(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169414
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】制御方法及びX線CT装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20241128BHJP
A61B 6/50 20240101ALI20241128BHJP
【FI】
A61B6/03 530A
A61B6/03 560T
A61B6/50 500D
A61B6/03 521K
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084691
(22)【出願日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】18/323,016
(32)【優先日】2023-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツ チェン リー
(72)【発明者】
【氏名】リヤン ツァイ
(72)【発明者】
【氏名】ジエン ジョウ
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093BA17
4C093CA16
4C093CA34
4C093DA04
4C093EC47
4C093FA15
4C093FA18
4C093FA22
4C093FA55
4C093FD03
4C093FF18
(57)【要約】
【課題】放射線感受性が高い臓器の被ばくを低減すること。
【解決手段】実施形態に係る制御方法は、X線源とX線検出器を回転可能に支持したCT(Computed Tomography)ガントリを制御し、被検体の頭部の3次元領域の位置決めCTスキャンを実行して、画像データを生成し、画像データから生成された3次元領域の断面画像データを学習済みモデルに入力することにより、診断用CTスキャン中に被検体の水晶体への照射を回避するためのチルト面を特定する解剖学的ランドマークを検出し、解剖学的ランドマークおよびチルト面に基づいてCTガントリのチルト角を決定し、決定したチルト角でチルトしたCTガントリを制御して、被検体の診断用CTスキャンを実行する、ことを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源とX線検出器を回転可能に支持したCT(Computed Tomography)ガントリを制御し、被検体の頭部の3次元領域の位置決めCTスキャンを実行して、画像データを生成し、
前記画像データから生成された前記3次元領域の断面画像データを学習済みモデルに入力することにより、診断用CTスキャン中に前記被検体の水晶体への照射を回避するためのチルト面を特定する解剖学的ランドマークを検出し、
前記解剖学的ランドマークおよび前記チルト面に基づいて前記CTガントリのチルト角を決定し、
前記決定したチルト角でチルトした前記CTガントリを制御して、前記被検体の前記診断用CTスキャンを実行する、
ことを含む、制御方法。
【請求項2】
前記位置決めCTスキャンおよび前記診断用CTスキャンは1回のスキャン操作で連続して実行される、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記位置決めCTスキャンは、前記チルト面を特定するように、特定の回転位置を有する特定のビューのX線量を増加させて実行される、請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記チルト面の決定は、前記被検体の眼窩外耳孔線に基づいて決定することを含む、請求項1に記載の制御方法。
【請求項5】
前記チルト面の決定は、前記被検体の眼窩上隆起およびオピスチオンに基づいて決定することを含む、請求項1に記載の制御方法。
【請求項6】
前記解剖学的ランドマークに基づいて、前記被検体の前記頭部の位置を決定することをさらに含む、請求項1に記載の制御方法。
【請求項7】
前記CTガントリに関連する可動テーブル上の前記被検体の位置を、前記チルトしたCTガントリのスキャン面に対して決定し、
前記被検体の頭部を通る所望のスキャン面が前記チルトしたCTガントリの前記スキャン面と一致するように、前記被検体を移動させる、
ことをさらに含む、請求項1に記載の制御方法。
【請求項8】
左右の眼の眼窩上隆起を通るチルト面の線を決定し、
前記線の角度が、前記CTガントリの機械軸の1つに対して、設定された角度以内であるかを決定し、
前記線の角度が、前記設定された角度以内ではないことを示す信号を生成する、
ことをさらに含む、請求項1に記載の制御方法。
【請求項9】
X線源とX線検出器を回転可能に支持したCTガントリを制御し、被検体の3次元領域の位置決めCTスキャンを実行して、画像データを生成し、
前記画像データを学習済みモデルに入力することにより、前記画像データ内の解剖学的ランドマークを特定し、
前記解剖学的ランドマークに基づいて前記CTガントリのチルト角を決定し、
前記チルト角でチルトした前記CTガントリを制御して、前記被検体の診断用CTスキャンを実行する、
ことを含む、制御方法。
【請求項10】
前記位置決めCTスキャンおよび前記診断用CTスキャンは、1回のスキャン操作で連続して実行される、請求項9に記載の制御方法。
【請求項11】
前記解剖学的ランドマークに基づいて、解剖学的線を生成し、
前記解剖学的線に基づいて前記チルト角を決定し、
前記チルト角に基づいて前記CTガントリをチルトさせる、
ことを含む、請求項9に記載の制御方法。
【請求項12】
前記解剖学的線は、眼窩外耳孔線である、請求項11に記載の制御方法。
【請求項13】
前記位置決めCTスキャンは、
眼窩外耳孔線の検出を伴うスキャン計画のために構成された第1のスキャン、または前記眼窩外耳孔線の検出を伴わないスキャン計画のために構成された第2のスキャンを含み、
前記第1のスキャンは、前記第2のスキャンより高いX線量で実行される、
請求項9に記載の制御方法。
【請求項14】
X線源とX線検出器とを回転可能に支持するCTガントリと、
被検体の3次元領域の位置決めCTスキャンを実行して、画像データを生成する生成部と、
学習済みモデルに対して前記画像データを入力することで、解剖学的ランドマークを検出する検出部と、
前記解剖学的ランドマークに基づいて前記CTガントリのチルト角を決定する決定部と、
前記チルト角でチルトした前記CTガントリを制御して、前記被検体の診断用CTスキャンを実行する制御部と、
を備える、X線CT装置。
【請求項15】
前記生成部は、前記位置決めCTスキャンとして、眼窩外耳孔線の検出を伴うスキャン計画のために構成された第1のスキャン、または、前記眼窩外耳孔線の検出を伴わないスキャン計画のために構成された第2のスキャンを実行し、
前記第1のスキャンは、前記第2のスキャンより高いX線量で実行される、
請求項14に記載のX線CT装置。
【請求項16】
前記位置決めCTスキャンおよび前記診断用CTスキャンは、1回のスキャン操作で連続して実行される、請求項14に記載のX線CT装置。
【請求項17】
