IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人福島県立医科大学の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169831
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】抗酸化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/663 20060101AFI20241129BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20241129BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241129BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
A61K31/663
A61P3/06
A61P3/10
A61P7/02
A61P9/12
A61P17/18
A61P19/08
A61P19/10
A61P39/06
A23L33/10
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086609
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 順一郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018ME03
4B018ME04
4B018ME06
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK06
4B117LL09
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA34
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZA42
4C086ZA54
4C086ZA96
4C086ZA97
4C086ZC33
4C086ZC35
(57)【要約】
【課題】本発明は、高濃度での使用のみが想定されてきたビスホスホン酸製剤の比較的低い濃度での新たな使用方法を提供することを課題とする。
【解決手段】リン酸カルシウムに結合し、石灰化組織又は血液、組織液若しくはリンパ液において活性酸素量を低減するための抗酸化剤であって、以下の式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、前記抗酸化剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウムに結合し、石灰化組織又は血液、組織液若しくはリンパ液において活性酸素量を低減するための抗酸化剤であって、以下の式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、前記抗酸化剤。
【化1】
(式中、R1は炭化水素基又は置換基を有する炭化水素基を示す)
【請求項2】
前記石灰化組織が異所性石灰化組織である、請求項1に記載の抗酸化剤。
【請求項3】
前記異所性石灰化組織が血管組織である、請求項2に記載の抗酸化剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗酸化剤を含む飲食品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗酸化剤を含む医薬組成物。
【請求項6】
血液疾患を予防又は治療するための、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記血液疾患が、血塊形成、高脂血症、尿毒症、糖尿病及び高血圧からなる群から選択される一以上の疾患である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
代謝性骨疾患を予防又は治療するための組成物であって、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗酸化剤を、体重60kgの対象への一週間投与量が31μmol以下となる量で含む、前記組成物。
【請求項9】
前記代謝性骨疾患が、骨粗鬆症、骨軟化症、くる病及び大理石骨病からなる群から選択される一以上の疾患である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
以下の式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、リン酸カルシウム結合剤。
【化2】
(式中、R2は置換基を有する炭化水素基を示す。)
【請求項11】
前記置換基を有する炭化水素基が、検出可能な標識及び/又は薬理作用を有する、請求項10に記載のリン酸カルシウム結合剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化剤、及びそれを含む飲食品及び医薬組成物、並びにリン酸カルシウム結合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
中心炭素に2つのリン酸基が結合したビスホスホン酸(BP)は破骨細胞の機能を阻害することによって、骨吸収抑制作用を示すことが知られている。これまでに、主に上述の炭素原子に様々な側鎖を結合した、多様なビスホスホン酸製剤が開発され、骨粗鬆症、高カルシウム血症、Paget病、腫瘍性骨破壊等の骨吸収が亢進した様々な疾患に対する薬剤として広く使用されている。
【0003】
ビスホスホン酸は側鎖に窒素原子を含むか否かによって大きく2種類に分類され、側鎖に含まれる元素は、ハロゲン、窒素、硫黄等であり、その構造も、直鎖状、環状等と多岐にわたる。このような側鎖の構造の違いから、薬理作用を示すための作用機序には細かな差異があるものの、ビスホスホン酸製剤はいずれも、まず破骨細胞に取り込まれる点で共通する。
【0004】
このように、個々の破骨細胞に十分な量のビスホスホン酸を取り込ませる必要性から、ビスホスホン酸製剤は高い濃度での継続的な投与が前提とされている。また、多くのビスホスホン酸製剤は、低頻度ではあるものの、長期間の投与によって重篤な副作用(顎骨壊死、非定型大腿骨折、腎不全等)を呈することが問題視されていた(非特許文献1)。
【0005】
副作用が抑制されるビスホスホン酸製剤として、[4-(メチルチオ)フェニルチオ]メタンビスホスホン酸(MPMBP)が開発された(特許文献1)。このMPMBPは、側鎖が有する抗酸化作用により、ビスホスホン酸製剤による副作用である顎骨壊死の一因とされる細菌感染の重篤化を抑制し、副作用を低減する化合物として注目された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2010/026701
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本薬理学会誌、2019年、153巻、第1号、第4~10頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
MPMBPは副作用の低減には有用であったものの、十分な骨吸収抑制作用を得るためには、当然に、高い濃度での継続的な投与が必要であった。
【0009】
本発明の課題は、高濃度での使用のみが想定されてきたビスホスホン酸製剤の比較的低い濃度での新たな使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究を行った結果、ビスホスホン酸製剤を破骨細胞の機能に影響しない濃度で投与した場合であっても骨の強度が改善されることを見出した。さらに、そのような比較的低い濃度での投与にもかかわらず、ビスホスホン酸製剤の薬理作用が血中でも観察されることを見出した。本発明は、ビスホスホン酸製剤を少量投与することにより、石灰化組織へのビスホスホン酸製剤の結合を起点として、継続的に全身性の薬効が得られるという新規知見等に基づくものであり、以下を提供する。
【0011】
