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特開2024-169855自律走行システム、自律走行方法、及び自律走行プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169855
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】自律走行システム、自律走行方法、及び自律走行プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/43 20240101AFI20241129BHJP
【FI】
G05D1/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086670
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【弁理士】
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【弁理士】
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100181869
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 雄一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 陽一
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301AA10
5H301BB05
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301FF10
5H301GG08
5H301GG12
5H301GG14
5H301GG16
5H301HH10
(57)【要約】
【課題】マーカーの検出感度を向上させることにより走行装置の位置精度を向上させることが可能な自律走行システム、自律走行方法、及び自律走行プログラムを提供する。
【解決手段】自律走行システムは、走行エリアに配置されたマーカーを検出することにより走行装置を自律走行させる自律走行システムであって、前記走行装置と前記マーカーとの間の距離に基づいて前記マーカーの形状を変更させる変更処理部と、前記マーカーの形状を認識することにより前記走行装置の自己位置を推定して前記走行装置を自律走行させる走行処理部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行エリアに配置されたマーカーを検出することにより走行装置を自律走行させる自律走行システムであって、
前記走行装置と前記マーカーとの間の距離に基づいて前記マーカーの形状を変更させる変更処理部と、
前記マーカーの形状を認識し、認識結果に基づいて前記走行装置を位置合わせして走行させる走行処理部と、
を備える自律走行システム。
【請求項2】
前記変更処理部は、
前記距離が所定距離よりも大きい場合に、前記距離が前記所定距離よりも小さい場合の前記マーカーよりも外形サイズが大きくなるように変形させ、
前記距離が前記所定距離よりも小さい場合に、前記距離が前記所定距離よりも大きい場合の前記マーカーよりも屈曲点が多くなるように変形させる、
請求項1に記載の自律走行システム。
【請求項3】
前記変更処理部は、前記距離が小さいほど前記屈曲点が多くなるように前記マーカーを変形させる、
請求項2に記載の自律走行システム。
【請求項4】
前記マーカーの一部は、反射板で構成される、
請求項1~3のいずれかに記載の自律走行システム。
【請求項5】
前記変更処理部は、前記走行装置と前記マーカーとの位置関係に応じて前記マーカーを回転させる、
請求項1~3のいずれかに記載の自律走行システム。
【請求項6】
前記変更処理部は、前記マーカーを駆動するマーカー制御部に含まれ、
前記マーカーには、前記走行装置と前記マーカーとの間の距離を測定する測定器が設けられており、
前記変更処理部は、前記測定器の測定結果に基づいて前記マーカーの形状を変更し、当該形状の情報を前記走行装置に送信し、
前記走行処理部は、前記形状の情報に基づいて前記走行装置を自律走行させる、
請求項1に記載の自律走行システム。
【請求項7】
前記マーカーが載置され、所定方向に移動可能な台車をさらに備え、
前記走行装置と前記マーカーとの位置関係に基づいて前記台車の移動量を算出し、前記移動量に基づいて前記台車を前記所定方向に移動させ、
前記走行処理部は、前記移動量に応じた経路に沿って前記走行装置を自律走行させる、
請求項1に記載の自律走行システム。
【請求項8】
前記マーカーが載置され、所定方向に移動可能な台車をさらに備え、
前記走行装置が前記マーカーを検出するまで継続して前記台車を前記所定方向に移動させ、
前記走行処理部は、前記台車の移動量に応じた経路に沿って前記走行装置を自律走行させる、
請求項1に記載の自律走行システム。
【請求項9】
走行エリアに配置されたマーカーを検出することにより走行装置を自律走行させる自律走行方法であって、
前記走行装置と前記マーカーとの間の距離に基づいて前記マーカーの形状を変更させることと、
前記マーカーの形状を認識し、認識結果に基づいて前記走行装置を位置合わせして走行させることと、
を一又は複数のプロセッサーが実行する自律走行方法。
【請求項10】
走行エリアに配置されたマーカーを検出することにより走行装置を自律走行させる自律走行プログラムであって、
前記走行装置と前記マーカーとの間の距離に基づいて前記マーカーの形状を変更させることと、
前記マーカーの形状を認識し、認識結果に基づいて前記走行装置を位置合わせして走行させることと、
を一又は複数のプロセッサーに実行させるための自律走行プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自律走行システム、自律走行方法、及び自律走行プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自己位置を推定しながら予め設定された経路を走行する自律走行型の走行装置(自律走行ロボット、AGVなど)が知られている。例えば、予め定められた場所に反射板を配置し、反射板で反射されたレーザーを受信して反射板までの距離と反射板の角度とに基づいて自己位置を推定して経路を走行する走行装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-065571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自律走行型の走行装置には、走行エリアに配置されたマーカーを検出しながら自律走行する走行装置がある。例えば、走行エリアの所定位置(停止位置など)にマーカーが配置されており、走行装置は、ライダーセンサーが当該マーカーを検出することにより所定位置に向かって移動することが可能になる。
【0005】
しかし、従来の技術では、例えば、走行装置がマーカーから離れた位置を走行している場合、マーカーの検出感度(検出性)が低下することによりマーカーを認識できない問題が生じる。また例えば、走行装置がマーカーに接近した場合、ライダーセンサーの検知可能範囲からマーカーの一部(端部)が外れることによりマーカーを認識できない問題が生じる。