前記決定部は、前記解剖学的ランドマークに基づいて解剖学的線を生成し、生成した前記解剖学的線に基づいて前記チルト角を決定し、
前記制御部は、前記チルト角に基づいて前記CTガントリをチルトさせる、
請求項14に記載のX線CT装置。
【請求項18】
前記決定部は、前記被検体の眼窩外耳孔線に基づいて、前記チルト角を決定する、請求項14に記載のX線CT装置。
【請求項19】
前記決定部は、前記被検体の眼窩上隆起およびオピスチオンに基づいて、前記チルト角を決定する、請求項14に記載のX線CT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、制御方法及びX線CT装置に関する。
【0002】
本明細書に記載された実施形態は、一般に、X線CT(Computed Tomography)装置および方法に関し、より詳細には、眼の保護のための自動ガントリチルトを有するX線CT装置および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
X線CT装置は、テーブル上に載置された被検体に対してX線源を高速回転させることにより、複数の角度から被検体の投影データを取得する医用画像診断装置である。X線CT装置は、それぞれの角度から取得した複数の投影データを再構成することにより、2次元CT画像および/または3次元CT画像を生成する。
【0004】
ヘリカルスキャンと呼ばれるスキャンモードでは、X線源を連続的に回転させながらX線源と被検体の相対的な位置関係を変化させ、1回のスキャンで被検体の全身の投影データを取得することができる。X線CT装置を使用して被検体を撮像する場合、一般に、被検体の体軸方向(すなわち、頭から足までの方向)がテーブルの長手方向(すなわち、後述の装置座標系のz軸方向)に沿うように被検体をテーブル上に載置し、テーブルをz軸方向に移動させながらスキャンが実行される。
【0005】
X線CT装置を使用した検査では、画像診断用の医用画像の投影データを取得する本スキャン(診断用CTスキャン)の前に、スキャノ像またはスカウト像の投影データを取得するためのプレスキャン(位置決めCTスキャン)が実行される。スキャノ像またはスカウト画像は、被ばく線量および撮影範囲などの本スキャンのイメージング条件を決定するために、本スキャンの前に低被ばく線量で取得する画像であり、被検体のセンタリングおよび位置決めを支援し、次のCTスキャンの解剖学的ターゲットを選択できる機能を有する。
【0006】
しかし、従来の2Dスキャノ像は、通常、放射線写真のL-R方向およびA-P方向のみを提供する。そのため、スキャノ像は、軟部組織の臓器が描出しにくく、管電流の変調には最適ではないという制約を有する。その一方で、近年、超低線量3Dスキャノ像は、十分な低線量(<1mGy)を維持しながら完全な3Dの解剖学的情報を提供することにより、2Dスキャノ像の制限(例えば、より良い軟組織解像度および器官に基づく変調)を克服する利点を見せている。
【0007】
頭頸部CTスキャン中の眼の水晶体の放射線被ばくは、被検体が白内障および混濁を発症するリスクを高める可能性がある。Nikupaavo, U. et al., Lens Dose in Routine Head CT: Comparison of Different Optimization Methods With Anthropomorphic Phantoms. AJR 2015; 204:117-123、および、Mosher, E. et al., Lens Dose Reduction by Patient Posture Modification During Neck CT. AJR 2018; 210:1111-1117を参照されたい。水晶体および放射線感受性組織の放射線被ばくは、臓器ベースの管電流変調(Organ-Based Tube Current Modulation:OBTCM)、局所外部遮蔽、およびガントリチルト角の最適化などの技術的解決策を使用することによって低減することができる。ガントリチルトはイメージング画質を損なうことなく脳スキャンのCTで眼の水晶体の直接被ばくを低減する有効な方法であることが、研究で明らかになっている。Mussmann, B. et al., Organ-based tube current modulation in chest CT. A comparison of three vendors. Radiography 2021 Feb; 27(1):1-7もまた参照にされたい。X線CT装置は、ルーチンの脳スキャンにおいて被検体の水晶体の直接的な放射線被ばくを低減することができるように、システムにガントリチルト機能を含めることがある。
【0008】
ガントリチルトまたは被検体の位置決め(ヘッドチルト)は、基本的なCT技術者トレーニングの一部であり、チルトが水晶体への線量被ばくを低減するのに役立つことが示されているが、多くの臨床現場におけるコンプライアンスが一般的に低いことが、長年観察されてきた。Filice, R., Lens Identification to Prevent Radiation-Induced Cataracts Using Convolutional Neural Networks. Journal of Digital Imaging (2019) 32:644-650、および、Deshpande, H. et al., Deep Learning for the Detection of Landmarks in Head CT Images and Automatic Quality Assessment. Proc. SPIE 11596, Medical Imaging 2021: Image Processing, 115960N (15 February 2021); doi: 10.1117/12.2581810を参照にされたい。Georgetown University Hospitalの遡及的な研究によると、水晶体保護のガイダンスに準拠しているのは、頭部CT検査のうちの約10%に過ぎないことが分かる。これは、おそらく、位置決め技術が、水晶体を除外するためにレーザーマーカー(および/または2Dスキャノ像)による手作業を必要とするためである。これは難易度が高く、やや主観的になり得る。その上、ガントリチルトの調整プロセスは、総CT収集時間に比べて比較的時間がかかる。また、位置決め後の被検体の移動は、水晶体の望ましくない被ばくを引き起こす可能性がある。
【0009】
そこで、水晶体保護を適切に行い、被検体全体のスループットを向上させることができるように、被検体の位置決めおよびガントリチルトによるCT頭部検査を自動化するためのイメージング条件を、自動設定する技術の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nikupaavo, U. et al., Lens Dose in Routine Head CT: Comparison of Different Optimization Methods With Anthropomorphic Phantoms. AJR 2015; 204:117-123.
