(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169599
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】液体含浸皮膚被覆シート用不織布およびその製造方法、液体含浸皮膚被覆シート、ならびにフェイスマスク
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4258 20120101AFI20241128BHJP
D04H 1/485 20120101ALI20241128BHJP
D04H 1/488 20120101ALI20241128BHJP
D04H 1/542 20120101ALI20241128BHJP
A45D 44/22 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
D04H1/4258
D04H1/485
D04H1/488
D04H1/542
A45D44/22 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024162334
(22)【出願日】2024-09-19
(62)【分割の表示】P 2021114477の分割
【原出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】519354108
【氏名又は名称】大和紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100107180
【弁理士】
【氏名又は名称】玄番 佐奈恵
(72)【発明者】
【氏名】大倉 千明
(72)【発明者】
【氏名】中屋敷 萌美
(72)【発明者】
【氏名】牧原 弘子
(57)【要約】
【課題】液体を含浸させた状態で皮膚に対して良好な密着性を示す、液体含浸皮膚被覆シートを与え得る不織布を提供することを目的とする。
【解決手段】第1セルロース系繊維と、湿潤時強度及び/又は湿潤時見掛ヤング率が第1セルロース系繊維のそれよりも低い第2セルロース系繊維とを含む、セルロース系繊維層を含み、セルロース系繊維層は、第1セルロース系繊維を5質量%以上50質量%以下の割合で、第2セルロース系繊維を30質量%以上95質量%以下の割合で含み、セルロース系繊維層において、第1セルロース系繊維と第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、セルロース系繊維層を構成する繊維全体の80質量%以上であり、セルロース系繊維層の表面の湿潤状態でのCD方向における平均摩擦係数の変動が0.013以下であり、セルロース系繊維層の表面について測定される15分後密着力が180gf以上である、液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1セルロース系繊維と、湿潤時強度及び/又は湿潤時見掛ヤング率が第1セルロース系繊維のそれよりも低い第2セルロース系繊維とを含む、セルロース系繊維層を含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第1セルロース系繊維を、5質量%以上50質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第2セルロース系繊維を、30質量%以上95質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層において、前記第1セルロース系繊維と前記第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、前記セルロース系繊維層を構成する繊維全体の80質量%以上であり、
前記セルロース系繊維層の表面の湿潤状態でのCD方向における平均摩擦係数の変動が0.013以下であり、前記セルロース系繊維層の表面について測定される15分後密着力が180gf以上である、液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
【請求項2】
目付が40g/m2以上120/m2以下である、請求項1に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
【請求項3】
前記セルロース系繊維層が接着性繊維を含み、前記セルロース系繊維層を構成する繊維が前記接着性繊維で接着されている、請求項1または2に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
【請求項4】
前記セルロース系繊維層が、湿潤時強度が1.5cN/dtex以上および/または湿潤時見掛ヤング率が1000N/mm2以上である第1セルロース系繊維と、
湿潤時強度が1.2cN/dtex以下および/または湿潤時見掛ヤング率が930N/mm2以下である第2セルロース系繊維とを含む、請求項1または2に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
【請求項5】
前記セルロース系繊維層のみからなる単層不織布である、請求項1または2に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
【請求項6】
前記第1セルロース系繊維および前記第2セルロース系繊維の一方または両方は、その灰分が0.5質量%以下である、請求項1または2に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
【請求項7】
前記第1セルロース系繊維の繊維長が20mm以上100mm以下であり、前記第2セルロース系繊維の繊維長が20mm以上100mm以下であり、前記セルロース系繊維層がカードウェブの繊維同士を交絡させてなるものである、請求項1または2に記載の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体、特に化粧料を含浸させた液体含浸皮膚被覆シートの基材となる不織布およびその製造方法、ならびに当該不織布を用いた液体含浸皮膚被覆シートおよびフェイスマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
人体または動物の皮膚を被覆して、人体または動物の皮膚に所定の物質を付与するために用いられる、液体を含浸させたシートが種々提案され、実用されている。具体的には、有効成分を含む液体(例えば化粧料)を含浸させた液体含浸皮膚被覆シート(フェイスマスクや踵、肘、膝などに使用する角質ケアシート)等が挙げられる。液体含浸皮膚被覆シートの基材としては、不織布が一般的に用いられている。液体含浸皮膚被覆シートは、比較的長い時間、皮膚に密着させて使用することが多いため、密着性、液体の放出性、触感、および利便性、ならびに皮膚に密着させたときの透明性等の点から様々な不織布が基材として提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、湿潤状態で透明性が高い保液シートとして、透明繊維を使用したシートを提案し、その実施例として、酸化チタンを含まない、または0.1質量%以下の割合で含む、再生セルロース繊維および溶剤紡糸セルロース繊維、ならびにポリエステル繊維を使用した実施例を開示している。特許文献2は、高い液保持性を有し、かつ、使用後の汚れの視認性に優れた不織布として、重合度が特定の範囲内にある2種類のセルロース繊維を含む不織布を使用することを提案し、2種類のセルロース繊維の組み合わせとして、レーヨンとリヨセルの組み合わせが示されている。特許文献3は、高い透明性と取り扱い性の向上を目的として、特定の条件を満たすセルロース系繊維が熱接着性繊維によって熱接着されたセルロース系混合繊維を含む不織布を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/187404号パンフレット
【特許文献2】特開2016-69762号公報
【特許文献3】特許第6587608号公報
【特許文献4】特許第6093487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、液体を含浸させた状態で皮膚に対して良好な密着性を示す、液体含浸皮膚被覆シートを与え得る不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一つの要旨によれば、湿潤時強度が1.5cN/dtex以上および/または湿潤時見掛ヤング率が1000N/mm2以上である第1セルロース系繊維と、
湿潤時強度が1.2cN/dtex以下および/または湿潤時見掛ヤング率が930N/mm2以下である第2セルロース系繊維とを含む、セルロース系繊維層を含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第1セルロース系繊維を、5質量%以上50質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第2セルロース系繊維を、30質量%以上95質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層において、前記第1セルロース系繊維と前記第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、前記セルロース系繊維層を構成する繊維全体の80質量%以上であり、
前記セルロース系繊維層の目付は、40g/m2以上である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布が提供される。
【0007】
本開示の別の要旨によれば、第1セルロース系繊維と第2セルロース系繊維とを含む、セルロース系繊維層を含み、
前記第1セルロース系繊維は灰分が0.5質量%以下の溶剤紡糸セルロース繊維であり、
前記第2セルロース系繊維が、下記(1)ないし(3)
(1)横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.0以下である、ビスコースレーヨン、
凹凸度=L2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
(2)横断面が単一構造を有し、横断面の輪郭が円形、楕円形もしくは繭玉形、または切れ目を有する円形、楕円形もしくは繭玉形である、ビスコースレーヨン、
(3)横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の扁平度が1.80以上であり、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.50以下である、ビスコースレーヨン
扁平度=a/b
(式中、aは横断面の任意の二点を結ぶ最長の線分Aの長さであり、bは線分Aに対して垂直であり、かつ線分Aと平行な線分とともに横断面に外接する長方形または正方形を構成する線分の長さである。)
凹凸度=L2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
から選択される1または複数のビスコースレーヨンであり、
前記セルロース系繊維層は、前記第1セルロース系繊維を、5質量%以上50質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第2セルロース系繊維を、30質量%以上95質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層において、前記第1セルロース系繊維と前記第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、前記セルロース系繊維層を構成する繊維全体の80質量%以上であり、
前記セルロース系繊維層の目付は、40g/m2以上である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布が提供される。
