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特開2024-169881冗長系システムおよび冗長系システムの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169881
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】冗長系システムおよび冗長系システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B61L 27/33 20220101AFI20241129BHJP
   B61L 19/06 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
B61L27/33
B61L19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086711
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手島 久典
(72)【発明者】
【氏名】前島 祐三
(72)【発明者】
【氏名】足立 進吾
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161JJ01
5H161JJ12
(57)【要約】
【課題】冗長系を採用した鉄道制御装置において、主系停止時の影響が小さい場合に従系を停止させる技術を提供し、コスト低減化を図り機器利用の効率化を高める。
【解決手段】主系の制御装置および1以上の従系の制御装置から構成される冗長系システムとして、主系または従系の制御装置によって制御される制御対象設備の状態情報が所定の条件を満たす場合に、従系の制御装置による従系処理を停止状態にする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主系の制御装置および1以上の従系の制御装置から構成される冗長系システムであって、
前記主系または前記従系の制御装置によって制御される制御対象設備の状態情報が所定の条件を満たす場合に、前記従系の制御装置による従系処理を停止状態にする
ことを特徴とする冗長系システム。
【請求項2】
請求項1に記載の冗長系システムであって、
前記従系の制御装置自らが、前記従系処理を停止状態にする
ことを特徴とする冗長系システム。
【請求項3】
請求項2に記載の冗長系システムであって、
前記従系処理の停止状態時に前記所定の条件が満たされない場合には、前記主系の制御装置が前記従系処理を起動させる
ことを特徴とする冗長系システム。
【請求項4】
請求項3に記載の冗長系システムであって、
前記従系の制御装置が2以上の複数である場合、従系として起動が必要な制御装置の最小数を設定し、当該最小数に応じた前記従系の制御装置の停止処理および起動処理を実行する
ことを特徴とする冗長系システム。
【請求項5】
請求項4に記載の冗長系システムであって、
前記主系および前記従系の制御装置は、前記所定の条件を格納する条件データベースを有する
ことを特徴とする冗長系システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の冗長系システムであって、
前記制御対象設備は、鉄道の連動装置が備える地上設備である
ことを特徴とする冗長系システム。
【請求項7】
請求項6に記載の冗長系システムであって、
前記所定の条件とは、列車の在線を管理する制御範囲内に存在する前記地上設備に対する設備制御が行われていない状態、前記制御範囲内に所定時間列車の接近がない状態および列車運行密度が所定閾値より小さい状態、の少なくともいずれか一つである
ことを特徴とする冗長系システム。
【請求項8】
請求項7に記載の冗長系システムであって、
複数の前記制御範囲それぞれに前記主系および前記従系の制御装置を設け、
前記主系の制御装置が、自らの前記制御範囲とは異なる前記制御範囲における前記従系処理を起動させる
ことを特徴とする冗長系システム。
【請求項9】
主系の制御装置および1以上の従系の制御装置から構成される冗長系システムの制御方法であって、
前記制御装置によって制御される制御対象設備の状態情報が所定の条件を満たすか否かを判定し、
前記所定の条件を満足する場合には、前記従系の制御装置による従系処理を停止状態にする
ことを特徴とする冗長系システムの制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の冗長系システムの制御方法であって、
前記従系の制御装置自らが、前記従系処理を停止状態にする
ことを特徴とする冗長系システムの制御方法。
【請求項11】
請求項10に記載の冗長系システムの制御方法であって、
前記従系処理の停止状態時に前記所定の条件が満たされない場合には、前記主系の制御装置が前記従系処理を起動させる
