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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170020
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】細胞賦活化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/32 20150101AFI20241129BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
A61K35/32
A61P43/00 107
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086930
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】520239274
【氏名又は名称】株式会社U-Factor
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】舒 宇静
(72)【発明者】
【氏名】堀 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】寺村 裕治
(72)【発明者】
【氏名】大庭 義郎
(72)【発明者】
【氏名】倉持 明子
【テーマコード(参考)】
4C087
【Fターム(参考)】
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB46
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB22
(57)【要約】
【課題】 乳歯歯髄幹細胞の培養上清由来の改善された細胞賦活化剤を提供する。
【解決手段】 乳歯歯髄幹細胞の培養上清から単離された分画を含んでなる細胞賦活化剤であって、前記分画が3.5kDa未満の成分を含まない、細胞賦活化剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳歯歯髄幹細胞の培養上清から単離された分画を含んでなる細胞賦活化剤であって、前記分画が3.5kDa未満の成分を含まない、細胞賦活化剤。
【請求項2】
前記分画が50~100kDaの成分を含み、かつ、30kDa未満の成分を含まない、請求項1に記載の細胞賦活化剤。
【請求項3】
前記分画が100kDa超の成分および/または30~50kDaの成分を含まない、請求項1または2に記載の細胞賦活化剤。
【請求項4】
前記乳歯歯髄幹細胞が初代培養細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞賦活化剤。
【請求項5】
前記乳歯歯髄幹細胞が不死化細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞賦活化剤。
【請求項6】
対象において細胞を賦活化するための方法であって、前記対象に請求項1~5のいずれか1項に記載の細胞賦活化剤を投与するステップを含む、方法。
【請求項7】
乳歯歯髄幹細胞の培養上清から単離された分画の細胞賦活化剤としての使用であって、前記分画が3.5kDa未満の成分を含まない、使用。
【請求項8】
前記分画が50~100kDaの成分を含み、かつ、30kDa未満の成分を含まない、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記分画が100kDa超の成分および/または30~50kDaの成分を含まない、請求項7または8に記載の使用。
【請求項10】
前記乳歯歯髄幹細胞が初代培養細胞である、請求項7~9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記乳歯歯髄幹細胞が不死化細胞である、請求項7~9のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞賦活化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(MSC)の培養上清には、種々の成長因子やサイトカインが含まれることが知られており、現在、美容から再生医療まで幅広い分野において、その有用性が期待されている。MSCは、骨髄、歯髄、脂肪組織、臍帯などの様々な組織から容易に採取することができるが、とりわけ、乳歯から採取できるMSCである乳歯歯髄幹細胞は、従来廃棄されてきた乳歯から容易に調製することができ、かつ、増殖能も高いことから、特に有用なMSCとして有望視されている。
【0003】
これまでに、乳歯歯髄幹細胞の培養上清が、脳梗塞などの損傷組織の修復や、皮膚組織の保護に有用であることが報告されている(特許文献1、2)。しかし、培養上清中のどの成分が有効成分であるかは明らかではない。また、培養上清には、有効成分に対して阻害的に作用する成分も含まれ得るが、それについても明らかにされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/118795