【0006】
本開示の目的は、マーカーの検出感度を向上させることにより走行装置の位置精度を向上させることが可能な自律走行システム、自律走行方法、及び自律走行プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一の態様に係る自律走行システムは、走行エリアに配置されたマーカーを検出することにより走行装置を自律走行させる自律走行システムであって、変更処理部と走行処理部とを備える。前記変更処理部は、前記走行装置と前記マーカーとの間の距離に基づいて前記マーカーの形状を変更させる。前記走行処理部は、前記マーカーの形状を認識し、認識結果に基づいて前記走行装置を位置合わせして走行させる。
【0008】
本開示の他の態様に係る自律走行方法は、走行エリアに配置されたマーカーを検出することにより走行装置を自律走行させる自律走行方法であって、前記走行装置と前記マーカーとの間の距離に基づいて前記マーカーの形状を変更させることと、前記マーカーの形状を認識し、認識結果に基づいて前記走行装置を位置合わせして走行させることと、を一又は複数のプロセッサーが実行する方法である。
【0009】
本開示の他の態様に係る自律走行プログラムは、走行エリアに配置されたマーカーを検出することにより走行装置を自律走行させる自律走行プログラムであって、前記走行装置と前記マーカーとの間の距離に基づいて前記マーカーの形状を変更させることと、前記マーカーの形状を認識し、認識結果に基づいて前記走行装置を位置合わせして走行させることと、を一又は複数のプロセッサーに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、マーカーの検出感度を向上させることにより走行装置の位置精度を向上させることが可能な自律走行システム、自律走行方法、及び自律走行プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の第1実施形態に係る自律走行システムの全体構成を示すブロック図である。
図2図2は、本開示の第1実施形態に係る自律走行ロボット及びマーカーの外観を示す斜視図である。
図3図3は、本開示の第1実施形態に係るマーカーの形状の一例(第1形状)を示す図である。
図4図4は、本開示の第1実施形態に係るマーカーの形状の一例(第2形状)を示す図である。
図5図5は、本開示の第1実施形態に係るマーカーの形状の一例(第3形状)を示す図である。
図6図6は、本開示の第1実施形態に係るマーカー(反射板)の形状の一例を示す図である。
図7図7は、本開示の第1実施形態に係るマーカー(反射板)の形状の一例を示す図である。
図8図8は、本開示の第1実施形態に係るマーカー(反射板)の形状の一例を示す図である。
図9図9は、本開示の第1実施形態に係るマーカーの形状の一例を示す図である。
図10図10は、本開示の第1実施形態に係るマーカーの形状の一例を示す図である。
図11図11は、本開示の第1実施形態に係る自律走行システムにおいて実行される自律走行処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図12図12は、本開示の第1実施形態に係るマーカーの形状の他の例を示す図である。
図13図13は、本開示の第1実施形態に係るマーカーの形状の他の例を示す図である。
図14A図14Aは、本開示の第2実施形態に係るマーカーの構成を示す正面図である。
図14B図14Bは、本開示の第2実施形態に係るマーカーの構成を示す上面図である。
図15A図15Aは、本開示の第2実施形態に係るマーカーの他の構成を示す正面図である。
図15B図15Bは、本開示の第2実施形態に係るマーカーの他の構成を示す上面図である。
図16A図16Aは、本開示の第3実施形態に係るマーカーの構成を示す上面図である。
図16B図16Bは、本開示の第3実施形態に係るマーカーの構成を示す正面図である。
図17図17は、本開示の第3実施形態に係る自律走行ロボットの走行方法の一例を示す上面図である。
図18図18は、本開示の第3実施形態に係る自律走行ロボットの走行方法の一例を示す上面図である。
図19図19は、本開示の第3実施形態に係る自律走行ロボットの走行方法の一例を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。尚、以下の実施形態は、本開示を具体化した一例であって、本開示の技術的範囲を限定する性格を有さない。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、本開示の実施形態に係る自律走行システム10の構成を示すブロック図である。自律走行システム10は、自律走行ロボット1とマーカー装置2とを備えている。自律走行システム10は、マーカー装置2を利用して自律走行ロボット1を自律走行させるシステムである。自律走行ロボット1は、自己位置を推定しながら予め設定された経路を走行する自律走行型の移動体(AGV、無人搬送装置ともいう。)である。自律走行ロボット1とマーカー装置2とは、無線LANなどのネットワークを介して通信可能である。
【0014】
なお、自律走行システム10は、1台又は複数台の自律走行ロボット1の運行を管理する管理サーバーを含んでもよい。管理サーバーは、例えば、自律走行ロボット1の走行経路を設定し、走行経路の経路データを含む走行指示を自律走行ロボット1に送信する。
【0015】
[マーカー装置2]
マーカー装置2は、制御部21、記憶部22、通信部23、マーカー24などを備える。
【0016】
通信部23は、マーカー装置2を無線又は赤外線でネットワークに接続し、ネットワークを介して自律走行ロボット1との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0017】
記憶部22は、各種の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はフラッシュメモリーなどの不揮発性の記憶部である。記憶部22には、制御部21に後述の自律走行処理(図11参照)を実行させるための自律走行プログラムなどの制御プログラムが記憶されている。例えば、前記自律走行プログラムは、CD又はDVDなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に非一時的に記録されており、マーカー装置2が備えるCDドライブ又はDVDドライブなどの読取装置(不図示)で読み取られて記憶部22に記憶される。前記自律走行プログラムは、本開示の自律走行プログラムの一例である。
【0018】
マーカー24は、ライダーセンサー14により検出される目印である。マーカー24は、制御部21の指示に応じて外形形状を変更可能に構成されている。図2には、マーカー24の外観を示している。マーカー24は、複数枚の矩形状のプレートP1(図2では6枚のプレートP1)と、隣接するプレートP1同士を回転可能に接続するヒンジh1とを備えている。マーカー24は、制御部21の指示に従って、ヒンジh1を支点にして各プレートP1が回転することにより、形状が変化する。なお、図示は省略しているが、マーカー24は駆動機構を備え、当該駆動機構は制御部21に通信可能に接続されている。
