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特開2024-169964トリプトファンインドールリアーゼによるインドール生成の阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169964
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】トリプトファンインドールリアーゼによるインドール生成の阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/495 20060101AFI20241129BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20241129BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241129BHJP
   A23K 20/137 20160101ALI20241129BHJP
   A23K 50/40 20160101ALI20241129BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20241129BHJP
【FI】
A61K31/495
A61K31/4985
A61P43/00 111
A23K20/137
A23K50/40
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086848
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】391024353
【氏名又は名称】ゼライス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】中山 亨
(72)【発明者】
【氏名】及川 大樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 高明
(72)【発明者】
【氏名】菊地 晃一
(72)【発明者】
【氏名】沼田 徳暁
(72)【発明者】
【氏名】山本 祥子
(72)【発明者】
【氏名】松本 陽
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
2B005AA06
2B150AA01
2B150AA06
2B150AA10
2B150AB10
2B150DB37
4B018MD18
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086CB05
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】摂取したときの安全性が高く、かつ、TILによるインドール生成を阻害する作用を有する低分子化合物の提供。
【解決手段】以下の式(I)で表される化合物及びその生理的に許容される塩から選択される1種又は2種以上の化合物を、TILによるインドール生成の阻害剤として用いる。

(R、R:H、C1~C6アルキル。R、R:H、OH、フェニルなど。R及びRまたはR及びRは、ヒドロキシ基を有していてもよいC2~C4アルキレン基を介して環を形成していてもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(I)で表される化合物、及びその生理的に許容される塩からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物を含む、トリプトファンインドールリアーゼによるインドール生成の阻害剤。
【化1】
[式中、
及びRは、それぞれ独立して、H又はC1~C6アルキル基を示し、
及びRは、それぞれ独立して、H;又は、ヒドロキシ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、S-CH基、NH基、カルボキシ基、カルバモイル基、グアニジノ基、及びN含有へテロアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を有してもよいC1~C6アルキル基を示し、
及びRは、ヒドロキシ基を有していてもよいC2~C4アルキレン基を介して環を形成していてもよく、
及びRは、ヒドロキシ基を有していてもよいC2~C4アルキレン基を介して環を形成していてもよい。]
【請求項2】
式(I)で表される化合物が、以下の式(I-1)、式(I-2)、式(I-3)、式(I-4)、又は式(I-5)で表される化合物である、請求項1に記載の阻害剤。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項3】
化合物が、トリプトファンインドールリアーゼによるインドール生成を混合阻害する、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項4】
ペット用飼料又は飲食品である、請求項1~3のいずれかに記載の阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の2,5-ジケトピペラジン又はその誘導体(以下、「本件ジケトピペラジン化合物」ということがある)を有効成分として含有する、L-トリプトファンを基質としたトリプトファンインドールリアーゼ(tryptophan indole-lyase)(以下、「TIL」ということがある)によるインドール生成の阻害剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病性腎症は、糖尿病の中でも罹患者数が多い2型糖尿病の進行に伴って発症する合併症の一つであり、腎機能が低下する疾患である。糖尿病性腎症の治療には、年間1.5兆円もの費用を要し、その最大の要因が透析治療にある。これまで、糖尿病性腎症の原因物質が多数同定されているが、未だその治療薬が開発されていないのが現状である。