【0008】
本発明のさらに別の要旨によれば、第1セルロース系繊維と、湿潤時強度及び/又は湿潤時見掛ヤング率が第1セルロース系繊維のそれよりも低い第2セルロース系繊維とを含む、セルロース系繊維層を含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第1セルロース系繊維を、5質量%以上50質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第2セルロース系繊維を、30質量%以上95質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層において、前記第1セルロース系繊維と前記第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、前記セルロース系繊維層を構成する繊維全体の80質量% 以上であり、
前記セルロース系繊維層の表面の湿潤状態でのCD方向における平均摩擦係数の変動が0.013以下であり、前記セルロース系繊維層の表面について測定される15分後密着力が180gf以上である、液体含浸皮膚被覆シート用不織布が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示の液体含浸皮膚被覆シート用不織布によれば、湿潤状態での密着性に優れ、かつ触感が滑らかであるとともに、取り扱いやすい液体含浸皮膚被覆シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例または比較例で使用したセルロース系繊維Aの横断面を示す電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例または比較例で使用したセルロース系繊維Bの横断面を示す電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例または比較例で使用したセルロース系繊維Cの横断面を示す電子顕微鏡写真である。
【
図4】実施例または比較例で使用したセルロース系繊維Dの横断面を示す電子顕微鏡写真である。
【
図5】実施例または比較例で使用したセルロース系繊維Eの横断面を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本実施形態に至った経緯)
上記のとおり、液体含浸皮膚被覆シート(以下、単に「シート」とも呼ぶ)の基材の構成およびその構成繊維として種々のものが提案されている。シートは、液体を含浸できるよう、親水性繊維を含むことが多く、親水性繊維としては、工業的に量産されるセルロース系繊維(例えば、レーヨンやリヨセル等)やコットン等の天然セルロース系繊維が汎用されている。
【0012】
セルロース繊維には、その製造方法の違い等に起因して、様々な種類のものがあり、上記特許文献1~3は特定のセルロース系繊維を使用することにより、目的とする不織布を得ることを試みている。また、例えば、特許文献4においては、特定の横断面形状を有するビスコースレーヨンが提案され、これを用いることで湿潤状態でより高い透明感を与える液体含浸シートが得られることが記載されている。
このように、特定のセルロース系繊維を使用して、またはあるセルロース系繊維を別のセルロース系繊維もしくは他の繊維と組み合わせて、またはセルロース系繊維を含む層の構成を特定のものにして、所望の性能を発揮する不織布を得ることが試みられてきた。
【0013】
本発明者らは、積層構造を採用せずとも湿潤状態での密着性が高く、かつ比較的厚いシートとして提供でき、かつセルロース系繊維の割合を多くした構成の不織布を得るために検討を重ねた。密着性の向上はシートの皮膚からの剥離を抑制するために、常に消費者に要求されている。また、シートを厚くすることで、1)液体の保持量がより大きくなる、2)手で持ったときにしっかりとした感触が得られ、濡れた状態でも取り扱いやすいといった利点がある。
上記特許文献1ないし4は、透明性や汚れの視認性の向上という観点で提案された構成であり、密着性の検討は特になされていなかった。
【0014】
本発明者らは、密着性がセルロース系繊維の湿潤時の物性、特に強度および/または見掛ヤング率と関係し、より湿潤時強度の小さい、および/またはより湿潤時見掛ヤング率の小さいセルロース系繊維を用いることで、特に、製品開封時と比較して液体含有量が減少した状態でも、高い密着性を示すシートが得られることを見出した。一方、湿潤時強度の小さいセルロース系繊維を使用すると、不織布が極めて柔らかくなって取り扱いにくく、強度も低下する傾向にある。そこで、湿潤時強度の小さなセルロース系繊維とともに、湿潤時強度および/または湿潤時見掛ヤング率のより高いセルロース系繊維を組み合わせたところ、湿潤時強度の小さいセルロース系繊維を比較的高い割合で含む場合でも、不織布が過度に柔軟とならずに、高い密着性が得られることを見出し、本実施形態に至った。
【0015】
本実施形態の不織布は、特定の第1セルロース系繊維と、特定の第2セルロース系繊維とを含む。以下、これらの繊維をまず説明する。
【0016】
(第1セルロース系繊維)
第1セルロース系繊維は、第2セルロース系繊維よりも高い湿潤時強度を有し、例えば湿潤時強度が1.5cN/dtex以上であるセルロース系繊維であってよい。湿潤時強度は、JIS L 1015 8.7(引張強さ及び伸び率):2010に従って測定される。 第1セルロース系繊維は、その高い強度により「骨材」的な役割をする。第1セルロース系繊維は、低強度で柔らかな第2セルロース系繊維を使用することに起因して、不織布が過度に柔軟なものとなり、またその強度が低下することを抑制して、第2セルロース系繊維による密着性の向上を損なわずに、不織布に強度とコシを付与し得る。
【0017】
あるいは、第1セルロース系繊維は、第2セルロース系繊維よりも大きい湿潤時見掛ヤング率を有し、例えば湿潤時見掛ヤング率が1000N/mm2以上であるセルロース系繊維であってよい。湿潤時見掛ヤング率の大きいセルロース系繊維を第1セルロース系繊維として用いることで、湿潤時強度が大きい場合と同様、不織布に強度とコシが付与され得る。湿潤時見掛ヤング率は、JIS L 1015 8.11(初期引張抵抗度):2010に従って測定される。
【0018】
第1セルロース系繊維の湿潤時強度は、特に2.1cN/dtex以上、より特には2.2cN/dtex以上であってよく、その上限は、例えば5.0cN/dtex、特に4.0cN/dtex、より特には2.9cN/dtexであってよい。湿潤時強度が1.5cN/dtex未満であると、不織布の強度が向上しないことがある。
【0019】
第1セルロース系繊維の湿潤時見掛ヤング率は、特に1500N/mm2以上、より特には2000N/mm2以上であってよく、その上限は、例えば5000N/mm2、特に4000N/mm2、より特には3200N/mm2であってよい。湿潤時見掛ヤング率強度が1000N/mm2未満であると、不織布の強度が向上しないことがある。
【0020】
第1セルロース系繊維は、後述する第2セルロース系繊維よりも大きい乾燥時見掛ヤング率を有し、その乾燥時見掛ヤング率は、例えば8000N/mm2以上であってよい。乾燥時見掛ヤング率の大きいセルロース系繊維を第1セルロース系繊維として用いることで、湿潤時強度が大きい場合と同様、不織布に強度とコシが付与され得る。第1セルロース系繊維の乾燥時見掛ヤング率は、特に8200N/mm2以上であってよく、より特には8300N/mm2以上であってよい。乾燥時見掛ヤング率の上限は、例えば12000N/mm2、特に11000N/mm2、より特には10000N/mm2である。
【0021】
第1セルロース系繊維は、後述する第2セルロース系繊維よりも大きい乾燥時強度を有し、その乾燥時強度は、例えば2.5cN/dtex以上、特に2.6cN/dtex以上、より特には2.7cN/dtex以上であってよく、その上限は、例えば4.8cN/dtex、特に4.5cN/dtex、より特には4.0cN/dtexであってよい。乾燥時強度が2.5cN/dtex未満であると、不織布の強度が向上しないことがある。
【0022】
第1セルロース系繊維は、灰分が0.5質量%以下のものであってよく、特に着色剤(顔料)などの無機物、例えば酸化チタンを実質的に含まないものであってよい。酸化チタンは繊維の光沢を抑えるために用いられる艶消し剤であり、これを含まないことで、不織布の透明性を高くすることができる。また、第1セルロース系繊維の灰分すなわち無機化合物の含有量が低いと、不織布の透明性を高くすることができる。また、灰分の低いセルロース系繊維は、親水性が高くなる傾向にあり、不織布の保液性をより向上させ得る。第1セルロース系繊維の灰分は、特に0.35質量%以下、より特には0.3質量%以下であってよい。灰分は、JIS L 1015 8.20(灰分):2010に従って測定される。
【0023】
第1セルロース系繊維は、例えば、リヨセル等の溶剤紡糸セルロース等であってよい。溶剤紡糸セルロース繊維は、例えばテンセルスキン(商品名)、レンチングリヨセル(商品名)として上市されている。このうち、テンセルスキン(商品名)は、酸化チタンを含有しておらず、灰分が0.2質量%以下であるため、これを使用すると、不織布の乾燥時および湿潤時の透明性を向上させることができる。
【0024】
第1セルロース系繊維の繊度は、例えば0.6dtex以上3.3dtex以下であってよく、特に1.0dtex以上2.5dtex以下であってよく、より特には1.4dtex以上2.2dtex以下であってよい。第1セルロース系繊維の繊度が小さすぎると、セルロース系繊維層の空隙が小さくなるため、不織布が液体を保持しにくく、大きすぎると不織布の触感が低下することがある。第1セルロース系繊維の繊度はこれらの範囲に限定されない。
【0025】
第1セルロース系繊維の繊維長は、特に限定されず、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。例えば、不織布の製造においてセルロース系繊維層がカードウェブを作製して製造される場合、第1セルロース系繊維は短繊維であってよい。この短繊維の繊維長は例えば20mm以上100mm以下としてよく、特に28mm以上75mm以下としてよく、より特には30mm以上65mm以下としてよい。あるいは、第1繊維層がエアレイ法で製造される場合、繊維長は例えば2mm以上20mm以下としてよい。
本実施形態においては、素材、繊維長および繊度のうち一つまたは複数が異なる、複数種類のセルロース系繊維を、第1セルロース系繊維として用いてもよい。
【0026】
(第2セルロース系繊維)
第2セルロース系繊維は、第1セルロース系繊維よりも小さい湿潤時強度を有し、例えば湿潤時強度が1.2cN/dtex以下であるセルロース系繊維であってよい。低強度であり、したがって柔軟である第2セルロース系繊維は、不織布の密着性を向上させるとともに、不織布の表面を滑らかなものとし得る。
不織布の密着性は不織布とその密着対象との間に剪断力を加えたときに、不織布が密着対象の上に留まろうとする性質に相当する。第2セルロース系繊維が低強度であり、柔軟なものであると、外部から力が作用したときに変形および伸長しやすいため、剪断力が作用しても不織布を変形させつつ密着対象に留まることを可能にし、もって密着力を向上させると考えられる。
【0027】
第2セルロース系繊維の湿潤時強度は、特に1.1cN/dtex以下であってよく、より特には1.0cN/dtex以下であってよく、その下限は、例えば0.4cN/dtex、特に0.5cN/dtex、より特には0.6cN/dtexであってよい。湿潤時強度が1.2cN/dtexを超えると、密着性または表面の滑らかさが不十分となることがある。
【0028】
