(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169811
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】車両の故障予知方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
G01M17/007 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086571
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】田中 康裕
(57)【要約】
【課題】車両の故障の予兆を検知したときに、故障部品候補を精度よく特定する。
【解決手段】車両側装置において車両データから故障の予兆を検知し(ステップ101)、複数の異常信号の情報を含むデータを、ディーラー等に設けられる故障部品特定装置へ送信する(ステップ102)。故障部品特定装置では、過去の他車の故障予兆検知結果データベースを参照して(ステップ103)、異常信号の組み合わせパターンの一致度を診断する。一致度が高い1つあるいは複数の部品を故障部品候補として絞り込み(ステップ105)、表示部等に提示する(ステップ106)。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の部品の故障の予兆を検知し、
この予兆に関連した複数の異常信号を含む予兆情報を取得し、
他車両における過去の予兆情報とこれに対応して修理交換した修理交換部品との対応をまとめた診断データを参照し、
取得した予兆情報と上記診断データにおける過去の予兆情報とを比較して一致度を診断し、
予兆情報の一致度が高い修理交換部品を故障部品候補として特定する、
車両の故障予知方法。
【請求項2】
上記診断データは、過去の予兆情報とこれに対応して修理交換した後の結果が良好であった修理交換部品との対応を含む、
請求項1に記載の車両の故障予知方法。
【請求項3】
取得した予兆情報に含まれる複数の異常信号の種類と、上記診断データにおける他車両の過去の予兆情報に含まれる異常信号の種類と、の一致度から予兆情報の一致度を求める、
請求項1に記載の車両の故障予知方法。
【請求項4】
部品に対応して複数の異常信号に重要度が定められており、
各信号の重要度を考慮して、取得した予兆情報と過去の予兆情報との一致度を求める、
請求項1に記載の車両の故障予知方法。
【請求項5】
上記重要度は、蓄積された診断データに基づいて設定される、
請求項4に記載の車両の故障予知方法。
【請求項6】
複数の部品の各々について異常信号の特徴量が異なる場合に当該異常信号を異常分類に対する寄与度が高い異常信号と定め、
この寄与度が高い異常信号を優先して、取得した予兆情報と過去の予兆情報との一致度を求める、
請求項1に記載の車両の故障予知方法。
【請求項7】
上記特徴量は、蓄積された診断データに基づいて設定される、
請求項6に記載の車両の故障予知方法。
【請求項8】
車両の部品の故障の予兆検知を車両側で行い、
車両側で取得した予兆情報をサーバーに送信し、
このサーバー側で、故障部品候補の特定を行う、
請求項1に記載の車両の故障予知方法。
【請求項9】
取得した予兆情報と上記診断データにおける過去の予兆情報との一致度に基づき、一致度が比較的に高い複数の故障部品候補を抽出する、
請求項1に記載の車両の故障予知方法。
【請求項10】
一致度に従い、順位を付して複数の故障部品候補を提示する、
請求項9に記載の車両の故障予知方法。
【請求項11】
車両の部品の故障の予兆を検知し、この予兆に関連した複数の異常信号を含む予兆情報を取得する故障予知部と、
他車両における過去の予兆情報とこれに対応して修理交換した修理交換部品との対応をまとめた診断データが蓄積されたデータベースと、
取得した予兆情報と上記データベースにおける過去の予兆情報とを比較して一致度を診断する一致度診断部と、
上記データベースを参照して予兆情報の一致度が高い修理交換部品を故障部品候補として特定する部品特定部と、
