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特開2024-169598金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに金属カーバイド組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169598
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに金属カーバイド組成物
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/14 20060101AFI20241128BHJP
   C25B 1/18 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C25B1/14
C25B1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024162288
(22)【出願日】2024-09-19
(62)【分割の表示】P 2023023708の分割
【原出願日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2021163668
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】後藤 琢也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 崇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐太
(72)【発明者】
【氏名】福田 晴香
(72)【発明者】
【氏名】山田 敦也
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 智弘
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(57)【要約】
【課題】炭素源として二酸化炭素を用い、金属源として金属酸化物を用いる金属カーバイドの製造方法、および、炭素源として二酸化炭素を用い、金属源として金属酸化物を用いて得られた金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法、ならびに金属カーバイド組成物を提供する。
【解決手段】第1金属の酸化物を含む溶融塩を調製すること、前記溶融塩に二酸化炭素を添加すること、および、前記二酸化炭素を含む溶融塩に電圧を印加して、前記第1金属のカーバイドを含む析出物を得ることを含む、金属カーバイドの製造方法。さらに、前記第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスおよび前記第1金属の水酸化物を得ることを含む、炭化水素の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属の酸化物を含む溶融塩を調製すること、
前記溶融塩に二酸化炭素を添加すること、および、
前記二酸化炭素を含む溶融塩に電圧を印加して、前記第1金属のカーバイドを含む析出物を得ることを含む、金属カーバイドの製造方法。
【請求項2】
前記溶融塩は、さらに、第2金属のハロゲン化物を含む、請求項1に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項3】
前記第1金属と前記第2金属とが同じである、請求項2に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化物におけるハロゲンは、塩素を含む、請求項2または3に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化物におけるハロゲンは、フッ素を含む、請求項2または3に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項6】
前記析出物は、さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに前記溶融塩に含まれる第1金属以外の金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項7】
前記第1金属は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項8】
前記第1金属は、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびカルシウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属カーバイドの製造方法。
【請求項9】
第1金属の酸化物を含む溶融塩を調製すること、
前記溶融塩に二酸化炭素を添加すること、
前記二酸化炭素を含む溶融塩に電圧を印加して、前記第1金属のカーバイドを含む析出物を得ること、および、
前記第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスおよび前記第1金属の水酸化物を得ることを含む、炭化水素の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記水酸化物を脱水して、前記第1金属の酸化物を得ること、および、
得られた前記酸化物を、前記溶融塩の調製に再利用することを含む、請求項9に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項11】
前記炭化水素は、アセチレンである、請求項9または10に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項12】
前記ガスは、アセチレンと、エチレン、エタン、メタンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種とを含む、請求項9または10に記載の炭化水素の製造方法。
【請求項13】
主成分として第1金属のカーバイドを含み、
さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに前記第1金属以外の金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、金属カーバイド組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カーバイドおよび炭化水素の製造方法、ならびに金属カーバイド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アセチレンは、様々な有機化合物の原料として、工業的に重要な物質である。アセチレンは、通常、金属カーバイド(主に、カルシウムカーバイド)と水との反応により得られる。
【0003】
カルシウムカーバイドは、一般に、生石灰(酸化カルシウム)とコークスとの混合物を、電気炉内で高温に加熱することにより得られる(例えば、特許文献1)。特許文献2は、コークスを予めブリケットにしてから生石灰と混合することを提案している。特許文献2によれば、これにより、より効果的にカルシウムカーバイドを得ることができる。特許文献3は、塩化リチウムを溶融電解して得られる金属リチウムと、カーボンブラック等の炭素粉末とを反応させて、リチウムカーバイドを製造する方法を提案している。非特許文献1は、水酸化リチウムを溶融塩電解して得られた金属リチウムと、二酸化炭素等の炭素源とを反応させて、リチウムカーバイドを製造し、副生する水酸化リチウムを溶融塩電解にリサイクルする方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-178412号公報
【特許文献2】特開2018-35328号公報
【特許文献3】特開平2-256626号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】McEnaney JM, Rohr BA, Nielander AC, Singh AR, King LA, Norskov JK, Jaramillo TF “A cyclic electrochemical strategy to produce acetylene from CO2, CH4, or alternative carbon sources.” Sustain Energy Fuels 4:2752-2759 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属カーバイドを製造するには、通常、原料を2000℃以上に加熱する必要がある。そのため、エネルギー効率が低いうえ、大量の二酸化炭素が生成するという問題がある。また、近年の地球温暖化対策の観点から、炭素源として二酸化炭素を利用することが強く求められているが、特許文献1~3では、金属カーバイドの炭素源として炭素そのものを使用しているに過ぎない。非特許文献1は、炭素源の一つとして二酸化炭素を挙げているが、炭素源として二酸化炭素を用いた場合は大量の副生物が生成するため、ファラデー効率の観点から、炭素源としてグラファイトカーボンを用いることが望ましいと述べている。
