(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169840
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂支持体
(51)【国際特許分類】
D04C 1/06 20060101AFI20241129BHJP
D04C 1/02 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
D04C1/06 D
D04C1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086635
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000219288
【氏名又は名称】東レ・モノフィラメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】大塚 由夢
(72)【発明者】
【氏名】山口 孝弘
【テーマコード(参考)】
4L046
【Fターム(参考)】
4L046AA07
4L046AA24
4L046BA06
4L046BB00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】モルタル補強材料として、寸法安定性に優れたポリアミド樹脂支持体を提供すること。
【解決手段】ポリアミド樹脂を主成分とする線条体からなる網状構造を有し、式(1)で表される寸法変化率(%)が-1.0~1.5%である、ポリアミド樹脂支持体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂を主成分とする線条体からなる網状構造を有し、式(1)で表される寸法変化率(%)が-1.0~1.5%である、ポリアミド樹脂支持体。
【数1】
【請求項2】
前記線条体のラマンスペクトルにおける3300cm-1のピークの半値全幅が、15~43cm-1である、請求項1に記載のポリアミド樹脂支持体。
【請求項3】
前記線条体がモノフィラメントである、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂支持体。
【請求項4】
前記線条体の繊度が1000~350000dtexである、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂支持体。
【請求項5】
前記網状構造が亀甲網である、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂支持体。
【請求項6】
ポリアミド樹脂を主成分とする線条体を製網した後熱処理を行うポリアミド樹脂支持体の製造方法であって、熱処理において、雰囲気温度を融点プラス15~60℃とし、定長を保持しながら熱処理を行う、ポリアミド樹脂支持体の製造方法。
【請求項7】
前記ポリアミド樹脂を主成分とする線条体がモノフィラメントである、請求項6に記載のポリアミド樹脂支持体の製造方法。
【請求項8】
前記ポリアミド樹脂を主成分とする線条体の繊度が1000~350000dtexである、請求項6または7に記載のポリアミド樹脂支持体の製造方法。
【請求項9】
前記ポリアミド樹脂を主成分とする線条体を亀甲網に製網する、請求項6または7に記載のポリアミド樹脂支持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタル補強材料として好適に利用し得る、ポリアミド樹脂支持体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、既設構造物の老朽化による外壁割れや斜壁面のひび割れ、それに伴う落石などが問題となっている。既設構造物の老朽化に伴う補強工事には、セメントと水と砂を混合したモルタルや、モルタルに砂利を混ぜたコンクリートなどが使われる。
【0003】
既設構造物にモルタルを塗り付ける場合、その補強材料として、従来から金属支持体が使われているが、金属支持体は重くて施工性が悪く、また錆の発生によって体積が膨張し、モルタルが支持体から剥離するため、補強効果が経時的に低下する。
【0004】
このため近年では、金属支持体の代替品として、軽くて錆びない樹脂支持体が流通しており、合成繊維糸からなる亀甲網状ネットループを付与したモルタル補強用ネットなど(特許文献1)が知られている。
