(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170013
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】判定方法及び判定装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/08 20120101AFI20241129BHJP
【FI】
B60W40/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086921
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 和博
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 祐篤
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA02
3D241BA70
3D241CC01
3D241CC08
3D241DB02Z
3D241DB09Z
3D241DC02Z
3D241DD04Z
3D241DD07Z
(57)【要約】
【課題】上下方向に移動する視線によって変化する運転者の注視点の位置に応じて、運転者が運転操作に対してどの程度余裕があるかを判定できる判定方法及び判定装置を提供することである。
【解決手段】車両の運転者の視線情報に基づいて、運転者が前方において注視する注視点の位置を特定し、注視点の位置までの前方注視点距離を演算し、演算された前方注視点距離が大きいほど、運転者の運転操作に対して運転者により余裕があると判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定装置によって実行される判定方法であって、
前記判定装置は、
車両の運転者の視線情報を取得し、
前記視線情報に基づいて、前記運転者が前方において注視する注視点の位置を特定し、
前記注視点の位置までの前方注視点距離を演算し、
演算された前記前方注視点距離が大きいほど、前記運転者の運転操作に対して前記運転者により余裕があると判定する判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の判定方法であって、
前記判定装置は、
前記前方注視点距離が所定の距離閾値以上である場合に、前記運転者に余裕があると判定し、
前記前方注視点距離が前記所定の距離閾値未満である場合に、前記運転者に余裕がないと判定する判定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の判定方法であって、
前記判定装置は、
前記車両の車速を取得し、
前記車両の車速が高くなるに従って、前記所定の距離閾値が大きくなるように前記所定の距離閾値を設定する判定方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の判定方法であって、
前記判定装置は、
前記車両の横加速度を取得し、
前記車両の横加速度が高くなるに従って、前記所定の距離閾値が小さくなるように前記所定の距離閾値を設定する判定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の判定方法であって、
前記運転者に前記運転操作に対してどの程度余裕があるかを示す余裕度は、前記前方注視点距離に応じて3以上の段階的な区分が予め設定され、
前記判定装置は、
前記前方注視点距離と、前記区分ごとに段階的に設定された複数の所定の距離閾値とを比較し、
比較結果に応じて、前記余裕度を判定する判定方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の判定方法であって、
前記判定装置は、
前記判定の結果に応じて、前記車両の運転支援制御及び前記運転者への通知のうちの少なくともいずれか一方を実行する判定方法。
【請求項7】
車両の運転者の視線情報を取得する視線情報取得部と、
前記視線情報に基づいて、前記運転者が前方において注視する注視点の位置を特定する注視点特定部と、
前記注視点の位置までの前方注視点距離を演算する注視点距離演算部と、
