(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016983
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】細身のシルエットを維持可能な空調衣服
(51)【国際特許分類】
A41D 13/002 20060101AFI20240201BHJP
A41D 13/005 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A41D13/002 105
A41D13/005 103
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119309
(22)【出願日】2022-07-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】399095047
【氏名又は名称】株式会社ディックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100140394
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 康次
(72)【発明者】
【氏名】土田 敏雅
【テーマコード(参考)】
3B011
3B211
【Fターム(参考)】
3B011AB01
3B011AC02
3B011AC03
3B211AB01
3B211AC02
3B211AC03
(57)【要約】
【課題】着用者の腹冷えを起こさず、首元を集中的に冷やし、細身のシルエットを維持し、前身頃のファスナーを開いたままでも使用可能な空調衣服を提供する。
【解決手段】空調衣服1は、前身頃10と、後身頃20と、襟部30と、送風機とを備える。後身頃20の下部には送風機を取り付け可能な貫通孔が設けられ、その内面側には裏地50が取り付けられる。裏地50は、左右の側縁部51a,51b及び下縁部52に沿って後身頃20に接続する一方で襟部30に近い上縁部53にて後身頃20から分離することで流出口61を形成し、後身頃20と裏地50との間に送風機から送り込まれた外気を襟部30に案内する冷却流路を形成する。後身頃20及び裏地50より内側に突出したスペーサ54a,54bが側縁部51a,51bに沿って縫い付けられることが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃と、後身頃と、襟部と、送風機とを備えた空調衣服であって、
前記後身頃の下部には前記送風機を取り付け可能な貫通孔が設けられ、
前記後身頃の内面側には裏地が取り付けられており、かつ、
前記裏地は、左右の側縁部及び下縁部に沿って前記後身頃に接続する一方で前記襟部に近い上縁部にて前記後身頃から分離しておくことで、前記後身頃と前記裏地との間に前記送風機から送り込まれた外気を前記襟部に直接案内する流出口を備えた冷却流路を形成する、
ことを特徴とする空調衣服。
【請求項2】
前記後身頃及び前記裏地より内側に突出したスペーサが前記側縁部に沿って縫い付けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の空調衣服。
【請求項3】
前記裏地と相補して前記冷却流路を形成する前記後身頃の裏地対応部分は、前記裏地の幅と同じ幅を有し、かつ、同一素材からなる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空調衣服。
【請求項4】
前記裏地の前記幅は、前記下縁部にて幅広であり、かつ、前記上縁部にて幅狭である、
ことを特徴とする請求項3に記載の空調衣服。
【請求項5】
前記裏地の前記幅は、
着用者の腹部に相当する第1領域にて前記後身頃の全幅と同じであり、
前記着用者の背中部に相当する第2領域にて前記後身頃の前記全幅の20%~50%の長さであり
第1領域と第2領域との間の第3領域では第1・第2領域を滑らかに接続するように徐々に狭まっている、
ことを特徴とする請求項4に記載の空調衣服。
【請求項6】
前記裏地の第1領域及び/又は第2領域に、前記冷却流路から前記着用者の背面側胴体に前記外気を案内可能な通風孔が設けられており、かつ、