【非特許文献2】Mosher, E. et al., Lens Dose Reduction by Patient Posture Modification During Neck CT. AJR 2018; 210:1111-1117.
【非特許文献3】Mussmann, B. et al., Organ-based tube current modulation in chest CT. A comparison of three vendors. Radiography 2021 Feb; 27(1):1-7.
【非特許文献4】Filice, R., Lens Identification to Prevent Radiation-Induced Cataracts Using Convolutional Neural Networks. Journal of Digital Imaging (2019) 32:644-650.
【非特許文献5】Deshpande, H. et al., Deep Learning for the Detection of Landmarks in Head CT Images and Automatic Quality Assessment. Proc. SPIE 11596, Medical Imaging 2021: Image Processing, 115960N (15 February 2021); doi: 10.1117/12.2581810.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、放射線感受性が高い臓器の被ばくを低減することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態に係る制御方法は、X線源とX線検出器を回転可能に支持したCT(Computed Tomography)ガントリを制御し、被検体の頭部の3次元領域の位置決めCTスキャンを実行して、画像データを生成し、前記画像データから生成された前記3次元領域の断面画像データを学習済みモデルに入力することにより、診断用CTスキャン中に前記被検体の水晶体への照射を回避するためのチルト面を特定する解剖学的ランドマークを検出し、前記解剖学的ランドマークおよび前記チルト面に基づいて前記CTガントリのチルト角を決定し、前記決定したチルト角でチルトした前記CTガントリを制御して、前記被検体の前記診断用CTスキャンを実行する、ことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1の実施形態におけるX線CT装置の構成を示す全体ブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態のX線CT装置のチルト機構を説明するための概略的側面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態のX線CT装置における処理回路のブロック図である。
【
図4A】
図4Aは、本方法の第1~第4の実施形態におけるバイオマーカーおよびチルト線を示す概略図である。
【
図4B】
図4Bは、本方法の第1~第4の実施形態におけるバイオマーカーおよびチルト線を示す概略図である。
【
図4C】
図4Cは、本方法の第1~第4の実施形態における被検体のシフトを示す。
【
図4D】
図4Dは、本方法の第1~第4の実施形態における被検体のシフトを示す。
【
図6】
図6は、第1の実施形態におけるニューラルネットワークを示す図である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態におけるニューラルネットワークのトレーニングを示す図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態に係るCTスキャンを制御するための方法の変更のフローチャートである。
【
図9】
図9は、バイオマーカーとチルト面と推定されたチルト面とがラベル付けされた3枚の頭部X線CT画像を示す図である。
【
図10】
図10は、ラベル付けされたチルト面および推定されたチルト面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示による実施形態は、コンピュータ断層撮影(CT)スキャンを制御する方法に関し、X線源とX線検出器の両方を回転可能に支持したCTガントリを使用して、検査される被検体の頭部の3D領域のスカウトCTスキャン(スキャノ像またはスカウト像の投影データを取得するための位置決めCTスキャン)を実行して、画像データを生成することを含む。画像データから生成された3D領域の断面画像データをトレーニング済みの機械学習モデルに入力することにより、その後の診断用CTスキャン中に被検体の水晶体への照射を回避するために位置決めしたチルト面を特定するために、解剖学的ランドマークを検出する。検出された解剖学的ランドマークに基づいてCTガントリのチルト角を決定する。決定したチルト角でチルトしたCTガントリを使用して、被検体の診断用CTスキャンを実行する。
【0015】
スカウトCTスキャンおよび診断用CTスキャンは、1回のスキャン操作で連続して実行され得る。別の実施形態では、スカウトCTスキャンを実行することは、OMBLを特定するように、特定の回転位置を有する特定のビュー取得のためにX線量を増加させることを含む。
【0016】
チルト面は、被検体の眼窩外耳孔線(Orbitomeatal Base Line:OMBL)を使用して定義してもよいし、被検体の眼窩上隆起およびオピスチオンを使用して定義してもよい。
【0017】