【特許文献2】国際公開第2014/126176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を精製し、細胞賦活化効果に優れた組成物を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、乳歯歯髄幹細胞の培養上清のうち、高い細胞賦活活性を有する分画、および細胞賦活活性を阻害する分画を特定し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、乳歯歯髄幹細胞の培養上清から単離された分画を含んでなる細胞賦活化剤であって、前記分画が3.5kDa未満の成分を含まない、細胞賦活化剤を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、一実施形態によれば、乳歯歯髄幹細胞の培養上清から単離された分画の細胞賦活化剤としての使用であって、前記分画が3.5kDa未満の成分を含まない、使用を提供するものである。
【0009】
前記分画は、50~100kDaの成分を含み、かつ、30kDa未満の成分を含まないことが好ましい。
【0010】
前記分画は、100kDa超の成分および/または30~50kDaの成分を含まないことが好ましい。
【0011】
前記乳歯歯髄幹細胞は、初代培養細胞であってよい。
【0012】
あるいは、前記乳歯歯髄幹細胞は、不死化細胞であってよい。
【0013】
また、本発明は、一実施形態によれば、対象において細胞を賦活化するための方法であって、前記対象に上記の細胞賦活化剤を投与するステップを含む、方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る細胞賦活化剤は、乳歯歯髄幹細胞の培養上清から容易かつ安価に調製でき、かつ、細胞賦活活性を阻害する成分を含まないため、効果と安全性に優れており、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、SHED-CMおよびその分画のポリアクリルアミドゲル電気泳動像である。
図2図2は、IM-SHED-CMおよびその分画のポリアクリルアミドゲル電気泳動像である。
図3図3は、濃縮倍率の異なるSHED-CM分画を添加して培養されたNIH3T3細胞の細胞内脱水素酵素活性を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図4図4は、濃縮倍率の異なるIM-SHED-CM分画を添加して培養されたNIH3T3細胞の細胞内脱水素酵素活性を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図5図5は、タンパク質濃度に基づいて調整されたSHED-CMまたはその分画の希釈液を添加して培養されたNIH3T3細胞の細胞内脱水素酵素活性を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図6図6は、タンパク質濃度に基づいて調整されたIM-SHED-CMまたはその分画の希釈液を添加して培養されたNIH3T3細胞の細胞内脱水素酵素活性を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図7図7は、SHED-CM由来の50-100kDa分画の、>100kDa分画または30-50kDa分画による希釈液を添加して培養されたNIH3T3細胞の細胞内脱水素酵素活性を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図8図8は、IM-SHED-CM由来の50-100kDa分画の、>100kDa分画または30-50kDa分画による希釈液を添加して培養されたNIH3T3細胞の細胞内脱水素酵素活性を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図9図9は、SHED-CM/IM-SHED-CMまたはその分画を添加して培養されたNIH3T3細胞におけるMAPKの発現量およびリン酸化を比較したウェスタンブロット解析の結果を示す図である。
図10図10は、SHED-CM/IM-SHED-CMまたはその分画を添加して培養されたNIH3T3細胞におけるAktの発現量およびリン酸化を比較したウェスタンブロット解析の結果を示す図である。
図11図11は、同じタンパク質濃度のSHED-CM/IM-SHED-CMまたはその分画を添加して培養されたNIH3T3細胞におけるMAPKの発現量およびリン酸化を比較したウェスタンブロット解析の結果を示す図である。
図12図12は、同じタンパク質濃度のSHED-CM/IM-SHED-CMまたはその分画を添加して培養されたNIH3T3細胞におけるAktの発現量およびリン酸化を比較したウェスタンブロット解析の結果を示す図である。
図13図13は、IM-SHED-CMまたはその分画を添加して培養されたNIH3T3細胞についてのスクラッチアッセイの結果を示す図である。
図14図14は、IM-SHED-CMまたはその>3.5kDa分画を添加して培養されたNIH3T3細胞の細胞内脱水素酵素活性を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図15図15は、IM-SHED-CMまたはその>3.5kDa分画を添加して培養されたNIH3T3細胞についてのスクラッチアッセイの結果を示す図である。
