これらに限定されなく、上記の溶媒は、1種を単独で使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。環境及び経済的側面を考慮した場合、本発明において溶媒として水を使用することが好ましい。
【0051】
<流延工程>
本発明のいくつかの実施形態によれば、流延工程は、主に前記ポリビニルアルコール流延液を押出機に送って再び均一に混合され、脱泡(例えばダブルスクリュー押出機で脱泡することがこれに限定されない)された後、Tダイリップから吐出し、温度88℃~98℃(例えば90℃、93℃又は96℃であるが、これらに限定されない)の回転するキャストドラム(流延ドラムとも呼ばれる)に流延して製膜して、ポリビニルアルコール予備成形フィルムを得る。本発明のいくつかの実施形態によれば、流延工程では、押出機で再び均一に混合され、脱泡された後のポリビニルアルコール流延液の温度を少なくとも90℃以上(例えば90℃、91℃、92℃、93℃、94℃、95℃、96℃、97℃又は98℃であるが、これらに限定されない)に制御しなければならない。本発明の他の実施形態によれば、ポリビニルアルコール流延溶液を回転する高温キャストドラム時に流延する際、前記キャストドラムの温度は85~95℃であることが好ましく、ポリビニルアルコールがキャストドラムに滞留する時間は、0.6~1.2分であることが好ましい。
【0052】
<加熱ローラ工程>
本発明のいくつかの実施形態によれば、加熱ローラ工程は、主にキャストドラムから剥離した前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムの上面と下面を複数の加熱ローラで接触乾燥させた後、ポリビニルアルコールフィルム予備成形品を得る。複数の加熱ローラ(例えば13本の加熱ローラ)の温度は、高いものから低いものへと徐々に逓減し、最初の加熱ローラが全ての加熱ローラの中で温度が最も高いローラ(例えば90~99℃であるがこれに限定されなく、具体的には例えば90℃、91℃、92℃、93℃、94℃、95℃、96℃、97℃、98℃又は99℃であるが、これらに限定されず、好ましくは95℃)であり、最後の加熱ローラの温度が全ての加熱ローラの中で最も低い(例えば30~40℃であるがこれに限定されない)。
【0053】
<熱処理工程>
本発明のいくつかの実施形態によれば、熱処理工程は、主に加熱ローラから剥離した前記ポリビニルアルコールフィルム予備成形品を膜厚方向に熱輻射により加熱乾燥してポリビニルアルコールフィルム半成形品を得る工程である。前記熱処理としては、赤外線を用いることが好ましく、赤外線により加熱する際の前記ポリビニルアルコールフィルム予備成形品の膜面温度は80℃~120℃、具体的には下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば80℃、90℃、100℃、110℃及び120℃であり、加熱時間は25~35秒、具体的には下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば25秒、27秒、29秒、31秒、33秒及び35秒である。特定の理論にも拘束されないが、本発明者らは、加熱時の前記ポリビニルアルコールフィルム予備成形品の膜面温度が高すぎると、生成する結晶粒子のサイズが大きくなり、結晶分布が不均一になり、膜面温度が低すぎると、結晶粒子のサイズが小さすぎるか、結晶を形成することがさらに困難になり、前述の2つの状況がその後製造されたポリビニルアルコールフィルムの貯蔵弾性率対温度曲線の傾きの絶対値に悪影響を及ぼすことを見出した。
【0054】
<温湿度調整工程>
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品を特定の時間に温湿度調節器に入れ、再結晶化を促進するように温度及び相対湿度を調整する。前記温湿度調節器の前記温度を60℃~80℃、具体的には下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば60℃、70℃及80℃に制御でき、前記相対湿度を60%~80%、具体的には下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば60%、70%及び80%に制御でき、前記時間を3~8分、具体的には下記値又はこれらの任意の2つの間の範囲内の値、例えば3分、4分、5分、6分、7分及び8分に制御できる。特定の理論にも拘束されないが、本発明者らは、高温度及び相対湿度を上げることにより、再結晶化の作用及びポリビニルアルコールの再配列を加速して、ポリビニルアルコールフィルム内の構造の緻密性が向上し、傾きの絶対値及びポリビニルアルコールの溶出量に影響を与えることを見出した。
