(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169854
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】コンピュータトモグラフィー装置とその駆動方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
A61B6/03 321A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086669
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】711002269
【氏名又は名称】雫石 誠
(72)【発明者】
【氏名】雫石 誠
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093CA32
4C093EC44
(57)【要約】
【課題】スリップリング等の機械的接点を介さず外部から非接触状態において電気エネルギーを回転部に供給する手段を提供する
【解決手段】CT装置内の回転部外周面上に沿って光発電素子を配置し、かつ光発電素子に対向する位置であってCT装置内の固定部の円周面上に発光素子を配置した非接触光給電構造を有するCT装置とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体軸方向を中心軸として回転する円環状の回転部の内部に光源を有し、該回転部を取り囲む固定部からなるガントリ、該ガントリから得られた画像データを処理表示する制御部から構成されるCT装置であって、該回転部の外周面上に沿ってシート状または2以上の複数個の光発電素子を等間隔に配置し、かつ該光発電素子に対向する位置であって該固定部の円周面に沿ってシート状または2以上の複数個の発光素子を等間隔に配置し、該発光素子から照射された光を該光発電素子により電気エネルギーに変換し該回転部に内蔵する電気回路に電気エネルギーを供給する光給電型CT装置。
【請求項2】
前記光源がX線光源である請求項1に記載の光給電型のCT装置。
【請求項3】
前記回転部の内部に二次電池を有する請求項1に記載の光給電型のCT装置。
【請求項4】
前記シート状の発光素子が面発光型のLEDである請求項1に記載の光給電型のCT装置。
【請求項5】
前記シート状の光発電素子がハライド系ペロブスカイト結晶を光吸収半導体として用いる請求項1に記載の光給電型のCT装置。
【請求項6】
前記回転部の外周面、及び前記固定部の円周面が前記中心軸に対し平行であって、前記回転部の外周面に沿うように前記シート状の光発電素子が湾曲して配置された請求項1に記載の光給電型のCT装置。
【請求項7】
前記回転部の外周面、及び前記固定部の円周面が前記中心軸に対し平行であって、前記回転部の内部に前記光源、光源駆動制御回路、前記光源より発せられた光信号を検出する検出器、該検出器を駆動及び該検出器の出力信号を処理する検出器制御信号処理回路を有する請求項1に記載の光給電型CT装置。
【請求項8】
前記回転部の外周面、及び前記固定部の円周面が前記中心軸に対し垂直であって、前記回転部の内部に前記光源、光源駆動制御回路、前記光源より発せられた光信号を検出する検出器、該検出器を駆動及び該検出器の出力信号を処理する検出器制御信号処理回路を有する請求項1に記載の光給電型CT装置。
【請求項9】
前記回転部の外周面、及び前記固定部の円周面が前記中心軸に対し垂直であって、前記回転部の内部に前記光源、光源駆動制御回路を有し、前記固定部の湾曲した円周面上に沿って前記光源に対向する位置に前記光源より発せられた光信号を検出する検出器、該検出器を駆動及び該検出器の出力信号を処理する検出器制御信号処理回路を有する請求項1に記載の光給電型CT装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光給電構造を有するコンピュータトモグラフィー装置とその駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線コンピュータトモグラフィー装置(CT)は、撮像対象物の周囲を回転する回転部を含むガントリ、ガントリの内周部を通過するように被験者を載せた寝台を体軸方向に前進又は後退させる寝台移動装置、回転部と電気的接続を可能にするスリップリング、及び検出器から出力されたデータを処理する画像描出部等を含む操作、モニター部等から構成されている。