(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170033
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物、並びにこれを用いた吸水性ポリマーの分解及び滅菌処理方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/16 20060101AFI20241129BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20241129BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20241129BHJP
A61L 2/18 20060101ALI20241129BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20241129BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20241129BHJP
A01N 59/00 20060101ALI20241129BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20241129BHJP
B09B 101/67 20220101ALN20241129BHJP
【FI】
C08J11/16
B09B3/70 ZAB
B09B3/40
A61L2/18
A01P1/00
A01P3/00
A01N59/00 A
A01N25/02
B09B101:67
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086952
(22)【出願日】2023-05-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
(71)【出願人】
【識別番号】598140386
【氏名又は名称】日本アサヒ機工販売株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】小島 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和興
(72)【発明者】
【氏名】菊島 千幸
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 志郎
【テーマコード(参考)】
4C058
4D004
4F401
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA12
4C058BB07
4C058CC06
4C058JJ07
4D004AA06
4D004AA07
4D004AA12
4D004CA34
4D004CA35
4D004CA40
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4D004CB31
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA10
4D004DA20
4F401AA17
4F401AC20
4F401BA13
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4F401CA67
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4F401CA75
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4F401EA45
4F401FA07Z
4F401FA20Z
4H011AA02
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC18
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】より安価で汎用性の高い酸化剤によって効率的に、分解、及び最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞を滅菌することのできる、吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物を提供すること。
【解決手段】吸水性ポリマーを分解、及び感染性微生物を滅菌するための分解及び滅菌用水性組成物であって、過硫酸塩化合物とアルカリ化合物とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物であって、過硫酸塩化合物とアルカリ化合物とを含むことを特徴とする吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
【請求項2】
過硫酸塩化合物が、水溶性である、請求項1に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
【請求項3】
過硫酸塩化合物が、ペルオキソ二硫酸塩である、請求項1に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
【請求項4】
吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物の濃度が0.01重量%以上飽和濃度以下である、請求項1に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
【請求項5】
吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物のpHが、1~10の範囲である、請求項1に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
【請求項6】
吸水性ポリマーを含む処理対象物を請求項1~5のいずれかに記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物に浸漬する工程、及び前記処理対象物の浸漬した吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物を加熱することで、吸水性ポリマーを水溶性低分子量物質に分解すると共に、感染性微生物を滅菌する分解・滅菌工程を含む、吸水性ポリマーの分解及び滅菌処理方法。
【請求項7】
処理対象物が、紙おむつである、請求項6に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌処理方法。
【請求項8】
さらに、濾別工程、洗浄工程及び回収工程を含み、紙おむつからパルプ繊維を回収することを特徴とする、請求項6に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物、並びにこれを用いた吸水性ポリマーの分解及び滅菌処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「消毒と滅菌のガイドライン」(監修/厚生省保健医療局結核感染症課、編集/小林寛伊、へるす出版、2000)には、感染症新法において対象となっている感染症の消毒法及び感染性の不活化、並びに汚染物(器具、患者環境、リネン類等)の消毒・滅菌方法が詳細に記載されている。同書には、消毒・滅菌方法と記載されているが、同書の内容からは、必ずしも細菌が完全に死滅することを意味する滅菌ではなく、細菌が害を及ぼさない程度まで不活化した、むしろ殺菌という範囲の不活化として理解した方が妥当といえる。また、同書には、独立の章として、「滅菌法」が記載されている。それによれば、「滅菌の概念は、確率的なものであり、あらかじめ設定された無菌性保証レベル(Sterility assurance level: SAL)に達した状態を維持してはじめて滅菌が完了する」、「無菌性保証レベルとして10-6レベルが採用されている」、とある。これは、滅菌を行って、1個の微生物が生き残る確率が100万回に1回であることを意味する。
これらのことは現在でも踏襲されており、「無菌性保証レベル」として10-6 が採用されている(「消毒と滅菌のガイドライン」改訂第4版(2020年版)大久保憲他、へるす出版)。
【0003】
「医療現場における滅菌保証のガイドライン2015」(日本医療機器学会)によれば、関連国際規格の指針として、指標菌のGeobacillus stearothermophilus(後述の細菌芽胞)に対して1x105CFU以上(菌数が10万分の1以下)となる要求性能が示されている。
また、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(平成30年3月、環境省環境再生・資源循環局)により特別管理廃棄物に指定されている、感染性廃棄物(人が感染し、又は感染するおそれのある病原体が含まれ、若しくは付着している廃棄物又はこれらのおそれのある廃棄物)について、その適正な処理を確保するために必要で、かつ、具体的な手順等については、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、並びに同法施行令において、具体的な解説が記載されている。
同マニュアルの資料(参考9)「感染性廃棄物の処理において有効であることの確認方法について」では、最も滅菌抵抗性を有する生物指標として、(1)Bacillus stearothermophilus(ATCC 7953)及び(2)Bacillus subtilis var. niger(ATCC 9372)が挙げられている。これらのBacillus属細菌芽胞に加えて、Clostridium属細菌(破傷風菌・ガス壊炭疽群)及び炭疽菌(Bacillus anthracis)の芽胞は、上記(1)及び(2)と同等の滅菌抵抗を持つが、安全性を考慮して、(1)及び(2)を使用して不活化(無菌性保証レベル10-6以下)の確認を行うことが望ましいとしている。
【0004】
前記「消毒と滅菌のガイドライン」及び「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」には、無菌性保証レベル10-6を達成する滅菌法として、1)加熱法(115~129℃での高圧蒸気法、160~190℃での乾熱法)、2)ガス法(酸化エチレンガス滅菌法、過酸化水素ガスプラズマ滅菌法)、3)照射法(γ線照射法、電子線照射法)、及びその他の方法が、滅菌抵抗性を有する細菌芽胞の滅菌法として広く行われている旨記載されている。
しかしながら、加熱法では、オートクレーブ装置が必須であり、経済的であるものの、高温及び高圧下での処理条件という制約がある。酸化エチレンを用いるガス法では、低温で滅菌ができるため、加熱による材質の変化がないが、滅菌時間が長いこと、並びに処理後のガスの残留及び作業者の健康被害を減ずる方法が行われている。
【0005】
実際、「臨床検査技師のための病院感染対策の実践ガイド」(社団法人日本臨床衛生検査技師会、2005年)には、臨床検査室は、多くの病原体が運び込まれる危険性があることや、生理学的検査や採血では直接患者さんと接することなどが記載されている。このガイドには記載はないが、一例として、グルタルアルデヒドの被爆に関する大阪地裁判決(平成18年12月25日)が挙げられる。
