(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017002
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】噛み合いクラッチ係合制御システム
(51)【国際特許分類】
F16D 48/06 20060101AFI20240201BHJP
F16D 11/10 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
F16D28/00 A
F16D11/10 C
F16D11/10 A
F16D48/06 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119345
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 優介
(72)【発明者】
【氏名】大江 修平
(72)【発明者】
【氏名】荒木田 大吾
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 孝範
【テーマコード(参考)】
3J056
3J057
【Fターム(参考)】
3J056AA03
3J056AA04
3J056AA62
3J056BB05
3J056BB15
3J056BB32
3J056BD15
3J056BD25
3J056BD34
3J056CA02
3J056CA12
3J056CC03
3J056DA04
3J056GA02
3J056GA12
3J057AA02
3J057BB01
3J057GA67
3J057GA68
3J057GB13
3J057GB14
3J057GE03
3J057GE05
(57)【要約】
【課題】位相差センサ信号の周波数が高くても、演算装置が係合タイミングを適切に算出可能な噛み合いクラッチ係合制御システムを提供する。
【解決手段】噛み合いクラッチ10は、第1ギヤ歯列13が周方向に形成された第1係合部材11と、第2ギヤ歯列14が周方向に形成された第2係合部材12との軸方向相対移動により、係合状態及び解放状態が切り替わる。位相差検出装置20の位相差センサ21は、第1係合部材11と第2係合部材12との回転位相差がうなり波の振幅として現れる位相差センサ信号を出力する。包絡線抽出回路22は、位相差センサ信号の波形包絡線を抽出し、アナログ信号である包絡線信号を出力する。演算装置30は、位相差検出装置20から入力された包絡線信号をアナログデジタル変換し、デジタル値を用いた数値演算により、包絡線の振幅が判定閾値以下となるタイミングを、噛み合いクラッチが係合可能なタイミングとして算出する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ギヤ歯列(13)が周方向に形成され、軸中心に回転する第1係合部材(11)、及び、前記第1ギヤ歯列と噛み合い可能な第2ギヤ歯列(14)が周方向に形成され、前記第1係合部材と同軸かつ同方向に回転する第2係合部材(12)を有し、前記第1係合部材と前記第2係合部材との軸方向相対移動により、前記第1係合部材と前記第2係合部材との係合状態及び解放状態が切り替わる噛み合いクラッチ(10)と、
前記第1係合部材と前記第2係合部材との回転位相差がうなり波の振幅として現れる位相差センサ信号を出力する位相差センサ(21)、及び、前記位相差センサ信号の波形の包絡線を抽出し、アナログ信号である前記包絡線信号を出力する包絡線抽出回路(24)を含む位相差検出装置(20)と、
前記位相差検出装置から入力された前記包絡線信号をアナログデジタル変換し、デジタル値を用いた数値演算により、前記包絡線の振幅が判定閾値以下となるタイミングを、前記噛み合いクラッチが係合可能なタイミングとして算出する演算装置(30)と、
を備える噛み合いクラッチ係合制御システム。
【請求項2】
前記位相差検出装置(201、202、203)は、
前記第1係合部材又は前記第2係合部材の回転数に相関するクラッチ回転信号が入力され、当該クラッチ回転信号に基づいて、前記第1係合部材又は前記第2係合部材の回転数に応じた特定周波数(fo)の信号である特定周波数信号を生成する発振回路(22)と、
前記位相差センサ信号及び前記特定周波数信号が入力され、前記位相差センサ信号の周波数(fp)と前記特定周波数との差分周波数(fd)を有する変換後信号を前記包絡線抽出回路に出力する混合回路(23)と、
をさらに含む請求項1に記載の噛み合いクラッチ係合制御システム。
【請求項3】
