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特開2024-169732不整脈をモデリングするための心臓ペーシングのシミュレーション
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  • 特開-不整脈をモデリングするための心臓ペーシングのシミュレーション 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169732
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】不整脈をモデリングするための心臓ペーシングのシミュレーション
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/319 20210101AFI20241128BHJP
   A61B 5/343 20210101ALI20241128BHJP
   A61B 5/367 20210101ALI20241128BHJP
【FI】
A61B5/319
A61B5/343
A61B5/367
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024169243
(22)【出願日】2024-09-27
(62)【分割の表示】P 2019039319の分割
【原出願日】2019-03-05
(31)【優先権主張番号】15/913,483
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】エリアス・シャミロフ
(72)【発明者】
【氏名】ウラジミール・ルビンシュタイン
(72)【発明者】
【氏名】シラン・エリヤフ
(57)【要約】
【課題】心臓の電気生理学的活動のシミュレーションを行うこと。
【解決手段】心臓シミュレーション方法は、メモリ内に、患者の心臓の壁組織の少なくとも一部の測定された電気生理学的(EP)マップを記憶することを含む。記憶されたEPマップに基づき、コンピュータでシミュレーションしたペーシングに応じてシミュレーションした電気活動は、実際のペーシングに応じて患者の心臓の壁組織にわたって生じる実際の電気活動をシミュレーションしており、プロセッサにおいて計算される。プロセッサにおいて計算されるシミュレーションした電気活動に基づいて、不整脈が発生したと疑われる心臓の壁組織上の1つ又は2つ以上の候補位置は、特定され、ユーザに示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メモリとプロセッサとを備える心臓ペーシングシミュレータの作動方法であって、
前記プロセッサが、
前記メモリ内に、局所興奮時間(LAT)マップ、電圧マップ、及び調整したLATマップのうち1つ又は2つ以上を記憶することを含む、患者の心臓の壁組織の少なくとも一部の測定された電気生理学的(EP)マップを記憶することと、
前記EPマップ上の1つ又は2つ以上の位置からの電気活動の伝播をシミュレーションすることであって、1つ又は2つ以上の仮想的にペーシングされた電位から生じる、シミュレーションした電気活動を計算することと、
前記シミュレーションした電気活動を、前記患者の前記心臓で取得した不整脈を呈する実際の電気活動と比較し、両者の間に最良適合をもたらす候補位置を前記1つ又は2つ以上の位置の中から見出すことに基づいて、不整脈を発生させると疑われる前記心臓の前記壁組織上の1つ又は2つ以上の候補位置を、特定し、ユーザに示すことと、を実行する、作動方法。
【請求項2】
前記プロセッサが、前記1つ又は2つ以上の候補位置に、前記候補位置が不整脈の源である可能性を数量化するグレードを割り当てる、請求項1に記載の作動方法。
【請求項3】
ディスプレイが、前記1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられた前記グレードをユーザに提示する、請求項2に記載の作動方法。
【請求項4】
前記グレードを提示することが、前記1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられた前記グレードで前記EPマップを更新することである、請求項3に記載の作動方法。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記EPマップ上の1つ又は2つ以上の位置を、ユーザインタフェースを介して、前記EPマップ上の1つ又は2つ以上の位置を示すユーザ入力を受信することによって特定する、請求項1に記載の作動方法。
【請求項6】
心臓ペーシングシミュレータであって、