なお、「医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康被害防止について」(2005年、厚生労働省)が、(社)日本病院会会長ならびに同会会員に通達された。その参考1には、平成11年~16年の期間に国内医療機関で発生したグルタルアルデヒドによる8件の労働災害事例が記載されている。さらに、同通達の参考3には、内視鏡等の医療器具等の殺菌消毒剤として、グルタルアルデヒドの代替となる殺菌消毒剤としてのフタラール製剤及び過酢酸による各種健康障害が挙げられている。
【0006】
このような背景の下、多種多様な医療機器・器具のほか、患者環境及び分泌物・排泄物などの消毒、滅菌についても、様々な方法が実施されているが、いずれの方法も必ずしも満足のいくものではなく、常圧、100℃以下で、しかも、酸化エチレンガスやグルタルアルデヒドなどを用いない滅菌法の開発が望まれている。
【0007】
特許文献1には、アパタイト鉱質形成に関連するナノバクテリアの種々の消毒薬混合物として、蒸留水中の50%過硫酸カリウムと5%スルファミン酸との1%混合物が記載されている。しかしながら、特許文献1には、該ナノバクテリアを根絶する効果的な方法としては、まず、第1段としてエチレンジアミンテトラ酢酸でアパタイト(鉱質)を溶解し、第2段として、過酸化合物、界面活性剤、有機酸及び無機緩衝系からなる市販品が好適であると記載されている。従って、この特許文献1には前記過硫酸カリウムとスルファミン酸との混合物による滅菌方法についての具体的な記述はない。そして、この特許文献1に記載の技術では、Bacillus stearothermophilusを死滅させることができなかった。
【0008】
なお、過硫酸カリウムには、ペルオキソ一硫酸水素カリウム(K+0-S02-0-0H、別名:過硫酸水素カリウム)とペルオキソ二硫酸カリウム(K2S208、略称KPS)との2種類がある。前者は、強い酸化剤であるが水溶液中で不安定であるため、これを主成分として環境除菌・洗浄剤等に使用される。後者は、約60℃の水溶液や有機溶媒中で2分子に分解して活性なラジカルとなり、重合開始剤として用いられ、両者とも過硫酸カリウムと呼ぶことは多いが、化学的性質は大きく異なる。
【0009】
非特許文献1には、ペルオキソ一硫酸水素カリウム(過硫酸水素カリウム)を主成分とする環境除菌・洗浄剤(RST)の有効性について、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)などを対象とした懸濁試験で、1%RSTが作用時間1分で、4log10以上(無菌性保証レベル10-4)の殺菌効果を示したことが報告されている。なお、ペルオキソ一硫酸水素カリウムは含有成分の塩化ナトリウムを酸化し、その反応中に生じた次亜塩素酸(HClO)が強力な抗微生物作用を示す。
特許文献2には、イオウ含有オキシ酸(過硫酸水素カリウム、KPS等を含む酸化剤の混合物)、アルカリ金属炭酸塩、亜塩素酸塩等からなる活性酸素化合物と二酸化塩素を発生させる前駆体の水溶液によって、シアノバクテリア等の細菌、真菌類などの殺菌による常温での水浄化が報告されている。しかしながら、これらの文献に記載の方法は、いずれも細菌芽胞を無菌保証レベル10-6に達成できる滅菌方法ではない。
【0010】
以上述べた通り、過硫酸カリウム等の過酸化物を用いた殺菌あるいは滅菌法が報告されているが、いずれも、過酸化物を含む酸化剤水溶液中では、最も滅菌抵抗性を有する生物指標としての(1)Bacillus stearothermophilus(ATCC 7953)及び(2)Bacillus subtilis var. niger(ATCC 9372)の滅菌効果が得られていない。
【0011】
特許文献3には、少なくとも4log10程度の殺菌効果を示す処理方法として、第1段で過酢酸水溶液を、第2段で過酸化水素水溶液を用い、室温下、長時間をかけて殺菌し、細菌の胞子を殺菌する技術が記載されている。しかし、同文献には、過酸化剤として、ペルオキソ一硫酸及びペルオキソ二硫酸の名称は記載されているが、各々、ペルオキソ一硫酸水素カリウムや、ペルオキソ二硫酸カリウムを明記するものでもなく、また、実施例においても過硫酸塩化合物は全く記載されていない。さらに、Bacillus stearothermophilus、Bacillus subtilis等の細菌芽胞の名称は記載されているが、室温下、2段階での殺菌方法が紹介されているだけであって、前記ペルオキソ一硫酸及びペルオキソ二硫酸の水溶液が適切であるとの記載も全くない。従って、特許文献3に記載の技術は、KPS水溶液中、細菌芽胞を6log10以上(無菌性保証レベル10-6)の滅菌を開示するものではない。
【0012】
以上のように、本発明者らは、鋭意、国内外の特許文献等を検索したが、60℃以上の温度の水溶液中で、KPSを熱分解して得られるラジカルによって細菌芽胞を完全滅菌する報告は見当たらなかった。
【0013】
一方、本発明者らは、特許文献4に記載の通り、使用済み紙おむつの処理の課題となっていた吸水性ポリマーの分解方法について、該紙おむつに含まれる吸水性ポリマー(三次元架橋ポリマー)を、過ヨウ素酸塩又は、これと他の酸化剤である過硫酸酸塩との混合物の水溶液中、80℃程度の低温で、30分前後の短時間で酸化分解することで、吸水性ポリマーの架橋構造を破壊し、水溶性低分子量物質へと変性せしめることを見出した。また、その結果として、吸水性ポリマーの分解物を水溶液とすることができることを見出した。
さらに、本発明者らは、特許文献5に記載の通り、吸水性ポリマーの分解剤として過硫酸塩(例えば、KPS)を用いた場合、吸水性ポリマーの分解の進行とともに、pHの低下が起こり、一旦分解、溶解したポリマーが再結合、すなわち、ゲル化(三次元ポリマー化)することを明らかにした。そして、特許文献5において、アルカリ化合物と過硫酸塩を含む分解剤を用いれば、ゲル化を生ずることのない中性領域において、吸水性ポリマーの分解が可能となることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2002-519363号公報
【特許文献2】特表2008-507399号公報
【特許文献3】米国特許出願公開 2015/0305343 A1
【特許文献4】特開2001-316519号公報
【特許文献5】特開2003-321574号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】環境感染誌、30巻、391-398(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、より安価で汎用性の高い酸化剤によって効率的に、最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞を滅菌すると共に、吸水性ポリマーを分解することのできる分解及び滅菌用水性組成物、並びにこれを用いた分解及び滅菌処理方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、本発明者は、感染性微生物を効率良く滅菌できる分解剤について、鋭意、研究を重ねた結果、酸化剤である過硫酸塩化合物を分解剤として含む水溶液が、従来の化学薬品に比べ、滅菌性能に優れているばかりか、100℃以下の温和な条件下で効率良く、安全な環境下で使用でき、滅菌処理及び洗浄処理後に感染性微生物の分解物及び分解剤が固体表面に残留することがなく、紙おむつの成分であるパルプ繊維を効率的に回収することができることを見出し、このような知見に基づいてこの本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物であって、
過硫酸塩化合物とアルカリ化合物とを含むことを特徴とする吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
[2]過硫酸塩化合物が、水溶性である、[1]に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
[3]過硫酸塩化合物が、ペルオキソ二硫酸塩である、[1]又は[2]に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用組成物。
[4]吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物の濃度が0.01重量%以上飽和濃度以下である、「1」~[3]のいずれかに記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
[5]吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物のpHが、1~10の範囲である、[1]~[4]のいずれかに記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
[6]吸水性ポリマーを含む処理対象物を[1]~[5]のいずれかに記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物に浸漬する工程、及び前記処理対象物の浸漬した吸水性ポリマーの分解及び滅菌水性組成物を加熱することで、吸水性ポリマーを水溶性低分子量物質に分解すると共に、感染性微生物を滅菌する分解・滅菌反応工程を含む、吸水性ポリマーの分解及び滅菌処理方法。
[7]処理対象物が、紙おむつである、[6]に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌処理方法。
[8]さらに、濾別工程、洗浄工程及び回収工程を含み、紙おむつからパルプ繊維を回収することを特徴とする、[6]又は[7]に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌処理方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物、並びにこれを用いた分解及び滅菌処理方法によれば、より安価で汎用性の高い酸化剤によって効率的に、吸水性ポリマーを水溶性低分子量物質に分解すると共に、最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞を滅菌することができる。
さらに、本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物、並びにこれを用いた分解及び滅菌処理処理方法によれば、使用済み紙おむつ中の一般細菌を分解除去し、紙おむつの成分であるパルプ繊維を効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】使用済み紙おむつの分解・滅菌処理装置を模式的に示した概略図である。
【
図2】使用済み紙おむつからのパルプ繊維の回収装置を模式的に示した概略図である。
【
図3】(a)は、使用済み紙おむつの分解及び滅菌処理方法の浸漬工程及び分解・滅菌反応工程における本発明の分解及び滅菌用水性組成物中の使用済み紙おむつを示した写真である。(b)は、(a)の使用済み紙おむつと本発明の分解及び滅菌用水性組成物とを70~80℃で、60分間反応後、濾別工程と洗浄工程を複数回繰り返した後のパルプ繊維の懸濁液を示した写真である。
【
図4】実施例19で使用済み紙おむつから回収したパルプ繊維のSEM像を示した写真である。撮影倍率は100倍である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物、並びにこれを用いた分解及び滅菌処理方法の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物による滅菌に供される感染性微生物は、最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞であるが、感染症法において対象となっている1類~5類の感染性微生物のすべてが対象として例示される。
