(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169717
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】新規なシータディフェンシンアナログ
(51)【国際特許分類】
C07K 4/00 20060101AFI20241128BHJP
C07K 7/52 20060101ALI20241128BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20241128BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20241128BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20241128BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241128BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241128BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241128BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C07K4/00 ZNA
C07K7/52
C07K14/47
A61K38/10
A61K38/12
A61P31/04
A61P43/00 111
A61P37/04
A61P29/00
C07K4/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024168262
(22)【出願日】2024-09-27
(62)【分割の表示】P 2021577087の分割
【原出願日】2020-06-26
(31)【優先権主張番号】62/867,000
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522188026
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ サザン カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF SOUTHERN CALIFORNIA
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】セルステッド、マイケル イー.
(72)【発明者】
【氏名】トラン、ダット
(72)【発明者】
【氏名】シャール、ジャスティン ビー.
(57)【要約】
【課題】感染症及び/又は敗血症敗血症性ショックの治療において二相性効果を提供するθ-ディフェンシンの新規ペプチドアナログを提供する。
【解決手段】これらのアナログは、殺菌効果又は静菌効果を提供するために必要な濃度よりも低い濃度で活性であり、最初に免疫系のエフェクター細胞を動員して感染性生物に対処し、続いて免疫系を調節して敗血症及び敗血症性ショックに特徴的な炎症反応をダウンレギュレートすることによって機能する。これらの新規θ-ディフェンシンアナログは、天然に存在するθ-ディフェンシンが明らかな効果を持たない濃度で保護作用を有し、天然θ-ディフェンシンには見られない構造的及び配列的特徴のコアセットを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
14個のアミノ酸からなり、以下の構造:
【化1】
を有する環状ペプチドであって、AA3及びAA12はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA5及びAA10はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA4は第1の疎水性アミノ酸であり、AA11は第2の疎水性酸であり、AA6はアルギニンであり、AA7はアルギニンであり、AA8はアルギニンであり、生理学的pHで約28%の正の電荷量を提供する4つのアルギニン残基を有する、環状ペプチド。
【請求項2】
第1の疎水性アミノ酸及び第2の疎水性アミノ酸は、ロイシン又はイソロイシンである、請求項1に記載の環状ペプチド。
【請求項3】
AA1がグリシンである、請求項1又は2に記載の環状ペプチド。
【請求項4】
AA2が第3の疎水性アミノ酸である、請求項1~3のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項5】
第3の疎水性アミノ酸がバリン又はフェニルアラニンである、請求項4に記載の環状ペプチド。
【請求項6】
AA9が第4の疎水性アミノ酸である、請求項1~5のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項7】
第4の疎水性アミノ酸がバリン又はフェニルアラニンである、請求項6に記載の環状ペプチド。
【請求項8】
AA13がグリシンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項9】
AA14がアルギニンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項10】
AA4がアラニンでもセリンでもない、請求項1~9のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項11】
AA11がアラニンでもセリンでもない、請求項1~10のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項12】
MTD12813(配列番号2)である、請求項1に記載の環状ペプチド。
【請求項13】
前記環状ペプチドはθ-ディフェンシンのアナログであり、前記環状ペプチドは、マウス敗血症モデルに全身的に適用されると、θ-ディフェンシンと比較して改善された生存率を提供する、請求項1~12のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項14】
前記環状ペプチドは、敗血症のマウスモデルに適用すると二相性応答を提供し、前記二相性応答は、抗菌活性を有する宿主エフェクター細胞の動員の第1相及び宿主炎症性応答の緩和の第2相を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項15】
TACE阻害活性を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項16】