【0055】
[光学フィルム及びその製造方法]
本発明の別の目的は、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルムを提供することである。本明細書で述べる「光学フィルム」は、偏光フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム或いは輝度上昇フィルムなどであり得、特に偏光フィルムである。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記偏光フィルムの単体透過率は、42.5%以上であり、例えば42.5%以上、43.0%以上又は43.5%以上であり、前記偏光フィルムの赤色光の漏れ率は、5.0%未満であり、例えば小於5.0%未満、4.5%未満、4.0%未満、3.5%未満、3.0%未満、2.5%未満、2.0%未満、1.5%未満、又は1.0%未満である。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態によれば、いくつかの実施形態によれば、本出願の「光学フィルムの製造方法」は、偏光フィルムの製造方法を指し、さらにポリビニルアルコールフィルムを偏光フィルムに製造する。前記製造方法は、ヨウ化物イオンを吸着させる染色工程と、ホウ酸処理工程と、水洗工程とを含み、ホウ酸処理工程又はこの前の段階で一軸延伸の延伸工程を実施できる。好ましくは、染色工程の前に、ポリビニルアルコールフィルムを水で膨潤させる膨潤工程を設けることができる。なお、水洗工程の後に通常、最終乾燥工程が設けられる。
【0058】
膨潤工程では、上記ポリビニルアルコールフィルムを、例えば温度30℃~55℃の処理浴(例:純水)に浸漬して、フィルム表面の水洗及び膨潤処理を施す。膨潤処理時間は、通常5~300秒、好ましくは20~240秒である。いくつかの実施形態によれば、前記ポリビニルアルコールフィルムを搬送するため、処理浴を収容した膨潤タンク内に複数のガイドローラーが配置される。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向(MD、Machine Direction)に元の長さの1.05~2.5倍に延伸した後、染色工程を実施する。
【0059】
染色工程では、上記膨潤工程を経たポリビニルアルコールフィルムを、染浴を収容した染色タンクに浸漬する。染色処理の条件は、ヨウ素をポリビニルアルコールフィルムに吸着させる範囲内でフィルムに極度の溶解や失透などの不良を起こさない範囲によって決定することができる。染色工程における染浴としては、例えばヨウ素とヨウ化カリウムを含む水溶液が挙げられ、染浴中のヨウ素の濃度は0.01~0.5重量%、ヨウ化カリウムの濃度は0.01~10重量%が好ましい。具体例としては、0.037重量%のヨウ素と1.85重量%のヨウ化カリウムの濃度の水溶液を挙げることができるが、これらに限定されない。また、ヨウ化カリウムの代わりにヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよいし、ヨウ化カリウムに加えて他のヨウ化物を併用してもよい。染浴の温度は通常20~45℃で、例えば40℃の条件下で実施し、染色処理の時間(染色時間)は通常10~600秒、好ましくは30~200秒である。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの2~4倍に延伸した後、ホウ酸処理及び延伸工程を実施する。
【0060】