[1]リン酸カルシウムに結合し、石灰化組織又は血液、組織液若しくはリンパ液において活性酸素量を低減するための抗酸化剤であって、以下の式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、前記抗酸化剤。
【化1】
(式中、R1は炭化水素基又は置換基を有する炭化水素基を示す)
[2]前記石灰化組織が異所性石灰化組織である、[1]に記載の抗酸化剤。
[3]前記異所性石灰化組織が血管組織である、[2]に記載の抗酸化剤。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の抗酸化剤を含む飲食品。
[5][1]~[3]のいずれかに記載の抗酸化剤を含む医薬組成物。
[6]血液疾患を予防又は治療するための、[5]に記載の医薬組成物。
[7]前記血液疾患が、血塊形成、高脂血症、尿毒症、糖尿病及び高血圧からなる群から選択される一以上の疾患である、[6]に記載の医薬組成物。
[8]代謝性骨疾患を予防又は治療するための組成物であって、[1]~[3]のいずれかに記載の抗酸化剤を、体重60kgの対象への一週間投与量が31μmol以下となる量で含む、前記組成物。
[9]前記代謝性骨疾患が、骨粗鬆症、骨軟化症、くる病及び大理石骨病からなる群から選択される一以上の疾患である、[8]に記載の組成物。
[10]以下の式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む、リン酸カルシウム結合剤。
【化2】
(式中、R2は置換基を有する炭化水素基を示す。)
[11]前記置換基を有する炭化水素基が、検出可能な標識及び/又は薬理作用を有する、[10]に記載のリン酸カルシウム結合剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗酸化剤によれば、石灰化組織又は血液、組織液若しくはリンパ液において活性酸素量を低減することができる。
【0013】
本発明の組成物によれば、血液疾患及び/又は代謝性骨疾患を予防又は治療することができる。
【0014】
本発明のリン酸カルシウム結合剤によれば、リン酸カルシウムに結合して所望の効果を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A-B】図1は大腿骨における骨密度の計測結果を示す図である。図1Aは、図1B~Eにおいて示すデータが取られた大腿骨中の区間を示す模式図である。図1Bは、近位部における骨密度の計測結果を示すグラフである。図1A中、縦破線は各区間の境界位置を示し、横破線は大腿骨の中心軸を示す。図1B中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図1B中、**はp<0.01を示す。
図1C図1は大腿骨における骨密度の計測結果を示す図である。図1Cは、近位測骨幹部における骨密度の計測結果を示すグラフである。図中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図中、*はp<0.05を示す。
図1D図1は大腿骨における骨密度の計測結果を示す図である。図1Dは、遠位測骨幹部における骨密度の計測結果を示すグラフである。図中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。
図1E図1は大腿骨における骨密度の計測結果を示す図である。図1Eは、遠位部における骨密度の計測結果を示すグラフである。図中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図中、*はp<0.05を示す。
図2図2は大腿骨における貯蔵弾性率の計測結果を示す図である。図中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図中、*はp<0.05を示す。
図3A-B】図3は大腿骨におけるアパタイト配向性の計測結果を示す図である。図3Aは、図3B~Eにおいて示すデータが取られた大腿骨中の区間を示す模式図である。図3Bは、近位部におけるアパタイト配向性の計測結果を示すグラフである。図3A中、縦破線は各区間の境界位置を示し、横破線は大腿骨の中心軸を示し、黒丸は計測を行った点の位置を示す。図3B中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図3B中、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
図3C図3は大腿骨におけるアパタイト配向性の計測結果を示す図である。図3Cは、近位測骨幹部におけるアパタイト配向性の計測結果を示すグラフである。図中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図中、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
図3D図3は大腿骨におけるアパタイト配向性の計測結果を示す図である。図3Dは、遠位測骨幹部におけるアパタイト配向性の計測結果を示すグラフである。図中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図中、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
図3E図3は大腿骨におけるアパタイト配向性の計測結果を示す図である。図3Eは、遠位部におけるアパタイト配向性の計測結果を示すグラフである。図中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図中、*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
図4図4は脛骨試料におけるマロンジアルデヒド量の測定結果を示す図である。図中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図中、*はp<0.05を示す。
図5図5は血清試料におけるマロンジアルデヒド量の測定結果を示す図である。図中、「Cont」は対照群の結果を示し、「Adenine Diet」は高アデニン食給餌群の結果を示し、そのうち、「Veh」はビークル投与群、「MPMBP 0.6」は0.6mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群、「MPMBP 1.2」は1.2mg/kg体重の用量でのMPMBP投与群の結果をそれぞれ示す。図中、*はp<0.05を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.抗酸化剤
1-1.概要
本発明の第1の態様は抗酸化剤である。本発明の抗酸化剤は、式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含み、石灰化組織又は血液、組織液若しくはリンパ液において活性酸素量を低減する。本発明の抗酸化剤は、飲食品及び医薬組成物の有効成分となり得る。
【0017】
1-2.定義
「抗酸化剤」(抗酸化物質又は酸化防止剤)とは、活性酸素(スーパーオキシドアニオン、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素等)を除去若しくは消去する物質をいう。具体的には、活性酸素を還元して安定な分子に変化させることで、活性酸素が関与する有害な反応を抑制することができる物質等が含まれる。動植物によって生合成される抗酸化剤も多く、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)、コエンザイムQ10、カロテノイド、フラボノイド等は、代表的な生物由来の抗酸化剤として知られている。
【0018】
「活性酸素」とは、酸素分子に由来する反応性の高い分子種の総称である。本明細書における「活性酸素」は、スーパーオキシドアニオン(O2 -)、スーパーオキシドアニオンラジカル(・O2 -)、過酸化物イオン(O2 2-)、ヒドロキシラジカル(・OH)、過酸化水素(H2O2)、一重項酸素(1O2)及びオゾン(O3)を含む。
【0019】