【0019】
制御部21は、CPU、ROM、及びRAMなどの制御機器を有する。前記CPUは、各種の演算処理を実行するプロセッサーである。前記ROMは、前記CPUに各種の演算処理を実行させるためのBIOS及びOSなどの制御プログラムが予め記憶される不揮発性の記憶部である。前記RAMは、各種の情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶部であり、前記CPUが実行する各種の処理の一時記憶メモリー(作業領域)として使用される。そして、制御部21は、前記ROM又は記憶部22に予め記憶された各種の制御プログラムを前記CPUで実行することによりマーカー装置2を制御する。
【0020】
具体的には、制御部21は、取得処理部211、駆動処理部212などの各種の処理部を含む。制御部21は、本開示のマーカー制御部の一例である。なお、制御部21は、前記CPUで前記自律走行プログラムに従った各種の処理を実行することによって前記各種の処理部として機能する。また、一部又は全部の前記処理部が電子回路で構成されていてもよい。なお、前記自律走行プログラムは、複数のプロセッサーを前記処理部として機能させるためのプログラムであってもよい。
【0021】
取得処理部211は、自律走行ロボット1からマーカー24の形状に関する情報(後述の形状情報)を取得する。
【0022】
駆動処理部212は、取得処理部211が取得する前記形状情報に基づいて、マーカー24の形状を変化させる。具体的には、駆動処理部212は、前記形状情報に応じた指示(制御信号)をマーカー24の駆動機構に伝達し、駆動機構によってマーカー24の各プレートP1をヒンジh1を支点にして回転させることによって、マーカー24の外形形状を変化させる。
【0023】
[自律走行ロボット1]
図2は、自律走行ロボット1の外観を示す斜視図である。自律走行ロボット1は、本体の底部に設けられた駆動車輪、本体の底部に回転自在に設けられた従動車輪、自律走行ロボット1の周囲の障害物までの距離を測定するライダーセンサー14、本体に電源を供給するバッテリー(不図示)などを備える。
【0024】
ライダーセンサー14は、レーザー光を用いて障害物までの距離を測定可能な距離センサー(距離測定装置)である。具体的には、ライダーセンサー14は、ミラー、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を使用してレーザー光を周囲に照射しながら、その反射光を受光し、照射から受光までの時間差を測定することによりレーザー照射した方向の障害物までの距離を測定する。このとき、レーザー光の照射方向を一定パターンで繰り返すことによって、数10Hzの周波数で空間の障害物の配置を観測することができる。ライダーセンサー14は、例えば、自律走行ロボット1の車体の左前方及び右後方に設置される。例えば、左前方のライダーセンサー14は、図2に示す範囲(検知可能範囲Ar)にレーザー光を照射して障害物までの距離を測定する。
【0025】
ここで、自律走行ロボット1の一般的な自己位置推定の方法について説明する。
【0026】
ここでは、左右の駆動車輪の速度差で並進及び旋回するロボットを例に挙げる。このようなロボットは、運動モデルが単純で運動の自由度が大きいため、自律走行ロボットでよく使用されている。前記ロボットは左右の駆動車輪を同一方向に回転させることにより直進し、逆方向に回転させることによりその場で回転(定置旋回)する。また、左右の駆動車輪に速度差をつけることにより弧を描くように走行することができる。なお、自動車のような操舵角によって旋回するロボットでも運動モデルが変わるだけで自己位置推定の基本的な考え方は同じである。
【0027】
前記ロボットは左右の駆動車輪と、各駆動車輪の回転角度を計測するためのエンコーダ(不図示)とを備える。
【0028】
初めに走行エリアに対応する地図上におけるロボット(自律走行ロボット1)の現在の姿勢(初期位置)を設定する。この設定処理は、オペレータが操作端末上で行う場合もあるし、充電ステーションから走行開始するような場合には、地図上の充電ステーションの位置を予め決めておくことによって自動で行うこともできる。
【0029】
自律走行ロボット1は、各駆動車輪の平均速度によって並進し、速度差によって旋回する。並進速度や旋回速度は、エンコーダによる時間当たりの回転角度の観測と、駆動車輪の半径と、左右の駆動車輪の間隔とから算出することができる。また、並進速度と旋回速度とを積分することによって、地図上における自律走行ロボット1の走行軌跡を算出することができる。
【0030】
ここで、エンコーダの観測値から得られる速度は誤差を含む。これは駆動車輪の半径の誤差、左右の駆動車輪の間隔の誤差、駆動車輪の滑りなどに起因する。このため、計算で得られる地図上の自律走行ロボット1の軌跡と、実際の自律走行ロボット1の軌跡は徐々にずれていく。
【0031】
自律走行ロボット1が走行を続けると位置ズレが大きくなり、最終的には自己位置が不明になってしまうため、自律走行ロボット1はライダーセンサー14の測定結果を利用して自己位置を補正する補正処理を実行する。
【0032】
地図上における自己位置が正しければ、ライダーセンサー14によって測定された周辺の障害物の配置と地図上の障害物の配置とは整合する。測定された障害物の配置と地図上の障害物の配置とが整合しない場合には、自律走行ロボット1は、一定距離もしくは一定旋回角度移動する毎にライダーセンサー14によって測定された障害物の配置が地図上の障害物と整合するように、地図上の軌跡を補正する。具体的な手法としてモンテカルロ法などが知られている。
【0033】
このように、自律走行ロボット1は、ライダーセンサー14が周辺の障害物を測定(検出)しながら地図上の障害物とマッチングして自己位置を推定することにより予め設定された走行経路を走行する。
【0034】
現実の環境では、仮置きされた物体があったり、周囲を歩く人の脚が障害物として観測されたりするため、地図上の障害物と測定された障害物の配置は完全には一致しないことが多い。また、地図の解像度にも限りがあるため、推定された自己位置には多少の誤差が含まれる。しかし、自律走行ロボット1を他の機器(コンベアー装置、台車など)と接続する位置などにおいて、高精度に停止することが求められることがある。このような場合に、マーカー24を用いて、マーカー24だけを目標にして位置合わせを行う。位置合わせの対象をマーカー24に絞り込むことで、仮置きされた物体や周囲を歩く人など位置合わせに対する外乱を排除することができ、安定した位置合わせが可能になる。
【0035】
ここで、自律走行ロボット1は、ライダーセンサー14がマーカー24を測距した測距点の点群と、予め登録されたマーカー24の形状(テンプレート)とをマッチングすることによって、マーカー24の位置を検出することができる。
【0036】