あるいは、第2セルロース系繊維は、第1セルロース系繊維よりも小さい湿潤時見掛ヤング率を有し、例えば湿潤時見掛ヤング率が930N/mm2以下であるセルロース系繊維であってよい。湿潤時見掛ヤング率の小さいセルロース系繊維を第2セルロース系繊維として用いることで、湿潤時強度が小さい場合と同様、その変形/伸長容易性のために、不織布の密着性を向上させるとともに、不織布の表面を滑らかなものとし得る。そのため、湿潤時見掛ヤング率が930N/mm2を超えると、密着性または表面の滑らかさが不十分となることがある。第2セルロース系繊維の湿潤時見掛ヤング率は、特に900N/mm2以下であってよく、より特には850N/mm2以下であってよく、その下限は、例えば650N/mm2、特に750N/mm2であってよい。
【0029】
第2セルロース系繊維は、その乾燥時強度が、例えば2.5cN/dtex以下、特には2.2cN/dtex以下であるものであってよい。その下限は、例えば1.2cN/dtex、特に1.3cN/dtex、より特には1.4cN/dtexであってよい。乾燥時強度の小さいセルロース系繊維を第2セルロース系繊維として用いることで、湿潤時強度が小さい場合と同様、その変形/伸長容易性のために、不織布の密着性を向上させるとともに、不織布の表面を滑らかなものとし得る。乾燥時強度が2.5cN/dtexを超えると、密着性または表面の滑らかさが不十分となることがある。
【0030】
あるいは、第2セルロース系繊維は、第1セルロース系繊維よりも小さい乾燥時見掛ヤング率を有し、例えば乾燥時見掛ヤング率が7800N/mm2以下であるセルロース系繊維であってよい。乾燥時見掛ヤング率の小さいセルロース系繊維を第2セルロース系繊維として用いることで、湿潤時強度が小さい場合と同様、その変形/伸長容易性のために、不織布の密着性を向上させるとともに、不織布の表面を滑らかなものとし得る。第2セルロース系繊維の乾燥時見掛ヤング率は、特に7500N/mm2以下、より特には7000N/mm2以下であってよい。その上限は、例えば4000N/mm2、特に5000N/mm2であってよい。
【0031】
第2セルロース系繊維は、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ジアセテートおよびトリアセテートから選択される1または複数の繊維であってよい。本実施形態では、特にビスコースレーヨンを用いてよい。ビスコースレーヨンは、他の再生セルロース繊維に比べて結晶化度は低いため強度は低い傾向にあるが、その分吸水性が高く、好ましい。より特には下記(1)ないし(3):
(1)横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.0以下である、ビスコースレーヨン、
凹凸度=L2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
(2)横断面が単一構造を有し、横断面の輪郭が円形、楕円形もしくは繭玉形、または切れ目を有する円形、楕円形もしくは繭玉形である、ビスコースレーヨン、
(3)横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の扁平度が1.80以上であり、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.50以下である、ビスコースレーヨン
扁平度=a/b
(式中、aは横断面の任意の二点を結ぶ最長の線分Aの長さであり、bは線分Aに対して垂直であり、かつ線分Aと平行な線分とともに横断面に外接する長方形または正方形を構成する線分の長さである。)
凹凸度=L2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
から選択される1または複数のビスコースレーヨンを用いてよい。
【0032】
上記(1)ないし(3)のビスコースレーヨンは、特許文献4に開示されたビスコースレーヨン(以下、「単一構造レーヨン」)に相当する。単一構造レーヨンは、スキンコア染色したときに、横断面(繊維の長さに対して垂直に切断して得られる断面)において内周部と外周部との間で染色性(染色後の色の濃淡)に顕著な差が見られないものである。また、単一構造レーヨンは、その横断面形状が通常のビスコースレーヨンと異なり、横断面の輪郭が凹凸を有しない、又は凹凸の起伏が小さいビスコースレーヨンである。かかる横断面を得るために、単一構造ビスコースレーヨンは、ビスコースの再生速度を低減させる成分(特にポリエチレングリコール)を添加して製造される。そのため、単一構造ビスコースは、湿潤時強度が上記範囲内にある、比較的強度の低いものとして得やすい。
【0033】
また、単一構造レーヨンは、その横断面の輪郭において凹凸が無い又は凹凸の起伏が小さいため、表面が通常のビスコースレーヨンと比べて、より平滑である。そのため、単一構造レーヨンを用いると、高圧流体流を用いた交絡処理で不織布を製造する場合に、繊維同士の交絡の度合いが通常のビスコースレーヨンと比較して小さくなる傾向にある。その結果、不織布における繊維の自由度が高くなって、不織布の密着性を向上させやすい。
また、単一構造レーヨンは、横断面の輪郭が平滑であるために、それ自体高い透明性を有し、不織布に透明性を付与しやすい。したがって、単一構造レーヨンを使用することで、乾燥時および湿潤時の透明性がより高い不織布を得ることができる。
【0034】
単一構造レーヨンの詳細は、特許文献4に記載されているとおりである。
なお、市販されている単一構造レーヨンにおいては、横断面の形態が異なる繊維が含まれていることがあるが、各繊維の横断面が上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のものであれば、横断面の形態が種々異なる繊維が含まれている製品を、本実施形態で使用してよい。
【0035】
第2セルロース系繊維は、灰分が0.5質量%以下のものであってよく、特に酸化チタンを実質的に含まないものであってよい。灰分の低い第2セルロース系繊維を使用することで不織布に透明性を高くし得、または不織布の保液性を向上させ得ることは、先に灰分の低い第1セルロース系繊維について説明したとおりである。第2セルロース系繊維の灰分は、特に0.35質量%以下、より特には0.3質量%以下であってよい。灰分は、JIS L 1015 8.20(灰分):2010に従って測定される。
【0036】
第2セルロース系繊維は、例えば0.6dtex以上3.3dtex以下であってよく、特に1.0dtex以上2.5dtex以下であってよく、より特には1.4dtex以上2.0dtex以下であってよい。第2セルロース系繊維の繊度が小さすぎると、セルロース系繊維層の空隙が小さくなるため、不織布が液体を保持しにくく、大きすぎると不織布の触感が低下することがある。第2セルロース系繊維の繊度はこれらの範囲に限定されない。
【0037】
第2セルロース系繊維の繊維長は、特に限定されず、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。例えば、不織布の製造においてセルロース系繊維層がカードウェブを作製して製造される場合、第2セルロース系繊維は短繊維であってよい。この短繊維の繊維長は例えば20mm以上100mm以下としてよく、特に28mm以上75mm以下としてよく、より特には30mm以上65mm以下としてよい。あるいは、第1繊維層がエアレイ法で製造される場合、繊維長は例えば2mm以上20mm以下としてよい。
本実施形態においては、素材、繊維長および繊度のうち一つまたは複数が異なる、複数種のセルロース系繊維を、第2セルロース系繊維として用いてもよい。
【0038】
(接着性繊維)
本実施形態の不織布において、セルロース系繊維層には接着性繊維が含まれてよい。接着性繊維は、不織布において繊維同士を接着して、不織布の強度を向上させ、不織布の過度の伸びを抑制し、不織布表面での毛羽立ちおよび毛羽抜けを抑制する役割をする。接着性繊維は、一般には、熱可塑性樹脂からなる合成繊維であり、加熱により接着性を示す熱接着性繊維であるが、接着性を有する限りにおいて熱接着性のものでなくてよく、また、合成繊維以外のものであってよい。
【0039】
接着性繊維が合成繊維である場合、合成繊維は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン-1、プロピレンを主たる成分とするプロピレン共重合体(プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体を含む)、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、ならびにそれらのエラストマーから任意に選択される1または複数の熱可塑性樹脂からなるものであってよい。
【0040】
合成繊維は、単一成分(「単一セクション」ともいう)からなる単一繊維であってよく、および/または複数の成分(「セクション」ともいう)から構成される複合繊維であってよい。複合繊維は、例えば、同心または偏心の芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、または分割型複合繊維等であってよい。繊維の断面(横断面、以下において繊維の断面はすべて横断面)は円形であっても非円形であってもよく、非円形の形状としては、楕円形、Y形、X形、井形、多葉形、多角形、星形等が挙げられる。また、合成繊維は、中空断面を有するものであってよい。単一繊維および複合繊維のいずれの場合も、繊維を構成する各セクションは、一種類の樹脂からなっていてよく、あるいは二種以上の樹脂が混合されたものであってもよい。
【0041】
合成繊維が単一繊維である場合には、単一繊維は、上記ポリオレフィン系樹脂、上記ポリエステル系樹脂、上記ポリアミド系樹脂、および上記アクリル系樹脂から成る群から選ばれる一種以上の樹脂からなるものであってよい。より具体的には、ポリエチレン単一繊維、ポリプロピレン単一繊維、ポリエチレンテレフタレート単一繊維等を用いてよい。
【0042】
合成繊維が複合繊維である場合には、融点の最も低い熱可塑性樹脂が繊維表面の一部を構成するように、二以上の成分を配置してよい。その場合、不織布を生産する工程において、最も融点が低い熱可塑性樹脂からなる成分(以下、「低融点成分」)が溶融または軟化する条件で熱を加えると、低融点成分が接着成分となる。融点のより高い熱可塑性樹脂である第1成分と、融点のより低い熱可塑性樹脂である第2成分とからなる複合繊維を構成する樹脂の組み合わせ(第1/第2)は、例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、およびポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体等のポリエステル系樹脂とポリオレフィン系樹脂との組み合わせ、ならびにポリプロピレン/ポリエチレン、およびポリプロピレン/プロピレン共重合体等の二種類のポリオレフィン系の熱可塑性樹脂の組み合わせ、および融点の異なる二種類のポリエステル系樹脂の組み合わせである。
【0043】
あるいは、第1成分と第2成分の組み合わせは生分解性を有する樹脂の組み合わせであってよく、そのような組み合わせによれば積層不織布における生分解性繊維の割合をより大きくすることができる。具体的には、第1成分をポリ乳酸、第2成分をポリブチレンサクシネートとすることで接着性繊維を生分解性のものとし得る。
【0044】
単一繊維または複合繊維の構成成分として例示した熱可塑性樹脂は、具体的に示された熱可塑性樹脂を50質量%以上含む限りにおいて他の成分を含んでよい。具体的に示された熱可塑性樹脂は80質量%以上含まれていてよく、90質量%以上含まれていてよく、あるいは構成成分は具体的に示された熱可塑性樹脂から実質的に成っていてよい。ここで「実質的に」という用語は、通常、熱可塑性樹脂には各種の添加剤等が含まれていることを考慮して使用している。例えば、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンの組み合わせにおいて、「ポリエチレン」はポリエチレンを50質量%以上含んでいれば、他の熱可塑性樹脂および添加剤等を含んでいてよい。このことは以下の例示においてもあてはまる。
