(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169947
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】光触媒塗膜
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241129BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20241129BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20241129BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20241129BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20241129BHJP
【FI】
C09D201/00
B01J35/02 J
B01J27/24 M
C09K3/00 T
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086822
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 周
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 誠
【テーマコード(参考)】
4G169
4J038
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA11
4G169BA01B
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA14B
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB11A
4G169BC10A
4G169BC31B
4G169BC35A
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169CA11
4G169DA05
4G169EA08
4G169EA11
4G169EB18X
4G169HA02
4G169HB01
4G169HB06
4G169HC02
4G169HC29
4G169HD10
4G169HE07
4G169HE12
4J038HA216
4J038KA15
4J038NA05
4J038PB07
4J038PB09
(57)【要約】
【課題】光触媒材料を利用して製品表面へ高い抗菌抗ウイルス性能を付与することができる光触媒塗膜を提供する。
【解決手段】光触媒材料を含み、表面ゼータ電位が+5mV以上である、光触媒塗膜である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒材料を含み、表面ゼータ電位が+5mV以上であることを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項2】
請求項1に記載の光触媒塗膜であって、
前記光触媒材料が、可視光に応答する可視光応答型光触媒材料であることを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項3】
請求項2に記載の光触媒塗膜であって、
前記可視光応答型光触媒材料が、窒素をドープした窒素ドープ酸化チタンであることを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項4】
請求項3に記載の光触媒塗膜であって、
前記窒素ドープ酸化チタンの一次粒径が、100nm以下であることを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項5】
請求項1に記載の光触媒塗膜であって、
前記表面電位を調整するための表面電位調整材料を含むことを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項6】
請求項5に記載の光触媒塗膜であって、
前記表面電位調整材料が、等電点が7以上である無機酸化物の粒子であることを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項7】
請求項6に記載の光触媒塗膜であって、
前記無機酸化物の粒子が、アルミニウムの酸化物の粒子、ジルコニウムの酸化物の粒子、マグネシウムの酸化物の粒子、亜鉛の酸化物の粒子、および表面修飾したシリカ粒子のうちの少なくとも1つであることを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項8】