【0003】
糖尿病性腎症の原因物質の1つとして、摂取した食物由来のアミノ酸から生成されるインドキシル硫酸が知られている。本発明者らは、2-アザ-DL-チロシンが、血中のインドキシル硫酸濃度を低減し、糖尿病性腎症の改善効果を発揮することを報告している(特許文献1)。
【0004】
また、インドキシル硫酸の前駆体であるインドールは、腸に内在する腸内細菌が有するトリプトファンインドールリアーゼ(TIL)により、L-トリプトファンから生成されることが知られている。そして、生成されたインドールは、体内代謝を経てインドキシル硫酸に変換されることから、TILによるインドール生成を阻害することができれば、インドキシル硫酸濃度が低減し、糖尿病性腎症を改善できることが予想される。トリプトファナーゼ(TILに相当)阻害作用を有する物質として、特定の構造を有するアミド誘導体が報告されている(特許文献2)。また、最近、本発明者らは、特定のゴマリグナン化合物(ゴマ種子中に含まれるリグナン化合物)が、TILによるインドール生成を阻害する作用を有することを報告している(特許文献3)。
【0005】
一方、2,5-ジケトピペラジン(「環状ジペプチド」ともいう)は、直鎖状ジペプチドの末端に存在するアミノ基とカルボキシル基とが脱水縮合することにより生成した環状構造を有するジペプチドであり、近年ではその様々な生理活性が注目されている。例えば、特定のジケトピペラジンが、皮膚の保湿機能を改善する作用を有することや(特許文献4)、皮膚交感神経の活動を活性化又は抑制化する作用を有することや(特許文献5)、血管を拡張する作用を有すること(特許文献6)が報告されている。しかしながら、2,5-ジケトピペラジンと、TILによるインドール生成阻害との関連性については、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/079832号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2018/155398号パンフレット
【特許文献3】特開2022-135978号公報
【特許文献4】国際公開第2016/063901号パンフレット
【特許文献5】特開2022-48337号公報
【特許文献6】特開2018-16612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、摂取したときの安全性が高く、かつ、TILによるインドール生成を阻害する作用を有する低分子化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けた結果、特定の2,5-ジケトピペラジンが、L-トリプトファンを基質としたTILによるインドール生成を阻害する作用を有することを見いだした。さらに、TILによるインドール生成の阻害作用を有する2,5-ジケトピペラジンが、TIL産生菌おけるTILによるインドール生成を、TIL産生菌の生育に影響を及ぼすことなく、阻害することも確認した。本発明は、これらの知見に基づき、完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下の式(I)で表される化合物、及びその生理的に許容される塩からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物を含む、トリプトファンインドールリアーゼによるインドール生成の阻害剤。
【0010】
【化1】
【0011】
式(I)中、R及びRは、それぞれ独立して、H又はC1~C6アルキル基を示し、R及びRは、それぞれ独立して、H;又は、ヒドロキシ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、S-CH基、NH基、カルボキシ基、カルバモイル基、グアニジノ基、及びN含有へテロアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を有してもよいC1~C6アルキル基を示し、R及びRは、ヒドロキシ基を有していてもよいC2~C4アルキレン基を介して環を形成していてもよく、R及びRは、ヒドロキシ基を有していてもよいC2~C4アルキレン基を介して環を形成していてもよい。
〔2〕式(I)で表される化合物が、以下の式(I-1)、式(I-2)、式(I-3)、式(I-4)、又は式(I-5)で表される化合物である、上記〔1〕に記載の阻害剤。
【0012】
【化2】
【0013】
【化3】
【0014】
【化4】
【0015】
【化5】
【0016】
【化6】
〔3〕化合物が、トリプトファンインドールリアーゼによるインドール生成を混合阻害する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の阻害剤。
〔4〕ペット用飼料又は飲食品である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の阻害剤。
【0017】
また本発明の実施の他の形態として、
本件ジケトピペラジン化合物を、哺乳動物生体内のTIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸[Indoxyl Sulfate]、インドール-3-酢酸、以下同じ)に起因する症状又は疾患の予防若しくは治療を必要とする前記哺乳動物に摂取させる(投与する)ステップを含む、当該症状又は疾患を予防若しくは治療する方法;や、