演算された前記前方注視点距離が大きいほど、前記運転者の運転操作に対して前記運転者により余裕があると判定する判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定方法及び判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロントガラスを車両の幅方向に等分割する各領域における運転者の視線の滞留割合を計測し、平常時の視線の滞留割合に対する視線の滞留割合の変化量を算出し、変化量が所定値以上である場合に、運転者に余裕がないものとして運転者の心理状態を判定する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転者の心理状態の変化が表れる運転者の視線の挙動には、上下方向に動く視線の挙動が含まれる。しかしながら、特許文献1に記載の技術は、左右方向に分割された領域間の視線の移動を視線の挙動として認識する技術であるため、例えば、同一領域内で視線が上下方向に移動して運転者が注視する注視点の位置が変わる場合など、上下方向に移動する視線によって変化する運転者の注視点の位置に応じて、運転者にどの程度余裕があるかを判定できないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、上下方向に移動する視線によって変化する運転者の注視点の位置に応じて、運転者が運転操作に対してどの程度余裕があるかを判定できる判定方法及び判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の運転者の視線情報に基づいて、運転者が前方において注視する注視点の位置を特定し、注視点の位置までの前方注視点距離を演算し、演算された前方注視点距離が大きいほど、運転者の運転操作に対して運転者により余裕があると判定することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、上下方向に移動する視線によって変化する運転者の注視点の位置に応じて、運転者が運転操作に対してどの程度余裕があるかを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る判定装置を含む運転支援システムのブロック構成を示す図である。
【
図2】
図2は、運転者の上下方向における視線の移動と前方注視点の位置との関係を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、車両のフロントガラスへの視線投影と前方注視点距離の関係を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、車両のフロントガラスへの視線投影と前方注視点距離の関係を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、運転者の上下方向における視線の挙動と、運転者に余裕があるか否かの判定の結果とを示す図である。
【
図4B】
図4Bは、運転者の上下方向における視線の挙動と、運転者に余裕があるか否かの判定の結果とを示す図である。
【
図5A】
図5Aは、車両が旋回している旋回時における前方注視点を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、車両が旋回している旋回時における前方注視点を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る判定方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、本発明の実施形態に係る判定装置を、運転支援システムに適用した場合を例にして説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る判定装置を含む運転支援システムのブロック構成を示す図である。運転支援システム1は、判定装置100と、車両コントローラ200と、出力装置300と、を備える。各装置は、車両に搭載されている装置であって、相互に情報の授受を行うためにCAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続されている。運転支援システム1は、自車両の運転を制御することにより、自車両の走行を支援する制御を実行する。運転支援システム1は、自律走行制御による車両の走行のみならず、ドライバーの手動運転による自車両の走行を支援する場合にも適用できる。また、自車両の自律走行制御に適用する場合、運転支援システム1は、速度制御と操舵制御の両方を自律制御するほか、速度制御と操舵制御の一方を自律制御し、他方を手動制御する場合にも適用することができる。
【0011】
以下、本実施形態に係る判定装置100について説明する。判定装置100は、自車両の運転者に自身の運転操作に対してどの程度余裕があるかの判定を行う。余裕があるとは、運転者が自身の運転操作に対して安心感を持って運転している状態である。運転者に余裕がある場合、運転者は自身から遠くにある状況(より奥側の状況)を多く視界に入れて運転することができる。一方で、余裕がないとは、運転者が運転操作に対して不安感を持って運転している状態である。運転者に余裕がない場合、運転者は自身から近くにある状況(より手前側の状況)しか視界に入れて運転することができない。例えば、運転者が運転初心者である場合や、運転者が雪道などの運転の難しい状況で運転している場合などには、運転者には余裕がなくなり、運転者は自身に近い場所を視認するようになる。
