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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169553
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】固形製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4965 20060101AFI20241128BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 9/36 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20241128BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 11/08 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
A61K31/4965
A61K9/20
A61K9/36
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/38
A61P1/04
A61P7/02
A61P9/00
A61P9/10 103
A61P9/12
A61P11/00
A61P11/08
A61P13/12
A61P17/00
A61P25/00
A61P43/00 112
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024160556
(22)【出願日】2024-09-18
(62)【分割の表示】P 2021189321の分割
【原出願日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】P 2020071233
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】尾曲 葉月
(72)【発明者】
【氏名】田中 利憲
(57)【要約】
【課題】2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド(化合物I)を含有する固形製剤の提供。
【解決手段】(A)化合物Iと、(B)デンプンと、(C)ヒドロキシプロピルセルロース及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の結合剤とを含有する造粒物を含む固形製剤であって、造粒物100質量部あたりの前記(B)及び(C)成分の割合がそれぞれ36質量部以上及び0.5~4質量部であり、前記造粒物が水溶液状態の(C)成分を用いて湿式造粒されるものである、前記固形製剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミドと、
(B)デンプンと、
(C)ヒドロキシプロピルセルロース及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の結合剤と、
を含有する造粒物を含む固形製剤であって、
造粒物100質量部あたりの前記(B)成分の割合が36質量部以上であり、
造粒物100質量部あたりの前記(C)成分の割合が0.5~4質量部であり、
前記造粒物が水溶液状態の(C)成分を用いて湿式造粒されるものである、
前記固形製剤。
【請求項2】
(A)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミドと、
(B)デンプンと、
(C)ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の結合剤と、
(D)糖アルコール及び糖類からなる群より選択される少なくとも一種の賦形剤と、
(F)滑沢剤と
を含有する固形製剤であって、
前記固形製剤は少なくとも造粒物と造粒物外添加物から構成され、
造粒物は少なくとも前記(A)、(B)、(C)及び(D)成分を含有し、
造粒物外添加物は少なくとも前記(F)成分を含有し、
前記造粒物及び造粒物外添加物の少なくとも一方に、(E)カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、及びクロスポビドンからなる群より選択される少なくとも一種の崩壊剤を含有し、
造粒物100質量部あたりの前記(B)成分の割合が36質量部以上であり、
造粒物100質量部あたりの前記(C)成分の割合が0.5~4質量部である、
前記固形製剤。
【請求項3】
前記造粒物が水溶液状態の(C)成分を用いて湿式造粒される、請求項2に記載の固形製剤。
【請求項4】
前記(D)賦形剤がD-マンニトールである、請求項2又は3に記載の固形製剤。
【請求項5】
前記造粒物中の(B)成分と(D)成分との質量比が、両者の合計を10質量部とした場合に(B)成分の割合が2質量部以上である、請求項2~4のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項6】
前記造粒物がさらに(E)崩壊剤を含有するものである、請求項2~5のいずれか一項に記載の固形製剤。
【請求項7】
錠剤形状を有するものであって、表面がコーティング剤で被覆されてなる、請求項2~6のいずれか一項に記載する固形製剤。
【請求項8】
糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、末梢循環障害、慢性動脈閉塞症、間欠性跛行、強皮症、血栓症、肺高血圧症、心筋梗塞、狭心症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、慢性腎不全、気管支喘息、間質性肺炎(肺線維症)、慢性閉塞性肺疾患、尿細管間質性腎炎、炎症性腸疾患、及び脊柱管狭窄症からなる群より選択される少なくとも一つの疾患に伴う症状の治療用である、請求項2~7のいずれか一項に記載する固形製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド(一般名「セレキシパグ(Selexipag)」、以下、本明細書では「化合物I」とも称する。)を含有する固形製剤に関する。
好ましい実施形態において、本開示は、化合物Iの分解が抑制されて、当該化合物を安定的に含有するとともに、良好な崩壊性を有する固形製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
次の構造式:
【化1】
で示される化合物Iは、優れたプロスタグランジンI(PGIともいう)受容体作動作用を有し、血小板凝集抑制作用、血管拡張作用、気管支平滑筋拡張作用、脂質沈着抑制作用、白血球活性化抑制作用等、種々の薬効を示すことが知られている(特許文献1~特許文献7)。
【0003】
特許文献3には化合物Iと、D-マンニトールとを含む錠剤が開示されている。この錠剤において、D-マンニトールは賦形剤として用いられ、D-マンニトールの比表面積は1.0m以下に形成されている。これにより、D-マンニトールを含む錠剤中の化合物Iの分解を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2002/088084号
【特許文献2】国際公開第2009/157398号
【特許文献3】国際公開第2017/098998号
【特許文献4】国際公開第2009/157396号
【特許文献5】国際公開第2009/157398号
【特許文献6】国際公開第2009/157397号
【特許文献7】国際公開第2009/107736号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hepatology,2007,Vol.45,No.1,p159-169.
【非特許文献2】Folia Pharmacologica Japonica, Vol.117,No.2,p.123-130,2001,Abstract.
【非特許文献3】International Angiology,29,Suppl.1 to No.2,p.49-54,2010.
【非特許文献4】Jpn.J.Clin.Immunol.,16(5),409-414,1993.
【非特許文献5】Jpn.J.Thromb.Hemost.,1:2,p.94-105,1990,Abstract.
【非特許文献6】J.Rheumatol.,2009,36(10),2244-2249.
【非特許文献7】Japan J.Pharmacol.,43,p.81-90,1987.
【非特許文献8】New Engl. J. Med.,2015, 24, 2522-2533.
【非特許文献9】CHEST 2003, 123, 1583-1588.
【非特許文献10】Br.Heart J.,53,p.173-179,1985.
【非特許文献11】The Lancet,1,4880,pt 1,p.569-572,1981.
【非特許文献12】Eur. J. Pharmacol.,449,p.167-176,2002.
【非特許文献13】The Journal of Clinical Investigation,117,p.464-472,2007.
【非特許文献14】Am. J. Physiol.Lung Cell Mol. Physiol.,296:L648-L656,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、小児や高齢者、嚥下困難な患者に対する服用便宜性をより一層向上させるために、崩壊性が良好な固形製剤が望まれている。本発明者らは、固形製剤中の結合剤によって崩壊性が低下すると考え、化合物Iを含有する固形製剤から結合剤を省いて検討を行った。その結果、固形製剤の崩壊性は向上したものの、固形製剤中の化合物Iの分解が進行して類縁物質が生成し、化合物Iの含有量が低下した。すなわち、化合物Iを含有する固形製剤から結合剤を省くと、崩壊性は向上する一方で、固形製剤中の化合物Iの安定性が低下することが判明した。
【0007】
本開示の目的は、化合物Iを含有する固形製剤、及びその製造方法を提供することである。本開示の他の目的は、崩壊性を向上させながらも固形製剤中の化合物Iの安定性低下が抑制された固形製剤及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をかさねた結果、固形製剤の造粒成分として、化合物Iとともに、デンプン、並びに結合剤としてヒドロキシプロピルセルロース及びヒプロメロースからなる群より選択される少なくとも一種を特定の割合で用いることによって、固形製剤において、良好な崩壊性を発揮しながらも、化合物Iの分解が抑制され、化合物Iが安定的に保持されることを確認した。
本開示は、こうした知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものである。
本開示のいくつかの実施形態には、以下に掲げるものが包含される。
【0009】
(固形製剤)
項1.(A)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミドと、
(B)デンプンと、
(C)ヒドロキシプロピルセルロース及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の結合剤と、
を含有する造粒物を含む固形製剤であって、
造粒物100質量部あたりの前記(B)成分の割合が36質量部以上であり、
