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特開2024-170034感染性微生物の滅菌用水性組成物、及びこれを用いた滅菌処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170034
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】感染性微生物の滅菌用水性組成物、及びこれを用いた滅菌処理方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/02 20060101AFI20241129BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20241129BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241129BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20241129BHJP
   A23L 3/3535 20060101ALI20241129BHJP
   A61L 101/14 20060101ALN20241129BHJP
【FI】
A01N59/02 Z
A61L2/18 ZAB
A01P3/00
A01N59/00 A
A23L3/3535
A61L101:14
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086953
(22)【出願日】2023-05-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
(71)【出願人】
【識別番号】598140386
【氏名又は名称】日本アサヒ機工販売株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】小島 哲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和興
(72)【発明者】
【氏名】菊島 千幸
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 志郎
【テーマコード(参考)】
4B021
4C058
4H011
【Fターム(参考)】
4B021LA41
4B021MC01
4B021MK24
4B021MP02
4C058AA12
4C058AA21
4C058BB07
4C058JJ07
4H011AA02
4H011AA05
4H011BB18
4H011BC18
4H011DA13
(57)【要約】
【課題】より安価で汎用性の高い酸化剤によって効率的に、最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞を滅菌することのできる新しい感染性微生物の滅菌用水性組成物、及びそれを用いた滅菌処理方法を提供すること。
【解決手段】感染性微生物を滅菌するための滅菌用水性組成物であって、酸化剤である過硫酸塩化合物を分解剤として含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染性微生物を滅菌するための滅菌用水性組成物であって、過硫酸塩化合物を含むことを特徴とする滅菌用水性組成物。
【請求項2】
過硫酸塩化合物が、水溶性である、請求項1に記載の滅菌用水性組成物。
【請求項3】
過硫酸塩化合物が、ペルオキソ二硫酸塩である、請求項1に記載の滅菌用水性組成物。
【請求項4】
滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物の濃度が、0.01重量%以上飽和濃度以下である、請求項1に記載の滅菌用水性組成物。
【請求項5】
さらに、アルカリ化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の滅菌用水性組成物。
【請求項6】
滅菌用水性組成物のpHが、1~10の範囲である、請求項1に記載の滅菌用水性組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の滅菌用水性組成物を用いて、感染性微生物を含む処理対象物を滅菌処理する工程を含む、感染性微生物の滅菌処理方法。
【請求項8】
感染性微生物が、
水中に分散した状態、
吸水性ポリマーゲル中に分散した状態、又は
固体表面に付着・吸着した状態
である、請求項7に記載の滅菌処理方法。
【請求項9】
処理対象物が、医療用具又は医療機器である、請求項7に記載の滅菌処理方法。
【請求項10】
処理対象物が、医療用防護服である、請求項9に記載の滅菌処理方法。
【請求項11】
処理対象物が、紙オムツである、請求項7に記載の滅菌処理方法。
【請求項12】
処理対象物が、食品である、請求項7に記載の滅菌処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性微生物の滅菌用水性組成物、及びこれを用いた滅菌処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「消毒と滅菌のガイドライン」((監修/厚生省保健医療局結核感染症課、編集/小林寛伊、へるす出版、2000)には、感染症新法において対象となっている感染症の消毒法及び感染性の不活化、並びに汚染物(器具、患者環境、リネン類等)の消毒・滅菌方法が詳細に記載されている。同書には、消毒・滅菌方法と記載されているが、同書の内容からは、必ずしも細菌が完全に死滅することを意味する滅菌ではなく、細菌が害を及ぼさない程度まで不活化した、むしろ殺菌という範囲の不活化として理解した方が妥当と言える。また、同書には、独立の章として、「滅菌法」が記載されている。それによれば、「滅菌の概念は、確率的なものであり、あらかじめ設定された無菌性保証レベル(Sterility assurance level: SAL)に達した状態を維持してはじめて滅菌が完了する」、「無菌性保証レベルとして10-6レベルが採用されている」、とある。これは、滅菌を行って、1個の微生物が生き残る確率が100万回に1回であることを意味する。