を備えてなる車両の故障予知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の故障の予兆を検知したときに、故障する可能性がある部品を特定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、同じ車両分類(型式および初年度登録時期)に属する車両の中で運転者の運転行動(ふらつきの多少、平均速度、一乗車当たりの走行距離、急ブレーキの多少、等)が類似している車両を類似車両とし、この類似車両群における故障種別毎の発生回数平均から特定の車両(例えば自車両)の故障の再発予測日を求め、既にこの再発予測日を過ぎていたら故障発生の可能性がある、と判定する。つまり、繰り返し再発する故障については、運転行動が同様の類似した車両では同じ時期に同じ故障が再発する確率が高い、という前提に基づいて故障の予測を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、実際に何らかの予兆があるか否かに拘わらず統計学的に故障再発時期を予測するに過ぎず、規則性なく発生する多くの故障には対応できない。仮に何らかの異常信号等の予兆を検出したとしても、この予兆に基づきどの部品が故障しそうであるか、という予測はできない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る車両の故障予知方法は、
車両の部品の故障の予兆を検知し、
この予兆に関連した複数の異常信号を含む予兆情報を取得し、
他車両における過去の予兆情報とこれに対応して修理交換した修理交換部品との対応をまとめた診断データを参照し、
取得した予兆情報と上記診断データにおける過去の予兆情報とを比較して一致度を診断し、
予兆情報の一致度が高い修理交換部品を故障部品候補として特定する。
【発明の効果】
【0006】
この発明によれば、故障の予兆を検知したときに、他車両の過去の診断データを参照して、予兆情報に基づき故障部品候補を絞り込むことができ、未然に故障への対応をとることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】この発明に係る故障予知システムの第1実施例を示す構成説明図。
【
図2】車両側での故障予兆検知結果のデータを表形式で示す説明図。
【
図3】故障部品特定装置側の故障予兆検知結果データベースの説明図。
【
図4】第1実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図6】一致度が高い部品のリストの例を示す説明図。
【
図7】故障予知システムの第2実施例を示す構成説明図。
【
図8】第2実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図9】故障予知システムの第3実施例を示す構成説明図。
【
図10】異常信号の履歴を含む故障予兆検知結果データベースの説明図。
【
図12】第3実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図13】一致度が高い部品のリストの例を示す説明図。
【
図14】故障予知システムの第4実施例を示す構成説明図。
【
図16】第4実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【
図17】順位付けした部品のリストの例を示す説明図。
【
図18】故障予知システムの第5実施例を示す構成説明図。
【
図20】第5実施例の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、この発明に係る故障予知システムの第1実施例を示す構成説明図である。故障予知システムは、個々の車両(例えば車両A)が有する車両側装置001と、ディーラー等に設けられたサーバーやクラウドコンピュータからなる故障部品特定装置002と、から構成される。
【0009】
車両側装置001は、車両が有するいわゆるコンピュータシステムの一部からなり、診断装置003と、メモリ004と、表示部005と、ECU(Electronic Control Unit)006と、通信部007と、故障予知部008と、を備えている。診断装置003は、車両の各部から得られる種々の信号(車両データともいう)を監視し、異常な信号を検出する。故障予知部008は、1つあるいは複数の異常信号(あるいは他の情報)に基づいて何らかの部品が故障に至る予兆であることを検知し、メモリ004に保存するとともに、通信部007を介して故障部品特定装置002へ送信する。車両は、いわゆるコネクテッドカーとして構成されており、通信部007を介して例えばインターネットに常時接続されている。この通信機能を利用して車両側装置001と故障部品特定装置002との間で種々の情報の送受信が行われる。表示部005は、例えば運転席の前方に設けられたディスプレイからなり、種々の情報が表示される。表示部005は、車両を保有するユーザの携帯端末(例えばスマートフォン)であってもよい。
【0010】
なお、故障予知部008が故障の予兆を検知したときに、故障部品特定装置002への送信と併せて、故障の予兆があったことを表示部005に表示するようにしてもよい。あるいは故障の予兆単独では表示せずに、後述する候補となる部品リストと併せて表示するようにしてもよい。