【0005】
樹脂支持体は一般的に、樹脂支持体を構成する線条体をガラス転移温度以上、融点以下の温度に予熱してから製網工程に供して製造され(特許文献2)、汎用樹脂のひとつであるポリエステル樹脂支持体(特許文献3)は、強度、耐久性、耐酸性に優れる反面、モルタルを使用したアルカリ環境下では経年劣化が著しい。
【0006】
汎用樹脂のひとつであるポリアミド樹脂を用いた支持体は、アルカリ耐性を持ち、適度な剛性から施工がし易く、十分な補強効果が得られること(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-74160号公報
【特許文献2】特公昭61-52259号公報
【特許文献3】特公平7-30495号公報
【特許文献4】特許第3918030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、地球環境負荷低減および、施工回数縮減による作業負荷低減の観点から、特許文献4に挙げられた樹脂支持体より、さらに長い間使用することができるポリアミド樹脂支持体が求められている。
【0009】
本発明の課題は、モルタル補強材料として用いた場合、寸法安定性に優れ長期にわたり使用可能なポリアミド樹脂支持体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、樹脂支持体をモルタル補強材料に用いた場合、長期間の使用により支持体形状が安定しないことの原因を検討したところ、支持体製造直後に、樹脂支持体を構成する線条体の内部における高分子鎖が緊張状態であり、経時的に構造緩和が生じるためであろうとの考えの下に、ポリアミド樹脂を主成分とする線条体からなる網状構造を有するポリアミド樹脂支持体を特定の製造方法を用いて製造することにより、ポリアミド樹脂支持体を構成する線条体内部における高分子鎖の状態をコントロールすることで、寸法安定性に優れ、長期にわたり使用可能なポリアミド樹脂支持体を得ることができることを見いだした。
【0011】
すなわち
[1]本発明は、ポリアミド樹脂を主成分とする線条体からなる網状構造を有し、式(1)で表される寸法変化率(%)が-1.0~1.5%である、ポリアミド樹脂支持体。
【0012】
【0013】
[2]前記線条体のラマンスペクトルにおける3300cm-1のピークの半値全幅が、15~43cm-1である、前記[1]に記載のポリアミド樹脂支持体。
[3]前記線条体がモノフィラメントである、前記[1]または[2]に記載のポリアミド樹脂支持体。
[4]前記線条体の繊度が1000~350000dtexである、前記[1]~[3}のいずれかに記載のポリアミド樹脂支持体。
[5]前記網状構造が亀甲網である、前記[1]~[4}のいずれかに記載のポリアミド樹脂支持体。
[6]ポリアミド樹脂を主成分とする線条体を製網した後熱処理を行うポリアミド樹脂支持体の製造方法であって、熱処理において、雰囲気温度を融点プラス15~60℃とし、定長を保持しながら熱処理を行う、ポリアミド樹脂支持体の製造方法。
[7]前記ポリアミド樹脂を主成分とする線条体がモノフィラメントである、前記[6]に記載のポリアミド樹脂支持体の製造方法。
[8]前記ポリアミド樹脂を主成分とする線条体の繊度が1000~350000dtexである、前記[6]または[7]に記載のポリアミド樹脂支持体の製造方法。
[9]前記ポリアミド樹脂を主成分とする線条体を亀甲網に製網する、前記[6]~[8]のいずれかに記載のポリアミド樹脂支持体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モルタル補強材料として用いた場合、寸法安定性に優れ、長期にわたり使用可能なポリアミド樹脂支持体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明において、線条体の繊維長手方向に対して直行する断面における、ラマンスペクトルを測定する方法を説明するための図である。
【
図2】本発明において、ラマンスペクトル3300cm
-1での半値全幅の算出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のポリアミド樹脂支持体は、ポリアミド樹脂を主成分とする線条体からなる網状構造を有し、式(1)で表される寸法変化率(%)が-1.0~1.5%である。