これらのことは現在でも踏襲されており、「無菌性保証レベル」として10-6 が採用されている(「消毒と滅菌のガイドライン」改訂第4版(2020年版)大久保憲他、へるす出版)。
【0003】
「医療現場における滅菌保証のガイドライン2015」(日本医療機器学会)によれば、関連国際規格の指針として、指標菌のGeobacillus stearothermophilus(後述の細菌芽胞)に対して1x10CFU以上(菌数が10万分の1以下)となる要求性能が示されている。
また、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(平成30年3月、環境省環境再生・資源循環局)により特別管理廃棄物に指定されている、感染性廃棄物(人が感染し、又は感染するおそれのある病原体が含まれ、若しくは付着している廃棄物又はこれらのおそれのある廃棄物)について、その適正な処理を確保するために必要で、かつ、具体的な手順等については、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、並びに同法施行令において、具体的な解説が記載されている。
同マニュアルの資料(参考9)「感染性廃棄物の処理において有効であることの確認方法について」では、最も滅菌抵抗性を有する生物指標として、(1)Bacillus stearothermophilus(ATCC 7953)及び(2)Bacillus subtilis var. niger(ATCC 9372)が挙げられている。これらのBacillus属細菌芽胞に加えて、Clostridium属細菌(破傷風菌・ガス壊炭疽群)及び炭疽菌(Bacillus anthracis)の芽胞は、上記(1)及び(2)と同等の滅菌抵抗を持つが、安全性を考慮して、(1)及び(2)を使用して不活化(無菌性保証レベル10-6以下)の確認を行うことが望ましいとしている。
【0004】
前記「消毒と滅菌のガイドライン」及び「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」には、無菌性保証レベル10-6を達成する滅菌法として、1)加熱法(115~129℃での高圧蒸気法、160~190℃での乾熱法)、2)ガス法(酸化エチレンガス滅菌法、過酸化水素ガスプラズマ滅菌法)、3)照射法(γ線照射法、電子線照射法)、及びその他の方法が、滅菌抵抗性を有する細菌芽胞の滅菌法として広く行われている旨記載されている。
しかしながら、加熱法では、オートクレーブ装置が必須であり、経済的であるが、高温及び高圧下での処理条件という制約がある。酸化エチレンを用いるガス法では、低温で滅菌ができるため、加熱による材質の変化がないが、滅菌時間が長く、並びに処理後のガスの残留及び作業者の健康被害を減ずる方法が行われている。
【0005】
実際、「臨床検査技師のための病院感染対策の実践ガイド」(社団法人日本臨床衛生検査技師会、2005年)には、臨床検査室は、多くの病原体が運び込まれる危険性があることや、生理学的検査や採血では直接患者さんと接することなどが記載されている。このガイドには記載はないが、一例として、グルタルアルデヒドの被爆に関する大阪地裁判決(平成18年12月25日)が挙げられる。
なお、「医療機関におけるグルタルアルデヒドによる労働者の健康被害防止について」(2005年、厚生労働省)が、(社)日本病院会会長ならびに同会会員に通達された。その参考1には、平成11年~16年の期間に国内医療機関で発生したグルタルアルデヒドによる8件の労働災害事例が記載されている。さらに、同通達の参考3には、内視鏡等の医療器具等の殺菌消毒剤として、グルタルアルデヒドの代替となる殺菌消毒剤としてのフタラール製剤及び過酢酸による各種健康障害が挙げられている。
【0006】
このような背景の下、多種多様な医療機器・器具のほか、患者環境及び分泌物・排泄物などの消毒、滅菌についても、様々な方法が実施されているが、いずれの方法も必ずしも満足のいくものではなく、常圧、100℃以下で、しかも、酸化エチレンガスやグルタルアルデヒドなどを用いない滅菌法の開発が望まれている。
【0007】
特許文献1には、アパタイト鉱質形成に関連するナノバクテリアの種々の消毒薬混合物として、蒸留水中の50%過硫酸カリウムと5%スルファミン酸との1%混合物が記載されている。しかしながら、特許文献1には、該ナノバクテリアを根絶する効果的な方法としては、まず、第1段としてエチレンジアミンテトラ酢酸でアパタイト(鉱質)を溶解し、第2段として、過酸化合物、界面活性剤、有機酸及び無機緩衝系からなる市販品が好適であると記載されている。従って、この特許文献1には前記過硫酸カリウムとスルファミン酸との混合物による滅菌方法についての具体的な記述はない。そして、この特許文献1に記載の技術では、Bacillus stearothermophilusを死滅させることができなかった。
【0008】
なお、過硫酸カリウムには、ペルオキソ一硫酸水素カリウム(K0-S02-0-0H、別名:過硫酸水素カリウム)ペルオキソ二硫酸カリウム(KS、略称KPS)の2種類がある。前者は、強い酸化剤であるが水溶液中で不安定であるため、これを主成分として環境除菌・洗浄剤等に使用される。後者は、約60℃の水溶液や有機溶媒中で2分子に分解して活性なラジカルとなり、重合開始剤として用いられ、両者とも過硫酸カリウムと呼ぶことは多いが、化学的性質は大きく異なる。
