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特開2024-169448化合物を内耳に投与するためのゲル化溶液
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169448
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】化合物を内耳に投与するためのゲル化溶液
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/34 20170101AFI20241128BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20241128BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241128BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20241128BHJP
   C07K 5/09 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
A61K47/34
A61K47/42
A61K45/00
A61K31/573
A61P27/16
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/20
A61K47/34 ZNA
C07K5/09 ZNA
C07K5/09
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024157261
(22)【出願日】2024-09-11
(62)【分割の表示】P 2022568788の分割
【原出願日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】63/024,232
(32)【優先日】2020-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522296619
【氏名又は名称】スパイラル・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ユージーン デ ジュアン
(72)【発明者】
【氏名】シグネ エリクソン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー アイオーブ
(72)【発明者】
【氏名】キャスリーン ファリナス
(57)【要約】
【課題】ポリマー組成物及び徐放性耳用薬剤を提供すること。
【解決手段】一態様において、本明細書で提供されるのは、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、水と、を含み、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ポリマー組成物が約20℃の温度で約45秒~約60分のゲル化時間を有する、ポリマー組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年5月13日に出願された米国仮特許出願第63/024,232号の優先権を主張し、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出されたテキストファイルの説明
本明細書とともに電子的に提出されたテキストファイルの内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、配列リストのコンピュータ可読フォーマットコピー
【数1】
である。
【0003】
本開示は、内耳の状態又は疾患の治療のための製剤、特に、体温で安定なヒドロゲルを形成して、治療剤、予防剤及び/又は診断剤の一定期間にわたる制御された送達を提供する溶液に関する。
【背景技術】
【0004】
内耳は効果的に治療するのが難しい場合がある。例えば、内耳は平均循環血液量の0.004%しか占めておらず、体内で最も密度が高い骨のうちの1つに被包されている。これらは、血液迷路関門(BLB)の存在と相まって、ほとんどの治療化合物の内耳へのアクセスを制限する。経口、静脈内、及び筋肉内の投与経路は非効率的である場合があり、高用量を必要とする場合があり、全身的な副作用の危険がある。
【発明の概要】
【0005】
本文書は、少なくとも部分的に、対象の中耳及び/又は内耳に活性剤を送達するために使用できる組成物に基づく。
【0006】
本明細書で提供されるのは、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、水と、を含み、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ポリマー組成物が、約20℃の温度で約45秒~約60分のゲル化時間を有する、ポリマー組成物である。
【0007】
また、本明細書で提供されるのは、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、水と、を含み、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが、中耳において形成される場合、少なくとも5日間の滞留時間を有する、ポリマー組成物である。
【0008】
また、本明細書で提供されるのは、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、水と、を含み、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが、37℃で少なくとも5日間のゲル持続時間を有する、ポリマー組成物である。
【0009】
更に、本明細書で提供されるのは、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、水と、を含み、ポリマー組成物が、約5.5~約8.5のpHを有し、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、ポリマー組成物である。
【0010】
また、本明細書で提供されるのは、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、水と、を含み、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2日間平衡化した後、100%未満膨潤する、ポリマー組成物である。
【0011】
また、本明細書で提供されるのは、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、水と、を含み、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが弾性である、ポリマー組成物である。
【0012】
また、本明細書で提供されるのは、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、水と、を含み、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが粘膜付着性(mucoadhesive)である、ポリマー組成物である。
【0013】
更に、本明細書で提供されるのは、ポリマー組成物であって、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、水と、を含み、ポリマー組成物が、約1mPa・s~約1000mPa・sの粘度を有し、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、ポリマー組成物である。
【0014】
本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約20℃の温度で約45秒~約60分のゲル化時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、中耳において形成される場合、少なくとも5日間の滞留時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、37℃で少なくとも5日間のゲル持続時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約5.5~約8.5のpHを有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2日間平衡化した後、100%未満膨潤する。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは弾性であり得る。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは粘膜付着性であり得る。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約1mPa・s~約1000mPa・sの粘度を有することができる。
【0015】
本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ポリマー組成物の約8重量%~約12重量%の官能性ポリマーを含むことができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ポリマー組成物の約10重量%の官能性ポリマーを含むことができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ポリマー組成物の約0.3重量%~約0.5重量%の架橋剤を含むことができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、ポリマー組成物の約0.4重量%~約0.6重量%の架橋剤を含むことができる。
【0016】
本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約20℃の温度で約5分~約20分のゲル化時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約20℃の温度で約8分~約12分のゲル化時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約37℃の温度で約10秒~約30分のゲル化時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約37℃の温度で約2分~約8分のゲル化時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、中耳において形成される場合、少なくとも1週間の滞留時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、中耳において形成される場合、少なくとも2週間の滞留時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、中耳において形成される場合、少なくとも1ヶ月間の滞留時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、中耳において形成される場合、少なくとも2ヶ月間の滞留時間を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約6.4~約7.4のpHを有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約6.0及び7.0のpHを有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2日間平衡化した後、80%未満膨潤する。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で2日間平衡化した後、60%未満膨潤する。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約1mPa・s~約100mPa・sの粘度を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、約1mPa・s~約50mPa・sの粘度を有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、内リンパ又は外リンパに対して低張性であり得る。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、内リンパ又は外リンパに対して等張性であり得る。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、内リンパ又は外リンパに対して高張性であり得る。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、約6.0~約7.7のpHを有することができる。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、ゲルは、約6.6~約6.8のpHを有することができる。
【0017】
本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、第1の官能基と第2の官能基との比は、約0.9:1~約1:0.9であり得る。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、第1の官能基と第2の官能基との比は、約1:1であり得る。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、修飾PEGであり得る。
【0018】
本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、第1の官能基は、求電子剤を含み、第2の官能基は、求核剤を含む。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、第1の官能基は、スクシンイミジルエステルを含む。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、第2の官能基は、一級アミンを含む。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートであり得る。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、架橋剤は、ポリリジンを含む。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、架橋剤は、トリリジンを含む。
【0019】
本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、第1の官能基は、求核剤を含み、第2の官能基は、求電子剤を含む。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、第1の官能基は、一級アミンを含む。本明細書のポリマー組成物のいずれかのいくつかの実施形態では、第2の官能基は、スクシンイミジルエステルを含む。
【0020】
また、本明細書に記載されるのは、本明細書に記載されるポリマー組成物のいずれか1つ以上と、活性剤と、を含む、徐放性耳用組成物である。
【0021】
いくつかの実施形態では、活性剤は、治療剤、予防剤、診断又は視覚化剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、治療剤又は予防剤は、タンパク質、炭水化物、核酸、小分子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、タンパク質は、酵素、成長因子、抗体又はその抗原結合断片、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、炭水化物は、グリコサミノグリカンであり得る。いくつかの実施形態では、核酸は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、マイクロRNA、短鎖干渉RNA、リボザイム、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、小分子は、抗生物質、抗腫瘍剤、局所麻酔剤、ステロイド、ホルモン、抗アポトーシス剤、血管新生剤、抗血管新生剤、神経伝達物質、向精神薬、抗炎症剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、小分子は、Apaf-1の阻害剤であり得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、活性剤は、チロシンキナーゼ阻害剤であり得る。いくつかの実施形態では、活性剤は、VEGF阻害剤であり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、アゲラフェニブ、アルティラチニブ、アパチニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、セジラニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、モテサニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、レバスチニブ、レゴラフェニブ、セマキサニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、トセラニブ、チボザニブ、バンデタニブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、抗体又はその抗原結合断片を含む。いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、アラシズマブ、ベバシズマブ、イクルクマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、デコイ受容体を含む。いくつかの実施形態では、デコイ受容体は、アフリベルセプトであり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、VEGFRのアロステリック修飾因子を含む。いくつかの実施形態では、アロステリック調節因子は、シクロトラキシンBであり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも10倍選択的であり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも20倍選択的であり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも50倍選択的であり得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤又はVEGF阻害剤は、罹患した耳の浮腫及びリンパ機能不全を低減するのに十分な量で存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、抗炎症剤を含む。いくつかの実施形態では、活性剤は、ステロイドを含む。いくつかの実施形態では、活性剤は、ステロイドを含まない。
【0024】
いくつかの実施形態では、活性剤は、診断又は視覚化剤を含む。いくつかの実施形態では、診断又は視覚化剤は、色素、フルオロフォア、MRI造影剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、活性剤は、微粒子の形態で徐放性耳用組成物中に存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、ナノ粒子の形態で徐放性耳用組成物中に存在することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、活性剤は、ポリマー組成物の約0.01重量%~約40重量%の量で存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、ポリマー組成物の約0.1重量%~約20重量%の量で存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、ポリマー組成物の約1重量%~約10重量%の量で存在することができる。
【0027】
いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、賦形剤を更に含むことができる。いくつかの実施形態では、賦形剤は、緩衝液、等張化剤、粘膜付着剤、安定化剤、防腐剤、担体、浸透増強剤、希釈剤、分散剤、粘度調節剤、可溶化剤、浸透圧調節剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0028】
また、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載のポリマー組成物のいずれか1つ以上によって形成された、ゲルである。また、本明細書で提供されるのは、本明細書に記載の徐放性耳用組成物のいずれか1つ以上によって形成された、ゲルである。
【0029】
また、本明細書で提供されるのは、耳の疾患又は障害の治療のための、本明細書に記載の徐放性耳用組成物のいずれか1つ以上を含む医薬の、製造である。
【0030】
本明細書で提供されるのは、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液(官能性ポリマーが第1の官能基を含む)と、架橋剤の溶液又は懸濁液(架橋剤が第2の官能基を含む)と、活性剤とを組み合わせて、徐放性耳用組成物を形成することを含み、それにより、官能性ポリマーが、徐放性耳用組成物の約5重量%~約15重量%の量で存在することができ、架橋剤が、徐放性耳用組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の量で徐放性耳用組成物中に存在することができ、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
【0031】
本明細書で提供されるのは、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、(a)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製することであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、作製することと、(b)架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することであって、架橋剤が第2の官能基を含む、作製することと、(c)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と、架橋剤の溶液又は懸濁液とを組み合わせて、徐放性耳用組成物を形成することを含み、それにより、官能性ポリマーが、徐放性耳用組成物の約5重量%~約15重量%の量で存在することができ、架橋剤が、徐放性耳用組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の量で徐放性耳用組成物中に存在することができ、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
【0032】
本明細書で提供されるのは、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、(a)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製することであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、作製することと、(b)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を、架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることであって、架橋剤が第2の官能基を含む、組み合わせることと、を含み、それにより、官能性ポリマーが、徐放性耳用組成物の約5重量%~約15重量%の量で存在することができ、架橋剤が、徐放性耳用組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の量で徐放性耳用組成物中に存在することができ、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
【0033】
また、本明細書で提供されるのは、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、(a)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製することであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、作製することと、(b)架橋剤の溶液又は懸濁液のpHを変更することであって、架橋剤が第2の官能基を含む、変更することと、(c)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることと、を含み、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
【0034】
更に、本明細書で提供されるのは、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、(a)架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することであって、架橋剤が第2の官能基を含む、作製することと、(b)架橋剤の溶液又は懸濁液を官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と組み合わせることであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、組み合わせることと、を含み、それにより、官能性ポリマーが、徐放性耳用組成物の約5重量%~約15重量%の量で存在することができ、架橋剤が、徐放性耳用組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の量で徐放性耳用組成物中に存在することができ、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
【0035】
本明細書で提供されるのは、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、(a)架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することであって、架橋剤が第2の官能基を含む、作製することと、(b)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液のpHを変更することであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、変更することと、(c)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることと、を含み、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
【0036】
本明細書で提供される調製方法のいずれかのいくつかの実施形態では、活性剤は、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液中に存在することができる。本明細書で提供される調製方法のいずれかのいくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製する前に、活性剤を官能性ポリマーと組み合わせることができる。本明細書で提供される調製方法のいずれかのいくつかの実施形態では、活性剤を官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と組み合わせることができる。本明細書で提供される調製方法のいずれかのいくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることは、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と、架橋剤の溶液又は懸濁液と、活性剤とを組み合わせることを含む。本明細書で提供される調製方法のいずれかのいくつかの実施形態では、活性剤は、固体として提供され得る。本明細書で提供される調製方法のいずれかのいくつかの実施形態では、活性剤は、溶液又は懸濁液として提供され得る。本明細書で提供される調製方法のいずれかのいくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物のいずれか1つ以上であり得る。
【0037】
本明細書で提供されるのは、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、対象が耳の疾患又は障害を有すると特定することと、治療有効量の、本明細書で提供される徐放性耳用組成物のいずれか1つ以上を対象の罹患した耳に投与することを含む。
【0038】
本明細書で提供されるのは、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、治療有効量の、本明細書で提供される徐放性耳用組成物のいずれか1つ以上を、それを必要とする対象の耳に投与することを含む、方法である。
【0039】
また、本明細書で提供されるのは、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、(i)本明細書で提供される方法のいずれか1つ以上によって徐放性耳用組成物を調製することと、(ii)治療有効量の徐放性耳用組成物を、それを必要とする対象の耳に投与することと、を含む、方法である。
【0040】
更に、本明細書で提供されるのは、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、(i)対象が耳の疾患又は障害を有すると特定することと、(ii)本明細書に記載の方法のいずれか1つ以上によって徐放性耳用組成物を調製することと、(iii)治療有効量の徐放性耳用組成物を、対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法である。
【0041】
本明細書で提供される治療方法のいずれかのいくつかの実施形態では、耳の疾患又は障害は、メニエール病(MD)、自己免疫性内耳疾患(AIED)、突発性感音性難聴(SSNHL)、騒音性難聴(NIHL)、加齢性難聴、糖尿病に伴う感音性難聴、耳鳴り(tinnitus)、自己免疫障害による繊毛の損傷、感染症による繊毛の損傷、過剰な体液又は圧力による繊毛の損傷、化学療法による難聴、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。本明細書で提供される治療方法のいずれかのいくつかの実施形態では、感音性難聴は、突発性感音性難聴であり得る。本明細書で提供される治療方法のいずれかのいくつかの実施形態では、感音性難聴は、糖尿病に伴い得る。
【0042】
本明細書で提供されるのは、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、治療有効量の、本明細書に記載の徐放性耳用組成物のいずれか1つ以上を、それを必要とする対象の耳に投与することを含む、方法である。
【0043】
本明細書で提供されるのは、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、(i)対象がメニエール病を有すると特定することと、(ii)治療有効量の、本明細書に記載の徐放性耳用組成物のいずれか1つ以上を対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法である。
【0044】
更に、本明細書で提供されるのは、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、(i)本明細書に記載の方法のいずれか1つ以上によって徐放性耳用組成物を調製することと、(ii)治療有効量の徐放性耳用組成物を、それを必要とする対象の耳に投与することと、を含む、方法である。
【0045】
また、本明細書で提供されるのは、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、(i)対象がメニエール病を有すると特定することと、(ii)本明細書に記載の方法のいずれか1つ以上によって徐放性耳用組成物を調製することと、(iii)治療有効量の徐放性耳用組成物を、対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法である。
【0046】
本明細書で提供される治療方法のいずれか1つ以上において、投与することは、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせた後10分以内に行われる。本明細書で提供される治療方法のいずれか1つ以上において、投与することは、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせた後5分以内に行われる。本明細書で提供される治療方法のいずれか1つ以上において、投与することは、約5μL~約500μLの徐放性耳用組成物を投与することを含み得る。本明細書で提供される治療方法のいずれか1つ以上において、投与することは、約50μL~約200μLの徐放性耳用組成物を投与することを含み得る。本明細書で提供される治療方法のいずれか1つ以上において、投与することは、鼓膜を通して注射することを含み得る。
【0047】
本明細書で提供されるのは、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、対象が耳の疾患又は障害を有すると特定することと、治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することと、を含む、方法である。
【0048】
いくつかの実施形態では、耳の疾患又は障害は、メニエール病(MD)、自己免疫性内耳疾患(AIED)、突発性感音性難聴(SSNHL)、騒音性難聴(NIHL)、加齢性難聴、糖尿病に伴う感音性難聴、耳鳴り、自己免疫障害による繊毛の損傷、感染症による繊毛の損傷、過剰な体液又は圧力による繊毛の損傷、化学療法による難聴、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、感音性難聴は、突発性感音性難聴であり得る。いくつかの実施形態では、感音性難聴は、糖尿病に伴い得る。
【0049】
また、本明細書で提供されるのは、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、(i)対象がメニエール病を有すると特定することと、(ii)治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することと、を含む、方法である。
【0050】
本明細書で提供されるのは、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法である。
【0051】
いくつかの実施形態では、投与することは、全身投与を含むことができる。いくつかの実施形態では、投与することは、対象の罹患した耳に投与することを含むことができる。いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、VEGF阻害剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、アゲラフェニブ、アルティラチニブ、アパチニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、セジラニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、モテサニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、レバスチニブ、レゴラフェニブ、セマキサニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、トセラニブ、チボザニブ、バンデタニブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、抗体又はその抗原結合断片を含む。いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、アラシズマブ、ベバシズマブ、イクルクマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、デコイ受容体を含む。いくつかの実施形態では、デコイ受容体は、アフリベルセプトであり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、VEGFRのアロステリック修飾因子を含む。いくつかの実施形態では、VEGFRのアロステリック調節因子は、シクロトラキシンBであり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも10倍選択的であり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも20倍選択的であり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも50倍選択的であり得る。いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、罹患した耳の浮腫及びリンパ機能不全を低減するのに十分な量で存在することができる。いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、本明細書に記載の徐放性耳用組成物のいずれか1つ以上の形態で提供することができる。
【0052】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと同様又は同等の方法及び材料を使用して本発明を実施することができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。矛盾が生じた場合、定義を含む本明細書が制御するものとする。加えて、材料、方法、及び実施例は、単なる例示であり、限定することを意図するものではない。
【0053】
本開示の1つ以上の実施形態の詳細は、添付の図面及び以下の説明に記載されている。本開示の他の特性、目的、及び利点は、説明及び図面から、並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。特許請求の範囲中の「含む」という言葉は、特許法の標準的な慣行に従って、「から本質的になる」又は「からなる」に置き換えることができる。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
ポリマー組成物であって、
前記ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
前記ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
架橋反応が前記第1の官能基と前記第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、前記ポリマー組成物が、約20℃の温度で約45秒~約60分のゲル化時間を有する、ポリマー組成物。
(項目2)
ポリマー組成物であって、
前記ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
前記ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
架橋反応が前記第1の官能基と前記第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、前記ポリマー組成物が、約37℃の温度で約10秒~約30分のゲル化時間を有する、ポリマー組成物。
(項目3)
前記ゲルが、中耳において形成される場合、少なくとも5日間の滞留時間を有する、項目1又は2に記載のポリマー組成物。
(項目4)
前記ゲルが、37℃で少なくとも5日間のゲル持続時間を有する、項目1~3のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目5)
前記ポリマー組成物が、約5.5~約8.5のpHを有する、項目1~4のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目6)
前記ゲルが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1日間平衡化した後、100%未満膨潤する、項目1~5のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目7)
前記ゲルが弾性である、項目1~6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目8)
前記ゲルが粘膜付着性である、項目1~7のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目9)
前記ポリマー組成物が、約1mPa・s~約1000mPa・sの粘度を有する、項目1~8のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目10)
前記ポリマー組成物が、前記ポリマー組成物の約6重量%~約12重量%の前記官能性ポリマーを含む、項目1~9のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目11)
前記ポリマー組成物が、前記ポリマー組成物の約0.1重量%~約0.3重量%の前記架橋剤を含む、項目1~10のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目12)
前記ポリマー組成物が、約20℃の温度で約8分~約12分のゲル化時間を有する、項目1~11のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目13)
前記ゲルが、約300mOsmol/kg~約600mOsmol/kgの浸透圧を有する、項目1~12のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目14)
前記ゲルが、約6.0~約6.5のpHを有する、項目1~13のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目15)
前記第1の官能基と前記第2の官能基との比が、約0.8:1.2~約1.2:0.8である、項目1~14のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目16)
前記第1の官能基と前記第2の官能基との前記比が、約1:1である、項目1~15のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目17)
前記第1の官能基が、スクシンイミジルエステルを含む、項目1~16のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目18)