【0023】
本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物は、酸化剤である過硫酸塩化合物とアルカリ化合物とを含む。
過硫酸塩化合物は、特に限定されることはなく、過硫酸カリウム(ぺルオキソ二硫酸カリウム、KPS)、過硫酸ナトリウム(ぺルオキソ二硫酸ナトリウム)、過硫酸アンモニウム(ぺルオキソ二硫酸アンモニウム)などが水溶性の酸化剤として好ましく用いられる。
アルカリ化合物としては、水溶性であって、その水溶液中で一価の陽イオンと一価あるいは二価の陰イオンに解離してアルカリ性を示すものが好適に用いられる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ炭酸水素塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウムなどのアルカリ金属酢酸塩、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウムなどのアルカリ金属シュウ酸塩、コハク酸一ナトリウムなどのアルカリ金属コハク酸塩、グリシン、アラニン、グルタミン酸などのアミノ酸のアルカリ金属塩、アンモニアが好ましい。中でも、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0024】
また、吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物のpHは1~10の範囲であれば特に限定されるものではない。
【0025】
吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物(酸化剤)の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%以上、飽和濃度以下であるのが好ましく、過硫酸カリウム(KPS)では、0.01~8重量%、過硫酸ナトリウムでは、1~30重量%、過硫酸アンモニウムでは、3~50重量%であることがより好ましい。
吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物中のアルカリ化合物の濃度は、特に限定されないが、例えば、0重量%以上8重量%以下が好ましい。
さらに、分解及び滅菌用水性組成物の温度は、常圧下において、60℃~100℃の範囲であることが好ましい。
【0026】
本発明の分解及び滅菌処理方法は、吸水性ポリマーを含む処理対象物を上述した吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物に浸漬する工程、及び前記処理対象物の浸漬した吸水性ポリマーの分解及び滅菌水性組成物を加熱することで、吸水性ポリマーを水溶性低分子量物質に分解すると共に、感染性微生物を滅菌する分解・滅菌反応工程を含む。
本発明の分解及び滅菌処理方法は、処理対象物として使用済み紙おむつを用い、さらに濾別工程、洗浄工程及び回収工程を含むことで、使用済み紙おむつからパルプ繊維を回収することを含む。
【0027】
また、処理対象物としては、吸水性ポリマーを含むものであれば特に限定されず、例えば、使用済み紙おむつ等の衛生用品各種成形物・製品などを例示することができる。特に、処理対象物が吸水性ポリマーを含む使用済紙おむつである場合、おむつ中の一般細菌を分解除去し、紙おむつの成分であるパルプ繊維を効率的に回収することができる。
【0028】
また、本発明の分解及び滅菌処理方法では、吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物中での分解及び滅菌処理を、静置状態で行うこともでき、適宜、撹拌あるいは超音波照射の手段とともに行うことができる。
【0029】
吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物中で、処理対象物を処理する時間(感染性微生物を分解(滅菌)する時間(分解時間))としては、酸化剤の濃度、水性組成物の組成、温度により適宜選択することができ、特に限定されないが、通常、15分~3時間であるのが好ましく、30分~2時間であるのがより好ましく、40分~1時間であるのがさらに好ましい。
【0030】
以下に、本発明の分解及び滅菌処理方法において、吸水性ポリマーを含む処理対象物が使用済み紙おむつである形態について説明する。
【0031】
一般社団法人日本衛生材料工業連合会資料によれば、紙おむつの生産数量は増加し続けており、2017年の生産数量は78億枚を超えた。その内訳は、パンツタイプが16億枚(20%)、フラットタイプが1.2億枚(1.6%)、パッド類が61.1億枚(78%)であった。使用済み紙おむつは、現在、一般廃棄物として焼却又は埋め立て処理されているが、その廃棄量は年々増加し続けており、廃棄量削減のための方策が求められている。
例えば、1個約35gの紙おむつが、約150gの尿を吸収した場合、使用済み紙おむつの重量は約185gとなり、使用前と比較して重量が大きく増加する。そのため、使用済み紙おむつを焼却処理する際には、吸収した尿の水分を蒸発させることが課題となっている。
【0032】
市販の紙おむつを構成する材料として最も多く使用されているのは、水溶性ポリマーが三次元架橋した構造を有する吸水性ポリマーである。吸水性ポリマーは、水分を吸収して膨潤はしても水中に完全に溶解することはないという特徴を具備している。このような吸水性ポリマーとして、例えば、架橋ポリアクリル酸ナトリウムを例示することができる。架橋ポリアクリル酸ナトリウムは、水中でナトリウムがナトリウムイオン(1価のプラスイオン)となって解離し、多量の水中に拡散する結果、ポリアクリル酸の側鎖が全てカルボキシルイオン(1価のマイナスイオン)となる。そして、化学式(1)に示したように、側鎖のカルボキシルイオンが互いに反発し、吸水性ポリマーは乾燥状態の数百倍(例えば250倍)にまで水を吸収して膨潤する。次式のnはポリアクリル酸の重合度である。
【化1】
【0033】
しかしながら、ポリアクリル酸の主鎖に沿って、重合度と同じ数(数万個以上)の側鎖のカルボキシルイオンが互いにイオン反発しない状態を作れば、数百倍にも膨潤したポリアクリル酸を数百分の1に体積収縮させることができる。そのような状態を作り出し、膨潤した吸水性ポリマーを収縮させることができる試薬としては、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩が知られている。例えば、架橋ポリアクリル酸ナトリウムの側鎖のカルボキシルイオンは、塩化カルシウム(CaCl
2)との反応によって側鎖同士のイオン反発が消失し、顕著に体積収縮する。体積収縮したポリアクリル酸は、化学式(2)のような非解離のポリアクリル酸カルシウム(部分構造)が無数に集合した、不溶性沈殿となる。
【化2】
したがって、水の添加によって膨潤し、ゲル化した吸水性ポリマーの体積は、アルカリ土類金属塩などの添加によって、膨潤状態の数百分の1にもなるため、その膨潤ゲル組織は消失したように見えるが、吸水性ポリマーは、アルカリ土類金属によってポリマー鎖が切断、分解されることはない。言い換えると、吸水性ポリマーゲルは減容化されるに過ぎない。
【0034】
そこで、これまでに、吸水性ポリマーを減容化するのではなく、分解する方法が様々に検討されている(例えば、特許第3378204号及び特許第6061875号)。
特許第3378204号では、塩化カルシウムをポリマー分解剤として用い、吸水性ポリマーをモノマーに分解してから紙おむつに含まれるパルプ繊維を分離回収する方法が提案されているが、前述の通り、化学的には、吸水性ポリマーの減容化した沈殿物が混在したパルプ繊維であって、パルプ繊維のみの分離回収は不可能である。
特許第6061875号では、使用済み紙おむつを有機酸存在下、オゾン水で前処理し、次亜塩素酸ナトリウム等を含む水溶液で処理し、脱水してパルプ繊維を回収する方法が提案されているが、この技術も他の紙おむつ成分のみならず、吸水性ポリマー中に汚物が含まれたままのパルプ繊維の回収に他ならない。
【0035】
このような背景から、単に、吸水性ポリマーを効率的に分解するだけではなく、使用済み紙おむつに含まれる汚物をも効率的に分解するとともに、紙おむつの基材の一つであるパルプ繊維を劣化させることなく回収することが望まれている。
【0036】
さらに、介護老人福祉施設等から廃棄される使用済み紙おむつは、一般廃棄物として処理される。ところが、医療機関から廃棄される使用済み紙おむつは、一般廃棄物と感染性廃棄物とに分別しそれぞれ別々の処理が必要である。このため、医療機関にとって、使用済み紙おむつの分別処理は煩雑であり処理費用の負担も大きい。使用済み紙おむつを一括して感染性廃棄物の処理基準に沿って、低コストで、安全で、簡便な滅菌処理ができれば、医療施設においても、パルプ繊維の回収をして資源化が図れるというメリットは大きい。
【0037】
本発明の分解及び滅菌処理方法において、処理対象物が使用済み紙おむつである場合、使用済み紙おむつ全体を本発明の分解及び滅菌用水性組成物中に浸漬し、使用済み紙おむつ中の吸水性ポリマーを分解して水溶性とし、同時に、一般細菌を含む汚物も分解して水溶性とすること、さらに、滅菌抵抗性の強い細菌芽胞等の感染性微生物を滅菌することができる。また、分解処理後の使用済み紙おむつを水洗し、水に不溶性の紙おむつ基材をパルプ繊維とカバー材とに濾別、回収し、さらにカバー材とパルプ繊維との混合物から、上質なパルプ繊維(
図4参照)を回収することができる。
使用済み紙おむつには汚物が含まれているが、汚物は主にヒトの糞尿であるため、水溶性であり、使用済み紙おむつの分解処理後の反応液をろ過し、多量の水による洗浄を繰り返すことにより系内に広がって分散するパルプ繊維から除去することができるため、劣化しない状態の上質なパルプ繊維を回収することが可能となる。
さらに、紙おむつの製造工程において、かなりの量で発生する不良品に含まれるパルプ繊維の回収にも、本発明の技術は適用可能である。
【0038】
使用済み紙おむつの滅菌及び分解処理方法は、以下の工程(1)及び(2)を含むことができる。具体的には、以下の工程:
(1)アルカリ化合物の少なくとも1種と、酸化剤である過硫酸塩化合物の少なくとも1種を含む吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物中に、前記使用済み紙おむつを浸漬する浸漬工程;
(2)前記浸漬工程において前記使用済み紙おむつを浸漬した前記吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物を加熱して、前記使用済み紙おむつ中の吸水性ポリマーを水溶性低分子量物質に分解するとともに、汚物あるいは、さらに感染性微生物を滅菌(分解)する分解・滅菌反応工程、
を含んでいる。
【0039】
紙おむつ類は、特に限定されることはなく、例えば、乳幼児用の紙おむつ、成人用の紙おむつ、吸水性ポリマーを含むマット類などが例示される。また、女性用の生理用品などの衛生製品についても適用可能である。
【0040】
