(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169665
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】積層蓋材
(51)【国際特許分類】
B32B 15/085 20060101AFI20241128BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B32B15/085 A
B65D65/40 D
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024166187
(22)【出願日】2024-09-25
(62)【分割の表示】P 2020213780の分割
【原出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅恵
(57)【要約】
【課題】安息香酸を含む内容物に対する内容物耐性、および120℃環境下でのレトルト加熱殺菌耐性を有する積層蓋材を提供する。
【解決手段】積層蓋材1は、表層から基材層2と、アルミ層3と、接着層7と、イージーピール層4がこの順に積層され、接着層7が、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを主成分とする主層を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層から基材層と、アルミ層と、接着層と、イージーピール層とがこの順に積層され、
前記接着層が、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを主成分とする層を有する、
積層蓋材。
【請求項2】
120℃環境下において、JIS-K6854に準拠して測定した前記アルミ層と接着層とのラミネート強度が、2.0N/15mm以上である、
請求項1に記載の積層蓋材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト殺菌耐性があり、防腐剤として安息香酸を含有するコンタクトレンズ用の保存液に対して、優れた耐内容物性を発現する積層蓋材及び包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨てコンタクトレンズ等の衛生材料の流通の一態様として、容器内の保存液に浸漬された状態で提供し、使用時に開封して保存液から取り出すものが知られている。コンタクトレンズは滅菌が必要なため、保存液およびコンタクトレンズを収容した容器は、密封された後にレトルト処理によって滅菌されることがある。このような積層フィルムには、レトルト処理等の高温の殺菌処理を行ってもデラミネーション(積層された層の剥離)を起こさない、すなわち、レトルト耐性を有することが求められる。
【0003】
また、このような容器の蓋材としては、内容物の変質や腐敗等を抑制し、それらの機能や性質を保持するために、水蒸気、酸素、その他の内容物を変質させる気体の進入を遮断するガスバリア性を有する積層フィルムが用いられている。
【0004】
ガスバリア性を有する積層フィルムの製造においては、レトルト加熱殺菌用包材等の耐性包材の用途であっても、接着層を形成する接着剤として一般的にウレタン2液硬化タイプのドライラミネート用接着剤が用いられる。しかし、包装材料により包装される内容物には、アルカリ性物質、香料、界面活性剤、高沸点有機溶剤などを含有するものが多くあり、これらの内容物を包装すると、ドライラミネート用接着剤層に悪影響を及ぼし、積層体におけるラミネート強度の低下を招いたり剥離が生じることがあった。これらの内容物に起因するデラミネーションを起こさない程度の内容物耐性も求められる。
【0005】
このような状況に対応するため、ラミネート加工に使用される接着剤の改良が種々行われており、アルコール耐性のあるものなど提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、接着層として、幅広い種類の透明バリアフィルムやアルミ箔との接着性に優れレトルト耐性及び内容物耐性に優れたものとして無水マレノン酸グラフト重合ポリプロピレンの無水マレイン酸グラフト率が0.1Wt%以上、1Wt%以下を使った積層フィルムが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5915710号公報
【特許文献2】特開2020-49896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
衛生材料の保存液には、アルコールの他に安息香酸が防腐剤として使用されたりするが、安息香酸は、接着剤へのアタックが強いため、このような保存液を使用する衛生材料の用途においては、レトルト処理に加えて安息香酸に対する耐性も考慮する必要がある。