第1領域に設けられた通風孔の開口面積或いは第2領域に設けられた通風孔の開口面積又は第1・第2領域に設けられた通風孔の開口面積の総和が前記流出口の開口面積以下である、
ことを特徴とする請求項5に記載の空調衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送風機によって空気が送り込まれる衣服に関し、より詳細には、首元での冷却性能を高めつつ、送風機駆動時に空気が送り込まれても服本体の膨張を抑制してスリムな(細身の)シルエットを保持できる空調衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコン環境下にない工場や屋外の作業現場などでは空調衣服と呼ばれた特殊衣服の需要がある。加えて、近年の温暖化(特に、真夏の熱中症)への対策の一環としても空調衣服が注目されており、ゴルフ、釣り、キャンプなどのアウトドア・レジャーを楽しむ人々の間でも利用されつつある。
【0003】
空調衣服とは、通常、電源で駆動するファンと呼ばれる送風機が服本体に取り付けられた衣服のことであり、ファンから取り込まれた外気によって服本体内の汗を蒸発させ、この蒸気を含んだ空気を襟元や袖口を通して服本体から排出することで、絶えず身体を冷やすことができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-131713号公報
【特許文献2】特開2021-088788号公報
【特許文献3】特開2021-080602号公報
【特許文献4】特許第6601703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の空調衣服には未だ解決されていない以下の課題が残っている。
【0006】
(課題1.膨満なシルエット)
ファンの駆動によって外気が衣服本体内に取り込まれると、身体周囲に亘って全体的に膨満なシルエットを呈し、これは作業(特に狭所での作業)の妨げになってしまう。また、膨満なシルエットは着用した際の外観を気にする需要者からの評価は低く、敬遠され易い。
【0007】
この課題1に関連して、特許文献1に開示の空調衣服では、服地と胴体との間隔を規制するリング状の間隔規制シートが服地の上下方向に間隔をおいて取り付けられているが、結局のところ、間隔規制シートの取付位置では空調衣服の膨らみが最も抑えられるが、隣接する取付位置との間では膨らみを規制できないため、さながら、紐で縛った肉塊やボーンレスハムのような外観となり、審美性が良いとは言えない。また、胴体を複数の間隔規制シートで囲って絶えず密着することになる特許文献1のような空調衣服では、作業するにも窮屈であり、着心地が良いとは言えないものと予想される。
【0008】
(課題2.腹部への集中的な冷却による腹冷え)
また、ファンは、通常、空調衣服背面の下部の左右に取り付けられているため、ファンから勢いよく取り込まれた外気は胴体(特に腹部)全周を集中的に冷却してしまい、空調衣服着用者の腹冷えを起こすこともあった。
【0009】
(課題3.姿勢による空気流路の閉塞)
また、従来の空調衣服では、前屈みなど着用者が取る姿勢によっては服地内に入った空気の通り道が塞がれてしまい、姿勢を直す迄、所望の冷却性能を発揮できない事が多い。
【0010】
この課題3に関連して、特許文献2に開示の空調衣服では、服地(具体的には後身頃)の内面にスペーサを設けることにより、後身頃と着用者との間に空気が流通可能な空間を確保している。しかしながら、特許文献2の図面5に示すようにファンから取り込まれた空気は服地と胴体の全周に入り込むため、上述の課題1や課題2を同時に解決できるものではない。加えて、後述の課題4や課題5を同時に解決できるものでもない。
【0011】
(課題4.前身頃のファスナーを閉じたままの着用)
また、通常の空調衣服では服地内の空気を適切に流通させるため、左右の前身頃間を開閉するファスナーを上げ切った(前身頃間の開口を完全に閉じた)ままでの使用が絶対条件であった。言い換えれば、着用者は上記ファスナーを少し下げた(開いた)ままで空調衣服を使用(冷却)することが取扱上、許されていなかった。
【0012】