従来、検出器等の出力信号を外部に読み出すため、或いは回転部に電力を供給するためにスリップリングと呼ばれる機械的接触手段により制御信号や出力信号の送受信、及び電力の授受を行っている。スリップリングによる電気的接続を確実にするには、回転数を低く抑え、かつ検出器からの出力信号線本数を少なくする必要がある。信号線本数を少なくするためには、パラレル信号をシリアル化しスリップリングを介し読み出す方法が採用されている。しかし、大量の撮像データをシリアル伝送すると伝送周波数が上昇するため、高速のラインバッファ素子など専用半導体素子を開発する必要がある。さらに伝送周波数の上昇に伴う消費電力や発熱の増大も避けられない。スリップリングはブラシに対し高速かつ滑らせながら回転するので、特に回転部に電力を供給する電源ラインの接触面が発熱し焼き付きの原因となる。そのため、スリップリングやブラシの表面研磨や部材の定期的交換等のメンテナンスが必須となっている。これらを解決する手段として、例えば、電磁誘導による非接触給電構造等が知られている(特許文献1及び2)。しかしながら、X線光源等を内蔵する回転部に対し外部から十分な電気エネルギーを非接触状態で供給するためには、大型の永久磁石や電磁誘導コイル等を回転部や回転部を取り囲む固定部に多数配置する必要がありCT装置自体の大型化、高重量化が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-224746
【特許文献2】特開2001-258873
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、スリップリング等の機械的接点を介さず外部から非接触状態において電気エネルギーを回転部に供給する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般に被検体、例えば人体をCT装置においてスキャンする場合、被検体の移動方向を体軸方向と呼んでいる。体軸方向を中心軸として回転する円環状の回転部の内部に光源を有し、回転部を取り囲む固定部からなるガントリ、ガントリから得られた画像データを処理表示する制御部から構成されるCT装置において、回転部の外周面上に沿ってシート状、或いは2以上の複数個の光発電素子を等間隔に配置し、かつ光発電素子に対向する位置であって固定部の円周面に沿ってシート状、或いは2以上の複数個の発光素子を等間隔に配置し、この発光素子から照射された光を対向する位置にある光発電素子により電気エネルギーに変換し回転部に内蔵する電気回路等に電気エネルギーを供給する光給電型のCT装置とする。
【0006】
回転部内部の光源がX線光源である光給電型のCT装置とする。好ましくは、X線発生部にカーボンナノチューブ(CNT)等のカーボンナノ材料を電界電子放出源とするX線発生装置を用いることにより、光源部の小型・低消費電力化する。
【0007】
回転部の内部にリチウムイオン電池等の二次電池を内蔵した光給電型のCT装置とする。
【0008】
蛍光アクリルや反射板を用いたシート状の面発光型のLEDを発光素子として用いた光給電型のCT装置とする。
【0009】
ハライド系ペロブスカイト結晶、或いはパイライト系化合物を光吸収半導体として用いたシート状の光発電素子を用いた光給電型のCT装置とする。
【0010】
光発電素子が取り付けられた回転部の外周面、及び発光素子が取り付けられた固定部の円周面が中心軸に対し平行である光給電型のCT装置とする。また好ましくは、シート状の光発電素子が回転部の外周面に沿うように湾曲して配置された光給電型のCT装置とする。
