(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170023
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/08 20120101AFI20241129BHJP
【FI】
B60W40/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086934
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 和博
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 祐篤
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA12
3D241BA51
3D241BB01
3D241BB06
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241DA13Z
3D241DA44Z
3D241DD04Z
3D241DD08Z
3D241DD12Z
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両の制駆動制御に対して運転者の違和感を覚える感度に応じて、車両に加える制駆動力を演算できる制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置を提供する。
【解決手段】車両の制駆動制御に対して運転者の違和感を覚える感度に応じて、制駆動力を演算できる制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置100は、運転者の状態に基づいて、制駆動制御に対して運転者が違和感を覚える感度を判定部130で判定し、演算部140で感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、制動力を高く演算する、又は、駆動力を低く演算する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制駆動力演算装置によって実行される、車両を制動させるための制動力を演算する制駆動力演算方法であって、
前記制駆動力演算装置は、
前記車両の運転者の状態を取得し、
前記運転者の状態に基づいて、制動制御に対して前記運転者が違和感を覚える度合を示す感度を判定し、
前記感度が低いと判定した場合には、前記感度が高いと判定した場合よりも、前記制動力を高く演算する制駆動力演算方法。
【請求項2】
請求項1に記載の制駆動力演算方法であって、
前記制駆動力演算装置は、
前記感度が低いと判定した場合には、前記感度が高いと判定した場合よりも、前記制動力の変化率を高く設定し、
前記変化率に基づいて前記制動力を演算する制駆動力演算方法。
【請求項3】
請求項1に記載の制駆動力演算方法であって、
前記制駆動力演算装置は、
前記感度が低いと判定した場合には、前記感度が高いと判定した場合よりも、前記制動力の絶対値を高く演算する制駆動力演算方法。
【請求項4】
制駆動力演算装置によって実行される、車両を駆動させるための駆動力を演算する制駆動力演算方法であって、
前記制駆動力演算装置は、
前記車両の運転者の状態を取得し、
前記運転者の状態に基づいて、駆動制御に対して前記運転者が違和感の覚える度合を示す感度を判定し、
前記感度が低いと判定した場合には、前記感度が高いと判定した場合よりも、前記駆動力を低く演算する制駆動力演算方法。
【請求項5】
請求項4に記載の制駆動力演算方法であって、
前記制駆動力演算装置は、
前記感度が低いと判定した場合には、前記感度が高いと判定した場合よりも、前記駆動力の変化率を低く設定し、
前記変化率に基づいて前記駆動力を演算する制駆動力演算方法。
【請求項6】
請求項4に記載の制駆動力演算方法であって、
前記制駆動力演算装置は、
前記感度が低いと判定した場合には、前記感度が高いと判定した場合よりも、前記駆動力の絶対値を低く演算する制駆動力演算方法。
【請求項7】
車両を制動させるための制動力を演算する制駆動力演算装置であって、
前記車両の運転者の状態を取得する取得部と、
前記運転者の状態に基づいて、制動制御に対して前記運転者が違和感を覚える度合を示す感度を判定する判定部と、
前記感度が低いと判定した場合には、前記感度が高いと判定した場合よりも、前記制動力を高く演算する演算部と、を備える制駆動力演算装置。
【請求項8】
車両を駆動させるための駆動力を演算する制駆動力演算装置であって、
前記車両の運転者の状態を認識する認識部と、
前記運転者の状態に基づいて、駆動制御に対して前記運転者が違和感を覚える度合を示す感度を判定する判定部と、