「リン酸カルシウム」とは、カルシウムイオン、及びリン酸イオン(PO3 -4)又は二リン酸イオン(P2O4 -7)で構成される塩をいう。脊椎動物の骨及び歯等の硬組織の成分として天然に広く存在する。
【0020】
「血液」とは、血管内腔を満たす体液をいう。本明細書における「血液」には、全血、血漿及び血清が含まれる。全血の種類は問わず、例えば、静脈血、動脈血又は臍帯血等が挙げられる。
【0021】
「リンパ液」とは、リンパ管内腔を満たす体液をいう。主に血漿成分で構成されるが、リンパ管を通る場合は、同じ成分が血中に存在する場合であってもリンパ液と称する。
【0022】
「組織液」とは、細胞間に存在する体液のうち、血管の内腔及びリンパ管の内腔以外の組織中に存在するものをいう。細胞間液及び間質液とも呼ばれる。
【0023】
「石灰化組織」とは、カルシウム塩が沈着して硬化した組織をいう。カルシウム塩が沈着して硬化した軟部組織(本明細書における異所性石灰化組織)を指す場合もあるが、本明細書における「石灰化組織」はカルシウム塩が沈着した組織を広く含み、硬組織及び異所性石灰化組織が含まれる。
【0024】
「硬組織」とは、生物が有する硬い組織をいう。通常、脊椎動物においては、骨、歯、毛、爪、軟骨等が含まれる。特に、本明細書における「硬組織」は、正常状態の脊椎動物の体内に存在するカルシウム塩が沈着した組織を指す。本明細書における硬組織には、骨及び歯が含まれる。
【0025】
「異所性石灰化組織」とは、カルシウム塩が沈着して硬化した、骨組織以外の結合組織をいう。「骨組織」とは、骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞及び骨基質で構成され、骨質を構成する組織をいう。
【0026】
「血液疾患」は、血球の量や機能の異常、又は血液凝固因子又は血小板の異常に起因する疾患をいい、血液学的疾患と同義である。本明細書における好ましい血液疾患は血中の活性酸素量の増加を伴う疾患である。
【0027】
「代謝性骨疾患」とは、骨細胞や骨組織の代謝の異常により骨の強度が低下する疾患をいう。本明細書における代謝性骨疾患には、骨粗鬆症、骨軟化症、くる病、嚢胞性線維性骨炎、骨パジェット病及び大理石骨病等が含まれる。
【0028】
「有意」とは、統計学的に有意であることをいう。統計学的に有意とは、被験対象の測定値と対照値の差異を統計学的に処理したときに、両者間に有意差があることをいう。例えば、得られた値の危険率(有意水準)が小さい場合、具体的には5%より小さい場合(p<0.05)、1%より小さい場合(p<0.01)、0.1%より小さい場合(p<0.001)が挙げられる。ここに示す「p(値)」は、統計学的検定において、帰無仮説に基づいた分布の中で、検定統計量が偶然その値になる確率を示す。したがって「p」が小さいほど、検定統計量がその値となる確率は低く、帰無仮説が棄却されやすいことを意味する。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントのt検定法、対応のあるスチューデントのt検定法、ウェルチのt検定法、ウィルコクソンの順位和検定、分散分析、Tukey事後検定等を用いることができるが、特に限定しない。
【0029】
1-3.構成
本発明の抗酸化剤は必須の構成成分として式(I)で表される化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む。以下、具体的に説明する。
【0030】
【化3】
(式中、R1は炭化水素基又は置換基を有する炭化水素基を示す)
【0031】
式中、R1の構造は炭化水素基、又は置換基を有する炭化水素基であれば特に限定しない。
炭化水素基の種類は特に限定しない。例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基又はこれらの組合せを使用することができる。
【0032】
脂肪族炭化水素基を含む場合、飽和炭化水素であってもよいし、不飽和炭化水素であってもよい。また、この場合の脂肪族炭化水素基の構造は特に限定しない。例えば、直鎖、分岐鎖、環状構造又はこれらの組合せの構造を有することができる。複数の脂肪族炭化水素基を含む場合、それらは独立な不飽和度及び構造を有することができる。
【0033】
芳香族炭化水素基を含む場合、その構造は特に限定しない。例えば、フェニル基のように1つの芳香族環を含んでもよく、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基、フェナントリル基のように複数の芳香族環を含んでもよく、芳香族環以外の環状構造を含んでもよい。
【0034】
炭化水素基が不飽和の場合、不飽和結合の数は特に限定しない。例えば、0個、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上とすることができる。また、例えば、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、1個以下とすることができる。不飽和炭化水素基中の不飽和結合の種類は特に限定せず、二重結合、三重結合をそれぞれ任意の数含むことができる。
【0035】
異性体が存在する場合、その種類は特に限定しない。例えば、シス-トランス異性体であれば、各不飽和結合につき、シス体及びトランス体のいずれであってもよく、光学異性体であれば、各光学中心につき、R体及びS体のいずれであってもよい。
【0036】
置換基の種類は特に限定しない。例えば、ハロゲン元素、窒素元素、酸素元素、硫黄元素、リン元素等を含む置換基が挙げられる。具体的には、例えば、カルボキシ基、ケトン基、カルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、アミド基、ヒドラジド基、イミド基、エステル基、アルキルオキシ基、アルキルスルファニル基、ニトロ基、ニトロソ基、セレン誘導体基、酸ハロゲン化基、ニトリル基、アルデヒド基、ヒドロキシ基、ヒドロペルオキシ基等が挙げられる。ここでは、炭素骨格の一部が他の元素に置換されている場合も置換基に包含する。そのため、複素環系官能基も含まれる。置換基の数は特に限定しない。例えば、0個、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上とすることができる。また、例えば、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、1個以下とすることができる。
【0037】
R1部分に含まれる不飽和結合の数は特に限定しない。例えば、0個、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上とすることができる。また、例えば、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、1個以下とすることができる。
【0038】
R1部分は、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基又はその誘導体とすることができる。例えば、R1部分がメチル基の化合物は、式(III)で表され、[4-(メチルチオ)フェニルチオ]メタンビスホスホン酸(MPMBP)と呼ばれる。
【0039】
【化4】
【0040】
R1部分は、化合物の有する抗酸化作用を阻害しない限り、任意の機能を有することができる。その場合の機能は特に限定しないが、例えば、検出可能な標識として機能可能な部分であってもよいし、薬理作用を有する部分であってもよい。それぞれの具体例については第4態様にて詳述する。
【0041】
本発明の抗酸化剤は必須の構成成分として式(I)で表される化合物の薬学的に許容可能な塩を含むことができる。式(I)で表される化合物の薬学的に許容可能な塩の種類は特に限定しない。例えば、式(I)の化合物はホスホン酸基を含むため、例えば、式(I)で表される化合物の塩基付加塩が挙げられる。塩基付加塩は無機塩基及び/又は有機塩基との間で形成される。この場合の無機塩基の種類は特に限定しない。無機塩基との塩基付加塩としては、例えば、アンモニウム塩、金属塩又はその組合せが挙げられる。具体的な金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄、銀、亜鉛、銅の塩、又はそれらの組合せが挙げられる。また、有機塩基との塩基付加塩の場合の有機塩基の種類は特に限定しない。有機塩基としては、例えば、第一級、第二級、及び第三級アミン、置換アミン、環状アミン等が挙げられる。その他、塩基性イオン交換樹脂を有機塩基として使用することができる。