(課題5.襟元(首元)への集中的な強制冷却)
さらに、本発明者らの試行錯誤と経験によれば、空調衣服において体温を下げるには襟元に極めて強い風を当てて首の血管付近を冷やすことが最も有効であることに想到したが、従来の空調衣服では衣服内全体に空気を循環させる設計となっているため、襟元付近を通過・排出される空気の風圧(風速)が弱く、首元を集中的に冷却できるものではない。
【0013】
なお、特許文献3や特許文献4の空調衣服では、襟元下側の後身頃の内面側(胴体側)に風路形成布等の裏地を取り付けて裏地と後身頃との間に襟元へ至る空気流路を確保する事を主眼としている。しかしながら、これらの裏地はメッシュ素材であって胴体側にも漏れ出る構成であるし、ファンから服地内に取り込まれた空気が胴体周囲を経由して袖口、最下絞り部(ズボンとの接続部)や襟元の各出口へ排出されるものであって、ファンからの外気を直接的に襟元(首元)へ送り込む発想のものではない。
【0014】
また、特許文献3や特許文献4の空調衣服では、風路形成布等の裏地と、これに対応する後身頃の部分との寸法(身幅方向の幅や上縁の長さ)を若干異ならしめることで空気流路が形成され易いよう工夫されていてこの点が特徴でもあるが、寸法が若干異なる各部材の縫製作業は困難であり労力・時間が掛ってしまう。
【0015】
本発明は、上述した課題に対応するために本発明者らによって提案されたものであり、着用者の腹冷えを起こさず、首元を集中的に冷やし、細身のシルエットを維持可能な空調衣服を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明のもう一つの目的は、前身頃のファスナーを開いたままでも使用可能で、着用者の姿勢が変化しても空気流路が閉塞されない空調衣服を提供することである。
【0017】
更に、本発明のもう一つの目的は、空気流路形成箇所の縫製が容易な空調衣服を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明は、例えば、次の構成・特徴を採用するものである。
(態様1)
前身頃と、後身頃と、襟部と、送風機とを備えた空調衣服であって、
前記後身頃の下部には前記送風機を取り付け可能な貫通孔が設けられ、
前記後身頃の内面側には裏地が取り付けられており、かつ、
前記裏地は、左右の側縁部及び下縁部に沿って前記後身頃に接続する一方で前記襟部に近い上縁部にて前記後身頃から分離しておくことで、前記後身頃と前記裏地との間に前記送風機から送り込まれた外気を前記襟部に直接案内する流出口を備えた冷却流路を形成する、
ことを特徴とする空調衣服。
(態様2)
前記後身頃及び前記裏地より内側に突出したスペーサが前記側縁部に沿って縫い付けられている、
ことを特徴とする態様1に記載の空調衣服。
(態様3)
前記裏地と相補して前記冷却流路を形成する前記後身頃の裏地対応部分は、前記裏地の幅と同じ幅を有し、かつ、同一素材からなる、
ことを特徴とする態様1又は請求項2に記載の空調衣服。
(態様4)
前記裏地の前記幅は、前記下縁部にて幅広であり、かつ、前記上縁部にて幅狭である、
ことを特徴とする態様3に記載の空調衣服。
(態様5)
前記裏地の前記幅は、
着用者の腹部に相当する第1領域にて前記後身頃の全幅と同じであり、
前記着用者の背中部に相当する第2領域にて前記後身頃の前記全幅の20%~50%の長さであり
第1領域と第2領域との間の第3領域では第1・第2領域を滑らかに接続するように徐々に狭まっている、
ことを特徴とする態様4に記載の空調衣服。
(態様6)
前記裏地の第1領域及び/又は第2領域に、前記冷却流路から前記着用者の背面側胴体に前記外気を案内可能な通風孔が設けられており、かつ、
第1領域に設けられた通風孔の開口面積或いは第2領域に設けられた通風孔の開口面積又は第1・第2領域に設けられた通風孔の開口面積の総和が前記流出口の開口面積以下である、
ことを特徴とする態様5に記載の空調衣服。
【発明の効果】
【0019】