前記感度が低いと判定した場合には、前記感度が高いと判定した場合よりも、前記駆動力を低く演算する演算部と、を備える制駆動力演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者の運転中における脈拍数を検出し、その脈拍数が大きいほど小さくなるようにしきい値を決定し、実横加速度の絶対値がしきい値以上である場合に、運転者の運転能力の低下を検出し、運転者の操作なしで自動的にエンジン出力を減少させる技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、運転者の操作なしで自動的に車両の制動制御が実行される場合、運転者は車両制御に対して急減速感などの違和感を覚えることがある。このような違和感を低減させるため、運転者の違和感を覚える感度が低い状態にある場合に制動力を大きくするなど、運転者の感度に応じて車両に加える制駆動力を演算する必要がある。しかしながら、特許文献1に記載の技術は、運転者の運転能力の低下を補うように車両の運転状態を制御するだけの技術であるため、運転者の感度に応じて、車両に加える制駆動力を演算できないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、車両の制駆動制御に対して運転者の違和感を覚える感度に応じて、車両に加える制駆動力を演算できる制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両の運転者の状態に基づいて、制動制御に対して運転者が違和感を覚える感度を判定し、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、制動力を高く演算することによって上記課題を解決する。
【0007】
本発明は、車両の運転者の状態に基づいて、駆動制御に対して運転者が違和感を覚える感度を判定し、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、駆動力を低く演算することによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両の制駆動制御に対して運転者の違和感を覚える感度に応じて、車両に加える制駆動力を演算できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る制駆動力演算装置を含む運転支援システムのブロック構成図である。
【
図2】減速度勾配と、運転者の違和感との関係を示す図である。
【
図3A】減速度勾配の設定に関するグラフを示す図である。
【
図3B】減速度勾配の設定に関するグラフを示す図である。
【
図4】旋回時における制駆動制御の有無による車両性能への影響を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る制駆動力演算方法の処理手順を示すフローチャート図である。
【
図7】本実施形態に係る運転者状態認識処理の手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図8】本実施形態に係る違和感の感度の判定の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、本発明の実施形態に係る車両の制駆動力演算装置を、車両に搭載された運転支援システムに適用した場合を例として説明する。
図1は、運転支援システムのブロック構成を示す図である。運転支援システム1は、車両の運転を制御することにより、車両の運転を支援する。運転支援システム1は、自律走行制御による車両の走行のみならず、ドライバーの手動運転による車両の走行を支援する場合にも適用できる。本実施形態の運転支援システム1は、音声認識装置20と、車載カメラ30と、車両情報取得装置40と、制駆動力演算装置100と、車両コントローラ200と、を備える。各装置は、車両に搭載されている装置であって、相互に情報の授受を行うためにCAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続されている。
【0011】
車両の自律走行制御に適用する場合、運転支援システム1は、速度制御と操舵制御の両方を自律制御するほか、速度制御と操舵制御の一方を自律制御し、他方を手動制御する場合にも適用することができる。具体的には、運転支援システム1では、制駆動力演算装置100は、車両を制駆動させるための制駆動力を演算し、制動装置220及び駆動装置230は、演算された制駆動力に基づいて、車両の制駆動制御を実行する。運転支援システム1は、操舵装置240を備え、車両の操舵制御を実行することで、車両の運転を支援することとしてもよい。
【0012】
音声認識装置20は、車両の車室内の音を計測し、計測した車室内の音に対して音声認識処理を実行することによって、車室内の乗員の音声を認識する。音声認識装置20は、認識した車室内の乗員の音声を含む音声情報を会話状態に関する情報として制駆動力演算装置100に出力する。なお、本実施形態では、音声認識装置20は、車両の車室内の音を計測し、計測した車室内の音に対して音圧情報を取得してもよい。
【0013】