【0012】
本実施形態では、
図1に示すように、本実施形態の判定装置100は、視線情報取得装置2と、前方注視点演算装置3と、車両情報取得装置4と、プロセッサ10と、を備える。視線情報取得装置2は、特許請求の範囲に記載の「視線情報取得部」の一例である。すなわち、本実施形態では、視線情報取得装置2が、視線情報取得機能を備える。なお、視線情報取得機能は、視線情報取得装置2に備えられることに限らない。
【0013】
視線情報取得装置2は、車両の運転者の視線情報を取得する装置である。視線情報取得装置2は、運転者の瞳の動きを逐次計測し、運転者の視線を追跡する。例えば、視線情報取得装置2は、運転者の顔を撮像するカメラを備える。視線情報取得装置2は、カメラによって運転者の顔を撮影し、撮影された運転者の顔の画像に対して視線認識処理を行うことにより運転者の視線を認識する。また、視線情報取得装置2は、運転者に対して光源を発することで角膜反射法を用いて視線を認識するものであってもよい。
【0014】
前方注視点演算装置3は、前方注視点距離を演算する装置である。前方注視点距離は、運転者が前方において注視する注視点の位置までの距離である。例えば、前方注視点距離は、自車両の位置から注視点の位置までの距離である。自車両の位置は、自車両のフロントガラス上における運転者の視点の位置である。自車両の位置は、自車両の運転者の位置であってもよい。前方注視点演算装置3は、機能ブロックとして、注視点特定部31と、注視点距離演算部32とを備える。注視点特定部31は、運転者の視線情報に基づいて、注視点の位置を特定する。例えば、注視点特定部31は、運転者の視線情報に基づいて、視線の方向の延長線上の位置を注視点の位置として特定する。注視点の位置は、運転者の前方における道路上の位置である。
【0015】
ここで、
図2を用いて、運転者の視線と運転者の注視点の位置との関係を説明する。
図2は、運転者の上下方向における視線の移動と前方注視点の位置との関係を示す図である。
図2では、運転者Dの眼の位置から視線が伸びている。視線L1は、運転者Dが車両の進行方向手前側を見ている場合の視線である。注視点P1は、運転者Dが車両の進行方向手前側を見ている場合の注視点である。視線L2は、運転者Dが車両の進行方向奥側を見ている場合の視線である。注視点P2は、運転者Dが車両の進行方向奥側を見ている場合の注視点である。運転者Dの視線が上方向(方向DL)になるほど、運転者Dの注視点は自車の進行方向奥側の方向(方向DP)に位置することになる。すなわち、運転者の視線の上下方向への移動によって注視点の位置が移動する。
【0016】
また、注視点距離演算部32は、運転者の視線情報に基づいて、幾何学的な演算を行うことにより、運転者の注視点までの前方注視点距離を演算する。ここで、
図3を用いて、前方注視点距離の演算方法を説明する。
図3A及び
図3Bは、車両のフロントガラスへの視線投影と前方注視点距離の関係を示す図である。
図3Bでは、車両の左右方向(車幅方向)がY軸方向、車両の高さ方向(車幅方向に対して垂直方向)がZ軸方向である。また、YZ平面上でフロントガラスの下側の窓枠と左側の窓枠との接点を原点とする。運転者の視線が上方向に移動する場合、運転者の注視点の位置は運転者から遠い位置になる。すなわち、運転者の視線の上下方向への移動によって前方注視点距離が変化する。
図3Aでは、運転者の頭部Pdから前方に延びる視線Lの方向に運転者の注視点Pがある。車両のフロントガラスの最下部Pfの位置から地面に対して垂直方向に延びる直線と視線Lとの交点が視線の交点Psである。運転者の頭部Pdの高さをh
d、フロントガラスの最下部Pfの高さをh
g、フロントガラスの下側の窓枠Pfの高さを基準とした視線の交点Psの上下方向(Z軸方向)における位置の高さをzとして、前方注視点距離Peye,xは以下の式(1)で求めることができる。
【数1】
【0017】
一般に、運転者の視線が上方向に移動した場合には、前方注視点距離は大きくなる。逆に、運転者の視線が下方向に移動した場合には、前方注視点距離は小さくなる。なお、本実施形態では、視線情報取得装置2は、運転者に対して光源を発して視線を認識した場合には、運転者の眼球からの反射光強度に基づいて注視点を演算してもよい。
【0018】
車両情報取得装置4は、車両の状態に関する車両情報を取得する。車両の状態は、自車両の車速及び横加速度を含む。これらは車両コントローラ200から取得してもよいし、車両の各センサ(図示しない)から取得してもよい。
【0019】
