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特開2024-169624潰瘍性大腸炎の検査方法および装置ならびに治療薬のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169624
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】潰瘍性大腸炎の検査方法および装置ならびに治療薬のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20241128BHJP
   C12P 7/52 20060101ALI20241128BHJP
   C12P 7/54 20060101ALI20241128BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20241128BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241128BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20241128BHJP
   G01N 33/84 20060101ALI20241128BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241128BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12P7/52
C12P7/54
C12P7/56
C12M1/34 B
C12N1/20 A
G01N33/84 A
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12Q1/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024165001
(22)【出願日】2024-09-24
(62)【分割の表示】P 2021002238の分割
【原出願日】2017-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 建吾
(72)【発明者】
【氏名】星 奈美子
(72)【発明者】
【氏名】井上 潤
(72)【発明者】
【氏名】東 健
(72)【発明者】
【氏名】大澤 朗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
(57)【要約】
【課題】潰瘍性大腸炎の疾患状態の判断に有用な、潰瘍性大腸炎の検査方法を提供する。
【解決手段】被験体の試料中の菌種多様性および/または菌種数が維持された、被験体由来の菌種試料を生産する方法であって、1)被験体の試料を培地に加える工程と、2)培養開始時に必要に応じて、該培地のpHが6.2~6.7になるような操作を行う工程と、3)培養開始後、該培地のpHを維持することを意図した操作を行わずに該試料を培養する工程とを包含する方法とする。好ましくは、1)の前に、A)前記培地の滅菌および嫌気的ガスへの曝気を行う工程および/または、B)前記試料をアスコルビン酸添加リン酸緩衝液に懸濁する工程、を包含する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潰瘍性大腸炎の検査方法および装置、ならびに潰瘍性大腸炎の治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎は世界的に蔓延しており、その患者数は、日本においても激増している。潰瘍性大腸炎の現状の主要な治療法は、非ステロイド製剤のメサラジン(5-アミノサリチル酸(5-ASA))の投与である。しかし、本治療法では、疾患は一時的に緩和するが、再発の可能性を排除するものではなく寛解するものではない。よって、潰瘍性大腸炎の治癒のために、潰瘍性大腸炎の疾患状態を判断するための検査およびその治療薬の要請がある。
【0003】
潰瘍性大腸炎患者の腸内環境をみると、健常者と比べて大腸菌の繁殖が増大しており、異常を示している。潰瘍性大腸炎の治癒には腸内環境の是正が必要と考えられる。
【0004】
ところで、ヒトの腸管内では多種・多様な細菌が絶えず増殖を続けており、これらは腸内細菌叢(フローラ)と呼ばれる。腸内細菌叢の研究において、ヒトの腸内環境を再現する腸管模倣培養装置による培養が利用されている。腸内細菌叢の構成バランスをほぼ維持したまま培養可能な培養方法および装置が提案されている(特許文献1および非特許文献1)。この培養方法では、個々の腸内細菌叢が、低級脂肪酸が添加された培地を用いて、嫌気的環境で、培地のpHを6.0~7.0の範囲に調節しながら培養される。
【0005】
潰瘍性大腸炎の検査および治療薬のスクリーニングには、潰瘍性大腸炎患者の腸内環境を模した培養方法および装置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/136916号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takagi, Rら,PLoS One 11, e0160533 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、潰瘍性大腸炎の疾患状態の判断に有用な、潰瘍性大腸炎の検査方法および装置ならびに治療薬のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、潰瘍性大腸炎の検査方法を提供し、この方法は、