車載カメラ30は、運転者の顔を含む車室内の状況を撮像した画像情報を取得する。車載カメラ30は、例えば、車両の車室内に設けられているカメラであって、運転者の顔を含む車室内の状況を撮像して画像情報を取得する。車載カメラ30は、取得した運転者の顔を含む画像情報を会話状態に関する情報として制駆動力演算装置100に出力する。
【0014】
車両情報取得装置40は、車両の状態、車両の運転操作の状態、及び、スイッチ類の操作状態に関する情報を取得する。車両の状態に関する情報は、車両の現在地、車速、前後加速度、横加速度、及び、操舵角を含む。車両の運転操作の状態に関する情報は、運転者によるアクセル操作に関するアクセル操作情報、及び、運転者によるブレーキ操作に関するブレーキ操作情報を含む。アクセル操作情報は、例えば、アクセル開度や駆動装置230のホイール端駆動トルクの情報を含む。ブレーキ操作情報は、例えば、ブレーキ圧や駆動装置230のホイール端回生トルクの情報を含む。
【0015】
スイッチ類操作の状態に関する情報は、例えば、運転席に設置されているスイッチ類のオン/オフ及び設定が操作されているか否かの情報を含む。スイッチ類は、例えば、センターコンソールに設置されているスイッチ類やステアリングホイール上に設置されているスイッチ類である。これらは、車両の制動装置220及び駆動装置230から取得してもよいし、車両の各センサから取得してもよい。車両情報取得装置40によって取得された情報は、制駆動力演算装置100に出力される。
【0016】
車両コントローラ200は、電子コントロールユニット(ECU:Electronic Control Unit)などの車載コンピュータであり、車両の運転を律する駆動機構を電子的に制御する。車両コントローラ200は、駆動機構に含まれる駆動装置230、制動装置220、および操舵装置240を制御して、自車両を目標経路に従って走行させる。駆動機構には、走行駆動源である電動モータ及び/又は内燃機関、これら走行駆動源からの出力を駆動輪に伝達するドライブシャフトや自動変速機を含む動力伝達装置、動力伝達装置を制御する駆動装置230、及び車輪を制動する制動装置220などが含まれる。車両コントローラ200は、運転者のアクセル操作及びブレーキ操作による入力信号、制駆動力演算装置100から取得した制駆動力に基づいてこれら駆動機構の各制御信号を生成し、車両の加減速を含む運転制御を実行させる。駆動機構に制御情報を送出することにより、車両の加減速を含む運転制御を自律的に行うことができる。
【0017】
車両コントローラ200は、自車両が走行経路(軌跡)に対して所定の横位置を維持しながら走行するように操舵装置240の制御を行う。操舵装置240は、ステアリングアクチュエータを備える。ステアリングアクチュエータは、ステアリングのコラムシャフトに取り付けられるモータ等を含む。操舵装置240は、車両コントローラ200から取得した制御信号、又は運転者のステアリング操作により入力信号に基づいて車両の操舵制御を実行する。
【0018】
以下、本実施形態に係る制駆動力演算装置100について説明する。制駆動力演算装置100は、車両を制動させるための制動力、又は、車両を駆動させるための駆動力を演算する。
図1に示すように、本実施形態の制駆動力演算装置100は、プロセッサ10を備える。プロセッサ10は、制駆動力の演算を実行させるプログラムが格納されたROM12と、このROM12に格納されたプログラムを実行することで、制駆動力演算装置100として機能する動作回路としてのCPU11と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM13と、を備えるコンピュータである。プロセッサ10は、機能ブロックとして、認識部120と、判定部130と、演算部140とを備える。本実施形態のプロセッサ10は、上記各機能を実現する又は各処理を実行するためのソフトウェアと、上述したハードウェアとの協働により各機能を実行する。
【0019】
認識部120は、車両の運転者の状態を認識する。運転者の状態は、運転者の運転に対する集中力が高い状態か否かである。本実施形態では、運転者が会話をしている状態である、及び/又は、スイッチ類を操作している状態である場合に、運転者の状態は、運転者の運転に対する集中力が高くない、すなわち、低い状態であると認識される。運転者が、会話やスイッチ類の操作など、運転以外の動作をしている状態であれば、運転者の注意が運転以外の動作にも向けられるため、運転に対する集中力は、運転のみを行っている状態の場合よりも、低くなると考えられるためである。
【0020】
認識部120は、運転者の会話状態及びスイッチ類の操作状態に関する情報に基づいて、運転者の状態を認識する。具体的には、認識部120は、音声認識装置20で認識された乗員の音声情報、及び、車載カメラ30で撮影された運転者の顔の画像情報に基づいて、運転者が会話している状態か否かを認識する。例えば、認識部120は、乗員の音声情報から乗員間で会話が行われていると認識し、及び/又は、運転者の顔の画像から運転者の口に動きがあると認識した場合には、運転者が会話している状態であると認識する。また、認識部120は、音声認識装置20によって取得された音圧情報に対して車両の走行音及びナビゲーションなどの車載機器の発する音声を除外する処理を行って、処理後の音声が所定の音圧以上である場合に、乗員が会話している状態であると認識してもよい。