主機モータ(6)を動力源とし、前記第1係合部材が前記主機モータのモータ軸(81)に直接、又は、減速機(7)を介して結合された電動車両(90)に適用され、
前記発振回路は、前記主機モータの回転センサ(56)が検出したモータ回転数(ωM)に基づいて前記特定周波数信号を生成する請求項2に記載の噛み合いクラッチ係合制御システム。
【請求項4】
前記第2係合部材の回転が駆動輪(91)に伝達される車両(90)に適用され、
前記発振回路は、車輪速センサ(59)が検出した車輪回転数(ωT)に基づいて前記特定周波数信号を生成する請求項2に記載の噛み合いクラッチ係合制御システム。
【請求項5】
前記発振回路は、前記位相差センサ信号を用いて前記特定周波数信号を生成する請求項2に記載の噛み合いクラッチ係合制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噛み合いクラッチ係合制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる回転数で回転する第1係合部材と第2係合部材とが係合可能なタイミングを検出する噛み合いクラッチ係合制御システムが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、第1係合部材及び第2係合部材の各ギヤ歯に跨った軸方向位置において噛み合いクラッチの径方向外側に設けられ、検出範囲内の両ギヤ歯の面積により、回転位相差を検出する位相差センサの構成が開示されている。位相差センサが出力するうなり波の節部が、噛み合いクラッチが係合可能なタイミングに相当する。また特許文献2には、演算装置に入力された位相差センサ信号をヒルベルト変換して包絡線を算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-025658号公報
【特許文献2】特開2021-025561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の演算装置は、アナログ信号で入力された位相差センサ信号をA/D変換し、デジタル値を用いた数値演算により係合可能タイミングを算出する。噛み合いクラッチの歯数が多い場合や噛み合いクラッチの回転数が高い場合、位相差センサ信号の周波数が高くなり、演算装置の応答速度を超えるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、位相差センサ信号の周波数が高くても、演算装置が係合タイミングを適切に算出可能な噛み合いクラッチ係合制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の噛み合いクラッチ係合制御システムは、噛み合いクラッチ(10)と、位相差検出装置(20)と、演算装置(30)と、を備える。
【0008】
噛み合いクラッチは、第1ギヤ歯列(13)が周方向に形成され、軸中心に回転する第1係合部材(11)、及び、第1ギヤ歯列と噛み合い可能な第2ギヤ歯列(14)が周方向に形成され、第1係合部材と同軸かつ同方向に回転する第2係合部材(12)を有する。第1係合部材と第2係合部材との軸方向相対移動により、第1係合部材と第2係合部材との係合状態及び解放状態が切り替わる。
【0009】
位相差検出装置は、位相差センサ(21)及び包絡線抽出回路(24)を含む。位相差センサは、第1係合部材と第2係合部材との回転位相差がうなり波の振幅として現れる位相差センサ信号を出力する。包絡線抽出回路は、位相差センサ信号の波形包絡線を抽出し、アナログ信号である包絡線信号を出力する。
【0010】
演算装置は、位相差検出装置から入力された包絡線信号をアナログデジタル変換し、デジタル値を用いた数値演算により、包絡線の振幅が判定閾値以下となるタイミングを、噛み合いクラッチが係合可能なタイミングとして算出する。
【0011】
本発明では、包絡線抽出回路で抽出された低周波の包絡線信号が演算装置に入力されるため、演算装置は、少ないサンプル点数で包絡線波形を認識し、包絡線の振幅に基づいて係合タイミングを算出可能である。よって、噛み合いクラッチの歯数が多い場合や噛み合いクラッチの回転数が高い場合、位相差センサ信号の周波数が高くても、演算装置は係合タイミングを適切に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】噛み合いクラッチ係合制御システムが適用される車両の構成例1の図。
【
図2】噛み合いクラッチ係合制御システムが適用される車両の構成例2の図。
【
図3】第1実施形態による噛み合いクラッチ係合制御システムの構成図。
【