【0009】
非特許文献1には、ペルオキソ一硫酸水素カリウム(過硫酸水素カリウム)を主成分とする環境除菌・洗浄剤(RST)の有効性について、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)などを対象とした懸濁試験で、1%RSTが作用時間1分で、4log10以上(無菌性保証レベル10-4)の殺菌効果を示したことが報告されている。なお、ペルオキソ一硫酸水素カリウムは含有成分の塩化ナトリウムを酸化し、その反応中に生じた次亜塩素酸(HClO)が強力な抗微生物作用を示す。
特許文献2には、イオウ含有オキシ酸(過硫酸水素カリウム、KPS等を含む酸化剤の混合物)、アルカリ金属炭酸塩、亜塩素酸塩等からなる活性酸素化合物と二酸化塩素を発生させる前駆体の水溶液によって、シアノバクテリア等の細菌、真菌類などの殺菌による常温での水浄化が報告されている。しかしながら、これらの文献に記載の方法は、いずれも細菌芽胞を無菌保証レベル10-6に達成できる滅菌方法ではない。
【0010】
以上述べた通り、過硫酸カリウム等の過酸化物を用いた殺菌あるいは滅菌法が報告されているが、いずれも、過酸化物を含む酸化剤水溶液中では、最も滅菌抵抗性を有する生物指標としての(1)Bacillus stearothermophilus(ATCC 7953)及び(2)Bacillus subtilis var. niger(ATCC 9372)の滅菌効果が得られていない。
【0011】
特許文献3には、少なくとも4log10程度の殺菌効果を示す処理方法として、第1段で過酢酸水溶液を、第2段で過酸化水素水溶液を用い、室温下、長時間をかけて殺菌し、細菌の胞子を殺菌する技術が記載されている。しかし、同文献には、過酸化剤として、ペルオキソ一硫酸及びペルオキソ二硫酸の名称は記載されているが、各々、ペルオキソ一硫酸水素カリウムや、ペルオキソ二硫酸カリウムを明記するものでもなく、また、実施例においても過硫酸塩化合物は全く記載されていない。さらに、Bacillus stearothermophilus、Bacillus subtilis等の細菌芽胞の名称は記載されているが、室温下、2段階での殺菌方法が紹介されているだけであって、前記ペルオキソ一硫酸及びペルオキソ二硫酸の水溶液が適切であるとの記載も全くない。従って、特許文献3に記載の技術は、KPS水溶液中、細菌芽胞を6log10以上(無菌性保証レベル10-6)の滅菌を開示するものではない。
【0012】
以上のように、本発明者らは、鋭意、国内外の特許文献を検索したが、60℃以上の温度の水溶液中で、KPSを熱分解して得られるラジカルによって細菌芽胞を完全滅菌する報告は見当たらなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2002-519363号公報
【特許文献2】特表2008-507399号公報
【特許文献3】米国特許出願公開 2015/0305343 A1
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】環境感染誌、30巻、391-398(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、より安価で汎用性の高い酸化剤によって効率的に、最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞を滅菌することのできる新しい感染性微生物の滅菌用水性組成物、及びこれを用いた滅菌処理方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、本発明者は、感染性微生物を効率良く滅菌できる分解剤について、鋭意、研究を重ねた結果、分解剤としての過硫酸塩化合物を含む水溶液が、従来の化学薬品に比べ、滅菌性能に優れているばかりか、100℃以下の温和な条件下で効率良く、安全な環境下で使用でき、滅菌処理及び洗浄処理後に感染性微生物の分解物及び分解剤が固体表面に残留することがないことを見出し、このような知見に基づいてこの本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]感染性微生物を滅菌するための滅菌用水性組成物であって、過硫酸塩化合物を含むことを特徴とする滅菌用水性組成物。
[2]過硫酸塩化合物が、水溶性である、[1]に記載の滅菌用水性組成物。
[3]過硫酸塩化合物が、ペルオキソ二硫酸塩である、[1]又は[2]に記載の滅菌用水性組成物。
[4]滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物の濃度が、0.01重量%以上飽和濃度以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の滅菌用水性組成物。
[5]さらに、アルカリ化合物を含むことを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の滅菌用水性組成物。
[6]滅菌用水性組成物のpHが、1~10の範囲である、[1]~[5]のいずれかに記載の滅菌用水性組成物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の滅菌用水性組成物を用いて、感染性微生物を含む処理対象物を滅菌処理する工程を含む、感染性微生物の滅菌処理方法。
[8]感染性微生物が、水中に分散した状態、吸水性ポリマーゲル中に分散した状態、又は固体表面に付着・吸着した状態である、[7]に記載の滅菌処理方法。
[9]処理対象物が、医療用具又は医療機器である、[7]に記載の滅菌処理方法。
[10]医療用具が、医療用防護服である、[9]に記載の滅菌処理方法。