【0045】
合成繊維が、融点のより高い熱可塑性樹脂が第1成分として芯成分を構成し、融点のより低い熱可塑性樹脂が第2成分として鞘成分を構成する同心または偏心芯鞘型複合繊維である場合、芯/鞘の組み合わせは、例えば、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/プロピレン-エチレン共重合体、ポリプロピレン/プロピレン-ブテン-1-エチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート/プロピレン共重合体、ポリトリメチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル(例えば、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート)であってよい。これらの樹脂の組み合わせは、分割型複合繊維において用いてもよい。
【0046】
芯鞘型複合繊維の場合、芯成分と鞘成分との複合比(芯成分:鞘成分)が体積比で80:20~20:80であることが好ましく、70:30~30:70であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。
【0047】
分割型複合繊維の場合、二つの成分の比(第1:第2)は体積比で、80:20~20:80であることが好ましく、70:30~30:70であることがより好ましく、60:40~40:60であることがさらに好ましい。分割型複合繊維の場合、分割数(即ち、複合繊維におけるセクションの数)は、例えば、4以上、32以下であってよく、特に4以上、20以下であってよく、より特には6以上、10以下であってよい。
【0048】
本実施形態においては、第1成分/第2成分の組み合わせが、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンである、芯鞘型複合繊維(同心または偏心)を接着性繊維として好ましく用いることができる。これらの繊維は、比較的低い温度(110℃以上130℃以下で接着性を示し、接着後の不織布の風合いを柔軟にすることから好ましく用いられる。
【0049】
接着性繊維の繊度は、例えば、0.5dtex以上4.0dtex以下であってよく、特に1.0dtex以上3.0dtex以下であってよく、より特には1.5dtex以上2.5dtex以下、さらにより特には1.6dtex以上2.2dtex以下であってよい。接着性繊維の繊度が小さすぎると、不織布の強度が低く、不織布に伸びが生じやすくなることがあり、大きすぎると、不織布の触感を硬くすることがある。不織布に伸びが生じやすいと、例えば不織布をフェイスマスクとして使用する場合には、目や口の位置に設けた開口部の位置ずれが生じることがある。
【0050】
特に接着性繊維が分割型複合繊維である場合、分割型複合繊維は分割前の繊度が1.0dtex以上4.0dtex以下であってよく、分割後に0.1dtex以上1.0dtex未満の接着性繊維を与えるものであってよい。
【0051】
接着性繊維の繊維長は、特に限定されず、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。例えば、不織布の製造においてセルロース系繊維層がカードウェブを作製して製造される場合、接着性繊維は短繊維であってよい。この短繊維の繊維長は例えば10mm以上100mm以下としてよく、特に20mm以上75mm以下としてよく、より特には30mm以上65mm以下としてよい。あるいは、第2繊維層がエアレイ法で製造される場合、繊維長は例えば2mm以上20mm以下としてよい。
【0052】
(他の繊維)
本実施形態の不織布において、セルロース系繊維層は、上述の第1のセルロース系繊維および第2のセルロース系繊維以外の繊維、ならびに接着性繊維以外の繊維を含んでいてよい。例えば、第1繊維層は、第1セルロース系繊維および第2セルロース系繊維以外の他の繊維として、第3のセルロース系繊維を含んでよい。第3のセルロース系繊維は、第2セルロース系繊維として単一構造レーヨンを用い、第1セルロース系繊維として湿潤時強度の比較的大きいセルロース系繊維(例えば、溶剤紡糸セルロース繊維)を使用した場合には、第1セルロース系繊維の湿潤時強度よりも小さく、第2セルロース系繊維の湿潤時強度よりも大きい湿潤時強度を有するセルロース系繊維(例えば、通常のビスコースレーヨン)であってよい。
【0053】
あるいは、他の繊維は、例えば、接着性繊維として機能しない合成繊維であってよい。具体的には、接着性繊維として、T℃で加熱したときに接着性を示す合成繊維を用いたときに、融点がT℃よりも高く、T℃で加熱したときに接着性を示さない合成繊維が他の繊維として含まれていてよい。したがって、ある合成繊維が接着性繊維として含まれるか、他の繊維として含まれるかは、それとともに不織布に含まれる合成繊維によって決定され、ある合成繊維は、接着性繊維として含まれる場合もあれば、他の繊維として含まれる場合もある。あるいはまた、不織布の製造過程において、合成繊維が接着性を示す温度以上の温度での熱処理が実施されない場合、合成繊維は接着性繊維ではなく、他の繊維として含まれることとなる。
【0054】
例えば、ポリエステル(芯)/ポリプロピレン(鞘)からなる芯鞘型複合繊維は、ポリプロピレン(芯)/ポリエチレン(鞘)の組み合わせから成る芯鞘型複合繊維とともに用いる場合は、ポリエチレンが最も低い温度で熱接着性を示すために、他の繊維として含まれることとなる。一方、これが、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン6の組み合わせからなる分割型複合繊維とともに用いる場合、ポリプロピレンが最も低い温度で熱接着性を示すために、接着性繊維として含まれることとなる。
【0055】
他の繊維の繊度は、例えば、0.5dtex以上4.0dtex以下であってよく、特に1.3dtex以上2.5dtex以下、より特には1.4dtex以上2.2dtex以下であってよい。他の繊維の繊度が小さすぎると、不織布にネップを生じさせ、風合いに影響が出ることがあり、大きすぎると、不織布の表面がざらついたものとなって、触感が低下することがある。
【0056】
他の繊維の繊維長は、特に限定されず、不織布の製造方法等に応じて適宜選択してよい。不織布の製造方法(セルロース系繊維層の作製方法)と繊維長の関係は、第1および第2セルロース系繊維ならびに接着性繊維に関連して説明したとおりである。
【0057】
(不織布の構成)
本実施形態の不織布は、第1セルロース系繊維と、第2セルロース系繊維とを含むセルロース系繊維層を含む。セルロース系繊維層において、第1セルロース系繊維は、セルロース系繊維層の総質量を基準として、5質量%以上50質量%以下の割合で含まれ、第2セルロース系繊維は、30質量%以上95質量%以下の割合で含まれる。また、セルロース系繊維層において、第1セルロース系繊維と第2セルロース系繊維とを合わせた割合がセルロース系繊維層を構成する繊維全体の80質量%以上である。ここで、セルロース系繊維層に含まれる繊維の割合は、他の層と一体化される場合には一体化される前のセルロース系繊維層に含まれる繊維の割合である。したがって、他の層との一体化により、他の層を構成する繊維の一部がセルロース系繊維層に混入しているとしても、当該混入した繊維はセルロース系繊維層に含まれるものとはならない。
【0058】
第1セルロース系繊維は湿潤時強度および/または湿潤時見掛ヤング率がより高いものであり、セルロース系繊維層において骨材的な役割をし、不織布の強度を向上させ、コシを付与する。したがって、第1セルロース系繊維の割合が小さすぎると、不織布が過度に柔らかくなって、取り扱いが困難となることがある。一方、第1セルロース系繊維の割合が大きすぎると、不織布の触感が硬くなることがあり、不織布が伸びにくくなり、あるいは不織布において「きしみ」が生じることがあり、これらはシートの使用者に不快感を与える原因となる。
セルロース系繊維層に含まれる第1セルロース系繊維の割合は、特に7質量%以上45質量%以下であってよく、より特には10質量%以上35質量%以下であってよい。
【0059】
第2セルロース系繊維は湿潤時強度および/または湿潤時見掛ヤング率がより低いものであり、セルロース系繊維層の表面(すなわち不織布表面)の密着性および平滑性を向上させる。特に第2セルロース系繊維が単一構造レーヨンである場合には、密着性および平滑性に加えて、不織布の透明性が向上し、特許文献3で提案された不織布よりも高い目付(特に、48g/m2よりも大きく100g/m2以下)の不織布にも透明性を付与し得る。
【0060】
第2セルロース系繊維の割合が小さすぎると、不織布の密着性および平滑性の一方または両方が不十分なものとなることがある。一方、第2セルロース系繊維の割合が大きすぎると、不織布が過度に柔軟なものとなって、シートの製造および加工時、ならびに使用時において、取り扱いにくくなることがある。また、第2セルロース系繊維が単一構造レーヨンである場合、その割合が大きいほど、不織布の透明性は向上する傾向にある。
セルロース系繊維層に含まれる第2セルロース系繊維の割合は、特に40質量%以上85質量%以下であってよく、より特には45質量%以上80質量%以下であってよい。
【0061】
セルロース系繊維層が接着性繊維を含む場合、接着性繊維は、セルロース系繊維層の総質量を基準として、20質量%以下の割合で含まれてよく、特に2質量%以上18質量%以下の割合で、より特には4質量%以上16質量%以下の割合で含まれてよい。接着性繊維は、セルロース繊維同士を接着することで、不織布の強度を向上させ、また毛羽立ちを抑制する。接着性繊維の割合が小さすぎると、これらの効果を得られないことがある。接着性繊維の割合が大きすぎると、不織布が硬くなり、触感が低下することがあり、また、セルロース系繊維の割合が小さくなって、不織布全体の保液性が低下することがある。セルロース系繊維層は接着性繊維を含まないものであってよい。
【0062】
本実施形態の不織布において、セルロース系繊維層に含まれる第1セルロース系繊維と第2セルロース系繊維は、セルロース系繊維層の総質量を基準として、合わせて80質量%以上を占めてよく、特に82質量%以上、より特には85質量%以上、さらに特には90質量%以上を占めてよい。この構成により、二種類のセルロース系繊維による効果が十分に発揮された不織布を得ることができ、また、不織布の保液性を比較的高くすることができる。
【0063】
本実施形態の不織布は、第1セルロース系繊維と第2セルロース系繊維のみで、またはこれらのセルロース系繊維と他のセルロース系繊維とのみで構成された、オール・セルロース不織布であってよい。そのような不織布を用いたシートは、生分解性を有する環境に配慮した商品として上市できる。
【0064】
セルロース系繊維層が、他の繊維を含む場合、他の繊維は、セルロース系繊維層の総質量を基準として、20質量%以下の割合で含まれてよく、特に18質量%以下の割合で、より特には16質量%以下の割合で含まれてよい。他の繊維の割合が大きすぎると、第1および第2セルロース系繊維の割合が小さくなり、不織布の密着性、平滑性および/または保液性が低下することがある。
【0065】
本実施形態の不織布は、上記セルロース系繊維層のみで構成された単層構造の不織布であってよい。そのような不織布は、構成がシンプルであって、容易に製造できる。また、単層構造の不織布を用いたシートは、いずれの面を皮膚と接触させても、密着性や触感に大きな差が生じないため、使用に際し表裏を識別する手間が省かれて、使い勝手がよくなる。また、単層構造の不織布は、シートの製造に際して、表裏を識別するための刻印やしるしの付与等が不要とすることができ、効率的に製造できる。
【0066】