図6】(a)包絡線抽出回路の一実施例であるダイオード検波回路の図、(b)包絡線抽出回路の他の実施例であるトランジスタ検波回路の図。
【
図7】第2実施形態による噛み合いクラッチ係合制御システムの構成図。
【
図8】第3実施形態による噛み合いクラッチ係合制御システムの構成図。
【
図9】第4実施形態による噛み合いクラッチ係合制御システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の複数の実施形態による噛み合いクラッチ係合制御システムを図面に基づいて説明する。複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。以下の第1~第4実施形態を包括して「本実施形態」という。本実施形態の噛み合いクラッチ係合制御システムは、車両のパワートレイン系に設けられた噛み合いクラッチにおいて、異なる回転数で回転する第1係合部材と第2係合部材とが係合可能なタイミングを検出するシステムである。
【0014】
[車両、噛み合いクラッチ係合制御システム]
図1、
図2を参照し、噛み合いクラッチ係合制御システムが適用される車両90の構成例を説明する。この車両90は、主機モータ6を動力源とする電動車両である。電動車両には電気自動車及びハイブリッド自動車を含む。主機モータ6はMG(モータジェネレータ)で構成されており、主機モータ6の回転数ωMは回転センサ56により検出される。回転センサ56として典型的にはレゾルバが使用される。
【0015】
図1、
図2にはFF車である車両90の構成例を示す。左右の前輪は駆動軸95に連結された駆動輪91であり、左右の後輪は非駆動軸96に連結された従動輪92である。以下、従動輪92に関する言及は省略する。左右の駆動輪91には、車輪回転数ωTを検出する車輪速センサ59が設けられている。本実施形態では原則として直進走行時におけるクラッチ係合を想定し、左右の駆動輪91の車輪回転数ωTは等しいものとする。
【0016】
主機モータ6のモータ軸81の回転は減速機7で減速され、デファレンシャルギヤ94及び駆動軸95を介して駆動輪91に伝達される。
図1の車両構成例1では主機モータ6と減速機7との間に噛み合いクラッチ10が設けられている。
図2の車両構成例2では減速機7とデファレンシャルギヤ94との間に噛み合いクラッチ10が設けられている。
【0017】
噛み合いクラッチ10は、第1係合部材11、第2係合部材12及び直動アクチュエータ15を有する。第1係合部材11は、第1ギヤ歯列13が周方向に形成され、軸中心に回転する。第2係合部材12は、第1ギヤ歯列13と噛み合い可能な第2ギヤ歯列14が周方向に形成され、第1係合部材11と同軸かつ同方向に回転する。第1ギヤ歯列13及び第2ギヤ歯列14の歯数は例えば60(隣接する歯のピッチ角度6°)となる。
【0018】
直動アクチュエータ15は、第1係合部材11と第2係合部材12とを軸方向に相対移動させる。直動アクチュエータ15は、第1係合部材11側に限らず、第2係合部材12側に設けられてもよい。第1係合部材11と第2係合部材12とが互いに近接する方向に移動すると、第1ギヤ歯列13と第2ギヤ歯列14とが噛み合う係合状態となる。第1係合部材11と第2係合部材12とが互いに離間する方向に移動すると、噛み合いが解除される解放状態となる。つまり、第1係合部材11と第2係合部材12との軸方向相対移動により、第1係合部材11と第2係合部材12との係合状態及び解放状態が切り替わる。
【0019】
図1の車両構成例1では、第1係合部材11が主機モータ6のモータ軸81に直接結合されている。第2係合部材12は、減速機7に入力されるクラッチ後モータ軸82に結合されている。減速機7は、クラッチ後モータ軸82の回転を減速してデファレンシャルギヤ入力軸84を回転させる。
【0020】
図2の車両構成例2では、第1係合部材11が減速機7による減速後の出力軸83に結合されている。つまり、第1係合部材11が主機モータ6のモータ軸81に減速機7を介して結合されている。第2係合部材12は、デファレンシャルギヤ入力軸84に結合されている。
【0021】
噛み合いクラッチ係合制御システム100は、噛み合いクラッチ10、位相差検出装置20及び演算装置30を備える。噛み合いクラッチ10の解放状態で第1係合部材11と第2係合部材12とが互いに異なる回転数で回転しているとき、位相差検出装置20は、第1係合部材11と第2係合部材12との回転位相差を検出する。
【0022】