【0011】
故障予知部008においては、故障の予兆を検知したときに、
図2に示すような形で故障予兆検知結果050のデータが生成され、これが通信部007を介して送信される。
図2に例示するように、このデータは、車両の識別番号と、予兆を検知した日時と、予兆の内容つまり異常信号の内容(図示例では、a,b,cの3つの種類の異常信号を含む)と、を含んでいる。他の付加的な情報を含んでいてもよい。すなわち、故障予知部008は、何らかの信号ないし情報から故障の予兆があると検知したときに、この予兆に関連した複数の異常信号を含む予兆情報を取得し、日時等と併せて
図2のようなデータを生成する。なお、予兆の検知は、予兆情報に含まれる例えばa,b,cの異常信号そのものに基づいて予兆検知を行ってもよく、別の信号や情報が故障の予兆をしたときに予兆があるものと判断して、その時点の異常信号を取得するようにしてもよい。
【0012】
故障部品特定装置002は、通信部009と、故障部品特定部010と、故障予兆一致度診断部011と、故障予兆検知結果データベース012と、を含んで構成される。なお、これらの各部が必ずしも1つのコンピュータによって構成される必要はなく、複数台のサーバーやクラウドコンピュータによって構成することが可能である。
【0013】
通信部009は、車両側の通信部007との間で適当な通信網を介して通信を行うものであり、車両側で故障の予兆を検知したときは、
図2に示す故障予兆検知結果050のデータを車両側から受領する。最終的に後述する候補部品の表示を車両側でも行う場合は、必要な情報を車両側へ送信する。
【0014】
故障予兆検知結果データベース012には、他の車両(自車両の過去分を含んでいてもよい)における過去の予兆情報と診断結果とをまとめた多量の診断データ、例えば
図3に一部を例示したような故障予兆検知結果データ051、が格納されている。この故障予兆検知結果データベース012のデータ051は、
図3に例示するように、車両の識別番号と、予兆がどのような箇所の異常であるかという予兆検知内容と、予兆を検知した日時と、異常信号の内容(換言すれば予兆情報)と、実際に修理交換した部品名と、修理交換後の結果(つまり不具合が解消したかどうか)と、の情報を含んでいる。修理交換後の結果が良好であるということは、予兆に基づいて修理交換した部品が妥当であったことを意味している。故障予兆検知結果データベース012のデータ051には、他の付加的な情報を含んでいてもよい。例えば、予兆を検知した時点から実際に修理交換するまでの経過期間(時間ないし走行距離)、あるいは、放置したまま故障に至った場合は、故障するまでの経過期間(時間ないし走行距離)、等の情報を加えてもよい。故障予兆検知結果データベース012には、実際に部品の修理交換を行うたびに新たなデータが追加される。
【0015】
故障予兆一致度診断部011は、車両側で検知した予兆の内容と、故障予兆検知結果データベース012における過去のデータ051に含まれる予兆の内容と、の一致度を求める。例えば、故障予知部008で得た予兆の内容が異常信号「a,b,c」の組み合わせであった場合、故障予兆検知結果データベース012の過去のデータ051の中で、異常信号「a,b,c」の組み合わせを含む組み合わせパターンを一致度の高い組み合わせパターンと判断する。
図3の例では、「a,b,c」および「a,b,c,f」の異常信号の組み合わせが一致度が高い一致パターンであると判断される。なお、「a,b,c」の組み合わせの方が「a,b,c,f」の組み合わせよりも一致度が高いものとなる。そして、「a,b,c」を含まない(一部が不足している)組み合わせパターンや、「a,b,c」以外に複数の異常信号を含む組み合わせパターンは、一致度が低い不一致パターンとする。なお、本発明においては、必要な一致度をどの程度に設定するかは任意である。
【0016】
具体的な例を挙げると、異常信号a,b,cは、例えば、それぞれ、エンジン回転速度、点火時期タイミング、空燃比、であり、常時監視しているこれらの信号(検出信号ないし内部信号)を適当なアルゴリズムの異常検出処理(例えば時系列データに対する統計学的異常検知)によって処理することで、異常であると判定されたものである。異常信号fは、例えば、空燃比補正係数であり得る。
【0017】
故障部品特定部010は、故障予兆一致度診断部011による車両側で検知した予兆の内容と過去のデータ051における予兆の内容との一致度に基づき、予兆の内容に対して一致度の高い部品の特定を行う。ここで特定された部品が、予兆に対応した故障部品候補となる。この故障部品候補には、一致度の高い複数の部品が含まれ得る。なお、過去のデータ051において予兆に基づいて修理交換したものの良好な結果が得られなかった部品は、予兆内容の一致度が高くでも故障部品候補から除くことが望ましい。