プロセッサ10は、車両の運転制御を実行させるプログラムが格納されたROM12と、このROM12に格納されたプログラムを実行することで、判定装置100として機能する動作回路としてのCPU11と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM13と、を備えるコンピュータである。プロセッサ10は、視線情報取得装置2、前方注視点演算装置3、車両情報取得装置4、車両コントローラ200及び出力装置300と相互に情報の授受を行う。プロセッサ10は、機能ブロックとして、判定部110と、制御指示部111と、を備える。本実施形態のプロセッサ10は、上記各機能を実現する又は各処理を実行するためのソフトウェアと、上述したハードウェアとの協働により各機能を実行する。なお、これらの機能ブロックは、プロセッサ10に備えられることとしているが、これに限らず、他の装置に備えられることとしてもよい。
【0020】
判定部110は、前方注視点演算装置3から前方注視点距離を取得し、前方注視点距離に応じて、運転者に運転操作に対してどの程度余裕があるかの判定を行う。当該判定では、前方注視点距離が大きいほど、運転者により余裕があると判定される。例えば、判定部110は、前方注視点距離が所定の距離閾値以上である場合には、運転者に余裕があると判定する。また、判定部110は、前方注視点距離が所定の距離閾値未満である場合には、運転者に余裕がないと判定する。運転者の視線が下方向にある場合には前方注視点距離は小さく、運転者の視線が上方向にある場合には前方注視点距離は大きくなる。したがって、前方注視点距離が小さいということは、運転者の視線が下方向を向いていて、運転者が車両の進行方向手前側を見ているということであり、運転者に余裕がない状態であると考えられる。また、逆に、前方注視点距離が大きいということは、運転者の視線が上方向を向いていて、運転者が車両の進行方向奥側を見ているということであり、運転者に余裕がある状態であると考えられる。
【0021】
以上のように、本実施形態では、前方注視点距離と所定の距離閾値との大小関係に基づいて判定処理を行うことで、運転者の注視点の位置に応じて、運転者にどの程度余裕があるかを判定できる。特に、従来の技術では、運転者の平常状態における視線の挙動との相対比較によって運転者にどの程度余裕があるかが判定されていたが、本実施形態では、前方注視点距離と大小関係を比較する所定の距離閾値を用いることで、所定の距離閾値を基準とした絶対評価によって、運転者にどの程度余裕があるかを判定できる。
【0022】
図4A及び
図4Bは、運転者の上下方向における視線の挙動と、運転者に余裕があるか否かの判定の結果とを示す図である。
図4Aでは、運転者が車両の進行方向手前側を見ていて前方注視点距離が小さい場合における運転者の注視点Pの位置が示されている。この場合には、判定部110は、運転者に余裕がないと判定する。
図4Bでは、運転者が車両の進行方向奥側を見ていて前方注視点距離が大きい場合における運転者の注視点Pの位置が示されている。この場合には、判定部110は、運転者に余裕があると判定する。
【0023】
前方注視点距離の閾値は、車両の車速及び/又は横加速度によって設定される。判定部110は、車両情報取得装置4から車両の車速を取得し、車両の車速に基づいて、所定の距離閾値を設定する。例えば、所定の距離閾値は、車両の車速が高くなるに従って、所定の距離閾値が大きくなるように設定される。一般に、運転者は車両の車速に応じて車両の前方において注視すべき位置が異なる。車両の車速が高い場合には、運転者は、車両の車速が低い場合よりも、車両の進行方向奥側、すなわち、遠くを注視する必要がある。例えば、所定の距離閾値は、取得された車速で車両が走行した場合に所定の時間後に車両が到達する地点までの距離である。自車両が車両の車速によって前方注視点距離を設定することで、前方注視点距離が同じであっても、判定部110は、車両の車速が低い場合と車両の車速が高い場合とで異なる判定をすることができる。
【0024】
また、判定部110は、車両情報取得装置4から車両の横加速度を取得し、車両の横加速度に基づいて、所定の距離閾値を設定する。例えば、所定の距離閾値は、車両の横加速度が高くなるに従って、所定の距離閾値が小さくなるように設定される。一般に、車両が旋回している場合には、運転者は旋回状態に応じて車両の前方において注視すべき位置が異なる。旋回時においては、車速が同一であるという条件では、車両は、横加速度が大きいほど旋回半径の小さい路面を走行し、横加速度が小さいほど旋回半径の大きい路面を走行することになる。このとき、横加速度が小さく旋回半径が大きい状態で車両が走行する場合には、運転者は、横加速度が大きく旋回半径が小さい状態で車両が走行する場合よりも、車両の進行方向奥側、すなわち、遠くを注視する必要がある。横加速度に応じて所定の距離閾値を設定することで、旋回状態に応じた判定をすることができるようになる。
【0025】