ホウ酸処理及び延伸工程では、ヨウ素で染色されたポリビニルアルコールフィルムをホウ酸含有水溶液で処理して架橋し、吸着したヨウ素を樹脂に定着させて実施する。前記工程は通常、染色工程を経たポリビニルアルコールフィルムを、ホウ酸含有処理浴を収容した定着槽に浸漬することにより実施される。前記ホウ酸処理浴は、ホウ酸に加えてヨウ化物を含むことが好ましく、ここで用いられるヨウ化物としては、ヨウ化カリウム又はヨウ化亜鉛などが挙げられ、例えばホウ酸とヨウ化カリウムをそれぞれ5.5重量%の濃度で含む水溶液が挙げられる。なお、ホウ酸処理浴中にヨウ化物以外の化合物、例えば塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が共存していてもよい。ホウ酸処理及び延伸工程は通常、50~70℃、例えば温度55℃下で実施され、処理時間は通常、10~600秒、好ましくは20~300秒、より好ましくは20~100秒である。次に、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの3倍以上に延伸して、その後の工程を実施する。延伸倍率の上限は特に限定されないが、例えば8倍未満であることが好ましい。延伸は、3.3倍以上、例えば3.3~8.0倍、より好ましくは3.5~6.0倍、特に好ましくは4.0~5.5倍を含むが、これらに限定されない。
【0061】
ポリビニルアルコールフィルムが上記工程及びその後の水洗工程と乾燥工程にかけられた後、偏光膜を形成した。水洗及び乾燥工程では、フィルム表面に残ったヨウ素溶液及びホウ酸を水又はヨウ化物を含む水溶液(例えば濃度5.5重量%のヨウ化カリウム水溶液などで水洗することであるがこれに限定されない)を用いて洗浄する。次に、乾燥工程(温度60℃のオーブンで5分間乾燥させることであるがこれに限定されない)を経た後、偏光フィルムが形成される。
【0062】
さらに、該偏光膜は、該偏光膜の少なくとも一方の面に貼合された保護層を含む。該保護層は、偏光膜の表面の摩耗防止などの機能を有する構成要素であることが好ましい。異なる実施形態によれば、前記保護層は前記偏光膜の片面のみに設けられてもよいし、前記偏光膜の両面に設けられてもよい。前記保護層は、透明樹脂材料の保護フィルムであり得る。透明樹脂は、メタクリル酸メチル系樹脂などのアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂(ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂など)、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリイミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂等であり得、三酢酸セルロース(TAC)などのセルロース系樹脂が好ましい。
【実施例0063】
以下では、具体的実施例を参照しつつ本発明を詳細に説明する。しかしながら、これらの具体的実施例は、本発明の理解を助けることを意図し、本発明の範囲を如何ようにも限定することを意図しないことが理解されるであろう。
【0064】
1.ポリビニルアルコールフィルムの調製
ここで、本発明はポリビニルアルコールフィルムの非限定的な調製方法を提供する。以下に開示される方法と類似の方法で、非限定的な実施例のポリビニルアルコールフィルム(実施例1~16)及び比較例のポリビニルアルコールフィルム(比較例1~6)を調製する。
【0065】
以下は、本実施例及び比較例におけるポリビニルアルコールフィルムを製造する主要工程であり、かつ以下の表1は、本実施例及び比較例の1つ又は複数の工程パラメータの違いを詳細に示す。
【0066】
溶解工程:まず、溶解バレルに特定の重合度及び多分散性指数(具体的な重合度及び多分散性指数を表1に示す)のポリビニルアルコール樹脂1800kg、水4000kg、グリセリン180kgをそれぞれ加え、撹拌しながら溶解温度を150℃に上げて、2時間溶解し、均一に溶解した後、ポリビニルアルコール水溶液の濃度を30重量%に調整して、ポリビニルアルコール流延液が得られた。実施例及び比較例におけるポリビニルアルコール樹脂は、酢酸ビニルによって重合され、変性(すなわち、他のコモノマーを含まない)されず、ケン化度99.95モル%のポリビニルアルコール樹脂であった。
【0067】
流延工程:前記ポリビニルアルコール流延液を押出機に輸送し、押出機で再び均一に混合され、脱泡された後、前記ポリビニルアルコール流延液の温度を98℃に制御してから、流延溶液をTダイリップから吐出し、温度96℃の回転するキャストドラムに流延して製膜し、ポリビニルアルコール予備成形フィルムが形成された。
【0068】