【0011】
光発電素子が取り付けられた回転部の外周面、及び発光素子が取り付けられた固定部の円周面が中心軸に対し平行であって、回転部の内部に光源、光源駆動制御回路、光源より発せられた光信号を検出する検出器、検出器を駆動及び検出器の出力信号を処理する検出器制御信号処理回路を有する光給電型のCT装置とする。
【0012】
光発電素子が取り付けられた回転部の外周面、及び発光素子が取り付けられた固定部の円周面が中心軸に対し垂直であって、回転部の内部に光源、光源駆動制御回路、光源より発せられた光信号を検出する検出器、検出器を駆動及び検出器の出力信号を処理する検出器制御信号処理回路を有する光給電型のCT装置とする。
【0013】
光発電素子が取り付けられた回転部の外周面、及び発光素子が取り付けられた固定部の円周面が中心軸に対し垂直であって、回転部の内部に光源、光源駆動制御回路を有し、固定部の湾曲した円周面上に沿って光源より発せられた光信号を検出する検出器を配置し、さらに固定部の内部に検出器を駆動及び検出器の出力信号を処理する検出器制御信号処理回路を有する光給電型のCT装置とする。
【発明の効果】
【0014】
ガントリ内部の回転部に電力を供給するスリップリング、特に電源ラインの接触面の発熱や焼き付きの心配が無く、スリップリングやブラシの表面研磨や部材の定期的交換等のメンテナンス負荷を低減できる。また、ガントリ内部の回転部や回転部を取り囲む固定部の構造が簡略化されるので、CT装置の小型・軽量化、及び低消費電力化が実現し、CT装置を設置 するスペース、建物及び電源、空調設備等の建設コストを大幅に削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(a)は、第一の実施例に係るCT装置100をX軸方向から見た側面図である。
図1(b)は、CT装置100のガントリ2をZ軸方向から見た平面図である。
図1(c)は、
図1(a)においてAに示す部分を拡大した断面図である。
【
図2】
図2(a)は、CT装置100のガントリ部の固定部4の構造、特に発光素子10の構造に係る変形例(10-1,10-2,10-3)を説明する斜視図(1)~(3)である。
図2(b)は、CT装置100のガントリ部の回転部3の構造、特に発電素子11の構造に係る変形例(11-1,11-2,11-3)を説明する斜視図(1)~(3)である。
図2(c)は、CT装置100のガントリ内部の回転部3と固定部4の構造に係る変形例を説明する断面図(1)~(3)である。
【
図3】
図3(a)は、実施例に係る電源系統を説明するシステムブロック図(18)の一例である。
図3(b)は、回転部の内部の構成部材等を説明するZ軸から見た平面図である。
図3(c)は、検出器モジュール(23)に接続する光検出器信号処理、記憶、転送回路ブロック図(18)である。
図3(d)は、被検体を照射するX線光源とその電源回路に係るブロック図である。
【
図4】
図4(a)は、第二の実施例に係るCT装置200をX軸方向から見た側面図である。
図4(b)は、
図4(a)においてBに示す部分を一部拡大した断面構造の一例である。
図4(c)は、
図4(a)においてBに示す部分を一部拡大した断面構造の他の一例である。
図4(d)は、回転部3と固定部4の構造の他の変形例を説明するためのZ軸方向から見た断面図である。
図4(e)は、
図4(d)においてCに示す部分を一部拡大した断面構造の一例である。
【
図5】
図5(a)、
図5(b)はCT装置200における回転部(3)における発電素子(11)のZ軸方向から見た構造を説明する平面図である。
図5(c)、
図5(d)は、CT装置200における固定部(4)における発光素子(10)のZ軸方向から見た構造を説明する平面図である。
図5(e)、
図5(f)は、上記
図4(b)、
図4(c)において説明した構造の変形例を説明する腰部を拡大した断面図である。
【実施例0016】