【0021】
また、認識部120は、車両情報取得装置40からスイッチ類のオン/オフ及び設定状態に基づいて、運転者がスイッチ類を操作している状態であるか否かを認識する。例えば、認識部120は、スイッチをオン/オフに切り替える操作がされている場合や、スイッチの設定を変更する操作がされている場合に、運転者がスイッチ類を操作している状態であると認識する。
【0022】
判定部130は、運転者の状態に基づいて、制動制御又は駆動制御に対する運転者の違和感の感度を判定する。本実施形態では、運転者の違和感の感度は、制動制御又は駆動制御に対して運転者が違和感を覚える度合を示すものであって、すなわち、違和感に対する感覚の鋭敏さである。感度は、例えば、感度が低いか感度が高いかによって表される。違和感は、例えば、制動制御時に自車両が急減速しているように感じる急減速感、駆動制御時に自車両があまり加速をしていないように感じる加速不良感を含む。運転者は、運転者の操作なしに運転支援システム1によって自律的に制動制御が実行された場合には、車両の減速に対して急減速感などの違和感を覚えることがある。また、運転者は、車両の加速時に運転支援システム1によって自律的に駆動力が抑制された場合には、車両の加速に対して加速不良感などの違和感を覚えることがある。
【0023】
感度は、運転者の状態に応じて変化する。例えば、運転者が会話している場合やスイッチ類の操作をしている場合など、運転に対する集中力が低い場合には、運転に対する集中力が高い場合よりも、運転者の違和感の感度は低くなる。このような場合、車両に付与される制駆動力が同じであっても、感度が低い場合には、感度が高い場合よりも、運転者は違和感を覚えにくい。すなわち、違和感の感度は、運転者の違和感の覚えやすさである。感度が高いほど、違和感を覚えやすく、感度が低いほど、違和感を覚えにくい。
【0024】
本実施形態では、判定部130は、所定の判定条件を満たすか否かを判定し、所定の判定条件を満たす場合に、運転者の感度が低いと判定する。また、判定部130は、所定の判定条件を満たさない場合に、感度が高いと判定する。例えば、所定の判定条件は、運転者の運転に対する集中力が低い状態であることである。すなわち、判定部130は、運転者の運転に対する集中力が低い状態である場合には、運転者の感度が低いと判定する。また、判定部130は、運転者の運転に対する集中力が高い状態である場合には、運転者の感度が高いと判定する。なお、本実施形態では、所定の判定条件は、運転者の運転に対する集中力が低い状態であるという条件に限らず、運転者が会話している状態であること、及び、運転者がスイッチ類を操作している状態であることのいずれか一方が成立するという条件であってもよい。
【0025】
また、本実施形態では、判定部130は、運転者の感度が低いと判定した場合には、判定してから所定の時間経過するまでの間、感度が低いという判定結果を記憶する。
【0026】
演算部140は、車両の制駆動制御に対する運転者の違和感の感度に応じて、車両に加える制駆動力を演算する。制動力は、減速度である。演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、制動力を高く演算する。制動力の演算方法の一例として、制動力の変化率を用いる方法を説明する。演算部140は、制動力の変化率を高く設定し、変化率に基づいて制動力を演算することで、制動力を高く演算する。制動力の変化率は、減速度勾配である。例えば、車両の目標車速を実現するための目標減速度を演算する場合に、演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、演算に用いる減速度勾配を高く設定する。また、演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、運転者に違和感を与えないようにするために設定した減速度勾配の最大値を高く設定することとしてもよい。
【0027】
また、演算部140は、制動力の絶対値を高く演算することで、制動力を高く演算してもよい。例えば、車両の目標車速を実現するための目標減速度を演算する場合に、演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、目標減速度を高く演算する。また、演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、運転者に違和感を与えないようにするために設定した減速度の最大値を高く設定することとしてもよい。
【0028】
図2は、減速度勾配と、運転者の違和感との関係を示す図である。