本発明の空調衣服によれば、後身頃の内面に裏地が形成され、その間に左右の側縁と下縁との三方向の外縁が閉じられた冷却流路が形成されているため、送風機からの外気の大半は、襟元近くの流出口を通って排出されるため、着用者の首元を集中的に冷やすことができる。加えて、前身頃方面や胴体(特に腹部)周囲に外気が流れにくいため、腹冷えを起こさず、細身のシルエットを維持したままで快適に着用して作業やアウトドア・レジャーを継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の衣服の(a)正面図、(b)背面図、及び(c)右側面図である。
【
図2】前身頃を完全に開いた状態の衣服の正面図である。
【
図3】衣服に送り込まれた外気の流れも併せて示した衣服の背面図である。
【
図4】
図3中の各破断位置での冷却流路の断面を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施例に何等限定されるものではない。なお、各図において同一又は対応する要素には同一符号を用いる。
【実施例0022】
(空調衣服の主要構成)
本実施例においては、着用者を基準として「上下方向」及び「左右方向」(「身幅方向」とも呼ぶ。)と規定する。本実施例に係る空調衣服1(以下、「衣服」とも呼ぶ。)は、
図1の各図に示すように、正面側から視認できる前身頃10と、背面側から視認できる後身頃20と、から主に構成される。前身頃10と後身頃20の上縁には襟部30が接続される。一方、これら部材の下縁には裾部40が接続される。この他の構成部材として後述の送風機24(「ファン」とも呼ぶ。)や裏地50も衣服1に取り付けられる。なお、本実施例の衣服1には図示しない袖部が設けられていてもよい。
【0023】
(前身頃の具体的構成)
次に前身頃10の構成について詳細に説明する。前身頃10は正面視で左右中央を基準に第1・第2前身頃11a,11bに分割されており、第1・第2前身頃11a,11bが接続する中央にはファスナー12が上下方向に亘って取り付けられている。このため、前身頃10はファスナー12を上げ下げすることで開閉自在となり、着用者は衣服1を着たり脱いだりすることができる。なお、ファスナー12は、図示の線ファスナーに限定されず、面ファスナーを使用してもよい。
【0024】
(前身頃両外側の具体的構成)
ここで、第1・第2前身頃11a,11bの外方向には、上から下方向に順に、左右のヨーク部13a,13b、脇下部14a,14b及び裾端部15a,15bが設けられ、前身頃10と後述の後身頃20とを接続して衣服1として一体化する。また、図示の例では、ヨーク部13a,13b、脇下部14a,14b及び後述の後ヨーク部22a,22bによって外周が区画された袖ぐり16a,16bが形成される。なお、第1・第2前身頃11a,11bの下半部にはポケット17a,17bが取り付けられていてもよい。
【0025】
(後身頃の具体的構成)
次に後身頃20の構成について詳細に説明する。後身頃20は背面視で左右中央に後身頃本体21が設けられる。後身頃本体21の外方向上側には左右の後ヨーク部22a,22bが設けられる。
【0026】
(後身頃本体)
後身頃本体21は、衣服1の上下方向に延びており、その下縁は裾部40に接続し、その上縁は襟部30に接続する。後身頃本体21は下から上に向かって身幅(左右方向の幅Wa,Wb,Wc)が狭まることが特徴的である。
図2の例に係る後身頃本体21は、裾部40の裾幅に対応する第1幅Waを有した幅広部21aと、第1幅Waより小さくかつ襟部30の襟幅に対応する第2幅Wbを有した幅狭直進部21bと、この幅広部21aと幅狭直進部21bとを連結するようにこれらの間に配置され、下から上に向かって第1幅Waから第2幅Wbへと徐々に狭まる第3幅Wcを有した幅縮小部21cとの3つの領域から構成されている。幅広部21aには送風機24を取り付け可能な貫通孔23(ファン取付口)が左右に配置されている。
【0027】
(裏地)
図2はファスナー12を下げて左右の第1・第2前身頃11a,11bを分離して前身頃10を完全に開いた状態の衣服1の正面図である。
図2に示すように、後身頃20の内面側には裏地50が取り付けられる。
図2に示す例では裏地50は上述の後身頃本体21に対応する寸法・形状(ほぼ同形状)を成す。この裏地50は左右の側縁部51a,51b及び下縁部52に沿って後身頃20(後身頃本体21)に接続(縫製)される。これにより、後身頃本体21と裏地50との間では三方向の縁部が閉ざされた空間、すなわち、空気が内在・流通する空気層60(後述の冷却流路)が形成される。