TNFの発現、プロセシング、及び放出のうちの少なくとも1つを抑制する、請求項1~15のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項17】
極端な温度、低pH、凍結及び/又は解凍、及び生物学的マトリックスへの溶解にさらされた後も活性を保持する、請求項1~16のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項18】
前記生物学的マトリックスは、血液、血漿、及び血清からなる群から選択される、請求項17に記載の環状ペプチド。
【請求項19】
前記環状ペプチドは、敗血症及び/又は敗血症性ショックを治療又は予防するのに有効な用量で非免疫原性である、請求項1~18のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項20】
宿主免疫系を活性化して宿主の病原体クリアランスを促進する、請求項1~18のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項21】
前記環状ペプチドは、敗血症性ショックを治療又は予防するのに有効な用量で、炎症を調節し、疾患の解消及び生存を増強する活性によって特徴づけられる、請求項1~20のいずれか一項に記載の環状ペプチド。
【請求項22】
敗血症性ショックを治療又は予防する方法であって、敗血症性ショックのリスクのある動物に環状ペプチドを投与することを含み、前記環状ペプチドは以下の構造:
【化2】
を有し、AA3及びAA12はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA5及びAA10はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA4は第1の疎水性アミノ酸であり、AA11は第2の疎水性酸であり、AA6はアルギニンであり、AA7はアルギニンであり、AA8はアルギニンであり、生理学的pHで約28%の正の電荷量を提供する4つのアルギニン残基を有する、方法。
【請求項23】
第1の疎水性アミノ酸及び第2の疎水性アミノ酸がロイシン又はイソロイシンである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
AA1がグリシンである、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
AA2が第3の疎水性アミノ酸である、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
第3の疎水性アミノ酸がバリン又はフェニルアラニンである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
AA9が第4の疎水性アミノ酸である、請求項22~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
第4の疎水性アミノ酸がバリン又はフェニルアラニンである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
AA13がグリシンである、請求項22~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
AA14がアルギニンである、請求項22~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
AA4がアラニンでもセリンでもない、請求項22~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
AA11がアラニンでもセリンでもない、請求項22~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記環状ペプチドがMTD12813(配列番号2)である、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
前記環状ペプチドはθ-ディフェンシンのアナログであり、前記環状ペプチドは、マウス敗血症モデルに全身的に適用されると、θ-ディフェンシンと比較して改善された生存率を提供する、請求項22~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記方法は、敗血症のマウスモデルへの適用時に二相性応答を提供し、前記二相性応答は、抗菌活性を有する宿主エフェクター細胞の動員の第1相及び宿主炎症性応答の緩和の第2相を含む、請求項22~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
TACE活性を阻害する、請求項22~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
TNFの発現、プロセシング、及び放出のうちの少なくとも1つを抑制する、請求項22~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記環状ペプチドは、極端な温度、低pH、凍結及び/又は解凍、及び生物学的マトリックスへの溶解にさらされた後も活性を保持する、請求項22~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記生物学的マトリックスは、血液、血漿、及び血清からなる群から選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記環状ペプチドは、敗血症性ショックを治療又は予防するのに有効な用量で非免疫原性である、請求項22~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記環状ペプチドは、宿主免疫系を活性化して宿主の病原体クリアランスを促進する、請求項22~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
敗血症及び/又は敗血症性ショックの治療又は予防における環状ペプチドの使用であって、前記環状ペプチドは以下の構造:
【化3】
を有し、AA3及びAA12はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA5及びAA10はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA4は第1の疎水性アミノ酸であり、AA11は第2の疎水性酸であり、AA6はアルギニンであり、AA7はアルギニンであり、AA8はアルギニンであり、前記環状ペプチドは生理学的pHで約28%の正の電荷量を提供する4つのアルギニン残基を有する、使用。