図16図16は、タンパク質濃度に基づいて調整されたSHED-CMまたはその50-100kDa分画の希釈液を添加して培養されたHUVECの細胞内脱水素酵素活性を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図17図17は、タンパク質濃度に基づいて調整されたIM-SHED-CMまたはその50-100kDa分画の希釈液を添加して培養されたHUVECの細胞内脱水素酵素活性を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図18図18は、SHED-CMの50-100kDa分画、または>100kDa、50-100kDaおよび30-50kDa分画の混合物を添加して培養されたHUVECの細胞内脱水素酵素活性を示すグラフである。
図19図19は、SHED-CMの50-100kDa分画、または50-100kDaおよび<30kDa分画の混合物を添加して培養されたHUVECの細胞内脱水素酵素活性を示すグラフである。
図20図20は、IM-SHED-CMの50-100kDa分画、または>100kDa、50-100kDaおよび30-50kDa分画の混合物を添加して培養されたHUVECの細胞内脱水素酵素活性を示すグラフである。
図21図21は、IM-SHED-CMの50-100kDa分画、または50-100kDaおよび<30kDa分画の混合物を添加して培養されたHUVECの細胞内脱水素酵素活性を示すグラフである。
図22図22は、IM-SHED-CMの、過酸化水素処理による細胞障害に対する抑制効果を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図23図23は、IM-SHED-CMの50-100kDa分画の、過酸化水素処理による細胞障害に対する抑制効果を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図24図24は、IM-SHED-CMの>100kDa分画の、過酸化水素処理による細胞障害に対する抑制効果を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図25図25は、IM-SHED-CMの30-50kDa分画の、過酸化水素処理による細胞障害に対する抑制効果を評価したWSTアッセイの結果を示すグラフである。
図26図26は、図13および図15におけるスクラッチの回復を定量的に解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は本明細書中に説明した実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明は、第一の実施形態によれば、乳歯歯髄幹細胞の培養上清から単離された分画を含んでなる細胞賦活化剤であって、前記分画が3.5kDa未満の成分を含まない、細胞賦活化剤である。
【0018】
本実施形態において、「細胞賦活化」(およびその文法的変形)は、細胞の増殖および代謝などの機能を正常化または向上させることを意味する。したがって、本実施形態における「細胞賦活化」には、例えば、細胞の増殖および代謝に関連する酵素(各種脱水素酵素、Akt、AMPKなど)や、酸化ストレスを抑制する酵素(スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)など)の活性化が含まれ得る。ここで、「細胞」は、任意の脊椎動物におけるものであってよく、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、サル、ヒトなどの哺乳動物の細胞であり、特に好ましくはヒト細胞である。また、細胞の種類も特に限定されず、例えば、線維芽細胞、内皮細胞、上皮細胞、神経細胞、幹細胞、白血球、骨細胞、筋肉細胞、脂肪細胞などであってよく、好ましくは線維芽細胞または内皮細胞であってよい。
【0019】
「乳歯歯髄幹細胞」とは、乳歯の歯髄から採取される間葉系幹細胞である。本実施形態における乳歯歯髄幹細胞は、任意の脊椎動物由来のものであってよく、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、サル、ヒトなどの哺乳動物由来であり、特に好ましくはヒト由来である。
【0020】
乳歯歯髄幹細胞の調製方法はすでに確立されており(例えば、国際公開第2011/118795)、当分野において公知の方法にしたがって、乳歯歯髄から単離され、調製され得る。
【0021】
本実施形態における乳歯歯髄幹細胞は、初代培養細胞であってもよいし、不死化細胞であってもよい。「不死化細胞」とは、一定回数の分裂を繰り返した後もなお増殖可能な状態を維持する、すなわち、細胞が無限増殖能を有することを意味する。細胞を不死化する方法はすでに確立されており、公知の手法を採用することができる。例えば、SV40T抗原遺伝子やテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)遺伝子などを細胞に導入することにより、細胞を不死化することができる。
【0022】