【0028】
(裏地の生地と後身頃の生地について)
なお、ファスナー12を上げきって衣服1内の胴体周囲に冷却空気を流通させることを前提にした従来の衣服では、裏地50に空気Aiが流通しやすいメッシュ生地を採用することが多く、後身頃20の生地と通常異なっていた。しかしながら、襟部30(つまり、首元)にピンポイントに空気を送り出すことを主眼とする本発明では、基本的に、裏地50から胴体へ又は後身頃20から外部のいずれかへ空気Aiが漏れ出すことは望ましくない。
【0029】
別言すれば、本発明では裏地50の素材は後身頃20の素材と同一であるのが好ましい。この理由は生地の素材(つまり、空隙率(空気の漏れやすさ))が異なると、送風機24により高められた内圧を有した空気Aiが空隙率の高い生地の素材の方から漏れ出てしまうことになるからである。
【0030】
(裏地と後身頃との間に形成される冷却流路)
図3は衣服1の背面図であるが、その内部にある裏地50の構造を破線で描き、衣服1内の空気の流れを追記した概略図である。
図4の各図(a)、(b)及び(c)は、
図3中の背面図上の各破断線A-A線、B-B線、及びC-C線の位置に対応した冷却流路60の断面状態を示した図である。
【0031】
一方で、裏地50の襟部30に近い上縁部53は縫製されておらず(後身頃本体21から分離されていて)、空気層60が流出側で外部空間とつながる流出口61が形成される。なお、流入側では送風機24が貫通孔23に埋め込まれているため、外気Aoを空気層60内へ送り込める。
【0032】
以上により、
図3及び
図4の各図に示すように、後身頃本体21と裏地50との間へ送風機24から送り込まれた外気Aoは、空気層60内に入り込んで内部流Aiとなってグングンと上昇(加速)していき、流出口61から襟部30に向けて排出され、着用者の首元を集中的に冷やす。なお、断面概略図中の×の付いた丸印は紙面に向かって空気Aiが上昇することを示し、その丸印の大きさは流速の大きさに比例するように描いている。このように後身頃本体21と裏地50との間の空気層60が、着用者の体(特に、首元)を効果的に冷やすための冷却流路を形成するのである。
【0033】
なお、
図2に示すように、裏地50の上縁部53を、後身頃本体21の上縁部に比べて多少下方向にくるようにしてもよい。これにより、後身頃本体21の上縁部に括り付けられるタグ(例えば、サイズを表示するタグ)が裏地50に隠れず、着用者から見易くなる。
【0034】
(スペーサ)
さらに、
図2及び
図3に示すように、後身頃本体21及び裏地50より内側(胴体側)に突出したスペーサ54a,54bが、裏地50の側縁部51a,51bの両側に沿って縫い付けられていることが好ましい。図示の例では、スペーサ54a,54bは、例えば、2cm×2cmの正方形断面かつ約35cmの長さを有した柔軟なウレタン製スポンジ55と、このウレタン製スポンジ55を包み込んだ包装布56とで作られている。このウレタン製スポンジ55を収容した包装布56が、衣服1の上下方向に沿って裏地50の側縁部51a,51b及び後身頃本体21の側縁部に縫い付けられている。
【0035】
(スペーサの作用)
このスペーサ54a,54bの設置により着用者の胴体(背中)と後身頃本体21との間にはスペーサ分の厚みが常に確保されるため、衣服1の着用者が腰を屈めて背中を曲げ、通常であれば背中と衣服1との間が密着してしまうような場合でも、空気Aiが流通する冷却流路60を閉塞することは無い。
【0036】
(冷却流路を形成する際の縫製作業)
裏地50と相補して冷却流路60を形成する後身頃20の裏地対応部分は、
図4(a)に示すように裏地50の幅Wbfと同じ幅Woを有することが好ましい。これにより、本発明の冷却流路60を区画するための作業は、同一幅(かつ、同一素材)の裏地50と後身頃20とを縫製するだけの非常に簡素なものとなり、縫製時間も短縮できる。
【0037】
これに対し、特許文献3や特許文献4に開示の従来の空調衣服では風路形成布等の裏地と、これに対応する後身頃の部分との寸法を異ならしめることで空気流路(特に、流出口)が形成され易いよう工夫されていたが、寸法が微妙に異なる各部材の縫製作業は手間の掛かる作業であった。