[11]処理対象物が、紙おむつである、[7]に記載の滅菌処理方法。
[12]処理対象物が、食品である、[7]に記載の滅菌処理方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の感染性微生物の滅菌用水性組成物、及びこれを用いた滅菌処理方法によれば、より安価で汎用性の高い酸化剤によって効率的に、最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞を滅菌することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の感染性微生物の滅菌用水性組成物、及びこれを用いた滅菌処理方法の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本発明の滅菌用水性組成物による滅菌に供される感染性微生物は、最も高い耐滅菌性を有する細菌芽胞であるが、感染症法において対象となっている1類~5類の感染性微生物のすべてが対象として例示される。
【0021】
本発明の滅菌用水性組成物は、酸化剤である過硫酸塩化合物を含む。より好ましくは、本発明の滅菌用水性組成物は、さらにアルカリ化合物を含む。
過硫酸塩化合物は、特に限定されることはなく、過硫酸カリウム(ぺルオキソ二硫酸カリウム、KPS)、過硫酸ナトリウム(ぺルオキソ二硫酸ナトリウム)、過硫酸アンモニウム(ぺルオキソ二硫酸アンモニウム)などが水溶性の酸化剤として好ましく用いられる。
アルカリ化合物としては、水溶性であって、その水溶液中で一価の陽イオンと一価あるいは二価の陰イオンに解離してアルカリ性を示すものが好適に用いられる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ炭酸水素塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウムなどのアルカリ金属酢酸塩、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウムなどのアルカリ金属シュウ酸塩、コハク酸一ナトリウムなどのアルカリ金属コハク酸塩、グリシン、アラニン、グルタミン酸などのアミノ酸のアルカリ金属塩、アンモニアが好ましい。中でも、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウムを用いるのが好ましい。
【0022】
また、滅菌用水性組成物のpHは1~10の範囲であれば特に限定されるものではない。
【0023】
滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物(酸化剤)の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.01重量%以上、飽和濃度以下であるのが好ましく、過硫酸カリウム(KPS)では、0.01~8重量%、過硫酸ナトリウムでは、1~30重量%、過硫酸アンモニウムでは、3~50重量%であることがより好ましい。
滅菌用水性組成物中のアルカリ化合物の濃度は、特に限定されないが、例えば、0重量%以上8重量%以下が好ましい。
さらに、滅菌用水性組成物の温度は、常圧下において、60℃~100℃の範囲であることが好ましい。
【0024】
本発明の滅菌処理方法は、上述した滅菌用水性組成物を用いて、感染性微生物を含む処理対象物を滅菌処理する工程を含む。
【0025】
感染性微生物は、水中に分散した状態、吸水性ポリマーゲル中に分散した状態、又は固体表面に付着・吸着した状態であることが好ましい。
【0026】
本発明の滅菌処理方法に適用される処理対象物の材質としては、滅菌用水性組成物によって腐食されない固体材料であることが不可欠であり、例えば、SUS304、SUS316などのステンレス鋼、パイレックスガラス及びポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアセタール、ナイロン、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ-L-乳酸、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、一般的なメチルビニルシリコーンゴムなどに代表されるホモポリマー、共重合体、ブレンド物、不織布、CFRPに代表される繊維強化樹脂などの複合材料等の高分子材料を例示することができる。
【0027】
また、処理対象物は特に限定されず、例えば、使用済み紙おむつ等の衛生用品、医療用防護服、医療機器、繊維、フィルム、食品、各種成形物・製品・容器などを例示することができる。
なお、介護老人福祉施設等から廃棄される使用済み紙おむつは、一般廃棄物として処理される。ところが、医療機関から廃棄される使用済み紙おむつは、一般廃棄物と感染性廃棄物とに分別しそれぞれ別々の処理が必要である。このため、医療機関にとっては使用済み紙おむつの分別処理は煩雑であり処理費用の負担も大きい。本発明により、使用済み紙おむつを一括して感染性廃棄物の処理基準に沿って、低コストで、安全で、簡便な滅菌処理ができることで、医療施設においてもメリットは大きい。
【0028】
また、本滅菌処理方法では、滅菌用水性組成物中での処理対象物の滅菌処理を、静置状態で行うこともでき、適宜、撹拌あるいは超音波照射の手段とともに行うこともできる。
【0029】
本滅菌処理方法においては、本発明の滅菌用水性組成物中で、処理対象物を処理する時間(感染性微生物を分解(滅菌)する時間(分解時間))としては、酸化剤の濃度、水性組成物の組成、温度により適宜選択することができ、特に限定されないが、通常、15分~3時間であるのが好ましく、30分~2時間であるのがより好ましく、40分~1時間であるのがさらに好ましい。
【0030】
