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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169603
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241128BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20241128BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20241128BHJP
   C08L 51/10 20060101ALI20241128BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20241128BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20241128BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20241128BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20241128BHJP
   C08F 292/00 20060101ALI20241128BHJP
   C08F 4/44 20060101ALI20241128BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241128BHJP
   C08F 4/00 20060101ALI20241128BHJP
   C08F 20/00 20060101ALN20241128BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K9/04
C08L23/00
C08L51/10
C08L77/00
C08L55/02
C08K3/20
C08K3/24
C08F292/00
C08F4/44
C08F2/44 A
C08F4/00
C08F20/00 510
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024162518
(22)【出願日】2024-09-19
(62)【分割の表示】P 2020093133の分割
【原出願日】2020-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2019099866
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】小田 義朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 奎都
(57)【要約】
【課題】本発明は、制振性に優れる新たな熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、熱可塑性樹脂の制振性向上用の添加剤、並びに当該熱可塑性樹脂組成物を含む制振材料に関する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを含む、熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを含み、高分子グラフト鎖のグラフト密度が、0.001鎖/nm以上5鎖/nm以下である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物における複合粒子の配合量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1質量部以上300質量部以下である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性樹脂の配合量が、30質量%以上95質量%以下である、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、及びABS樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上の樹脂である、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
粒子が、金属酸化物、金属酸化物塩、金属水酸化物又は金属炭酸塩である、請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
高分子グラフト鎖が、スチレン系モノマー、ニトリル系モノマー、(メタ)アクリル系モノマー、不飽和オレフィン、及び共役ジエン系モノマーからなる群より選択される1種又は2種以上のモノマーからなるポリマーである、請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
高分子グラフト鎖のガラス転移温度が-30℃以上80℃以下である、請求項1~6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂組成物における複合粒子の高分子グラフト鎖の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下である、請求項1~7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
