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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169942
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】フィルム検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20241129BHJP
   G02B 7/28 20210101ALI20241129BHJP
   G03B 21/53 20060101ALI20241129BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20241129BHJP
   G03B 15/02 20210101ALI20241129BHJP
【FI】
G01N21/892 A
G02B7/28 Z
G03B21/53
G02B7/02 F
G03B15/02 P
G02B7/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086815
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 直哉
(72)【発明者】
【氏名】星 和樹
(72)【発明者】
【氏名】金子 昭洋
(72)【発明者】
【氏名】ウートーング ピヤブット
【テーマコード(参考)】
2G051
2H011
2H044
2H151
【Fターム(参考)】
2G051AA32
2G051AA41
2G051AB02
2G051BB03
2G051CA03
2G051CA04
2G051CD02
2G051DA06
2H011AA06
2H011BA51
2H011CA22
2H044AD01
2H044AH01
2H151AA15
2H151BB31
2H151CB17
(57)【要約】
【課題】フィルムのインライン検査において、高分解能の光学系を用いてフィルムの表面上の数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検出可能にする。
【解決手段】帯状のフィルム2を搬送する搬送部3と、レンズユニット43、鏡筒42およびカメラ41を有し、搬送部3による搬送中のフィルム2の表面2aを撮像する撮像部4と、レンズユニット43および鏡筒42のうち少なくとも1つの熱膨張量であって、レンズユニット43の光軸方向の熱膨張量を測定する熱膨張測定部7と、レンズユニット43を光軸方向に移動させる移動部8と、移動部8を制御する制御部10と、を備え、制御部10は、搬送部3による搬送中のフィルム2の表面2aとレンズユニット43の先端部43aとの間の距離が一定になるように、熱膨張測定部7により測定される熱膨張量に応じて、移動部8によりレンズユニット43を光軸方向に移動させる、フィルム検査装置1が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状のフィルムを搬送する搬送部と、
レンズユニット、鏡筒およびカメラを有し、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの表面を撮像する撮像部と、
前記レンズユニットおよび前記鏡筒のうち少なくとも1つの熱膨張量であって、前記レンズユニットの光軸方向の熱膨張量を測定する熱膨張測定部と、
前記レンズユニットを前記光軸方向に移動させる移動部と、
前記移動部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの表面と前記レンズユニットの先端部との間の距離が一定になるように、前記熱膨張測定部により測定される前記熱膨張量に応じて、前記移動部により前記レンズユニットを前記光軸方向に移動させる、フィルム検査装置。
【請求項2】
前記熱膨張測定部は、前記熱膨張量として、前記光軸方向における基準位置からの前記レンズユニットの所定部位の変位を測定する、請求項1に記載のフィルム検査装置。
【請求項3】
前記熱膨張測定部は、接触式変位計である、請求項2に記載のフィルム検査装置。
【請求項4】
前記鏡筒は、前記カメラに接続されており
前記レンズユニットと前記鏡筒は、相互に非接触となるように配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム検査装置。
【請求項5】
前記撮像部は、前記レンズユニットと前記鏡筒との間の隙間を覆う遮光部材をさらに有する、請求項4に記載のフィルム検査装置。
【請求項6】
前記フィルム検査装置は、照明光を出射する光源をさらに備え、
前記熱膨張測定部は、前記照明光により加熱された前記レンズユニットおよび前記鏡筒のうち少なくとも1つの前記熱膨張量を測定する、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム検査装置。
【請求項7】
前記光源は、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの表面側に配置され、前記光軸方向と交差する方向に前記照明光を出射し、
前記フィルム検査装置は、
前記搬送部による搬送中の前記フィルムと前記レンズユニットとの間に配置され、前記光源から出射された前記照明光を前記光軸方向に屈折させて、前記照明光を前記光軸方向と同軸上で前記フィルムの表面に入射させるプリズムをさらに備える、請求項6に記載のフィルム検査装置。
【請求項8】
前記光源は、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの表面側に配置され、前記光軸方向に対して傾斜した方向から、当該フィルムの表面に向けて前記照明光を出射する、請求項6に記載のフィルム検査装置。
【請求項9】
前記光源は、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの裏面側に配置され、前記レンズユニットの光軸と同軸上で当該フィルムの裏面に向けて前記照明光を出射する、請求項6に記載のフィルム検査装置。
【請求項10】
前記搬送部による前記フィルムの搬送速度は、60m/min以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフィルム検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インライン検査では、長尺帯状の検査対象物を搬送しながら、走行する検査対象物の表面を撮像装置で連続的に撮像して、当該検査対象物の表面に存在する傷または汚れ等の欠陥が検査される。
【0003】
例えば、特許文献1には、走行する鋼板の表面に対向配置された対物レンズを介して、当該鋼板の表面をオンラインで撮像する方法が開示されている。この特許文献1では、撮像された画像の輝度値から算出したぼけ指標に基づいて、対物レンズを移動させることによって、鋼板の表面の位置が対物レンズの被写界深度から逸脱することを抑制している。
【0004】
また、特許文献2には、電解質膜フィルムを長手方向に搬送しながら、当該フィルムの幅方向に移動する照明装置とラインセンサーを用いて、フィルム性状を検査するフィルム検査装置が開示されている。この特許文献2では、光が照射されたセンシング箇所とラインセンサーとの間の隔たりが小さいほど、短波長の光を照射することによって、フィルム性状の検査精度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-025893号
【特許文献2】特開2014-126479号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フィルムの表面(検査面)上の数μmレベルの微小な欠陥を検出するためには、非常に高い分解能を有する光学系を備えた撮像装置を使用する必要がある。ところが、光学系の分解能が高くなるほど、光学系の被写界深度が小さくなる。このため、照明またはカメラなどの発熱により光学系が熱膨張して、光学系とフィルムの表面(検査面)との間の撮像距離が変化すると、当該フィルム表面の位置が光学系の被写界深度から外れやすくなるという問題があった。
【0007】
したがって、数μmレベルの微小な欠陥を検出するために高分解能の光学系を用いた場合であっても、光学系の熱膨張による撮像距離の変化を補正して、当該表面に対して正確に焦点を合わせて撮像可能なフィルム検査装置が希求されていた。この点、上記特許文献1、2に記載の検査装置は、薄いフィルムの表面の数μmレベルの微小な欠陥を検出可能な高分解能の光学系を備えていないため、当該欠陥を検出することはできなかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、フィルムのインライン検査において、高分解能の光学系を用いてフィルムの表面上の数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検出可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、
帯状のフィルムを搬送する搬送部と、
レンズユニット、鏡筒およびカメラを有し、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの表面を撮像する撮像部と、
前記レンズユニットおよび前記鏡筒のうち少なくとも1つの熱膨張量であって、前記レンズユニットの光軸方向の熱膨張量を測定する熱膨張測定部と、
前記レンズユニットを前記光軸方向に移動させる移動部と、
前記移動部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの表面と前記レンズユニットの先端部との間の距離が一定になるように、前記熱膨張測定部により測定される前記熱膨張量に応じて、前記移動部により前記レンズユニットを前記光軸方向に移動させる、フィルム検査装置が提供される。
【0010】
前記熱膨張測定部は、前記熱膨張量として、前記光軸方向における基準位置からの前記レンズユニットの所定部位の変位を測定するようにしてもよい。
【0011】
前記熱膨張測定部は、接触式変位計であるようにしてもよい。
【0012】
前記鏡筒は、前記カメラに接続されており
前記レンズユニットと前記鏡筒は、相互に非接触となるように配置されているようにしてもよい。
【0013】
前記撮像部は、前記レンズユニットと前記鏡筒との間の隙間を覆う遮光部材をさらに有するようにしてもよい。
【0014】
前記フィルム検査装置は、照明光を出射する光源をさらに備え、
前記熱膨張測定部は、前記照明光により加熱された前記レンズユニットおよび前記鏡筒のうち少なくとも1つの前記熱膨張量を測定するようにしてもよい。
【0015】
前記光源は、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの表面側に配置され、前記光軸方向と交差する方向に前記照明光を出射し、
前記フィルム検査装置は、
前記搬送部による搬送中の前記フィルムと前記レンズユニットとの間に配置され、前記光源から出射された前記照明光を前記光軸方向に屈折させて、前記照明光を前記光軸方向と同軸上で前記フィルムの表面に入射させるプリズムをさらに備えるようにしてもよい。
【0016】
前記光源は、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの表面側に配置され、前記光軸方向に対して傾斜した方向から、当該フィルムの表面に向けて前記照明光を出射するようにしてもよい。
【0017】
前記光源は、前記搬送部による搬送中の前記フィルムの裏面側に配置され、前記レンズユニットの光軸と同軸上で当該フィルムの裏面に向けて前記照明光を出射するようにしてもよい。
【0018】
前記搬送部による前記フィルムの搬送速度は、60m/min以下であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、フィルムのインライン検査において、高分解能の光学系を用いてフィルムの表面上の数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検出可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係るフィルム検査装置の全体構成を示す模式図である。
図2】走行中のフィルムの振動が原因で、レンズユニットの焦点位置がずれる問題を説明するための模式図である。
図3】回転中のガイドロールの振れが原因で、レンズユニットの焦点位置がずれる問題を説明するための模式図である。
図4】同実施形態に係るフィルム検査装置によるフィルム変位に追従するオートフォーカス動作を示す模式図である。
図5】同実施形態に係る透明フィルムの裏面側に配置された非接触式変位計を示す模式図である。
図6】同実施形態の変更例に係る非透明フィルムの表面側に配置された非接触式変位計を示す模式図である。
図7】本実施形態に係るフィルム検査装置による熱膨張補正AF動作を示す模式図である。
図8】同実施形態の第1の例に係る照明部の配置を示す模式図である。
図9】同実施形態の第2の例に係る照明部の配置を示す模式図である。
図10】同実施形態の第3の例に係る照明部の配置を示す模式図である。
図11】同実施形態の変更例に係るフィルム検査装置を示す模式図である。
図12】実施例2に係るフィルム検査装置によりインライン検査試験を行ったときの撮像部の各部の温度変化を示すグラフである。