【0009】
このようなことから、コンタクトレンズ用の蓋材の場合、安息香酸を含有する保存液に対する内容物耐性およびレトルト加熱殺菌耐性の両立が求められる。しかしながら、前述した特許文献1のドライラミネーションでは、安息香酸が内容物の場合、アルミ層とシーラント層間のラミネート強度が経時的に低下し、その結果デラミネーション(剥離)を引き起こすという問題があり、また特許文献2のようなアンカーコート剤を使用して得られる積層体では内容物耐性はあるが、120℃環境下でのレトルト加熱殺菌耐性が十分ではないという問題がある。
【0010】
また、容器と蓋をシールする際に、リークが起こらないようシールを強くする必要がある。しかし、シールを強くすることでシール層が薄くなり、レトルト加熱殺菌時の内圧に耐えられずにアルミ層/接着層間が剥がれて、リークが発生してしまうことがある。
【0011】
上記事情を踏まえ、本発明は、安息香酸を含む内容物に対する内容物耐性および120℃環境下でのレトルト加熱殺菌耐性を有する積層蓋材および包装容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、表層から基材層と、アルミ層と、接着層と、イージーピール層とがこの順に積層された積層蓋材である。
接着層は、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを主成分とする層を有する。
【0013】
内容物が影響してくる、アルミ層とシーラント層の間の接着層として、無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレンを使うことにより、内容物耐性およびレトルト耐性をもたせる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の積層蓋材は、レトルト処理および安息香酸に対して十分な耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層蓋材を備えた包装容器を模式的に示す概略断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る積層フィルムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について、
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態の積層蓋材1を備えた包装容器100を模式的に示す断面図である。包装容器100は、樹脂製の容器本体101と、容器本体101の上部開口を密封する積層蓋材1とを備えている。容器本体101内には、保存液(内容物)が充填され、コンタクトレンズが保存液に浸漬されている。保存液は、防腐剤として安息香酸を含んでいる。包装容器100は、積層蓋材1で密封された後にレトルト処理されることにより、容器本体内に収容された保存液およびコンタクトレンズが滅菌されている。
【0017】
図2に、積層蓋材1の概略断面図を示す。積層蓋材1は、基材層2と、アルミ層3と、接着層7と、イージーピール層4とを備えている。
【0018】
<基材層>
基材層2としては、例えば、樹脂フィルムを用いることができる。樹脂フィルムを形成する樹脂としては、耐熱性、および各種加工適性の観点からポリエステルが好適であるが、これには限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン-2、6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有重合体等も使用できる。これらの樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
基材層2は、延伸フィルムであってもよく、未延伸フィルムであってもよい。なかでも、機械的強度や寸法安定性に優れる点から、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムが好ましく、二軸延伸フィルムがより好ましい。基材層2は、1枚の基材フィルムからなる単層構成であってもよく、2枚以上の基材フィルムが積層された複層構成であってもよい。
【0020】
基材層2の厚さは特に限定されないが、例えば3~200μmとすることができ、6~30μmが好ましい。基材層2は、一方の面に印刷層5を有する。印刷層5には、内容物に関する情報や各種絵柄等を適宜含めることができる。
図2において、印刷層5は容器本体101側の面に形成されているが、反対側の面に形成されてもよいし、両面に形成されてもよい。さらに、印刷層5は省略されてもよい。