乳歯歯髄幹細胞の培養方法はすでに確立されており、(例えば、国際公開第2011/118795)、当分野において公知の方法にしたがって、乳歯歯髄幹細胞を培養することができる。具体的には、例えば、DMEM、IMDM、ハムF-12、RPMI-1640またはそれらの混合物などを基礎培地として、FBSなどの血清またはKSRなどの血清代替物、グルコース、アミノ酸、ビタミンなどを適宜添加した培地中で、例えば5×10~2×10細胞/mLの濃度で播種することにより、乳歯歯髄幹細胞を培養すればよい。本実施形態の細胞賦活化剤は、乳歯歯髄幹細胞を血清を含まない培地により培養して得られた培養上清から調製されることが好ましい。
【0023】
本実施形態の細胞賦活化剤は、乳歯歯髄幹細胞の培養上清由来の3.5kDa未満の成分を含まない。ここで、「含まない」とは、通常行われる検出手段(例えば免疫化学的手法など)によって除去対象の成分が検出されないことを意味する。したがって、本実施形態の細胞賦活化剤は、未精製の培養上清に含まれる3.5kDa未満の成分の少なくとも85重量%、90重量%以上、95重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、または99重量%以上が除去されたものであり得る。言い換えれば、本実施形態の細胞賦活化剤は、未精製の培養上清に含まれる3.5kDa未満の成分の、最大で15重量%、10%重量未満、5%重量未満、3%重量未満、2%重量未満、または1重量%未満を含み得る。本実施形態の細胞賦活化剤は、乳歯歯髄幹細胞の培養上清から3.5kDa未満の成分が除去されることにより、改善された細胞賦活効果を示す。
【0024】
本実施形態における「kDa」は、例えばSDS-PAGEや限外ろ過などに基づいて算出されてよく、市販の限外ろ過フィルターユニットにより培養上清を精製する場合には、製品に表示された公称分画分子量(NMWL)または分子量カットオフ(MWCO)の値であってよい。
【0025】
本実施形態の細胞賦活化剤は、50~100kDaの成分を含む分画を含むことが好ましく;一方、30kDa未満の成分を含む分画を含まないことが好ましい。本実施形態の細胞賦活化剤は、さらに、100kDa超の成分を含む分画および/または30~50kDaの成分を含む分画を含まないことがより好ましい。50~100kDaの成分がより高い細胞賦活活性を有し、一方で、3.5kDa未満の成分のみならず、100kDa超の成分や30~50kDaの成分も、50~100kDaの成分の細胞賦活活性に対して悪影響を及ぼす場合があり得るためである。
【0026】
本実施形態の細胞賦活化剤は、例えば、100,000MWCO、50,000MWCO、30,000MWCOおよび3,500MWCOの限外ろ過膜を組み合わせて用いることにより調製され得る。例えば、100,000MWCOの限外ろ過膜により培養上清から100kDa超の成分を除去し、得られたろ液を50,000MWCOの限外ろ過膜により濃縮することにより、乳歯歯髄幹細胞の培養上清からの50~100kDaの成分を含み、かつ、30~50kDaの成分および30kDa未満の成分を含まない細胞賦活化剤を調製することができる。
【0027】
本実施形態の細胞賦活化剤は、乳歯歯髄幹細胞の培養上清から精製された分画のみから構成されてもよいが、一般的には、さらに任意の成分として、薬学的に許容される担体および添加物を含んでもよい。
【0028】
本実施形態の細胞賦活化剤は、液剤または固形剤として調製されてよく、例えば、注射剤、ゼリー剤、スプレー剤、錠剤、顆粒剤など、種々の剤型に製剤化され得るが、好ましくは液剤として調製される。液剤として調製する場合、滅菌水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液などを担体として使用でき、さらに所望により、殺菌剤、等張化剤、安定化剤などを配合してよい。固形剤として調製する場合、デンプン、ラクトース、マンニトール、無機塩などの添加剤や、さらに所望により、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などを配合することができる。
【0029】
本実施形態の細胞賦活化剤における、乳歯歯髄幹細胞の培養上清由来の50~100kDaの成分の含有量(タンパク質重量換算)は、細胞賦活化剤の総質量を100%としたとき、例えば60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上であってよく、好ましくは60~70重量%であってよい。
【0030】
本実施形態の細胞賦活化剤は、乳歯歯髄幹細胞の培養上清由来の成分のうち、細胞賦活活性を有する成分を含み、それを阻害する成分を含まない。そのため、本実施形態の細胞賦活化剤は、乳歯歯髄幹細胞の未精製の培養上清よりも細胞賦活化効果に優れており、有用である。
【0031】
本発明は、第二の実施形態によれば、対象において細胞を賦活化するための方法であって、前記対象に上記細胞賦活化剤を投与するステップを含む、方法である。本実施形態における「細胞を賦活化する」および「細胞」は、第一の実施形態において定義したものと同様である。
【0032】
本実施形態における「対象」は、任意の脊椎動物であってよいが、好ましくは、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、サル、ヒトなどの哺乳動物であり、特に好ましくはヒトである。対象は、乳幼児、若年、青年、成人および老人対象を含めた任意の年齢であり得る。