【0042】
式(I)で表される化合物に含まれる置換によっては、式(I)で表される化合物の酸付加塩を使用することができる。酸付加塩は無機酸及び/又は有機酸との間で形成される。この場合の無機酸の種類は特に限定しない。有機塩基との酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等が挙げられる。また、有機酸との酸付加塩の場合の有機酸の種類は特に限定しない。有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルホサリチル酸等が挙げられる。
【0043】
例えば、本発明の塩として、金属塩(例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩等)等の無機塩基の塩基付加塩を使用することができる。塩は無水物であってもよく、水和物であってもよい。
【0044】
1-4.性質
本発明の抗酸化剤は、そのビスホスホネート骨格部分(-CH(PO(OH)2)2)がCaに配位結合してキレート構造を形成することにより、骨組織等の石灰化組織中のリン酸カルシウムに結合する。
【0045】
リン酸カルシウムと結合するか否かは、当該技術分野において公知の任意の方法により確認することができるが、通常、ビスホスホネート骨格部分を有する場合、リン酸カルシウムに結合すると考えることができる。
【0046】
本発明の抗酸化剤が結合するリン酸カルシウムが含まれる組織は特に限定しないが、好ましくは石灰化組織である。例えば、骨組織等の硬組織及び/又は異所性石灰化組織のリン酸カルシウムに結合する。異所性石灰化組織において石灰化している組織は軟部組織であれば特に限定しないが、例えば、血管組織である。
【0047】
本発明の抗酸化剤は、ビスホスホネート骨格部分を介してリン酸カルシウムに結合して、その表面に、抗酸化作用を発揮する「側鎖」の官能基を提示することにより、石灰化組織、又は血液、組織液若しくはリンパ液において活性酸素量を低減する。
【0048】
本発明の抗酸化剤が抗酸化作用を発揮する石灰化組織の種類は特に限定しないが、例えば、骨組織等の硬組織及び/又は異所性石灰化組織である。この場合も、異所性石灰化組織において石灰化している組織は軟部組織であれば特に限定しないが、例えば、血管組織である。本発明の抗酸化剤が結合する組織と抗酸化作用を発揮する組織は同じであっても異なってもよいが、通常、異なる組織を含む。
【0049】
活性酸素量の低減は任意の方法により確認することができる。例えば、活性酸素量を直接測定してもよく、活性酸素により起こる現象を測定することにより間接的に測定してもよい。活性酸素量を直接測定する方法としては、例えば、発光プローブを用いた発光法、スピントラップ法、酸素ラジカル吸収能(ROAC)測定法、一重項酸素消去能(SOAC)測定法、還元剤を用いた発色法及びこれらの組合せが挙げられる。活性酸素量を間接的に測定する方法としては、例えば、核酸の損傷の測定、脂質過酸化の測定、タンパク質の酸化又はニトロ化の測定、糖酸化物の測定、抗酸化物質の測定又はそれらの組合せ等が挙げられる。
【0050】
具体的な核酸の損傷の指標としては、例えば、8-OHG、8-OHdG、脱塩基部位、二本鎖切断、BPDE付加体又はこれらの組合せ等が挙げられる。
【0051】
具体的な脂質過酸化の指標としては、例えば、8-OHG、8-イソ-プラスタグランジン、アクロレイン、ヘキサノイルリジン、イソプラスタン、4-ヒドロキシノネナール、4-ヒドロキシヘキセナール、マロンジアルデヒド、クロトンアルデヒド、7-ケトコレステロール、過酸化脂質、酸化LDL又はこれらの組合せ等が挙げられる。
【0052】
具体的なタンパク質の酸化又はニトロ化の指標としては、例えば、タンパク質のカルボニル化、3-ニトロチロシン、ジチロシン、ジブロモチロシン、終末糖化産物(Advanced Glycation End products:AGEs)、タンパク質過酸化物、BPDE付加体又はこれらの組合せ等が挙げられる。
【0053】
具体的な糖酸化物としては、例えば、カルボキシメチルリジン、糖化アルブミン、メントシジン、メチルグリオキザール、3-デオキシグルコソン又はこれらの組合せ等が挙げられる。
【0054】
具体的な抗酸化物質としては、例えば、ビタミンC、チオール、CoQ10カタラーゼ、グルタチオン、グルタチオンレダクターゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、ミエロペルオキシダーゼ、エラスターゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、パラオキソナーゼ、チオレドキシン、チオレドキシン還元酵素、セレノプロテイン、ミオスタチン、又はこれらの組合せ等が挙げられる。
【0055】
各目的物質の測定方法は特に限定せず、当該技術分野において公知の任意の方法を使用することができる。例えば、イムノアッセイ、ELISA、比色法の他、各種核酸検出方法等が挙げられる。
【0056】
本発明の抗酸化剤の使用により低減する活性酸素量は特に限定しない。例えば、本発明の抗酸化剤を使用しない場合と比較して、活性酸素量が20%以上、22%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、41%以上、42%以上、45%以上、47%以上、48%以上、49%以上、50%以上、55%以上、60%以上、63%以上又は64%以上低減されればよい。また、例えば、本発明の抗酸化剤を使用しない場合と比較して、活性酸素量が有意に低減されればよい。あるいは、例えば、本発明の抗酸化剤を使用した場合の活性酸素量が、健常個体と比較して有意に増加していなければよい。
【0057】
1-5.効果
本発明の抗酸化剤は、破骨細胞の機能に影響を与えない用量で抗酸化作用を発揮することができる。
【0058】
本発明の抗酸化剤は、石灰化組織に結合することで石灰化組織上に側鎖が配置され、その側鎖の作用により石灰化組織周囲の組織に対して薬効を示す。従来のビスホスホン酸製剤が破骨細胞に取り込まれることによって破骨細胞自身に影響を与えるのとは大きく異なる。
【0059】
本発明の抗酸化剤は低い投与量で効果が期待できるだけでなく、投与の頻度が低くても継続的な効果が得られる可能性がある。また、本発明の抗酸化剤は血液中の酸化ストレスを低減することから、石灰化組織への本発明の抗酸化剤の結合を起点として、全身性の効果が期待できる。
【0060】
2.医薬組成物
2-1.概要
本発明の第2の態様は医薬組成物である。本発明の医薬組成物は、必須の構成成分として有効成分を含み、任意選択可能な構成成分として溶媒及び薬学的に許容可能な担体を含む。本発明の組成物によれば、血液疾患及び/又は代謝性骨疾患等の疾患又は状態を予防又は治療することができる。
【0061】
2-2.構成
2-2-1.構成成分
本発明の医薬組成物の構成成分について説明する。本発明の医薬組成物は、必須の構成成分として一種類以上の有効成分を含み、任意選択可能な構成成分として溶媒及び/又は担体を含む。以下、各構成成分について具体的に説明をする。
【0062】
(1)有効成分
本発明の医薬組成物は、必須の有効成分として第1態様に記載の抗酸化剤を包含する。また、必要に応じて、1種類又は複数種類の抗酸化剤を包含していてもよい。
【0063】
抗酸化剤の構成については、第1態様で詳述していることから、ここでの具体的な説明は省略する。本発明の医薬組成物は、1種類又は複数種類の抗酸化剤を含むことができる。
【0064】
本発明の医薬組成物に含まれる有効成分の含有量は、特に限定はしない。一般に含有量は、有効成分の種類、剤形、並びに後述する他の構成成分である溶媒や担体の種類によって異なる。したがって、それぞれの条件を勘案して適宜定めればよい。単回適用量の本医薬組成物に有効量の有効成分が含有されていればよい。ただし、有効成分の薬理効果を得る上で対象に本医薬組成物を大量に投与する必要がある場合には、対象の負担軽減のために数回に分割して投与することもできる。この場合、有効成分の量は、総合量で有効量を含んでいればよい。