局所興奮時間(LAT)マップ、電圧マップ、及び調整したLATマップのうち1つ又は2つ以上を含む、患者の心臓の壁組織の少なくとも一部の測定された電気生理学的(EP)マップを記憶するように構成されたメモリと、
プロセッサであって、
前記EPマップ上の1つ又は2つ以上の位置からの電気活動の伝播をシミュレーションすることであって、1つ又は2つ以上の仮想的にペーシングされた電位から生じる、シミュレーションした電気活動を計算し、
前記シミュレーションした電気活動を、前記患者の前記心臓で取得した、不整脈を呈する実際の電気活動と比較し、前記1つ又は2つ以上の位置の中から、両者の間に最良適合をもたらす候補位置を見出すことに基づいて、不整脈を発生させると疑われる前記心臓の前記壁組織上の1つ又は2つ以上の候補位置を特定し、ユーザに示すように構成されたプロセッサと、を備えるシミュレータ。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記1つ又は2つ以上の候補位置に、前記候補位置が不整脈の源である可能性を数量化するグレードを割り当てるように構成されている、請求項6に記載のシミュレータ。
【請求項8】
前記プロセッサが、前記1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられた前記グレードをユーザに提示するように更に構成されている、請求項7に記載のシミュレータ。
【請求項9】
前記プロセッサが、前記1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられた前記グレードで前記EPマップを更新することによって前記グレードを提示するように構成されている、請求項8に記載のシミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、臨床シミュレーションに関し、特に、心臓の電気生理学的活動のシミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓手術は、多くの場合、心臓組織内の心不整脈の潜在源を分離する技術を使用する。例えば、米国特許第5,722,416号は、体内組織における生体電位形態を解析するためのシステム及び方法について記載する。システム及び方法は、体内組織における知られている原因の生体電位イベントのテンプレートを使用する。テンプレートは、経時的な生体電位の変化のプロットを含む。システム及び方法は、このテンプレートを、体内組織において外部から引き起こされる生体電位イベントのサンプルと比較する。サンプルは、経時的な生体電位の変化のプロットを含む。システム及び方法は、比較に基づいて出力を生成する。システム及び方法を使用して、周知の診断の心イベントのイベント固有テンプレートを、ペーシングされた心イベントのサンプルと比較することができる。比較により、入力サンプルが入力テンプレートにどのくらい似ているかを示す整合係数(matching factor)を得る。システム及び方法は、整合係数を所定値と比較して、潜在的にアブレーションに適切である部位の位置を決定する。サンプルとテンプレートとの間のかなりの類似性を示す整合係数は、ペーシング部位が、不整脈を治療するのに潜在的にアブレーションに適切な領域の近くにあることを示唆する。
【0003】
別の例として、米国特許第5,041,973号は、心臓の表面を横切って移動しながら心拍の電気信号伝播をシミュレートするためのマイクロプロセッサを備える心臓マッピングシステムシミュレータについて記載する。電気生理学的波形によく似ている一連のインパルスが生成され、心臓の活動を表現する二次元マップを形成する。一連のパルスは、所定のパターンに従って生成され、患者に使用する前に心臓マッピングシステム又は電気生理学研究室機器の稼動状態を評価するために、心臓マッピングシステム又は電気生理学研究室機器の入力に用いられる。
【0004】
米国特許出願公開第2015/0371437号は、インターベンション計画のために様々なペーシング条件下で心臓の変化を可視化するためのシステム及び方法を記載し、手引きが開示される。患者別解剖学的心臓モデルは、患者の医用画像データに基づいて生成される。心機能の患者別計算モデルは、患者別解剖学的心臓モデルに基づいて生成される。仮想インターベンションを、心機能の患者別計算モデルを使用して患者別解剖学的心臓モデル上の複数位置毎に実行して、複数位置毎に実行された仮想インターベンションから生じる1つ又は2つ以上の心臓パラメータを計算する。患者別解剖学的心臓モデル上の複数位置毎に、1つ又は2つ以上の結果のマップが生成され、患者別解剖学的心臓モデル上のその位置で実行された仮想インターベンションから生じる1つ又は2つ以上の心臓パラメータの最適値を可視化する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、メモリ内に測定された患者の心臓の壁組織の少なくとも一部の電気生理学的(EP)マップを記憶することを含む医療方法を提供する。