しかし、例えば2次元のライダーセンサーは放射状にレーザー光を発出するため、遠方の測距点が疎になる。また遠方になるほど測距誤差が大きくなるため検出される物体形状が不明瞭になる。このため、遠方の小さいマーカーは形状を捉えられないため、マーカーを正確に検出できず走行が不安定になる。また、マーカーのサイズを大きくすることが考えられるが、マーカーの専有面積が大きくなるためマーカーを設置することができない事態も起こり得る。また、マーカーのサイズが大きいと自律走行ロボット1が近接したときにマーカーが視界から外れて検出できなくなる事態も起こり得る。これに対して、本実施形態に係る自律走行システム10は、以下に示すように、マーカー24の検出感度を向上させることにより自律走行ロボット1の位置精度を向上させることを可能にする構成を備えている。
【0037】
具体的には、図1に示すように、自律走行ロボット1は、制御部11、記憶部12、通信部13、ライダーセンサー14などを備える。
【0038】
通信部13は、自律走行ロボット1を無線又は赤外線でネットワークに接続し、ネットワークを介してマーカー装置2との間で所定の通信プロトコルに従ったデータ通信を実行するための通信インターフェースである。
【0039】
記憶部12は、各種の情報を記憶するHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はフラッシュメモリーなどの不揮発性の記憶部である。具体的に、記憶部12には、管理サーバーから受信する経路データなどが記憶される。
【0040】
また、記憶部12には、制御部11に後述の自律走行処理(図11参照)を実行させるための自律走行プログラムなどの制御プログラムが記憶されている。例えば、前記自律走行プログラムは、CD又はDVDなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に非一時的に記録されており、自律走行ロボット1が備えるCDドライブ又はDVDドライブなどの読取装置(不図示)で読み取られて記憶部12に記憶される。前記自律走行プログラムは、本開示の自律走行プログラムの一例である。
【0041】
制御部11は、CPU、ROM、及びRAMなどの制御機器を有する。前記CPUは、各種の演算処理を実行するプロセッサーである。前記ROMは、前記CPUに各種の演算処理を実行させるためのBIOS及びOSなどの制御プログラムが予め記憶される不揮発性の記憶部である。前記RAMは、各種の情報を記憶する揮発性又は不揮発性の記憶部であり、前記CPUが実行する各種の処理の一時記憶メモリー(作業領域)として使用される。そして、制御部11は、前記ROM又は記憶部12に予め記憶された各種の制御プログラムを前記CPUで実行することにより自律走行ロボット1を制御する。
【0042】
具体的には、制御部11は、走行処理部111、決定処理部112、通知処理部113などの各種の処理部を含む。なお、制御部11は、前記CPUで前記自律走行プログラムに従った各種の処理を実行することによって前記各種の処理部として機能する。また、一部又は全部の前記処理部が電子回路で構成されていてもよい。なお、前記自律走行プログラムは、複数のプロセッサーを前記処理部として機能させるためのプログラムであってもよい。
【0043】
走行処理部111は、自律走行ロボット1を走行させる。具体的には、走行処理部111は、上述した周知の自己位置推定方法により、地図上における自身の自己位置を推定しながら、自律走行ロボット1を予め設定された走行経路に従って走行させる。なお、本実施形態では、走行エリア内の前記走行経路の終端(目的地)にマーカー24が設置されており、記憶部12に記憶された地図上にマーカー24の位置が登録されているものとする。走行処理部111は、目的地を目指して自律走行ロボット1を走行経路に従って走行させる。
【0044】
また、走行処理部111は、マーカー24の形状を認識し、認識結果に基づいて自律走行ロボット1を位置合わせして走行させる。例えば、走行処理部111は、既知のマーカー24の形状からテンプレート点群を生成し、観測した点群(測距点群)に対してマッチングさせることで、マーカー24の姿勢を推定することができる。測距点群に対して位置合わせしたテンプレート点群の姿勢が定まると、テンプレート点群から垂直に伸びる直線を算出し、この直線に沿うように自律走行ロボット1を走行させることで、最終的に自律走行ロボット1をマーカー24の正面に高精度に停止させることができる。
【0045】
決定処理部112は、マーカー24の形状を決定する。具体的には、決定処理部112は、自律走行ロボット1とマーカー24との間の距離Lに基づいてマーカー24の形状を決定する。例えば、決定処理部112は、走行処理部111が推定した自律走行ロボット1の自己位置(現在位置)からマーカー24までの距離Lを算出し、算出した距離Lに応じてマーカー24の形状を決定する。
【0046】
通知処理部113は、決定処理部112が決定したマーカー24の形状に関する形状情報をマーカー装置2に通知する。
【0047】
例えば図3に示すように、決定処理部112は、距離L(L1)が第1所定距離以上の場合に、マーカー24の形状を、屈曲点(折れ目)が1個かつ平面部分が2面からなる第1形状に決定する。通知処理部113は、第1形状の形状情報をマーカー装置2に通知する。この場合、マーカー装置2の取得処理部211が前記第1形状の形状情報を取得すると、駆動処理部212は、前記形状情報に基づいて、マーカー24の形状を前記第1形状(図3参照)に変化させる。
【0048】
また、例えば図4に示すように、決定処理部112は、距離L(L2)が第2所定距離以上かつ第1所定距離未満の場合(L2<L1)に、マーカー24の形状を、屈曲点が3個かつ平面部分が4面からなる第2形状に決定する。通知処理部113は、第2形状の形状情報をマーカー装置2に通知する。この場合、マーカー装置2の取得処理部211が前記第2形状の形状情報を取得すると、駆動処理部212は、前記形状情報に基づいて、マーカー24の形状を前記第2形状(図4参照)に変化させる。
【0049】
また、例えば図5に示すように、決定処理部112は、距離L(L3)が第2所定距離未満の場合(L3<L2<L1)に、マーカー24の形状を、屈曲点が5個かつ平面部分が6面からなる第3形状に決定する。通知処理部113は、第3形状の形状情報をマーカー装置2に通知する。この場合、マーカー装置2の取得処理部211が前記第3形状の形状情報を取得すると、駆動処理部212は、前記形状情報に基づいて、マーカー24の形状を前記第3形状(図5参照)に変化させる。
【0050】
このように、制御部11は、自律走行ロボット1とマーカー24との間の距離Lが短いほど屈曲点及び平面部分が多くなるようにマーカー24の形状を変化させる。
【0051】
走行処理部111は、変形したマーカー24の形状を認識し、認識結果に基づいて自律走行ロボット1を位置合わせして走行させる。
【0052】
ここで、屈曲点(折れ目)の個数によってマーカー24の検出感度が向上する理由について説明する。
【0053】
一般的に、測距点群には測距誤差があるため折れ目の位置が不明瞭になりやすい。このため、測距点群とマーカー24のテンプレート点群とのマッチングする場合に、マーカー24が、折れ目が1箇所だけのV形状の場合、折れ目の位置がぶれやすく、観測された測距点群ごとに折れ目の位置と向きが不規則に変化する。一方、折れ目の個数が増加すると、折れ目の形状だけでなく折れ目と折れ目の間の距離も、マッチングに利用できるため位置合わせが安定する。