図1に第一の実施例に係るCT装置100を示す。説明の便宜上、本願発明においては図示するように、CT装置の被検体走査方向(体軸方向)をZ軸とし、Z軸に直交する鉛直方向(図面の上下方向)をY軸、Z軸とY軸に直交する方向をX軸と定義する。
図1(a)は、CT装置100をX軸方向から見た側面図である。CT装置100は、ガントリ部(2)、ガントリ内部にある回転部(3)、回転部を取り囲む固定部(4)、回転部を回転させる回転部駆動モータ(5)とタイミングベルト(6)、ガントリ部に被検体を送り込む寝台移動装置(7)、ガントリ部を駆動走査、或いは撮像データ等を処理するCT装置駆動制御信号処理部(8)、及びモニター等の出力表示記録部(9)等から構成されている。また、破線部1は回転部(3)の回転中心軸を示している。
【0017】
図1(b)は、CT装置100のガントリ2をZ軸方向から見た平面図である。回転部(3)とこれを取り囲む固定部(4)との間には発光素子(10)と光発電素子(11)が対向するように配置されている。即ち、回転部(3)の外円周上に光発電素子(11)が取り付けられ、固定部(4)の内円周上に発光素子(10)が取り付けられている。本構造により、発光素子(10)の光エネルギーを光発電素子(11)によって電気エネルギーに変換し、以下に説明するように回転部(3)の内部に電力を非接触状態で供給することができる。なお、光発電素子(11)は一般に「太陽電池」と呼ばれることが多い。しかし、本願発明では太陽光のような自然エネルギーではなくLED等の人工光を利用するので、「光発電素子」と呼ぶことにする。
【0018】
発光素子(10)と光発電素子(11)の配置についてさらに詳しく説明する。
図1(c)は、
図1(a)においてAに示す部分を拡大した断面図である。回転部(3)は、Z軸に並行であって湾曲した外円周部分(3-1)とZ軸に垂直な平面からなる外側面部分(3-2)からなる。本実施例では、光発電素子(11)が外円周部分(3-1)の湾曲した面に沿って全周に配置されている。そのため、光発電素子(11)には湾曲が容易な光発電素子、例えば、ハライド系ペロブスカイト結晶、或いはパイライト系化合物を光吸収半導体として用いたシート状の光発電素子を湾曲させて用いることができる。光発電素子(11)はこれに限定されず、後述するように短冊状の複数の光発電素子をZ軸に平行になるように外円周部分(3-1)に配置してもよい。
【0019】
これに対し、発光素子(10)が光発電素子(11)に対向するように固定部(4)に沿って配置されている。さらに詳しく言うと、固定部4は、Z軸に並行であって湾曲した内円周部分(4-1)とZ軸に垂直な平面からなる内側面部分(4-2)からなる。即ち、本実施例では、光発電素子(11)に対向するように発光素子(10)が内円周部分(4-1)に沿って配置されている。このように、発光素子(10)と光発電素子(11)は、例えば1mm~1cm程度の間隔で密接させて配置できるので光電変換によるエネルギーロスを最小限に抑制することができる。また、発光素子(10)には、LEDやレーザー光などの人工光を使用するので、その発光波長は光発電素子(11)が示す最も光電変換効率が高くなる波長に合わせることが容易である。
【0020】
発光素子(10)と光発電素子(11)の実施形態に係る変形例を、
図2を用いて以下にさらに詳しく説明する。
図2(a)は発光素子(10)を、上記の内円周部分(4-1)に沿って配置する場合の例を三種類図示したものである。
図2(a)の(1)に示す構造は、湾曲したシート状の発光素子(10-1)であり、帯状の発光素子(10-1)を固定部4の内円周部分に貼り付けたものである。発光素子(10-1)には、例えば、面発光LED、その他の薄膜発光素子等を使用することができる。またZ軸方向から見た一部拡大図に示すように、帯状の発光素子(10-1)は完全一体的に形成する必要は無く、図示するようにそのつなぎ目、即ち非発光部分が残っていてもよい。なお、固定部4の内部には、発光素子(10-1)を制御する発光素子駆動制御回路(12)を内蔵している。以下に説明する変形例
図2(a)の(2)及び(3)についても同様である。
【0021】
