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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169856
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】回転電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20241129BHJP
   H02P 21/05 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
H02P27/08
H02P21/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086671
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】324003048
【氏名又は名称】三菱電機モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 聖人
(72)【発明者】
【氏名】林 健祐
(72)【発明者】
【氏名】北川 潤
(72)【発明者】
【氏名】松浦 大樹
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB04
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ16
5H505JJ17
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505KK05
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
(57)【要約】
【課題】回転電機の回転速度に含まれる振動成分の周波数が変化した場合でも、適切に振動成分を抽出し、振動を抑制することができる回転電機の制御装置を提供する。
【解決手段】回転電機の回転速度の検出値に対して、カットオフ周波数よりも低い周波数成分を減衰するフィルタ処理を行って、回転速度の高周波成分を抽出し、高周波成分に基づいて補償トルクを演算し、目標トルクを補償トルクにより補正し、補正後の目標トルクに基づいて、複数相の交流電圧指令値を演算し、回転電機の出力軸が連結された動力伝達機構に生じる捩れ振動の共振周波数の変化に応じて、カットオフ周波数を変化させる回転電機の制御装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相の巻線を有する回転電機を、インバータを介して制御する回転電機の制御装置であって、
前記回転電機の回転速度を検出する回転検出部と、
カットオフ周波数を設定する周波数設定部と、
前記回転速度の検出値に対して、前記カットオフ周波数よりも低い周波数成分を減衰するフィルタ処理を行って、回転速度の高周波成分を抽出するフィルタ処理部と、
前記高周波成分に基づいて、前記高周波成分を低減させる補償トルクを演算する補償トルク演算部と、
目標トルクを前記補償トルクにより補正して、補正後の目標トルクを演算する目標トルク設定部と、
前記補正後の目標トルクに基づいて、前記複数相の巻線に印加する複数相の交流電圧指令値を演算する電圧指令演算部と、
前記複数相の交流電圧指令値に基づいて、前記インバータが有する複数のスイッチング素子をオンオフ制御するPWM制御部と、を備え、
前記周波数設定部は、前記回転電機の出力軸が連結された動力伝達機構に生じる捩れ振動の共振周波数の変化に応じて、前記カットオフ周波数を変化させる回転電機の制御装置。
【請求項2】
前記回転電機の出力軸は、前記動力伝達機構を介して、車両の車輪に連結され、
前記周波数設定部は、前記車両を制御する車両制御装置から取得した車両情報に基づいて、前記共振周波数を演算する請求項1に記載の回転電機の制御装置。
【請求項3】
前記周波数設定部は、前記車両制御装置から、前記車両情報として、前記車両の等価慣性重量に関する情報、前記車輪の半径、前記車輪のイナーシャモーメント、前記動力伝達機構のギア比、前記回転電機のイナーシャモーメント、及び前記捩れ振動が生じる軸の捩れ剛性の少なくとも一つを取得する請求項2に記載の回転電機の制御装置。
【請求項4】
前記周波数設定部は、前記車両制御装置から、前記車両情報として、少なくとも、前記車両の等価慣性重量に関する情報を取得する請求項2又は3に記載の回転電機の制御装置。
【請求項5】
前記回転電機の出力軸は、前記動力伝達機構を介して、車両の車輪に連結され、
前記周波数設定部は、前記車両を制御する車両制御装置から、前記共振周波数を取得する請求項1に記載の回転電機の制御装置。
【請求項6】
前記周波数設定部は、前記車両を制御する車両制御装置から、前記車両情報として、前記車両に乗車している乗員の情報を取得し、
前記乗員の情報に基づいて、前記車両の等価慣性重量を演算し、前記等価慣性重量に基づいて、前記共振周波数を演算する請求項2又は3に記載の回転電機の制御装置。
【請求項7】
前記周波数設定部は、前記車両の等価慣性重量、前記車輪の半径、前記車輪のイナーシャモーメント、前記動力伝達機構のギア比、前記回転電機のイナーシャモーメント、及び前記捩れ振動が生じる軸の捩れ剛性に基づいて、前記共振周波数を演算する請求項2又は3に記載の回転電機の制御装置。
【請求項8】
前記周波数設定部は、前記等価慣性重量をMeqとし、前記車輪の半径をRとし、前記車輪のイナーシャモーメントをJwとし、前記動力伝達機構のギア比をNとし、前記回転電機のイナーシャモーメントをJmとし、前記捩れ剛性をKdとし、前記共振周波数をfrsとして、