【0054】
よって、上記構成のように、自律走行ロボット1とマーカー24との距離Lが大きいときは、奥行きが大きくなる形状(図3の第1形状)にマーカー24を変形することにより遠方でのマーカー24の検出感度(検出性)を向上させることができる。また、自律走行ロボット1とマーカー24との距離Lが小さくなるとマーカー24の折れ目の個数を増加して特徴点を増加することによりマーカー24の検出感度を向上させることができるため、遠方から近傍まで全ての距離範囲で自律走行ロボット1の位置精度を向上させることができる。よって、自律走行ロボット1をマーカー24が設置された目的地(所定位置)に正確に停止させることができる。
【0055】
マーカー24の構成は、上記構成に限定されない。他の実施形態について、マーカー24は、少なくとも一部のプレートP1が反射板P2(図6参照)を備えてもよい。例えば、再帰性を有する反射板は、レーザー光が入射した方向に反射光を返す構造を有している。上述した通り、マーカー24が遠方になると検出される形状が不明瞭になる。一方、反射板による反射光の強度アップは相対的なものであり、遠方であっても周囲と比較して明るい場所として検出できる。
【0056】
ここで、一般的に再帰性の反射板は正面からの入射光と斜めからの入射光では反射率が変化する特性を有する。通常、光が正面から入射した場合が最も反射光が強く、斜めになるほど反射光が弱くなる。マーカー24がV字などの折れ目を有する形状の場合、マーカー24のプレートP1毎の入射角が変わるため、反射光の強度がまだら状になってしまい反射板の位置が不明瞭になりやすい。
【0057】
一方、完全な平板(6枚のプレートP1が直線状)の場合は、反射光の強度はなだらかに変化する。また、反射板の長さの情報も反射板の検出に利用できるため、反射板の誤検出を低減することもできる。
【0058】
よって、反射板と自律走行ロボット1との距離が離れている場合には、マーカー24が直線状になるように変形させることにより(図6参照)、反射板P2の検出感度を向上させることができる。また直線状の形状に変化させた場合には、図3に示したようにマーカー24の奥行きサイズを大きくすることなく反射板P2の検出感度を向上させることができる。すなわち、マーカー24の設置スペースを最小限にしつつマーカー24の検出感度を向上させることができる。
【0059】
一方、自律走行ロボット1がマーカー24に接近した場合は、ライダーセンサー14の正面と、ライダーセンサー14の正面から外れた場所で反射板P2のへの入射角が大きく異なるため、外れた場所の反射強度が低下し、マーカー24を検出できない場合がある。このため、マーカー24に接近した場合は、反射強度ではなくマーカー24の形状を検出した方がマーカー24の検出感度が向上する。よって、自律走行ロボット1がマーカー24に接近した場合は屈曲点(折れ目)が形成されるようにマーカー24を変形させる(図7及び図8参照)。
【0060】
なお、上記構成において、マーカー24の全面を反射板P2にするのではなく、中央に反射板P2ではない部分(プレートP1)を形成してもよい(図6図8参照)。マーカー24の全面が反射板P2で形成されている場合、マーカー24の中心を検出するためには反射板P2の左右端を検出する必要がある。マーカー24の両端は離れているため、レーザー光の入射角などの条件が大きく異なり、安定的に両端を検出できない場合がある。
【0061】
一方、マーカー24の中央に反射板P2が配置されていない場合は、反射板P2を有しない領域の両端は距離が近くなるため、入射角などの条件も近く、比較的安定して検出ができる。このため、反射板P2を有しない領域の中心を検出することで、マーカー24の中心を安定して検出することができる。
【0062】
図6図8は、マーカー24の一部を反射板P2で構成する場合の具体例を示している。図6に示す例では、反射板P2の特性を生かすために、自律走行ロボット1とマーカー24との距離Lが大きい場合に、マーカー24の形状が直線状になるように制御している。
【0063】
なお、前記距離Lが小さい場合の形状における折れ目をライダーセンサー14の正面に位置するように制御するのも有効である。ライダーセンサー14の視野に収まるようにマーカー24が小さく変形することによって、マーカー24の検出感度を向上させることができる。特に、自律走行ロボット1におけるライダーセンサー14の設置位置が中心からずれている場合には、例えば図9及び図10に示すように、左右非対称の形状に変形することによりライダーセンサー14がマーカー24を見失うことを防ぐことができる。
【0064】
自律走行ロボット1の決定処理部112とマーカー装置2の駆動処理部212は、本開示の変更処理部の一例である。すなわち、決定処理部112及び駆動処理部212は、自律走行ロボット1とマーカー24との間の距離Lに基づいてマーカー24の形状を変更させる。具体的には、決定処理部112及び駆動処理部212は、距離Lが所定距離よりも大きい場合に、距離Lが前記所定距離よりも小さい場合のマーカー24よりも外形サイズが大きくなるように変形させ、距離Lが前記所定距離よりも小さい場合に、距離Lが前記所定距離よりも大きい場合のマーカー24よりも屈曲点(折れ目)が多くなるように変形させる。また、決定処理部112及び駆動処理部212は、距離Lが小さいほど屈曲点が多くなるようにマーカー24を変形させる。
【0065】
[自律走行処理]
以下、図11を参照しつつ、自律走行システム10が実行する前記自律走行処理の一例について説明する。
【0066】
なお、本開示は、前記自律走行処理に含まれる一又は複数のステップを実行する自律走行方法の開示として捉えることができる。前記自律走行方法は、本開示の自律走行方法の一例である。また、ここで説明する前記自律走行処理に含まれる一又は複数のステップは適宜省略されてもよい。また、前記自律走行処理における各ステップは同様の作用効果を生じる範囲で実行順序が異なってもよい。さらに、ここでは自律走行ロボット1の制御部11が前記自律走行処理における各ステップを実行する場合を例に挙げて説明するが、自律走行ロボット1の制御部11及びマーカー装置2の制御部21が協働して前記自律走行処理における各ステップを実行してもよいし、自律走行ロボット1の制御部11、マーカー装置2の制御部21、及び管理サーバーが協働して前記自律走行処理における各ステップを実行してもよい。また、一又は複数のプロセッサーが当該自律走行処理における各ステップを分散して実行する自律走行方法も他の実施形態として考えられる。
【0067】
ステップS1において、自律走行ロボット1の制御部11は、管理サーバーから走行指示を取得すると、予め設定された走行経路に従って自律走行を開始する。なお、前記走行経路には目的地(停止位置)が設定され、当該目的地にはマーカー24が設置される。
【0068】
次にステップS2において、自律走行ロボット1の制御部11は、自律走行ロボット1が予め設定された設定距離を走行したか否かを判定する。制御部11は、自律走行ロボット1が前記設定距離を走行したと判定すると(S2:Yes)、処理をステップS3に移行させる。一方、制御部11は、自律走行ロボット1が前記設定距離を走行していないと判定すると(S2:No)、処理をステップS5に移行させる。