【請求項43】
第1の疎水性アミノ酸及び第2の疎水性アミノ酸は、ロイシン又はイソロイシンである、請求項42に記載の使用。
【請求項44】
AA1がグリシンである、請求項42又は43に記載の使用。
【請求項45】
AA2が第3の疎水性アミノ酸である、請求項42~44のいずれか一項に記載の使用。
【請求項46】
第3の疎水性アミノ酸がバリン又はフェニルアラニンである、請求項45に記載の使用。
【請求項47】
AA9が第4の疎水性アミノ酸である、請求項42~46のいずれか一項に記載の使用。
【請求項48】
第4の疎水性アミノ酸がバリン又はフェニルアラニンである、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
AA13がグリシンである、請求項42~48のいずれか一項に記載の使用。
【請求項50】
AA14がアルギニンである、請求項42~49のいずれか一項に記載の使用。
【請求項51】
AA4がアラニンでもセリンでもない、請求項42~50のいずれか一項に記載の使用。
【請求項52】
AA11がアラニンでもセリンでもない、請求項42~51のいずれか一項に記載の使用。
【請求項53】
前記環状ペプチドがMTD12813(配列番号2)である、請求項42に記載の使用。
【請求項54】
前記環状ペプチドはθ-ディフェンシンのアナログであり、前記環状ペプチドは、マウス敗血症モデルに全身的に適用されると、θ-ディフェンシンと比較して改善された生存率を提供する、請求項42~53のいずれか一項に記載の使用。
【請求項55】
前記環状ペプチドは、敗血症のマウスモデルに適用すると二相性応答を提供し、前記二相性応答は、抗菌活性を有する宿主エフェクター細胞の動員の第1相及び宿主炎症性応答の緩和の第2相を含む、請求項42~54のいずれか一項に記載の使用。
【請求項56】
前記環状ペプチドはTACE阻害活性を有する、請求項42~55のいずれか一項に記載の使用。
【請求項57】
前記環状ペプチドはTNFの発現、プロセシング、及び放出のうちの少なくとも1つを抑制する、請求項42~56のいずれか一項に記載の使用。
【請求項58】
前記環状ペプチドは、極端な温度、低pH、凍結及び/又は解凍、及び生物学的マトリックスへの溶解にさらされた後も活性を保持する、請求項42~57のいずれか一項に記載の使用。
【請求項59】
前記生物学的マトリックスは、血液、血漿、及び血清からなる群から選択される、請求項58に記載の使用。
【請求項60】
前記環状ペプチドは、敗血症性ショックを治療又は予防するのに有効な用量で非免疫原性である、請求項42~59のいずれか一項に記載の使用。
【請求項61】
前記環状ペプチドは、宿主免疫系を活性化して宿主の病原体クリアランスを促進する、請求項42~60のいずれか一項に記載の使用。
【請求項62】
前記環状ペプチドは、敗血症性ショックを治療又は予防するのに有効な用量で、炎症を調節し、疾患の解消及び生存を増強する活性によって特徴づけられる、請求項42~61のいずれか一項に記載の使用。
【請求項63】
敗血症性ショックの治療又は予防のための医薬の調製における環状ペプチドの使用であって、前記環状ペプチドは以下の構造:
【化4】
を有し、AA3及びAA12はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA5及びAA10はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA4は第1の疎水性アミノ酸であり、AA11は第2の疎水性酸であり、AA6はアルギニンであり、AA7はアルギニンであり、AA8はアルギニンであり、前記環状ペプチドは生理学的pHで約30%の正の電荷量を提供する4つのアルギニン残基を有する、使用。
【請求項64】
第1の疎水性アミノ酸及び第2の疎水性アミノ酸は、ロイシン又はイソロイシンである、請求項63に記載の使用。
【請求項65】
AA1がグリシンである、請求項63又は64に記載の使用。
【請求項66】
AA2が第3の疎水性アミノ酸である、請求項63~65のいずれか一項に記載の使用。
【請求項67】
第3の疎水性アミノ酸がバリン又はフェニルアラニンである、請求項66に記載の使用。
【請求項68】
AA9が第4の疎水性アミノ酸である、請求項63~67のいずれか一項に記載の使用。
【請求項69】
第4の疎水性アミノ酸がバリン又はフェニルアラニンである、請求項47に記載の使用。
【請求項70】
AA13がグリシンである、請求項63~69のいずれか一項に記載の使用。
【請求項71】
AA14がアルギニンである、請求項63~70のいずれか一項に記載の使用。
【請求項72】
AA4がアラニンでもセリンでもない、請求項63~71のいずれか一項に記載の使用。
【請求項73】
AA11がアラニンでもセリンでもない、請求項63~72のいずれか一項に記載の使用。
【請求項74】
前記環状ペプチドがMTD12813(配列番号2)である、請求項73に記載の使用。
【請求項75】
前記環状ペプチドはθ-ディフェンシンのアナログであり、前記環状ペプチドは、マウス敗血症モデルに全身的に適用されると、θ-ディフェンシンと比較して改善された生存率を提供する、請求項63~74のいずれか一項に記載の使用。
【請求項76】
前記環状ペプチドは、敗血症のマウスモデルに適用すると二相性応答を提供し、前記二相性応答は、抗真菌活性を有する宿主エフェクター細胞の動員の第1相及び宿主炎症性応答の緩和の第2相を含む、請求項63~75のいずれか一項に記載の使用。
【請求項77】
前記環状ペプチドはTACE阻害活性を有する、請求項63~76のいずれか一項に記載の使用。
【請求項78】
前記環状ペプチドはTNFの発現、プロセシング、及び放出のうちの少なくとも1つを抑制する、請求項63~77のいずれか一項に記載の使用。
【請求項79】
前記環状ペプチドは、極端な温度、低pH、凍結及び/又は解凍、及び生物学的マトリックスへの溶解にさらされた後も活性を保持する、請求項63~78のいずれか一項に記載の使用。
【請求項80】
前記生物学的マトリックスは、血液、血漿、及び血清からなる群から選択される、請求項79に記載の使用。
【請求項81】
前記環状ペプチドは、敗血症性ショックを治療又は予防するのに有効な用量で非免疫原性である、請求項63~80のいずれか一項に記載の使用。
【請求項82】
前記環状ペプチドは、宿主免疫系を活性化して宿主の病原体クリアランスを促進する、請求項63~81のいずれか一項に記載の使用。
【請求項83】