CTスキャンを制御する方法の別の実施形態は、X線源とX線検出器の両方を回転可能に支持したCTガントリを使用して、検査される被検体の3次元(3D)領域のスカウトCTスキャンを実行して、画像データを生成することを含む。画像データから生成された3D領域の断面画像データをトレーニング済みの機械学習モデルに入力することにより、画像データ内の解剖学的ランドマークを特定する。特定された解剖学的ランドマークに基づいてCTガントリのチルト角を決定し、決定したチルト角でチルトしたCTガントリを使用して、被検体の診断用CTスキャンを実行する。
【0018】
本開示によるさらに別の実施形態は、ガントリと、ガントリに取り付けられたX線源およびX線検出器と、解剖学的ランドマークを検出するように構成されたトレーニング済みモデルを記憶するメモリとを有するX線CT装置に関する。また、本装置は、検査される被検体の3次元(3D)領域のスカウトCTスキャン(位置決めCTスキャン)を実行して、画像データを生成するように装置に指示し、解剖学的ランドマークを検出するためにトレーニング済みモデルに画像データを入力し、検出された解剖学的ランドマークに基づいてCTガントリのチルト角を決定し、決定されたチルト角でチルトしたCTガントリを使用して、被検体の診断CTスキャンを実行するように構成された処理回路を含む。
【0019】
以下、添付図面を参照することによって、それぞれの実施形態のX線CT装置を説明する。
【0020】
イメージング範囲は被検体の性別および/または体型によって異なるため、イメージング範囲は、被検体ごとに適切に設定されることが好ましい。従来のイメージング条件を設定する方法は、データベースに記憶された各解剖学的ランドマーク(以下、ALと略称する)を抽出した各種のテンプレート画像を使用する。
【0021】
各テンプレート画像には、解剖学的部位に応じたイメージング範囲が定義されている。したがって、スキャノ画像から抽出されたALおよびテンプレート画像のALに基づいて、テンプレート画像に定義されたイメージング範囲に対して座標変換を行うことで、被検体のイメージング範囲を決定することが可能である。
【0022】
X線CT装置は、ヘリカルスキャンおよび回転スキャンなどの様々なスキャンモードのいずれかで被検体を撮像することができる。例えば、X線CT装置のスキャンモードの1つとして、バリアブルヘリカルピッチスキャン(以下、vHPスキャンと称する)が知られている。vHPスキャンでは、所定のイメージング範囲ごとにイメージング条件を切り替えながら、広範囲を撮像する。
【0023】
vHPスキャンで全身を撮像する場合、心臓を含むイメージング範囲では心電同期スキャンが実行される。心電同期スキャンでは、例えば、心拍の1周期において心拍の影響が小さい心時相で投影データを取得するように、イメージング条件が設定される。言い換えれば、画像再構成に必要な所定の心時相の投影データは複数の心拍にわたって取得される。このように、vHPスキャンにおいて心臓を含むイメージング範囲では、テーブルの移動速度は、心臓を含まない他のイメージング範囲に比べて遅い速度で設定される。
【0024】
テーブルの移動速度が遅いと、被検体がX線に曝される時間が長くなり、被検体のX線被ばくが増加する。しかし、心拍の1周期でスライス方向のX線ビーム幅を超えてテーブルを移動させると、再構成される心臓CT画像にZ軸方向の欠損部分が含まれる。
【0025】
以上の理由から、本発明者らは、診断の点で満足な画質が維持される範囲内でイメージング範囲を可能な限り狭く自動的に設定する、画期的な構成を考案した。この構成によれば、取得するCT画像について満足な画質を維持した条件下で、大きな線量のX線に曝されるイメージング範囲を最小化することにより、イメージング全体における総被ばく線量を低減することが可能である。
【0026】
以下、上記の方法でイメージング範囲を設定する構成を備えたX線CT装置の実施形態について説明する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態におけるX線CT装置1の構成を示す全体ブロック図である。
図1に示すX線CT装置1は、スキャナ11およびコンソール12を含む。
【0028】
スキャナ11は、検査室に設置され、被検体Pの投影データを取得する。コンソール12は、検査室に隣接する操作室(制御室)に設置され、スキャナ11から入力された投影データを再構成することによりCT画像を生成する。
【0029】
スキャナ11は、回転体25、テーブル駆動デバイス31、高電圧電源41、絞り駆動デバイス42、回転駆動デバイス43、チルトコントローラ44、スキャンコントローラ45、および通信デバイス46を含む。例えば、通信デバイス46は、被検体と会話するためのスピーカ/マイクロフォンであってもよい。
【0030】
回転体25は、X線管21、X線検出器23、および後述する不図示の冷却器を回転可能に支持するように構成されたフレーム(すなわち、ハウジング)であり、不図示の固定ベースでベース27に固定されている。スキャンコントローラ45の制御の下、回転駆動デバイス43は、装置座標系のz軸と平行な回転軸を中心に、回転体25を回転させる。
【0031】
一例として、装置座標系のx軸、y軸、およびz軸を以下のように定義する。垂直方向をy軸方向として定義し、z軸方向を、y軸に直交し、テーブルの水平移動方向(すなわち、長手方向)と平行な方向として定義し、x軸方向を、y軸およびz軸の両方に直交する方向として定義する。本実施形態では、特に断りのない限り、被検体Pは、その体軸方向がz軸方向と一致するようにテーブル上に載置されると仮定している。
【0032】
回転体25および固定ベースは、固定ベースとベース27との間に設けられたチルト機構26により、装置座標系のz軸方向にチルトする。チルト機構26は、不図示のチルト軸受を備えている。回転体25および固定ベースは、チルト軸受を中心に一体となって回転する。チルト機構26は、スキャンコントローラ45の制御の下、チルトコントローラ44から入力される制御信号に従って回転体25をチルトさせる。回転体25のチルト動作の詳細を、