【0065】
「有効量」とは、有効成分としての機能を発揮する上で必要な量であって、かつそれを適用する対象に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、対象の情報、適用経路、及び適用回数等の様々な条件によって変わり得る。したがって、本医薬組成物を医薬として使用する場合、有効成分の含有量は、最終的には、医師又は薬剤師等の判断によって決定される。
【0066】
本態様の組成物は、投与される抗酸化剤の用量が低くても有効に作用する。本発明の組成物に含めて投与される抗酸化剤の用量は特に限定しないが、例えば、体重60kgのヒト対象への一週間投与量に換算して、1μmol以上、2μmol以上、5μmol以上、7μmol以上、9μmol以上、10μmol以上、11μmol以上、12μmol以上、13μmol以上、13.5μmol以上、14μmol以上、14.5μmol以上、15μmol以上、15.5μmol以上、15.6μmol以上、15.7μmol以上、15.8μmol以上、15.9μmol以上、16μmol以上、16.5μmol以上、17μmol以上、17.5μmol以上、18μmol以上、18.5μmol以上、19μmol以上、19.5μmol以上、20μmol以上、21μmol以上、24μmol以上、25μmol以上、26μmol以上、27μmol以上、28μmol以上、29μmol以上、30μmol以上、30.5μmol以上、31μmol以上とすることができる。また、例えば、体重60kgのヒト対象への一週間投与量に換算して、31μmol以下、30.5μmol以下、30μmol以下、29μmol以下、28μmol以下、27μmol以下、26μmol以下、25μmol以下、24μmol以下、21μmol以下、20μmol以下、19.5μmol以下、19μmol以下、18.5μmol以下、18μmol以下、17.5μmol以下、17μmol以下、16.5μmol以下、16μmol以下、15.9μmol以下、15.8μmol以下、15.7μmol以下とすることができる。
【0067】
本明細書において「対象」とは、第1態様に記載の抗酸化剤、又は本態様の医薬組成物の適用対象をいう。例えば、細胞(培養細胞を含む)、組織、器官、又は個体である。対象が個体の場合、ヒトを含むあらゆる脊椎動物、例えば、鳥類、爬虫類、哺乳類、霊長類等が該当し得る。例えば、ヒト以外では、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギ等)、競走馬、実験動物(マウス、ラット、モルモット、サル等)、家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ニワトリ、ダチョウ等)等が挙げられる。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとし、例えば、活性酸素量が増加している個体又は活性酸素量の増加が予想される個体等が含まれる。
【0068】
本明細書において、「対象の情報」とは、対象の特徴や状態に関する様々な情報である。例えば、対象がヒト個体の場合には、年齢、体重、性別、全身の健康状態、疾患の有無、疾患の進行度や重症度、薬剤感受性、併用薬物の有無及び治療に対する耐性等が挙げられる。
【0069】
(2)溶媒
本発明の医薬組成物は、必要に応じて薬学的に許容可能な溶媒を含むことができる。「薬学的に許容可能な溶媒」とは、製剤技術分野において通常使用する溶媒をいう。例えば、水若しくは水溶液、又は有機溶剤が挙げられる。水溶液には、例えば、生理食塩水、ブドウ糖又はその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤には、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。有機溶剤には、エタノールが挙げられる。
【0070】
(3)担体
本発明の医薬組成物は、必要に応じて薬学的に許容可能な担体を含むことができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤、ヒト血清アルブミン等が挙げられる。
【0071】
賦形剤には、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖、金属塩、クエン酸、酒石酸、グリシン、ポリエチレングリコール、プルロニック(登録商標)、カオリン、ケイ酸、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0072】
結合剤には、例えば、植物デンプンを用いたデンプン糊、ペクチン、キサンタンガム、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、パラフィン、ポリビニルピロリドン又はそれらの組合せが挙げられる。
【0073】
崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
【0074】
充填剤としては、ワセリン、前記糖及び/又はリン酸カルシウムが例として挙げられる。
【0075】
乳化剤としては、界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、酢酸グリセリル、イソステアラミド、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル)が例として挙げられる。
【0076】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
【0077】
pH調整剤には、アルカリ剤としての水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、また酸剤としての、クエン酸、クエン酸ナトリウム、グリコール酸、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0078】
上記の他にも、必要であれば医薬組成物等において通常用いられる可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、分散剤、界面活性剤、無痛化剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、湿潤剤、吸着剤、矯味矯臭剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、防腐剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤、等張化剤等を適宜含むこともできる。
【0079】
担体は、対象の体内で酵素等による前記有効成分の分解を回避又は抑制する他、製剤化や投与方法を容易にし、剤形及び薬効を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
【0080】
(4)薬剤送達系粒子(DDS粒子)
本発明の医薬組成物は、必要に応じてDDS粒子を含むことができる。DDS粒子は、その内部等に有効成分や他の担体等を包含して、標的部位にまで内容物、特に有効成分を分解させることなく送達し、また生体内での薬物分布を時間的に、量的に制御し得る粒子をいう。本発明の医薬組成物の有効成分はペプチド又は核酸であることから、投与後に生体内でプロテアーゼやヌクレアーゼによる分解から保護するためにも、DDS粒子の使用は好適である。DDS粒子の種類は問わない。例えば、リポソーム、高分子ミセル、ウイルス粒子等が挙げられる。
【0081】
2-2-2.剤形
本発明の医薬組成物の剤形は、特に限定しない。対象の体内で有効成分を失活させることなく目的の部位にまで送達される形態であればよい。
【0082】
具体的な剤形は、後述する適用方法によって異なる。適用方法は、非経口投与と経口投与に大別することができるので、それぞれの投与方法に適した剤形にすればよい。