被検体から採取した糞便試料を含む培養液を用いて嫌気培養を行う工程;
該培養液から、潰瘍性大腸炎の指標因子のデータを取得する工程;ならびに
該データを、健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の該指標因子の基準と比較する工程;
を含み、
該嫌気培養は、該培養液のpHが該培養の開始時において6.2から6.7であり、その後放置されて行われる。
【0010】
1つの実施形態では、上記被検体は、上記潰瘍性大腸炎に罹患したかまたはその疑いのある被検体である。
【0011】
1つの実施形態では、上記潰瘍性大腸炎の指標因子は、酪酸量、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)細菌量、および培養液pHのプロファイルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0012】
1つの実施形態では、上記培養液のpHは、上記培養の開始時において6.2から6.5である。
【0013】
本発明は、潰瘍性大腸炎の治療薬のスクリーニング方法を提供し、この方法は、
潰瘍性大腸炎に罹患しておりかつ治療薬候補が投与された個体から採取した糞便試料を含む培養液を用いて嫌気培養を行う工程;
該培養液から、潰瘍性大腸炎の指標因子のデータを取得する工程;ならびに
該データを、健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の該指標因子の基準と比較して、該治療薬候補の有効性を評価する工程;
を含み、
該嫌気培養は、該培養液のpHが該培養の開始時において6.2から6.7であり、その後放置されて行われる。
【0014】
本発明は、潰瘍性大腸炎の検査装置を提供し、この装置は、
(a)被検体から採取した糞便試料を含む培養液を用いて嫌気培養を行う、嫌気培養手段;
(b)該嫌気培養手段の該培養液から、潰瘍性大腸炎の指標因子のデータを測定する、測定手段;ならびに
(c)健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の指標因子の基準を予め格納し、かつ該測定手段から得られた該指標因子のデータを該指標因子の基準と比較する、比較手段;
を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、潰瘍性大腸炎患者の腸内環境を模した培養方法が提供され、これにより、潰瘍性大腸炎の検査のための方法および装置が提供される。また、当該培養方法は、潰瘍性大腸炎の治療薬のスクリーニングにも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の潰瘍性大腸炎の検査装置の一例を模式的に示す図である。
図2】13人の健常者(A)および11人の潰瘍性大腸炎患者(B)のそれぞれの糞便試料および培養液のpHプロファイルを示すグラフである。
図3】健常者(HS)および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれについて、培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液試料)の16S rRNA遺伝子配列決定データの主座標分析(PCoA)を示すグラフである。
図4】健常者(HS)および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれについて、培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液試料)の全腸内細菌に対する各種腸内細菌科の存在比率を示すグラフである。
図5】健常者および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれについて、培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液試料)の全腸内細菌に対するラクノスピラ科細菌の存在比率を示す箱髭図である。
図6】健常者および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれについて、培養30時間後に回収した試料(培養液試料)における、酢酸、プロピオン酸、酪酸およびSCFA(コハク酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、および酪酸の合計)の量を示す箱髭図である。
図7】潰瘍性大腸炎患者由来の培養30時間後に回収した試料(培養液試料)中のラクノスピラ科菌の存在比率を、培養により生成した酪酸量に対してプロットした結果(A)、ならびに部分Mayoスコアに対して、潰瘍性大腸炎患者由来の糞便試料(B)および培養液試料(C)中のラクノスピラ科菌の存在比率をプロットした結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(潰瘍性大腸炎の検査方法)
本発明は、潰瘍性大腸炎の検査方法を提供する。本発明の潰瘍性大腸炎の検査方法は、潰瘍性大腸炎の罹患状態の判定に利用可能である。「罹患状態」とは、罹患の有無および疾患の重篤度を包含する。本発明における検査方法は、被検体が潰瘍性大腸炎を罹患しているか、被検体の潰瘍性大腸炎の症状が進行しているか、または治療中の被検体の潰瘍性大腸炎の症状が緩和したかの判定に用いられ得る。
【0018】
