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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169816
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】発泡ノズル
(51)【国際特許分類】
   A62C 31/12 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
A62C31/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086581
(22)【出願日】2023-05-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 販売日:2022年11月4日及び2023年1月25日、販売した場所:株式会社モリタ(兵庫県三田市テクノパーク1番地の5)、販売者:深田工業株式会社、販売した物の内容:深田工業株式会社が株式会社モリタに高木 康宏、野村 治己及び岩田 積暁が発明した発泡ノズルを販売した。
(71)【出願人】
【識別番号】000192338
【氏名又は名称】深田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】高木 康宏
(72)【発明者】
【氏名】野村 治己
(72)【発明者】
【氏名】岩田 積暁
【テーマコード(参考)】
2E189
【Fターム(参考)】
2E189KA02
(57)【要約】
【課題】ノズル元での圧力が低い設備であっても、泡の飛距離の低下量が少なく、発泡倍率が高く、還元時間の長い泡放射が可能な発泡ノズルを提供する。
【解決手段】所定の圧力で圧送された泡消火薬剤の水溶液が噴射される噴射口7a,7b,7c,7d,7eと、空気を送る吸気口6bと、泡消火薬剤の水溶液と空気の混合物を撹拌・混合して前方に泡として送るためのプレイパイプ2とを備えている。プレイパイプ2は先端に向かって内径が徐々に縮径する縮径部4が設けられており、縮径部4の先端の内径は、縮径前の内径の80%~88%とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
泡消火薬剤の水溶液を発泡させて放射するための発泡ノズルであって、
所定の圧力で圧送された前記泡消火薬剤の水溶液が噴射される噴射口と、
前記噴射口から噴射された泡消火薬剤の水溶液に空気を送る吸気口と、
前記泡消火薬剤の水溶液と空気の混合物を撹拌・混合して前方に泡として送るためのプレイパイプとを備え、
前記プレイパイプは先端に向かって内径が徐々に縮径する縮径部が設けられており、前記縮径部の先端の内径は、縮径前の内径の80%~88%とされていることを特徴とする発泡ノズル。
【請求項2】
前記噴射口は4つ以上設けられていることを特徴とする請求項1に記載の発泡ノズル。
【請求項3】
前記噴射口の断面積は、ノズル元圧力が0.5MPa以上の場合において、前記噴射口からの吐出量が500L/min以上となるように調整されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡ノズル。
【請求項4】
前記噴射口の断面積は、ノズル元圧力が0.35~0.5MPaの場合において、前記噴射口からの吐出量が200~500L/minとなるように調整されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の発泡ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油火災などの危険物火災に対し、泡消火薬剤の水溶液を発泡させて放射するためのノズル(以下「発泡ノズル」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
油やアルコールなどの危険物火災においては、泡消火薬剤の水溶液を発泡させて放射する泡消火が行われている。泡消火に用いられる発泡ノズルは、泡消火薬剤の水溶液を噴射する噴射口と、空気を取り入れる吸気口とが設けられており、ベンチュリー効果によって吸気口から空気が吸い込まれる。こうして吸い込まれた空気は、プレイパイプと称される管内で泡消火薬剤の水溶液と撹拌・混合されることにより泡となりながら送り出され、プレイパイプの先端から放射される。