【0007】
本開示は、炭素源として二酸化炭素を用い、金属源として金属酸化物を用いる、金属カーバイドの製造方法を提供することを目的とする。本開示はさらに、炭素源として二酸化炭素を用い、金属源として金属酸化物を用いて得られた金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法を提供する。加えて、本開示は、金属カーバイド組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、下記の態様を含む。
[1]第1金属の酸化物を含む溶融塩を調製すること、
前記溶融塩に二酸化炭素を添加すること、および、
前記二酸化炭素を含む溶融塩に電圧を印加して、前記第1金属のカーバイドを含む析出物を得ることを含む、金属カーバイドの製造方法。
【0009】
[2]前記溶融塩は、さらに、第2金属のハロゲン化物を含む、上記[1]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0010】
[3]前記第1金属と前記第2金属とが同じである、上記[2]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0011】
[4]前記ハロゲン化物におけるハロゲンは、塩素を含む、上記[2]または[3]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0012】
[5]前記ハロゲン化物におけるハロゲンは、フッ素を含む、上記[2]または[3]に記載の金属カーバイドの製造方法。
【0013】
[6]前記析出物は、さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに前記溶融塩に含まれる第1金属以外の金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0014】
[7]前記第1金属は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0015】
[8]前記第1金属は、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびカルシウムよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の金属カーバイドの製造方法。
【0016】
[9]第1金属の酸化物を含む溶融塩を調製すること、
前記溶融塩に二酸化炭素を添加すること、
前記二酸化炭素を含む溶融塩に電圧を印加して、前記第1金属のカーバイドを含む析出物を得ること、および、
前記第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素を含むガスおよび前記第1金属の水酸化物を得ることを含む、炭化水素の製造方法。
【0017】
[10]さらに、前記水酸化物を脱水して、前記第1金属の酸化物を得ること、および、
得られた前記酸化物を、前記溶融塩の調製に再利用することを含む、上記[9]に記載の炭化水素の製造方法。
【0018】
[11]前記炭化水素は、アセチレンである、上記[9]または[10]に記載の炭化水素の製造方法。
【0019】
[12]前記ガスは、アセチレンと、エチレン、エタン、メタンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種とを含む、上記[9]~[11]のいずれかに記載の炭化水素の製造方法。
【0020】
[13]主成分として第1金属のカーバイドを含み、
さらに、炭素、前記第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに前記第1金属以外の金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む、金属カーバイド組成物。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、炭素源として二酸化炭素を用い、金属源として金属酸化物を用いる金属カーバイドの製造方法、および、炭素源として二酸化炭素を用い、金属源として金属酸化物を用いて得られた金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法、ならびに金属カーバイド組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示に係る金属カーバイドの製造方法を示すフローチャートである。
図2】本開示に係る炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
図3】本開示に係る他の炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
図4A】実施例1で得られた加水分解物のGC-MS分析の結果の一部を示すグラフである。
図4B】実施例1で得られた加水分解物のラマン分光分析の結果を示すグラフである。
図4C】実施例1で得られた加水分解物のXRD分析の結果を示すグラフである。
図5】実施例2で得られた析出物のXRD分析の結果を示すグラフである。
図6】実施例3で得られた加水分解物のGC-MS分析の結果の一部を示すグラフである。
図7】実施例4で得られた加水分解物のGC-MS分析の結果の一部を示すグラフである。
図8】実施例5で得られた析出物のXRD分析の結果を示すグラフである。
図9】実施例6で得られた加水分解物のGC-MS分析の結果を示すグラフである。
図10】実施例7~9で生成したガスのGC-MS分析の結果を示すグラフである。
図11】実施例10における金属カーバイドの製造するための通電時の、参照極に対する作用極の電位変化を示すグラフである。
図12】実施例10における金属カーバイドの製造するための通電後の、作用極の外観を示す写真である。
図13】実施例11における金属カーバイドの製造するための通電後の、作用極の外観を示す写真である。
図14】実施例12~15における金属カーバイドの製造するための通電時の、参照極に対する作用極の電位変化を示すグラフである。
図15】実施例13における金属カーバイドの製造するための通電後の、作用極の外観を示す写真である。
図16】実施例16における金属カーバイドの製造するための通電時の、参照極に対する作用極の電位変化を示すグラフである。
図17】実施例16における金属カーバイドの製造するための通電後の、作用極の外観を示す写真である。
図18】実施例16で得られた析出物のXRD分析の結果を示すグラフである。
図19】実施例16で再生された金属酸化物のXRD分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示の金属カーバイドの製造方法では、金属酸化物と二酸化炭素(CO)とを含む溶融塩に電圧を印加して、金属カーバイドを得る。この溶融塩を用いる方法によれば、800℃以下の比較的低温下で、速やかに反応が進行し、効率よく金属カーバイドを得ることができる。加えて、金属酸化物を用いるため、溶融塩中への二酸化炭素の溶解度が高くなる。そのため、目的とする金属カーバイドを、より小さな電解浴でより高い生産性、選択性、安全性で得ることができる。さらに、地球温暖化の原因と言われるCOを、炭素源として有効活用することができる。
【0024】
本開示は、上記の方法により得られる金属カーバイドを加水分解して、炭化水素を得ることを包含する。この方法によれば、効率良く高純度の炭化水素を得ることができる。さらに、COから工業的に重要な炭化水素(代表的には、アセチレン)を製造することができるため、本開示の方法は、環境保全の観点からも非常に有用である。
【0025】
本開示は、炭化水素を製造する際に副生する金属水酸化物を、上記の金属カーバイドを製造するための金属源として再利用することを包含する。これにより、第1金属の酸化物を用いた第1金属カーバイドの製造と、第1金属カーバイドを利用した炭化水素の製造と、を含むリサイクルシステムが構築される。そのため、資源を有効活用することができる。
【0026】
本開示は、第1金属のカーバイドを含むカーバイド組成物を包含する。このカーバイド組成物は、炭化水素の製造に利用できる。
【0027】
[金属カーバイドの製造方法]
本開示に係る金属カーバイドの製造方法は、第1金属の酸化物を含む溶融塩を調製すること、溶融塩に二酸化炭素を添加すること、および、二酸化炭素を含む溶融塩に電圧を印加して、第1金属のカーバイドを含む析出物を得ることを含む。図1は、本開示に係る金属カーバイドの製造方法を示すフローチャートである。