前記官能基が、スクシンイミジルスクシネート、スクシンイミジルグルタレート、スクシンイミジルアジペート、スクシンイミジルグルララミド(gluraramide)、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルボキシメチルエステル、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目1~17のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目19)
前記第2の官能基が、一級アミンを含む、項目1~18のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目20)
前記官能性ポリマーが、ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートである、項目1~19のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目21)
前記架橋剤が、ポリリジン又はその塩を含む、項目1~20のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目22)
前記架橋剤が、トリリジン又はその塩を含む、項目1~21のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
(項目23)
徐放性耳用組成物であって、
項目1~22のいずれか一項に記載のポリマー組成物と、
活性剤と、を含む、徐放性耳用組成物。
(項目24)
前記活性剤が、治療剤、予防剤、診断又は視覚化剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目23に記載の徐放性耳用組成物。
(項目25)
前記治療剤又は予防剤が、タンパク質、炭水化物、核酸、小分子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目24に記載の徐放性耳用組成物。
(項目26)
前記活性剤が、チロシンキナーゼ阻害剤である、項目23~25のいずれか一項に記載の徐放性耳用組成物。
(項目27)
前記活性剤が、グルココルチコイドを含む、項目23~26のいずれか一項に記載の徐放性耳用組成物。
(項目28)
前記活性剤が、デキサメタゾンを含む、項目27に記載の徐放性耳用組成物。
(項目29)
前記活性剤が、前記ポリマー組成物の約1重量%~約15重量%の量で存在する、項目23~28のいずれか一項に記載の徐放性耳用組成物。
(項目30)
徐放性耳用組成物であって、
約5%~約15%のペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートと、
約0.05重量%~約0.6重量%のトリリジン又はその塩と、
約0.01重量%~約40重量%のデキサメタゾンと、
水と、を含む、徐放性耳用組成物。
(項目31)
徐放性耳用組成物であって、
約8.3%のペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートと、
約0.2重量%のトリリジン又はその塩と、
約6重量%のデキサメタゾンと、
水と、を含む、徐放性耳用組成物。
(項目32)
約0.01重量%~約3.0重量%のホウ酸ナトリウム十水和物と、
約0.01重量%~約3.0重量%のリン酸ナトリウムと、
約0.01重量%~約3.0重量%のリン酸と、
約0%~約0.5%のFD&Cブルー#1と、
約0重量%~約0.01重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、を更に含む、項目30又は31に記載の徐放性耳用組成物。
(項目33)
約1.2重量%のホウ酸ナトリウム十水和物と、
約1.1重量%~約3.0重量%のリン酸ナトリウムと、
約0.9重量%~約3.0重量%のリン酸と、
約0.01%のFD&Cブルー#1と、
約0.002重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、を更に含む、項目30又は31に記載の徐放性耳用組成物。
(項目34)
項目1~22のいずれか一項に記載のポリマー組成物又は項目23~33のいずれか一項に記載の徐放性耳用組成物によって形成された、ゲル。
(項目35)
耳の疾患又は障害の治療のための、項目23~33のいずれか一項に記載の徐放性耳用組成物を含む医薬の、製造。
(項目36)
対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、
対象が耳の疾患又は障害を有すると特定することと、
治療有効量の項目23~33のいずれか一項に記載の徐放性耳用組成物を前記対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法。
(項目37)
耳の疾患又は障害の治療を必要とする対象においてそれを行う方法であって、
治療有効量の項目23~33のいずれか一項に記載の徐放性耳用組成物を前記対象の耳に投与することを含む、方法。
(項目38)
前記耳の疾患又は障害が、メニエール病(MD)、自己免疫性内耳疾患(AIED)、突発性感音性難聴(SSNHL)、騒音性難聴(NIHL)、加齢性難聴、糖尿病に伴う感音性難聴、耳鳴り、自己免疫障害による繊毛の損傷、感染症による繊毛の損傷、過剰な体液又は圧力による繊毛の損傷、化学療法による難聴、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、項目36又は37に記載の方法。
(項目39)
対象におけるメニエール病を治療する方法であって、
治療有効量の項目23~33のいずれか一項に記載の徐放性耳用組成物を、それを必要とする対象の耳に投与することを含む、方法。
(項目40)
対象におけるメニエール病を治療する方法であって、
(i)対象がメニエール病を有すると特定することと、
(ii)治療有効量の項目80~124のいずれか一項に記載の徐放性耳用組成物を前記対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法。
(項目41)
前記投与することが、約40μL~約60μLの前記徐放性耳用組成物を投与することを含む、項目36~40のいずれか一項に記載の方法。
(項目42)
前記投与することが、前記徐放性耳用組成物が正円窓膜と接触するように投与することを含む、項目36~40のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1A】ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートの構造である。
図1B】トリリジンの構造である。
図2A】0%(黒四角)、1%(白四角)、3%(ひし形)及び6%(三角)のデキサメタゾン(Dex)を含有する、pH調整されたPEG-トリリジンポリマーサンプル(n=3)の経時的な(日)膨潤プロファイル(パーセント)のグラフである。
図2B】6%(三角)、3%(ひし形)又は1%(四角)のデキサメタゾンを含有する、pH調整されたPEG-トリリジンポリマーサンプル(n=3)の累積薬物放出(μg)のグラフである。
図3】6重量%のデキサメタゾンを含有する、pH調整されたPEG-トリリジンポリマーサンプル(n=6)の経時的な(日)膨潤プロファイル(膨潤パーセント)のグラフであり、ポットライフは67分(丸)、26分(四角)、又は16分(三角)である。
図4】6重量%のデキサメタゾンを含有する(n=6)、6重量%のデキサメタゾンを含有する、pH調整されたPEG-トリリジンポリマーサンプル(n=6)の経時的な(日)薬物放出(μg)のグラフであり、ポットライフは、67分(丸)、26分(四角)、又は16分(三角形)である
図5A】PBS溶液中での、pH調整されたPEG-トリリジンポリマー(丸)及びポロキサマー407(三角)(n=5)中の6重量%のデキサメタゾンゲルの経時的な(日)薬物放出(μg)のグラフである。
図5B】pH調整されたPEG-トリリジンポリマー(丸)及びポロキサマー407(三角)(n=3)中の6重量%のデキサメタゾンゲルの経時的な(日)膜浸透(薬物放出(μg))のグラフである。
図6A】インビボ研究における時間に対する血漿中のデキサメタゾン濃度のグラフである。白抜きの記号は、PEG-トリリジンポリマー製剤を投与された対象からのものであり、黒い記号は、P407製剤を投与された対象からのものである。
図6B】インビボ研究における時間に対する外リンパ中のデキサメタゾン濃度のグラフである。点は、個々の対象の左耳(L、丸、四角、六角形)及び右耳(R、三角形及びひし形)である。白抜きの記号は、PEG-トリリジンポリマー製剤を投与された対象からのものであり、黒い記号は、P407製剤を投与された動物からのものである。矢印記号は、P407製剤を投与された対象A843を表し、そのデキサメタゾンレベルは検出レベル(限界:9500ng/mL)を超えている。
図6C図6Bと同じデータを左右の耳をまとめてプロットしたものである。
図7】ゲル時間(分)と、様々なpH調整されたPEG-トリリジンポリマー組成物のpHのグラフである。
図8】ゲル時間(分)と、0.23Mの50:50希釈液(丸)及び0.25Mの50:50希釈液(三角)で調製した耳用組成物のためのPEG-トリリジンキットの使用期限からの年数のグラフである。
図9】徐放性耳用組成物D1(丸)、D2(三角)、D3(四角)、及びD4(ひし形)についてのデキサメタゾンの累積放出(mg)と時間(日)のグラフである。
図10A】インビボ研究における治療後日数に対するベースラインからの閾値シフト(dB)のグラフである。
図10B】インビボ研究におけるABR刺激周波数に対するベースラインからの閾値シフト(dB)のグラフである。
図10C】治療後8週間のインビボ研究におけるABR刺激周波数に対するベースラインからの閾値シフト(dB)のグラフである。
図11A】インビボ研究における対象集団についての血漿中の時間に対するデキサメタゾン濃度(ng/mL)のグラフである。
図11B】インビボ研究における個々の対象についての血漿中の時間に対するデキサメタゾン濃度(ng/mL)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
全身療法の潜在的な副作用と、長期にわたる高用量療法による合併症は、局所適用療法によって回避できる。内耳治療剤(例えば、生体適合性ゲルとして処方された薬物)は、鼓膜(TM)を介して中耳への鼓室内注射を介して送達することができる。内耳への鼓室内注射後の中耳から内耳への薬剤の受動的拡散は、正円窓膜を覆う偽膜の存在、注射された製剤が正円窓膜に接触しないこと、並びに正円窓膜及び楕円窓膜の限られた透過性などの解剖学的な変異により有効性が変動する。これは、患者の転帰不良につながる可能性がある。更に、外科的合併症のリスクが高い。更に、内耳の外リンパからの薬剤の急速なクリアランスは、繰り返しの鼓室内注射の必要性をもたらす可能性があり、これも対象にとって望ましくなく、コンプライアンス低下のリスクに加えて、感染症、炎症、及び鼓膜への長期的な損傷の累積リスクと関連している。
【0056】
内耳への治療剤の局所送達は、通常、全身適用の場合よりも内耳液中の濃度が高くなる。(例えば、全身投与に使用されるよりも低い用量で)局所適用される物質は、全身適用に伴う重大な制限又は禁忌さえある場合にも投与することができる。例えば、Salt,et al.Drug Discov Today.2005 Oct 1;10(19):1299-1306を参照されたい。物質は鼓室内に適用され、例えば、鼓膜を通して中耳腔に注射される。いかなる理論にも拘束されるものではないが、この手順は、薬物が蝸牛の正円窓膜(RWM)に接触し、鼓室階(ST)に入り、耳全体に広がるという前提に基づいている。このような治療の標的組織には、感覚有毛細胞、求心性神経線維、及び内耳の蝸牛(聴覚)又は前庭(平衡)部分の支持細胞が含まれる。
【0057】
麻酔剤、グルココルチコイド、及びアミノグリコシドは、内耳障害の治療に使用されてきた。現在、鼓室内療法の最も広く使用されている形態は、メニエール病又は突発性感音性難聴を有する対象の中耳へのグルココルチコイドの注射である。メニエール病の治療のためのゲンタマイシンの局所適用に関する臨床報告もある。ゲンタマイシンは、平衡系の感覚細胞に対して毒性があり、前庭系を部分的に切除することにより、一部の対象のめまいを抑制する.ヒトにおいて試験された他の物質には、局所麻酔剤、神経伝達物質、及び神経伝達物質拮抗薬が含まれる。成長因子、抗酸化剤、アポトーシス阻害剤、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与にも関心がある。動物実験では、騒音及び薬物毒性から耳を保護するために局所的に適用される薬物を使用した有望な結果が示されている。このような研究の1つの拡張は、内耳障害の持続的治療のための局所ウイルス及び非ウイルス遺伝子導入である。
【0058】
メニエール病(MD)は、典型的には、自発性めまい、変動性難聴、耳鳴り、及び耳の膨満感又は詰まりの再発性エピソードを特徴とする内耳の慢性疾患である。これらの臨床症状は、個人の生活の質(QOL)に重大な悪影響を及ぼす可能性がある。MDの治療法はなく、現在、MDを適応とする承認された薬理学的治療法はない。
【0059】
MDの現在の治療は、主にめまい発作の頻度及び重症度を軽減し、耳鳴り及び耳閉感を低減し、聴覚及びQOLを維持又は改善することに重点を置いている。低塩食、利尿薬、ベタヒスチン、経口ステロイド、抗ウイルス薬、ベンゾジアゼピン、及びゲンタマイシン又はコルチコステロイドの鼓室内(IT)注射など、様々な治療法が処方されている。また、場合によっては、蝸牛又は聴神経の破壊的な外科的アブレーションを行うことができる。
【0060】
MD患者の有望な治療選択肢としてのコルチコステロイドの使用は、MDの病態生理学における炎症及び免疫メカニズムの役割と組み合わせて自己免疫性内耳疾患及び突発性感音性難聴(SNHL)などの他の聴覚障害を治療するためにコルチコステロイドを使用することの確立された臨床的利点に端を発している。蝸牛における抗炎症効果及び免疫抑制効果に加えて、MDにおけるコルチコステロイドの作用機序は、迷路循環を増加させ、蝸牛液の恒常性に影響を与えるイオン又は水輸送メカニズムを通じて内耳機能を改善することも示している。コルチコステロイドのデキサメタゾンは、複数の炎症性サイトカインを阻害することで炎症を抑制し、浮腫、フィブリン沈着、毛細血管漏出、及び炎症細胞の移動を減少させることが示されている。
【0061】
MDの症状を管理するための直接的な中耳への薬物注射は、大きな利点があり得る。タイトな血液迷路関門は、IT投与後に内耳において治療薬物レベルを達成させると同時に、全身曝露、及び全身投与に伴うことが多い副作用を最小限に抑えることができる。
【0062】
IT投与経路によりMD及び耳鳴り患者を治療するためのコルチコステロイドの臨床使用は、30年以上前に始まった。両方の患者群で臨床的利点が報告されており、治療に対する副作用はない。デキサメタゾンの局所投与は、正円窓膜及び楕円窓膜を通じた拡散により内耳に入ると考えられており、MD患者の聴力転帰を改善する役割を果たすことが示されている。
【0063】
MDに関するAAO2020臨床診療ガイドラインでは、非侵襲的治療(例えば、食事及びライフスタイルの変更)に反応しない活動性MD患者のための治療オプションとして、またITゲンタマイシン療法の代替として、ITステロイド療法を説明している。デキサメタゾンリン酸ナトリウムによる局所治療は、システマティックレビュー及びランダム化対照試験の結果として、臨床診療のオプションとして確立されている。結論として、ITステロイド療法は害よりも利点の方が多いということである。
【0064】
メニエール病は、自発性めまい(めまい)、変動性難聴、耳鳴り(耳鳴り)、及び耳の膨満感又は詰まり(耳閉感)の再発性エピソードを特徴とする内耳の慢性疾患である。これらの症状は体を衰弱させ、QOLに大きな影響を与える可能性がある。メニエール病は、典型的には、右耳と左耳の比に違いが見られない一側性(片耳のみに影響を与える)として現れるが、最終的には25~40%の症例(両側性MD)において反対側の耳にも影響を与える。両側性MDは、前庭症状の増加、及び健康関連のQOLへの悪影響の増加に関連している(Espinosa-Sanchez JM and JA Lopez-Escamez.Meniere’s disease.Handbook of Clinical Neurology 2016;137:257-77.,nidcd.nih.gov/health/menieres-disease)。
【0065】
MDの有病率は、米国(US)の成人100,000人当たり約50~200人であり(Basura et al.Clinical Practice Guideline:Meniere’s Disease.Otolaryngology-Head and Neck Surgery 2020,Vol.162(2S)S1-S55)、女性の割合が少ない(Lopez-Escamez JA, Carey J, Chung WH et al.(2015).Diagnostic criteria for Meniere’s disease.J Vestib Res 25:1-7)。MDはどの年齢でも発生する可能性があるが、40代~60代の成人が罹患する可能性がより高い。その結果、子供が罹患することはめったにない(Espinosa-Sanchez JM and JA Lopez-Escamez.Meniere’s
disease.Handbook of Clinical Neurology 2016;137:257-77)。
【0066】
MDの治療法はなく、現在、MDの治療を適応とする承認された薬理学的治療法はない。MDの自然な経過は、典型的には、周期的な重度のめまい発作を伴う聴覚及び前庭視力の変動、並びに聴覚及び前庭機能の長期にわたる進行性の低下である(Basura et al.,2020)。一部のMD患者は、アレルギー及び自己免疫障害を含む他の疾患及び併存疾患に罹患しており(Espinosa-Sanchez JM and JA Lopez-Escamez.Meniere’s disease.Handbook of Clinical Neurology 2016;137:257-77)、MDとこれらの併存疾患との因果関係は十分に確立されていない(Gurkov R,Pyyko I,Zou J,Kentala E.What is Meniere’s disease?A contemporary re-evaluation of endolymphatic hydrops.J Neurol.2016;263(Suppl 1):S71-81)。
【0067】
1861年、Prosper Meniereは、MDに伴うめまい、平衡感覚障害及び難聴の症状は内耳の病変の結果であると指摘した(Basura et al.,2020)。
【0068】
MDの根底にある病因は完全には明らかではないが、内耳液(内リンパ液)量の増加(水腫)と関連しており、最終的には一時的な耳の症状(めまい、変動性難聴、耳鳴り、及び耳閉感)を引き起こす(Basura et al.,2020)。
【0069】
MDの診断基準は、Classification Committee of the Barany Society、日本めまい平衡医学会(Japan Society for Equilibrium Research)、European Academy of Otology and Neurotology(EAONO)、Equilibrium Committee of the American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery(AAO-HNS)及びKorean Balance Societyによって共同で策定された。
【0070】
分類には、MD確実例(definite MD)とMD疑い例(probable MD)の2つのカテゴリーがある(表B1を参照)。
【表B1】
【0071】
MDの管理は一般に、めまい発作の頻度及び重症度を軽減し、耳鳴り及び耳閉感を低減し、聴力及びQOLを維持又は改善することを目的としている。低塩食、利尿薬、ベタヒスチン、経口ステロイド、抗ウイルス薬、ベンゾジアゼピン、及びゲンタマイシン又はコルチコステロイドのIT注射など、様々な治療法が処方されている。難治性の症例では、蝸牛又は聴神経の破壊的な外科的アブレーションを実行することができる(Albu S,Chirtes F,Trombitas V et al.(2015).Intratympanic dexamethasone versus high dosage of betahistine in the treatment of intractable unilateral Meniere disease.Am J Otolaryngol 36:205-209、Coelho DH,Lalwani AK.Medical management of Meniere’s disease.Laryngoscope 2008;118:1099-108、Alarcon AV,Hidalgo LO,Arevalo RJ,Diaz MP.Labyrinthectomy and Vestibular Neurectomy for Intractable Vertiginous Symptoms.Int
Arch Otorhinolaryngol.2017 Apr;21(2) 184-190.doi:10.1055/s-0037-1599242.PMID:28382129;PMCID:PMC5375706)。
【0072】
コルチコステロイドを使用して、自己免疫性内耳疾患及び突発性SNHLなどの他の聴覚障害を治療することの確立された臨床的利点(Li H,Feng G,Wang H,Feng Y (2015).Intratympanic steroid therapy as a salvage treatment for sudden sensorineural hearing loss after failure of conventional therapy:a meta-analysis of randomized,controlled trials.Clin Ther 37:178-187)を、MDの病態生理学における炎症及び免疫機構の役割と合わせて、コルチコステロイドがMDにおける有望な治療オプションとしてみなされるようになった(Espinosa-Sanchez JM and JA Lopez-Escamez.Meniere’s disease.Handbook of Clinical Neurology 2016;137:257-77、Lopez-Escamez JA,Vilchez JR,Soto-Varela A et al.(2007)。HLA-DRB1*1101対立遺伝子は、南ヨーロッパの集団における両側性メニエール病に関連している可能性がある。Otol Neurotol 28:891-895;Lopez-Escamez JA,Saenz-Lopez P,Acosta L et al.(2010).Association of a functional polymorphism of PTPN22 encoding a lymphoid protein phosphatase in bilateral Meniere’s disease.Laryngoscope 120:103-107;Hamid M,Trune D(2008).Issues,indications,and controversies regarding intratympanic steroid perfusion.Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg 16:434-440、Hu A,Parnes LS.Intratympanic steroids for inner ear disorders:a review.Audiol Neurootol.2009;14(6):373-82)。
【0073】
コルチコステロイドであるデキサメタゾンは、複数の炎症性サイトカインを阻害することで炎症を抑制し、浮腫、フィブリン沈着、毛細血管漏出、及び炎症細胞の移動を減少させることが示されている。蝸牛における抗炎症効果及び免疫抑制効果に加えて、MDにおけるコルチコステロイドの作用機序は、迷路循環を増加させ、蝸牛液の恒常性に影響を与えるイオン又は水輸送メカニズムを通じて内耳機能を改善することも示している(Espinosa-Sanchez,2016,Nevoux J,Viengchareun
S,Lema I et al.(2015).Glucocorticoids stimulate endolymphatic water reabsorption in inner ear through aquaporin 3 regulation.Pflugers Arch 467:1931-1943)。
【0074】
MDの症状を管理するための直接的な中耳への薬物注射は、大きな利点がある。タイトな血液迷路関門は、IT投与後に内耳において治療薬物レベルを達成させると同時に、全身曝露を最小限に抑える。
【0075】
動物研究は、コルチコステロイドのIT送達が全身投与と比較して内耳におけるステロイドのレベルを顕著に高くすることを示している。更に、骨粗鬆症、真性糖尿病、高血圧、消化性潰瘍、白内障、及び内分泌障害など、全身投与に伴う多くの悪影響を回避できる(Espinosa-Sanchez,2016)。
【0076】
歴史的な観点から、IT投与経路によるコルチコステロイドの臨床使用は、Sakataら(1986)のときに始まり、10年後、Sheaら(Shea JJ Jr,Ge
X.Dexamethasone perfusion of the labyrinth plus intravenous Dexamethasone for Meniere’s disease.Otolaryngol Clin North Am 1996;29:353-358)は、MD及び耳鳴り患者の治療にそれらを使用した。両方の患者群で臨床的利点が報告されており、治療に対する副作用はなかった。デキサメタゾンの局所投与は、正円窓膜及び楕円窓膜を通じた拡散により内耳に入ると考えられており、MD患者の聴力を改善する役割を果たすことが示されている。デキサメタゾンは内リンパ嚢を標的とし、内耳における免疫応答の既知の標的である血管条及びらせん靭帯に作用すると考えられている。その結果、内リンパ水腫(EH)の減少が観察され、内リンパの流体力学が回復する(Shea et al.,1996)。IT注射の後、外リンパ内のステロイド濃度は、経口投与よりも260倍高いと推定されている(Devantier L,Djurhuus BD,Hougaard DD,et al.Intratympanic Steroid for Meniere’s Disease:A Systematic Review.Otol Neurotol.2019;40(6):806-812、Bird PA,Murray DP,Zhang M,Begg EJ.Intratympanic versus intravenous delivery of dexamethasone and dexamethasone sodium phosphate to cochlear perilymph.Otol Neurotol 2011;32:933-6)。
【0077】
IT送達によるステロイド療法は、ITゲンタマイシン療法よりも治療に関連する難聴のリスクが低く、それぞれ0%~8%対12.5%~15.4%であると思われる(Basura et al.,2020;Casani AP,Piaggi P,Cerchiai N,Seccia V,Franceschini SS,Dallan I.Intratympanic treatment of intractable unilateral Meniere disease:gentamicin or
dexamethasone?A randomized controlled trial.Otolaryngol Head Neck Surg.2012;146(3):430-437、ElBeltagy Y,Shafik A,Mahmoud
A,Hazaa N.Intratympanic injection in Meniere’s disease;symptomatic and audiovestibular;comparative,prospective randomized 1-year control study.Egypt J Otolaryngol.2012;28(3):171-183;Sarafraz M,Saki N,Nikakhlagh S,Mashali L,Arad A.Comparison the efficacy of intratympanic injections of methylprednisolone and gentamicin to control vertigo in unilateral Meniere’s disease.Biomed Pharmacol J.2015;8:705-709、Syed MI,Ilan O,Nassar J,Rutka JA.Intratympanic therapy in Meniere’s syndrome or disease:up to date evidence for clinical practice.Clin Otolaryngol.2015;40(6):682-690)。ある研究では、ITステロイド療法(38%)とITゲンタマイシン療法(31%)の両方で、耳閉感が同様に改善されることが分かった。
【0078】
突発性感音性難聴と同様に、2つのシステマティックレビューは、ITステロイド療法がMDフレアに続発する聴力の回復に役割を果たす場合があることを示唆している(Basura et al.,2020;Lavigne P,Lavigne F,Saliba I. Intratympanic corticosteroids injections:a systematic review of literature.Eur Arch Otorhinolaryngol.2016;273(9):2271-2278、Patel M. Intratympanic corticosteroids in Meniere’s disease:a mini-review.J Otol.2017;12(3):117-124)が、1つの無作為対照試験では聴力回復に関する利点は見られなかった(Basura et al.,2020;Silverstein H,Isaacson JE,Olds MJ,Rowan PT,Rosenberg S. Dexamethasone inner ear perfusion for the treatment of Meniere’s disease:a prospective,randomized,double-blind,crossover trial.Am J Otol.1998;19(2):196-201)。
【0079】
1つの無作為対照試験(Basura et al.,2020;Paragache
G,Panda NK,Ragunathan M,Sridhara.Intratympanic dexamethasone application in Meniere’s disease-is it superior to conventional therapy?Indian J Otolaryngol Head Neck Surg.2005;57(1):21-23)及び3つのシステマティックレビュー(Lavigne et al.,2016、Patel,2017、Phillips JS,Westerberg B.Intratympanic steroids for Meniere’s disease or syndrome.Cochrane Database Syst Rev.2011;(7):CD008514)においてプラセボ又は従来の医学療法と比較した場合、ITステロイド療法は一般に、めまい症状のより大幅な改善をもたらすことが示されている(85%~90%対57%~80%)。関連する耳鳴り及び耳閉感の症状に様々な利点が見られ、ITステロイドとプラセボとを比較した1つの無作為対照試験(Garduno-Anaya MA,Couthino De Toledo H,Hinojosa-Gonzalez R,Pane-Pianese C,Rios-Castaneda LC.Dexamethasone inner ear perfusion by intratympanic injection in unilateral Meniere’s disease:a two-year prospective,placebo-controlled,double-blind,randomized trial.Otolaryngol Head Neck Surg 2005;33:285-94)は、耳鳴り(48%対20%)、難聴(35%対10%)、耳閉感(48%対20%)の改善を示している。
【0080】
デキサメタゾンの徐放性形態を用いた初期の研究では、プラセボ(42%)と比較して、3mg及び12mgの用量でめまいの頻度が減少し(それぞれ56%及び73%)、耳鳴りも同様に減少したことが記録されている(Basura et al.,2020;Lambert PR,Nguyen S,Maxwell KS,et al.A randomized,double-blind,placebo-controlled clinical study to assess safety and clinical activity of OTO-104 given as a single intratympanic injection in patients
with unilateral Meniere’s disease.Otol Neurotol.2012;33(7):1257-1265)。その後の研究では、めまいの重症度の低下がプラセボと比較して統計的に有意ではなく、耳鳴りの知覚には差異がないことが報告された(Basura et al.,2020、Lambert et al.,2016)。毎日のめまい発作の平均回数と1ヶ月当たりのめまい日数の統計的に有意な減少が認められた(Basura et al.,2020、Lambert et al.,2016)。全体として、ITステロイド療法は忍容性が高く、副作用及び/又は合併症が少ない。最も頻繁に引用される合併症は、術後の中耳炎(7%)(Basura et al.,2020、Patel et al.,2016)及び永続的な鼓膜穿孔(3%~38%)(Basura et al.,2020、Lambert et al.,2012、Lambert PR,Carey J,Mikulec AA,LeBel C.Intratympanic sustained-exposure dexamethasone thermosensitive gel
for symptoms of Meniere’s disease: randomized phase 2b safety and efficacy trial.Otol Neurotol.2016;37(10):1669-1676)である。
【0081】
Basuraら(2020)が指摘したように、ITステロイド療法の有効性は、治療プロトコルのばらつきにより評価が困難であった。投与回数、投与間隔、経過観察期間、並びにめまいのコントロール、耳鳴り、及び耳閉感への影響はかなり異なる(Syed MI,Ilan O,Nassar J,Rutka JA.Intratympanic therapy in Meniere’s syndrome or disease:up to date evidence for clinical practice.Clin Otolaryngol.2015;40(6):682-690)。
【0082】
IT送達によるステロイド療法は、経口ステロイド療法(Basura et al.,2020;Morales-Luckie E,Cornejo-Suarez A,Zaragoza-Contreras MA,Gonzalez-Perez O.Oral administration of prednisone to control refractory vertigo in Meniere’s disease:a pilot study.Otol Neurotol.2005;26(5):1022-1026、Phillips et al.,2011、Doyle KJ,Bauch C,Battista R,et al.Intratympanic steroid treatment:a review.Otol Neurotol.2004;25(6):1034-1039、Morgan AE,Ismail
EI,Ashraf B.Intratympanic injections of
dexamethasone in delayed endolymphatic hydrops:a prospective clinical study.ORL
J Otorhinolaryngol Relat Spec.2018;80(1):19-27)及びITゲンタマイシン療法(Basura et al.,2020;Casani AP,Piaggi P,Cerchiai N,Seccia V,Franceschini SS,Dallan I.Intratympanic treatment of intractable unilateral Meniere disease:gentamicin or dexamethasone?A
randomized controlled trial.Otolaryngol
Head Neck Surg.2012;146(3):430-437、ElBeltagy et al.,2012、Patel et al.,2016、Sarafraz et al.,2015)の代替とみなされる場合がある。
【0083】
経口ステロイドには重大な副作用のリスクがあり(Basura et al.,2020;Stachler RJ,Chandrasekhar SS,Archer SM,et al.Clinical practice guideline:sudden hearing loss.Otolaryngol Head Neck Surg.2012;146(3):S1-S35;Doyle et al.,2004)、使用可能な聴力を有する患者は、難聴の可能性が知られているITゲンタマイシンなどのアブレーション内耳療法を受けることを躊躇する場合がある。したがって、ITステロイド療法を提供する場合、患者の好みには重要な役割がある(Basura et al.,2020;Radtke A,Lempert T,Gresty MA,Brookes GB,Bronstein AM,Neuhauser H. Migraine and Meniere’s disease:is there a link?Neurology.2002;59(11):1700-1704)。鼓室内送達は、潜在的な直接投与経路を提供するオフィス環境で実行される低侵襲注射である可能性がある(Piu F,Wang X,Fernandez R,Dellamary L,Harrop A,Ye Q,Sweet J,Tapp R,Dolan DF,Altschuler RA,Lichter J,LeBel C. OTO-104:a sustained-release dexamethasone hydrogel
for the treatment of otic disorders.Otol Neurotol.2011 Jan;32(1):171-9)。
【0084】
長年にわたり、MD患者におけるコルチコステロイドのIT投与の安全性及び有効性を評価するいくつかの臨床調査が行われてきた。デキサメタゾン12mgの単回IT注射(n=93)の安全性、忍容性、及び臨床活性は、一側性MD患者を対象とした最近の2つの臨床研究において評価された。結果は、デキサメタゾン(グリコールポリマー、ポロキサマー407を含有する緩衝溶液中で処方)が、安全で、忍容性が高く、めまいエンドポイントの有望な改善を示すことを実証し、このプログラムが現在進行中の第3相へ移行することを支持した。(Lambert PR,Nguyen S,Maxwell KS,et al.A randomized,double-blind,placebo-controlled clinical study to assess safety and clinical activity of OTO-104 given as a single intratympanic injection in patients with unilateral Meniere’s disease.Otol Neurotol.2012;33(7):1257-1265、Lambert PR,Carey J,Mikulec AA,LeBel C. Intratympanic sustained-exposure dexamethasone thermosensitive gel for symptoms of Meniere’s disease:randomized phase 2b safety and efficacy trial.Otol Neurotol.2016;37(10):1669-1676)。
【0085】
第1b相研究では、16人の患者が12mgのデキサメタゾンの単回IT注射を投与され、14人の患者が3mgのデキサメタゾンを投与され、14人の患者がプラセボを投与された。死亡、重篤有害事象(SAE)、及びこの研究からの中止に至った有害事象(AE)はなかった。また、実験室での測定、身体検査、バイタルサイン又は心電図(ECG)に有害な所見はなかった(Lambert et al.,2012)。
【0086】
この研究では、ほとんどの患者に少なくとも1つの治療中に発生した有害事象(TEAE)が発生した。2人以上の患者で観察された、事前に特定された対象となる唯一のAEは、鼓膜(TM)の穿孔であった。この研究の終了時、TM穿孔の発生率は、デキサメタゾン(3mg又は12mg)を投与された患者で3%であった。TMの穿孔は、IT注射を使用した他の研究で観察されており(Lambert et al.,2012;Rauch SD,Halpin CF,Antonelli PJ,et al.Oral
vs intratympanic corticosteroid therapy
for idiopathic sudden sensorineural hearing loss:a randomized trial.JAMA 2011;305:2071-79、Herraiz C,Plaza G,Aparicio JM,et al.Transtympanic steroids for Meniere’s disease.Otol Neurotol 2010;31:162-7)、ほとんどの穿孔は自然に解消した(Lambert et al.,2012、Muehlmeier G,Biesinger E,Maier H. Safety of
intratympanic injection of AM-101 in patients with acute inner ear tinnitus.Audiol Neurotol 2011;16:388-97)。
【0087】