【数1】
の算出式を用い、前記共振周波数を演算する請求項7に記載の回転電機の制御装置。
【請求項9】
前記周波数設定部は、前記車両を制御する車両制御装置から前記車両情報として前記車両の加速度を取得し、又は前記回転電機の回転加速度を取得し、
前記回転電機の出力トルク、及び前記車両の加速度又は前記回転電機の回転加速度に基づいて、前記車両の等価慣性重量を推定し、前記等価慣性重量に基づいて、前記共振周波数を演算する請求項2に記載の回転電機の制御装置。
【請求項10】
前記周波数設定部は、前記車両制御装置から、前記車両情報として、前記車両の加速度及び前記車両の傾き角度を取得し、
前記回転電機の出力トルク、前記車両の加速度又は前記回転電機の回転加速度、及び車両の傾き角度に基づいて、前記車両の等価慣性重量を推定し、前記等価慣性重量に基づいて、前記共振周波数を演算する請求項9に記載の回転電機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、回転電機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の技術では、回転電機の回転速度に対してフィルタ処理を行って、振動成分を抽出し、振動成分に基づいて目標トルクの補正値を演算して、目標トルクを補正している。特許文献1には、目標トルクの補正値を演算する制御器の制御ゲインの事前の設定方法として、周波数フィッティング及びモデルマッチング法による設定方法が開示されており、十分な振動抑制効果が得られるまで、制御ゲインが繰り返し調整されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-171778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、回転速度に重畳している振動成分の周波数が変化することが考慮されておらず、振動成分の周波数が変化した場合は、フィルタ処理により振動成分を十分に抽出することができず、十分な振動抑制効果を得られない問題がある。
【0005】
そこで、本願は、回転電機の回転速度に含まれる振動成分の周波数が変化した場合でも、適切に振動成分を抽出し、振動を抑制することができる回転電機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係る回転電機の制御装置は、複数相の巻線を有する回転電機を、インバータを介して制御する回転電機の制御装置であって、
前記回転電機の回転速度を検出する回転検出部と、
カットオフ周波数を設定する周波数設定部と、
前記回転速度の検出値に対して、前記カットオフ周波数よりも低い周波数成分を減衰するフィルタ処理を行って、回転速度の高周波成分を抽出するフィルタ処理部と、
前記高周波成分に基づいて、前記高周波成分を低減させる補償トルクを演算する補償トルク演算部と、
目標トルクを前記補償トルクにより補正して、補正後の目標トルクを演算する目標トルク設定部と、
前記補正後の目標トルクに基づいて、前記複数相の巻線に印加する複数相の交流電圧指令値を演算する電圧指令演算部と、
前記複数相の交流電圧指令値に基づいて、前記インバータが有する複数のスイッチング素子をオンオフ制御するPWM制御部と、を備え、
前記周波数設定部は、前記回転電機の出力軸が連結された動力伝達機構に生じる捩れ振動の共振周波数の変化に応じて、前記カットオフ周波数を変化させるものである。
【発明の効果】
【0007】
本願に係る回転電機の制御装置によれば、動力伝達機構に生じる捩れ振動の共振周波数の変化に応じて、カットオフ周波数が変化されるので、回転電機の回転速度に重畳している振動成分の周波数が変化した場合も、フィルタ処理により高周波成分を適切に抽出でき、高周波成分を低減することができる補償トルクを演算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る回転電機及び回転電機の制御装置の概略構成図である。
図2】実施の形態1に係る回転電機の制御装置の概略ブロック図である。
図3】実施の形態1に係る制御装置の概略ハードウェア構成図である。
図4】実施の形態1に係る動力伝達機構を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.実施の形態1
実施の形態1に係る回転電機の制御装置1について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態に係る回転電機2及び回転電機の制御装置1の概略構成図である。
【0010】
1-1.回転電機
回転電機2は、複数相の巻線を備えている。回転電機2は、ステータと、ステータの径方向内側に配置されたロータと、を備えている。ステータに複数相の巻線が設けられている。本実施の形態では、U相、V相、W相の3相の巻線Cu、Cv、Cwが設けられている。3相巻線Cu、Cv、Cwは、スター結線とされている。なお、3相巻線は、デルタ結線とされてもよい。回転電機2は、永久磁石式の同期回転電機とされており、ロータに永久磁石が設けられている。
【0011】
回転電機2は、ロータの回転角度に応じた電気信号を出力する回転センサ16を備えている。回転センサ16は、ホール素子、エンコーダ、又はレゾルバ等とされる。回転センサ16の出力信号は、回転電機の制御装置1に入力される。
【0012】
1-2.インバータ等
インバータ20は、直流電源10と3相巻線との間で電力変換を行う電力変換器であり、複数のスイッチング素子を有している。インバータ20は、直流電源10の高電位側に接続される高電位側のスイッチング素子23H(上アーム)と直流電源10の低電位側に接続される低電位側のスイッチング素子23L(下アーム)とが直列接続された直列回路(レッグ)を、3相各相の巻線に対応して3セット設けている。そして、各相の直列回路における2つのスイッチング素子の接続点が、対応する相の巻線に接続されている。