図2を参照して以下で説明する。
【0033】
回転体25は、開口部を含む。テーブル駆動デバイス31は、被検体Pが載置されたテーブル30を撮像時に回転体25の開口部内へ移動させ、撮像終了後にテーブル30を開口部の外側に移動させる。ここでは一例として、z軸の負方向を、開口部の外側から開口部の内側へのテーブル30の移動方向として定義する。言い換えれば、z軸の正方向を、開口部の内側から開口部の外側へのテーブル30の移動方向として定義する。支持台32は、テーブル30を支持するように床面に設置される。
【0034】
テーブル駆動デバイス31は、不図示のテーブル移動用モータおよびテーブル移動機構を含む。テーブル駆動デバイス31は、スキャンコントローラ45の制御の下、テーブル30をy軸方向に沿って昇降動させると共に、テーブル30をz軸方向に水平に移動させる。
【0035】
テーブル移動機構は、例えば、ラックピニオン機構で構成される。テーブル30は、テーブル移動用モータにより発生するピニオン(歯車)の回転力により、ピニオンに噛み合うラックに沿って移動する。さらに、テーブル駆動デバイス31は、不図示のステッピングモータを含み、ステッピングモータにより検出されるテーブル30の現在位置およびテーブル30の移動量などの位置制御情報をスキャンコントローラ45に送信する。
【0036】
回転体25は、X線管21、X線光学系22、X線検出器23、およびデータ収集システム(Data Acquisition System:DAS)24を含む。
【0037】
X線管21は、高電圧電源41から供給された管電圧に応じてその陰極から電子線を発生させ、金属ターゲット(すなわち、その陽極)に電子線を衝突させることでX線を発生させる。X線管21で発生したX線は、X線検出器23に向かって放射される。X線管21には、スキャンコントローラ45の制御の下、X線放射に必要な電力が供給される。
【0038】
X線光学系22は、スキャンコントローラ45の制御の下、絞り駆動デバイス42からの制御信号に基づいて、被検体Pに放射されるX線の照射範囲を制御する。X線光学系22は、X線ビームの線量、照射範囲、X線ビームの形状、および線質などの照射条件を制御するように構成された各種の制御デバイスを備える。具体的には、X線光学系22は、例えば、ウェッジフィルタおよびコリメータを備えている。ウェッジフィルタは、凸レンズ状で、アルミニウムなどの軽量金属で形成されたフィルタであり、X線管21で発生したX線の線量を調整する。コリメータは、X線の照射範囲を絞り込むためのスリットであり、X線の線量がウェッジフィルタにより制御および調整される。
【0039】
X線検出器23の一例として、X線検出器23は、多数の検出素子がX軸方向(すなわち、チャネル方向)およびスライス方向に沿ってマトリクス状に配列された、2次元アレイ型の検出器であってもよい。X線検出器23は、X線管21から放射されたX線を検出する。なお、スライス方向はチャネル方向に直交している。ここでは一例として、スライス方向は、回転体25の回転軸方向であり、回転体25がチルトしていない状態、すなわち後述のチルト角が0度の状態ではZ軸方向に一致する。さらに、チャネル方向は、回転体25のチルト状態にかかわらず、X軸方向に一致する。
【0040】
2次元アレイ型検出器は、マルチスライス型検出器とも呼ばれる。X線検出器23がマルチスライス型検出器である場合、回転体25を360度または180+α度回転させることにより、スライス方向に幅を有する3次元領域をスキャンすることが可能である。2次元アレイ型の検出器を使用して、3次元スキャノ像またはスカウト画像を得ることができる。
【0041】
DAS24は、不図示の増幅器およびA/D(アナログ/デジタル)コンバータを含み、X線検出器23のそれぞれの検出素子によって検出されたX線の送信データの信号を増幅し、増幅された送信データをデジタル信号に変換する。DAS24は、X線検出器23によって検出された透過データに基づいて生成される投影データを、不図示のデータ転送デバイスを介してスキャンコントローラ45に送信する。
【0042】
X線CT装置1のコンソール12は、コンピュータをベースとして構成されており、LAN(Local Area Network)などのネットワークを介して外部デバイスと通信することができる。コンソール12は、処理回路51、メモリ52、入力インタフェース53、およびディスプレイ55などのハードウェアで構成される。
【0043】
処理回路51は、共通信号の伝送路としてのバスを介して、コンソール12を構成するそれぞれのハードウェア構成要素と相互接続される。なお、コンソール12は、場合によっては、メモリ媒体ドライブを備えている。
【0044】
処理回路51は、専用のハードウェアで構成されてもよいし、その内蔵のプロセッサのソフトウェア処理によって各種機能を実現するように構成されてもよい。ここでは一例として、処理回路51がそのプロセッサのソフトウェア処理によって各種機能を実現する場合について説明する。
【0045】
上述した用語「プロセッサ」とは、例えば、専用または汎用のCPU、専用または汎用のGPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス、およびフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)などの回路を意味する。上記のプログラマブル論理デバイスとしては、例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、および複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)が挙げられる。処理回路51は、メモリ52に記憶されたプログラムを読み出し、そのプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。追加的に、または代替的に、処理回路51は、それ自体のプロセッサに記憶されたプログラムを読み出し、そのプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。