図2で示されるように、運転者は、減速度勾配が大きいほど、制動制御に対する違和感、すなわち、急減速感を覚えやすく、逆に、減速度勾配が小さいほど、制動制御に対する違和感を覚えにくい。また、運転者が車両の運転操作以外の動作をしている場合には、運転者は、制動制御に対してより違和感を覚えにくくなる。そのため、運転者が車両の運転操作以外の動作もしている場合には、減速度勾配を大きくしても、運転者は、制動制御に対して違和感を覚えにくい。そこで、本実施形態では、運転者が車両の運転操作以外の動作をしていて、運転者は、制動制御に対してより違和感を覚えにくい場合には、減速度勾配を高くして車両の制動制御を実行する。
【0029】
ここで、
図3A及び
図3Bを用いて、減速度勾配の設定について説明する。
図3A及び
図3Bは、減速度勾配[G/s]の設定に関するグラフを示す図である。
図3A及び
図3Bでは、実線は、感度が低いと判定した場合における補正後減速度を表していて、破線は、感度が高いと判定した場合における基準減速度を表している。
図3Aでは、補正後減速度は、絶対値が基準減速度の絶対値と同じ値で、減速度勾配が、基準減速度の減速度勾配よりも高い場合の減速度である。また、
図3Bでは、補正減速度は、絶対値を基準減速度の絶対値よりも高くして、減速度勾配も基準減速度の減速度勾配よりも高くした場合の減速度である。
図3A及び
図3Bで示されるように、時間t1から所定時間の補正後減速度(実線)の減速度勾配は、基準減速度(破線)の減速度勾配よりも高い。
【0030】
以上のように、本実施形態では、減速度を高くして制動制御を実行することにより、運転者に違和感を与えることなく、車両の運転性能を向上させることができるため、運転者による修正操作量を減らし、運転負荷を低減させることができる。一般的に、旋回時の操舵角が同じであれば、車速が低い場合には、車速が高い場合よりも、旋回半径は小さくなる。本実施形態では、車両がカーブ路を走行する等、車両が旋回をする場面において、運転者の違和感の感度が低い場合に減速度を高くして車両を減速させることで、車両の旋回性能を向上させて旋回半径を小さくすることができる。また、このとき、減速度を高くしても、運転者の違和感の感度が低いため、運転者は違和感を覚えにくい。
【0031】
次に、駆動力の演算方法について説明する。駆動力は、加速度である。演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、駆動力を低く演算する。例えば、演算部140は、駆動力の変化率を低く設定し、変化率に基づいて駆動力を演算することで、駆動力を低く演算する。駆動力の変化率は、加速度勾配である。車両の目標車速を実現するための目標加速度を演算する場合に、演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、演算に用いる加速度勾配を小さく設定する。また、演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、運転者に違和感を与えないようにするために設定した加速度勾配の最大値を低く設定することとしてもよい。
【0032】
運転者は、駆動制御時に加速度勾配が小さくほど、駆動制御に対する違和感、すなわち、加速不良感を覚えやすい。また、運転者が車両の運転操作以外の動作をしている場合には、運転者は、駆動制御に対してより違和感を覚えにくくなる。そのため、運転者が車両の運転操作以外の動作をしている場合には、加速度勾配を小さくしても、運転者は、駆動制御に対して違和感を覚えにくい。そこで、本実施形態では、運転者が車両の運転操作以外の動作をしていて、駆動制御に対してより違和感を覚えにくい場合には、加速度勾配を大きくして車両の駆動制御を実行する。
【0033】
また、演算部140は、駆動力の絶対値を低く演算することで、駆動力を低く演算してもよい。例えば、車両の目標車速を実現するための目標加速度を演算する場合に、演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、目標加速度を低く演算する。また、演算部140は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、運転者に違和感を与えないようにするために設定した減速度の最大値を低く設定することとしてもよい。
【0034】
以上のように、本実施形態では、加速度を低くして駆動制御を実行することにより、運転者に違和感を与えることなく、車両の運転性能を向上させることができるため、運転者による修正操作量を減らし、運転負荷を低減させることができる。例えば、車両がカーブ路を走行する等、車両が旋回をする場合に、車両の加速が必要な場面であっても、運転者の違和感の感度が低いときには加速度を低くして車両の加速を抑制することで、車両の旋回性能を向上させて旋回半径を小さくすることができる。また、このとき、加速度を低くしても、運転者の違和感の感度が低いため、運転者は違和感を覚えにくい。