図13】実施例3に係るフィルム検査装置によりインライン検査試験を行ったときのフィルム変位とフォーカスのずれ量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料、数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
[1.フィルム検査装置の全体構成]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係るフィルム検査装置1の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係るフィルム検査装置1の全体構成を示す模式図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係るフィルム検査装置1は、検査対象である長尺帯状のフィルム2の搬送中に、当該フィルム2を検査するためのインライン検査装置である。フィルム検査装置1は、ガイドロール31などの搬送部3によりフィルム2を長手方向に搬送しながら、走行するフィルム2の一側の表面2a(検査面)を撮像部4により撮像し、当該フィルム2の表面2a(検査面)における欠陥の有無や状態などを検査するために用いられる。なお、フィルム2の表面2aは、フィルム2の2つの面のうち、検査対象となる側の面(検査面)である。一方、フィルム2の裏面2bは、フィルム2の表面2a(検査面)とは反対側の面(非検査面)である。
【0024】
検査対象のフィルム2は、例えば、透明フィルム2A(図5参照。)であってもよいし、非透明フィルム2B(図6参照。)であってもよい。透明フィルム2Aは、89%以上の全光線透過率を有するフィルムである。非透明フィルム2Bは、25%以下の全光線透過率を有するフィルムである。非透明フィルム2Bは、例えば、フィルムの基材を形成する樹脂に着色顔料を含有させた着色フィルムであってよい。着色フィルムは、例えば、白色または黒色などの各種の色に着色されたフィルムである。
【0025】
なお、本実施形態では、検査対象のフィルム2が、上記の透明フィルム2Aまたは非透明フィルム2Bである例について説明するが、かかる例に限定されない。検査対象のフィルム2は、その他の各種のフィルム(例えば、半透明フィルム、または、透光性を有するフィルムなど)であってもよい。
【0026】
また、フィルム2は、例えば、樹脂製の薄いフィルムである。フィルム2の材質は、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。ポリオレフィン樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。フィルム2の厚さは、例えば、25μm以上、250μm以下であり、50μm以上、125μm以下であることが好ましい。
【0027】
本実施形態に係るフィルム検査装置1は、搬送部3(例えば、ガイドロール31など)と、撮像部4(例えば、カメラ41、鏡筒42、レンズユニット43など)と、照明部5(例えば、光源51、プリズム52など)と、変位測定部6(例えば、非接触式変位計61)と、熱膨張測定部7(例えば、接触式変位計71)と、移動部8(例えば、アクチュエータ81、エンコーダ82など)と、制御部10とを備える。
【0028】
搬送部3は、長尺帯状のフィルム2をその長手方向に連続的に搬送する。搬送部3は、例えば、フィルム2の搬送をガイドする複数のガイドロール31、31と、不図示の駆動装置と、送り出しロールと、巻き取りロールなどを備える。図1の例では、2つのガイドロール31、31は、上下方向(Z方向)に相互に離隔して配置されており、当該2つのガイドロール31、31に対してフィルム2が懸架されている。搬送されるフィルム2は、下側のガイドロール31に向けて右方向(X方向)に走行した後に、下側のガイドロール31によって走行方向が上方向(Z方向)に変更される。その後、上方向に走行するフィルム2は、上側のガイドロール31によって走行方向が左方向(X方向)に変更される。
【0029】
フィルム検査装置1は、2つのガイドロール31、31の間で、鉛直方向(Z方向)の上方に向けて走行するフィルム2の表面2a(検査面)を検査する。かかるフィルム検査装置1によるフィルム2の検査位置(後述する撮像部4の光軸上の位置)では、フィルム2はガイドロール31などにより支持されておらず、中空を走行している。なお、搬送部3によるフィルム2の搬送方向および搬送方法や、フィルム2の検査位置などは、図1に示す例に限定されず、他の任意の搬送方向や搬送方法、検査位置に変更されてもよい。
【0030】
また、搬送部3によるフィルム2の搬送速度は、例えば、60m/min以下であることが好ましい。これにより、数μmレベルの微小な欠陥の検出に適した搬送速度でフィルム2を搬送できるので、撮像部4によりフィルム2の表面2aを適切に撮像して、当該フィルム2の欠陥を検査することができる。
【0031】
撮像部4は、上記搬送部3による搬送中のフィルム2の表面2a(検査面)を撮像するための装置である。撮像部4は、カメラ41と、鏡筒42と、レンズユニット43とを備える。カメラ41、鏡筒42およびレンズユニット43は、レンズユニット43の光軸44に沿ってこの順に配置されている。なお、光軸方向とは、レンズユニット43の光軸44が延びる方向(図1に示すX方向)である。
【0032】
カメラ41は、例えば、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ、CCD(Charge Coupled Device)センサなどのイメージセンサを備える。カメラ41は、イメージセンサを用いて、予め設定された画素数で被写体を撮像し、撮像した画像を記録媒体に記録する。鏡筒42は、カメラ41とレンズユニット43との間に配置され、レンズユニット43により集光された光学像をカメラ41に導く。
【0033】
レンズユニット43は、被写体の光学像を得るための光学系であり、1または2以上のレンズを含む。レンズユニット43は、例えば、対物レンズ、フォーカスレンズなどの各種のレンズと、フィルタなどの各種の光学素子と、被写体に焦点を合わせるためのフォーカス機構と、これらの光学部品を覆うレンズ鏡筒などを含む。本実施形態に係る被写体は、フィルム2の表面2a(検査面)である。レンズユニット43は、搬送中のフィルム2の表面2a(検査面)から所定距離だけ離隔した位置に、当該表面2aに対向して配置される。レンズユニット43は、フィルム2の表面2aの光学像を集光し、鏡筒42を介してカメラ41に向けて出力する。
【0034】
レンズユニット43の焦点距離は、予め所定の値に設定されている。即ち、レンズユニット43から所定の焦点距離だけ離れた位置にある被写体に対して焦点が合うように、レンズユニット43が設計されている。ここで、数μmレベルの微細な被写体を高精度で撮像するためには、当該微細な被写体に対して焦点を正確に合わせることができるように、非常に高い分解能を有するレンズユニット43を用いる必要がある。
【0035】
この点、本実施形態に係るフィルム検査装置1による検査対象は、例えば、薄いフィルム2の一側の表面2a(検査面)上に形成された、数μmレベル(例えば、10μm以下)の微細な凹凸構造などである。当該数μmレベルの微細構造に含まれる数μmレベルの微小な欠陥を検出するために、本実施形態に係る撮像部4の光学系であるレンズユニット43は、数μm/pxレベル(例えば、10μm/px以下)の非常に高い分解能を有している。このため、このように高分解能を有するレンズユニット43の被写界深度は非常に小さくなっている。したがって、走行するフィルム2の表面2aの位置が光軸方向に不規則に変動する場合、当該高分解能を有するレンズユニット43の焦点を、当該フィルム2の表面2aに対して合わせることが困難になる。そこで、本実施形態に係るフィルム検査装置1は、フィルムの表面2aの光軸方向(X方向)の変位Δxに応じて、レンズユニット43をの光軸方向(X方向)に移動させることを特徴としているが、その詳細については後述する。
【0036】
照明部5は、検査対象であるフィルム2の表面2aに対して、直接的または間接的に照明光を照射する。図1の例では、照明部5は、フィルム2の表面2a側において、フィルム2から離隔して配置されている。照明部5は、例えば、光軸44からずれた位置に配置された光源51と、光軸44上に配置されたプリズム52とを備える。光源51からZ方向の下向きに出射された照明光は、プリズム52で反射して、光軸方向(X方向)に進み、フィルム2の表面2aに照射される。照明部5によりフィルム2の表面2aに照明光を照射することによって、撮像部4により撮像されるフィルム2の表面2aの画像の品質を向上できる。
【0037】
変位測定部6は、上記搬送部3による搬送中のフィルム2の表面2a(検査面)の光軸方向の変位Δxを測定する。ここで、フィルム2の表面2aの光軸方向の変位Δxとは、フィルム2の表面2aの光軸方向の基準位置に対する、搬送中のフィルム2の表面2aの光軸方向の現在位置の相対変位である(図4参照。)。図1の例では、レンズユニット43の光軸方向はX方向であるので、変位測定部6により測定されるフィルム2の表面2aの変位Δxも、X方向の変位となる。
【0038】
なお、図1の例では、検査位置におけるフィルム2の搬送方向(Z方向)は、レンズユニット43の光軸方向(X方向)に対して垂直である。これにより、撮像部4によりフィルム2の表面2aを好適に撮像することができる。しかし、かかる例に限定されず、検査位置におけるフィルム2の搬送方向は、レンズユニット43の光軸方向に対して傾斜した方向であってもよい。
【0039】
変位測定部6は、例えば、非接触式変位計61で構成される。非接触式変位計61は、測定対象物に対して接触せずに、測定対象物の変位を測定する変位計である。非接触式変位計61は、例えば、レーザ変位計、レーザ干渉式変位計、静電容量型変位計、渦電流型変位計、光ファイバー型変位計、または、超音波型変位計などであってよい。図1の例の非接触式変位計61は、搬送中のフィルム2の裏面2b側において、当該フィルム2の裏面2bから所定距離だけ離隔した位置に配置されている。つまり、非接触式変位計61は、搬送中のフィルム2の裏面2bに対して接触していない。非接触式変位計61は、フィルム2に接触することなく、走行するフィルム2の表面2aの変位Δxを正確に測定することができる。ただし、変位測定部6を、接触式変位計で構成してもよい。この場合でも、接触式変位計をフィルム2の表面2a側に配置すれば、接触式変位計によって、走行するフィルム2の表面2aの変位Δxを接触式で測定することは可能である。
【0040】
熱膨張測定部7は、上記撮像部4のレンズユニット43および鏡筒42のうち少なくとも1つの熱膨張量ΔL(以下、「レンズユニット43等の熱膨張量ΔL」または「熱膨張量ΔL」と称する場合もある。)を測定する。ここで、熱膨張量ΔLとは、測定対象物(レンズユニット43および鏡筒42のうち少なくとも1つ)の熱膨張または熱収縮に起因した、当該測定対象物の長さの変化量を意味する。熱膨張量ΔLは、レンズユニット43の光軸方向(X方向)における測定対象物の熱膨張量である。本実施形態に係る熱膨張測定部7は、熱膨張量ΔLとして、例えば、レンズユニット43および鏡筒42の双方の熱膨張量の合計を測定する。しかし、かかる例に限定されず、熱膨張測定部7は、熱膨張量ΔLとして、レンズユニット43だけの熱膨張量を測定してもよいし、または、鏡筒42だけの熱膨張量を測定してもよい。
【0041】
また、熱膨張測定部7は、レンズユニット43等の熱膨張量ΔLとして、光軸方向における基準位置からのレンズユニット43の所定部位(例えば、レンズユニット43の先端部43a)の変位を測定してもよい。すなわち、熱膨張量ΔLは、レンズユニット43の所定部位の光軸方向の基準位置に対する、熱膨張/熱収縮した後のレンズユニット43の所定部位の光軸方向の現在位置の相対変位であってもよい(図7参照。)。図1の例では、レンズユニット43の光軸方向はX方向であるので、熱膨張測定部7により測定される熱膨張量ΔLも、レンズユニット43の所定部位のX方向の相対変位となる。
【0042】
熱膨張測定部7は、例えば、接触式変位計71で構成される。接触式変位計71は、測定対象物に測定プローブ72を接触させ、測定プローブ72の変位に基づいて測定対象物の変位を測定する。測定プローブ72の変位の測定には、例えば、差動トランス、光学式リニアエンコーダ、歪みゲージ、ポテンショメータなどが用いられる。図1に示す例の接触式変位計71の測定プローブ72は、レンズユニット43の先端部43a付近から上方向(Z方向)に突設された基準プレート73の側面に対して接触している。接触式変位計71は、光軸方向(X方向)における基準プレート73の変位を測定することによって、光軸方向(X方向)におけるレンズユニット43の先端部43aの変位(即ち、熱膨張量ΔL)を間接的に測定することができる。
【0043】
熱膨張測定部7を、レンズユニット43に取り付けられた接触式変位計71で構成することにより、レンズユニット43等の熱膨張量ΔLを正確に測定することができる。ただし、熱膨張測定部7を非接触式変位計で構成してもよく、これによっても、レンズユニット43等の熱膨張量ΔLを測定することは可能である。
【0044】