記憶されたEPマップに基づき、コンピュータでシミュレーションしたペーシングに応じてシミュレーションした電気活動は、実際のペーシングに応じて患者の心臓の壁組織にわたって生じる実際の電気活動をシミュレーションしており、プロセッサにおいて計算される。プロセッサにおいて計算されるシミュレーションした電気活動に基づいて、不整脈が発生したと疑われる心臓の壁組織上の1つ又は2つ以上の候補位置は、特定され、ユーザに示される。
【0006】
いくつかの実施形態において、方法は、局所興奮時間(LAT)マップ、電圧マップ、及び調整したLATマップのうち1つ又は2つ以上を記憶することを含み、1つ又は2つ以上の位置は、EPマップ上の電気解剖学的位置を含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、方法は、シミュレーションした電気活動を、患者の心臓で取得した、不整脈を呈する実際の電気活動と比較し、シミュレーションした電気活動と実際の電気活動との間に最良適合をもたらす候補位置を見出すことによって、1つ又は2つ以上の候補位置を特定することを含む。
【0008】
ある実施形態において、方法は、シミュレーションした電気活動と実際の電気活動との間に最良の一時的適合を見出すことを含む。
【0009】
別の実施形態において、方法は、1つ又は2つ以上の候補位置に、候補位置が不整脈の源である可能性を数量化する対応のグレードを割り当てることを更に含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、方法は、1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられたグレードをユーザに提示することを更に含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、方法は、1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられたグレードでEPマップを更新することを含む。
【0012】
ある実施形態において、方法は、ユーザインタフェースを介して、1つ又は2つ以上の候補位置を示すユーザ入力を受信することを含む。
【0013】
本発明の実施形態によれば、メモリ及びプロセッサを有する心臓ペーシングシミュレータが更に提供される。メモリは、測定された患者の心臓の壁組織の少なくとも一部の電気生理学的(EP)マップを記憶するように構成されている。プロセッサは、記憶されたEPマップに基づき、コンピュータでシミュレーションしたペーシングに応じてシミュレーションした電気活動を計算するように構成されており、シミュレーションした電気活動は、実際のペーシングに応じて患者の心臓の壁組織にわたって生じる実際の電気活動をシミュレーションする。プロセッサは、プロセッサにおいて計算されるシミュレーションした電気活動に基づいて、不整脈が発生したと疑われる心臓の壁組織上の1つ又は2つ以上の候補位置を、特定し、ユーザに示すように更に構成されている。
【0014】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮すると、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に従う、心臓の3Dナビゲーション及び電気生理学的信号解析システムの概略的な絵画図である。
図2】本発明の実施形態に従う、心臓の局所興奮時間(LAT)マップの概略的な絵画図である。
図3】本発明の実施形態に従って、シミュレーションにより不整脈が開始し得る位置をLATマップ上で特定するための方法を概略的に例示しているフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
概略
本明細書に記載されている本発明の実施形態は、不整脈が生じ得る心表面上の位置を特定し、推定し、格付けするための心臓シミュレータ及びシミュレーション方法を提供する。
【0017】
心不整脈は、正常な心拍及び/又はリズムからの変化として定義され、いくつかのカテゴリに属し得る。1つのカテゴリは、(異常な巣状興奮の心臓組織における位置からの)増大した又は異常なインパルス生成を特徴とする。別のカテゴリは、心臓の表面にわたって種々の起こり得る位置における電気伝導の障害を特徴とする。
【0018】