演算装置30は、位相差検出装置20が出力した信号に基づき、噛み合いクラッチ10が係合可能なタイミングを算出する。以下、「噛み合いクラッチ10が係合可能なタイミング」を適宜「係合タイミング」と記す。演算装置30は、算出された係合タイミングに基づき、直動アクチュエータ15を駆動して噛み合いクラッチ10を係合させる。なお、特許文献2に開示された技術により噛み合いの作動遅れ時間を考慮し、演算装置30は将来の係合タイミングを予測してもよい。
【0023】
位相差検出装置20及び演算装置30の詳細な構成については実施形態毎に後述する。
図1、
図2において回転センサ56及び車輪速センサ59からの破線矢印は、ある実施形態で使用されるオプション構成を示している。回転数センサ56から信号処理回路35を経由してモータ回転数ωMが位相差検出装置20に入力される構成は、第1実施形態で採用される。車輪速センサ59から車輪回転数ωTが位相差検出装置20に入力される構成は、第2実施形態で採用される。
【0024】
ところで、特許文献2の演算装置は、アナログ信号で入力された位相差センサ信号をA/D変換し、デジタル値を用いた数値演算により係合可能タイミングを算出する。噛み合いクラッチの歯数が多い場合やクラッチの回転数が高い場合、位相差センサ信号の周波数が高くなり、演算装置の応答速度を超えるおそれがある。そこで本実施形態では、位相差センサ信号の周波数が高い場合でも演算装置30が適切に応答可能となるようなシステム構成を採用する。
【0025】
続いて
図3~
図9を参照し、第1~第4実施形態の噛み合いクラッチ係合制御システムの構成について順に説明する。各実施形態において位相差検出装置の符号は、「20」に続く3桁目に実施形態の符号を付す。特に断らない限り、
図1の車両構成例1に準じ、噛み合いクラッチ10の第1係合部材11はモータ軸81に結合され、第2係合部材12はクラッチ後モータ軸82に結合された構成を前提として説明する。ただし、各実施形態において
図2の車両構成例2に準じ、主機モータ6と噛み合いクラッチ10との間に減速機7が設けられてもよい。その場合、第1係合部材11の回転数はモータ回転数ωMに減速機7の減速比を乗じて算出される。
【0026】
(第1実施形態)
図3~
図6を参照し、第1実施形態について説明する。
図3において噛み合いクラッチ10及び主機モータ6の構成は、
図1、
図2を参照して上述した通りである。位相差検出装置201は、位相差センサ21、発振回路22、混合回路23及び包絡線抽出回路24を含む。演算装置30は、A/D変換回路31及び係合タイミング算出回路32を含む。説明の都合上、先に位相差検出装置201の位相差センサ21、包絡線抽出回路24及び演算装置30について説明した後、発振回路22及び混合回路23について説明する。
【0027】
位相差センサ21は特許文献1、2に開示されたものと同様であり、例えばホール素子と磁石とにより構成される。位相差センサ21は、第1ギヤ歯列13と第2ギヤ歯列14とに跨がった軸方向位置を検出範囲SAとし、噛み合いクラッチ10と干渉しない径方向外側からクラッチ軸線Zを向くように配置される。
図4に示すように、位相差センサ21は、回転に伴って検出範囲SA内を通過する第1ギヤ歯列13及び第2ギヤ歯列14の合計面積を検出する。噛み合い可能な回転位相では、検出範囲SA内の一方のギヤ歯の面積が最大で他方のギヤ歯の面積が0となり、合計面積は最大値と最小値との中間値となる。
【0028】
第1係合部材11と第2係合部材12とが互いに異なる回転数で回転しているとき、
図5に示すように、位相差センサ信号は、「クラッチ回転数×歯数」の周波数を有するうなり波となる。例えば6000rpm(100Hz)で歯数が60のとき、位相差センサ信号は6000Hzの高周波となる。また、第1係合部材11と第2係合部材12との回転位相差がうなり波の振幅として現れる。位相差センサ信号は、混合回路23で周波数が低下した変換後信号に変換される。位相差センサ21が直接出力した信号だけでなく、混合回路23の変換後信号を含めて「位相差センサ信号」と表す。
【0029】
包絡線抽出回路24は、混合回路23による変換後の位相差センサ信号波形の包絡線を抽出し、アナログ信号である包絡線信号を演算装置30に出力する。包絡線の周波数は第1係合部材11と第2係合部材12との回転数の差に依存する。回転数の差が小さいほど包絡線の周波数は低くなる。
【0030】
具体的に包絡線抽出回路24は、ラジオ等に用いられる検波回路により構成することができる。例えば、
図6(a)に示すダイオード検波回路は、ダイオードD、コンデンサC及び抵抗Rを含んで構成される。また、
図6(b)に示すトランジスタ検波回路は、トランジスタTr、コンデンサC1、C2及び抵抗R1、R2、R3を含んで構成される。