このように、本実施形態に係るフィルム検査装置1では、変位測定部6や熱膨張測定部7として、非接触式変位計または接触式変位計のいずれを用いてもよく、測定手段が限定されない。これにより、フィルム検査装置1が備える各部品のレイアウトの制約を軽減できる。例えば、変位測定部6としてレーザ変位計などの非接触式変位計を用いた場合、レーザの光路をミラーで折り返すなどの方法を用いれば、フィルム2の表面2a側においてレンズユニット43の光軸44から外れた位置に非接触式変位計をレイアウトすることが可能になる。
【0045】
移動部8は、上記撮像部4のレンズユニット43を光軸方向(X方向)に移動させる移動機構である。移動部8は、例えば、アクチュエータ81と、エンコーダ82と、基台83と、レンズ支持部材84とを備える。
【0046】
レンズ支持部材84は、可動式のレンズユニット43を支持する部材であり、アクチュエータ81に連結される。アクチュエータ81は、例えば、電動モータを備える駆動装置であり、レンズユニット43を光軸方向(X方向)に移動させるための駆動力を発生させる。アクチュエータ81は、基台83上に設置され、レンズ支持部材84を介してレンズユニット43を光軸方向(X方向)に移動させる。エンコーダ82は、アクチュエータ81によるレンズユニット43の移動量を検出するための装置である。エンコーダ82は、例えば、アクチュエータ81のモータの回転軸の角度を検出することによって、アクチュエータ81によるレンズユニット43の移動量を検出する。
【0047】
制御部10は、フィルム検査装置1の各部の動作を制御するコントローラである。制御部10は、例えば、プロセッサと、メモリと、入力装置と、出力装置と、通信装置など(いずれも図示せず。)を備える。
【0048】
プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはその他のマイクロプロセッサで構成される。プロセッサは、メモリまたは他の記憶媒体に記憶されているプログラムを実行する。これにより、フィルム検査装置1における各種の処理が実行され、当該プログラムにより定められた各種の機能を実現可能になる。
【0049】
メモリは、プログラムおよびその他の各種データを記憶する記憶媒体である。メモリは、例えば、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)などを有する。ROMは、プロセッサが使用するプログラム、およびプログラムを動作させるためのデータ等を記憶する不揮発性メモリである。RAMは、プロセッサにより実行される処理に用いられる変数、演算パラメータ、演算結果等のデータを一時記憶する揮発性メモリである。ROMに記憶されたプログラムは、RAMに読み出され、CPUなどのプロセッサにより実行される。
【0050】
かかる制御部10は、搬送中のフィルム2をインライン検査するときに、フィルム検査装置1の各部の動作を制御する。例えば、制御部10は、上記移動部8を制御することによって、レンズユニット43を光軸方向(X方向)に必要な移動量Mだけ移動させる。
【0051】
具体的には、制御部10は、搬送部3による搬送中のフィルム2の表面2a(検査面)とレンズユニット43の先端部43aとの間の距離が常に一定になるように、変位測定部6により測定されるフィルム2の表面2aの変位Δx(以下、「フィルム変位Δx」と称する場合もある。)に応じて、移動部8によりレンズユニット43を光軸方向(X方向)に移動させる。このように本実施形態によれば、光軸方向のフィルム変位Δxに追従してレンズユニット43を移動させる。これによって、走行するフィルム2の振動などによりフィルム2が光軸方向に微小に変位したとしても、搬送中のフィルム2の表面2aがレンズユニット43の被写界深度の範囲内に収まるようになる。よって、高分解能を有するレンズユニット43の焦点をフィルム2の表面2a(検査面)に対して正確に合わせることができるので、フィルム2の表面2aの数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検出可能となる。
【0052】
また、制御部10は、搬送部3による搬送中のフィルム2の表面2a(検査面)とレンズユニット43の先端部43aとの間の距離(以下、「撮像距離」と称する場合もある。)が常に一定になるように、熱膨張測定部7により測定されるレンズユニット43等の熱膨張量ΔLに応じて、移動部8によりレンズユニット43を光軸方向(X方向)に移動させる。このように、レンズユニット43等の光軸方向の熱膨張量ΔLに合わせてレンズユニット43を移動させることによって、レンズユニット43等の熱膨張または熱収縮により、レンズユニット43の先端部43aの位置が変化したとしても、搬送中のフィルム2の表面2aがレンズユニット43の被写界深度の範囲内に収まるようになる。よって、熱膨張または熱収縮したレンズユニット43の焦点をフィルム2の表面2a(検査面)に対して正確に合わせることができるので、フィルム2の表面2aの数μmレベルの微小な欠陥を検出可能となる。
【0053】
以上のように、本実施形態に係るフィルム検査装置1の制御部10は、移動部8を制御することによって、上記フィルム変位Δxまたは熱膨張量ΔLの一方もしくは両方に応じた移動量Mだけ、レンズユニット43を光軸方向に移動させる。これにより、フィルム変位Δxまたは熱膨張量ΔLの一方もしくは両方に追従して、レンズユニット43の位置を動的に補正し、レンズユニット43の焦点をフィルム2の表面2a(検査面)に合わせるオートフォーカス動作(追従AF動作)を行うことができる。この追従AF動作を行う追従AF機構を構成するために、制御部10は、図1に示すように、フィルム変位演算部11と、熱膨張量演算部12と、移動量算出部13と、ドライバ14とを備える。なお、これら制御部10の各機能部の詳細は後述する。
【0054】
[2.フィルム変位の問題]
次に、本実施形態に係るフィルム検査装置1の詳細説明に先立ち、図2および図3を参照して、インライン検査においてフィルム2の変位により検査精度が低下する問題について、より詳細に説明する。図2は、走行中のフィルム2の振動が原因で、レンズユニット43の焦点位置がずれる問題を説明するための模式図である。図3は、回転中のガイドロール31の振れが原因で、レンズユニット43の焦点位置がずれる問題を説明するための模式図である。
【0055】
上記特許文献1、2等に記載の従来技術に係るインライン検査装置では、検査対象の欠陥の大きさが比較的大きいため、比較的低い分解能を有する光学系を用いて検査対象を撮像したとしても、当該大きい欠陥を検出可能であった。
【0056】
例えば、図2に示すように、複数のガイドロール31、31によりフィルム2を搬送しながら、当該ガイドロール31、31の間を走行するフィルム2を検査する場合を考える。この場合、走行中のフィルム2が、振動により波打つようにばたつくことにより、レンズユニット43の光軸方向におけるフィルム2の表面2a(検査面)の位置が変化することがある。この際、上記従来技術のように低分解能のレンズユニット43を用いる場合には、レンズユニット43の被写界深度DOF’は比較的大きいので、走行中のフィルム2が振動により例えば数十μm程度変位したとしても、そのフィルム変位Δxは、レンズユニット43の広い被写界深度DOF’の範囲内に収まる(Δx<DOF’)。したがって、従来技術のようにレンズユニット43が低分解能である場合には、振動するフィルム2の表面2aに対してレンズユニット43の焦点が合った状態で検査することが可能であった。
【0057】
しかしながら、上述したようにフィルム2の表面の数μmレベルの欠陥を検出するためには、非常に高分解能のレンズユニット43を使用する必要がある。ところが、図2に示すように、レンズユニット43の分解能が高分解能になるほど、レンズユニット43の被写界深度DOFが小さくなる。そうすると、走行中のフィルム2の振動やフィルム2の厚みむらによってフィルム2の位置が光軸方向に変化して、フィルム変位Δxが生じた場合、当該フィルム変位Δxが、狭い被写界深度DOFの範囲よりも大きくなってしまう(Δx>DOF)。この結果、フィルム2の表面2aの位置が、高分解能を有するレンズユニット43の狭い被写界深度DOFの範囲から外れやすくなる。故に、高分解能のレンズユニット43を用いた場合、フィルム2の表面2aにレンズユニット43の焦点を合わせることが困難になり、フィルム2の表面上の数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検出することが困難になるという問題があった。
【0058】
また、走行中のフィルム2の振動による変位を抑制するために、図3に示すように、高精度に振れを抑制したガイドロール31の外周面上の検査位置で、フィルム2を検査する方法も考えられる。この図3に示す検査方法では、フィルム2がガイドロール31に巻き付けられた位置で検査するので、図2に示す検査方法のように中空を走行するフィルム2の振動の問題が生じない。このため、検査対象のフィルム2が、厚みむらの少ない非透明フィルム2Bである場合には、図3に示す検査方法を適用することは可能である。
【0059】
一方、検査対象のフィルム2が透明フィルム2Aである場合、図3に示す検査方法では、ガイドロール31を背景として透明フィルム2Aを撮像することになる。このため、当該ガイドロール31の背景の影響により透明フィルム2Aだけを適切に撮像できず、検査精度が低下してしまう。したがって、透明フィルム2Aを検査する場合には、当該背景の影響を受けないようにするために、図2に示す検査方法のように、2つのガイドロール31、31の間の中空の位置で、透明フィルム2Aを検査する必要がある。そうすると、上述したとおり、透明フィルム2Aの走行時の振動によるフィルム変位Δxによって、高分解能のレンズユニット43の焦点が透明フィルム2Aに合わなくなるため、検査精度が大幅に低下してしまう。
【0060】
また、図3に示すようにガイドロール31の外周面上で、厚みむらの少ない非透明フィルム2Bを検査する方法であっても、数μmレベルの欠陥を検出するために、高分解能を有するレンズユニット43を使用すると、当該レンズユニット43の被写界深度DOFが大幅に小さくなる。このため、当該レンズユニット43の狭い被写界深度DOFが、回転中のガイドロール31の振れ幅ΔRよりも小さくなることがある(ΔR>DOF)。したがって、図3に示す検査方法でも、振れ幅ΔRで振れるガイドロール31に巻き付けられた非透明フィルム2Bの表面2aの位置が、高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度DOFから外れやすくなる。よって、高分解能のレンズユニット43を用いる場合には、図3に示す検査方法を用いたとしても、非透明フィルム2Bの表面上の数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検出することが困難であるという問題があった。
【0061】
このように、従来では、図2または図3のいずれの検査方法でも、振動によるフィルム変位Δx、または、ガイドロール31の振れ幅ΔRが、高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度DOFよりも大きくなると、数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検査できないという問題があった。さらに、従来では、フィルム2が透明フィルム2Aまたは非透明フィルム2Bのいずれであるかに関わらず、フィルム2の厚みむらが、高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度DOFよりも大きい場合には、数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検査できないという問題もあった。
【0062】
また、インライン検査の別の従来技術として、レーザオートフォーカス(レーザAF)を使用した検査装置も知られている。しかし、従来のレーザAF機能を有する撮像装置では、対物レンズが使用されるため、1台の撮像装置の視野が数mmと狭い。このため、フィルム2の全幅(例えば、数百mm)を検査するためには、必要な撮像装置の台数が多くなるという問題があった。また、撮像装置の視野を向上させるためには、ラインセンサーに対応した大口径レンズを使用したオートフォーカス技術が必要となるという問題もあった。
【0063】
以上説明したように、フィルム2の数μmレベルの微小な欠陥を検出するために、高分解能を有する光学系を用いた場合、当該光学系の被写界深度DOFが小さくならざるを得ない。そうすると、追従AF動作機構を備えていない従来技術では、フィルム2の搬送中の振動、または、フィルム2の厚みむら等によって発生するフィルム2の表面2a(検査面)の変位Δxの影響で、フィルム2の表面2aの位置が、上記レンズユニット43の浅い被写界深度DOFから外れやすくなる。このため、変位するフィルム2の表面(検査面)に対して常に焦点を合わせることが困難になり、フィルム表面の数μmレベルの欠陥を安定的かつ高精度で検出することが困難になるという問題があった。
【0064】
したがって、従来では、数μmレベルの微小な欠陥を検出するために高分解能の光学系を用いた場合であっても、走行するフィルム2の表面2aの位置の変化(即ち、フィルム変位Δx)に追従して、当該表面2aに対して正確に焦点を合わせて撮像可能なフィルム検査装置が希求されていた。
【0065】