被検体は、腸管を有する任意の動物であり、例えば、哺乳動物であり、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ブタなどが挙げられる、好ましくはヒトである。被検体は、家畜動物または愛玩動物であってもよい。1つの実施形態では、被検体は、潰瘍性大腸炎に罹患したかまたはその疑いのある被検体である。
【0019】
培養液は、被検体から採取した糞便試料を培養培地に添加して調製され得る。培養培地は、嫌気培養に使用可能な培地であればいずれでもよい。糞便試料は、予め懸濁液(例えば、1% L-アスコルビン酸添加0.1Mリン酸緩衝液に懸濁)として調製し、培地100mLに対し、例えば100μLで添加され得る。嫌気培養用培地としては、例えば、岐阜大学処方嫌気性培地(GAM培地)であり、例えば、GAM寒天培地、変法GAM寒天培地、GAM半流動高層培地、GAMブイヨンおよび変法GAMブイヨン(例えば、いずれも日水製薬株式会社製)が挙げられる。培養前に、培地は滅菌され得る(例えば、オートクレーブ滅菌)。液体培養が好ましく、培養の間、培養液は適宜撹拌され得る。糞便試料は、採取後、検査を開始するまで嫌気性培養スワブなどの容器内に保管され得る。
【0020】
培養の嫌気的環境は、培地に対して嫌気的ガスを曝気させることにより作り出すことができる。嫌気的ガスは、例えば、窒素、窒素および二酸化炭素、あるいは、窒素および二酸化炭素および水素である。嫌気的ガスの曝気は、例えば流量0.1~1.0dL/分にて常時行うか、あるいは、間欠的に行う。また、嫌気的ガスは、窒素と二酸化炭素とからなる混合ガスであることが好ましい。なお、常時、嫌気的ガスを曝気するのが好ましい。
【0021】
本発明においては、嫌気培養は、培養液のpHが培養の開始時において6.2~6.7であり、その後放置されて行われる。好ましくは開始時のpHは、6.2~6.5である。培養の開始時(例えば、糞便試料を含む培養液を嫌気的環境下に置いた時点)、培養液のpHが上記範囲内であればよく、必要に応じてpH調節剤によって上記範囲内にpHを調節する。培養開始後は、pHに関しては放置する。培養中、上記範囲内にpHを維持することを意図した操作(例えば、pH調節剤またはアルカリ添加によるpH調節)を行わない。
【0022】
培養期間は、潰瘍性大腸炎の指標因子のデータが取得可能となる期間であることが好ましい。培養期間は、データを取得する潰瘍性大腸炎の指標因子に依存するが、例えば、24時間~48時間、好ましくは、24時間~30時間である。培養温度は、被検体の体温付近の温度が用いられ、例えば、被検体がヒトである場合、例えば、36℃~38℃、好ましくは、37℃である。培養の様式は問わないが、好ましくは、1回バッチ式である。
【0023】
培養液から、潰瘍性大腸炎の指標因子のデータが取得される。潰瘍性大腸炎の指標因子とは、潰瘍性大腸炎の罹患状態(例えば、罹患の有無または疾患の重篤度)の判断に利用することができる因子をいう。潰瘍性大腸炎の指標因子の例としては、酪酸量、ラクノスピラ科細菌量、および培養液pHのプロファイルが挙げられ、これらの指標因子の少なくとも2つの組み合わせでもよい。潰瘍性大腸炎の指標因子のデータは、その指標因子に応じて、培養の開始時、培養中、培養終了後に、培養液から取得される。
【0024】
酪酸量は、培養液より当業者が通常用いる方法(例えば、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC))に従って測定され得る。培養液は、採取した糞便中に存在し得る腸内細菌により生成される酪酸を測定できれば、任意の時点で回収され得るが、好ましくは、培養の後半から終了前後に回収される。
【0025】
pHプロファイルは、培養期間にわたりpHの変動により表される。培養期間中、pHを継続的にモニタリングしてもよく、または間欠的に複数回測定するものであってもよい。
【0026】
ラクノスピラ科細菌量とは、ラクノスピラ科に属すると分類された細菌の量であり、属の区別は問わない。ラクノスピラ科細菌量は、試料中のラクノスピラ科細菌の多さを表すことができる値であればよく、例えば、試料中の細菌数、試料中の全腸内細菌に対する存在比率などが挙げられる。好ましくは、全腸内細菌に対する存在比率である。ラクノスピラ科細菌量は、当業者が腸内細菌の検出、同定および定量に通常用いる技術(例えば、16S rRNA遺伝子配列決定、リアルタイムPCRなど)を用いて決定され得る。その際に用いるプライマーセットは、公知の配列情報に基づいて作成してもよく、または市販のものを用いてもよい。ラクノスピラ科細菌量測定のための試料として、培養の任意の時点で回収した培養液を用い得る。例えば、培養開始時の培養液試料(糞便試料)、培養中または培養後の培養液試料を単独または組み合わせて用いてもよい。
【0027】
指標因子のデータは、健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の同じ指標因子の基準と比較される。例えば、潰瘍性大腸炎の指標因子が酪酸量である場合、酪酸量について取得したデータが、酪酸量に関する健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の基準と比較される。基準の作成において、上記培養から取得したデータを用いることができる。「基準」は、潰瘍性大腸炎の罹患の有無および重篤度によって、作成され得る。
【0028】
個体もまた、上述した被検体と同様の動物であり得る。「健常個体」とは、少なくとも潰瘍性大腸炎に罹患していない個体をいう。「健常個体」は、以前に潰瘍性大腸炎疾患に罹患していたが、治癒した個体であってもよい。「潰瘍性大腸炎に罹患した個体」とは、潰瘍性大腸炎に罹患中の個体をいう。「潰瘍性大腸炎に罹患した個体」は、潰瘍性大腸炎に罹患している限り、治療中の個体であってもいい。「健常個体」または「潰瘍性大腸炎に罹患した個体」は、被検体と同一個体であってもよい。
