(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169981
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】柱梁接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/30 20060101AFI20241129BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
E04B1/30 E
E04B1/58 508Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086883
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田原 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 聡
(72)【発明者】
【氏名】桂 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤田 有章
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直美
(72)【発明者】
【氏名】石井 勝
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AC01
2E125AC15
2E125AC24
2E125AC29
2E125CA05
2E125CA79
(57)【要約】
【課題】柱の側方に張り出すブラケットに合わせ木質梁が接合されてなる柱梁接合構造に関し、合わせ木質梁の端部が曲げモーメントを負担することを抑制もしくは抑止でき、ブラケットに対する取り付け性に優れた柱梁接合構造を提供すること。
【解決手段】柱10の側面11から張り出すブラケット70に対して、一対の木質梁80Aが隙間Gを置いて併設されてなる合わせ木質梁80が接合されている、柱梁接合構造100であり、一対の木質梁80Aの一部81が、ブラケット70の一部71を挟んだ状態でブラケット70の他部75の上に載置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱の側面から張り出すブラケットに対して、一対の木質梁が隙間を置いて併設されてなる合わせ木質梁が接合されている、柱梁接合構造であって、
前記一対の木質梁の一部が、前記ブラケットの一部を挟んだ状態で該ブラケットの他部の上に載置されていることを特徴とする、柱梁接合構造。
【請求項2】
前記ブラケットの他部に対して、前記木質梁の備える凹部が係合した状態で該ブラケットの他部の上に該木質梁の一部が載置されていることを特徴とする、請求項1に記載の柱梁接合構造。
【請求項3】
前記木質梁の高さ方向に貫通する第1貫通孔に挿通されている軸状の第1接合具の先端が、前記ブラケットの他部に埋設されている被接合部に接合されて、該ブラケットに対する該木質梁の落下防止手段を形成していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の柱梁接合構造。
【請求項4】
前記一対の木質梁の幅方向に貫通する双方の第2貫通孔と、前記ブラケットの一部を貫通して該第2貫通孔に連通する第3貫通孔に挿通されている軸状の第2接合具が、該一対の木質梁と該ブラケットの一部を繋いで、該ブラケットに対する該木質梁の落下防止手段を形成していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の柱梁接合構造。
【請求項5】
前記一対の木質梁の幅方向に貫通する双方の第2貫通孔に挿通されている軸状の第3接合具が、該一対の木質梁を繋いで、該ブラケットに対する該木質梁の落下防止手段を形成していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の柱梁接合構造。
【請求項6】
前記ブラケットの他部の載置面に設けられている、第1突起もしくは第1溝に対して、前記木質梁における該載置面に載置される被載置面に設けられている、第2溝もしくは第2突起が挿通されて、該ブラケットに対する該木質梁の落下防止手段を形成していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の柱梁接合構造。
【請求項7】
少なくとも前記木質梁の他部に、軸状の補強具が打ち込まれており、
前記補強具の頭部が前記他部の表面に露出していることを特徴とする、請求項2に記載の柱梁接合構造。
【請求項8】
前記木質梁の前記凹部の表面の一部もしくは全部に、鋼板が配設されていることを特徴とする、請求項2又は7に記載の柱梁接合構造。