そこで、上記従来の問題を解決するため、本実施形態に係るフィルム検査装置1では、図1に示したように、搬送中のフィルム2の表面2aの変位(即ち、フィルム変位Δx)に応じて、高分解能のレンズユニット43を光軸方向に移動させる。これにより、搬送部3による搬送中のフィルム2の表面2aと、レンズユニット43の先端部43aとの間の撮像距離を一定に保つことができる。このため、走行するフィルム2の表面2aの位置を、高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度DOFの範囲内に、自動的かつ安定的に収めることができる。したがって、走行するフィルム2の表面2aに対してレンズユニット43の焦点を常に合わせて、当該表面2aを適切に撮像することが可能になる。よって、フィルム2の表面2a(検査面)に形成された微細な凹凸構造などに含まれる数μmレベルの微小な欠陥を、安定的かつ高精度で検査することが可能になる。
【0066】
以下に、本実施形態に係るフィルム検査装置1において、フィルム変位Δxに追従したAF動作を実行するための構成について詳述する。
【0067】
[3.フィルム変位追従オートフォーカス]
次に、図1および図4図6を参照して、本実施形態に係るフィルム検査装置1によるフィルム変位追従AF動作について詳細に説明する。図4は、本実施形態に係るフィルム検査装置1によるフィルム変位Δxに追従するオートフォーカス動作(以下、「フィルム変位追従AF動作」と称する。)を示す模式図である。図5は、本実施形態に係る透明フィルム2Aの裏面2b側に配置された非接触式変位計61を示す模式図である。図6は、本実施形態の変更例に係る非透明フィルム2Bの表面2a側に配置された非接触式変位計61を示す模式図である。
【0068】
図1および図4に示すように、本実施形態に係るフィルム変位追従AF動作は、フィルム2の搬送中に、走行するフィルム2の表面2aの光軸方向の変位(即ち、フィルム変位Δx)に応じて、レンズユニット43を光軸方向に移動させることによって、レンズユニット43の焦点をフィルム2の表面2a(検査面)に自動的に合わせる動作である。
【0069】
このフィルム変位追従AF動作を行うために、本実施形態に係るフィルム検査装置1は、図1に示したように、変位測定部6(例えば、非接触式変位計61)と、移動部8(例えば、アクチュエータ81およびエンコーダ82など)と、制御部10とを備える。
【0070】
図1図4および図5の例は、フィルム2が透明フィルム2Aであり、変位測定部6として非接触式変位計61を用いる場合を示している。この場合、フィルム2が透明であるので、図示のように非接触式変位計61をフィルム2(透明フィルム2A)の裏面2b側に、フィルム2から離隔して配置したとしても、非接触式変位計61は、フィルム2の裏面2b側からフィルム2の表面2aの位置を測定することが可能である。検査対象であるフィルム2に接触しない非接触式変位計61を用いることによって、剛性が低いフィルム2の変位Δxを適切に測定することができる。
【0071】
変位測定部6の変位計をフィルム2の表面2a側(レンズユニット43側)に配置すると、レンズユニット43の光軸44と変位計とが干渉して、撮像の邪魔になることがある。これに対し、本実施形態では、フィルム2が透明フィルム2Aである場合には、図4および図5に示すように、フィルム2の裏面2b側(レンズユニット43とは反対側)に非接触式変位計61を配置して、フィルム2の表面2aの変位を測定する。これにより、非接触式変位計61が撮像の邪魔にならず、レンズユニット43などの撮像部4、照明部5および変位測定部6などの配置レイアウトの自由度が高まる。
【0072】
さらに、本実施形態では、非接触式変位計61とレンズユニット43は、フィルム2(透明フィルム2A)を間に挟んで対向配置されている。そして、非接触式変位計61とレンズユニット43は、レンズユニット43の光軸44に沿って同軸上に配置されている。このようにレンズユニット43の光軸44と同軸上に非接触式変位計61を配置すれば、レンズユニット43の光軸44上におけるフィルム2の表面2aの位置を正確に測定できるので、撮像部4により撮像されるフィルム2の検査位置(光軸44とフィルム2が交差する位置)におけるフィルム変位Δxを正確に測定できる。
【0073】
なお、フィルム2が非透明フィルム2Bである場合、非接触式変位計61により非透明フィルム2Bの裏面2b側から表面2aの位置を測定することは困難である。そこで、フィルム2が非透明フィルム2Bである場合には、図6に示すように、非接触式変位計61を、搬送中の非透明フィルム2Bの表面2a側に、当該非透明フィルム2Bの表面2aから離隔して配置してもよい。これにより、非接触式変位計61を、非透明フィルム2Bの表面2aの光軸方向の変位Δx(フィルム変位Δx)を、当該非透明フィルム2Bの表面2a側から測定することが可能になる。また、剛性の低い非透明フィルム2Bに対して非接触式変位計61を接触させることなく、当該非接触式変位計61によりフィルム変位Δxを適切に測定することがきできる。
【0074】
ただし、図6に示すように、非透明フィルム2Bの表面2a側(レンズユニット43側)に非接触式変位計61を配置する場合には、レンズユニット43の光軸44に対して非接触式変位計61が干渉しないように、非接触式変位計61を光軸44からZ方向にずらした位置に配置することが好ましい。また、図示はしないが、例えば、非接触式変位計61をレーザ変位計で構成し、当該レーザ変位が発射するレーザの光路をハーフミラーで折り返すなどの方法を用いてもよい。これにより、フィルム2の表面2a側においてレンズユニット43の光軸44からZ方向にずれた位置に、非接触式変位計61を配置しつつ、光軸44上の検査位置におけるフィルム変位Δxを正確に測定することが可能になる。また、図示はしないが、レンズユニット43の光軸44に対して非接触式変位計61が干渉しないように、非接触式変位計61を光軸44からY方向にずらした位置に配置してもよい。
【0075】
以上のようにして、変位測定部6の一例である非接触式変位計61は、搬送中のフィルム2の表面2a(検査面)の光軸方向の現在位置(以下、「フィルム表面位置」と称する場合がある。)を測定する。この測定動作について図4を参照して詳細に説明する。
【0076】
図4Aに示すように、フィルム2が振動しておらず平坦な状態であるとき、レンズユニット43の光軸44上における当該フィルム2の表面2aの位置を、基準位置とする。フィルム2の表面2aが基準位置にあるときのフィルム2の表面2aと、レンズユニット43の先端部43aとの間の撮像距離が、レンズユニット43の焦点距離になるように、レンズユニット43の配置が調整されている。つまり、フィルム2の表面2aが基準位置にあるときには、レンズユニット43の焦点はフィルム2の表面2aに合っている。この図4Aの状態では、非接触式変位計61は、フィルム表面位置が基準位置にあることを表す測定結果を出力する。
【0077】
その後のインライン検査中に、図4Bに示すように、搬送中のフィルム2が波打つように振動しているとき、光軸44上におけるフィルム表面位置は、上記基準位置(焦点が合っている位置)からずれる。このような基準位置に対する現在のフィルム表面位置のずれが、フィルム変位Δxである。
【0078】
非接触式変位計61は、フィルム2の搬送中に常時、フィルム表面位置を測定し続けている。そして、非接触式変位計61により測定されたフィルム表面位置を表すデータは、制御部10に入力される。
【0079】
制御部10は、非接触式変位計61により測定された現在のフィルム表面位置に基づいて、フィルム変位Δxと、レンズユニット43の移動量Mとを演算する。そして、制御部10は、レンズユニット43を移動量Mだけ移動させるように、移動部8を制御する。かかる移動制御を行うために、制御部10は、図1に示すように、フィルム変位演算部11と、移動量算出部13と、ドライバ14とを備える。
【0080】
フィルム変位演算部11は、非接触式変位計61により測定された現在のフィルム表面位置に基づいて、フィルム変位Δxを演算する。具体的には、フィルム変位演算部11は、予め測定された基準位置(図4Aのレンズ表面位置)を表すデータを保持している。フィルム変位演算部11は、非接触式変位計61により測定された現在のフィルム表面位置(図4Bのレンズ表面位置)と、基準位置(図4Aのレンズ表面位置)との差分を算出することにより、搬送中のフィルム2の現在のフィルム変位Δxを求める。このように、上記非接触式変位計61およびフィルム変位演算部11は、フィルム変位Δxを測定する変位測定部6として機能する。フィルム変位演算部11により演算されたフィルム変位Δxは、移動量算出部13に入力される。
【0081】
移動量算出部13は、フィルム変位演算部11から入力されたフィルム変位Δxに基づいて、レンズユニット43の移動量Mを算出する。例えば、後述するレンズユニット43の熱膨張量ΔLの影響を考慮しない場合には、移動量算出部13は、移動量Mをフィルム変位Δxと同一の値に設定する(M=Δx)。移動量算出部13により算出された移動量Mは、ドライバ14に入力される。
【0082】
ドライバ14は、移動部8のアクチュエータ81のモータを駆動させるためのモータドライバである。ドライバ14および移動量算出部13には、移動部8のエンコーダ82から、アクチュエータ81の実際の駆動量を表すデータが入力されている。この駆動量は、レンズユニット43の現在の位置に相当する。ドライバ14は、移動量算出部13から入力された移動量M(目標位置)と、エンコーダ82から入力された実際の駆動量(現在位置)とに基づいて、アクチュエータ81を必要量だけ駆動させて、レンズユニット43を移動させる。かかるドライバ14によりアクチュエータ81の駆動を制御することにより、アクチュエータ81は、レンズユニット43を光軸方向に移動量Mだけ移動させる。
【0083】
このようにして制御部10が移動部8のアクチュエータ81を制御することにより、図4Cに示すように、レンズユニット43は、フィルム変位Δxと同一の方向(光軸方向の正方向または負方向)に、フィルム変位Δxと同一の移動量Mだけ移動する。
【0084】
ここで、上述した図4Bに示すように、搬送中のフィルム2が振動によりばたついて、光軸方向(X方向の負方向)のフィルム変位Δxが生じた状態を考える。この図4Bの状態では、図4Aのようにフィルム表面位置が基準位置にある状態と比べて、フィルム表面位置がレンズユニット43の先端部43aに対して接近し、両者の間の撮像距離が焦点距離よりも小さくなっている。このため、フィルム表面位置が、レンズユニット43の焦点位置からずれて、レンズユニット43の被写界深度の範囲から外れてしまっている。したがって、図4Bの状態のままでは、撮像部4によりフィルム2の表面2a(検査面)を適切に撮像することが困難であり、検査精度が低下してしまう。
【0085】
そこで、本実施形態では、図4Bに示すようなフィルム変位Δxが生じた場合、上述したように制御部10が当該フィルム変位Δxに追従するAF動作を実行し、図4Cに示すように、フィルム変位Δxに応じた移動量Mだけ、レンズユニット43を光軸方向(X方向の負方向)に後退させる。このようにして、フィルム変位Δxに追従してレンズユニット43を移動させることで、現在のフィルム表面位置とレンズユニット43の先端部43aとの間の撮像距離がレンズユニット43の焦点距離に一致し、レンズユニット43の焦点が現在のフィルム表面位置に合うようになる。よって、図4Cの状態では、撮像部4によりフィルム2の表面2a(検査面)を適切に撮像でき、フィルム2の表面2aを高精度に検査することができる。
【0086】
なお、上記のAF動作例では、図4Bに示すように、光軸44上の検査位置において、振動するフィルム2が基準位置(図4A)からレンズユニット43側(X方向の負方向)に変位したために(負方向のフィルム変位Δx)、図4Cに示すように、レンズユニット43をX方向の負方向に後退させる例について説明した。これとは逆に、振動するフィルム2が基準位置(図4A)からレンズユニット43とは反対側(X方向の正方向)に変位した場合には(正方向のフィルム変位Δx)、レンズユニット43をX方向の正方向にΔxだけ前進させればよい。これにより、レンズユニット43の焦点を現在のフィルム表面位置に合わせて、撮像部4によりフィルム2の表面2a(検査面)を適切に撮像できるようになる。
【0087】
以上のようにして、本実施形態に係るフィルム検査装置1では、フィルム変位Δxに追従するAF動作を繰り返す。これにより、搬送中のフィルム2が振動により多様に変位した場合であっても、現在のフィルム変位Δxに応じた移動量Mだけレンズユニット43をリアルタイムで移動させて、レンズユニット43の位置が自動的に補正される。これにより、変位するフィルム2の表面2aとレンズユニット43の先端部43aとの間の撮像距離を一定に保つことができる。
【0088】
したがって、フィルム2の搬送中は常に、フィルム表面位置を、高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度DOFの範囲内に、自動的かつ安定的に収めることができる。よって、フィルム2の表面2aに対してレンズユニット43の焦点を常に合わせながら、当該表面2aを適切に撮像できるので、フィルム2の表面2a(検査面)の数μmレベルの微小な欠陥を、安定的かつ高精度で検査することが可能になる。
【0089】
[4.光学系の熱膨張の問題]
次に、インライン検査において、光学系の熱膨張が原因で撮像距離が変化することによって検査精度が低下する問題について、より詳細に説明する。
【0090】