【0018】
【0019】
本発明のポリアミド樹脂支持体は、ポリアミド樹脂を主成分とする線条体からなる網状構造を有する。本発明において用い得るポリアミド樹脂としては、ポリアミド6(以下、N6とする)、ポリアミド66(以下、N66とする)、ポリアミド6/10(以下、N610とする)、ポリアミド6/12(以下、N612とする)、ポリアミド11(以下、N11とする)、およびポリアミド12(以下、N12とする)などが挙げられ、これらの中でもN6またはN610が好ましく使用される。線条体においてポリアミド樹脂を主成分とするとは、線条体を構成する成分のうち、無機成分以外の成分の50%を超える割合で、ポリアミド樹脂を含むことを言う。
【0020】
線条体の形態は特に限定されず、紡績糸、マルチフィラメント、モノフィラメント等のいずれでもよいが、モノフィラメントはその剛性により、製網機へ線条体を供しやすく、また製造工程での毛羽立ちが発生しないという理由により好ましい。
【0021】
本発明のポリアミド樹脂支持体は網状構造を有し、その網目形状および網目寸法は特に限定されないが、亀甲網目であることが好ましい。亀甲網目は、網目の交点に結び目、融着がないため、線条体の強度低下がなく、モルタル補強効果が高い。また支持体製造後に網目が変形し難く、形態安定性が優れ、モルタル塗布時の施工が容易であるなど、取り扱い性に優れているためである。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂支持体は、前記式(1)で表される寸法変化率(%)が-1.0~1.5%であることが好ましく、より好ましくは-0.5~1.0%であり、さらに好ましくは0.0~0.5%である。ここで、前記式(1)で表される寸法変化率(%)は、次のようにして得た支持体空隙率をもとに得られた値とする。
【0023】
式(1)に記される支持体空隙率(%)は、式(2)で求められる。
【0024】
【0025】
なお、140℃乾熱処理後の支持体は、1m×1mの支持体を140℃に温調されている熱風循環乾燥機中で30分放置した後の支持体である。
【0026】
式(2)に記されている目付は、JIS L 1096:2010の8.3.2に定められる標準状態における単位面積当たりの質量a)A法の規定に準じて、50cm×50cmの試験片に対して測定した質量を1m2あたりの質量(g/m2)に換算し、平均値を算出した値である。また、式(2)に記されている厚さは、JIS L 1096:2010の8.4厚さのa)A法の規定に従って測った厚さであり、密度は支持体に用いられるポリアミド樹脂の密度である。
【0027】
一方、前記式(1)で表される寸法変化率(%)が-1.0%を下回るもしくは、1.5%を上回るポリアミド樹脂支持体をモルタル補強材料として用いた場合、モルタルとポリアミド樹脂支持体の界面で剥離が生じ、経時的に補強効果が減少してしまう場合があるため好ましくない。
【0028】
なお、ポリアミド樹脂支持体はポリアミド樹脂のおおよその結晶化温度140℃において最も寸法が変化することから、本来長期的に観察する必要があるポリアミド樹脂支持体の経年寸法変化を、前記式(1)で表される寸法変化率(%)にて促進的に観察することができる。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂支持体を構成するポリアミド樹脂を主成分とする線条体(以降、ポリアミド樹脂線条体と略記することもある)は、ラマンスペクトルにおける3300cm-1のピークの半値全幅が、15~43cm-1であることが好ましく、より好ましくは15~40cm-1であり、さらに好ましくは15~37cm-1である。ラマンスペクトルにおける3300cm-1のピークはポリアミド樹脂のN-H基由来のピークであり、ラマンスペクトル3300cm-1のピークの半値全幅が小さければ小さいほど、ポリアミド樹脂線条体内部の結晶性が高く、内部構造が安定していることを意味する。
【0030】