【請求項9】
少なくとも前記木質梁の一部に設けられているスリットに被挿入鋼板が挿入され、
前記被挿入鋼板と前記他部が、双方に打ち込まれている第2接合具により接合されていることを特徴とする、請求項2に記載の柱梁接合構造。
【請求項10】
前記木質梁の前記凹部の表面の一部もしくは全部に、鋼板が配設され、
少なくとも前記木質梁の一部に設けられているスリットに、被挿入鋼板が挿入され、
前記被挿入鋼板と前記他部が、双方に打ち込まれている第2接合具により接合されていることを特徴とする、請求項2に記載の柱梁接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
RC(Reinforced Concrete、鉄筋コンクリート)製やS(Steel、鋼)製の柱、SRC(Steel Reinforced Concrete)製の柱、さらには木製の柱の側面から、RC製やS製等のブラケットを張り出させ、ブラケットに対して木質梁をボルト接合等により接合した上で、木質梁の上に例えばRC製や木製、鋼製の床版を載置する、建物構造が適用される場合がある。例えばRC製の柱は、現場により施工される柱の他にも、工場製作されて現場搬送され、現場にて組み立てられるPCa(Precast Concrete,プレキャストコンクリート)柱があり、後者のPCa柱を適用することにより、工期の大幅な短縮と品質に優れた柱梁接合構造を施工することができる。また、柱とブラケットの構成にも様々な種類が存在し、例えば、柱とブラケットが一体のRC製の構造や、上下の柱の間にブラケットを備えた仕口が介在する構成等を一例として挙げることができる。尚、木質梁に支持される床版も、現場にて施工されるRC製の床版の他に、PCa床版や木製床版等、様々な形態の床版が存在する。
【0003】
このように、梁に木質梁を適用することにより、環境影響への負荷低減を図ることができ、軽量ゆえに現場における梁のハンドリング製と施工性が良好になり、木材の醸し出す優れた外観意匠性が奏される。
【0004】
ところで、柱に対して木質梁を接合するに当たり、柱の側方へ張り出すブラケットに対する木質梁の接合性や剛性、さらには、床版の安定的な支持性等の観点から、一対の木質梁が隙間を置いて併設されてなる合わせ木質梁が適用される場合がある。
【0005】
ここで、特許文献1には、木質柱と木質梁の柱梁接合構造が提案されている。この柱梁接合構造は、柱の仕口部に設けられた鋼製の柱側接合部材と、梁の材軸方向の端部に設けられた鋼製の梁側接合部材と、梁側接合部材の上端部を柱側接合部材に接合する接合手段と、梁側接合部材に作用する鉛直方向下向きのせん断力を柱側接合部材に伝達する伝達手段とを備えている。木質梁の軸端部には、梁側接合部材の梁側鉛直プレートが差し込まれる切欠部とドリフトピンが挿入されるピン孔が形成され、木質梁の軸端部の切欠部に梁側接合部材の梁側鉛直プレートを差し込み、ドリフトピンをピン孔に挿入することにより、木質梁の軸端部が梁側接合部材に接合されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の柱梁接合構造では、木質柱にボルト接合されている梁側接合部材を構成する梁側鉛直プレートが木質梁の切欠部に差し込まれ、ドリフトピンを介して相互に接合されている、剛な接合構造を有することから、木質梁の端部が曲げモーメントを負担することは避けられず、少なくとも曲げモーメントの負担を抑制する接合構造を提供するものではない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、柱の側方に張り出すブラケットに合わせ木質梁が接合されてなる柱梁接合構造に関し、合わせ木質梁の端部が曲げモーメントを負担することを抑制もしくは抑止でき、ブラケットに対する取り付け性に優れた柱梁接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による柱梁接合構造の一態様は、
柱の側面から張り出すブラケットに対して、一対の木質梁が隙間を置いて併設されてなる合わせ木質梁が接合されている、柱梁接合構造であって、
前記一対の木質梁の一部が、前記ブラケットの一部を挟んだ状態で該ブラケットの他部の上に載置されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、一対の木質梁の一部がブラケットの一部を挟んだ状態でブラケットの他部の上に載置されていることにより、ブラケットの他部の上に木質梁の一部を載置するだけであることから、ブラケットに対する木質梁の取り付け性が良好になり、このように木質梁が載置されている構成故に、木質梁の端部が曲げモーメントを負担することが抑制もしくは抑止される。例えば、ブラケットが逆Tの字状のブロック体である場合は、逆Tの字状の中央部が一対の木質梁に挟まれる「ブラケットの一部」となり、逆Tの字状の左右の張り出し部が木質梁の一部が載置される「ブラケットの他部」となる。