第2b相研究では、77人の患者が12mgのデキサメタゾンの単回IT注射を投与され、77人の患者がプラセボを投与された。ほとんどのAEの重症度は軽度又は中等度であり、この研究では患者の中止に至ったTEAEはなかった。この研究における安全性評価の結果(耳鏡検査、聴力検査、ティンパノメトリー、バイタルサイン、臨床研究室評価、単語認識、Columbia-Suicide Rating Scale(C-SSRS)は、それらの忍容性が高く、新たなリスクは確認されなかったので、コルチコステロイドのIT注射の継続的な評価を支持している。この研究の終了時に、デキサメタゾンで治療された2人の患者で永続的なTM穿孔が観察され、これは、コルチコステロイドのIT投与後に観察された穿孔と一致している(Lambert et al.,2016;Garduno-Anaya MA,Couthino De Toledo H,Hinojosa-Gonzalez R,Pane-Pianese C,Rios-Castaneda LC.Dexamethasone inner ear perfusion by intratympanic injection in unilateral Meniere’s disease:a two-year prospective,placebo-controlled,double-blind,randomized trial.Otolaryngol Head Neck Surg 2005;33:285-94、Silverstein H,Farrugia M,Van Ess M. Dexamethasone inner ear perfusion for subclinical endolymphatic hydrops.Ear Nose Throat J 2009;88:778-85、Kitahara T,Kubo T,Okumura S,Kitahara M. Effects of endolymphatic sac drainage with steroids for intractable Meniere’s disease:a long-term follow-up and randomized controlled study.Laryngoscope 2008;118:854-61、Herraiz C,Plaza G,Aparicio JM,et al.Transtympanic steroids for Meniere’s disease.Otol Neurotol 2010;31:162-7、Rauch SD,Halpin CF,Antonelli PJ,et al.Oral
vs intratympanic corticosteroid therapy
for idiopathic sudden sensorineural hearing loss:a randomized trial.JAMA 2011;305:2071-79)。
【0088】
疾患の病因は不明のままであるが、EHは一般に、MDの病理学的特徴として受け入れられている。
【0089】
2010年、Naganawaら(Naganawa,S. et al.Visualization of endolymphatic hydrops in Meniere’s disease with single-dose intravenous gadolinium-based contrast media using heavily T(2)-weighted 3D-FLAIR.Magn Reson Med Sci 9,237-242(2010))は、MD患者のEHを視覚化するIVガドリニウム(Gd)造影内耳MRIを開発した。IV-Gd造影内耳MRIは侵襲性が低く、待ち時間が比較的短く(4時間)、両方の内耳を同時に視覚化できるため、反対側の耳に無症候性のEHを特定することができる。Cho YSら(Cho YS,Ahn JM,Choi JE,et al.Usefulness of Intravenous Gadolinium Inner Ear MR Imaging
in Diagnosis of Meniere’s Disease.Sci Rep.2018;8(1):17562.Published 2018 Dec 3.doi:10.1038/s41598-018-35709-5)は、MDの診断におけるIV-Gd造影内耳MRIの有用性を調査することを目的とした臨床研究を実施して、EHの程度と聴力検査との相関関係を見出した。結果は、MDにおけるEHを視覚化するための診断方法としてIV-Gd内耳MRIの有用性を示す聴覚前庭機能試験との適切な相関関係を実証している。これらの発見にもかかわらず、EHは現在、MD確実例の診断基準の一部ではない。
【0090】
イメージングに基づいてMDが疑われる患者の診断精度を向上させるために、最近の研究では、追加のMD識別パラメータとして外リンパ増強(PE)が導入されている。しかしながら、いまだに不明な点は、他のめまい関連内耳病変(VAIEP)におけるPEの存在及び価値である。
【0091】
2020年2月、JM van Steekelenburgらは、MDが疑われる内耳病変を有する220人の患者(年齢の中央値、55.8)の遡及的分析を発表した。この研究の目的は、MD患者及びMDに起因しない他のVAIEP患者の診断におけるEHの存在及びPEの付加価値を評価することであった(Van Steekelenburg JM,van Weijnen A,de Pont LMH,Vijlbrief
OD,Bommelje CC,Koopman JP,Verbist BM,Blom HM,Hammer S. Value of Endolymphatic Hydrops and Perilymph Signal Intensity in
Suspected Meniere Disease.AJNR Am J Neuroradiol.2020 Mar;41(3):529-534. doi:10.3174/ajnr.A6410.Epub 2020 Feb 6)。結果は、他のVAIEPの耳(それぞれ p<0.001及びp=0.003)及び無症候性の耳(両方ともp<0.001)と比較して、MD確実例及びMD疑い例の耳においてPEの増加がより一般的であることを示した。前庭又は蝸牛のEH又はその両方がMD確実例の耳の91.9%に存在していたため、この研究では、MD確実例の特徴としてのEHの関連性を強調している。無症候性の耳と比較して、MD確実例の耳は、視覚的にも定量的な測定でもPEの増加を示した。
【0092】
この研究はまた、広範囲のVAIEPを有するコホートのMDを診断する際の遅延Gd造影3D-FLAIR MRIの価値を実証し、これは、EHとPE増加の組み合わせが他のVAIEPを有する患者では一般的ではないことを示している。これらの調査結果は、MDに起因するめまい患者の鑑別に役立つ可能性がある(van Steekelenburg et al,2020)。
【0093】
適応外のITステロイド注射が、しばしばMD患者に投与される。しかしながら、治療上の利点は、少なくとも部分的に、中耳からの溶液製剤の急速なクリアランス、注射が「盲目的」であるために中耳内での薬物製剤の配置が不確実であること、並びに中耳における膜バリア及び空気ポケットの存在によって制限される。現在のMD治療ガイドライン(Basura,2020)では、複合リン酸デキサメタゾンナトリウム又はコハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム溶液を3~7日ごとに3~4セッションで投与することを提案している。デキサメタゾンの懸濁液ゲル製剤は、MD患者のめまい症状の改善に有望であることが示されている(Lambert 2012,2016)が、そのような熱応答性ゲル製剤でさえ、投与後数日以内に中耳からクリアランスされることが示されている(Piu 2011)。偽膜(Pseudomembranes)(偽膜(false membranes))は、耳の42%に存在し(Sahin B,Orhan KS,Asliyuksek H,Kara E,Buyuk Y,Guldiken Y.Endoscopic evaluation of middle ear anatomic variations in autopsy series:analyses
of 204 ears.Braz J Otorhinolaryngol.2020 Jan-Feb;86(1):74-82)、迅速にクリアランスされ、ランダムに配置された製剤の正円窓膜との接触を制限する。
【0094】
しかしながら、現在利用可能な鼓室内送達用製剤は、中耳滞留時間が短く、通常、内耳で所望の効果を達成するために複数回の投与を必要とする。これらの製剤の滞留時間が短いと、均一な薬物分布及び放出が得られず、薬物動態が低下する可能性がある。
【0095】
したがって、治療剤、予防剤、又は診断剤を数日間にわたって内耳に持続的に鼓室内送達するために投与することができる有益な効果を有する製剤を提供し、全身曝露のリスクを最小限に抑え、繰り返し投与の必要性を減らしつつ、制御放出及び薬物動態を提供することが目的である。
【0096】
I.定義
「活性剤」及び「医薬品有効成分」は交換可能に使用され、体内で局所的及び/又は全身的に作用する生理学的及び/又は薬理学的に活性な物質を指す。活性剤は、疾患又は障害の治療(例えば、グルココルチコイド又は抗血管新生)、予防(例えば、抗アポトーシス)、又は診断(エガドリニウム)のために対象に投与される物質である。
【0097】
薬物動態学の分野における「AUC」又は「曲線下面積」という用語は、時間に対する血漿中の活性剤濃度のプロットにおける定積分である。実際には、活性剤の濃度は通常、特定の離散的な時点で測定され、AUCを推定するために台形則が使用される。活性剤のAUCは、典型的には、対象の活性剤への曝露を経時的に評価するために使用される。
【0098】
「聴覚脳幹応答」又は「ABR」という用語は、脳内で進行中の電気活動から抽出され、例えば頭皮に配置された電極を介して記録される聴覚誘発電位を指す。ABRは外的要因に依存するため、外因性応答とみなされる。
【0099】
「血液迷路関門」又は「BLB」という用語は、脈管構造と、内リンパ又は外リンパのいずれかである内耳液との間の関門を指す。BLBは、内耳液のイオン恒常性の維持に関与している。
【0100】
「BLLQ」という用語は、「定量下限未満」の略語であり、検量線の最低基準未満として定義される。
【0101】
「Cmax」という用語は、活性剤が投与された後に(例えば、全身的に、又は対象の特定の区画若しくは試験領域において)活性剤が達成する最大(又はピーク)血清濃度を指す。いくつかの実施形態では、Cmaxは、活性剤の2回目の投与前に測定される。
【0102】
「Cmin」という用語は、活性剤が投与された後に(例えば、全身的に、又は対象の特定の区画若しくは試験領域において)活性剤が達成する最小(又はトラフ)血清濃度を指す。いくつかの実施形態では、Cminは、活性剤の2回目の投与前に測定される。
【0103】
「サイトコレオグラム」という用語は、コルチ器官の幅及び長さ全体に沿った有毛細胞の解剖学的状態のグラフィック表現を指す。
【0104】
「DDI」という略語は、薬物間相互作用を指す。
【0105】
架橋に関与できるポリマーを指す場合の「官能化度(degree of functionalization)」という用語は、所定の架橋剤を使用した架橋に好適である適切なポリマー単位(例えば、ポリマー鎖、分岐、又はモノマー)当たりの官能基の数である。例えば、ポリマーがモノマー当たり1つ以上の官能基を有する場合、適切なポリマー単位はモノマーである。別の例として、ポリマーが分岐末端ごとに1つ以上の官能基を有する場合、適切なポリマー基は分岐である。例えば、官能基の亜集団が分解した場合、場合によっては、官能化度が1未満になり得ることが更に理解されるであろう。
【0106】
「薬物吸収」又は「吸収」という用語は、典型的には、局所投与部位から治療効果部位への活性剤の移動過程を指す。場合によっては、薬物吸収は、蝸牛の正円窓ニッチを通り、バリア(正円窓膜など)を越えて1つ以上の内耳構造に入る可能性がある。本明細書で使用される場合、「同時投与」という用語は、一般に、単一の対象への2つ以上の活性剤の投与を包含することを意味し、活性剤が同じ若しくは異なる投与経路によって、又は同じ若しくは異なる時間に投与される予防レジメンを含むことを意図する。
【0107】
ゲルに関して本明細書で使用される場合、「弾性」という用語は、ゲルが弾性を示すこと、例えば、歪曲力に抵抗し、力が除去されると元のサイズ及び形状に戻ることを意味し得る。弾性率は、振動レオロジーにより測定できる場合もある。
【0108】
「有効量」又は「有効濃度」という句は、作用部位にある場合に、(i)疾患若しくは障害を治療するか、(ii)特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ以上の症状を軽減、改善、若しくは排除するか、又は(iii)本明細書に記載の特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ以上の症状の発症を遅延させるのに十分である活性剤の量を意味する。そのような量に対応するであろう活性剤の量は、特定の活性剤、病状及びその重症度、治療を必要とする患者の身元(例えば、年齢及び/又は体重)などの要因に応じて変動するであろうが、それにもかかわらず、当業者によって常套的に決定されることができる。本明細書で使用される場合、「有効量」又は「治療有効量」という用語は、治療される疾患又は状態の症状のうちの1つ以上をある程度まで緩和すると予想されるであろう、作用部位における活性剤の十分な量を指す場合がある。いくつかの実施形態では、活性剤の有効量は、予防有効量における所望の抗炎症結果をもたらすのに必要な量である。「治療有効量」という用語は、例えば、過度の有害な副作用を伴わずに、所望の薬理学的効果を達成するための活性剤の「有効量」を含む。
【0109】
「有効用量」という句は、そのような治療を必要とする患者に投与された場合に、(i)疾患若しくは障害を治療するか、(ii)特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ以上の症状を軽減、改善、若しくは排除するか、又は(iii)本明細書に記載の特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ以上の症状の発症を遅延させるのに十分である活性剤の量を意味する。いくつかの実施形態では、「有効用量」は、そのような治療を必要とする患者に投与された場合に、作用部位において、(i)疾患若しくは障害を治療するか、(ii)特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ以上の症状を軽減、改善、若しくは排除するか、又は(iii)本明細書に記載の特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ以上の症状の発症を遅延させるのに十分な濃度を達成する活性剤の量である。そのような量に対応するであろう活性剤の用量は、特定の活性剤、病状及びその重症度、治療を必要とする患者の身元(例えば、年齢及び/又は体重)などの要因に応じて変動するであろうが、それにもかかわらず、当業者によって常套的に決定されることができる。本明細書で使用される場合、「有効用量」又は「治療有効用量」という用語は、治療される疾患又は状態の症状のうちの1つ以上をある程度まで緩和すると予想されるであろう、活性剤の十分な投与量を指す場合がある。いくつかの実施形態では、活性剤の有効用量は、所望の抗炎症結果をもたらすのに必要な量である。「治療有効用量」という用語は、例えば、過度の有害な副作用を伴わずに、所望の薬理学的効果を達成するための活性剤の「有効用量」を含む。徐放性投薬フォーマットにおける「有効用量」は、薬物動態学的及び/又は薬力学的考察に基づく即時放出投薬フォーマットにおける「有効用量」とは異なり得ることも理解されるであろう。
【0110】
「増強する」又は「増強すること」という用語は、効能の増加又は所望の効果の延長を指す場合がある。場合によっては、「増強する」又は「増強すること」は、活性剤に関連する1つ以上の副作用の減少を指す場合もある。例えば、本明細書に開示される活性剤の効果を増強することに関して、「増強すること」という用語は、抗炎症剤により活性剤の効力を増大させるか、又はその効果の持続時間を延長する能力を指す場合がある。本明細書で使用される「増強有効量」は、所望の系において活性剤の効果を増強するのに十分な薬剤の量を指す。そのような量に対応するであろう薬剤の量は、特定の活性剤、病状及びその重症度、治療を必要とする患者の身元(例えば、年齢及び/又は体重)などの要因に応じて変動するであろうが、それにもかかわらず、当業者によって常套的に決定されることができる。
【0111】
「ゲル」という用語は、半固体組成物を指す。いくつかの実施形態では、ゲルは、重力下での流れを評価することによって、例えば、バイアル内でゲル化反応を実行し、次にバイアルを反転させることによって、液体と区別することができる。一部の評価では、組成物の流れがまだあるかどうかを目視検査で確認できる。場合によっては、バイアルを反転させ、インサート内のサンプルから液体を拭き取った後に、重量測定による評価を実行することができる。場合によっては、ゲルは、撹拌子が回転するのを防ぐ組成物の能力によって液体と区別することができる(例えば、2mLバイアル中に約0.2~約1mLの組成物を含む7×2mmのPTFE撹拌子)。いくつかの実施形態では、ゲルは、弾性係数を有することによって液体と区別することができる。いくつかの実施形態では、ゲルの形成は、貯蔵弾性率と損失弾性率との比(G’’/G’)対時間(t)をプロットするときの縦座標値の急速な変化によって決定することができる。いくつかの実施形態では、ゲルは、その凝集力を、例えば、滴重量又は圧縮力によって分析することによって、液体と区別することができる(Edsman,Katarina LM,et al.“Is there a method that can measure cohesivity?Cohesion by sensory evaluation compared with other test methods.”Dermatologic Surgery 41 (2015):S365-S372、及びEdsman,Katarina LM,and Ake Ohrlund.“Cohesion of hyaluronic acid fillers: correlation between cohesion and other physicochemical properties.”Dermatologic Surgery 44.4(2018):557(両方とも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)。
【0112】
「ゲル化する」という用語は、ゲルの形成を指す。典型的には、ゲルは、液体組成物のゲル化によって形成される。
【0113】
「ゲル持続時間」という用語は、ゲルが分解、溶解、又は溶液に戻るまでの時間を指す。場合によっては、ゲルをバイアルに入れ、室温、37℃、又は50℃の加速条件で保存することにより、ゲル持続時間を測定する。いくつかの場合において、ゲル持続時間は、受容体溶液(例えば、pH7.4のPBS)中に37℃(又は50℃の加速条件)でゲル(例えば、少なくとも1mL)を入れ、必要に応じて定期的に受容体溶液を交換することによって測定される。
【0114】
「ゲル化時間」という用語は、全ての適切な成分を組み合わせた後、組成物がゲルを形成するのにかかる時間を指す。場合によっては、ゲル化時間は、本明細書で定義されるゲルの特性のうちの1つ以上を達成するのにかかる時間を測定することによって決定することができる。いくつかの実施形態では、ゲル化時間は、ゲル化が起こる容器内で撹拌子が回転を停止するのにかかる時間を測定することによって決定することができる。
【0115】
「GLP」という用語は、「優良試験所基準」を指し、非臨床実験室研究の質及び完全性を保証することを目的とした一連の原則である。
【0116】
「hERG」という用語は、カリウムイオンチャネルのアルファサブユニットであるタンパク質をコードするヒトether-a-go-go関連遺伝子を指す場合がある。場合によっては、このサブユニットを含むイオンチャネルはhERGとも呼ばれる。
【0117】
「IC50」という用語は、アッセイ結果が50%低減される阻害剤の濃度を指す。
【0118】
「阻害する」という用語は、活性(例えば、シグナル伝達活性)又は(例えば、遺伝子又は遺伝子産物の)発現を低減するか又は減少させることを意味し得る。この用語はまた、対象における疾患若しくは状態の発症又は疾患若しくは状態の進行を予防すること、遅延させること、又は逆転させることを含み得る。場合によっては、阻害は、部分的である可能性がある。場合によっては、阻害は、完全である可能性がある。いくつかの実施形態では、阻害レベルは、対照又は標準レベルとの比較に基づいて決定することができる。
【0119】
「巨大分子」という用語は、一般に、1500g/molを超える、約2000g/molを超える、又は約2500g/molを超える分子を指す。いくつかの形態では、巨大分子は、ポリマー及び/又はオリゴマーであり得る。
【0120】
「MRSD」又は「最大推奨開始用量」という用語は、その有効性を維持しながら安全かつ合併症を伴わずに投与できる薬剤の最大量を指す。
【0121】
「MTD」又は「最大耐用量」という用語は、許容できない副作用を引き起こさない薬物又は予防薬(prevention)の最大用量を指す。
【0122】
本明細書で使用される「粘膜付着」という用語は、一方が粘膜表面である2つの物質間の付着を指す場合がある。
【0123】
「NOAEL」という用語は、「無毒性量」を指し、非臨床リスク評価の重要な部分になり得る。
【0124】
「耳用(otic)」及び「耳(auris)」という用語は、耳に関連することを指す。例えば、耳用組成物は、耳への投与を意図した組成物であり得る。
【0125】
「薬学的に許容される」という用語は、化合物、又はその塩若しくは組成物が、製剤を構成する他の成分及び/又はそれで治療されている患者と化学的並びに/若しくは毒物学的に適合性があることを示す。いくつかの実施形態では、薬学的に許容される塩は、遊離塩基若しくは遊離酸の効率及び/又は生物学的特性を保存する塩であり得る。いくつかの実施形態では、薬学的に許容される塩は、遊離塩基若しくは遊離酸の効率及び/又は生物学的特性を変化させる塩であり得る。例えば、薬学的に許容される塩は、遊離塩基又は遊離酸のバイオアベイラビリティを改善することができる。
【0126】
本明細書で使用される場合、「医薬組み合わせ」という用語は、複数の活性剤の混合又は組み合わせから生じる医薬治療を指し、活性剤の固定された組み合わせ及び固定されていない組み合わせの両方を含む。「固定された組み合わせ」という用語は、第1の活性剤又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物と、少なくとも1つの追加の活性剤の両方が、単一の組成物又は用量の形態で同時に患者に投与されることを意味する。「固定されていない組み合わせ」という用語は、第1の活性剤又はその薬学的に許容される塩若しくは溶媒和物及び少なくとも1つの追加の活性剤が、それを必要とする対象に、同じ又は異なる投与経路を使用して可変的な介在時間制限で、同時に又は順次投与できるように、別個の組成物又は投与量として処方されることを意味し、このような投与は、対象の体内において有効レベルの2つ以上の化合物を提供する。一実施形態では、第1の活性剤及び第2の活性剤は別個の単位剤形として処方され、別個の剤形は連続投与又は同時投与のいずれかに好適である。これらは、カクテル療法、例えば、3つ以上の有効成分の投与にも適用される。
【0127】
求核剤と架橋を形成できる求電子剤(例えば、スクシンイミジルエステル官能化PEG)を含む部分を含む溶液又は懸濁液を指す場合に本明細書で使用される「ポットライフ」という用語は、その部分が(例えば、粉末又は固体から)溶液又は懸濁液になってからの時間を指す。
【0128】
「VEGF阻害剤」という用語は、血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達の阻害を示す任意の薬剤(例えば、小分子、抗体、又はその抗原結合断片)を含む。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)に結合することができる。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、血管内皮成長因子(例えば、VEGFRのリガンド)に結合することができる。
【0129】
「耳に許容可能な浸透増強剤」又は「浸透増強剤」という用語は、バリア抵抗(例えば、正円窓膜のバリア抵抗)を低減する薬剤を指す。
【0130】
「予防有効量」という用語は、そのような治療を必要とする患者の作用部位に投与された場合に、発生する前に、(i)疾患若しくは障害を予防するか、又は(ii)特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ以上の症状を、軽減、改善、若しくは排除するのに十分な活性剤の量を意味する。場合によっては、「予防有効量」とは、特定の疾患、障害又は状態になりやすいか、さもなければそのリスクがある対象に投与された、作用部位における組成物の量を指し、例えば、活性剤の予防有効量は、作用部位における聴器毒性を予防又は軽減するのに有効な量であり得る。
【0131】
「予防有効用量」という用語は、そのような治療を必要とする患者に投与された場合に、(i)疾患若しくは障害を予防するか、又は(ii)特定の疾患、状態、若しくは障害の1つ以上の症状を、発生前に、軽減、改善、若しくは排除するのに十分な活性剤の量を意味する。場合によっては、「予防有効用量」とは、特定の疾患、障害又は状態になりやすいか、さもなければそのリスクがある対象に投与された組成物の量を指し、例えば、活性剤の予防有効量は、聴器毒性を予防又は軽減するのに有効な量であり得る。例えば、アポトーシス阻害製剤は、化学療法の前に個体に投与して、その後に投与される化学療法剤による難聴を防止することができる。
【0132】
本明細書で使用される場合、「滞留時間」という用語は、製剤が投与位置に留まる時間を指す場合がある。いくつかの実施形態では、滞留時間は、正円窓膜領域上に視覚化されたゲルが存在しない時間、例えば、注射後のある時点でゲルを収集した後の時間であり得る。
【0133】
「室温」という用語は、約15℃~約27℃未満、好ましくは約20℃の温度を指す。
【0134】
「体温」という用語は、約36.5℃~約37.5℃の間の温度、好ましくは約37℃を指す。
【0135】
本明細書で使用される場合、「対象」、「固体」又は「患者」という用語は交換可能に使用され、マウス、ラット、他のげっ歯類、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、霊長類、及びヒトなどの哺乳動物を含む任意の動物を指す。いくつかの実施形態では、患者は、ヒトである。いくつかの実施形態では、対象は、治療及び/又は予防されるべき疾患若しくは障害の少なくとも1つの症状を経験している、かつ/又は示している。
【0136】
「小分子」は、一般に、約1500g/mol未満、約1000g/mol未満、約800g/mol未満、又は約500g/mol未満である分子を指す。いくつかの形態では、小分子は、非ポリマー及び/又は非オリゴマーである。いくつかの実施形態では、小分子は、有機物であり得る。いくつかの実施形態では、小分子は、無機物であり得る。いくつかの実施形態では、小分子は、有機原子及び無機原子の両方を含むことができる。
【0137】
「定常状態」とは、投与された薬物の量(例えば、中耳及び/又は内耳)が、1回の投与間隔内で排出される薬物の量と等しくなり、結果として、標的構造内の薬物曝露のプラトー又は一定レベルとなる場合を指すことがある。
【0138】
本明細書で使用される場合、「安定」は、定義された条件下でのある期間にわたる化学的及び/又は物理的安定性を指す場合がある。いくつかの実施形態では、安定な溶液は、元々溶解していたものを高いパーセンテージで又はその全てを溶液中に保持することができる。いくつかの実施形態では、溶液は、室温(約15~25℃、最も好ましくは25℃)で最初に溶解した溶質の60、70、80、90、95、98、99、又は100%超を保持することができる。
【0139】
本明細書で使用される「持続放出」は、長期間にわたる物質の放出を指す。いくつかの実施形態では、これは、物質の全量が一度に生物学的に利用可能になるボーラスタイプの投与と対照的であり得る。
【0140】
本明細書で使用されるゲルの「膨潤」は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で平衡化した後のゲル重量の増加パーセントを指す場合がある。ゲルの膨潤は、例えば、インサート内でゲルを調製し、初期ゲル重量を記録し、ゲルを室温で約20~60分間形成させ、PBSに浸し(PBS容量はゲルの容量の少なくとも5倍)(例えば、pH7.4)、37℃で保存し、1~3日後にゲルが充填されたインサートを取り出し、表面の流体を拭き取った後に重量を記録し、その後、初期ゲル重量によって正規化されたゲル重量の増加を計算することによって測定することができる。
【0141】
「Tmax」という用語は、薬物又は他の物質が最大濃度Cmaxに達するのにかかる時間を指す。
【0142】
「経鼓膜」又は「鼓室内」投与という用語は、鼓室(tympanic cavity)を介して、場合によっては、鼓膜(tympanic membrane)(鼓膜(eardrum))を貫通することによって鼓室(中耳)にアクセスする皮下注射針を介して、活性剤を投与することを指す。
【0143】
本明細書で使用される場合、「治療する」又は「治療」という用語は、治療的又は苦痛緩和手段を指す。有益な又は望ましい臨床結果には、検出可能又は検出不可能であるかにかかわらず、疾患又は障害若しくは状態に関連する症状の全体的又は部分的な緩和、疾患の程度の減少、疾患の安定した(すなわち、悪化しない)状態、疾患の進行の遅延又は減速、病状(例えば、疾患の1つ以上の症状)の改善又は緩和、及び寛解(部分的又は全体的であるかにかかわらず)が含まれるが、これらに限定されない。
【0144】
「単位剤形」という用語は、ヒト対象及び他の患者のための単位投与量として好適な物理的に別個の単位を指し、各単位は、好適な医薬賦形剤と関連して、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活物質(すなわち、本明細書に記載活性剤)を含有する。
【0145】
本明細書で使用される「予防する」、「予防すること」又は「予防」という用語は、本明細書に記載の疾患若しくは状態、又はその症状の全体的若しくは部分的な発症、再発又は拡大の予防を意味する。
【0146】
II.徐放性耳用組成物
本明細書で提供されるのは、本明細書で提供されるポリマー組成物と、活性剤と、を含む、耳用組成物(例えば、徐放性耳用組成物)である。耳用(耳と呼ばれることもある)組成物は、耳内で治療剤、予防剤及び/又は診断剤を連続的若しくは拍動的に、又はその両方で徐放するように開発されている。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の徐放性耳用組成物は、徐放性耳用組成物ではない組成物と比較して、耳液(例えば、内リンパ及び/又は外リンパ)中において送達される薬剤の曲線下面積(AUC)を約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、又は約90%増加させることができる。徐放性組成物は、場合によっては、徐放性耳用組成物ではない組成物と比較して、耳の流体(例えば、内リンパ及び/又は外リンパ)中のCmaxを約40%、約30%、約20%、又は約10%減少させることもできる。これにより、徐放性耳用組成物ではない組成物と比較して、CmaxとCminとの比を低減することができる。したがって、いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、活性剤のより一定した放出を提供することができる。特定の実装では、CmaxとCminとの比は、10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、又は1:1であり得る。耳用薬剤の濃度がCminを超える時間の長さは、徐放性耳用組成物ではない組成物と比較して、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、又は約90%増加し得る。特定の例では、徐放性組成物は、Cmaxまでの時間を遅延させ、及び/又は薬物の濃度がCminより上に留まる時間を延長することができる。いくつかの形態では、徐放性耳用組成物は、内耳における薬物の滞留時間を延長する。
【0147】
場合によっては、徐放性耳用組成物はゲルの形態で提供されるため、中耳及び/又は内耳への持続送達を達成することができる。いくつかのそのような実施形態では、ゲルは、正円窓膜などの好ましい位置において長時間無傷のままであることができる。いくつかの実施形態では、ゲルの形態の徐放性耳用組成物は、徐放性耳用組成物ではない組成物と比較して、滞留時間を少なくとも約2倍、4倍、10倍、又は20倍延長することができ、これにより、AUCが約2倍、4倍、10倍、又は20倍延長することができる。
【0148】
いくつかの実施形態では、内リンパ又は外リンパ中の薬物の濃度が定常状態に達すると、内リンパ又は外リンパ中の活性剤の濃度は、長期間(例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、又は6ヶ月)、有効濃度又はほぼ有効濃度に留まる。
【0149】
いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、少なくとも2つの成分を有することができる:活性剤(例えば、治療剤、予防剤及び/又は診断剤)、ゲル形成ポリマー組成物(例えば、官能性ポリマー、架橋剤、及び水を含む)、任意選択的に、一緒に徐放性耳用組成物を形成する1つ以上の賦形剤。
【0150】
A.治療剤、予防剤及び診断剤
いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、局所療法、予防、及び/又は診断に有用である。治療活性剤、予防活性剤、診断若しくは視覚化剤、又はそれらの組み合わせは、徐放性耳用組成物から、例えば、徐放性耳用組成物の投与後に形成される架橋ポリマー又はゲルから送達することができる。
【0151】
活性剤は、任意の適切な活性剤であり得る。いくつかの実施形態では、活性剤は、治療剤であり得る。いくつかの実施形態では、活性剤は、予防剤であり得る。いくつかの実施形態では、活性剤は、診断又は視覚化剤であり得る。いくつかの実施形態では、活性剤は、診断又は視覚化剤及び治療剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、診断又は視覚化剤及び予防剤を含むことができる。活性剤は、例えば、タンパク質(例えば、酵素、成長因子、抗体又はその抗原結合断片)、炭水化物(例えば、グリコサミノグリカン)、核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、マイクロRNA、短鎖干渉RNA、又はリボザイム)、小分子、又はそれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの実施形態では、小分子は、抗生物質、抗腫瘍剤(例えば、ドキソルビシン)、局所麻酔剤、ステロイド、ホルモン、アポトーシス阻害剤(例えば、Apaf-1の阻害剤、例えば、米国特許第9,040,701号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)、血管新生剤、抗血管新生剤(例えば、VEGF阻害剤)、神経伝達物質、向精神薬、抗炎症剤、及びそれらの組み合わせを含むことができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、抗血管新生剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、抗血管新生剤及びステロイドを含むことができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、デキサメタゾンを含む。いくつかの実施形態では、活性剤は、デキサメタゾンである。
【0152】
いくつかの実施形態では、診断又は視覚化剤は、色素、フルオロフォア、MRI造影剤(例えば、ガドリニウムを含む薬剤)、又は超音波、MRI、若しくはX線によって検出可能な他の薬剤を含み得る。いくつかの実施形態では、視覚化剤は、外科手術中のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物の可視性を改善することができる。視覚化剤の非限定的な例としては、FD&C染料1、3、及び6、エオシン、メチレンブルー、インドシアニングリーン、又は合成外科用縫合糸に通常見られる着色染料などの、医療埋め込み型医療機器での使用に好適な着色物質を挙げられる。いくつかの実施形態では、視覚化剤は、FD&Cブルー#1を含むことができる。いくつかの実施形態では、視覚化剤は、約0重量%~約0.5重量%(例えば、約0重量%~約0.02重量%、約0重量%~約0.05重量%、約0重量%~約0.1重量%、約0重量%~約0.2重量%、約0.02重量%~約0.5重量%、約0.05重量%~約0.5重量%、約0.1重量%~約0.5重量%、若しくは約0.2重量%~約0.5重量%)の量でポリマー組成物又は徐放性耳用組成物中に存在することができる。いくつかの実施形態では、視覚化剤は、約0重量%~約0.05重量%(例えば、約0.005重量%~約0.02重量%、約0.005重量%~約0.0015重量%、約0.009重量%、若しくは約0.1重量%)の量で、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物中に存在することができる。いくつかの実施形態では、視覚化剤は、緑又は青である。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、血液が存在する場合、又はピンク又は白の組織の背景では、緑又は青がよりよく見える可能性がある。
【0153】
いくつかの実施形態では、活性剤は、実質的に微粒子又はナノ粒子の形態であり得る。特定の理論に束縛されるものではないが、場合によっては、微粒子形態が、本明細書に記載の徐放性耳用組成物からの活性剤の制御放出を助けることができると考えられる。場合によっては、ナノ粒子形態は、溶解速度を増加させ、微粒子からより高い制御放出速度で活性剤を送達することができる。いくつかの実施形態では、微粒子は、例えば、光学顕微鏡で測定した場合、直径が約0.1μm~約100μm(例えば、約0.1μm~約1μm、約0.1μm~約10μm、約0.1μm~約50μm、約1μm~約100μm、約10μm~約100μm、約50μm~約100μm、約1μm~約50μm、又は約1μm~10μm)の粒子であり得る。いくつかの実施形態では、ナノ粒子は、例えば、電子顕微鏡によって測定した場合、直径が約1nm~約100nm(例えば、約1nm~約10nm、約1nm~約50nm、約10nm~約100nm、又は約50nm~約100nm)の粒子であり得る。
【0154】
いくつかの実施形態では、活性剤は、抗血管新生剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、抗血管新生剤は、VEGF阻害剤であり得る。場合によっては、VEGF阻害剤は、抗体若しくはその抗原結合断片、デコイ受容体、VEGFRキナーゼ阻害剤、VEGFRのアロステリック修飾因子、又はそれらの組み合わせであり得る。場合によっては、VEGF阻害剤は、抗体又はその抗原結合断片であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、アラシズマブ、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、イクルクマブ(IMC-18F1)、ラムシルマブ(LY3009806、IMC-1121B、CYRAMZA(登録商標))、又はラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標))であり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、デコイ受容体(例えば、アフリベルセプト)であり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、アゲラフェニブ、アルティラチニブ、アパチニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、セジラニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、モテサニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、レバスチニブ、レゴラフェニブ、セマキサニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、トセラニブ、チボザニブ、又はバンデタニブなどのVEGFRキナーゼ阻害剤であり得る。VEGF阻害剤の他の例は、当技術分野で知られている可能性がある。いくつかの実施形態では、VEGFR阻害剤は、VEGFRのアロステリック調節因子(例えば、シクロトラキシンB)であり得る。
【0155】
いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、他のVEGFRよりもVEGFR2に対して選択的であり得る。いくつかの実施形態では、VEGF阻害剤は、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも10倍の選択性を示すことができる。例えば、VEGF阻害剤は、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも20倍の選択性、少なくとも30倍の選択性、少なくとも40倍の選択性、少なくとも50倍の選択性、少なくとも60倍の選択性、少なくとも70倍の選択性、少なくとも80倍の選択性、少なくとも90倍の選択性、少なくとも100倍の選択性、少なくとも200倍の選択性、少なくとも300倍の選択性、少なくとも400倍の選択性、少なくとも500倍の選択性、少なくとも600倍の選択性、少なくとも700倍の選択性、少なくとも800倍の選択性、少なくとも900倍の選択性、又は少なくとも1000倍の選択性を示すことができる。いくつかの実施形態では、別のVEGFRに対するVEGFR2の選択性は、酵素アッセイで測定される。いくつかの実施形態では、別のVEGFRは、VEGFR1、VEGFR3、及びVEGFR1とVEGFR3の両方からなる群から選択することができる。
【0156】