【0013】
具体的には、各相の直列回路において、高電位側のスイッチング素子23Hのコレクタ端子は、高電位側電線14に接続され、高電位側のスイッチング素子23Hのエミッタ端子は、低電位側のスイッチング素子23Lのコレクタ端子に接続され、低電位側のスイッチング素子23Lのエミッタ端子は、低電位側電線15に接続されている。高電位側のスイッチング素子23Hと低電位側のスイッチング素子23Lとの接続点は、対応する相の巻線に接続されている。
【0014】
スイッチング素子には、ダイオード22が逆並列接続されたIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、ダイオードが逆並列接続されたFET(Field Effect Transistor)、逆並列接続されたダイオードの機能を有するMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、ダイオードが逆並列接続されたバイポーラトランジスタ等が用いられる。各スイッチング素子のゲート端子は、回転電機の制御装置1に接続されている。各スイッチング素子は、回転電機の制御装置1から出力される制御信号によりオン又はオフされる。
【0015】
平滑コンデンサ12が、高電位側電線14と低電位側電線15との間に接続される。直流電源10からインバータ20に供給される電源電圧を検出する電源電圧センサ13が備えられている。電源電圧センサ13は、高電位側電線14と低電位側電線15との間に接続されている。電源電圧センサ13の出力信号は、回転電機の制御装置1に入力される。
【0016】
電流センサ17は、各相の巻線に流れる電流に応じた電気信号を出力する。電流センサ17は、スイッチング素子の直列回路と巻線とをつなぐ各相の電線上に備えられている。電流センサ17の出力信号は、回転電機の制御装置1に入力される。なお、電流センサ17は、各相の直列回路に備えられてもよい。
【0017】
直流電源10には、充放電可能な蓄電装置(例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、電気二重層キャパシタ)が用いられる。なお、直流電源10には、直流電圧を昇圧したり降圧したりする直流電力変換器であるDC-DCコンバータが設けられてもよい。
【0018】
1-3.回転電機の制御装置1
回転電機の制御装置1は、インバータ20を介して回転電機2を制御する。図2に示すように、回転電機の制御装置1は、回転検出部31、直流電圧検出部32、電流検出部33、電圧指令値演算部34、PWM制御部35、周波数設定部36、フィルタ処理部37、補償トルク演算部38、及び目標トルク設定部39等を備えている。回転電機の制御装置1の各機能は、回転電機の制御装置1が備えた処理回路により実現される。具体的には、回転電機の制御装置1は、図3に示すように、処理回路として、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置90(コンピュータ)、演算処理装置90とデータのやり取りする記憶装置91、演算処理装置90に外部の信号を入力する入力回路92、演算処理装置90から外部に信号を出力する出力回路93、及び通信回路94等を備えている。
【0019】
演算処理装置90として、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、IC(Integrated Circuit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、各種の論理回路、及び各種の信号処理回路等が備えられてもよい。また、演算処理装置90として、同じ種類のもの又は異なる種類のものが複数備えられ、各処理が分担して実行されてもよい。記憶装置91として、演算処理装置90からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(Random Access Memory)、演算処理装置90からデータを読み出し可能に構成されたROM(Read Only Memory)等が備えられている。入力回路92は、電源電圧センサ13、回転センサ16、電流センサ17等の各種のセンサ、スイッチが接続され、これらセンサ、スイッチの出力信号を演算処理装置90に入力するA/D変換器等を備えている。出力回路93は、スイッチング素子をオンオフ駆動するゲート駆動回路等の電気負荷が接続され、これら電気負荷に演算処理装置90から制御信号を出力する駆動回路等を備えている。通信回路94は、車両制御装置60等の外部の制御装置と接続され、通信を行う。
【0020】
そして、回転電機の制御装置1が備える図2の各制御部31~39等の各機能は、演算処理装置90が、ROM等の記憶装置91に記憶されたソフトウェア(プログラム)を実行し、記憶装置91、入力回路92、及び出力回路93等の回転電機の制御装置1の他のハードウェアと協働することにより実現される。なお、各制御部31~39等が用いる設定データは、ROM等の記憶装置91に記憶されている。以下、回転電機の制御装置1の各機能について詳細に説明する。
【0021】
1-3-1.回転検出部31
回転検出部31は、電気角でのロータの回転角度θmr(磁極位置θmr)及び回転角速度ωmr(以下、回転速度ωmrとも称す)を検出する。本実施の形態では、回転角速度ωmrとして、電気角での回転角速度ωmrを、極対数を用いて機械角での回転角速度に変換したものが用いられる。