【0033】
本実施形態の方法における細胞賦活化剤は、第一の実施形態で定義したような種々の剤型に製剤化されたものであってよく、剤型に適した任意の投与方法により、例えば、経口投与、静脈内投与、皮下投与、経皮投与、筋肉内投与、経鼻投与、腹腔内投与、標的組織への直接注射、吸入投与などにより投与されてよい。細胞賦活化剤の投与量は、対象の年齢、体重、健康状態などに応じて異なってよいが、例えば0.1~10mg/kg(体重)、好ましくは0.5~2mg/kg(体重)であってよい。前記投与量は、1回で投与されてもよいし、複数回にわたって投与されてもよい。
【0034】
本発明は、第三の実施形態によれば、乳歯歯髄幹細胞の培養上清から単離された分画の細胞賦活化剤としての使用であって、前記分画が50~100kDaの成分を含み、かつ、30kDa未満の成分を含まない、使用である。本実施形態における「乳歯歯髄幹細胞」、「細胞賦活化剤」、「細胞」、「含まない」および「kDa」は、第一の実施形態で定義したものと同様である。第一および第二の実施形態において記載された内容にしたがって、50~100kDaの成分を含み、かつ、30kDa未満の成分を含まない乳歯歯髄幹細胞の培養上清由来の分画を、細胞賦活化剤として使用することができる。
【実施例0035】
以下に実施例を挙げ、本発明についてさらに説明する。なお、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0036】
<材料および試薬>
NIH3T3細胞をJCRB細胞バンクから購入した。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、EBMTM-2基本培地(CC-3156)およびEGMTM-2添加因子キット(CC-4176)をLonzaから購入した。Dulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)をGIBCOから購入した。Bovine Calf Serum(以下、「CS」と記載する)および抗真菌剤溶液(100×)をSigma-Aldrichから購入した。ウシ胎児血清(FBS)および0.05%トリプシン/EDTA溶液をInvitrogenから購入した。Charcoal(powder,activated)(以下、「活性炭」と記載する)をナカライテスクから購入した。ダルベッコリン酸緩衝液(PBS)およびRIPAバッファー、クイックCBB染色液を富士フイルム和光純薬から購入した。限外ろ過ユニット(Vivaspin Turbo 15 membrane 30,000、50,000、100,000 MWCO)をSARTORIUSから購入した。Millex-GV low protein binding durapore(PVDF)Membrane 0.22μmをメルクミリポアから購入した。Spectra/PorTM 7 Dialysis Membrane(MWCO:3.5kD)をREPLIGENから購入した。PD-10カラムをCytivaから購入した。Micro BCA Protein Assay Kitをサーモフィッシャー・サイエンティフィックから購入した。Cell Counting Kit-8を同仁化学研究所から購入した。アクリルアミド、タンパク質スタンダードマーカーおよびClarity Western ECL SubstrateをBio-Radから購入した。プロテアーゼインヒビターcomplete(#11 697 498 001)をRocheから購入した。anti-phospho p44/42抗体(#9106)およびanti-phospho Akt抗体(#9271)をCell Signaling Technologyから購入した。anti-mouse IgG-HRP 抗体(#62-6520)およびanti-rabbit IgG-HRP抗体(#65-6120)をInvitrogenから購入した。
【0037】
<1.乳歯歯髄由来幹細胞培養上清およびその分画の調製>
(1-1)ヒト乳歯歯髄由来幹細胞(SHED)の調製
脱落または抜去したヒト乳歯の歯牙を5%クロロヘキシジン液(山善製薬)または10%ポビドンヨード液(岩城製薬)で消毒した後、歯冠部を分割し、歯科用リーマーを用いて歯髄組織を回収した。歯髄組織を10体積%FBS含有DMEMに懸濁し、2mg/mlのコラゲナーゼ(富士フイルム和光純薬)およびディスパーゼ(富士フイルム和光純薬)を添加し、37℃で1時間インキュベートした。777×gで5分間遠心分離し、上清を除去し、歯髄細胞を回収した。10体積%FBSおよび1体積%抗生物質-抗真菌剤(GibcoTM Antibiotic-Antimycotic)を添加したDMEM(4mL)により歯髄細胞を懸濁し、6ウェルプレートに播種した。細胞がサブコンフルエントになるまで37℃、5%CO2条件下で培養した。0.05%トリプシン/EDTA溶液を添加して37℃で5分間インキュベートし、細胞を回収し、接着細胞用10cmディッシュ(ビオラモ)に播種した。その後、3回継代培養し、約1×107細胞になるまで増殖させた。0.05%トリプシン/EDTA溶液を添加して37℃で5分間インキュベートし、回収した細胞を「SHED(Stem cells from Human Exfoliated Deciduous teeth)」と名付けた。