不整脈が生じる位置を見出すための1つの可能な方法は、予め記録された患者の不整脈と一致する実際の不整脈を生成する試みで、患者の心表面上で選択された位置を電気信号で刺激することである。一致の質は、システムで測定される形態、順序、及び関連した時間間隔などの要素を考慮し得る。根本的な前提は、そのような位置を治療することが、例えば、アブレーションを適用することによって、問題になっている不整脈を低減又は排除しやすいことである。上述した侵襲的診断手技は、「ペーシング」と呼ばれ、一方、比較のプロセスは、「ペースマッピング」と呼ばれる。ペーシングは、典型的には心臓内の多数の位置にわたり手動で繰り返される必要があるので、典型的には非常に長いプロセスである。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、上述のペーシング手技は、本明細書で「仮想ペーシング」とも呼ばれるコンピュータ化されたシミュレーションで置換される。いくつかの実施形態において、心臓シミュレータは、患者の心臓の表面の少なくとも一部の事前取得した電気生理学的マップを記憶するプロセッサを備える。そのような電気生理学的マップの一例は、本明細書において局所興奮時間(LAT)マップと呼ばれる。LATマップは、以下に更に説明されるように、心筋及び心臓を含む結合組織の中を流れる、開始した電気信号(電位)の時間依存性の伝播を明らかにする。
【0020】
LATマップの変形はまた、本発明のいくつかの実施形態で使用中であり、以下で「調整したLATマップ」と名付けられる。調整したLATマップは、本特許出願の譲受人に譲渡され、その開示が全て参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,050,011号及び米国特許出願公開第2017/0281031号に記載されるように、コヒーレンスを増加させるように最適化されたLATマップである。そのような電気生理学的マップの別の例は、本明細書において、電圧マップと呼ばれ、電圧マップ中で各電気解剖学的位置の電圧を記録し、色分けされたマップに変換して病気の組織、健康な組織及び傷跡の領域を特定する。ある実施形態において、シミュレーションしたペーシングの計算は、任意の他のタイプのマップを使用しないでLATマップのみを使用して実行される。いくつかの実施形態では、仮想ペーシングの候補の源配置は、また電圧マップを使用して定義され得る。例えば、良好な候補は、傷跡又は峡部領域の境界領域である。
【0021】
本発明の別の実施形態では、1つ又は複数のLATマップを使用することができる。例えば、洞リズム中に形成される1つのLATマップ及び一部の不整脈中又はペーシング中に形成された別のLATマップである。
【0022】
不整脈が生じ得る位置を特定するために、プロセッサは、電圧マップ及び調整したLATマップからの追加入力を使用して、LATマップ上の1つ又は2つ以上の候補位置から電気活動の伝播をシミュレーションする。プロセッサは、以下に「シミュレーションしたペーシング」と名付けられたプロセスでそのような活動をシミュレーションする。プロセッサは、LAT及び/又は調整したLATマップ上の様々な位置で、1つ又は2つ以上の仮想的にペーシングされた電位から生じる電気活動の伝播を計算する。
【0023】
プロセッサは、典型的には、初期仮想ペースの選択位置、及びこの位置と電波伝播を考慮した解剖学的メッシュの各点との間の近似された時間差に基づいて新規LATマップを形成する。
■開始時間(t=0)は、シミュレーションしたペーシングの選択位置における興奮時間として定義される。
■解剖学的メッシュの全ての点へ伝播された電波の到達時間の計算では、実際のLATマップ(又は複数マップ)の差に基づき、及び/又は調整したLATマップアプリケーションを使用してLATマップに追加された改良に基づいて計算した。
【0024】
プロセッサは、次いでシミュレーションから生じるシミュレーションした電気活動を、臨床上記録された不整脈の実際の時間間隔と比較する(すなわち、心室を通る電子伝導性消滅時間)。
【0025】
ある実施形態において、プロセッサは、仮想的にペーシングされた位置に、測定した時間間隔の比較に基づいて候補位置が不整脈の源である可能性を数量化するグレードを更に割り当てる。医師は、グレードを利用してその後の診断工程及び治療工程を最適化することができる。
【0026】
開示した技術による、シミュレーションしたペーシングの実行は、医師を、不整脈が開始し得る予想される位置へ誘導する。したがって、シミュレーションは、医師が侵襲的手技の間に実行する必要があるペーシング工程数を減らすことができる。更に、開示した技術は、時間制限及び実際の侵襲的ペーシング手技に関連した他の制約がない(到達が困難な、またカテーテルを安定化することも困難である心臓の位置又は領域へのカテーテルの操縦を必要とし得るペーシング位置間のカテーテルの移動など)。したがって、開示したシステム及び方法は、医師がその後の侵襲的な心臓治療を成功する確率を増大させ得る。更に、シミュレーションは、心臓組織における多数の位置を不整脈の候補発生源と見なされることから除外し、医師を不整脈の他の原因に誘導してもよく、おそらくは手技の時間を短縮し、ワークフローを簡略化する。