【0022】
本実施の形態では、回転検出部31は、回転センサ16の出力信号に基づいて、ロータの回転角度θmr及び回転角速度ωmrを検出する。なお、回転検出部31は、電流指令値に高調波成分を重畳することによって得られる電流情報等に基づいて、回転センサを用いずに、回転角度を推定するように構成されてもよい(いわゆる、センサレス方式)。
【0023】
1-3-2.直流電圧検出部32
直流電圧検出部32は、直流電源10からインバータ20に供給される直流電圧Vdcrを検出する。本実施の形態では、直流電圧検出部32は、電源電圧センサ13の出力信号に基づいて、直流電圧Vdcrを検出する。なお、直流電圧が可変でなく、直流電圧が規定値になる場合は、電源電圧センサ13が設けられず、直流電圧の検出値Vdcrの代わりに、予め設定された直流電圧の設定値が用いられてもよい。
【0024】
1-3-3.電流検出部33
電流検出部33は、電流センサ17の出力信号に基づいて、U相の巻線に流れる電流Iurを検出し、V相の巻線に流れる電流Ivrを検出し、W相の巻線に流れる電流Iwrを検出する。
【0025】
1-3-4.電圧指令値演算部34
電圧指令値演算部34は、後述する目標トルク設定部39により演算された補正後の目標トルクTocrに基づいて、3相の巻線に印加する3相の電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoを演算する。
【0026】
本実施の形態では、電圧指令値演算部34は、電流指令値演算部341、電流座標変換部342、電流制御部343、及び電圧座標変換部344を備えている。
【0027】
電流指令値演算部341は、補正後の目標トルクTocr、回転速度の検出値ωmr、及び直流電圧の検出値Vdcrに基づいて、d軸の電流指令値Ido、及びq軸の電流指令値Iqoを算出する。公知の各種の方法が用いられる。
【0028】
電流座標変換部342は、3相の巻線の電流検出値Iur、Ivr、Iwrを、磁極位置θmrに基づいて、d軸の電流検出値Idr及びq軸の電流検出値Iqrに変換する。
【0029】
電流制御部343は、d軸及びq軸の電流検出値Idr、Iqrがそれぞれd軸及びq軸の電流指令値Ido、Iqoに近づくように、PI制御等により、d軸の電圧指令値Vdo及びq軸の電圧指令値Vqoを変化させる。
【0030】
電圧座標変換部344は、d軸及びq軸の電圧指令値Vdo、Vqoを、磁極位置θmrに基づいて、3相の交流電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoに変換する。なお、3相の交流電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoに対して、2相変調、3次高調波重畳等の公知の変調が加えられてもよい。
【0031】
1-3-5.PWM制御部35
PWM制御部35は、3相の交流電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoに基づいて、インバータ20が有する複数のスイッチング素子をオンオフ制御する。PWM制御部35は、公知のキャリア比較PWM又は空間ベクトルPWMを用いる。
【0032】
キャリア比較PWMが用いられる場合は、PWM制御部35は、キャリア波と3相の電機子電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoのそれぞれとを比較し、比較結果に基づいて、複数のスイッチング素子をオンオフするスイッチング信号を生成する。
【0033】
空間ベクトルPWMが用いられる場合は、PWM制御部35は、3相の電機子電圧指令値Vuo、Vvo、Vwoから電圧指令ベクトルを生成し、電圧指令ベクトルに基づいて、PWM周期における7つの基本電圧ベクトルの出力時間配分を決定し、7つの基本電圧ベクトルの出力時間配分に基づいて、PWM周期において各スイッチング素子をオンオフするスイッチング信号を生成する。
【0034】
1-3-6.補償トルクTcmpの演算
周波数設定部36は、カットオフ周波数fcを設定する。フィルタ処理部37は、回転速度の検出値ωmrに対して、カットオフ周波数fcよりも低い周波数成分を減衰するフィルタ処理を行って、回転速度の高周波成分ωmHを抽出する。補償トルク演算部38は、高周波成分ωmHに基づいて、高周波成分ωmHを低減させる補償トルクTcmpを演算する。目標トルク設定部39は、目標トルクToを補償トルクTcmpにより補正して、補正後の目標トルクTocrを演算する。
【0035】
この構成によれば、カットオフ周波数fcを有するフィルタ処理により抽出した回転速度の高周波成分ωmHに基づいて演算された補償トルクTcmpにより、目標トルクToを補正することにより、回転速度に重畳している高周波成分ωmHを低減することができる。
【0036】
<周波数設定部36>
上述したように、周波数設定部36は、カットオフ周波数fcを設定する。本実施の形態では、周波数設定部36は、回転電機の出力軸3が連結された動力伝達機構50に生じる捩れ振動の共振周波数frsの変化に応じて、カットオフ周波数fcを変化させる。
【0037】
この構成によれば、共振周波数frsの変化に応じて、カットオフ周波数fcが変化されるので、回転電機の回転速度ωmrに重畳している振動成分の周波数が変化した場合も、フィルタ処理により高周波成分ωmHを適切に抽出でき、高周波成分ωmHを低減することができる補償トルクTcmpを演算することができる。
【0038】
フィルタ処理により、回転速度の検出値ωmrに含まれる共振周波数frsの振動成分を抽出できるように、後述する式(2)に示すように、カットオフ周波数fcは、共振周波数frsよりも所定値だけ低い周波数に設定される。