造粒物100質量部あたりの前記(C)成分の割合が0.5~4質量部であり、
前記造粒物が水溶液状態の(C)成分を用いて湿式造粒されるものである、
前記固形製剤。
項2.(A)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミドと、
(B)デンプンと、
(C)ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の結合剤と、
(D)糖アルコール及び糖類からなる群より選択される少なくとも一種の賦形剤と、
(F)滑沢剤と
を含有する固形製剤であって、
前記固形製剤は少なくとも造粒物と造粒物外添加物から構成され、
造粒物は少なくとも前記(A)、(B)、(C)及び(D)成分を含有し、
造粒物外添加物は少なくとも前記(F)成分を含有し、
前記造粒物及び造粒物外添加物の少なくとも一方に、(E)カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、及びクロスポビドンからなる群より選択される少なくとも一種の崩壊剤を含有し、
造粒物100質量部あたりの前記(B)成分の割合が36質量部以上であり、
造粒物100質量部あたりの前記(C)成分の割合が0.5~4質量部である、
前記固形製剤。
項3.前記造粒物が水溶液状態の(C)成分を用いて湿式造粒される、項2に記載の固形製剤。
項4.前記(D)賦形剤がD-マンニトールである、項2又は3に記載の固形製剤。
項5.前記造粒物中の(B)成分と(D)成分との質量比が、両者の合計を10質量部とした場合に(B)成分の割合が2質量部以上である、項2~4のいずれか一項に記載の固形製剤。
項6.前記造粒物がさらに(E)崩壊剤を含有するものである、項2~5のいずれか一項に記載の固形製剤。
項7.錠剤形状を有するものであって、表面がコーティング剤で被覆されてなる、請求項2~6のいずれか一項に記載する固形製剤。
項8.糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、末梢循環障害、慢性動脈閉塞症、間欠性跛行、強皮症、血栓症、肺高血圧症、心筋梗塞、狭心症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、慢性腎不全、気管支喘息、間質性肺炎(肺線維症)、慢性閉塞性肺疾患、尿細管間質性腎炎、炎症性腸疾患、及び脊柱管狭窄症からなる群より選択される少なくとも一つの疾患に伴う症状の治療用である、項1~7のいずれか一項に記載する固形製剤。
【0010】
(I)セレキシパグ含有固形製剤
(I-1)(A)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド(化合物I)と、
(B)デンプンと、
(C)ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」とも称する)、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の結合剤
を含有する造粒物を含む固形製剤であって、
造粒物100質量部あたりの前記(B)成分の含有割合が20質量部以上(ただし、30.2~30.4質量部を除く)であり、
造粒物100質量部あたりの前記(C)成分の含有割合が4質量部以下である、固形製剤。
(I-2)前記造粒物が湿式造粒物である、(I-1)に記載する固形製剤。
(I-3)前記造粒物100質量部あたりの(B)成分の含有割合が30.4質量部より大きい(I-1)または(I-2)に記載する固形製剤。
(I-4)前記(C)成分がHPCであり、当該HPCの含有割合が、造粒物100質量部あたり1~4質量部である、(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-5)前記(C)成分がHPCであり、当該HPCの含有割合が、造粒物100質量部あたり2~3質量部である、(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-6)前記(C)成分がヒプロメロースであり、当該ヒプロメロースの含有割合が、造粒物100質量部あたり1~4質量部である(I-1)~(I-3)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-7)前記造粒物がさらにデンプンを除く(D)賦形剤を含有するものである(I-1)~(I-6)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-8)前記(D)賦形剤が、D-マンニトールである(I-7)に記載する固形製剤。
(I-9)前記造粒物中の(B)成分とデンプンを除く(D)成分との質量比が、(B)成分:デンプンを除く(D)成分=10:0~2:8である、(I-7)または(I-8)に記載する固形製剤。
(I-10)前記造粒物がさらに(E)崩壊剤を含有するものである、(I-1)~(I-9)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-11)錠剤形状を有するものである(I-1)~(I-10)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-12)錠剤形状を有するものであって、表面がコーティング剤で被覆されてなる、(I-1)~(I-10)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-13)前記造粒物、並びに、造粒物外添加物として、(D)賦形剤、(E)崩壊剤、及び(F)滑沢剤からなる群より選択される少なくとも一種を含有する、(I-1)~(I-12)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-14)前記(A)成分の含有量が0.2mg未満である、(I-1)~(I-13)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-15)総質量が30mg以下の錠剤である、(I-1)~(I-14)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-16)直径が4mm以下の平面形状が円形の錠剤である、(I-1)~(I-15)のいずれか一項に記載する固形製剤。
(I-17)糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、末梢循環障害、慢性動脈閉塞症、間欠性跛行、強皮症、血栓症、肺高血圧症、心筋梗塞、狭心症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、慢性腎不全、気管支喘息、間質性肺炎(肺線維症)、慢性閉塞性肺疾患、尿細管間質性腎炎、炎症性腸疾患、及び脊柱管狭窄症からなる群より選択される少なくとも一つの疾患に伴う症状の治療用である、(I-1)~(I-16)のいずれか一項に記載する固形製剤。(I-18)肺高血圧症の治療用である、(I-17)に記載する固形製剤。
(I-19)末梢循環障害の治療用である、(I-17)に記載する固形製剤。
(I-20)慢性動脈閉塞症の治療用である、(I-17)に記載する固形製剤。
(I-21)間欠性跛行の治療用である、(I-17)に記載する固形製剤。
(I-22)脊柱管狭窄症に伴う症状の治療用である、(I-17)に記載する固形製剤。
(I-23)肺線維症の治療用である、(I-17)に記載する固形製剤。
(I-24)強皮症の治療用である、(I-17)に記載する固形製剤。
(I-25)慢性腎不全の治療用である、(I-17)に記載する固形製剤。
(I-26)尿細管間質性腎炎の治療用である、(I-17)に記載する固形製剤。
【0011】
(II)セレキシパグ含有固形製剤の製造方法
(II-1)(A)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド(化合物I)と、(B)デンプンと、(C)HPC、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の結合剤を含有する造粒物を含む固形製剤の製造方法であって、
(1)前記(A)成分と(B)成分の粉体混合物を調製する工程と、
(2)前記粉体混合物に、前記(C)成分を含有する溶液を添加して造粒して、造粒物を得る工程と、
を含み、
前記(1)工程において、前記粉体混合物は、造粒物100質量部あたりの(B)成分の含有割合が20質量部以上(ただし、30.2~30.4質量部を除く)になるように調製され、また
前記(2)工程において、前記(C)成分を含有する溶液は、造粒物100質量部あたりの(C)成分の含有割合が4質量部以下になるように添加される、
製造方法。
(II-2)前記(B)成分の含有割合が、造粒物100質量部あたり30.4質量部よりも大きい(II-1)に記載する製造方法。
(II-3)前記(C)成分を含有する溶液が、当該(C)成分を1~10質量%の割合で含有するものである、(II-1)または(II-2)に記載する製造方法。
(II-4)前記(C)成分がHPCであり、造粒物100質量部あたりのHPCの含有割合が1~4質量部、好ましくは2~3質量部になるように、(A)成分と(B)成分の粉体混合物にHPC含有溶液を噴霧する工程を有する、(II-1)~(II-3)のいずれか一項に記載する製造方法。
(II-5)前記(C)成分がヒプロメロースであり、造粒物100質量部あたりのヒプロメロースの含有割合が1~4質量部になるように、(A)成分と(B)成分の粉体混合物にヒプロメロース含有溶液を噴霧する工程を有する、(II-1)~(II-3)のいずれか一項に記載する製造方法。
(II-6)前記ヒプロメロースを2質量%含有する水溶液の20℃±1℃における粘度が、第十七改正日本薬局方粘度測定法第1法(毛細管粘度計法)の条件で測定した場合に4mPa・s未満である、(II-5)に記載する製造方法。
(II-7)前記粉体混合物がさらにデンプンを除く(D)賦形剤を含有するものである、(II-1)~(II-6)のいずれか一項に記載する製造方法。
(II-8)前記(D)がD-マンニトールである、(II-7)に記載する製造方法。(II-9)粉体混合物中の(B)成分とデンプンを除く(D)成分との質量比が、(B)成分:デンプンを除く(D)成分=10:0~2:8である、(II-7)または(II-8)に記載する製造方法。
(II-10)前記粉体混合物がさらに(E)崩壊剤を含有するものである、(II-1)~(II-9)のいずれか一項に記載する製造方法。
(II-11)前記(2)造粒工程の後に、必要に応じて(3)整粒工程を経た後に、(4)(D)賦形剤、(E)崩壊剤、及び(F)滑沢剤よりなる群から選択される少なくとも一種の造粒物外添加物を添加する工程(後添加工程)を有する、(II-1)~(II-10)のいずれか一項に記載する製造方法。
(II-12)前記(4)後添加工程の後に、(5)圧縮成形工程を有する(II-11)に記載する製造方法。
(II-13)さらに、前記(5)圧縮成形工程で得られた圧縮成形物をコーティングする工程を有する、(II-12)に記載する製造方法。
(II-14)前記固形製剤が、糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、末梢循環障害、慢性動脈閉塞症、間欠性跛行、強皮症、血栓症、肺高血圧症、心筋梗塞、狭心症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、慢性腎不全、気管支喘息、間質性肺炎(肺線維症)、慢性閉塞性肺疾患、尿細管間質性腎炎、炎症性腸疾患、及び脊柱管狭窄症からなる群より選択される少なくとも一つの疾患に伴う症状の治療用の製剤である、(II-1)~(II-13)のいずれか一項に記載する製造方法。