【0029】
健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の指標因子の「基準」は、予め該当する個体(例えば個体集団)から取得したデータに基づいて作成された基準を用いる場合、および被検体自身から以前に取得されたデータ自体を基準に用いる場合を包含する。後者の場合、例えば、被検体の治療効果の検証手段として、本発明の検査方法を用いることができる。
【0030】
酪酸量について、潰瘍性大腸炎患者は、健常個体と比較して少ない値となる。ラクノスピラ科細菌量について、潰瘍性大腸炎患者は、健常個体と比較して低い値となる。pHプロファイルについては、健常個体および潰瘍性大腸炎患者を比較すると、培養期間中のpHの変動が異なる。例えば、図2に示すように、健常個体のpHプロファイルにおいては、培養液pHの変動がヒト大腸内における通常のpHを再現し得るのに対し、潰瘍性大腸炎患者は異常を示し得る。
【0031】
(潰瘍性大腸炎の治療薬のスクリーニング方法)
本発明はまた、潰瘍性大腸炎の治療薬のスクリーニング方法を提供する。この方法においては、糞便試料が、潰瘍性大腸炎に罹患しておりかつ治療薬候補が投与された個体から採取される。培養工程およびデータ取得工程は、上記のとおりである。治療薬候補の有効性の評価のため、取得したデータを、健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の指標因子の基準と比較する。この比較工程もまた、上記のとおりである。取得したデータが、重篤度の高い罹患個体の基準よりも、健常個体の基準またはより重篤度の低い罹患個体の基準に適合するかが判定され得る。
【0032】
本発明のスクリーニング方法は、「基準」として、予め該当する個体(例えば個体集団)から取得したデータに基づいて作成された基準を用いることで、「治療薬候補」が潰瘍性大腸炎の治療に有効かを判定することができる。本発明のスクリーニング方法はまた、「基準」の個体を治療薬候補投与前の罹患個体(「潰瘍性大腸炎に罹患した個体」)とし、この基準に対し、当該治療薬候補の投与後の個体(「潰瘍性大腸炎に罹患しておりかつ治療薬候補が投与された個体」)のデータを比較することで、その個体に適合した治療薬を選択するために用いることもできる。
【0033】
(潰瘍性大腸炎の検査装置)
本発明はまた、潰瘍性大腸炎の検査方法を提供する。本発明の検査装置について図面を用いて説明する。
【0034】
図1は、本発明の潰瘍性大腸炎の検査装置の一例を模式的に示す図である。
【0035】
本発明の検査装置100は、嫌気培養手段110、測定手段140、および比較手段170を備える。
【0036】
本発明の検査装置100において、嫌気培養手段110は、培養槽112と、培養槽112を密閉可能な蓋体114とを備え、そして培養槽112内には被検体から採取した糞便資料を含む培養液102が収容され、嫌気培養が行われる。図1に示す実施形態では、蓋体114の上方に配置されたモータ116から、シャフト118が培養槽112の培養液102内に浸漬する位置まで延びており、シャフト118の端部には少なくとも1つの撹拌翼120が設けられている。そして、モータ116によりシャフト118が回転し、培養液102が撹拌翼120によって撹拌される。
【0037】
なお、図1においてモータ116は蓋体114の上方に設けられているが、本発明はこのような配置にのみ限定されるものではない。モータは培養槽112の下方に設けられていてもよい。あるいは、撹拌翼120を磁性材料で構成することにより、シャフト118はモータと分離されていてもよい。この場合、モータの軸芯周りには他の磁性材料でなる部材が設けられ、当該部材の回転に伴って撹拌翼120も回転し得る。
【0038】
さらに、図1に示す嫌気培養手段110では、培養槽112内に、例えば、蓋体114の上方を通じて給気管122が配置されている。給気管122は、バルブ124の開閉によって不活性ガス(例えば、窒素ガス、炭酸ガス、およびそれらの組み合わせ)を培養槽112内に導入して、培養槽112内を嫌気状態にすることができる。培養槽112内には、好ましくは逆止弁(図示せず)が取り付けられた排気管126も設けられており、培養槽112内の不要な気体は当該排気管126を通じて培養槽112の外に排出される。図1において、給気管122および排気管126はともに蓋体114を貫通し、その端部が培養槽112内に配置されるように記載されているが、本発明は必ずしもこのような構成にのみ限定されるものではない。例えば、排気管122および排気管126の両方またはいずれか一方が、培養槽112を貫通して配置されていてもよい。
【0039】
嫌気培養手段110はまた、培養槽112内にサーモスタットのような温度調節手段128が設けられている。温度調節手段128により、培養槽112内の培養液102を所望の温度に保持することが可能である。
【0040】
本発明において、上記嫌気培養手段100は、例えば市販のジャーファーメンターであってもよい。
【0041】
本発明の検査装置100において、測定手段140は、嫌気培養手段110内の培養液102の温度やの培養液102から潰瘍性大腸炎の指標因子に対応するデータを取得する役割を果たす。
【0042】