血管内皮成長因子(VEGF)シグナル伝達経路は、がん、関節リウマチ、及び加齢黄斑変性症など、多くの疾患及び障害に関連している。一般に、VEGFシグナル伝達経路の活性化は、通常、組織の血管新生をもたらす。VEGFシグナル伝達経路は、その構成要素である4つの受容体:VEGFR1(Flt-1とも呼ばれる;例示的なヒトVEGFR1配列を配列番号1に示す)、VEGFR2(KDR又はFlk-1とも呼ばれる;例示的なヒトVEGFR2配列を配列番号2に示す)、及びVEGFR3(Flt4とも呼ばれる;例示的なヒトVEGFR3配列を配列番号3に示す)、並びにその5つの成長因子:VEGF-A(例示的なヒトVEGF-A配列を配列番号4に示す)、VEGF-B(例示的なヒトVEGF-B配列を配列番号5に示す)、VEGF-C(例示的なヒトVEGF-C配列を配列番号6に示す)、VEGF-D(例示的なヒトVEGF-D配列を配列番号7に示す)、及びPlGF(胎盤成長因子;例示的なヒトPlGF配列を配列番号8に示す)を介してシグナルを伝達する。VEGFは、様々なVEGFRに対して異なる親和性を有する。例えば、Shibuya,Masabumi.“VEGF-VEGFR signals in health and disease.”Biomolecules&Therapeutics 22.1(2014):1,doi:10.4062/biomolther.2013.113(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。VEGFとVEGFRの両方は、バリアントアイソフォームを有し、及び/又は本明細書に示される配列と比較して成熟形態にプロセシングされ得る。特にVEGF-Aは、ヒトでいくつかのアイソフォームを有する。VEGFRは、通常、可溶型又は膜結合型としてスプライシングできる。いくつかの説明では、VEGFRは、チロシンキナーゼ受容体のスーパーファミリーとして、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)とまとめる。
配列番号1、Uniparc ID UPI000013DCDDからのヒトVEGFR1配列
MVSYWDTGVL LCALLSCLLL TGSSSGSKLK DPELSLKGTQ HIMQAGQTLH
LQCRGEAAHK WSLPEMVSKE SERLSITKSA CGRNGKQFCS TLTLNTAQAN
HTGFYSCKYL AVPTSKKKET ESAIYIFISD TGRPFVEMYS EIPEIIHMTE
GRELVIPCRV TSPNITVTLK KFPLDTLIPD GKRIIWDSRK GFIISNATYK
EIGLLTCEAT VNGHLYKTNY LTHRQTNTII DVQISTPRPV KLLRGHTLVL
NCTATTPLNT RVQMTWSYPD EKNKRASVRR RIDQSNSHAN IFYSVLTIDK
MQNKDKGLYT CRVRSGPSFK SVNTSVHIYD KAFITVKHRK QQVLETVAGK
RSYRLSMKVK AFPSPEVVWL KDGLPATEKS ARYLTRGYSL IIKDVTEEDA
GNYTILLSIK QSNVFKNLTA TLIVNVKPQI YEKAVSSFPD PALYPLGSRQ
ILTCTAYGIP QPTIKWFWHP CNHNHSEARC DFCSNNEESF ILDADSNMGN
RIESITQRMA IIEGKNKMAS TLVVADSRIS GIYICIASNK VGTVGRNISF
YITDVPNGFH VNLEKMPTEG EDLKLSCTVN KFLYRDVTWI LLRTVNNRTM
HYSISKQKMA ITKEHSITLN LTIMNVSLQD SGTYACRARN VYTGEEILQK
KEITIRDQEA PYLLRNLSDH TVAISSSTTL DCHANGVPEP QITWFKNNHK
IQQEPGIILG PGSSTLFIER VTEEDEGVYH CKATNQKGSV ESSAYLTVQG
TSDKSNLELI TLTCTCVAAT LFWLLLTLFI RKMKRSSSEI KTDYLSIIMD
PDEVPLDEQC ERLPYDASKW EFARERLKLG KSLGRGAFGK VVQASAFGIK
KSPTCRTVAV KMLKEGATAS EYKALMTELK ILTHIGHHLN VVNLLGACTK
QGGPLMVIVE YCKYGNLSNY LKSKRDLFFL NKDAALHMEP KKEKMEPGLE
QGKKPRLDSV TSSESFASSG FQEDKSLSDV EEEEDSDGFY KEPITMEDLI
SYSFQVARGM EFLSSRKCIH RDLAARNILL SENNVVKICD FGLARDIYKN
PDYVRKGDTR LPLKWMAPES IFDKIYSTKS DVWSYGVLLW EIFSLGGSPY
PGVQMDEDFC SRLREGMRMR APEYSTPEIY QIMLDCWHRD PKERPRFAEL
VEKLGDLLQA NVQQDGKDYI PINAILTGNS GFTYSTPAFS EDFFKESISA
PKFNSGSSDD VRYVNAFKFM SLERIKTFEE LLPNATSMFD DYQGDSSTLL
ASPMLKRFTW TDSKPKASLK IDLRVTSKSK ESGLSDVSRP SFCHSSCGHV
SEGKRRFTYD HAELERKIAC CSPPPDYNSV VLYSTPPI
配列番号2、UniparcエントリーUPI000003AE04からのヒトVEGFR2配列
MQSKVLLAVA LWLCVETRAA SVGLPSVSLD LPRLSIQKDI LTIKANTTLQ
ITCRGQRDLD WLWPNNQSGS EQRVEVTECS DGLFCKTLTI PKVIGNDTGA
YKCFYRETDL ASVIYVYVQD YRSPFIASVS DQHGVVYITE NKNKTVVIPC
LGSISNLNVS LCARYPEKRF VPDGNRISWD SKKGFTIPSY MISYAGMVFC
EAKINDESYQ SIMYIVVVVG YRIYDVVLSP SHGIELSVGE KLVLNCTART
ELNVGIDFNW EYPSSKHQHK KLVNRDLKTQ SGSEMKKFLS TLTIDGVTRS
DQGLYTCAAS SGLMTKKNST FVRVHEKPFV AFGSGMESLV EATVGERVRI
PAKYLGYPPP EIKWYKNGIP LESNHTIKAG HVLTIMEVSE RDTGNYTVIL
TNPISKEKQS HVVSLVVYVP PQIGEKSLIS PVDSYQYGTT QTLTCTVYAI
PPPHHIHWYW QLEEECANEP SQAVSVTNPY PCEEWRSVED FQGGNKIEVN
KNQFALIEGK NKTVSTLVIQ AANVSALYKC EAVNKVGRGE RVISFHVTRG
PEITLQPDMQ PTEQESVSLW CTADRSTFEN LTWYKLGPQP LPIHVGELPT
PVCKNLDTLW KLNATMFSNS TNDILIMELK NASLQDQGDY VCLAQDRKTK
KRHCVVRQLT VLERVAPTIT GNLENQTTSI GESIEVSCTA SGNPPPQIMW
FKDNETLVED SGIVLKDGNR NLTIRRVRKE DEGLYTCQAC SVLGCAKVEA
FFIIEGAQEK TNLEIIILVG TAVIAMFFWL LLVIILRTVK RANGGELKTG
YLSIVMDPDE LPLDEHCERL PYDASKWEFP RDRLKLGKPL GRGAFGQVIE
ADAFGIDKTA TCRTVAVKML KEGATHSEHR ALMSELKILI HIGHHLNVVN
LLGACTKPGG PLMVIVEFCK FGNLSTYLRS KRNEFVPYKT KGARFRQGKD
YVGAIPVDLK RRLDSITSSQ SSASSGFVEE KSLSDVEEEE APEDLYKDFL
TLEHLICYSF QVAKGMEFLA SRKCIHRDLA ARNILLSEKN VVKICDFGLA
RDIYKDPDYV RKGDARLPLK WMAPETIFDR VYTIQSDVWS FGVLLWEIFS
LGASPYPGVK IDEEFCRRLK EGTRMRAPDY TTPEMYQTML DCWHGEPSQR
PTFSELVEHL GNLLQANAQQ DGKDYIVLPI SETLSMEEDS GLSLPTSPVS
CMEEEEVCDP KFHYDNTAGI SQYLQNSKRK SRPVSVKTFE DIPLEEPEVK
VIPDDNQTDS GMVLASEELK TLEDRTKLSP SFGGMVPSKS RESVASEGSN
QTSGYQSGYH SDDTDTTVYS SEEAELLKLI EIGVQTGSTA QILQPDSGTT
LSSPPV
配列番号3、UniparcエントリーUPI00001488E7からのヒトVEGFR3配列
MQRGAALCLR LWLCLGLLDG LVSGYSMTPP TLNITEESHV IDTGDSLSIS
CRGQHPLEWA WPGAQEAPAT GDKDSEDTGV VRDCEGTDAR PYCKVLLLHE
VHANDTGSYV CYYKYIKARI EGTTAASSYV FVRDFEQPFI NKPDTLLVNR
KDAMWVPCLV SIPGLNVTLR SQSSVLWPDG QEVVWDDRRG MLVSTPLLHD
ALYLQCETTW GDQDFLSNPF LVHITGNELY DIQLLPRKSL ELLVGEKLVL
NCTVWAEFNS GVTFDWDYPG KQAERGKWVP ERRSQQTHTE LSSILTIHNV
SQHDLGSYVC KANNGIQRFR ESTEVIVHEN PFISVEWLKG PILEATAGDE
LVKLPVKLAA YPPPEFQWYK DGKALSGRHS PHALVLKEVT EASTGTYTLA
LWNSAAGLRR NISLELVVNV PPQIHEKEAS SPSIYSRHSR QALTCTAYGV
PLPLSIQWHW RPWTPCKMFA QRSLRRRQQQ DLMPQCRDWR AVTTQDAVNP
IESLDTWTEF VEGKNKTVSK LVIQNANVSA MYKCVVSNKV GQDERLIYFY
VTTIPDGFTI ESKPSEELLE GQPVLLSCQA DSYKYEHLRW YRLNLSTLHD
AHGNPLLLDC KNVHLFATPL AASLEEVAPG ARHATLSLSI PRVAPEHEGH
YVCEVQDRRS HDKHCHKKYL SVQALEAPRL TQNLTDLLVN VSDSLEMQCL
VAGAHAPSIV WYKDERLLEE KSGVDLADSN QKLSIQRVRE EDAGRYLCSV
CNAKGCVNSS ASVAVEGSED KGSMEIVILV GTGVIAVFFW VLLLLIFCNM
RRPAHADIKT GYLSIIMDPG EVPLEEQCEY LSYDASQ
WEF PRERLHLGRV
LGYGAFGKVV EASAFGIHKG SSCDTVAVKM LKEGATASEH RALMSELKIL
IHIGNHLNVV NLLGACTKPQ GPLMVIVEFC KYGNLSNFLR AKRDAFSPCA
EKSPEQRGRF RAMVELARLD RRRPGSSDRV LFARFSKTEG GARRASPDQE
AEDLWLSPLT MEDLVCYSFQ VARGMEFLAS RKCIHRDLAA RNILLSESDV
VKICDFGLAR DIYKDPDYVR KGSARLPLKW MAPESIFDKV YTTQSDVWSF
GVLLWEIFSL GASPYPGVQI NEEFCQRLRD GTRMRAPELA TPAIRRIMLN
CWSGDPKARP AFSELVEILG DLLQGRGLQE EEEVCMAPRS SQSSEEGSFS
QVSTMALHIA QADAEDSPPS LQRHSLAARY YNWVSFPGCL ARGAETRGSS
RMKTFEEFPM TPTTYKGSVD NQTDSGMVLA SEEFEQIESR HRQESGFSCK
GPGQNVAVTR AHPDSQGRRR RPERGARGGQ VFYNSEYGEL SEPSEEDHCS
PSARVTFFTD NSY
配列番号4、UniparcエントリーUPI0000030866からのヒトVEGF-A配列
MNFLLSWVHW SLALLLYLHH AKWSQAAPMA EGGGQNHHEV VKFMDVYQRS
YCHPIETLVD IFQEYPDEIE YIFKPSCVPL MRCGGCCNDE GLECVPTEES
NITMQIMRIK PHQGQHIGEM SFLQHNKCEC RPKKDRARQE KKSVRGKGKG
QKRKRKKSRY KSWSVYVGAR CCLMPWSLPG PHPCGPCSER RKHLFVQDPQ
TCKCSCKNTD SRCKARQLEL NERTCRCDKP RR
配列番号5、UniparcエントリーUPI0000001047からのヒトVEGF-B配列
MSPLLRRLLL AALLQLAPAQ APVSQPDAPG HQRKVVSWID VYTRATCQPR
EVVVPLTVEL MGTVAKQLVP SCVTVQRCGG CCPDDGLECV PTGQHQVRMQ
ILMIRYPSSQ LGEMSLEEHS QCECRPKKKD SAVKPDRAAT PHHRPQPRSV
PGWDSAPGAP SPADITHPTP APGPSAHAAP STTSALTPGP AAAAADAAAS
SVAKGGA
配列番号6、UniparcエントリーUPI0000001C2AからのヒトVEGF-C配列
MHLLGFFSVA CSLLAAALLP GPREAPAAAA AFESGLDLSD AEPDAGEATA
YASKDLEEQL RSVSSVDELM TVLYPEYWKM YKCQLRKGGW QHNREQANLN
SRTEETIKFA AAHYNTEILK SIDNEWRKTQ CMPREVCIDV GKEFGVATNT
FFKPPCVSVY RCGGCCNSEG LQCMNTSTSY LSKTLFEITV PLSQGPKPVT
ISFANHTSCR CMSKLDVYRQ VHSIIRRSLP ATLPQCQAAN KTCPTNYMWN
NHICRCLAQE DFMFSSDAGD DSTDGFHDIC GPNKELDEET CQCVCRAGLR
PASCGPHKEL DRNSCQCVCK NKLFPSQCGA NREFDENTCQ CVCKRTCPRN
QPLNPGKCAC ECTESPQKCL LKGKKFHHQT CSCYRRPCTN RQKACEPGFS
YSEEVCRCVP SYWKRPQMS
配列番号7、UniparcエントリーUPI00000012B2由来のヒトVEGF-D配列
MYREWVVVNV FMMLYVQLVQ GSSNEHGPVK RSSQSTLERS EQQIRAASSL
EELLRITHSE DWKLWRCRLR LKSFTSMDSR SASHRSTRFA ATFYDIETLK
VIDEEWQRTQ CSPRETCVEV ASELGKSTNT FFKPPCVNVF RCGGCCNEES
LICMNTSTSY ISKQLFEISV PLTSVPELVP VKVANHTGCK CLPTAPRHPY
SIIRRSIQIP EEDRCSHSKK LCPIDMLWDS NKCKCVLQEE NPLAGTEDHS
HLQEPALCGP HMMFDEDRCE CVCKTPCPKD LIQHPKNCSC FECKESLETC
CQKHKLFHPD TCSCEDRCPF HTRPCASGKT ACAKHCRFPK EKRAAQGPHS
RKNP
配列番号8、UniparcエントリーUPI0000131BEFからのヒトPlGF前駆体配列
MPVMRLFPCF LQLLAGLALP AVPPQQWALS AGNGSSEVEV VPFQEVWGRS
YCRALERLVD VVSEYPSEVE HMFSPSCVSL LRCTGCCGDE NLHCVPVETA
NVTMQLLKIR SGDRPSYVEL TFSQHVRCEC RHSPGRQSPD MPGDFRADAP
SFLPPRRSLP MLFRMEWGCA LTGSQSAVWP SSPVPEEIPR MHPGRNGKKQ
QRKPLREKMK PERCGDAVPR R
【0157】
B.ポリマー組成物
ポリマー組成物も本明細書で提供される。通常、本明細書に記載のポリマー組成物は、官能性ポリマーと、架橋剤と、水と、を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、中耳及び/又は内耳に注射可能であり、官能性ポリマーがイオン的及び/又は共有結合的に架橋して、ゲル(例えば、ヒドロゲル)の形態の架橋ポリマー組成物を生成する。架橋は、ポリマー組成物を混合及び射出する際、pHの変更、イオンへの曝露、及び/又は光架橋剤への曝露によって発生する可能性がある。
【0158】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、対象への(例えば、対象の中耳及び/又は内耳への)投与に有利な1つ以上の官能特性を有することができる。
【0159】
場合によっては、ポリマー組成物は、架橋し、耐久性のあるゲル(例えばヒドロゲル)を例えばインサイチュで形成する能力によって特徴付けることができる。溶液からゲルへの転移現象は一般に、ゾルゲル転移と呼ばれている。ポリマー組成物のゾル-ゲル転移は、バイアル反転法、分光法、示差走査熱量測定(DSC)、及びレオロジーなどの多くの手法によって実験的に検証できる。
【0160】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物から形成されたゲルは、室温(例えば、20℃)で倒立バイアルに保管した場合、少なくとも20日(例えば、少なくとも30日、少なくとも40日、少なくとも50日、少なくとも60日、少なくとも70日、少なくとも80日、少なくとも90日、少なくとも100日、又はそれ以上)のゲル持続時間を有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物から形成されたゲルは、受容体溶液(例えば、pH7.4のPBS)にゲル(例えば、200μL)を入れて測定すると、体温(例えば、37℃)で保存した場合、少なくとも5日(例えば、少なくとも7日、少なくとも10日、少なくとも14日、少なくとも18日、少なくとも21日、少なくとも25日、少なくとも28日、又はそれ以上)のゲル持続時間を有することができる。インサイチュで、本明細書に記載のポリマー組成物から形成されたゲル(例えば、ヒドロゲル)の分解は、ポリマー組成物の成分(例えば、官能性ポリマー及び/又は架橋剤)の同一性、並びに投与の正確性及び対象の新陳代謝に依存し得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物から形成されたゲルは、対象の中耳に投与された場合、少なくとも5日(例えば、少なくとも7日、少なくとも10日、少なくとも14日、少なくとも18日、少なくとも21日、少なくとも25日、少なくとも28日、少なくとも42日、少なくとも56日、又はそれ以上)の滞留時間を有することができる。
【0161】
場合によっては、ポリマー組成物は、架橋し、形状適合ゲル(例えばヒドロゲル)を例えばインサイチュで形成する能力によって特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物から形成されたゲル(例えば、200μLのゲル)は、1mLのPBSを含む37℃の直立バイアルに保管した場合、少なくとも20日(例えば、少なくとも30日、少なくとも40日、少なくとも50日、少なくとも60日、少なくとも70日、少なくとも80日、少なくとも90日、少なくとも100日、又はそれ以上)間その形状を保持することができる。ポリマー組成物がまだゲルであるかどうかを決定するために、バイアルの反転を使用することができる。
【0162】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、著しく粘弾性ではなく、著しく弾性であるゲルを形成することができる。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、弾性ゲルは、流れ去る可能性のある粘弾性ゲルよりも、投与位置での滞留時間が長いと考えられている。例えば、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物から形成されたゲルは、約0.01~約100kPa(例えば、約0.1~約100kPa、約1~約100kPa、約5~約100kPa、約10~約100kPa、約25~約100kPa、約50~約100kPa、約75~約100kPa、約0.01~約0.1kPa、約0.01~約1kPa、約0.01~約5kPa、約0.01~約10kPa、約0.01~約25kPa、約0.01~約50kPa、又は約0.01~約75kPa)の弾性率を有することができる。
【0163】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、粘度の広い遷移を有することができ、例えば、本明細書に記載のいくつかのポリマー組成物は、(例えば、溶液又は懸濁液として)標的部位へと流れ、インサイチュでゲル(例えば、ヒドロゲル)を形成することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物は、溶液又は懸濁液の形態で注射することができ、中耳全体又は中耳内の1つ以上の部位に重力によって流れ、次いでゲル(例えば、ヒドロゲル)を形成することができる。いくつかのそのような実施形態では、ポリマー組成物は、正円窓膜を濡らす(例えば、完全に濡らす)。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物の送達は、気泡、例えば、ゲル中の気泡及び/又はゲルと正円窓膜との間に閉じ込められた気泡を伴うことなく達成することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物の粘度(例えば、官能性ポリマー、架橋剤、及び水を組み合わせた直後)は、約1~約100mPa*s(例えば、約2~約100mPa*s、約5~約100mPa*s、約10~約100mPa*s、約25~約100mPa*s、約50~約100mPa*s、約75~約100mPa*s、約1~約2mPa*s、約1~約5mPa*s、約1~約10mPa*s、約1~約25mPa*s、約1~約50mPa*s、又は約1~約75mPa*s)である。場合によっては、本明細書に記載のポリマー組成物は、例えば、著しく針を詰まらせることなく、23ゲージ(23G)の針又は高ゲージ(より小さい直径)の針を使用して注射することができる。
【0164】
場合によっては、ポリマー組成物は、架橋し、ゲル(例えば、ヒドロゲル)を、例えばインサイチュで、部位(例えば、中耳及び/又は内耳)への投与に好適なゲル化時間で形成する能力によって特徴付けることができる。DURASEAL(登録商標)などのいくつかのポリマー組成物は、3秒以下でゲルを形成することができ、これは、本明細書に開示される徐放性耳用組成物の送達には望ましくない場合がある。
【0165】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、約20℃の温度で、約45秒~約60分(例えば、約1分~約60分、約45秒~約45分、約45秒~約30分、約45秒~約20分、約45秒~約10分、約45秒~約8分、約45秒~約5分、約45秒~約3分、約45秒~約2分約45秒~約1分, 約1分~約60分、約2分~約60分、約3分~約60分、約4分~約60分、約5分~約60分、約8分~約60分、約10分~約60分、約20分~約60分、約30分~約60分、約45分~約60分、約1分~約5分、約5分~約20分、約8分~約12分、約4分~約12分、又は約1分~約8分)のゲル化時間を有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、約20℃の温度で、約8分~約16分(例えば、約9分~約15分、約10分~約14分、又は約11分~約13分)のゲル化時間を有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、約20℃の温度で約9分~約11分のゲル化時間を有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、約20℃の温度で、少なくとも約45秒(例えば、少なくとも約1分、少なくとも約2分、少なくとも約3分、少なくとも約5分、又は少なくとも約10分)のゲル化時間を有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、約20℃の温度で約8分、9分、10分、11分、又は12分のゲル化時間を有することができる。
【0166】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、約37℃で、約10秒~約30分(例えば、約10秒~約30秒、約10秒~約1分、約10秒~約2分、約10秒~約3分、約10秒~約4分、約10秒~約5分、約10秒~約8分、約30秒~約10分、約30秒~約15分、約30秒~約20分、約1分~約30分、約2分~約30分、約3分~約30分、約4分~約30分、約5分~約30分、約8分~約30分、約10分~約30分、約15分~約30分、約20分~約30分、約30秒~約3分、約1分~約2分、約2分~約8分、約3分~約8分、約2分~約6分、約4分~約6分、約3分~約5分、又は約1分~約4分)のゲル化時間を有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、約37℃で約30秒~約2分(例えば、約45秒~約1分)のゲル化時間を有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、約37℃で、少なくとも約10秒(例えば、少なくとも約30秒、少なくとも約1分、少なくとも約2分、少なくとも約3分、少なくとも4分、少なくとも約5分、少なくとも約8分、又は少なくとも約10分)、及び任意選択的に30分未満(例えば、15分未満)のゲル化時間を有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物は、約37℃の温度で約3分、4分、5分、6分、7分、又は8分のゲル化時間を有することができる。
【0167】
特定の理論に拘束されるものではないが、急速にゲル化する組成物は、組成物を(例えば、経鼓膜注射によって)対象の耳に投与できる時間を短縮する可能性があるため、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物のゲル化時間は、臨床環境におけるその有用性に影響を与える可能性があると考えられている。いくつかの実施形態では、ここで提供されるポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、官能性ポリマー及び架橋剤を組み合わせた後、少なくとも10分間、27ゲージ(又はより大きな直径)の針を通して注射可能である。いくつかの実施形態では、ここで提供されるポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、官能性ポリマー及び架橋剤を組み合わせた後、少なくとも2分(例えば、2~4分、2~6分、2~8分、2~10分)間、27ゲージ(又はより大きな直径)の針を通して注射可能である。
【0168】
架橋反応の速度は、ポリマー組成物の特性の選択によって影響を受ける可能性がある。例えば、pH、架橋剤及び官能化ポリマーの量、並びにバッファーの選択が、ゲル化時間に影響を与える可能性がある。冷却しながら成分を混合すると、架橋反応が遅くなり、注射の時間ができる。場合によっては、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、中耳の組織に付着し、液体に分解する前に中耳において長期間維持されるであろう十分に架橋されたゲルを生成することができる。
【0169】
架橋ヒドロゲルネットワークへの分子の分解可能な共有結合により、活性剤送達の制御された速度もこのシステムにより得ることができる。共有結合の性質を制御して、数時間~数週間、又はそれ以上の放出速度の制御を可能にすることができる。ある範囲の加水分解時間を有する結合から作製された複合材料を使用することにより、制御放出プロファイルをより長い期間延長することができる。
【0170】
場合によっては、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物から形成されたゲルは、例えば、37℃で(例えば、約1日又は約2日間)過剰のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でインキュベートした場合、約150%未満(例えば、約140%未満、約120%未満、約100%未満、約80%未満、約70%未満、約60%未満、約50%未満、又は約40%未満)の膨潤を示すことができる。場合によっては、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物から形成されたゲルは、例えば、1日後に37℃で過剰のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でインキュベートした場合、約25%~約45%(例えば、約30%~約40%)の膨潤を示すことができる。場合によっては、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物から形成されたゲルは、例えば、7日後に37℃で過剰のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中でインキュベートした場合、約40%~約80%(例えば、約50%~約70%)の膨潤を示すことができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物から形成されたゲルは、約5日~約30日(例えば、約5日~約10日、約5日~約15日、約5日~約20日、約5日~約25日、約10日~約30日、約15日~約30日、約20日~約30日、約25日~約30日、約7日~約9日、又は約7日~約15日)の再吸収時間(例えば、50℃で過剰のPBS中でインキュベートされたゲルの質量が、そのゲルの開始質量未満になるまでの時間)を有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物から形成されたゲルは、ゲル化中にポリマー組成物と接触する表面への付着を示すことによって特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、付着は、機械的付着、ゲル付着、化学的付着、粘膜付着、又はそれらの組み合わせであり得る。場合によっては、ポリマー組成物は、耳内の組織(例えば、正円窓膜)への付着を示すことができる。これは、例えば、組織との共有架橋を形成する成分を含み得る、ポリマー製剤の1つ以上の成分の架橋によって達成され得る。一例として、ポリマー組成物は、組織に結合することができるアミン反応性及び/又はチオール反応性基を含むことができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物から形成されたゲルは、ゲル化中にポリマー組成物と接触する粘膜表面(例えば、正円窓膜)への粘膜付着を示すことによって特徴付けることができる。いくつかの実施形態では、付着は、組織中のタンパク質のアミン基と官能性ポリマーの活性化エステルとの間の共有結合の形成によって達成することができる。
【0171】
活性剤(例えば、治療剤、予防剤、及び/又は視覚化若しくは診断剤)、例えば、本明細書に記載の1つ以上の活性剤のいずれかを、本明細書に記載のポリマー組成物のいずれかに含めることができる。典型的には、本明細書に記載のポリマー組成物中に活性剤が存在する場合、そのような組成物は徐放性耳用組成物と呼ばれる。
【0172】
活性剤は、本明細書に記載のポリマー組成物中に任意の適切な量又は濃度で存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、治療有効濃度をある期間(例えば、正円窓膜を通して)作用部位に送達するのに十分な量でポリマー組成物中に存在することができる。いくつかの実施形態では、期間は、投与部位における徐放性耳用組成物の滞留時間以下であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、期間は、約5日~約6ヶ月(例えば、約5日~約1週間、約5日~約2週間、約5日~約3週間、約5日~約1ヶ月、約5日~約2ヶ月、約5日~約3ヶ月、約5日~約4ヶ月、約5日~約5ヶ月、約1週間~約6ヶ月、約2週間~約6ヶ月、約3週間~約6ヶ月、約1ヶ月~約6ヶ月、約2ヶ月~約6ヶ月、約3ヶ月~約6ヶ月、約4ヶ月~約6ヶ月、約5ヶ月~約6ヶ月、約2週間~約2ヶ月、又は約1ヶ月~約3ヶ月)であり得る。いくつかの実施形態では、例えば、活性剤は、ポリマー組成物の約0.01重量%~約40重量%(例えば、約0.01重量%~約0.1重量%、約0.01重量%~約1重量%、約0.01重量%~約2重量%、約0.01重量%~約3重量%、約0.01重量%~約5重量%、約0.01重量%~約8重量%、約0.01重量%~約10重量%、約0.01重量%~約12重量%、約0.01重量%~約15重量%、約0.01重量%~約20重量%、約0.01重量%~約20重量%、約0.01重量%~約40重量%、約0.1重量%~約40重量%、約1重量%~約40重量%、約2重量%~約40重量%、約3重量%~約40重量%、約5重量%~約40重量%、約8重量%~約40重量%、約10重量%~約40重量%、又は約12重量%~約40重量%)の量で存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、ポリマー組成物の約1重量%~約10重量%(例えば、約2重量%~約9重量%、約3重量%~約8重量%、又は約4重量%~約6重量%)の量で存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、ポリマー組成物の約4重量%、5重量%、6重量%、7重量%、又は8重量%の量で存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、ポリマー組成物の約8重量%~約18重量%(例えば、約8重量%~約10重量%、約8重量%~約12重量%、約8重量%~約14重量%、約8重量%~約16重量%、約10重量%~約18重量%、約12重量%~約18重量%、約14重量%~約18重量%、約16重量%~約18重量%、約9重量%~約16重量%、又は約10重量%~約15重量%)の量で存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、ポリマー組成物の約10重量%、11重量%、12重量%、13重量%、14重量%、又は15重量%の量で存在することができる。
【0173】
活性剤は、ポリマー組成物中に任意の適切な形態で存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、ポリマー組成物中に溶液又は懸濁液として存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、マイクロ粒子又はナノ粒子の形態でポリマー組成物中に存在することができる。いくつかの実施形態では、活性剤は、徐放性耳用組成物の成分を組み合わせた後、溶液から懸濁液へ、ある形態のマイクロ粒子又はナノ粒子から別のマイクロ粒子又はナノ粒子へ変化することができる。
【0174】
薬物懸濁組成物の一般に好ましい特徴は、均一な用量を投与する能力である。これは、保存中に高密度の沈殿物を形成せず、容器を手動で撹拌すると容易に再分散できる組成物では達成が容易である。いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、手動で撹拌すると容易に分散し、注射しやすいように低粘度である活性剤の粒子を含有することができる。これは、場合によっては、薬物粒子の凝集を促進して緩い凝集体にする凝集剤を添加することによって達成することができる。凝集効率は、粒子濃度に対する最終堆積物の容量(例えば、総容量のパーセンテージとして)の比として定義することができる。最終的な堆積物容量は100%を超えることはできず、それによって凝集効率の上限値が制限される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の徐放性耳用組成物の凝集効率は、約3を超える(例えば、約4を超える、又は約5を超える)。いくつかの実施形態では、官能性ポリマー及び/又は架橋剤の選択は、溶液中の所与の活性剤の凝集効率に影響を及ぼし得る。例えば、いくつかの実施形態では、ポリリジン(例えば、トリリジン若しくはテトラリジン)又はその塩を架橋剤として使用すると、他の分散剤を添加することなく高度の凝集を提供することができる。徐放性製剤中の賦形剤の数を最小限に抑えるために、架橋剤が凝集剤としても機能することが望ましい場合がある。テトラリジンなどの他の両親媒性架橋剤も、薬物粒子の架橋と凝集という2つの目的で使用できる。
【0175】
いくつかの実施形態では、活性剤は、徐放性耳用組成物の他の成分と組み合わせるまで(例えば、使用時又はその近くで)、乾燥粉末として保存される。例えば、噴霧乾燥及び/又は超臨界流体処理によって調製されたマイクロ粒子及びナノ粒子は、良好な流動性及び取り扱い特性を有し、エネルギーの入力が少ない一次粒子に容易に分散する緩い凝集体を形成できる。徐放性耳用組成物の成分を組み合わせると、凝集体は、空気及び/又は徐放性耳用組成物の他の成分の導入によって生じる剪断によって、一次粒子に分離され得る。
【0176】
上記のように、本明細書に記載のポリマー組成物は、典型的には、官能性ポリマーと、架橋剤と、水と、を含む。ゲル(例えばヒドロゲル)は、官能基、例えば求電子性又は求核性官能基、を有する官能性ポリマーと架橋剤との反応から形成することができる。
【0177】
本明細書で使用される場合、「官能性ポリマー」は、架橋剤上の1つ以上の官能基と反応して結合(例えば、共有結合)を形成することができる1つ以上の官能基を含むポリマーであり得る。
【0178】
本明細書で使用される場合、「架橋剤」は、官能性ポリマー上の1つ以上の官能基と反応して結合(例えば、共有結合)を形成できる1つ以上の官能基を含む分子であり得る。場合によっては、架橋剤は、ポリマー(例えば、トリリジン若しくはテトラリジン、又はそれらの塩)である。場合によっては、架橋剤は、ポリマーではない。
【0179】
一般に、官能性ポリマーと架橋剤は、水溶性で、毒性がなく、生物学的に許容される。いくつかの実施形態では、架橋剤は、小分子である。いくつかの実施形態では、架橋剤は、水溶液中で少なくとも1g/100mLの溶解度を有する。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、巨大分子である。官能性ポリマー及び架橋剤の例示的なクラスは、米国特許第6,566,406号、同第6,887,974号、同第7,332,566号、及び同第8,535,705号(これらのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0180】
いくつかの実施形態では、官能性ポリマー又は架橋剤は多官能性であり得、これは、官能性ポリマー又は架橋剤が2つ以上の官能基を含むことを意味する。いくつかの実施形態では、多官能官能性ポリマー又は架橋剤は、1つのタイプの官能基のみ(例えば、全て求核性又は全て求電子性官能基)を有する。場合によっては、官能性ポリマー又は架橋剤は、少なくとも3つ(例えば、少なくとも4つ、少なくとも5つ、又はそれ以上)の官能基を含むことができるため、反応(例えば、求電子-求核反応)の結果として、官能性ポリマーと架橋剤が組み合わさって、架橋ゲル(例えば、ヒドロゲル)を形成する。このような反応は、典型的には「架橋反応」と呼ばれる。
【0181】
官能性ポリマーは、複数の第1の官能基を含むことができる。架橋剤は、複数の第2の官能基を含むことができる。いくつかのそのような実施形態では、ポリマーの第1の官能基は、架橋剤の第2の官能基と共有結合を形成し、それによってゲル(例えばヒドロゲル)を生成することができる。官能基の分布は、任意の適切な分布であり得る。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは分岐ポリマーであり、各分岐の末端は第1の官能基で官能化されている。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは第1のタイプのモノマーを含むことができ、官能性ポリマーは第1のタイプのモノマーのホモポリマーである。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、第1のタイプのモノマーを含むことができ、第1のタイプのモノマーのそれぞれは第1の官能基を含む。場合によっては、第1のタイプのモノマーは、官能性ポリマー中にランダムに分布することができる。場合によっては、第1のタイプのモノマーは、官能性ポリマー中に(例えば、ブロックコポリマー又は交互コポリマーとして)規則的に分布することができる。場合によっては、第1のタイプのモノマーは、官能性ポリマー中のグラフトされたコポリマーの一部(例えば、主鎖として又は分岐として)であり得る。官能性ポリマーは、任意の適切なサイズのものであり得る。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは巨大分子、例えば、5,000、10,000、20,000、30,000、又はそれ以上のMを有する巨大分子である。
【0182】
いくつかの実施形態では、架橋剤は第2のタイプのモノマーを含むことができ、官能性ポリマーは第2のタイプのモノマーのホモポリマーである。いくつかの実施形態では、架橋剤は分岐ポリマーであり、各分岐の末端は第2の官能基で官能化されている。いくつかの実施形態では、架橋剤は、第2のタイプのモノマーを含むことができ、第2のタイプのモノマーのそれぞれは第2の官能基を含む。場合によっては、第2のタイプのモノマーは、架橋剤中にランダムに分布することができる。場合によっては、第2のタイプのモノマーは、架橋剤中に(例えば、ブロックコポリマーとして、又は交互コポリマーとして)規則的に分布することができる。場合によっては、第2のタイプのモノマーは、架橋剤中のグラフトされたコポリマーの一部(例えば、主鎖として又は分岐として)であり得る。架橋剤は、任意の適切なサイズのものであり得る。いくつかの実施形態では、架橋剤は、小分子である。いくつかの実施形態では、架橋剤は、オリゴマー、例えば二量体、三量体、四量体、又は五量体である。
【0183】
第1の官能基(例えば、官能性ポリマー上の)及び第2の官能基(例えば、架橋剤上の)は、架橋反応が起こり得るようなものであるべきであることが理解される。したがって、官能性ポリマーの選択は、架橋剤の選択に基づいて行うことができ、その逆も可能である。いくつかの実施形態では、第1の官能基はNHS基であり得、第2の官能基はアミン(例えば、一級アミン)であり得、又はその逆であり得る。
【0184】
場合によっては、それぞれ、官能性ポリマーは求電子性又は求核性官能基のみを含み、架橋剤は求核性又は求電子性官能基のみを含む。したがって、例えば、架橋剤がアミン(例えば、一級アミン)などの求核性官能基を有する場合、官能性ポリマーは、場合によっては、N-ヒドロキシスクシンイミドなどの求電子性官能基のみを有し得る。例えば、架橋剤がスルホスクシンイミドなどの求電子性官能基を有する場合、場合によっては、官能性ポリマーはアミン(例えば、一級アミン)などの求核性官能基を有し得る。
【0185】