【0027】
シミュレーションしたペーシングの開示した技術は、所望の位置にカテーテルを移動させて、カテーテルによりペーシングする代わりに、コンピュータ画面上で「仮想ペーシング」の手技工程の中に組み込むことによって、侵襲的診断手技の時間を短くし、手の疲労及びカテーテルの困難な操縦を減少させる潜在的利点を有する。更に、開示した技術は、患者の心臓にかかるペースの負担を低減し、長期の心臓リモデリングの潜在的リスク、並びに患者の生命を危険にさらす恐れがある患者の血行力学的に不安定な不整脈を引き起こすリスクを回避する可能性を有する。
【0028】
システムの説明
図1は、本発明の実施形態に従う、心臓の3Dナビゲーション及び電気生理学的信号解析システム20の概略的な絵画図である。システム20は、実質的に任意の生理学的パラメータ又はそのようなパラメータの組み合わせを解析するように構成され得る。本明細書の記述において、例として、解析した信号は、心臓内(IC)及び/又は心臓外(体表-BS)心電図(ECG)の電位-時間関係であると想定される。かかる関係を完全に特性化するために、様々な位置において、時間内に相互に信号を参照する(例えばLATマップを生成する間に行われるなどの)必要がある。時間参照は、基準時間(例えば、インスタンス)、例えば、ECG基準信号の各QRS群の最初など(すなわち、心拍毎の最初)と比較して測定することによって実現される。LATマップを生成するための方法は、前述の米国特許第9,050,011号に記載されている。
【0029】
簡潔性及び明瞭性のために、以下の説明は、特に記述のない限り、システム20がプローブ24を使用して心臓34の実際の電気活動を測定する調査手順を想定する。プローブの遠位端32は、電極22を有すると想定される。測定した信号は、他の用途間で共有して患者26の心臓34の壁組織の少なくとも一部のLATマップを作成するために使用される。
【0030】
典型的には、プローブ24は、システム20を使用する医師28によって実施されるマッピング手技の間に患者26の身体の中に挿入されるカテーテルを備える。手技中、患者26は、接地電極23に取り付けられると想定される。加えて、電極29が、心臓34の領域にて患者26の皮膚に取り付けられると想定される。
【0031】
システム20は、システムプロセッサ40によって制御されてもよく、システムプロセッサ40は、メモリ44と通信する処理ユニット42を含む。いくつかの実施形態において、システムプロセッサ40に含まれているメモリ44は、患者26の心臓34の壁組織の少なくとも一部のLAT及び/又は電圧マップ62を記憶する。追加的又は代替的に、メモリ44は、他の患者のマップを記憶し得る。更に、メモリを備える任意の他のプロセッサ(すなわち、必ずしもシステム20の一部ではない)は、1つ又は2つ以上のマップを記憶し得る。プロセッサ40は通常、制御卓46内に載置されており、制御卓46は、通常はマウス又はトラックボールなどのポインティングデバイス39を有する操作制御部38を備え、専門家28はこの操作制御部38を使用してプロセッサと相互作用する。
【0032】
プロセッサ40(具体的には処理ユニット42)は、プローブ追跡モジュール30と、ECGモジュール36と、LAT解析モジュール35を含む不整脈シミュレーションモジュールとを含むソフトウェアを実行して、システム20を操作し、かつ/又はLAT解析モジュール35については(メモリ44内に記憶されたLAT又は調整したLATマップ62を使用して)心臓ペーシングのシミュレーションを実行し、結果として不整脈のモデルを作る。シミュレーションした心臓ペーシングは、シミュレーションしたペーシング用の所望の位置で医師20若しくは副術者が画面上においてクリックすることによって、又は任意の他の方法で実現され得る。シミュレーションしたペーシング用に提示された領域はまた、プロセッサ40によって表示され得る。
【0033】
プロセッサ40によって実行される操作の結果は、ディスプレイ48上で医師28に提示され、このディスプレイ48は、典型的には、医師に対するグラフィックユーザインタフェース、電極22によって感知されるECG信号の視覚的表現、及び/又は調査されている間の心臓34の画像若しくはマップを提示する。ある実施形態において、LAT解析モジュール35は、医師に対して、シミュレーションした不整脈が生じたマップ上の1つ又は2つ以上の位置により更新されたLATマップを提示する。ソフトウェアは、例えば、ネットワークを介して、電子的形態でプロセッサ40にダウンロードされてもよく、又はこれに代えて若しくはこれに加えて、磁気メモリ、光メモリ、若しくは電子メモリなどの、非一時的な有形媒体上に提供され、及び/又は記憶されてもよい。