【0035】
図4は、旋回時における制駆動制御の有無による車両性能への影響を示す図である。
図4では、車両の軌道BT及び軌道CTは、車両が旋回する場合の車両の旋回軌道を表している。車両の軌道BTは、運転者の感度が低く、より高い減速度で制動制御した場合の車両の旋回軌道である。車両の軌道CTは、運転者の感度が高く、より低い減速度で制動制御した場合の車両の旋回軌道である。より低い減速度で制動制御した場合に比べて、より高い減速度で制動制御した場合には、車両のヨーレートが大きくなり旋回時に車両の向きが変わりやすい。車両が直進状態から同一車速・同一操舵角で進入するという条件で、制駆動制御なし、制駆動制御あり、違和感の感度を判定する場合の制駆動制御ありのヨーレート効果を比較すると、違和感の感度の判定により感度が低いと判定され、減速度を高くして制動制御を実行した場合には、違和感の感度の判定がない場合の制動制御に比べて、制動制御によって旋回時の旋回半径を小さくする効果を得ることができる。
【0036】
ここで、演算部140による制駆動力の演算方法の具体的な実施例について説明する。
図5は、
図1の演算部のブロック構成図である。
図5で示されるように、演算部140は、機能ブロックとして、車両挙動演算部141と、目標制動力演算部142と、目標駆動力演算部143と、補正制動力演算部144と、補正駆動力演算部145と、を備える。以下では、車両がカーブ路を走行する場合など、車両が旋回する場面を例として説明する。なお、本実施形態では、車両がカーブ路を走行する場合に限らず、車両が直進を走行する場合にも、制駆動制御が必要な場面において、制駆動力を演算することとしてもよい。
【0037】
車両挙動演算部141は、車両情報取得装置40で取得した車速、前後加速度、横加速度、操舵角、アクセル操作情報、及び、ブレーキ操作情報に基づいて、旋回時の目標車両挙動及び推定車両挙動を演算する。目標車両挙動は、現時点における車速等の車両状態において実現されるべき目標値、すなわち、理想値によって表される。推定車両挙動は、現時点における車速等の車両状態に応じて演算した推定値によって表される。旋回時の目標車両挙動及び推定車両挙動は、例えば、目標ヨーレート及び推定ヨーレートを含む。車両挙動演算部141は、予め設定された車両毎に異なる旋回特性に関する設定値と、車速と、操舵角とに基づいて、推定ヨーレートを演算する。旋回特性は、例えば、二輪モデルにおける旋回特性である。また、車両挙動演算部141は、予め設定された車両毎に異なる旋回特性に関する目標値と、車速と、操舵角とに基づいて、目標ヨーレートを演算する。
【0038】
また、車両挙動演算部141は、アクセル開度や駆動装置のホイール端駆動トルクを含むアクセル操作情報に基づいて、推定加速度を演算する。推定加速度は、運転者のアクセル操作から推定される加速度である。また、車両挙動演算部141は、ブレーキ圧や駆動装置のホイール端回生トルクを含むブレーキ操作情報に基づいて、推定減速度を演算する。推定減速度は、運転者のブレーキ操作から推定される減速度である。
【0039】
目標制動力演算部142は、車両挙動演算部141によって演算した目標車両挙動に基づいて、目標制動力を演算する。目標制動力演算部142は、車両挙動演算部141で演算した目標ヨーレートに基づいて、目標制動力を演算する。具体的には、目標制動力演算部142は、目標ヨーレートと、車両の旋回特性を基に設定した目標横加速度とに基づいて目標車速を演算し、車両情報取得装置40で取得した車速と目標車速との車速差を演算する。目標制動力演算部142は、演算した目標車速に対する車速差がなくなるように目標制動力を演算する。ただし、推定加速度が所定の値より大きい時には車両は加速状態にあるものとして目標制動力は0として演算される。
【0040】
また、目標制動力演算部142は、車両の旋回内側の車輪にのみ制動力を付与して車両にヨーモーメントを与える場合には、車両挙動演算部141で演算された目標ヨーレート及び推定ヨーレートに基づいて、車両の旋回内側の車輪に加える目標制動力を演算してもよい。具体的には、目標制動力演算部142は、目標ヨーレートと推定ヨーレートとの間のヨーレート偏差を演算する。目標制動力演算部142は、目標ヨーレートに対するヨーレート偏差がなくなるように目標制動力を演算する。
【0041】
なお、本実施形態では、目標制動力演算部142は、判定部130によって、感度が高いと判定した場合には、制動制御による違和感を運転者に与えないように目標制動力の最大値及び目標制動力の勾配の最大値を設定する。目標制動力演算部142は、演算した目標制動力が最大値よりも高い場合には、最大値を目標制動力として演算する。
【0042】