【0046】
さらに、処理回路51は、単一のプロセッサで構成されてもよいし、互いに独立した複数のプロセッサの組み合わせで構成されてもよい。後者の場合、それぞれのプロセッサに対応する複数のメモリ52を設け、各プロセッサにより実行されるプログラムがこのプロセッサに対応するメモリ52に記憶されるようにしてもよい。さらなる変更として、1つのメモリ52が、複数のプロセッサのそれぞれの機能に対応する全てのプログラムを一括的に記憶してもよい。メモリ52は、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)に加えて、HDD(Hard Disk Drive)および光ディスクデバイスなどの外部記憶デバイスを含む記憶媒体である。メモリ52は、画像データ、プログラムの実行に必要なデータ、および処理回路51によって実行される各種プログラム(アプリケーションプログラム、およびオペレーティングシステムを含む)を記憶する。さらに、メモリ52は、オペレーティングシステムを制御するためのプログラムを記憶することができる。さらに、メモリ52は、入力インタフェース53からの入力を支援するGUI(Graphical User Interface)のプログラムを記憶してもよい。
【0047】
入力インタフェース53は、キーボード、マウス、ジョイスティック、およびトラックボールなどの入力デバイスで構成される。入力インタフェース53は、入力デバイスを介してユーザからの入力を受け付ける。少なくとも1つの入力デバイスがオペレータにより操作されると、入力インタフェース53は、この操作に応じた入力信号を生成し、この入力信号を処理回路51に出力する。
【0048】
ディスプレイ55は、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、および有機EL(Electro Luminescence)パネルなどの表示デバイスである。ディスプレイ55は、処理回路51の制御の下、イメージング条件およびスキャノ画像などの画像を表示する。
【0049】
図2は、チルト機構を説明するための第1の実施形態のX線CT装置1の概略的側面図である。
図2は、回転体25がチルトした状態で、スキャナ11をx軸方向から見た側面図である。
図2の一点鎖線L1は、y軸と平行であり、チルト機構26の中心を通る直線である。一点鎖線L2は、y-z平面上の直線であり、チルト機構26の中心を通過する。一点鎖線L1と一点鎖線L2との間の角度として、チルト角θが定義される。
【0050】
図2では、回転体25がz軸に沿った負方向にチルトする場合(すなわち、後傾)について説明したが、場合によっては、回転体25がz軸に沿った正方向にチルトする(すなわち、前傾)ことも可能である。後傾を正のチルト方向として定義し、前傾を負のチルト方向として定義した場合、回転体25の基準角度位置が、一点鎖線L2と一点鎖線L1とが一致するチルト角0度となるように、所定の角度範囲内で回転体25を正のチルト方向または負のチルト方向にチルトさせる。
【0051】
処理回路51の詳細を、
図3に示す。処理回路51は、スキャンコントローラ機能60、画像再構成機能61、深層畳み込みニューラルネットワーク(Deep Convolutional Neural Network:DCNN)62、およびチルト面生成機能63を含む。これらの機能のそれぞれは、メモリに記憶されプロセッサによって実行されるプログラムであってもよいし、プロセッサにハードワイヤードされていてもよい。なお、スキャンコントローラ機能60は、生成部及び制御部の一例である。また、DCNN62は、検出部の一例であり、学習済みモデル(トレーニング済みの機械学習モデル)の一例である。また、チルト面生成機能63は、決定部の一例である。
【0052】
以下に詳述するDCNN62は、所望のバイオマーカーに対応する3Dスキャノ像ボリューム内の点((x,y,z)座標)を抽出して出力する。また、DCNN62は、スキャン線またはスキャン面を出力することができる。一実施形態では、左右の眼の眼窩上隆起の中心および外耳道の中心が抽出され、それぞれP1~P3と示される。この3点P1~P3が、所望のスキャン面を定義する。眼窩上隆起点P1~P2は、眼窩の平均値または中心を使用して決定することができる。大後頭孔後縁の内板、または後頭骨のオピスチオン(Opisthion of the Occipital Bone:OO)などのその他の点を抽出して、スキャン面を定義することができる。別の実施形態では、被検体がインプラントを有しているか、または頭部手術を受けたことがある場合、診断スキャン中にこれらの場所に対してこれらの照射を避ける必要がある場合には、インプラントまたは手術の場所もしくは領域をバイオマーカーとして使用し得る。
【0053】
図4Aおよび
図4Bは、一例として、バイオマーカー、チルト面、およびチルト線を示す。
図4Aは、眼窩上隆起点P1~P2が確認された正面頭蓋骨図である。点間の線L3がスキャン面内にある。OMBLは、
図4Bにおいて、眼窩上隆起点P1~P2の一方と外耳道の点P3とによって定義されるチルト線L4として示されている。チルト面は、3点P1~P3(または2本の線L3~L4)によって定義される。線L5は、点P1~P2および後頭骨のオピスチオン(OO)に対応する点によって定義されるチルト面を示す。どちらの面を使用しても、チルト面の角度を決定することができる。
【0054】