官能性ポリマーは、本明細書に記載のポリマー組成物中に任意の適切な濃度で存在することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%(例えば、約5重量%~約7重量%、約5重量%~約9重量%、約5重量%~約11重量%、約5重量%~約13重量%、約7重量%~約15重量%、約9重量%~約15重量%、約11重量%~約15重量%、約13重量%~約15重量%、約7重量%~約13重量%、約8重量%~約11重量%、約6重量%~約12重量%、又は約7重量%~約10重量%)の濃度で存在することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、ポリマー組成物の約6重量%、約7重量%、約8重量%、約9重量%、約10重量%、又は約11重量%の濃度で存在することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、ポリマー組成物の約8.3重量%の濃度で存在することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、本明細書に記載のポリマー組成物におけるように、徐放性耳用組成物中に存在することができる。
【0186】
架橋剤は、本明細書に記載のポリマー組成物中に任意の適切な濃度で存在することができる。いくつかの実施形態では、架橋剤は、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%(例えば、約0.2重量%~約0.4重量%、約0.4重量%~約0.6重量%、又は約0.3重量%~約0.5重量%)の濃度で存在することができる。いくつかの実施形態では、架橋剤は、ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%(例えば、約0.05重量%~約0.2重量%、約0.05重量%~約0.4重量%、約0.05重量%~約0.5重量%、約0.1重量%~約0.6重量%、約0.2重量%~約0.6重量%、約0.4重量%~約0.6重量%、又は約0.1重量%~約0.3重量%)の濃度で存在することができる。いくつかの実施形態では、架橋剤は、ポリマー組成物の約0.1重量%、0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%、0.5重量%、又は0.6重量%の濃度で存在することができる。例えば、ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%(例えば、約0.05重量%~約0.5重量%、約0.05重量%~約1重量%、約0.05重量%~約2重量%、約0.05重量%~約3重量%、約0.05重量%~約5重量%、約0.05重量%~約7重量%、約0.05重量%~約9重量%、約0.5重量%~約10重量%、約1重量%~約10重量%、約2重量%~約10重量%、約3重量%~約10重量%、約5重量%~約10重量%、約7重量%~約10重量%、約9重量%~約10重量%、又は約0.5重量%~約2重量%)の濃度で存在することができる。いくつかの実施形態では、架橋剤は、本明細書に記載のポリマー組成物におけるように、徐放性耳用組成物中に存在することができる。
【0187】
いくつかの実施形態では、架橋剤は、アミン(例えば、一級アミン)基、又はその塩(例えば、酢酸塩)を含むことができる。いくつかの実施形態では、架橋剤は、ポリリジン、例えばトリリジン、又はその塩(例えば、酢酸塩)であり得る。塩の形態である場合の架橋剤の重量%は、塩の形態ではない場合(例えば、遊離塩基として)の架橋剤のより小さい重量パーセンテージに対応することが理解されるであろう。例示的な例として、架橋剤が酢酸トリリジンである場合、トリリジン遊離塩基についてのポリマー組成物又は徐放性耳用組成物中の架橋剤の重量パーセンテージは、酢酸トリリジンの重量%の約69%であり、他も全て同じである。
【0188】
官能基は、任意の適切な比で存在することができる。いくつかの実施形態では、第1の官能基及び第2の官能基(例えば、求電子性官能基、求核性官能基)が使用される場合、第1の官能基と第2の官能基との比は、第1の官能基約1.2当量:第2の官能基0.8当量~第1の官能基約0.8当量:第2の官能基1.2当量であり得る。いくつかの実施形態では、第1の官能基と第2の官能基との比は、第1の官能基約1当量:第2の官能基0.9当量~第1の官能基約0.9当量:第2の官能基1当量であり得る。いくつかの実施形態では、第1の官能基と第2の官能基との比は、約1:1である。官能性ポリマー及び架橋剤のモル比又は重量比は、それぞれ官能性ポリマー又は架橋剤当たりの官能基の相対数に基づくことが理解される。
【0189】
いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、修飾ポリエチレングリコール(PEG)ポリマーであり得る。例示的な修飾PEGポリマーとしては、複数のポリエチレングリコール単位及び(例えば、モノマーの一部又はエンドキャップとしての)官能基の2つ以上の例(例えば、スクシンイミジルエステル(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS))、スルホ-スクシンイミジルエステル、エポキシド又は類似の反応基)を含む直鎖状、分岐状、又はマルチアームの水溶性ポリマーが挙げられる。マルチアーム官能性ポリマーは、水溶性コア、例えば、糖(キシリトール、エリスリトール)、グリセロール、又はトリメチロールプロパンを含むことができる。任意選択的に、場合によっては官能基であり得る各末端基との間の少なくとも1つの生分解性結合により、水溶性コアを延長することができる。生分解性結合は、場合によっては、単一結合、又はポリヒドロキシ酸若しくはポリラクトンなどの吸収性ポリマーのコポリマー若しくはホモポリマーであり得る。
【0190】
いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、酵素的及び/又は加水分解的に切断可能な連結を含むことができる。例えば、コラゲナーゼなどの酵素によって切断される分子を合成し、ペプチド合成分野の当業者に知られている方法を使用してポリマーに挿入してもよい。いくつかの実施形態では、カルボキシル末端、アミン末端又はヒドロキシ末端ポリエチレングリコールを、酵素切断に適したペプチド配列を構築するための出発物質として使用することができ、ペプチド配列の末端を、無水コハク酸を適切なアミノ酸と反応させることによってカルボン酸に変換する。次に、生成された酸基を、N-ヒドロキシスクシンイミドとの反応によりNHSエステルに変換できる。
【0191】
場合によっては、官能性ポリマーを購入するか、様々な合成方法を使用して調製することができる。
【0192】
官能性ポリマー又は架橋剤上の官能基は、いくつかの実施形態では、PEG又はスルホネート基で更に官能化されたスクシンイミジルエステル基など、水溶性でもある反応性官能基であり得る。スルホン酸の金属塩(例えば、ナトリウム塩)のようなイオン基、又はスクシンイミド環上のポリエチレンオキシドのような非イオン基は、水溶性を向上させ、NHSエステルはアミンに対する化学反応性を提供する。
【0193】
スクシンイミジルエステル基などの反応性官能基で官能化されたポリエチレングリコールなどの官能性ポリマーは、例えば、MilliporeSigma(Milwaukee,WI)及びCreative PEGWorks(Chapel Hill,NC)から市販されている。一級アミン及びチオールなどの反応性官能基で官能化されたポリエチレングリコールなどの官能性ポリマーは、例えば、MilliporeSigma(Milwaukee,WI)及び JenKem(Plano,Texas)から市販されている。いくつかの実施形態では、末端ヒドロキシル基を有する市販のポリマーは、当技術分野で知られている方法によって、アミン基を有する官能性ポリマーに変換することができる。同様に、官能性ポリマーに相補的な架橋剤は、通常、MilliporeSigmaなどの会社から市販されている。
【0194】
いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、複数の(例えば、2つ以上の)スクシンイミジル官能基(例えば、スクシンイミジルスクシネート、スクシンイミジルグルタレート、スクシンイミジルアジペート、スクシンイミジルグルラミド、スクシンイミジルカーボネート、又はスクシンイミジルカルボキシメチルエステル)又はスルホ-スクシンイミジルエステル官能基を含むマルチアーム(例えば、3アーム、4アーム、6アーム、又は8アーム)のポリエチレングリコール(PEG)であり、架橋剤は、複数のアミン(例えば、一級アミン)官能基を含む。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、ペンタエリスリトールコアを有する4アームPEGである。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、ヘキサグリセロールコアを有する8アームPEGである。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、トリペンタエリスリトールコアを有する8アームPEGである。いくつかの実施形態では、マルチアームPEGは、スクシンイミジル官能基で終わる2つ以上のアームを有することができる。いくつかの実施形態では、マルチアームPEGの1つ以上のモノマーは、スクシンイミジル官能基を含むことができる。いくつかの実施形態では、架橋剤は、ポリリジン(例えば、エプシロン-ポリリジン)(例えば、トリリジン、テトラリジン、若しくはペンタリジン)、又はその塩(例えば、酢酸塩)であり得る。例えば、いくつかの実施形態では、官能性ポリマーはペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートであり得、架橋剤はトリリジン又はその塩であり得る(それぞれ図1A及び1Bに示される)。いくつかの実施形態では、官能性ポリマー(例えば、ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレート)は、約10kDa~約25kDa(例えば、約10kDa~約15kDa、約10kDa~約20kDa、約15kDa~約25kDa、又は約20kDa~約25kDa)の分子量(M)を有することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマー(例えば、ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレート)は、約10kDa~約25kDa(例えば、約10kDa~約15kDa、約10kDa~約20kDa、約15kDa~約25kDa、又は約20kDa~約25kDa)の分子量(M)を有することができる。分子量は、例えば、気相クロマトグラフィー又はマトリックス支援レーザー脱離クロマトグラフィーによって決定することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマー(例えば、ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレート)は、1.5±0.5の多分散性(PD)を有することができる。
【0195】
いくつかの実施形態では、官能性ポリマーは、2つ以上のアミン(例えば、一級アミン)官能基を含むマルチアーム(例えば、3アーム、4アーム、6アーム、又は8アーム)ポリエチレングリコールであり、架橋剤は、複数のスクシンイミジルエステル(例えば、スクシンイミジルスクシネート又はスクシンイミジルグルタレート)又はスルホ-スクシンイミジルエステル官能基を含む。いくつかの実施形態では、マルチアームPEGは、アミン(例えば、一級アミン)官能基で終わる2つ以上のアームを有することができる。いくつかの実施形態では、マルチアームPEGの1つ以上のモノマーは、アミン(例えば、一級アミン)官能基を含むことができる。いくつかの実施形態では、架橋剤は、ジスクシンイミジルグルタレート、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、又はジスクシンイミジルスクシネートであり得る。
【0196】
架橋反応
通常、架橋反応は生理学的条件下で起こり得る。いくつかの実施形態では、架橋反応は「インサイチュで」起こり得る。これは、生きている動物又は人体の臓器又は組織などの局所部位で起こることを意味する。いくつかの実施形態では、架橋反応は重合熱を放出しない。
【0197】
官能性ポリマーと架橋剤との間の架橋は、任意の適切な条件下で開始することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーと架橋剤との間の架橋は、触媒(例えば、開始剤分子)の添加により開始される。いくつかの実施形態では、架橋は、刺激、例えば、pH、温度の変化、又は照射(例えば、光開始を使用する)によって開始される。架橋速度及びゲル化時間は、pH、温度、賦形剤、官能基の比、官能性ポリマーの官能化度、並びに官能性ポリマー及び架橋剤の濃度などの要因によって影響を受ける可能性がある。
【0198】
いくつかの実施形態では、官能性ポリマーと架橋剤との間の架橋は、官能性ポリマー及び架橋剤を混合すると開始される。いくつかのそのような実施形態では、ゲル化時間は、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物をかなり流動的な形態で(例えば、23G針による注射によって)投与部位(例えば、中耳及び/又は内耳の領域)に投与するのに十分である。いくつかの実施形態では、架橋は、投与前又は投与時に開始することができるが、ポリマー組成物は、投与部位(例えば、中耳及び/又は内耳の領域)に流入する前に顕著にゲル化しない。粘度は通常、架橋とともに増加するため、一般に、顕著な架橋が起こる前に、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を投与することが望ましい。したがって、いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約20℃の温度で、約1000mPa・s未満(例えば、約800mPa・s、500mPa・s、300mPa・s、100mPa・s、75mPa・s、50mPa・s、又は25mPa・s未満)の粘度を有することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約20℃の温度で、約1mPa・s~約100mPa・s(例えば、約1mPa・s~約80mPa・s、約1mPa・s~約60mPa・s、約1mPa・s~約50mPa・s、約1mPa・s~約40mPa・s、約1mPa・s~約20mPa・s、約1mPa・s~約10mPa・s、約10mPa・s~約100mPa・s、約20~約100、約40~約100、約50~約100mPa・s、約60mPa・s~約100mPa・s、又は約80mPa・s~約100mPa・s)の粘度を有することができる。
【0199】
いくつかの実施形態では、ゲル化時間に影響を与えるためにpHが使用される。脊椎シーラントとして市販されている基準製品DURASEAL(登録商標)には、ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレート及びトリリジンが含まれる。製造者の指示に従って調製されたDURASEAL(登録商標)は約10のpHを有し、架橋は典型的には急速に起こり、この生成物は3秒以下でゲルを形成することができる(例えば、実施例1を参照)。本明細書に記載されるように、トリリジン成分を約5.5~約8.5(例えば、約5.5~8.0、約5.5~約7.5、約5.5~約7.0、約5.5~約6.5、約5.5~約6.0、約6.5~約7.0、約6.5~約7.5、約6.5~約8.0、約7.0~約8.5、約7.5~約8.5、又は約8.0~約8.5)に調整することにより、本明細書で上記したものなど、より長いゲル化時間をもたらすことができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約5.5~約8.5(例えば、約5.5~約8.0、約5.5~約7.5、約5.5~約7.0、約5.5~約6.5、約5.5~約6.0、約6.5~約7.0、約6.5~約7.5、約6.5~約8.0、約7.0~約8.5、約7.5~約8.5、又は約8.0~約8.5)のpHを有することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約5.0~約7.7(例えば、約5.0~約5.5、約5.0~約6.0、約5.0~約6.5、約5.0~約7.0、約5.0~約7.5、約5.5~約7.7、約6.0~約7.7、約6.5~約7.7、約7.0~約7.7、約6.0~約7.0、約6.6~約7.7、約6.8及び約7.7、約6.6~約6.8)のpHを有することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約7.2のpHを有することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約5.5~約6.5(例えば、約5.7~約6.2、又は約6.0)のpHを有することができる。ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物のpHは、酸(例えば、HCl、リン酸)、塩基(例えば、NaOH、KOH)、並びに/又は緩衝液(例えば、リン酸塩(例えば、リン酸塩の形態(例えば、リン酸ナトリウム(例えば、一塩基性及び/若しくは二塩基性)、リン酸、若しくはそれらの組み合わせ)、ホウ酸塩(例えば、ホウ酸ナトリウム(例えば、十水和物))、又はそれらの組み合わせ)を適宜添加することによって調整することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物のpHは、ゲル化した場合、精製蒸留水で平衡化することによって間接的に測定することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物から形成されたゲルは、約5.5~約8.5(例えば、約5.5~8.0、約5.5~約7.5、約5.5~約7.0、約5.5~約6.5、約5.5~約6.0、約6.5~約7.0、約6.5~約7.5、約6.5~約8.0、約7.0~約8.5、約7.5~約8.5、又は約8.0~約8.5)のpHを有することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物から形成されたゲルは、約6.0~約7.7(例えば、約6.0~約7.0、約6.6~約7.7、約6.8~約7.7、約6.6及び約6.8)のpHを有することができる。いくつかのそのような実施形態では、ゲル化ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物のpHは、約6.0~約6.5(例えば、約6.1~約6.4)であり得る。
【0200】
いくつかの実施形態では、ゲル化時間に影響を与えるために温度が使用される。いくつかのそのような実施形態では、ポリマー組成物は、チルド組成物として、及び/又は1つ以上のチルド成分から調製することができる。
【0201】
ゲルの架橋密度は、架橋剤及び官能性ポリマーの全体的な分子量、並びに分子当たりの利用可能な官能基の数によって影響を受ける可能性がある。約600Daなどの低分子量の官能性ポリマーは、典型的には、10,000Daなどのより高い分子量と比較して、より高い架橋密度をもたらす。架橋密度はまた、架橋剤及び官能性ポリマー溶液の全体的な固形分パーセントによっても影響を受ける可能性がある。固形分パーセントを増やすと、加水分解による不活性化の前に求電子基が求核基と組み合わさる可能性が高くなる。架橋密度に影響を与える更に別の方法は、求電子基に対する求核基の化学量論を調整することである。一般に、1対1の比で架橋密度が最大になる。
【0202】
賦形剤
本明細書に記載の徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、pH緩衝液、等張化剤、粘膜付着剤、安定剤、防腐剤、担体、及び浸透増強剤などの賦形剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物に組み込むことができる賦形剤としては、希釈剤、緩衝液、分散剤又は粘度調整剤、可溶化剤、安定剤、及び浸透圧調整剤が挙げられる。
【0203】
「希釈剤」という用語は、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物の成分(例えば、官能性ポリマー、架橋剤、及び/又は活性剤)を(例えば、送達前に)希釈するために使用できる化合物を指す。いくつかの実施形態では、希釈剤は、中耳及び/又は内耳にある。
【0204】
「分散剤」及び/又は「粘度調整剤」及び/又は「増粘剤」という用語は、溶液中の粒子状物質の分散を増強するか、又は溶液若しくは懸濁液の粘度を変更する材料を指す。分散剤/材料の例としては、限定されないが、親水性ポリマー、電解質、TWEEN(登録商標)60又はTWEEN(登録商標)80、PEG、ポリビニルピロリドン(PVP;ポビドンとしても知られ、商業的にはKollidon(登録商標)及びPLASDONE(登録商標)として知られる)、並びに炭水化物ベースの分散剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、HPC、HPC-SL、及びHPC-L)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えば、HPMC K100、HPMC K4M、HPMC K15M、及びHPMC K100M)などの修飾セルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酢酸ステアリン酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルピロリドン/酢酸ビニルコポリマー(S630)、エチレンオキシド及びホルムアルデヒドを含有する4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェノールポリマー(チロキサポールとしても知られる)、ポリビニルピロリドンK12、ポリビニルピロリドンK17、ポリビニルピロリドンK25、又はポリビニルピロリドンK30、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニルコポリマー(S-630)、及び約300~約6000、若しくは約3350~約4000、若しくは約7000~約5400の分子量を有するポリエチレングリコールが挙げられる。いくつかの実施形態では、増粘剤の量は、組成物の総重量の約1%、5%、約10%、又は約15%である。場合によっては、分散剤は、薬物の結晶化を阻害することにより、組成物の物理的安定性を改善する。
【0205】
「可溶化剤」という用語は、トリアセチン、クエン酸トリエチル、オレイン酸エチル、カプリル酸エチル、ラウリル硫酸ナトリウム、ドクサートナトリウム、ビタミンE TPGS、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-ヒドロキシエチルピロリドン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン及びその他のシクロデキストリン、エタノール、n-ブタノール、イソプロピルアルコール、コレステロール、胆汁酸塩、ポリエチレングリコール200~600、グリコフロール、TRANSCUTOL(登録商標)、プロピレングリコール、及びジメチルイソソルビド、エタノール、並びにその他の有機溶剤などの耳に許容可能な化合物を指す。ポロキサマー及びTween(登録商標)などの両親媒性分子も可溶化剤として機能し得る。いくつかの実施形態では、これらの可溶化剤が臨界ミセル濃度(CMC)又はそれらの溶解度(例えば、胆汁酸塩)を超える濃度である場合、可溶化剤の持続的リザーバーを得ることができる。いくつかの実施形態では、可溶化剤は、プロピレングリコール、PEG300、エタノール、及びシクロデキストリン、ポロキサマー407及びポロキサマー188のうちの1つ以上を含む。
【0206】
ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物の機械的強度及び安定性を増強するために、様々な物理的又は粘度調整剤を使用することができる。いくつかの実施形態では、活性剤の粒子(例えば、マイクロ粒子又はナノ粒子)を使用して、ヒドロゲルの機械的安定性を高めることができる。粒子は、ヒドロゲルに懸濁するか、共有結合するか、イオン性又は疎水性相互作用によってポリマーに結合することができる。
【0207】
いくつかの実施形態では、他の粘度調整剤、安定剤、及び/又は浸透増強剤を、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物に含めることができる。粘度調整剤の非限定的な例としては、デキストラン又は他の多糖類、PLURONIC(登録商標)(ポロキサマーとも呼ばれ、親水性ポリ(エチレンオキシド)(PEO)及び疎水性ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)からなり、ABAトリブロック構造に配置されることにより、PEO-PPO-PEOを与える合成ブロックコポリマーのクラスである)、乳化剤及びミセルなどのポリマーが挙げられる。浸透増強剤及び/又は可溶化剤のミセルは、いくつかの実施形態では、製剤中の濃度の持続を達成するために使用することができる。いくつかの実施形態では、ポロキサマー407及び/又はポロキサマー188のミセルは、例えば、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物の約1重量%~約10重量%(例えば、約1重量%~約2重量%、約1重量%~約3重量%、約1重量%~約5重量%、約1重量%~約8重量%、約2重量%~約10重量%、約3重量%~約10重量%、約5重量%~約10重量%、又は約8重量%~約10重量%)の濃度で可溶化剤として使用することができる。いくつかの実施形態では、ポロキサマーの濃度は、ゲル形成に寄与せず、又は高粘度も生じさせない。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、ポロキサマーを含まない。
【0208】
場合によっては、活性剤は、非晶質粒子、多形体、又は異なる固体形態がより低い溶解度を有する塩形態、例えば、遊離塩基結晶形態などの準安定固体形態で存在し得る。いくつかの実施形態では、ポリビニルピロリドン及びポロキサマー407などの賦形剤は、薬物の結晶化を阻害するための可溶化剤及び分散剤として機能し得る。
【0209】
「安定剤」という用語は、典型的には中耳及び/又は内耳の環境と適合性である抗酸化剤、緩衝液、酸、及び防腐剤などの化合物を指す。安定剤としては、例えば、位相の変化を避けるために徐放性耳用組成物又はポリマー組成物の成分の安定性を改善するか、又は組成物の安定性を改善するシリンジ若しくはガラス瓶を含む、容器又は送達システムとの賦形剤の適合性を改善する薬剤を挙げることができる。
【0210】
特定の等張性を達成するために、いくつかの実施形態では、等張化剤を含めることができる。一般に、内リンパは外リンパよりも浸透圧が高い。例えば、内リンパの浸透圧は約304mOsm/kg HOであるが、外リンパの浸透圧は約294mOsm/kg HOである。
【0211】
いくつかの形態では、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約100mOsm/kg~約1000mOsm/kg(例えば、約200mOsm/kg~約400mOsm/kg、約240mOsm/kg~約350mOsm/kg、約250mOsm/kg~約350mOsm/kg、約270mOsm/kg~約320mOsm/kg、約280mOsm/kg~約320mOsm/kg、約100mOsm/kg~約200mOsm/kg、約100mOsm/kg~約300mOsm/kg、約100mOsm/kg~約500mOsm/kg、約100mOsm/kg~約700mOsm/kg、約100mOsm/kg~約900mOsm/kg、約200mOsm/kg~約1000mOsm/kg、約300mOsm/kg~約1000mOsm/kg、約500mOsm/kg~約1000mOsm/kg、約700mOsm/kg~約1000mOsm/kg、約900mOsm/kg~約1000mOsm/kg、又は約300~約600mOsmol/kg)の浸透圧を提供する。いくつかの形態では、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約550mOsm/kg~約600mOsm/kg(例えば、約560~約590mOsm/kg)の浸透圧を提供する。いくつかの形態では、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約280mOsm/kgの浸透圧を有する。いくつかの形態では、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、約100mOsm/L~約1000mOsm/L(例えば、約200mOsm/L~約400mOsm/L、約240mOsm/L~約350mOsm/L、約250mOsm/L~約350mOsm/L、約270mOsm/L~約320mOsm/L、約280mOsm/L~約320mOsm/L、約100mOsm/L~約200mOsm/L、約100mOsm/L~約300mOsm/L、約100mOsm/L~約500mOsm/L、約100mOsm/L~約700mOsm/L、約100mOsm/L~約900mOsm/L、約200mOsm/L~約1000mOsm/L、約300mOsm/L~約1000mOsm/L、約500mOsm/L~約1000mOsm/L、約700mOsm/L~約1000mOsm/L、又は約900mOsm/L~約1000mOsm/L)の浸透圧を有する。いくつかの形態では、組成物の浸透圧は、ゲルが標的の耳の構造(例えば、内リンパ、外リンパなど)と低張性であるように設計される。いくつかの形態では、組成物の浸透圧は、ゲルが標的の耳の構造(例えば、内リンパ、外リンパなど)と等張性であるように設計される。いくつかの形態では、組成物の浸透圧は、ゲルが標的の耳の構造(例えば、内リンパ、外リンパなど)と高張性であるように設計される。
【0212】
浸透圧/浸透圧は、例えば、適切な塩濃度(例えば、カリウム塩の濃度)の使用、又は等張化剤の使用により調整することができ、これにより、組成物は内リンパ適合性及び/又は外リンパ適合性になる(例えば、ゲルは内リンパ及び/又は外リンパと等張性になる)。場合によっては、内リンパ適合性及び/又は外リンパ適合性の徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、内耳の環境に対する障害を最小限に抑え、投与時の対象(例えば、哺乳動物)に対する不快感(例えば、めまい及び/又は吐き気)を最小限に抑えることができる。
【0213】
いくつかの形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物によって形成されたゲルは、外リンパと等張性であり得る。等張性組成物は、場合によっては、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物に等張化剤を含めることによって形成することができる。適切な等張化剤としては、デキストロース、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム、及び他の電解質などであるがこれらに限定されない、任意の薬学的に許容される糖、塩、又はそれらの任意の組み合わせ若しくは混合物が挙げられるが、これらに限定されない。必要に応じて、塩化ナトリウム又は他の等張化剤を任意選択的に使用して等張性を調整することができる。代表的な塩としては、ナトリウム、カリウム又はアンモニウム陽イオン及び塩化物、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、重炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩又は重亜硫酸塩陰イオンを有するものが挙げられる。適切な塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム及び硫酸アンモニウムが挙げられる。リン酸緩衝液の場合、一塩基性リン酸ナトリウム及び二塩基性リン酸ナトリウムは、典型的には特定のpHを達成するために組み合わせて使用され、まとめて「リン酸ナトリウム」と呼ぶことができることが理解されるであろう。場合によっては、例えばホウ酸塩も使用する場合、リン酸を使用してpHを更に変更することができる。いくつかの実施形態では、等張化剤は、塩化ナトリウムであり得る。
【0214】
いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物によって形成されたゲルは、水が製剤から組織へと引き出されて組織との接触及び付着を増加させるように、わずかに低張性であり得る。
【0215】
徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、いくつかの実施形態では、1つ以上のpH調整剤又は緩衝剤を含むことができる。pH調整剤又は緩衝液の非限定的な例としては、酢酸塩、重炭酸塩、塩化アンモニウム、クエン酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、それらの薬学的に許容される塩、及びそれらの組み合わせ又は混合物が挙げられる。水溶性緩衝剤の非限定的な例は、アルカリ又はアルカリ土類金属の炭酸塩、リン酸塩、重炭酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、コハク酸塩など、例えばリン酸ナトリウム、クエン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩、重炭酸塩、炭酸塩及びHEPESである。いくつかの実施形態では、トロメタミン(TRIS)は、一級アミンが官能基であるポリマー組成物又は徐放性耳用組成物では使用されない。
【0216】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、ホウ酸ナトリウム十水和物を、約0.01重量%~約3.0重量%(例えば、約0.01重量%~約0.1重量%、約0.01重量%~約0.5重量%、約0.01重量%~約1.0重量%、約0.01重量%~約2.0重量%、約0.1重量%~約3.0重量%、約0.5重量%~約3.0重量%、約1.0重量%~約3.0重量%、約2.0重量%~約3.0重量%、約0.05重量%~約2.0重量%、又は約0.5重量%~約1.5重量%)の量で含むことができる。いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、ホウ酸ナトリウム十水和物を、約0.05重量%~約2.0重量%(例えば、約0.5重量%~約1.5重量%、又は約1.2重量%)の量で含むことができる。
【0217】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、ホウ酸ナトリウムを、約0.01重量%~約3.0重量%(例えば、約0.01重量%~約0.1重量%、約0.01重量%~約0.5重量%、約0.01重量%~約1.0重量%、約0.01重量%~約2.0重量%、約0.1重量%~約3.0重量%、約0.5重量%~約3.0重量%、約1.0重量%~約3.0重量%、約2.0重量%~約3.0重量%、約0.05重量%~約2.0重量%、又は約0.5重量%~約1.5重量%)の量で含むことができる。いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、リン酸ナトリウムを、約0.05重量%~約2.0重量%(例えば、約0.5重量%~約1.5重量%、又は約1.1重量%)の量で含むことができる。
【0218】
いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、リン酸を、約0.01重量%~約3.0重量%(例えば、約0.01重量%~約0.1重量%、約0.01重量%~約0.5重量%、約0.01重量%~約1.0重量%、約0.01重量%~約2.0重量%、約0.1重量%~約3.0重量%、約0.5重量%~約3.0重量%、約1.0重量%~約3.0重量%、約2.0重量%~約3.0重量%、約0.05重量%~約2.0重量%、又は約0.5重量%~約1.5重量%)の量で含むことができる。いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、リン酸を約0.05%~約2.0%(例えば、約0.5%~約1.5%、又は約0.9%)の量で含むことができる。
【0219】
いくつかの形態では、組成物は、粘膜付着剤を含む。場合によっては、粘膜付着剤は、正円窓膜などの耳の一部への付着を容易にする。粘膜付着剤としては、カルボマー、例えばCARBOPOL(登録商標)934P、ポリビニルピロリドンポリマー(PVP);水膨潤性であるが水不溶性の架橋カルボキシ官能性ポリマー;架橋ポリ(アクリル酸)(例えば、CARBOPOL(登録商標)947P);カルボマーホモポリマー;カルボマーコポリマー;親水性多糖ガム;マルトデキストリン;架橋アルギン酸ガムゲル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び水分散性ポリカルボキシル化ビニルポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。粘膜付着剤は、Lichterらの米国特許第8,828,980号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0220】
界面活性剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ナトリウムデクセート(sodium decussate)、TWEEN(登録商標)60(ポリエチレングリコールソルビタンモノステアレート)又はTWEEN(登録商標)80(ポリエチレングリコールソルビタンモノオレエート)、トリアセチン、D-α-トコフェリルポリエチレングリコールスクシネート(ビタミンE TPGS)、リン脂質、レシチン、ホスファチジルコリン(c8~c18)、ホスファチジルエタノールアミン(c8~c18)、ホスファチジルグリセロール(c8~c18)、ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリソルベート、胆汁酸塩、グリセリルモノステアレートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0221】
徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、いくつかの実施形態では、耳の楕円窓又は正円窓などのバリアを越える活性剤の送達を可能にする浸透増強剤を含むことができる。通常、浸透増強剤は、耳適合性である。浸透増強剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、臭化オシチル-トリメチル-アンモニウム、臭化ドデシル-トリメチルアンモニウム、ラウリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-20-セチルエーテル、ラウレス-9、ドデシル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル(PLE)、TWEEN(登録商標)20、TWEEN(登録商標)80、ノニルフェノキシポリエチレン(NP-POE)、ポリソルベート、胆汁酸塩、脂肪酸及び誘導体、キレート剤(EDTA、クエン酸、及びサリチル酸など)、スルホキシド(ジメチルスルホキシド(DMSO)及びデシルメチルスルホキシドなど)、並びにアルコール(エタノール、イソプロパノール、グリセロール、プロパンジオールなど)が挙げられる。場合によっては、浸透増強剤は、懸濁液を形成するのに十分な高濃度で存在するオレイン酸などの部分的に可溶性の脂肪酸であり、したがって、浸透増強剤の持続的存在のためのマイクロリザーバーである。いくつかの実施形態では、徐放性組成物は、初期のより高い活性剤放出を提供した後に枯渇する浸透増強剤を含む。
【0222】
いくつかの形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、防腐剤を含むことができる。例示的な防腐剤は、リヒターらの米国特許第8,828,980号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)にも記載されている。適切な防腐剤としては、安息香酸、ホウ酸、p-ヒドロキシ安息香酸塩、アルコール、四級化合物、安定化二酸化塩素、メルフェン及びチオメルサールなどの水銀剤、又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、防腐剤は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含むことができる。いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、BHTを約0%~約0.01%(例えば、約0.0005%~約0.01%、約0.001%~約0.01%、又は約0.005%~約0.01%)の量で含むことができる。いくつかの実施形態では、防腐剤は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)を含むことができる。いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、BHTを約0%~約0.01%(例えば、約0.0005%~約0.01%、約0.001%~約0.01%、又は約0.005%~約0.01%)の量で含むことができる。いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物は、BHTを約0%~約0.005%(例えば、約0.001%~約0.003%、又は約0.002%)の量で含むことができる。
【0223】
III.ポリマーの投与及び架橋
ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、任意の適切な方法を使用して投与することができる。
【0224】
また、本明細書では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を調製する方法も提供される。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と、架橋剤の溶液又は懸濁液とを組み合わせることによって調製することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液及び架橋剤の溶液又は懸濁液は、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物の投与中(例えば、デュアルシリンジ装置を使用する場合)に組み合わされる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と、架橋剤の溶液又は懸濁液とを、その組み合わせが約5.5~約8.5のpHを有するように組み合わせることによって調製することができる。
【0225】