【0039】
本実施の形態では、回転電機2の出力軸3は、動力伝達機構50を介して、車両の車輪51に連結されている。
【0040】
例えば、図4に示すように、回転電機2の出力軸3は、減速機52に連結され、減速機52の出力軸は、左右二つの車輪51の駆動軸53に連結されている。左右二つの駆動軸53に捩れ振動が生じる。
【0041】
周波数設定部36は、車両の等価慣性重量Meq、車輪の半径R、車輪のイナーシャモーメントJw、動力伝達機構のギア比N、回転電機のイナーシャモーメントJm、及び捩れ振動が生じる軸(本例では、車輪の駆動軸53)の捩れ剛性Kdに基づいて演算された共振周波数frsを用いる。例えば、共振周波数frsの演算には次式が用いられる。
【数1】
【0042】
ここで、ギア比Nは、減速機52の出力軸(車輪の駆動軸53)の回転速度ωwに対する回転電機2の出力軸3の回転速度ωmの比率であり(N=ωm/ωw)、1よりも大きくなる。よって、式(1)において、N2×Jmにより、回転電機のイナーシャモーメントJmが、車輪の駆動軸53回りのイナーシャモーメントに換算されている。また、Meq×R2により、車両の等価慣性重量Meqが、車輪の駆動軸53回りのイナーシャモーメントに換算されている。なお、動力伝達機構50の種類に応じて、式(1)とは異なる式が用いられもよい。
【0043】
周波数設定部36は、車両の等価慣性重量Meq、車輪の半径R、車輪のイナーシャモーメントJw、動力伝達機構のギア比N、回転電機のイナーシャモーメントJm、及び捩れ剛性Kdの少なくとも一つのパラメータの変化に応じて、共振周波数frsを変化させる。
【0044】
そして、周波数設定部36は、次式に示すように、共振周波数frsから、予め設定された周波数マージンΔfを減算して、カットオフ周波数fcを演算する。
【数2】
【0045】
<フィルタ処理部37>
上述したように、フィルタ処理部37は、回転速度の検出値ωmrに対して、カットオフ周波数fcよりも低い周波数成分を減衰するフィルタ処理を行って、回転速度の高周波成分ωmHを抽出する。
【0046】
例えば、フィルタ処理部37は、フィルタ処理として、次式に示す伝達関数を有する2次ハイパスフィルタ処理を行う。
【数3】
【0047】
ここで、Vinは、フィルタ処理に対する入力であり、Voutは、フィルタ処理からの出力であり、sは、ラプラス演算子であり、ζは、減衰係数であり、ωcは、カットオフ角周波数である。減衰係数ζは、式(1)の伝達関数のゲイン特性がピークを持たない値、例えば、0.7に設定されればよい。
【0048】
なお、フィルタ処理の演算周期(例えば、1ms)と、電流制御部343の電流フィードバック制御(PI制御)の制御応答(例えば、1000rad/s)とを考慮して、フィルタ処理として、一次ローパスフィルタ処理及び二次ハイパスフィルタ処理が用いられてもよい。カットオフ周波数fcよりも低い周波数成分を減衰するフィルタ処理であれば、各種のフィルタ処理が用いられてもよい。また、共振周波数frsを通過させるバンドパスフィルタ処理が用いられてもよい。
【0049】
上述したように、補償トルク演算部38は、高周波成分ωmHに基づいて、高周波成分ωmHを低減させる補償トルクTcmpを演算する。すなわち、補償トルク演算部38は、高周波成分ωmHを打ち消すような、補償トルクTcmpを演算する。
【0050】
例えば、補償トルク演算部38は、高周波成分ωmHに、負値に設定された比例ゲインを乗算する共に、制御系の応答性を考慮した位相進み処理(例えば、微分処理)を行った値を、補償トルクTcmpとして演算する。これ以外にも、高周波成分ωmHを低減させることができる、各種の制御器が用いられてもよい。
【0051】
補償トルク演算部38は、補償トルクTcmpに対して上限処理及び下限処理を行ってもよい。
【0052】
<目標トルク設定部39>
目標トルク設定部39は、目標トルクToを補償トルクTcmpにより補正して、補正後の目標トルクTocrを演算する。
【0053】
本実施の形態では、目標トルク設定部39は、次式に示すように、目標トルクToに補償トルクTcmpを加算して、補正後の目標トルクTocrを演算する。目標トルクToは、外部の制御装置(例えば、車両制御装置60)から伝達されてもよいし、回転電機の制御装置1内で演算されてもよい。
【数4】
【0054】
2.実施の形態2
実施の形態2に係る回転電機2及び回転電機の制御装置1について説明する。上記の実施の形態1と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る回転電機2及び回転電機の制御装置1の基本的な構成は実施の形態1と同様であるが、周波数設定部36が、車両制御装置60から取得した共振周波数frsに基づいて、カットオフ周波数fcを演算する点が実施の形態1と異なる。
【0055】
実施の形態1と同様に、回転電機2の出力軸3は、動力伝達機構50を介して、車両の車輪51に連結されている。回転電機2の出力軸3は、減速機52に連結され、減速機52の出力軸は、左右二つの車輪51の駆動軸53に連結されている。左右二つの駆動軸53に捩れ振動が生じる。
【0056】
本実施の形態では、周波数設定部36は、車両を制御する車両制御装置60から、共振周波数frsを取得する。車両制御装置60は、車両の走行を制御する装置であって、回転電機2の目標トルクToを演算し、回転電機の制御装置1に伝達する。
【0057】