また、本滅菌処理方法においては、滅菌用水性組成物の加熱温度として、例えば、一般細菌の滅菌の場合は60℃以上100℃以下の範囲であることが好ましく、細菌芽胞の滅菌の場合は70℃以上100℃以下の温度範囲であることが好ましい。
【0031】
さらに、過硫酸カリウム(KPS)に対するアルカリ化合物のモル比が約2以下の場合、滅菌処理反応過程において、pHが低下する傾向にある。この場合アルカリ化合物をその水溶液に添加して中和することが好ましい。
【0032】
なお、処理対象物として使用済み紙おむつを用いる場合には、使用済み紙おむつは汚物、すなわち、糞尿成分を含むため、滅菌用水性組成物は、滅菌処理反応中、糞尿に由来する悪臭と褐色を呈する。しかしながら、例えば、1~2時間程度処理を継続することで、当初の悪臭は消失し、弱い臭気へと変化することから、処理時間は処理対象物により適宜変更することが可能である
【0033】
本発明の滅菌処理方法については、専用の設備装置を設けなくても実施可能であるが、以下に、使用済み紙おむつを処理対象物とした場合の、滅菌処理装置を例示として説明する。使用済み紙おむつの滅菌処理装置としては、滅菌用水性組成物を貯留し、該水溶液中に紙おむつ基材、吸水性ポリマー及び汚物を含む使用済み紙おむつを浸漬するための浸漬部と、使用済み紙おむつと滅菌用水性組成物とを加熱し、吸水性ポリマーの分解反応と感染性微生物の滅菌を行うための分解・滅菌反応部と、を備えることを特徴とする。
浸漬部及び分解・滅菌反応部は、滅菌用水性組成物によって化学的に劣化することがない材質でできている。該装置の素材又はコーティング材として、ステンレス鋼、パイレックスガラス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、ポリプロピレンなどが挙げられ、中でもステンレス鋼がより好ましく、さらにSUS304ステンレス鋼が最も好ましい。この処理装置では、浸漬部と分解・滅菌反応部とがそれぞれ独立していてもよいし、浸漬工程と分解・滅菌反応工程を連続的に行うことができるように、浸漬部が加熱可能とされており分解・滅菌反応部として利用できる構造となっていてもよい。
【0034】
本発明の滅菌用水性組成物及びこれを用いた滅菌処理方法は、以上の実施形態に限定されるものではない。
【実施例0035】
以下、本発明の滅菌用水性組成物及びこれを用いた滅菌処理方法について、実施例と共に説明するが、本発明の滅菌用水性組成物及び滅菌処理方法は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(滅菌試験方法)
感染性微生物の生物指標として、「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」に細菌芽胞と同等あるいはそれ以上の抵抗性を示す生物指標として認められているGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とBacillus atrophaeus (ATCC 9372)に対する滅菌試験を、下記の通り実施した。
使用培地として、(1)Tryptic Soy Agar(Difico、以下「TSA」と記載)及び(2)SCDLPブイヨン培地を用い、培地の試薬として塩化ナトリウム(和光純薬工業製、以下、「0.85%溶液を生理食塩液」と記載)を用いた。
試験菌として、Geobacillus stearothermophilus ATCC7953(CROSSTEX社製芽胞液、Lot. AR579、約10CFU/mL、蒸気滅菌指標芽胞菌)又は、Bacillus atrophaeus ATCC 9372(NAMSA社製芽胞液、Lot. N35105、約10CFU/mL、又は、CROSSTEX社製芽胞液、Lot. BT324、約10CFU/mL、乾熱滅菌指標細菌)を用い、これらの芽胞液原液を試験に供した。
試験溶液の調製方法として、ガラス製容器に所定量の滅菌蒸留水を分取し、これに滅菌用水性組成物を溶解した。
殺菌効力試験は、前記試験溶液を調製後、該試験溶液を加温し、試験温度±2℃以内に保持し、試験菌液0.1mLを添加、混合し、所定時間作用させた。所定時間経過後の混合液1 mLを、有効性を確認した不活性化剤SCDLP9mLに加えて、試験菌に対する殺菌作用を停止させ、これを菌数測定用試料液とした。対照は、試験溶液の代わりに生理食塩液を用い、同様に作用させた。
菌数測定は、菌数測定用試料液を原液として、生理食塩液で10倍段階希釈列を作製し、試料原液及び希釈液の各 1 mLをシャーレに移し、TSA約20mLと混合後、固化させて、Bacillus atrophaeusは36±2℃で、Geobacillus stearothermophilusは52±2℃で、48時間培養した。培養後の発育集落を数えて、試料溶液 1 mLあたりの試験菌数を求めた(定量下限値:10 CFU)。
菌数対数減少値の算出は、試験菌の接種菌数と試験溶液の菌数から、菌数対数減少値(=LRV:log reduction value)及び減少率を算出した。なお、LRVは、小数点以下1桁(小数点以下2桁目を切り捨てた)で表記した。
ここで、LRV値が6以上であれば、滅菌用水性組成物によって、試料溶液中の菌数が100万分の1以下に減少したこと、すなわち、滅菌用水性組成物が優れた滅菌性能を有することを意味する。
【0037】
(細菌芽胞水溶液の滅菌試験)
(実施例1)
パイレックスガラス容器(ビーカー)中で、過硫酸カリウム(KPS)0.2モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.1モル/L、すなわち、モル比1/0.5で滅菌用水性組成物を調製し、95±2℃に加温した滅菌用水性組成物9mLに、Bacillus atrophaeus (ATCC 9372)菌液0.1mLを混合し、これを試験溶液(pH約8)とした。接種菌数は、2.2x10CFU/試験溶液1mLであり、これを上記温度で60分間静置し、分解剤を作用させた。その後、不活性化剤の有効性を確認したSCDLP培地9mLに試験溶液1mLを添加混合し、試験溶液の効力を停止させ、菌数を測定した。