【0038】
裏地50の幅Wbfは、後身頃本体21と同様に、下縁部にて幅広であり、かつ、上縁部にて幅狭である。具体的には、裏地50は、幅の変化の視点から、三つの領域で構成される。着用者の腹部に相当する第1領域50aでは後身頃20の全幅(上述の幅広部21aの幅Wa)とほぼ同じである。また、着用者の背中部に相当する第2領域50bでは後身頃20の全幅Waの20%~50%の長さ(上述の幅狭直進部21bの幅Wbと同様)である。第1領域50aと第2領域50bとの間の第3領域50cでは、第1・第2領域50a,50bを滑らかに接続するように徐々に狭まっており、上述の幅縮小部21cの幅Wcに対応して縮小する。
【0039】
(第1・第2通風孔の配設)
また、裏地50の第1領域50a及び/又は第2領域50bに、冷却流路60から着用者の胴体に外気を案内可能な第1・第2通風孔57a,57b(
図2参照)が設けられていることが好ましく、特に、第1通風孔57aの開口面積或いは第2通風孔57bの開口面積又は第1・第2通風孔57a,57bの開口面積の総和が流出口61の開口面積未満であることがさらに好ましい。
【0040】
(第1・第2通風孔がもたらす効果)
これにより、冷却流路60では襟部30に向かって流れる空気の流れ(主流)の他に胴体に排出される第2の流れも生じるため、首元を冷やしながら同時に背中や腰を冷やすことも可能となる。特に上述の開口面積の条件を満たすことで、第1・第2通風孔57a,57bから胴体側へ排出される第2の流れが、流出口61を通過して首元を冷やす主流以上の流量になることを抑えられる。また、第1・第2通風孔57a,57bは、着用者の背部(背中又は腰)に向けて外気Aoを送るが、前面側の腹部に直接当たらないため、着用者が腹冷えを起こす虞もない。
【0041】
(衣服の使用方法や得られる作用)
次に、本発明の衣服1の使用方法や作用についても触れておく。着用者は、従来の衣服の着用と同じ要領で、ファスナー12を下げきって第1・第2前身頃11a,11bを左右に分離して、衣服1を上半身に纏う。この際、従来の衣服の着用法と異なり、ファスナー12を前身頃10の上縁まで引き上げる必要はなく、襟部30(首元)周辺にゆとりを持たせてもよい。
【0042】
次に図示しない送風機用電源のスイッチを押下げることで、後身頃本体21に取り付けられている送風機24を駆動させる。送風機24は衣服1の背面から外気Aoを冷却流路60内に所定の圧力で送り込む。冷却流路60は左右及び底面の側縁部が完全に閉じているため、冷却流路60内の空気Aiは上縁部53の流出口61に向かう上昇気流となる。
【0043】
つまり、ファン24を駆動して空気Aiが衣服1内に送り込まれても、その全て(又は大半)が胴体回りに向かわず、襟部30(首元)に向かって流れるため、服本体は膨満せず、スリムな(細身の)シルエットを保持できるのである。
【0044】
しかも本発明の好ましい態様によれば、冷却流路60の幅が上方向に向かって狭まっており、空気Aiは流出口61を通過する迄に加速した上昇気流となるため、首元を集中的に冷やすことができる。
【0045】
また、第1・第2通風孔57a,57bを有した衣服1を使用した場合は、設置しない場合に比べて、首元に向かう上昇気流の空気量が減少するものの、衣服1内で発汗しやすい背中や腰部にも冷たい空気Aiを送り、当該部分も併せて熱交換・冷却することができるようになる。
本発明の空調衣服によれば、後身頃の内面に裏地が形成され、その間に左右の側縁と下縁との三方向の外縁が閉じられた冷却流路が形成されているため、送風機からの外気の大半は、襟元近くの流出口を通って排出されるため、着用者の首元を集中的に冷やすことができる。加えて、前身頃方面や胴体(特に腹部)周囲に外気が流れにくいため、腹冷えを起こさず、細身のシルエットを維持したままで快適に着用して作業やアウトドア・レジャーを継続することができる。
また、本発明の空調衣服は、前身頃のファスナーを開いたままでも使用可能であり、縫製も容易である等の利点が豊富であり、産業上の利用価値及び産業上の利用可能性が非常に高い。