【0011】
また、本発明による柱梁接合構造の他の態様は、
前記ブラケットの他部に対して、前記木質梁の備える凹部が係合した状態で該ブラケットの他部の上に該木質梁の一部が載置されていることを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、ブラケットの他部に対して木質梁の備える凹部が係合した状態で載置されていることにより、ブラケットに対して木質梁が載置されているだけではあるものの、係合構造にて木質梁の安定した載置姿勢を形成することができる。
【0013】
また、本発明による柱梁接合構造の他の態様は、
前記木質梁の高さ方向に貫通する第1貫通孔に挿通されている軸状の第1接合具の先端が、前記ブラケットの他部に埋設されている被接合部に接合されて、該ブラケットに対する該木質梁の落下防止手段を形成していることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、木質梁の高さ方向に貫通する第1貫通孔に挿通されている軸状の第1接合具の先端が、ブラケットの他部に埋設されている被接合部に接合されていることにより、ブラケットに載置されている木質梁の端部が浮き上がり、脱落することを防止できる。ここで、第1接合具としてはボルトを例示でき、被接合部にはインサートナットを例示できる。
【0015】
また、本発明による柱梁接合構造の他の態様は、
前記一対の木質梁の幅方向に貫通する双方の第2貫通孔と、前記ブラケットの一部を貫通して該第2貫通孔に連通する第3貫通孔に挿通されている軸状の第2接合具が、該一対の木質梁と該ブラケットの一部を繋いで、該ブラケットに対する該木質梁の落下防止手段を形成していることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、一対の木質梁の幅方向に貫通する双方の第2貫通孔と、ブラケットの一部を貫通して第2貫通孔に連通する第3貫通孔に挿通されている軸状の第2接合具が一対の木質梁とブラケットの一部を繋いでいることにより、ブラケットに載置されている木質梁の端部が浮き上がり、脱落することを防止できる。ここで、第2接合具としてはボルトを例示できる。
【0017】
また、本発明による柱梁接合構造の他の態様は、
前記一対の木質梁の幅方向に貫通する双方の第2貫通孔に挿通されている軸状の第3接合具が、該一対の木質梁を繋いで、該ブラケットに対する該木質梁の落下防止手段を形成していることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、一対の木質梁の幅方向に貫通する双方の第2貫通孔に挿通されている軸状の第3接合具が一対の木質梁を繋いでいることにより、ブラケットに載置されている木質梁の端部が浮き上がり、脱落することを防止できる。ここで、第2接合具としてはボルトを例示できる。
【0019】
また、本発明による柱梁接合構造の他の態様は、
前記ブラケットの他部の載置面に設けられている、第1突起もしくは第1溝に対して、前記木質梁における該載置面に載置される被載置面に設けられている、第2溝もしくは第2突起が挿通されて、該ブラケットに対する該木質梁の落下防止手段を形成していることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、ブラケットの他部の載置面に設けられている、第1突起もしくは第1溝に対して、木質梁における載置面に載置される被載置面に設けられている、第2溝もしくは第2突起が挿通されることにより、ブラケットに載置されている木質梁の端部が浮き上がり、脱落することを防止できる。
【0021】
また、本発明による柱梁接合構造の他の態様は、
少なくとも前記木質梁の他部に、軸状の補強具が打ち込まれており、
前記補強具の頭部が前記他部の表面に露出していることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、木質梁の他部に軸状の補強具が打ち込まれ、補強具の頭部が他部の表面に露出していることにより、ブラケットから作用する反力が軸力として補強具の頭部を介して当該補強具に作用し、補強具と木質梁の間の付着力を介して木質梁の高さ方向の全域に反力を分散させ、当該反力に起因する応力を分散させることができる。このことにより、木質梁がブラケットに当接する凹部の周辺領域に大きな応力が生じ、木質梁が破損したり耐久低下することを抑制できる。補強具としては、ビスや釘、ボルト等を適用できるが、中でも、ネジ山を備えたビス等を適用することで木質梁との付着力を高めることができて好ましい。