請求項6または7に記載の光触媒塗膜であって、
前記無機酸化物の粒子の一次粒径が、100nm以下であることを特徴とする光触媒塗膜。
【請求項9】
請求項1に記載の光触媒塗膜であって、
前記表面ゼータ電位が、+6~+20mVの範囲であることを特徴とする光触媒塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料を含む光触媒塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
家電、車室内の部材など様々な製品の表面に抗菌および/または抗ウイルス性能(以下、「抗菌および/または抗ウイルス」を「抗菌抗ウイルス」と呼ぶ場合がある)を付与することが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱可塑性フィルムの少なくとも一面に、酸化セリウム粒子を20重量%以上、90重量%以下含む樹脂層を有し、樹脂層の表面ゼータ電位を-10mV以上、+70mV以下の範囲で調整する積層フィルムが記載され、抗菌抗ウイルス材料として酸化セリウム粒子を使用している。
【0004】
特許文献2には、抗菌抗ウイルス性能を有するとされる第4級アンモニウム塩の表面をカチオン基とした抗菌抗ウイルス性化合物を繊維表面に付与する抗菌抗ウイルス性繊維の製造方法が記載され、繊維の表面のゼータ電位が-100mV以上、-0.1mV以下の範囲であることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、粘着層と、抗菌抗ウイルス剤として作用する銅化合物の粒子と表面電位制御剤として作用するカチオン系界面活性剤と樹脂とを混合した抗菌抗ウイルス層と、樹脂を含んで構成され、粘着層と抗菌抗ウイルス層との間に配置され、銅化合物の粒子と粘着層との接触を阻害する接触阻害層と、を備える抗菌抗ウイルス性貼付けテープ(フィルム)を製造する技術が記載され、表面電位制御剤により抗菌抗ウイルス層表面における樹脂の電位をプラス方向に変化させるとしている。
【0006】
特許文献1では、抗菌抗ウイルス材料として酸化セリウム粒子を使用しており、表面ゼータ電位が-10mV以上、+70mV以下であることを特徴としているが、想定される抗ウイルス性の作用機作が光触媒効果とは異なっていると説明している。また、特許文献1では、抗ウイルス効果の確認をサンプルの酸化力変化によって行っているのみであり、ウイルスの不活化試験を行っておらず、抗ウイルス性能の改善が示されていない。
【0007】
特許文献2では、第4級アンモニウム塩を使用した抗菌抗ウイルス剤を用いているが、繊維の表面のゼータ電位を負に帯電させることを特徴としている。
【0008】
特許文献3では、銅化合物を抗菌抗ウイルス剤として使用し、カチオン系界面活性剤により抗菌抗ウイルス層表面における樹脂の電位を調整しているが、有機物の界面活性剤を使用する技術であるため、酸化能力に優れた光触媒を使用している材料系では界面活性剤が分解されてしまい適用不可である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2022-079832号公報
【特許文献2】特開2022-076352号公報
【特許文献3】特開2016-088916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、光触媒材料を利用して製品表面へ高い抗菌抗ウイルス性能を付与することができる光触媒塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、光触媒材料を含み、表面ゼータ電位が+5mV以上である、光触媒塗膜である。
【0012】
前記光触媒塗膜において、前記光触媒材料が、可視光に応答する可視光応答型光触媒材料であることが好ましい。
【0013】
前記光触媒塗膜において、前記可視光応答型光触媒材料が、窒素をドープした窒素ドープ酸化チタンであることが好ましい。
【0014】
前記光触媒塗膜において、前記窒素ドープ酸化チタンの一次粒径が、100nm以下であることが好ましい。
【0015】
前記光触媒塗膜において、前記表面電位を調整するための表面電位調整材料を含むことが好ましい。
【0016】
前記光触媒塗膜において、前記表面電位調整材料が、等電点が7以上である無機酸化物の粒子であることが好ましい。
【0017】
前記光触媒塗膜において、前記無機酸化物の粒子が、アルミニウムの酸化物の粒子、ジルコニウムの酸化物の粒子、マグネシウムの酸化物の粒子、亜鉛の酸化物の粒子、および表面修飾したシリカ粒子のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0018】