粒子表面に高分子グラフト鎖を結合させる工程、及び熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを溶融混練する工程を含み、
下記工程1及び工程2を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
工程1:重合開始基を粒子表面に結合させる工程
工程2:表面に重合開始基を有する粒子とモノマーとをリビングラジカル重合条件下で接触させる工程
【請求項10】
更に、成形加工工程を含む、請求項9に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、熱可塑性樹脂の制振性向上用の添加剤、並びに当該熱可塑性樹脂組成物を含む制振材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種機器の振動対策が要求されるようになっており、特に、自動車、家電製品、精密機器などの分野において必要とされている。一般的に、制振性の高い材料としては、金属板とゴム、アスファルト等の振動吸収素材を貼り合わせた材料や、あるいは金属板で振動吸収素材を挟み込んだ制振鋼板のような複合型材料が挙げられる。これらの制振材料は高剛性の金属板で形を保持し、振動吸収素材で振動を吸収する。また金属のみでも、双晶や強磁性を利用して運動エネルギーを熱エネルギーに転化させ振動を吸収する合金型材料が挙げられる。ただし複合型材料は異なった素材を貼り合わせるために成形加工性に制限があり、かつ金属鋼板を用いているため、製品自体が重くなる問題があった。また合金型材料も金属のみを用いているため重く、更に制振性能としては不十分であった。
【0003】
このような従来技術に対して、振動抑制機能を有する機能性樹脂組成物が提案されている。例えば、特許文献1には、結晶性ポリプロピレン(PP)に、高密度ポリエチレン(PE)、芳香族炭化水素樹脂が添加・混合された樹脂成分に、補強性無機充填剤が配合されたポリプロピレン系樹脂組成物で成形されてなる制振性樹脂成形品において、前記樹脂組成物が、樹脂成分として、更に、芳香族ビニル-共役ジエン系ブロック共重合体の水素添加物を添加・混合したものであることを特徴とする制振性樹脂成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-331329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、制振性に優れる新たな熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、熱可塑性樹脂の制振性向上用の添加剤、並びに当該熱可塑性樹脂組成物を含む制振材料に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記[1]~[4]に関する。
[1]熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを含む、熱可塑性樹脂組成物。
[2]熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを溶融混練する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
[3]高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子を含む、熱可塑性樹脂の制振性向上用の添加剤。
[4]熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを含む、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物を含む、制振材料。
[5]熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを含む、制振材料。
[6]熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを溶融混練する工程を含む、制振材料の製造方法。
[7]高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子の、熱可塑性樹脂の制振性向上のための使用。
[8]高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子を使用する、熱可塑性樹脂の制振性向上方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、制振性に優れる新たな熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、熱可塑性樹脂の制振性向上用の添加剤、並びに当該熱可塑性樹脂組成物を含む制振材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らは、熱可塑性樹脂組成物に添加するエラストマーと充填剤との間で何らかの結合を生じさせ、これらの界面を強化することで、制振性が向上することを新たに見出した。このメカニズムは定かではないが、エラストマーと充填剤との界面を強化することで、エラストマーでの歪みエネルギーを増大させることができるためと推定される。また、本発明者らは、エラストマーと充填剤とが結合した複合粒子として、充填剤として使用される粒子の表面の重合開始点からエラストマーに相当する高分子グラフト鎖を重合するGrafting from法により得られた複合粒子を用いることで、優れた制振性が得られることについても新たに見出した。これは、Grafting from法により、高分子グラフト鎖が高密度で粒子表面に結合することで、これらの界面を顕著に強化することができるためと推定される。