あるいは、本実施形態の不織布は、上記セルロース系繊維層のみからなるが、繊維の混合割合等が異なる二つのセルロース系繊維層が積層されてなるものであってよく、あるいは他の繊維層と積層されたものであってよい。
【0067】
本実施形態において、セルロース系繊維層中の繊維、およびセルロース系繊維層と他の繊維層とが積層されている場合には層中および層間の繊維は、繊維同士が交絡することにより一体化されている。繊維同士の交絡は、例えば、ニードルパンチ処理、または高圧流体流(特に水流)交絡処理によるものであってよい。本実施形態では、高圧流体流(特に水流)交絡処理により繊維同士が一体化されていることが好ましい。高圧流体流を用いた交絡処理によれば、不織布の表面を滑らかなものとすることができる。また、高圧流体流が高圧水流である場合には、親水性繊維であるセルロース系繊維同士の交絡が円滑に進行し、製造が容易となる。
【0068】
本実施形態の不織布において、セルロース系繊維層が接着性繊維を含む場合、接着性繊維により繊維同士が接着していてよい。繊維同士が交絡に加えて接着されることで、不織布の機械的強度をより向上させることができる。
【0069】
本実施形態の不織布においてセルロース系繊維層の目付は特に限定されず、例えば、40g/m2以上であってよく、特に45g/m2以上、より特には48g/m2を超え、より特には50g/m2以上であってよい。セルロース系繊維層の目付の上限は、例えば100g/m2であってよく、特に90g/m2、より特には70g/m2であってよい。
【0070】
本実施形態の不織布がセルロース系繊維層のみからなる場合、上記セルロース系繊維層の目付がそのまま不織布の目付となる。セルロース系繊維層と他の繊維層とが積層された積層不織布の場合には、セルロース系繊維層の目付が上記範囲内となるように、不織布の用途等に応じて、他の繊維層の目付を選択してよい。
【0071】
不織布の目付は用途や含浸すべき液体の量等に応じて、および/またはセルロース系繊維層に積層する他の繊維層がある場合には当該他の繊維層の構成等に応じて決定される。例えば、シートがフェイスマスクである場合には、不織布の目付は40g/m2以上120g/m2以下、特に45g/m2以上100g/m2以下としてよい。シートがアイシート(目元パックともいう)である場合には、不織布の目付は、40g/m2以上120g/m2以下、特に45g/m2以上100g/m2以下としてよい。不織布の目付が大きすぎる場合、シートの質量が大きくなり、皮膚に貼り付けたときに重みで剥がれやすくなることがある。不織布の目付が小さすぎる場合、十分な量の液体を保持できないことがある。
【0072】
本実施形態の不織布が単一のセルロース系繊維層で構成される場合、不織布の目付がそのままセルロース系繊維層の目付となる。不織布が二以上のセルロース系繊維層により、またはセルロース系繊維層と他の繊維層とにより構成される場合、各層の目付は用途および所望の機能等に応じて適宜決定してよい。いずれの場合も、セルロース系繊維層の目付は、例えば、40g/m2以上、特に45g/m2以上としてよく、また、120/m2以下、特に100g/m2以下としてよい。
【0073】
本実施形態の不織布の厚さは、乾燥時において、294Paの荷重を加えた状態で、例えば0.3mm以上、特に0.4mm以上、より特には0.5mm以上であってよい。また、不織布の厚さは、例えば1.5mm以下、特に1.3mm以下、より特には1.2mm以下であってよい。また、不織布全体の厚さは、乾燥時において、1.96kPaの荷重を加えた状態で、例えば、0.3mm以上、特に0.4mm以上、より特には0.5mm以上であってよい。また、同荷重を加えた状態の不織布の厚さは、例えば1.3mm以下、特に1.1mm以下、より特には0.9mm以下であってよい。不織布の厚さが小さすぎると、不織布に含浸させ得る液体の量が少なくなって、所定量の液体を皮膚に供給できないことがある。不織布全体の厚さが大きすぎると、皮膚の曲面にシートを沿わせにくく、シートが部分的に浮く等して、シート全体で均等に皮膚を被覆することが難しくなることがある。
【0074】
本実施形態の不織布は、後述する実施例で説明する方法で保水率を測定したときに、例えば1300%以下の保水率を示すものであってよい。本実施形態の不織布の保水率は、特に1200%以下であってよく、より特には1100%以下であってよく、さらにより特には1000%以下であってよい。本実施形態の保水率の下限は、例えば700%であってよく、特に750%、より特には800%であってよい。
【0075】
保水率は、不織布を構成する繊維の種類および割合、ならびに不織布の目付により変化することがある。したがって、本実施形態の不織布においては、上記の保水率が得られるように、これらを調整してよい。
【0076】
本実施形態の不織布は、セルロース系繊維層表面の乾燥時のCD方向の平均摩擦係数の変動が、例えば0.010以下であってよく、特に0.0098以下、より特には0.0097以下であってよい。セルロース系繊維層表面の乾燥時のCD方向の平均摩擦係数の変動が高すぎると、不織布表面が滑らかでなく、シートとして使用したときに皮膚との密着性が低下することがあり、低すぎると皮膚へ貼るときの取り扱い性が悪くなって、シートの位置調整がしにくくなることがある。
【0077】
本実施形態の不織布は、セルロース系繊維層表面の15分後水分率でのCD方向の平均摩擦係数の変動が、例えば0.013以下であってよく、特に0.01以下、より特には0.0097以下であってよい。15分後水分率でのCD方向の平均摩擦係数の変動は、後述するように、15分後水分率となるように不織布を湿潤させた状態で測定される、不織布のCD方向の平均摩擦係数の変動である。セルロース系繊維層表面の15分後水分率でのCD方向の平均摩擦係数の変動が高すぎると、不織布表面が滑らかでなく、シートとして使用したときに密着性が低下することがあり、低すぎると皮膚へ貼るときの取り扱い性が悪くなって、シートの位置調整がしにくくなることがある。
【0078】
本実施形態の不織布は、セルロース系繊維層表面のMD方向の平均摩擦係数は、例えば0.2以上0.5以下、特に0.25以上0.4以下、より特には0.28以上0.38以下であってよく、CD方向の平均摩擦係数は、例えば0.2以上0.4以下、特に0.25以上0.39以下、より特には0.3以上0.38以下であってよい。平均摩擦係数が上記範囲内にあると、手で触れた時になめらかな感触を有する。
【0079】
本実施形態の不織布の平均摩擦係数の変動は、布帛の風合いを計測し客観的に評価する方法の一つである、KES(Kawabata Evaluation System)法に基づいて計測・評価することができる。具体的には、本実施形態の不織布のセルロース系繊維層の表面を測定面とし、KES法に基づいて平均摩擦係数(以下、MIUとも称す。)、平均摩擦係数の変動(摩擦係数μの平均偏差といわれることもあり、以下、MMDとも称す。)を測定する。MIUは、摩擦、すなわち滑りやすさの程度を示し、これが大きいと摩擦が大きい、滑りにくいことを示す。上記範囲内にあると、MMDは、摩擦のばらつきを示し、これが大きいほど表面がざらざらしていることを示す。平均摩擦係数の変動を測定する機器は、KES法に基づいた表面摩擦の測定が行える機器であれば特に限定されない。例えば、摩擦感テスター(「KES-SE」、カトーテック社製)、自動化表面試験機(「KES-FB4-AUTO-A」、カトーテック社製)等を用いることができる。
【0080】
本実施形態の不織布は、セルロース系繊維層表面の15分後密着力(5cm×12cmの面積あたり)が、例えば、180gf以上、特に190gf以上、より特には200gf以上であってよい。セルロース系繊維層表面の15分後密着力の上限は、特に限定されないが、例えば、300gf、特に280gf、より特には260gfであってよい。15分後密着力は後述するように、15分後水分率となるように不織布を湿潤させた状態で測定される。セルロース系繊維層表面の15分後密着力が低すぎると、シートの使用中に皮膚からシートが部分的に浮き上がることがあり、あるいはシートが所定位置からずれることがある。
15分後密着力は、一般にシートが皮膚に比較的長い時間貼付されて使用されることを考慮し、使用中に液体が皮膚に移動して、あるいは蒸発してシート中の液体量が減少したときでもシートが皮膚になお密着し得るものであるかを評価する指標である。また、使用開始直後のシートには液体が大量に含浸されて、シートそれ自体の密着性を正確に評価することが難しいことも、15分後密着力を採用する理由である。
【0081】
本実施形態の不織布は、乾燥時の剛軟度が、例えば、340mN以上、特に390mN以上、より特には440mN以上であってよい。乾燥時の剛軟度の上限は、例えば、930mN、特に880、より特には785mNである。また、本実施形態の不織布は、湿潤時の剛軟度が、例えば、440mN以上、特に470mN以上、より特には490mN以上であってよい。湿潤時の剛軟度の上限は、例えば、880mN、特に835mN、より特には735mNである。
後述するように、剛軟度はハンドルオメーター法に準じて測定され、本実施形態では試料の四辺について測定した値の和を当該試料の剛軟度とし、これを不織布の柔軟性の指標として採用する。ハンドルオメーターの値が大きいほど、剛性の大きい不織布であるといえる。
剛軟度が小さすぎると、取り扱い性が悪い。剛軟度が大きすぎると、皮膚へ貼り付けた際に、シートが皮膚に沿いにくくなり、浮き上がることがある。
【0082】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD方向の引張強さが、例えば、50N/5cm以上160N/5cm以下であってよく、特に55N/5cm以上150N/5cm以下であってよく、より特には70N/5cm以上140N/5cm以下であってよい。乾燥時のMD方向の引張強さが低すぎると製品加工時に破断することがある。乾燥時のMD方向の引張強さが高すぎると不織布の風合いが良好でない場合がある。
【0083】
本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の引張強さが、例えば、4.5N/5cm以上30N/5cm以下であってよく、特に6.0N/5cm以上25N/5cm以下であってよく、より特には8.0N/5cm以上20N/5cm以下であってよい。乾燥時のCD方向の引張強さが低すぎると不織布にたて筋が入りやすくなる。乾燥時のCD方向の引張強さが高すぎると不織布の風合いが良好でない場合がある。
【0084】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD方向の伸び率が、例えば、15%以上65%以下であってよく、特に18%以上60%以下であってよく、より特には20%以上55%以下であってよい。また、本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の伸び率が、例えば、40%以上150%以下であってよく、特に50%以上140%以下であってよく、より特には55%以上130%以下であってよい。乾燥時のMD方向またはCD方向の伸び率が低すぎると不織布の風合いが良好でない場合がある。乾燥時のMD方向またはCD方向の伸び率が高すぎると製品加工時の打ち抜き時に不良が出やすくなる。
【0085】
本実施形態の不織布は、乾燥時のMD方向の10%伸長時応力が、例えば、7.0N/5cm以上70N/5cm以下であってよく、特に8.0N/5cm以上65N/5cm以下であってよく、より特には9.0N/5cm以上60N/5cm以下であってよい。また、本実施形態の不織布は、乾燥時のCD方向の10%伸長時応力が、例えば、0.4N/5cm以上3.0N/5cm以下であってよく、特に0.45N/5cm以上2.5N/5cm以下であってよく、より特には0.5N/5cm以上2.3N/5cm以下であってよい。乾燥時のMD方向またはCD方向の10%伸長時応力が低すぎると製品加工時の打ち抜き時に不良が出やすくなる。乾燥時のMD方向またはCD方向の10%伸長時応力が高すぎると不織布の風合いが良好でない場合がある。