図1に示したように、本実施形態に係るフィルム検査装置1では、検査対象のフィルム2の表面2aに対して照明光を照射するための照明部5が設けられている。この照明部5の光源51の発熱や照明光の熱が、撮像部4の光学系に直接的または間接的に伝達されると、当該光学系が熱膨張する場合がある。特に、レンズユニット43および鏡筒42などは、照明部5に隣接して配置されるため、照明部5や照明光の熱によって熱膨張しやすい。また、カメラ41の発熱が、当該カメラ41に接続された鏡筒42に伝わることによって、鏡筒42およびレンズユニット43が熱膨張する場合もある。
【0091】
レンズユニット43および鏡筒42などの光学系が熱膨張すると、当該レンズユニット43の先端部43aと、フィルム2の表面2a(検査面)との間の距離(撮像距離)が変化する。この結果、レンズユニット43の焦点がフィルム2の表面2aに合わなくなり、検査精度が低下してしまうという問題がある。
【0092】
このような光学系の熱膨張または熱収縮が検査精度に与える悪影響(熱影響)を軽減するためには、検査開始前に、フィルム検査装置1の暖機運転を十分に行い、熱膨張が安定した後に検査を開始する方法が考えられる。しかし、かかる方法では、暖機運転に例えば数十分以上の長時間を要するという問題や、フィルム検査装置1の異常停止後の再稼働時にも熱影響の確認を要するという問題、フィルム検査装置1の長時間運転時における熱膨張の安定性などの問題がある。したがって、暖機運転を行わずに、上記熱影響による検査精度の低下を抑制できる方法が望ましい。
【0093】
また、上記のように、フィルム2の数μmレベルの微小な欠陥を検出するために、高分解能を有するレンズユニット43を用いた場合、当該レンズユニット43の被写界深度DOFが小さくならざるを得ない。この場合、レンズユニット43および鏡筒42などの熱膨張または熱収縮によって、レンズユニット43の先端部43aと、フィルム2の表面2aとの間の撮像距離が変化すると、フィルム2の表面2aの位置が、レンズユニット43の浅い被写界深度DOFから外れやすくなる。このため、熱膨張または熱収縮するレンズユニット43の焦点を、フィルム2の表面(検査面)に対して常に合わせることが困難になり、フィルム2の表面2aの数μmレベルの欠陥を安定的かつ高精度で検出することが困難になるという問題がある。
【0094】
したがって、従来では、数μmレベルの微小な欠陥を検出するために高分解能の光学系を用いた場合であっても、レンズユニット43または鏡筒42などの光学系の熱膨張量ΔLに応じて撮像距離を補正することによって、当該表面2aに対して正確に焦点を合わせて撮像可能なフィルム検査装置が希求されていた。
【0095】
そこで、上記従来の問題を解決するため、本実施形態に係るフィルム検査装置1では、図1に示したように、レンズユニット43等の熱膨張量Δに応じて、高分解能のレンズユニット43を光軸方向に移動させて、当該熱膨張量Δに応じてレンズユニット43の位置を補正する。これにより、レンズユニット43等が熱膨張または熱収縮した場合であっても、搬送部3による搬送中のフィルム2の表面2aと、レンズユニット43の先端部43aとの間の撮像距離を一定に保つことができる。このため、走行するフィルム2の表面2aの位置を、高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度DOFの範囲内に、自動的かつ安定的に収めることができる。したがって、走行するフィルム2の表面2aに対してレンズユニット43の焦点を常に合わせて、当該表面2aを適切に撮像することが可能になる。よって、フィルム2の表面2a(検査面)に形成された微細な凹凸構造などに含まれる数μmレベルの微小な欠陥を、安定的かつ高精度で検査することが可能になる。
【0096】
以下に、本実施形態に係るフィルム検査装置1において、熱膨張量ΔLに応じてレンズユニット43の位置を補正するAF動作を実行するための構成について詳述する。
【0097】
[5.熱膨張補正オートフォーカス]
次に、図1および図7を参照して、本実施形態に係るフィルム検査装置1による熱膨張量ΔLに応じてレンズユニット43の位置を補正するオートフォーカス動作(以下、「熱膨張補正AF動作」と称する。)について説明する。図7は、本実施形態に係るフィルム検査装置1による熱膨張補正AF動作を示す模式図である。
【0098】
図1および図7に示すように、本実施形態に係る熱膨張補正AF動作は、フィルム2の搬送中に、レンズユニット43または鏡筒42などの光学系の熱膨張量Δに応じて、レンズユニット43を光軸方向に移動させることによって、レンズユニット43の焦点をフィルム2の表面2a(検査面)に自動的に合わせる動作である。
【0099】
この熱膨張補正AF動作を行うために、本実施形態に係るフィルム検査装置1は、図1に示したように、熱膨張測定部7(例えば、接触式変位計71)と、移動部8(例えば、アクチュエータ81およびエンコーダ82など)と、制御部10とを備える。
【0100】
図1および図7の例では、熱膨張測定部7として接触式変位計71を用いる場合を示している。接触式変位計71は、レンズユニット43に隣接して配置される。接触式変位計71は、例えば、レンズユニット43の所定部位(例えば先端部43a付近)の位置を測定することにより、レンズユニット43等の熱膨張量ΔLを測定する。接触式変位計71は、レンズユニット43の所定部位(例えば先端部43a付近)に設けられた基準プレート73に対して、測定プローブ72を接触させ、当該基準プレート73を介してレンズユニット43の所定部位の光軸方向の変位(即ち、熱膨張量ΔL)を間接的に測定する。
【0101】
このように、本実施形態では、レンズユニット43の所定部位に取り付けられた基準プレート73と接触式変位計71により、レンズユニット43の所定部位(例えば先端部43a付近)の光軸方向の変位を測定する。これにより、レンズユニット43等の光軸方向の熱膨張量ΔLを正確に測定することができる
【0102】
本実施形態では、図1および図7に示すように、接触式変位計71は、レンズユニット43に隣接して、光軸方向に延びるように配置されており、レンズユニット43の光軸44上には配置されていない。このように、接触式変位計71を光軸44からZ方向もしくはY方向にずらした位置に配置することで、接触式変位計71がレンズユニット43の光軸44に対して干渉しないので、撮像の邪魔にならない。
【0103】
以上のようにして、熱膨張測定部7の一例である接触式変位計71は、熱膨張量ΔLとして、光軸方向における基準位置からのレンズユニット43の所定部位(例えば先端部43a)の変位を測定する。この熱膨張量ΔLの測定動作について、図7を参照して詳細に説明する。
【0104】
図7Aは、レンズユニット43等の光学系が熱膨張していない常温状態を示している。一方、図7Bは、レンズユニット43等の光学系が最大限に熱膨張した状態を示している。図7Aの常温状態のレンズユニット43の先端部43aの位置と、図7Bの最大膨張状態のレンズユニット43の先端部43aの位置との差は、最大値Bmaxである。
【0105】
ここで、熱膨張量ΔLの基準位置として、図7Aの常温状態のレンズユニット43の先端部43aの位置を用いてもよいし、あるいは、図7Bの最大膨張状態のレンズユニット43の先端部43aの位置を用いてもよい。本実施形態では、熱膨張量ΔLの基準位置として、図7Bの最大膨張状態のレンズユニット43の先端部43aの位置を用いる。この理由は、図7Aの常温状態では、レンズユニット43のピントの調整作業中に、レンズユニット43等の温度上昇(熱膨張)が生じるため、ピントの調整が困難であるからである。これに対し、図7Bの最大膨張状態では、レンズユニット43等がそれ以上熱膨張せず、安定した状態になりやすい。したがって、図7Bの最大膨張状態のレンズユニット43の先端部43aの位置を基準位置とすれば、ピントの調整を正確に行うことができる。さらに、その後のインライン検査時に、当該基準位置からの熱膨張量ΔL(即ち、上記最大膨張状態から熱収縮したレンズユニット43の先端部43aの位置(図7C)と、基準位置(図7B)との間のずれ量)を正確に測定可能になる。
【0106】
図7Bの最大膨張状態であるときのレンズユニット43の先端部43aと、フィルム2の表面2aとの間の撮像距離が、レンズユニット43の焦点距離に一致するように、レンズユニット43の光軸方向の位置が調整される。つまり、図7Bの最大膨張状態では、最大限に熱膨張したレンズユニット43の焦点がフィルム2の表面2aに合っている。この図7Bの最大膨張状態では、接触式変位計71は、レンズユニット43の先端部43aの位置が基準位置にあることを表す測定結果を出力する。
【0107】
その後のインライン検査中に、照明部5またはカメラ41等の発熱部の熱影響の変化により、レンズユニット43が熱収縮すると、図7Cに示すように、レンズユニット43の先端部43aの位置(以下、「レンズ先端位置」と称する場合もある。)が、図7Bの最大膨張時の位置よりも後退する。この図7Cの状態のレンズ先端位置と、上記図7Aの常温状態のレンズ先端位置との差が、Bであるとする。この図7Cの状態のときのレンズ先端位置は、上記図7Bの最大膨張状態の基準位置からずれている。このような基準位置(図7B)に対する現在のレンズ先端位置(図7C)のずれ量を、熱膨張量ΔLとする(ΔL=Bmax-B)。
【0108】
接触式変位計71は、フィルム2の搬送中に常時、レンズ先端位置を測定し続けている。そして、接触式変位計71により測定された現在のレンズ先端位置を表すデータは、制御部10に入力される。
【0109】
制御部10は、接触式変位計71により測定された現在のレンズ先端位置に基づいて、熱膨張量ΔLと、レンズユニット43の移動量Mとを演算する。そして、制御部10は、レンズユニット43を移動量Mだけ移動させるように、移動部8を制御する。かかる移動制御を行うために、制御部10は、図1に示すように、熱膨張量演算部12と、移動量算出部13と、ドライバ14とを備える。
【0110】
熱膨張量演算部12は、接触式変位計71により測定された現在のレンズ先端位置に基づいて、レンズユニット43等の現在の熱膨張量ΔLを演算する。具体的には、熱膨張量演算部12は、予め測定された基準位置(図7Bの最大膨張状態のレンズ先端位置)を表すデータを保持している。熱膨張量演算部12は、接触式変位計71により測定された現在のレンズ先端位置と、基準位置との差分(ΔL=Bmax-B)を算出することにより、レンズユニット43等の現在の熱膨張量ΔLを求める。このように、上記接触式変位計71および熱膨張量演算部12は、熱膨張量ΔLを測定する熱膨張測定部7として機能する。熱膨張量演算部12により演算された熱膨張量ΔLは、移動量算出部13に入力される。
【0111】
移動量算出部13は、熱膨張量演算部12から入力された熱膨張量ΔLに基づいて、レンズユニット43の移動量Mを算出する。例えば、前述したフィルム変位Δxの影響を考慮しない場合には、移動量算出部13は、移動量Mを熱膨張量ΔLと同一の値に設定する(M=ΔL)。移動量算出部13により算出された移動量Mは、ドライバ14に入力される。
【0112】
ドライバ14は、移動量算出部13から入力された移動量M(目標位置)と、エンコーダ82から入力された実際の駆動量(現在位置)とに基づいて、アクチュエータ81を必要量だけ駆動させて、レンズユニット43を移動させる。かかるドライバ14によりアクチュエータ81の駆動を制御することにより、アクチュエータ81は、レンズユニット43を光軸方向に移動量Mだけ移動させる。
【0113】
このようにして制御部10が移動部8のアクチュエータ81を制御することにより、図7Dに示すように、レンズユニット43は、熱膨張量ΔLと同一の方向(光軸方向の正方向または負方向)に、熱膨張量ΔLと同一の移動量Mだけ移動する。
【0114】
ここで、上述した図7Cに示すように、レンズユニット43等の熱収縮により、レンズ先端位置が後退した状態を考える。この図7Cの状態では、図7Bの最大膨張状態のようにレンズ先端位置が基準位置にある状態と比べて、レンズ先端位置がフィルム2の表面2aから離隔して、両者の間の撮像距離が焦点距離よりも大きくなっている。このため、図7Cの状態では、フィルム表面位置が、レンズユニット43の焦点位置からずれて、レンズユニット43の被写界深度の範囲から外れてしまっている。したがって、図7Cの状態のままでは、撮像部4によりフィルム2の表面2a(検査面)を適切に撮像することが困難であり、検査精度が低下してしまう。
【0115】
そこで、本実施形態では、図7Cに示すような熱膨張量ΔLが生じた場合、上述したように制御部10が当該熱膨張量ΔLに応じてレンズ先端位置を補正するAF動作を実行し、図7Dに示すように、熱膨張量ΔLに応じた移動量Mだけ、レンズユニット43を光軸方向(X方向の正方向)に前進させる。このようにして、熱膨張量ΔLに応じてレンズユニット43を移動させることで、フィルム表面位置とレンズ先端位置との間の撮像距離がレンズユニット43の焦点距離に一致し、レンズユニット43の焦点がフィルム表面位置に合うようになる。よって、図7Dの状態では、撮像部4によりフィルム2の表面2a(検査面)を適切に撮像でき、フィルム2の表面2aを高精度に検査することができる。
【0116】
なお、上記のAF動作例では、図7Cに示すように、光軸44上の検査位置において、レンズユニット43等の熱収縮によりレンズ先端位置が基準位置(図7B)からX方向の負方向に後退した場合(熱収縮を表す負方向の熱膨張量ΔLが生じた場合)に、図7Dに示すように、熱収縮したレンズユニット43をX方向の正方向に前進させる例について説明した。これとは逆に、図7Cに示す状態からレンズユニット43等が熱膨張して、レンズ先端位置がフィルム2側(X方向の正方向)に変位した場合(つまり、熱膨張を表す正方向の熱膨張量ΔLが発生した場合)には、レンズユニット43をX方向の負方向に移動量M(=熱膨張量ΔL)だけ後退させればよい。これにより、熱膨張したレンズユニット43の焦点をフィルム表面位置に合わせて、撮像部4によりフィルム2の表面2a(検査面)を適切に撮像できるようになる。