【0009】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを含む。
【0010】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。このうち、成形性など、得られる樹脂組成物の取り扱い容易性の観点から、好ましくはポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、及びABS樹脂から選ばれる群よりなる1種又は2種以上、より好ましくはポリオレフィン樹脂から選ばれる群よりなる1種又は2種以上、更に好ましくはポリプロピレン樹脂である。
【0011】
熱可塑性樹脂の質量平均分子量は、特に限定されるものではないが、5000~500000のものなどを使用することができる。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性樹脂の配合量としては、所望の弾性率を発揮する成形体や制振材料を得る観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。一方、所望の制振性を発揮する成形体や制振材料を得る観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。熱可塑性樹脂を2種類以上配合する場合における配合量は、熱可塑性樹脂の合計量である。
【0013】
[複合粒子]
複合粒子は、粒子表面に高分子グラフト鎖が結合したものである。粒子としては、公知の充填剤を使用することができ、金属酸化物、金属酸化物塩、金属水酸化物、金属炭酸塩、セルロースなどが挙げられ、好ましくは金属酸化物、金属酸化物塩、金属水酸化物及び金属炭酸塩から選ばれる群よりなる1種又は2種以上であり、より好ましくはシリカ等のケイ素酸化物、及びマイカ、タルク等のケイ酸塩から選ばれる群よりなる1種又は2種以上であり、更に好ましくはシリカである。粒子の形状は、特に限定されるものではなく、板状、粒状、針状、繊維状などが挙げられる。本明細書において単に「粒子」と記載する場合は、複合粒子の製造に用いられる粒子を指す。高分子グラフト鎖としては、スチレン系モノマー、ニトリル系モノマー、(メタ)アクリル系モノマー、不飽和オレフィン、共役ジエン系モノマーなどのホモポリマー又はコポリマーが挙げられ、所望の制振性を発揮する成形体や制振材料を得る観点から、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、及びそれらの誘導体から選ばれる群よりなる1種又は2種以上のホモポリマー又はコポリマーであり、より好ましくはメタクリル酸及びその誘導体から選ばれる1種又は2種以上のホモポリマー又はコポリマーであり、更に好ましくはポリメタクリル酸ブチルである。結合は、所望の制振性を発揮する成形体や制振材料を得る観点から、好ましくは化学結合であり、更に好ましくは共有結合である。
【0014】
複合粒子における高分子グラフト鎖のガラス転移温度(Tg)は、制振性発現の観点から、好ましくは-30℃以上、より好ましくは-10℃以上、更に好ましくは10℃以上、更に好ましくは25℃以上であり、同様の観点から、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下である。また、複合粒子における高分子グラフト鎖はガラス転移温度(Tg)を2以上有していてもよく、-30℃以上80℃以下のTg以外のTgを有していてもよい。複合粒子における高分子グラフト鎖のガラス転移温度(Tg)は、複合粒子の製造に用いられるモノマーや分子量、分子量分布により制御することができる。例えば、複合粒子の場合、グラフト密度が増大し、高分子鎖が伸び切り鎖になった場合、Tgが増大することが知られている。またその場合には、グラフト密度を調整することで、Tgを制御することができる。Tg付近の温度領域では樹脂の粘弾性のtanδが極大となり、制振性発現に有効であり、Tgを制御することで、所望の温度
領域の制振性を高めることができる。ガラス転移温度(Tg)は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0015】
複合粒子における高分子グラフト鎖のグラフト密度は、エラストマーでの歪みエネルギーを増大させる観点から、好ましくは0.001鎖/nm以上、より好ましくは0.01鎖/nm以上、更に好ましくは0.1鎖/nm以上である。一方、高分子鎖のグラフトのしやすさの観点から、好ましくは5鎖/nm以下、より好ましくは3鎖/nm以下、更に好ましくは1鎖/nm以下、更に好ましくは0.3鎖/nm以下である。グラフト密度は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0016】