図5Aは、第1の実施形態による方法を示すフローチャートである。X線CT装置1では、被検体がスキャナ11内に配置されて位置決めされ(ステップ70)、3Dスキャノ像が得られる(ステップ71)。処理回路51は、3Dスキャノ像をDCNN62に入力して、3Dスキャノ像からバイオマーカーを検出する(ステップ72)。頭部CTの場合、後頭骨のオピスチオン、外耳道、および左右の眼の眼窩上隆起の中心として定義される点は、バイオマーカーとなり得る。例えば、American Association of Physicists in Medicine, Adult routine head CT protocols version 2.0 (2016)も参照されたい。眼の水晶体の被ばくを回避または低減するため、スキャン角度は、眼窩下隆起と大後頭孔後縁の内板とによって作られる線に平行にすることができる。一実施形態では、眼窩上隆起および外耳道の中心を使用して、眼窩外耳孔線(Orbitomeatal Base Line:OMBL)を特定する。
【0055】
処理回路51は、チルト面生成機能63を実行して、スキャノ像のバイオマーカーに由来する座標からチルト面を生成する。機械軸に対するチルト面の向きは、チルト面生成機能63によって決定される。スキャンコントローラ機能60は、チルトコントローラ44を制御してガントリを適切な角度に移動させるスキャンコントローラ45への指示、また必要に応じて、被検体を適切な位置に配置させるためのテーブル駆動デバイス31への指示を生成して、決定されたガントリチルト角およびテーブル位置でCTスキャンを実行し、水晶体の被ばくを最小限に抑えながら所望の頭部画像を得る。ガントリチルト角は、前述のように、バイオマーカーによって定義される平面から決定することが好ましい。
【0056】
図5Aに戻り、チルト面は、検出されたバイオマーカーを使用して、ステップ73において処理回路によって生成される。処理回路は、ステップ74において、チルトコントローラ44にガントリをチルトさせるように指示する。処理回路はまた、必要に応じて、ステップ75において、テーブル駆動デバイス31に指示を送り、z方向の適切な位置に被検体を配置することによって、被検体を移動させることができる。その後、ステップ75において被検体の診断用CTスキャンが実施される。スカウトCTスキャンおよび診断用CTスキャンは、ワークフローを向上させ、水晶体保護のための安全プロトコルが実行されていることを保証するために、1つの全体的なスキャン操作の一部とすることができる。
【0057】
また、線L3およびL4の角度は、被検体の位置決めおよび位置決め後の移動によって変化し得ることも明らかである。線L3では、被検体の頭部が所望の位置から左右にずれた場合、決定されたスキャン面は、診断スキャン中に水晶体の一方を放射線に曝す可能性がある。これは、ガントリがx方向の軸を中心にチルトするようにしか構成されていないためである(
図2を参照)。
図2のガントリは、y-z平面内の軸を中心にチルトするように構成されていない。
図5Bに示す第2の実施形態では、X線CT装置1は、被検体の位置決めを補正する性能を含む。
【0058】
図4Cは、頭部のシフトを示し、被検体の位置に基づく被ばくラインELを含む。図では、ELの上で被検体が被ばくする。処理回路51は、被検体の位置決めおよび機械の形状からELを決定することができる。
図4Cに示すシフトの量では、被検体の右水晶体が被ばくする可能性がある。
【0059】
ステップ70~74は、
図5Aの方法と同じである。ステップ74の後、ステップ77Aにおいてヘッドチルトの確認が行われる。一態様では、DCNN62によって決定された、x-z平面における線L3のx軸に対する角度は、処理回路51によって所望の範囲と比較される。線L3の角度がy軸からの決められた度数より大きい場合、ステップ77Bにおいて、ディスプレイ55上でオペレータに警告または警報を提供する。別の態様では、処理回路51は、P1またはP2とELの間のELに直交する距離を決定することができる。この距離が数mmなどの閾値以上である場合、再び警告または警報が提供される。
図4Dは、被検体が所望の顎を引いた位置から動いたときの頭部のシフトを示し、被検体の位置に基づく被ばくラインELを含む。図では、ELの上で被検体が被ばくする。処理回路51は、被検体の位置決めおよび機械の形状からELを決定することができる。
図4Dに示すシフトの量では、被検体の水晶体が被ばくする可能性がある。L4とL5の間の角度を確認することにより、またはP2とELの間のELに直交する距離を決定することにより、
図4Cで上述したのと同様の方法で警告または警報を与えることができる。
【0060】
オペレータは、ステップ77Cにおいて、被検体を再配置するために、通信デバイス46(スピーカ/マイクロフォン)を使用して被検体と通信することができる。オペレータが望む場合、ステップ77Dにおいて、被検体が適切な位置にあることを確認するために、別の3Dスキャノ像を撮影することができる。このプロセスは、必要に応じて繰り返すことができる。被検体は、必要に応じて、ステップ75において、適切なz方向の位置に移動させることができ、ステップ76において第1の実施形態と同様に診断スキャンが実行される。
【0061】
図5Cおよび
図5Dは、本開示による方法の第3および第4の実施形態を示す。これらの実施形態では、ガントリはL1位置に固定され、傾くことはない。
図5Cの方法の場合、ステップ70において、水晶体が照射されないように頭部を所望の角度に配置するために、典型的には顎を引いて被検体を位置決めする。上述したステップ71、72が実行される。バイオマーカーを使用して、処理回路51は、必要に応じて、ステップ75において、適切なz方向位置を決定し、ステップ76において、被検体がスキャンされる。
図5Dに示す方法は、第3の実施形態と同様にステップ73および74が省略されることを除いて、
図5Bの方法と同様である。
【0062】