前記環状ペプチドは、敗血症及び/又は敗血症性ショックを治療又は予防するのに有効な用量で、炎症を調節し、疾患の解消及び生存を増強する活性によって特徴づけられる、請求項63~82のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年6月26日に出願された米国仮特許出願第62/867,000号の利益を主張する。この、及び他のすべての参照された外部の資料は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれる参考文献における用語の定義又は使用が、本明細書で提供されるその用語の定義と矛盾するか又は反対である場合、本明細書で提供されるその用語の定義が優先されるものとする。
【0002】
発明の分野
本発明の分野は、生物学的製剤、特にペプチド薬である。
【背景技術】
【0003】
背景の説明には、本発明を理解するのに役立ち得る情報が含まれている。これは、本明細書で提供される情報のいずれかが先行技術であるか、又は現在請求されている発明に関連していること、あるいは具体的又は暗黙的に参照されている刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0004】
体の防御的炎症反応は、時として怪我や、死にさえ至ることがある。例えば、敗血症や敗血症性ショックは、炎症性免疫反応の結果である。敗血症性ショックの治療は、主に抗生物質の投与と、血圧を安定させるための支持療法及び血管収縮薬の提供による。しかし、罹患率は依然として重要である。このような炎症反応による死亡率は、敗血症の約30%から敗血症性ショックの約80%の範囲にわたる。したがって、敗血症及び敗血症性ショックの様々な側面を治療するのに有効な治療化合物を特定することに大きな関心が寄せられている。
【0005】
ディフェンシンは、感染に対する体の非特異的防御の一部である小さな抗菌タンパク質の多様なファミリーである。ディフェンシンタンパク質には、アルファ、ベータ、及びシータディフェンシンの3つの異なる、構造的に別個のクラスがある。α及びβディフェンシンは、それぞれ約2.6kDa又は4.5kDaの分子量を有する線状のトリジスルフィド含有ペプチドである。対照的に、θ-ディフェンシンは、18個のアミノ酸から構成される環状ペプチド(すなわち、骨格が遊離アミノ末端も遊離カルボキシル末端も持たない連続的なペプチド結合によって形成される環状ペプチド)である。
【0006】
θ-ディフェンシンは、アカゲザル、ヒヒ、その他の旧世界ザルの組織で発現している。それらはヒトや他の類人猿には存在しない。天然に存在するθ-ディフェンシンは、3つのジスルフィド結合によって安定化された18骨格環化(すなわち、側鎖部分ではなくアルファアミン基を介して)ペプチドで構成されている。これらの3つのジスルフィド結合は、すべての既知のθ-ディフェンシン間で保存されている。θ-ディフェンシンは最初に発見され、ペプチドの抗菌特性に基づいてディフェンシンとして分類された。最近になって、θ-ディフェンシンが強力な免疫調節効果を有する可能性があることが発見された。
【0007】
特許文献1(Lehererら)は、構造/活性関係を導き出す試みにおいて、様々な程度のエナンチオマー含有量を含むレトロサイクリンペプチド及びそのようなペプチドアナログの構造と生物学的活性との関係を記載している。ただし、これらのアナログは、天然のレトロサイクリンの長さと構造を保持している。さらに、この文献は抗菌作用についての参考にしかならない。
【0008】
様々なディフェンシンのペプチドアナログが調査されてきた。例えば、特許文献2(Colavitaら)は、親タンパク質と比較して抗生物質効果が向上しているβ-ディフェンシンの環状アナログについて説明している。しかし、そのようなβ-ディフェンシンは炎症誘発性サイトカインの放出を刺激することが示されており、これは安全性の懸念を引き起こし、それらの有用性を制限する。
【0009】
特許文献3(Mauryら)は、キメラθ-ディフェンシンの合成と生物学的活性を説明し、保存的アミノ酸置換を行う可能性について推測しているが、これらは天然θ-ディフェンシンの長さ及び構造を保持しているようである。特許文献4(Selstedら)は、RTD-1から誘導されたいくつかのテトラデカペプチドθ-ディフェンシンアナログとそれらの生物学的特性について説明している。
【0010】
したがって、敗血症/敗血症性ショック、及び、調節不全の炎症反応に起因する生理学的に関連する障害の管理及び/又は治療のための安全で効果的な化合物の必要性が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2007/044998号
【特許文献2】欧州特許出願公開第2990415号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0022829号明細書
【特許文献4】米国特許第10,512,669号明細書
【発明の概要】
【0012】
本発明の主題は、θ-ディフェンシンの合成アナログであって、天然θ-ディフェンシンと比較して、同アナログが直接的な殺菌及び/又は静菌効果を有する濃度よりも低い濃度で敗血症及び/又は敗血症性ショックを治療する際に改善された活性を有する同アナログを提供する。
【0013】
本発明の概念の一実施形態は、14個のアミノ酸からなり、
図2Aに示されるように、2対のシステイン間の2つのジスルフィド結合を含む構造を有する環状ペプチドである。このようなペプチドにおいて、AA3及びAA12はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA5及びAA10はジスルフィド結合によって結合されたシステインであり、AA4は第1の疎水性アミノ酸であり、AA11は第2の疎水性酸であり、AA6はアルギニンであり、AA7はアルギニンであり、AA8はアルギニンである。環状ペプチドは、生理学的pHで約28%の正の電荷量を提供する合計4つのアルギニン残基を有する。第1の疎水性アミノ酸及び第2の疎水性アミノ酸は、ロイシン又はイソロイシンとすることができる。AA1はグリシンとすることができる。AA2は、バリン又はフェニルアラニンなどの第3の疎水性アミノ酸とすることができる。AA9は、バリン又はフェニルアラニンなどの第4の疎水性アミノ酸とすることができる。AA13はグリシンとすることができる。AA14はアルギニンとすることができる。いくつかの実施形態において、AA4はアラニンでもセリンでもあってはならない。いくつかの実施形態において、AAl1はアラニンでもセリンでもあってはならない。いくつかの実施形態において、環状ペプチドはMTD12813(配列番号2)である。
【0014】