複合粒子における高分子グラフト鎖の膜厚は、エラストマーでの歪みエネルギーを効率的に増大させる観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは5nm以上である。また、同様の観点から、好ましくは1μm以下、より好ましくは100nm以下、更に好ましくは40nm以下、更に好ましくは15nm以下である。高分子グラフト鎖の膜厚は、後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0017】
複合粒子における高分子グラフト鎖の数平均分子量は、高分子グラフト鎖の膜厚を制御する観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは30,000以上である。また、同様の観点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、更に好ましくは200,000以下である。高分子グラフト鎖の数平均分子量は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における複合粒子の配合量としては、制振性発現の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。一方、所望の弾性率を発揮する成形体や制振材料を得る観点から、好ましくは75質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。複合粒子を2種類以上含有する場合における配合量は、複合粒子の合計量である。
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における複合粒子の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、制振性発現の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上、更に好ましくは40質量部以上である。一方、所望の弾性率を発揮する成形体や制振材料を得る観点から、好ましくは300質量部以下、より好ましくは200質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、更に好ましくは90質量部以下である。本発明の熱可塑性樹脂組成物における複合粒子の高分子グラフト鎖の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、制振性発現の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは10質量部以上である。一方、所望の弾性率を発揮する成形体や制振材料を得る観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における複合粒子の分散粒径は、制振性発現の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは1μm以上であり、同様の観点から、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは10μm以下である。複合粒子は、単独で存在していても、集合体で存在していてもよい。複合粒子の分散粒径は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0021】
[複合粒子の製造方法]
複合粒子は、粒子表面に高分子グラフト鎖を結合させることにより得られる。粒子表面に高分子グラフト鎖を結合させる方法は、高分子鎖のグラフトを行うことができる方法であれば、特に制限はないが、粒子表面の重合開始点から高分子グラフト鎖を重合するGrafting from法が好ましい。重合方法について、特に制限はないが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等などが挙げられる。このうち、高分子鎖の分子量および分子量分布の制御容易性の観点及び多様な共重合体のグラフトがしやすい観点から、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合、リビングカチオン重合が好ましく、広範囲なモノマーに適用できる観点からリビングラジカル重合が更に好ましい。リビングラジカル重合法としては、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)、可逆的付加開裂連鎖移動重合法(RAFT法)、ニトロキシドを介するリビングラジカル重合法(NMP法)を用いることができ、同様の観点から、原子移動ラジカル重合法(ATRP法)が好ましい。
【0022】
より具体的には、複合粒子の製造方法として下記工程2を含む製造態様が例示され、要すれば下記工程1を行ってもよい。下記工程1及び工程2は、リビングラジカル重合における公知の条件で行うことができる。
工程1:重合開始基を粒子表面に結合させる工程
工程2:表面に重合開始基を有する粒子とモノマーとをリビングラジカル重合条件下で接触させる工程
【0023】