哺乳動物生体内のTIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因する症状又は疾患の予防若しくは治療における使用のための本件ジケトピペラジン化合物;や、
哺乳動物生体内のTIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因する症状又は疾患の予防剤若しくは治療剤を製造するための、本件ジケトピペラジン化合物の使用;や、
TILによるインドール生成の阻害剤を製造するための、本件ジケトピペラジン化合物の使用;
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0018】
本件ジケトピペラジン化合物は、TIL産生菌由来のTILによるインドール生成を阻害する作用を有する。また、本件ジケトピペラジン化合物は、食物由来の2,5-ジケトピペラジン類を包含していることから、摂取したときの安全性が高い。このため、本件ジケトピペラジン化合物を摂取すると、腸などの生体内のTIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因する症状又は疾患の予防・治療効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】TIL及びその基質であるL-トリプトファンを、5種類の2,5-ジケトピペラジン(cGA[図中の「Cyclo-Gly-Ala」]、cGE[図中の「Cyclo-Gly-Glu」]、cGL[図中の「Cyclo-Gly-Leu」]、cGP[図中の「Cyclo-Gly-Pro」]、及びcGS[図中の「Cyclo-Gly-Ser」])の存在下でインキュベートし、インドール濃度を測定した結果を示す図である。図中の「*」及び「**」は、上記5種類の2,5-ジケトピペラジンの非存在下でインキュベートしたときの結果(図中の「No inhibitor」)に対して、それぞれ統計学的に有意差がある(p<0.05及びp<0.01)ことを示す(以下、同じ)。
図2】シトロバクター・コセリJCM1658株由来TIL産生菌(図2A)又はモルガネラ・モルガニイJCM1672株由来TIL産生菌(図2B)を、TILの基質であるL-トリプトファンの存在下又は非存在下でかつ、2,5-ジケトピペラジン(cGP)存在下又は非存在下で、20分間インキュベートし、当該TIL産生菌の培養液におけるインドール濃度を測定した結果を示す図である。
図3】シトロバクター・コセリJCM1658株由来TIL産生菌(図3A)又はモルガネラ・モルガニイJCM1672株由来TIL産生菌(図3B)を、TILの基質であるL-トリプトファンの存在下又は非存在下でかつ、2,5-ジケトピペラジン(cGP)存在下又は非存在下で、30分間インキュベートし、当該TIL産生菌の培養液におけるインドール濃度を測定した結果を示す図である。
図4】シトロバクター・コセリJCM1658株由来TIL産生菌(図4A)又はモルガネラ・モルガニイJCM1672株由来TIL産生菌(図4B)を、TILの基質であるL-トリプトファンの存在下又は非存在下でかつ、2,5-ジケトピペラジン(cGP)存在下又は非存在下で、0分間又は90分間インキュベートし、生育したTIL産生菌由来コロニー数を算出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の阻害剤は、本件ジケトピペラジン化合物、すなわち、以下の式(I)の化合物、及びその生理的に許容される塩から選択される1種又は2種以上の化合物を含み、かつ、「TILによるインドール生成を阻害するため」という用途に特定された剤(以下、「本件阻害剤」ということがある)である。
【0021】
【化7】
【0022】
式(I)中、
及びRは、それぞれ独立して、H又はC1~C6アルキル基を示し、
及びRは、それぞれ独立して、H;又は、ヒドロキシ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、S-CH基、NH基、カルボキシ基、カルバモイル基、グアニジノ基、及びN含有へテロアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を有してもよいC1~C6アルキル基(すなわち、C1~C6アルキル基;又は、ヒドロキシ基、フェニル基、ヒドロキシフェニル基、S-CH基、NH基、カルボキシ基、カルバモイル基、グアニジノ基、及びN含有へテロアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基を有するC1~C6アルキル基)を示し、
及びRは、ヒドロキシ基を有していてもよいC2~C4アルキレン基を介して環を形成していてもよく、
及びRは、ヒドロキシ基を有していてもよいC2~C4アルキレン基を介して環を形成していてもよい。
【0023】
式(I)中、R~RのC1~C6アルキル基や、RのC1~C6アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等を挙げることができる。
【0024】
式(I)中、R及びRのC1~C6アルキル基の有する置換基の一つであるN含有へテロアリール基は、ヘテロ原子として窒素原子を1~4個有する5~7員の単環又は多環の芳香族複素環、及び、ベンゼン環とヘテロ原子として窒素原子を1~4個有する5~7員の複素環が縮合した縮合環を包含する。例えば、ピリジニル、イミダゾリル、ピリミジニル、ピラゾリル、トリアゾリル、ピラジニル、テトラゾリル、ピロリル、キノリニル、インドリル、ベンズイミダゾリル、ピリダジニル、トリアジニル等を挙げることができる。