図2(a)の(2)に示す構造は、個別部品である(ディスクリート)発光素子(10-2)を固定部4の内円周部分の一部に取り付けたものあり、破線部分に示すようにZ軸を挟んだ対称位置にも同数の発光素子(10-2)を固定部4の内円周部分に取り付けた構造を特徴とする。発光素子(10-2)として、高輝度の発光素子を選択することにより、必ずしも固定部4の内円周部分全体を発光素子(10-2)で埋め尽くす必要が無いからである。高輝度、高効率の発光素子には、例えば、低圧または高圧ナトリウムランプ等がある。また、発光素子(10-2)が発光を開始する時点では、回転部(3)上の光発電素子(11)が回転している場合が多いため、光発電素子(11)の一部劣化や焼き付きの懸念も少ないと考えられる。
【0022】
図2(a)の(3)に示す構造は、マイクロLED等を多数個アレー状に並べた発光素子(10-3)を固定部4の内円周部分の一部又は全体に取り付けたものである。一部拡大図に示すように、アレー状に発光素子(10-3)が並んでおり、例えば縦の列、横の行、或いは隣接する発光部毎に異なる発光波長、異なる発光強度等の発光素子を組み合わせることもできる。
【0023】
図2(b)は光発電素子(11)を、上記の外円周部分(3-1)に沿って配置する場合の例を三種類図示したものである。
図2(b)の(1)に示す構造は、湾曲したシート状の光発電素子(11-1)であり、帯状の光発電素子(11-1)を回転部3の外円周部分に貼り付けたものである。光発電素子(11-1)には、既に説明したように、湾曲させることが容易なフィルム上に形成したハライド系ペロブスカイト結晶、或いはパイライト系化合物を光吸収半導体として用いた光発電素子が好適である。またZ軸方向から見た一部拡大図に示すように、帯状の光発電素子(11-1)は完全一体的に外円周部分(3-1)の上に形成する必要は無く、図示するようにそのつなぎ目、即ち非感光部分が残っていてもよい。なお、回転部3の内部には、光発電素子(11-1)で発生した電気エネルギー取り出すための光発電素子電源回路(13)を内蔵している。以下に説明する変形例、
図2(b)の(2)及び(3)についても同様である。
【0024】
図2(b)の(2)に示す構造は、長方形の光発電素子(11-2)をその長辺がZ軸に並行になるように外円周部分(3-1)の上に短冊状に並べ外円周部分の全体を囲むように並べられている。本構造により、曲げることが困難な光発電素子、例えば、ガラス基板上に形成したシリコン系光発電素子であっても近似的に外円周部分に沿って取り囲むことができる。
【0025】
図2(b)の(3)に示す構造は、多数個アレー状に並べた光発電素子(11-3)を回転部3の内円周部分の一部又は全体に取り付けたものである。一部拡大図に示すように、アレー状に光発電素子(11-3)が並んでおり、例えば縦の列、横の行、或いは隣接する発電セル毎に異なる分光感度スペクトルを有する光発電素子を組み合わせることもできる。
【0026】
なお、固定部(4)の変形例である
図2(a)(1)乃至(3)のいずれかは回転部3の変形例である
図2(b)(1)乃至(3)のいずれとも組み合わせることができる。
【0027】
発光素子(10)と光発電素子(11)以外の構成であって、回転部(3)、或いは回転部(3)と固定部(4)に係る構造の他の変形例を、
図2(c)を用いて以下に説明する。
図2(c)(1)に示す構造は、回転部3の側面部(
図1(c)における3-2)にスリップリング、即ち円環状の電極14fを配置する。他方、電極14fと電気接続を行う凸状の電極端子14mが図示していない固定部4の内側面部(
図1(c)おける4-2に相当)に配置された構造である。前述のごとくスリップリング構造には技術的課題があるが、電力供給線以外のデジタル信号等の授受については電力の授受とは異なり弊害が少ない。なお、デジタル信号の授受については電磁波を用いた非接触通信手段を用いても良い。
【0028】
図2(c)(2)に示す構造は、回転部3の側面部(