【0031】
演算装置30のA/D変換回路31は、位相差検出装置201の包絡線抽出回路24から入力された包絡線信号をアナログデジタル変換する。このとき、A/D変換回路31がサンプルするデータ点数は、包絡線信号の波形を認識可能な点数で十分である。係合タイミング算出回路32は、デジタル値を用いた数値演算により、噛み合いクラッチが係合可能な係合タイミングを算出する。
図5に示すように、包絡線信号の振幅が判定閾値以下となる期間が係合タイミングとして算出される。
【0032】
特許文献2の従来技術では演算装置が位相差センサ信号をそのままサンプルし、位相差センサ信号のデジタル値をヒルベルト変換して包絡線を算出するため、位相差センサ信号の周波数が高いほどサンプル点数を多く取る必要があった。位相差センサ信号の周波数が非常に高くなるとサンプル数が膨大となり、演算装置の処理能力による応答速度を超えるおそれがあった。
【0033】
それに対し本実施形態では、包絡線抽出回路24で抽出された低周波の包絡線信号が演算装置30に入力されるため、演算装置30は、少ないサンプル点数で包絡線波形を認識し、包絡線の振幅に基づいて係合タイミングを算出可能である。よって、噛み合いクラッチ10の歯数が多い場合や噛み合いクラッチ10の回転数が高い場合、位相差センサ信号の周波数が高くても、演算装置30は係合タイミングを適切に算出することができる。
【0034】
ここで、上述のような検波回路で構成される包絡線抽出回路24では回路の素子定数等によって検波回路の対応周波数範囲が決まる。一方、車両の構成や使用環境によっては、クラッチ回転数は0~10000rpm程度の広い範囲で変化するため、位相差センサ信号の周波数範囲が包絡線抽出回路24の対応周波数範囲を超えてしまう懸念がある。そこで第1実施形態の位相差検出装置201は、発振回路22及び混合回路23によるスーパーヘテロダインの構成を採用し、混合回路23から包絡線抽出回路24に入力される信号の周波数を一定とする。
【0035】
混合回路23は、位相差センサ21と包絡線抽出回路24との間に設けられる。発振回路22には、位相差センサ21から周波数fpの位相差センサ信号が入力されると共に、発振回路22から特定周波数信号が入力される。特定周波数信号は、第1係合部材11又は第2係合部材12の回転数に応じた特定周波数foの信号である。特定周波数foは、位相差センサ信号の周波数fpと異なる(fp≠fo)。混合回路23は、位相差センサ信号と特定周波数信号とを混合し、二つの信号の差分周波数fd(=|fp-fo|)を有する変換後信号を包絡線抽出回路24に出力する。
【0036】
発振回路22は、第1係合部材11又は第2係合部材12の回転数に相関するクラッチ回転信号が入力され、当該クラッチ回転信号に基づいて特定周波数信号を発振、すなわち生成する。なお、噛み合いクラッチ10の係合前には、第1係合部材11の回転数と第2係合部材12の回転数とはほぼ近い値となるため、いずれか一方の回転数が用いられればよい。
【0037】
混合回路23から包絡線抽出回路24に出力される差分周波数fdを一定とするため、発振回路22は、クラッチ回転数に応じて、「fo=fp±fd」となるように特定周波数foを決定し、特定周波数信号を生成する。すると、混合回路23が位相差センサ信号と特定周波数信号とを混合したとき、一定の差分周波数fdを有する変換後信号が包絡線抽出回路24に入力されることとなる。
【0038】
第1実施形態では、クラッチ回転信号として、主機モータ6の回転センサ56が検出したモータ回転数ωMが用いられる。例えば回転センサ56がレゾルバで構成される場合、レゾルバ信号は信号処理回路35で処理されて発振回路22に入力される。演算装置30が信号処理回路35の機能を兼ねる場合、レゾルバ信号は演算装置30を経由して発振回路22に入力されてもよい。また、
図3に破線矢印で示すように、信号処理回路35から演算装置30にモータ回転数ωMの情報が通知されてもよい。発振回路22は、クラッチ回転信号としてのモータ回転数ωMに基づいて特定周波数信号を生成する。
【0039】
このように第1実施形態では、発振回路22がクラッチ回転信号の周波数に応じた特定周波数foの特定周波数信号を生成し、混合回路23が位相差センサ信号と特定周波数信号とを混合して差分周波数fdの変換後信号を包絡線抽出回路24に出力する。差分周波数fdが常に包絡線抽出回路24の対応周波数範囲に収まるように特定周波数foが決定されることで、包絡線抽出回路24において適切に包絡線が抽出される。加速時や減速時等にクラッチ回転数が広範囲に変動する車両に適用される噛み合いクラッチ係合制御システムでは、特に有効である。