【0025】
本件ジケトピペラジン化合物は、立体異性体(エナンチオマーなど)、互変異性体等の異性体、溶媒和物、水和物等及びその混合物を包含する。
【0026】
上記式(I)で表される化合物の生理的に許容される塩としては、例えば、硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物等の無機塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、デカン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソブチル酸塩、カプリン酸塩、ヘプタン酸塩、プロピオル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、クロロベンゼンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニルブチル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、ヒドロキシブチル酸塩、グリコール酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩等の有機塩;ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0027】
本件ジケトピペラジン化合物としては、具体的には、以下の式(I-1)、式(I-2)、式(I-3)、式(I-4)、式(I-5)、又は式(I-6)で表される化合物を挙げることができ、後述する本実施例でその効果が実証されているため、以下の式(I-1)、式(I-2)、式(I-3)、式(I-4)、又は式(I-5)で表される化合物が好ましい。
【化8】
【0028】
【化9】
【0029】
【化10】
【0030】
【化11】
【0031】
【化12】
【0032】
【化13】
【0033】
本件ジケトピペラジン化合物は、市販されているものを使用してもよいし、公知の製法により合成したものを使用してもよい。
【0034】
本件ジケトピペラジン化合物を公知の製法により合成する方法としては、例えば、特表2003-531197号公報に記載の方法に従って、以下の式(II)で表されるジペプチドを、有機溶剤中で蒸留により水を除去しながら加熱する方法を挙げることができる。
【0035】
【化14】
【0036】
式(II)中、R~Rは、それぞれ式(I)におけるR~Rの意味を有する。
【0037】
上記有機溶剤としては、水と低沸点共沸混合物を形成する溶剤であればよく、例えば、アセトニトリル、アリルアルコール、ベンゼン、ベンジルアルコール 、n-ブタノール、2-ブタノール、t-ブタノール、酢酸ブチルエステル、四塩化炭素、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサン、1,2-ジクロロ エタン、ジエチルアセタール、ジメチルアセタール、酢酸エチルエステル、ヘプ タン、メチルイソブチルケトン、3-ペンタノール、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
【0038】
反応の際の温度は、通常、50~200℃、好ましくは、80~150℃である。環化が行われるpHとしては、通常、2~9、好ましくは3~7である。
【0039】
式(II)で表されるジペプチドは、例えば、グリシンと他のアミノ酸又はその誘導体との脱水縮合反応により得ることができる。
【0040】
また、特許5456876号公報に記載の方法に従って、直鎖ジペプチドあるいは直鎖トリペプチドを含有する水溶液を0.5MPa以下の圧力下で70~100℃で加熱することによっても製造することができる。
【0041】
2,5-ジケトピペラジンは、黒スグリ、冬虫夏草、チーズ、牛肉の煮込み、チキンエッセンスなど、くだものや発酵工程や加熱工程が関与する加工品に含まれることが知られており、食品からの抽出液、あるいは濃縮液の一部として得ることができる。
【0042】
本件阻害剤の有効成分である本件ジケトピペラジン化合物を摂取すると、腸などの生体内のTIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因する症状又は疾患の予防・治療効果が得られる。このため、本件阻害剤としては、「哺乳動物生体内のトリプトファンインドールリアーゼ産生菌におけるトリプトファンインドールリアーゼによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因する症状又は疾患を予防若しくは改善(治療)するため」という用途に特定されたもの(以下、「本件予防/改善剤」ということがある)を、好適に例示することができる。
【0043】
本明細書において、哺乳動物としては、ヒトや、非ヒト哺乳動物(例えば、サル;マウス;ラット;イヌ、ネコ等のペット;ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ等の家畜)などを挙げることができる。
【0044】