【0003】
発泡ノズルに要求される性能として、次の3つが挙げられる。
1)放射された泡を火元まで届かせるために、泡の放射速度が速く、飛距離が長いこと。2)泡消火薬剤の水溶液を、消火に適した発泡倍率となるように発泡させること。3)泡により火災表面を被覆し、酸素供給を遮る窒息効果と可燃性蒸気の発生を抑制する除去効果とを長時間継続させるために、還元時間(泡が水溶液に戻るまでの時間)が長いこと。
【0004】
従来、還元時間が長くて消火に適した発泡倍率の泡を放出するため、水溶液を噴射する際に乱流や旋回流を起こす構造としたり(特許文献1)、後方に撹拌用の金網を設けたり(特許文献2,特許文献3)することが提案されている。しかし、これらの発泡ノズルは、発泡倍率と還元時間は適切な値となるものの、放射される泡の速度は遅くなり、泡の飛距離が短くなるという欠点を有していた。
【0005】
一方、特許文献4には、発泡ノズルの先端部分に向かって縮径するテーパ部を設けることにより、放射される泡の速度が速くなって泡の飛距離が長くなり、発泡倍率も大きくなるということが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-193201号公報
【特許文献2】特開2014-193200号公報
【特許文献3】特開2014-94079号公報
【特許文献4】特開2006-296491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の発泡ノズルでは、通常、ノズル元での圧力が0.7~1MPa程度で泡放射を行う設計となっており、ノズル元での圧力が0.7MPa未満という低圧力の設備しかない場合、発泡倍率が低くなったり、還元時間が短くなったりするという問題があった。このため、ポンプや配管について、高い圧力で泡放射を可能とする設備とする必要があった。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、ノズル元での圧力が低い設備であっても泡の飛距離の低下量が少なく、発泡倍率が高く、還元時間の長い泡放射が可能な発泡ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来の問題を解決するために、ノズル元圧力が0.5MPa程度という低圧力下で使用した場合における、発泡ノズル内での泡の形成過程について鋭意研究を行った。噴射口より噴射された泡消火薬剤の水溶液と吸気口から吸い込まれた空気とは、プレイパイプ内の壁面に衝突しながら混合・撹拌されることにより泡となって放射される。しかし、ノズル元の圧力が0.5MPa程度と低い場合には、プレイパイプ内にて空気と十分に撹拌しきれずに、還元時間が短い泡となっていることが判明した。そして、さらに鋭意研究を行った結果、プレイパイプの先端の内径を80%~88%に縮径すれば、ノズル元での圧力が低い設備であっても、泡の飛距離の低下量が少なく、発泡倍率が高く、還元時間の長い泡放射が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の発泡ノズルは、泡消火薬剤の水溶液を発泡させて放射するための発泡ノズルであって、
所定の圧力で圧送された前記泡消火薬剤の水溶液が噴射される噴射口と、
前記噴射口から噴射された泡消火薬剤の水溶液に空気を送る吸気口と、
前記泡消火薬剤の水溶液と空気の混合物を撹拌・混合して前方に泡として送るためのプレイパイプとを備え、
前記プレイパイプは先端に向かって内径が徐々に縮径する縮径部が設けられており、前記縮径部の先端の内径は、縮径前の内径の80%~88%とされていることを特徴とする。
【0011】
本発明の発泡ノズルでは、噴射口より噴射された泡消火薬剤の水溶液は、プレイパイプ内を通過する際に水溶液どうしやプレイパイプ壁面に衝突しながら、吸気口から吸い込まれた空気と混合・撹拌されることにより泡となって放射される。プレイパイプは先端に向かって内径が徐々に縮径する縮径部が設けられているため、発泡ネットや干渉板を設けて泡を発生させる場合に比べて、少ない圧力損失で、泡消火薬剤の水溶液と空気の撹拌・混合が可能となる。このため、ノズル元の圧力が0.5MPa程度と低い場合であっても、プレイパイプ内での撹拌・混合が充分となり、発泡倍率が高く、還元時間の長い泡放射が可能となる。また、発泡ネットや干渉板を設けて泡を発生させる場合に比べて圧力損失が少ないため、泡の飛距離の低下量は少なくなる。