【0018】
図4は、第1実施例の故障予知システムの処理の流れを示すフローチャートである。なお、この
図4のフローチャートは、車両側装置001が行う処理と故障部品特定装置002が行う処理とを区別せずに、全体的な処理の流れの順に各ステップを示している。
【0019】
ステップ101では、車両側装置001の診断装置003および故障予知部008によって、車両データに基づき故障予知(予兆の検知)を行う。ここで検知した故障予知に関連したデータ(故障予兆検知結果050)は、ステップ102において、車両側装置001から故障部品特定装置002に送信される。
【0020】
ステップ103では、故障予兆検知結果データベース012に蓄積されたデータ051つまり他車両の故障予兆の情報を参照する。ステップ104では、車両側装置001から送られた故障予兆検知結果050と、故障予兆検知結果データベース012から得た他車両の故障予兆の情報の一致度を診断する。前述したように、一致度の診断には、複数種類の異常信号の組み合わせパターンを用いる。例えば、
図5に示すように、検知した予兆の内容が異常信号「a,b,c」の組み合わせであった場合、「a,b,c」や「a,b,c,f」の異常信号の組み合わせは一致度が高い一致パターンであり、「g,f」や「s,t」のように信号が異なる場合あるいは「a,b,c,f,g,h」のように他の複数の異常信号を含む組み合わせパターンは、一致度が低い不一致パターンである。
【0021】
そして、ステップ105において、一致度が高い部品を絞り込み、故障部品候補とする。ここでは、複数の候補があってもよい。最終的にステップ106において、
図6のリスト053のように、候補として絞り込んだ故障部品候補を提示する。例えば、
図6の例では、異常信号「a,b,c」の組み合わせに対し一致度が高い故障部品候補として、プラグおよびインジェクタの2つの部品が抽出されている。
【0022】
故障部品候補として抽出したデータは、例えば、表示部005やユーザの携帯端末等に表示される。さらに、車両の保守管理を行っているディーラーの修理部門における車両管理コンピュータや車両のメモリ004に保存される。
【0023】
このように上記実施例では複数種類の異常信号の組み合わせパターンの一致度によって故障部品候補の特定を行うので、高い確率で部品の特定が可能である。また、複数種類の異常信号の組み合わせとすることで、個々の信号が異常であると判定する際の閾値を比較的低く設定した場合でも、正常な部品を故障であると誤判定する可能性が低くなる。
【0024】
次に、
図7,
図8を参照して、本発明の第2実施例を説明する。なお、以下では、第1実施例と異なる部分について主に説明する。第2実施例は、故障予知を車両側装置001ではなくディーラー等が管理する故障部品特定装置002において行う点で、第1実施例と異なっている。
【0025】
第2実施例の故障予知システムは、
図7に示すように、個々の車両が有する車両側装置001と、ディーラー等に設けられたサーバーやクラウドコンピュータからなる故障部品特定装置002と、から構成される。
【0026】
車両側装置001は、第1実施例と同様に、診断装置003と、メモリ004と、表示部005と、ECU006と、通信部007と、を備えている。但し、車両側装置001は、故障予知部008は含んでいない。
【0027】
故障部品特定装置002は、基本的には第1実施例と同様に、通信部009と、故障部品特定部010と、故障予兆一致度診断部011と、故障予兆検知結果データベース012と、を含んで構成される。そして、第2実施例では、故障予知部008が故障部品特定装置002の一部として構成されている。故障予知部008は、車両側装置001の診断装置003から通信部007,009を介して送られてくる1つあるいは複数の異常信号に基づいて何らかの部品が故障に至る予兆であることを検知する。そして、この故障予知部008において、故障の予兆を検知したときに、複数の異常信号を含む予兆情報を取得し、これにより、
図2に示したような故障予兆検知結果050のデータが生成される。これは、基本的には第1実施例と同様のデータであり、
図2に例示するように、例えば、車両の識別番号と、予兆を検知した日時と、異常信号の内容(図示例では、a,b,cの3つの異常信号を含む)と、を含んでいる。他の付加的な情報を含んでいてもよい。
【0028】