本件阻害剤を、非ヒト哺乳動物が摂取する場合や、非ヒト哺乳動物に投与する場合は、本件ジケトピペラジン化合物を、単独で非ヒト哺乳動物用飼料として使用してもよいし、さらに添加剤を混合し、組成物の形態(すなわち、非ヒト哺乳動物用飼料組成物)として使用してもよい。また、本件阻害剤を、非ヒト哺乳動物又はヒトが摂取する場合や、非ヒト哺乳動物又はヒトに投与する場合は、本件ジケトピペラジン化合物を、単独で飲食品又は医薬品(製剤)として使用してもよいし、さらに添加剤を混合し、組成物の形態(飲食品組成物又は医薬組成物)として使用してもよい。上記飲食品としては、例えば、健康食品(機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、サプリメント等)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)、漢方薬を挙げることができる。本件阻害剤としては、ペット用飼料や飲食品が好ましい。
【0045】
本明細書において、「TIL」とは、以下の反応式に示すとおり、反応1(L-トリプトファン+水[HO]→インドール+ピルビン酸+アンモニア[NH])と、かかる反応に逆行する反応2(インドール+ピルビン酸+アンモニア[NH]→L-トリプトファン+水[HO])とを触媒する酵素を意味する。
【0046】
【化15】
【0047】
本件ジケトピペラジン化合物は、上記反応式において、少なくとも反応1を阻害することにより、TILによるインドール生成を阻害する作用を有するものである。
【0048】
上記反応式における、本件ジケトピペラジン化合物による阻害形式としては、特に制限されず、例えば、競合阻害(Competitive Inhibition)、不競合阻害(Uncompetitive Inhibition)、混合阻害(Mixed Inhibition)等を挙げることができる。
【0049】
本明細書において、「競合阻害」とは、阻害剤(本件ジケトピペラジン化合物)が、基質(L-トリプトファン)に結合していない酵素(TIL)における基質結合部位に結合する阻害形式を意味する。なお、競合阻害において、阻害剤は酵素・基質複合体には結合しない。
【0050】
本明細書において、「不競合阻害」とは、阻害剤(本件ジケトピペラジン化合物)が、基質(L-トリプトファン)に結合していない酵素(TIL)には結合せずに、酵素・基質複合体にのみ結合する阻害形式を意味する。
【0051】
本明細書において、「混合阻害」とは、阻害剤(本件ジケトピペラジン化合物)が、基質(L-トリプトファン)に結合していない酵素(TIL)と、酵素・基質複合体の両方に、異なる阻害定数(Ki)で結合する阻害形式を意味する。
【0052】
本件ジケトピペラジン化合物としては、後述する本実施例でその効果が実証されているため、TILによるインドール生成を混合阻害するものを好適に例示することができる。
【0053】
上記TILとしては、その由来は特に制限されないが、後述する本実施例でその効果が実証されているため、TIL産生菌(より具体的には、哺乳動物生体内の各種臓器又は組織におけるTIL産生菌)により産生されるTILを挙げることができる。したがって、本件阻害剤は、哺乳動物生体内のTIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因する症状若しくは疾患の予防剤又は治療剤に有利に適用することができる。
【0054】
本明細書において、「TIL産生菌」としては、TIL産生腸内細菌等が好ましく、具体的には、例えば、エシェリキア(Escherichia)属細菌(例えば、大腸菌[E. coli]、エシェリキア・アルバーティー[E. albertii])、モルガネラ(Morganella)属細菌(例えば、モルガネラ・モルガニイ[M. morganii])、バクテロイデス(Bacteroides)属細菌(例えば、バクテロイデス・テタイオタオミクロン[B.thetaiotaomicron]、バクテロイデス・オバタス[B. ovatus])、シトロバクター(Citrobacter)属細菌(例えば、シトロバクター・コセリ[C. koseri])等を挙げることができる。
【0055】
本明細書において、「各種臓器又は組織」としては、例えば、大腸(結腸又は直腸)、胃、肝臓、心臓、脳、脊髄、肺、食道、十二指腸、小腸、皮膚、前立腺、膀胱、子宮、腎臓、膵臓、脾臓、気管、気管支、胆嚢、胆管等を挙げることができる。
【0056】
本明細書において、「哺乳動物生体内のトリプトファンインドールリアーゼ産生菌におけるトリプトファンインドールリアーゼによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因する症状又は疾患」における「症状又は疾患」としては、例えば、健康診断による検査数値が異常を示す状態(例えば、クレアチニン値の上昇、推算糸球体濾過量[eGFR]の低下、タンパク尿陽性等の腎機能関連指標の悪化を示す状態)、食欲不振、悪心、嘔吐、口臭、口内炎、腸炎等の消化器系異常;無欲、無関心、記銘力低下、うつ状態、傾眠、昏睡、多発神経炎、(発達性)協調運動障害、食思不振等の神経系異常;動脈硬化、貧血、赤血球造血障害、高血圧、虚血性心疾患、心膜炎、心筋炎、(血液)凝固異常、心不全、心血管障害等の循環器系異常;色素沈着、掻痒(感)、皮下出血、皮膚萎縮、乾癬、アトピー、脱毛等の皮膚異常(疾患);アルブミン尿、急性腎不全、急性尿細管壊死、腎性貧血、慢性腎不全、尿細管間質障害、急性腎炎、慢性腎炎、ネフローゼ、糖尿病性腎症、動脈硬化性腎症、腎性骨異常症(例えば、腎性骨異栄養症)、溢水等の腎機能障害;脳卒中;心筋梗塞;癌;自閉症;免疫不全;骨異常症;副甲状腺亢進症;インスリン抵抗性;栄養不良;炎症;震戦;などを挙げることができる。また、上記症状又は疾患には、IgA腎症、嚢胞腎、肝機能障害(例えば、劇症肝炎、脂肪肝、NASH、NAFLD)、癌(例えば、胆汁発がん)等のLPS(Lipopolysaccharide)が関与する症状又は疾患;潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患;動脈硬化関連疾患;ループス、強皮症、リウマチ等の自己免疫疾患;肥満;メタボリックシンドローム;糖尿病;自閉症;パーキンソン病;アルツハイマー病;サルコペニアも含まれる。なお、上記症状又は疾患には、TIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因せずに、これら尿毒症物質以外の要因に起因する症状又は疾患は含まれない。