車両制御装置60は、動力伝達機構50を含めた車両の状態を把握しており、動力伝達機構50に生じる共振周波数frsの変化を把握している。例えば、車両制御装置60は、車両の等価慣性重量Meq、車輪の半径R、車輪のイナーシャモーメントJw、動力伝達機構のギア比N、回転電機のイナーシャモーメントJm、及び捩れ剛性Kdの少なくとも一つのパラメータの変化に応じて、共振周波数frsを変化させる。車両制御装置60と回転電機の制御装置1とは、CAN通信などにより情報の伝達を行う。
【0058】
例えば、周波数設定部36は、式(2)に示したように、共振周波数frsから、予め設定された周波数マージンΔfを減算した周波数を、カットオフ周波数fcとして設定する。
【0059】
周波数設定部36は、次式に示すように、カットオフ周波数fcに対して、上限値fmaxにより上限制限すると共に、下限値fminにより下限制限する。
【数5】
【0060】
本実施の形態によれば、車両制御装置60は、動力伝達機構50を含めた車両の状態を把握しており、動力伝達機構50に生じる共振周波数frsを把握することができる。よって、車両制御装置60から伝達された共振周波数frsに応じて、適切にカットオフ周波数fcを設定することができる。
【0061】
3.実施の形態3
実施の形態3に係る回転電機2及び回転電機の制御装置1について説明する。上記の実施の形態1又は2と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る回転電機2及び回転電機の制御装置1の基本的な構成は実施の形態1又は2と同様であるが、周波数設定部36のカットオフ周波数fcの設定方法が実施の形態1又は2と異なる。
【0062】
本実施の形態では、周波数設定部36は、車両制御装置60から取得した車両情報に基づいて、共振周波数frsを演算する。そして、周波数設定部36は、式(2)に示したように、共振周波数frsから、予め設定された周波数マージンΔfを減算した周波数を、カットオフ周波数fcとして設定する。また、周波数設定部36は、式(5)に示したように、カットオフ周波数fcに対して、上限値fmaxにより上限制限すると共に、下限値fminにより下限制限する。
【0063】
この構成によれば、車両制御装置60は、動力伝達機構50を含めた車両の状態を把握しており、車両制御装置60から取得した車両情報に基づいて共振周波数frsを演算することにより、共振周波数frs及びカットオフ周波数fcの設定精度を高めることができる。
【0064】
周波数設定部36は、車両制御装置60から、車両情報として、車両の等価慣性重量Meqに関する情報、車輪の半径R、車輪のイナーシャモーメントJw、動力伝達機構のギア比N、回転電機のイナーシャモーメントJm、及び捩れ振動が生じる軸の捩れ剛性Kdの少なくとも一つを取得する。
【0065】
特に、周波数設定部36は、車両制御装置60から、車両情報として、少なくとも、車両の等価慣性重量Meqに関する情報を取得すればよい。車両の等価慣性重量Meqは、車両の重量と、車両に積載された人及び物の積載重量とを合計した重量である。他の車両情報は、基本的に車両特有の規定値になるので、車両制御装置60から取得できなくても、予め設定された値を用いることができる。なお、動力伝達機構のギア比Nが可変である場合は、周波数設定部36は、車両制御装置60から、動力伝達機構のギア比Nの情報を取得してもよい。
【0066】
本実施の形態では、周波数設定部36は、車両制御装置60から車両の等価慣性重量Meqを取得し、取得した車両の等価慣性重量Meqに基づいて、共振周波数frsを演算する。なお、後述する実施の形態4のように、車両制御装置60から車両の等価慣性重量Meqに関する情報を、間接的に取得する場合は、周波数設定部36は、車両の等価慣性重量Meqに関する情報に基づいて、車両の等価慣性重量Meqを設定すればよい。
【0067】
車両の等価慣性重量Meqは、車両に乗車している乗員の人数及び重量、車両に積載されている荷物及び備品の重量に応じて変化する。式(1)に示したように、車両の等価慣性重量Meqの変化に応じて、共振周波数frsが変化する。よって、車両制御装置60から取得した車両の等価慣性重量Meqに基づいて、共振周波数frsを演算することで、共振周波数frs及びカットオフ周波数fcの設定精度を向上することができる。
【0068】
車両制御装置60が、車両の速度等を自動的に制御する場合は、車両制御装置60は、積載重量に応じて変化する車両の等価慣性重量Meqを、後述する実施の形態5の方法により推定し、推定した車両の等価慣性重量Meqが伝達されるとよい。
【0069】
そして、周波数設定部36は、車両制御装置60から、取得した車両情報に基づいて、共振周波数frsを演算する。車両制御装置60から取得していない車両情報については、予め設定された値が用いられる。周波数設定部36は、式(1)を用い、取得した車両情報(例えば、車両の等価慣性重量Meq)に基づいて、共振周波数frsを演算する。なお、取得する車両情報(例えば、車両の等価慣性重量Meq)と共振周波数frsとの関係が予め設定された関数(例えば、マップデータ、近似式等)が用いられてもよい。また、動力伝達機構50の種類に応じて、式(1)とは異なる式が用いられもよい。
【0070】
4.実施の形態4
実施の形態4に係る回転電機2及び回転電機の制御装置1について説明する。上記の実施の形態1、2、又は3と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る回転電機2及び回転電機の制御装置1の基本的な構成は実施の形態1、2、又は3と同様であるが、周波数設定部36のカットオフ周波数fcの設定方法が実施の形態1、2、又は3と異なる。
【0071】