目標駆動力演算部143は、車両挙動演算部141によって演算した目標車両挙動に基づいて、目標駆動力を演算する。目標駆動力演算部143は、車両挙動演算部141で演算した目標ヨーレートに基づいて、目標駆動力を演算する。具体的には、目標駆動力演算部143は、目標ヨーレートと、車両の旋回特性を基に設定した目標横加速度とに基づいて目標車速を演算し、車両情報取得装置40で取得した車速と目標車速との車速差を演算する。目標駆動力演算部143は、演算した目標車速に対する車速差がなくなるように目標駆動力を演算する。ただし、推定減速度が所定の値より大きい時には車両は減速状態にあるものとして目標駆動力は0として演算される。
【0043】
なお、本実施形態では、目標駆動力演算部143は、判定部130によって、感度が高いと判定した場合には、駆動制御による違和感を運転者に与えないように目標駆動力の最大値及び目標駆動力の勾配の最大値を設定する。目標駆動力演算部143は、演算した目標駆動力が最大値よりも高い場合には、最大値を目標駆動力として演算する。
【0044】
補正制動力演算部144は、判定部130における判定の結果に基づいて、補正制動力を演算する。感度が高いと判定した場合には、補正制動力演算部144は、補正制動力を0として演算する。一方、感度が低いと判定した場合には、補正制動力演算部144は、感度が高いと判定した場合よりも、目標制動力の最大値及び目標制動力の勾配の最大値を高く設定する。この場合、目標制動力演算部142は、補正制動力演算部144によって設定された目標制動力の最大値及び目標制動力の勾配の最大値に基づいて、目標制動力を演算する。また、補正制動力演算部144は、目標制動力演算部142によって演算された目標制動力と、目標制動力の最大値との差異を補正制動力として演算することとしてもよい。
【0045】
補正駆動力演算部145は、判定部130における判定の結果に基づいて、補正駆動力を演算する。感度が高いと判定した場合には、補正駆動力演算部145は、補正駆動力を0として演算する。一方、感度が低いと判定した場合には、補正駆動力演算部145は、感度が高いと判定した場合よりも、目標駆動力の最大値及び目標駆動力の勾配の最大値を低く設定する。この場合、補正駆動力演算部145は、設定された目標駆動力の最大値及び目標制動力の勾配の最大値に基づいて、目標駆動力を演算する。補正駆動力演算部145によって演算された目標駆動力を補正駆動力として称する。
【0046】
制動装置220は、目標制動力演算部142で演算された目標制動力と、補正制動力演算部144で演算された補正制動力とを取得し、目標制動力と補正制動力とを合算した制動力を車両の車輪に付与する。
【0047】
駆動装置230は、目標駆動力演算部143で演算された目標駆動力と、補正駆動力演算部145で演算された補正駆動力のうち、より小さい駆動力を車両の車輪に付与する。
【0048】
次に、
図6を用いて、制駆動力演算装置100によって実行される制駆動力演算方法を実行する処理手順を説明する。
図6は、本実施形態に係る制駆動力演算方法の処理手順を示すフローチャート図である。本処理手順では、車両が走行している場合、制駆動力演算装置100は、制御フローをステップS100から開始する。
【0049】
まず、ステップS100では、制駆動力演算装置100は、運転者の状態を認識する。運転者の状態は、例えば、運転者の車両の運転に対する集中力が高い状態か否かである。ステップS110では、制駆動力演算装置100は、運転者の状態に基づいて、運転者の違和感の感度を判定する。ステップS120では、制駆動力演算装置100は、違和感の感度に応じて、制駆動力を演算する。以下の説明では、制動力及び駆動力を制駆動力としてまとめて説明するが、制動力及び駆動力のいずれを演算するかは、実現すべき目標車速等に基づいて制動制御及び駆動制御のいずれが必要かによって決定される。例えば、制動制御を実行する場合、制駆動力演算装置100は、感度が低いと判定したときには、感度が高いと判定したときよりも、制動力を高く演算する。また、駆動制御を実行する場合、制駆動力演算装置100は、感度が低いと判定したときには、感度が高いと判定したときよりも、駆動力を低く演算する。
【0050】
次に、
図7を用いて、本実施形態に係る制駆動力演算装置によって実行される運転者状態認識処理の手順の一例を説明する。
図7は、
図6に示すステップS100で実行されるサブルーチンを示すフローチャートである。すなわち、
図7は、本実施形態に係る運転者状態認識処理の手順の一例を説明するためのフローチャートである。
【0051】
ステップS201では、制駆動力演算装置100は、車両の乗員の会話を含む音声情報と、運転者の顔の画像情報とを含む運転者の会話状態に関する情報を取得する。ステップS202では、制駆動力演算装置100は、運転者が会話しているか否かを判定する。例えば、制駆動力演算装置100は、乗員が会話している、かつ、運転者の口が動いている場合に、運転者が会話していると判定する。運転者が会話していると判定した場合に、制駆動力演算装置100は、ステップS205に進む。運転者が会話していないと判定した場合に、制駆動力演算装置100は、ステップS203に進む。ステップS203では、制駆動力演算装置100は、スイッチ類の操作状態に関する情報を取得する。ステップS204では、制駆動力演算装置100は、運転者がスイッチ類を操作しているか否かを判定する。運転者がスイッチ類を操作していると判定した場合に、制駆動力演算装置100は、ステップS205に進む。運転者がスイッチ類を操作していないと判定した場合に、制駆動力演算装置100は、ステップS206に進む。