図1(c)における3-2)に永久磁石(17)をN極とS極が交互に入れ替わるように回転部3の内部に取り付けられている。他方、永久磁石(17)に対向するように電磁誘導コイル(16)が固定部の内側面部(
図1(c)おける4-2に相当)に沿って配置されている。なお、電磁誘導コイル駆動制御回路(15)が固定部(4)の内部に設けられている。本構造により、ダイレクトドライブ(DD)モータを構成するので、回転部駆動モータ(5)、回転部回転用タイミングベルト(6)を必要としない。また、撮像プロセス終了後の回転部(3)回転エネルギーを電磁誘導コイル(16)により電気エネルギーとして回収することが出来る。
【0029】
図2(c)(3)に示す構造は、
図2(c)(2)とは逆に回転部3の側面部(
図1(c)における3-2)に電磁誘導コイル(16)が回転部(3)の内部に取り付けられている。他方、電磁誘導コイル(16)に対向するように永久磁石(17)がN極とS極が交互に入れ替わるように固定部4の内側面部(
図1(c)おける4-2に相当)に沿って取り付けられている。本構造により、回転部駆動モータ(5)、及び回転部回転用タイミングベルト(6)により回転部(3)を強制的に回転させることにより、電磁誘導コイル(16)に起電力を生じさせ、電磁誘導コイル駆動制御回路(15)を介し回転部(3)の内部にあるリチウムイオン電池等の二次電池を充電することができる。そのため、上記の光給電による回転部(3)に対する電力供給を補助することができる。また、撮像プロセス終了後の回転部(3)回転運動エネルギーを電磁誘導コイル(16)により電気エネルギーに変換し、回転部(3)の内部にある二次電池を充電することにより運動エネルギーを電気エネルギーとして回収することが出来る。
【0030】
図3を用いて、CT装置100に使用する他の回路構成等について説明する。
図3(a)は、主として電源系統に係るシステムブロック図である。システムブロック(18)には光発電素子(11)、発光素子(10)が接続されており、それぞれ光発電素子電源回路(13)、発光素子駆動制御回路(12)を介しパワーバスライン(19)に繋がっている。さらに、通信制御システム(21)、二次電池(22)も付加され、双方向DC-DCコンバータ(20)等により必要な電圧レベルに制御された後に各部に充電、或いは放電動作を制御する。
【0031】
図3(b)は、Z軸方向から見た回転部(3)の内の構成要素を説明する平面図である。回転部(3)の外周部には既に説明した光発電素子(11)が取り付けられている。寝台移動装置(7)上の被検体(図示せず)をX線により透視するために、X線発生部(25)よりX線ビーム(27)を照射し、透過したX線を光検出器モジュール(23)により検出する。X線発生部(25)は、X線回路(26)により駆動制御される。光検出器モジュール(23)は、光検出器信号処理、記憶、転送回路ブロック(24)により、撮像、信号処理、画像記録・伝送等を行う。回転部(3)の内部にはさらに、二次電池(22)、既に説明した電力制御系統ブロック(18)、回転部(3)の外部と制御信号や撮像データ等の送受信を行う通信制御システム(21)を内蔵している。
【0032】
図3(c)は、光検出器信号処理、記憶、転送回路ブロック(24)を構成する主要な回路要素を説明するためのブロック図である。検出器モジュール(23)は、光検出器モジュール駆動回路(31)により各画素アレー(30)が駆動制御される。各画素アレー(30)から出力された検出信号は、信号増幅・AD変換回路(32)、信号走査制御回路(33)等を介し、デジタル信号処理回路(34)に転送される。信号処理された撮像データ等はバスライン(36)を介し画像メモリ(35)に記録される。或いはパラレルシリアル変換回路(37)を介し入出力インターフェース(38)、例えば
図2(c)(1)で説明したスリップリング、又は
図3(a)において説明した通信制御システム(21)に転送される。
【0033】