本実施の形態では、周波数設定部36は、車両を制御する車両制御装置60から、車両情報として、車両に乗車している乗員の情報を取得する。そして、周波数設定部36は、取得した乗員の情報に基づいて、車両の等価慣性重量Meqを演算し、車両の等価慣性重量Meqに基づいて、共振周波数frsを演算する。
【0072】
この構成によれば、車両制御装置60から取得した乗員の情報に基づいて、車両の等価慣性重量Meqを演算するので、共振周波数frs及びカットオフ周波数fcの設定精度を向上することができる。
【0073】
例えば、車両制御装置60は、車内をモニタする監視カメラの画像情報から、車両に乗車している乗員の数及び乗員の特徴(大きさ、推定重量等)を識別し、回転電機の制御装置1に伝達する。或いは、車両制御装置60は、シートベルトの装着状態を検出するセンサの出力信号に基づいて、車両に乗車している乗員の数を検出し、回転電機の制御装置1に伝達する。或いは、車両制御装置60は、各座席の下に配置された重量センサの出力信号に基づいて、車両に乗車している乗員の数及び乗員の重量を検出し、回転電機の制御装置1に伝達する。
【0074】
周波数設定部36は、乗員の数及び各乗員の重量を取得できる場合は、各乗員の重量を合計して、全乗員の積載重量を演算する。周波数設定部36は、乗員の数を取得できる場合は、乗員の数に標準重量を乗算して、全乗員の積載重量を演算する。そして、周波数設定部36は、車両制御装置60から取得した、又は予め設定された車両の重量と、全乗員の積載重量とを合計して、車両の等価慣性重量Meqを演算する。なお、車両制御装置60が車両に積載された荷物の重量も検出でき、荷物の積載重量も伝達される場合は、荷物の積載重量も車両の等価慣性重量Meqに加算される。
【0075】
そして、周波数設定部36は、式(1)を用い、演算した車両の等価慣性重量Meqに基づいて、共振周波数frsを演算する。なお、車両の等価慣性重量Meqと共振周波数frsとの関係が予め設定された関数(例えば、マップデータ、近似式等)が用いられてもよい。また、動力伝達機構50の種類に応じて、式(1)とは異なる式が用いられもよい。
【0076】
そして、周波数設定部36は、式(2)に示したように、共振周波数frsから、予め設定された周波数マージンΔfを減算した周波数を、カットオフ周波数fcとして設定する。また、周波数設定部36は、式(5)に示したように、カットオフ周波数fcに対して、上限値fmaxにより上限制限すると共に、下限値fminにより下限制限する。
【0077】
5.実施の形態5
実施の形態5に係る回転電機2及び回転電機の制御装置1について説明する。上記の実施の形態1、2、3、又は4と同様の構成部分は説明を省略する。本実施の形態に係る回転電機2及び回転電機の制御装置1の基本的な構成は実施の形態1、2、3、又は4と同様であるが、周波数設定部36のカットオフ周波数fcの設定方法が実施の形態1、2、3、又は4と異なる。
【0078】
本実施の形態では、周波数設定部36は、車両を制御する車両制御装置20から、車両情報として、車両の加速度avを取得する。車両の加速度avは、車両の縦方向の加速度である。周波数設定部36は、回転電機の出力トルクTm、及び車両の加速度avに基づいて、車両の等価慣性重量Meqを推定し、車両の等価慣性重量Meqに基づいて、共振周波数frsを演算する。周波数設定部36は、式(2)に示したように、共振周波数frsから、予め設定された周波数マージンΔfを減算した周波数を、カットオフ周波数fcとして設定する。
【0079】
この構成によれば、車両制御装置20から車両の等価慣性重量Meqに関する情報が得られない場合でも、車両制御装置20から得られる車両の加速度av及び回転電機の出力トルクTmに基づいて、積載重量に応じて変化する車両の等価慣性重量Meqを推定することができ、共振周波数frs及びカットオフ周波数fcの設定精度を向上することができる。回転電機の出力トルクTmとして、目標トルクToが用いられてもよいし、公知の方法により巻線電流の検出値に基づいて推定された出力トルクが用いられてもよい。
【0080】
例えば、周波数設定部36は、次式を用いて、車両の等価慣性重量Meqを推定する。車両の傾き等の外乱の影響を低減するため、式(6)により演算された車両の等価慣性重量Meqに対して、平均化処理などの統計的な処理が行われてもよい。
【数6】
【0081】
車両制御装置20から、車両情報として、車両の加速度avに加えて、車両の傾き角度θvを取得できる場合は、周波数設定部36は、次式を用いて、車両の等価慣性重量Meqを推定してもよい。ここで、車両の傾き角度θvは、水平面に対する車両の縦方向の傾き角度である。車両制御装置20は、水平センサにより車両の傾き角度θvを検出する。gは、重力加速度である。外乱の影響を低減するため、式(7)により演算された車両の等価慣性重量Meqに対して、平均化処理などの統計的な処理が行われてもよい。
【数7】
【0082】
なお、周波数設定部36は、車両の加速度avの代わりに、回転電機の回転角速度ωmrを微分して演算される回転電機の回転角加速度αmrに、ギア比N及び車輪の半径Rに応じた変換係数(R/N)が乗算された値(αmr×R/N)を用いてもよい。
【0083】
周波数設定部36は、式(1)を用い、推定した車両の等価慣性重量Meqに基づいて、共振周波数frsを演算する。なお、車両の等価慣性重量Meqと共振周波数frsとの関係が予め設定された関数(例えば、マップデータ、近似式等)が用いられてもよい。また、動力伝達機構50の種類に応じて、式(1)とは異なる式が用いられもよい。
【0084】
<その他の実施の形態>
上記の各実施の形態では、3相の巻線が設けられる場合を例として説明した。しかし、巻線の相数は、複数相であれば、2相、4相等の任意の数に設定されてもよい。