【0057】
本件阻害剤の摂取(投与)対象としては、哺乳動物であれば特に制限されず、通常、TILによるインドール生成の阻害を必要とする哺乳動物や、哺乳動物生体内のトリプトファンインドールリアーゼ産生菌におけるトリプトファンインドールリアーゼによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因する症状若しくは疾患の予防又は改善(治療)を必要とする哺乳動物である。
【0058】
本件阻害剤の投与形態としては、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、ゼリー剤、ガム剤、トローチ剤、グミ剤、フィルム剤等の剤型で摂取(投与)する経口投与や、皮膚外用剤、経皮剤、経粘膜剤、経鼻剤、経腸剤、注射剤、坐剤、吸入剤、貼付剤等の剤型で摂取(投与)する非経口投与を挙げることができる。かかる非経口投与には、液剤、半固形剤等の剤型で胃ろうなどの経瘻孔法、あるいは経鼻胃管といた経管栄養での投与が含まれる。
【0059】
経口摂取(投与)用の本件阻害剤は、徐放性剤や腸溶性剤とすることができる。かかる腸溶性剤は、例えば、有効成分である本件ジケトピペラジン化合物を含む顆粒を、腸溶性被膜(すなわち、胃液に対しては抵抗性があり、小腸内で溶解する基剤[腸溶性成分]を主成分とする被膜)で充填するか、あるいは、有効成分である本件ジケトピペラジン化合物を含む顆粒に、滑沢剤を加えて打錠して得た錠剤を、腸溶性被膜でコーティングすることにより得ることができる。
【0060】
剤型がタブレットである本件阻害剤を得る方法としては、例えば、有効成分である本件ジケトピペラジン化合物と、必要に応じて配合され得る任意の成分(添加剤)とを混合した後、この混合物を圧縮成形してタブレットを得る方法や、さらに、圧縮成形後に得られるタブレットを腸溶性成分によりコーティングする方法(腸溶剤とする方法)等を挙げることができ、後者の方法が好ましい。
【0061】
上記腸溶性成分としては、例えば、シェラック、ツェイン、ヒドロキシメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、メタクリル酸コポリマー、水に不溶のエチルセルロース、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、ビール酵母細胞壁(例えば、商品名イーストラップなど)、タピオカデンプン、ゼラチン、ペクチン等を挙げることができ、中でもシェラックが好ましい。なお、腸溶性剤であるか否かは、第14改正日本薬局方 崩壊試験法により確認可能である。
【0062】
本件阻害剤に含まれる本件ジケトピペラジン化合物の摂取量は、摂取(投与)対象である哺乳動物の年齢、体重、性別、症状、薬剤への感受性、生物種等に応じて適宜決定され、例えば、本件ジケトピペラジン化合物に換算したときの濃度が0.1μg~200mg/kg(体重)/日の投与量の範囲である。なお、本件阻害剤は、一日あたり単回又は複数回(例えば、2~4回)に分けて摂取してもよい。
【0063】
本明細書において、「添加剤」としては、生理的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、等張剤、被覆剤、可溶化剤、潤滑剤、滑走剤、溶解補助剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤、各種油剤、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、分散剤、キレート剤、増粘剤、紫外線吸収剤、乳化安定剤、pH調整剤、色素、香料等の配合成分を例示することができる。かかる配合成分としては、具体的に、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリン、ビタミン、ミネラル、乳酸菌、プロテイン、コラーゲンを例示することができる。
【0064】
本件阻害剤としては、TILによるインドール生成の阻害成分として、本件ジケトピペラジン化合物以外の成分を含むものであってもよいが、本件ジケトピペラジン化合物単独でも優れた阻害効果を発揮するため、本件ジケトピペラジン化合物以外の上記阻害成分(例えば、タンパク質、アミノ酸、DNA、RNA、ポリマー等の化合物;植物由来の抽出物[例えば、ゴマリグナン化合物])を含まないものであってもよい。また、本件予防/改善剤としては、TILによるインドール生成を阻害し、哺乳動物生体内のTIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因する症状若しくは疾患を予防又は改善(治療)する成分として、本件ジケトピペラジン化合物以外の成分を含むものであってもよいが、本件ジケトピペラジン化合物単独でも優れた阻害効果と予防又は改善効果を発揮するため、本件ジケトピペラジン化合物以外の上記成分(例えば、タンパク質、アミノ酸、DNA、RNA、ポリマー等の化合物;植物由来の抽出物[例えば、ゴマリグナン化合物])を含まないものであってもよい。また、本件予防/改善剤としては、TILによるインドール生成を阻害し、哺乳動物生体内のTIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質に起因しない症状若しくは疾患を予防又は改善(治療)する成分を含むものであってもよい。