【0012】
(III)セレキシパグ含有固形製剤におけるセレキシパグの分解抑制方法
(III-1)(a)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド(化合物I)と、(b)デンプンと、(c)結合剤とを含有する造粒物を含む固形製剤における前記(a)成分の分解抑制方法であって、
前記(c)成分としてHPC、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の化合物を用いる、前記方法。
(III-2)前記(c)成分の配合量が、造粒物100質量部あたり1~4質量部である、(III-1)に記載する方法。
(III-3)前記(c)成分を含む水溶液を、(a)成分と(b)成分の粉体混合物に噴霧して湿式造粒する工程を有する、(III-1)または(III-2)に記載する方法。
(III-4)前記(c)成分がヒプロメロースであり、ヒプロメロースを2質量%含有する水の溶液の20℃±1℃における粘度が、第十七改正日本薬局方粘度測定法第1法の条件で測定した場合に4mPa・s未満である、(III-3)に記載する方法。
(III-5)前記造粒物が、さらにデンプンを除く(d)賦形剤としてD-マンニトールを含有していてもよく、(b)成分とデンプンを除く(d)成分との質量比が、(b)成分:デンプンを除く(d)成分=10:0~2:8である、(III-1)~(III-4)のいずれか一項に記載する方法。
(III-6)固形製剤中の(a)成分の含有量が0.2mg未満である、(III-1)~(III-5)のいずれか一項に記載する方法。
(III-7)前記固形製剤が、糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、末梢循環障害、慢性動脈閉塞症、間欠性跛行、強皮症、血栓症、肺高血圧症、心筋梗塞、狭心症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、慢性腎不全、気管支喘息、間質性肺炎(肺線維症)、慢性閉塞性肺疾患、尿細管間質性腎炎、炎症性腸疾患、及び脊柱管狭窄症からなる群より選択される少なくとも一つの疾患に伴う症状の治療用の製剤である、(III-1)~(III-6)のいずれか一項に記載する方法。
【0013】
(IV)セレキシパグ含有固形製剤におけるセレキシパグ分解抑制、及び崩壊性向上方法
(IV-1)(a)2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド(化合物I)と、(b)デンプンと、(c)結合剤を含有する造粒物を含む固形製剤において、前記(a)成分の分解を抑制し、崩壊性を向上する方法であって、
前記(c)成分として、HPC、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の化合物を用いる、前記方法。
(IV-2)前記(c)成分の配合量が、造粒物100質量部あたり1~4質量部である、(IV-1)に記載する方法。
(IV-3)前記(c)成分がHPCであり、その配合量が、造粒物100質量部あたり2~3質量部である、(IV-1)または(IV-2)に記載する方法。
(IV-4)前記(c)成分がヒプロメロースであり、その配合量が、造粒物100質量部あたり1質量部である、(IV-1)または(IV-2)に記載する方法。
(IV-5)前記(c)成分がヒプロメロースであり、ヒプロメロースを2質量%含有する水溶液の20℃±1℃における粘度が、第十七改正日本薬局方粘度測定法第1法の条件で測定した場合に4mPa・s未満である、(IV-4)に記載する方法。
(IV-6)前記造粒物が、さらにデンプンを除く(d)賦形剤としてD-マンニトールを含有していてもよく、(b)成分とデンプンを除く(d)成分との質量比が、(b)成分:デンプンを除く(d)成分=10:0~2:8である、(IV-1)~(IV-5)のいずれか一項に記載する方法。
(IV-7)固形製剤中の(a)成分の含有量が0.2mg未満である、(IV-1)~(IV-6)のいずれかに記載する方法。
(IV-8)固形製剤が、直径4mm以下の平面形状が円形の錠剤である、(IV-1)~(IV-7)のいずれか一項に記載する方法。
(IV-9)前記固形製剤が、糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、末梢循環障害、慢性動脈閉塞症、間欠性跛行、強皮症、血栓症、肺高血圧症、心筋梗塞、狭心症、糸球体腎炎、糖尿病性腎症、慢性腎不全、気管支喘息、間質性肺炎(肺線維症)、慢性閉塞性肺疾患、尿細管間質性腎炎、炎症性腸疾患、及び脊柱管狭窄症からなる群より選択される少なくとも一つの疾患に伴う症状の治療用の製剤である、(IV-1)~(IV-8)のいずれかに記載する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、崩壊性を向上させながら固形製剤中の化合物Iの安定性の低下を抑制できる固形製剤及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(I)セレキシパグ含有固形製剤
本開示の固形製剤(以下、単に「本固形製剤」と称する場合がある)は、(A)化合物I、(B)デンプン、(C)HPC、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の結合剤を含有する造粒物を含む固形製剤であって、造粒物100質量部あたりの前記(B)成分の含有割合が20質量部以上(ただし、30.2~30.4質量部を除く)であり、造粒物100質量部あたりの前記(C)成分の含有割合が4質量部以下である。
【0016】
本開示において「固形製剤」とは、特に言及しない限り、経口投与に供される一定形状の固形製剤を意味し、これらには普通錠のほか、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、トローチ錠、舌下錠、発砲錠、分散錠、溶解錠、徐放錠(以上、これらを総称して「錠剤」という場合がある)、顆粒剤、およびカプセル剤が含まれる。好ましくは錠剤であり、より好ましくは普通錠である。また、本開示が対象とする固形製剤には、単層構造を有する単層錠、及び二層以上の複数の層構造を有する多層錠が含まれる。好ましくは単層錠である。さらに本開示の固形製剤には、未コーティングの素錠(裸錠)のほか、糖衣錠、ゼラチン被包錠、及びフィルムコーティング錠(腸溶錠及び胃溶錠が含まれる)(素錠に対して、これらを「コーティング錠」とも総称する)が含まれる。固形製剤の平面形状は、特に制限されるものではなく、円形、楕円形、カプレット型、ドーナツ型等の各種形状であり得る。また、固形製剤は上記の造粒物(核顆粒)と、上記の造粒物に添加される造粒物外添加物とを含む。
【0017】
以下、本開示の固形製剤を構成する各成分について説明する。
【0018】
(A)化合物I
化合物Iは、例えば、特許文献1又は2に記載の方法に従って製造することができ、以下の3つの形態の結晶が知られている。これらの特許文献における該当する記載は、本明細書に援用することができる。
(1)粉末X線回折図がCu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られるものであって、化合物Iの粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.4度、9.8度、17.2度及び19.4度で回折ピークを示す、化合物IのI型結晶。
(2)粉末X線回折図がCu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られるものであって、化合物Iの粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.0度、12.9度、20.7度及び22.6度で回折ピークを示す、化合物IのII型結晶。
(3)粉末X線回折図がCu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られるものであって、化合物Iの粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.3度、9.7度、16.8度、20.6度及び23.5度で回折ピークを示す、化合物IのIII型結晶。
【0019】
本固形製剤に使用しうる化合物Iは、上記いずれの結晶であってもよく、またそれら結晶の混合物であっても、又は非晶系であってもよい。なかでもI型結晶が好ましい。
【0020】
また化合物Iの含有割合を、本固形製剤に含まれる造粒物100質量部あたりの含有量に換算すると、制限されないものの、0.1~70質量部の範囲を挙げることができる。本固形製剤が、後述する製造方法Aで製造される錠剤である場合、造粒物100質量部中の化合物Iの割合は好ましくは0.1~12質量部であり、より好ましくは0.1~2質量部である。本固形製剤が、後述する製造方法Bで製造される錠剤である場合、造粒物100質量部中の化合物Iの割合は好ましくは0.1~40質量部であり、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0021】
また、本固形製剤に含まれる化合物Iの割合は、制限されず、好ましくは、固形製剤総量100質量%あたり0.1~25質量%の範囲から選択することができ、より好ましくは0.1~12質量%であり、より一層好ましくは0.1~2質量%である。ここで「固形製剤総量」とは、固形製剤が錠剤である場合「素錠総量」を意味する(以下、同じ。)。
【0022】
(B)デンプン
本開示において、デンプン(以下、単に「(B)成分」とも称する)は、医薬品添加物として固形製剤の製造に用いることができるものであればよく、例えば、天然デンプンとして、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、コムギデンプン、加工デンプンとして、ヒドロキシプロピルスターチ、デキストリン、マルトデキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプンが含まれる。デンプンは好ましくは賦形剤として用いられるものであり、好適にはトウモロコシデンプンが含まれる。デンプンの形態は、制限されず、粉末及び顆粒が含まれ、好ましくは粉末である。
【0023】
(B)成分の含有割合は、本固形製剤に含まれる造粒物100質量部あたりの含有量に換算すると20質量部以上(ただし30.2~30.4質量部を除く)を挙げることができる。本固形製剤が、製造方法Aで製造される錠剤である場合、造粒物100質量部中の(B)成分の割合は好ましくは30.4質量部より多く、より好ましくは36質量部より多い。また、本固形製剤が、製造方法Bで製造される錠剤である場合、造粒物100質量部中の(B)成分の割合範囲は20~40質量部(ただし30.2~30.4質量部を除く)が好ましく、30.5~40質量部がより好ましく、36~40質量部がより一層好ましい。
【0024】
本固形製剤に含まれる(B)成分の割合は、制限されず、固形製剤総量100質量%あたり、20質量%以上である。好ましくは30~40質量%であり、より好ましくは36~40質量%である。
【0025】