【0069】
ステップS3において、自律走行ロボット1の制御部11は、マーカー24の形状を決定する。具体的には、制御部11は、自律走行ロボット1とマーカー24との間の距離Lを算出し、距離Lに基づいてマーカー24の形状を決定する。
【0070】
例えば、制御部11は、距離Lが第1所定距離(第1閾値Th1)以上の場合(Th1≦L)に、マーカー24の形状を、屈曲点(折れ目)が1個かつ平面部分が2面からなる第1形状(図3参照)に決定する。
【0071】
また、例えば、制御部11は、距離Lが第2所定距離(第2閾値Th2)以上かつ第1所定距離未満の場合(Th2≦L<Th1)に、マーカー24の形状を、屈曲点が3個かつ平面部分が4面からなる第2形状(図4参照)に決定する。
【0072】
また、例えば、制御部11は、距離Lが第2所定距離未満の場合(L<Th2)に、マーカー24の形状を、屈曲点が5個かつ平面部分が6面からなる第3形状(図5参照)に決定する。
【0073】
次にステップS4において、自律走行ロボット1の制御部11は、マーカー24の形状を変更させる。具体的には、制御部11は、ステップS3において決定したマーカー24の形状に関する形状情報をマーカー装置2に通知してマーカー24の形状を変更させる。例えば、マーカー装置2の制御部21は、自律走行ロボット1から前記第1形状の形状情報を取得すると、前記形状情報に基づいて、マーカー24の形状を前記第1形状(図3参照)に変化させる。また、制御部21は、自律走行ロボット1から前記第2形状の形状情報を取得すると、前記形状情報に基づいて、マーカー24の形状を前記第2形状(図4参照)に変化させる。また、制御部21は、自律走行ロボット1から前記第3形状の形状情報を取得すると、前記形状情報に基づいて、マーカー24の形状を前記第3形状(図5参照)に変化させる。
【0074】
なお、他の実施形態(後述の第2実施形態)として、マーカー装置2の制御部21が、マーカー24の形状を決定して、マーカー24の形状を変更させてもよい。また、管理サーバーが、マーカー24の形状を決定し、マーカー装置2に形状情報を通知してマーカー24の形状を変更させてもよい。
【0075】
自律走行ロボット1の制御部11は、マーカー24の形状に対応するテンプレート点群と、観測した点群(測距点群)とをマッチングして、マーカー24の姿勢に基づいて自律走行ロボット1の走行位置を調整して走行させることによって、自律走行ロボット1をマーカー24に向かわせる。
【0076】
次にステップS5において、自律走行ロボット1の制御部11は、目的地に到着したか否かを判定する。制御部11は、自律走行ロボット1が、マーカー24が設置された位置(マーカー24の正面)に停止すると目的地に到着したと判定し(S5:Yes)、前記自律走行処理を終了する。一方、制御部11は、自律走行ロボット1が、マーカー24が設置された位置に停止していない場合、目的地に到着していないと判定し(S5:No)、処理をステップS2に戻す。ステップS2に戻ると、制御部11は、自律走行ロボット1が前記設定距離を走行したか否かを判定して上述の処理を再度実行する。自律走行ロボット1及びマーカー装置2は、自律走行ロボット1が目的地に到着するまで、自律走行ロボット1が前記設定距離を走行するごとに上述の処理を繰り返し実行する。
【0077】
前記自律走行処理の他の実施形態として、自律走行システム10は、マーカー24の形状を変更した後にマーカー24が検出できなくなった場合に、元のマーカー24の形状に戻す処理を追加してもよい。マーカー検出のためのマッチング処理において、屈曲点が多い複雑な形状と、屈曲点の少ない単純な形状とでは、屈曲点の少ない単純な形状の方が、障害物によって生じた影などの影響を受けにくい。この構成によれば、例えばマーカー24の周辺の障害物などの影響によりマーカー24の形状を変形した後にマーカー24を検出できなくなった場合に、元の形状に戻すことにより走行不能状態に陥ることを防ぐことができる。
【0078】
また、前記自律走行処理の他の実施形態として、自律走行システム10は、ステップS3の処理において、マーカー24の形状を近距離用から順(例えば第3形状→第2形状→第1形状の順)に切り替えて、マーカー24を検出できたときの形状に決定してもよい。
【0079】
また、前記自律走行処理の他の実施形態として、自律走行システム10は、自律走行ロボット1とマーカー24との位置関係に応じてマーカー24の向きを回転させる構成を備えてもよい。例えば自律走行システム10は、マーカー24の測距点群(観測点群)の数が最大になるようにマーカー24を回転させる。マーカー24の回転角度は、自律走行ロボット1の自己位置推定によって、自律走行ロボット1とマーカー24との位置関係から算出することができる。例えば、自律走行ロボット1の制御部11は、前記回転角度を算出し、前記回転角度に関する回転情報をマーカー装置2に送信してマーカー24を回転させる。これにより、マーカー24の検出感度を向上させることができる。
【0080】
例えば、図12に示すように、ライダーセンサー14の正面方向に対してマーカー24の向きがずれている場合に、制御部11は、図13に示すように、マーカー24を所定角度d1だけ回転させる。通常はマーカー24から垂直に伸ばした線上を走行するが、この場合には、制御部11は、自律走行ロボット1を回転角度d1だけ逆向きに回転した直線に沿って走行させる。これにより、自律走行ロボット1を回転前と同じ経路で走行させることができる。
【0081】
以下、自律走行システム10の他の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態では、上述した第1実施形態の構成と同一の構成についてはその説明を適宜省略する。
【0082】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る自律走行システム10は、ライダーセンサー14から照射されるレーザー光の強度を測定する測定器R1を備えてもよい。
【0083】
具体的には、図14A及び図14Bに示すように、マーカー装置2は、マーカー24を構成する各プレートP1のレーザー走査面の高さの位置に測定器R1を備える。他の実施形態として、図15A及び図15Bに示すように、測定器R1は、マーカー24の外側に設置されてもよい。なお、図14A及び図15Aは、マーカー24の正面図を示し、図14B及び図15Bは、マーカー24の上面図を示している。
【0084】
図14A及び図14Bに示す構成では、レーザー光の強度分布を細かく測定でき、マーカー24に影が落ちている等の状況を検出することができる。図15A及び図15Bに示す構成では、プレートP1の駆動機構とは別に測定器R1を設置するため機構が簡単になる。なお、図14A及び図14Bに示す構成では、各プレートP1に1個の測定器R1が設置されているが、各プレートP1に複数個の測定器R1を設置することも可能である。この場合、より細かくレーザー光の強度分布を測定することができる。
【0085】
本実施形態においては、一般的に自律走行ロボット1とマーカー24との間の距離Lが離れるほど反射光が弱くなる性質を利用し、マーカー装置2がレーザー光の強度から距離Lを推定する。この構成によれば、地図上におけるマーカー24の設置場所の情報が不要になる。以下、マーカー装置2が推定した距離Lの使用方法の具体例を挙げる。