【0083】
例えば、投与方法が非経口投与であれば、好ましい剤形は、対象部位への直接投与又は循環系を介した全身投与が可能な液剤である。液剤の好ましい例としては、注射剤が挙げられる。注射剤は、溶媒の他、前記賦形剤、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、pH調節剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0084】
投与方法が経口投与であれば、好ましい剤形は、固形剤(錠剤、カプセル剤、ドロップ剤、トローチ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤(内用水剤、乳剤、シロップ剤を含む)が挙げられる。固形剤であれば、必要に応じて、当該技術分野で公知の剤皮を施した剤形、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠にすることができる。
【0085】
なお、上記各剤形の具体的な形状、大きさについては、いずれもそれぞれの剤形において当該分野で公知の剤形の範囲内にあればよく、特に限定はしない。本発明の医薬組成物の製造方法については、当該技術分野の常法に従って製剤化すればよい。
【0086】
2-3.適用方法
本発明の医薬組成物の適用方法は、経口投与でも、非経口投与でもよい。一般に経口投与は全身投与となるが、非経口投与は、さらに全身投与と局所投与に細分できる。局所投与には、例えば、筋肉内投与、皮下投与、組織投与、及び器官投与が該当し、非経口投与の全身投与には、循環器内投与、例えば、静脈内投与(静注)、動脈内投与及びリンパ管内投与が挙げられる。本発明の医薬組成物を局所投与する場合には、注射等で肝臓に直接投与すればよい。また、全身投与する場合には、静注等の循環器内に投与すればよい。投与量は、有効成分が奏効する上で有効な量であればよい。有効量は、上述のように対象の情報に応じて適宜選択される。
【0087】
また、本発明の医薬組成物は、他に1種類以上の公知の抗酸化剤を別個に併用することもできる。併用が考えられる抗酸化剤には、例えば、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)、コエンザイムQ10、カロテノイド、フラボノイド又はこれらの組合せ等が含まれる。
【0088】
2-4.対象疾患又は状態
本発明の組成物は、活性酸素量が増加することが知られている疾患又は状態を予防又は治療することができる。
【0089】
本明細書において「予防」とは、疾患(本明細書では、例えば骨粗鬆症等)の発症を未然に防ぐことをいう。
【0090】
本明細書において「治療」とは、疾患の治癒、又は改善をいう。ここでいう「改善」とは、疾患に伴う症状の緩和又は除去、及び/又は進行の阻止又は抑制をいう。
【0091】
本発明の組成物は低用量で継続的な全身性の効果を発揮し得るため、特に予防に有用である。この場合、本発明の組成物は、健常個体又は活性酸素量の増加が予想される個体へ投与される。活性酸素量の増加が予想される個体には、症状を有さないが、活性酸素量の上昇を引き起こす要因を有する個体が含まれる。このような要因としては、活性酸素量が上昇し得ることが指摘されている任意の要因が含まれ、特に限定しないが、例えば、生活習慣、遺伝性要因、精神的要因等が挙げられる。
【0092】
本発明の組成物により予防又は治療する対象となる疾患又は状態は、活性酸素量が増加することが知られている疾患又は状態であれば特に限定しないが、例えば、血液疾患、代謝性骨疾患、生活習慣病、炎症性疾患、自己免疫疾患、変性性疾患(アルツハイマー疾病、筋萎縮性側索硬化症、ルーゲーリック病等)、がん等が挙げられる。
【0093】
具体的な血液疾患としては、例えば、血塊形成、高脂血症、尿毒症、糖尿病、高血圧、脂肪肝疾患、アルコール性肝疾患、腎疾患(例えば、慢性腎不全等の腎不全)、糖尿病性腎疾患、多発性嚢胞腎、心不全、白血球増多症、好中球減少症及び増多症、骨髄性及びリンパ性白血病、骨髄増殖性腫瘍、骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、発作性夜間血色素尿症、悪性リンパ腫、並びに多発性骨髄腫等が挙げられる。
【0094】
具体的な代謝性骨疾患又は状態としては、例えば、骨粗鬆症、骨軟化症、くる病、大理石骨病、性腺機能不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、続発性上皮小体機能亢進症、骨軟骨炎疾患、骨軟骨腫、変形性骨炎、変形性関節症、線維性骨異形成症、嚢胞性線維性骨炎、恥骨結合炎、硬化性骨炎、骨形成不全症、骨髄炎、骨減少症、骨壊死、骨萎縮、骨棘、パジェット病、高カルシウム血症、骨の腫瘍性破壊、骨折、骨量の低下、がんに関連する骨吸収疾病、骨溶解、骨関節炎、関節リウマチ、栄養欠乏及び神経性食欲不振症等が挙げられる。
【0095】
本発明の組成物が代謝性骨疾患を対象に使用される場合、骨のアパタイト配向性及び/又は骨の力学的性質(例えば、貯蔵弾性率等の弾性率等)が改善される。好ましくは、骨密度が変化することなく、又は破骨細胞若しくは骨芽細胞の機能が影響されることなく、アパタイト配向性が改善される。
【0096】
本明細書において「アパタイト配向性」とは、コラーゲン及びヒドロキシアパタイトで構成される結晶構造のc軸方向(膜厚方向)への配向性をいう。
【0097】
本発明の組成物は骨のアパタイト配向性の低下を伴う代謝性骨疾患を対象とすることができる。低下の程度は特に限定しないが、例えば、同じ生物種の健常個体と比較してアパタイト配向性が90%以下、85%以下、84.5%以下、84%以下、83%以下、82%以下、81%以下、80%以下、79%以下、78%以下、77%以下、76%以下、75%以下、74%以下、73%以下、72%以下、71%以下、70%以下に低下する代謝性骨疾患を対象とすることができる。
【0098】
本発明の組成物は骨の弾性率、特に貯蔵弾性率の低下を伴う代謝性骨疾患を対象とすることができる。低下の程度は特に限定しないが、例えば、同じ生物種の健常個体と比較して貯蔵弾性率が90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、54%以下、53.5%以下に低下する代謝性骨疾患を対象とすることができる。貯蔵弾性率はヤング率として測定することができる。
【0099】
本発明の組成物は骨密度の低下を伴う代謝性骨疾患及び骨密度の低下を伴わない代謝性骨疾患の両方を対象とすることができる。骨密度の低下を伴う場合、その低下の程度は特に限定しない。例えば、同じ生物種の健常個体と比較して骨密度が90%未満に低下する代謝性骨疾患等が含まれる。骨密度の低下を伴わない場合の骨密度は、例えば、同じ生物種の健常個体と比較して90%以上であればよく、例えば、90.5%以上、91%以上、91.4%以上、91.5%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、97.5%以上、97.8%以上、97.9%以上、98%以上、99%以上の骨密度を呈する疾患が含まれる。骨密度は、例えば、DXA法、超音波法、MD法、レントゲン等の公知の方法を使用して測定することができる。 本明細書において「炎症性疾患」とは、持続性又は一過性の炎症を伴い、その炎症を軽減することによって症状が改善され得る疾患を指す。本明細書における炎症性疾患は、慢性炎症性疾患及び急性炎症性疾患のいずれも含む。
【0100】
具体的な炎症性疾患としては、例えば、花粉症、遅延型アレルギー等のアレルギー性の炎症疾患;糖尿病性神経障害、認知症(アルツハイマー型等)、多発性硬化症等の神経炎症疾患;大腸がん、肺がん、膀胱がん、皮膚がん、食道がん、肝がん等の、慢性炎症に起因するがん;肝炎(アルコール性肝炎、非アルコール性肝炎等)、喘息、全身性エリテマトーデス、クローン病、関節炎(慢性リウマチ様関節炎等)等のマクロファージが関与する炎症性疾患;動脈硬化症、胃潰瘍、腎炎(糸球体腎炎、IgA腎症、糖尿病性腎症等)、歯周病(歯肉炎、歯周囲炎等)、腎臓移植による障害、急性心筋梗塞、糖尿病、逆流性食道炎、胆管炎、セリアック病、脈管炎、アテローム性動脈硬化症、等のその他の炎症性疾患が挙げられる。