加熱ローラ工程:前記ポリビニルアルコール予備成形フィルムをキャストドラムから剥離した後、前記ポリビニルアルコール予備成形フィルの上面と下面を13本の加熱ローラで1本ずつ温度が下がりながら接触乾燥させ、1本目の加熱ローラは、全ての加熱ローラの中で最も温度が高いローラ(95℃)で、13本目の加熱ローラは全ての加熱ローラの中で最も温度が低いローラ(30℃)であり、ポリビニルアルコールフィルム予備成形品が得られた。
【0069】
熱処理工程:次に、前記ポリビニルアルコールフィルム予備成形品を赤外線で30秒間加熱乾燥させ、赤外線加熱時の膜面温度を特定の範囲(具体的な加熱時の膜面温度を表1に示す)に制御して、ポリビニルアルコールフィルム半成形品が得られた。
【0070】
温湿度調整工程:続いて、前記ポリビニルアルコールフィルム半成形品を温湿度調節器に入れ、特定の温度及び相対湿度で特定の時間(具体的な温度、相対湿度及び時間を表1に示す)再結晶化させて、ポリビニルアルコールフィルム成形品が得られ、かつ前記ポリビニルアルコールフィルム成形品は特定の厚さ(具体的な厚さを表1に示す)を有していた。
【0071】
【表1】
【0072】
2.偏光フィルムの製造
ここで、本発明はポリビニルアルコールフィルムから偏光フィルムを製造するための非限定的な方法を提供する。以下に開示される方法に従い、非限定的な実施例のポリビニルアルコールフィルム(実施例1~11)及び比較例のポリビニルアルコールフィルム(比較例1~6)を対応する偏光子に調製する。
【0073】
2以下は、本発明の実施例及び比較例のビニルアルコールフィルムから偏光子を製造するのに共通する主な工程である。ポリビニルアルコールフィルムを巻き出した後、30℃の純水を満たした膨潤槽に投入してフィルム表面の水洗及び膨潤処理を施し、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの1.2倍に延伸した後、次に温度を45℃に制御し、0.037重量%ヨウ素と1.85重量%ヨウ化カリウム水溶液を含む染色槽に入れて染色すると共にポリビニルアルコールフィルムを機械方向に元の長さの3.4倍に延伸する。染色後、温度を55℃に制御し、ホウ酸とヨウ化カリウムの各々5.5重量%濃度のヨウ化カリウム水溶液を含む延伸槽に入れ、ポリビニルアルコールフィルムを機械方向に沿って元の長さの6倍に延伸した後、フィルム表面に残ったヨウ素水とホウ酸の5.5重量%ヨウ化カリウムを含む水溶液で洗浄する。次に、60℃のオーブンで5分間乾燥させ、上面と下面にセルローストリアセテート保護フィルムを貼り合わせ、乾燥させて偏光フィルムを製造した。
【0074】
3.分析方法
ここで、本発明は、上記実施例1~11及び比較例1~6のポリビニルアルコールフィルムの分析及び試験方法を提供する。
【0075】
平均重合度
本発明の平均重合度の測定方法は、JIS K 6726(1994)規格に記載される試験方法による。
【0076】
多分散性指数(PDI)
ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)を用いてポリビニルアルコール樹脂のピーク分子量及び多分散性指数を試験する。
【0077】
機器及びそのブランド
(1)ウォーターズ社製の515HPLCポンプ、
(2)ウォーターズ社製の717plusオートサンプラー、
(3)ウォーターズ社製の2414屈折率検出器で、検出温度は36℃であり、
(4)分析カラム
ウォーターズ社製のUltrahydrogel Guard Column,125Å,6μm,6mm*40Mm,1K~500K、
ウォーターズ社製のUltrahydrogel 120 Column,120Å,6μm,7.8mm*300Mm,100~5K、
ウォーターズ社製のUltrahydrogel 250 Column,250Å,6μm,7.8mm*300Mm,1K~80K、
ウォーターズ社製のUltrahydrogel 500 Column,500Å,10μm,7.8mm*300Mm,5K~400K、
ウォーターズ社製のUltrahydrogel 1000 Column,1000Å,12μm,7.8mm*300Mm,10K~1M。
【0078】
試験条件
(1)分析流速:0.413mL/分、
(2)流液:0.85重量%硝酸ナトリウム水溶液、
(3)カラムオーブン温度:36℃;