また、本実施形態では、車両及び横加速度のいずれか一方を用いて、所定の距離閾値が設定されることとしてもよいし、車両及び横加速度の両方を用いて、所定の距離閾値が設定されることとしてもよい。例えば、判定部110は、車両の車速の変化量及び横加速度の変化量を演算し、車速の変化量及び横加速度の変化量を比較し、より変化量が大きいほうの情報を用いて、所定の距離閾値を設定する。また、判定部110は、横加速度が同じ場合には、車両の車速が高くなるに従って、所定の距離閾値が大きくなるように所定の距離閾値を設定する。また、判定部110は、車速が同じ場合には、車両の横加速度が高くなるに従って、所定の距離閾値が小さくなるように所定の距離閾値を設定する。これにより、車速が同じで、前方注視点距離が同じであっても、判定部110は、車両の横加速度が低い場合と車両の横加速度が高い場合とで異なる判定をすることができる。また、横加速度が同じで、前方注視点距離が同じであっても、判定部110は、車両の車速が低い場合と車両の車速が高い場合とで異なる判定をすることができる。
【0026】
図5A及び
図5Bは、車両が旋回している旋回時における前方注視点を示す図である。
図5A及び
図5Bを用いて、旋回時における前方注視点の位置を説明する。
図5Aでは、車両V1は、旋回半径rで旋回し、
図5Bでは、車両V1は、旋回半径Rで旋回する。旋回半径rは旋回半径Rよりも小さい値である。すなわち、
図5Aにおける車両V1の横加速度は、
図5Bにおける車両V1の横加速度よりも大きい。
図5A及び
図5Bにおける車両V1の車速は車速Vで同一である。旋回時において、車両V1の運転者は、車両V1の旋回状態(車速・横加速度)に応じて注視すべき位置が変わるため、判定部110は、車両V1の旋回状態に応じて所定の距離閾値を設定する。
図5A及び
図5Bでは、運転者が注視すべき位置は位置Pが示されている。横加速度が同じ場合には、車速が高いほど旋回半径は大きくなる。一方、車速が同じ場合には、横加速度が高いほど旋回半径は小さくなる。車両が走行するコーナーの旋回半径が大きいほどコーナーの先まで遠く、運転者が見るべき位置は遠くにあるため、判定部110は、所定の距離閾値を大きく設定する必要がある。
図5Bにおける所定の距離閾値は、
図5Aにおける所定の距離閾値よりも大きい。なお、本実施形態では、車両が旋回している場合に限らず、車両が直進している場合にも適用される。
【0027】
また、本実施形態では、運転者にどの程度余裕があるかの判定は、運転者に余裕があるか余裕がないかの区分を用いることに限らず、3以上の区分を用いることとしてもよい。例えば、判定部110は、余裕度を用いて、運転者に運転操作に対してどの程度余裕があるかを判定することとしてもよい。余裕度は、前方注視点距離に応じて3以上の段階的な区分が予め設定されている。余裕度の区分は、より大きい前方注視点距離に対応するほど、運転者により余裕があることを示す区分である。例えば、余裕度は、前方注視点距離が大きいものから、「余裕がある」、「普通」、「余裕がない」という3つの区分に設定される。区分は4つ以上に段階的に区分したものであってもよい。判定部110は、前方注視点距離と、区分ごとに段階的に設定された複数の所定の距離閾値とを比較し、比較結果に応じて、余裕度を判定する。区分が3つある場合には、区分を分ける2つの所定の距離閾値が設定されている。判定部110は、前方注視点距離に対応する区分を余裕度として判定する。なお、余裕度は、段階的な区分に設定されるものに限らず、連続的な値であってもよい。
【0028】
制御指示部111は、判定部110によって判定された判定の結果に応じて、車両の運転支援制御及び運転者への通知のうちの少なくともいずれか一方を実行する。具体的には、制御指示部111は、判定の結果に応じて、運転支援制御において、制動制御を実行するための制動力、及び、駆動制御を実行するための駆動力を演算する。例えば、制御指示部111は、運転者に余裕がないと判定した場合には、運転者に余裕があると判定した場合よりも、制動力を高く演算する。制御指示部111は、演算した制動力で制動制御を実行するための制御指示を生成し、車両コントローラ200に出力する。また、制御指示部111は、運転者に余裕がないと判定した場合には、運転者に余裕があると判定した場合よりも、駆動力を低く演算する。制御指示部111は、演算した駆動力で駆動制御を実行するための制御指示を生成し、車両コントローラ200に出力する。また、余裕度を用いて判定した場合には、制御指示部111は、余裕度に基づいて、制動力又は駆動力を演算してもよい。例えば、余裕度が運転者により余裕があることを示すほど、制動力をより高く、又は、駆動力をより低く演算してもよい。
【0029】