【0012】
なお、本発明の発泡ノズルにおける縮径部の先端の内径は、縮径前の内径の80%~88%とされているのは、次の理由による。
すなわち、縮径部の先端の内径が縮径前の内径の80%未満の場合、泡が膨らみ難くなり、発泡倍率が適切な範囲の下限である6倍よりも小さくなる。一方、縮径部の先端の内径が縮径前の内径の88%を超えると、撹拌効果が小さくなり、泡の還元時間が適切な範囲の下限である60秒よりも短くなる。特に好ましいのは縮径部の先端の内径が縮径前の内径の82%~86%の範囲である。
【0013】
本発明の発泡ノズルにおいて、噴射口は4つ以上設けられていることが好ましい。噴射口が4つ以上設けられることにより、噴射口から噴射された泡消火薬剤の水溶液と、吸気口から吸い込まれた空気との混合・撹拌が促進され、発泡倍率と還元時間とのバランスの良い泡を放出することができる。ここで、「バランスの良い泡」とは、発泡倍率が6~10倍の範囲であり、且つ、還元時間が60秒以上である泡のことをいう。
【0014】
噴射口の断面積は、ノズル元圧力が0.5MPa以上の場合において、噴射口からの吐出量が500L/min以上となるように調整することが好ましい。なお、噴射口が複数の場合、「断面積」とは総断面積のことをいう(以下同様)。
ノズル元圧力が0.5MPa以上であれば、噴射口からの吐出量が500L/min以上としても、泡消火薬剤の水溶液と空気との混合が充分なされ、しかも泡の飛距離の低下量も抑えることができる。
【0015】
噴射口の断面積は、ノズル元圧力が0.35~0.5MPaである場合において、噴射口からの吐出量が200~500L/minとなるように調整することが好ましい。
ノズル元圧力が0.35~0.5MPaである場合、噴射口からの吐出量が500L/minを超えると泡消火薬剤の水溶液と空気との混合が適切になされず、発泡倍率が低く、還元時間が短くなる。一方、噴射口からの吐出量が200L/min未満であると、泡の飛距離が短くなる。
【0016】
本発明の発泡ノズルは、固定モニターに搭載して使用する中流量発泡ノズルのみならず、吐出量が400L/min程度の可搬式の小流量ノズルや、大容量泡放水砲(10,000L/min以上)に用いられる大容量の発泡ノズルにも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の発泡ノズルの断面図である。
図2】実施例1の発泡ノズルの図1におけるA-A矢視断面図である。
図3】実施例1の発泡ノズルを泡モニター用の基台に取り付け、泡消火薬剤水溶液供給設備10によって泡を放射した場合の模式図である。
図4】実施例1の発泡ノズルを用いて泡を放射する場合の模式断面図である。
図5】実施例4の発泡ノズルの断面図である。
図6】実施例4の発泡ノズルの図5におけるB-B矢視断面図である。
図7】実施例4の発泡ノズルを用いて泡を放射する場合の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施例を比較例と比較しつつ説明する。
[噴射口数=5の発泡ノズル]
以下に説明する実施例1~3及び比較例1は、いずれも噴射口数=5の発泡ノズルである。
【0019】
(実施例1)
図1に実施例1の発泡ノズル1を示す。この発泡ノズル1は固定モニターに搭載して使用する中流量発泡ノズルであり、円筒管形状のプレイパイプ2を備え、プレイパイプ2の一端側に泡消火薬剤の水溶液を噴射するための噴射部3が挿入されている。また、プレイパイプ2の他端側には、先端に向かって内径が徐々に縮径するテーパ状の縮径部4が挿入され、ネジ5によって固定されている。縮径部4の先端の内径をd2、プレイパイプ2の内径をd1とした場合、d2/d1=0.82とされている。
【0020】
噴射部3は、プレイパイプ2の一端側に挿入されている円筒形状のブラケット6と、ブラケット6の内側に固定して挿入されているノズル7とが設けられている。図2に示すように、ノズル7には軸心と同心で噴射口7aが開けられており、噴射口7aの軸心から径外方向の4箇所に噴射口7b、7c、7d、7eが対称位置で開けられている。噴射口7b、7c、7d、7eの噴射側の先端は、噴射口7aの噴射側の先端よりも突出している。ブラケット6の一端はプレイパイプ2に挿入されており、ネジ6aによってブラケット6の位置を調整可能に固定されている。噴射部3は、ノズル元圧力が0.5MPaとした場合において、噴射口7a、7b、7c、7d、7eからの総吐出量が2100L/minとなるように、噴射口7a、7b、7c、7d、7eの断面積が適宜調整されている。また、ブラケット6の軸方向の略中央には吸気口6bが4箇所に対称の位置で開けられている。