滅菌試験後の菌数は、10個以下となり、LRV(菌数対数減少値)= log (接種菌数/試験後の溶液の菌数)は、6.4より大きい値が得られた。これは、細菌芽胞が約250万分の1以下に減少したことを示す数値である。この値は、無菌性保証レベルである滅菌の接種菌数が10-6(100万分の1)以下に減少したことを意味する。従って、該滅菌用水性組成物は、100℃より低い95℃において、細菌芽胞等の滅菌抵抗性の強い生物指標の1つであるBacillus atrophaeus (ATCC 9372)に対して、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
また、SUS304製ステンレス容器、及びポリプロピレン製容器中で、上記と同じ滅菌試験を行ったが、同様の滅菌性能が得られた。
【0038】
(実施例2)
滅菌用水性組成物として、過硫酸カリウム0.2モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.2モル/L(モル比1/1)を用いた以外は、実施例1と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後にLRV > 6.4が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0039】
(実施例3)
滅菌用水性組成物の温度を90℃とした以外は、実施例1と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該処理剤水溶液は、90℃においても高い滅菌性能を有することが明らかになり、実施例1より低温で細菌芽胞の滅菌が可能であることがわかった。
【0040】
(実施例4)
滅菌用水性組成物の温度を90℃とした以外は、実施例2と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0041】
(実施例5)
滅菌用水性組成物の温度を85℃とした以外は、実施例1と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該滅菌用水性組成物は、実施例1より10℃低い85℃において、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0042】
(実施例6)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、実施例1と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られた。この値は、無菌性保証レベルである滅菌の接種菌数が10-6(100万分の1)以下に減少したことを意味する。従って、本発明の滅菌用水性組成物は、Geobacillus stearothermophilusに対しても高い滅菌性能を有することが明らかになった。また、該滅菌用水性組成物も、この条件下で中性を示した。
【0043】
(実施例7)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、実施例2と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、実施例2と同様、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0044】
(実施例8)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、実施例3と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0045】
(実施例9)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、実施例5と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV>6.2が得られた。従って、該滅菌用水性組成物は、85℃において高い滅菌性能を有することを示している。
【0046】
(実施例10)
滅菌用水性組成物として、過硫酸カリウム0.1モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.05モル/L(モル比2/1)を用いた以外は、実施例8と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、分解剤濃度を1/2としても、滅菌試験後にLRV > 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0047】
(実施例11)
反応時間を20分とした以外は、実施例8と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、反応時間を1/3に短縮しても、滅菌試験後にLRV > 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0048】
(実施例12)
反応時間を20分とした以外は、実施例9と同条件(反応温度を85℃とした以外は実施例11と同条件)下で、滅菌試験を実施した。その結果、実施例1~10よりも温和な条件下において、滅菌試験後にLRV = 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、十分優れた滅菌性能を有することが明らかになった。