また、制御指示部111は、判定の結果に応じて、運転支援制御に係る支援レベルを変更して、変更後の支援レベルによって運転支援制御を実行することとしてもよい。例えば、制御指示部111は、運転者に余裕がないと判定した場合には、運転者に余裕があると判定した場合よりも、支援レベルを高く変更する。制御指示部111は、変更後の支援レベルで運転支援制御を実行するための制御指示を生成し、車両コントローラ200に出力する。支援レベルは、車両の走行動作の制御に対して、運転支援システム1がどの程度介入するのか、換言すれば、ドライバーの手動操作がどの程度介入するのか、が定められている。運転支援システム1は、自律速度制御機能を用いた走行速度の自律制御と、自律操舵制御機能を用いた操舵操作の自律制御とを組み合わせて、自車両の走行を自律制御するにあたり、各支援レベルで定められた運転操作の支援を実現する。
【0030】
本実施形態の支援レベルは、たとえば、米国自動車技術会(SAE:Society of Automotive Engineers)から公開されているSAE J3016: SEP2016, Taxonomy and Definitions for Terms Related to Driving Automation Systems for On-Road Motor Vehiclesにおいて定義された運転自動化レベルに基づいて設定することができる。
【0031】
また、制御指示部111は、運転者への通知を実行することとしてもよい。例えば、制御指示部111は、運転者に余裕がないと判定した場合には、運転者に余裕がないことを示す画像情報及び音声情報を運転者に出力するように制御する制御指示を出力装置300に出力する。
【0032】
車両コントローラ200は、電子コントロールユニット(ECU:Electronic Control Unit)などの車載コンピュータであり、車両の運転を律する駆動機構を電子的に制御する。車両コントローラ200は、駆動機構に含まれる駆動装置、制動装置、および操舵装置を制御して、自車両を走行させる。
【0033】
駆動機構には、走行駆動源である電動モータ及び/又は内燃機関、これら走行駆動源からの出力を駆動輪に伝達するドライブシャフトや自動変速機を含む動力伝達装置、動力伝達装置を制御する駆動装置、及び車輪を制動する制動装置などが含まれる。車両コントローラ200は、これら駆動機構の各制御信号を生成し、車両の加減速を含む運転制御を実行させる。駆動機構に制御情報を送出することにより、車両の加減速を含む運転制御を自動的に行うことができる。
【0034】
例えば、車両コントローラ200は、車両が走行経路(軌跡)に対して所定の横位置を維持しながら走行するように操舵装置の制御を行う。本明細書における走行経路は、自車両が走行する軌跡に対応する経路であり、道路、道路の上り/下り、道路の車線ごとに識別可能である。操舵装置は、ステアリングアクチュエータを備える。ステアリングアクチュエータは、ステアリングのコラムシャフトに取り付けられるモータ等を含む。操舵装置は、車両コントローラ200から取得した制御信号、又は運転者のステアリング操作により入力信号に基づいて車両の操舵制御を実行する。
【0035】
出力装置300は、情報を出力し、運転者に情報を提供するための装置である。出力装置300は、車載の装置であってもよいし、運転者に利用される携帯電話やタブレット端末等の可搬の携帯端末に搭載された装置であってもよい。例えば、出力装置300は、画像情報を表示する装置であって、液晶ディスプレイ、プロジェクターなどによって構成される。また、出力装置300は、音声情報を出力する装置であってもよい。例えば、出力装置300は、スピーカーによって構成される。
【0036】
本実施形態では、出力装置300は、判定部110によって判定された判定の結果として、運転者に余裕がないと判定された場合には、運転者に余裕がないことを含む画像情報及び/又は音声情報を運転者に通知する。
【0037】
ここで、
図6を用いて、本実施形態に係る判定方法の処理手順を説明する。
図6は、本実施形態に係る判定方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。本実施形態では、例えば、判定装置100は、車両の走行中にステップS200から制御フローを開始する。
【0038】
ステップS200では、判定装置100は、視線情報取得装置2を用いて、運転者の視線情報を取得する。ステップS201では、判定装置100は、取得した運転者の視線情報に基づいて、前方注視点演算装置3を用いて、運転者の注視点までの前方注視点距離を演算する。ステップS202では、判定装置100は、車両情報取得装置4を用いて、車両の車速及び横加速度を含む車両情報を取得する。ステップS203では、判定装置100は、車両の車速及び横加速度に基づいて所定の距離閾値を設定する。例えば、判定装置100は、車速が高いほど、所定の距離閾値を大きく設定する。また、判定装置100は、横加速度が高いほど、所定の距離閾値を小さく設定する。車速が高いほど同じ時間で走行する距離が大きくなるため、車速が高いほど運転者は前方の遠い位置を注視すべきであるため、車速に基づいて所定の距離閾値を高く演算する。また、車両が旋回している旋回時においては横加速度が同じ場合には、車速が高いほど旋回半径は大きくなる。一方、車速が同じ場合には、横加速度が高いほど旋回半径は小さくなる。車両の走行するコーナーの旋回半径が大きいほどコーナーの先までは遠くなるため、運転者が見るべき位置は遠くにある。そのため、所定の距離閾値は大きく設定される。