なお、造粒物(核顆粒)に、(A)~(C)成分以外の成分として、後述するデンプンを除く(D)賦形剤が含まれている場合、制限されないものの、(B)成分と、デンプンを除く(D)賦形剤との配合割合(質量比)は、好ましくは(B)成分:デンプンを除く(D)賦形剤=10:0~2:8の範囲から選択することができる。より好ましくは8:2~3:7であり、特に好ましくは7:3~3:7である。ここでデンプンを除く(D)賦形剤として、好適にはD-マンニトールを挙げることができる。
【0026】
(C)結合剤
本開示において、結合剤は、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)およびヒプロメロースからなる群から選択される少なくとも1種である(以下、単に「(C)成分」とも称する)。(C)成分は、医薬品添加物として固形製剤の製造に結合剤として用いることができるものであればよい。(C)成分は、一種単独で使用してもいし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0027】
医薬品添加物として商業的に入手できるHPCには、分子量(GPS)が40000~2500000(20℃/2%水溶液に調製した場合の粘度:2~6000 mPa・s)の範囲にあるHPCが含まれる(例えば、NISSO HPCSSL、SL、L、M、H、VH等;いずれも日本曹達株式会社製)。本開示において、好ましくは、分子量(GPS)が40000~140000(前記粘度:2~10 mPa・s)の範囲にあるHPC;より好ましくは分子量(GPS)が40000~100000(前記粘度:2~5.9mPa・s)の範囲にあるHPC;特に好ましくは分子量(GPS)が40000(前記粘度:2~2.9 mPa・s)のHPCを用いることができる。
【0028】
医薬品添加物として商業的に入手できるヒプロメロースには、メトキシ基の置換度が28.0~30.0%、ヒドロキシプロポキシ基の置換度が7.0~12.0%であるヒプロメロースであって、20℃/2%水溶液に調製した場合の粘度が2.5~17.5 mPa・sの範囲にあるものが含まれる(例えば、ヒプロメロースTC-5(登録商標)[品種:E、M、R、S];いずれも信越化学工業株式会社製)。本開示において、好ましくは、前記粘度が2.5~7.0 mPa・sの範囲にあるヒプロメロース;より好ましくは前記粘度が2.5~5.1 mPa・sの範囲にあるヒプロメロース;特に好ましくは前記粘度が2.5~3.5 mPa・sの範囲にあるヒプロメロースを用いることができる。その他、医薬品添加物として商業的に入手できるヒプロメロースには、メトキシ基の置換度が19.0~24.0%、ヒドロキシプロポキシ基の置換度が4.0~12.0%であるヒプロメロースであって、20℃/2%水溶液に調製した場合の粘度が3.2~4.8 mPa・sの範囲にあるもの(例えば、ヒプロメロースSB-4);およびメトキシ基の置換度が27.0~30.0%、ヒドロキシプロポキシ基の置換度が4.0~7.5%であるヒプロメロース(例えば、ヒプロメロース65SH)(いずれも信越化学工業株式会社製)が含まれる。
【0029】
(C)成分の含有割合を、本固形製剤に含まれる造粒物100質量部あたりの含有量に換算すると、4質量部以下である。
【0030】
本固形製剤が、製造方法Aで製造される錠剤である場合、造粒物100質量部中の(C)成分の割合は、制限されないものの、HPCについては0.5~4質量部、好ましくは0.5~3.5質量部;ヒプロメロースについては0.5~4質量部、好ましくは0.5~3.5質量部を挙げることができる。
【0031】
本固形製剤が、製造方法Bで製造される錠剤である場合、造粒物100質量部中の(C)成分の割合は、HPCについては0.5~4質量部、好ましくは0.5~3.5質量部;ヒプロメロースについては0.5~4質量部、好ましくは0.5~3.5質量部を挙げることができる。
【0032】
なお、いずれの製造方法においても、(C)成分としてHPCとヒプロメロースを併用する場合は、両者の総量が4質量部以下になるように適宜調整することが好ましい。
【0033】
(C)成分は、水に溶解した状態で使用される。具体的には、前述する(A)成分と(B)成分を含む粉体混合物に、水溶液状態の(C)成分を添加して造粒することで(湿式造粒法)、少なくとも(A)~(C)成分を含有する造粒物を調製することができる。使用する(C)成分の水溶液濃度としては、制限されないものの、通常0.5~20質量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.5~10質量%である。後述する実験例5に示すように、造粒物100質量部中の(C)成分の含有量が1.1質量部以下と少ない場合、湿式造粒に使用する水溶液中の(C)成分の含有量を0.5~5質量%、好ましくは1~5質量%と低濃度に調整することによって、化合物Iの分解抑制効果(安定化効果)を高めることができる。
【0034】
(その他の医薬品添加剤)
本固形製剤は、本明細書に記載する効果を損なわないことを限度として、任意成分として、その他の医薬品添加剤を含んでいてもよい。かかる医薬品添加剤の例には、好ましくは、デンプンを除く(D)賦形剤、(E)崩壊剤、及び(F)滑沢剤が含まれる。
また、その他、任意に配合できる医薬品添加剤の例には、溶解補助剤、流動化剤、湿潤剤、吸着剤、界面活性剤、pH調整剤、可塑剤、抗酸化剤、保存剤、着色剤、矯味剤、甘味剤、着香剤などが含まれる。これらの医薬品添加剤は、単独で、または二種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。
【0035】
(D)賦形剤
(D)賦形剤の例には、(B)成分として前述のデンプンに加えて、制限されず、例えば、糖アルコール(例:D-マンニトール、エリスリトール、D-ソルビトール、マルチトール、イソマルト、ラクチトール、キシリトール、および粉末還元麦芽糖水飴など)、糖類(例:乳糖、ブドウ糖、果糖、白糖など)、結晶セルロース、粉末セルロース、β-シクロデキストリン、カルメロースナトリウム、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、沈降性炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、乳酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、タルク、およびカオリンなどが含まれる。これらの賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて、本固形製剤の配合成分として使用することができる。
なお、前述の(B)成分(デンプン)も(D)賦形剤に該当する。本明細書において、単に「(D)賦形剤」または「(D)成分」と記載する場合は、(B)成分を含む賦形剤全般を意味し、「デンプンを除く(D)賦形剤」または「デンプンを除く(D)成分」と記載する場合は、(B)成分(デンプン)以外の賦形剤を意味する。
(D)賦形剤は、本固形製剤の製造に際して、造粒物の配合成分として用いることができる他、造粒物(核顆粒)に後から添加配合される成分(造粒物外添加物)として用いることもできる。
【0036】
デンプンを除く(D)成分として、好ましくは糖アルコール、及び糖類を挙げることができる。
造粒物の配合成分として用いられるデンプン以外の(D)成分としては、より好ましくはD-マンニトールである。本明細書に記載する効果を妨げないことを限度として、D-マンニトールの比表面積は特に制限されない。ちなみに、前記比表面積はBET法にて測定された値であり、例えば比表面積測定装置Macsorb HM-model 1220(マウンテック社製)を用いて測定することができる。
【0037】
医薬品添加物として商業的に入手できるD-マンニトールには、例えば、マンニットC(平均粒径:20μm)、マンニットP(平均粒径:50μm)、マンニットS(平均粒径:150μm)(以上、三菱商事フードテック(株))、ペアリトール25C(平均粒径:25μm)、ペアリトール50C(平均粒径:50μm)、ペアリトール160C(平均粒径:160μm)(以上、ROQUETTE社)、ノンパレル108(100)(平均粒径:100μm)、ノンパレル108(200)(平均粒径:200μm)(以上、フロイント産業(株))などが含まれる。
【0038】
本固形製剤に含まれる(D)成分の割合((B)成分を含む総量)は、制限されず、固形製剤総量100質量%あたり20~99質量%の範囲から選択することができる。好ましくは60~99質量%であり、より好ましくは80~99質量%である。
【0039】
本固形製剤が、製造方法Aで製造される錠剤である場合、本固形製剤に含まれる(D)成分の割合((B)成分を含む総量)は、制限されず、固形製剤総量100質量%あたり20~99質量%の範囲から選択することができる。好ましくは60~99質量%であり、より好ましくは85~99質量%である。(D)成分の含有割合を、当該錠剤に含まれる造粒物100質量部あたりの含有量に換算すると、20~99質量部を挙げることができる。好ましくは60~99質量部、より好ましくは85~99質量部である。ここで(D)成分として、(B)成分であるデンプンの他、好適にはD-マンニトールを挙げることができる。
【0040】
本固形製剤が、製造方法Bで製造される錠剤である場合、本固形製剤に含まれる(D)成分の割合((B)成分を含む総量)は、制限されず、固形製剤総量100質量%あたり20質量%以上の範囲から選択することができ、好ましくは60~99質量%であり、より好ましくは80~99質量%である。このうち、造粒物に含まれる(D)成分の割合は、造粒物100質量部あたり、20~99質量部を挙げることができ、好ましくは60~99質量部、より好ましくは80~99質量部である。ここで(D)成分として、(B)成分であるデンプンの他、好適にはD-マンニトールを挙げることができる。
【0041】
(E)崩壊剤
(E)崩壊剤の例としては、具体的には、制限されないものの、例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、陽イオン交換樹脂、結晶セルロース、および低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどを挙げることができる。これらの崩壊剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
また(E)崩壊剤は、本固形製剤の製造に際して、造粒物の配合成分として用いることができる他、造粒物(核顆粒)に後から添加配合される成分(顆粒外添加物)として用いることもできる。
【0042】
かかる(E)成分として、好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウムを挙げることができる。造粒物の配合成分として用いられる(E)成分として、より好ましくは低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドンである。
【0043】
本固形製剤に含まれる(E)成分の割合は、制限されず、固形製剤総量100質量%あたり0~20質量%の範囲から選択することができる。好ましくは0~15質量%であり、より好ましくは0~10質量%である。
【0044】