このような環状ペプチドは、θ-ディフェンシン自体と比較して、マウス敗血症モデルに全身的に適用された際に生存率を改善するθ-ディフェンシンのアナログであり得る。いくつかの実施形態において、環状ペプチドは、敗血症のマウスモデルに適用すると二相性応答を提供する。そのような二相性応答は、抗菌活性を有する宿主エフェクター細胞の動員の第1相及び宿主炎症性応答の緩和の第2相を含む。いくつかの実施形態において、環状ペプチドは、TACE阻害活性を有し、及び/又は、TNFの発現、プロセシング、及び放出のうちの少なくとも1つを抑制する。
【0015】
このような環状ペプチドは、極端な温度、低pH、凍結及び/又は解凍、及び生物学的マトリックス(血液、血漿、血清など)への溶解にさらされた後も活性を保持する。いくつかの実施形態において、そのような環状ペプチドは、敗血症及び/又は敗血症性ショックを治療又は予防するのに有効な用量で非免疫原性である。このような環状ペプチドは、宿主免疫系を活性化して宿主の病原体クリアランスを促進することができ、また、敗血症性ショックを治療又は予防するのに有効な用量で、炎症を調節し、疾患の解消及び生存を増強する活性を有することができる。
【0016】
本発明の概念の別の実施形態は、敗血症性ショックのリスクのある動物に上記のような環状ペプチドを投与することにより、敗血症性ショックを治療又は予防する方法である。
本発明の概念の別の実施形態は、敗血症及び/又は敗血症性ショックの治療又は予防における上記のような環状ペプチドの使用、又は、敗血症性ショックの治療又は予防に有効な医薬の調製におけるそのような環状ペプチドの使用である。
【0017】
本発明の主題の様々な目的、特徴、態様及び利点は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明及び添付の図面からより明らかになるであろう。図面中、同様の数字は同様の構成要素を表す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、全体を通して言及される例示的な環状ペプチドの概略図を示す。RTD-1(配列番号1)は、天然に存在するオクタデカペプチドθ-ディフェンシンである。残りのペプチドはθ-ディフェンシンアナログである。
【
図2A】
図2Aは、環状ディフェンシンアナログの概略図を示し、環状鎖に沿った位置によるアミノ酸の数値指定を示す。
【
図2B】
図2Bは、MTD12813(配列番号2)ペプチドのアミノ酸へのこれらの指定の適用の例を提供する。
【
図3】マウスのカルバペネム耐性クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)敗血症モデルにおける大環状ペプチドの有効性研究の結果を示す。
【
図4】マウスのカルバペネム耐性クレブシエラ・ニューモニエ敗血症モデルにおけるMTD12813(配列番号2)の効力研究の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な説明
本発明の主題は、最初に免疫系のエフェクター細胞を動員して感染性生物に対処し、続いて免疫系を調節して敗血症や敗血症性ショックに見られるような全身炎症反応を抑制することにより、感染症及び/又は敗血症を治療する際に二相性効果を誘導する新規ペプチドを提供する。新規ペプチドは、宿主免疫系のエフェクター細胞の動員を介して間接的な抗菌効果を提供し、敗血症/敗血症性ショックを予防及び/又は治療するように改変された配列を有する天然に存在するθ-ディフェンシンのアナログである。これらの新規θ-ディフェンシンアナログは、宿主自然免疫エフェクターの非存在下で直接的な抗菌効果を提供しない(すなわち、殺菌効果又は静菌効果を生じない)抗菌未満の血漿濃度で有効である。このようなθ-ディフェンシンアナログは、天然θ-ディフェンシンが明らかな効果を持たない濃度で保護作用を有し、天然θ-ディフェンシンには見られない構造的及び配列的特徴のコアセットを含む。
【0020】
本願の文脈において、「抗菌未満」の濃度は、そのように記載された化合物がin vitroで(例えば、液体培地中で)、例えば宿主免疫エフェクターがない場合に、代表的な微生物病原体に適用されたときに抗菌効果を有しない濃度であると理解されるべきである。例えば、クレブシエラ・ニューモニエに関する化合物の抗菌未満の濃度は、in vitro設定(例えば、宿主免疫エフェクターの非存在下)において生物に対して抗菌効果を示す濃度よりも低い濃度であり得る。そのような抗菌未満の濃度は、実験によって(例えば、患者サンプルからの培養によって)、又は好ましくは、履歴データから決定することができる。
【0021】
以下の説明は、本発明を理解するのに有用であり得る情報を含む。これは、本明細書で提供される情報のいずれかが先行技術であるか、又は現在請求されている発明に関連していること、あるいは具体的又は暗黙的に参照されている刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0022】
いくつかの実施形態において、本発明の特定の実施形態を説明及び請求するために使用される、成分の量、濃度、反応条件などの特性を表す数字は、場合によっては「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、いくつかの実施形態において、明細書及び添付の特許請求の範囲に示される数値パラメータは、特定の実施形態によって得られることが求められる所望の特性に応じて変化し得る近似値である。いくつかの実施形態において、数値パラメータは、報告された有効桁数に照らして、通常の丸め手法を適用して解釈する必要がある。本発明のいくつかの実施形態の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示されている数値は、実行可能な限り正確に報告される。本発明のいくつかの実施形態で提示された数値は、それぞれの試験測定で見出された標準偏差に必然的に起因する特定の誤差を含み得る。
【0023】
本明細書の説明及び特許請求の範囲全体で使用されるように、「1つ」、及び「その」の意味は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、複数形の参照を含む。また、本明細書の説明で使用されるように、「内(in)」の意味は、文脈上そうでないことが明らかでない限り、「内(in)」及び「上(on)」を含む。
【0024】
本明細書に開示される本発明の代替要素又は実施形態のグループ化は、制限として解釈されるべきではない。各グループメンバーは、個別に、又はグループの他のメンバー又は本明細書に見られる他の要素との任意の組み合わせで参照及び請求することができる。グループの1つ以上のメンバーは、利便性及び/又は特許性の理由から、グループに含めるか、グループから削除することができる。そのような包含又は削除が発生した場合、本明細書は、そのように変更されたグループを含み、したがって、添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのマーカッシュグループは、発明の詳細な説明に記載されていると見なされる。