【0086】
例えば、マーカー装置2の制御部21は、推定した距離Lに基づいてマーカー24の形状を決定し、決定した形状の形状情報を自律走行ロボット1に送信する。自律走行ロボット1の制御部11は、受信した形状情報に基づいてマーカー24のテンプレート点群に変換してマーカー24の位置合わせを行う。
【0087】
他の例として、マーカー装置2と自律走行ロボット1とが通信は行わない構成であってもよい。この場合、自律走行ロボット1の制御部11は、全てのマーカー形状(例えば上述した第1形状、第2形状、第3形状)の候補に対して位置合わせを実行し、最も位置合わせ誤差が小さい形状を採用する。なお、採用した形状における誤差が所定の閾値を上回る場合は、一致するマーカーなしと判定し、マーカー24に対する走行をキャンセルして通常の走行を継続する。この構成では通信を行わないため、通信状態が良くない環境でも使用することができる。
【0088】
なお、図14A及び図14Bに示す構成において、レーザー光の強度の分布を計測し、分散が所定値を上回った場合(ばらつきが大きい場合)や、平均値から所定の閾値以上外れる測定値が存在する場合は、マーカー24の前に障害物があり影ができていると判定する。この場合、マーカー装置2又は自律走行ロボット1から警告を発することによって、走行の障害を取り除くようにユーザーに促すことができる。
【0089】
このように、第2実施形態に係る自律走行システム10では、マーカー24の形状を決定する処理部(本開示の変更処理部の一例)が、マーカー装置2の制御部21(マーカー制御部)に含まれ、マーカー24には、自律走行ロボット1とマーカー24との間の距離Lを測定する測定器R1が設けられており、制御部21が、測定器R1の測定結果に基づいてマーカー24の形状を変更し、当該形状の情報を自律走行ロボット1に送信し、自律走行ロボット1の制御部11が、前記形状の情報に基づいて自律走行ロボット1を自律走行させる。
【0090】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る自律走行システム10は、マーカー24全体が移動可能な構成を備えてもよい。図16Aは第3実施形態に係るマーカー装置2の上面図であり、図16Bは第3実施形態に係るマーカー装置2の正面図である。
【0091】
図16A及び図16Bに示すように、マーカー装置2は、さらに台車25(移動台車)とレール26とを備えてもよい。マーカー24は台車25の上に設置されており、台車25はレール26に沿って左右方向(矢印方向)に移動可能に構成されている。また、台車25には移動量を計測するためのセンサーが搭載されている。例えば、台車25の車輪の回転数を計測可能なエンコーダが搭載され、回転数と車輪の直径から左右の移動量を算出する。もしくは、地面などにストライプ状の模様を描いておき、台車25に設置したレーザー光送受信装置やカメラ等を用いて通過したストライプ数を数えることによって移動量を算出してもよい。
【0092】
なお、本実施形態において、マーカー24は形状が固定されてもよいし、第1実施形態及び第2実施形態に示したように、距離Lによって変形可能であってもよい。
【0093】
本実施形態によれば、障害物の奥の方にマーカー24が置かれた場合に手前の障害物などの影によってマーカー24が検出できない状況を改善することが可能である。なお、本実施形態では、第2実施形態と同様にマーカー24に測定器R1が設置されている。本実施形態における走行方法の具体例を以下に説明する。
【0094】
例えば、自律走行ロボット1は自律走行し、マーカー検出位置に到着する。マーカー24が検出できない場合は、台車25に対して移動許可を通達する。例えば、図17に示すように、マーカー24の一部が手前の障害物の影に入ってしまったことをマーカー24に設置した測定器R1により検出する。図17に示す例では、左端の測定器R1にレーザー光が当たっていない。このような場合に、台車25は全ての測定器R1がレーザー光を検出できるまで右に移動する(図18参照)。
【0095】
また、台車25は移動量A1(図18参照)を自律走行ロボット1に対して伝達する。自律走行ロボット1は検出したマーカー24の位置から伝達された移動量A1だけずれた位置に走行経路を設定して走行を開始する。
【0096】
走行を開始して自律走行ロボット1の中心から走行経路までの距離が所定値を下回った場合、自律走行ロボット1は進入コースに入ったと判断して、台車25に対して原点復帰するように指令を発出する。台車25は、図19に示すように、元の位置に移動する。
【0097】
その後、自律走行ロボット1はマーカー24に向かってまっすぐ進入し、マーカー24までの距離が所定値になったところで停止する。
【0098】
このように、第3実施形態に係る自律走行システム10は、マーカー24が載置され、所定方向に移動可能な台車25をさらに備える。また、マーカー装置2の制御部21は、自律走行ロボット1とマーカー24との位置関係に基づいて台車25の移動量を算出し、前記移動量に基づいて台車25を前記所定方向に移動させる。また、自律走行ロボット1の制御部11は、台車25の移動量に応じた経路に沿って自律走行ロボット1を自律走行させる。
【0099】
自律走行ロボット1が台車25の前でマーカー24を検出できないときに、自律走行ロボット1が切り返し動作を行って位置をずらすことによりマーカー24の正面に移動することも可能だが、自律走行ロボット1が重量物を搬送しているような場合には、細かい切り返し動作が難しい。このような場合に、マーカー24が移動することで、自律走行ロボット1に切り返し動作を行わることなく、停止位置まで滑らかに誘導することが可能になる。
【0100】
[第4実施形態]
第4実施形態に係る自律走行システム10は、マーカー24に測定器R1が設置されておらず、自律走行ロボット1側で全ての判定処理を実行する。
【0101】
例えば、自律走行ロボット1は、マーカー24(目的地)に向かって走行を開始するため、自己位置を推定しながらマーカー24の真正面に向かって自律走行する。しかし、様々な外乱要因のため実際の位置がずれてしまうことがある。この場合、地図上での自己位置はマーカー24の真正面だが、実際には、ずれた位置にいることになる。このため、本来なら真正面に検出できるはずのマーカー24を検出することができなくなる。
【0102】
また、マーカー24が存在するはずの方向に障害物が存在する場合に、自律走行ロボット1は、台車25に対して移動するように指令する。台車25は原点を中心に予め設定された動作(左右方向の移動)を行う。
【0103】
マーカー24が動作(移動)している間も自律走行ロボット1はマーカー24の検出処理を継続し、マーカー24を検出した場合に台車25に対して移動の停止を指令する。台車25は停止した時点の原点からのずれ量(移動量)を自律走行ロボット1に対して報告する。その後、自律走行ロボット1、第3実施形態と同様に、台車25の移動量に基づいて走行経路を算出して走行を行う。
【0104】