【0065】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0066】
1.本件化合物が、L-トリプトファンを基質としたTILによるインドール生成を阻害することの確認
本件化合物に包含される5種類の2,5-ジケトピペラジン(cGP、cGS、cGL、cGE、及びcGA;表1参照)を用いて、本件化合物が、L-トリプトファン(以下、単に「トリプトファン」という)を基質としたTILによるインドール生成を阻害するかどうかを解析した。
【0067】
1-1 材料及び方法
[TIL含有液]
TIL含有液として、シトロバクター・コセリ由来TILを含む液(25pkat/mL)(Sigma Aldrich社製)を、以下の[TIL阻害活性試験]に使用した。
【0068】
[TIL阻害活性試験]
TIL阻害活性試験は、以下の手順〔1〕~〔4〕に従って行った。
〔1〕200μMのトリプトファン及び200μMの5種類の2,5-ジケトピペラジン(cGP[Bachem社製]、cGS[Sigma Aldrich社製]、cGL[Sigma Aldrich社製]、cGE[Chem-Impex社製]、及びcGA[Combi-Blocks社製])を含む反応用緩衝液(100mMのリン酸カリウム緩衝液[KPB][pH8.0]、200μMのピリドキサール-5’-リン酸[PLP]、及び1mMの2-メルカプトエタノールを含む液)98μLを、37℃で10分間インキュベートした。なお、比較対照として、トリプトファンを含み、かつ2,5-ジケトピペラジンを含まない反応用緩衝液も同様にインキュベートした。
〔2〕終濃度が0.1pkat/mLとなるように、2μLのTIL含有液を添加し、37℃で30分間インキュベートした。
〔3〕反応停止液(40%のアセトニトリル及び4%のトリフルオロ酢酸を含む液)100μLを添加後、遠心処理(15,000×g、10分間、4℃)した。
〔4〕上清を回収し、LC-MSを用いた質量分析法を表2に示す条件に従って行い、TILにより生成されたインドールを定量した。2,5-ジケトピペラジンを含まない反応用緩衝液中のインドール濃度を100とし、各種本件化合物を含む反応用緩衝液中のインドール濃度の相対値を算出した(図1の縦軸参照)。
【0069】
1-2 結果
TIL及びその基質であるトリプトファンを、5種類の2,5-ジケトピペラジン(cGP、cGS、cGL、cGE、及びcGA)の存在下でインキュベートすると、2,5-ジケトピペラジン非存在下でインキュベートした場合と比べ、生成されるインドール量が、有意に低下することが示された(図1参照)。
【0070】
この結果は、本件化合物に包含される上記5種類の2,5-ジケトピペラジンが、トリプトファンを基質としたTILによるインドール生成を阻害する作用を有することを示している。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【実施例0073】
2.本件化合物によるTILの阻害形式及び阻害定数
次に、本件化合物によるTILの阻害形式の決定と、本件化合物によるTILの阻害定数(具体的には、トリプトファンを基質としたTILによるインドール生成の50%阻害が認められる本件化合物濃度)の算出を行った。
【0074】
2-1 方法
200μMの4種類の2,5-ジケトピペラジン(cGP、cGS、cGL、及びcGE;表1参照)を用いて、実施例1のTIL阻害活性試験を行い、インドール生成速度(μM/分)(以下、これらを総称して「v」という)を算出した。次いで、縦軸にvを、横軸にトリプトファン濃度(μM)(以下、[S]という)をそれぞれプロットし、SigmaPlot(ヒューリンクス社製)を用いて近似曲線にフィッティングを行い、速度論パラメータを算出した。その後、縦軸に1/v、横軸に1/[S]をプロットし(Lineweaver Burk plot)、近似直線の形状より、各種2,5-ジケトピペラジンによるTILの阻害形式の決定と、TILの阻害定数の算出を行った。
【0075】
2-2 結果
その結果、上記4種類の2,5-ジケトピペラジンによるTILの阻害形式及び阻害定数(Ki)は、表3に示すとおりであることが明らかとなった。
【0076】
【表3】
【実施例0077】
3.TIL産生菌において、本件化合物が、トリプトファンを基質としたTILによるインドール生成を阻害することの確認
次に、TIL産生菌において、本件化合物が、トリプトファンを基質としたTILによるインドール生成を阻害するかどうかを解析した。
【0078】
3-1 材料及び方法
[TIL産生菌]
TIL産生菌として、TILを産生する代表的な2種類の腸内細菌、具体的には、シトロバクター・コセリ(Citrobacter koseri)JCM1658株由来TIL産生菌及びモルガネラ・モルガニイ(Morganella morganii)JCM1672株由来TIL産生菌(共に、理化学研究所 バイオリソース研究センター製)を、以下の[TIL阻害活性試験]に使用した。
【0079】
[TIL阻害活性試験]
TIL阻害活性試験は、以下の手順〔1〕~〔6〕に従って行った。