ことを特徴とする冗長系システムの制御方法。
【請求項12】
請求項11に記載の冗長系システムの制御方法であって、
前記従系の制御装置が2以上の複数である場合、従系として起動が必要な制御装置の最小数を設定し、当該最小数に応じた前記従系の制御装置の停止処理および起動処理を実行する
ことを特徴とする冗長系システムの制御方法。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか1項に記載の冗長系システムの制御方法であって、
前記制御対象設備は、鉄道の連動装置が備える地上設備である
ことを特徴とする冗長系システムの制御方法。
【請求項14】
請求項13に記載の冗長系システムの制御方法であって、
前記所定の条件とは、列車の在線を管理する制御範囲内に存在する前記地上設備に対する設備制御が行われていない状態、前記制御範囲内に所定時間列車の接近がない状態および列車運行密度が所定閾値より小さい状態、の少なくともいずれか一つである
ことを特徴とする冗長系システムの制御方法。
【請求項15】
請求項14に記載の冗長系システムの制御方法であって、
複数の前記制御範囲それぞれに前記主系および前記従系の制御装置を設け、
前記主系の制御装置が、自らの前記制御範囲とは異なる前記制御範囲における前記従系処理を起動させる
ことを特徴とする冗長系システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主系と従系を備える冗長系システムおよびその制御方法に関し、特に、鉄道制御装置に対して好適である。
【背景技術】
【0002】
地上側に設置される鉄道制御装置としては、電子連動装置、自動列車制御装置、運行管理装置などがある。これら鉄道制御装置においては、可用性の向上のために主系と従系から成る冗長化システムを採用している場合が多々存在する。
【0003】
例えば、特許文献1には、列車運行管理装置において、主系および従系の進路制御部を備え、異なる2駅に設置された進路制御装置それぞれが、互いに自らの生存情報を送受信するが、自系が停止している状態では、自らの生存情報の送信ができず、また、他系からの生存情報も受信できないので、他系から停止命令を受けて次系を停止させる技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-235682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した地上側に設置される鉄道制御装置に対しても、近年、オペレーションコスト低減に向けアセットライト化が推進される傾向にある。その一環として、上記した制御装置群をクラウド環境に移行する提案がなされているところ、クラウド化に当たってはネットワーク利用のコストやセキュリティ対策のコストなどの新たな費用が発生するため、現行設備の単純なクラウド化のみならず、機器集約といった機器利用の効率化を合わせて実施する必要性が求められる。また、冗長化システムに対しても、コスト低減化に向けてコンピューティングの稼働時間を考慮する必要性が求められる。
【0006】
また、特許文献1では、主系または従系が故障により停止している状態において、自系の生存情報を送信せず、他系の生存情報も受信できないので、他系からの停止命令の受信後に自系を停止させる技術であるが、あくまでも異常時における主系または従系の停止処理であり、正常時の状態下での停止処理を想定したものではない。
【0007】
そこで、本発明では、冗長系を採用した鉄道制御装置において、主系停止時の影響が小さい場合に従系を停止させる技術を提供し、コスト低減化を図り機器利用の効率化を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の冗長系システムの一つは、主系の制御装置および1以上の従系の制御装置から構成される冗長系システムであって、主系または従系の制御装置によって制御される制御対象設備の状態情報が所定の条件を満たす場合に、従系の制御装置による従系処理を停止状態にするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、主系停止時の影響が小さい場合に従系を停止させることにより稼働コストを低減させることができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1に係るシステム構成の一例を示す図である。
図2】本発明の各実施例に係る主系または従系となる制御装置を構成する構成要素の一例を示す図である。
図3】従系起動処理部によって実行される従系起動処理のフローチャートの一例を示す図である。
図4】従系停止処理部によって実行される従系停止処理のフローチャートの一例を示す図である。