一方、ポリアミド樹脂線条体のラマンスペクトルにおける3300cm-1のピークの半値全幅が43cm-1を上回るポリアミド樹脂支持体をモルタル補強材料として用いた場合、ポリアミド樹脂線条体内部に存在する結晶が十分に成長しておらず、ポリアミド樹脂線条体内部の構造が経時的に変化するため、ポリアミド樹脂支持体の寸法が大きく変化してしまう。これにより、モルタルとポリアミド樹脂支持体の界面で剥離が生じ、経時的に補強効果が減少してしまう場合があるため好ましくない。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂線条体の繊度は1000~350000dtexであることが好ましく、より好ましくは8000~150000dtexであり、さらに好ましくは20000~80000dtexである。
【0032】
一方、ポリアミド樹脂線条体の繊度が1000dtexを下回るポリアミド樹脂支持体をモルタル補強材料として用いた場合、モルタルを保持するための網目空間体積が小さくなり、施工時にモルタルを十分に保持できない場合があるため好ましくない。また、ポリアミド樹脂線条体の繊度が350000dtexを上回る場合、支持体の剛性が高くなり、施工する壁面と支持体の間に空隙が生じるなど、取り扱いが難しくなる場合があるため好ましくない。
【0033】
本発明のポリアミド樹脂支持体の製造方法としては、モノフィラメントを溶融紡糸した後、モノフィラメントを製網する方法、およびマルチフィラメントを溶融紡糸した後、マルチフィラメントを製網する方法、押出機から押し出されたフィラメント状の樹脂どうしを3次元ネット状に絡まり合わせて融着させ、製品流れ方向に長尺状のフィラメント3次元結合体とする方法などが挙げられる。前記製造方法のうち、モノフィラメントを溶融紡糸した後、モノフィラメントを製網する方法は、ポリアミド樹脂支持体の網目寸法を均一にし易く、モノフィラメントの剛性により製網機へモノフィラメントを供しやすいという理由により好ましい。また前記の通り、本発明のポリアミド樹脂支持体の網目形状は亀甲網目であることが好ましく、以下に、モノフィラメントの溶融紡糸法、およびモノフィラメントを用いた亀甲製網方法の一例を示す。なお、製造方法はこれに限られるものではない。
【0034】
ポリアミド樹脂を主成分とするモノフィラメントは、ポリアミド樹脂および、顔料などの任意の原料を計量、混合し、既知の溶融紡糸機に供給し溶融混練した後、紡糸口金孔から押し出すことにより製造することができる。なお、モノフィラメントにおいてポリアミド樹脂を主成分とするとは、モノフィラメントを構成する成分のうち、無機成分以外の成分の50%を超える割合で、ポリアミド樹脂を含むことを言う。
【0035】
紡糸口金孔から押し出した溶融物を、冷却媒体中で冷却固化することで、未延伸糸を得ることができる。なお、冷却媒体としては、例えば水やポリエチレングリコール等を挙げることができるが、冷却固化した後、モノフィラメントの表面から容易に除去できるものであれば特に限定しない。
【0036】
そして、モノフィラメントとして必要な強度を得るために、冷却固化し得られた未延伸糸を、加熱1段延伸または多段延伸、および弛緩熱処理した。本発明においては、全延伸倍率が3.0~7.0倍であり、このうち1段目の延伸配分比を70~100%とした1段または多段延伸を行った後、0.80~1.00倍の熱処理を行うことで得ることができる。ここで、全延伸倍率とは延伸過程における延伸倍率の積をいい、熱処理工程での弛緩倍率を含まない。
【0037】
なお、加熱延伸や熱処理の際に使用される熱媒体についても、空気、温水、蒸気、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびシリコーンオイル等が挙げられるが、加熱延伸や熱処理の後、モノフィラメントの表面から容易に除去できるものであれば特に限定しない。
【0038】
また熱媒体の種類によって、延伸温度は60~200℃、熱処理温度は110~200℃を適用することができる。
【0039】
このようにして得られたモノフィラメントには、必要に応じて、仕上げ油剤を付与したり、樹脂コーティングをしたり、印字したりすることができる。
【0040】
なお、モノフィラメントの断面形状については、円形断面に限定されるものではなく、扁平、三角、星型および中空等の異型断面や中空部を有するものとしても、芯鞘複合や海島型等の複合断面などの任意の断面形状としてもよい。
【0041】
こうして得られたモノフィラメントを、以下に説明する工程にて順次処理することによって、連続的に亀甲網を得ることができる。
【0042】