【0052】
ステップS205では、制駆動力演算装置100は、運転者の状態を、運転に対する集中力が低い状態であると認識する。ステップS206では、制駆動力演算装置100は、運転者の状態を、運転に対する集中力が高い状態であると認識する。運転者の状態を認識した後、制駆動力演算装置100は、
図6のステップS110に戻る。
【0053】
次に、
図8を用いて、本実施形態に係る制駆動力演算装置によって実行される判定処理の手順の一例を説明する。
図8は、
図6に示すステップS110で実行されるサブルーチンを示すフローチャートである。すなわち、
図8は、本実施形態に係る制駆動力演算方法における違和感の感度の判定の処理手順を示すフローチャートである。
【0054】
ステップS207では、制駆動力演算装置100は、運転者の状態が、集中力が高い状態であるか否かを判定する。運転者の状態が、集中力が高い状態であると判定した場合に、制駆動力演算装置100は、ステップS208に進む。運転者の状態が、集中力が高い状態ではないと判定した場合に、制駆動力演算装置100は、ステップS209に進む。ステップS208では、制駆動力演算装置100は、運転者の違和感の感度が高いと判定する。ステップS209では、制駆動力演算装置100は、運転者の違和感の感度が低いと判定する。運転者の違和感の感度を判定した後、制駆動力演算装置100は、
図6のS120に戻る。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置は、車両を制動させるための制動力を演算する制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置であって、車両の運転者の状態を取得し、運転者の状態に基づいて、制動制御に対して運転者が違和感を覚える度合を示す感度を判定し、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、制動力を高く演算する。これにより、車両の制駆動制御に対する運転者の違和感の感度に応じて、車両に加える制駆動力を演算できる。
【0056】
また、本実施形態に係る制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、制動力の変化率を高く設定し、変化率に基づいて制動力を演算する。これにより、感度が低いと判定した場合には、高い変化率を用いて、制動力を高く演算することができる。
【0057】
また、本実施形態に係る制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、制動力の絶対値を高く演算する。これにより、感度が低いと判定した場合には、制動力の絶対値を高くすることで、制動力を高く演算することができる。
【0058】
本実施形態に係る制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置は、車両を制動させるための制動力を演算する制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置であって、車両の運転者の状態を取得し、運転者の状態に基づいて、駆動制御に対して運転者が違和感の覚える度合を示す感度を判定し、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、駆動力を低く演算する。これにより、車両の制駆動制御に対する運転者の違和感の感度に応じて、車両に加える制駆動力を演算できる。
【0059】
また、本実施形態に係る制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、駆動力の変化率を低く設定し、変化率に基づいて駆動力を演算する。これにより、感度が低いと判定した場合には、低い変化率を用いて、駆動力を高く演算することができる。
【0060】
また、本実施形態に係る制駆動力演算方法及び制駆動力演算装置は、感度が低いと判定した場合には、感度が高いと判定した場合よりも、駆動力の絶対値を低く演算する。これにより、感度が低いと判定した場合には、駆動力の絶対値を高くすることで、駆動力を高く演算することができる。
【0061】
なお、以上に説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0062】
1…運転支援システム
100…制駆動力演算装置
10…プロセッサ
11…CPU
12…ROM
13…RAM
120…認識部
130…判定部
140…演算部
20…音声認識装置
30…車載カメラ
40…車両情報取得装置
200…車両コントローラ
220…制動装置
230…駆動装置
240…操舵装置