【0049】
(実施例13)
滅菌用水性組成物として過硫酸カリウム0.2モル/Lのみからなる水溶液を用いた以外は、実施例2と同条件(温度95℃、反応時間60分)下で、Bacillus atrophaeus(ATCC9372)に対する滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。なお、本実施例では、分解試験開始時から、水溶液は強酸性(pH約1)を示し、取り扱いに注意を要する。
【0050】
(実施例14)
分解温度を90℃とした以外は、実施例13と同様の条件下で滅菌試験を実施した。その結果は、実施例13と同様であって、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0051】
(実施例15)
分解温度を85℃とした以外は、実施例13と同様の条件下で滅菌試験を実施した。その結果は、実施例13と同様であって、滅菌試験後のLRV > 6.4が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0052】
(実施例16)
菌種をGeobacillus stearothermophilus (ATCC7953)とした以外は、実施例13と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV>6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0053】
(実施例17)
分解温度を90℃とした以外は、実施例16と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV>6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0054】
(実施例18)
分解温度を85℃とした以外は、実施例16と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV>6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0055】
(実施例19)
滅菌用水性組成物として過硫酸カリウム濃度を0.1モル/Lとした以外は、実施例17と同条件(温度90℃、反応時間60分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0056】
(実施例20)
滅菌用水性組成物として過硫酸カリウム濃度を0.05モル/Lとした以外は、実施例19と同条件(温度90℃、反応時間60分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0057】
(実施例21)
反応時間を20分とした以外は、実施例17と同条件下で滅菌試験を実施した。その結果、反応時間を1/3に短縮しても、滅菌試験後にLRV > 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0058】
(実施例22)
反応温度を85℃とした以外は、実施例21と同条件(反応時間60分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV = 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、優れた滅菌性能を有することが明らかになった。
【0059】
(実施例23)
滅菌用水性組成物として過硫酸カリウム濃度を0.1モル/Lとした以外は、実施例21と同条件(温度90℃、反応時間20分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV > 6.2が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0060】
(実施例24)
滅菌用水性組成物として過硫酸カリウム濃度を0.05モル/Lとした以外は、実施例23と同条件(温度90℃、反応時間20分)下で、滅菌試験を実施した。その結果、滅菌試験後のLRV = 6.1が得られ、該滅菌用水性組成物は、高い滅菌性能を有することが明らかになった。
【0061】
(実施例25)
滅菌用水性組成物として過硫酸カリウム濃度0.1モル/Lのみからなる滅菌用水性組成物中、70℃、60分間、Bacillus atrophaeusに対する滅菌試験を実施した。その結果、無菌性保証レベルまでには達しなかったが、LRV = 5、すなわち、細菌芽胞数が10万分の1まで死滅することがわかった。この値は、前出の国際規格によれば、滅菌の要求性能を満たしている。また、より長時間、反応を続ければLRVが6に達する可能性が推測される。
【0062】
(実施例26)
過硫酸カリウム0.2モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.2モル/Lからなる滅菌用水性組成物中、85℃、60分間、Bacillus atrophaeusに対する滅菌試験を実施した。その結果、無菌性保証レベルまでには達しなかったが、LRV = 5が得られ、高い滅菌効果が得られることがわかった。この値は、前出の国際規格によれば、滅菌の要求性能を満たしている。より長時間、反応を続ければLRVが6に達する可能性が推測される。なお、これと同組成の滅菌用水性組成物は、実施例4に示した通り、90℃において、60分間でLRV > 6.4が得られた。
【0063】
(実施例27)
過硫酸カリウム0.1モル/Lと炭酸水素ナトリウム0.05モル/Lからなる滅菌用水性組成物中、90℃、20分間、Bacillus atrophaeusに対する滅菌試験を実施した。その結果、無菌性保証レベルまでには達しなかったが、LRV = 5.9が得られ、ある程度の滅菌効果が得られることがわかった。この値は、前出の国際規格によれば、滅菌の要求性能を満たしている。この場合は、反応時間30分で、LRVが6に達する可能性が推測される。