【0039】
ステップS204では、判定装置100は、ステップS201で演算した前方注視点距離と、ステップS203で設定した所定の距離閾値とを比較し、前方注視点距離が所定の距離閾値より大きいか否かを判定する。前方注視点距離が所定の距離閾値より大きいと判定した場合には、判定装置100は、ステップS205に進む。前方注視点距離が所定の距離閾値より大きくないと判定した場合には、判定装置100は、ステップS206に進む。ステップS205では、判定装置100は、運転者に余裕があると判定する。運転者は前方の遠い位置を見ていて、前方の多くの視界情報を処理できる心理状態にあるため、運転者に運転操作に対して余裕があると考えられるためである。ステップS206では、判定装置100は、運転者に運転操作に対して余裕がないと判定する。運転者は前方の近い位置を見ていて、前方の多くの視界情報を処理する余裕のない心理状態であるとして、運転者に運転操作に対して余裕がないものと考えられるためである。
【0040】
ステップS207は、判定装置100は、運転者に余裕がないと判定した場合に、出力装置300を介して、ステップS205又はS206における判定の結果を示す画像情報及び/又は音声情報を運転者に通知する。ステップS208では、判定装置100は、ステップS205又はS206における判定の結果に基づいて制動装置の制動力又は駆動装置の駆動力を決定する。なお、ステップS207では、出力装置300は、判定の結果が運転者に余裕がないと判定された場合に、運転者に余裕がないことを示す画像情報及び/又は音声情報を運転者に通知し、判定の結果が運転者に余裕があると判定された場合には、運転者に通知をしないこととしてもよい。
【0041】
以上のように、本実施形態では、判定方法及び判定装置は、車両の運転者の視線情報を取得し、視線情報に基づいて、運転者が前方において注視する注視点の位置を特定し、注視点の位置までの前方注視点距離を演算し、演算された前方注視点距離が大きいほど、運転者の運転操作に対して運転者により余裕があると判定する。これにより、上下方向に移動する視線によって変化する運転者の注視点の位置に応じて、運転者が運転操作に対してどの程度余裕があるかを推定できる。
【0042】
また、本実施形態では、判定方法及び判定装置は、前方注視点距離が所定の距離閾値以上である場合に、運転者に余裕があると判定し、前方注視点距離が所定の距離閾値未満である場合に、運転者に余裕がないと判定する。これにより、運転者の上下方向に動く視線の挙動に応じて、運転者に余裕があるか否かを判定できる。
【0043】
また、本実施形態では、判定方法及び判定装置は、車両の車速を取得し、車両の車速が高くなるに従って、所定の距離閾値が大きくなるように所定の距離閾値を設定する。これにより、例えば、同じ前方注視点距離であっても、車速が低いときと、車速が高いときとで、異なる判定をすることができる。
【0044】
また、本実施形態では、判定方法及び判定装置は、車両の横加速度を取得し、車両の横加速度が高くなるに従って、所定の距離閾値が小さくなるように所定の距離閾値を設定する。これにより、例えば、同じ前方注視点距離であっても、横加速度が低いときと、横加速度が高いときとで、異なる判定をすることができる。
【0045】
また、本実施形態では、判定方法及び判定装置は、前方注視点距離と、区分ごとに段階的に設定された複数の所定の距離閾値とを比較し、比較結果に応じて、余裕度を判定し、余裕度を判定する運転者に運転操作に対してどの程度余裕があるかを示す余裕度は、前方注視点距離に応じて3以上の段階的な区分が予め設定される。これにより、運転者の上下方向に動く視線の挙動に応じて、運転者にどの程度余裕があるかを段階的に判定できる。
【0046】
また、本実施形態では、判定方法及び判定装置は、判定の結果に応じて、車両の運転支援制御及び運転者への通知のうちの少なくともいずれか一方を実行する。これにより、運転者は自身の余裕度を認知、又は、運転者の余裕度に応じた車両運動性能を向上させることができる。
【0047】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0048】
1…運転支援システム
2…視線情報取得装置
3…前方注視点演算装置
31…注視点特定部
32…注視点距離演算部
4…車両情報取得装置
100…判定装置
10…プロセッサ
11…CPU
12…ROM
13…RAM
110…判定部
111…制御指示部
200…車両コントローラ
300…出力装置