図1に示す実施形態では、測定手段140として、温度センサ142および化学センサ144が培養槽112の培養液102中に浸漬する位置に設けられている。化学センサ144の例としては、必ずしも限定されないが、水素イオン電極(pH電極)、イオン選択性電極などのイオンセンサが挙げられる。このような化学センサは、培養液102内に含まれる潰瘍性大腸炎の指標因子(例えば、酪酸などの有機酸含量、培養液のpHプロファイル)を選択的に検出することができる。なお、図1では、測定手段140として、温度センサ142および化学センサ144の2つのセンサが設けられている例を記載しているが、本発明はこれに限定されない。本発明の検出装置において、測定手段は少なくとも1つが設けられている。
【0043】
本発明の検査装置100において、比較手段170は、測定手段140から得られた指標因子のデータを、予め格納する健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の指標因子の基準と比較する役割を果たす。
【0044】
図1に示す実施形態では、比較手段170は、制御部172、記憶部174および表示部176から構成されている。
【0045】
図1において、制御部172は、嫌気培養手段110内の給気管122のバルブ124、モータ116および温度調節手段128とケーブル181,182,183を介して電気的に接続されている。これにより、制御部172は、給気管122のバルブ124の開閉、モータ116の回転数、および温度調節手段128の設定温度を制御することができる。制御部172はまた、測定手段140(すなわち、温度センサ142および化学センサ144)とケーブル184,185を介して電気的に接続されている。これにより、温度センサ142および化学センサ144で検出された温度データおよび指標因子のデータは、電気信号としてケーブル184,184を介して制御部172に送信され得る。
【0046】
なお、図1では、制御部172と、バルブ124、モータ116、温度調節手段128、温度センサ142、および化学センサ144とはケーブル181,182,183,184および185による有線接続の例が記載されているが、本発明はこれに限定されない。当該有線接続に代えて、これらの間に図示しない通信手段を介することにより無線による接続が行われてもよい。
【0047】
記憶部174は、健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の指標因子の基準が予め情報として格納されており、制御部172からの指令によって当該基準を読み出し、適宜制御部172に送信する。記憶部174はまた、制御部172から送信された指標因子のデータを保存することもできる。
【0048】
記憶部174の例としては、外付けまたは内臓ハードディスクドライブ(HDD)、フロッピーディスクのような磁気ディスク;CD-ROM、CD-R、CD-RW、DVD-ROM、DVD±R、DVD-RW、DVD-RAM、ブルーレイディスク(例えば、BD-ROM、BD-R、BD-R BDXLおよびBD-RE)、レーザーディスク(登録商標)などの光ディスク;光磁気ディスク;ならびにUSBメモリ、ソリッドステートドライ(SSD)、SDメモリーカード、ミニSDカード、マイクロSDカード、SD
HCメモリーカード、ミニSDHCカード、マイクロSDHCカード、SDXCメモリーカード、マイクロSDXCカードなどのフラッシュメモリ;が挙げられる。
【0049】
図1において、表示部176は、ケーブル188を介して制御部172と電気的に接続されている。表示部176は、制御部172が制御する嫌気培養手段110内のバルブ124の開閉状態、モータ116の回転数、温度調節手段128の設定温度等の各情報や、測定手段140から得られた培養液102の温度および取得した指標因子の取得データを作業者が比較的に認識することができるように表示する。このような表示部176の例としては、ディスプレイ、プリンター等が挙げられる。なお、図1では、表示部176と制御部172とはケーブル188による有線接続の例が記載されているが、本発明はこれに限定されない。当該有線接続に代えて、これらの間に図示しない通信手段を介することにより無線による接続が行われてもよい。
【0050】
本発明の検査装置100において、制御部172は、化学センサ144から得られた培養液102中の糞便試料に関する潰瘍性大腸炎の指標因子のデータを、記憶部174にて予め格納された健常個体および/または潰瘍性大腸炎に罹患した個体の指標因子の基準と比較する。そして、制御部172から送信されたその比較結果が表示部176にて表示される。また、化学センサ144から得られた潰瘍性大腸炎の指標因子のデータおよび/または制御部172から得られた比較結果は、必要に応じて記憶部174に別途保存されてもよい。本発明の検査装置100において、制御部172は、パーソナルコンピュータのような電子計算機であってもよい。
【0051】
このようにして、本発明の検査装置100は、被検体から採取した糞便試料から潰瘍性大腸炎の検査を行うことができる。
【実施例0052】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1:糞便試料の採取および培養)
13人の健常者および11人の潰瘍性大腸炎患者から糞便試料を採取した。なお実験参加者は、2か月以上にわたりいかなる抗生物質も受けていない者であった。実験参加者から書面によるインフォームドコンセントを得た。Mayo臨床スコアおよび部分Mayoスコアにより疾患活動性を決定した。糞便採取の1か月前の間に内視鏡検査を受けた患者について、内視鏡Mayo臨床スコアを決定した(n=9)。糞便採取の時点で、部分Mayo臨床スコアを決定した(n=11)。本実験は、神戸大学医学部附属病院のガイドラインに従って行い、神戸大学の治験倫理審査委員会によって認可された。本実験で使用した全ての方法は、神戸大学の医療倫理による認可ガイドラインに従った。糞便試料は採取後、嫌気性培養スワブ(212550 BD BBL Culture Swab;ベクトン・ティッキンソンアンドカンパニー製)内に保管し、実験室に送付した。