【0034】
ECGモジュール36は、電極22及び電極29からの実際の電気信号を受信するよう連結されている。モジュールは、実際の信号を解析するように構成され、ディスプレイ48上に、標準的なECG形式で、典型的には、時間と共に変動するグラフ式表現で、解析の結果を提示することができる。
【0035】
プローブ追跡モジュール30は、患者26の心臓内で、プローブ24の遠位端32の位置を追跡する。追跡モジュールは、当該技術分野において既知であるいかなるプローブ位置追跡方法を使用してもよい。例えば、モジュール30は、磁場に基づく位置追跡サブシステムを操作し得る(簡潔性のために、このようなサブシステムのコンポーネントは図1には示していない)。
【0036】
代替的に又は追加的に、追跡モジュール30は、電極23、電極29、及び電極22の間のインピーダンス、並びに、プローブ上に配置する場合がある他の電極に対するインピーダンスを測定することによって、プローブ24を追跡してもよい(この場合には、電極22及び/又は電極29は、ECG信号及び位置追跡信号の双方を提供してもよい)。Biosense Webster(Irvine,California)により製造されるCarto3(登録商標)システムは、磁場位置追跡及びインピーダンス測定の両方を位置追跡に使用する。
【0037】
追跡モジュール30を使用してプロセッサ40は、遠位端32の位置を測定することができる。加えて、追跡モジュール30及びECGモジュール36の両方を使用することによって、プロセッサは、遠位端の位置だけでなく、これらの特定の位置において検出される実際の電気信号のLATも測定することができる。明確にするため、本開示及び「特許請求の範囲」において、関連するLAT測定値を有しない遠位端の測定された位置は、本明細書において非LAT位置と呼ばれ、心臓34の内壁組織の三次元の(3D)LATマップの解剖学的コンポーネントを生成するためだけに使用される。対応のLAT測定値を有する遠位端の測定された位置は、LAT位置と呼ばれ、その後に不整脈をシミュレートする試みのために使用される。
【0038】
不整脈をモデリングするための心臓ペーシングのシミュレーション
図2は、本発明の実施形態による、心臓34のLATマップ62の概略的な絵画図である。簡潔性のために、内壁の組織の完全なマップの部分のみが、図2に示される。LATマップ62は、多重の非LAT位置点64を備えるメッシュとして策定され、その場所は、マップ62の解剖学的コンポーネントを生成するように追跡モジュール30によって評価されてきた。ある実施形態において、プロセッサ40は、接続された平面的な三角形70のメッシュを形成するように、直線的な点間線66によって点64を接続する。接続された三角形70は、心臓内壁組織表面を近似する表面を形成する。解剖学的再構成の他の方法を適用してもよく(例えばCARTO(登録商標)SEG CT/MRIインポートなど)、再構成の他の表現形式を使用してもよい(そのような高速解剖学的マッピングから生成されるメッシュ)。
【0039】
マップ62は、LAT位置68も示し、それぞれのLAT位置は、関連付けられたLAT値(単に「LAT」と呼ばれる)を有する。典型的には、LAT位置及びそれらの関連付けられたLATは、マップ62の解剖学的コンポーネントを生成するためにプロセッサ40によって使用された時間からの異なる時間期間に対して評価される。非LAT位置に関しては、他にも理由があるが心臓壁運動を補正するために、LAT位置を基準時間に調整する。理論的には、LAT位置及び非LAT位置の両方の種類の位置が心臓組織壁の上にあるべきなので、LAT位置68は、三角形70の表面と位置合わせされるべきである。
【0040】
心臓の電気活動は、洞房結節において心拍毎の最初に開始し、心筋を通して伝播する電位の波として考えることができる。心臓腔壁上の任意の点において、その点におけるLATは、その点を過ぎて伝播する電位によって生じる。
【0041】
LATマップ62において、1つ又は2つ以上のLAT位置68は、実際の信号ペーシング位置、すなわち、マップを作成するプロセスにおいて実際の電気信号がカテーテル電極22によって心臓壁組織の中に注入された位置を指定する。LAT位置68は、それぞれのLAT値を測定するように、結果として(注入された実際の信号に反応して)生じる電気活動が感知された測定位置を指定する。
【0042】