図8は、第2実施例の故障予知システムの処理の流れを示すフローチャートである。基本的な処理の流れは第1実施例と同様であるが、最初にステップ107として示すように車両側装置001から故障部品特定装置002へ車両データを送信する。ステップ101では、車両側装置001から送られてきた車両データに基づき故障部品特定装置002側で故障予知(予兆の検知)を行う。
【0029】
ステップ103では、故障予兆検知結果データベース012に蓄積されたデータ051つまり他車両の故障予兆の情報を参照する。ステップ104では、故障予知部008が出力した故障予兆検知結果050と、故障予兆検知結果データベース012から得た他車両の故障予兆の情報と、の一致度を診断する。前述したように、一致度の診断には、複数の異常信号の組み合わせパターンを用いる。
【0030】
そして、ステップ105において、一致度が高い部品を絞り込み、故障部品候補とする。ここでは、複数の候補があってもよい。最終的にステップ106において、候補として絞り込んだ故障部品候補を提示する。
【0031】
このような第2実施例によれば、車両側に故障予知部008が不要であるので、既存の車両を含むより多くの車両に対して本発明の適用が可能となる。
【0032】
次に、
図9~
図13を参照して、本発明の第3実施例を説明する。第3実施例は、自車両の過去の故障の予兆の履歴を考慮して故障部品候補の特定を行う点において第1、第2実施例と異なっている。
【0033】
第3実施例の故障予知システムは、
図9に示すように、個々の車両が有する車両側装置001と、ディーラー等に設けられたサーバーやクラウドコンピュータからなる故障部品特定装置002と、から構成される。
【0034】
車両側装置001は、第2実施例と同様に、診断装置003と、メモリ004と、表示部005と、ECU006と、通信部007と、を備えている。
【0035】
故障部品特定装置002は、基本的には第2実施例と同様に、故障予知部008と、通信部009と、故障部品特定部010と、故障予兆一致度診断部011と、故障予兆検知結果データベース012と、を含んで構成される。そして、第3実施例では、さらに、故障予知部008が検出した故障予兆の情報(異常信号の情報)を取得する検出情報取得部013と、この自車両の故障予兆の情報を蓄積する故障予兆履歴データベース014と、を備えている。
【0036】
図11は、故障予兆履歴データベース014に蓄えられている故障予兆履歴の一例を示しており、自車両についての故障予知の日時とそのときに検出された異常信号とを含むデータ061が格納されている。
【0037】
同様に、第3実施例における故障予兆検知結果データベース012には、
図10に例示するように、各車両について過去の何回かの異常信号の履歴をも含む故障予兆検知結果データ062が蓄積されている。
【0038】
図12は、第3実施例の故障予知システムの処理の流れを示すフローチャートである。基本的な処理の流れは第2実施例と同様であり、最初にステップ107において車両側装置001から故障部品特定装置002へ車両データを送信する。ステップ101では、車両側装置001から送られてきた車両データに基づき故障部品特定装置002側で故障予知(予兆の検知)を行う。ここでは、
図2に例示したような故障予兆検知結果050のデータが生成される。ステップ110では、
図11に例示した故障予兆履歴データベース014ののデータ061に、ステップ101で検知された今回の故障予兆検知結果050のデータを加える。つまり、今回の故障予兆検知結果050を記憶させる。これにより作成される故障予兆履歴データベース014は、自車両の故障予兆に関するデータベースである。
【0039】
ステップ103では、
図10に例示した過去の履歴を含む故障予兆検知結果データ062から他車両の故障予兆に関する情報を参照する。この実施例の故障予兆検知結果データ062は、前述したように、基本的には第1実施例の故障予兆検知結果データベース012のデータ051(
図3)に相当するものであるが、各車両について過去の何回かの異常信号の履歴も含まれている。
【0040】
次のステップ109では、故障予兆検知結果データ062の故障予兆情報と、自車両に関する故障予兆履歴データベース014のデータ061における故障予兆履歴と、の一致度を診断する。この一致度診断では、過去の履歴を含めた異常信号の組み合わせパターンを用いる。例えば、自車両の故障予兆履歴データ061における異常信号の組み合わせパターンが、1回目が「a,b,c」、2回目が「a,b」、3回目が「a,b,c」(