図5】本発明の実施例2に係るシステム構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態として実施例1および実施例2について説明する。なお、これら実施例1および実施例2により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0012】
本発明の実施例としては、地上に設置する鉄道制御装置の内、電子連動装置を対象としているが、これに限定されるものではなく、自動列車制御装置または運行管理装置などへの適用も可能である。
【実施例0013】
図1は、本発明の実施例1に係るシステム構成の一例を示す図である。
冗長系システム100は、制御対象設備130を制御するもので、主系の制御装置110と少なくとも1台以上の従系の制御装置120から構成される。以降、主系の制御装置110を「制御装置(主系)110」、従系の制御装置120を「制御装置(従系)120」とする。ここで、制御装置(主系)110、制御装置(従系)120および制御対象設備130は、相互にネットワーク等で接続され、相互に必要な情報を送受信する。
【0014】
本発明では、制御装置(主系)110および制御装置(従系)120は共に、従系起動処理部200と従系停止処理部300とを備える。これは、従系起動処理部200および従系停止処理部300をソフトウェア構成にしてインストールすることを想定に、主系および従系の双方に備えるようにしたものである。これにより、制御装置(主系)110を主系のみ、制御装置(従系)120を従系のみ、と固定することなく、それぞれ主系と従系とをスイッチすることを可能とし、制御装置110および制御装置120それぞれは、主系にも従系にもなり得るものである。
そして、本発明は、主系の制御装置が従系起動処理部200を動作させ、従系の制御装置自らが従系停止処理部300を動作させることを特徴とするものである。
【0015】
図1では、制御装置(主系)110は、実線枠で示す従系起動処理部200がアクティブで動作をし、制御装置(従系)120が、実線枠で示す従系停止処理部300がアクティブで動作をする。一方、点線枠で示す、制御装置(主系)110の従系停止処理部および制御装置(従系)120の従系起動処理部は、非アクティブ状態である。
【0016】
ここで、制御装置(従系)120を主系に、かつ制御装置(主系)110を従系に、それぞれスイッチさせると、点線枠であった従系起動処理部または従系停止処理部がアクティブとなり(即ち、実線枠となる)、実線枠であった従系停止処理部または従系起動処理部が非アクティブとなる(即ち、点線枠となる)。
【0017】
また、制御装置(主系)110を従系起動処理部200のみ、制御装置(従系)120を従系停止処理部300のみとして固定化することも可能であるが、従系起動処理部200および従系停止処理部300それぞれがソフトウェア構成であることから、制御装置(主系)110および制御装置(従系)120それぞれが、従系起動処理部200および従系停止処理部300の両方備えることは容易く、またフレキシブルな対応を図ることが可能となる。
勿論、従系起動処理部200および従系停止処理部300それぞれを、ソフトウェア構成ではなく、ハードウェア構成とすることも可能である。
【0018】
図2は、本発明の各実施例に係る主系または従系となる制御装置(110または120)を構成する構成要素の一例を示す図である。
制御装置(110または120)は、一般的な制御装置と同様に、演算装置170、メモリ140、記憶装置190、入力装置160、出力装置150および通信装置180から構成される。
【0019】
メモリ140には、ソフトウェアとして、従系起動処理部200と従系停止処理部300とが格納され、情報(データ)として、地上設備状態情報400、制御状態情報500、条件データベース(DB)600、運行計画情報700および列車位置情報800が格納される。
【0020】
地上設備状態情報400は、鉄道の主要な地上設備である、信号機、軌道回路および転轍機に係る状態情報である。例えば、信号機に関しては信号機の色信号、軌道回路に関しては落下か扛上か、転轍機に関しては鎖錠か解錠か、などの状態情報が挙げられる。これらの地上設備状態情報は、各地上設備から電子連動装置(図示せず)へ出力される。
【0021】
制御状態情報500は、相互に関連する地上設備の状態を連動して制御する際に用いる、鎖錠または解錠、時素カウント等の制御状態を示す状態情報である。これらの制御状態情報は、電子連動装置(図示せず)からの出力態様から把握される状態情報である。
【0022】
条件データベース(DB)600は、上記した地上設備状態情報400および制御状態情報500に関して、従系の制御装置の停止可能条件を格納したデータベースである。また、従系の制御装置を2以上の複数設ける場合には、2以上の複数の従系の制御装置の内で起動する従系の最小数を格納するようにしてもよい。