【0023】
ここで、「少なくとも木質梁の他部に軸状の補強具が打ち込まれている」とは、木質梁の凹部のうち、ブラケットに載置される被載置面から上方に補強具が打ち込まれている形態の他、凹部における被載置面から上方に補強具が打ち込まれることに加えて、凹部の側方の木質梁の下面から補強具が上方に打ち込まれている形態等を含む意味である。後者の形態では、凹部の周辺全域が補強具にて補強されることにより、凹部に接触するブラケットの他部が凹部にめり込むことや、凹部の入り隅部を起点とした割裂を防止することができて好ましい。
【0024】
また、本発明による柱梁接合構造の他の態様は、
前記木質梁の前記凹部の表面の一部もしくは全部に、鋼板が配設されていることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、木質梁の凹部の表面の一部もしくは全部に鋼板が配設されていることにより、ブラケットから作用する反力を鋼板で受け、凹部におけるブラケットに載置される被載置面等の全域に反力を分散して作用させることができるため、ブラケットからの反力が凹部の表面に局所的に作用して大きな応力が生じ、当該応力にて木質梁が破損したり耐久低下することを抑制できる。
【0026】
ここで、「凹部の表面の一部もしくは全部」とは、例えば凹部の被載置面のみに鋼板が取り付けられている形態や、凹部の表面の全部、すなわち、被載置面とこれに直交する側面の双方に鋼板が取り付けられている形態等を含む意味である。また、鋼板と補強具の双方が木質梁に取り付けられている形態であってもよい。
【0027】
また、本発明による柱梁接合構造の他の態様は、
少なくとも前記木質梁の一部に設けられているスリットに被挿入鋼板が挿入され、
前記被挿入鋼板と前記他部が、双方に打ち込まれている第2接合具により接合されていることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、木質梁に設けられているスリットに被挿入鋼板が挿入され、被挿入鋼板と木質梁の双方に打ち込まれている第2接合具にて接合されていることにより、ブラケットから作用する反力を被挿入鋼板で受け、第2接合具にて木質梁の他部の全域に反力を分散させることができる。第2接合具としては、ドリフトピン等を例示できる。
【0029】
ここで、「少なくとも木質梁の一部に設けられているスリットに被挿入鋼板が挿入されている」とは、木質梁の凹部の上方領域のみにあるスリットに被挿入鋼板が挿入されている形態や、木質梁の凹部の上方領域から側方領域といった凹部の周辺に亘るスリットに被挿入鋼板が挿入されている形態を含む意味である。後者の形態では、凹部の周辺全域が被挿入鋼板にて補強されることにより、ブラケットの他部が凹部にめり込むことや、凹部の入り隅部を起点とした割裂を防止することができて好ましい。
【0030】
また、本発明による柱梁接合構造の他の態様は、
前記木質梁の前記凹部の表面の一部もしくは全部に、鋼板が配設され、
少なくとも前記木質梁の一部に設けられているスリットに、被挿入鋼板が挿入され、
前記被挿入鋼板と前記他部が、双方に打ち込まれている第2接合具により接合されていることを特徴とする。
【0031】
本態様によれば、木質梁の凹部の表面の一部もしくは全部に鋼板が配設され、さらに、木質梁に設けられているスリットに被挿入鋼板が挿入され、被挿入鋼板と木質梁の双方に打ち込まれている第2接合具にて接合されていることにより、ブラケットから作用する反力を鋼板と被挿入鋼板の双方で受け、鋼板から伝達される反力は凹部におけるブラケットに載置される被載置面等の全域に分散して作用させることができ、被挿入鋼板から伝達される反力は第2接合具にて木質梁の他部の全域に分散して作用させることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上の説明から理解できるように、本発明の柱梁接合構造によれば、柱の側方に張り出すブラケットに合わせ木質梁が接合されてなる柱梁接合構造に関し、合わせ木質梁の端部が曲げモーメントを負担することを抑制もしくは抑止でき、ブラケットに対する取り付け性に優れた柱梁接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施形態に係る柱梁接合構造の一例の斜視図である。
【
図2】実施形態に係る柱梁接合構造を形成する、柱とブラケットの一例の斜視図である。
【
図3】実施形態に係る柱梁接合構造を形成する、合わせ木質梁を構成する木質梁の一例の斜視図である。
【
図4】ブラケットから木質梁の凹部に作用する反力により、凹部の入り隅部に割裂が生じることを説明した模式図である。