【0021】
(実施例2)
実施例2の発泡ノズルは、d2/d1=0.84とされている。その他の構成は図1に示す実施例1の発泡ノズルと同様であり、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0022】
(実施例3)
実施例3の発泡ノズルは、d2/d1=0.86とされている。その他の構成は図1に示す実施例1の発泡ノズルと同様であり、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0023】
(比較例1)
比較例1の発泡ノズルは、d2/d1=1(すなわち縮径部なし)とされている。その他の構成は図1に示す実施例1の発泡ノズルと同様であり、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0024】
<評 価>
実施例1~3及び比較例1の発泡ノズルを、図3に示す泡モニター用の基台に取り付け、泡消火薬剤水溶液供給設備10をノズル元圧力が所定の圧力となるように駆動させながら、吐出角度を仰角30°として泡放射試験を行った。泡消火薬剤としては、環境配慮型のたん白系泡消火薬剤(深田工業株式会社製 フカダ・エアーフォーム)を用い、混合率は3%となるように調整した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
・1/4DT(25%還元時間)について
ノズル元圧力=0.5MPaという低圧において、1/4DTは実施例1で78秒、実施例2で84秒、実施例3で63秒となり、いずれもたん白系泡消火薬剤の場合に通常要求される60秒を超える数値となった。これに対して比較例1の発泡ノズルでは1/4DTが45秒であった。ただし、比較例1の発泡ノズルであっても、ノズル元圧力を1.0MPaとすれば、1/4DTは95秒となり、たん白系泡消火薬剤の場合に通常要求される60秒を超える数値となった。
【0027】
・発泡倍率について
ノズル元圧力=0.5MPaという低圧において、発泡倍率は実施例1で6.44、実施例2で7.21、実施例3で8.22、比較例1で7.17なり、いずれもたん白系泡消火薬剤の場合に通常要求される6を超える数値となった。
【0028】
・飛距離について
飛距離については、比較例1について、ノズル元圧力が1.0MPaの場合で59mとなり、ノズル元圧力を0.5MPaまで低減させると、40mまで減少した。一方で、実施例1では43m、実施例2では43m、実施例3では48mとなり、比較例1に対して、泡の飛距離の低下量は少なかった。
【0029】
・結果についての考察
実施例1~3の発泡ノズルにおいて、ノズル元圧力が0.5MPaという低圧力にも関わらず、1/4DTが、たん白系泡消火薬剤の場合に通常要求される60秒を超える数値となったのに対して、比較例1の発泡ノズルにおいては60秒を大きく下回ったのは、次の理由によると推測される。
【0030】
図4に示すように、泡放射試験において、ノズル7の噴射口7a、7b、7c、7d、7eから放射された泡消火薬剤水溶液は、プレイパイプ2内を通過する過程において、泡消火薬剤水溶液どうしや、プレイパイプ2の内壁面に衝突しながら、吸気口6bから吸引された空気と撹拌されることによって泡となる。ここで、実施例1~3の発泡ノズルでは、d2/d1が0.82、0.84、0.86であり、プレイパイプ2の先端部において内径が縮径部4において縮径されている。このため、縮径部4を通過する流体の流れの一部で渦が生じ、その結果、プレイパイプ2の内部で水溶液と空気との撹拌が促進される。このため、1/4DT (25%還元時間)が60秒以上の長くて保水性の高い泡が生成される。また、噴射口7a~7eの総断面積に比べ、縮径部4の断面積は十分に大きいため、縮径の程度による吐水量の影響はない。こうして、実施例1~3の発泡ノズルでは、泡の飛距離の低下量が少なく、発泡倍率が高く、還元時間の長い泡放射が可能となる。
【0031】