【0117】
以上のようにして、本実施形態に係るフィルム検査装置1では、熱膨張量ΔLに応じてレンズ先端位置を補正して、撮像距離を焦点距離に合わせるAF動作を繰り返す。これにより、レンズユニット43または鏡筒42等の光学系が照明部5等の熱影響により、多様に熱膨張または熱収縮した場合であっても、現在の熱膨張量ΔLに応じた移動量Mだけレンズユニット43をリアルタイムで移動させて、レンズ先端位置が自動的に補正される。これにより、熱膨張または熱収縮により変動するレンズ先端位置と、フィルム表面位置との間の撮像距離を一定に保つことができる。
【0118】
したがって、フィルム2の搬送中は常に、フィルム表面位置を、高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度DOFの範囲内に、自動的かつ安定的に収めることができる。よって、フィルム2の表面2aに対してレンズユニット43の焦点を常に合わせながら、当該表面2aを適切に撮像できるので、フィルム2の表面2a(検査面)の数μmレベルの微小な欠陥を、安定的かつ高精度で検査することが可能になる。
【0119】
なお、上記の例では、制御部10の移動量算出部13は、熱膨張量ΔLだけを考慮して、移動量Mを決定したが、かかる例に限定されない。移動量算出部13は、前述したフィルム変位Δxおよび熱膨張量ΔLの双方を考慮して、移動量Mを決定することが好ましい。この場合、移動量算出部13は、フィルム変位演算部11から入力されたフィルム変位Δxと、熱膨張量演算部12から入力された熱膨張量ΔLとに基づいて、レンズユニット43の移動量Mを算出する。例えば、移動量算出部13は、移動量Mを、フィルム変位Δxと熱膨張量ΔLとの合計値に設定してもよい(M=Δx+ΔL)。
【0120】
これにより、フィルム変位Δxおよび熱膨張量ΔLの双方に応じて、レンズユニット43を移動させ、上述したフィルム変位追従AF動作と熱膨張補正AF動作を同時並行で実施することができる。したがって、フィルム2の搬送中に、振動によるフィルム2の変位と、レンズユニット43等の熱膨張の双方が同時または個別に発生する場合であっても、レンズセンタに位置をリアルタイムで自動的に調整して、フィルム2の表面2aに対してレンズユニット43の焦点を常に合わせることができる。よって、振動によるフィルム2の変位や、レンズユニット43等の熱膨張に関わらず、フィルム2の表面2a(検査面)の数μmレベルの微小な欠陥を、より一層安定的かつ高精度で検査することが可能になる。
【0121】
[6.照明部の構成と配置]
次に、図8図10を参照して、本実施形態に係るフィルム検査装置1における照明部5の構成と配置の例について説明する。照明部5は、検査対象であるフィルム2の表面2aのうちの検査領域(例えば、レンズユニット43の光軸44を中心とした撮像領域)に照明光を照射して、当該検査領域を照らすために用いられる。照明光は、例えば可視光の波長帯域を有する光であるが、他の波長帯域を有する光であってもよい。
【0122】
図8は、本実施形態の第1の例に係る照明部5の配置を示す模式図である。図8に示すように、フィルム検査装置1の照明部5は、光源51と、プリズム52とを備える。
【0123】
光源51は、フィルム2の表面2a側に配置され、レンズユニット43の光軸方向とは異なる方向に照明光を出射する。図8の第1の例では、光源51は、光軸方向(X方向)に関しては、フィルム2の表面2aとレンズユニット43の先端部43aとの間に配置され、上下方向(Z方向)に関しては、レンズユニット43よりも上方側に配置される。光源51は、レンズユニット43の光軸方向(X方向)と交差する方向、例えば、下方向(Z方向)に向けて照射光を出射する。したがって、図8の例では、光源51による照明光の出射方向は、レンズユニット43の光軸44に対して垂直な方向である。
【0124】
プリズム52は、例えば、図8に示すように、2つの直角プリズムにより構成されるキューブ型のプリズムであってもよい。この場合、一方の直角プリズムの傾斜面52aに、ビームスプリッターとして機能するための光学薄膜を蒸着し、2つの直角プリズムの傾斜面52a同士を接合して、キューブ型のプリズム52を構成してもよい。あるいは、プリズム52は、例えば、プレート型のプリズム(図示せず。)で構成されてもよい。この場合、薄い平板ガラス上にビームスプリッターとして機能するための光学薄膜を蒸着したものを、プレート型のプリズムとして使用できる。プリズム52が上記のうちいずれの構成であっても、プリズム52は、入射光を2つの光に分割したり、2つの入射光を重ね合わせたりすることができる。
【0125】
プリズム52は、光軸方向(X方向)においてフィルム2とレンズユニット43との間に配置される。図8の第1の例では、プリズム52は、レンズユニット43の光軸44上に配置され、かつ、光源51の真下に配置される。このため、プリズム52には、光源51からの照射光が下方向(Z方向の負方向)に入射されるとともに、検査対象であるフィルム2の表面2aの光学像が光軸44に沿って光軸方向(X方向の負方向)に入射される。
【0126】
プリズム52は、光源51から下方向(Z方向に負方向)に出射された照明光を光軸方向(X方向の正方向)に屈折させて、当該照明光を光軸44と同軸上でフィルム2の表面2aに入射させる。このように、プリズム52は、照明光を90°反射させて、フィルム2の表面2aに向けて屈曲させるための傾斜面52aを有している。この場合、傾斜面52aの傾斜角は45°である。また、フィルム2の表面2aからプリズム52に入射される光軸方向の光学像は、プリズム52の傾斜面52aを透過して、レンズユニット43および鏡筒42を介してカメラ41に入射される。
【0127】
このように、図8の第1の例によれば、照明部5として光源51とプリズム52を設けることにより、照明光を光軸44と同軸上でフィルム2の表面2aに照射することができる。かかる照明部5の構成と配置により、フィルム2の表面2aの検査領域(光軸44を含む領域)を好適に照明することができる。さらに、フィルム2の表面2a側に照明部5を配置するために、フィルム2の裏面2b側における他の部品のレイアウトの制約が少ないという長所がある。これにより、フィルム2の裏面2b側において、例えば、上記変位測定部6としての非接触式変位計61を、レイアウトの制約なく、自由に配置することができる(図1参照。)。
【0128】
一方、図8に示す第1の例では、光源51およびプリズム52がレンズユニット43に対して比較的近接して配置されているので、レンズユニット43が光源51およびプリズム52の熱影響を受けやすいという短所がある。このため、図8に示すように、当該熱影響によりレンズユニット43が熱膨張して、レンズ先端位置が光軸方向に変位しやすい。特に、プリズム52とレンズユニット43とを一体化したプリズム一体型レンズを使用した場合は、照明光により加熱されたプリズム52からレンズユニット43への熱影響が顕著になるので、当該熱影響の対策を行うことが好ましい。
【0129】
したがって、図8に示す第1の例では、上述した熱膨張補正AF動作(図7参照。)を実施することにより、レンズユニット43の熱膨張量ΔLに応じてレンズユニット43を光軸方向に動的に移動させて、レンズ先端位置とレンズ表面位置を一定に保つことが好ましい。
【0130】
次に、図9は、本実施形態の第2の例に係る照明部5の配置を示す模式図である。図9に示す第2の例では、フィルム検査装置1の照明部5は、光源51を備えており、上記第1の例のようなプリズム52を備えていない。
【0131】
図9に示すように、光源51は、フィルム2の表面2a側に配置され、レンズユニット43の光軸方向に対して所定角度だけ傾斜した方向に沿って、当該フィルム2の表面2aに向けて照明光を出射する。図9の第2の例では、光源51は、光軸方向(X方向)に関しては、フィルム2の表面2aよりもレンズユニット43側に配置され、上下方向(Z方向)に関しては、レンズユニット43よりも上方側に配置される。そして、光源51は、フィルム2の表面2aに向けて斜め下方に照射光を照射する。この照射光は、レンズユニット43に照射されることなく、フィルム2の表面2aの検査領域に直接的に照射される。
【0132】
このように、図9の第2の例によれば、上記第1の例のようにレンズユニット43の近傍にプリズム52が設けられておらず、光源51もレンズユニット43から比較的離隔している。そして、光源51は、フィルム2の表面2aの検査領域に向けて照射光を傾斜方向に照射することにより、レンズユニット43に対して直接的に照明光を照射しない。したがって、第2の例によれば、レンズユニット43に対する照明光の熱影響が少ないので、照明部5の熱影響に起因したレンズユニット43の熱膨張を抑制することができるという長所がある。
【0133】
一方、図9の第2の例では、照明部5の光源51およびレンズユニット43の双方が、フィルム2の表面2a側に配置されているので、フィルム2の表面2a側における光源51およびレンズユニット43などの部品のレイアウトや寸法の制約があるという短所がある。
【0134】
また、図9の第2の例では、カメラ41の熱影響により鏡筒42が熱膨張する場合がある。このため、当該熱膨張した鏡筒42に接続されたレンズユニット43も光軸方向に移動し、レンズ先端位置が光軸方向に変位する場合がある。したがって、上述した熱膨張補正AF動作(図7参照。)により、鏡筒42の熱膨張量ΔLに応じてレンズユニット43を光軸方向に動的に移動させて、レンズ先端位置とレンズ表面位置を一定に保つことが好ましい。
【0135】
次に、図10は、本実施形態の第3の例に係る照明部5の配置を示す模式図である。図10に示す第3の例では、フィルム検査装置1の照明部5は、光源51を備えており、上記第1の例のようなプリズム52を備えていない。
【0136】
図10に示すように、光源51は、フィルム2の裏面2b側に配置され、レンズユニット43の光軸44と同軸上で当該フィルム2の裏面2bに向けて、光軸方向(X方向の負方向)に照明光を出射する。このように、光源51とレンズユニット43は、フィルム2を間に挟んで対向配置されており、レンズユニット43の光軸44に沿って同軸上に配置されている。フィルム2が透明フィルム2Aである場合には、当該透明フィルム2Aの裏面2b側に照明光を照射しても、当該透明フィルム2Aの表面2a(検査面)の検査領域を照らすことができる。
【0137】
図10に示す第3の例のように、フィルム2の裏面2b側において、光源51を光軸44上に配置することにより、フィルム2の表面2a(検査面)側における他の部品のレイアウトの制約が少なく、レンズユニット43や変位計を自由に配置できるという長所がある。また、光軸44上に配置された光源51からの照明光を用いて、透明フィルム2Aの表面2a(検査面)の検査領域を適切に照らすことができるので、撮像画像の品質を向上できるという長所もある。
【0138】
一方、図10の第3の例では、レンズユニット43の光軸44と同軸上に配置された光源51からの照明光が、透明フィルム2Aを透過して、レンズユニット43の先端部43aに直接的に入射される。このため、レンズユニット43が照明光の熱影響を受けるので、図10に示すように、当該照明光の熱影響によりレンズユニット43が熱膨張しやすいという短所がある。したがって、当該熱膨張したレンズユニット43のレンズ先端位置が光軸方向に変位しやすい。さらに、カメラ41の熱影響により鏡筒42が熱膨張する場合もある。このため、当該熱膨張した鏡筒42に接続されたレンズユニット43も光軸方向に移動し、レンズ先端位置が光軸方向に変動する場合がある。したがって、図10の第3の例では、上述した熱膨張補正AF動作(図7参照。)により、レンズユニット43および鏡筒42の双方の熱膨張量ΔLに応じてレンズユニット43を光軸方向に動的に移動させて、レンズ先端位置とレンズ表面位置を一定に保つことが、より好ましい。
【0139】
なお、図10の第3の例の照明部5の配置の場合、変位測定部6の非接触式変位計61をフィルム2の表面2a側または裏面2b側のいずれに配置してもよい。例えば、フィルム2の裏面2b側において光源51と非接触式変位計61が干渉しないように、非接触式変位計61をフィルム2の表面2a側に配置してもよい。あるいは、フィルム2の表面2a側においてレンズユニット43と非接触式変位計61が干渉しないように、非接触式変位計61をフィルム2の裏面2b側に配置してもよい。
【0140】
以上、図8図10を参照して、本実施形態の第1~第3の例に係る照明部5の構成と配置について説明した。これら第1~第3の例はそれぞれ、上述した長所と短所を有するので、当該長所と短所や、検査対象のフィルム2と欠陥の種類に応じて、第1~第3の例の照明方法を適宜使い分けることが好ましい。この際、検出を所望する欠陥をコントラストよく検査できる照明方法を採用することがより望ましい。
【0141】
[7.レンズユニットと鏡筒の構成]
次に、図11を参照して、本実施形態の変更例に係るフィルム検査装置1におけるレンズユニット43と鏡筒42の接続状態について説明する。図11は、本実施形態の変更例に係るフィルム検査装置1を示す模式図である。
【0142】