工程2における表面に重合開始基を有する粒子は、粒子表面と高分子鎖とを結合する結合基を有するものである限り特に限定されない。重合開始基は、粒子表面に高分子グラフト鎖を結合させる観点から、リビングラジカル重合開始基であり、好ましくは原子移動ラジカル重合開始基、より好ましくはハロアシル基、更に好ましくはα-ハロアシル基、更に好ましくはα-ブロモアシル基、更に好ましくは2-ブロモイソブチリル基である。結合基部の原料となる化合物は、粒子表面に結合する基及び重合開始基を有する化合物、粒子表面に結合する基又は重合開始基を有する化合物などがある。工程1は粒子表面にアミノ基又はヒドロキシ基を導入する工程及び重合開始基を導入する工程を有し、粒子表面に高分子グラフト鎖を結合させる観点から、好ましくは、粒子表面にアミノ基又はヒドロキシ基を導入する工程の後、粒子表面に重合開始基を導入する工程を有する。粒子表面にアミノ基又はヒドロキシル基を導入する工程に用いられる化合物は、粒子表面に結合する基、及びアミノ基又はヒドロキシル基を有する化合物であり、入手容易性の観点から、好ましくはシラン化合物、より好ましくはアミノアルキルシラン化合物、更に好ましくは3-アミノプロピルトリメトキシシランである。粒子表面に重合開始基を導入する工程に用いられる化合物は、重合開始基及びアミノ基又はヒドロキシ基と反応する官能基を有する化合物であり、粒子表面に高分子グラフト鎖を結合させる観点から、好ましくはハロアルカン酸誘導体、より好ましくはブロモアルカン酸誘導体、更に好ましくは2-ブロモー2-メチルプロピオン酸誘導体、更に好ましくは2-ブロモイソブチルブロミドである。粒子として例えば、元々重合開始部位を有している場合や、プラズマ処理等により表面処理された結果として形成された場合などは、重合開始基を有しているため工程1は不要であるが、重合開始基を有しないシリカ、マイカ、タルク、ガラスフィラーなどを使用する場合には工程1を行ってもよい。なお、グラフト密度調整の観点から、工程1において、重合開始基含有シランカップリング剤に重合開始基を含有しないシランカップリング剤を加えて、使用してもよい。工程1における重合開始基を粒子表面に結合させる工程では、粒子を凝集させない観点から、粒子に対して分散媒で分散させる方法が好ましい。
【0024】
工程2におけるモノマーは、制振性エラストマーとして公知の熱可塑性エラストマーを構成するモノマーを使用することができる。このような熱可塑性エラストマーを構成するモノマーとしては、スチレン系モノマー、ニトリル系モノマー、(メタ)アクリル系モノマー、不飽和オレフィン、共役ジエン系モノマーなどが挙げられ、その他側鎖に特定の基を有するモノマーも用いることができる。工程2における表面に重合開始基を有する粒子とモノマーとをリビングラジカル重合条件下で接触させる工程では、粒子、モノマーおよび複合粒子を凝集させない観点から、粒子、モノマーおよび複合粒子に対して分散媒で分散させ、重合する方法が好ましい。
【0025】
また、重合後、複合粒子を任意に精製してもよい。複合粒子の精製工程においては、複合粒子を凝集させない観点から、ポリマーに対して分散媒で分散させ、溶媒を除去する方法が好ましい。更に、重合工程で使用する金属触媒を除去する方法が好ましい。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前記以外の他の成分として、鎖延長剤、可塑剤、有機結晶核剤、無機結晶核剤、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤、他の高分子材料等を配合することができる。
【0027】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、熱可塑性樹脂と、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを溶融混練する工程を含む製造方法が挙げられる。溶融混練には、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いることができる。溶融混練後は、公知の方法に従って、溶融混練物を乾燥又は冷却させてもよい。また、原料は、予めヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等を用いて均一に混合した後に、溶融混練に供することも可能である。溶融混練温度、溶融混練時間は、用いる原料の種類によって一概には設定されないが、好ましくは170~240℃で、15~900秒間が好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂と高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子とを溶融混錬する工程における高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、制振性発現の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは40質量部以上であり、同様の観点から、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは90質量部以下である。
【0029】
[添加剤]