【0021】
<アルミ層>
アルミ層3は、ガスバリア機能を有する。アルミ層3としては、アルミ箔やアルミ蒸着層等を使用できる。本実施形態のアルミ層3は、アルミ箔を接着剤層6で印刷層5に接合することにより形成されている。接着剤層6としては、各種のドライラミネート用接着剤を使用でき、ポリオール成分とイソシアネート成分とからなる2液型接着剤を例示できる。
【0022】
<イージーピール層>
イージーピール層4は、積層蓋材1と容器本体101とを接合して包装容器100の密封状態を保持するとともに、開封動作を容易にする。イージーピール層4としては、公知の各種イージーピールシーラントフィルム(ポリプロピレン系など)を適宜選択して使用できる。イージーピール層4は、接着層7によりアルミ層3に接合されている。イージーピール層4の接合方法は、接着層7となる樹脂を単層又は共押出する押出ラミネーションとすることができる。
【0023】
<接着層>
接着層7は、アルミ層3と接する側に無水マレイン酸グラフト重合ポリプロピレン(以下、「変性PP」と称する。)を主成分とする。接着層7は、単層でもよいし、イージーピール層4側に他の層を有してもよい。他の層の材質としては、無変性ポリプロピレンを例示できる。変性PPは、ポリプロピレンを無水マレイン酸によりグラフト変性したポリプロピレンである。変性PPにおけるポリプロピレンとしては、例えば、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、又はランダムポリプロピレン、プロピレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。αオレフィンとしては、エチレン、1-ブテン等が挙げられる。
【0024】
レトルト処理及び安息香酸への耐性の高い積層蓋材の構成として、接着層7に変性PPを用いることが好適であり、変性PPの無水マレイン酸グラフト率が0.1重量パーセント(wt%)以上1wt%以下であり、かつ重量平均分子量が300,000~350,000である場合に、その効果がより顕著となることが分かった。
【0025】
無水マレイン酸グラフト率が0.1重量%未満であるとアルミ層3との十分な接着強度が得られず、殺菌時等にデラミネーションが発生する可能性が高くなる可能性がある。一方、無水マレイン酸グラフト率が1重量%を超えると、樹脂特性が不安定となる。具体的には、グラフト化の際に使用する反応触媒がPP樹脂本体の分解を促す結果、分子量が小さくなってメルトフローレート(MFR)が極端に上昇し、製膜適性が失われてしまう。その結果、形成される接着層の皮膜強度が低下し、充分な接着強度が得られないという不具合が発生する可能性がある。
【0026】
また、変性PPの重量平均分子量が300,000~350,000であることが望ましい。重量平均分子量を小さくした樹脂設計にすることで、樹脂の結晶性を上げやすくし、耐熱性を上げることで、120℃環境下においても十分な接着強度が得られる。300,000未満であると製膜適性が悪くなり、350,000を超えると結晶化度が上がりにくくなる。接着層7は、変性PPを主成分としていれば他の樹脂を含有してもよい。接着層7に用いられる変性PP以外の樹脂として、無変性ポリプロピレンを例示できる。
【0027】
容器本体101を形成する樹脂は、イージーピール層4が接合可能であればよく、イージーピール層4に合わせて同系統の樹脂を選択することができる。
【0028】
容器本体101に保存液およびコンタクトレンズを配置し、イージーピール層4を容器本体101に対向させて積層蓋材1を配置する。その後、積層蓋材1と容器本体101との接触部位を加熱および加圧すると、積層蓋材1が容器本体に接合されて容器本体101内が密封された包装容器100が完成する。
【0029】
積層蓋材1は上記構成を有するため、保存液が安息香酸を含み、かつ製造後の包装容器100がレトルト処理により滅菌された後でも、密封状態が好適に保持され、アルミ層3とイージーピール層4とのデラミネーション(剥離)も好適に抑制される。その結果、レトルト処理時の温度とほぼ同一である120℃環境下においても、アルミ層3と接着層7とのラミネート強度を2.0N/15mm以上にできる。積層蓋材1およびこれを備える包装容器100は、安息香酸を含んだり、滅菌処理を必要としたりする各種衛生材料の包装に好適である。また、ドライラミネーションを必要とせず、レトルト処理に伴って接合強度も高まるため、製造において養生工程が不要であり、製造効率が高い。
【0030】
本発明の積層蓋材1および包装容器100について、実施例を用いてさらに説明する。本発明は、以降の記載のみによってその技術的範囲が狭く解釈されることはない。
【実施例0031】
(実施例)