本固形製剤が、製造方法Aで製造される錠剤である場合、本固形製剤に含まれる(E)成分の割合は、制限されず、固形製剤総量100質量%あたり0~20質量%の範囲から選択することができ、好ましくは0~15質量%であり、より好ましくは0~10質量%であり、さらに好ましくは2~7質量部である。(E)成分の含有割合を、当該錠剤に含まれる造粒物100質量部あたりの含有量に換算すると、0~20質量部を挙げることができる。好ましくは0~15質量部、より好ましくは0~10質量部、であり、さらに好ましくは3~8質量部である。
【0045】
本固形製剤が、製造方法Bで製造される錠剤である場合、本固形製剤に含まれる(E)成分の割合は、制限されず、固形製剤総量100質量%あたり0~20質量%の範囲から選択することができ、好ましくは0~15質量%であり、より好ましくは0~10質量%である。このうち、造粒物に含まれる(E)成分の割合は、造粒物100質量部あたり、0~20質量部を挙げることができる。好ましくは0~15質量部、より好ましくは0~10質量部である。
【0046】
(F)滑沢剤
(F)滑沢剤の例には、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ワックス類、DL-ロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、マクロゴール、軽質無水ケイ酸が含まれる。これらは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましくはステアリン酸マグネシウムである。
【0047】
(F)滑沢剤は、本固形製剤の製造に際して、制限されないものの、通常造粒物(核顆粒)に後から添加配合される成分(造粒物外添加物)として用いることもできる。
【0048】
本固形製剤に含まれる(F)成分の割合は、制限されず、固形製剤総量100質量%あたり0.1~10質量%の範囲から選択することができる。好ましくは0.2~5質量%であり、より好ましくは0.2~3質量%である。
【0049】
(G)前記(D)~(F)以外の任意の医薬品添加剤
その他の任意の成分として、通常固形製剤に配合される医薬品添加物を配合することができる。これらの医薬品添加物には、溶解補助剤、流動化剤、界面活性剤、pH調整剤、可塑剤、着色剤、及び矯味剤等が、制限なく含まれる。
【0050】
溶解補助剤の例には、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、クエン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、および炭酸水素ナトリウム等が含まれる。
【0051】
流動化剤の例には、例えば、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、合成ケイ酸アルミニウム、タルク、およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムが含まれる。
【0052】
界面活性剤の例には、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステル(モノステアリン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタンなど)、ポリソルベート類、ラウリル硫酸ナトリウム、マクロゴール類、ショ糖脂肪酸エステルなど、アルキル硫酸ナトリウム等の非イオン性界面活性剤及びアニオン性界面活性剤などが含まれる。
【0053】
pH調整剤の例には、グリシン、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素ナトリウム、酢酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸又はクエン酸等の有機酸またはその塩が含まれる。
【0054】
可塑剤の例には、例えば、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール、トリアセチン、およびセタノールが含まれる。
【0055】
着色剤の例には、例えば、酸化チタン、タルク、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキを挙げることができ、好ましくは酸化チタン、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄である。着色剤の含有量は、固形製剤総重量の0.1重量%未満である。
【0056】
矯味剤としてはアスパルテームやステビアなどの甘味料、アスコルビン酸、メントール、カンゾウ粗エキス、単シロップなどを;甘味剤としてはショ糖、D-ソルビトール、キシリトール、アスパルテームなどの天然又は合成甘味剤を;着香剤としてはメントールやミントなどを制限されることなく例示することができる。
【0057】
(H)コーティング層
前述するように本固形製剤は、素錠であっても、またその表面にコーティング層(被覆層)を有するコーティング錠(糖衣錠、ゼラチン被包錠、フィルムコーティング錠)であってもよい。
【0058】
本固形製剤がコーティング錠である場合、コーティング層の形成に使用されるコーティング剤は、目的に応じて、当業界の技術常識に基づいて適宜選択使用することができる。
【0059】
例えば糖衣錠の調製には白糖、D-マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロースなどの糖類が使用される。
またフィルムコーティング錠の調製には、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒプロメロース、ポリビニルアルコール、及びプルランなどの水溶性コーティング剤;ヒプロメロースフタル酸エステル(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、メタクリル酸コポリマー、セラセフェート(酢酸フタル酸セルロース)及びセラック等の腸溶性コーティング剤;ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、ポリビニルアセタートジエチルアミノアセテートなどの胃溶性コーティング剤;エチルセルロース及びアミノアルキルメタクリレートコポリマー等の徐放性コーティング剤などの高分子化合物が使用される。
【0060】
なお、これらのコーティング剤には、必要に応じて、着色剤、矯味剤、甘味剤、着香剤、遮光剤、可塑剤などを一種または二種以上組み合わせて配合することもできる。コーティング層中のこれら着色剤等の配合割合は、制限はされないものの、コーティング層を形成する成分の総量100質量%中、0~20質量%の範囲になるように適宜調製される。
【0061】
コーティング錠において、コーティング層(被覆層、皮膜)の割合は、制限されず、素錠100質量部に対して通常1~12質量部の範囲から適宜選択することができ、好ましくは1~10質量部であり、より好ましくは2~8質量部である。
【0062】
(本固形製剤の用途)
化合物Iは、優れたプロスタグランジンI(PGIともいう)受容体作動作用を有し、血小板凝集抑制作用、血管拡張作用、気管支平滑筋拡張作用、脂質沈着抑制作用、白血球活性化抑制作用等、種々の薬効を示すことが知られている(特許文献1~特許文献7)。
【0063】
したがって、本固形製剤は、PGIが関与する疾患、例えば、一過性脳虚血発作(TIA)、糖尿病性神経障害(例えば、非特許文献1を参照)、糖尿病性壊疽(例えば、非特許文献1を参照)、末梢循環障害(例えば、慢性動脈硬化症、慢性動脈閉塞症)(例えば、非特許文献2を参照)、間欠性跛行(例えば、非特許文献3を参照)、末梢動脈塞栓症、レイノー病(例えば、非特許文献4、非特許文献5を参照)〕、膠原病(例えば、全身性エリテマトーデス、強皮症)(例えば、特許文献3、非特許文献6を参照)、混合性結合組織病、血管炎症候群、経皮的冠動脈形成術(PTCA)後の再閉塞・再狭搾、動脈硬化症、血栓症(例えば、急性期脳血栓症、肺塞栓症)(例えば、非特許文献5、非特許文献7を参照)、高血圧、肺動脈性肺高血圧症や慢性血栓塞栓性肺高血圧症などの肺高血圧症(例えば、非特許文献8、非特許文献9)、虚血性疾患(例えば、脳梗塞、心筋梗塞)(例えば、非特許文献10を参照)、狭心症(例えば、安定狭心症、不安定狭心症)(例えば、非特許文献11を参照)、糸球体腎炎(例えば、非特許文献12を参照)、糖尿病性腎症(例えば、非特許文献1を参照)、慢性腎不全(例えば、特許文献4を参照)、アレルギー、気管支喘息(例えば、非特許文献13を参照)、潰瘍、蓐瘡(床ずれ)、アテレクトミー及びステント留置などの冠動脈インターベンション後の再狭窄、透析による血小板減少、臓器又は組織の線維化が関与する疾患[例えば、腎臓疾患(例えば、尿細管間質性腎炎)(例えば、特許文献3を参照)、呼吸器疾患(例えば、間質性肺炎(肺線維症)(例えば、特許文献3を参照)、慢性閉塞性肺疾患(例えば、非特許文献14を参照)等]、消化器疾患(例えば、肝硬変、ウイルス性肝炎、慢性膵炎、スキルス胃癌)、心血管疾患(例えば、心筋線維症)、骨・関節疾患(例えば、骨髄線維症、関節リウマチ)、皮膚疾患(例えば、手術後の瘢痕、熱傷性瘢痕、ケロイド、肥厚性瘢痕)、産科疾患(例えば、子宮筋腫)、泌尿器疾患(例えば、前立腺肥大症)、その他の疾患(例えば、アルツハイマー病、硬化症腹膜炎、I型糖尿病、手術後臓器癒着)、勃起不全(例えば、糖尿病性勃起不全、心因性勃起不全、精神病性勃起不全、慢性腎不全による勃起不全、前立腺摘出のための骨盤内手術後の勃起不全、加齢や動脈硬化に伴う血管性勃起不全)(例えば、特許文献7を参照)、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸結核、虚血性大腸炎、ベーチェット病に伴う腸潰瘍)(例えば、特許文献5を参照)、胃炎、胃潰瘍、虚血性眼疾患(例えば、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、虚血性視神経症)、突発性難聴、無血管性骨壊死、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)(例えば、ジクロフェナック、メロキシカム、オキサプロジン、ナブメトン、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、セレコキシブ)投与に伴う腸管傷害(例えば、十二指腸、小腸、大腸で発症する傷害であれば特に制限されないが、例えば、十二指腸、小腸、大腸に生じるびらん等の粘膜傷害や潰瘍)(例えば、特許文献8を参照)、脊柱管狭窄症(例えば、頚部脊柱管狭窄症、胸部脊柱管狭窄症、腰部脊柱管狭窄症、広範脊柱管狭窄症、仙骨狭窄症)に伴う症状(例えば、麻痺、知覚鈍麻、疼痛、しびれ、歩行能力の低下)(例えば、特許文献6を参照)の予防剤又は治療剤として有用である。また、本発明の固形製剤は、遺伝子治療又は自己骨髄細胞移植などの血管新生療法の促進剤、末梢血管再建術又は血管新生療法における血管形成促進剤としても有用である。
【0064】
(本固形製剤の特性)
本固形製剤は、少なくとも下記(ア)及び(イ)の特性を有する。
【0065】
(ア)良好な崩壊性
具体的には、本固形製剤は下記の崩壊特性を有する。
(i)素錠である場合
試験液として37℃の水を用いた日本薬局方規定の崩壊試験(補助盤不使用)において2分以内に崩壊する。ここで「崩壊する」とは、1回の崩壊試験で6つの被験錠剤のすべてが崩壊するか、または1又は2個が崩壊しなかった場合、さらに12つの被験錠剤で崩壊試験を行い、計18個の被験錠剤のうち、16個以上の被験錠剤が崩壊した場合に「崩壊する」と判断することができる。