このような紙おむつに用いられる吸水性ポリマーは、紙おむつなどの衛生製品に一般的に使用されている高分子の吸水性ポリマーであれば、その種類や組成について特に限定されることはない。例えば、アクリル酸塩架橋重合体、イソブチレンーマレイン酸塩架橋重合体、アクリル酸エステルー酢酸ビニル共重合体のけん化物架橋体、デンプンーアクリル酸グラフト共重合体等の親水性のビニルポリマーを構造中に含むものなどが例示される。なかでも、アクリル酸塩架橋重合体、イソブチレンーマレイン酸塩架橋重合体が本発明の分解処理方法の好適な対象として例示される。
【0041】
本発明の分解及び滅菌用水性組成物の成分として、アルカリ化合物を添加することにより、過硫酸塩化合物から生じた硫酸イオンを該アルカリ化合物によって中和している。中和反応の結果、前記硫酸イオンは、例えば、硫酸ナトリウムや硫酸カリウムなどの硫酸塩となるので、分解反応終了後の水溶液は、中性ないし弱アルカリ性を呈し、上記の再ゲル化反応が起こらなくなる。また、分解反応終了後の水溶液が中性ないし弱アルカリ性を呈する状態において、反応廃液は比較的安全であり、下水道へと排出しても問題がない。また、吸水性ポリマーの分解生成物である水溶性の低分子量化合物、例えば、ポリアクリル酸は、鉱業、織物、化粧品、製紙業、石油採掘、農業用地の改質、水の浄化等に広く利用されているポリマーであるので、環境汚染のおそれもほとんどないと考えられる。
【0042】
なお、本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物を使用済み紙おむつ処理に用いる場合、該水性組成物を希釈して用いてもよく、溶解する水としては、蒸留水、天然水、浄化した水道水のいずれであってもよく、なかでも、水質、利便性、経済性の面から浄化した水道水を用いるのが最も好ましい。
【0043】
本発明による使用済み紙おむつの分解及び滅菌処理方法では、使用済み紙おむつ中の吸水性ポリマーに吸水された尿の重量(水分量あるいは含水量)が、該吸水性ポリマーの最大吸水倍率より少ないことが好ましく考慮される。使用済み紙おむつ中の尿の水分量(含水量)の範囲は、具体的には、吸水性ポリマーの重量に対して、重量比で0~250倍であるのが好ましく、0~100倍であるのがより好ましく、0~50倍であるのがさらに好ましい。
【0044】
このように、使用済み紙おむつを本発明の分解及び滅菌用水性組成物に浸漬することにより、紙おむつ中の吸水性ポリマーを膨潤させるとともに、分解及び滅菌用水性組成物中に前記汚物を溶解分散させることができ、後述の分解・滅菌反応工程における分解及び滅菌処理速度を向上させることができる。
なお、本発明の使用済み紙おむつの分解及び滅菌処理方法では、浸漬工程の前又は後に、使用済み紙おむつを引き裂き又は切断によって破砕し、使用済み紙おむつの内部から、膨潤状態の前記吸水性ポリマー及び汚物等を前記水性組成物中に排出、分散させることが好ましく考慮される。
このように、使用済み紙おむつを破砕することにより、吸水性ポリマーの分解処理反応の効率を向上させることができ、後述の吸水性ポリマーの分解反応時間及び感染性微生物の滅菌時間の短縮も期待できる。
【0045】
工程(2)は、浸漬工程において前記使用済み紙おむつを浸漬した吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物を加熱して、使用済み紙おむつ中の吸水性ポリマーを水溶性低分子量物質に分解し、さらなる反応によって、より低分子量化させるとともに、汚物及び感染性微生物を分解・滅菌する分解・滅菌反応工程である。
【0046】
前述のとおり、分解及び滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物は、加熱することにより熱分解して、2分子のラジカルを生じる。
分解及び滅菌用水性組成物の加熱温度としては、常圧下で、例えば、一般細菌の滅菌に対しては、60℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、細菌芽胞の滅菌に対しては、70℃以上100℃以下の温度範囲であることが好ましい。加熱温度が上記範囲内であれば、初期に過硫酸塩化合物由来のラジカルが生じ、吸水性ポリマーの酸化分解反応が進行する。 なお、過硫酸カリウム(KPS)に対するアルカリ化合物のモル比が約2以下の場合、分解反応過程において、pHが低下する傾向がある。この場合、ろ過、水洗後の溶液をアルカリ化合物又はその水溶液を添加して中和することが好ましい。なお、この操作は、回収されるパルプ繊維の品質ならびに感染性微生物の滅菌に影響を与えない。
また、上記の各温度範囲で、15分から30分程度、より好ましくは30分から60分程度反応させることにより、吸水性ポリマーの分解はもちろん、細菌芽胞を含む感染性微生物の99.99%以上、すなわち、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(前出)に記載の滅菌処理の指標である菌数が10-4以下を達成することができる。
【0047】
また、使用済み紙おむつは汚物、すなわち糞尿成分を含むため、水溶液は、分解反応中、糞尿特有の悪臭と褐色を呈する。しかしながら、例えば1~2時間程度分解反応を継続することで、当初の悪臭が消失し、悪臭とは異なる弱い臭気に変化する。もちろん、反応時間は、汚物の量に応じて適宜変更することが考慮される。
【0048】
このような汚物を含む使用済み紙おむつの処理方法によって、紙おむつ中の吸水性ポリマーは、ほぼ完全に分解しており、水溶性低分子量物質へと変化する。
【0049】
さらに、前記工程(1)(2)に続いて、少なくとも以下の工程(3)から(5)を含むことができる。
すなわち、
(3)前記分解・滅菌反応工程において得られた分解反応後の懸濁液を、固形状の前記紙おむつ基材と、それ以外の、液状の前記分解及び滅菌用水性組成物、前記水溶性低分子量物質及び汚物分解物とに濾別する濾別工程;
(4)前記濾別工程において得られた前記紙おむつ基材を水洗し、ろ過することにより、該紙おむつ基材から前記水溶性低分子量物質を除去する洗浄工程;
(5)前記洗浄工程で得られた洗浄後の紙おむつ基材を水中に懸濁させて前記パルプ繊維とカバー材との懸濁液とし、これを前記カバー材と前記パルプ繊維とに分別し、該パルプ繊維のみを回収する回収工程、
とを含むことができる。
【0050】
工程(3)は、分解・滅菌反応工程において得られた分解反応後の懸濁液を、固形状の紙おむつ基材と、それ以外の、液状の分解及び滅菌用水性組成物、水溶性低分子量物質及び汚物分解物とに濾別する濾別工程である。
分解反応後の懸濁液には、上記のとおり、固形状の紙おむつ基材と、それ以外の液状の分解及び滅菌用水性組成物、水溶性低分子量物質及び汚物分解物とが混在している。これら固形状の成分と液状の成分とは、金属フィルター又はガラスフィルターを用いて、濾別することが好ましく考慮される。衛生面と強度面とを考慮すると、特に、金属フィルターを用いることが好ましく、耐薬品性の観点からステンレスフィルターを用いることがさらに好ましい。
また、フィルターの目の粗さは、例えば、10~60メッシュであることが好ましく、30~50メッシュであることがより好ましい。フィルターの目の粗さが上記範囲内であれば、固形状の紙おむつ基材を確実に捕集することが可能である。
紙おむつ基材のうち、走査型電子顕微鏡(SEM)観察によるパルプ繊維は、微細で、硬く、長いリボン状の繊維であって、水中ではその1本1本の繊維が疎に分散する。そのため、上記範囲の幾分目の粗いフィルターで、濾別することにより、パルプ繊維を含んだ紙おむつ基材を効率よく回収することができる。
【0051】
工程(4)は、濾別工程において得られた紙おむつ基材を水洗し、濾過することにより、該紙おむつ基材から前記水溶性低分子量物質を除去する洗浄工程である。
すなわち、吸水性ポリマーの分解生成物である水溶性低分子量物質は、そのほとんどが反応液中に溶解しており、濾別工程において排除される。
また、濾別工程にて捕集した濾液は、洗浄工程において複数回の洗浄により無色透明になり、一方、紙おむつ基材及びパルプ繊維は、本発明の分解及び滅菌用水性組成物の効果によって全く着色しない。
パルプ繊維の回収を目的とする洗浄工程において使用する水については、蒸留水、天然水、浄化した水道水のいずれであってもよく、なかでも、水質、利便性、経済性の面から浄化した水道水を用いるのが最も好ましい。
もちろん、上記のとおりの洗浄工程と同様の水による紙おむつ基材の洗浄は、濾別工程と同時に行ってもよい。
【0052】
工程(5)は、洗浄工程で得られた洗浄後の紙おむつ基材を水中に懸濁させてパルプ繊維とカバー材の懸濁液とし、これをカバー材とパルプ繊維とに分別し、該パルプ繊維のみを回収する回収工程である。
紙おむつ基材は、前述のとおり、パルプ繊維とカバー材を含んでおり、カバー材については、表面材、外装材、防水材などが含まれる。これらのカバー材を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリオレフィン・ポリエステル不織布、ポリオレフィンフィルム、スチレン系エラストマー結合材などの合成高分子フィルム(以下、フィルム類)が例示される。これらのフィルム類は、いずれも水に不溶であるため、前記吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物では分解することができない。
また、パルプ繊維の主成分であるセルロースは、化学的酸化反応に対して強い抵抗性を有するため、前記フィルム材と同様に、前記吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物によって分解されることはなく、劣化することもない。
そして、市販の多くの紙おむつのカバー材を構成するポリオレフィンなどのフィルム類、不織布は、密度が1より小さく、分解反応中及び分解後は、吸水性ポリマーの分解に伴って発生する気泡の影響を受けて、ほとんどは水(水道水)の表面(上層)に浮き上がるが、分解後のパルプ繊維は、全て水中に沈降する。従って、カバー類とパルプ繊維とは、浮沈法及び、又は濾過により容易かつ完全に分別回収することができる。
また、カバー類とパルプ繊維との分別回収には、濾別工程と同様に、10~60メッシュ程度の金属フィルター又はガラスフィルターなどのフィルターを用いることも考慮される。
このようにして得られた沈殿物は、ほぼ全量がパルプ繊維のみとなる。
前述のように、パルプ繊維は微細で硬くリボン状の繊維であるが、水中において、多くのパルプ繊維は互いに絡み合い、広がって存在する。パルプ繊維の重量の100倍以上の水中にパルプ繊維を分散し、洗浄し、静置することにより、高純度のパルプ繊維を回収することができる。
【0053】
以上のとおりの使用済み紙おむつの分解処理方法及び使用済み紙おむつからのパルプ繊維の回収方法については、専用の設備装置を設けなくても実施可能であるが、以下に示す分解処理装置及び回収装置を用いることが好ましい。
【0054】
図1は、使用済み紙おむつの分解・滅菌処理装置を模式的に示した概略図である。また、
図2は、本発明の使用済み紙おむつからのパルプ繊維の回収装置を模式的に示した概略図である。
使用済み紙おむつの分解・滅菌処理装置としては、本発明の分解及び滅菌用水性組成物を貯留し、該溶液中に紙おむつ基材、吸水性ポリマー及び汚物を含む使用済み紙おむつを浸漬するための浸漬部と、使用済み紙おむつと分解及び滅菌用水性組成物とを加熱し、吸水性ポリマーの分解反応と感染性微生物の滅菌を行うための分解・滅菌反応部と、を備えることを特徴とする。
【0055】