(4)標準品:ポリエチレングリコール(PEG)で、そのビーク分子量(Mp)=1608000/1039000/545000/117900/66200/28330/16100/3860/1450/610/194、
(5)分析サンプル構成:測定対象ポリビニルアルコール樹脂0.08g、0.85重量%硝酸ナトリウム水溶液17g及び0.45μmPTFEシリンジフィルター、
(6)サンプル注入量:210μL、
(7)試験時間:106分。
【0079】
データ処理:ポリビニルアルコール樹脂の数平均分子量(Mw)及び重量平均分子量(Mn)を計算し、次式に従い計算して多分散性指数(PDI)を得た。
【0080】
PDI=Mw/Mn
【0081】
貯蔵弾性率(E’)、及び温度に対するその曲線の傾きの絶対値
機器及びそのブランド:TA機器のDMA 850
サンプルの作製方法:ポリビニルアルコールフィルムを機械方向(MD)5cm、横方向(TD)5mmの矩形に切り出し、機械にセットする前にポリビニルアルコールフィルムの含水率を8~9重量%に調整し、ポリビニルアルコールフィルムの状態を一致させる。次に、図2を参照すると、ポリビニルアルコールフィルム2の一端を約1.11gのダブテールクリップ3で固定し、他端を浸漬延伸治具1に挿通し、ポリビニルアルコールフィルム2の一部を上部固定軸1aと下部固定軸1bとの間に配置させ、ダブテールクリップ3の底端3aが浸漬延伸治具1から1cm(図2に示す距離a)離し、ポリビニルアルコールフィルム2の上端2aと該浸漬延伸治具1の上端との間に空間を持たせる。次に、上部固定軸1aを締め付けてポリビニルアルコールフィルム2を固定する。図3を参照すると、純水を満たした100mLビーカー4に、浸漬延伸治具1全体と保持されたポリビニルアルコールフィルム2及びダブテールクリップ3をビーカーの液面が上部固定軸1aに位置するように垂直に入れ、ビーカー4を30℃の恒温水槽(図示せず)で温調し、ポリビニルアルコールフィルム2に荷重(ダブテールクリップ3の重量)を加えて20分間膨潤させる。最後に、図4を参照すると、浸漬延伸治具1をビーカー4から取り出して垂直に保ち、ダブテールクリップ3の自重でポリビニルアルコールフィルム2を引き伸ばし、ポリビニルアルコールフィルム2が中心にあることを確認した後、浸漬延伸治具1の下部固定軸1bを締め付けてから余分なポリビニルアルコールフィルム2c(図4のメッシュ状の部分)を切り取り、サンプルは、浸漬延伸治具1にクランプされた荷重・膨潤を経たポリビニルアルコールフィルム2bである。
【0082】
試験条件:上述のサンプルがまだ浸漬・延伸治具に固定されている場合、振動昇温モードを選択し、サンプルとサンプルを保持している浸漬延伸治具1を一緒に脱イオン水で満たされた浸漬槽に入れ、周波数を1Hzに、振幅を200μmに、保圧(force track)を200%に設定し、温度を30℃から65℃まで測定するように設定し、分析前にまず0.15Nの静的力でフィルムを引き伸ばしてから1℃/分の昇温速度で分析し始め、貯蔵弾性率(E’)対温度変化曲線図を描く。ここで、熱電対の検出端は水槽の底から5mmの高さに配置される。
【0083】
データ処理:貯蔵弾性率(E’)の座標軸を直線座標軸に変換し、機器に付属のソフトウェアに組み込まれた傾き解析を使用し、解析温度範囲を30~45℃に設定すると、ソフトウェアは計算された傾き値を自動入力し、傾きの絶対値を取る。
【0084】
45℃及び55℃での貯蔵弾性率(E’):前述の直線座標軸上の貯蔵弾性率(E’)対温度の曲線において45℃及び55℃で貯蔵弾性率(E’)の値を得た。
【0085】
ポリビニルアルコールの溶出量
試薬構成
(1)ホウ酸溶液:ホウ酸20.00gを500mLの透明な定量ボトルに量り取り、まず少量の脱イオン水(DI water)で溶解し、次に脱イオン水を500mLの横軸目盛り線まで加え、
(2)ヨウ素溶液:固体ヨウ素1.27g及びヨウ化カリウム2.50gを100mLの茶色の定量ボトルに量り取り、まず少量の脱イオン水(DI water)で溶解し、次に100mLの横軸目盛り線まで加えた。
【0086】