【0038】
(1-2)不死化ヒト乳歯歯髄由来幹細胞(IM-SHED)の調製
SV40遺伝子をウイルスベクターより導入することにより不死化されたSHED(IM-SHED)を、Applied Biological Materialsに委託して調製した。
【0039】
(1-3)培養上清の調製
上で調製したSHEDまたはIM-SHEDを10体積%FBS含有DMEMにて継代培養した。培養上清の調製には、SHEDは8回以内、IM-SHEDは50~55回継代したものを用いた。培地を無血清のDMEMに交換し、48時間培養した。その後、培地を回収し、分離膜(Stericup Quick Release-GP,PVDF,0.22μm;メルクミリポア)でろ過することにより、培養上清(馴化培地:CM)を得た。以下、SHED由来の培養上清を「SHED-CM」、IM-SHED由来の培養上清を「IM-SHED-CM」と記載する。
【0040】
(1-4)培養上清の分画および濃縮
CMを、室温、1,000rpmで3分間;4℃、500×gで30分間;および4℃、2,000×gで30分間で遠心分離し、Millex-GV low protein binding durapore(PVDF)Membrane 0.22μmでろ過することにより細胞などの不純物を除去した。その後、CMを100,000MWCOの限外ろ過ユニットに供し、4℃、2,000×gで20分間遠心分離した。ろ液(以下、「PT」と表記する)を50,000MWCOの限外ろ過ユニットに供し、4℃、2,000×gで20分間で遠心分離した。そのPTを30,000MWCOの限外ろ過ユニットに供し、4℃、2,000×gで20分間で遠心分離した。
【0041】
さらに、上記100,000MWCOの限外ろ過ユニットに10mLのPBSを添加して、4℃、2,000×gで20分間遠心分離した。これを5回繰り返すことにより、>100kDa分画濃縮液を得た。ここで得られたPTを上記の50,000MWCOの限外ろ過ユニットに供し、4℃、2,000×gで20分間で遠心分離し、50-100kDa分画濃縮液を得た。そのPTを上記の30,000MWCOの限外ろ過ユニットに供し、4℃、2,000×gで20分間で遠心分離し、30-50kDa分画濃縮液を得た。そのPTをPD-10カラムに供し、バッファーをPBSに置換し、<30kDa分画液を得た。分画濃縮液を凍結乾燥後、ミリQ水で溶解し、サンプルバッファー(SDS含有または不含)を添加し、12.5%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。
【0042】
SHED-CMおよびその分画の電気泳動結果を図1に、IM-SHED-CMおよびその分画の電気泳動結果を図2に示す。SHED-CMおよびIM-SHED-CMのいずれも、50-100kDa分画に多くのタンパク質成分を含むことが確認された。
【0043】
<2.SHED-CM/IM-SHED-CM分画による細胞増殖および生存能力の活性化(WSTアッセイ)>
活性炭処理CS(以下、「CH-CS」と記載する)を以下の手順により調製した:1mLのCSに10mgの活性炭を添加し、15秒間穏やかにボルテックスした。37℃で10分間インキュベートした後、4℃、12,000rpmで20分間で遠心分離し、上清を0.22μmPVDFフィルターに供することにより、CH-CSを得た。NIH3T3細胞を96ウェルプレート(ビオラモ)に播種し(5,000細胞/ウェル)、10%CS/DMEM中で一晩培養した。血清飢餓状態にするために、DMEMで1回洗浄した後、0.4%CH-CS/DMEMに培地を交換し、24時間培養した。その後、上記1で調製した分画を0.4%CH-CS/DMEMにより希釈して添加し、44時間培養した。Cell Counting Kit-8のWST溶液(10μL/ウェル)を添加し、さらに4時間培養した後、450nmの吸光度を測定した。
【0044】
結果を図3および4に示す。450nmの吸光度の上昇は細胞内脱水素酵素の活性の上昇を示し、450nmの吸光度が高いほど細胞の増殖能力および生存能力が高いと解釈される。図中、「10%CS」は10%CS/DMEMを意味し、「CM×1/2dil.」は0.4%CH-CS/DMEMによりCMを1/2希釈した培地を意味する。これらの結果から、SHED-CMおよびIM-SHED-CMのいずれも、50-100kDa分画に細胞の増殖および生存能力を活性化する成分が含まれることが示された。ヒト子宮頸がん由来細胞株であるHeLa細胞や、ヒト骨髄由来の間葉系幹細胞、ヒトiPS細胞(409B2株)でも同様の結果が得られた(データは省略)。
【0045】
さらに、同じタンパク質濃度における各分画の活性を比較した結果を図5および6に示す。図中、「計算値」は、CMの結果を、上記1における電気泳動結果およびMicro BCA Protein Assay Kitによるタンパク質濃度の定量結果から算出された各分画のタンパク質濃度により補正した数値を示す。SHED-CMおよびIM-SHED-CMから精製された分画のうち、50-100kDa分画のみが細胞の増殖および生存能力を活性化する成分を含むことが明らかになった。
【0046】
<3.SHED-CM/IM-SHED-CM分画による細胞増殖および生存能力の阻害>