本発明の添加剤は、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子を含む。本発明の添加剤は、鎖延長剤、可塑剤、有機結晶核剤、無機結晶核剤、加水分解抑制剤、難燃剤、酸化防止剤、炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、光安定剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、発泡剤などを任意に含有することができる。更に本発明の添加剤には、共に溶融混練される樹脂の一部(例えば、添加剤中の0.1~50.0質量%)が含まれていてもよい。本発明の添加剤は、熱可塑性樹脂の制振性向上用の添加剤として使用される。従って、本発明では、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子を、熱可塑性樹脂の制振性向上のために使用する方法についても開示するものである。
【0030】
[制振材料]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、熱成形等の様々な成形加工方法を用いることにより、音響機器、電気製品、建築物、産業用機器、自動車部材、二輪車部材、容器等の製品又はそれらの部品あるいは筐体に用いる制振材料として好適に用いることができる。
【0031】
例えば、射出成形により本発明の熱可塑性樹脂組成物を含有する部品又は筐体を製造する場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機に充填して、金型内に注入して成形することにより得られる。
【0032】
射出成形としては、公知の射出成形機を用いることができる。例えば、シリンダーとその内部に挿通されたスクリューを主な構成要素として有するもの〔J75E-D、J110AD-180H(日本製鋼所社製)等〕が挙げられる。なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物の原料をシリンダーに供給してそのまま溶融混練してもよいが、予め溶融混練したものを射出成形機に充填することが好ましい。
【0033】
また、射出成形以外の成形方法を用いる場合も、公知の方法に従って成形すればよく、特に限定はない。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形体は、音響機器、電気製品、建築物、産業用機器、自動車部材、二輪車部材、容器等の製品又はそれらの部品あるいは筐体に用いる制振材料等に好適に用いることができる。これらへの適用は、当該部品、筐体、装置及び機器の製造方法、適用箇所及び所望の目的に応じて適宜設定することができ、当該技術分野の常法に従って用いることができる。
【実施例0035】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0036】
<複合粒子における高分子グラフト鎖のガラス転移温度>
JIS K 7121の方法で測定した。示差走査熱量計(日立ハイテクサイエンス製DSC7020)を用い、複合粒子を40℃から200℃まで10℃/分で昇温し、熱容
量を測定した。中間点ガラス転移温度Tmg(℃)は、DSCサーモグラムにおいて、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度として求めた。
【0037】
<複合粒子における高分子グラフト鎖の数平均分子量>
複合粒子における高分子グラフト鎖の数平均分子量は、複合粒子を製造する工程で同時に生成される複合粒子に結合していない高分子鎖の数平均分子量を高分子グラフト鎖の数平均分子量として測定した。前記数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラム(GPC)はカラムにGMHHR-H+GMHHR-H (カチオン)、溶媒にクロロホルムを用い、流速1.0mL/分、カラム温度40℃の条件で、換算分子量標準としてポリスチレンを用いて測定した。
【0038】
<複合粒子における高分子グラフト鎖のグラフト密度>
グラフト密度(鎖/nm)は、グラフト量(W)とグラフト鎖の数平均分子量(Mn)を測定し、下式によって求めた。なお、グラフト量は熱重量損失測定(TG)により求めた。より具体的には、大気中で、40℃から500℃まで10℃/分で昇温し、その時の重量減少率を測定した。グラフト鎖の数平均分子量は下記に示すゲル浸透クロマトグラム(GPC)法により求めた。
グラフト密度(鎖/nm)=グラフト量(g/nm)/グラフト鎖の数平均分子量×(アボガドロ数)
【0039】
<複合粒子における高分子グラフト鎖の膜厚>
膜厚は、下式から算出した。ポリマー密度は、複合粒子を製造する工程で同時に生成される複合粒子に結合していない高分子鎖のポリマー密度を高分子グラフト鎖のポリマー密度とした。JIS K 7112に準拠したピクノメータ法により測定した
【0040】
【数1】
【0041】
<複合粒子の分散粒径>
熱可塑性樹脂中の複合粒子を、熱可塑性樹脂組成物の試験片の破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。SEMで観察された画像から、30個の複合粒子の断面を選び、それぞれの長径を目視で読み取り、平均値を分散粒径とした。
条件
装置:電界放射型走査電子顕微鏡(S-4000、日立製作所社製)
加速倍率:10kV
スポット径:8mm
倍率:400倍~5000倍
【0042】
[複合粒子1の調製]
a)重合開始基を粒子表面に結合させる工程
a-1)シリカ微粒子表面へのアミノ基の導入