【0028】
(I)溶融塩の調製(S11)
まず、第1金属の酸化物を含む溶融塩を調製する。第1金属の酸化物は、目的とする金属カーバイドの金属源である。便宜上、電解浴に含まれる金属塩(金属酸化物を含む。)を、それが完全に電離していない場合も含め、溶融塩と称する。
【0029】
(第1金属の酸化物)
第1金属の酸化物は特に限定されず、目的とする金属カーバイドに応じて適宜選択される。なかでも、第1金属は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、他の金属に比べてイオン化エネルギーが小さく、電離し易いためである。
【0030】
アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)およびフランシウム(Fr)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。好ましいアルカリ金属としては、Li、Na、K、RbおよびCsよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。特に、Li、Na、KおよびCsよりなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0031】
アルカリ土類金属としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびラジウム(Ra)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。好ましいアルカリ土類金属としては、Mg、Ca、SrおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0032】
なかでも、第1金属の酸化物の水への反応性考慮すると、第1金属は、Li、Na、KおよびCaが好ましい。安価である点ではNaおよびCaがより好ましく、安全性、毒性等の取扱い性の点ではLiおよびCaがより好ましい。
【0033】
水酸化物の水への溶解性が高い点で、第1金属はLi、Na、KおよびCsが好ましい。第1金属の水酸化物の水への溶解性が高いと、後工程における第1金属のリサイクル効率が高まる。炭化水素の製造方法において、金属カーバイドは加水分解される。このとき、炭化水素とともに、第1金属の水酸化物が副生する。炭化水素は一般に水に溶解し難いため、ガスとして容易に取り出すことができる。また、析出物に含まれる炭素は、水中に沈殿もしくは浮遊する。副生する第1金属の水酸化物が水に溶解していると、濾過により、炭素を効率よく除去することが可能となる。濾液から水を除去すれば、第1金属の水酸化物を回収できる。この第1金属の水酸化物を脱水すると、第1金属の酸化物が得られる。つまり、第1金属の水酸化物の水への溶解性が高いほど、第1金属の酸化物は回収され易い。得られた第1金属の酸化物は、上記の溶融塩の調製に再利用される。一方で、第1金属の水酸化物の水への溶解性が低いほど、その回収に必要なエネルギーを低減することができる。エネルギー削減の観点から、第1金属はCaが好ましい。
【0034】
溶融塩に含まれる第1金属の酸化物の量は特に限定されない。反応効率の観点から、第1金属の酸化物のモル数は、電解浴中の溶融塩の総モル数に対して、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、3モル%以上が特に好ましい。第1金属の酸化物のモル数は、電解浴中の溶融塩の総モル数に対して、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましく、10モル%以下が特に好ましい。一態様において、第1金属の酸化物のモル数は、電解浴中の溶融塩の総モル数に対して、1モル%以上20モル%以下である。
【0035】
(他の金属塩)
溶融塩には、第1金属の酸化物以外の他の金属塩が含まれることが好ましい。他の金属塩は、電解浴において、主として電解質として機能する。他の金属塩はまた、第1金属の酸化物を溶融し易くする。他の金属塩としては、金属(以下、第2金属と称する)のイオンとそのカウンターイオン(以下、第2アニオンと称する。)との塩が挙げられる。
【0036】
第2金属と第1金属とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。第2金属が第1金属と同じであると、第1金属のカーバイドが生成され易くなる。第2金属が第1金属と同じである場合、第2アニオンは酸化物イオン以外である。
【0037】
他の金属塩は、目的物質である金属カーバイドが安定して析出できる限り、特に限定されない。なかでも、他の金属塩は、800℃以下の温度で溶融することが好ましい。
【0038】
第2金属としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)が挙げられる。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、上記の通りである。希土類元素としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタノイド元素およびアクチノイド元素が挙げられる。なかでも、他の金属塩の溶融温度が低くなり易い点で、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0039】
第2アニオンとしては、例えば、炭酸イオン(CO 2-)、硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、カルボン酸イオン、酸化物イオン(O )、ハロゲンイオンが挙げられる。なかでも、他の金属塩の溶融温度が低くなり易い点で、ハロゲンイオンが好ましい。ハロゲンは、電子親和力が大きい。
【0040】
ハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)およびアスタチン(At)よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。好ましいハロゲンとしては、F、Cl、BrおよびIよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。特に、Fおよび/またはClが好ましい。第1金属の酸化物および/またはCOの溶解度が向上し得る点で、Fが好ましい。
【0041】
COがイオン化し易い点で、第2アニオンは酸化物イオンを含むことが好ましい。第2金属の酸化物としては、例えば、第1金属とは異なるアルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の金属の、酸化物が挙げられる。
【0042】
他の金属塩としては、具体的には、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等のハロゲン化アルカリ金属;MgF、CaF、SrF、BaF、MgCl、CaCl、SrCl、BaCl、MgBr、CaBr、SrBr、BaBr、MgI、CaI、SrI、BaI等のハロゲン化アルカリ土類金属、AlCl等の希土類元素のハロゲン化物、LiO、CaO等の第1金属以外の金属の酸化物、LiCO、NaCO、KCO等の金属炭酸塩、LiNO、NaNO、KNO等の金属硝酸塩が挙げられる。なかでも、リチウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。特に、Li、NaおよびKよりなる群から選択される少なくとも1つの、塩化物および/またはフッ化物が好ましい。
【0043】
他の金属塩は、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。なかでも、溶融温度が低下し易い点で、2種以上の他の金属塩を組み合わせて用いることが好ましい。例えば、複数種の塩化物の組み合わせ、複数種のフッ化物の組み合わせ、および、1以上の塩化物と1以上のフッ化物との組み合わせが挙げられる。具体例としては、LiClとKCl、LiClとKClとCaCl、LiFとNaFとKF、NaFとNaCl、NaClとKClとAlClとの組み合わせが挙げられる。
【0044】
複数種の金属塩の組み合わせにおいて、各金属塩の配合比は特に限定されない。例えば、LiClとKClとの組み合わせにおいて、LiClのモル数は、LiClとKClとの合計モル数に対して、30モル%以上であってよく、45モル%以上であってよく、50モル%以上であってよい。LiClのモル数は、LiClとKClとの合計モル数に対して、90モル%以下であってよく、70モル%以下であってよく、65モル%以下であってよい。一態様において、LiClのモル数は、LiClとKClとの合計モル数に対して、45モル%以上90モル%以下である。