前記光触媒塗膜において、前記無機酸化物の粒子の一次粒径が、100nm以下であることが好ましい。
【0019】
前記光触媒塗膜において、前記表面ゼータ電位が、+6~+20mVの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、光触媒材料を利用して製品表面へ高い抗菌抗ウイルス性能を付与することができる光触媒塗膜を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1、比較例1における抗菌抗ウイルス性能試験結果を示すグラフである。
【
図2】実施例2~4、比較例1,2における各サンプルの表面ζ電位(mV)を示すグラフである。
【
図3】実施例2~4、比較例1,2における各サンプルの表面ζ電位(mV)に対する抗菌抗ウイルス活性値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本実施形態に係る光触媒塗膜は、光触媒材料を含み、表面電位が+5mV以上である、光触媒塗膜である。
【0024】
本実施形態に係る光触媒塗膜によって、光触媒材料を利用して製品表面へ高い抗菌抗ウイルス性能を付与することができる。低照度条件(例えば、500Lx以下)でも例えばJIS準拠の活性値2以上の抗菌抗ウイルス性能を達成することができ、家電、車室内の部材など様々な製品へ抗菌抗ウイルス性能を付与することができる。
【0025】
例えば、光触媒塗膜に等電点が7以上の材料を加えることによって塗装面の表面電位を正に調整し、菌やウイルスの吸着を促進させ光触媒表面での菌やウイルスとの接触頻度を高める。この効果によって表面反応である光触媒による菌やウイルスの不活化性能を改善することが可能となると考えられる。
【0026】
従来用いられている一般的な抗菌抗ウイルス材料としては、光触媒材料や銅(Cu)や銀(Ag)などに代表される金属、またはそれらの酸化物などの無機系の材料、さらに第4級アンモニウム塩などの有機系の材料などが挙げられるが、いずれも材料表面で生成する反応種との相互作用で菌やウイルスを不活化するメカニズムである。特に不活化の主要因とされる活性酸素種は不安定で寿命が短いなどの特徴があるため、材料表面と菌やウイルスなどの対象物との接触頻度を高めることが重要な因子となる。ここで一般的な細菌やウイルスの表面は構成される外殻や膜の組成から中性の湿潤領域で負に帯電しており、負の帯電表面に対しては細菌やウイルスが静電的に反発し吸着が抑制されると考えられる。酸化チタン系などの光触媒材料は表面の等電点が5付近であるため、中性の水中では負に帯電しており、菌やウイルスの吸着が抑制され、例えば平滑な面では抗菌抗ウイルス性能が十分発揮されないことが課題となっている。本発明者らは、例えば、光触媒材料を含む光触媒塗膜に等電点が7以上の材料であり、かつ光触媒反応にほとんど影響を与えない無機酸化物などの表面電位調整材料を混合して塗膜を正に帯電させて、表面電位を+5mV以上として菌やウイルスの吸着を促進させることによって、光触媒表面での菌やウイルスとの接触頻度を高め、高い抗菌抗ウイルス性能を付与することができることを見出した。この効果によって表面反応である光触媒による菌やウイルスの不活化性能を改善することが可能となると考えられる。
【0027】
以上のことから、本実施形態に係る光触媒塗膜は上記問題点を克服できる能力を有しており、特に光触媒を利用した酸化力の優れた抗菌抗ウイルス材料において優れた技術である。
【0028】
光触媒材料は、光に応答して抗菌抗ウイルス性能を発揮する材料であればよく、特に制限はない。光触媒材料としては、窒素をドープした窒素ドープ酸化チタン、酸化タングステン、金属ドープ酸化チタンなどの可視光応答型光触媒材料、酸化チタン、酸化亜鉛などの紫外光型光触媒材料などが挙げられる。光触媒材料としては、屋内利用などの点から、可視光に応答する可視光応答型光触媒材料であることが好ましい。
【0029】
可視光応答型光触媒材料としては、透明膜にするための微粒子化などの点から、窒素をドープした窒素ドープ酸化チタンであることが好ましい。
【0030】
窒素ドープ酸化チタンの一次粒径は、100nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましい。窒素ドープ酸化チタンの一次粒径が100nmを超えると、膜の透明性が低下する場合がある。窒素ドープ酸化チタンの一次粒径の下限は、特に制限はないが、例えば、5nmである。
【0031】