【
図5A】木質梁の凹部とその周辺の補強構造の他の例を示す図である。
【
図5B】木質梁の凹部とその周辺の補強構造のさらに他の例を示す図である。
【
図6A】木質梁の凹部の補強構造のさらに他の例を示す図である。
【
図6B】木質梁の凹部の補強構造のさらに他の例を示す図である。
【
図6C】木質梁の凹部の補強構造のさらに他の例を示す図である。
【
図6D】木質梁の凹部の補強構造のさらに他の例を示す図である。
【
図6E】木質梁の凹部の補強構造のさらに他の例を示す図である。
【
図7A】木質梁の落下防止手段の他の例を示す図であり、(a)は柱の途中位置で切断した横断面図であり、(b)は(a)のb-b矢視図である。
【
図7B】木質梁の落下防止手段のさらに他の例を示す図であり、(a)は柱の途中位置で切断した横断面図であり、(b)は(a)のb方向矢視図である。
【
図7C】木質梁の落下防止手段のさらに他の例を示す図であり、(a)は柱の途中位置で切断した横断面図であり、(b)は(a)のb方向矢視図である。
【
図8】実施形態に係る柱梁接合構造の他の例の斜視図である。
【
図9】実施形態に係る柱梁接合構造の他の例の組立前の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施形態に係る柱梁接合構造の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0035】
[実施形態に係る柱梁接合構造]
図1乃至
図9を参照して、実施形態に係る柱梁接合構造の一例について説明する。ここで、
図1は、実施形態に係る柱梁接合構造の一例の斜視図である。また、
図2は、実施形態に係る柱梁接合構造を形成する、柱とブラケットの一例の斜視図であり、
図3は、実施形態に係る柱梁接合構造を形成する、合わせ木質梁を構成する木質梁の一例の斜視図である。尚、以下、
図3等においては、鉄筋コンクリート製の柱の切断面における柱の主筋や帯筋の図示を省略する。
【0036】
図1に示す柱梁接合構造100は、柱10の側面11から側方へ張り出すブラケット70に対して、一対の木質梁80Aが隙間Gを置いて併設されてなる合わせ木質梁80が接合されることにより形成される。尚、柱梁接合構造100では、ブラケット70に対する合わせ木質梁80の接合は、合わせ木質梁80の端部が柱梁接合構造100に作用する曲げモーメントを負担するような強固な接合ではなく、合わせ木質梁80を構成する一対の木質梁80Aの一部がブラケット70の一部71を挟んだ状態で、原則的にはブラケット70の他部75に各木質梁80Aの端部が載置される形態を「接合」と称している。
【0037】
柱10とブラケット70は、いずれも鉄筋コンクリート製の一体構造体であり、より詳細には、工場にて製作され、現場搬送されるブラケット付きのPCa柱である。ここで、柱10は、図示例のPCa鉄筋コンクリート製の他に、現場施工される鉄筋コンクリート製、鋼製、鉄骨鉄筋コンクリート製、コンクリート充填鋼管(CFT:Concrete Filled Steel Tube)、木製等であってもよく、ブラケットも柱と同様に他の形態であってよい。
【0038】
また、合わせ木質梁80を形成する木質梁80Aは、多数のひき板が繊維方向を交互に直交する態様で積層され、相互に接着されることにより形成される。ここで、木質梁80Aは、ひき板の積層体の他にも、直交集成材(CLT:Cross Laminated Timber)や単板積層材(LVL:Laminated Veneer Lumber)等であってもよい。
【0039】
ここで、図示を省略するが、合わせ木質梁80にダクト用スリーブ等の梁貫通孔が形成される領域においては、一対の木質梁80Aの対応する箇所に第1貫通孔が形成され、一対の木質梁80Aの隙間Gに第2貫通孔を備えた木質ブロックが配設され、第2貫通孔と一対の第1貫通孔が連通して梁貫通孔が形成される。
【0040】
図1に示す例は、柱10の1つの側面11から張り出すブラケット70に対して1つの合わせ木質梁80が接続(曲げモーメントを負担しない程度に取り付け)されている形態であるが、柱10の2以上の側面11から張り出すそれぞれのブラケット70に対して、2以上の合わせ木質梁80が接続される形態も、柱梁接合構造100に含まれる。
【0041】
ブラケット70を介して柱10に対して合わせ木質梁80が接合された後、木質梁80Aの上面82には、PCa床版(PCa鉄筋コンクリート製床版、PCaプレストレストコンクリート床版(PC床版))、ハーフPCa床版と現場施工床版のPC合成床版、ALC(Autoclaved Lightweight aerated Concrete)パネル等、様々な形態の床版が載置されることになる。
【0042】