【0045】
(II)二酸化炭素の添加(S12)
次いで、溶融状態の溶融塩に二酸化炭素を含有するガスを添加する。二酸化炭素を含有するガス(以下、COガスと称する場合がある。)は、気体の状態で液体の状態の溶融塩と接触させられる。COガスを電解浴の気相部に吹き込んで、溶融塩の液面と接触させてもよいし、COガスを溶融塩中に吹き込んでもよい。COガスは、COと不活性ガス(典型的には、アルゴン)との混合ガスであってよい。電圧印加前に、十分な量のCOガスを溶融塩に添加してもよいし、電圧を印加しながら、COガスを溶融塩に添加してもよい。
【0046】
吹き込まれたCOは、溶融塩中に物理溶解するだけでなく、イオン化して、炭酸イオン(CO 2-)として電解浴中に溶解させることが出来る。溶融塩中では、第1金属の酸化物の解離によって、第1金属イオンおよび酸化物イオン(O2-)が生成している。COは、例えば、溶融塩中に存在する上記の酸化物イオンと反応し、炭酸イオン(CO 2-)になり得る。すなわち、第1金属の酸化物により、COの溶融塩中への溶解量が増加し、生産性が向上する。
【0047】
第1金属がLiである場合、溶融塩中では、第1金属の酸化物の解離によって、リチウムイオン(Li)および酸化物イオン(O2-)が生成している(式1)。COは、例えば、上記の酸化物イオンと反応し、炭酸イオン(CO 2-)になる(式2)。
(式1) LiO → 2Li + O2-
(式2) CO+O2-→CO 2-
【0048】
COガスの吹き込み量は、第1金属の酸化物の量に応じて適宜設定すればよい。COガスの吹き込み量は、例えば、ガスの溶融塩中への吸収効率を考慮して、溶融塩に含まれる第1金属の酸化物の当量以上である。第1金属の酸化物として、酸化リチウムが溶融塩に29.9g含まれる場合、COガスの吹き込み量は、44.0g以上であってよく、440g以上であってよい。適量のCOガスを使用することにより、エネルギーロスや、溶融塩の温度低下、分解反応等が抑制され、また、目的とするカーバイドの収率が向上する。
【0049】
溶融塩へのCOの溶解が促進される点で、吹き込まれるCOガスの気泡径は小さい方が望ましい。COガスの気泡径は、10mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。COガスの気泡径は、100nm以上であってよく、1μm以上であってよい。COガスの気泡径は、例えば、石英ガラスや高純度アルミナ製の多孔質材料を通じてバブリングしたり、撹拌機によって撹拌したり、振動を加えたり、超音波を照射したりすることにより、微細化が可能である。
【0050】
COガスは、予め溶融塩の温度近くまで予熱しておくことが好ましい。予熱により、溶融塩の温度が低下して、凝固してしまうことが抑制され易くなる。
【0051】
(III)電圧の印加(S13)
続いて、溶融塩に電圧を印加する。これにより、陰極上においてCO 2-が還元されて、第1金属のカーバイド(第1金属カーバイド)を含む析出物が得られる。第1金属カーバイドを含む析出物は、電位の低い電極(陰極)の表面に析出する。副生成物として、陰極上において炭素が生成し得る。一方、陽極上において酸素および塩素等のハロゲンガスが生成し得る。
【0052】
第1金属がLiである場合、陰極には、第1金属としてリチウムカーバイド(Li)が析出する(式3)。陰極上には、副反応により、炭素および金属リチウムが生成し得る(式4、5)。この副反応で生じた炭素および金属リチウムの一部もしくは全部は、さらに反応して、リチウムカーバイドになり得る(式6)。あるいは、金属リチウムは、溶融塩に物理溶解した二酸化炭素と反応して、リチウムカーバイドになり得る(式7)。
(式3) 2Li+2CO 2-+10e → Li+6O2-
(式4) 2CO 2-+8e → 2C+6O2-
(式5) 2Li+2e → 2Li
(式6) 2Li+2C → Li
(式7) 2Li+2CO → Li+2O
【0053】
金属の種類や条件によっては、さらに第1金属の酸化物と二酸化炭素とが反応し、第1金属のカーバイドが生成しうる。例えば、第1金属がLiの場合、リチウムカーバイドが生成しうる(式8)。
(式8) LiO+2CO → Li+5/2O
【0054】
一方、陽極上ではO が酸化されて酸素が発生する(式9)。
(式9) 2O2- → O+4e
【0055】
第1金属がNa、KまたはCaの場合も、同様の反応により、ナトリウムカーバイド(Na)、カリウムカーバイド(K)またはカルシウムカーバイド(CaC)が析出する。その他の第1金属の場合も同様である。
【0056】
陽極上では、O が酸化されて酸素が発生する。陽極上で発生した酸素は気相中へと排出される。この酸素ガスを回収し、他の用途に利用することができる。
【0057】
電圧の印加は、溶融塩の溶融状態が維持できる温度で行われる。電解浴の温度は、例えば、350℃以上であってよく、400℃以上であってよい。電解浴の温度は、例えば、800℃以下であってよく、700℃以下であってよい。本開示によれば、このような比較的低い温度で反応が進行するため、エネルギー効率が高い。
【0058】
印加電圧は、陰極電位が、炭素が析出する電位(Ec)と第1金属が析出する電位(Em)との間になるように、設定される。これにより、第1金属カーバイドの選択性がより向上し得る。陰極の電位が過度に高い(貴である)と、主として炭素が析出し、目的の第1金属カーバイドの生成量は減少し易い。陰極の電位が過度に低い(卑である)と、第1金属カーバイドは生成するものの、溶融塩中に含まれる金属のうち、当該溶融塩中の酸化還元電位が最も貴な金属が主として析出する。溶融塩中に当該溶融塩中の酸化還元電位が近い複数の金属が存在する場合は、複数金属の合金が析出こともある。例えば、溶融塩が、LiClとKClとLiO(5mol%)とを含む場合、陰極電位は、0.0V以上1.0V以下(Li/Li基準)であればよい。電圧は、直流あってよく、間欠的(パルス電解)であってよく、交流を重畳してもよい。電位EcおよびEmは、使用する溶融塩中で、例えばNi電極を用いて、サイクリック・ボルタンメトリー測定を行って決定できる。
【0059】
電流値は、COの単位時間当たりの供給量にあわせて適宜設定すればよい。電流値は、例えば、溶融塩中のCOおよびCO 2-濃度が減少しないように、陰極で単位時間当たりに消費されるCOおよびCO 2-より、溶融塩中のCOおよびCOとO との反応により生成するCO 2-が多くなるように、設定される。
【0060】
陰極の材質は特に限定されない。陰極の材料としては、例えば、Ag、Cu、Ni、Pb、Hg、Tl、Bi、In、Sn、Cd、Au、Zn、Pd、Ga、Ge、Ni、Fe、Pt、Pd、Ru、Ti、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Zrおよびこれらの合金等の金属、ならびに、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、熱分解グラファイト、プラスチックフォームドカーボンおよび導電性ダイヤモンド等のカーボン材料が挙げられる。
【0061】
陽極の材質は特に限定されない。陽極の材料としては、例えば、Pt、導電性金属酸化物、グラッシーカーボン、天然黒鉛、等方性黒鉛、熱分解グラファイト、プラスチックフォームドカーボン、ボロンドープダイヤモンドが挙げられる。導電性金属酸化物製の電極としては、例えば、ITO電極と呼ばれるインジウムとスズの混合酸化物をガラス上に製膜した透明導電性電極、DSA電極(デノラ・ペルメレック電極株式会社商標)と呼ばれるルテニウム、イリジウム等の白金族の金属の酸化物をチタン等の基材上に成膜した電極、近年同志社大学で開発されたLa1-xSrFeO3-δ焼結電極等が挙げられる。なかでも、酸化反応による消耗が起こり難い点で、酸化物系の陽極が好ましい。
【0062】
(金属カーバイド)
得られる金属カーバイドは、主に第1金属の炭化物(第1金属カーバイド)である。後工程における加水分解性等を考慮すると、第1金属カーバイドは、Li、Na、KおよびCaCよりなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。
【0063】
本開示によれば、第1金属カーバイドを高い選択率で得ることができる。第1金属カーバイドの選択率は、陰極上の析出物に含まれる第1金属の単体、第1金属を含む化合物(第1金属カーバイドを含む)および炭素の合計質量に対する、第1金属カーバイドの質量で表される。第1金属カーバイドの選択率は、60質量%以上であり、80質量%以上であり得る。第1金属カーバイドの選択率は、99質量%以下であってよく、90質量%以下であってよい。一態様において、第1金属カーバイドの選択率は、90質量%以上99.9質量%以下である。
【0064】