【0086】
本実施形態の不織布は、湿潤時のMD方向の引張強さが、例えば、30N/5cm以上150N/5cm以下であってよく、特に45N/5cm以上120N/5cm以下であってよく、より特には55N/5cm以上100N/5cm以下であってよい。また、本実施形態の不織布は、湿潤時のCD方向の引張強さが、例えば、7.0N/5cm以上35N/5cm以下であってよく、特に10N/5cm以上25N/5cm以下であってよく、より特には11.0N/5cm以上20N/5cm以下であってよい。湿潤時のMD方向またはCD方向の引張強さが低すぎると製品となった液体含浸皮膚被覆シートの取り出し時に破断することがある。湿潤時のMD方向またはCD方向の引張強さが高すぎると不織布が折れ曲がりにくくなり、凹凸のある皮膚への追従性が低下することがある。
【0087】
本実施形態の不織布は、湿潤時のMD方向の伸び率が、例えば、15%以上55%以下であってよく、特に20%以上50%以下であってよく、より特には22%以上48%以下であってよい。また、本実施形態の不織布は、湿潤時のCD方向の伸び率が、例えば、60%以上160%以下であってよく、特に65%以上155%以下であってよく、より特には70%以上150%以下であってよい。湿潤時のMD方向またはCD方向の伸び率が低すぎると皮膚へ不織布を貼り付けにくくなる。湿潤時のMD方向またはCD方向の伸び率が高すぎると製品となった液体含浸皮膚被覆シートの取り出し時に大きく伸びることがある。
【0088】
本実施形態の不織布は、湿潤時のMD方向の10%伸長時応力が、例えば、2.0N/5cm以上45N/5cm以下であってよく、特に2.5N/5cm以上40N/5cm以下であってよく、より特には3.0N/5cm以上35N/5cm以下であってよい。また、本実施形態の不織布は、湿潤時のCD方向の10%伸長時応力が、例えば、0.20N/5cm以上2.5N/5cm以下であってよく、特に0.28N/5cm以上2.0N/5cm以下であってよく、より特には0.30N/5cm以上1.8N/5cm以下であってよい。湿潤時のMD方向またはCD方向の10%伸長時応力が高すぎると皮膚へ不織布を貼り付けにくくなる。湿潤時のMD方向またはCD方向の10%伸長時応力が低すぎると液体含浸皮膚被覆シートに目や口等の部分が打ち抜かれている場合、貼り付ける際に目や口等の位置が伸びてずれ、使用しにくいことがある。
【0089】
(不織布の製造方法)
本実施形態の不織布は、例えば、
第1セルロース系繊維を5質量%以上50質量%以下の割合で、
湿潤時強度及び/又は湿潤時見掛ヤング率が第1セルロース系繊維のそれよりも低い第2セルロース系繊維を30質量%以上95質量%以下の割合で含む繊維ウェブであって、
第1セルロース系繊維と第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、繊維ウェブを構成する繊維全体の80質量%以上であるセルロース系繊維ウェブを作製すること、および
セルロース系繊維ウェブを、高圧水流を用いた交絡処理に付して繊維同士を交絡させること
を含む製造方法によって製造することができる。
【0090】
セルロース系繊維ウェブは、先に説明した第1および第2セルロース系繊維を用いて、公知の方法で作製することができる。セルロース系繊維ウェブの形態は、例えば、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、および湿式抄紙ウェブ等から選択されるいずれであってもよい。セルロース系繊維ウェブがカードウェブであると、不織布が伸びやすいものとなり、皮膚への装着性の良いシートを得やすい。
【0091】
セルロース系繊維ウェブの作製に際しては、二以上の同一の又は異なるセルロース系繊維ウェブを積層することを含んでよい。
セルロース系繊維ウェブを作製後、他の繊維ウェブを積層して、積層繊維ウェブを作製すれば、積層不織布を得ることができる。他の繊維ウェブは、上記公知の方法で作製されたものであってよく、あるいは不織布(例えば長繊維不織布、メルトブローン不織布)、編物または織物等、繊維間がある程度一体化されたシート状物であってよい。
【0092】
セルロース系繊維ウェブ、またはこれと他の繊維ウェブとを積層した積層繊維ウェブは繊維同士を交絡させる処理に付される。繊維同士を交絡させる処理は、例えば、高圧流体流を用いた交絡処理であってよい。
【0093】
高圧流体流処理において、高圧流体は、例えば、圧縮空気等の高圧気体、および高圧水等の高圧液体である。不織布の製造においては、高圧流体として高圧水を用いた水流交絡処理を用いることが多く、本実施形態においても、実施の容易性等の点から、水流交絡処理が好ましく用いられる。以下においては、高圧流体として高圧水(以下においては、単に「水流」とも呼ぶ)を用いた場合の製造方法を説明する。
【0094】
水流交絡処理は、支持体にセルロース系繊維ウェブを載せて、柱状水流を噴射することにより実施する。例えば、支持体は、80メッシュ以上、100メッシュ以下の平織の支持体であることが好ましい。水流交絡処理は、孔径0.05mm以上、0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上、1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上15MPa以下の水流を、セルロース系繊維ウェブの表裏面にそれぞれ1~5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は、例えば1MPa以上10MPa以下であり、特に2.0MPa以上7.0MPa以下、より特には3.0MPa以上6.0MPa以下である。
【0095】
水流交絡処理は、セルロース系繊維ウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が0.6kWh/kg/m以下となるように実施してよい。
【0096】
噴射する水流により繊維ウェブに印加されるエネルギー(E)は、下記の式によって求められる。ノズルのオリフィス数や水圧などが異なる条件で複数回噴射する場合は、それぞれにおいてEを算出し、その合計を総和する。
【0097】
E=W×N×T/(M/1000×U×60)/1000
E:1kg当たりの繊維ウェブに対し、1m幅当たりに1時間で印加するエネルギー(kWh/kg/m)
W:ノズルのオリフィス1孔当たりの流体(本実施形態においては水)の仕事率(W)
N:ノズルに1m幅当たりに開いているオリフィス数
T:噴射回数
M:水流交絡処理対象の目付(g/m2)
U:搬送速度(m/分)
【0098】
上記式におけるW(ノズルのオリフィス1孔当たりの流体の仕事率)は、下記の式によって求められる。
W=P1×(F/100)×0.163
W:ノズルのオリフィス1孔当たりの流体の仕事率(W)
P1:水圧(kgf/cm2)
F:ノズルの1つのオリフィスから吐出される水の流量(cm3/分)
【0099】
上記式におけるF(ノズルの1つのオリフィスから吐出される水の流量)は、下記の式によって求められる。
F=S×V
F:ノズルの1つのオリフィスから吐出される水の流量(cm3/分)
S:ノズルの1つのオリフィスから吐出される流体の面積(mm2)
V:ノズルから吐出される流体の流速(m/分)
【0100】
上記式におけるV(ノズルから吐出される流体の流速)は、下記の式によって求められる。
V=(20×g×(P1-P2)/ρ)1/2×60
V:ノズルから吐出される流体の流速(m/分)
g:重力加速度、9.8m/s2
P1:水圧(kgf/cm2)
P2:大気圧(kgf/cm2)
ρ:流体の密度(g/cm3)
E等の決定方法についての詳細は、特許第4893256号公報に記載されている。
【0101】
セルロース系繊維ウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が0.6kWh/kg/m以下とすることで、セルロース系繊維同士の過度の交絡が防止され、繊維の自由度が適度に確保されので、ふんわりとした触感と、高い密着性を有する不織布を得やすい。Eの総和は特に0.5kWh/kg/m以下、より特には0.45kWh/kg/m以下であってよい。
【0102】
セルロース系繊維ウェブが接着性繊維を含む場合、交絡処理後のセルロース系繊維ウェブを接着処理に付して、得られる不織布において繊維同士が接着された構成が得られるようにしてよい。接着処理は熱接着処理であってよく、あるいは、電子線照射による接着、または超音波溶着であってよい。熱処理によれば、接着性繊維(例えば、複合繊維の低融点成分)が熱処理の際、加熱によって溶融または軟化して、セルロース系繊維ウェブを構成する繊維同士を接着することができる。
【0103】
熱処理は、例えば、熱風を吹き付ける熱風加工処理、熱ロール加工(熱エンボスロール加工)、または赤外線を使用した熱処理である。熱風加工処理は、所定の温度の熱風をセルロース系繊維ウェブに吹き付ける装置、例えば、熱風貫通式熱処理機、または熱風吹き付け式熱処理機を用いて実施してよい。
【0104】
熱処理温度(例えば、熱風の温度)は、接着性繊維を構成する成分のうち、接着成分として機能させる成分が軟化または溶融する温度としてよい。例えば、熱処理温度は、当該成分の融点以上の温度としてよい。接着性繊維が、例えばポリエチレンを構成成分として含み、ポリエチレンを接着成分とする場合には、熱処理温度を130℃~150℃としてよく、ポリブチレンサクシネートを接着成分とする場合には、熱処理温度を115℃~133℃としてよい。
【0105】
(液体含浸皮膚被覆シート)
本実施形態の不織布に液体を含浸させることにより、人または動物の皮膚を被覆するための液体含浸皮膚被覆シートが得られる。含浸させる液体および含浸量は、用途に応じて適宜選択される。シートを、対人用フェイスマスク、角質ケアシートおよびデコルテシートといった、対人用液体含浸皮膚被覆シートとして提供する場合には、有効成分を含む液体(例えば化粧料)を不織布100質量部に対して、500質量部以上2000質量部以下の含浸量で含浸させてよく、特に600質量部以上1800質量部以下の含浸量で含浸させてよく、より特には700質量部以上1500質量部以下の含浸量で含浸させてよい。有効成分は、例えば、保湿成分、角質柔軟成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、および痩身成分等であるが、これらに限定されるものではない。
【0106】
フェイスマスクは、顔を被覆するのに適した形状を有し、さらに、例えば、目、鼻および口に相当する部分に、必要に応じて打ち抜き加工による開口部又は切り込み部が設けられた形態で提供される。あるいは、フェイスマスクは、顔の一部分(例えば、目元、口元、鼻または頬)のみを覆うような形状のものであってよい。あるいはまた、フェイスマスクは、目の周囲を覆うシートと、口の周囲を覆うシートとから成るセットとして提供してよく、あるいは3以上の部分を別々に覆うシートのセットとして提供してよい。
【0107】
角質ケアシートは角質が厚く、硬化しやすい踵、肘、膝などに使用される皮膚被覆シートであり、角質柔軟成分および保湿成分等を含む液体を含浸させることにより、角質に対し保湿や軟化を促す効果、あるいは余分な角質の除去を促進する効果を発揮する。本実施形態の不織布は、いずれの効果・効能を発揮する角質ケアシートにおいても、基材として使用することができる。角質ケアシート、例えば踵用の角質ケアシートは、貼り付ける際に、シートが踵の曲線に合わせやすくなるように、切り込みおよび/もしくは切り欠き、ならびに/またはシートの一部が打ち抜かれて開口部を有する形態で提供される。
【0108】