【0054】
マルチチャンネル培養器(Bio Jr.8;エイブル株式会社製)を用いるヒト大腸を模した1回バッチ式培養装置を作製した。本インビトロモデル装置は、8つの並列した独立の容器からなり、各容器に、100mLのオートクレーブ(115℃にて15分間)した岐阜大学処方嫌気性培地(GAM培地[Code 05422];日水製薬株式会社製)を入れ、培養開始時pHを6.5に調整したものであった。培養前に37℃にて1時間、0.2μm PTFE膜(ポール・コーポレーション製)を通して濾過滅菌した窒素および二酸化炭素混合ガス(N:CO=80:20)に曝気(15mL/分)することにより、培養容器の嫌気性条件を構築した。接種物の調製のため、各糞便試料を、1%のL-アスコルビン酸(和光純薬工業株式会社製)を添加した0.1Mリン酸緩衝液(pH6.5,NaHPOおよび0.1M NaHPOの2:1混合物からなる)2mL中に懸濁した。100μLの上記糞便懸濁液を各培地含有容器内に接種して、嫌気培養を開始した。培養の間、培地を濾過滅菌した混合ガスに曝気することにより、嫌気性条件を維持した。
【0055】
培養開始時、6時間後、9時間後、12時間後、24時間後および30時間後に、容器の側面の突出部分より培養液の一部を回収した。培養期間中5分毎にpHデータを採取した。培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液)については、菌叢評価にも使用した。培養30時間後に回収した試料(培養液)については、短鎖脂肪酸(SCFA)定量にも使用した。なお糞便試料および培養液は、測定に供するまで-20℃下に保管した。
【0056】
(実施例2:健常者および潰瘍性大腸炎患者の糞便培養液のpHプロファイル評価)
実施例1により、健常者(n=13)および潰瘍性大腸炎患者(n=11)のそれぞれに由来の試料につき採取したpHデータに基づき、pHプロファイルを作成した。
【0057】
図2は、13人の健常者(A)および11人の潰瘍性大腸炎患者(B)のそれぞれの糞便試料および培養液のpHプロファイルを示すグラフである。縦軸は測定したpH値を示し、横軸は培養時間(時間)を示す。その結果、健常者の大半は、培養6時間後pHが約5.5~6.0の間に低下後、徐々に上昇して培養後期にはpH6.5(大腸のpH)に近付くという変動が見られた(図1(A))。これに対し、潰瘍性大腸炎患者では、培養6時間後pHが約6.0に低下後、pHは6.5付近に急上昇してさらに下降し、その後は下降後のpHを維持するかまたは徐々に上昇したが、健常者と比べて明らかに異常なpHの動きを示した(図1(B))。このように、pHプロファイルを見るだけで、患者の状態をおおまかに予測できる。
【0058】
(実施例3:健常者および潰瘍性大腸炎患者の糞便培養液の菌叢評価)
(3-1:微生物DNAの抽出)
培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液)について、大腸内細菌叢の菌のDNA抽出を下記のようにして行った。DNA抽出における抽出液には、Tris-EDTA(TE)飽和フェノール500μL、溶菌緩衝液(1M Tris pH8.0,0.5M EDTA)250μL、10%SDS 50μL、ガラスビーズ(φ0.1mm)0.3gを用いた。試料に抽出液を200μL添加したものをFastPrep24 (MP)を用い、パワーレベル5.0で30秒間縦方向に激しく振とうし、菌体を破砕した。そして、遠心分離により上清を回収しフェノール・クロロホルム・イソアミルアルコールを用いてタンパク質変性後イソプロパノール沈殿によりDNAを析出させた。DNAを析出させて、100μLのTEに溶解したものを鋳型DNAとして使用した。精製したDNAを、使用するまで-20℃下に保管した。
【0059】
(3-2:16S rRNA遺伝子配列決定)
ゲノムDNAを、S-D-Bact-0341-b-S-17(配列番号1)およびS-D-Bact-0785-a-A-21(配列番号2)のプライマー対を用いた細菌16S rRNA遺伝子のV3-V4領域の増幅に供した。イルミナアダプターオーバーハングヌクレオチド配列(イルミナ株式会社製)を遺伝子特異的配列に付加した。製造者の指示に従ってPCRサイクリング反応を行った。確認したアンプリコンAMPure XP DNA精製ビーズ(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて精製し、25μlの10mM Tris(pH8.5)中に溶出した。アンプリコンをAgilent Bioanalyzer 2100 DNA 1000チップ(アジレント・テクノロジー株式会社製)において定量し、等モル濃度でプールした。16S rRNA遺伝子産物(内部コントロール(PhiXコントロールV3;イルミナ株式会社製)と共に)を、600サイクルMiSeq試薬キット(イルミナ株式会社製)と共にMiSeqシーケンサー(イルミナ株式会社製)を用いて、ペアエンドシーケンスに供した。PhiX配列を切り出し、20以上のQスコアのペアエンドリードを、ソフトウェアパッケージQIIMEバージョン1.9.1を用いてつなげた。キメラ配列を同定し、ライブラリーから排除した。Ribosomal Database Project(RDP) Classifierを用いてGreenGenes系統学的データベースによって、ペアエンドリードを系統学的に分類した。97%類似性に達したOTU(Operational Taxonomic Unit)を、シャノン・ウィーナー指数およびシンプソン指数の多様性比較と、Chaoの生物種数推定のために用いた。各試料からのOTU情報を用いて主座標分析(PCoA)を行い、unweighted UniFrac距離に基づいて算出した。本実験で生成した生配列データの全てをMG-RASTに預け、アクセッション番号が付与された。