検量線の作成:重合度2400、ケン化度99.9モル%、及び多分散性指数2.2のポリビニルアルコール樹脂を、完全に乾燥するまで105℃で3時間乾燥してからポリビニルアルコール樹脂濃度100ppm、50ppm、25ppm、12.5ppm、6.25ppm、3.125ppm、1.5625ppm、及び0.78125ppmの標準品を調製し、それぞれ670nmでの吸光度を分析して検量線を作成した。標準品20gを取り、すり口血清ボトルに入れ、ホウ酸溶液15mL、ヨウ素溶液3mL、及び脱イオン水12mLを順に加え、振って均一に混合させた後、15分間放置した。
【0087】
試験条件:1Lの脱イオン水を血清ボトルに取り、前記血清ボトルを温度40℃の恒温水槽に入れる。ポリビニルアルコールフィルムを機械方向(MD)5cm、幅方向(TD)5cmの試験片20枚に切り出し、各試験片を血清ボトル内の脱イオン水に浸漬し、1分間浸漬した後に取り出し、合計20枚の試験片を連続浸漬した。次いで、血清ボトルを恒温槽から取り出し、該血清ボトルを25℃まで冷却し、該血清ボトル内の溶液の重量を記録した。血清ボトル内の溶液20gをすり口血清ボトルに量り取り、ホウ酸溶液15mL、ヨウ素溶液3mL、及び脱イオン水12mL を順に加え、振って均一に混合させた後、15分間放置した。次に、紫外可視分光光度計(Ultraviolet-visible spectroscopy、UV-vis)を使用して該溶液の670nmにおける吸光度を分析し、その結果を検量線に当てはめて濃度を逆算すると、ポリビニルアルコールの溶出量を求めた。
【0088】
ポリビニルアルコールフィルムの厚さ
機器及びそのブランド:ミツトヨ社製の543-391B
試験方法:分析前に、ステージ上のコンタクトプローブの目盛りが0であることを確認してから試験対象のポリビニルアルコールフィルムをステージ上に平らに置き、該プローブを引き上げて、ポリビニルアルコールフィルム上に静かに置き、厚さの値を読み取った。
【0089】
4.評価方法及び結果
ここで、本発明は、実施例及び比較例のポリビニルアルコールフィルムと偏光子の評価方法、及び上述の分析内容との対応付け結果を提供する。
【0090】
延伸張力の評価
機器及びそのブランド:弘達社製の引張試験機HT-9102
サンプルの作製方法:ポリビニルアルコールフィルムを、機械方向(MD)150mm、幅方向(TD)12.7mmの矩形の試験片に切り出す。前記試験片を温度23℃、相対湿度50%の環境に置き、20時間温湿度を調整した後、温度50℃及び濃度2重量%のホウ酸水溶液に30秒間浸漬させ、浸漬完了後すぐに機器にセットして試験する。
【0091】
試験条件:固定治具間の距離は5cmであり、引張速度を240Mm/分に制御し、サンプルの厚さ及び機械方向や幅方向に沿った長さをコンピュータに入力すると、システムが自動的に延伸張力を変換する。
【0092】
フィルム破断評価
試験条件:ポリビニルアルコールフィルムを10000m連続で引っ張って偏光子を製造する。
【0093】
評価基準
○:製造工程中に破れなし
×:製造工程中に1回以上の破れが発生した
【0094】
単体透過率
機器及びそのブランド:JASCO社製の分光光度計V-7100
サンプルの作製方法:偏光フィルムの幅の中央位置で、機械方向(MD)2cm、幅方向(TD)2cmの2枚の正方形のサンプルに切り出す。
【0095】
試験条件:積分球を備えた分光光度計V-7100を使用し、JIS Z 8722 (2009)規格に記載される試験方法に従い、C光源、2°視野の可視光領域の視感度補正を行う。図5に示すように、重なるサンプルを取り、一方のサンプルの機械方向MD1は、もう一方のサンプルの機械方向MD2に対して垂直である。図6Aに示すように2つのサンプルの機械方向MD1とMD2が+45°の角度Aを成すようにサンプルの1つを時計回りに回転させ、波長550nmでの光透過率T1を測定し、図6Bに示すように、2つのサンプルの機械的方向MD1とMD2が-45°の角度Bを成すようにサンプルの1つを反時計回りに回転させ、波長550nmでの光透過率T2を測定する。次に、次式に従い単体透過率を求める。
【0096】
Ts(%) = (Ts1 + Ts2)/2
【0097】
赤色光の漏れ率
機器及びそのブランド:JASCO社製の分光光度計V-7100
サンプルの作製方法:偏光フィルムを、全幅方向の左側端部から5cmの距離(図7に示す距離x)、真中、右側端部から5cmの距離(図7に示す距離x)の3箇所を採取し、3箇所のそれぞれで機械方向(MD)2cm、幅方向(TD)2mmの正方形のサンプルを2枚切り出す(図7)。
【0098】
試験条件