図11に示すように、本実施形態の変更例に係るフィルム検査装置1において、撮像部4は、カメラ41と、鏡筒42と、レンズユニット43とを備えている。カメラ41、鏡筒42、レンズユニット43、照明部5の光源51は、光軸44に沿って同軸上にこの順で配置されている。カメラ41と鏡筒42は接続されているため、当該カメラ41と鏡筒42との間で、カメラ41の熱が鏡筒42に伝達しやすい。また、光源51とレンズユニット43は、光軸44に沿って同軸上に配置されているため、光源51からの照射光の熱によって、レンズユニット43が加熱されやすい。
【0143】
ここで、仮にレンズユニット43と鏡筒42が接続されている場合、レンズユニット43と鏡筒42との間で熱が伝わりやすくなるため、両者の熱膨張量ΔLの合計量が大きくなってしまう。例えば、カメラ41の発熱は、鏡筒42に伝わって鏡筒42を熱膨張させるが、レンズユニット43と鏡筒42が接続されていると、カメラ41の発熱が、鏡筒42を介してレンズユニット43にまで伝わって、レンズユニット43も熱膨張させることになる。また、照明光の熱は、レンズユニット43を熱膨張させるが、レンズユニット43と鏡筒42が接続されていると、照明光の熱が、レンズユニット43を介して鏡筒42にまで伝わって、鏡筒42も熱膨張させることになる。
【0144】
そこで、本実施形態の変更例に係るフィルム検査装置1では、図11に示すように、レンズユニット43と鏡筒42は、相互に非接触となるように配置されている。即ち、レンズユニット43と鏡筒42とは接続されておらず、光軸方向に相互に離隔して配置されている。このため、レンズユニット43と鏡筒42との間には、光軸方向に所定の幅を有する隙間45が形成されている。
【0145】
このように、レンズユニット43と鏡筒42との間に隙間45を形成することにより、カメラ41の発熱が鏡筒42を介してレンズユニット43に伝達しにくくなるので、カメラ41の発熱によるレンズユニット43の熱膨張を抑制できる。また、光源51の照射光の熱がレンズユニット43を介して鏡筒42に伝達しにくくなるので、照明光の熱による鏡筒42の熱膨張を抑制できる。加えて、上記隙間45が鏡筒42の熱膨張代となるので、鏡筒42の熱膨張によりレンズユニット43が光軸方向に移動することを抑制することも可能である。
【0146】
以上のように、レンズユニット43と鏡筒42を接続しない非接触構造を用いることにより、レンズユニット43または鏡筒42の熱膨張を抑制して、両者の合計の熱膨張量ΔLを低減できる。この非接触構造による熱膨張量ΔLの低減効果は、特に、図8および図9に示した照明方法を用いる場合に有効である。
【0147】
ただし、図11に示すようにレンズユニット43と鏡筒42の非接触構造により、両者の間の熱伝達を抑制したとしても、図10に示した照射方法の照明光によるレンズユニット43の熱膨張量ΔLの発生を抑制することが困難な場合がある。したがって、上述した熱膨張補正AF動作(図7参照。)により、レンズユニット43の熱膨張量ΔLに応じてレンズユニット43を光軸方向に動的に移動させて、レンズ先端位置とレンズ表面位置を一定に保つことが、より好ましい。
【0148】
また、上述したフィルム変位追従AF動作(図4参照。)または熱膨張補正AF動作(図7参照。)のためにレンズユニット43を移動させる場合、レンズユニット43だけでなく、鏡筒42およびカメラ41も含めて撮像部4の全体を移動せる方法も考えられる。しかし、カメラ41を含めた撮像部4全体の重量は重いため、熱膨張量ΔLの変動に対する撮像部4全体の移動動作の応答性が低下することがある。そこで、本実施形態の変更例では、レンズユニット43と鏡筒42とを分離した別構造として、鏡筒42およびカメラ41を移動させずに、レンズユニット43だけを単独で移動させる移動機構(図1に示す移動部8)を採用している。これにより、熱膨張量ΔLの変動に応じて、レンズユニット43単体を迅速かつ的確に移動させることができるので、フィルム変位追従AF動作および熱膨張補正AF動作の応答性を向上させることができる。
【0149】
ところで、図11に示すように、本実施形態の変更例に係るフィルム検査装置1の撮像部4は、レンズユニット43と鏡筒42との間の隙間45を覆う遮光部材46をさらに備える。遮光部材46は、例えば、鏡筒42の外径よりも大きな内径を有する筒状の部材で構成される。筒状の遮光部材46の光軸方向の長さは、特に限定されないが、少なくとも隙間45の光軸方向の開口幅よりも大きいことが好ましい。
【0150】
遮光部材46は、レンズユニット43または鏡筒42のいずれか一方もしくは双方に対して、非接触に配置されることが好ましい。図11に示す例では、遮光部材46は、レンズユニット43の後端部に取り付けられて、レンズユニット43により支持されており、遮光部材46は鏡筒42に対して非接触となるように構成されている。しかし、かかる例に限定されず、例えば、遮光部材46は、鏡筒42の前端部に取り付けられて、鏡筒42により支持されてもよく、遮光部材46はレンズユニット43に対して非接触となるように構成されてもよい。このように、遮光部材46を介してレンズユニット43と鏡筒42が連結されないように構成することで、レンズユニット43と鏡筒42との間で遮光部材46を通じて伝熱することを抑制できる。
【0151】
以上のように、本実施形態での変更例は、レンズユニット43と鏡筒42との間の隙間45を非接触で覆う遮光部材46を設ける。これにより、レンズユニット43と鏡筒42との非接触状態を維持しつつ、遮光部材46により外来光を遮断できる。したがって、レンズユニット43と鏡筒42との間の隙間45から鏡筒42内に外来光が進入することを抑制できるので、外来光の影響を低減して、カメラ41により撮像されるフィルム2の表面2aの画像の品質を向上できる。
【0152】
[8.まとめ]
以上、本実施形態に係るフィルム検査装置1について詳細に説明した。上述したように、フィルム2のインライン検査において、フィルム2の表面2a(検査面)上の数μmレベルの微小な欠陥を検出するために、撮像部4として高分解能の光学系(レンズユニット43など)を用いた場合、当該光学系の被写界深度が浅くならざるを得ない。すると、フィルム2の搬送中の振動や、フィルム2の厚みむら等によって発生するフィルム2の表面2aの変位(フィルム変位Δx)の影響で、フィルム2の表面2aの位置が、上記光学系の浅い被写界深度から外れやすくなる。このため、搬送中に多様に変位するフィルム2の表面2aに対して、高分解能の光学系の焦点を常に合わせることが困難になり、フィルム2の表面2a上の数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検査することが困難であるという課題があった。
【0153】
かかる課題を解決するため、本実施形態に係るフィルム検査装置1は、高分解能を有するレンズユニット43を光軸方向に移動可能な可動式構造とし、上記フィルム変位追従AF動作(図4参照。)を実行可能に構成されている。即ち、フィルム検査装置1は、搬送部3による搬送中のフィルム2の表面2aの変位(フィルム変位Δx)を測定する変位測定部6を備える。そして、フィルム検査装置1の制御部10は、搬送中のフィルム2の表面2aとレンズユニット43の先端部43aとの間の撮像距離が、一定の距離(例えば、レンズユニット43の焦点距離)に保持されるように、測定されたフィルム変位Δxに応じて、移動部8によりレンズユニット43を光軸方向に移動させる。このように、本実施形態に係るフィルム変位追従AF動作では、搬送中のフィルム2のフィルム変位Δxに追従して、レンズユニット43の光軸方向の位置を自動的に調整する。
【0154】
これにより、搬送中のフィルム2の表面2aの位置を、非常に高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度の範囲内に常に収めることができる。したがって、当該レンズユニット43の焦点を、搬送中のフィルム2の表面2aに対して常に合わせて、フィルム2の表面2aの数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検出することができる。このようなフィルム変位追従AF機構により、非常に高分解能のレンズユニット43を用いて、搬送中に多様に変位するフィルム2の微小な欠陥を高精度でインライン検査することが可能になる。
【0155】
ところで、インライン検査中に、周辺環境の変化や各種装置の発熱などにより、レンズユニット43や鏡筒42などの光学系が熱膨張または熱収縮する場合がある。すると、高分解能の光学系の熱膨張または熱収縮の影響で、フィルム2の表面2aの位置が、当該光学系の浅い被写界深度から外れやすくなる。このため、検査中に多様に熱膨張または熱収縮する光学系の焦点を、フィルム2の表面2aに対して常に合わせることが困難になり、フィルム2の表面2a上の数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検査することが困難であるという課題もあった。
【0156】
かかる課題を解決するため、本実施形態に係るフィルム検査装置1は、上記熱膨張補正AF動作(図7参照。)を実行可能に構成されている。即ち、フィルム検査装置1は、搬送部3によるフィルム2の搬送中に、レンズユニット43または鏡筒42等の熱膨張量ΔLを測定する熱膨張測定部7を備える。そして、フィルム検査装置1の制御部10は、搬送中のフィルム2の表面2aとレンズユニット43の先端部43aとの間の撮像距離が、一定の距離(例えば、レンズユニット43の焦点距離)に保持されるように、測定された熱膨張量ΔLに応じて、移動部8によりレンズユニット43を光軸方向に移動させる。このように、本実施形態に係る熱膨張補正AF動作では、レンズユニット43等の熱膨張量ΔLに応じて、レンズユニット43の光軸方向の位置を自動的に補正する。
【0157】
これにより、熱膨張または熱収縮によりレンズユニット43の先端部43aの位置が多様に変動したとしても、搬送中のフィルム2の表面2aの位置を、非常に高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度の範囲内に常に収めることができる。したがって、当該レンズユニット43の焦点を、搬送中のフィルム2の表面2aに対して常に合わせて、フィルム2の表面2aの数μmレベルの微小な欠陥を高精度で検出することができる。このような熱膨張補正AF機構により、レンズユニット43等の熱膨張または熱収縮の影響を低減できるため、非常に高分解能のレンズユニット43を用いてフィルム2の微小な欠陥を高精度でインライン検査することが可能になる。
【0158】
さらに、本実施形態によれば、上記のフィルム変位追従AF動作(図4参照。)と熱膨張補正AF動作(図7参照。)とを併用して、フィルム変位Δxおよび熱膨張量ΔLの双方に応じてレンズユニット43の位置を自動的に調整する複合AF動作を行ってもよい。これにより、フィルム変位Δxおよび熱影響などの外乱による検査精度への影響を低減できるので、高分解能の光学系を用いて、より安定的かつ高精度でインライン検査を実行可能になる。
【0159】
さらに、微細な凹凸構造が形成されたフィルム2などの微細加工製品を検査対象とした光学系を用いた場合、従来のフィルム検査装置では、インライン検査開始前に、光学系の熱影響が安定するまでに、例えば80分以上といった長時間の暖機運転が必要であった。これに対し、本実施形態に係るフィルム検査装置1では、上記熱膨張補正AF動作(図7参照。)により当該熱影響に対処できるので、暖機運転を行うことなく、インライン検査を迅速に開始できるとともに、その後も、長時間にわたり安定的にインライン検査を継続することができる。
【0160】
加えて、本実施形態によれば、インライン検査中にフィルム検査装置1が異常停止した場合でも、フィルム検査装置1の再稼働時に、上記熱影響の確認をしなくて済むので、短時間で再稼働することができ、復旧が容易である。また、フィルム検査装置1の停止中に、レンズユニット43等の光学系の温度が低下したとしても、上記熱膨張補正AF動作により当該温度低下の影響を補正できるので、フィルム検査装置1を迅速に再稼働することができる。
【0161】
また、本実施形態によれば、フィルム変位Δxや熱膨張量ΔLに応じて、レンズユニット43自体を光軸方向に移動させることによって、上記フィルム変位追従AF動作や熱膨張補正AF動作を実現できる。このため、フィルム変位追従AF動作または熱膨張補正AF動作を行うために、既存のレンズユニット43の内部に設けられたAF機構を改変したり、新たに専用のレンズユニット43を開発したりする必要がなく、既存のレンズユニット43をそのまま使用できる。したがって、フィルム変位追従AF動作または熱膨張補正AF動作を実現するフィルム検査装置1を容易かつ安価に実現することができる。
【実施例0162】
次に、本発明の実施例に係るフィルム検査装置について説明する。なお、以下の実施例は、あくまでも本発明に係るフィルム検査装置の効果と実施可能性を示すための一例にすぎず、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0163】
[1.フィルム変位追従AF動作に関する試験]
まず、上述したフィルム変位追従AF動作に関する試験について説明する。上記の図1に示した構成のフィルム検査装置1を用いて、フィルム2の表面2a(検査面)の欠陥を検出するインライン検査試験を行った。検査対象のフィルム2としては、フィルム基材の表面上に微細凹凸構造が形成された透明フィルムを使用した。撮像部4の光学系としては、数μmレベルの欠陥を検出可能な高分解能を有するレンズユニット43を使用した。