浸漬部及び分解・滅菌反応部は、本発明の分解及び滅菌用水性組成物によって化学的に劣化することがない材質でできている。該装置の素材又はコーティング材として、ステンレス鋼、パイレックスガラス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、ポリプロピレンなどが挙げられ、中でもステンレス鋼がより好ましく、さらにSUS304ステンレス鋼が最も好ましい。この処理装置では、浸漬部と分解・滅菌反応部とがそれぞれ独立していてもよいし、浸漬工程と分解・滅菌反応工程とを連続的に行うことができるように、浸漬部が加熱可能とされており分解・滅菌反応部として利用できる構造となっていてもよい。
【0056】
使用済み紙おむつからのパルプ繊維の回収装置は、分解・滅菌処理装置を用いて分解及び、滅菌処理した分解・滅菌反応後の懸濁液を、固形状の前記紙おむつ基材と、それ以外の、液状の分解及び滅菌用水性組成物、前記水溶性低分子量物質及び汚物分解物とに濾別する濾別部と、濾別した前記紙おむつ基材を水洗し、濾過することにより、該紙おむつ基材から前記水溶性低分子量物質を除去するための洗浄部と、洗浄後の紙おむつ基材を水中に懸濁させて前記パルプ繊維とカバー材の懸濁液とし、これを前記カバー材と前記パルプ繊維とに分別し、該パルプ繊維のみを回収する回収部と、を備えている。
また、分解・滅菌処理装置と回収装置とがそれぞれ独立していてもよいし、分解・滅菌処理とパルプ繊維の回収処理とを連続的に行うことができるように構成されていてもよい。
【0057】
なお、本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物、並びに分解及び滅菌処理方法は、以上の実施形態に限定されるものではない。
【実施例0058】
以下、本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物、並びに分解及び滅菌処理方法について、実施例と共に説明するが、本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物、並びに分解及び滅菌処理方法は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
(滅菌試験方法)
感染性微生物の生物指標として、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」に細菌芽胞と同等あるいはそれ以上の抵抗性を示す生物指標として認められているGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とBacillus atrophaeus (ATCC 9372)に対する滅菌試験を、下記の通り実施した。
使用培地として、(1)Tryptic Soy Agar(Difico、以下「TSA」と記載)及び(2)SCDLPブイヨン培地を用い、培地の試薬として塩化ナトリウム(和光純薬工業製、以下、「0.85%溶液を生理食塩液」と記載)を用いた。
試験菌として、Geobacillus stearothermophilus ATCC7953(CROSSTEX社製芽胞液、Lot. AR579、約109CFU/mL、蒸気滅菌指標芽胞菌)又は、Bacillus atrophaeus ATCC 9372(NAMSA社製芽胞液、Lot. N35105、約109CFU/mL、又は、CROSSTEX社製芽胞液、Lot. BT324、約109CFU/mL、乾熱滅菌指標細菌)を用い、これらの芽胞液原液を試験に供した。
試験溶液の調製方法として、ガラス製容器に所定量の滅菌蒸留水を分取し、これに分解及び滅菌用水性組成物を溶解した。
殺菌効力試験は、前記試験溶液を調製後、該試験溶液を加温し、試験温度±2℃以内に保持し、試験菌液0.1mLを添加、混合し、所定時間作用させた。所定時間経過後の混合液 1 mLを、有効性を確認した不活性化剤SCDLP9mLに加えて、試験菌に対する殺菌作用を停止させ、これを菌数測定用試料液とした。対照は、試験溶液の代わりに生理食塩液を用い、同様に作用させた。
菌数測定は、菌数測定用試料液を原液として、生理食塩液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液及び希釈液の各 1 mLをシャーレに移し、TSA約20mLと混合後、固化させて、Bacillus atrophaeusは36±2℃で、Geobacillus stearothermophilusは52±2℃で、48時間培養した。培養後の発育集落を数えて、試料溶液 1 mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:10 CFU)。
菌数対数減少値の算出は、試験菌の接種菌数と試験溶液の菌数から、下記式を用いて菌数対数減少値(=LRV:log reduction value)及び減少率を算出した。なお、LRVは、小数点以下1桁(小数点以下2桁目を切り捨てた)で表記した。
ここで、LRV値が6以上であれば、本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物によって、試料溶液中の菌数が100万分の1以下に減少したこと、すなわち、本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物が優れた滅菌性能を有することを意味する。
【0060】
(細菌芽胞水溶液の滅菌試験)
(実施例1)
パイレックスガラス容器(ビーカー)中で、過硫酸カリウム(KPS)0.2モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.1モル/L、すなわち、モル比1/0.5で分解及び滅菌用水性組成物を調製し、95±2℃に加温した分解及び滅菌用水性組成物9mLに、Bacillus atrophaeus (ATCC 9372)菌液0.1mLを混合し、これを試験溶液(pH約8)とした。接種菌数は、2.2x107CFU/試験溶液1mLであり、これを上記温度で60分間静置し、分解剤を作用させた。その後、不活性化剤の有効性を確認したSCDLP培地9mLに試験溶液1mLを添加混合し、試験溶液の効力を停止させ、菌数を測定した。
滅菌試験後の菌数は、10個以下となり、LRV(菌数対数減少値)= log (接種菌数/試験後の溶液の菌数)は、6.4より大きい値が得られた。これは、細菌芽胞が約250万分の1以下に減少したことを示す数値である。この値は、無菌性保証レベルである滅菌の接種菌数が10-6(100万分の1)以下に減少したことを意味する。従って、該分解及び滅菌用水性組成物は、100℃より低い95℃において、細菌芽胞等の滅菌抵抗性の強い生物指標の1つであるBacillus atrophaeus (ATCC 9372)に対して、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
また、SUS304製ステンレス容器、及びポリプロピレン製容器中で、上記と同じ滅菌試験を行ったが、同様の滅菌性能が得られた。
【0061】
(実施例2)
分解及び滅菌用水性組成物として、過硫酸カリウム0.2モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.2モル/L(モル比1/1)を用いた以外は、実施例1と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後にLRV > 6.4が得られ、該分解及び滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0062】
(実施例3)
分解及び滅菌用水性組成物の温度を90℃とした以外は、実施例1と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該処理剤水溶液は、90℃においても高い滅菌性能を有することが明らかになり、実施例1より低温で細菌芽胞の滅菌が可能であることがわかった。
【0063】
(実施例4)
分解及び滅菌用水性組成物の温度を90℃とした以外は、実施例2と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該分解及び滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0064】
(実施例5)
分解及び滅菌用水性組成物の温度を85℃とした以外は、実施例1と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該分解及び滅菌用水性組成物は、実施例1より10℃低い85℃において、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0065】
(実施例6)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、実施例1と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られた。この値は、無菌性保証レベルである滅菌の接種菌数が10-6(100万分の1)以下に減少したことを意味する。従って、本発明の分解及び滅菌用水性組成物は、Geobacillus stearothermophilusに対しても高い滅菌性能を有することが明らかになった。また、該分解及び滅菌用水性組成物も、この条件下で中性を示した。
【0066】
(実施例7)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、実施例2と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該分解及び滅菌用水性組成物は、実施例2と同様、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0067】
(実施例8)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、実施例3と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該分解及び滅菌用水性組成物は高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0068】
(実施例9)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、実施例5と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV>6.2が得られた。従って、該分解及び滅菌用水性組成物は、85℃において高い滅菌性能を有することを示している。
【0069】
(実施例10)
分解及び滅菌用水性組成物として、過硫酸カリウム0.1モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.05モル/L(モル比2/1)を用いた以外は、実施例8と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、分解剤濃度を1/2としても、滅菌試験後にLRV > 6.2が得られ、該分解及び滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0070】
(実施例11)
反応時間を20分とした以外は、実施例8と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、反応時間を1/3に短縮しても、滅菌試験後にLRV > 6.2が得られ、該分解及び滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0071】