第1金属カーバイド以外の第1金属を含む化合物としては、例えば、第1金属と第2アニオンとの塩(例えば、第1金属のハロゲン化物)、第1金属の炭酸塩、第1金属の酸化物、第1金属の水素化物、第1金属の過酸化物等が挙げられる。
【0065】
(不純物)
析出物には不純物が含まれ得る。不純物は、第1金属カーバイド以外の析出物である。陰極上の析出物に含まれる不純物としては、例えば、炭素、固化した電解質(他の金属塩)、電極材料等の装置を構成する金属材料を含む化合物、溶融塩や第1金属の酸化物に含まれている微量成分、第1金属の単体、上記の第1金属カーバイド以外の第1金属を含む化合物、ならびに第2金属を含む化合物よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0066】
上記炭素は、黒鉛、アモルファスカーボン、ガラス状カーボン、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、グラフェン等のナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。第2金属を含む化合物としては、第2金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。装置を構成する金属材料を含む化合物としては、当該金属のハロゲン化物、酸化物、炭酸塩、金属、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0067】
例えば、第1金属がLiであって、他の金属塩としてLiClとKClとの混合物を用い、装置の構成材料がニッケルを含む場合、析出物には、不純物として、Li、KCl、LiCl、LiCO、KCO、LiKC、HLiC、K、NiClよりなる群から選択される少なくとも1つが含まれ得る。
【0068】
不純物量は、陰極上の全析出物の40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。不純物量は、全析出物の10質量%以上であってよく、1質量%以上であってよく、0.1質量%以上であってよい。一態様において、不純物量は、全析出物の0.1質量%以上10質量%以下である。
【0069】
第1金属カーバイド、第1金属の単体、第1金属を含む化合物およびその他の不純物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、析出物のラマン分光分析およびX線回折(XRD)分析により行うことができる。
【0070】
[炭化水素の製造方法]
本開示は、COを利用して得られる金属カーバイドから、炭化水素を製造する方法を包含する。すなわち、本開示に係る炭化水素の製造方法は、第1金属の酸化物を含む溶融塩を調製すること、溶融塩に二酸化炭素を添加すること、二酸化炭素を含む溶融塩に電圧を印加して、第1金属のカーバイドを含む析出物を得ること、および、第1金属のカーバイドを加水分解して、炭化水素および第1金属の水酸化物を得ることを含む。図2は、本開示に係る炭化水素の製造方法を示すフローチャートである。
【0071】
(1)溶融塩の調製(S21)
上記の金属カーバイドの製造方法における溶融塩の調製(S11)と同様にして、溶融塩を調製する。
【0072】
(2)二酸化炭素の添加(S22)
上記の金属カーバイドの製造方法における二酸化炭素の添加(S12)と同様にして、溶融塩にCOを添加する。
【0073】
(3)電圧の印加(S23)
上記の金属カーバイドの製造方法における電圧の印加(S13)と同様にして、溶融塩に電圧を印加する。これにより、第1金属カーバイドを含む析出物が得られる。
【0074】
(4)金属カーバイドの加水分解(S24)
次に、第1金属カーバイドに水を接触させて、加水分解する。これにより、目的とする炭化水素を含むガスが得られる。炭化水素は、通常、水への溶解度が低い。そのため、生成した炭化水素は速やかに気相中へと排出され、回収される。
【0075】
析出物から第1金属カーバイドを単離して加水分解してもよい。単離は、例えば、析出物を粉砕し、比重差を利用する方法により実施される。あるいは、析出物をそのまま加水分解してもよい。この場合、析出物に含まれ得る第2金属のカーバイドもまた、加水分解されて、炭化水素を生成する。
【0076】
得られる炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン(C)、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテンが挙げられる。単離した第1金属カーバイドを使用する場合や、析出物に含まれる不純物量(特に、金属の単体)が少ない場合、主成分としては、アセチレンが得られる。主成分とは、回収されるガスの全質量の50質量%以上を占める成分である。アセチレンは、工業的に重要な炭化水素である。
【0077】
得られるガスには、炭化水素の他、不純物として、水蒸気、水素、窒素、酸素が含まれ得る。不純物量は、回収されるガスの10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。不純物量は、回収されるガスの0.0001質量%以上であってよく、0.001質量%以上であってよい。一態様において、不純物量は、回収されるガスの0.0001質量%以上1質量%以下である。
【0078】
得られるガスは、例えば、アセチレンと、エチレン、エタン、メタンおよび水素よりなる群から選択される少なくとも1種とを含み得る。
【0079】
炭化水素および不純物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、回収されるガスのガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS分析)、ガスセルを備えたフーリエ変換式赤外吸収分光分析(FT-IR分析)、紫外―可視吸収分光分析(UV-Vis分析)により行うことができる。
【0080】
本開示によれば、炭化水素の生成に関するファラデー効率eが向上する。ファラデー効率eは、例えば、50%以上であり、80%以上であり得る。ファラデー効率eは、例えば、99.9%以下であってよく、99%以下であってよい。一態様において、ファラデー効率eは、50%以上99.9%以下である。
【0081】
例えば、C生成に関するファラデー効率eは、以下のようにして算出できる。
まず、GC-MS分析から得られるピークの合計面積と検量線とから、回収したガスに含まれるCの体積割合を算出する。次いで、回収容器内の気相が占める体積と、算出されたガスに占めるCの体積割合とから、Cの生成体積を算出する。最後に、発生したCは標準状態(0℃、101kPa)にあったとして、下記の式により、ファラデー効率e(%)を算出する。
【0082】
【数1】
【0083】
析出物に接触させる水の量は、析出物の質量に応じて適宜設定される。上記の水の量は、例えば、析出物中に含まれる金属カーバイドおよび金属の加水分解に必要な量以上である。加えて、析出物全体が浸漬でき、加水分解時の発熱による蒸発を考慮した量の水を使用することが望ましい。第1金属の水酸化物が回収し易くなる点で、生成する水酸化物が全て溶解することができる量以上の水を使用することが望ましい。ただし、過剰な量の水を使用すると、第1金属の水酸化物を回収する際の負荷が大きくなり易い。第1金属がリチウムの場合、析出物の質量に対して、例えば、10倍以上であり、20倍以上であってよい。上記の水の量は、析出物の質量に対して、例えば、100倍以下であり、50倍以下であってよい。
【0084】
第1金属カーバイドの加水分解により、炭化水素とともに、第1金属の水酸化物も生成する。例えば、リチウムカーバイドを加水分解すると、アセチレンとともに水酸化リチウムが生成する(式9)。
(式9) Li+2HO → C+2LiOH
【0085】
(リサイクルシステム)
本開示は、さらに、加水分解時に副生する第1金属の水酸化物を、酸化物として回収して、第1金属カーバイドを製造するための金属源として再利用することを含む。これにより、炭化水素を、サイクル化された方法により製造することができる。
【0086】
すなわち、本開示の炭化水素の製造方法は、さらに、生成する第1金属の水酸化物を脱水して、第1金属の酸化物を得ること、および、得られた第1金属の酸化物を、上記の(1)溶融塩の調製に再利用すること、を含む。図3は、本開示に係る他の炭化水素の製造方法(リサイクルシステム)を示すフローチャートである。
【0087】
(5)第1金属の水酸化物の脱水(S25)
炭化水素とともに生成する第1金属の水酸化物を脱水し、第1金属の酸化物を再生させる。
【0088】
第1金属の水酸化物は、水への溶解度に応じて、加水分解に使用された水中に沈殿するかあるいは水に溶解している。析出物に含まれていた不純物もまた、水中に沈殿するかあるいは水に溶解している。不純物は、第1金属の水酸化物を脱水する前に、できるだけ多く除去されることが望ましい。