基材層2として、厚さ16μmのポリエステルフィルム(フタムラ化学社製 FE2001)を準備した。基材層2の一方の面に、エステル主鎖の主剤(三井化学株式会社製A525)と硬化剤(三井化学株式会仕製A52)からなる接着剤を用いたドライラミネーションにより、厚さ50μmのアルミ箔(東洋アルミ株式会社製)を貼り合わせ、接着剤層6およびアルミ層3を形成した。イージーピール層4として、厚さ30μmのイージーピールシーラントフィルム(東レフィルム加工製 9501H)を使用し、押出ラミネーションによりアルミ層3上に接着層7およびイージーピール層4を形成した。接着層7として、変性PP(A)(融点ピーク:141℃、密度:0.90g/cm3、MFR:15g/10min)と、無変性ランダムポリプロピレンF329RA(融点ピーク:141℃、密度:0.91g/cm3、MFR:25g/10min)との2種の樹脂を用いた。各層の厚さは12μmとし、変性PPからなる層をアルミ層側に積層した。上記積層フィルムを140℃、15秒ヒーターロールに抱かせるように熱を加えて積層蓋材を作製した。変性PP(A)を用いた接着層7の重量平均分子量(Mw)は326,000だった。
【0032】
(比較例)
比較例として、接着層の変性PPの銘柄違いを評価した。
変性PP(A)に代えて、変性PP(B)(融点ピーク:103、133~155℃、密度:0.89g/cm3、MFR:10.3g/10min)を使用した点を除き、実施例1と同様の手順で比較例1の積層フィルムおよび積層蓋材を作製した。変性PP(B)を用いた接着層7の重量平均分子量(Mw)は391,000だった。
【0033】
図3は、上記のように作製した実施例および比較例の積層フィルムの構成を示す概略断面図である。
【0034】
各実施例および比較例の積層フィルムおよび包装容器を用いて、以下の評価を行った。
【0035】
(無水マレイン酸グラフト率の定量分析)
無水マレイン酸グラフト率は、以下の測定方法で測定することが可能である。
試料中の添加剤を除去し、グラフト無水マレイン酸部位をメチルエステル化し、その後、1H-NMR測定を行い、1H-NMRスペクトルよりグラフト無水マレイン酸量を算出する。
【0036】
[測定条件]
装置:日本電子製 EX-400型
観測核:1H
溶媒:ODCB/C6D6(4/1)
温度:130℃
【0037】
(重量平均分子量の測定)
ゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)により、以下の測定条件にて、各例の積層フィルムのポリスチレン(PS)換算分子量分布を算出した。
【0038】
[測定条件]
装置:Agilent製 PL-GPC220
カラム:Agilent PLgel Olexis 2本+Guard
溶解液:o-ジクロロベンゼン
温度:145℃
濃度:0.1wt/vol%
流速:1.0ml/min
前処理:熱時濾過(孔径0.5μmフィルター)
溶解性:完全溶解
検出器:示差屈折系(RI)
【0039】
(ラミネート強度の測定)
各例の積層フィルムから幅15mmの試験片を切り出した。引っ張り試験機を用い、JIS-K6854に準拠して、室温(20℃、30%RH)、300mm/minの速度でラミネート強度(アルミ層とイージーピール層間)を測定した。
【0040】
(リーク試験)
以下のようにリーク試験を行い、各例の安息香酸含有内容物およびレトルト処理に対する密封保持性を評価した。包装容器100に飽和安息香酸水溶液を0.6mL充填し、各例の積層蓋材1をシールして密封した。これにより、各例に係る包装容器100を作製した。各例の包装容器100を120℃、30分の条件でレトルト殺菌処理した後、容器本体に穴をあけて飽和安息香酸水溶液を除去し、墨汁を注入して、積層蓋材1と容器本体101との接合部における墨汁のリークの有無を目視により確認した。リークが生じていないものを「○(良好、good)」、リークが生じているものを「×(不良、bad)」、の2段階で評価した。
【0041】
結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1に示すように、接着層7の重量平均分子量(Mw)が326,000だった実施例では、120℃環境下におけるアルミ層3と接着層7とのラミネート強度が高く、レトルト処理後のリークが防止されていた。一方、接着層7の重量平均分子量(Mw)が391,000だった比較例では、120℃環境下におけるラミネート強度が十分ではなかった。また、レトルト処理後に密封状態で保持できず、リークが生じた。
【0044】
以上、本発明によって、安息香酸を含む内容物に対する内容物耐性および120℃環境下でのレトルト加熱殺菌耐性を有する積層蓋材および包装容器を提供することが可能となった。