上記1で調製した50-100kDa分画の、0.4%CH-CS/DMEM、>100kDa分画または30-50kDa分画による希釈液を調製し、上記2と同様の手順により、細胞内脱水素酵素活性を評価した。
【0047】
結果を図7および8に示す。50-100kDa分画と、>100kDa分画または30-50kDa分画とを混合することにより、細胞内の脱水素酵素の活性が低下した。特に、IM-SHED由来の30-50kDa分画による阻害効果が大きく(図8)、細胞の増殖能力および生存能力を阻害する因子の存在が示唆された。
【0048】
<4.SHED-CM/IM-SHED-CM分画による細胞内シグナル伝達の活性化>
NIH3T3細胞を12ウェルプレートに播種し(6×10細胞/ウェル)、10%CS/DMEM中で一晩培養した。血清飢餓状態にするために、DMEMで1回洗浄した後、0.4%CH-CS/DMEMに培地を交換し、24時間培養した。その後、上記1で調製したCMまたはその分画を0.4%CH-CS/DMEMにより希釈して添加した。対照には、10%FBSまたはヒトTNFα(PeproTech)(50ng/mL)を添加した。30分間培養した後、細胞をPBSで2回洗浄し、プロテアーゼインヒビターを添加したRIPAバッファーにより溶解した。細胞溶解液をマイクロチューブに回収し、4℃で30分間振盪した。4℃、15,000rpmで20分間で遠心分離し、上清を回収した。SDS含有サンプルバッファーを添加し、95℃で5分間インキュベートした後、10%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した。タンパク質をニトロセルロース膜に転写した後、5%スキムミルク/TBST溶液によりブロッキングした(室温、1時間)。その後、ニトロセルロース膜を、一次抗体溶液中、4℃で一晩インキュベートした。一次抗体溶液を除去し、ニトロセルロース膜をTBSTで3回洗浄した後、二次抗体溶液中、室温で1時間インキュベートした。一次抗体としてanti-phospho p44/42抗体(1:2000)またはanti-phospho Akt抗体(1:2000)、二次抗体としてanti-mouse IgG-HRP抗体(1:5000)またはanti-rabbit IgG-HRP抗体(1:5000)を用いた。検出反応にはClarity Western ECL Substrateを用いた。
【0049】
結果を図9および10に示す。50-100kDa分画の添加により、MAPKおよびAktの発現量およびリン酸化が顕著に増加した。また、同じタンパク質濃度に調製したCMと50-100kDa分画とを比較した結果を図11および12に示す。CMと比較して、50-100kDa分画によるリン酸化の上昇が確認された。これらの結果から、50-100kDa分画が細胞内のリン酸化シグナル伝達を活性化するを含むことが示された。
【0050】
<5.SHED-CM/IM-SHED-CM分画による細胞遊走の活性化(スクラッチアッセイ)>
NIH3T3細胞を48ウェルプレートに播種し(3.75×10細胞/ウェル)、10%CS/DMEM中で一晩培養した。血清飢餓状態にするために、DMEMで1回洗浄した後、0.4%CH-CS/DMEMに培地を交換し、24時間培養した。200μLピペットチップにより細胞単層を一直線に傷つけ、スクラッチを作製した。DMEMで2回洗浄した後、CM(0.4%CH-CS/DMEMにより1/2倍希釈);10%FBS/DMEM;または>100kDa、50-100kDaもしくは30-50kDaの各分画(原液に対して各分画のタンパク質濃度が5倍になるように0.4%CH-CS/DMEMにより希釈)を添加し、24時間培養した。
【0051】
結果(顕微鏡像)を図13に示す。さらに、顕微鏡像における細胞面積をImageJソフトウェアにより数値化し、定量解析した結果を図26に示す。50-100kDa分画がCMと同等の創傷治癒活性を保持していることが確認された。
【0052】
<6.IM-SHED-CMの≧3.5kDa分画の調製および解析>
IM-SHED-CMをSpectra/PorTM 7透析膜(MWCO:3.5kDa)に封入し、100倍量のミリQ水に対して72時間透析した。その間、ミリQ水を8回交換した。透析後の溶液を凍結乾燥し、出発体積の1/10量のPBSに溶解し(氷上、>30分間)、0.22μmPVDFフィルターによりろ過した。得られた≧3.5kDa分画の細胞内脱水素酵素および細胞遊走に対する活性を、上記2および5と同様の手順により評価した。
【0053】
WSTアッセイの結果を図14に示す。高タンパク質濃度(100μg/mL)に調製された≧3.5kDa分画は、同じタンパク質濃度に調製されたCMよりも、細胞内の脱水素酵素を活性化した。スクラッチアッセイの結果を図15に、その定量解析の結果を図26に示す。≧3.5kDa分画は、スクラッチへの細胞の遊走を著しく増加させた。これらの結果から、<3.5kDa分画を除去することにより、CMと同等以上の細胞賦活効果を得ることができることが示された。
【0054】
<7.SHED-CM/IM-SHED-CM分画による細胞増殖および生存能力の性化(2)>