液体含浸皮膚被覆シートは、身体の任意の部位(例えば、首、手の甲、首から胸元までの部位(デコルテとも呼ばれている))を保湿またはその他のケアをするために用いられる、保湿成分またはその他の有効を含む液体を含浸させた保湿シートであってよい。あるいは、液体含浸皮膚被覆シートは、痩身成分を含む液体を含浸させた、痩身用シートであってよい。痩身用シートは、例えば、大腿部または腹部に貼り付けて用いられる。
【0109】
本実施形態の不織布を用いた液体含浸皮膚被覆シートは、セルロース系繊維層の表面を皮膚接触面として使用することで、第2セルロース系繊維の作用により、皮膚へ良好に密着する。また、本実施形態のシートにおいて、セルロース系繊維層の表面は平均摩擦係数の変動が比較的小さいため、滑らかな触感を使用者に与える。
【0110】
第2セルロース系繊維が単一構造レーヨンである場合には、透明性の高いシートが得られる。透明性の高いシートは、これを皮膚に密着させたときに、皮膚の色が透けて見えるため、使用者の心理的な着用感(例えば圧迫感)を軽減し得る。また、透明性の高いシートは、皮膚と密着している部分とそうでない部分の識別を容易にするため、目視で確認しながら、密着が不十分な部分だけを手で押さえる等して、対象部位への均一な貼付を手早く行うことを可能にする。さらに、透明感のあるシートは、貼付している間、万一皮膚に変化が生じたでも、シートから皮膚が透けて見えるため、その変化を使用者に気付きやすくし、皮膚が敏感な使用者に安心感を与える。
【0111】
単一構造レーヨンを第2セルロース系繊維とした不織布は、湿潤時のみならず、乾燥時も高い透明性を示す。そのため、この不織布を、使用者が使用直前に液体を含浸させて使用するシートとする場合には、液体含浸前に透明であるシートは、その外観によって、高級感、清涼感、および皮膚への低刺激感等を使用者に与え得る。
【実施例0112】
以下、本実施形態を、実施例により説明する。
本実施例で使用する繊維として以下のものを用意した。
セルロース系繊維A:繊度1.7dtex、繊維長38mmの酸化チタンを含有しない、灰分0.11質量%の溶剤紡糸セルロース繊維(商品名テンセルスキン、Lenzing社製)。
セルロース系繊維B:繊度1.7dtex、繊維長38mmの酸化チタンを含有する、灰分0.67質量%の溶剤紡糸セルロース繊維(商品名レンチングリヨセル、Lenzing社製)。
セルロース系繊維C:繊度1.7dtex、繊維長40mmの酸化チタンを含有しない、灰分0.14質量%の単一構造レーヨン(商品名ベーリービーズ、ダイワボウレーヨン(株)製)。
セルロース系繊維D:繊度1.7dtex、繊維長44mmの酸化チタンを含有しない、灰分0.14質量%のビスコースレーヨン(商品名:コロナBH、ダイワボウレーヨン(株)製)。
セルロース系繊維E:繊度1.7dtex、繊維長40mmの酸化チタンを含有する、灰分0.56質量%のビスコースレーヨン(商品名コロナCD、 ダイワボウレーヨン(株)製)
接着性繊維A:繊度1.7dtex、繊維長51mm、芯がポリプロピレン、鞘が高密度ポリエチレン(融点:約133℃)である同心芯鞘型複合繊維(商品名:NBF(H)P、大和紡績(株)製)。
【0113】
上記セルロース系繊維AないしEの繊維物性を表1に示す。表1中、各物性は、JIS L 1015:2010で定められた方法に従って評価した。
【0114】
【0115】
セルロース系繊維AないしEの繊維断面(横断面)の電子顕微鏡写真を
図1ないし
図5に示す。
【0116】
(実施例1)
セルロース系繊維Aを15質量%、セルロース系繊維Bを70質量%、接着性繊維Aを15質量%混合して、パラレルカード機を用いて、狙い目付50g/m2でセルロース系繊維ウェブを作製した。この繊維ウェブを、90メッシュの平織の支持体に載置して、4m/分の速度で搬送しつつ、繊維ウェブの一方の表面に2.0MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いて第1繊維ウェブの他方の表面に2.0MPaの水圧の水流を1回噴射する水流交絡処理を行った。水流交絡処理で使用したノズルは、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルであり、処理中、ノズルと繊維ウェブとの間の間隔は20mmとした。高圧水流によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和は、0.38kWh/kg/mであった。
【0117】
次いで、水流交絡処理後の繊維ウェブを、80℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて乾燥させた後、135℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて、接着性繊維Aの接着成分(高密度ポリエチレン、鞘成分)により繊維同士を熱接着させて、実施例1の不織布を得た。
【0118】
(実施例2~5、比較例1~4および9)
セルロース系繊維ウェブを構成する繊維の種類および割合、ならびに繊維ウェブの狙い目付を表2~4に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様の手順で不織布を得た。
【0119】
(比較例5~8)
セルロース系繊維ウェブを構成する繊維の種類および割合、ならびに繊維ウェブの狙い目付を表2および表3に示すとおりとした。
繊維ウェブを、90メッシュの平織の支持体に載置して、10m/分の速度で搬送しつつ、繊維ウェブの一方の表面に2.0MPaの水圧の水流を1回噴射し、続いて第1繊維ウェブの他方の表面に3.0MPaの水圧の水流を1回、4.0MPaの水圧の水流を2回噴射する水流交絡処理を行った。水流交絡処理で使用したノズルは、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルであり、処理中、ノズルと繊維ウェブとの間の間隔は20mmとした。高圧水流によりウェブに印加されるエネルギー(E)の総和は、0.66kWh/kg/mであった。
次いで、水流交絡処理後の繊維ウェブを、80℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて乾燥させた後、135℃に設定した熱風貫通式熱処理機を用いて、接着性繊維Aの接着成分(高密度ポリエチレン、鞘成分)により繊維同士を熱接着させて、比較例5~8の不織布を得た。
【0120】
不織布の評価は、下記のように行った。
<不織布の厚さ>
厚み測定機((株)大栄科学精器製作所製のTHICKNESS GAUGE モデル CR-60A(商品名))を用い、不織布に294Pa又は1.96kPaの荷重を加えた状態で、不織布の厚さを測定した。
【0121】
<強伸度>
強伸度は、JIS L 1913:2010 6.3に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重値(引張強さ)、伸び率、ならびに10%伸長時応力(10%伸長させるのに必要な力)を測定した。引張試験は、不織布の縦方向(MD方向)および横方向(CD方向)を引張方向として実施した。評価結果はいずれも3点の試料について測定した値の平均で示している。
乾燥時(標準時、DRY)及び湿潤時(WET)の引張強さ等について測定した。湿潤時の測定は試料100質量部に対し、250質量部の蒸留水を含浸させて実施した。
【0122】
<剛軟度>
不織布の剛軟度は、JIS L 1913:2010 6.7.5 ハンドルオメーター法に準じて測定した。具体的には、次の手順で測定した。
試料台の上に縦:15cm、横:15cmの試料片(試料片100質量部に500質量部の蒸留水を含浸させたもの)を試料片の測定方向がスロット(隙間幅10mm)と直角になるように置く。
【0123】
次に、試料台の表面から8mmまで下がるように調整されたペネトレータのブレードを下降させ、試料片を押し込む。測定は、いずれか一方の辺から6.7cm(試料片の幅の1/3)の位置で、縦方向及び横方向それぞれ表裏異なる個所について行い、押し込みに対する抵抗値を読み取る。抵抗値として、マイクロアンメータの示す最高値(cN)を読み取る。4辺それぞれについて読み取った抵抗値の合計値を求める。この合計値を求める操作を同一の不織布から採取した3つの試料片について実施し、合計値の平均値を算出して、当該試料の剛軟度(cN)とする。
なお、湿潤状態の試料の剛軟度は、試料に資料の質量の500%に相当する蒸留水を含浸させて測定した。また、湿潤時の試料の測定に際しては、試料台の上にポリエチレン製シート(縦:23cm、横:23cm、厚み0.06mm)を置き、その上に試料を置いて測定を実施した。さらに、ポリエチレン製シートのみの剛軟度を測定し、試料について測定した値からシートのみについて測定した値を引き、湿潤状態の試料の剛軟度とした。
【0124】
<平均摩擦係数の変動>
平均摩擦係数の変動は、KES(Kawabata Evaluation System)法に基づいて測定した。具体的には、カトーテック社製の「KES-SE」摩擦感テスターを使用した。測定面は、セルロース系繊維層の表面とし、摩擦子に対し静荷重を25gf(245N)かけ、摩擦子を不織布のMD方向およびCD方向に平行な方向に、移動速度1mm/secで移動させて、各方向の不織布の平均摩擦係数(MIU)および平均摩擦係数の変動(MMD)を測定した。一つの試料につき、各方向において6回測定を実施し、最低値と最高値を除く4つの値の平均値をその試料の当該方向におけるMMDとした。
【0125】
なお、湿潤状態の平均摩擦係数の変動は、15分後水分率を以下に説明する方法で求め、15分後水分率を求めた試料片と同じサンプルから採取した試料片100質量部に15分後水分率と同じ水分率となるように蒸留水を含浸させた状態で測定して求めた。
【0126】
[15分後水分率]
5cm×6cmの試料片(MD×CD)を用意し、試料片の質量を測定した後、試料片100質量部に対して1000質量部の蒸留水を含浸させた。蒸留水を含浸させた試料片を32℃に調整した金属製プレートの上に置いて15分後の質量を測定して、下記の式に従って15分後水分率を算出した。
15分後水分率(%)=[(m2-m1)/m1]×100
m1:蒸留水を含浸させる前の不織布の質量(g)
m2:32℃の金属製プレートの上に15分置いた後の不織布の質量(g)
【0127】
<密着力>
密着力は、静・動摩擦測定機(トライボマスターTL201Ts、株式会社トリニティラボ製)を用いて測定した。試料片として、15分後水分率を求めた試料片と同じサンプルから採取した12cm×5cmの試料片を用意した。試料片は不織布のMD方向、CD方向が長辺となるものをそれぞれ用意した。測定機(テーブル摺動型)の測定テーブルに人工皮膚(縦24cm×横12cm、商品名:BIO SKIN PLATE、製造販売元:株式会社ビューラックス)を取り付けた。
【0128】
各試料片の15分後水分率に基づいて、試料片100質量部に15分後水分率と同じ水分率となるように蒸留水を含浸させた状態で、測定機のクリップで試料片の短辺側の端部(当該箇所を「クリップ端部」とする)を水平方向に把持するために挟んだ。測定テーブルを移動させて、クリップ端部と対向する端部(当該箇所を「非クリップ端部」とする)から試料の長辺8cm×短辺5cmの領域だけが人工皮膚と重なるように水平に重ねた。試料片の長辺方向に沿って、測定テーブルを試料の長辺方向と平行に、クリップ端部から遠ざかる方向に速度10mm/secで移動させた時の最大抵抗力(N)を読み取った。一つの実施例につきMD方向及びCD方向それぞれについて5枚の試料片について測定し、最低値と最高値を除いて、各方向につき、最大抵抗力(N)の平均値を求め、これを密着力とした。
【0129】
<保水率>
不織布を縦(MD)方向×横(CD)方向=100mm×100mmに切断し、不織布の質量を測定した後、蒸留水に2分間浸した。それから、蒸留水を含浸させた不織布の三隅を洗濯ばさみで挟んで吊し、10分経過後の質量を測定して、下記の式に従って保水率を算出した。なお測定は温度23±5℃、相対湿度50±20%の条件で行った。