【0040】
(第2実施形態)
図7を参照し、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第2係合部材12の回転が駆動輪91に伝達される車両90に適用される。位相差検出装置202の発振回路22は、クラッチ回転信号として、車輪速センサ59が検出した車輪回転数ωTに基づいて特定周波数信号を生成する。
図1の車両構成例1においてデファレンシャルギヤ入力軸84の回転はデファレンシャルギヤ94を介して左右の駆動輪91に等速に伝達されるとすると、車輪回転数ωTを減速機7の減速比で除した値がクラッチ回転信号となる。第2実施形態でも第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0041】
(第3実施形態)
図8を参照し、第3実施形態について説明する。第3実施形態の位相差検出装置203では、クラッチ回転信号として、外部センサからの信号でなく、位相差センサ21が出力した位相差センサ信号が発振回路22に入力される。発振回路22は、位相差センサ信号を用いて特定周波数信号を生成する。
【0042】
つまり発振回路22は、位相差センサ信号の周波数fpに対し差分周波数fdを加減算した特定周波数fo(=fp±fd)の特定周波数信号を生成する。混合回路23は、差分周波数fdを有する変換後信号を包絡線抽出回路24に出力する。第3実施形態では、第1、第2実施形態と同様の作用効果が得られることに加え、発振回路22による特定周波数信号の生成機能を入力位相差検出装置203の内部で完結させることができる。したがって、外部センサからの信号入力による構成が簡素化する。また、外部センサの故障や通信異常の要因によるシステム異常のリスクが回避される。
【0043】
(第4実施形態)
図9を参照し、第4実施形態について説明する。第1~第3実施形態に対し第4実施形態の位相差検出装置204は、位相差センサ21及び包絡線抽出回路24のみで構成されており、発振回路22及び混合回路23を含まない。
【0044】
車両の構成や使用環境により、位相差センサ信号の周波数変動が比較的小さく、包絡線抽出回路24の対応周波数範囲に問題なく収まる場合、混合回路23での周波数変換は不要となる。したがって、第4実施形態により位相差検出装置204の構成を簡素にすることができる。なお、包絡線抽出回路24で抽出された低周波の包絡線信号が演算装置30に入力されることの作用効果は、第4実施形態でも第1~第3実施形態と同様である。
【0045】
(その他の実施形態)
(a)本発明の噛み合いクラッチ係合制御システムは、電動車両のパワートレイン系に設けられた噛み合いクラッチに限らず、エンジン車両のパワートレインや一般機械の動力伝達機構等、様々な用途の回転軸に設けられた噛み合いクラッチに適用可能である。特に噛み合いクラッチの歯数が多い場合やクラッチが高回転で回転する場合、本発明の作用効果が顕著に発揮される。
【0046】
(b)車両90は、
図1、
図2に例示するFF車の他、前輪及び後輪が共に駆動輪である四輪駆動車でもよい。また、エンジン車両のパワートレインに適用される場合、「第1係合部材11の回転数に相関するクラッチ回転信号」として、第1実施形態のレゾルバ信号に代えて、エンジンのクランク回転数センサ信号が発振回路22に入力されてもよい。
【0047】
(c)包絡線抽出回路24の具体的な構成は、
図6(a)、(b)に例示した検波回路に限らない。例えば
図6(a)、(b)の回路の各部にフィルタ回路や増幅回路を追加し、精度を高める構成としてもよい。
【0048】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0049】
本開示に記載の演算装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の演算装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の演算装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
100・・・噛み合いクラッチ係合制御システム、
10 ・・・噛み合いクラッチ、
11 ・・・第1係合部材、 13 ・・・第1ギヤ歯列、
12 ・・・第2係合部材、 14 ・・・第2ギヤ歯列、
20(201-204)・・・位相差検出装置、
21 ・・・位相差センサ、
24 ・・・包絡線抽出回路、
30 ・・・演算装置。