【0025】
ここでの値の範囲の列挙は、範囲内にある個々の値を個別に参照する簡単な方法として機能することを目的としているにすぎない。本明細書に別段の記載がない限り、個々の値は、本明細書に個別に記載されているかのように明細書に組み込まれる。本明細書に記載されているすべての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書の特定の実施形態に関して提供される任意のすべての例又は例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に本発明をよりよく照らすことを意図しており、他の方法で特許請求される本発明の範囲を制限するものではない。本明細書のいかなる文言も、特許請求の範囲に記載されていない要素を本発明の実施に必須であることを示すものとして解釈されるべきではない。
【0026】
以下の記述は、本発明の主題の多くの例示的な実施形態を提供する。各実施形態は、本発明の要素の単一の組み合わせを表すが、本発明の主題は、開示された要素のすべての可能な組み合わせを含むと見なされる。したがって、1つの実施形態が要素A、B、及びCを含み、第2の実施形態が要素B及びDを含む場合、本発明の主題はまた、明示的に開示されていなくとも、A、B、C、又はDの他の残りの組み合わせを含むと見なされる。
【0027】
開示されたペプチドは、少量の抗菌未満の量で投与した場合に敗血症/敗血症性ショックによる死亡率を減少させるのに有効な二相性応答の提供を含む、多くの有利な技術的効果を提供することを理解すべきである。
【0028】
本発明者らは、シータディフェンシンRTD-1の合成環状テトラデカペプチドアナログを説明した。これは、サイズが小さく、ジスルフィド結合の数が少ないにもかかわらず、親ペプチドのいくつかの活性を示した。天然のシータディフェンシンRTD-1(配列番号1)及びいくつかの例示的な合成環状テトラデカペプチドアナログの構造を
図1に示す。示されているように、RTD-1(アカゲザルで自然に発現される)は、ペプチドの環状一次構造に架け渡されたジスルフィド結合によって結合された3対のシステインを含む環状オクタデカペプチドである。RTD-1の合成(すなわち、天然に存在しない)アナログのいくつかの例が示されている。例示的な合成アナログのそれぞれは、ジスルフィド結合によって結合された2対のシステインを含むテトラデカペプチドである。これらのジスルフィド結合は、合成ペプチドの環状一次構造に架け渡されて、追加のアミノ酸を組み込んだ「ボックス」サブ構造を形成する。これらの例示的なアナログは、RTD-1と様々な程度の配列同一性を示し、場合によっては、合成ペプチドアナログのシステインによって画定される「ボックス」の近く及びその間の保存的アミノ酸置換を示すことを理解されたい。
【0029】
本発明者らは、敗血症モデルにおいてマウスの長期生存に対し実質的に改善された効果(RTD-1と比較して)を提供し、また、これらの効果を驚くほど低濃度で提供する合成ペプチドであるMIDI280(
図1、配列番号3を参照)と呼ばれるアナログに基づく一連のθ-ディフェンシンアナログを調製及びスクリーニングした。敗血症の長期生存には、感染生物の管理と、感染に対する宿主の反応によって誘発されるショックの両方の管理が必要であり、どちらも死をもたらす可能性があることを理解されたい。
【0030】
敗血症及び/又は敗血症性ショックに対する活性の例が提供されているが、本明細書に記載のθ-ディフェンシンアナログは、慢性状態を含む、免疫又は炎症反応の調節不全から生じる様々な状態の治療にも有効であり得ると本発明者らは考える。このような慢性疾患の例には、関節リウマチや炎症性腸疾患が含まれる。
【0031】
θ-ディフェンシンが抗ウイルス活性を有することが見出されているため、本発明者らは、本発明の概念のθ-ディフェンシンアナログが同様に抗ウイルス活性を提供でき、ウイルス性疾患及びウイルス感染の炎症性後遺症の治療に有用であることが証明できると考える。そのような治療には、予防法及び/又は活動性疾患が含まれる。いくつかの実施形態において、そのように治療された活動性疾患は症候性である。他の実施形態において、そのように治療される活動性疾患は無症候性である。
【0032】
驚くべきことに、免疫系を調節する際に二相性応答を提供するθ-ディフェンシンアナログが同定された。最初の効果はオプソニン作用であり、エフェクター細胞を敗血症部位に動員する。これは感染と戦うのに役立ち、驚くべきことに、殺菌効果も静菌効果も示さなかったθ-ディフェンシンアナログの濃度(すなわち、抗菌未満の濃度)で生じることがわかった。この最初のオプソニン効果に続いて、これらの合成θ-ディフェンシンアナログは、敗血症性ショックの予防において長期生存に寄与する長期免疫調節効果(例えば、TNF、IL-6及び他の炎症性サイトカインの減少)を示す。
【0033】
上記のように、天然に存在するθ-ディフェンシン及び例示的なθ-ディフェンシンアナログの例が
図1に示されている。これらは従来のアミノ末端及びカルボキシル末端を欠いた環状ペプチドであることを理解されたい。そのため、付随するアミノ酸配列リストに記載されているようなアミノ酸配列情報は、個別のN末端又はC末端に基づいていると解釈されるべきではない。天然に存在するθ-ディフェンシンRTD-1(配列番号1)の一次構造が
図1の一番上に示されている。残りのペプチドは、θ-ディフェンシンの例示的な非天然アナログである。14アミノ酸アナログシリーズにおいて、
図2A及び2Bに示されるような環状θ-ディフェンシン及びそれらのアナログに使用するために適合された番号付けシステムを使用して指定されるように、それらの三次元構造には、アミノ酸6位~9位によって形成される第1のβ-ターン及びアミノ酸13位、14位、1位、及び2位によって形成される第2のβ-ターンが含まれることを理解されたい。
【0034】
これらの環状ペプチドは遊離のアミノ末端又はカルボキシル末端を持たないが、環状構造内のアミノ酸位置は、特定の構造的特徴(ジスルフィド結合及び/又はアルギニンの特徴的な「トリプレット」など)に対するそれらの位置に基づいて指定できる。本願の範囲内でこの目的のために利用されるそのような指定のセットが、