場合によっては、官能性ポリマーは、固体(例えば、凍結乾燥粉末)であり、使用時又はその近くで再構成される。したがって、いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(a)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製することと、(b)架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することと、(c)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と架橋剤の溶液又は懸濁液とを組み合わせることと、によって調製することができる。場合によっては、架橋剤は、溶液として提供される。したがって、いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(a)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製することと、(b)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を溶液又は架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることと、によって調製することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(a)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製することと、(b)架橋剤の溶液又は懸濁液のpHを変更することと、(c)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることと、によって調製することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマー若しくは架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することは、溶液又は懸濁液のpHを調整することを含むことができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液のpHを調整することは、pHを約1.6~約4.0に調整することを含み得る。いくつかの実施形態では、架橋剤の溶液又は懸濁液のpHを調整することは、pHを約5.5~約8.5に調整することを含み得る。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液及び架橋剤の溶液又は懸濁液は、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物の投与中(例えば、デュアルシリンジ装置を使用する場合)に組み合わされる。
【0226】
場合によっては、官能性ポリマーは、溶液又は懸濁液として提供される。したがって、いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(a)架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することと、(b)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と架橋剤の溶液又は懸濁液とを組み合わせることと、によって調製することができる。場合によっては、架橋剤は、溶液として提供される。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることによって調製することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(a)架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することと、(b)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液のpHを変更することと、(c)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることと、によって調製することができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマー若しくは架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することは、溶液又は懸濁液のpHを調整することを含むことができる。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液のpHを調整することは、pHを約1.6~約4.0に調整することを含み得る。いくつかの実施形態では、架橋剤の溶液又は懸濁液のpHを調整することは、pHを約5.5~約8.5に調整することを含み得る。いくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液及び架橋剤の溶液又は懸濁液は、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物の投与中(例えば、デュアルシリンジ装置を使用する場合)に組み合わされる。
【0227】
いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、成分:(i)活性剤(例えば、デキサメタゾン)の固体形態(例えば、粉末)、(ii)希釈剤溶液、(iii)官能性ポリマー(例えば、NHS-PEG)の固体形態(例えば、粉末)、及び(iv)架橋剤(例えば、トリリジン)の溶液から調製することができる。いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、(a)活性剤(例えば、デキサメタゾン)を架橋剤(例えば、トリリジン)の溶液と組み合わせて第1の混合物を形成することと、(b)官能性ポリマーを希釈溶液と組み合わせて第2の混合物を形成することと、(c)第1の混合物と第2の混合物とを組み合わせることと、によって調製することができる。
【0228】
いくつかの実施形態では、活性剤は、官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液中、架橋剤の溶液若しくは懸濁液中に含めることができるか、別の溶液若しくは懸濁液で提供することができるか、別個の固体(例えば、乾燥粉末)として提供することができるか、固体(例えば、乾燥粉末)として提供し、(例えば、官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液を形成する前に)官能性ポリマーと組み合わせることができるか、固体(例えば、乾燥粉末)として提供し、(例えば、架橋剤の溶液若しくは懸濁液を形成する前に)架橋剤と組み合わせることができるか、又はそれらの組み合わせであることができる。活性剤が別個の溶液、懸濁液、又は固体(例えば、乾燥粉末)として提供されるいくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることは、活性剤の溶液、懸濁液、又は固体形態(例えば、乾燥粉末)を組み合わせることを更に含むことができる。
【0229】
いくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることは、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製した後60分未満(例えば、50分未満、40分未満、30分未満、20分未満、又は10分以内)に行われる。
【0230】
また、本明細書では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を投与する方法も提供される。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(i)ポリマー組成物又は徐放性組成物を、例えば、本明細書に記載の方法のいずれかによって調製することと、(ii)ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を対象に投与することと、によって投与することができる。
【0231】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(i)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と、架橋剤の溶液又は懸濁液とを組み合わせることによってポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を調製することと、(ii)ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を対象に投与することと、によって投与することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(i)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と、架橋剤の溶液又は懸濁液とを、その組み合わせが約5.5~約8.5のpHを有するように組み合わせることによって、ポリマー組成物又は徐放性組成物を調製することと、(ii)ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を対象に投与することと、によって投与することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物の調製は、投与中に、例えば、官能性ポリマー及び架橋剤の別々のリザーバーを含むデュアルシリンジ装置を使用するときに行われる。
【0232】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(i)(a)官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液を作製し、(b)架橋剤の溶液若しくは懸濁液を作製し、(c)官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液と架橋剤の溶液若しくは懸濁液とを組み合わせることによって、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を調製することと、(ii)ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を対象に投与することと、によって投与することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(i)(a)官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液を作製し、(b)官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液を架橋剤の溶液若しくは懸濁液と組み合わせることによって、ポリマー組成物又は徐放性組成物を調製することと、(ii)ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を対象に投与することと、によって投与することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(i)(a)官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液を作製し、(b)架橋剤の溶液若しくは懸濁液のpHを変更し、(c)官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液を架橋剤の溶液若しくは懸濁液と組み合わせることによって、ポリマー組成物又は徐放性組成物を調製することと、(ii)ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を対象に投与することと、によって投与することができる。
【0233】
いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(i)(a)架橋剤の溶液若しくは懸濁液を作製し、(b)架橋剤の溶液若しくは懸濁液を官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と組み合わせることによって、ポリマー組成物又は徐放性組成物を調製することと、(ii)ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を対象に投与することと、によって投与することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、(i)(a)架橋剤の溶液若しくは懸濁液を作製し、(b)官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液のpHを変更し、(c)官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液を架橋剤の溶液若しくは懸濁液と組み合わせることによって、ポリマー組成物又は徐放性組成物を調製することと、(ii)ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を対象に投与することと、によって投与することができる。
【0234】
ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を投与するいくつかの実施形態では、活性剤は、官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液中、架橋剤の溶液若しくは懸濁液中に含めることができるか、別の溶液若しくは懸濁液で提供することができるか、別個の固体(例えば、乾燥粉末)として提供することができるか、固体(例えば、乾燥粉末)として提供し、(例えば、官能性ポリマーの溶液若しくは懸濁液を形成する前に)官能性ポリマーと組み合わせることができるか、又はそれらの組み合わせであることができる。活性剤が別個の溶液、懸濁液、又は固体(例えば、乾燥粉末)として提供されるいくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることは、活性剤の溶液、懸濁液、又は固体形態(例えば、乾燥粉末)を組み合わせることを更に含むことができる。
【0235】
いくつかの実施形態では、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることは、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製した後60分未満(例えば、50分未満、40分未満、30分未満、20分未満、又は10分以内)に行われる。いくつかの実施形態では、ステップ(ii)は、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせた後10分未満(例えば、9分未満、8分未満、7分未満、6分未満、5分未満、4分未満、3分未満、2分未満、又は1分未満)に行われる。
【0236】
架橋剤の存在による固有のゲル化の場合、化学架橋と投与のタイミングを制御することが重要な場合がある。ステップ(ii)のタイミングは、上記の徐放性耳用組成物又はポリマー組成物のゲル化時間に関連することが理解されるであろう。典型的には、ステップ(ii)のタイミングは、徐放性耳用組成物又はポリマー組成物の投与がまだゲルではないようなものである。
【0237】
いくつかの実施形態では、ゲル化は、投与前、投与中、又は投与後に光又は他の外部エネルギーなどの外的要因を適用すると開始することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を対象に投与し、続いて架橋反応を開始することができる。
【0238】
徐放性耳用組成物は、例えば経鼓膜注射によって、それを必要とする対象の中耳に投与することができる。いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、経鼓膜注射によって正円窓膜上又はその近くに投与される。徐放性耳用組成物は、いくつかの実施形態では、耳介後切開及び正円窓若しくは蝸牛窓領域への又はその近くへの外科的操作による進入を通じて、正円窓若しくは蝸牛窓稜(crista fenestrae cochleae)の上又はその近くに投与することもできる。いくつかの実施形態では、対象の耳に投与された場合、徐放性耳用組成物は、小骨のいずれも巻き込まない。いくつかの実施形態では、対象の耳に投与される場合、徐放性耳用組成物は、耳小骨のいずれとも接触しない。
【0239】
いくつかの場合において、投与することは、注射器及び小径の針(例えば、23G~30G、又はそれ以下)を使用することを含むことができ、針は、鼓膜を通して挿入され、正円窓又は蝸牛窓稜の領域に誘導される。次に、組成物は、正円窓又は蝸牛窓稜の上又はその近くに堆積される。いくつかの実施形態では、投与される場合、徐放性耳用組成物は、液体である。いくつかの実施形態では、投与前に、徐放性耳用組成物は、約26℃を超える温度に曝露されない。いくつかの実施形態では、投与中、徐放性耳用組成物は、約20℃~約25℃の温度を有する。
【0240】
いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物はまた、注射、内耳区画の直接注入若しくは灌流によって、又は蝸牛切開術、迷路切開術、乳房切除術、あぶみ骨切除術、若しくは内リンパ嚢切開術を含む外科的処置において、鼓室内に投与されるか、鼓膜上に又は耳道上に若しくは耳道内に適用することができる。
【0241】
いくつかの実施形態では、投与することは、治療有効用量を投与することを含むことができる。いくつかの実施形態では、投与することは、予防有効用量を投与することを含むことができる。いくつかの実施形態では、投与することは、約5~約500マイクロリットル(例えば、約5μL~約400μL、約5μL~約300μL、約5μL~約200μL、約5μL~約100μL、5μL~約50μL、約5μL~約25μL、約5μL~約10μL、約10μL~約500μL、約25μL~約500μL、約50μL~約500μL、約100μL~約500μL、約200μL~約500μL、約300μL~約500μL、約400μL~約500μL、約25μL~約300μL、約50μL~約200μL、約30μL~約70μL、又は約40μL~約60μL)を投与することを含むことができる。いくつかの実施形態では、投与することは、約50μL、約100μL、又は約200μLを投与することを含むことができる。
【0242】
いくつかの実施形態では、投与することは、6重量%のデキサメタゾンを含む徐放性耳用組成物50μLの容量中の3mgのデキサメタゾンを投与することを含むことができる。
【0243】
場合によっては、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物から形成されたゲルは、対象の耳に投与されてから1日以内に、約100%未満(例えば、約80%未満、約70%未満、約60%未満、約50%未満、又は約40%未満)の膨潤を示すことができる。
【0244】
いくつかの実施形態では、投与することは、場合によっては、成分を混合し、最初の混合から標的部位への投与までの時間を最小限に抑えることができる、デュアルシリンジインジェクターの下流にあるインラインミキサー(スタティックミキサーと呼ばれる場合もある)などの特定の機器の使用を含むことができる。いくつかの実施形態では、フィブリン接着剤又はシーラント用途などの他の接着剤又はシーラント系のために開発された、インサイチュでのゲル化を実行するための方法論及び装置を、本明細書に記載のポリマー組成物又は徐放性耳用組成物とともに使用してもよい。例えば、米国特許第4,874,368号、同第4,631,055号、同第4,735,616号、同第4,359,049号、同第4,978,336号、同第5,116,315号、同第4,902,281号、同第4,932,942号、PCT WO91/09641、及びR.A.Tange,“Fibrin Sealant”in Operative Medicine:Otolaryngology,volume 1(1986)(これらのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0245】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるポリマー組成物又は徐放性耳用組成物を投与する前に、対象の鼓膜及び/又は外耳道に麻酔剤を適用することができる。例えば、投与する前に、麻酔剤(例えば、EMLA(登録商標)クリーム)は、対象の鼓膜及び/又は外耳道に、投与の約5分~約1時間(例えば、約5分~約50分、約5分~約40分、約5分~約30分、約5分~約20分、約5分~約10分、約10分~約1時間、約20分~約1時間、約30分~約1時間、約40分~約1時間、又は約50分~約1時間)前に適用することができる。いくつかの実施形態では、投与する前に、麻酔剤(例えば、EMLA(登録商標)クリーム)を、投与する直前に対象の鼓膜及び/又は外耳道に適用することができる。
【0246】
いくつかの実施形態では、投与は、例えば内視鏡を使用して視覚化することができる。いかなる特定の理論にも拘束されるものではないが、視覚化は、徐放性耳用組成物を所望の位置(例えば、正円窓膜上)に配置するのに役立ち、及び/又は徐放性耳用組成物を望ましくない位置に配置する(例えば、1つ以上の小骨を巻き込む)のを回避するのに役立つと考えられる。
【0247】
いくつかの実施形態では、徐放性耳用組成物は、単回投与又は複数回投与で投与することができる。特定の要因は、障害を効果的に治療又は予防するために必要な投与量に影響を与える可能性があり、疾患又は障害の重症度、以前の予防、対象の一般的な健康状態及び/又は年齢、並びに存在する他の疾患を含むがこれらに限定されない。予防のために使用される徐放性耳用組成物の有効投与量は、特定の予防の過程にわたって増減し得ることも理解されるであろう。投与量の変更が生じる場合があり、アッセイの結果から明らかになる。
【0248】
投与前、投与中、又は投与後に、ポリマー組成物又は徐放性耳用組成物は、液体状態からゲル状態への移行をもたらす。いくつかの実施形態では、ゲルは、約5日~約6ヶ月(例えば、約5日~約1週間、約5日~約2週間、約5日~約3週間、約5日~約1ヶ月、約5日~約2ヶ月、約5日~約3ヶ月、約5日~約4ヶ月、約5日~約5ヶ月、約1週間~約6ヶ月、約2週間~約6ヶ月、約3週間~約6ヶ月、約1ヶ月~約6ヶ月、約2ヶ月~約6ヶ月、約3ヶ月~約6ヶ月、約4ヶ月~約6ヶ月、約5ヶ月~約6ヶ月、約2週間~約2ヶ月、又は約1ヶ月~約3ヶ月)の期間、治療有効濃度の活性剤を提供する。いくつかの態様において、ゲルは、少なくとも1週間(例えば、少なくとも約2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、又は6ヶ月)、治療有効濃度の活性剤を提供する。
【0249】
場合によっては、治療される対象は、化学療法、加齢による難聴、大きな騒音への曝露の繰り返しによる難聴、及び内耳内の繊毛を損傷する他の障害(自己免疫障害、感染症、過剰な体液又は圧力など)などの難聴を引き起こす可能性のある治療を受けている成人又は小児である。
【0250】
いくつかの実施形態では、治療される対象は、成人である。いくつかの実施形態では、治療される対象は、バラニー学会の分類委員会又はアメリカ耳鼻咽喉科学会(AAO-HNS)によって定義された一側性メニエール病確実例の診断を受けている。いくつかの実施形態では、治療される対象は、徐放性耳用組成物の投与についてスクリーニングする前の月に、めまい確実例(definitive vertigo)(20分以上続く)の2つ以上のエピソードを報告している。いくつかの実施形態では、対象は、患者によって報告されるか、又は聴力検査によって記録されるような、後天性非対称性感音性難聴を記録している。いくつかの実施形態では、対象が進行中の慢性炎症性疾患又は感染性中耳疾患を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が耳、副鼻腔、又は上気道系に活動性感染症を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が現在鼓膜穿孔(current tympanic membrane perforation)を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が活動性の良性発作性頭位めまい症(BPPV)の症状を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が上半規管裂隙の病歴を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が倒れ発作(Tumarkinの耳石クライシス)の病歴を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が前庭性片頭痛の病歴を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が内リンパ嚢手術の病歴を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が中耳手術(中耳腔換気用チューブ以外)の病歴を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が聴覚又は前庭系に影響を与える後迷路性病変(例えば、聴神経腫瘍、多発性硬化症)を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が外耳道又は鼓膜にIT注射を妨げる重大な異常を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。いくつかの実施形態では、対象が免疫不全疾患又は自己免疫疾患の病歴を有する場合、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物を投与されない。
【0251】
したがって、本明細書で提供されるのは、耳の疾患又は障害を有する対象を治療する方法である。いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるのは、耳の疾患又は障害を有する対象を治療する方法であって、治療有効用量の、本明細書に記載の徐放性耳用組成物を投与することを含む、方法である。いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるのは、耳の疾患又は障害を有する対象を治療する方法であって、治療有効用量の、本明細書に記載の徐放性耳用組成物を、それを必要とする対象の耳に投与することを含む、方法である。いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるのは、耳の疾患又は障害を有する対象を治療する方法であって、(i)対象が耳の疾患又は障害を有すると特定することと、(ii)治療有効用量の、本明細書に記載の徐放性耳用組成物を対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法である。いくつかの実施形態では、耳の疾患又は障害は、メニエール病(MD)、自己免疫性内耳疾患(AIED)、突発性感音性難聴(SSNHL)、騒音性難聴(NIHL)、加齢性難聴、糖尿病に伴う感音性難聴、耳鳴り、自己免疫障害による繊毛の損傷、感染症による繊毛の損傷、過剰な体液又は圧力による繊毛の損傷、化学療法による難聴、及びそれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0252】
更に、本明細書で提供されるのは、メニエール病を治療する方法であって、治療有効用量の、本明細書に記載の徐放性耳用組成物を、それを必要とする対象の耳に投与することを含む、方法である。また、本明細書で提供されるのは、メニエール病を治療する方法であって、(i)対象がメニエール病を有すると特定することと、(ii)治療有効用量の、本明細書に記載の徐放性耳用組成物を対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法である。
【0253】
いくつかの実施形態では、対象は、徐放性耳用組成物を投与する前に評価される。例えば、対象は、徐放性耳用組成物を投与する前に、例えば遅延静脈内ガドリニウム造影3T
MRIによって評価されるように、内リンパ水腫、外リンパ増強、又はその両方のベースラインレベルについて評価され得る。場合によっては、対象は、内リンパ水腫のベースラインレベルについて評価される。いくつかの実施形態では、対象は、外リンパ増強のベースラインレベルについて評価される。いくつかの実施形態では、対象は、内リンパ水腫及び外リンパ増強の両方のベースラインレベルについて評価される。いくつかの実施形態では、対象は、徐放性耳用組成物を投与する前に、めまいエピソードの重症度及び/又は頻度のベースラインレベルについて評価され得る。いくつかの実施形態では、対象の聴力は、徐放性耳用組成物を投与する前に、ベースラインについて(例えば、聴力評価を使用して)評価され得る。いくつかの実施形態では、対象は、徐放性耳用組成物を投与する前に、ベースラインのめまいハンディキャップインベントリ(DHI)スコア及び/又は耳鳴りハンディキャップインベントリ(THI)スコアについて評価され得る。場合によっては、対象は、徐放性耳用組成物が投与されるのと同じ日に評価される。場合によっては、対象は、徐放性耳用組成物が投与される約1日~約6週間(例えば、約1日~約1週間、約1日~約2週間、約1日~約3週間、約1日~約4週間、約1日~約5週間、約1週間~約6週間、約3週間~約6週間、約4週間~約6週間、約5週間~約6週間、又は約3週間~約5週間)前に評価される。
【0254】
いくつかの実施形態では、対象は、徐放性耳用組成物を投与した後に評価される。例えば、徐放性耳用組成物を投与した後、対象は、例えば遅延静脈内ガドリニウム造影3T MRIによって評価されるように、内リンパ水腫、外リンパ増強、又はその両方のレベルについて評価され得る。場合によっては、対象は、内リンパ水腫のレベルについて評価される。いくつかの実施形態では、対象は、外リンパ増強のレベルについて評価される。いくつかの実施形態では、対象は、内リンパ水腫及び外リンパ増強の両方のレベルについて評価される。いくつかの実施形態では、対象は、めまい発作の重症度及び/又は頻度について評価され得る。いくつかの実施形態では、対象の聴力は、(例えば、聴力評価を使用して)評価され得る。いくつかの実施形態では、対象は、めまいハンディキャップインベントリ(DHI)スコア及び/又は耳鳴りハンディキャップインベントリ(THI)スコアについて評価され得る。場合によっては、対象は、徐放性耳用組成物を投与した約1週間~約4週間(例えば、約1週間~約2週間、約1週間~約3週間、約2週間~約4週間、又は約3週間~約4週間)後に評価される。場合によっては、対象は、徐放性耳用組成物を投与した約2週間後に評価される。
【0255】
いくつかの実施形態では、対象は、本明細書で提供される徐放性耳用組成物の投与後に、1つ以上の評価において改善を示す。例えば、いくつかの実施形態では、対象は、例えば遅延静脈内ガドリニウム造影3T MRIによって評価されるように、内リンパ水腫、外リンパ増強、又はその両方のレベルの改善を示すことができる。場合によっては、対象は、例えばベースラインレベルと比較して、内リンパ水腫のレベルの改善を示すことができる。いくつかの実施形態では、対象は、例えばベースラインレベルと比較して、外リンパ増強のレベルの改善を示すことができる。いくつかの実施形態では、対象は、例えば、ベースラインレベルと比較して、内リンパ水腫及び外リンパ増強の両方のレベルの改善を示すことができる。いくつかの実施形態では、対象は、例えば、ベースラインレベルと比較して、めまいエピソードの重症度及び/又は頻度のレベルの改善を示すことができる。いくつかの実施形態では、対象は、例えば、ベースラインレベルと比較して、(例えば、聴力評価を使用して)聴力の改善を示すことができる。いくつかの実施形態では、対象は、例えば、ベースラインスコアと比較して、めまいハンディキャップインベントリ(DHI)スコア及び/又は耳鳴りハンディキャップインベントリ(THI)スコアの改善を示し得る。
【0256】
いくつかの実施形態では、めまいエピソードは、対象がめまいエピソードの重症度及び頻度について毎日めまい日誌を付けることによって評価され得る。いくつかの実施形態では、投与後の平均めまい重症度及び頻度(例えば、過去4週間の平均)を、ベースラインのめまい重症度及び頻度(例えば、投与前の4週間の平均)と比較することができる。
【0257】
いくつかの実施形態では、聴力は、聴力検査によって評価され得る。いくつかの実施形態では、聴力は、125、250、500、1000、2000、4000及び8000Hzでの純音聴力検査及び/又は単語認識スコアを使用して評価され得る。いくつかの実施形態では、125、250、500、1000、2000、4000及び8000Hzでの純音聴力検査による聴力のベースラインからの変化及び単語認識スコアは、記述統計を使用して特徴付けることができる。
【0258】
いくつかの実施形態では、ベースラインから投与後評価(例えば、約29日目及び/又は約85日目)までの患者のDHI及びTHIスコアの変化は、記述統計を使用して評価及び特徴付けることができる。
【0259】
MRIを受ける対象について、遅延静脈内ガドリニウム造影3T MRIスキャンによって評価されるような内リンパ水腫及び外リンパ増強のベースラインからの変化は、投与後(例えば、約15日目)に評価され得る。
【0260】
投与後(例えば、約15日目)の対象の中耳におけるポリマー組成物又は徐放性耳用組成物の分布の量及び程度も評価され得る。
【0261】
IV.耳の疾患及び障害
メニエール病(MD)、自己免疫性内耳疾患(AIED)、突発性感音性難聴(SSNHL)、騒音性難聴(NIHL)、加齢性難聴、糖尿病に伴う感音性難聴、耳鳴り、自己免疫障害による繊毛の損傷、感染症による繊毛の損傷、過剰な体液又は圧力による繊毛の損傷、化学療法による難聴、及び同様の耳の障害を含む、根底にある微小血管の病因を伴う耳の障害は、一部の症状を除いて治療法がなく、治癒法もない。
【0262】
メニエール病は、聴覚及び平衡に影響を与える衰弱症状を繰り返す慢性の不治の内耳障害である。これは、1861年にこの病状の症状を最初に特定して説明したフランス人医師Prosper Meniereにちなんで名付けられた。研究者は、MDを引き起こす内耳における液体蓄積の原因を知らない。血管の機能不全に関連していると考える者もいれば、この疾患が自己免疫状態、ウイルス感染症、アレルギー反応に起因し得る、又は外傷から発症する可能性があると言う者もいる。MDには遺伝的な要素があるようで、遺伝子変異が内耳液の調節に関連している場合がある。
【0263】
自己免疫性内耳疾患は、免疫系の応答によって引き起こされる、成人及び子供の両方に現れるまれな障害である。内耳は免疫応答の直接の標的になる可能性があるが、循環免疫複合体の沈着又は全身性免疫介在性疾患によって更に損傷を受ける可能性がある。免疫介在性内耳疾患の臨床的発現は、進行性の両側性及び非対称性SNHLプロファイルを示している。蝸牛症状は、しばしば前庭障害に関連している。AIED患者の約50%において、難聴は、平衡失調及び運動不耐症、運動失調性及び位置性(positional)又はエピソード性めまいなどの前庭症状にも関連している。
【0264】
感音性難聴は、圧力波を神経信号に効果的に変換する蝸牛の能力障害によるものである。SNHLは通常、大きな騒音への曝露、加齢、頭部外傷、聴器毒性のある薬物への曝露、感染症、自己免疫疾患、メニエール病、遺伝子変異、及び聴神経の腫瘍に関連している。
【0265】
騒音性難聴は、大きな音及び/又は長時間の音への曝露によって引き起こされる。難聴は、重機、大音量の音楽、飛行機、又は銃声などの大きな騒音に長時間曝露されると発症し得る。85デシベル以上の音への長時間の、反復的な、又は衝動的な曝露は、難聴を引き起こす可能性がある。NIHLは、有毛細胞及び/又は聴神経に損傷を与える。
【0266】
MD、AIED、SNHL、NIHL、及びその他の耳の障害の症状には、めまい、難聴、耳鳴(ear ringing)(耳鳴り)、及び耳圧が含まれる。めまいは、重度の吐き気及び平衡失調を引き起こす可能性がある。難聴は、永続的になる可能性がある。
【0267】
一部の症状を除いて治療法はなく、治癒法もない。乗り物酔い又は吐き気の薬が症状の管理に役立つ場合がある。
【0268】
本開示は、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、VEGF阻害剤)を使用して耳の疾患及び障害を治療する方法も提供する。したがって、本明細書で提供されるのは、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、対象が耳の疾患又は障害を有すると特定することと、治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することと、を含む、方法である。
【0269】
耳の疾患及び障害の非限定的な例としては、メニエール病、自己免疫性内耳疾患(AIED)、感音性難聴(例えば、突発性感音性難聴又は感音性難聴は糖尿病に伴う)、騒音性難聴(NIHL)、加齢性難聴、耳鳴り、自己免疫障害による繊毛の損傷、感染症による繊毛の損傷、過剰な体液又は圧力による繊毛の損傷、及び化学療法による難聴が挙げられる。
【0270】
場合によっては、チロシンキナーゼ阻害剤は、VEGF阻害剤(例えば、本明細書に記載のVEGF阻害剤のいずれかであり得る。いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、罹患した耳の浮腫及びリンパ機能不全を低減するのに十分な量で投与される。
【0271】
チロシンキナーゼ阻害剤は、任意の適切な形態で、又は任意の適切な経路によって投与することができる。いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、全身投与することができる。いくつかの実施形態では、チロシンキナーゼ阻害剤は、局所的に(例えば、経鼓室注射によって、例えば、中耳又は内耳に)投与することができる。場合によっては、チロシンキナーゼ阻害剤は、ヒドロゲルの形態で提供することができる。ヒドロゲルの非限定的な例は、米国特許第9,066,865号及び同第10,561,736号(これらのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に提供されている。別の例として、チロシンキナーゼ阻害剤は、本明細書に記載の徐放性耳用組成物のいずれかの形態で提供することができる。
【0272】
例示的な実施形態
実施形態1は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ポリマー組成物が、約20℃の温度で約45秒~約60分のゲル化時間を有する、ポリマー組成物である。
実施形態2は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ポリマー組成物が、約37℃の温度で約10秒~約30分のゲル化時間を有する、ポリマー組成物である。
実施形態3は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが、中耳において形成される場合、少なくとも5日間の滞留時間を有する、ポリマー組成物である。
実施形態4は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが、37℃で少なくとも5日間のゲル持続時間を有する、ポリマー組成物である。
実施形態5は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
ポリマー組成物が、約5.5~約8.5のpHを有し、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、ポリマー組成物である。
実施形態6は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1日間平衡化した後、100%未満膨潤する、ポリマー組成物である。
実施形態7は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物量の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で架橋反応が起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが弾性である、ポリマー組成物である。
実施形態8は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが粘膜付着性である、ポリマー組成物である。
実施形態9は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
ポリマー組成物が、約1mPa・s~約1000mPa・sの粘度を有し、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、ポリマー組成物である。
実施形態10は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
第1の官能基及び第2の官能基が、約1.2:0.8~約0.8:1.2の比で存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ポリマー組成物が、約20℃の温度で約45秒~約60分のゲル化時間を有する、ポリマー組成物である。
実施形態11は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
第1の官能基及び第2の官能基が、約1.2:0.8~約0.8:1.2の比で存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ポリマー組成物が、約37℃の温度で約10秒~約30分のゲル化時間を有する、ポリマー組成物である。
実施形態12は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
第1の官能基及び第2の官能基が、約1.2:0.8~約0.8:1.2の比で存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが、中耳において形成される場合、少なくとも5日間の滞留時間を有する、ポリマー組成物である。
実施形態13は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
第1の官能基及び第2の官能基が、約1.2:0.8~約0.8:1.2の比で存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが、37℃で少なくとも5日間のゲル持続時間を有する、ポリマー組成物である。
実施形態14は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
第1の官能基及び第2の官能基が、約1.2:0.8~約0.8:1.2の比で存在し、
ポリマー組成物が、約5.5~約8.5のpHを有し、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、ポリマー組成物である。
実施形態15は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
第1の官能基及び第2の官能基が、約1.2:0.8~約0.8:1.2の比で存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1日間平衡化した後、100%未満膨潤する、ポリマー組成物である。