まず亀甲製網工程において、前記溶融紡糸法にて得られたモノフィラメントを複数本引き揃え、これを既知の亀甲網状体製造装置に供給し、モノフィラメント同士を相互に交差させながら、モノフィラメントの直線部分と撚り合わせ部分とが六角形の亀甲網目の辺となるようにモノフィラメントを連続して撚り合わせた。次に、製網された亀甲網を前記工程から連続的に、融点プラス15~60℃の雰囲気温度下で、45~180秒間、定長を保持しながら熱処理した後、冷却することにより製造することができる。
【0043】
前記熱処理は、ポリアミド樹脂線条体に存在する結晶の成長、および非晶の弛緩を促進させる効果を持つ。前記雰囲気温度における熱処理工程を通過することで、ポリアミド樹脂線条体の最外層に存在する分子は弛緩し、内層では結晶化が促進されるため、内部構造が安定し、経年寸法変化が小さい樹脂支持体を得ることができる。前記熱処理温度は、融点プラス30~60℃の範囲が特に好ましい。
【0044】
一方、熱処理温度が融点プラス15℃を下回る場合、ポリアミド樹脂線条体に十分に熱が付与されず、前記熱処理効果が得られないため、ポリアミド樹脂支持体の寸法変化が大きくなってしまう場合があり好ましくない。また、前記熱処理温度が融点プラス60℃を上回る場合、熱処理中のポリアミド樹脂線条体に熱が過剰に付与され、ポリアミド樹脂線条体中心部が融点以上に達してしまい、溶断してしまう場合があるため好ましくない。
【0045】
また、前記熱処理時間は45~180秒であることが好ましく、より好ましくは60~120秒である。
【0046】
一方で、前記熱処理温度が融点プラス15~60℃において、熱処理時間が45秒を下回る場合、ポリアミド樹脂線条体に十分に熱が付与されず、前記熱処理効果が得られないため、ポリアミド樹脂支持体の寸法変化が大きくなってしまう場合があり好ましくない。また、前記熱処理温度が融点プラス15~60℃において、熱処理時間が180秒を上回る場合、熱処理中のポリアミド樹脂線条体に熱が過剰に付与され、ポリアミド樹脂線条体中心部が融点以上に達してしまい、溶断してしまう場合があるため好ましくない。
【0047】
本発明において、前記製網工程に供するポリアミド樹脂線条体の繊度は1000~350000dtexであることが好ましく、より好ましくは8000~150000dtexであり、さらに好ましくは20000~80000dtexである。
【0048】
一方で、ポリアミド樹脂線条体の繊度が1000dtexを下回る場合、繊度が小さいため、前記熱処理中のポリアミド樹脂線条体に熱が過剰に付与され、ポリアミド樹脂線条体中心部が融点以上に達してしまい溶断してしまう場合があるため好ましくない。また、ポリアミド樹脂線条体の繊度が350000dtex以下の場合、ポリアミド樹脂線条体の剛性が加工の際扱いやすい範囲となり、安定した加工ができるため好ましい。
【0049】
本発明において、前記製網工程に供するポリアミド樹脂線条体の破断強度は300~3000Nであることが好ましく、より好ましくは500~2500Nであり、さらに好ましくは500~2000Nである。
【0050】
一方で、ポリアミド樹脂線条体の破断強度が300Nを下回る場合、製網中にポリアミド樹脂線条体が破断してしまう場合があるため好ましくない。また、ポリアミド樹脂線条体の破断強度が3000Nを上回る場合、ポリアミド樹脂線条体の剛性が高くなり、製網中にポリアミド樹脂線条体が割れてしまう場合があるため好ましくない。
【実施例0051】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。各特性の測定は、以下のように行った。
【0052】
(1)支持体の目付測定
JIS L1096:2010の8.3.2に定められる標準状態における単位面積当たりの質量a)A法の規定に準じて、50cm×50cmの試験片2本に対して測定した質量を1m2あたりの質量(g/m2)に換算し、平均値を算出した。
【0053】
(2)支持体の厚み測定
JIS L 1096:2010の8.4厚さのa)A法の規定に従って測定した。
【0054】
(3)支持体寸法変化率の測定
支持体寸法変化率は、式(1)で求めた。なお、式(1)に記されている140℃乾熱処理後の支持体は、1m×1mの支持体を140℃に温調されている熱風循環乾燥機中で30分放置した後の支持体である。
【0055】
【0056】
(4)支持体空隙率の測定
支持体空隙率は、式(2)で求めた。なお、式(2)に記されている密度は支持体に用いられるポリアミド樹脂の密度である。
【0057】
【0058】