図2に示すように、ブラケット70は、直方体状の一部71と、一部71の左右の側面72の下方において側方に張り出す一対の他部75とを有する、逆Tの字状のブロック体である。
【0043】
他部75の上面76は、木質梁80Aの端部が載置される載置面となっており、載置面76には、上方に突出する第1突起77が設けられている。
【0044】
一方、
図3に示すように、木質梁80Aは、梁成に比べて幅の小さな板状の部材であり、端部の下方には、ブラケット70の他部75に係合する凹部85が設けられている。
【0045】
凹部85はブラケット70の他部75と相補的な直方体形状と寸法を有しており、その上面86はブラケット70の他部75の載置面76に載置される被載置面となる。また、図示例では、上面86から側面87に亘る凹部85の表面の全域をカバーするように、L形形状の鋼板90が取り付けられている。
【0046】
また、木質梁80Aの一部81には、鋼板90を介して複数の軸状の補強具91が打ち込まれており、木質梁80Aの凹部85の側方にも、木質梁80Aの下面83から複数の補強具91が打ち込まれている。尚、図示例は、補強具91の頭部91aが鋼板90の内部にめり込むようにして打ち込まれている。ここで、図示例の補強具91はロングビスである。
【0047】
このように、凹部85の表面の全域が鋼板90で包囲され、さらに、複数の補強具91が木質梁80Aの凹部85の周囲に打ち込まれていることにより、
図4に示すように、ブラケット70の他部75から作用する反力Pに起因して、凹部85の入り隅部85aを起点として生じ得る割裂Cの発生を効果的に抑制することができる。
【0048】
また、凹部85の表面の全域が鋼板90で包囲されていることにより、ブラケット70の他部75が凹部85にめり込むことを防止できる。
【0049】
さらに、ブラケット70の他部75から作用する反力Pは、軸力として頭部91aを介して補強具91に作用し、補強具91と木質梁80Aの間の付着力を介して木質梁80Aの高さ方向の全域に応力分散させることができる。このことにより、木質梁80Aがブラケット70の他部75に当接する凹部85の周辺領域に反力が局所的に作用して大きな応力が生じ、当該大きな応力にて木質梁80Aが破損したり耐久低下することを抑制できる。
【0050】
また、
図3に示すように、鋼板90から木質梁80Aの一部81に亘り、ブラケット70の他部75の載置面76から上方に突出する第1突起77が挿通される第2溝88aが設けられている。
【0051】
このように、木質梁80Aの第2溝88aに対してブラケット70の第1突起77が挿通された状態でブラケット70の他部75の上に木質梁80Aが載置されることにより、ブラケット70に対して木質梁80Aが落下し難い態様で載置される。
【0052】
第2溝88aと第1突起77は、ブラケット70に対する木質梁80Aの落下防止手段の一例を形成する。尚、図示例とは逆に、木質梁80Aが不図示の第2突起を備え、ブラケット70の他部75が不図示の第1溝を備え、第1溝に第2突起が挿通される形態であってもよい。
【0053】
図1に示す柱梁接合構造100は、1つの柱10に対して合わせ木質梁80の一端が接合される構造であるが、建物架構では、所定スパンを置いて立設する一対の柱10のそれぞれのブラケット70に対して、例えばクレーン等で吊られた合わせ木質梁80の両端が載置されることにより、2つの柱梁接合構造100が同時に形成される。そして、合わせ木質梁80の上に床版が設置された状態においては、柱梁接合構造100は安定した接合構造となる。
【0054】
すなわち、ブラケット70の他部75に対して合わせ木質梁80の端部が載置される構造であっても、最終的には安定した接合構造となり、しかも、合わせ木質梁80の端部が曲げモーメントの全部もしくは殆どを負担しない接合構造を形成できる。
【0055】
さらに、一対の柱10のそれぞれのブラケット70の他部75に対して、合わせ木質梁80の両端部を載置するだけで柱梁接合構造100が形成されることから、施工性(取り付け性)に優れた柱梁接合構造となる。
【0056】
また、木質梁80Aを適用することから、環境影響への負荷低減を図ることができ、軽量ゆえに現場における梁のハンドリング製と施工性が良好になり、木質梁80Aの側面84が醸し出す優れた外観意匠性が奏される。
【0057】
ここで、図示例は、ブラケット70の備える2つの他部75の載置面76に対してそれぞれ、一対の木質梁80Aの一部81が載置される形態であるが、ブラケットが3以上の他部を備えていて、隙間を置いて併設されている3以上の木質梁の一部がそれぞれ、3以上の他部の載置面に載置される形態であってもよい。例えば、