崩壊時間は、製造方法Aで製造される固形製剤の場合、好ましくは1分以内、より好ましくは0.9分以内、さらに好ましくは0.8分以内に崩壊する特性を有するものである。
製造方法Bで製造される固形製剤の場合、好ましくは2分以内、より好ましくは1.8分以内、さらに好ましくは1.7分以内に崩壊する特性を有するものである。
(ii)コーティング錠である場合
前記崩壊試験(補助盤不使用)において2分以内に崩壊する。好ましくは1.8分以内、より好ましくは1.7分以内に崩壊する特性を有するものである。
【0066】
(イ)良好な安定性(化合物I分解による類縁物質の生成抑制性)
具体的には、本固形製剤は、経時的に生じ得る(A)成分(化合物I)の分解による類縁物質の生成が抑制されている。当該安定性は、固形製剤中に生成する類縁物質の含有量を、保存試験前後で比較することで判断することができる。具体的には、保存試験後の固形製剤100質量%中に含まれる類縁物質の含有割合をもとに、下記の基準に従って判断することができる。
【0067】
(i)40℃で75%RH開放条件下、暗所条件下で1ヶ月間保存した後、前記類縁物質の含有量が1.5質量%以下である。
(ii)60℃開放条件下、暗所条件下で1ヶ月間保存した後、前記類縁物質の含有量が1.5質量%以下である。
なお、ここで「40℃、75%RH開放条件」とは、蓋のない容器に固形製剤を入れ、40℃、75%RHの条件で検体を曝することを意味する。また「60℃開放条件」とは、蓋のない容器に固形製剤を入れ、60℃の条件で検体を曝することを意味する。
固形製剤中の類縁物質の含有量の測定は、後述する実施例の項に詳細に説明するが、簡単には、保存後の固形製剤に含まれる類縁物質の量を、高速液体クロマトグラフィーを用いて定量することで求めることができる。
【0068】
(固形製剤の効果)
本固形製剤によると、化合物Iと、デンプンと、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の結合剤とを含有する造粒物100質量部あたりのデンプンの含有割合が20質量部以上(ただし、30.2~30.4質量部を除く)であるとともに上記造粒物100質量部あたりの結合剤の含有割合が4質量部以下である。これにより、固形製剤の崩壊時間を短くすることができるとともに固形製剤中の化合物Iの分解による類縁物質の生成を抑えることができる。したがって、本固形製剤によれば、崩壊性を向上させながら固形製剤中の有効成分である化合物Iの安定性の低下を抑制することができる。
【0069】
本固形製剤は、好ましくは錠剤の形態を有しており、より好ましくは1錠あたりの総質量が20~35 mg程度の比較的少量で小型の錠剤である。好ましくは1錠あたりの総質量が30 mg以下の錠剤である。かかる錠剤には、例えば、錠剤1錠あたり総質量が18~22 mg、錠剤1錠中の(A)成分の含有量80~120 μg、直径2.5~3.5 mm、及び厚み1.5~2.5 mmであることを特徴とする錠剤が含まれる。
【0070】
本固形製剤が錠剤の場合、その形状は特に制限されず、例えば正面(上面)からみた平面形状が円形、楕円形、及び菱形などの任意の形状を有する錠剤が含まれ、好ましくは平面形状が円形である。
【0071】
本固形製剤が錠剤の場合、1日当たり1回又は複数回(例えば、2~6回)に分けて投与してもよい。なお、1回当たりの投与量(単回投与量)は、性別、年齢、疾病の程度などに応じて選択でき、例えば、錠剤では、1回当たり1錠又は複数錠(例えば、2~6錠)投与してもよい。
【0072】
(II)セレキシパグ含有固形製剤の製造方法
本固形製剤は、その形状に応じて、当該技術分野の慣用法に従って製造することができる。
本固形製剤の好ましい実施形態は錠剤である。この場合、本固形製剤は、好ましくは湿式顆粒圧縮法を用いて製造することができる。
【0073】
本開示による製造方法(以下、「本製法」とも称する)の好適な実施態様には、(A)及び(B)成分、並びに必要に応じてさらにその他の成分(例えば、デンプンを除く(D)成分や(E)成分など)を粉体混合し、これに溶液状に調製した(C)成分を加えて造粒し(湿式造粒)、乾燥後、整粒した後に、(F)成分を配合して、圧縮成形(打錠)することで製造する方法が含まれる(これを、本明細書では「製造方法A」とも称する)。
【0074】
また本開示による製造方法(本製法)の他の好適な実施態様には、(A)及び(B)成分、並びに必要に応じてさらにその他の成分(例えば、デンプンを除く(D)成分や(E)成分など)を粉体混合し、これに溶液状に調製した(C)成分を加えて造粒し(湿式造粒)、乾燥後、整粒した後に、(F)成分に加えて、他の成分(例えば、(D)成分や(E)成分など)を配合して、圧縮成形(打錠)することで製造する方法が含まれる(これを、本明細書では「製造方法B」とも称する)。
【0075】
これを工程毎に記載すると下記のようになる。
(1)少なくとも(A)と(B)成分を粉体混合して、粉体混合物を調製する工程(混合工程)、
(2)前記粉体混合物に、(C)成分を含む溶液を添加して造粒して造粒物を得る工程(造粒工程)、
(3)前記造粒物を、必要に応じて乾燥し、整粒する工程(整粒工程)、
(4)前記整粒した造粒物(核顆粒)に造粒物外添加物を配合する工程(後添加工程)、及び
(5)前記の後添加工程で得られる混合物を、圧縮成形する工程(圧縮成形工程)。
【0076】
なお、上記(4)工程で添加配合する造粒物外添加物が(F)成分である場合、当該製造方法は、前述する「製造方法A」に該当する。また、上記(4)工程で添加配合する造粒物外添加物が、(F)成分に加えて他の成分(例えば、(D)成分や(E)成分など)を含むものである場合、当該製造方法は、前述する「製造方法B」に該当する。
【0077】
本固形製剤は、コーティングを施さない素錠であることもできるが、必要であればコーティングを施してもよい。本固形製剤がコーティング層を有するコーティング錠である場合、当該コーティング錠は上記(5)工程で得られた錠剤(素錠)を、さらに(6)コーティング工程に供することで製造することができる。
【0078】
下記に各工程について簡単に説明する。
(1)混合工程
少なくとも(A)及び(B)成分、また必要に応じてその他の任意成分等、造粒に使用される粉体混合成分は、予め粉砕機(カッターミル、回転ミル、ハンマーミル、ロールミル、剪断ミル、ボールミル、ジェットミル等)で粉砕し、また必要に応じて分級しておいてもよい。
【0079】
混合工程において、(A)及び(B)成分、並びに必要に応じてその他の成分の混合は、これらの成分の粉体物が均一に混合できる方法であればよく、混合方法に特に制限はされない。制限されないが、流動層造粒乾燥機に原料を投入し、流動させながら混合する方法を例示することができる。また、回転型混合機(例えば、V型混合機、二重円錐型混合機)、固定型混合機(リボン型混合機、スクリュー型混合機)等の混合機を用いて混合する方法を例示することできる。
【0080】
ここで(A)及び(B)成分の混合割合、並びにその他の任意成分(例えば、デンプンを除く(D)成分)の配合割合は、前記(I)の欄に記載した通りであり、その記載はここに援用することができる。
【0081】
(2)造粒工程
造粒は、上記で調製した少なくとも(A)と(B)成分を含む粉体混合物に、溶液状の(C)成分、好ましくは水溶液の(C)成分を加えて造粒する方法(湿式造粒法)で行うことができる。使用する(C)成分の水溶液濃度としては、使用する(C)成分によっても異なり、制限されないものの、通常0.5~20質量%の範囲から適宜選択することができる。(C)成分の配合量は、前記(I)の欄に記載した通り、最終的に製造される固形製剤総量100質量%中の(C)成分の割合が乾燥重量で0.5~4質量%の範囲になるように調整することができる。好ましくは0.5~3.5質量%である。
なお、造粒物100質量部中の(C)成分の割合は、前記(I)の欄に記載した通り、製造方法A及びBに応じて、適宜設定選択することができる。
【0082】
造粒方法は、当該技術分野で一般的に使用される湿式造粒法であればよく、例えば原料粉体混合物に溶液状の(C)成分を加えて練合し、練合物をスクリーンから押出して成形造粒する方法である押出し造粒法;上記の方法で練合して調製した練合塊を造粒機の回転刃で切断し、遠心力により外周のスクリューの目からはじき出す方法である解砕造粒法;原料粉体混合物に溶液状の結合剤を加えて加湿した粉体に回転運動または振動を与えて凝集させ、球状に近い粒子を得る方法である転動造粒法;原料粉体混合物を下方から熱気流により流動させ、これに溶液状の結合材を噴霧して造粒する方法である流動層造粒法;原料粉体を容器に投入して回転するブレードで撹拌しながら水または造粒液体を添加して、原料粉粒体を球形に凝集させる撹拌造粒法などを制限なく例示することができる。
【0083】
(3)整粒工程
上記(2)工程で調製された造粒物の乾燥には、当該技術分野で一般的に使用される乾燥方法を採用することができる。例えば並行流箱型乾燥機、通気流箱型乾燥機、流動層乾燥機、真空式乾燥機などの各種の乾燥装置を用いて行うことができる。上記箱型、通気式、及び流動層方式では、造粒物に通常80~90℃程度に加熱した空気(熱風)を当てて乾燥することが好ましい。
【0084】
整粒も特に制限されず、当該技術分野で一般的に使用される整粒方法を採用することができ、特に制限されない。好ましくは1000μm以上の粗大粒子がなく、造粒物の平均粒子径が50~400μmの範囲になるような粒度に整粒する。なお、ここで「平均粒子径」は、第十七改正日本薬局方の一般試験法で定められている粉体粒度測定法第2法のふるい分け法の結果から算出される平均粒子径を意味する。
【0085】
(4)後添加工程
当該工程は、上記(3)整粒工程で調製された造粒物に、後から粉末状の各種成分(造粒物外添加物)(単に「後添加成分」ともいう)を添加し混合する工程である。
【0086】
製造方法Aでは、後添加成分として粉末状の(F)成分を添加し、混合する。製造方法Bでは、後添加成分として粉末状の(F)成分に加えて、粉末状の他の成分(例えば(D)成分、及び(E)成分など)を混合する。
混合は前記(1)工程と同様に、整粒した造粒物と粉末状の造粒物外添加物とが均一に混合できる方法であればよく、例えば回転型混合機や固定型混合機等の混合機を用いて混合することで実施することができる。
【0087】
(5)圧縮成形工程
打錠により圧縮成形工程を行うことができる。打錠には、当業界で一般的に使用される打錠方法が採用される。具体的には、単発打錠機及びロータリー打錠機などの慣用の打錠機を用いて行うことができる。
【0088】
ここで打錠圧並びにその他の打錠条件は、本発明の効果を有する錠剤を製造することができる限りにおいて、制限されず、下記の条件を挙げることができる。
【0089】
打錠圧としては、通常9.8~784 N/mmを挙げることができるが、好ましくは93~694 N/mmである。より好ましくは147~462 N/mmである。なお、(4)後添加工程では(F)成分を混合せず、(5)圧縮成形工程前に杵及び臼に(F)成分を噴霧して塗布し、その後に(5)圧縮成形工程を行う外部滑沢法を用いてもよい。
【0090】
(6)コーティング工程
コーティングには、当該技術分野で一般的に使用されるコーティング方法が採用される。具体的には、パンコーティング方法、流動層コーティング法、及び通気式乾燥パンコーティング法等を挙げることができ、これらの方法に応じたコーティング装置を用いてコーティングすることができる。