(5)線条体のラマンスペクトル3300cm
-1におけるピークの半値全幅の測定
日本分光株式会社製のレーザーラマン分光光度計を用い、
図1のように、樹脂支持体を構成する線条体の繊維長手方向に対して直交する断面の中心(2aの位置)から最外層(2cの位置)まで合計30点となるように、直径4μmのビームを等間隔(2bの位置)に照射した。得られる90~3800cm
-1のラマンスペクトルに対し、N-H基に由来する3300cm
-1におけるピークの半値全幅を
図2のように求めた。得られた各測定点での半値全幅から、平均値を算出した。なお、前記線条体断面における最外層は、直径4μmのビームの外周が線条体断面と接する位置である。
【0059】
(6)繊度の測定
JIS L 1013:2010に従って測定した。
【0060】
(7)ポリアミド樹脂線条体の破断強度測定
JIS L 1013:2010に従って、引張試験器(株式会社 島津製作所製オ-トグラフAGX-10KNVD)を使用して測定した。
【0061】
(8)モルタル保持性の評価
ポリアミド樹脂支持体を設置し、水平位置から60o傾けた50cm×50cmの木材に、セメントと砂と水を1:3:0.5の割合で混合したモルタルを100mL流し、モルタルが床面に流れ落ちずに支持体上で保持される時間を測定した。この際、モルタル保持時間が1分以上はモルタル保持性〇と、1分未満はモルタル保持性×と評価した。
【0062】
[実施例1]
溶融紡糸した繊度35000dtexのポリアミド樹脂モノフィラメントを、亀甲製網工程に供することで得られた亀甲網を連続的に、融点プラス40℃で60秒間熱処理した後、冷却して形態を固化して巻き取った。かくして得られたポリアミド樹脂支持体の評価結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2~4]
亀甲網の熱処理温度を表1記載となるように調整させた以外は、実施例1と同様の方法で製網した。かくして得られたポリアミド樹脂支持体の評価結果を表1に示す。
【0064】
[実施例5~6]
溶融紡糸したポリアミド樹脂モノフィラメントの繊度を表1記載となるように調整させた以外は、実施例1と同様の方法で製網した。かくして得られたポリアミド樹脂支持体の評価結果を表1に示す。
【0065】
[実施例7~8]
亀甲網の熱処理時間を表1記載となるように調整させた以外は、実施例1と同様の方法で製網した。かくして得られたポリアミド樹脂支持体の評価結果を表1に示す。
【0066】
[比較例1]
亀甲網の熱処理温度を表2記載となるように調整させた以外は、実施例1と同様の方法で製網した。かくして得られたポリアミド樹脂支持体の評価結果を表2に示す。
【0067】
[比較例2]
亀甲網の熱処理温度を表2記載となるように調整させた以外は、実施例1と同様の方法で製網した。しかし、熱処理中のポリアミド樹脂モノフィラメントの溶断により、ポリアミド樹脂支持体が得られず評価はできなかった。
【0068】
[比較例3]
溶融紡糸したポリアミド樹脂モノフィラメントの繊度を表2記載となるように調整させた以外は、実施例1と同様の方法で製網した。しかし、繊度が小さいため、熱処理中にポリアミド樹脂モノフィラメントが溶断し、ポリアミド樹脂支持体が得られず評価はできなかった。
【0069】
[比較例4]
溶融紡糸したポリアミド樹脂モノフィラメントの繊度を表2記載となるように調整させた以外は、実施例1と同様の方法で製網した。しかし、繊度が大きく、製網機にポリアミド樹脂モノフィラメントを安定的に供することができず、ポリアミド樹脂支持体が得られなかったため、評価はできなかった。
【0070】
[比較例5]
亀甲網の熱処理時間を表2記載となるように調整させた以外は、実施例1と同様の方法で製網した。かくして得られたポリアミド樹脂支持体の評価結果を表2に示す。
【0071】
[比較例6]
亀甲網の熱処理時間を表2記載となるように調整させた以外は、実施例1と同様の方法で製網した。しかし、熱処理中のポリアミド樹脂モノフィラメントの溶融により、ポリアミド樹脂支持体が得られず評価はできなかった。
【0072】
【0073】
本発明によれば、前記の通り、モルタル補強材料として、寸法安定性に優れた内部構造を持つポリアミド樹脂支持体を得ることができる。このため、従来モルタル補強材料として使用されてきた金属製支持体に代わり、長期間継続使用することができる。