【0101】
また、適用対象疾患又は状態は、例えば、異所性石灰化に伴う疾患であってもよい。具体的には、例えば、血管石灰化(例えば、透析患者や動脈硬化患者等における血管石灰化等)、カルシフィラキシー形成、糖尿病性血管症、軟部組織石灰化、異所性骨化、リウマチ、変形性関節症、進行性骨化性線維異形成症、がん、がん転移、高カルシウム血症、強皮症、皮膚筋炎、石灰沈着性腱炎、石灰沈着性滑膜包炎、限局性石灰沈着症、汎発性石灰沈着症、頚椎後縦靭帯骨化症、脊椎靭帯骨化症、副甲状腺機能亢進症、ビタミンD代謝異常、ビタミンD中毒、動脈硬化(例えば、メンケベルク型動脈硬化等)、アテローム性硬化症、細動脈硬化症、高血圧性細動脈硬化症、メンケベルグ動脈硬化症、心臓弁狭窄、血塊形成、尿毒症、糖尿病、高血圧、ヴェルナー症候群、弾性線維性仮性黄色腫、狭心症、心筋梗塞、心筋障害、心不全、心伝導障害、脳梗塞、転移性石灰化、歯石形成、歯周病、骨・関節痛、骨変形、骨折、筋肉痛、創傷、炎症、皮膚虚血性潰瘍、尿路結石、腎結石、腎不全、慢性腎不全等を挙げられる。
【0102】
3.飲食品
3-1.概要
本発明の第3の態様は、飲食品である。本発明の飲食品は、第1態様の抗酸化剤を有効成分として含む。本発明の飲食品は、石灰化組織又は血液、組織液若しくはリンパ液において抗酸化作用を発揮することができる。
【0103】
3-2.構成
本発明の飲食品は、第1態様の抗酸化剤を含む。
本明細書において「飲食品」とは、飲料、食品及び飼料を総称する用語である。
【0104】
飲料は、例えば、水(精製水、ミネラルウォーター、海洋深層水を含む)、茶飲料(緑茶、ウーロン茶、紅茶を含む)、コーヒー、コーヒー飲料、乳(生乳、加工乳を含む)、乳飲料、乳酸菌飲料、ジュース、清涼飲料水(炭酸飲料、果汁飲料、粉末飲料、スポーツドリンクを含む)、ゼリー飲料、ココア飲料、醸造酒(ビール、日本酒、黄酒、ワイン、シードルを含む)、蒸留酒(ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、テキーラ、焼酎、白酒、ジンを含む)、及び混成酒(リキュール、梅酒、ベルモットを含む)が該当する。
【0105】
食品は、一般食品(特に加工食品)及び特定保健用食品を含む。加工食品には、例えば、パン類、米飯類、麺類、パスタ、マヨネーズ、ショートニング、カスタードクリーム、ドレッシング類、牛乳、ヨーグルト、スープ、味噌汁、豆腐、スプレッド類(バター、ジャム、ふりかけ、マーガリン等)、ソース類、醤油、油、又は菓子(例えば、クッキー類、チョコレート、キャンディ、ケーキ、アイスクリーム、チューインガム)等が該当する。
【0106】
飼料は、例えば、養殖魚介類用飼料、家畜用飼料、鑑賞動物用飼料、又はペットフード等が含まれる。
【0107】
本発明の飲食品は、製造過程で又は製造後に、第1態様に記載の抗酸化剤が添加される。本態様の飲食品の製造方法は、特に限定しない。例えば、飲食品の製造過程で使用される他の食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(例えば呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等を配合し、常法に従って製造すればよい。また、製造後の飲食品に第1態様の抗酸化剤を添加することにより、本発明に係る食品を製造することもできる。
【0108】
飲食品中における第1態様の抗酸化剤の含有量は、飲食品形態や目的により異なる。例えば、第2態様において有効量と関連して例示した用量で摂取されるように含有量を設定することができる。
【0109】
本発明の飲食品は、必要に応じて薬学的に又は食品衛生上許容可能な溶媒、及び/又は担体を含むことができる。
【0110】
薬学的に又は食品衛生上許容可能な溶媒として、例えば、水、又はそれ以外の薬学上又は食品衛生上許容可能な溶媒、例えば、水溶液、油又は有機溶剤が挙げられる。水溶液及び有機溶媒としては、薬学的に許容可能な溶媒として上述したものを使用することができる。食品衛生上許容可能な油としては、小麦胚芽油、杏子油、オリーブオイル、椿油、イブニングプリムローズオイル、アロエベラオイル、菜種油、パーム油、綿実油、大豆油、コーン油、紅花油、ゴマ油、亜麻仁油、ひまし油等の植物油が挙げられる。
【0111】
本発明の飲食品は、必要に応じて薬学的に又は食品衛生上許容可能な担体を含む。担体には、例えば、賦形剤、結合剤、充填剤、乳化剤、pH調整剤、硬化調節剤、防腐剤、流動添加調節剤等が挙げられる。上記の他にも、必要であれば可溶化剤、希釈剤、分散剤、安定剤、保湿剤、保存剤等張化剤等を適宜含むこともできる。具体的な担体としては、例えば、薬学的に許容可能な担体として上述した各種担体等を使用することができる。
【0112】
本発明の飲食品の剤形は、特に限定はしない。例えば、顆粒剤、粉剤、ペースト剤、ゲル剤、液剤、懸濁剤等とすることができる。
【0113】
4.リン酸カルシウム結合剤
4-1.概要
本発明の第4の態様はリン酸カルシウム結合剤である。本態様のリン酸カルシウム結合剤は、式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む。本態様のリン酸カルシウム結合剤によれば、所望の物質をリン酸カルシウムが存在する部位へ送達することができる。
【0114】
4-2.構成
本発明のリン酸カルシウム結合剤は必須の構成成分として式(II)で表される化合物又はその薬学的に許容可能な塩を含む。
【0115】
【化5】
(式中、R2は置換基を有する炭化水素基を示す。)
【0116】
炭化水素基及び置換基、及び薬学的に許容可能な塩はそれぞれ、基本的に第1態様における記載に準ずる。そのため、ここでは第1態様と異なる点について説明する。
【0117】
式(II)におけるR2部分は、検出可能な標識及び/又は薬理作用を有する、置換基を有する炭化水素基であってもよい。
【0118】
本明細書において「検出可能な標識」とは、その存在を検出可能なシグナルを発する物質を指す。標識の種類は特に限定しない。例えば、蛍光分子、化学発光物質等の特定の条件において光を発する発光性標識物質、光音響効果プローブ等の音波を発する発音性標識物質、又は放射性標識物質等が挙げられる。
【0119】
具体的な蛍光分子としては、例えば、蛍光タンパク質、フルオレセイン及びその誘導体、ピレン及びその誘導体、量子ドット等の蛍光分子が挙げられる。化学発光物質としては、例えばペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ(ALP)等の酵素等が挙げられる。放射性標識物質としては、例えば14C、3H、125I等を含む試薬が挙げられる。光音響効果とは、光吸収に伴う断熱膨張によって熱弾性波が生じる現象をいい、この熱弾性波は音響波として検出することができる。光音響効果プローブとしては、例えば、インドシアニングリーン又はその誘導体、クルクミン誘導体、又はコリン誘導体等が挙げられる。使用する標識の吸光特性がわかっている場合には、光音響効果用の標識を使用せずに、例えば、発光性標識物質を光音響効果に基づいて検出することもできる。
【0120】
「薬理作用」とは、タンパク質、DNA及びRNA等の生体分子における量的及び/又は質的な変化をもたらす効果をいう。生理的効果の結果として、例えば、生体、器官、組織、細胞等の機能や性質等に変化が生じる。生理活性による変化の対象は特に限定しない。例えば、本発明のリン酸カルシウム結合剤が薬理作用を有する置換基を有する炭化水素基を含む場合、代謝、成長、生殖、恒常性、精神活動、生体防御等の生体機能が変化する。
【0121】
具体的な薬理作用の種類は特に限定しない。例えば、抗酸化作用、抗炎症作用、血行促進作用、血糖降下作用、血圧上昇抑制作用、フィブリン形成阻害作用、血小板凝集抑制作用、抗菌作用、抗真菌作用、腫瘍抑制作用、心血管保護作用等が挙げられる。
【0122】
例えば、本発明のリン酸カルシウム結合剤として、既存のビスホスホン酸化合物又はその誘導体を使用することができる。具体的には、例えば、エチドロネート、クロドロネート、パミドロネート、アレンドロネート、リセドロネート、ミノドロネート、イバンドロネート、インカドロネート、ゾレドロネート、チルドロネート及び上述した式(I)の化合物(例えば、[4-(メチルチオ)フェニルチオ]メタンビスホスホン酸(MPMBP))