実施形態において、LAT解析モジュール35は、この電気活動伝播のシミュレーションにより、異なる位置68Bで結果として生じる(すなわち、シミュレーションによって)シミュレーションされたLATパターンと記録された臨床的不整脈との間に最良の時間的適合を提供する仮想的にペーシングされた位置68Aを特定するために、シミュレーションされた電気活動伝播を、適用する。例えば、最良適合は、仮想LATマップ及び仮想時間間隔をもたらす仮想ペーシングと、記録された不整脈の時間間隔特性との間で得られ得る。
【0043】
いくつかの実施形態において、LAT解析モジュール35は、シミュレーションした刺激の間に、不整脈の潜在源として推定される1つ又は2つ以上の位置でLATマップ62を更新する。LAT解析モジュール35は、LAT位置に、これらの候補位置が不整脈の源である可能性を数量化するグレードを更に割り当てる。LAT解析モジュール35は、1つ又は2つ以上の位置によるグレードで、LATマップ62を数値的かつ/又はグラフィカルに更新する。最も高いグレードを受けるシミュレーションしたペーシング位置68Aは、カテーテル法の間に医師による試行に対する優先位置としての役割を果たして、記録された不整脈に対応する取得信号を生成し得る。続いて、医師は、例えば、そのようなものを分離するために臨床上特定された位置の近くで組織をアブレーションしてもよい。
【0044】
図3は、本発明の実施形態に従って、不整脈が開始し得る位置を、LATマップ62上で特定するための方法を概略的に例示しているフローチャートである。位置は、仮想ペーシングによって生成されるシミュレーションした興奮を生成することによって特定され、予め収集された電気解剖学的信号に基づいて結果を生じる。
【0045】
手技は、測定されたLATマップ62に基づいて、LATマップ又は調整したLATマップの構築から始めてもよく、そこでは初期工程70において、解析モジュール35が全てのLATデータを計算し、そのデータをメモリ44内に記憶されたマップ62に配置する。次に工程72において、仮想源68A(すなわち、シミュレーションしたペーシングの初期点)は、プロセッサ又はユーザによって選択される。LAT解析モジュール35は、実際の伝播データを考慮し、工程74で仮想源から伝播を計算する。
【0046】
方法は、ここで解析する工程76に進み、この工程でLAT解析モジュール35は、候補位置が不整脈の源である可能性を数量化するグレードを特定のペーシング位置68Aに割り当てる。ある実施形態において、LAT解析モジュール35は、マップを更新する工程78でグレード又はグラフィカルなものなどの指標を、LATマップ62に追加する。
【0047】
手技は、方法が初期点を選択する工程72に戻るときに、別の仮想的にペーシングされた位置68Aを選択するLAT解析モジュール35によって繰り返されてもよい。
【0048】
図3に示されている例となるフローチャートは、概念を明確化する目的のみで選択されている。代替の実施形態では、代替の電気生理学的マップ及び/又はシミュレーション工程を使用する並びに異なる順序で上記を実行するなどの様々な工程を実行して不整脈の位置を評価してもよい。
【0049】
本明細書に記載される実施形態は主に虚血性心室性頻拍の治療に対処するが、本明細書に記載される方法とシステムはまた、任意の巣状不整脈又はリエントリー性不整脈などの他の用途に用いられ得る。
【0050】
したがって、上記に述べた実施形態は、例として引用したものであり、また本発明は、上記に具体的に示し説明したものに限定されないことが理解されよう。むしろ本発明の範囲は、上述の様々な特徴の組み合わせ及びその一部の組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者により想到されるであろう、また従来技術において開示されていないそれらの変形及び修正を含むものである。参照により本特許出願に援用される文献は、これらの援用文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾して定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本出願の一部と見なすものとする。
【0051】
〔実施の態様〕
(1) 心臓シミュレーション方法であって、
メモリ内に、患者の心臓の壁組織の少なくとも一部の測定された電気生理学的(EP)マップを記憶することと、
プロセッサにおいて、前記記憶されたEPマップに基づき、実際のペーシングに応じて前記患者の前記心臓の前記壁組織にわたって生じる実際の電気活動をシミュレーションするものである、シミュレーションした電気活動をコンピュータでシミュレーションしたペーシングに応じて計算することと、