シリカ微粒子(SILFIL NSS-3N、トクヤマ社製、平均粒径120nm)40g、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903、信越化学工業社製)2gをエタノール200mLの中へ加えた。その混合液を室温で12時間攪拌した。その後、エタノールにより洗浄し、シリカ微粒子を遠心分離機により回収した後、110℃、1時間で加熱し、アミノ基導入シリカ微粒子を得た。
【0043】
a-2)アミノ基導入シリカ微粒子表面への重合開始基の導入
500mLのナス型フラスコに上記のアミノ基導入シリカ微粒子40g、無水THF200 mL、無水トリエチルアミン(東京化成工業社製) 1mL、2-ブロモイソブチルブロミド(BIBB、東京化成工業社製)1mLを入れ、室温で2時間撹拌した。その後、THF、メタノールにより洗浄し、重合開始基として2-ブロモイソブチリル基が導入された重合開始基導入シリカ微粒子を遠心分離機により回収した後、重合開始基導入シリカ微粒子メタノール溶液として保存した。
【0044】
b)表面に重合開始基を有する粒子とモノマーとをリビングラジカル重合条件下で接触させる工程
500mLのナス型フラスコに、調製した重合開始基を有するシリカ微粒子40gを含むメタノール溶液、メタノール160mL、水40mL、メタクリル酸ブチル(東京化成工業社製)35gを入れ、窒素バブリングを1時間行った。その後、事前にCu(II)Br(東京化成工業社製)11mg、ペンタメチルジエチレントリアミン(東京化成工業社製)90mgをメタノール2mL中で撹拌したメタノール溶液を注入した。十分に撹拌した後、アスコルビン酸(東京化成工業社製)90mg水溶液を注入し、重合を開始した。その後、40℃に昇温させ、4時間撹拌した。その後、メタノールにより洗浄し、ポリメタクリル酸ブチルをグラフトしたシリカ微粒子を遠心分離機により回収した。高分子グラフト鎖の含有量は35.5質量%であった。
【0045】
[複合粒子2の調製]
b)表面に重合開始基を有する粒子とモノマーとをリビングラジカル重合条件下で接触させる工程
500mLのナス型フラスコに、複合粒子1の調製の工程a)と同様の工程で調製した重合開始基を有するシリカ微粒子40gを含むアニソール溶液、アニソール20mL、メタクリル酸ブチル(東京化成工業社製)60gを入れ、60℃に昇温させ、十分に撹拌した後、窒素バブリングを1時間行った。その後、事前にCu(I)Br(東京化成工業社製)144mg、ペンタメチルジエチレントリアミン(東京化成工業社製)346mgをアニソール2mL中で撹拌したアニソール溶液を注入し、重合を開始した。その後、10時間撹拌した。その後、クロロホルムに分散させ、メタノールとアンモニア水により洗浄し、溶剤乾燥させ、ポリメタクリル酸ブチルをグラフトしたシリカ微粒子を得た。高分子グラフト鎖の含有量は32.0質量%であった。
【0046】
[複合粒子3の調製]
シリカ微粒子の投入量を6gに、アニソールの投入量を60mLに、メタクリル酸ブチルの投入量を180gに、重合温度を80℃に、アニソール2mL中で撹拌したCu(I)Brの量を431mgに、ペンタメチルジエチレントリアミンの量を1040mgに、重合時間を5分に変えた以外は、複合粒子2と同様にして調製した。
【0047】
[複合粒子4の調製]
重合時間を15分に変えた以外は、複合粒子3と同様にして調製した。
【0048】
[複合粒子5の調製]
重合時間を30分に変えた以外は、複合粒子3と同様にして調製した。
【0049】
[複合粒子6の調製]
シリカ微粒子の投入量を20gに、アニソールの投入量を3mLに、メタクリル酸ブチルの投入量を100gに、重合温度を80℃に、変えた以外は、複合粒子2と同様にして調製した。
【0050】
[複合粒子7の調製]
シリカ微粒子をNipsil AQに、重合時間を20分に変えた以外は、複合粒子3と同様にして調製した。
【0051】
[複合粒子8の調製]
シリカ微粒子からマイカ微粒子A-21Sに、重合時間を20分に変えた以外は、複合粒子3と同様にして調製した。
【0052】
[複合粒子9の調製]
シリカ微粒子の投入量を12gに、Cu(I)Brの投入量を861mgに、ペンタメチルジエチレントリアミンの投入量を2080mgに、重合時間を10分に、メタクリル酸ブチルをメタクリル酸ヘキシル(東京化成工業社製)に変えた以外は、複合粒子3と同様にして調製した。
【0053】
[熱可塑性樹脂組成物の調製]
実施例1~3、比較例1
c)複合粒子を熱可塑性樹脂と溶融混錬する工程
ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用いて、表1に記載の各成分を表1に記載の量で配合して、200℃で溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0054】
実施例4~13、15~17
表2、3に記載の配合に変えた以外は実施例1~3と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0055】
実施例14
表3に記載の通りに配合を変え、溶融混練温度を240℃に、プレス成形の溶融温度を240℃に、冷却温度を80℃に変更した以外は実施例1~3と同様にして熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0056】
<損失係数>