【0023】
運行計画情報700は、列車の運行計画、具体的には、路線内の列車がいつ、どこにいるか等の計画を示す、いわゆる運行ダイヤの情報である。
【0024】
列車位置情報800は、制御装置が管轄する制御範囲外を走行する周辺の列車の位置情報である。管轄する自らの制御範囲内の列車位置は、地上設備である軌道回路の状態から把握できる。ただし、地上設備状態情報400と併せ持つ形で、自らの制御範囲内の列車位置を重複して格納してもよい。
【0025】
次に、主系または従系となる制御装置(110または120)それぞれが備える、従系起動処理部200および従系停止処理部300に関する入出力態様および処理態様について説明する。
【0026】
従系起動処理部200および従系停止処理部300の入力データは、必須のデータとして、地上設備状態情報、制御状態情報およびこれら情報に関する条件データベースの格納情報である。また、オプションのデータとして、列車運行計画情報(または列車運行予測情報)および制御対象範囲外の列車位置情報である。
【0027】
一方で、主系または従系となる制御装置(110または120)からの出力データとして、主系から従系へは、従系を起動させるための従系起動指示データが送られるが、従系から主系へ送られるデータはない(後述するが、従系の停止指示は、従系自らが指示すること(自系指示)になる)。
【0028】
本発明は、先の「発明が解決しようとする課題」に示したように、主系停止時の影響が小さい場合に従系を停止させるものであるが、その主系停止時の影響が小さい場合とは、上記した状態情報から以下の場合が該当する。
【0029】
即ち、管理下にある制御範囲内の設備制御が行われていない状態であること、具体的には、以下の1)から3)が成り立つ(AND)状態が挙げられる。
1)範囲内に列車が在線していない状態
一例として、駅の構内および手前の駅間に列車が在線していない状態
2)設備が鎖錠かつ時素カウント中ではない状態
【0030】
3)しばらく制御範囲内に列車が来ない状態
例えば、列車運行計画上、一定時間以内に列車接近がない状態、または、列車運行計画を見ずに進路設定時に従系起動する形態で対応
また、上記の状態とは別に、主系停止時の影響が小さい場合として、列車運行密度が小さい場合が挙げられる。上記の状態より条件的にはもう少し緩和した条件であるが、例えば、列車運行が、閑散時間帯であるか、または、夜間時間帯である場合、が挙げられる。
【0031】
次に、従系起動処理および従系停止処理について、具体的な処理態様を説明する。
図3は、従系起動処理部200によって実行される従系起動処理のフローチャートの一例を示す図である。このフローチャートは、所定の一定周期で実行され、その実行主体は、従系起動処理部200である。以下では、実行主体の記載は省略する。
【0032】
ステップS201では、従系が起動中であるか否かを判断する。既に起動中であれば(Yes)、従系起動処理フローを終了する。起動中でなければ(No)、ステップS202に進む。
ステップS202では、従系起動条件の内容を判定する。従系起動条件については、後述するが、従系停止条件とは逆の条件である。
【0033】
ステップS203では、従系起動条件が成立しているか否かを判断する。従系起動条件が成立していれば(Yes)、ステップS204に進み、従系起動条件が成立していなければ(No)、従系起動処理フローを終了する。
ステップS204では、従系の起動を指示し、その後従系起動処理フローを終了する。
【0034】
図4は、従系停止処理部300によって実行される従系停止処理のフローチャートの一例を示す図である。このフローチャートも、先の従系起動処理部200が実行する従系起動処理と同様に、所定の一定周期で実行され、その実行主体は、従系停止処理部300である。以下では、実行主体の記載は省略する。
【0035】
ステップS301では、従系停止条件の内容を判定する。従系停止条件については、後述するが、従系起動条件とは逆の条件である。
【0036】
ステップS302では、従系停止条件が成立しているか否かを判断する。従系停止条件が成立していれば(Yes)、ステップS303に進み、従系停止条件が成立していなければ(No)、従系停止処理フローを終了する。
【0037】
ステップS303では、従系停止、即ち従系である自系の停止を行い、その後従系停止処理フローを終了する。
【0038】
次に、従系起動条件および従系停止条件について説明する。
上記したとおり、従系起動条件と従系停止条件とは、互いに裏返しの関係にあることから、以下では、本発明のポイントに係わる従系停止条件を先に説明する。
【0039】
<従系停止条件>
従系停止条件は、図4に示す従系停止処理フローのステップS301で判定される条件であって、従系起動条件は、図3に示す従系起動処理フローのステップS202で判定される条件である。