NIH3T3細胞に代えてHUVECを用いて、上記2と同様の手順により、SHED-CMおよびIM-SHED-CMから精製された50-100kDa分画による細胞内脱水素酵素活性化を評価した。HUVECを、EBMTM-2基本培地(CC-3156)およびEGMTM-2添加因子キットにより調製した培地(以下、「EGM-2培地」と記載する)を用いて接着細胞用10cmディッシュで80~90%コンフルエントまで増殖させ、0.05トリプシン/EDTA溶液により剥離し、回収した。EGM-2培地を加えて細胞を懸濁し、Countess2自動セルカウンターおよびトリパンブルーを用いて細胞数と細胞生存率を測定し、細胞懸濁液の濃度を25,000細胞/mLに調製した。96ウェルプレートに細胞を播種した(100μL/ウェル)。1日後、CMまたは50-100kDa分画が添加されたEGM-2培地に交換した。3日間培養した後、Cell Counting Kit-8のWST溶液(10μL/ウェル)を添加し、3~4時間の培養後に450nmの吸光度を測定した。
【0055】
結果を図16および17に示す。図中、「計算値」は、CMの結果を、上記1における電気泳動結果およびMicro BCA Protein Assay Kitによるタンパク質濃度の定量結果から算出された各分画のタンパク質濃度により補正した数値を示す。SHED-CMおよびIM-SHED-CM由来の50-100kDa分画のいずれも、同じタンパク質濃度におけるCMよりも、細胞内脱水素酵素活性を増加させた。この結果から、SHED-CMおよびIM-SHED-CM由来の50-100kDa分画がHUVECの増殖能力および生存能力を活性化する成分を含むことが示された。
【0056】
<8.SHED-CM/IM-SHED-CM分画による細胞増殖および生存能力の阻害(2)>
>100kDa、50-100kDaおよび30-50kDa分画の混合物(混合比1:1:1)、ならびに50-100kDaおよび<30kDa分画の混合物(混合比1:1)を調製した。50-100kDa分画および上記の混合物を、EGM-2培地を用いて段階希釈し、上記7と同様の手順により細胞内脱水素酵素活性を評価した。
【0057】
SHED-CM由来分画およびその混合物の結果を図18および20に、IM-SHED-CM由来分画およびその混合物の結果を図19および21に示す。図中、「Mix >100,50,30kDa」は、>100kDa、50-100kDaおよび30-50kDa分画の混合物を意味し、「Mix 50kDa,30PT」は、50-100kDaおよび<30kDa分画の混合物を意味し、「50kDa」は、50-100kDa分画を意味する。>100kDa、50-100kDaおよび30-50kDa分画の混合溶液では、50-100kDa分画と比較して、細胞内脱水素酵素活性の大きな低下は見られなかった(図18および20)。これに対し、50-100kDaおよび<30kDa分画の混合溶液では、50-100kDa分画と比較して、細胞内脱水素酵素活性の著しい低下が見られた(図19および21)。これらの結果から、CM中の30kDa未満の成分によりHUVECの増殖能力および生存能力が阻害されたことが明らかになった。
【0058】
<9.IM-SHED-CM分画の過酸化水素誘導性の細胞傷害抑制効果>
HUVECを、EGM-2培地を用いて接着細胞用10cmディッシュで80~90%コンフルエントまで増殖させ、0.05トリプシン/EDTA溶液により剥離し、回収した。EGM-2培地を加えて細胞を懸濁し、Countess2自動セルカウンターおよびトリパンブルーを用いて細胞数と細胞生存率を測定し、細胞懸濁液の濃度を50,000細胞/mLに調製した。96ウェルプレートに細胞を播種した(100μL/ウェル)。1日後、培地を、IM-SHED-CMおよびそれらの分画のEGM-2培地による段階希釈液により交換し、3日間培養した。細胞に過酸化水素(終濃度0.005~0.00031%)を添加し、37℃で1時間インキュベートした。希釈液を除去し、EGM-2培地(100μL/ウェル)およびCell Counting Kit-8のWST溶液(10μL/ウェル)を添加し、3~4時間の培養後に450nmの吸光度を測定した。
【0059】
IM-SHED-CMの段階希釈液を添加した細胞についての結果を図22に示す。IM-SHED-CMを添加しなかった細胞(対照)では、過酸化水素処理により450nmにおける吸光度が減少しており、過酸化水素の濃度依存的にさらに大きく減少した。この結果から、過酸化水素処理による細胞障害が確認された。一方、IM-SHED-CMの段階希釈液を添加した細胞では、過酸化水素の濃度依存的に450nmにおける吸光度が減少するものの、対照と比較して、450nmにおける吸光度の減少が抑制された。この結果から、IM-SHED-CMが酸化ストレスによる細胞障害を抑制したことが確認された。
【0060】
IM-SHED-CMの50-100kDa分画の段階希釈液を添加した細胞についての結果を図23に、>100kDa分画の段階希釈液を添加した細胞についての結果を図24に、30-50kDa分画の段階希釈液を添加した細胞についての結果を図25に示す。50-100kDa分画を添加した細胞では、分画のタンパク質濃度依存的に450nmにおける吸光度が上昇し、50-100kDa分画の濃度依存的に酸化ストレスによる細胞障害が抑制されたことが示された。
図1
図2
図3
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