このように、第4実施形態に係る自律走行システム10は、マーカー24が載置され、所定方向に移動可能な台車25をさらに備える。また、自律走行ロボット1の制御部11は、自律走行ロボット1がマーカー24を検出するまで継続して台車25を前記所定方向に移動させる。また、制御部11は、台車25の移動量に応じた経路に沿って自律走行ロボット1を自律走行させる。
【0105】
上述した第1実施形態~第4実施形態の各構成は、適宜組み合わせることが可能である。
【0106】
以上説明した各実施形態に係る自律走行システム10は、以下のように表すことができる。
【0107】
(1)マーカー装置2は、複数の板(プレートP1)を連結して蛇腹状の構造にし、連結部(ヒンジh1)を駆動してマーカー24の形状を変形させる構成を備える。
【0108】
(2)自律走行ロボット1とマーカー24との距離Lに応じてマーカー24の形状を変化させる。
【0109】
(3)距離Lが大きいときは、折れ目を少なくしてマーカー24の外形サイズを大きくし、距離Lが小さいときは、折れ目を多くする。
【0110】
(4)マーカー24を構成するプレートP1の一部もしくは全部を反射板で構成する。
【0111】
(5)距離Lが大きいときは、マーカー24を、折れ目を減らして直線状の形状にする。
【0112】
(6)自律走行ロボット1とマーカー装置2との間で通信を行い、自律走行ロボット1とマーカー装置2との間で、マーカーの形状を制御するための命令や情報の通信を行う。
【0113】
(7)自律走行ロボット1は地図上で自己位置推定を行い、地図上におけるマーカー24との距離を推定する。これにより、自律走行ロボット1とマーカー24との距離Lを取得してマーカー24の形状を制御する。
【0114】
(8)マーカー24側にレーザー光の強度を測定する測定器R1を設置し、自律走行ロボット1に搭載されたライダーセンサー14のレーザー光強度を測定する。レーザー光の強度から自律走行ロボット1とマーカー24との距離Lを推定して、マーカー24の形状を制御する。
【0115】
(9)移動台座(台車25)の上にマーカー24を設置し、マーカー24を移動可能に構成する。台車25は、移動量を算出する手段を備える。マーカー24には測定器R1が設置され、マーカー24全体にライダーセンサー14からのレーザー光が照射されるように台車25を移動させる。移動量の情報は自律走行ロボット1に伝達され、自律走行ロボット1は移動量を考慮した経路に沿って走行する。
【0116】
(10)自律走行ロボット1は地図上で自己位置推定を行い、現在位置からマーカー24の方向を算出する。マーカー24の方向に障害物が存在してマーカー24を検出できない場合は、台車25に対して移動するように指令する。マーカー24が検出されたところで台車25に対して停止を指令し、自律走行ロボット1はそのときの移動量を考慮した経路に沿って走行する。
【0117】
(効果)
自律走行ロボット1とマーカー24との間の距離Lが大きいときは、マーカー24の外形サイズが大きくなることによって検出感度を向上させることができる。一方、距離Lが小さいときは、折れ目の数を増やすことで検出感度を向上させることができる。
【0118】
また、マーカー24を反射板で構成することによって、マーカー24の形状に拠らずレーザー光の強度でマーカー24を識別することが可能になる。この場合、マーカー24を直線状にすることによって、レーザー光の反射強度が安定し、検出感度を安定させることができる。
【0119】
また、自律走行ロボット1とマーカー装置2との間で通信を行うことにより、現在のマーカー24の形状を自律走行ロボット1とマーカー装置2との間で共有することができるため、安定したマーカー24の検出が可能になる。
【0120】
また、自己位置推定の誤差により、マーカー24が障害物の影に入ってしまった場合でも、障害物の影から脱出するようにマーカー24を移動させることによって走行を継続させることができる。
【0121】
[開示の付記]
以下、上述の実施形態から抽出される開示の概要について付記する。なお、以下の付記で説明する各構成及び各処理機能は取捨選択して任意に組み合わせることが可能である。
【0122】
<付記1>
走行エリアに配置されたマーカーを検出することにより走行装置を自律走行させる自律走行システムであって、
前記走行装置と前記マーカーとの間の距離に基づいて前記マーカーの形状を変更させる変更処理部と、
前記マーカーの形状を認識し、認識結果に基づいて前記走行装置を位置合わせして走行させる走行処理部と、
を備える自律走行システム。
【0123】
<付記2>
前記変更処理部は、
前記距離が所定距離よりも大きい場合に、前記距離が前記所定距離よりも小さい場合の前記マーカーよりも外形サイズが大きくなるように変形させ、
前記距離が前記所定距離よりも小さい場合に、前記距離が前記所定距離よりも大きい場合の前記マーカーよりも屈曲点が多くなるように変形させる、
付記1に記載の自律走行システム。
【0124】
<付記3>
前記変更処理部は、前記距離が小さいほど前記屈曲点が多くなるように前記マーカーを変形させる、
付記2に記載の自律走行システム。
【0125】
<付記4>
前記マーカーの一部は、反射板で構成される、
付記1~3のいずれかに記載の自律走行システム。
【0126】
<付記5>
前記変更処理部は、前記走行装置と前記マーカーとの位置関係に応じて前記マーカーを回転させる、
付記1~3のいずれかに記載の自律走行システム。
【0127】
<付記6>
前記変更処理部は、前記マーカーを駆動するマーカー制御部に含まれ、
前記マーカーには、前記走行装置と前記マーカーとの間の距離を測定する測定器が設けられており、
前記変更処理部は、前記測定器の測定結果に基づいて前記マーカーの形状を変更し、当該形状の情報を前記走行装置に送信し、
前記走行処理部は、前記形状の情報に基づいて前記走行装置を自律走行させる、
付記1~5のいずれかに記載の自律走行システム。
【0128】
<付記7>
前記マーカーが載置され、所定方向に移動可能な台車をさらに備え、
前記走行装置と前記マーカーとの位置関係に基づいて前記台車の移動量を算出し、前記移動量に基づいて前記台車を前記所定方向に移動させ、
前記走行処理部は、前記移動量に応じた経路に沿って前記走行装置を自律走行させる、
付記1~6のいずれかに記載の自律走行システム。
【0129】
<付記8>
前記マーカーが載置され、所定方向に移動可能な台車をさらに備え、
前記走行装置が前記マーカーを検出するまで継続して前記台車を前記所定方向に移動させ、
前記走行処理部は、前記台車の移動量に応じた経路に沿って前記走行装置を自律走行させる、
付記1~7のいずれかに記載の自律走行システム。
【符号の説明】
【0130】
1 :自律走行ロボット
2 :マーカー装置
10 :自律走行システム
11 :制御部
12 :記憶部
13 :通信部
14 :ライダーセンサー
21 :制御部
22 :記憶部
23 :通信部
24 :マーカー
25 :台車
26 :レール
111 :走行処理部
112 :決定処理部
113 :通知処理部
211 :取得処理部
212 :駆動処理部
P1 :プレート
P2 :反射板
R1 :測定器
h1 :ヒンジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18
図19