【0040】
双方の条件共に、後述する「A)現在状態に関する条件」が、必須の条件であり、また、後述する「B)将来予測に関する条件」および「C)運行密度に関する条件」の少なくともいずれかが、オプションの条件である。
【0041】
即ち、「A)現在状態に関する条件」となる項目は、従系停止条件として必ず判定するものである。一方、「B)将来予測に関する条件」となる項目および「C)運行密度に関する条件」となる項目の少なくともいずれかは、オプションとして判定されるものであって、「A)現在状態に関する条件」と共に必ず判定を要するものではなく、必要に応じて判定するものである。
【0042】
また、オプションである、「B)」および「C)」の少なくともいずれかを判定する際には、必須の「A)」が不成立で従系停止としない場合であっても、これら「B)」および「C)」の少なくともいずれかが不成立であれば、従系である自系を停止することになる。
【0043】
具体的な判定条件について以下に記す。
A)現在状態に関する条件
ア 入力情報
・地上設備状態情報 : 信号機、軌道回路、転轍機の各状態情報
・制御状態情報 : 鎖錠状態や時素に関する状態情報
【0044】
イ 判定条件
入力情報(即ち、地上設備状態情報および制御状態情報が示す状態)が、条件データベース(DB)の設定値と一致することが停止の成立条件である。ここで、条件データベース(DB)の設定値の基本は、地上設備状態および制御状態のデフォルト値である。そのデフォルト値とは、「列車非在線」、「進路未設定」、「設備鎖錠中でない」、「時素カウント中ではない」、などが挙げられ、それらデフォルト値のAND条件が満たされれば、停止条件が成立することになる。
【0045】
ただし、反位保持等の場合の「進路設定中」や、滞泊等の場合の「列車在線あり」のケースなどのデフォルト値以外でも、従系を停止させても問題のないケースが存在する。そのため、条件データベース(DB)への設定には柔軟に対応する。
【0046】
B)将来予測に関する条件
ア 入力情報
列車運行計画情報または列車運行予測情報、および、制御対象範囲外の列車位置情報
【0047】
イ 判定条件
列車運行計画上または列車運行予測上において、制御範囲内の進路決定時機が予め指定された閾値より大きい場合に、停止条件が成立する。具体的には、列車が制御範囲内に侵入するまでに十分な余裕がある場合には停止条件が成立する。
【0048】
C)運行密度に関する条件
ア 入力情報
列車運行計画情報または列車運行予測情報
【0049】
イ 判定条件
列車運行計画上または列車運行予測上において、現在時刻から予め指定された時間幅について、制御範囲内の進路設定頻度が予め指定された閾値より小さい場合に、停止条件が成立する。具体的には、制御範囲内における列車の運行密度が十分に疎である場合には停止条件が成立する。
【0050】
<従系起動条件>
一方で、従系起動条件については、上記のとおり従系停止条件の裏返しであって、以下に先の従系停止条件に合わせる形で説明する。
【0051】
A)現在状態に関する条件
ア 入力情報
従系停止条件の場合と同じ情報である。
【0052】
イ 判定条件
入力情報が、条件データベース(DB)の設定値である、地上設備状態および制御状態のデフォルト値に一つでも該当しないことが起動の成立条件である。
【0053】
B)将来予測に関する条件
ア 入力情報
従系停止条件の場合と同じ情報である。
【0054】
イ 判定条件
列車運行計画上または列車運行予測上において、制御範囲内の進路決定時機が予め指定された閾値より小さい場合に、起動条件が成立する。具体的には、列車が制御範囲内に侵入するまでに余裕のない場合に、起動条件が成立する。
【0055】
C)運行密度に関する条件
ア 入力情報
従系停止条件の場合と同じ情報である。
【0056】
イ 判定条件
列車運行計画上または列車運行予測上において、現在時刻から予め指定された時間幅について、制御範囲内の進路設定頻度が予め指定された閾値より大きい場合に、起動条件が成立する。具体的には、制御範囲内における列車の運行密度が密である場合に、起動条件が成立する。
【実施例0057】
図5は、本発明の実施例2に係るシステム構成の一例を示す図である。
実施例2は、実施例1に係る冗長系システム100の構成を複数の制御範囲に拡張したものであって、主系と従系との組み合わせが複数組となるものである。図5に示すように、制御範囲1の制御対象設備に対する主系の制御装置110と従系の制御装置120、および、制御範囲2の制御対象設備130´に対する主系の制御装置110´と従系の制御装置120´、から構成される。双方の主系または従系となる制御装置は、内部に従系起動処理部200および従系停止処理部300を備えている。また、3以上の制御範囲の場合も、同様の関係の構成となる。
【0058】