【0089】
第1金属の水酸化物の20℃における水への溶解度Sが、10g/100gHO以上の場合、まず、(i)水中に沈殿している不純物(代表的には、炭素)を濾過あるいは遠心分離により除去する。次いで、(ii)残った水溶液から加熱等により水を除去して第1金属の水酸化物を得て、得られた第1金属の水酸化物を加熱により脱水して、第1金属を酸化物として生成させる。
【0090】
例えば、水酸化リチウムの溶解度Sは12.8g/100gHOである。そのため、第1金属がリチウムの場合、まず濾過により沈殿する不純物を除去する。その後、濾液を十分に加熱すると、以下のような反応式により、酸化リチウムが得られる。
2LiOH → LiO+H
【0091】
水酸化物の溶解度Sが10g/100gHO以上の第1金属としては、リチウムの他に、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。
【0092】
第1金属の水酸化物の溶解度Sが10g/100gHO以上であり、さらに、第1金属の炭酸塩の溶解度Sが第1金属の水酸化物の溶解度Sの2分の1以下である場合、第1金属の水酸化物を含む水中に当量のCOを吹き込んで、第1金属を炭酸塩として沈殿させてもよい。この場合、沈殿物を加熱して熱分解することで、より効率的に第1金属の酸化物を得ることが出来る。例えば、炭酸リチウムの溶解度Sは1.33g/100gHOであり、水酸化リチウムの溶解度Sのおよそ10分の1である。そのため、リチウムは、一旦、炭酸塩として沈殿させることにより、効率よく酸化物として得ることが出来る。水中に沈殿した炭酸リチウムは、加熱することにより、容易に酸化リチウムへと熱分解する。
【0093】
水酸化物の溶解度Sが10g/100gHO以上であり、かつ、炭酸塩の溶解度Sが水酸化物の溶解度Sの2分の1以下の第1金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0094】
第1金属の水酸化物の溶解度Sが10g/100gHO未満であり、かつ、第1金属が炭酸水素塩を形成しうる場合、第1金属の水酸化物を含む水中に過剰のCOを吹き込んで、一旦、第1金属の炭酸水素塩を生成させてもよい。第1金属の炭酸水素塩は、水に溶解し易い。次いで、上記の(i)および(ii)と同様に、不純物を含む沈殿物を除去する。残った水溶液を加熱して第1金属の炭酸水素塩を熱分解することで、再び、第1金属の水酸化物を生成させる。最後に、第1金属の水酸化物を脱水することにより、第1金属が酸化物として生成する。
【0095】
例えば、水酸化カルシウム(Ca(OH))の溶解度Sは0.17g/100gHOであり、かつ、カルシウムは炭酸水素塩を形成する。そのため、水酸化カルシウム(Ca(OH))からは、以下のような反応式により、炭酸水素カルシウム(Ca(HCO)および水酸化カルシウム(Ca(OH))を経て、酸化カルシウム(CaO)を得ることができる。
Ca(OH)+2CO → Ca(HCO
Ca(HCO → Ca(OH)+2CO
Ca(OH) → CaO+H
【0096】
第1金属の酸化物を含む上記の生成物には、不純物として、第2金属の酸化物、第1、第2金属の水酸化物、過酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩およびそれらの水和物等が含まれ得る。不純物量は、上記の生成物全量の20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。不純物量は、上記の生成物全量の0.1質量%以上であってよく、1.0質量%以上であってよい。一態様において、不純物量は、上記の生成物全量の0.1質量%以上20質量%以下である。不純物量が上記範囲であると、再利用過程(例えば、第1金属カーバイドの析出過程)における副反応が抑制され易くなって、ファラデー効率がさらに向上し得る。第1金属の酸化物および不純物の存在確認およびそれらの定量は、例えば、析出物のラマン分光分析およびX線回折(XRD)分析により行うことができる。
【0097】
(6)第1金属の酸化物の再利用(S26)
得られた第1金属の酸化物を、上記の(1)溶融塩の調製に再利用する。これにより、第1金属の酸化物を用いた第1金属カーバイドの製造と、第1金属カーバイドを利用した炭化水素の製造と、を含むサイクルが完成する。不純物を含み得る上記の生成物ごと、再利用してもよい。
【0098】
[金属カーバイド組成物]
本開示は、金属カーバイド組成物を包含する。金属カーバイド組成物は、主成分として第1金属のカーバイドを含み、さらに、炭素、第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに第1金属以外の金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む。金属カーバイド組成物は、例えば、本開示の金属カーバイドの製造方法により得られる。この場合、金属カーバイド組成物は、陰極上に生成する析出物である。第1金属以外の金属としては、上記の第2金属が挙げられる。
【0099】
金属カーバイド組成物の主成分は、第1金属のカーバイドである。第1金属は、上記の通りである。主成分とは、金属カーバイド組成物の全質量の50質量%以上を占める成分である。第1金属のカーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。第1金属のカーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の99.9質量%以下であってよく、99質量%以下であってよい。一態様において、第1金属のカーバイドの含有割合は、金属カーバイド組成物の質量の80質量%以上99.9質量%以下である。
【0100】
金属カーバイド組成物が本開示の金属カーバイドの製造方法により得られる場合も同様に、金属カーバイド組成物は、第1金属のカーバイドとともに、炭素、第1金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物、水素化物および過酸化物、ならびに第2金属の単体、ハロゲン化物、炭酸塩、酸化物およびカーバイドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む。金属カーバイド組成物は、その他、固化した電解質(他の金属塩)、装置を構成する材料のハロゲン化物、酸化物、金属、およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。上記炭素は、黒鉛、アモルファスカーボン、ガラス状カーボン、カーボンナノチューブ、ダイヤモンド、ナノダイヤモンド、グラフェン等のナノカーボン材料よりなる群から選択される少なくとも1つを含み得る。
【実施例0101】
[実施例1]
(金属カーバイドの製造)
LiClとKClとを、LiCl/KCl=58.5モル%/41.5モル%になるように混合し、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。LiClおよびKClの合計モル数に対して5モル%のLiOを秤量し、上記混合物に加え、混合塩を得た。混合塩をガラス製容器4個にそれぞれ収めて、電気炉にセットし、混合塩を450℃に加熱した。このようにして、LiCl-KCl-LiOの溶融塩を得た。
【0102】
次いで、これらの容器の蓋に、作用極(1cm×1.5cmのニッケル板)、対極(コイル状の白金線)および参照極(Ag/Ag)をそれぞれ取り付けて、この蓋で容器を密閉した。4つの容器内の450℃の溶融塩それぞれに、COを流量100mL/分で30分間以上吹き込んだ。続いて、ポテンショ・ガルバノスタットを用いて、参照極に対する作用極の電位を0.09Vに維持しながら電圧を印加した。印加時間は、それぞれ10分、30分、1時間および2時間とした。作用極上に析出物が確認された。実験操作は、すべて高純度アルゴン雰囲気を保持したグローブボックス内で行った。
【0103】
(炭化水素の製造)
析出物をそれぞれ密閉した4つの試験管に収めた。これらの試験管に、常温下(23℃)で、純水を少量ずつ加え、析出物の加水分解を行った。加えた水の全量は、各2.5mlであった。試験管内で発泡が生じているのを確認した後、発泡が見られなくなるまで試験管を静置した。続いて、ガスタイトシリンジを用いて、試験管内のガス100μl(マイクロリットル)を採取した。
【0104】
ガスクロマトグラフ(GC)装置を用いて、得られたガスに対してGC-MS分析を行って、主成分として、Cが生成されていることを確認した。さらに、メタン、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。各成分の生成量も、併せて確認した。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。