単体透過率Ts(%):前述の単体透過率の方法に従い、左側端部、真中、右側端部の3箇所での単体透過率Ts(%)を測定する。
【0099】
透射率T700⊥(%):同じ箇所で2枚のサンプルを採取し、互いに重ね合わせ、図5に示すように、一方のサンプルの機械方向MD1は、もう一方のサンプルの機械方向MD2に対して垂直である。図6Aに示すように2つのサンプルの機械方向MD1とMD2 が+45°の角度Aを成すようにサンプルの1つを時計回りに回転させ、波長700nmでの光透過率T45を測定し、図6Bに示すように、2つのサンプルの機械的方向MD1とMD2が45°の角度Bを成すようにサンプルの1つを反時計回りに回転させ、波長700nmでの光透過率T-45を測定する。T45とT-45の平均値を前記位置の透射率T700⊥(%)とする。
【0100】
赤色光の漏れ率:単体透過率Ts(%)を横軸、透射率T700⊥(%)を縦軸とし、3箇所の分析値から近似直線を引き、前記近似直線から単体透過率Tsが44%の時の透射率T700⊥(%)(つまり波長700Nmの光の直交透過率)を求め、これが赤色光の漏れ率となる。
【0101】
評価基準:赤色光の漏れ率は、5%未満であることが好ましい。
【0102】
さらに、本願の実施例1~11及び比較例1~6のポリビニルアルコールフィルムの延伸張力評価とフィルム破断評価及び対応する偏光フィルムの単体透過率と赤色光の漏れ率の結果、及び前記ポリビニルアルコールフィルムの貯蔵弾性率対温度曲線の傾きの絶対値(表2では傾きの絶対値と略称する)及びポリビニルアルコールの溶出量を表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
表2から分かるように、実施例1~11のポリビニルアルコールフィルムの傾きの絶対値は、0.20~0.70MPa/℃の範囲にあり、ポリビニルアルコールの溶出量は0.20~9.00ppm/mの範囲にあり、これらのポリビニルアルコールフィルムは均しく13.0~30.0N/mmの小さな延伸張力及び良好なフィルム破断評価有し、かつこれらのポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光フィルムはすべて42.5%以上の高い単体透過率及び5.0%未満の低い赤色光の漏れ率を有することが観察された。これに対し、比較例1~6のポリビニルアルコールフィルムは、傾きの絶対値及びポリビニルアルコールの溶出量が理想範囲内にないため、これらのポリビニルアルコールフィルム及び対応する偏光フィルムは、上述の技術的特徴を同時に持つことができない。そこで、ポリビニルアルコールフィルムの傾きの絶対値及びポリビニルアルコールの溶出量を同時に理想的な範囲に制御することによってのみ、過度の延伸張力により延伸する時にフィルム切れを起こりやすいという問題及びポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光フィルムの低い単体透過率及び高い赤色光の漏れ率の問題を改善できる。
【0105】
さらに、本願の実施例1~11及び比較例1~6のポリビニルアルコールフィルムに対応する偏光フィルムの赤色光の漏れ率の結果とポリビニルアルコールフィルムの45℃での貯蔵弾性率及び55℃での貯蔵弾性率を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3から分かるように、ポリビニルアルコールフィルムの45℃での貯蔵弾性率を5.00~14.00MPa、55℃での貯蔵弾性率を3.00~7.00MPaに制御する時、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光フィルムは、実施例1~11及び比較例1、3、4及び6のように5.0%未満の低い赤色光の漏れ率を有する。これに対し、ポリビニルアルコールフィルムの45℃での貯蔵弾性率及び55℃での貯蔵弾性率を同時に理想範囲に制御していない場合、前記ポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光フィルムは比較例2及び5のように高い赤色光の漏れ率を有する。そこで、ポリビニルアルコールフィルムの45℃での貯蔵弾性率及び55℃での貯蔵弾性率を同時に理想範囲に制御することによってのみ、ポリビニルアルコールフィルムから製造された偏光フィルムの高い赤色光の漏れ率の問題を改善できる。