オートプレス成形機(東洋精機製作所製)を用い、200℃で溶融後、30℃で冷却し、損失係数試験片(127mm×12.7mm×1.6mm)を成形した。この試験片について、JIS K7391に基づいて、中央加振法により計測した周波数応答関数の2次共振のピークから、半値幅法により損失係数を算出した。発振器はType 3160、増幅器はType 2718、加振器はType 4810、加速度センサはType 8001で構成されるシステムを用い(いずれもB&K社製)、損失係数計測ソフトウェアMS18143を用いた。測定環境は恒温槽(エスペック社製、PU-3J)で制御し、0℃から80℃までの温度範囲で測定した。20℃、80℃での結果を表1~3に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
表1~3に示される各成分の詳細は次のとおりである。
ポリプロピレン:MA03(日本ポリプロ社製)
PBMA:ポリメタクリル酸ブチル(Sigma-Aldrich社製)
SiO:SILFIL NSS-3N(トクヤマ社製)
GF:T-480(日本電子硝子社製)
複合粒子7のSiO:Nipsil AQ(東ソー・シリカ社製)
複合粒子8のマイカ:A-21S(ヤマグチマイカ社製)
ポリアミド:アミランCM1017(東レ社製)
ABS:トヨラック 7000-314(東レ社製)
【0061】
実施例3及び比較例1の熱可塑性樹脂組成物を射出成形し、以下の平板振動試験、ファン振動試験、及びファン回転騒音試験を実施した。結果を表4、5に示す。
【0062】
<平板振動試験>
射出成形機(日本製鋼所社製 J11AD-180H)を用い、実施例3及び比較例1の熱可塑性樹脂組成物を射出成形し、平板試験片(100mm×100mm×2mm)を成形した。シリンダー温度をノズル先端側から5ユニット目までを200℃、残りの1ユニットを170℃、ホッパー下を45℃に設定した。金型温度は50℃に設定した。振動試験には、発振器はType 3160、増幅器はType 2718、加振器はType 4810、加速度センサはType 8001、騒音計は4189-A-029で構成されるシステムを用いた(いずれもB&K社製)。平板成形の中央部分をコンタクトチップに取り付け、加速度センサに固定した後、ランダム加振を与え、20Hz~12000Hzの範囲で加速度センサで検出した振動加速度と加振力の比から振動レベルを算出した。また、平板中央高さ100mmで騒音計で検出した音圧と加振力の比から騒音レベルを算出した。測定環境は恒温槽(エスペック社製、PU-3J)で20℃、又は80℃に制御した。数値が小さいと振動および騒音をより低減していると判断できる。
【0063】
<ファン振動試験>
射出成形機(住友重機工業社製 SE180D)を用い、実施例3及び比較例1の熱可塑性樹脂組成物を射出成形し、ファンテック社製プレートファン(PLF125-18、直径150mm、羽8枚)と同一形状のプレートファン成形体を成形した。シリンダー温度をノズル先端側から5ユニット目までを200℃、残りの1ユニットを170℃、ホッパー下を45℃に設定した。金型温度は50℃に設定した。振動試験には、発振器はType 3160、増幅器はType 2718、加振器はType 4810、加速度センサはType 8001、騒音計は4189-A-029で構成されるシステムを用いた(いずれもB&K社製)。プレートファンの中央部分をコンタクトチップに取り付け、加速度センサに固定した後、ランダム加振を与え、20Hz~12000Hzの範囲で加速度センサで検出した振動加速度と加振力の比から振動レベルを算出した。測定環境は恒温槽(エスペック社製、PU-3J)で80℃に制御した。数値が小さいと振動をより低減していると判断できる。
【0064】
<ファン回転騒音試験>
上記と同じプレートファン成形体を用いた。ファン成形体をモーター(草津電機製ACモーター)の回転軸に取り付け、各回転数で回転させた。そのときに生じる騒音を、ファンから横100mm、下200mmの位置で騒音計で(4189-A-029 B&K社製)で集音し、FFT解析を行った。計測時間は60秒、1周波数での平均回数は358点、周波数重み付け特性はA特性で解析した。測定環境は恒温槽(エスペック社製、PU-3J)で80℃に制御した。各回転数でのファン騒音のFFT解析のなかで、F=2NZ/60に相当する回転騒音ピークの周波数と騒音レベルを測定した。数値が小さいと回転騒音をより低減していると判断できる。
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
表1より、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子を含む実施例3の熱可塑性樹脂組成物は、フィラーとエラストマーを結合させていない状態で同量添加した比較例1の熱可塑性樹脂組成物と比べて、20℃、80℃のいずれにおいても損失係数が高く、制振性に優れるものであった。このことは、表4、5において、射出成形をしたサンプルにおいても振動及び騒音をより低減できることを確認した。また、表1~3に示すように、高分子グラフト鎖が粒子表面に結合した複合粒子を含む実施例1、2、4~13、16、17や、ポリアミド樹脂を用いた実施例14、ABS樹脂を用いた実施例15についても損
失係数が高く、制振性に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、音響機器、電気製品、建築物、産業用機器、自動車部材、二輪車部材、容器等の製品に好適に使用することができる。