図2において、直方体状の一部71の中央位置に他部75の載置面76と同幅の不図示のスリットが設けられ、このスリットに不図示の木質梁80Aの一部81が載置されることにより、合わせ木質梁を形成する3つの木質梁80Aがブラケットに載置された構造が形成される。すなわち、「一対の木質梁が隙間を置いて併設されてなる合わせ木質梁」には、3以上の木質梁が隙間を置いて併設されてなる木質梁が含まれる。
【0058】
次に、
図5Aと
図5Bを参照して、木質梁80Aの凹部85とその周辺の補強構造の他の例を説明する。この補強構造は、より詳細には、
図4に示す割裂防止効果の高い補強構造の他の例である。
【0059】
図5Aに示す例は、
図3等に示す鋼板90を省略し、複数の軸状の補強具91が木質梁80Aの凹部85の周囲に打ち込まれている形態であり、凹部85に打ち込まれている補強具91の頭部91aは、凹部85の上面86に露出している。
【0060】
このように、頭部91aが凹部85の上面86に露出していることにより、ブラケット70の他部75の載置面76から作用する反力Pを補強具91に伝達することができる。
【0061】
図示例の補強構造では、可及的に少ない補強部材にて凹部85の周囲の割裂を防止することができる。
【0062】
一方、
図5Bに示す例は、木質梁80Aの凹部85の周囲にスリット88bが設けられ、スリット88bに被挿入鋼板92が挿入され、被挿入鋼板92と木質梁80Aの凹部85の周囲の双方に対して、複数の第2接合具93が打ち込まれている形態である。ここで、第2接合具93はドリフトピンである。
【0063】
図示例の補強構造では、凹部85の周辺全域が被挿入鋼板92にて補強されることにより、ブラケット70が凹部85にめり込むことや、凹部85の入り隅部85aを起点とした割裂Cを防止することができる。さらに、ブラケット70の他部75から作用する反力Pを被挿入鋼板92で受け、第2接合具93にて木質梁80Aの他部の全域に反力Pに起因する応力を分散させることができる。
【0064】
次に、
図6A乃至
図6Eを参照して、木質梁80Aの凹部85とその周辺の補強構造のさらに他の例を説明する。この補強構造は、より詳細には、凹部85の入り隅部85aを起点とした割裂の恐れがない場合に、ブラケット70の他部75から作用する反力を木質梁80Aの一部81の全域に分散させる性能に特化した補強構造に関する他の例である。
【0065】
図6Aに示す例は、凹部85の上面86から木質梁80Aの一部81に対して、複数の補強具91が打ち込まれている形態である。
【0066】
図示例の補強構造では、可及的に少ない補強部材にて、ブラケット70の他部75から作用する反力Pを木質梁80Aの一部81の高さ方向の全域に分散して作用させることができ、このことにより、反力にて発生する応力を一部81の全域に分散させることができる。そのため、木質梁80Aがブラケット70の他部75に当接する凹部85の周辺領域に反力が局所的に作用し、当該反力にて生じた大きな応力により木質梁80Aが破損したり、耐久低下することを抑制できる。
【0067】
一方、
図6Bに示す例は、木質梁80Aの一部81に打ち込まれている複数の補強具91に加えて、凹部85の上面86のみを包囲する鋼板90Aを備えている形態である。
【0068】
図示例の補強構造では、ブラケットから作用する反力Pを鋼板90Aで受け、凹部85の上面86の全域に反力Pを分散して作用させることができるとともに、補強具91を介して反力Pを木質梁80Aの一部81の高さ方向の全域に応力分散させることができる。
【0069】
一方、
図6Cに示す例は、
図6Bの補強構造から補強具91を省略し、凹部85の上面86を包囲する鋼板90Aのみを備えている形態である。
【0070】
図示例の補強構造では、可及的に少ない補強部材にて、ブラケットから作用する反力Pを鋼板90Aで受け、凹部85の上面86の全域に反力Pを分散して作用させることができる。
【0071】
一方、
図6Dに示す例は、木質梁80Aの凹部85の上方の一部81にスリット88cが設けられ、スリット88cに被挿入鋼板92Aが挿入され、被挿入鋼板92Aと木質梁80Aの凹部85の上方の一部81の双方に対して、複数の第2接合具93が打ち込まれている形態である。この形態は、
図5Bに示す補強構造が凹部85の周囲を補強するのに対して、凹部85の上方の一部81のみを補強する構造である。
【0072】
図示例の補強構造では、凹部85の上方の一部81が被挿入鋼板92Aにて補強されることにより、ブラケット70の他部75が凹部85にめり込むことを防止でき、ブラケット70の他部75から作用する反力Pを被挿入鋼板92Aで受け、第2接合具93にて木質梁80Aの他部の全域に反力Pを分散させ、分散した反力により生じる応力分散を図ることができる。
【0073】
一方、
図6Eに示す例は、