実施形態16は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物量の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
第1の官能基及び第2の官能基が、約1.2:0.8~約0.8:1.2の比で存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが弾性である、ポリマー組成物である。
実施形態17は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
第1の官能基及び第2の官能基が、約1.2:0.8~約0.8:1.2の比で存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができ、ゲルが粘膜付着性である、ポリマー組成物である。
実施形態18は、ポリマー組成物であって、
ポリマー組成物の約5重量%~約15重量%の官能性ポリマーであって、第1の官能基を含む、官能性ポリマーと、
ポリマー組成物の約0.05重量%~約10重量%の架橋剤であって、第2の官能基を含む、架橋剤と、
水と、を含み、
第1の官能基及び第2の官能基が、約1.2:0.8~約0.8:1.2の比で存在し、
ポリマー組成物が、約1mPa・s~約1000mPa・sの粘度を有し、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、ポリマー組成物である。
実施形態19は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約1重量%~約10重量%の架橋剤を含む、実施形態9~16のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態20は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約1重量%~約5重量%の架橋剤を含む、実施形態9~16のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態21は、ポリマー組成物が、約20℃の温度で約45秒~約60分のゲル化時間を有する、実施形態2~9又は11~20のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態22は、ゲルが、中耳において形成される場合、少なくとも5日間の滞留時間を有する、実施形態1、2、4~11、又は13~21のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態23は、ゲルが、37℃で少なくとも5日間のゲル持続時間を有する、実施形態1~3、5~12、又は14~22のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態24は、ポリマー組成物が、約5.5~約8.5のpHを有する、実施形態1~4、6~13、又は15~23のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態25は、ゲルが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1日間平衡化した後、100%未満膨潤する、実施形態1~5、7~14、又は15~24のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態26は、ゲルが弾性である、実施形態1~6、8~15、又は17~25のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態27は、ゲルが粘膜付着性である、実施形態1~7、9~16、又は18~26のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態28は、ポリマー組成物が、約1mPa・s~約1000mPa・sの粘度を有する、実施形態1~8、10~17、又は19~27のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態29は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約6重量%~約12重量%の官能性ポリマーを含む、実施形態1~28のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態30は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約7重量%~約10重量%の官能性ポリマーを含む、実施形態1~28のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態31は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約8.3重量%の官能性ポリマーを含む、実施形態1~28のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態32は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約8重量%~約12重量%の官能性ポリマーを含む、実施形態1~28のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態33は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約10重量%の官能性ポリマーを含む、実施形態1~28のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態34は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約0.05重量%~約0.5重量%の架橋剤を含む、実施形態1~33のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態35は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約0.1重量%~約0.3重量%の架橋剤を含む、実施形態1~33のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態36は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約0.2重量%の架橋剤を含む、実施形態1~33のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態37は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約0.2重量%~約0.6重量%の架橋剤を含む、実施形態1~33のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態38は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約0.3重量%~約0.5重量%の架橋剤を含む、実施形態1~33のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態39は、ポリマー組成物が、ポリマー組成物の約0.4重量%~約0.6重量%の架橋剤を含む、実施形態1~33のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態40は、ポリマー組成物が、約20℃の温度で約5分~約20分のゲル化時間を有する、実施形態1~39のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態41は、ポリマー組成物が、約20℃の温度で約4分~約12分のゲル化時間を有する、実施形態1~40のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態42は、ポリマー組成物が、約20℃の温度で約8分~約12分のゲル化時間を有する、実施形態1~41のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態43は、ポリマー組成物が、約37℃の温度で約10秒~約30分のゲル化時間を有する、実施形態1、2~11、又は13~42のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態44は、ポリマー組成物が、約37℃の温度で約1分~約4分のゲル化時間を有する、実施形態1~43のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態45は、ポリマー組成物が、約37℃の温度で約2分~約8分のゲル化時間を有する、実施形態1~44のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態46は、ゲルが、中耳において形成される場合、少なくとも1週間の滞留時間を有する、実施形態1~45のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態47は、ゲルが、中耳において形成される場合、少なくとも2週間の滞留時間を有する、実施形態1~46のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態48は、ゲルが、中耳において形成される場合、少なくとも1ヶ月間の滞留時間を有する、実施形態1~47のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態49は、ゲルが、中耳において形成される場合、少なくとも2ヶ月間の滞留時間を有する、実施形態1~48のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態50は、ゲルが、PBS中50℃で約5日~約30日の再吸収時間を有する、実施形態1~49のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態51は、ゲルが、PBS中50℃で約7日~約15日の再吸収時間を有する、実施形態1~50のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態52は、ポリマー組成物が、約6.4~約7.4のpHを有する、実施形態1~51のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態53は、ポリマー組成物が、約6.0及び7.0のpHを有する、実施形態1~52のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態54は、ポリマー組成物が、約5.5~約8.0のpHを有する、実施形態1~53のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態55は、ゲルが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1日間平衡化した後、80%未満膨潤する、実施形態1~54のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態56は、ゲルが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で1日間平衡化した後、60%未満膨潤する、実施形態1~55のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態57は、ポリマー組成物が、約1mPa・s~約100mPa・sの粘度を有する、実施形態1~56のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態58は、ポリマー組成物が、約1mPa・s~約50mPa・sの粘度を有する、実施形態1~57のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態59は、ゲルが、内リンパ又は外リンパに対して低張性である、実施形態1~58のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態60は、ゲルが、内リンパ又は外リンパに対して等張性である、実施形態1~58のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態61は、ゲルが、内リンパ又は外リンパに対して高張性である、実施形態1~58のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態62は、ゲルが、約300mOsmol/kg~約600mOsmol/kgの浸透圧を有する、実施形態1~61のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態63は、ゲルが、約6.0~約7.7のpHを有する、実施形態1~62のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態64は、ゲルが、約6.6~約6.8のpHを有する、実施形態1~63のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態65は、ゲルが、約6.0~約6.5のpHを有する、実施形態1~64のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態66は、第1の官能基と第2の官能基との比が、約0.8:1.2~約1.2:0.8である、実施形態1~9又は21~65のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態67は、第1の官能基と第2の官能基との比が、約0.9:1~約1:0.9である、実施形態1~66のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態68は、第1の官能基と第2の官能基との比が、約1:1である、実施形態1~67のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態69は、官能性ポリマーが、修飾PEGである、実施形態1~68のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態70は、第1の官能基が求電子剤を含み、第2の官能基が求核剤を含む、実施形態1~69のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態71は、第1の官能基が、スクシンイミジルエステルを含む、実施形態1~70のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態72は、官能基が、スクシンイミジルスクシネート、スクシンイミジルグルタレート、スクシンイミジルアジペート、スクシンイミジルグルララミド(gluraramide)、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルボキシメチルエステル、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態1~70のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態73は、第2の官能基が、一級アミンを含む、実施形態1~72のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態74は、官能性ポリマーが、ペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートである、実施形態1~73のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態75は、架橋剤が、ポリリジン又はその塩を含む、実施形態1~74のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態76は、架橋剤が、トリリジン又はその塩を含む、実施形態1~75のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態77は、第1の官能基が求核剤を含み、第2の官能基が求電子剤を含む、実施形態1~76のいずれか1つのポリマー組成物である。
実施形態78は、第1の官能基が、一級アミンを含む、実施形態77のポリマー組成物である。
実施形態79は、第2の官能基が、スクシンイミジルエステルを含む、実施形態77又は実施形態78のポリマー組成物である。
実施形態80は、徐放性耳用組成物であって、
実施形態1~79のいずれか1つのポリマー組成物と、
活性剤と、を含む、徐放性耳用組成物である。
実施形態81は、活性剤が、治療剤、予防剤、診断又は視覚化剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態80の徐放性耳用組成物である。
実施形態82は、治療剤又は予防剤が、タンパク質、炭水化物、核酸、小分子、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態81の徐放性耳用組成物である。
実施形態83は、タンパク質が、酵素、成長因子、抗体又はその抗原結合断片、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態82の徐放性耳用組成物である。
実施形態84は、炭水化物が、グリコサミノグリカンである、実施形態82又は実施形態83の徐放性耳用組成物である。
実施形態85は、核酸が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、マイクロRNA、短鎖干渉RNA、リボザイム、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態82~84のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態86は、小分子が、抗生物質、抗腫瘍剤、局所麻酔剤、ステロイド、ホルモン、抗アポトーシス剤、血管新生剤、抗血管新生剤、神経伝達物質、向精神薬、抗炎症剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態82~85のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態84は、小分子が、Apaf-1の阻害剤である、実施形態82~86のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態88は、活性剤が、チロシンキナーゼ阻害剤である、実施形態82~84のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態89は、活性剤が、VEGF阻害剤である、実施形態80~88のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態90は、VEGF阻害剤が、アゲラフェニブ、アルティラチニブ、アパチニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、セジラニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、モテサニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、レバスチニブ、レゴラフェニブ、セマキサニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、トセラニブ、チボザニブ、バンデタニブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態89の徐放性耳用組成物である。
実施形態91は、VEGF阻害剤が、抗体又はその抗原結合断片を含む、実施形態89又は実施形態90の徐放性耳用組成物である。
実施形態92は、抗体又はその抗原結合断片が、アラシズマブ、ベバシズマブ、イクルクマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態91の徐放性耳用組成物である。
実施形態93は、VEGF阻害剤が、デコイ受容体を含む、実施形態89~92のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態94は、デコイ受容体が、アフリベルセプトである、実施形態92の徐放性耳用組成物である。
実施形態95は、VEGF阻害剤が、VEGFRのアロステリック修飾因子を含む、実施形態89~94のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態96は、アロステリック修飾因子が、シクロトラキシンBである、実施形態95の徐放性耳用組成物である。
実施形態97は、VEGF阻害剤が、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも10倍選択的である、実施形態89~96のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態98は、VEGF阻害剤が、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも20倍選択的である、実施形態89~97のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態99は、VEGF阻害剤が、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも50倍選択的である、実施形態89~98のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態100は、チロシンキナーゼ阻害剤又はVEGF阻害剤が、罹患した耳の浮腫及びリンパ機能不全を低減するのに十分な量で存在する、実施形態88~99のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態101は、活性剤が、抗炎症剤を含む、実施形態82~100のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態102は、活性剤が、ステロイドを含む、実施形態82~101のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態103は、活性剤が、グルココルチコイドを含む、実施形態102の徐放性耳用組成物である。
実施形態104は、活性剤が、デキサメタゾンを含む、実施形態103の徐放性耳用組成物である。
実施形態105は、活性剤が、ステロイドを含まない、実施形態80~101のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態106は、活性剤が、診断又は視覚化剤を含む、実施形態80~105のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態107は、診断又は視覚化剤が、色素、フルオロフォア、MRI造影剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態106の徐放性耳用組成物である。
実施形態108は、活性剤が、微粒子の形態で徐放性耳用組成物中に存在する、実施形態80~107のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態109は、活性剤が、ナノ粒子の形態で徐放性耳用組成物中に存在する、実施形態80~108のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態110は、活性剤が、ポリマー組成物の約0.01重量%~約40重量%の量で存在する、実施形態80~109のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態111は、活性剤が、ポリマー組成物の約0.1重量%~約20重量%の量で存在する、実施形態80~110のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態112は、活性剤が、ポリマー組成物の約1重量%~約15重量%の量で存在する、実施形態80~111のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態113は、徐放性耳用組成物が、37℃で過剰のPBSに対して平衡化される場合、約3週間で約30%~約50%の活性剤の累積放出を有する、実施形態80~112のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態114は、賦形剤を更に含む、実施形態80~113のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態115は、賦形剤が、緩衝液、等張化剤、粘膜付着剤、安定化剤、防腐剤、担体、浸透増強剤、希釈剤、分散剤、粘度調節剤、可溶化剤、浸透圧調節剤、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態114の徐放性耳用組成物である。
実施形態116は、徐放性耳用組成物であって、
約5%~約15%のペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートと、
約0.05重量%~約0.6重量%のトリリジン又はその塩と、
約0.01重量%~約40重量%のデキサメタゾンと、
水と、を含む、徐放性耳用組成物である。
実施形態117は、徐放性耳用組成物であって、
約7%~約9%のペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートと、
約0.1重量%~約0.3重量%のトリリジンと、
約1重量%~約10重量%のデキサメタゾンと、
水と、を含む、徐放性耳用組成物である。
実施形態118は、徐放性耳用組成物であって、
約8.3%のペンタエリスリトールポリ(エチレングリコール)エーテルテトラスクシンイミジルグルタレートと、
約0.2重量%のトリリジン又はその塩と、
約6重量%のデキサメタゾンと、
水と、を含む、徐放性耳用組成物である。
実施形態119は、
約0.01重量%~約3.0重量%のホウ酸ナトリウム十水和物と、
約0.01重量%~約3.0重量%のリン酸ナトリウムと、
約0.01重量%~約3.0重量%のリン酸と、
約0%~約0.5%のFD&Cブルー#1と、
約0重量%~約0.01重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、を更に含む、実施形態116~118のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態120は、
約0.05重量%~約2.0重量%のホウ酸ナトリウム十水和物と、
約0.05重量%~約2.0重量%のリン酸ナトリウムと、
約0.05重量%~約2.0重量%のリン酸と、
約0%~約0.05%のFD&Cブルー#1と、
約0重量%~約0.005重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、を更に含む、実施形態116~118のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態121は、
約1.2重量%のホウ酸ナトリウム十水和物と、
約1.1重量%~約3.0重量%のリン酸ナトリウムと、
約0.9重量%~約3.0重量%のリン酸と、
約0.01%のFD&Cブルー#1と、
約0.002重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、を更に含む、実施形態116~118のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態122は、
約0.01重量%~約6.0重量%のリン酸ナトリウムと、
約0%~約0.5%のFD&Cブルー#1と、
約0重量%~約0.01重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、を更に含む、実施形態116~118のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態123は、
約0.05重量%~約6.0重量%のリン酸ナトリウムと、
約0%~約0.05%のFD&Cブルー#1と、
約0重量%~約0.005重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、を更に含む、実施形態116~118のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態124は、
約2.0重量%~約6.0重量%のリン酸ナトリウムと、
約0.01%のFD&Cブルー#1と、
約0.002重量%のブチル化ヒドロキシトルエンと、を更に含む、実施形態116~118のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態125は、実施形態1~79のいずれか1つのポリマー組成物又は実施形態80~124のいずれか1つの徐放性耳用組成物によって形成された、ゲルである。
実施形態126は、耳の疾患又は障害の治療のための、実施形態80~124のいずれか1つの徐放性耳用組成物を含む医薬の、製造である。
実施形態127は、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、
官能性ポリマーの溶液又は懸濁液(官能性ポリマーが第1の官能基を含む)と、架橋剤の溶液又は懸濁液(架橋剤が第2の官能基を含む)と、活性剤とを組み合わせて、徐放性耳用組成物を形成することを含み、それにより、官能性ポリマーが、徐放性耳用組成物の約5重量%~約15重量%の量で存在し、架橋剤が、徐放性耳用組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の量で徐放性耳用組成物中に存在し、架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
実施形態128は、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、
(a)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製することであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、作製することと、
(b)架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することであって、架橋剤が第2の官能基を含む、作製することと、
(c)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と、架橋剤の溶液又は懸濁液とを組み合わせて、徐放性耳用組成物を形成することと、を含み、それにより、官能性ポリマーが、徐放性耳用組成物の約5重量%~約15重量%の量で存在し、架橋剤が、徐放性耳用組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の量で徐放性耳用組成物中に存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
実施形態129は、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、
(a)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製することであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、作製することと、
(b)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることであって、架橋剤が第2の官能基を含む、組み合わせることと、を含み、それにより、官能性ポリマーが、徐放性耳用組成物の約5重量%~約15重量%の量で存在し、架橋剤が、徐放性耳用組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の量で徐放性耳用組成物中に存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
実施形態130は、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、
(a)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製することであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、作製することと、
(b)架橋剤の溶液又は懸濁液のpHを変更することであって、架橋剤が第2の官能基を含む、変更することと、
(c)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることと、を含み、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
実施形態131は、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、
(a)架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することであって、架橋剤が第2の官能基を含む、作製することと、
(b)架橋剤の溶液又は懸濁液を官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と組み合わせることであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、組み合わせることと、を含み、それにより、官能性ポリマーが、徐放性耳用組成物の約5重量%~約15重量%の量で存在し、架橋剤が、徐放性耳用組成物の約0.05重量%~約0.6重量%の量で徐放性耳用組成物中に存在し、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
実施形態132は、徐放性耳用組成物を調製する方法であって、
(a)架橋剤の溶液又は懸濁液を作製することであって、架橋剤が第2の官能基を含む、作製することと、
(b)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液のpHを変更することであって、官能性ポリマーが第1の官能基を含む、変更することと、
(c)官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることと、を含み、
架橋反応が第1の官能基と第2の官能基との間で起こって、ゲルを形成することができる、方法である。
実施形態133は、活性剤が、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液中に存在する、実施形態127~132のいずれか1つの方法である。
実施形態134は、活性剤が、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を作製する前に官能性ポリマーと組み合わされる、実施形態133の方法である。
実施形態135は、活性剤が、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液と組み合わされる、実施形態133の方法である。
実施形態136は、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせることが、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液及び架橋剤の溶液又は懸濁液を活性剤と組み合わせることを含む、実施形態127~135のいずれか1つの方法である。
実施形態137は、活性剤が、固体として提供される、実施形態136の方法である。
実施形態138は、活性剤が、溶液又は懸濁液として提供される、実施形態136の方法である。
実施形態139は、徐放性耳用組成物が、実施形態80~124のいずれか1つの徐放性耳用組成物である、実施形態127~138のいずれか1つの方法である。
実施形態140は、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、
対象が耳の疾患又は障害を有すると特定することと、
治療有効量の実施形態80~124のいずれか1つの徐放性耳用組成物を対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法である。
実施形態141は、耳の疾患又は障害の治療を必要とする対象においてそれを行う方法であって、
治療有効量の実施形態80~124のいずれか1つの徐放性耳用組成物を対象の耳に投与することを含む、方法である。
実施形態142は、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、
(i)実施形態127~139のいずれか1つの方法によって徐放性耳用組成物を調製することと、
(ii)治療有効量の徐放性耳用組成物を、それを必要とする対象の耳に投与することを含む、方法である。
実施形態143は、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、
(i)対象が耳の疾患又は障害を有すると特定することと、
(ii)実施形態127~139のいずれか1つの方法によって徐放性耳用組成物を調製することと、
(iii)治療有効量の徐放性耳用組成物を対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法である。
実施形態144は、耳の疾患又は障害が、メニエール病(MD)、自己免疫性内耳疾患(AIED)、突発性感音性難聴(SSNHL)、騒音性難聴(NIHL)、加齢性難聴、糖尿病に伴う感音性難聴、耳鳴り、自己免疫障害による繊毛の損傷、感染症による繊毛の損傷、過剰な体液又は圧力による繊毛の損傷、化学療法による難聴、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態140~125のいずれか1つの方法である。
実施形態145は、感音性難聴が、突発性感音性難聴である、実施形態126の方法である。
実施形態146は、感音性難聴が、糖尿病に伴うものである、実施形態126の方法である。
実施形態147は、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、
治療有効量の実施形態80~124のいずれか1つの徐放性耳用組成物を、それを必要とする対象の耳に投与することを含む、方法である。
実施形態148は、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、
(i)対象がメニエール病を有すると特定することと、
(ii)治療有効量の実施形態80~124のいずれか1つの徐放性耳用組成物を対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法である。
実施形態149は、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、
(i)実施形態127~139のいずれか1つの方法によって徐放性耳用組成物を調製することと、
(ii)治療有効量の徐放性耳用組成物を、それを必要とする対象の耳に投与することを含む、方法である。
実施形態150は、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、
(i)対象がメニエール病を有すると特定することと、
(ii)実施形態127~139のいずれか1つの方法によって徐放性耳用組成物を調製することと、
(iii)治療有効量の徐放性耳用組成物を対象の罹患した耳に投与することと、を含む、方法である。
実施形態151は、投与することが、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせた後10分以内に行われる、実施形態140~150のいずれか1つの方法である。
実施形態152は、投与することが、官能性ポリマーの溶液又は懸濁液を架橋剤の溶液又は懸濁液と組み合わせた後5分以内に行われる、実施形態140~151のいずれか1つの方法である。
実施形態153は、投与することが、約5μL~約500μLの徐放性耳用組成物を投与することを含む、実施形態140~152のいずれか1つの方法である。
実施形態154は、投与することが、約50μL~約200μLの徐放性耳用組成物を投与することを含む、実施形態140~153のいずれか1つの方法である。
実施形態155は、投与することが、約40μL~約60μLの徐放性耳用組成物を投与することを含む、実施形態140~153のいずれか1つの方法である。
実施形態156は、投与することが、約50μLの徐放性耳用組成物を投与することを含む、実施形態140~153のいずれか1つの方法である。
実施形態157は、投与することが、徐放性耳用組成物が正円窓膜と接触するように投与することを含む、実施形態140~156のいずれか1つの方法である。
実施形態158は、投与することが、徐放性耳用組成物が耳小骨のいずれも巻き込まないように投与することを含む、実施形態140~157のいずれか1つの方法である。
実施形態159は、投与することが、徐放性耳用組成物が耳小骨のいずれにも接触しないように投与することを含む、実施形態140~158のいずれか1つの方法である。
実施形態160は、徐放性耳用組成物が、投与中液体である、実施形態140~159のいずれか1つの方法である。
実施形態161は、徐放性耳用組成物が、投与前に約26℃を超える温度に曝露されない、実施形態140~160のいずれか1つの方法である。
実施形態162は、徐放性耳用組成物が、投与中、約20℃~約25℃の温度を有する、実施形態140~161のいずれか1つの方法である。
実施形態163は、投与することが、鼓膜を通して注射することを含む、実施形態140~162のいずれか1つの方法である。
実施形態164は、対象における耳の疾患又は障害を治療する方法であって、
対象が耳の疾患又は障害を有すると特定することと、
治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することと、を含む、方法である。
実施形態165は、耳の疾患又は障害が、メニエール病(MD)、自己免疫性内耳疾患(AIED)、突発性感音性難聴(SSNHL)、騒音性難聴(NIHL)、加齢性難聴、糖尿病に伴う感音性難聴、耳鳴り、自己免疫障害による繊毛の損傷、感染症による繊毛の損傷、過剰な体液又は圧力による繊毛の損傷、化学療法による難聴、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態164の方法である。
実施形態166は、感音性難聴が、突発性感音性難聴である、実施形態165の方法である。
実施形態167は、感音性難聴が、糖尿病に伴う、実施形態165の方法である。
実施形態168は、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、
(i)対象がメニエール病を有すると特定することと、
(ii)治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤を対象に投与することと、を含む、方法である。