【実施例0123】
<実施例1.低濃度の[4-(メチルチオ)フェニルチオ]メタンビスホスホン酸(MPMBP)が骨に与える影響の解析>
(目的)
破骨細胞の調節には不十分な濃度の[4-(メチルチオ)フェニルチオ]メタンビスホスホン酸(MPMBP)をラットに投与し、その骨に対する影響を調べる。
【0124】
(方法)
1.ラットモデル
慢性腎臓病において骨代謝異常が起きることが知られていることから、代謝性骨疾患のモデルとして慢性腎臓病モデルを使用した。慢性腎臓病モデルとしては、高アデニン食により給餌したラットを実験に使用した。ラットとしては日本SLCから取得した8週齢、Sprague-Dawley系統の野生型の雄ラットを使用した。
【0125】
ラットを一週間飼育した後、6匹ずつ4群に分けた(第0週目)。対照群はその後も通常の餌により給餌した。一方、その他の3群は高アデニン食(Sigma-Aldrich社製)により7週間給餌し続けた。
【0126】
各群のラットは、第3週目から一週間に一度、ビークル又は[4-(メチルチオ)フェニルチオ]メタンビスホスホン酸(MPMBP)の腹腔内注射を受けた。ビークルとしては生理食塩水を注射した。MPMBP処置群は0.6mg/kg体重及び1.2mg/kg体重の2種類の濃度でMPMBPを注射した。MPMBPは昭和大学から供与された。
【0127】
第7週において、ビークル又はMPMBP投与の72時間後に各群のラットを屠殺し、以降の解析を行った。
【0128】
2.骨試料の採取
屠殺した各群のラットから右大腿骨を採取し、70%エタノールを用いてアルコール固定を行った。
【0129】
3.骨密度の測定
固定した大腿骨において、DCS-600-EX-III R(ALOKA社製)を用いたDual Energy X-ray Absorptiometry(DEXA)法による骨密度の計測を行った。大腿骨を長手方向の中心軸(図1A中、横破線)に沿って4等分した区間(図1A中、縦破線の間)を、大腿骨頭から近い方から順に、近位部、近位測骨幹部、遠位測骨幹部及び遠位部として、それぞれの区間の骨密度を計測した。
【0130】
4.骨力学特性計測
固定した大腿骨において、近位測骨幹部及び遠位測骨幹部をあわせた区間において貯蔵弾性率として、ヤング率をR-AXIS BQ(株式会社リガク製)を用いて計測した。
【0131】
5.海綿骨形態計測
固定した大腿骨をメチルメタクリレート樹脂(富士フィルム和光純薬社製)に包埋した後、RM2255(LEICA社製)を用いて前額面方向の切片(厚さ:5μm)を作製した。作製された切片のうち遠位端の切片を、Villanueva Osteochrome Bone Stain(Polysciences社製)を用いた染色に供した。染色後の切片を光学顕微鏡(Nikon社製)下で観察しながら、OsteoMeasure(ショーシンEM社製)を用いて海綿骨形態計測を行った。パラメータとして、単位骨量、海綿骨幅、形成面、静止面、吸収面、骨芽細胞面、骨形成速度、石灰化速度等を計測した。
【0132】
6.統計解析
統計解析はSPSSを使用して、t検定により行った。p<0.05を有意水準として使用した。
【0133】
(結果)
結果を表1及び図1及び2に示す。
海綿骨形態計測の結果を表1に示す。
【0134】
【表1】
【0135】
骨構造に関する指標(骨量、骨梁幅、骨梁数及び骨梁間隙)は対照群と高アデニン食給餌群とで有意な差は見られなかった。同様に、骨芽細胞関連の指標(骨芽細胞面、類骨面)においても対照群と高アデニン食給餌群とで有意な差は見られなかった。破骨細胞関連の指標(破骨細胞数、浸食面)は高アデニン食給餌群において、対照群と比較して有意に高い値となった。MPMBPの投与によるこれらの指標に対する影響は見られなかった。これは、投与したMPMBPの濃度が低いためと考えられ、予想通りであった。一方、骨石灰化遅延時間は高アデニン食給餌群において、対照群と比較して有意に高い値となったものの、MPMBPの投与群では対照群と有意な差は見られなかった。このことから、低濃度のMPMBPにより、従来考えられていた破骨細胞の機能調節を介することなく、骨形成反応が正常化されていることが示唆された。
【0136】
この濃度のMPMBPが骨構造に影響しないことは骨密度の計測結果からも裏付けられた。図1B~Eに示す通り、骨密度は高アデニン食給餌群において、対照群(Cont)と比較して概して低下した。しかしながら、MPMBPの投与によってこれらの指標に対して影響は見られなかった。MPMBPの投与によるこれらの指標に対する影響は見られなかった。
【0137】
一方、図2に示す通り、大腿骨骨幹部の骨力学特性は、高アデニン食給餌群(Adenine Diet)において、対照群(Cont)と比較して概して低下したものの、MPMBPの投与によってMPMBPの濃度依存的に有意に改善した。この結果は、破骨細胞の機能調節を介することなく、骨形成反応が正常化されていることを示した界面骨形態計測の計測結果と一致する。
【0138】
<実施例2.低濃度のMPMBPの骨への作用の原因についての解析>
(目的)
破骨細胞の調節には不十分な濃度のMPMBPが骨に与える作用の原因を調べる。
【0139】
(方法)
1.ラットモデル
ラットモデルは実施例1で使用したものを用いた。
【0140】
2.アパタイト配向性計測
実施例1で固定した大腿骨において、近位部、近位測骨幹部、遠位測骨幹部及び遠位部の中心部(図3A中、黒丸)のアパタイト結晶のc軸への配向性を、R-AXIS BQ(株式会社リガク製)を用いて計測した。計測の際のパラメータとしては以下を用いた:
コリメータ径:300μm;
X線照射時間:180 sec。
【0141】
3.試料の採取
屠殺した各群のラットから右脛骨試料及び血清試料を採取した。
脛骨試料の調製は以下の手順で行った:脛骨を摘出後、リン酸緩衝生理食塩水で骨髄を洗い流し、液体窒素で急速凍結して粉砕した。粉砕後に0.5M EDTA/Tris 緩衝液(pH7.4)で96時間かけて脱灰し、脱灰後の骨片をNaBH4/リン酸溶液で還元したものを脛骨試料として使用した。
【0142】
骨組織質量としてこの脛骨試料の重量を測定した。
血清試料の調製は採血した血液を2000Gで20分間遠心して上清を回収することにより行った。
【0143】
4.マロンジアルデヒド量の測定
得られた脛骨試料及び血清試料において、マロンジアルデヒド測定キット(Northwest Life Science Specialties LLC社製)を用いて、脂質過酸化分解生成物の一つであるマロンジアルデヒド量の計測を行った。脛骨試料のマロンジアルデヒド量としては、骨組織の質量で標準化した値を用い、血清試料のマロンジアルデヒド量としては、血清試料の体積で標準化した値を用いた。
【0144】
(結果)
結果を図3~5に示す。
図3B~Eに示す通り、アパタイト配向性は高アデニン食給餌群(Adenine Diet)において、対照群(Cont)と比較して有意に低下したものの、MPMBPの投与量依存的に値が改善した。このことから、MPMBPにより骨中の結晶構造の再編成が促進され、アパタイト配向性が改善することが、骨の力学特性の改善につながっていることが示唆された。
【0145】
さらにその原因を明らかにすべく、骨中のマロンジアルデヒド(脂質過酸化分解生成物の一つ)量を計測した。その結果、高アデニン食の給餌により上昇した酸化ストレスはMPMBPの投与により減少した(図4)。さらに、その影響は血中でも見られ、血清中の酸化ストレス同様の変化を示した(図5)。なお、血中の指標から、MPMBPによる腎機能への影響は見られなかった(データ示さず)。
【0146】
以上のことから、血液及び骨における酸化ストレスがMPMBPにより低減され、それにより、骨中の結晶構造の再編成が起きやすい環境となっていることが示唆された。また、骨におけるMPMBPの効果が血中にも表れていることから、MPMBPが骨の表面において抗酸化作用を示している可能性が示唆された。
図1A-B】
図1C
図1D
図1E
図2
図3A-B】
図3C
図3D
図3E
図4
図5