【0108】
本明細書において提供される全ての範囲は、所定の範囲内の各特定の範囲、及び所定の範囲間のサブ範囲の組み合わせを含むことが意図されている。また、本明細書に明確に記載されるあらゆる範囲は、特に明示されていない限り、終点を含む。したがって、1~5の範囲には、特に1、2、3、4、及び5と、2~5、3~5、2~3、2~4、1~4などのサブ範囲が含まれる。
【0109】
本明細書で引用される全ての刊行物及び特許出願案件は、参照により本明細書に組み込まれ、ありとあらゆる目的のために、個々の刊行物又は特許出願案件は、参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別に示されている。本明細書と、参照により本明細書に組み込まれている刊行物又は特許出願案件との間に矛盾がある場合、本明細書が優先される。
【符号の説明】
【0110】
1 浸漬延伸治具
1a 上固定軸
1b 下固定軸
2 ポリビニルアルコールフィルム
2a 上端
2b 荷重・膨潤を経たポリビニルアルコールフィルム
2c 余分なポリビニルアルコールフィルム
3 ダブテールクリップ
3a 底端
4 ビーカー
a、x 距離
A、B 角度
MD1、MD2 機械方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-07-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂を含み、
40℃の水に1分間浸漬した場合、ポリビニルアルコールの溶出量は0.20~9.00ppm/mであり、水中で1℃/分の昇温速度で30℃から65℃まで昇温し、貯蔵弾性率(E')対温度曲線が測定され、前記曲線は45℃から55℃の間に傾き値を有し、傾きの絶対値は0.20~0.70MPa/℃である、
ポリビニルアルコールフィルム。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールの溶出量は、1.60~7.20ppm/mであり、前記傾きの絶対値は0.20~0.60MPa/℃である、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項3】
前記傾きの絶対値は、0.25~0.60MPa/℃である、請求項2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
前記傾きの絶対値は、0.35~0.55MPa/℃である、請求項3に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
45℃で5.00~14.00MPaの貯蔵弾性率(E’)を有し、55℃で3.00~7.00MPaの貯蔵弾性率(E’)を有する、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
45℃で8.00~11.50MPaの貯蔵弾性率(E’)を有し、55℃で4.00~6.00MPaの貯蔵弾性率(E’)を有する、請求項2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
50℃の2重量%ホウ酸水溶液に30秒間浸漬したとき、13.0~30.0N/mmの延伸張力を有する、請求項に記載のポリビニルアルコールフィルム
【請求項8】
前記ポリビニルアルコール樹脂は、1500~3500の平均重合度を有する、請求項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項9】
前記ポリビニルアルコール樹脂は、3.5以下の多分散性指数(Polymer Dispersity Index、PDI)を有する、請求項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項10】
45~75μmの厚さを有する、請求項に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリビニルアルコールフィルムから製造された光学フィルム。
【請求項12】
偏光フィルムである、請求項11に記載の光学フィルム。
【請求項13】
前記偏光フィルムは、42.5%以上の単体透過率及び5.0%未満の赤色光の漏れ率を有する、請求項12に記載の光学フィルム。
【外国語明細書】