【0091】
コーティングは、前述するコーティング剤に、必要に応じて着色剤、矯味剤、甘味剤、着香剤等を配合したコーティング液を、(1)~(5)工程で製造した素錠の表面に被覆することで行うことができる。
【0092】
コーティングは、素錠100質量部に対するコーティング層の割合が、乾燥重量で通常1~12質量部となるように調製される。好ましくは1~10質量部、より好ましくは2~8質量部である。
【0093】
(固形製剤の製造方法の効果)
本発明の固形製剤の製造方法によれば、(A)成分と(B)成分を粉体混合する工程(混合工程)と、得られた粉体混合物を(C)成分を用いて造粒する工程(造粒工程)とを含み、混合工程において、粉体混合物は、造粒物100質量部あたりの(B)成分の含有割合が20質量部以上(ただし、30.2~30.4質量部を除く)になるように調製され、また造粒工程において、(C)成分を含有する溶液は、造粒物100質量部あたりの(C)成分の含有割合が4質量部以下になるように添加される。これにより、崩壊時間が短いとともに固形製剤中の(A)成分(化合物I)の分解による類縁物質の生成が抑えられた固形製剤を製造することができる。したがって、本固形製剤の製造方法によれば、崩壊性を向上させながら固形製剤中の化合物Iの安定性の低下を抑制することができる固形製剤を製造することができる。
【0094】
(III)セレキシパグ含有固形製剤におけるセレキシパグの分解抑制方法
本発明は、(a)化合物Iと、(b)デンプンと、(c)結合剤とを含有する造粒物を含む固形製剤における前記(a)成分の分解抑制方法を提供する。当該方法は、前記(c)成分としてHPC、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の化合物を用いることを特徴とする。前記造粒物は、さらにデンプンを除く(d)賦形剤としてD-マンニトールを含有していてもよい。この場合、制限されないものの、(b)成分とデンプンを除く(d)成分との質量比として、(b)成分:デンプンを除く(d)成分=10:0~2:8の範囲を例示することができる。
【0095】
ここで(a)化合物I、(b)デンプン、(c)結合剤、及び(d)賦形剤は、前記(I)及び(II)の欄で、それぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分として説明したものに相当する。従って、その種類や配合割合、並びにこれらの成分を含む固形製剤の製造方法は、前述する記載を援用することができる。
本発明の方法によれば、(a)化合物Iと、(b)デンプンと、(c)結合剤とを含有する造粒物を含む固形製剤について、固形製剤中の(a)成分(化合物I)の分解による類縁物質の生成を有意に抑えることができる。つまり、本発明の方法によれば、前記固形製剤中の化合物Iの安定性の低下を抑制することができる。
【0096】
(IV)セレキシパグ含有固形製剤におけるセレキシパグ分解抑制、及び崩壊性向上方法 本発明は、(a)化合物Iと、(b)崩壊剤と、(c)結合剤を含有する造粒物を含む固形製剤において、前記(a)成分の分解を抑制し、水溶液中における崩壊性を向上する方法を提供する。当該方法は、前記(c)成分として、HPC、及びヒプロメロースよりなる群から選択される少なくとも一種の化合物を用いることを特徴とする。ここで対象とする固形製剤は、好ましくは錠剤である。前記造粒物は、さらにデンプンを除く(d)賦形剤としてD-マンニトールを含有していてもよい。この場合、制限されないものの、(b)成分とデンプンを除く(d)成分との質量比として、(b)成分:デンプンを除く(d)成分=10:0~2:8の範囲を例示することができる。
【0097】
ここで(a)化合物I、(b)デンプン、(c)結合剤、及び(d)賦形剤は、前記(I)及び(II)の欄で、それぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分として説明したものに相当する。従って、その種類や配合割合、並びにこれらの成分を含む固形製剤の製造方法は、前述する記載を援用することができる。
【0098】
本発明の方法によれば、(a)化合物Iと、(b)デンプンと、(c)結合剤とを含有する造粒物を含む固形製剤について、固形製剤中の(a)成分(化合物I)の分解による類縁物質の生成を有意に抑えることができるとともに、固形製剤、特に錠剤の崩壊性を向上することができ、短時間に崩壊させることができる。つまり、本発明の方法によれば、前記固形製剤中の化合物Iの安定性の低下を抑制しながら、固形製剤の崩壊性を向上することができる。
【0099】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0100】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0101】
下記の実験例において使用した材料を表1に記載する。
【表1】
【0102】
試験方法
下記の実験例1~7において行った固形製剤(錠剤)の特性の評価には、下記の試験方法を採用した。
【0103】
(1)崩壊性試験
試験液として37℃に加温した水を用い、第十七改正日本薬局方の一般試験方法[崩壊試験法](補助盤不使用)に従って実験した。1回の崩壊試験で6つの被験錠剤のすべてが崩壊するか、または1又は2個が崩壊しなかった場合、さらに12つの被験錠剤で崩壊試験を行い、計18個の被験錠剤のうち、16個以上の被験錠剤が崩壊した場合に「崩壊する」と判断した。
【0104】
(2)安定性試験
製造した固形製剤(錠剤)を、無包装の状態で、40℃75%RH開放条件(後述する表中「40℃/75%RH」と記載)、又は/及び60℃開放条件(後述する表中「60℃」と記載)に(いずれも暗所環境)、1ヶ月間放置した。保存試験前後の固形製剤中の化合物I及び類縁物質の含有量を、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。ここで「類縁物質」は、化合物Iを含む固形製剤を前記条件下に1ヶ月間放置した後、高速液体クロマトグラフィーに供した場合に、当該HPLCクロマトグラムにおいて検出される複数のピークのうち、化合物Iに由来するピーク以外で、主に検出されるピーク(メインピーク)に相当する物質である。
【0105】
固形製剤中の化合物I及び類縁物質の含有量のHPLCによる測定は、固形製剤を溶媒に溶解した試料(被験試料)をHPLCに供することで実施されるが、当該被験試料には、溶解に使用した溶媒や、化合物I及び類縁物質以外の成分(以下、これを「他成分」という)が含まれている。このため、予め、固形製剤に含まれる他成分や溶媒を、測定に使用する同条件のHPLCに供し、各ピーク位置を確認しておく。次いで、前記被験試料について得られるHPLCクロマトグラムから、当該他成分と溶媒の各ピークを除外することで、それぞれのピークを検出することができる。このうち類縁物質については、溶媒ピークを除くピークの総面積に対し、類縁物質に由来するピーク面積の割合から、固形製剤中に含まれる類縁物質の含有量を求めることができる。一方、化合物Iの含有量については標準物質に基づいて導出した。
【0106】
なお、高速液体クロマトグラフィーによる測定は、化合物I及び類縁物質を、他成分から分離検出することができる条件で実施した。具体的には、前記被験試料をHPLCで汎用される溶媒(例えばアセトニトリル等)を移動相とするHPLCに供し、UV検出器で検出した。
【0107】
実験例1 結合剤の有無と造粒法の評価
表2に記載する処方に従って各種の錠剤(素錠)(被験製剤1-1~1-4)を製造し、結合剤((B)成分:トウモロコシデンプン)配合の有無、及びその添加方法が、化合物I((A)成分)の安定性、及び錠剤の崩壊性に与える影響を評価した。
【0108】
【表2】
【0109】
(1)造粒物(核顆粒)の調製[混合、造粒、及び整粒]
被験試料1-1は、(A)成分、(B)成分、(D)成分、及び(E)成分を流動層造粒乾燥機(MP-01、株式会社パウレック)に入れ、混合しながら(C)成分として、予め水に溶解して調製していた10%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を噴霧添加して造粒した。次いで、得られた顆粒をスクリーン式整粒機(コ-ミルQC-197S型、株式会社パウレック:スクリーンサイズ991μm、回転数25 Hz)にて整粒し造粒物(核顆粒)を調製した。被験試料1-2は、粉末状の(C)成分、前記(A)、(B)、(D)及び(E)成分を容器回転式混合機(ボーレコンテナミキサーLM-20、株式会社広島メタル&マシナリー)にて10分間混合して粉体混合物を調製した。被験試料1-3は、(C)成分を用いず、水を前記(A)、(B)、(D)及び(E)成分の粉体混合物に噴霧添加して造粒した。被験試料1-4は、(C)成分を用いず、前記(A)、(B)、(D)及び(E)成分だけを混合して粉体混合物を調製した。
【0110】
(2)素錠の調製(顆粒外添加物との混合、打錠)
上記(1)で調製した造粒物(核顆粒)または粉体混合物に、粉末状の(F)成分を容器回転式混合機(ボーレコンテナミキサーLM-20、株式会社広島メタル&マシナリー)にて10分間混合し、打錠用顆粒とした。次いでこれをロータリー式打錠機(菊水製作所製コレクト12HUK:回転数40 rpm)を用いて、質量15 mg/錠を、直径3 mmの円形錠金型にて、打錠荷重378 N/mmで打錠成型し、円形状の素錠(被験製剤1-1~1-4)を得た。
【0111】
(3)錠剤特性の評価
前記の試験方法に従って、製造した被験製剤1-1~1-4の崩壊時間、並びに被験製剤中の類縁物質含量(%)、及び化合物I含量(%)(いずれも乾燥物含量に換算)を測定した。
結果を表3に記載する。
【0112】
【表3】
【0113】
表3に示すように、(C)成分を添加せず、水造粒法または直打法により製造した被験製剤1-3及び1-4では、安定性試験において1ヶ月保存後に類縁物質が顕著に増加し、化合物I含量の低下が認められた。また(C)成分を粉末添加して造粒製造した被験製剤1-2も、安定性試験において1ヶ月保存後に類縁物質が顕著に増加し、化合物I含量の低下が認められた。
この結果から、化合物Iの固形製剤中での安定性を高め(化合物Iの分解を抑制し)、類縁物質の発生を抑制するためには、本固形製剤製造の造粒工程において、(C)成分を溶液の状態で添加することが好ましいことが確認された(湿式造粒)。
【0114】
実験例2 結合剤の種類の検討と評価
造粒に使用する結合剤((C)成分)の種類が、固形製剤(錠剤)における化合物I((A)成分)の安定性、及び錠剤の崩壊性に与える影響を評価した。
【0115】
(1)造粒物(核顆粒)、及び素錠の調製
表4に記載する処方に従って、(A)~(E)成分を用いて、前記被験製剤1-1と同様の湿式造粒法を用いて、造粒物(核顆粒)を調製した。これに粉末状の(F)成分を配合し、前記被験製剤1-1と同様の方法により、打錠荷重378 N/mmで打錠成型し、平面形状が円形状の素錠(被験製剤2-1~2-10)を得た。
【0116】
【表4】
【0117】
(2)錠剤特性の評価
前記の試験方法に従って、製造した被験製剤2-1~2-10の崩壊時間、並びに被験製剤中の類縁物質含量(%)、及び化合物I含量(%)(いずれも乾燥物含量に換算)を測定した。
結果を表5に記載する。
【0118】
【表5】
【0119】