図3(d)は、被検体を照射するX線光源(25)とその電源回路(26)に係るブロック図である。X線光源(25)には従来のX線管を用いても良いが、カーボンナノ材料を用いたX線発生部を用いることもできる。即ち、カーボンナノ材料電子ビーム発生令陰極(25C)と陽極ターゲット(25A)からX線光源(25)を構成する。また、電源回路(26)は高電圧制御回路(26-1)と電圧昇圧回路(26-2)から構成されている。好適には、高電圧制御回路(26-1)はスイッチング電源、パワー半導体等を用いることにより、トランスレス化することができる。
【0034】
図4(a)は、第二の実施例に係るCT装置200をX軸方向から見た側面図である。第一の実施例に係るCT装置100と異なるのは、破線で示す回転部(3)と固定部(4)の、特にB、B’で囲まれた部分の構造である。それ以外の構成は第一の実施例に係るCT装置100において説明したので省略する。
【0035】
図4(b)は、
図4(a)におけるBで囲まれた部分の構造を拡大した断面図である。回転部(3)は、Z軸に並行であって湾曲した外円周部(3-1)とZ軸に垂直な平面からなる外側面部(3-2)からなる。他方、固定部(4)は、Z軸に並行であって湾曲した内円周部(4-1)とZ軸に垂直な平面からなる内側面部(4-2)からなる。本実施例では、第一の実施例とは異なり、光発電素子(11)が回転部(3)の外側面部(3-2)に取り付けられ、これに対向するように発光素子(10)が固定部(4)の内側面部(4-2)上に配置されている。そのため、光発電素子(11)と発光素子(10)のいずれも湾曲させる必要が無い。本図では、回転部(3)の両側面部に光発電素子(11)を配置しているが、後述するように(例えば、
図5(f))、一方の側面部のみに光発電素子(11)を配置してもよい。このように、発光素子(10)と光発電素子(11)は、例えば1mm~1cm程度の間隔で密接させて配置できるので光電変換によるエネルギーロスを最小限に抑制することができる。また、発光素子(10)には、LEDやレーザー光などの人工光を使用するので、その発光波長は光発電素子(11)が示す最も光電変換効率が高くなる波長に合わせることも容易である。
【0036】
図4(c)は、
図3(b)における光検出器モジュール(23)が固定部の内周面(4-1)に沿って連続的に或いは等間隔に複数個並べられた構造を説明するための断面構造の一例である。光検出器モジュール(23)が固定部に位置するため、被検体を透過したX線(27)が透過するための開口(40)が形成されている。光発電素子(11)が回転部(3)の外側面部(3-2)に取り付けられ、これに対向するように発光素子(10)が固定部(4)の内側面部(4-2)上に配置されているので、開口(40)を回転部の外周面(3-1)に形成できる利点がある。
【0037】
開口(40)をZ軸方向から見た場合の回転部(3)と固定部(4)の平面図を
図4(d)に示す。回転部(3)にX線が照射される範囲に対応した開口(40)が形成され、開口(40)を透過したX線(27)が。検出器モジュール(23)の受光面を露光する。なお図示していないが、回転部(3)の側面部(3-2)には、既に説明した光発電素子(11)が取り付けられている。同図にCで囲まれた部分について以下に説明する。
【0038】
図4(e)は、
図4(d)においてCで囲まれた部分の拡大図である。検出器モジュール(23)は、複数の光検出素子、或いは画素アレーが固定部の内周面(4-1)の円周に沿って密に並んでいる。そのため、
図3(b)において説明した光検出器信号処理、記憶、転送回路ブロック(24)、光検出器モジュール駆動回路(31)等は、固定部(4)に配置されている。
【0039】
図5(a)、
図5(b)は、回転部(3)の側面部(3-2)に取り付けられた光発電素子(11)の変形例について説明するためのZ軸方向から見た平面図である。
図5(a)の場合は、
図2(b)(1)で説明したようにシート状の光発電素子(11)を円環状に形成した構造で有る。
図2(b)(1)の場合とは異なり湾曲させる必要は無いが、円環状に加工した光発電素子を作成するのが容易であるという利点がある。
【0040】