〔1〕TIL産生菌を、1%のグリセロール及び0.1%のトリプトファンを含むGAM糖分解用半流動培地(ニッスイ社製)から寒天を除去した液体培地中で、37℃で24時間、アネロパック入りジャー内にて静置培養(嫌気培養)した。
〔2〕培養した菌体を含む培養液を、遠心処理(15,000×g、10分間、4℃)にて集菌し、上清を除去後、反応用緩衝液(100mMのKPB[pH8.0]、200μMのPLP、及び1mMの2-メルカプトエタノールを含む液)中に懸濁した。
〔3〕遠心処理(15,000×g、10分間、4℃)にて集菌し、上清を除去後、新しい反応用緩衝液中に懸濁した。
〔4〕遠心処理(15,000×g、10分間、4℃)にて集菌し、上清を除去後、OD600=2.0となるように、TIL産生菌を0.5mMのトリプトファン及び5mMの2,5-ジケトピペラジン(cGP)を含む上記反応用緩衝液中に懸濁した(図2及び図3の[基質+、cGP+])。なお、比較対照として、TIL産生菌を、3種類の反応用緩衝液、具体的には、トリプトファン及び2,5-ジケトピペラジン(cGP)のいずれも含まない上記反応用緩衝液(図2及び図3の[基質-、cGP-])、トリプトファンを含み、かつ2,5-ジケトピペラジン(cGP)を含まない上記反応用緩衝液(図2及び図3の[基質+、cGP-])、及び、トリプトファンを含まず、かつ2,5-ジケトピペラジン(cGP)を含む上記反応用緩衝液(図2及び図3の[基質-、cGP+])中にも同様に懸濁した。
〔5〕37℃で20分間(図2)又は30分間(図3)、アネロパック入りジャー内にて静置培養(嫌気培養)した後、遠心処理(15,000×g、10分間、4℃)した。
〔6〕上清を、0.45μm親水性フィルターに通した後、LC-MSを用いた質量分析法を表2に示す条件に従って行い、TIL産生菌の培養液におけるインドール濃度を定量した(図2及び図3の縦軸参照)。
【0080】
3-2 結果
2種類のTIL産生菌(シトロバクター・コセリJCM1658株由来TIL産生菌及びモルガネラ・モルガニイJCM1672株由来TIL産生菌)と、TILの基質であるトリプトファンを、2,5-ジケトピペラジン(cGP)の存在下で20分間又は30分間インキュベートすると、2,5-ジケトピペラジン(cGP)非存在下でインキュベートした場合と比べ、生成されるインドール量が有意に低下することが示された(図2及び図3参照)。
【0081】
この結果は、cGP等の本件化合物が、TILを産生する代表的な腸内細菌の菌体内に取り込まれ、TIL産生菌において、トリプトファンを基質としたTILによるインドール生成を阻害したことを示している。
【実施例0082】
4.本件化合物は、TIL産生菌の生育に影響を及ぼさないことの確認
次に、本件化合物が、TIL産生菌の生育に影響を及ぼすかどうかを解析した。
【0083】
4-1 方法
生育試験は、以下の手順〔1〕~〔5〕に従って行った。
〔1〕TIL産生菌(シトロバクター・コセリJCM1658株由来TIL産生菌及びモルガネラ・モルガニイJCM1672株由来TIL産生菌)を、1%のグリセロール及び0.1%のトリプトファンを含むGAM糖分解用半流動培地(ニッスイ社製)から寒天を除去した液体培地中で、37℃で24時間、アネロパック入りジャー内にて静置培養(嫌気培養)した。
〔2〕培養した菌体を含む培養液を、遠心処理(15,000×g、10分間、4℃)にて集菌し、上清を除去後、反応用緩衝液(100mMのKPB[pH8.0]、200μMのPLP、及び1mMの2-メルカプトエタノールを含む液)中に懸濁した。
〔3〕遠心処理(15,000×g、10分間、4℃)にて集菌し、上清を除去後、新しい反応用緩衝液中に懸濁した。
〔4〕遠心処理(15,000×g、10分間、4℃)にて集菌し、上清を除去後、OD600=2.0となるように、TIL産生菌を0.5mMのトリプトファン及び5mMの2,5-ジケトピペラジン(cGP)を含む上記反応用緩衝液中に懸濁した(図4の[基質+、cGP+])。なお、比較対照として、TIL産生菌を、3種類の反応用緩衝液、具体的には、トリプトファン及び2,5-ジケトピペラジン(cGP)のいずれも含まない上記反応用緩衝液(図4の[基質-、cGP-])、トリプトファンを含み、かつ2,5-ジケトピペラジン(cGP)を含まない上記反応用緩衝液(図4の[基質+、cGP-])、及び、トリプトファンを含まず、かつ2,5-ジケトピペラジン(cGP)を含む上記反応用緩衝液(図4の[基質-、cGP+])中にも同様に懸濁した。
〔5〕37℃で0分間後又は90分間後のサンプルを、0.85%の生理食塩水で希釈後、GAM糖分解用半流動培地(ニッスイ社製)に塗布し、アネロパック入りジャー内にて24時間静置培養(嫌気培養)した後、生育したコロニー数(CFU;Colony Forming Unit)を算出した(図4の縦軸参照)。
【0084】
4-2 結果
2種類のTIL産生菌(シトロバクター・コセリJCM1658株由来TIL産生菌及びモルガネラ・モルガニイJCM1672株由来TIL産生菌)のCFUは、2,5-ジケトピペラジン(cGP)の有無で違いは認められなかった(図4参照)。
【0085】
この結果は、cGP等の本件化合物は、TIL産生菌おけるTILによるインドール生成を、TIL産生菌の生育に影響を及ぼすことなく、阻害することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、生体内のTIL産生菌におけるTILによって生成されるインドールを前駆体とする尿毒症物質(例えば、インドキシル硫酸、インドール-3-酢酸)に起因する症状又は疾患の予防・治療に資するものである。
図1
図2
図3
図4