【0105】
電圧を1時間印加して得られた析出物を加水分解して得られたガスの、GC-MS分析の結果を図4Aに示す。このCガス生成に関し、ファラデー効率は約25.2%と算出された。この時の電流の平均値は359.4mAであった。
【0106】
4つの加水分解物に対して、それぞれラマン分光分析およびXRD分析を行った。分析結果を、図4Bおよび図4Cに示す。図4Bおよび図4Cには、電圧の印加時間を10分、30分、1時間および2時間にして得られた析出物の分析結果がまとめて示されている。これらの分析から、いずれの加水分解物にも、少なくともKCl、Ni、炭素、LiCOが含まれていることが確認された。そのため、加水分解前の析出物には、Liとともに、上記のKCl、Ni、炭素、LiCOが含まれていたと考えられる。加水分解物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0107】
(金属酸化物の再生)
上記の加水分解の後に残った液を濾過して、沈殿物を除去した。次いで、濾液を十分に加熱し、水の除去とともに脱水反応を行って、固化物を得た。この固化物に対してXRD分析を行って、主成分としてLiOが再生されていることを確認した。上記の濾過により得られた沈殿物を乾燥させて、ラマン分光分析およびXRD分析を行った。これらの分析により、沈殿物の主成分は炭素であり、微量のニッケルが含まれていることが確認された。
【0108】
[実施例2]
(金属カーバイドの製造)
参照極に対する作用極の電位を0.225Vに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例1と同様にして析出物を得た。この時の電流の平均値は570mAであった。得られた析出物のXRD分析から、析出物には、Li、および、不純物として少なくともKCl、LiCl、Ni、炭素、LiO、LiCOが含まれていることが確認された。得られた析出物のXRD分析の結果を、図5に示す。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0109】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスの主成分はCであることを確認した。さらに、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。回収したガスに占めるCの質量割合は50質量%より十分多かった。
【0110】
(金属酸化物の再生)
実施例1と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてLiOを含むことが確認された。
【0111】
[実施例3]
(金属カーバイドの製造)
参照極に対する作用極の電位を0.3Vに維持しながら、1時間電圧を印加したこと以外は、実施例1と同様にして析出物を得た。この時の電流の平均値は684mAであった。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析の結果から、析出物には、Li、および、不純物として少なくともKCl、LiCl、Ni、炭素、LiO、LiCOが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0112】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスの主成分はCであることを確認した。GC-MS分析の結果を、図6に示す。さらに、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。Cガス生成に関し、ファラデー効率は約54.7%と算出された。
【0113】
(金属酸化物の再生)
実施例1と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてLiOを含むことが確認された。
【0114】
[実施例4]
(金属カーバイドの製造)
参照極に対する作用極の電位を0.75Vに維持しながら、1時間電圧を印加したこと以外は、実施例1と同様にして析出物を得た。この時の電流の平均値は75mAであった。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、Li、および、不純物として少なくともKCl、LiCl、Ni、炭素、LiO、LiCOが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0115】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスにCが含まれることを確認した。GC-MS分析の結果の一部を、図7に示す。
【0116】
(金属酸化物の再生)
実施例1と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてLiOを含むことが確認された。
【0117】
[実施例5]
(金属カーバイドの製造)
LiClとKClとCaClとを、LiCl/KCl/CaCl=52.3モル%/11.6モル%/36.1モル%になるように混合した。LiClとKClとCaClとの合計モル数に対して3モル%のCaOを秤量し、上記混合物に加え、混合塩を得た。混合塩を容器に収めて、電気炉にセットし、混合塩を450℃に加熱した。このようにして、LiCl-KCl-CaCl-CaOの溶融塩を得た。
【0118】
この溶融塩を用いたこと、および、参照極に対する作用極の電位を0.4Vに維持しながら、30分間電圧を印加したこと以外は、実施例1と同様にして析出物を得た。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともLiCl、KCl、CaCl、Ni、炭素、CaO、CaCOが含まれていることが確認された。得られた析出物のXRD分析の結果を、図8に示す。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0119】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスの主成分はCであることを確認した。さらに、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンを含有していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。
【0120】
(金属酸化物の再生)
上記の加水分解の後に残った液に、COを吹き込んだ。次いで、沈殿物を濾過により除去した。残った濾液を十分に加熱し、水の除去とともに脱水反応を行って、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0121】
[実施例6]
(金属カーバイドの製造)
参照極に対する作用極の電位を0.15Vに維持しながら、1時間電圧を印加したこと以外は、実施例5と同様にして析出物を得た。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0122】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。GC-MS分析の結果を、図9に示す。
【0123】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0124】
[実施例7]
(金属カーバイドの製造)
作用極として鉄を用いたこと、参照極に対する作用極の電位を0.80Vに維持しながら、2時間電圧を印加したこと以外は、実施例5と同様にして析出物を得た。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0125】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。GC-MS分析の結果を、図10(1)に示す。
【0126】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0127】
[実施例8]
(金属カーバイドの製造)
参照極に対する作用極の電位を0.40Vに維持したこと以外は、実施例5と同様にして析出物を得た。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0128】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。GC-MS分析の結果を、図10(2)に示す。
【0129】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0130】
[実施例9]
(金属カーバイドの製造)