図5(b)は、光発電素子(11)として四角形の素子を回転部(3)の側面部(3-2)上に複数個、等間隔に並べた構造である。広く使われている光発電素子、即ち太陽電池パネルを使用できるが、側面部(3-2)を全て埋め尽くすことが困難である。そのため、下記の
図5(d)で説明するような発光素子(10)の形状と光発電素子(11)の形状がほぼ同一であって、発光素子(10)と光発電素子(11)が対面した時点においてのみ発光素子(10)を発光させることにより、エネルギーロスを抑制することができる。
【0041】
図5(c)は、
図2(a)(1)で説明したようにシート状の発光素子(10)を円環状に形成した構造で有る。
図2(a)(1)の場合とは異なり湾曲させる必要が無く、円環状に加工した発光素子を平面的に作成できるという利点がある。
【0042】
図5(d)は
図2(a)(2)で説明したように、個別部品である(ディスクリート)発光素子(10)を固定部4の内円周部分の一部に取り付けたものあり、破線部分に示すようにZ軸を挟んだ対称位置にも同数の発光素子(10-2)を固定部4の内側面部分に取り付けた構造を特徴とする。発光素子(10)として、高輝度の発光素子を選択することにより、必ずしも固定部4の内側面部全体を発光素子(10)で埋め尽くす必要が無いからである。また、発光素子(10)が発光を開始する時点では、回転部(3)上の光発電素子(11)が回転している場合が多いため、光発電素子(11)の一部劣化や焼き付きの懸念は少ないと考えられる。
【0043】
図5(e)は、
図2(c)(2)で説明した誘導コイル(16)と永久磁石(17)を含む構成の変形例である。
図2(c)(2)の構造と異なる点は、誘導コイル(16)が固定部内周面(4-1)上にあり、永久磁石(17)が回転部の外円周上に位置している構造となっている。同様に回転部側の接触端子(14f)と固定部側凸型接触端子(14m)もそれぞれ回転部の外円周上と固定部内周面(4-1)上に位置している
【0044】
他方、
図5(f)に示す変形例では、X線開口部(40)が回転部(30)の外円周上形成されているため、誘導コイル(16)が固定部内側面(4-2)上に、永久磁石(17)が回転部の外側面上に位置している。
【0045】
なお、第一の実施例に係るCT装置100、及び第二の実施例に係るCT装置200のいずれもが固定されたガントリ部(2)に対し、被検体を乗せた寝台が寝台移動装置(7)により体軸(Z軸)方向に移動する構造である。これに対し、被検体を乗せた寝台が固定された状態でガントリ部(2)が体軸(Z軸)方向に移動する構造からなるCT装置においても本発明を適用出来ることは明らかである。
本発明のCTを搭載した小型の車両、航空機等の移動可能な医療手段が容易に実現する。さらにAI、高速通信方式等を組み合わせることにより、人体に起こり得る様々な異常を見落とすことなく幅広い視点で検出することが期待され、遠隔地、災害現場、紛争地域等における迅速かつ柔軟な医療・救命活動が可能になる。
1:回転中心軸、2:ガントリ、3:回転部、4:固定部、5:回転部駆動モータ、6:回転部回転用ベルト、7:寝台移動装置、8:CT装置駆動制御部、9:表示装置、10:発光素子、11:光発電素子、12:発光素子駆動制御回路、13:光発電素子電源回路、14f:回転部側の接触端子、14m:固定部側凸型接触端子、15:電磁誘導コイル駆動制御回路、16:誘導コイル、17:永久磁石、18:電力制御系統ブロック図、19:パワーバスライン、20:双方向DC-DCコンバータ、21:通信制御システム、22:二次電池、23:光検出器モジュール、24:光検出器信号処理、記憶、転送回路ブロック、25:X線発生部、26:X線回路、26-1:高電圧制御回路、26-2:電圧昇圧回路、27:X線ビーム、30:画素アレー、31:光検出器モジュール駆動回路、32:信号増幅・AD変換回路、33:信号走査制御回路、34:デジタル信号処理回路、35:画像メモリ、36:バスライン、37:パラレルシリアル変換回路、38:入出力インターフェース、40:回転部におけるX線開口部