実施形態169は、対象におけるメニエール病を治療する方法であって、
治療有効量のチロシンキナーゼ阻害剤を、それを必要とする対象に投与することと、を含む、方法である。
実施形態170は、投与することが、全身投与を含む、実施形態168又は169の方法である。
実施形態171は、投与することが、対象の罹患した耳に投与することを含む、実施形態168又は169の方法である。
実施形態172は、チロシンキナーゼ阻害剤が、VEGF阻害剤を含む、実施形態168~171のいずれか1つの方法である。
実施形態173は、VEGF阻害剤が、アゲラフェニブ、アルティラチニブ、アパチニブ、アキシチニブ、カボザンチニブ、セジラニブ、ラパチニブ、レンバチニブ、モテサニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、レバスチニブ、レゴラフェニブ、セマキサニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、トセラニブ、チボザニブ、バンデタニブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態172の方法である。
実施形態174は、VEGF阻害剤が、抗体又はその抗原結合断片を含む、実施形態172又は実施形態173の方法である。
実施形態175は、抗体又はその抗原結合断片が、アラシズマブ、ベバシズマブ、イクルクマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、実施形態174の方法である。
実施形態176は、VEGF阻害剤が、デコイ受容体を含む、実施形態172~175のいずれか1つの方法である。
実施形態177は、デコイ受容体が、アフリベルセプトである、実施形態176の方法である。
実施形態178は、VEGF阻害剤が、VEGFRのアロステリック修飾因子を含む、実施形態172~177のいずれか1つの方法である。
実施形態179は、VEGFRのアロステリック修飾因子が、シクロトラキシンBである、実施形態178の方法である。
実施形態180は、VEGF阻害剤が、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも10倍選択的である、実施形態172~179のいずれか1つの方法である。
実施形態181は、VEGF阻害剤が、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも20倍選択的である、実施形態172~180のいずれか1つの方法である。
実施形態182は、VEGF阻害剤が、別のVEGFRよりもVEGFR2に対して少なくとも50倍選択的である、実施形態172~181のいずれか1つの徐放性耳用組成物である。
実施形態183は、チロシンキナーゼ阻害剤の量が、罹患した耳の浮腫及びリンパ機能不全を低減するのに十分である、実施形態168~182のいずれか1つの方法である。
実施形態184は、チロシンキナーゼ阻害剤が、実施形態80~124のいずれか1つの徐放性耳用組成物の形態で提供される、実施形態168~169又は171~183のいずれか1つの方法である。
【0273】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによって更に理解されるであろう。
【実施例0274】
実施例1:PEG-トリリジンポリマーのゲル化時間に対するpHの影響
材料及び方法
市販のPEG-トリリジンポリマーシステム(COVIDIEN Ref DS-D-5005)は、等量のトリリジンアミン溶液とPEGエステル溶液とを混合した後、約3秒でゲルを形成する。架橋反応を遅くして中耳への注入時間を可能にするために、トリリジン溶液のpHを、HCl(1N HCl、Millipore)の添加によって、表1に記載されるように変更した。PEGエステル溶液は、添付文書の説明書に従って調製し、再構成後1時間以内に使用した。撹拌子の回転が止まる時間を監視することにより、ゲル化時間を室温で測定した。
【0275】
結果
表1に示されるように、PEG-トリリジンポリマートリリジン溶液をpH10からpH8.4に調整すると、ゲル化時間を3秒~約1分に遅らせることに成功した。以前のスクリーニング研究では、更にpH6.8に調整されたトリリジン溶液で調製されたサンプルは、25分の観察後にゲルを形成しなかった。
【表1】
【0276】
実施例2:PEG-トリリジンポリマーのゲル持続時間に対するpHの影響
材料及び方法
実施例1のゲル化時間測定からのバイアルを監視して、ゲルがいつ分解して液体になったかを観察した。撹拌子を入れたバイアルを室温で反転させて保存し、サンプルが液体であることが判明した時間を表1に示すように記録した。
【0277】
結果
非修飾PEG-トリリジンポリマー(すなわち、トリリジン、pH10)は、ガラスバイアルに密封して室温で1.5日間保存した後には液体であったが、pH8.4に調整したトリリジンで調製したサンプルは、3ヶ月以上経過しても依然としてゲルであった。
【0278】
架橋形成反応に影響を与えることに加えて、pHは、加水分解(hydrolysis
degradation)反応にも影響を与える。中耳への注射に好ましい製剤は、トリリジン溶液のpHが6~8.4、より好ましくは6.5~8である。これらのpH値は、組織の生体適合性の観点からも有利である。
【0279】
実施例3:ゲル化時間に対する薬物粒子濃度の影響
材料及び方法
PEG-トリリジンポリマートリリジン溶液は、実施例1に記載のように1N HClでpH調整した。次いで、微粉化デキサメタゾン(Dex、Spectrum Chemical DE121)をpH調整トリリジン溶液に添加し、ボルテックスした。次いで、ゲル化時間の撹拌子試験のために、ガラスバイアル中の100マイクロリットルのPEG-トリリジンポリマーPEG溶液に、100マイクロリットルのpH調整トリリジン薬物懸濁液を添加した。撹拌子が回転を止めた添加後の時間を記録した。
【0280】
結果
トリリジンポリマー溶液にHClを添加するとトリリジンが希釈され、PEG-トリリジンポリマーPEG溶液に添加すると、1:1未満の化学量論比が得られるが、薬物粒子を添加すると更に希釈され、化学量論比が低下する。
【表2】
【0281】
表2に示すように、pH8.4に改変されたトリリジン中の元のトリリジン溶液の画分は、85%の元のトリリジン溶液を含有し、12重量%デキサメタゾンの添加により、元のトリリジン溶液の量が75%に低下する。
【0282】
表2にも示されているように、最大12重量%のデキサメタゾンをpH8.4のトリリジン溶液に添加しても、撹拌子試験で測定されたゲル化時間に実質的な影響を及ぼさなかった。
【0283】
実施例4:pH修飾PEG-トリリジンポリマー中の0~6重量%のデキサメタゾンについての薬物放出及び浸食試験
材料及び方法
薬物放出及びゲル浸食のインビトロ試験を、インサート(孔径0.4μmのポリカーボネート膜を有するCORNING TRANSWELL(登録商標)3414インサート)中のゲルサンプル200μLを使用して実行した。中耳内の潜在的な液体への薬物の送達をシミュレートするために、37℃のインキュベーター内で、インサートを45mLの受容体液(pH7.4のPBS、SIGMA-ALDRICH(登録商標)P5368)に浸した。受容体溶液の飽和が薬物放出速度を制限しないように、薬物濃度を低く保つ(すなわち、シンク条件)ために、大きな受容体容量を選択した。この試験は、試験構成(PBSに直接曝露された0.33cmの面積)に対するPBSへの最大薬物放出速度及び0.33cmの面積を有する膜を介した薬物放出を測定する。更に、膨張及び浸食を重量測定で監視した。
【0284】
実施例3に記載のように、pH調整トリリジン溶液並びに0、1、3、及び6重量%のデキサメタゾンを使用して、PEG-トリリジンポリマーサンプルを3回調製した。2つの成分をマイクロ遠心管内で組み合わせ、ボルテックスによって混合した後、アリコートを各インサートに分注した。研究の開始時に、サンプルを受容体溶液に浸し、37℃で保存した。定期的に、受容体溶液のサンプルを取り出し、薬物濃度を分析して薬物放出を求めた。9日を超えない間隔で、サンプルも受容体溶液の新たなバイアルに移動させた。インサートをサンプリングするか、又は移動させる前に、受容体バイアルを手動で数回反転させて、受容体液が均一になるようにした。
【0285】
実験用ティッシュで余分な液を取り除いた後、定期的にサンプル重量を記録した。膨潤パーセントは、サンプル重量の変化を初期サンプル重量で割ったものとして算出した。初期サンプル重量は、膨潤及び初期架橋度を反映している。
【0286】
結果
研究が進むにつれて、サンプル重量は、加水分解による分解に起因する変化の影響を受けた。初期の90%の水を含むゲルが受容体液との接触に起因して水を吸収したため、最初にサンプル重量が増加した。ゲルが分解し、架橋が少なくなるために膨潤するにつれて、サンプル重量は増加し続けたが、ゲル浸食が重量減少の一因となった。最終的に、ゲルは完全に浸食され、受容体液に溶解した。ゲルが浸食されると、インサートが横向きに配置されている場合、及びインサートを新しいバイアルに移動させる前の手動混合プロセス中に、残りの固体薬物粒子が沈降してインサートから流出する傾向があった。
【0287】
図2Aの結果は、4日目のサンプルが64~95%の初期膨張を有することを示し、これらの値はデキサメタゾンの量に強く依存していなかった。12個のインサート全てに、少なくとも15日間ゲルが含まれていた。19日目までに、4つのサンプルで著しい浸食による体重減少が見られた。更に評価すると、ゲル持続時間が短いサンプルは、デキサメタゾン含有量ではなく、PEG溶液のポットライフ(PEG再構成からの時間)と相関しているように見えた。例えば、PEG再構成からの時間がより長いサンプルは、架橋が少なく、より容易に分解する(例えば、実施例7を参照)。
【0288】
デキサメタゾン含有サンプルからの薬物放出を図2Bに示す。1%のDexサンプルは15日目までに薬物が完全に枯渇し、3%及び6%ゲルはそれぞれ 48%及び30%の累積放出を示した。ゲルが分解して液体の粘稠度になると、残りの薬物粒子が沈降し、インサートから受容体液中に広がる。これにより、19日目の6%のDexサンプルのうちの1つの薬物放出の増加によって実証されるように、受容体液中に放出される薬物の量が増加した。
【0289】
透明なゲルと濁ったゲルの観察は、放出された薬物の測定量と一致していた。1%のDexサンプルは、最初、主にPBSに直接曝露された表面に透明なゲルを有し、膜表面側にはそれほどではなかった。最終的に、これらのサンプルにはゲルの濁った領域はなかった。もう一方の極端な例では、6%のDexサンプルのPBSに曝露された表面では、少量の透明なゲルしか観察されなかった。
【0290】
実施例5:pH修飾PEG-トリリジンポリマー中の0~6重量%のデキサメタゾンの組織付着
材料及び方法
七面鳥の生の胸肉にサンプルを適用することにより、組織への付着の定性的評価を実施した。実施例4のサンプルの調製と並行して、残りの材料を七面鳥肉の表面にピペットで移し、その上に小さな木製のスティックを当てた。数分間のゲル化時間の後、木製のスティックを引っ張って付着を評価した。
【0291】
試験は、pH8.4に調整されたPEG-トリリジンポリマートリリジン中のデキサメタゾンの最終含有量が0、1、3、及び6重量%のサンプルを使用して3回実行した。
【0292】
結果
0及び1重量%のDexサンプルと比較して、3及び6重量%のDexサンプルでより良好な付着が見られた。更に、薬物含有量が高いゲルほど凝集性が高く、粘弾性材料を強化できるフィラー粒子と同様に、薬物粒子がゲルの機械的特性を改善できることを実証している。
【0293】
実施例6:より高いデキサメタゾン含有量のPEG-トリリジンポリマーのゲル化時間
材料及び方法
pH8.4に調整されたPEG-トリリジンポリマートリリジン中の20%デキサメタゾンから調製されたPEG-トリリジンポリマーサンプルを、撹拌子試験によってゲル化時間について試験した。サンプル調製及び試験手順は、実施例1に記載のものと同様であった。
【0294】
結果
表3に示すように、ゲル化時間は、6%のDexサンプルよりも10%のDexサンプルの方がわずかに長かった。
【表3】
【0295】
1N HCl及びデキサメタゾンの添加によるPEG-トリリジンポリマートリリジンの希釈は、pH調整トリリジン薬物懸濁液中の元のトリリジンの約68%に相当する。1:1の化学量論比からの対応する偏差は、堅牢なゲル形成には不十分なレベルに近づいている可能性がある。
【0296】
実施例7:pH修飾PEG-トリリジンポリマー中の6重量%のデキサメタゾンの薬物放出及び浸食試験
材料及び方法
薬物放出及びゲル浸食のインビトロ試験は、実施例4に記載のように実行した。サンプルは、12重量%のデキサメタゾンを含むpH8.4に調整されたPEG-トリリジンポリマートリリジンから調製され、最終サンプルは6重量%のデキサメタゾンを含有した。静的ミキサー(Nordson FibriJet(登録商標)SA-3678)を備えたブレンディングコネクターを使用して、pH修飾トリリジン薬物懸濁液をPEG-トリリジンポリマーPEG溶液と組み合わせた。各ブレンディングコネクターを使用して、6つのインサートにサンプルを充填した。
【0297】
結果
6つの各群のデータは、使用時のPEG溶液のポットライフ、すなわち、PEGが再構成されてからの時間によって指定される。
【0298】
図3に示すように、ポットライフが67分である群は、ポットライフが30分未満である群よりも初期膨潤が高く、ゲル持続時間が短かった。図4に示す累積薬物放出は、17日目に67分間のポットライフ群においてゲルが浸食されるまで、ポットライフに関係なく非常に再現性があった。PEG-トリリジンポリマーの添付文書には、PEGの一部が分解する前に架橋が起こるように、ポットライフが60分になる前にPEG溶液を使用することが指定されている。これらの結果は、試験が様々な架橋度を有するサンプルを区別できたことを実証している。
【0299】
ポットライフが30分未満のPEGから調製された全てのサンプルは、少なくとも24日間のゲル持続時間を有し、次の時点で完全に浸食された。これらを、37℃での保存中、PBS受容体溶液に沈めた。製剤のアリコートを、脱水を避けるために湿潤チャンバー内の密閉マイクロ遠心管内でPBSを使用せずに37℃で保存した。30分のPEGポットライフで調製した2つのサンプルは、サンプルがPBSと接触していない場合、60日及び80日超過のゲル持続時間を有していた。
【0300】
実施例8:POLOXAMER(登録商標)407熱感受性ゲル対pH調整PEGトリリジンポリマー化学架橋ゲル中の6重量%のデキサメタゾンのインビトロ比較
材料及び方法
pH8.4に調整されたPEG-トリリジンポリマートリリジン中の12重量%のデキサメタゾンのより大きなバッチを、トリリジン溶液の5つのPEG-トリリジンポリマーシリンジをプールすることによって調製した。トリリジン溶液の容量を、溶液の重量及び密度1.02g/mLから計算した。トリリジン溶液の容量に0.08を掛けて、添加する2N HClの容量を計算した。酸の添加後、アリコートのpHを確認した。次いで、デキサメタゾンを添加し、バイアルをボルテックスして、pH調整トリリジン中12重量%の薬物懸濁液を得た。
【0301】
pH調整PEG-トリリジンポリマートリリジンを、30分以下のポットライフを有するPEG溶液と組み合わせた。最終製剤は、6重量%のデキサメタゾンを有していた。
【0302】
6重量%のデキサメタゾンを含むPOLOXAMER(登録商標)407ゲルを調製して、コンパレータとして機能させた。0.01M PBSの緩衝溶液を、PBS pH7.4(Sigma-Aldrich)及び注射用水(CalbioChem)から調製した。POLOXAMER(登録商標)407(BASF)を冷リン酸緩衝液に撹拌しながらゆっくりと添加することにより、16重量%のPOLOXAMER(登録商標)407原液を調製した。
【0303】
デキサメタゾンをPOLOXAMER(登録商標)407原液のアリコートに添加して、15重量%のPOLOXAMER(登録商標)407中の6重量%のデキサメタゾンを得た。この最終製剤は、POLOXAMER(登録商標)407-Dexと示される。POLOXAMER(登録商標)407-Dexを30℃のインキュベーターに入れたときにゲル化することを確認するために、バイアル反転試験を実行した。
【0304】
結果
PEG-トリリジンポリマー-Dex対POLOXAMER(登録商標)407-Dexの浸食の視覚化
サンプルを部分的に充填し、次にPBSを充填したUVディスポーザブルマイクロキュベットにおいて、ゲルの浸食を観察した。2組のキュベットに250μLのサンプルを充填した。PEG-トリリジンポリマーの場合、2つの部分を最初に組み合わせ、マイクロ遠心管内でボルテックスし、キュベットに移した。37℃に予熱した2mLのPBSを添加する前に、ゲル化のためにキュベットを37℃のインキュベーターに10分間置いた。キュベットをパラフィルムで密封し、37℃で水平に保管した。
【0305】
POLOXAMER(登録商標)407-Dexサンプルの表面は、PBSの添加直後に浸食され始めた。POLOXAMER(登録商標)407が溶解すると、薬物粒子が沈降し、キュベットの下部に流れ込んだ。POLOXAMER(登録商標)407-Dexサンプルは、2時間以内に完全に浸食された。
【0306】
対照的に、1日後、pH修飾PEG-トリリジンポリマー中で調製されたPEG-トリリジンポリマー-Dexサンプルの外観はほとんど変化していなかった。14日目でさえ、ゲルの大部分は無傷のままであった。
【0307】
PEG-トリリジンポリマー-Dex対POLOXAMER(登録商標)407-Dexの薬物放出
pH8.4修飾PEG-トリリジンポリマー(PEG-トリリジンポリマー-Dex)対POLOXAMER(登録商標)407(407-Dex)中の6重量%のデキサメタゾンについて薬物放出を測定した。インサートを、実施例4に記載されるように、50mLのPBS受容体液に沈めた。PEG-トリリジンポリマー-Dexの2つの部分を最初に組み合わせ、マイクロ遠心管内でボルテックスし、次にインサートに移した。予熱したPBSを添加する前に、サンプルを37℃で45分間置いて、ゲルを形成した。
【0308】
初日のうちに、全ての407-Dexサンプルが完全に浸食され、残りの薬物粒子がインサートから受容体バイアル内に広がった(図5A)。50mLの受容体液を、1日以内に薬物固体と平衡化させ、したがって、放出される薬物の量は受容体液の量(50mL)に依存していた。可変量の遊離固体薬物をインサートとともに次の受容体液のバイアルに移し、最終的にインサートから薬物粒子はなくなった。
【0309】
対照的に、化学的に架橋されたPEG-トリリジンポリマー-Dexサンプルは、11日間一定の速度で受容体液に薬物を送達した。その後、サンプルは分解し、浸食され、薬物粒子が受容体液内に広がり、受容体液への送達が速くなった。
【0310】
生体模倣膜を介したPEG-トリリジンポリマー-Dex対407-Dexの透過
2つの製剤のインビトロ薬物透過は、2つのセルロース層の間に脂質層を有する生体模倣膜(PermeaPad Barrier Membrane)を使用して評価した。この方法は、平衡透析セル(Harvard Apparatus)を利用して、膜と接触する500uLのPTFEチャンバーを作製する。480uLの製剤を充填したドナー細胞を、37℃で45分間加熱してゲル化した。次いで、細胞を75mLのPBS受容体液を含有するボトル内に沈め、37℃で保存した。平衡透析セルの受容体側を開放したままにして、膜を大量の受容体液に曝露した。送達された薬物の累積量を測定するために、手動で混合した後、受容体液を定期的にサンプリングした。この試験構成では、全ての薬物送達は生体模倣膜を介した透過によって発生した。これは、インサートの多孔質膜を介してだけでなく、PBSに直接薬物を放出できるインサートにおける以前の薬物放出構成とは異なる。生体模倣膜を介した薬物透過は、正円窓膜などの生物組織を介した薬物透過をより厳密にシミュレートすることを目的としている。
【0311】
デキサメタゾンの薬物送達率は、ポロキサマーゲルからわずかに高かった(図5B)。特定の理論に拘束されるものではないが、ポロキサマーゲルのミセル構造は、デキサメタゾンなどの薬物の可溶化を助け、薬物粒子から膜への輸送を助けると考えられている。
【0312】
透過研究中のゲルの完全性も、透過研究中に、沈降した薬物粒子の出現を探すことによって監視した。この液体ドナーの証拠は、407-Dex及びPEG-トリリジンポリマー-Dexサンプルで、それぞれ4日目及び14日目に見られた。浸食及び薬物放出の研究におけるように、透過セットアップ及び無孔膜により、PBSとの直接接触はできなかったが、膨らんだ膜によって示唆されるように、水は生体模倣膜を通過することができた。この水の取り込みは、4日目までに感熱性ゲルの溶解を引き起こすのに十分であった。
【0313】
37℃での単離PEG-トリリジンポリマー-Dex対407-Dexのゲル持続時間
これらの製剤のアリコートを、脱水を避けるために、湿ったチャンバー内の密閉されたマイクロ遠心管内で37℃で保存した。この構成は、体温で液体から単離して保存した場合のゲルの完全性を評価する。どちらの製剤も、21日を超える長いゲル持続時間を示した。
【0314】
化学的に架橋された製剤PEG-トリリジンポリマー-Dexを、複数のインビトロ試験で感熱性ポロキサマー製剤407-Dexと比較した。結果の組み合わせは、これら2つの製剤が中耳に注入された場合に、浸食及びゲルの完全性に予想される違いを示している。製剤が膜と接触したままである場合、両方とも正円窓膜を横切るゼロ次の薬物送達を達成すると予想される。物理的架橋を伴うポロキサマーゲルは、粘液などの液体と接触するか、又は組織との接触から水が吸収されると、すぐに浸食され始める。ゲルが液体になると、円形窓から流れて排出される可能性があり、標的組織でのゲル持続時間が短く可変的になる。一方、インサイチュで化学的に架橋された製剤は、標的組織での再現可能な保持時間が長くなるため、より耐久性のある薬物送達性能を提供するはずである。
【0315】
実施例9:架橋剤及び凝集剤の二重の役割
薬物懸濁製品の一般的に好ましい特徴は、均一な用量を投与できることである。これは、保存中に高密度の沈殿物を形成せず、バイアルを手動で撹拌すると容易に再分散できる製剤では達成が容易である。実施例8に記載のpH修飾トリリジン薬物懸濁液及びポロキサマー製剤中の薬物粒子の沈降を、目視検査によって評価した。
【0316】
14日以上経過した後、pH調整トリリジン薬物懸濁液は、容量の40%以下の透明な最上層を有していた。これは、60/12又は5を超える凝集効率に相当する。トリリジンは、この成分がPEG溶液と組み合わされたときに架橋の重要な役割を果たすことに加えて、容易に分散可能なデキサメタゾンの緩い凝集塊を提供した。
【0317】
数時間以内に、Dex-407中のデキサメタゾン粒子が沈降し、90%超過が透明な上清になる。これは、<10/6又は1.7の凝集効率に相当する。
【0318】
実施例10:PEG-トリリジンポリマー-Dex対407-Dexのインビボ試験
pH修飾PEG-トリリジンポリマーから調製した化学架橋ゲルと、ポロキサマー407(P407)から調製した感熱性ゲルを、ミドリザルモデルにおいてインビボで試験した。6重量%のデキサメタゾンを含む製剤は、実施例8に記載のように調製した。TM穿孔で見えるようになるまで製剤を投与し、最終注射量は30~100μLの範囲であった。
【0319】
これらの製剤の滞留時間を示す結果を表4Aに示す。
【表4A】
【0320】
耳への投与によるPEG-トリリジンポリマー製剤の吸収、分布、及び薬物動態に関する情報は、アフリカミドリザル(Chlorocebus sabaeus)で実施された薬物動態(PK)及び忍容性の研究から得られた。
【0321】
PEG-トリリジンポリマー製剤の外リンパ及び血漿濃度を、1回のIT注射後に評価した。試験品及び対照品の外リンパ及び血漿レベルを、1、10、及び22日後に測定した。小規模な研究規模(登録されたN=9)と治療された総耳数を考慮すると、PKデータは記述統計としてのみ提示される。
【0322】
聴性脳幹応答閾値を、投薬前及び終了時に評価し、蝸牛有毛細胞組織学の分析のために剖検時に蝸牛を収集した。ABR試験は、動物の蝸牛、蝸牛神経、及び脳幹が各音刺激に応答するかどうかを測定し、耳の健康状態の尺度としてよく使用される。これと同じ基本的な試験は、病院で新生児の聴力を試験するために一般的に使用されており、実験動物で使用される標準的な聴力試験である。
【0323】
ABRを、刺激生成用のコンパクトな聴覚電気診断システムを使用して実行し、神経応答を100,000倍に増幅し、追加の60Hzノッチフィルターを使用して、300~3,000ヘルツ(Hz)の間でバンドパスフィルター処理した。増幅され、フィルター処理された信号を、画面にプロットする前に、10ミリ秒(ms)エポックで512アーティファクトのない平均値で平均化した。閾値の初期主観的推定値を、試験時に決定した。閾値は、対象の脳幹が確実に処理できる各刺激周波数の最低強度として定義した。
【0324】
この研究では、合計9匹の動物に、1、10、及び22日の追跡間隔で、製剤の両側鼓室内注射を投与した。18の治療された耳のうち、12にはPEG-トリリジンポリマー製剤を投与し、6つにはP407製剤を投与した。
【0325】
表4Bは、治療群及び研究手順の概要を示している。
【表4B】
【0326】
全体として、電気生理学的聴力測定、蝸牛組織学、及び行動観察によって評価されるように、両方の製剤は忍容性が良好であった。ベースラインのABR閾値は、他の非ヒト霊長類のABR研究で見られるものと同様か、それよりも優れていた。聴性脳幹応答閾値のシフトは一般に最小限であり、高周波数での両方の群の閾値の増加と一致していた。更に、6A及び免疫蛍光染色による有毛細胞分析では、通常の加齢と一致し、治療に関連する可能性が低いレベルで、欠落している有毛細胞がほとんどないことが示された。
【0327】
研究中に観察された対象の健康及び福祉に明らかな変化はなかった。PEG-トリリジンポリマー製剤の大部分は、10日目には中耳内に保持され、22日目に残留製剤が検出された。製剤は、比較的低い全身曝露で、22日目まで外リンパに持続的な濃度のデキサメタゾンを送達した。
【0328】
この研究の結果は、IT注射を使用して内耳にPEG-トリリジンポリマー製剤の長期持続性デポー製剤を送達するためのモデルとして、アフリカミドリザルを確立する。更に、この研究では、新たな耳科治療剤のPK及び忍容性研究に使用されるアフリカミドリザルモデルの確立に成功した。
【0329】
デキサメタゾンの吸収及び分布も、アフリカミドリザルにおいて調査した。デキサメタゾン濃度を、血漿、外リンパ、及び蝸牛で評価した。
【0330】
時間の経過とともに、デキサメタゾンの血漿レベルは低下したが、研究の最終時点である22日目まで検出可能な範囲内に留まった。レベルは、P407と比較して中耳からの遅延ゲルクリアランスの観察と一致して、PEG-トリリジンポリマー製剤で処理された動物でより持続しているように見えた。図6Aは、血漿中に観察されたデキサメタゾンの総量を示している。図6Aでは、縦軸はデキサメタゾンの濃度(ng/mL)である。横軸は、投薬からの時間である。点は、個々の対象である。白抜きの記号は、PEG-トリリジンポリマー製剤を投与された対象からのものであり、黒い記号は、P407製剤を投与された対象からのものである。
【0331】
外リンパのデキサメタゾン濃度は、デポー製剤からの持続放出と一致して、研究全体を通して血漿レベルを十分に上回ったままであった。デキサメタゾンレベルのばらつきは、各時点で対象間で明らかであったが(図6B及び6C)、22日間の研究の過程にわたって外リンパ濃度が全体的に漸進的に減少することが示された。図6B及び6Cでは、縦軸はデキサメタゾンの濃度(ng/mL)である。横軸は、投薬からの時間である。図6B:点は、個々の対象の左耳(L、丸、四角、六角形)及び右耳(R、三角形及びひし形)である。白抜きの記号は、PEG-トリリジンポリマー製剤を投与された対象からのものであり、黒い記号は、P407製剤を投与された動物からのものである。矢印記号は、P407製剤を投与された対象A843を表し、そのデキサメタゾンレベルは検出レベル(限界:9500ng/mL)を超えている。図6C:左右の耳をまとめた同じデータ。図6Bと同じ記号。
【0332】
蝸牛では、各時点でデキサメタゾンレベルの変動が明らかであった。多少の変動はあるものの、特にPEG-トリリジンポリマー製剤の場合、経時的な濃度もデポー製剤からの徐放と一致していた。
【0333】
血漿よりも外リンパ及び蝸牛におけるより高いデキサメタゾンレベルによって実証されるように、デキサメタゾンの持続的曝露が標的外リンパ区画で観察され、全身曝露は比較的低かった。
【0334】
蝸牛調製物全体のデキサメタゾン濃度は、通常、外リンパよりも低かった。耳間のデキサメタゾンレベルの変動は、各時点で明らかであった。多少の変動はあるものの、経時的な群平均濃度も、デポー製剤からの徐放と一致していた。
【0335】
実施例11:ゲル化時間を延長するためのPEG緩衝組成物
実施例1のトリリジン溶液のpHを塩酸で下げる代わりに、PEGを再構成するために使用される溶液、すなわち、PEG希釈剤の組成を変更することによってゲル化時間を短縮した。
【0336】
材料及び方法
希釈剤は、注射用水に0.13、0.14、0.15、及び0.16Mのリン酸(Spectrum Chemical)を含有するように調製した。各希釈剤2.6mLをPEGエステル粉末バイアルに加え、再構成が達成されるまで手動で撹拌した。
【0337】
ゲル化時間の撹拌子試験のために、100マイクロリットルのPEGエステル溶液を100マイクロリットルのトリリジン溶液と組み合わせた。更に、新しい希釈剤とトリリジンの等量混合物のpHを測定した。pH測定中のゲルの形成を避けるために、PEGエステルの存在なしでpHを測定した。最終的な耳用組成物のpHを測定するために、最終的な耳用組成物との平衡化後に水のpH(例えば、蒸留水又は低インピーダンス)を測定することができる。
【0338】
結果
希釈溶液中のリン酸の濃度を0.13から0.16Mに増加させると、トリリジンと等量で混合した場合に、pHが7.44から6.78に減少した。図7に示すように、3~11分間のゲル化時間は、希釈剤のリン酸濃度と得られた混合物のpHを変えることによって達成された。
【0339】
鼓室内注射に必要な1~10分のゲル化時間は、pHを下げる成分でトリリジン又はPEGエステル溶液を変更することによって達成できる。
【0340】
トリリジン及び全てのpH調整成分を含む単一の溶液でPEGエステル粉末を再構成することを含む、鼓室内注射の更なる実施形態が想定される。
【0341】
実施例12:ゲル化時間及びゲル持続時間に対するPEG官能性の影響
ゲル化時間及びゲル持続時間などのゲル特性は、官能性の変化、例えば、マルチアームPEG当たり4つのNHS近くからPEG当たり3つのNHSに近づくような減少、によって影響を受ける可能性がある。PEGの官能性は、保存中に低下する可能性があり、この研究では、使用期限が切れてからの時間により追跡した。
【0342】
材料及び方法
サンプルは、PEGのアリコートを、PEGアリコートの重量に基づいてスケールダウンした量の希釈剤で再構成したことを除き、実施例11と同様に調製した。キットを、試験日の1.1年後から試験日の3.6年前までの範囲の使用期限で試験した。一塩基性リン酸ナトリウム(Millipore)とリン酸(Spectrum Chemical)を注射用水に0:100、50:50、及び100:0の比で含有するPEG希釈液を調製した。希釈剤単独、希釈剤で再構成されたPEGエステル、及び希釈剤とトリリジンの等容量混合物について、pHを測定した。
【0343】
ゲル化時間は、100マイクロリットルのPEGエステル溶液と100マイクロリットルのトリリジン溶液とを組み合わせることにより、室温(約20℃)で撹拌子試験によって測定した。ゲル持続時間は、2mLガラスバイアルの底に0.2mLの耳用組成物ゲルを調製し、1mLのPBSを加え、37℃又は50℃で保存することによって評価した。バイアルを定期的に反転させて、ゲルがいつ液体になったかを記録することによって、サンプルを検査した。更に、架橋密度の尺度として、ゲルの容量を定性的に評価した。
【0344】
結果
50:50希釈剤を、0.20~0.27Mの範囲の強度で試験した。これらの希釈剤のpHは約2.0であり、これらの希釈剤に再構成されたPEGでは約2.3に上昇し、トリリジン溶液(PEGなし)に添加された希釈剤では約6.5~7.1に上昇した。
【0345】
0.23Mの50:50希釈液で3.5~5分のゲル化時間が、使用期限後1.7年まで試験されたキットで得られた(図8を参照)。希釈剤の強度が0.25Mに増加すると、ゲル化時間は約5~6分に増加した。使用期限後3年よりも長く経過した後に試験されたキットの大部分は、これらの古いキットではPEGエステルの官能性が低下しているため、ゲル化時間が約12~15分であった。
【0346】
より長いゲル化時間を有する古いキットから調製された耳用組成物において、より高い量の膨潤が観察され、官能性の低下及びより低い架橋密度と一致した。
【0347】
50:50希釈剤で調製した耳用組成物は、50℃の加速条件で、より高い官能性PEGを含むキットで3~4週間、より低い官能性PEGを含むキットで約1週間のゲル持続時間を有した。37℃でのゲル持続時間は、低PEG官能性組成物で2~3週間であった。試験は進行中であり、官能性がより高いPEGで調製された耳用組成物のゲル持続時間は、5週間を超えるであろう。
【0348】
実施例13:ゲル化時間に対する固形分含有量の影響
固体含有量の変更によるゲル化時間を微調整する能力は、ゲル組成物への水の添加によって調査した。
【0349】
材料及び方法
より高い官能性が実証されたロットから、実施例12に記載のようにサンプルを調製した。PEGアリコートを、50:50の一塩基性リン酸ナトリウム(Millipore)及びリン酸(Spectrum Chemical)を0.30M強度で含有する希釈剤中で再構成した。耳用組成物は、等量のトリリジンとPEG溶液、及び任意選択的に追加の注射用水を組み合わせて、最終量を10%又は20%増加させ、それにより固形分を最大20%減少させることによって調製した。
【0350】
ゲル化時間は、100マイクロリットルのPEGエステル溶液と100マイクロリットルのトリリジン溶液及び任意の追加の水とを組み合わせることにより、室温(約20℃)で撹拌子試験によって測定した。1mLの蒸留水を室温で一晩ゲルと平衡化し、平衡化溶液のpHを測定することにより、最終ゲルのpHを測定した。
【0351】
サンプルもインサートで調製し、膨潤の重量測定評価のために37℃のPBSに沈めた。
【0352】
結果
実施例12の0.23及び0.25M希釈剤の4.6及び5.6分のゲル化時間と比較して、希釈剤強度を0.30Mに増加させると、ゲル化時間が9.5分に延長した。固形分を10及び20%減らすことにより、ゲル化時間は更に10.7及び11.8分に延長された。
【0353】
これらの最終耳用ゲル組成物のpHは、6.68~6.75の範囲であった。37℃のPBSに2日間沈めた後、最も固形分が多いゲルの膨潤パーセントは45%であった。固形分を20%減らすと、膨潤パーセントが36%に減少した。
【0354】
実施例14:ゲル形成及び膨潤の再現性
3つのポリマー組成物(C1~C3)を調製し、表5に記載のゲル形成パラメータ及び膨潤について評価した。パーセント膨潤は、37℃で200mLのPBSを含むボトルに入った0.20mLの組成物を含有するインサートを使用して重量測定で決定した。ゲル化周囲温度は、回転撹拌子試験を使用して決定し、ゲル化は、サンプルが撹拌子をコーティングすること(例えば、ユニットとして回転する撹拌子及びゲル)、又は撹拌子が容器を回転することとして識別した。37℃でのゲル化は、透明カバーの外側にある外部磁石で撹拌子をプローブすることによって決定した。上から外部磁石でプローブしたときに、撹拌子がサンプルから出ない場合、サンプルはゲルである。注射可能性は、テスターのシリンジ抵抗の認識によって決定した。
【表5】
【0355】
表5に示されるように、PEG-トリリジンの異なるバッチから複数の試験において調製されたポリマー組成物は、一貫したゲル化時間及び膨潤特徴を示す。
【0356】
実施例15:薬物放出データの再現性
活性剤デキサメタゾン(12mg/0.2mL)を含む、C1~C3と同様のポリマー組成物D1~D4を調製した。薬物放出を測定するために、0.2mLのサンプルを含有するインサートを200mLのPBS(「受容体液」)に入れ、37℃でインキュベートした。全てのサンプルは、n=6を使用して実行された。1日目及びその後の毎週の時点で、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)による活性剤濃度測定のために受容体液を収集した。図9は、PEG-トリリジンの異なるバッチを使用した4つの別々の実験を使用して、薬物放出プロファイルが一貫していることを示している。
【0357】
実施例16:pH、浸透圧、及び再吸収
ポリマー組成物D1~D8のゲル化及び化学的特性を決定した。ゲル化時間、注射可能性、及び膨潤は、実施例14に記載されているように決定した。再吸収は重量測定法で測定し、インサート内のサンプル重量が初期サンプル重量よりも少ない場合に再吸収を測定した。ゲルのpHは、サンプル0.2mLを精製蒸留水1mLで室温で一晩平衡化し、次いで水のpHを測定することによって間接的に測定した。サンプルの浸透圧は、蒸気圧浸透圧測定法を使用して測定した。
【0358】
これらの測定結果を表6に示す。
【表6】
【0359】
実施例17.例示的な製剤
徐放性耳用組成物の例示的な製剤を以下の表7に示す。全ての成分について例示的な値Cを有する製剤が生成された。
【表7】
【0360】
実施例18:ハートレーモルモットにおける鼓室内PEG-トリリジンポリマーの8週間の安全性及び薬物動態研究
ハートレーモルモットにおけるPEG-トリリジンポリマー製剤の鼓室内投与の安全性と薬物動態を評価するために、8週間の毒性研究を実行した。6重量%のデキサメタゾンを含む製剤は、実施例8に記載のように調製した。この研究では、RW膜への製剤局在の視覚的観察とともに、血漿及び外リンパの薬物レベルを収集し、分析して曝露を確認した。両性のハートレーモルモット[n=46(オス23匹、メス23匹)を研究に使用した。順化の3~7日後、全てのモルモットは4、10、及び20kHzでベースラインABR試験を受けた。ベースラインABR試験の3日後、モルモットを次のように4つの治療群に分けた:1)デキサメタゾンを含むPEG-トリリジンポリマー製剤、2)PEG-トリリジンポリマー製剤-ビヒクル、3)生理食塩水、及び4)ゲンタマイシンIT注射。ゲンタマイシンは、既知の聴器毒性プロファイルを持つ陽性対照として含まれている。
【0361】
表8は、研究設計を要約したものである。群1~3を、最大8週間までの様々な生存期間を持つ亜群に更に分割した。この研究の4週及び8週時点の耳の数を、サンプルデータを使用して3つの試験周波数のそれぞれでABR閾値測定のベースラインから20dBのシフトを検出するように調整して(一元配置t検定;独立平均;演繹;検出力=0.95)、パイロット研究から変動性を推定した。聴性脳幹応答及び採血を、終末を含む特定の生涯時点で収集した。外リンパサンプリング、中耳の視覚化、及び組織学的サンプル調製は、末端の特定の動物で実行した。
【表8】
【0362】
ABRによって評価される聴力の変化は、試験された全ての時点で6%デキサメタゾンの有無にかかわらず5μLのPEG-トリリジンポリマービヒクルのIT注射後に最小限であり(図10A)、生理食塩水対照群と統計的に異ならなかった。陽性対照のゲンタマイシン処理では、3日目と14日目に55+dBの閾値シフトが確実に生じた。他の治療群全体で見られる小さな閾値上昇は、齧歯動物の鼓室内注射手順の後遺症と一致しており、最近のTM穿孔に起因するABR閾値の一時的な軽度の上昇を引き起こす可能性がある。
【0363】
最も強力な2つの時点は、注射後4週及び8週の測定値であった。4週の時点で(図10B)、統計分析では、治療群又はABR試験頻度の有意な主効果は示されず、治療群と頻度の間に相互作用は見られなかった。フォローアップの多重比較はどれも有意ではなかった。同様に、8週の時点(図10C)では、ABR試験頻度に主効果はなく(F(1.85,76.0)=0.365、p=0.679)、治療群×試験頻度の交互作用にもなかった(F(4,82)=1.18、p=0.325)。治療群には有意な主効果があった(F(2,41)=3.65、p=0.035)。これらの結果は、ABR試験の頻度に関係なく、8週間の時点でのABR閾値のシフトが治療群間で有意に異なることを示唆している。しかしながら、フォローアップのテューキーの多重比較では、どの群にも有意差がないことが示された。統計的有意性に最も近い傾向は、10kHzの試験周波数(p=0.062)、4kHzの試験周波数(p=0.126)、及び生理食塩水とPEG-トリリジンポリマー製剤ビヒクルの間の10kHz試験周波数(p=0.151)で、PEG-トリリジンポリマー製剤ビヒクルとPEG-トリリジンポリマー製剤(6%Dexを含む)の間で見られた。
【0364】
外耳の耳鏡検査により、TM注射後に通常予想されることが明らかになった。わずかなTMの紅斑及び浮腫が注射の3日後に発生したが、56日までにほぼ全ての耳で本質的に消失するまで、より長い時点で次第に解消された。末端の中耳腔の視覚的観察により、注射部位におけるPEG-トリリジンポリマー製剤ゲルの存在が、注射後3~7日で一貫して観察されたが、最後の8週間の時点では観察されなかったことが明らかになった。
【0365】
モルモットの血漿及び外リンパサンプル中のデキサメタゾンレベルを表9に要約する。血漿中の縦方向のデキサメタゾン濃度を、8週間にわたって10匹の動物で収集した。外リンパサンプルは、投与後3日、1週間、4週間、及び8週間の末端で採取した。デキサメタゾンレベルは、血漿及び外リンパの定量限界がそれぞれ約1ng/mL及び7ng/mLである高速液体クロマトグラフィー質量分析(HPLC-MS)によって分析した。
【表9】
【0366】
血漿デキサメタゾン濃度は、注射後3日で一貫して最高であり、時間とともに減少し、全ての動物で8週間までに定量限界(BLQ)を下回った(図11A及び11B)。
【0367】
処置後3日の外リンパサンプルは、血漿中よりもかなり高いレベル:3日目及び7日目でそれぞれ20倍及びその後500倍高い平均レベルを明らかにし、これは実施例10の以前の結果と一致していた。外リンパ濃度は、この研究では非常に変動が大きく、少なくとも部分的には、少ないサンプル量(鼓室階容量の40%未満を占める1.5マイクロリットル)及び死後のサンプル収集が原因であった。死後収集は、安全性の解釈への影響を最小限に抑えるために必要であったが、組織解剖中の鼓室階へのCSFの進入に起因する可変サンプル希釈のリスクをもたらす。これらの要因に照らして、製品の正確な配置を確認するために、鼓膜ブラの解剖中に中耳の観察が記録された。PEG-トリリジンポリマー製剤及びPEG-トリリジンポリマー製剤ビヒクルサンプルは、3日及び7日の時点で、全ての標本の正円窓ニッチで容易に観察された。これらの観察結果は、外リンパのデキサメタゾンレベルと合わせて、投与された医薬品への蝸牛の意図された曝露を裏付けている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
【配列表】
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【外国語明細書】