【0060】
(3-3:リアルタイムPCR)
リアルタイムPCRをTP700 Thermal Cycler Dice Real Time System Lite(タカラバイオ株式会社製)を用いて行った。非特許文献1に記載のように、全腸内細菌をターゲットにするプライマーセットを用いた増幅を行った。
【0061】
(3-4:バイオインフォマティクスおよび統計学的解析)
シャノン・ウィーナー多様性指数、シンプソン指数およびChao1を、QIIMEソフトウェアパッケージを用いて算出した。ノンパラメトリックなクラスカル・ウォリス検定を用いて、OTU数、シャノン・ウィーナー多様性指数、シンプソン指数、Chao1、および細菌16S rRNA遺伝子およびSCFA濃度に関する有意差を決定した。unweighted UniFracに記載される微生物群衆構成の差を、MANOVA検定を用いて試験した。0.05未満のP値を有意と判断した。
【0062】
(3-5:結果)
健常者および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれについて、培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液試料)の16S rRNA遺伝子配列決定データを以下の表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
リード(解読配列数)は菌数、そしてOTUの数は菌種数(species number)の指標である。シャノン・ウィーナー多様性指数(「Shannon」)およびシンプソン指数(「Simpson」)は菌種多様性(speciesdiversity)の指標であり、そしてChao1は菌種数(species richness)の指標である。
【0065】
健常者の糞便試料(培養開始時回収)におけるOTU数は、培養液試料(培養30時間後回収試料)においても維持された。潰瘍性大腸炎患者においても、同様に、糞便試料におけるOTU数は、培養液試料において維持された。健常者について、糞便試料と培養液試料との間で、シャノン・ウィーナー多様性指数、シンプソン指数およびChao1の全てにおいて有意差がなかった。潰瘍性大腸炎患者についても、糞便試料と培養液試料との間で、シャノン・ウィーナー多様性指数、シンプソン指数およびChao1の全ての多様性指数において有意差がなかった。したがって、糞便試料中の菌叢の菌種多様性および菌種数は、培養液試料中でも維持されていることがわかる。
【0066】
健常者と潰瘍性大腸炎患者との間では、糞便試料においてOTU数は有意差がなく、この傾向は、培養液試料においても再現された。さらに、シャノン・ウィーナー多様性指数、シンプソン指数およびChao1の多様性指数においても、健常者と潰瘍性大腸炎患者との間では、糞便試料において有意差が見られず、そしてこれら全ての指数において有意差がない傾向は、培養液試料でも再現された。したがって、健常者と潰瘍性大腸患者との間の菌種多様性および菌種数の関係は、糞便試料および培養液試料ともに同様のものであった。
【0067】
図3は、健常者(HS)および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれについて、培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液試料)の16S rRNA遺伝子配列決定データの主座標分析(PCoA)を示すグラフである。図3中、「HS糞便」は健常者糞便試料、「UC糞便」は潰瘍性大腸炎患者糞便試料、「HS培養液」は健常者培養液試料、「UC培養液」は潰瘍性大腸炎患者培養液試料を表す。
【0068】
図3に示されるように、UC糞便プロットは、HS糞便プロットとは異なるクラスターを形成した。これは、糞便試料において、潰瘍性大腸炎患者の菌叢が健常者の菌叢とは区別されることを示す。図3によれば、培養液試料プロットのクラスター形成の比較においても、このような潰瘍性大腸炎患者と健常者との間の菌叢の差異が維持されたことがわかる。
【0069】
図4は、健常者(HS)および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれについて、培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液試料)の全腸内細菌に対する各種腸内細菌科の存在比率を示すグラフである。図4中、「HS糞便」は健常者糞便試料、「UC糞便」は潰瘍性大腸炎患者糞便試料、「HS培養液」は健常者培養液試料、「UC培養液」は潰瘍性大腸炎患者培養液試料を表す。
【0070】