図6に、DCNN62の一例を示す。その他のニューラルネットワークの構造も可能である。多層ネットワークとは、隣接する層のみが接続されるように複数の層を配置し、入力層側から出力層側に向かって一方向に情報が伝播するネットワークである。
図6において、DCNN62は、入力層(I=1)、内層I=2~I=L-1、および出力層I=Lを有する。他の構成も可能である。スキャノ像のデータは、x
1~x
Nで表される入力層のユニットに入力される。データは内層で処理され、出力層I=Lで出力が生成される。各層には、バイオマーカーを検出するための適切な重みおよびバイアスが与えられる。
【0063】
重みおよびバイアスは、
図7に示すトレーニングプロセスによって決定される。DCNNのトレーニングプロセスは、上図のように、トレーニング入力Xを所望のターゲットYにマッピングするように設計されている。このトレーニングプロセスは、以下の最適化問題を解くこととして記述することができる。
【0064】
【0065】
ここで、Θは最適化するニューラルネットワークのパラメータのセット、Nはトレーニングプロセスにおけるトレーニングインスタンスの総数、fは最適化するニューラルネットワーク、xiはトレーニング入力のi番目の要素、yiはトレーニングターゲットのi番目の要素である。この最適化問題を解くことにより、ネットワーク出力とターゲットバイオマーカーYとの差分Δ(例えば、MAE(平均絶対誤差)、MSE(平均二乗誤差)、GDL(Generalized Dice Loss:一般化Dice損失)、Dice損失、交差エントロピーなどでもよい)が最小となるように、最適なネットワークパラメータΘ*を求めることができる。
【0066】
図7において、3Dスキャノ像80はDCNN81に入力され、DCNN81の出力としてバイオマーカー82が生成される。ターゲットバイオマーカー83(眼窩上隆起点、および外耳道中心など)を用意し、損失関数84に入力し、生成したターゲットバイオマーカーとグランドトゥルースのターゲットバイオマーカーの差分を求める。オプティマイザ85は、出力バイオマーカーとターゲットバイオマーカーの差が最小になるようにΘを調整するために、DCNN81の重みおよびバイアスを調整する。本発明者らは、後頭骨のオピスチオン(OO)ならびに左右の眼(LEおよびRE)の眼窩上隆起のほぼ中心として定義される点の3つのランドマークの座標を求めるために、手動でラベル付けされた48個の脳CTスキャンからなるトレーニンググループを集めた。12個の脳CTと8個の実3Dスキャノ像データセットで構成されたテストグループもまた、グランドトゥルースとして座標を手動でラベル付けした。画像は、ダウンスケール(x4)および骨閾値処理(HU300~1900を1として設定し、その他の特徴量を0に設定した)により、前処理された。
図9にその結果を示す。左、中央、および右のビューは、それぞれLE、OO、REに対してDCNNによって決定されたバイオマーカーポイントを示す。各ビューの下部にある水平線は、参考のために示す機械軸と、その結果生じる面のチルト角(θ)である。推定されたチルト面を破線で示し、ラベル付けされたチルト面を実線で示している。以下の表1は、dFOV=240mmまたは320mm、ピッチ0.5mmの脳CTデータ12セットに対する画素データの結果を示している。推定されたバイオマーカー点およびチルト面は、手動でラベル付けされた点および面と良好な精度でよく一致する。
【0067】
【0068】
また、本発明者らは、3Dスキャノ像データを使用したテストも実施した。dFOV=500mm、1mmピッチで8個のデータセットを使用した。画像データは、256×256ピクセルのトリミング画像でダウンサンプリング(2x)した。その結果をLE、OO、REについて
図10に示す。推定されたチルト面を破線で示し、ラベル付けされたチルト面を実線で示している。ここでも、予測されたチルト面は、手動でラベル付けされた点の面とよく一致する。以下の表2は、画素データの結果を示す。
【0069】
【0070】
表1および表2、ならびに
図9および
図10の結果から、本装置は、水晶体への不要な照射を避けるために、診断用頭部CTスキャンを安全に実行するためのチルト面(およびチルト角)を正確に推定できることがわかる。
【0071】
【0072】
(変形例)
実施形態の変形例では、3Dスカウトスキャンの2つのモードが使用される。第1のモードでは、OMBL(または別の線)は検出されず、通常の3Dスキャノ像の線量でスカウトスキャンが実行される。より高いスキャノ像の線量でモードを第2モードに切り替え、OMBLを検出する。第2の変更として、3Dスキャノ像操作中の特定のビュー収集において、OMBLの検出のために3Dスキャン中の特定の回転位置で線量を増加させる。これを
図8に示す。
【0073】
本開示による方法およびシステムは、自動ガントリのチルトワークフローの利点を有し、時間のかかる手動のチルトと比較して、全体的な被検体のスループットを加速させることになる。この方法およびシステムは、水晶体保護のガントリチルトプロトコルを適用することを保証し、チルト角度を推定するためのヒューマンエラーのリスクを低減することを想定する。従来のガントリチルトアプローチと比較して、本開示による提案された方法およびシステムは、3Dスカウトスキャンおよび診断スキャンがシームレスに実行されるため、現在のワークフローを変更せず、位置決めおよびガントリチルト角の計算のための追加のCTスキャンを必要としない。
【0074】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、放射線感受性が高い臓器の被ばくを低減することができる。
【0075】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1 X線CT装置
11 スキャナ
60 スキャンコントローラ機能
61 画像再構成機能
62 DCNN
63 チルト面生成機能