光触媒塗膜において、表面電位を調整するための表面電位調整材料を含むことが好ましい。表面電位調整材料としては、例えば、等電点が7以上である材料、好ましくは等電点が8以上14以下である材料が挙げられる。等電点が7以上である材料としては、例えば、ベーマイト,アルミナなどのアルミニウムの酸化物、ジルコニウムの酸化物、亜鉛の酸化物、マグネシウムの酸化物、カドニウムの酸化物、鉛の酸化物、ニッケルの酸化物、銅の酸化物などの粒子、表面修飾したシリカ粒子、各種金属の水酸化物、第4級アンモニウム塩などの有機物などが挙げられる。
【0032】
これらのうち、表面電位調整材料としては、毒性が低いこと、無色であること、光触媒に酸化されて活性を低下させるなどの点から、アルミニウムの酸化物の粒子、ジルコニウムの酸化物の粒子、マグネシウムの酸化物の粒子、亜鉛の酸化物の粒子、および表面修飾したシリカ粒子のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0033】
無機酸化物の粒子の一次粒径は、100nm以下であることが好ましい。無機酸化物の粒子の一次粒径が100nmを超えると、膜の透明性が低下する場合がある。無機酸化物の粒子の一次粒径の下限は、特に制限はないが、例えば、5nmである。
【0034】
光触媒塗膜において、表面ゼータ電位は、+5mV以上であり、+6~+20mVの範囲であることが好ましい。表面ゼータ電位が+5mV未満であると、抗菌抗ウイルス性能が十分発揮されない場合があり、+20mVを超えると、コーティング液の分散性が低下し、光触媒粒子が凝集して膜の透明性が低下する場合がある。
【0035】
光触媒塗膜中の光触媒材料の含有量は、例えば、光触媒塗膜の固形分の質量に対して、20質量%~90質量%の範囲であり、60質量%~85質量%の範囲であることが好ましい。光触媒塗膜中の光触媒材料の含有量が光触媒塗膜の固形分の質量に対して20質量%未満であると、抗菌抗ウイルス性能が不十分となる場合があり、90質量%を超えると、膜強度が低下する場合がある。
【0036】
光触媒塗膜中の表面電位調整材料の含有量は、表面電位を+5mV以上とすることができる量であればよく、特に制限はない。光触媒塗膜中の表面電位調整材料の含有量は、例えば、光触媒塗膜の固形分の質量に対して、5質量%~50質量%の範囲であり、10質量%~25質量%の範囲であることが好ましい。光触媒塗膜中の表面電位調整材料の含有量が光触媒塗膜の固形分の質量に対して5質量%未満であると、表面電位を+5mV以上とすることができない場合があり、50質量%を超えると、光触媒量が相対的に少なくなり光触媒活性および抗菌抗ウイルス性能が低下する場合がある。
【0037】
光触媒塗膜は、光触媒材料、表面電位調整材料の他に、例えば、バインダー、色調調整材、膜表面硬化材などの他の材料を含んでもよい。
【0038】
他の成分を含む場合、光触媒塗膜中の他の成分の含有量は、例えば、光触媒塗膜の固形分の質量に対して、5質量%~80質量%の範囲である。
【0039】
本実施形態に係る光触媒塗膜は、家電、車室内の部材、病院、公共施設などの屋内に適用する屋内製品、紫外光が少ない日陰などで使用する屋外製品などの製品に適用可能である。本材料は紫外光の無い条件でも応答する材料であるなどの点から、特に、車室内の部材、屋内製品に好適に適用可能である。本実施形態に係る光触媒塗膜により、これらの様々な製品表面へ高い抗菌抗ウイルス性能を付与することができる。
【0040】
本実施形態に係る光触媒塗膜は、対象の製品の表面などに、光触媒材料および必要に応じて表面電位調整材料などを溶媒に溶解または分散させた光触媒含有液を用いて、スピンコート、噴霧、浸漬などの公知の膜形成方法によって、形成すればよい。
【0041】
溶媒としては、水や、アルコールなどの有機溶媒などが挙げられる。
【0042】
光触媒含有液の固形分濃度は、膜形成方法に応じて適宜選択すればよく、特に制限はない。
【0043】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
(1)光触媒材料を含み、表面電位が+5mV以上である、光触媒塗膜。
【0044】
(2)(1)に記載の光触媒塗膜であって、
前記光触媒材料が、可視光に応答する可視光応答型光触媒材料である、光触媒塗膜。
【0045】
(3)(2)に記載の光触媒塗膜であって、
前記可視光応答型光触媒材料が、窒素をドープした窒素ドープ酸化チタンである、光触媒塗膜。
【0046】
(4)(3)に記載の光触媒塗膜であって、
前記窒素ドープ酸化チタンの一次粒径が、100nm以下である、光触媒塗膜。
【0047】
(5)(1)~(4)のいずれか1つに記載の光触媒塗膜であって、
前記表面電位を調整するための表面電位調整材料を含む、光触媒塗膜。
【0048】
(6)(5)に記載の光触媒塗膜であって、