前記プロセッサにおいて計算される前記シミュレーションした電気活動に基づいて、不整脈が発生したと疑われる前記心臓の前記壁組織上の1つ又は2つ以上の候補位置を、特定し、ユーザに示すことと、を含む方法。
(2) 前記EPマップを記憶することが、局所興奮時間(LAT)マップ、電圧マップ、及び調整したLATマップのうち1つ又は2つ以上を記憶することを含み、前記1つ又は2つ以上の位置は、前記EPマップ上の電気解剖学的位置を含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記1つ又は2つ以上の候補位置を特定することが、前記シミュレーションした電気活動を、前記患者の前記心臓で取得した、前記不整脈を呈する前記実際の電気活動と比較することと、前記シミュレーションした電気活動と前記実際の電気活動との間に最良適合をもたらす前記候補位置を見出すことと、を含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記最良適合を見出すことが、前記シミュレーションした電気活動と前記実際の電気活動との間に最良の一時的適合を見出すことを含む、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記1つ又は2つ以上の候補位置に、前記候補位置が前記不整脈の源である可能性を数量化する対応のグレードを割り当てることを含む、実施態様1に記載の方法。
【0052】
(6) 前記1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられた前記グレードをユーザに提示することを含む、実施態様5に記載の方法。
(7) 前記グレードを提示することが、前記1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられた前記グレードで前記EPマップを更新することを含む、実施態様6に記載の方法。
(8) 前記1つ又は2つ以上の候補位置を特定することが、ユーザインタフェースを介して、前記1つ又は2つ以上の候補位置を示すユーザ入力を受信することを含む、実施態様1に記載の方法。
(9) 心臓ペーシングシミュレータであって、
患者の心臓の壁組織の少なくとも一部の測定された電気生理学的(EP)マップを記憶するように構成されたメモリと、
プロセッサであって、
前記記憶されたEPマップに基づき、実際のペーシングに応じて前記患者の前記心臓の前記壁組織にわたって生じる実際の電気活動をシミュレーションするものである、シミュレーションした電気活動をコンピュータでシミュレーションしたペーシングに応じて計算し、
前記プロセッサにおいて計算される前記シミュレーションした電気活動に基づいて、不整脈が発生したと疑われる前記心臓の前記壁組織上の1つ又は2つ以上の候補位置を特定し、ユーザに示すように構成されたプロセッサと、を備えるシミュレータ。
(10) 前記記憶されたEPマップが、局所興奮時間(LAT)マップ、電圧マップ、及び調整したLATマップのうち1つ又は2つ以上を含み、前記1つ又は2つ以上の位置は、前記EPマップ上の電気解剖学的位置を含む、実施態様9に記載のシミュレータ。
【0053】
(11) 前記プロセッサが、前記シミュレーションした電気活動を、前記患者の前記心臓で取得した、前記不整脈を呈する前記実際の電気活動と比較し、前記シミュレーションした電気活動と前記実際の電気活動との間に最良適合をもたらす前記候補位置を見出すことによって、前記1つ又は2つ以上の候補位置を特定するように構成されている、実施態様9に記載のシミュレータ。
(12) 前記プロセッサが、シミュレーションした電気活動と前記実際の電気活動との間に最良の一時的適合を見出すことによって前記最良適合を見出すように構成されている、実施態様11に記載のシミュレータ。
(13) 前記プロセッサは、前記1つ又は2つ以上の候補位置に、前記候補位置が前記不整脈の源である可能性を数量化する対応のグレードを割り当てるように構成されている、実施態様9に記載のシミュレータ。
(14) 前記プロセッサが、前記1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられた前記グレードをユーザに提示するように更に構成されている、実施態様13に記載のシミュレータ。
(15) 前記プロセッサが、前記1つ又は2つ以上の候補位置に割り当てられた前記グレードで前記EPマップを更新することによって前記グレードを提示するように構成されている、実施態様14に記載のシミュレータ。
【0054】
(16) 前記1つ又は2つ以上の候補位置を示すユーザ入力を受信するように構成されたユーザインタフェースを更に含む、実施態様9に記載のシミュレータ。
図1
図2
図3
【外国語明細書】