図2Aに示されている。ここで、アミノ酸は、個々のアミノ酸の第一級アミンを介した(すなわち、側鎖基を介さない)ペプチド結合の環状かつひとつながりの鎖を有する環状テラデカペプチド構造において、1~14(AA1、AA2など)で指定される。また、AA3及びAA12として指定されたシステインアミノ酸の側鎖間及びアミノ酸AA5及びAA10として指定されたシステインアミノ酸の側鎖間に2つのペプチド内共有結合が生じる。
図2Bは、例示的な合成環状テトラデカペプチド(MTD12813ペプチド、配列番号2)に適用される、本願の文脈内でのアミノ酸位置の適用を示す。アミノ酸同一性は、1文字アミノ酸コードを使用して指定される。
【0035】
図3は、治療されなければ75%の死亡率(すなわち、25%の生存)をもたらす抗生物質耐性細菌を利用した敗血症のマウスモデルにおけるRTD-1(配列番号1)及び例示的な新規合成テトラデカペプチドの適用の結果を示す。BALB/cマウスを、3~5×10
8CFUのクレブシエラ・ニューモニエのカルバペネム耐性株(KPC+-KpBAA-1705(ATCC))に腹腔内感染させ、感染の1時間後にペプチドで処理した。
図3の左側のパネルは、5mg/kgで投与された合成ペプチドMTD12813(配列番号2)と天然に存在するRTD-1との間の比較研究の例示的な結果を示す。
図3の右側のパネルは、0.5mg/kgで投与された合成ペプチドMTD12813とMTD1280(配列番号3)との間の比較研究の例示的な結果を示している。P値は、フィッシャーの直接確率検定によって決定した。治療用ペプチドは、敗血症の誘発の1時間後に腹腔内に提供した。
【0036】
図3の左側のパネルに示されているように、5mg/kgのRTD-1(配列番号1)は部分的な保護(シャム対照の25%に対して70%の生存)のみを提供するのに対し、MTD12813(配列番号2)は敗血症及び敗血症性ショックからの完全な保護を提供する。
図3の右側のパネルに示されているように、0.5mg/kgにおいて、生存率に対するMTD1280(配列番号3)の効果はシャム対照の効果と本質的に同一であるが、MTD12813は、ほぼ90%の生存率を提供する。この違いは極めて有意である(P=0.0031)。
【0037】
これらの用量では、θ-ディフェンシン及び/又はそのアナログは、感知できるほどの直接的な抗菌(例えば、殺菌性、静菌性)効果を有するのに十分な薬物Cmaxを生じないことを理解されたい。理論に縛られることを望まないが、本発明者らは、二相性応答の第一段階に特徴的なMTD12813(配列番号2)の抗菌効果は、宿主免疫系からの細胞の動員及び刺激をもたらす全身性免疫活性化メカニズムの結果であり、これは次に病原体を貪食し、殺し、除去すると考える。さらに、MTD12813は炎症反応を緩和し、サイトカインストームなどの過剰活性化及び/又は消散しない全身性炎症の有害な影響を軽減する。
【0038】
図4は、
図3に示される研究で使用されたのと同じマウス敗血症モデルを使用した、様々な濃度のMTD12813(配列番号2)についてのそのようなマウス生存率研究における生存率研究の典型的な結果を示す。BALB/cマウスをKPC+-Kp BAA-1705(ATCC)に腹腔内感染させ、感染の1時間後に、示されたレベルのMTD12813の単回投与で処理した。各用量の治療効果の有意性(フィッシャーの直接確率検定によって決定されたP値)が示されている。示されているように、この新規なθ-ディフェンシンアナログの1.25mg/kgは5mg/kgと同じくらい効果的であり、0.5mg/kgという低い用量のMTD12813も非常に効果的である。0.5mg/kgが試験した最低用量であり、本発明者らは、MTD12813がさらに低い用量、例えば、0.25mg/kg、100μg/kg、50μg/kg、25μg/kg、又は10μg/kgまで有効であると考えていることを理解されたい。
【0039】
上記のように、MTD12813(配列番号2)は、θ-ディフェンシンRTD-1(配列番号1)の一連の環状ペプチドアナログのスクリーニング研究で同定された。RTD-1は、18個のアミノ酸と、システインのペア間に3個のジスルフィド結合とを含むカチオン性のアルギニンに富む環状ペプチドである(
図1)。他の活性なθ-ディフェンシンアナログも
図1に示されている。
【0040】
本発明者らは、類似の共有構造(例えば、長さ、環状構造、二対のジスルフィド結合、及びカチオン性)を有するにもかかわらず、MTD1280(配列番号3)と比較して優れた性能を示す多くの新規θ-ディフェンシンアナログを同定した。評価した特徴には、抗生物質耐性K.ニューモニエ敗血症における生存効果、生体適合性(毒性の欠如)、TNF-α(TNF)放出のin vitro抑制、及びTACEの阻害が含まれていた。例示的な環状ペプチドのアミノ酸配列を表1に示す。アミノ酸の同一性は、
図2で確立された環状構造内の対応する位置の数値指定を使用して示されることを理解されたい。これらのペプチドに関連する特性及び活性を表2に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
これらの参照ペプチドと比較して、RTD-1及びMTD1280由来のアナログに優れた活性を与える多くの配列の特徴が特定された。すべての活性なθ-ディフェンシンアナログは、少なくとも以下を有し得る:
・Cys3とCys12の間、及びCys5とCys10の間の2つのジスルフィド結合。
【0044】
・θ-ディフェンシンアナログの一次構造におけるCys3とCys5の間に位置する疎水性アミノ酸及びCys10とCysl2の間に位置する疎水性アミノ酸(すなわち、4位及び11位)、好ましくはロイシン又はイソロイシン。上記のジスルフィド結合と組み合わせて、これはペプチドの環状一次構造内に「C-X-Cボックス」と呼ばれる特徴を画定する。ここで「C」はシステインであり、「X」は、好ましくはロイシン又はイソロイシンのいずれかである。
【0045】
・いくつかの実施形態では、アルギニンを含むC-X-Cボックス。
・生理的pHでペプチドに+4の電荷を与える合計4つのアルギニン残基。
・6位、7位、及び8位、すなわち第1のβ-ターン内の隣接するアルギニンのトリプレット。
【0046】
いくつかの実施形態において、活性なθ-ディフェンシンアナログはまた、以下の特徴のうちの1つ以上を含み得る:
・1位のグリシン及び13位のグリシン。
【0047】
・2位及び9位の疎水性アミノ酸、好ましくはバリン又はフェニルアラニン。
・第2のβ-ターン内のアルギニン(例えば、14位)。
候補ペプチドの毒性は、活性なθ-ディフェンシンアナログが以下のうちの1つ以上を含むべきではないことを示唆している:
・4位のアラニン。
【0048】
・11位のアラニン。