前記表面電位調整材料が、等電点が7以上である無機酸化物の粒子である、光触媒塗膜。
【0049】
(7)(6)に記載の光触媒塗膜であって、
前記無機酸化物の粒子が、アルミニウムの酸化物の粒子、ジルコニウムの酸化物の粒子、マグネシウムの酸化物の粒子、亜鉛の酸化物の粒子、および表面修飾したシリカ粒子のうちの少なくとも1つである、光触媒塗膜。
【0050】
(8)(6)または(7)に記載の光触媒塗膜であって、
前記無機酸化物の粒子の一次粒径が、100nm以下である、光触媒塗膜。
【0051】
(9)(1)~(8)のいずれか1つに記載の光触媒塗膜であって、
前記表面電位が、+6~+20mVの範囲である、光触媒塗膜。
【実施例0052】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
[光触媒塗膜の作製方法]
5cm×5cmのガラス板に、光触媒材料として銅を担持した窒素ドープ酸化チタン(可視光応答型光触媒材料)を含む光触媒コーティング液1mLをスピンコートし、光触媒材料の担持量を0.5g/m2に調整した。塗布サンプルを200℃、30分間で熱処理した後、1.0mW/cm2の強度の紫外線を24時間照射した。表面電位調整材料を加える場合は、ベーマイト(γ-AlOOH)をエタノールに分散させた表面電位調整液、またはアルミナ(Al2O3)ゾルを水に分散させた表面電位調整液を所定量、光触媒コーティング液に加えて同様に塗布サンプルを作製した。なお、X線回折法で同定した窒素ドープ酸化チタンの一次粒径は、約20nmであり、ベーマイトの一次粒径は、約50nmであり、アルミナの一次粒径は、約20nmであった。
【0054】
<実施例1>
表面電位調整材料としてベーマイト(γ-AlOOH)を光触媒塗膜の全固形分割合で10質量%添加した光触媒塗膜を実施例1として用いた。
【0055】
<実施例2>
表面電位調整材料としてアルミナ(Al2O3)ゾルを光触媒塗膜の全固形分割合で10質量%添加した光触媒塗膜を実施例2として用いた。
【0056】
<実施例3>
表面電位調整材料としてAl2O3ゾルを光触媒塗膜の全固形分割合で25質量%添加した光触媒塗膜を実施例3として用いた。
【0057】
<実施例4>
表面電位調整材料として表面改質したシリカ(SiO2)ゾルを光触媒塗膜の全固形分割合で10質量%添加した光触媒塗膜を実施例4として用いた。
【0058】
<比較例1>
表面電位調整材料を添加せずに光触媒材料のみを用いた光触媒塗膜を比較例1として用いた。
【0059】
<比較例2>
光触媒材料を添加せずに表面電位調整材料としてAl2O3ゾルのみを用いた光触媒塗膜を比較例2として用いた。
【0060】
[抗菌抗ウイルス試験]
抗菌試験は、JIS R 1752:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果」中の第9章フィルム密着法に基づき試験を行った。
【0061】
また、抗ウイルス試験は、JIS R 1756:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」に基づき試験を行った。
【0062】
試験のときの光照度は、500Lxで380nm以下をカットするフィルタにより紫外光をカットした可視光を照射した。また、抗菌抗ウイルス性能は下記(a)で計算する活性値で示す。
明所における抗菌抗ウイルス活性値=log(BL/A)-log(CL/A)=log(BL/CL)・・・(a)
A:無加工検体の接種直後の生菌数または感染価の平均値
BL:無加工検体の所定時間照射後の生菌数または感染価の平均値
CL:加工検体の所定時間照射後の生菌数または感染価の平均値
【0063】
図1に、実施例1、比較例1における抗菌抗ウイルス性能試験結果を示す。
【0064】
感染価が2桁減少で抗菌抗ウイルス性能があるとされる。実施例1では抗菌抗ウイルス性能が高いことが示された。
【0065】
[分散液のゼータ電位測定]
光触媒コーティング液と表面電位調整液の分散粒子のゼータ電位を、ゼータサイザーナノZSP(Malvern Panaltical製)を用いて測定した。光触媒コーティング液と表面電位調整液の分散粒子のゼータ電位を表1に示す。
【0066】
[表面電位測定]
大塚電子(株)、ゼータ電位測定システムELS2000ZSで平板用セルユニットを使用して試料表面のゼータ電位を測定した。
【0067】
【0068】
図2に、実施例2~4、比較例1,2における各サンプルの表面ζ電位を示す。
図3に、実施例2~4、比較例1,2における各サンプルの表面ζ電位に対する抗菌抗ウイルス活性値を示す。
【0069】
このように実施例では、光触媒材料を利用して製品表面へ高い抗菌抗ウイルス性能を付与することができる光触媒塗膜が得られた。