図6Dに示す補強構造に対して、さらに凹部85の上面86のみを包囲する鋼板90Aを備えている形態である。
【0074】
図示例の補強構造では、ブラケットから作用する反力Pを鋼板90Aで受け、凹部85の上面86の全域に反力Pを分散して作用させることができるとともに、ブラケット70の他部75から作用する反力Pを被挿入鋼板92Aで受け、第2接合具93にて木質梁80Aの他部の全域に反力Pを分散して作用させることができる。すなわち、反力を分散させる複数の手段にて反力を効果的に分散させ、発生応力の分散を図ることができる。
【0075】
次に、
図7A乃至
図7Cを参照して、木質梁の落下防止手段の他の例を説明する。
【0076】
図7Aに示す例は、木質梁80Aの高さ方向に貫通する第1貫通孔89aに軸状の第1接合具95が挿通され、その先端が、ブラケット70の他部75に埋設されている被接合部78に接合される形態である。ここで、第1接合具95はボルトであり、被接合部78はインサートナットである。また、木質梁80Aの上面82には座ぐり溝82aが設けられ、第1接合具95の頭部が座ぐり溝82aに収容されるようになっている。
【0077】
図示例の落下防止手段によっても、ブラケット70の他部75に載置されている木質梁80Aの端部が浮き上がり、脱落することを効果的に防止できる。
【0078】
一方、
図7Bに示す例は、一対の木質梁80Aの幅方向に貫通する双方の第2貫通孔89bと、ブラケット70の一部71を貫通して第2貫通孔89bに連通する第3貫通孔71aに対して、軸状の第2接合具96が挿通され、一対の木質梁80Aとブラケット70の一部71が第2接合具96にて繋がれる形態である。ここで、第2接合具96はボルトであり、木質梁80Aの側面84には座ぐり溝84aが設けられ、座ぐり溝84aにボルトの頭部やナットが収容されるようになっている。
【0079】
図示例の落下防止手段によっても、ブラケット70の他部75に載置されている木質梁80Aの端部が浮き上がり、脱落することを効果的に防止できる。
【0080】
一方、
図7Cに示す例は、一対の木質梁80Aの幅方向に貫通する双方の第2貫通孔89bに対して軸状の第3接合具97が挿通され、一対の木質梁80Aが第3接合具97にて繋がれる形態である。
【0081】
図示例の落下防止手段によっても、ブラケット70の他部75に載置されている木質梁80Aの端部が浮き上がり、脱落することを効果的に防止できる。
【0082】
次に、
図8と
図9を参照して、実施形態に係る柱梁接合構造の他の例について説明する。ここで、
図8は、実施形態に係る柱梁接合構造の他の例の斜視図であり、
図9は、実施形態に係る柱梁接合構造の他の例の組立前の状態を示す図である。
【0083】
図示例の柱梁接合構造100Aは、合わせ木質梁80'を形成する一対の木質梁80Bが、その端部に凹部を備えておらず、ブラケット70の他部75の上に木質梁80Bの端部が載置されている点において、柱梁接合構造100と相違する。
【0084】
ブラケット70の他部75の上に木質梁80Bの一部を係合させることなく、載置するだけであることから、例えば、木質梁80Bに設けられている貫通孔84bに対してワッシャ79aを介して挿通されたボルト等の留め具79の先端を、ブラケット70の一部71に埋設されているインサートナット72aに螺合することにより、落下防止を図るのがよい。
【0085】
柱梁接合構造100Aによっても、ブラケット70の他部75に対して合わせ木質梁80'の端部が載置される構造であっても、合わせ木質梁80'の端部が曲げモーメントの全部もしくは殆どを負担しない接合構造を形成できる。さらに、一対の柱10のそれぞれのブラケット70の他部75に対して、合わせ木質梁80'の両端部を載置するだけで柱梁接合構造100が形成されることから、施工性に優れた柱梁接合構造となる。
【0086】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0087】
10:柱
11:側面
70:ブラケット
71:一部
71a:第3貫通孔
72:側面
72a:インサートナット
75:他部
76:載置面
77:第1突起
78:被接合部
79:留め具
80,80':合わせ木質梁
80A,80B:木質梁
81:一部
82:上面
82a:座ぐり溝
83:下面
84:側面
84a:座ぐり溝
84b:貫通孔
85:凹部
85a:入り隅部
86:被載置面(上面)
87:側面
88a:第2溝
88b,88c:スリット
89a:第1貫通孔
89b:第2貫通孔
90,90A:鋼板
91:補強具
91a:頭部
92,92A:被挿入鋼板
93:第2接合具
95:第1接合具
96:第2接合具
97:第3接合具
100,100A:柱梁接合構造
G:隙間