一方、比較例1の発泡ノズルでは、d2/d1が1.00であり、内径が絞られていないため、ノズル元圧力が0.5MPaという低圧力においては縮径部4を通過する流体の流れで渦が生じないため、プレイパイプ2内部での水溶液と空気との撹拌が不十分となり、その結果、1/4DTが45秒と短く、保水性の低い泡が生成される。ただし、比較例1の発泡ノズルであっても、ノズル元圧力が1.0MPaで駆動させれば、プレイパイプ2内部での水溶液と空気との撹拌が十分となり、1/4DTが95秒となり、たん白系泡消火薬剤の場合に通常要求される60秒を超える数値となったと推定される。
【0032】
また、実施例1~3の発泡ノズルにおける泡放射試験の結果を比較すると、ノズル元圧力が0.5MPaという低圧力において、
実施例1の発泡ノズル(d2/d1=0.82)では発泡倍率が6.44、1/4DT が78秒、
実施例2の発泡ノズル(d2/d1=0.84)では発泡倍率が7.21、1/4DT が84秒、
実施例3の発泡ノズル(d2/d1=0.86)では発泡倍率が8.22、1/4DT が63秒、
となり、d2/d1の値が大きいほど、発泡倍率が大きくなることが分かった。
一般に、油やアルコールなどの危険物火災の泡消火における好ましい泡の性質としては、発泡倍率は6~10(水成膜泡消火薬剤の場合は5~10)、1/4DTは60秒以上と言われている。1/4DTが60秒未満となると泡による遮蔽効果及び断熱効果の持続性が損なわれる。一方、発泡倍率が6未満(水成膜泡消火薬剤の場合は5未満)では、消火において泡が広がる面積が小さくなるため、消火を有効に行うことができないからである。上記実施例1~3の発泡ノズルの泡放射試験の結果から、ノズル元圧力が0.5MPaという低圧力においては、発泡倍率を6~10の範囲とするためには、d2/d1の値が0.80~0.88程度の範囲とすることが必要となることが分かった。
【0033】
[噴射口数=1の発泡ノズル]
以下に説明する実施例4及び比較例2は、いずれも噴射口数=1の発泡ノズルである。
【0034】
(実施例4)
図5に実施例4の発泡ノズル21を示す。この発泡ノズル21は固定モニターに搭載して使用する中流量発泡ノズルであり、円筒管形状のプレイパイプ22を備え、プレイパイプ22の一端側に泡消火薬剤の水溶液を噴射するための噴射部23が挿入されている。また、プレイパイプ22の他端側には、先端に向かって内径が徐々に縮径するテーパ状の縮径部24が挿入され、ネジ25によって固定されている。縮径部24の先端の内径をd、プレイパイプ22の内径をdとした場合、d2/d1=0.86とされている。
【0035】
噴射部23は、プレイパイプ22の一端側に挿入されている円筒形状のブラケット26と、ブラケット26の内側に固定して挿入されているノズル27とが設けられている。ノズル27には軸心と同心で断面リング形状の噴射口27aが設けられており(図6参照)、噴射口27aは先端近くで口径が絞られており、最も絞られている位置での噴射口27aの断面積は、ノズル元圧力が0.5MPaの場合において、噴射口27aからの吐出量が1900L/min以上となるように調整されている。噴射部23の最前部には軸心と同心で先端に向かって拡径する略円錐形状のデフレクター28が噴射口27a内に収まる位置で設けられている。ブラケット26の一端はプレイパイプ22に挿入されており、ネジ26aによってブラケット26の位置を調整可能に固定されている。また、プレイパイプ22には、ブラケット26の先端部分の位置に吸気口26bが4箇所に対称の位置で開けられている。
【0036】
(比較例2)
比較例1の発泡ノズルは、d2/d1=1(すなわち縮径部なし)とされている。その他の構成は実施例4の発泡ノズルと同様であり、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0037】
<評 価>
実施例4及び比較例2の発泡ノズルを図3に示す泡モニター用の基台に取り付け、泡消火薬剤水溶液供給設備10を所定のノズル元圧力となるように駆動させながら、吐出角度を仰角30°として泡放射試験を行った。泡消火薬剤としては、環境配慮型のたん白系泡消火薬剤(深田工業株式会社製 フカダ・エアーフォーム)を用い、混合率は3%となるように調整した。結果を表2に示す。

【0038】
【表2】
【0039】
・1/4DT(25%還元時間)について