図11参照)であった場合、他車の故障予兆検知結果データ062における異常信号の履歴を含む組み合わせパターンの中で、「a,b,c」の組み合わせパターンと「a,b」の組み合わせパターンを、一致パターンとして判断する。一方、「a,b,c,f」のようにa、b、c以外の信号が含まれている組み合わせパターンや、a、bが含まれていない組み合わせパターンは不一致パターンとする。
図10の例では、太実線で囲んだ部分が一致パターンとなる。
【0041】
そして、ステップ105において、一致度が高い部品を絞り込み、故障部品候補とする。ここでは、複数の候補があってもよい。最終的にステップ106において、候補として絞り込んだ故障部品候補を提示する。例えば、
図13に例示したリスト053の例では、過去の履歴を考慮した結果、一致度が高い故障部品候補として、プラグが抽出されている。
【0042】
このように第3実施例では故障予兆の履歴を考慮して故障部品候補の特定を行うので、より高い精度で特定を行うことができる。
【0043】
次に、
図14~
図17を参照して、本発明の第4実施例を説明する。第4実施例は、部品毎に異常信号の重要度を定めておき、この重要度を考慮して予兆情報の一致度を求める点で第1、第2実施例と異なっている。
【0044】
第4実施例の故障予知システムは、
図14に示すように、個々の車両が有する車両側装置001と、ディーラー等に設けられたサーバーやクラウドコンピュータからなる故障部品特定装置002と、から構成される。
【0045】
車両側装置001は、第2実施例と同様に、診断装置003と、メモリ004と、表示部005と、ECU006と、通信部007と、を備えている。
【0046】
故障部品特定装置002は、基本的には第2実施例と同様に、故障予知部008と、通信部009と、故障部品特定部010と、故障予兆一致度診断部011と、故障予兆検知結果データベース012と、を含んで構成される。そして、第4実施例では、さらに、各部品について異常信号の重要度の序列を定める信号重要度序列部015と、この信号重要度の情報を蓄積した信号重要度データベース016と、を備えている。信号重要度データベース016には、例えば、
図15に例示したように、各部品の異常信号パターンと各異常信号の重要度とをまとめた信号重要度リスト063のデータが格納されている。信号重要度は、例えば、各部品についての知見(設計情報や試験結果等)に基づいて予め設定することができる。あるいは、故障予兆検知結果データベース012に順次蓄えられていく多量の故障予兆検知結果データ051(
図3参照)から異常信号の優先度つまり重要度を求めるようにしてもよい。部品の故障メカニズムが明らかになっていない場合においても、過去のデータから信号の重要度を知ることができる。
【0047】
図16は、第4実施例の故障予知システムの処理の流れを示すフローチャートである。基本的な処理の流れは第2実施例と同様であり、最初にステップ107において車両側装置001から故障部品特定装置002へ車両データを送信する。ステップ101では、車両側装置001から送られてきた車両データに基づき故障部品特定装置002側で故障予知(予兆の検知)を行う。ここでは、
図2に例示したような故障予兆検知結果050のデータが生成される。
【0048】
ステップ103では、故障予兆検知結果データベース012のデータ051(
図3)から他車両の故障予兆に関する情報を参照する。ステップ104では、自車両の故障予兆検知結果050と、故障予兆検知結果データベース012から得た他車両の故障予兆の情報と、の一致度を診断する。前述したように、一致度の診断には、複数の異常信号の組み合わせパターンを用いる。
【0049】
ステップ111では、信号重要度データベース016における信号重要度リスト063(
図15)の情報を用いて、異常信号の優先順位の順位付けをし、一致度が高い部品(故障部品候補)の絞り込みを行う。最終的にステップ106において、候補として絞り込んだ故障部品候補を提示する。例えば、
図17に例示したリスト053の例では、プラグが第1位、インジェクタが第2位と、順位付けを伴って提示されている。
【0050】
図15の例では、信号重要度リスト063に、例えば、予兆検知内容がプラグの場合、異常信号の組み合わせパターンとして「a,b,c」と「a,b」とがあり、異常信号の重要度は「a,b>c」と記録されている。つまり、信号cの重要度は低い。一方、予兆検知内容がインジェクタの場合、異常信号の組み合わせパターンとして「a,b,c,f」と「a,b,f」とがあり、異度信号の重要度は「a,f>b>c」と記録されている。
【0051】
従って、この例では、検知された故障予兆の異常信号の組み合わせが「a,b,c」である場合、インジェクタに関して重要度が高い信号である信号fが含まれていないことから、故障部品候補の絞り込みに際して、プラグに比較してインジェクタとの一致度は低い、ものとする(