【0164】
本発明の実施例1では、インライン検査試験中に、上述したフィルム変位追従AF動作を行った。このフィルム変位追従AF動作では、目標搬送速度(4m/min)を含む所定範囲の搬送速度(1~10m/min)でフィルム2を搬送しながら、当該フィルム2の表面2aとレンズユニット43の先端部43aとの間の距離が一定になるよう、光軸方向のフィルム変位Δxに応じてレンズユニット43の光軸方向の位置を自動的に調整した。この際、非接触式変位計61により、フィルム2の表面2aの基準位置(図4参照。)に対する、走行するフィルム2の表面2aの現在位置のずれ量(即ち、フィルム変位Δx)を測定し、当該フィルム変位Δxに応じてレンズユニット43を光軸方向にリアルタイムで移動させた。
【0165】
一方、比較例1では、フィルム変位追従AF動作を行わずに、インライン検査試験を行った。フィルム変位追従AF動作の有無以外の条件については、実施例1と比較例1の間で同一の条件とした。
【0166】
(1)フィルム変位追従AF性能の評価
上記インライン検査試験中に、フィルム2の表面2a(検査面)に対するレンズユニット43の焦点のずれ量を測定し、実施例1に係るフィルム変位追従AF性能を評価した。
【0167】
この結果、1~10m/minの搬送速度の範囲内では、レンズユニット43の焦点のずれ量は、3μm以内であり、高分解能のレンズユニット43の狭い被写界深度の範囲内であった。したがって、搬送中に振動するフィルム2の表面2a(検査面)に対して、高分解能のレンズユニット43の焦点を常に合わせながら、当該表面2a(検査面)を好適に撮像できた。よって、上記図1に示した構成のフィルム検査装置1は、十分なフィルム変位追従AF性能を有することが確認された。
【0168】
(2)フィルム変位追従AF動作の効果の評価
実際のインライン検査試験において、搬送されるフィルム2の検査中に、80μm程度のフィルム変位Δxを周期的に発生させ、実施例1と比較例1の間で、フィルム変位追従AF動作の有無によって、欠陥の検出精度に与える影響を比較した。
【0169】
実施例1では、フィルム変位追従AF動作を実行した。この結果、実施例1では、周期的なフィルム変位Δxに追従して、欠陥を安定的に検出することができ、周期的な欠陥の見逃しもなかった。
【0170】
これに対し、比較例1では、フィルム変位追従AF動作を実行しなかった。この結果、比較例1では、周期的なフィルム変位Δxの大きさに依存して欠陥の検出精度が変動し、フィルム変位Δxが大きい場合には欠陥を検出できず、周期的な欠陥のボケおよび見逃しが発生した。
【0171】
以上の結果によれば、実施例1に係るフィルム変位追従AF動作を実行して、フィルム変位Δxに追従してレンズユニット43を移動させることにより、搬送中のフィルム2の表面2a(検査面)上の数μmレベルの欠陥を安定的かつ高精度で検出できることが確認された。
【0172】
[2.熱膨張補正AF動作に関する試験]
次に、上述した熱膨張補正AF動作に関する試験について説明する。上述した図1に示した構成のフィルム検査装置1を用いて、フィルム2の表面2a(検査面)の欠陥を検出するインライン検査試験を行った。検査対象のフィルム2としては、フィルム基材の表面上に微細凹凸構造が形成された透明フィルムを使用した。撮像部4の光学系としては、数μmレベルの欠陥を検出可能な高分解能を有するレンズユニット43を使用した。また、撮像部4の光学系において、図11に示したように、レンズユニット43と鏡筒42とを接続せずに、両者を非接触状態で配置した。さらに、レンズユニット43と鏡筒42との間の隙間45を覆う遮光部材46を設けた。
【0173】
本発明の実施例2では、インライン検査試験中に、上述した熱膨張補正AF動作を行った。この熱膨張補正AF動作では、所定の搬送速度でフィルム2を搬送しながら、当該フィルム2の表面2aとレンズユニット43の先端部43aとの間の距離が一定になるよう、撮像部4の光学系の光軸方向の熱膨張量ΔLに応じてレンズユニット43の光軸方向の位置を自動的に補正した。この際、接触式変位計71により、レンズユニット43の先端部43aの基準位置(図7参照。)に対する、レンズユニット43の先端部43aの現在位置のずれ量(即ち、熱膨張量ΔL)を測定し、当該熱膨張量ΔLに応じてレンズユニット43を光軸方向にリアルタイムで移動させた。
【0174】
さらに、実施例3では、実施例2と同様な熱膨張補正AF動作に加えて、上述した実施例1と同様なフィルム変位追従AF動作も行った。
【0175】
一方、比較例2では、熱膨張補正AF動作およびフィルム変位追従AF動作を行わずに、インライン検査試験を行った。熱膨張補正AF動作とフィルム変位追従AF動作の有無以外の条件については、実施例2、3と比較例2との間で同一の条件とした。
【0176】
(1)光学系の温度上昇の評価結果
図12は、実施例2に係るフィルム検査装置1によりインライン検査試験を行ったときの撮像部4の各部の温度変化を示すグラフである。本試験では、最大膨張時のレンズ先端位置を熱膨張量ΔLの基準位置に設定するために、図12に示すように、試験開始から約115分までの期間は、レンズユニット43を強制加熱して熱膨張させ、その後はレンズユニット43を自然冷却させた。
【0177】
図12に示すように、試験中にカメラ41が発熱するため、カメラ41の温度は、時間の経過につれて徐々に上昇し、最大で約33℃まで上昇した。カメラ41に接続された鏡筒42は、カメラ41の発熱の影響を受けるため、鏡筒42の後部(カメラ41側)の温度は、カメラ41の温度上昇に伴い、約30℃まで上昇した。
【0178】
一方、試験開始当初に、レンズユニット43の温度は、約48℃まで上昇したが、鏡筒42の前部(レンズユニット43側)は、約24℃以下の比較的低温を維持していた。この理由は、実施例2では、レンズユニット43と鏡筒42とが非接触であるので、レンズユニット43の熱が鏡筒42に伝わりにくいからであると考えられる。したがって、加熱されたレンズユニット43が熱膨張したとしても、その熱影響により鏡筒42も熱膨張することを抑制できる。よって、レンズユニット43と鏡筒42とを非接触とすることにより、当該レンズユニット43と鏡筒42との間の熱影響を排除できることが確認された。
【0179】
(2)熱膨張補正AF動作の効果の評価
実際のインライン検査試験において、搬送されるフィルム2の検査中に、レンズユニット43等の光学系を熱膨張させ、実施例2、3と比較例2の間で、熱膨張補正AF動作の有無によって、欠陥の検出精度に与える影響を比較した。なお、熱膨張量は、0μ~最大30μm程度とし、最大膨張時のレンズ先端位置を熱膨張量ΔLの基準位置とした(図7参照。)。
【0180】
実施例2では、熱膨張補正AF動作を実行した。この結果、実施例2では、レンズユニット43等の熱膨張量ΔLの大小に関わらず、フィルム2の表面2a(検査面)に対して、高分解能のレンズユニット43の焦点を常に合わせて、検査することができた。このため、レンズユニット43等が最大膨張状態(基準位置)から収縮状態(常温状態)までのいずれの状態であっても、熱影響を受けずに、数μmレベルの欠陥を安定的に検出することができた。
【0181】
これに対し、比較例2では、レンズ先端位置が基準位置にあるとき(即ち、最大膨張状態のとき)のみ、欠陥を検出することができた。一方、レンズユニット43等が収縮しているとき(例えば、常温状態~多少の膨張状態のとき)には、レンズ先端位置とフィルム表面位置との間の距離が適正でないため、ピントのずれが発生し、欠陥を検出することができなかった。
【0182】
以上の結果によれば、実施例2に係る熱膨張補正AF動作を実行して、熱膨張量ΔLに応じてレンズ先端位置を補正することにより、搬送中のフィルム2の表面2a(検査面)上の数μmレベルの欠陥を安定的かつ高精度で検出できることが確認された。
【0183】
(3)フィルム変位追従AF動作と熱膨張補正AF動作を併用する効果の評価
次に、上記のフィルム変位追従AF動作と熱膨張補正AF動作を併用したときの効果を確認するために、インライン検査試験を行った。本試験では、当該併用効果を明確にするために、走行するフィルム2のフィルム変位Δxを、通常の10~20μm程度から80μm程度に増加させた。即ち、図13に示すように、80μm程度の周期的なフィルム変位Δxを意図的に発生させながら、フィルム2を走行させるインライン検査を実施した。
【0184】
本試験では、上記のとおり、実施例2では熱膨張補正AF動作のみを実行し、実施例3では、フィルム変位追従AF動作および熱膨張補正AF動作の双方を実行した。一方、比較例2では、フィルム変位追従AF動作および熱膨張補正AF動作の双方を実行しなかった。
【0185】
この結果、実施例3では、図13に示すように、走行するフィルム2の表面2aに対するレンズユニット43の焦点のずれ量(フォーカスずれ量)は、±3μm程度以下であり、レンズユニット43の被写界深度よりも大きいフォーカスずれが発生しなかった。このため、実施例3では、レンズユニット43の温度変化(熱膨張量ΔL)およびフィルム変位Δxの大小に関わらず、フィルム2の検査面を安定的かつ高精度で検査することができた。
【0186】
また、実施例2では、レンズユニット43の焦点をフィルム2の検査面に合わせた最大膨張状態では、フィルム変位Δxに追従して安定的に欠陥を検査することができた。しかし、レンズユニット43等の温度変化により熱膨張量ΔLが変動したときには、欠陥を適切に検出することは困難であった。
【0187】
また、比較例2では、レンズユニット43の焦点をフィルム2の検査面に合わせた最大膨張状態においても、フィルム変位Δxに追従できず、欠陥の検査が不安定であった。
【0188】
以上の結果から、フィルム変位追従AF動作と熱膨張補正AF動作を併用することによって、フィルム変位Δxや熱膨張量ΔLといった外乱の影響を受けずに、高分解能のレンズユニット43を用いて数μmレベルの微小な欠陥を安定的に検査できることが確認された。
【0189】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0190】
例えば、上記実施形態では、フィルム変位Δxまたは熱膨張量ΔLの変動に対する応答性を向上させるため、フィルム検査装置1の移動部8により、撮像部4のうちレンズユニット43だけを移動させて、上記AF動作を実行した。しかし、本発明は、かかる例に限定されず、例えば、レンズユニット43および鏡筒42の双方を移動させてもよいし、レンズユニット43、鏡筒42およびカメラ41(即ち、撮像部4の全体)を移動させてもよい。また、レンズユニット43を複数のユニットに分割して構成し、一部のユニットのみを移動させてもよい。
【0191】
また、上記実施形態では、照明部5の構成および配置として、図8図10に示す例を挙げて説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されず、照明部5の構成および配置は、多様に設計変更可能である。また、照明部5を必ずしも設けなくてもよい。
【0192】
また、変位測定部6および熱膨張測定部7の構成や配置も、上述した実施形態の例に限定されず、多様に設計変更可能である。
【0193】
なお、本実施形態に係るフィルム検査装置1の制御部10による制御処理は、ソフトウェア、ハードウェア、または、ソフトウェアとハードウェアとの組合せのうちいずれを用いて実現されてもよい。ソフトウェアを構成するプログラムは、例えば、フィルム検査装置1の内部または外部に設けられる非一時的な記憶媒体(non-transitory media)に予め格納される。そして、プログラムは、例えば、非一時的な記憶媒体(例えば、ROM)から一時的な記憶媒体(例えば、RAM)に読み出され、CPUなどのプロセッサにより実行される。
【0194】
制御部10の各機能を実現するためのプログラムを作成し、フィルム検査装置1のコンピュータにインストールすることが可能である。プロセッサが、メモリに記憶されているプログラムを実行することにより、上記各機能の処理が実行される。このとき、複数のプロセッサによりプログラムを分担して実行してもよいし、1つのプロセッサでプログラムを実行してもよい。また、通信ネットワークにより相互に接続された複数のコンピュータを用いるクラウドコンピューティングにより、制御部10の各機能を実現してもよい。
【0195】
なお、プログラムは、外部装置から通信ネットワークを通じた配信により、フィルム検査装置1のコンピュータに提供されて、インストールされてもよい。あるいは、プログラムは、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記録媒体(non-transitory computer readable medium)に格納され、当該記録媒体を介してフィルム検査装置1のコンピュータに提供されて、インストールされてもよい。
【符号の説明】
【0196】
1 フィルム検査装置
2 フィルム
2A 透明フィルム
2B 非透明フィルム
2a フィルムの表面(検査面)
2b フィルムの裏面(非検査面)
3 搬送部
4 撮像部
5 照明部
6 変位測定部
7 熱膨張測定部
8 移動部
10 制御部
31 ガイドロール
41 カメラ
42 鏡筒
43 レンズユニット
43a 先端部
44 光軸
45 隙間
46 遮光部材
51 光源
52 プリズム
61 非接触式変位計
71 接触式変位計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13