ノズル元圧力を0.5MPaとして実施例4の発泡ノズルを用いた場合には、1/4DTが70秒となり、たん白系泡消火薬剤の場合に通常要求される60秒を超える数値となった。これに対して、比較例2の発泡ノズルを用いた場合には、短すぎて測定不能となり、消火に必要な還元時間が得られなかった。
【0040】
・発泡倍率について
ノズル元圧力を0.5MPaとして実施例4の発泡ノズルを用いた場合には、発泡倍率が7.28、比較例2の発泡ノズルを用いた場合には6.51となり、実施例4の発泡ノズルを用いた場合の方が、発泡倍率が大きくなった。
【0041】
・飛距離について
比較例2の発泡ノズルでは、ノズル元圧力が0.5MPaの場合で41mとなり、実施例4の発泡ノズルでは54mとなり、比較例2と比較して泡の飛距離は長くなる結果となった。
【0042】
・結果についての考察
実施例4の発泡ノズルでは、ノズル元圧力が0.5MPaという低圧力の場合でも、1/4DTが70秒であるのに対して、比較例2の発泡ノズルにおける1/4DTでは、短すぎて測定不能という結果になったのは、次の理由によると推定される。すなわち、どちらの発泡ノズルも噴射口が1か所であるため、噴射口が5か所ある発泡ノズルに比べて空気との混合が不十分になりやすいが、実施例4の発泡ノズルでは図7に示すように、縮径部24を通過する流体の流れの一部で渦が生じ、その結果、プレイパイプ2の内部で水溶液と空気との撹拌が促進される。さらには、噴射口27aを出た泡消火薬剤の水溶液がデフレクター28にぶつかって飛び散り、空気との混合が促進される。このため、1/4DTが70秒と長くて保水性の高い泡が生成される。また、縮径部24における縮径の程度はd2/d1=0.86と小さいので圧損失はそれほど大きくなく、縮径による吐出量の減少はなく、いずれも1,900L/minとなったと推定される。こうして、実施例4の発泡ノズルでは、泡の飛距離が長く、発泡倍率が高く、還元時間の長い泡の放射が可能となる。
【0043】
一方、比較例2の発泡ノズルでは、d2/d1が1.00であり縮径部がないため、ノズル元圧力が0.5MPaという低圧力においては縮径部24を通過する流体の流れで渦が生じないため、プレイパイプ22内部での水溶液と空気との撹拌が不十分となり、その結果、1/4DTが短すぎて測定不能となり、消火に必要な還元時間が得られなかったものと推定される。
【0044】
(実施例5)
実施例5の発泡ノズルはd2/d1=0.85とされている。また、吐出量については、ノズル元圧力が0.35MPaにおいて427L/minとなるように噴射口27aの最狭となる箇所の面積を調整した。その他の構成は実施例4の発泡ノズルと同様であり、同一の構成については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0045】
<評 価>
実施例5の発泡ノズルを図3に示す泡モニター用の基台に取り付け、泡消火薬剤水溶液供給設備10を所定のノズル元圧力となるように駆動させながら、吐出角度を仰角30°として泡放射試験を行った。泡消火薬剤としては、環境配慮型のたん白系泡消火薬剤(深田工業株式会社製 フカダ・エアーフォーム)を用い、混合率は3%となるように調整した。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
・1/4DT(25%還元時間)について
実施例5の発泡ノズルでは、ノズル元圧力を0.35MPaという低い圧力にした場合でも、1/4DTは200秒であり、たん白系泡消火薬剤の場合に通常要求される60秒を遥かに超える数値となった。
【0048】
・発泡倍率について
実施例5の発泡ノズルを用いた場合では、ノズル元圧力を0.35MPaという低い圧力とした場合でも、発泡倍率が6.93となり、泡消火における好ましい泡の特性値(発泡倍率は6~10、1/4DTは60秒以上)の範囲となった。
【0049】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1,21…発泡ノズル、2,22…プレイパイプ、3,23…噴射部(6,26…ブラケット、6a,26a…ネジ,6b,26b…吸気口)、4,24…縮径部、5,25…ネジ、7,27…ノズル(7a,27a…噴射口、7b,7c,7d,7e…噴射口)、28…デフレクター、10…泡消火薬剤水溶液供給設備
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7