【0085】
上記の各実施の形態では、1組の3相の巻線及びインバータが設けられる場合を例として説明した。しかし、2組以上の3相巻線及びインバータが設けられ、各組の3相巻線及びインバータに対して、各実施の形態と同様の制御が行われてもよい。
【0086】
上記の各実施の形態では、回転電機の出力軸3は、動力伝達機構50を介して、車両の車輪51に連結されている場合を例として説明した。しかし、回転電機の出力軸3は、動力伝達機構50を介して、車両の車輪51以外の各種の駆動対象に連結されていてもよい。
【0087】
<本願の諸態様のまとめ>
以下、本願の諸態様を付記としてまとめて記載する。
(付記1)
複数相の巻線を有する回転電機を、インバータを介して制御する回転電機の制御装置であって、
前記回転電機の回転速度を検出する回転検出部と、
カットオフ周波数を設定する周波数設定部と、
前記回転速度の検出値に対して、前記カットオフ周波数よりも低い周波数成分を減衰するフィルタ処理を行って、回転速度の高周波成分を抽出するフィルタ処理部と、
前記高周波成分に基づいて、前記高周波成分を低減させる補償トルクを演算する補償トルク演算部と、
目標トルクを前記補償トルクにより補正して、補正後の目標トルクを演算する目標トルク設定部と、
前記補正後の目標トルクに基づいて、前記複数相の巻線に印加する複数相の交流電圧指令値を演算する電圧指令演算部と、
前記複数相の交流電圧指令値に基づいて、前記インバータが有する複数のスイッチング素子をオンオフ制御するPWM制御部と、を備え、
前記周波数設定部は、前記回転電機の出力軸が連結された動力伝達機構に生じる捩れ振動の共振周波数の変化に応じて、前記カットオフ周波数を変化させる回転電機の制御装置。
【0088】
(付記2)
前記回転電機の出力軸は、前記動力伝達機構を介して、車両の車輪に連結され、
前記周波数設定部は、前記車両を制御する車両制御装置から取得した車両情報に基づいて、前記共振周波数を演算する付記1に記載の回転電機の制御装置。
【0089】
(付記3)
前記周波数設定部は、前記車両制御装置から、前記車両情報として、前記車両の等価慣性重量に関する情報、前記車輪の半径、前記車輪のイナーシャモーメント、前記動力伝達機構のギア比、前記回転電機のイナーシャモーメント、及び前記捩れ振動が生じる軸の捩れ剛性の少なくとも一つを取得する付記2に記載の回転電機の制御装置。
【0090】
(付記4)
前記周波数設定部は、前記車両制御装置から、前記車両情報として、少なくとも、前記車両の等価慣性重量に関する情報を取得する付記2又は3に記載の回転電機の制御装置。
【0091】
(付記5)
前記回転電機の出力軸は、前記動力伝達機構を介して、車両の車輪に連結され、
前記周波数設定部は、前記車両を制御する車両制御装置から、前記共振周波数を取得する付記1に記載の回転電機の制御装置。
【0092】
(付記6)
前記周波数設定部は、前記車両を制御する車両制御装置から、前記車両情報として、前記車両に乗車している乗員の情報を取得し、
前記乗員の情報に基づいて、前記車両の等価慣性重量を演算し、前記等価慣性重量に基づいて、前記共振周波数を演算する付記2又は3に記載の回転電機の制御装置。
【0093】
(付記7)
前記周波数設定部は、前記車両の等価慣性重量、前記車輪の半径、前記車輪のイナーシャモーメント、前記動力伝達機構のギア比、前記回転電機のイナーシャモーメント、及び前記捩れ振動が生じる軸の捩れ剛性に基づいて、前記共振周波数を演算する付記2から6のいずれか一項に記載の回転電機の制御装置。
【0094】
(付記8)
前記周波数設定部は、前記等価慣性重量をMeqとし、前記車輪の半径をRとし、前記車輪のイナーシャモーメントをJwとし、前記動力伝達機構のギア比をNとし、前記回転電機のイナーシャモーメントをJmとし、前記捩れ剛性をKdとし、前記共振周波数をfrsとして、
【数8】
の算出式を用い、前記共振周波数を演算する付記7に記載の回転電機の制御装置。
【0095】
(付記9)
前記周波数設定部は、前記車両を制御する車両制御装置から、前記車両情報として、前記車両の加速度を取得し、又は前記回転電機の回転加速度を取得し、
前記回転電機の出力トルク、及び前記車両の加速度又は前記回転電機の回転加速度に基づいて、前記車両の等価慣性重量を推定し、前記等価慣性重量に基づいて、前記共振周波数を演算する付記2に記載の回転電機の制御装置。
【0096】
(付記10)
前記周波数設定部は、前記車両制御装置から、前記車両情報として、前記車両の加速度及び前記車両の傾き角度を取得し、
前記回転電機の出力トルク、前記車両の加速度又は前記回転電機の回転加速度、及び車両の傾き角度に基づいて、前記車両の等価慣性重量を推定し、前記等価慣性重量に基づいて、前記共振周波数を演算する付記9に記載の回転電機の制御装置。
【0097】
本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0098】
1:回転電機の制御装置、20:インバータ、31:回転検出部、34:電圧指令値演算部、35:PWM制御部、36:周波数設定部、37:フィルタ処理部、38:補償トルク演算部、39:目標トルク設定部、50:動力伝達機構、51:車輪、52:減速機、53:駆動軸、60:車両制御装置、Jm:回転電機のイナーシャモーメント、Jw:車輪のイナーシャモーメント、Kd:捩れ剛性、Meq:車両の等価慣性重量、N:ギア比、Tcmp:補償トルク、To:目標トルク、Tocr:補正後の目標トルク、fc:カットオフ周波数、fmax:上限値、fmin:下限値、frs:共振周波数、R:車輪の半径、ωmr:回転電機の回転速度、ωmH:高周波成分
図1
図2
図3
図4