図4に示されるように、興味深いことに、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)の菌の存在比率が、糞便試料および培養液試料の両方において、潰瘍性大腸炎患者が健常者よりも有意に低い結果を示した。この点は、図5においてより明確に示される。図5は、健常者および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれについて、培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液試料)の全腸内細菌に対するラクノスピラ科細菌の存在比率を示す箱髭図である。図5の縦軸は、全腸内鎖菌に対するラクノスピラ科細菌の存在比率(%)を示し、横軸は、測定した試料を示す。本培養により、糞便試料において観察された健常者に対する潰瘍性大腸炎患者のラクノスピラ科菌存在比率の低下が、同様に培養液試料においても観察された。
【0071】
ラクノスピラ科に属する菌種(属レベル)の菌数について、健常者および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれの培養開始時の試料(糞便試料)および培養30時間後に回収した試料(培養液試料)の全腸内細菌に対する存在比率もまた、決定した。この結果を以下の表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2は、ラクノスピラ科に属する菌種のうち、存在比率が上位5種のブラウティア属種(Blautia spp.)、コプロコッカス属種(Coprococcus spp.)、ドレア属種(Dorea spp.)、ラクノスピラ属種(Lachnospira spp.)、およびロゼブリア属種(Roseburia spp.)の結果を示す。表2中、アスタリスク(*)は、糞便試料および対応する培養液試料において、HSおよびUC患者間で有意差があることを示す(*P<0.05,**P<0.01)。コプロコッカス属種菌について、糞便試料および培養液試料の両方において、健常者よりも潰瘍性大腸菌患者の存在比率の有意な低下が観察された。
【0074】
(実施例4:健常者および潰瘍性大腸炎患者の糞便培養液のSCFA定量)
培養30時間後に回収した試料(培養液)について、短鎖脂肪酸(SCFA)に含まれる各種酸(コハク酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、および酪酸)の試料中の量を、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)(株式会社島津製作所)(Aminex HPX-87Hカラム(バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)およびRID-10A示差屈折率検出器(株式会社島津製作所)を備える)を用いて測定した。HPLCを、0.6mL/分の流速にて移動相として5mM HSOを用いて65℃にて操作した。
【0075】
図6は、健常者および潰瘍性大腸炎(UC)患者のそれぞれについて、培養30時間後に回収した試料(培養液試料)における、酢酸、プロピオン酸、酪酸およびSCFA(コハク酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、および酪酸の合計)の量を示す箱髭図である。図6中の各グラフの縦軸は、試料中の各酸の濃度(mM)を示し、横軸は、測定した試料を示す。健常者および潰瘍性大腸炎患者の両方において、酢酸、プロピオン酸、および酪酸が主として生成された。乳酸およびコハク酸はほとんど生成が見られなかった。酪酸の生成量について、潰瘍性大腸炎患者の培養液試料において、健常者の培養液試料と比較して有意な減少が見られた。
【0076】
図7Aに、潰瘍性大腸炎患者由来の培養液試料中のラクノスピラ科菌の存在比率(%)(横軸)を、培養により生成した酪酸量(mM)(縦軸)に対してプロットした結果を、示す。培養液試料中のラクノスピラ科菌の存在比率は、培養により生成した酪酸量と高い相関関係が見られた(図7A)。すなわち、培養液試料中のラクノスピラ科菌の存在比率が低いほど、酪酸生成量は低下した。
【0077】
図7は、部分Mayoスコア(縦軸)に対して、潰瘍性大腸炎患者由来の糞便試料(B)および培養液試料(C)中のラクノスピラ科菌の存在比率(%)(横軸)をプロットした結果を併せて示す。部分Mayoスコアについては、糞便試料および培養液試料とも、そのラクノスピラ科菌の存在比率との相関が見られなかった(図7BおよびC)。
【0078】
潰瘍性大腸炎は、悪化期と寛解期とを反復により特徴づけられるため、ラクノスピラ科菌の存在比率が低く、それにより生成酪酸量が低くなることは、大腸炎の再発を引き起こし得る。よって、酪酸が末梢組織において制御性T細胞の分化を誘導し抗炎症効果を有すること(Furusawa, Y.ら, Nature 10.1038/nature12721. 2013)もまた考慮すると、潰瘍性大腸炎患者の腸内に酪酸生成菌を増大させることが、寛解期を維持するのに重要となる。さらに、上記結果によれば、この培養モデルは、潰瘍性大腸炎患者における共生細菌および代謝産物生成に対するプレバイオティクスおよびプロバイオティクスの役割をハイスループットで評価するのに用いられ得ることがわかる。
【符号の説明】
【0079】
100 検査装置
102 培養液
110 嫌気培養手段
112 培養槽
114 蓋体
116 モータ
118 シャフト
120 撹拌翼
122 給気管
124 バルブ
126 排気管
128 温度調節手段
140 測定手段
142 温度センサ
144 化学センサ
170 比較手段
172 制御部
174 記憶部
176 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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