図17参照)。
【0052】
このように第4実施例では異常信号の重要度を考慮して故障部品候補の特定を行うので、より高い精度で特定を行うことができるとともに、複数の故障部品候補の順位付けが容易である。
【0053】
次に、
図18~
図20を参照して、本発明の第5実施例を説明する。第5実施例は、各部品の異常信号についてその特徴量に関する情報を考慮して予兆情報の一致度を求める点で第1、第2実施例と異なっている。
【0054】
第5実施例の故障予知システムは、
図18に示すように、個々の車両が有する車両側装置001と、ディーラー等に設けられたサーバーやクラウドコンピュータからなる故障部品特定装置002と、から構成される。
【0055】
車両側装置001は、第2実施例と同様に、診断装置003と、メモリ004と、表示部005と、ECU006と、通信部007と、を備えている。
【0056】
故障部品特定装置002は、基本的には第2実施例と同様に、故障予知部008と、通信部009と、故障部品特定部010と、故障予兆一致度診断部011と、故障予兆検知結果データベース012と、を含んで構成される。そして、第5実施例では、さらに、各部品について異常信号の特徴量が何であるか診断する信号特徴量診断部017と、この信号特徴量の情報を蓄積した信号特徴量データベース018と、を備えている。信号特徴量データベース018には、例えば、
図19に例示したように、各部品の異常信号とこの異常信号の特徴量とをまとめた信号特徴量リスト065のデータが格納されている。信号特徴量リスト065は、例えば、各部品についての知見(設計情報や試験結果等)に基づいて予め作成することができる。あるいは、故障予兆検知結果データベース012に順次蓄えられていく多量の故障予兆検知結果データ051(
図3参照)から異常信号とその特徴量を求めるようにしてもよい。
【0057】
図20は、第5実施例の故障予知システムの処理の流れを示すフローチャートである。基本的な処理の流れは第2実施例と同様であり、最初にステップ107において車両側装置001から故障部品特定装置002へ車両データを送信する。ステップ101では、車両側装置001から送られてきた車両データに基づき故障部品特定装置002側で故障予知(予兆の検知)を行う。ここでは、
図2に例示したような故障予兆検知結果050のデータが生成される。
【0058】
ステップ103では、故障予兆検知結果データベース012のデータ051(
図3)から他車両の故障予兆に関する情報を参照する。ステップ104では、自車両の故障予兆検知結果050と、故障予兆検知結果データベース012から得た他車両の故障予兆の情報と、の一致度を診断する。前述したように、一致度の診断には、複数の異常信号の組み合わせパターンを用いる。
【0059】
ステップ112では、信号特徴量データベース018における信号特徴量リスト065の情報を用いて異常信号の優先順位の順位付けをし、一致度が高い部品(故障部品候補)の絞り込みを行う。最終的にステップ106において、候補として絞り込んだ故障部品候補を提示する。
【0060】
図19の例では、信号特徴量リスト065に、例えば、予兆検知内容がプラグの場合、異常信号として、a、b、cがあり、信号aの特徴量は10分間のデータの尖度、信号bの特徴量は10分間のデータの分散値、信号cの特徴量は1分間のデータの差分値、である旨が記録されている。
【0061】
一方、予兆検知内容がインジェクタの場合、異常信号として、a、b、c、fがあり、信号aの特徴量は10分間のデータの尖度、信号bの特徴量は10分間のデータの分散値、信号cの特徴量は1分間のデータの平均値、信号fの特徴量は10分間のデータの分散値、である旨が記録されている。
【0062】
従って、例えば、検知された故障予兆の異常信号cの特徴量が、プラグに関しては1分間のデータの差分値、インジェクターに関しては1分間のデータの平均値、であって互いに異なるため、異常信号cに着目することで、より高精度に一致度を判定することができる。つまり、異常を検出した信号の中で異常分類への寄与度が高い信号の種類を用いて一致度を診断することで、故障部品候補の特定の精度が高くなる。
【符号の説明】
【0063】
001…車両側装置
002…故障部品特定装置
003…診断装置
005…表示部
007…通信部
008…故障予知部
009…通信部
010…故障部品特定部
011…故障予兆一致度診断部
012…故障予兆検知結果データベース
013…検出情報取得部
014…故障予兆履歴データベース
015…信号重要度序列部
016…信号重要度データベース
017…信号特徴量診断部
018…信号特徴量データベース