したがって、本発明者らは、上記の「C-X-Cボックス」構造、6位、7位、及び8位の隣接するアルギニン残基のトリプレット、9位の疎水性アミノ酸(例えば、バリン又はフェニルアラニン)を含み、かつアルギニン含有量に起因する+4(総アミノ酸含有量の約28%)の正味の正電荷を有するθ-ディフェンシンアナログは、敗血症における死亡率の低下及び/又は長期生存の改善に効果的であり、さらに、炎症反応又は免疫反応の調節不全を特徴とする他の状態の治療に効果的であると考える。
【0049】
本明細書に記載のθ-ディフェンシンのアナログは、任意の適切な方法を使用して適用することができる。例えば、そのようなアナログは、注射又は注入によって提供することができる。いくつかのθ-ディフェンシンアナログで観察された高度の有効性は、治療を必要とする個人に、これらが単純な皮下、皮内、真皮下、静脈内、及び/又は筋肉内注射によって有効量で提供できることを示している。
【0050】
あるいは、環状構造及びジスルフィド結合の存在によって与えられる低分子量及び高度の安定性は、本発明の概念のθ-ディフェンシンアナログの経口投与を可能にすることができる。そのような経口投与は、経口投与に適した液体医薬担体中のθ-ディフェンシンアナログの溶液又は懸濁液の投与を含み得る。いくつかの実施形態において、θ-ディフェンシンアナログは、経口投与の前に液体培体で再構成される乾燥又は凍結乾燥形態で提供され得る。そのような乾燥又は凍結乾燥製剤は、安定剤を含むことができる。適切な安定剤には、炭水化物(例えば、マンニトール、スクロース、トレハロース)及び/又はタンパク質(例えば、アルブミン)が含まれる。
【0051】
あるいは、θ-ディフェンシンのアナログは、錠剤、カプセル、ピル、又は経口投与に適した他の適切な固体状かつコンパクトな形態で提供することができる。そのような製剤は、θ-ディフェンシンアナログの遅延放出を提供する(例えば、小腸に到達するまで放出を遅らせる)コーティング、シェル、又は同様の構成要素を含むことができる。そのような製剤は、エンクロージャー又はコーティング内に液体形態のθ-ディフェンシンを含むことができる。あるいは、そのような製剤は、乾燥又は凍結乾燥形態のθ-ディフェンシンアナログを含むことができる。適切な乾燥又は凍結乾燥形態には、粉末、顆粒、及び圧縮固体が含まれる。そのような乾燥又は凍結乾燥製剤は、安定剤を含むことができる。適切な安定剤には、炭水化物(例えば、マンニトール、スクロース、トレハロース)及び/又はタンパク質(例えば、アルブミン)が含まれる。
【0052】
上記のように、本発明の概念のθ-ディフェンシンアナログは、敗血症及び/又は敗血症性ショックを効果的に治療することができる。いくつかの実施形態において、そのような治療は、進行中の急性状態に応答する。他の実施形態において、そのような治療は予防的であり、例えば、個体が敗血症を有する疑いがあるか、又は敗血症を発症する可能性が高い場合に、敗血症性ショックの発症を予防するために使用される。治療は、任意の適切なスケジュールで本発明の概念のθ-ディフェンシンアナログを投与することによって提供され得る。例えば、θ-ディフェンシンアナログは、単回投与、定期的投与、又は連続注入として提供することができる。定期的投与は、任意の適切な間隔で投与することができる。適切な間隔は、1時間ごと、2時間ごと、4時間ごと、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、2日ごと、3日ごと、週2回、毎週、2週間ごと、4週間ごと、2か月ごと、3か月ごと、4か月ごと、1年に3回、1年に2回、又は毎年であり得る。
【0053】
いくつかの実施形態において、θ-ディフェンシンアナログの投与様式は、治療の過程で変更することができる。例えば、本発明の概念のθ-ディフェンシンアナログは、最初に静脈内注射又は注入(例えば、急性敗血症又は敗血症性ショックにおいて有効濃度を迅速に提供するため)、続いて、残りの治療期間にわたって有効な濃度を維持するため、皮内注射、筋肉内注射、及び/又は経口投与によって投与することができる。
【0054】
予防的使用のために、観察可能な症状の発症前にθ-ディフェンシンアナログを投与することができる。活動性の疾患又は状態の治療のために、θ-ディフェンシンアナログを、その疾患又は状態を効果的に治療するのに適切な期間投与することができる。そのような期間は、制御された期間にわたることができ、又は長期間であってもよい(例えば、慢性状態の治療のために)。
【0055】
本発明の概念のいくつかの実施形態において、θ-ディフェンシンアナログは、他の薬学的に活性な化合物と組み合わせて使用され得る。適切な化合物には、θ-ディフェンシン、異なるθ-ディフェンシンアナログ、抗細菌性抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌性抗生物質、抗炎症性薬物(例えば、ステロイド、非ステロイド性抗炎症性薬物)、昇圧剤、及び/又は生物学的製剤(例えば、抗体又は抗体フラグメント)が含まれる。このような追加の医薬化合物は、θ-ディフェンシンアナログと同じスケジュールで、又は独立したスケジュールで提供することができる。いくつかの実施形態において、そのような追加の薬学的に活性な化合物を1つ以上組み込んだθ-ディフェンシンアナログ含有製剤を提供することができる。本発明者らは、そのような併用療法は、追加の薬学的に活性な化合物と組み合わせたθ-ディフェンシンアナログの投与の累積効果が、θ-ディフェンシンアナログ及び追加の薬学的に活性な化合物を併用療法に使用される量に相当する量で用いた処理で見られる個々の効果の合計を超える相乗効果を提供することができると考える。
【0056】
本明細書の本発明の概念から逸脱することなく、すでに説明したもの以外のさらに多くの変更が可能であることは、当業者には明らかである。したがって、本発明の主題は、添付の特許請求の範囲の趣旨を除いて制限されるべきではない。さらに、明細書と特許請求の範囲の両方を解釈する際には、すべての用語は文脈と一致する限り最も広く解釈される。特に、「含む」という用語は、要素、コンポーネント、又はステップを非排他的に指すものとして解釈されるべきであり、参照される要素、コンポーネント、又はステップは、存在するか、利用されるか、又は明示的に参照されていない他の要素、コンポーネント、又はステップと組み合わされ得ることを示す。明細書及び特許請求の範囲がA、B、C....及びNからなる群から選択される少なくとも1つに言及している場合、その文脈は、A+NやB+Nなどではなく、その群からの1つの要素のみが必須であると解釈されるべきである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。