(実施例12)
反応時間を20分とした以外は、実施例9と同条件(反応温度を85℃とした以外は実施例11と同条件)下で、滅菌試験を実施した。その結果、実施例1~10よりも温和な条件下において、滅菌試験後にLRV = 6.2が得られ、該分解及び滅菌用水性組成物は、十分優れた滅菌性能を有することが明らかになった。
【0072】
(比較例1)
分解剤として過硫酸カリウム0.2モル/Lのみからなる水溶液を用いた以外は、実施例2及び3と同条件(温度95℃、反応時間60分)下で、Bacillus atrophaeusに対する滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。なお、本比較例では、分解試験開始時から、水溶液は強酸性(pH約1)を示し、取り扱いに注意を要する。
【0073】
(比較例2)
分解温度を90℃とした以外は、比較例1と同様の条件下で滅菌試験を実施した。その結果は、比較例1と同様であって、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0074】
(比較例3)
分解温度を85℃とした以外は、比較例1と同様の条件下で滅菌試験を実施した。その結果は、比較例1と同様であって、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0075】
(比較例4)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、比較例1と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV>6.2が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0076】
(比較例5)
分解温度を90℃とした以外は、比較例4と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV>6.2が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0077】
(比較例6)
分解温度を85℃とした以外は、比較例4と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV>6.2が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0078】
(比較例7)
分解剤として過硫酸カリウム濃度を0.1モル/Lとした以外は、比較例5と同条件(温度90℃、反応時間60分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0079】
(比較例8)
分解剤として過硫酸カリウム濃度を0.05モル/Lとした以外は、比較例7と同条件(温度90℃、反応時間60分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0080】
(比較例9)
反応時間を20分とした以外は、比較例5と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、反応時間を1/3に短縮しても、滅菌試験後にLRV > 6.2が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0081】
(比較例10)
反応温度を85℃とした以外は、比較例9と同条件(反応時間60分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV = 6.2が得られ、該水溶液は、優れた滅菌性能を有することが明らかになった。
【0082】
(比較例11)
分解剤として過硫酸カリウム濃度を0.1モル/Lとした以外は、比較例9と同条件(温度90℃、反応時間20分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0083】
(比較例12)
分解剤として過硫酸カリウム濃度を0.05モル/Lとした以外は、比較例11と同条件(温度90℃、反応時間20分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV = 6.1が得られ、該水溶液は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0084】
(比較例13)
分解剤として過硫酸カリウム濃度0.1モル/Lのみからなる分解剤水溶液中、70℃、60分間、Bacillus atrophaeusに対する滅菌試験を実施した。その結果、無菌性保証レベルまでには達しなかったが、LRV = 5、すなわち、細菌芽胞数が10万分の1まで死滅することがわかった。この値は、前出の国際規格によれば、滅菌の要求性能を満たしている。また、より長時間、反応を続ければLRVが6に達する可能性が推測される。
【0085】
(実施例13)
過硫酸カリウム0.2モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.2モル/Lからなる分解及び滅菌用水性組成物中、85℃、60分間、Bacillus atrophaeusに対する滅菌試験を実施した。その結果、無菌性保証レベルまでには達しなかったが、LRV = 5が得られ、高い滅菌効果が得られることがわかった。この値は、前出の国際規格によれば、滅菌の要求性能を満たしている。より長時間、反応を続ければLRVが6に達する可能性が推測される。なお、これと同組成の分解及び滅菌用水性組成物は、実施例4に示した通り、90℃において、60分間でLRV > 6.4が得られた。
【0086】
(実施例14)
過硫酸カリウム0.1モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.05モル/Lからなる分解及び滅菌用水性組成物中、90℃、20分間、Bacillus atrophaeusに対する滅菌試験を実施した。その結果、無菌性保証レベルまでには達しなかったが、LRV = 5.9が得られ、実施例10と同様、ある程度の滅菌効果が得られることがわかった。この値は、前出の国際規格によれば、滅菌の要求性能を満たしている。この場合は、反応時間30分で、LRVが6に達する可能性が推測される。
【0087】
実施例1~14及び比較例1~13の結果を表1に示す。
【表1】
以上の結果から、本発明の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物は、常圧下、100℃以下で、しかも、酸化エチレンやグルタルアルデヒドのような健康被害を生じる気体の発生及び残留の危険性がなく、さらには、高温・高圧下での被滅菌物質の劣化も大幅に低減できる優れた滅菌剤であることが明らかになった。
【0088】
(模擬使用済み紙おむつ中の細菌芽胞の滅菌試験)
実施例1~14及び比較例1~13に記載のとおり、吸水性ポリマーを含まない水溶液中の細菌芽胞は、100℃以下の温度で、過硫酸カリウムと炭酸水素ナトリウムの混合物、又は過硫酸カリウムのみを含む酸化剤水溶液によって、LRV>5が得られたことから、すなわち高い滅菌性能が明らかになった。
本出願の発明者は、前記の通り、一旦分解した時点でのポリマー分子同士が、該水溶液のpHの低下に伴う凝集によって、分解反応よりも架橋反応が優先することを見出した(特許文献5)。従って、使用済み紙おむつ中の細菌芽胞を滅菌する上で、本発明の分解及び滅菌用水性組成物の温度が約60~80℃であって、pHが中性領域であれば、吸水性ポリマー分子は水溶液中に十分分散するとともに、再ゲル化することなく更に低分子量化すると考えられる。この仮説に基づいて鋭意研究を進めた結果、本発明の分解及び滅菌用水性組成物を用いることにより、吸水性ポリマーを分子を低分子量化すると共に、細菌芽胞の滅菌が可能となることを見出したものである。
【0089】
前出の「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(参考9(3))により、使用済み紙おむつに含まれる汚物の滅菌試験は、生物指標担体の完全性を維持できない処理方式に相当するので、感染性廃棄物の不活化効力の確認は「対照試験」及び「本試験」の2つの試験によって行う必要がある。
紙おむつはカバー類(外皮プラスチックフィルム+内面不織布)、パルプ繊維及び吸水性ポリマー(ポリアクリル酸ナトリウムなどの水溶性ポリマーの三次元架橋物)から構成される。従って、カバー類及びパルプ繊維は負荷物質として、分解及び滅菌用水性組成物を含まない対照試験に供することが可能であるが、大きさ約1μmの細菌芽胞は、吸水性ポリマー中に取り込まれるため、対照試験では、吸水性ポリマーに代わる負荷物質として非架橋物である水溶性ポリアクリル酸ナトリウム(分子量2,100)を用い、分解及び滅菌用水性組成物中での本試験では、未使用紙おむつから単離した吸水性ポリマーを用いた。
下記の実施例15において、対照試験は、蒸留水中、カバー類、パルプ繊維及び水溶性ポリアクリル酸ナトリウム(Sigma-Aldrich社製、分子量2,100)を負荷物質とし、本試験では、過硫酸カリウムと炭酸水素ナトリウムの水溶液中、カバー類、パルプ繊維、吸水性ポリマーを負荷物質として用いた。
なお、本試験は、60~80℃の分解及び滅菌用水性組成物中、pHが中性領域で吸水性ポリマーを分解し、その後、昇温(80℃~100℃以下)し、細菌芽胞の滅菌試験を実施した。対照試験では、これに対応する試験を実施し、前出の滅菌試験に準じて試験後の菌数を測定した。以下に、実施例を示す。
【0090】
(実施例15)
まず、対照試験として、Bacillus atrophaeus ATCC9372(CROSSTEX社製芽胞液、約109CFU/mL)の1.6x107CFU/mLを、室温で生理食塩液30mLに、負荷物質として未使用の大王製紙製の紙パンツ男子用GOON(L)より単離したカバー類(外皮プラスチックフィルム+内面不織布)の細片0.2g、パルプ繊維0.2g及び、前記水溶性ポリアクリル酸ナトリウム0.2gを投入し、固体のカバー類の細片とパルプ繊維が分散したポリアクリル酸ナトリウムの生理食塩液を調製した。
上記の負荷物質の分散生理食塩液を75℃で、撹拌しながら20分間作用させ、次いで、約6分間で85℃に昇温後、同温度で60分間撹拌した。その後、分散水溶液の全液をフィルター付き滅菌袋に移し、ろ液(試験液)を別容器に捕集した。ろ液の1mLを予め9mLの不活化剤SCDLPを入れた遠心管に移し、これを菌数測定用試料液とし、前述と同様に菌数測定を行った。
その結果、菌数は4.4x106CFU/mLであった。これより、菌数対数減少値LRV(前出)=0.5が得られた。すなわち、分解及び滅菌用水性組成物を含まない対照試験においては、加熱による滅菌効果は得られないことが明らかとなった。
次に、Bacillus atrophaeusATCC9372(CROSSTEX社製芽胞液、約109CFU/mL)の1.6x107CFU/mLを、75℃で蒸留水30mLに過硫酸カリウム1.62g(0.2mol/L)と炭酸水素ナトリウム0.252g(0.1mol/L)を溶解した本発明の分解及び滅菌用水性組成物の水溶液を調製し、負荷物質として未使用の大王製紙製の紙パンツ男子用GOON(L)より単離したカバー類(外皮プラスチックフィルム+内面不織布)の細片0.2g、パルプ繊維と吸水性ポリマーの等量混合物0.4gを投入した。同温度で混合液を撹拌しながら20分間作用させた。液中、吸水性ポリマーは膨潤ゲル状態を呈したが、反応時間約15分で、吸水性ポリマーが分解し、液は、見掛け上、対照試験と同様の状態を呈した。