表5に示すように、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒプロメロース以外の結合剤を用いて造粒すると、安定性試験において1ヶ月保存後に類縁物質が顕著に増加し、化合物I含量の低下が認められた。
この結果から、化合物Iの固形製剤中での安定性を高め(化合物Iの分解を抑制し)、類縁物質の発生を抑制するためには、本固形製剤製造の造粒工程において、結合剤((C)成分)として、ヒドロキシプロピルセルロースまたはヒプロメロースが好ましいことが確認された。
【0120】
実験例3 (B)成分と(D)成分の配合比率の評価
造粒物(核顆粒)に配合するデンプン((B)成分)とD-マンニトール((D)成分)の割合(配合比率)が、固形製剤(錠剤)における化合物I((A)成分)の安定性、及び錠剤の崩壊性に与える影響を評価した。
【0121】
(1)造粒物(核顆粒)、及び素錠の調製
表6に記載する処方に従って、(A)~(D)成分を用いて、前記被験製剤1-1と同様の湿式造粒法を用いて、造粒物(核顆粒)を調製した。これに粉末状の(F)成分を配合し、前記被験製剤1-1と同様の方法により、打錠荷重378 N/mmで打錠成型し、平面形状が円形状の素錠(被験製剤3-1~3-6)を得た。
【0122】
【表6】
【0123】
(2)錠剤特性の評価
前記の試験方法に従って、製造した被験製剤3-1~3-6の崩壊時間、並びに被験製剤中の類縁物質含量(%)、及び化合物I含量(残存率)(%)(いずれも乾燥物含量に換算)を測定した。
結果を表7に記載する。
【0124】
【表7】
【0125】
表7に示すように、造粒に際して、D-マンニトール((D)成分)を用いなくても、固形製剤中での化合物Iの安定性は高く(化合物Iの分解抑制)、類縁物質の生成が抑制されていることが確認された(被験製剤3-6)。化合物Iの安定性は、固形製剤(核顆粒)に配合する(B)成分の割合(または(B)成分のデンプンを除く(D)成分に対する配合比率)を多くすることで、高くなる傾向が認められた。被験製剤3-2の結果から、造粒物(核顆粒)100部あたり15部以上、好ましくは19部以上の割合になるように、(B)成分を配合することで(固形製剤100%中14%以上、好ましくは18%以上)、化合物Iの安定性が高い固形製剤が得られると考えられる。但し、(B)成分の配合を多くしても、固形製剤の崩壊性に対して大きな影響は認められなかった。
一方、(D)賦形剤として、(B)成分として配合するデンプン以外にD-マンニトールを配合することで、崩壊時間が短縮される傾向がみられた。しかし、(B)成分を配合せず、D-マンニトールだけを配合すると、固形製剤中での化合物Iの安定性が低下し(化合物Iの分解進行)、類縁物質が顕著に生成することが確認された(被験製剤3-1)。
【0126】
これらのことから、本固形製剤において、デンプン((B)成分)は、主として固形製剤中の化合物Iの安定性(分解抑制)に寄与していると考えられる。このことから、固形製剤中の化合物Iの安定性(分解抑制)と固形製剤の良好な崩壊性を兼ね備えた固形製剤を調製するためには、造粒物(核顆粒)の製造に使用する(B)成分とデンプン以外の(D)成分(特にD-マンニトール)の配合バランスを図ることが有効であると考えられる。
また、表7に記載する被験製剤3-3と、参考として記載した被験製剤2-2の結果の対比から、造粒物に配合する低置換度ヒドロキシプロピルセルロース((D)成分)の有無による安定性・崩壊性への影響は認められなかった。
【0127】
実験例4 HPC((C)成分)の添加量の評価
造粒物(核顆粒)の製造に、(C)成分としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を用いる場合、その添加量が、固形製剤(錠剤)における化合物I((A)成分)の安定性、及び錠剤の崩壊性に与える影響を評価した。
【0128】
(1)造粒物(核顆粒)、及び素錠の調製
表8に記載する処方に従って、(A)~(E)成分を用いて、前記被験製剤1-1と同様の湿式造粒法により、造粒物(核顆粒)を調製した。これに粉末状の(F)成分を配合し、前記被験製剤1-1と同様の方法により、打錠荷重378 N/mmで打錠成型し、平面形状が円形状の素錠(被験製剤4-1~4-5)を得た。
【0129】
【表8】
【0130】
(2)錠剤特性の評価
前記の試験方法に従って、製造した被験製剤4-1~4-5の崩壊時間、並びに被験製剤中の類縁物質含量(%)、及び化合物I含量(残存率)(%)(いずれも乾燥物含量に換算)を測定した。
結果を表9に記載する。
【0131】
【表9】
【0132】
表9に示すように、造粒に際して(C)成分として使用するHPCの量を少なくすることで、崩壊時間は短縮し、崩壊性は向上するものの、錠剤(素錠)に対する割合が1%以下(造粒物に対する割合が1.047部以下)になると、安定性試験において1ヶ月保存後に類縁物質が顕著に増加し、化合物I含量の低下が認められた。
【0133】
このことから、HPCは、造粒に際して結合剤として作用するだけでなく、固形製剤中での化合物Iの安定性の維持または向上(化合物Iの分解抑制)に寄与していると考えられる。また上記の結果から、造粒物100部に対するHPCの添加量を2部以上、好ましくは2~4.1部、より好ましくは2~3.1部に調整すると、固形製剤中の化合物Iの安定性(分解抑制)と固形製剤の良好な崩壊性を兼ね備えた固形製剤を調製することができると考えられる。
【0134】
実験例5 ヒプロメロース((C)成分)の添加量の評価
造粒物(核顆粒)の製造に、(C)成分としてヒプロメロースを用いる場合、その添加量が、固形製剤(錠剤)における化合物I((A)成分)の安定性、及び錠剤の崩壊性に与える影響を評価した。
【0135】
(1)造粒物(核顆粒)、及び素錠の調製
表10に記載する処方に従って、(A)~(D)成分を用いて、前記被験製剤1-1と同様の湿式造粒法により、造粒物(核顆粒)を調製した。これに粉末状の(F)成分を配合し、前記被験製剤1-1と同様の方法により、打錠荷重378 N/mmで打錠成型し、平面形状が円形状の素錠(被験製剤5-1~5-6)を得た。
【0136】
【表10】
【0137】
(2)錠剤特性の評価
前記の試験方法に従って、製造した被験製剤5-1~5-6の崩壊時間、並びに被験製剤中の類縁物質含量(%)、及び化合物I含量(残存率)(%)(いずれも乾燥物含量に換算)を測定した。
結果を表11に記載する。
【0138】
【表11】
【0139】
表11に示すように、前記実験例4で示したHPCの結果と同様に、造粒に際して(C)成分として使用するヒプロメロースの量を少なくすることで、崩壊時間は短縮し、崩壊性は向上するものの、錠剤(素錠)に対する割合が1%以下(造粒物に対する割合が1.047部以下)になると、安定性試験において1ヶ月保存後に類縁物質が顕著に増加し、化合物I含量の低下が認められた(被験製剤5-3)。このことから、ヒプロメロースは、HPCと同様に、造粒に際して結合剤として作用するだけでなく、固形製剤中での化合物Iの安定性の維持または向上(化合物Iの分解抑制)に寄与していると考えられる。
【0140】
しかし、錠剤(素錠)に対するヒプロメロースの添加量を1%以下(造粒物に対する割合が1.047部以下)にした場合であっても、造粒に使用する水溶液中のヒプロメロース濃度を下げ、5%以下にすることで、良好な崩壊性を維持した状態で、化合物Iの安定性を改善できることが確認された。こうした効果は、前記実験例4で示したHPCについても同様に認められるものと考えられる。
【0141】
実験例6 製造方法Bの評価
実験例1~5で使用した製造方法Aに代えて、表12に記載する処方に従って、製造方法Bを用いて各種の錠剤(素錠)(被験製剤6-1~6-4)を製造し、化合物I((A)成分)の安定性、及び錠剤の崩壊性を評価した。
【0142】
【表12】
【0143】
(1)造粒物(核顆粒)の調製(混合、造粒、及び整粒)
表12に記載する造粒物(核顆粒)の成分のうち、(A)成分、(B)成分、及び(D)成分を、流動層造粒乾燥機(MP-01、株式会社パウレック)に入れ、混合しながら、予め水に溶解して2.5%水溶液として調製した(C)成分を噴霧添加して造粒した。次いで、得られた顆粒をスクリーン式整粒機(コ-ミルQC-197S型、株式会社パウレック)にて整粒し造粒物(核顆粒)を調製した。
【0144】
(2)素錠の調製(顆粒外添加物との混合、打錠)
上記(1)で調製した造粒物(核顆粒)と、顆粒外添加物((D)成分、(E)成分、及び(F)成分)を、容器回転式混合機(ボーレコンテナミキサーLM-20、株式会社広島メタル&マシナリー)にて10分間混合し、打錠用顆粒とした。ここで顆粒外添加物はいずれも粉末状のものを使用した。次いでこれをロータリー式打錠機(菊水製作所製コレクト12HUK:回転数40 rpm)を用いて、質量15 mg/錠を、直径3 mmの円形錠金型にて、打錠荷重378 N/mmで打錠成型し、円形状の素錠を得た。
【0145】
(3)錠剤特性の評価
前記の試験方法に従って、製造した被験製剤6-1~6-4の崩壊時間、並びに被験製剤中の類縁物質含量(%)、及び化合物I含量(残存率)(%)(いずれも乾燥物含量に換算)を測定した。
結果を表13に記載する。
【0146】
【表13】
【0147】
表13に示すように、造粒物(核顆粒)に後添加した造粒物外添加物の影響なく、製造方法Bを用いることで、すべての処方で、化合物Iの安定性(分解抑制)と良好な崩壊性を兼ね備えた固形製剤を調製することができた。特に、製造方法Bによると、崩壊時間をより短縮することができることから、造粒時に使用する(B)成分の割合を増やすことも可能であると考えられる。
【0148】
またこの結果で示すように、固形製剤(素錠)100%中のヒプロメロースの割合が1%(造粒物100部に対して3.3部)になるように調整することで、化合物Iの安定性(分解抑制)と良好な崩壊性を兼ね備えた固形製剤が調製できることから、造粒に使用するヒプロメロースの割合として、好ましくは、固形製剤(素錠)100%あたり、0.5~4%、好ましくは0.5~3.5%の範囲;造粒物100部に対して0.5~4部、好ましくは0.5~3.5部の範囲を挙げることができる。
【0149】
実験例7 コーティング剤の評価
実験例6で製造した錠剤(素錠)(被験製剤6-1~6-4)にコーティング皮膜を施し、化合物I((A)成分)の安定性、及び錠剤の崩壊性を評価した。
【0150】
(1)コーティング錠の調製(コーティング)
実験例6で製造した素錠(被験製剤6-1~6-4)に、錠剤コーティング機((株)パウレック製、通風式コーティング機DRC650型、給気温度50-60℃、風量4 m/min)を用いて、被膜100部(乾燥物換算)あたり、ヒプロメロース(64部)、プロピレングリコール(13部)、トレハロース水和物(13部)、酸化チタン(10部)、及び黄色三二酸化鉄(微量)を含有する水溶液(コーティング液)を噴霧した。
【0151】
(2)錠剤特性の評価
前記の試験方法に従って、製造した被験製剤7-1~7-4の崩壊時間、並びに被験製剤中の類縁物質含量(%)、及び化合物I含量(残存率)(%)(いずれも乾燥物含量に換算)を測定した。
結果を表14に記載する。
【0152】
【表14】
【0153】
表14に示すように、コーティング皮膜の影響なく、すべての処方(被験製剤7-1~7-4)で、化合物Iの安定性(分解抑制)と良好な崩壊性を兼ね備えた固形製剤を調製することができた。素錠と同様に、製造方法Bにより、崩壊時間をより短縮することができることから、造粒時に使用する(C)成分の割合を増やすことも可能であると考えられる。