保水率(%)=[(M2-M1)/M1]×100
M1:蒸留水を含浸させる前の不織布の質量(g)
M2:蒸留水を含浸させてから10分間吊した後の不織布の質量(g)
【0130】
<透明度>
特許文献1に記載の方法に準じて、乾燥時および湿潤時の不織布の白度(WI値)をSCI方式で測定することにより、評価した。具体的には、10cm×10cm(MD×CD)の試料片を用意し、これを黒色のアクリル板の上に載置し、試料の白度を色差計(コニカミノルタ製、商品名CM-700d)で測定した。湿潤時の不織布の白度の測定は、試料片100質量部に対して蒸留水を350質量部、および700質量部含浸させた状態のものを用意し、この状態で試料を黒色アクリル板の上に載置して実施した。
乾燥時および湿潤時のいずれの測定に際しても、不織布を黒色アクリル板の上に密着させるために、ローラ(幅7.5cm、質量190g、線圧25.3gf/cm)で押さえた。
この方法で測定される白色度が小さいほど、透明度は高いこととなる。
【0131】
実施例1~5および比較例1~9の評価結果を表2~4に示す。
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
実施例1~5はいずれも、15分後密着力が180gf以上であり、湿潤状態で高い密着性を示した。また、実施例1~5は、湿潤状態でのCD方向における平均摩擦係数の変動が0.013以下であり、滑らかな触感、または局所的に触感の変化を感じにくい均一的な触感を与えるものであった。さらに、実施例1~5はいずれも湿潤状態での白度が低く、透明性が比較的高いものであり、加えて実施例1~3および5は、乾燥時の透明性が比較例1と比較して有意に高かった。
【0136】
比較例1および2においては、単一構造レーヨンではなく通常のビスコースレーヨンを使用した。そのため、15分後密着力が180gfを下回り、密着性の点で実施例よりも劣っていた。また、透明性も実施例と比較して低いものであった。これは通常のビスコースレーヨンそのものの透明性が低いことによると考えられる。
【0137】
比較例3においては、単一構造レーヨンではなく、酸化チタンを含まず灰分率の比較的小さいビスコースレーヨンを使用した。そのため、透明性の点では実施例と同等であったが、15分後密着力が180gfを下回り、密着性の点で実施例よりも劣っていた。
比較例4は、実施例2よりも小さい目付を有しており、実施例2と比較して、密着力が小さく、湿潤状態でのCD方向における平均摩擦係数の変動が高かった。これは、目付の減少に伴い、厚さが小さくなってクッション性が低下したことに起因すると推察される。厚さが小さくなることで、15分後水分率が小さくなって、不織布と皮膚との間の液体量が減少することで、液体に起因する密着力が低下したと考えられる。また、クッション性が低下することで、不織布表面の小さな凹凸を摩擦子が検知しやすくなり、平均摩擦係数の変動が高くなったと推察される。
【0138】
比較例5~8は、特許文献1の実施例に近い構成のものであり、特許文献1の実施例で採用された水流交絡処理条件に近い条件で水流交絡処理を実施して製造したものである。これらの比較例はいずれも乾燥状態および湿潤状態で高い透明性を示したが、セルロース系繊維A(第1セルロース系繊維に相当)と組み合わせて用いたセルロース系繊維Dの湿潤時強度が1.2cN/dtexを超えていたため、15分後密着力が180gfを下回り、密着性の点で実施例よりも劣っていた。同様の傾向は、比較例6と同じ繊維を使用し、同じ狙い目付のセルロース系繊維ウェブを作製し、水流交絡処理の条件を実施例1~5で採用した条件とした比較例9においても見られた。
【0139】
本実施形態には以下の態様が含まれる。
(態様1)
湿潤時強度が1.5cN/dtex以上および/または湿潤時見掛ヤング率が1000N/mm2以上である第1セルロース系繊維と、
湿潤時強度が1.2cN/dtex以下および/または湿潤時見掛ヤング率が930N/mm2以下である第2セルロース系繊維とを含む、セルロース系繊維層を含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第1セルロース系繊維を、5質量%以上50質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第2セルロース系繊維を、30質量%以上95質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層において、前記第1セルロース系繊維と前記第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、前記セルロース系繊維層を構成する繊維全体の80質量%以上であり、
前記セルロース系繊維層の目付は、40g/m2以上である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様2)
前記第1セルロース系繊維は、湿潤時強度が2.9cN/dtex以下および/または湿潤時見掛ヤング率が3200N/mm2以下である、態様1の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様3)
第1セルロース系繊維と第2セルロース系繊維とを含む、セルロース系繊維層を含み、
前記第1セルロース系繊維は灰分が0.5質量%以下の溶剤紡糸セルロース繊維であり、
前記第2セルロース系繊維が、下記(1)ないし(3)
(1)横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.0以下である、ビスコースレーヨン、
凹凸度=L2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
(2)横断面が単一構造を有し、横断面の輪郭が円形、楕円形もしくは繭玉形、または切れ目を有する円形、楕円形もしくは繭玉形である、ビスコースレーヨン、
(3)横断面が単一構造を有し、かつ以下の式により求められる横断面の扁平度が1.80以上であり、かつ以下の式により求められる横断面の凹凸度が2.50以下である、ビスコースレーヨン
扁平度=a/b
(式中、aは横断面の任意の二点を結ぶ最長の線分Aの長さであり、bは線分Aに対して垂直であり、かつ線分Aと平行な線分とともに横断面に外接する長方形または正方形を構成する線分の長さである。)
凹凸度=L2/(4π・S)
(式中、Lは横断面の周長、Sは横断面の面積である。)
から選択される1または複数のビスコースレーヨンであり、
前記セルロース系繊維層は、前記第1セルロース系繊維を、5質量%以上50質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第2セルロース系繊維を、30質量%以上95質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層において、前記第1セルロース系繊維と前記第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、前記セルロース系繊維層を構成する繊維全体の80質量%以上であり、
前記セルロース系繊維層の目付は、40g/m2以上である、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様4)
前記第2セルロース系繊維は灰分が0.5質量%以下のものである、態様2の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様5)
第1セルロース系繊維と、湿潤時強度及び/又は湿潤時見掛ヤング率が第1セルロース系繊維のそれよりも低い第2セルロース系繊維とを含む、セルロース系繊維層を含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第1セルロース系繊維を、5質量%以上50質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層は、前記第2セルロース系繊維を、30質量%以上95質量%以下の割合で含み、
前記セルロース系繊維層において、前記第1セルロース系繊維と前記第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、前記セルロース系繊維層を構成する繊維全体の80質量% 以上であり、
前記セルロース系繊維層の表面の湿潤状態でのCD方向における平均摩擦係数の変動が0.013以下であり、前記セルロース系繊維層の表面について測定される15分後密着力が180gf以上である、液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様6)
前記第1セルロース系繊維および前記第2セルロース系繊維の一方または両方は、その灰分が0.5質量%以下である、態様1、2または5の液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様7)
前記セルロース系繊維層の表面の湿潤状態でのCD方向における平均摩擦係数の変動が0.013以下であり、前記セルロース系繊維層の表面について測定される15分後密着力が180gf以上である、態様1~4のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様8)
前記セルロース系繊維層が接着性繊維を含み、前記セルロース系繊維層を構成する繊維が前記接着性繊維で接着されている、態様1~7のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様9)
目付が40g/m2以上70g/m2以下である、態様1~8のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様10)
前記セルロース系繊維層のみからなる単層不織布である、態様1~9のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布。
(態様11)
湿潤時強度が1.5cN/dtex以上および/または湿潤時見掛ヤング率が1000N/mm2以上である第1セルロース系繊維を5質量%以上50質量%以下の割合で、湿潤時強度1.2cN/dtex以下及び/又は湿潤時見掛ヤング率が930N/mm2以下である第2セルロース系繊維を30質量%上95質量%以下の割合で含む繊維ウェブであって、前記第1セルロース系繊維と前記第2セルロース系繊維とを合わせた割合が、前記繊維ウェブを構成する繊維全体の80質量%以上である、目付が40g/m2以上であるセルロース系繊維ウェブを作製すること、および
前記セルロース系繊維ウェブを、高圧流体流を用いた交絡処理に付して繊維同士を交絡させること
を含む、
液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
(態様12)
前記高圧流体流が高圧水流であり、
前記高圧水流により前記セルロース系繊維ウェブに印加されるエネルギー(E)の総和が0.6kWh/kg/m以下である、態様11の液体含浸皮膚被覆シート用不織布の製造方法。
(態様13)
態様1~10のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布100質量部に対して、液体を500質量部以上2000質量部以下の量で含浸させてなる、液体含浸皮膚被覆シート。
(態様14)
態様1~10のいずれかの液体含浸皮膚被覆シート用不織布100質量部に対して、液体を500質量部以上2000質量部以下の量で含浸させてなる、フェイスマスク。
本開示の不織布は、特定の第1および第2セルロース系繊維をそれぞれ特定の割合で含むセルロース系繊維層を含み、湿潤状態にて皮膚への良好な密着性を示す。したがって、本開示の不織布は、フェイスマスクのような、液体を含浸させた状態で皮膚を被覆する基材として有用である。