実施例2の特徴は、異なる制御範囲の制御範囲1から制御範囲2内の制御装置の起動を可能にする点である。例えば、図5に示す構成では、制御範囲1から制御範囲2内の制御装置の起動(この逆パターンも有り)を可能にする。即ち、制御範囲2の主系の制御装置110´がダウンしたとしても、制御範囲1の主系の制御装置110がバックアップとなって、制御範囲2の従系の制御装置120´の起動処理を行う。このバックアップの仕方は、制御範囲1の方が上記したダウンを引き起こした場合も同様である。
【0059】
また、以上の実施例1および実施例2によれば、少なくとも以下の各技術態様が包含されることになる。
<技術態様1>
主系の制御装置および1以上の従系の制御装置から構成される冗長系システムであって、主系または従系の制御装置によって制御される制御対象設備の状態情報が所定の条件を満たす場合に、前記従系の制御装置による従系処理を停止状態にする。
【0060】
<技術態様2>
上記技術態様1に記載した冗長系システムであって、従系の制御装置自らが従系処理を停止状態にする。
【0061】
<技術態様3>
上記技術態様1または2に記載した冗長系システムであって、従系処理の停止状態時に所定の条件が満たされない場合には、主系の制御装置が従系処理を起動させる。
【0062】
<技術態様4>
上記技術態様1から3のいずれかに記載した冗長系システムであって、従系の制御装置が2以上の複数である場合、従系として起動が必要な制御装置の最小数を設定し、当該最小数に応じた従系の制御装置の停止処理および起動処理を実行する。
【0063】
<技術態様5>
上記技術態様1から4のいずれかに記載した冗長系システムであって、主系および従系の制御装置は所定の条件を格納する条件データベースを有する。
【0064】
<技術態様6>
上記技術態様1から5のいずれかに記載した冗長系システムであって、制御対象設備は鉄道の連動装置が備える地上設備である。
【0065】
<技術態様7>
上記技術態様6に記載した冗長系システムであって、所定の条件とは、列車の在線を管理する制御範囲内に存在する前記地上設備に対する設備制御が行われていない状態、制御範囲内に所定時間列車の接近がない状態および列車運行密度が所定閾値より小さい状態、の少なくともいずれか一つである。
【0066】
<技術態様8>
上記技術態様7に記載した冗長系システムであって、複数の前記制御範囲それぞれに主系および従系の制御装置を設け、主系の制御装置が自らの制御範囲とは異なる制御範囲における従系処理を起動させる。
【0067】
<技術態様9>
主系の制御装置および1以上の従系の制御装置から構成される冗長系システムの制御方法であって、制御装置によって制御される制御対象設備の状態情報が所定の条件を満たすか否かを判定し、所定の条件を満足する場合には、従系の制御装置による従系処理を停止状態にする。
【0068】
<技術態様10>
上記技術態様9に記載した冗長系システムの制御方法であって、従系の制御装置自らが従系処理を停止状態にする。
【0069】
<技術態様11>
上記技術態様9または10に記載した冗長系システムの制御方法であって、従系処理の停止状態時に所定の条件が満たされない場合には、主系の制御装置が従系処理を起動させる。
【0070】
<技術態様12>
上記技術態様9から11のいずれかに記載した冗長系システムの制御方法であって、従系の制御装置が2以上の複数である場合、従系として起動が必要な制御装置の最小数を設定し、当該最小数に応じた従系の制御装置の停止処理および起動処理を実行する。
【0071】
<技術態様13>
上記技術態様9から12のいずれかに記載した冗長系システムの制御方法であって、制御対象設備は鉄道の連動装置が備える地上設備である。
【0072】
<技術態様14>
上記技術態様13に記載した冗長系システムの制御方法であって、所定の条件とは、列車の在線を管理する制御範囲内に存在する地上設備に対する設備制御が行われていない状態、制御範囲内に所定時間列車の接近がない状態および列車運行密度が所定閾値より小さい状態、の少なくともいずれか一つである。
【0073】
<技術態様15>
上記技術態様14に記載した冗長系システムの制御方法であって、複数の制御範囲それぞれに主系および従系の制御装置を設け、主系の制御装置が自らの制御範囲とは異なる制御範囲における従系処理を起動させる。
【0074】
以上、本発明の実施の形態として実施例1および実施例2について説明したが、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
100…冗長系システム、110…制御装置(主系)、120…制御装置(従系)、
130…制御対象設備、140…メモリ、150…出力装置、160…入力装置、
170…演算装置、180…通信装置、190…記憶装置、
200…従系起動処理部、300…従系停止処理部
図1
図2
図3
図4
図5