反応時間20分経過後、対照試験と同様に混合液を85℃まで昇温し、同温度にて60分間撹拌した。この間、分解した吸水性ポリマーは再ゲル化することはなかった。その後、前記対照試験と同様に反応液をろ過し、菌数測定した。その結果、85℃、60分間作用後の菌数は、定量下限値10CFU/mL以下、すなわち、LRV>6.2が得られ、細菌芽胞が100万分の1以下まで滅菌されたことが明らかになった。
【0091】
(実施例16)
対照試験及び本試験において、細菌芽胞としてGeobacillus stearothermophilus ATCC7953(CROSSTEX社製芽胞液、約109CFU/mL)の1.9x107CFU/mLを用いた以外は、それぞれ実施例15の対照試験及び本試験と同様に滅菌試験を実施した。
その結果、対照試験後の菌数は、5.9x106CFU/mL、すなわち、LRV=0.5で、Bacillus atrophaeusと同様、滅菌効果は得られなかった。
一方、本試験後の菌数は、2.0x102CFU/mL、すなわち、LRV=4.9が得られた。この値は、本試験での滅菌処理によって細菌芽胞が約10-5、すなわち、99.999%減少したことを示しており、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(参考9)によれば、感染性を失わせる有効な滅菌処理であることを証明する値となっている。
【0092】
(実施例17)
Bacillus atrophaeusの対照試験及び本試験において、75℃、20分間の作用に続いて、90℃、60分間作用させた以外は、それぞれ実施例15の対照試験及び本試験と同様に滅菌試験を実施した。
その結果、対照試験後の菌数は、1.5x106CFU/mL、すなわち、LRV=1.3で、Bacillus atrophaeusの滅菌効果は得られなかった。
一方、本試験後の菌数は、定量下限値10CFU/mL以下、すなわち、LRV>6.2が得られ、細菌芽胞が100万分の1以下まで滅菌されたことが明らかになった。
【0093】
(実施例18)
Geobacillus stearothermophilusの対照試験及び本試験において、75℃、20分間作用に続いて、90℃、60分間作用させた以外は、それぞれ実施例17の対照試験及び本試験と同様に滅菌試験を実施した。
その結果、対照試験後の菌数は、8.5x106CFU/mL、すなわち、LRV=0.3で、85℃の場合と同様、滅菌効果は得られなかった。
一方、本試験後の菌数は、定量下限値10CFU/mL以下、すなわち、LRV>6.2が得られ、細菌芽胞が100万分の1以下まで滅菌されたことが明らかになった。
【0094】
上記の模擬使用済み紙おむつ中の細菌芽胞の滅菌試験の結果を表2に示す。
【表2】
以上の結果から、過硫酸塩化合物の1種とアルカリ化合物の1種とを含む本発明の分解及び滅菌用水性組成物中に、細菌芽胞を含む模擬使用済み紙おむつを浸漬し、所定の適切な温度と時間で吸水性ポリマー及び細菌芽胞を加熱することで、細胞芽胞を100万分の1以下まで滅菌できることが明らかになり、「消毒と滅菌のガイドライン」及び「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」に記載されている滅菌レベルを達成できることが立証された。
【0095】
さらに、実際の汚物を含む使用済み紙おむつの滅菌のみならず、該使用済み紙おむつからのパルプ繊維の単離方法に関する例を以下に述べる。
【0096】
(分解及び滅菌用水性組成物による使用済み紙おむつの分解、滅菌及びパルプ繊維の回収)
本発明の使用済み紙おむつの分解・滅菌処理によるパルプ繊維の回収方法は、少なくとも以下の工程(1)及び(2)を含むことを特徴とする、紙おむつ基材、吸水性ポリマー及び汚物あるいは感染性微生物を含む使用済み紙おむつの分解・滅菌処理によるパルプ繊維の回収方法である。
(1)アルカリ化合物の少なくとも1種と、酸化剤である過硫酸塩化合物の少なくとも1種を含む吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物中に、使用済み紙おむつを浸漬する浸漬工程;
(2)前記浸漬工程において前記使用済み紙おむつを浸漬した前記吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物を加熱して、前記使用済み紙おむつ中の吸水性ポリマーを水溶性低分子量物質に分解するとともに、汚物あるいは、さらに滅菌抵抗性の強い細菌芽胞等の感染性微生物を1万分の1(10-4)以下に分解・滅菌する分解・滅菌反応工程。
【0097】
本発明の使用済み紙おむつの処理方法では、分解・滅菌処理装置内において、前記浸漬工程の前又は後に、前記使用済み紙おむつを引き裂き又は切断によって破砕し、該使用済み紙おむつの内部から、膨潤状態の前記吸水性ポリマー及び汚物を前記分解及び滅菌用水性組成物中に排出、分散させることが好ましく考慮される。
また、本発明の使用済み紙おむつの処理方法では、前記紙おむつ基材が、パルプ繊維とカバー材を含んでいることが好ましく考慮される。
【0098】
さらに、本発明の使用済み紙おむつからのパルプ繊維の回収方法は、前記工程(1)、(2)に続いて、以下の工程(3)から(5)を含むことを特徴とする使用済み紙おむつからのパルプ繊維の回収方法である。
(3)前記分解・滅菌反応工程において得られた分解・滅菌反応後の懸濁液を、固形状の前記紙おむつ基材(固体成分)と、それ以外の、前記分解及び滅菌用水性組成物、前記水溶性低分子量物質、汚物分解物、及び前記感染性微生物が滅菌された状態の液相成分とに濾別する濾別工程;
(4)前記濾別工程において得られた前記紙おむつ基材を水洗し、濾過することにより、該紙おむつ基材から前記水溶性低分子量物質等の液相成分を除去する洗浄工程;
(5)前記洗浄工程で得られた洗浄後の紙おむつ基材を水中に懸濁させて前記パルプ繊維とカバー材の懸濁液とし、これを前記カバー材と前記パルプ繊維とに分別し、該パルプ繊維のみを回収する回収工程。
本発明の使用済み紙おむつからのパルプ繊維の回収方法では、前記回収工程において、浮沈法及び、又はフィルターにより前記パルプ繊維とカバー材とに分別し、前記パルプ繊維を回収することが好ましく考慮される。
本発明によれば、紙おむつの基材の一つであるパルプ繊維を劣化させることなく回収することを提供することができる。
【0099】
(試験例1:吸水性ポリマーの分解反応の条件検討)
分解及び滅菌用水性組成物が紙おむつに浸透し、同紙おむつ中のすべての吸水性ポリマーを分解する条件を調べるために、一例として、大王製紙製エリエール紙パンツ男の子用GOON(L)1個(重量約34g)を解体し、吸水性ポリマー粒子の全量(約10g)を捕集した。捕集した吸水性ポリマー粒子の内、0.113gをpH7の水道水50g(吸水性ポリマーの442倍量)に投入した。この溶液は、調製直後、使用済み紙おむつ投入後の反応開始時、さらに、反応終了時においてもほぼ一定の約pH8であった。膨潤平衡に達した後、ADVANTEC製定量用ろ紙No.3上で膨潤した吸水性ポリマー(膨潤ゲル)をろ過した。ろ液がろ紙から落ちなくなった時点で、膨潤ゲルの重量を測定した結果、最大膨潤倍率は約250倍と求まった。従って、前記紙パンツ中の吸水性ポリマーの全量(約10g)の最大膨潤水量は、約2.5kgとなる。
この結果に基づき、未使用大王製紙製の紙パンツ男の子用GOON(L)の分解処理を実施した。まず、該紙パンツ1個(乾燥重量32.12g)を外カバー(乾燥重量6.05g)と不織布製中カバーに解体した。なお、吸水部である中カバーにはパルプ繊維(セルロース繊維)と吸水性ポリマーが充填されており、中カバー全体の乾燥重量は、26.07gであった。これに尿の代替として約200gの水道水を吸水させ、中カバー全体の重量は226.35gとなった。
過硫酸カリウム21.017gと炭酸水素ナトリウム12.974g(過硫酸カリウムに対するモル比で1.97倍)を水道水700gに80℃で溶解し、これに水道水約200gを予め吸水させた前記中カバー全体を解体せずに浸漬し、液全体を75℃で撹拌した。反応開始後、中カバーは全体が吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物の吸水によって膨潤し、反応の進行とともに、中カバーから吸水性ポリマーの膨潤ゲルが分解及び滅菌用水性組成物中に放出され、吸水性ポリマーの分解が進んだ。反応中、溶液はほぼ中性(pH8)であった。反応開始後40分以内で、粘稠なゲルは完全に消失し、反応液には、固形物として中カバーの外皮である不織布とパルプのみが残り、分解反応は完了した。
すなわち、吸水性ポリマーの最大膨潤倍率より少ない尿を吸水した使用済み紙おむつであれば、該分解及び滅菌用水性組成物によって、使用済み紙おむつ中の吸水性ポリマーを分解できることが確認された。
【0100】
(試験例2:分解反応液系からのパルプ繊維の回収試験)
試験例1で得られた分解反応後の分解液を40メッシュのステンレスフィルターで濾過し、濾別物を大過剰の水道水中に分散、撹拌、洗浄を複数回行い、その過程で、カバー材、特に中カバーの外皮を分別しながら、微細な分散物であるパルプ繊維を捕集した。
この紙おむつの処理方法によって、中カバーの外皮の乾燥重量は6.06g(総カバー材として12.11g:紙おむつ全体の37.7%)、回収したパルプ繊維の乾燥重量は9.94g(紙おむつ全体の30.9%)と算出された。従って、酸化分解によって低分子量化し、水溶性ポリマーとして消失した吸水性ポリマーの重量は10.07g(紙おむつ全体の31.4%)と算出された。
【0101】
(試験例3:未使用紙パンツ中の吸水性ポリマーの分解反応試験及びパルプ繊維の回収試験)
未使用の大王製紙製の紙パンツ男の子用GOON(L)1個を破砕せず、また反応前の吸水処理も行わなかった以外は、試験例1と同様の条件下で紙おむつの分解処理を行い、試験例2と同様の条件でパルプ繊維の単離、回収等を行った。その結果、分解処理後の総カバー類及び回収パルプの乾燥重量はいずれも試験例2と同等の値であり、また、分解によって低分子量化し、水溶性ポリマーとして消失した吸水性ポリマーの重量は試験例1と同等の値であった。
【0102】
(試験例4:大人用尿とりパッド中の吸水性ポリマーの分解反応試験及びパルプ繊維の回収試験)
カバー(不織布と低密度ポリオレフィン)と吸水部(パルプと吸水性ポリマー)の2層構造の紙おむつである大王製紙製の未使用アテント尿とりパッド男性用(排尿量150mLx3回分用:乾燥総重量31.09g)を、試験例1と同様の条件下で紙おむつの分解処理を行い、試験例2と同様の条件でパルプ繊維の単離、回収等を行った。吸水性ポリマーは40分以内で、完全に消失した。回収されたカバーの乾燥重量は6.79g(パッド全体の21.8%)、回収されたパルプの乾燥重量は14.76g(パッド全体の47.5%)、分解によって消失した吸水性ポリマーの重量は9.53g(パッド全体の30.7%)と算出された。
【0103】
(試験例5:より穏和な条件での吸水性ポリマーの分解反応試験及びパルプ繊維の回収試験)