参照極に対する作用極の電位を0.15Vに維持したこと以外は、実施例5と同様にして析出物を得た。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0131】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。GC-MS分析の結果を、図10(3)に示す。
【0132】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0133】
[実施例10]
(金属カーバイドの製造)
作用極と対極との間の電流値を-100mA、すなわち電流密度を-50mA/cmに維持しながら、通電量が100Cに到達するまで通電したこと以外は、実施例5と同様にして析出物を得た。
【0134】
通電時の参照極に対する作用極の電位変化を図11(1)に示す。通電後の、作用極の外観を図12に示す。作用極の表面に、黒色の析出物が確認できる。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0135】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。Cガス生成に関し、ファラデー効率は約0.1%と算出された。
【0136】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0137】
[実施例11]
(金属カーバイドの製造)
作用極として鉄を用いたこと以外は、実施例10と同様にして析出物を得た。通電時の、参照極に対する作用極の電位変化を図11(2)に示す。通電後の、作用極の外観を図13に示す。作用極の表面に、黒色の析出物が確認できる。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0138】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。Cガス生成に関し、ファラデー効率は約7.9%と算出された。
【0139】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0140】
[実施例12]
(金属カーバイドの製造)
NaClとKClとCaClとを、NaCl/KCl/CaCl=33.4モル%/11.6モル%/55.0モル%になるように混合し、200℃、100Pa以下で24時間以上真空乾燥した。NaClとKClとCaClの合計モル数に対して3モル%のCaOを秤量し、上記混合物に加え、混合塩を得た。混合塩をパイレックス(コーニング社商標)製容器に収めて、電気炉にセットし、混合塩を550℃に加熱した。このようにして、NaCl-KCl-CaCl-CaOの溶融塩を得た。
【0141】
この溶融塩を用いたこと、電流密度を-100mA/cmに維持したこと以外は、実施例11と同様にして析出物を得た。通電時の、参照極に対する作用極の電位変化を図14(1)に示す。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0142】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。Cガス生成に関し、ファラデー効率は約25%と算出された。
【0143】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0144】
[実施例13]
(金属カーバイドの製造)
電流密度-200mA/cmを維持したこと以外は、実施例12と同様にして析出物を得た。通電時の、参照極に対する作用極の電位変化を図14(2)に示す。通電後の、作用極の外観を図15に示す。作用極の表面に、黒色の析出物が確認できる。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0145】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。Cガス生成に関し、ファラデー効率は約34%と算出された。
【0146】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0147】
[実施例14]
(金属カーバイドの製造)
電流密度-300mA/cmを維持したこと以外は、実施例12と同様にして析出物を得た。通電時の、参照極に対する作用極の電位変化は図14(3)に示す。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0148】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。Cガス生成に関し、ファラデー効率は約22%と算出された。
【0149】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0150】
[実施例15]
(金属カーバイドの製造)
電流密度-400mA/cmを維持したこと以外は、実施例12と同様にして析出物を得た。通電時の、参照極に対する作用極の電位変化を図14(4)に示す。得られた析出物のラマン分光分析およびXRD分析から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくともCaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0151】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物を加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。Cガス生成に関し、ファラデー効率は約8%と算出された。
【0152】
(金属酸化物の再生)
実施例5と同様にして、固化物を得た。得られた固化物のXRD分析から、固化物は、主成分としてCaOを含むことが確認された。
【0153】
[実施例16]
(金属カーバイドの製造)
NaCl-KCl-CaCl-CaOの溶融塩に対し、あらかじめNaClとKClとCaClの合計モル数に対して7モル%のCaCを添加した溶融塩を用いたこと以外は、実施例13と同様にして析出物を得た。
【0154】
通電時の、参照極に対する作用極の電位変化は図16に示す。通電後の、作用極の外観を図17に示す。作用極の表面に、黒色の析出物が確認できる。析出量が多く、作用極は析出物によって全体的に大きくなっていた。図17には、参考のために作用極の元の大きさを破線で示した。得られた析出物のXRD分析の結果を図18に示す。図18から、析出物には、CaC、および、不純物として少なくとも、炭素、CaClが含まれていることが確認された。析出物に占める不純物の質量割合は、50質量%より十分に少なかった。
【0155】
(炭化水素の製造)
実施例1と同様にして、析出物に約1ccの水を加えて加水分解した。GC-MS分析により、生成したガスはCであることを確認した。さらに、エタン、エチレン、水素が副生していることを確認した。その他、不純物として、水、二酸化炭素、窒素、酸素およびアルゴンが生成していた。回収したガスに占めるCの質量割合は、50質量%より十分多かった。Cガス生成に関し、ファラデー効率は約68%と算出された。溶融塩中にあらかじめCaCを添加した溶融塩を用いたことにより、電極上に析出したCaCの溶融塩中への溶解が抑制されたためと考えられる。
【0156】
(金属酸化物の再生) 上記の加水分解の後に残った水溶液1.14gをアルミカップに入れて、80℃で50分加熱した後、200℃で20分加熱して、蒸発乾固した。得られた黒色の固形物0.156gをニッケル製反応管に収納し、窒素ガスを流量500ml/分で流通しながら3時間かけて500℃まで昇温し、1時間保持した。窒素ガスを流通しながら室温まで冷却し、黒色の固形物0.100gを反応管から取り出した。得られた固形物をすみやかにXRDの試料板に載せ、XRD分析を行った。得られた結果を図19に示す。図19より、CaO、電極材料であるFe、及び溶融塩の成分であるNaClが含まれていることが確認された。
【0157】
実施例1~9では、定電位電解を行っている。実施例10~16では、定電流電解を行っている。いずれの電解法によっても、目的の第1金属のカーバイドが得られている。
【0158】
実施例16で示されるように、加水分解後の水溶液から、容易に、原料である金属酸化物(実施例16では、CaO)を再生し、回収することができる。回収された金属酸化物は、金属カーバイド製造の際の原料として再び利用することができる。これにより、リサイクルシステムが構築されて、環境に優しいプロセスが提供される。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本開示の製造方法は、地球温暖化などの原因となる二酸化炭素を炭素源として用いるため、種々の分野、特に環境分野において有用である。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19