分解剤(過硫酸カリウム及び炭酸水素ナトリウム)量を1/2とし、分解反応工程における加熱温度を70℃とした以外は、試験例3と同じ条件下で、紙おむつGOON(L)の分解処理を行った。その結果、反応時間50分で吸水性ポリマーは完全に分解し、水溶性ポリマーとして消失した。回収されたカバー類の乾燥重量、回収されたパルプの乾燥重量、及び分解消失した吸水性ポリマーの計算量は、いずれも試験例1及び試験例2に記載の値に極めて近い値であった。
【0104】
(試験例6:大人用パンツ型紙おむつの吸水性ポリマーの分解反応試験及びパルプ繊維の回収試験)
花王製のパンツ型紙おむつリリーフ(男女共用M~L)1個(乾燥全重量46.35g)を、分解剤(過硫酸カリウム30.145gと炭酸水素ナトリウム18.525g)の水溶液1kg中に浸漬し、75℃で紙おむつの分解処理を行った。
その結果、試験例1~5の場合と同様、吸水性ポリマーは、分解及び滅菌用水性組成物の水溶液を吸収し、膨潤ゲル化を経て、分解しながら低分子量化し、水溶性ポリマーとなって消失し、分解反応は30分で完了した。
その後、ろ過、洗浄、カバー類とパルプ繊維の分別を複数回行うことによって、試験例2~5と同様、純粋なパルプ繊維を回収することができた。
【0105】
(汚物を含む紙おむつの分解)
(実施例19)
ドラフトチャンバー内において、健康な成人の排便(汚物主成分:糞)約1.2gと大王製紙製の紙パンツ男の子用GOON(L)の吸水部(パルプ繊維と吸水性ポリマーを含んでいる)2gを、本発明の分解及び滅菌用水性組成物(過硫酸カリウム2.10g、炭酸水素ナトリウム1.30g)の水溶液(水道水)70g中で混合し、80℃で吸水性ポリマー及び汚物の分解処理を行った。
この混合物の反応溶液は、反応初期には汚物特有の臭気が感じられたが、吸水性ポリマーが完全分解した後の反応時間40分において、初期の悪臭は大幅に消失した。また、反応液は
図3(a)に示したように、終始褐色を呈した。
反応終了後、反応液を40メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、水道水中での洗浄を複数回行ったところ、反応液中の褐色成分はすべて濾液中に移行し、濾過物は、乾燥後白色のパルプ繊維のみとなった。得られたパルプ繊維を水中に分散させた懸濁液を
図3(b)に示す。また、最終の濾液は、無色無臭であった。回収されたパルプ繊維は、乾燥状態で白色の微細繊維の集合体で、その乾燥重量は約1.0gであった。従って、分解によって消失した吸水性ポリマーは約1.0gと算出された。この結果から、本発明の分解及び滅菌用水性組成物を用いることにより、使用済み紙おむつの分解処理及び高純度パルプの回収が確認された。
続いて、使用済み紙おむつから回収したパルプ繊維のSEM像を撮影した。撮影に用いた装置は、エリオニクス製ERA-8900であり、撮影時の加速電圧は10kVである。
図4に示したように、回収したパルプ繊維には凝集がなく、吸水性ポリマーの分解物の沈着によるパルプ繊維同士の粘着も認められなかった。また、高倍率のSEM像から、リボン状のパルプ繊維の表面には、汚物の残留はなく、パルプ繊維の表面の汚染は認められなかった。従って、上質なパルプ繊維を回収できたことが分かった。
【0106】
(実施例20)
あらかじめ、未使用の大王製紙製の紙パンツ男の子用GOON(L)1個を大きさ3~10cmに切断、解体したこと以外は、実施例19と同様に、ドラフトチャンバー内において汚物約18gを含む使用済み紙おむつの分解処理を行った。反応時間約40分で吸水性ポリマーは完全に分解した。
続いて、反応液を10~20メッシュのステンレス製フィルターで濾過し、大量の水道水で洗浄する操作を複数回繰り返し、浮沈法によりカバー材の小片を分別することができた。パルプ繊維を含む懸濁液を40メッシュのステンレス製フィルターで繰り返し濾過、洗浄することにより、吸水性ポリマーの分解物である水溶性低分子量物質は、パルプ繊維から水中へと排除され、完全に濾液(pH7)として除去することができた。これらの回収操作により、純粋なパルプを回収することができた。
【0107】
(実施例21)
分解及び滅菌用水性組成物の水溶液を1/2に希釈したこと以外は、実施例19と同様にして、ドラフトチャンバー内において汚物を含む使用済み紙おむつの分解処理を行った。反応時間約100分で吸水性ポリマーは完全に分解した。
続いて、実施例19と同様にして、パルプ繊維の回収を行った。その結果、純粋なパルプを回収することができた。
【0108】
(実施例22)
分解反応工程における加熱温度、すなわち分解及び滅菌用水性組成物の水溶液の液温を70℃に保ったこと以外は、実施例19と同様にして、ドラフトチャンバー内において汚物を含む使用済み紙おむつの分解処理を行った。反応時間約120分で吸水性ポリマーは完全に分解した。
続いて、実施例19と同様にして、パルプ繊維の回収を行った。その結果、純粋なパルプを回収することができた。
【0109】
(実施例23)
健康な成人の排便(汚物主成分:糞)を実施例19における5倍量である約6gに変更したこと以外は、実施例19と同様にして、ドラフトチャンバー内において汚物を含む使用済み紙おむつの分解処理を行った。反応時間約90分で吸水性ポリマーは完全に分解した。
続いて、実施例19と同様にして、パルプ繊維の回収を行った。その結果、純粋なパルプを回収することができた。
【0110】
(実施例24)
紙おむつとして花王製のパンツ型紙おむつリリーフ(男女共用M~L)の吸水部(パルプ繊維と吸水性ポリマーを含んでいる)2gを用いたこと以外は、実施例19と同様にして、ドラフトチャンバー内において汚物を含む使用済み紙おむつの分解処理を行った。反応時間約40分で吸水性ポリマーは完全に分解した。
続いて、実施例19と同様にして、パルプ繊維の回収を行った。その結果、純粋なパルプを回収することができた。
【0111】
(比較例14)
過硫酸カリウム21.0gのみを水道水700gに80℃で溶解し、これに水道水約100gを予め吸水させた未使用大王製紙製の紙パンツ男の子用GOON(L)の紙パンツ1個(乾燥重量32.2g)全体を解体せずに浸漬し、液全体を75℃で撹拌した。反応開始後3分で吸水性ポリマーの膨潤とともに分解による液相の粘性は低下した。しかし、初期の液相のpHは約4であり、反応開始直後、吸水性ポリマーはいったん膨潤し、部分的に分解したかに見えたが、反応開始後約7分(pH3~4)で、膨潤した吸水性ポリマーを含む液相がゲル化した。その結果、吸水性ポリマーを水溶性ポリマーとして除去できず、紙おむつをカバー材とパルプ繊維の分離のみならず、パルプ繊維の回収もできなかった。
さらに、前記のゲル化した前記反応液(75℃)に、炭酸水素ナトリウム10gを投入し、液相をpH8としたところ、ゲル化した吸水性ポリマーの一部は低分子量物質に分解して液相に溶解した。しかし、過硫酸カリウムによって高度に架橋したと考えられる他のゲル部分は分解しなかった。従って、過硫酸カリウムのみの水溶液中での使用済み紙おむつの分解処理によってパルプを回収することは困難であることが明らかになった。
【0112】
(試験結果についての考察)
実施例19~24及び試験例1~6の結果から、安価で強力な酸化剤である過硫酸塩化合物と炭酸水素ナトリウムのようなアルカリを含む本発明の分解及び滅菌用水性組成物の水溶液を反応液として用いることにより、パンツ型、パッド型などの紙おむつの形状や種類を問わず、紙おむつに含まれる吸水性ポリマーを分解処理可能であることが確認できた。また、未使用の紙おむつ、使用済み紙おむつの区別なく、紙おむつに含まれる吸水性ポリマーを分解処理可能であることが確認できた。
また、実施例19~24の結果から、汚物を含む使用済み紙おむつについて、破砕等の前処理の有無を問わず、紙おむつ全体重量のわずか数十倍量の分解及び滅菌用水性組成物に浸漬、撹拌するだけで、比較的穏和な温度下で吸水性ポリマーを分解処理可能である事が確認できた。さらに試験例1~6の結果から、紙おむつの形状や種類を問わず、紙おむつに含まれる吸水性ポリマーを分解処理可能であることが確認できた。
また、実施例19~24の結果から、吸水性ポリマーが低分子量化し、水溶性低分子量物質となった使用済み紙おむつを含む反応液を、濾過し、水洗によって水溶性低分子量物質を除去し、紙おむつのカバー材とパルプ繊維を分離させることで、高純度のパルプ繊維を回収できることが確認できた。
前述のように、本発明の分解及び滅菌用水性組成物分解剤が、使用済み紙おむつの分解剤として優れた効果を有することが明らかになった。
【0113】
(試験例7)
まず、100℃以下での未使用紙おむつの分解試験を行った。大王製紙製尿取りパッド1個(アテント、未乾燥重量:33.511g)を解体せず、過硫酸カリウム(0.1モル/L)と炭酸水素ナトリウム(0.2モル/L)の混合物水溶液(1L)中、70℃で分解試験を行った。約20分後に、吸水性ポリマーが分解した。分解反応開始から40分後に、液温を90℃に昇温し、60分間保持した。溶液はpH7であった。また、吸水性ポリマーは分解後、ゲル化は生じなかった。分解反応中ゲルが生じなかったのは、pHが中性であったため、反応初期に分解したポリマー(ポリアクリル酸ナトリウム)の凝集が阻害されたためと考えられる。
したがって、分解及び滅菌用水性組成物の組成として、過硫酸カリウム0.1モル/炭酸水素ナトリウム0.2モルの組成であっても、吸水性ポリマーが分解され、ゲル化が生じないことが確認された。
【0114】
(実施例25)
未使用の大王製紙製の紙パンツ男の子用GOON(L)1個(未乾燥重量38.032g)を解体せず、過硫酸カリウム(0.2モル/L)と炭酸水素ナトリウム(0.1モル/L)の混合物水溶液(1L)中、70℃で分解試験を行った。約15分後に吸水性ポリマーのほとんどが分解し、水溶性ポリアクリル酸になった。この時点での溶液はpH7~8であった。細菌芽胞の分解(滅菌)試験と同条件の90℃に昇温し、60分間、反応を行った。この間、溶液は約30分間はpH7であったが、その後、徐々に酸性に変化した。この場合、溶液は、pHが低下してもポリアクリル酸ゲルの発生は起こらなかった。これは、反応初期にゲルが消失した後も、ポリマーの分解が進行し、非常に低分子量物質となり、もはや高分子量物質に見られた分子間結合によるゲルを生成できなかったと考えられる。
なお、この条件下では、前述の模擬使用済み紙おむつの滅菌試験結果の通り、2種類の細菌芽胞の単独での滅菌試験において、いずれも菌数は10-6以下、すなわちLRV>6.2であった。したがって、本発明の分解及び滅菌用水性組成物を用いることにより、吸水性ポリマーが分解すると共に滅菌されることが明らかになった。
この実施例からも、本発明の分解及び滅菌用水性組成物は、人の健康や環境を害する気体の発生がなく、大気圧下、100℃以下において優れた滅菌性能を有することが立証され、従来の滅菌方法と比較して、安全性、利便性、滅菌容器、滅菌対照製品等の選択性の豊富さなどにおいて非常に優れていることが明らかになった。
吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物の濃度が0.01重量%以上飽和濃度以下である、請求項1に記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物。
吸水性ポリマーを含む処理対象物を請求項1~5のいずれかに記載の吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物に浸漬する工程、及び前記処理対象物の浸漬した吸水性ポリマーの分解及び滅菌用水性組成物を加熱することで、吸水性ポリマーを水溶性低分子量物質に分解すると共に、感染性微生物を滅菌する分解・滅菌工程を含む、吸水性ポリマーの分解及び滅菌処理方法。