【0064】
実施例1~27の結果を表1に示す。
【表1】
【0065】
(滅菌用水性組成物に対する耐食性材料)
本発明の滅菌用水性組成物は、前述の通りの細菌芽胞を死滅する優れた性能を有するが、その成分として酸化剤を分解剤として含む。従って、滅菌処理を実施する上での細菌芽胞が付着、吸着している処理対象物(滅菌処理装置等)の材質(ステンレス鋼、パイレックスガラス、各種高分子材料等)が、この滅菌用水性組成物に対して耐劣化性(耐食性)を有することが不可欠である。
そこで、以下に耐劣化性試験を示し、さらに詳しく説明する。
【0066】
(実施例28)
市販のSUS304ステンレス鋼板から切り出した4試料(約10 x 10 x 0.5 mm、各重量:3.990g、3.976g、3.967g、3.977g)を、個別に、パイレックスガラス製バイアル管中の過硫酸カリウム(KPS)0.1モル/L水溶液(90℃)に投入し、60分間、該ステンレス鋼板試料に対する腐食試験を行った。試験終了後、蒸留水中で数回超音波洗浄し、その後、エタノール中に浸漬、撹拌後、ろ紙上で十分風乾した。
分解剤処理して得られた上記の4試料の重量測定を行った結果、いずれの試料も重量変化はなく、また、エリオニクス社製走査型電子顕微鏡ERA8900型によるSEM像(観察倍率:1000倍)も処理前後の変化は全く見られなかった。
この結果から、本発明の滅菌用水性組成物は、100℃以下において、該ステンレス鋼板を全く腐食しないことが明らかとなり、細菌芽胞の滅菌に最適な処理容器として活用できる。従って、SUS304ステンレス鋼板以上の耐食性に優れる他のステンレス鋼も、該滅菌用水性組成物の滅菌処理に適しているものと言える。
【0067】
(実施例29)
アズワン株式会社のカタログに記載のTPXビーカー(材質PMP:ポリメチルペンテン製、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌処理が可能な製品)から切り出した試験片0.259gを用いた以外は、実施例28と同条件下で、腐食試験(劣化試験)を行った。その結果、処理による試験片の重量変化はもちろん、形状変化も全くなく、該ポリメチルペンテン試料は、耐食性に優れるプラスチック素材として、本発明の該滅菌用水性組成物の滅菌処理の容器等に適していることが明らかになった。なお、一般的なポリメチルペンテンの物性は、融点約235℃とポリオレフィン中で最も高融点を有し、また密度は0.83と最も軽く、表面張力はフッ素樹脂に次いで小さく、クリープ特性はポリエチレン及びポリプロピレンより優れていることから、最近は、ビーカー、シャーレ、メスシリンダー、注射器等へとガラスからの転用が進んでいる。この事実からも、ポリメチルペンテンが本発明の滅菌用水性組成物中での細菌芽胞の滅菌処理にも好適な素材であると言える。
【0068】
(実施例30)
株式会社三商の総合カタログに記載のγ線滅菌済みディスポビーカー(ポリプロピレン製、半透明)から切り出した試験片フィルム0.058gを用いた以外は、実施例28と同条件下で腐食試験(劣化試験)を行った。その結果、処理による試験片の重量変化はもちろん、形状変化も全くなく、該γ線滅菌済みポリプロピレン製フィルム試料は、耐食性に優れるプラスチック素材として、本発明の該滅菌用水性組成物による滅菌処理の容器等に適していることが明らかになった。また、融解温度が約175℃の結晶性ポリプロピレン(iPP:アイソタクチックポリプロピレン)の試験片についても、本発明の滅菌用水性組成物中での劣化試験を行ったところ、表面形状は全く変化がなかった。以上の結果から、ポリプロピレンは、本発明の滅菌用水性組成物による滅菌処理の容器等の好適な素材であると言える。
【0069】
(実施例31)
アズワン株式会社のカタログに記載のルミラーフィルム(PET:ポリエチレンテレフタレート製フィルム、厚さ100μm、T60透明品)から切り出した試験片フィルム0.022gを用いた以外は、実施例28と同条件下で、腐食試験(劣化試験)を行った。その結果、処理による試験片フィルムの重量変化はもちろん、形状変化も全くなく、該PETフィルムは、本発明の滅菌用水性組成物によって劣化しない好適な素材であることが明らかになった。
【0070】
(実施例32)
アズワン株式会社のカタログに記載のナフロンシート(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン製シート、厚さ1.0mm)から切り出した試験片シート0.406gを用いた以外は、実施例28と同条件下で、腐食試験(劣化試験)を行った。その結果、処理による試験片フィルムの重量変化はもちろん、形状変化も全くなく、該PTFEシートは、本発明の滅菌用水性組成物によって劣化しない好適な素材であることが明らかになった。
【0071】
実施例28~32の一覧を表2に示す。
【表2】
【0072】
以上の結果から、本発明の滅菌用水性組成物は、常圧下、100℃以下で、しかも、酸化エチレンやグルタルアルデヒドのような健康被害を生じる気体の発生及び残留の危険性がなく、さらには、高温・高圧下での被滅菌物質の劣化も大幅に低減できる優れた滅菌剤であることが明らかになった。すなわち、本発明の滅菌処理方法によって、多くの医療機器をはじめ、一般細菌のみならず細菌芽胞などすべての感染性微生物が付着した器具等の滅菌が可能となるばかりか、該滅菌処理のための容器等についてもその材質は特に限定されないことが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上の通り、本発明の滅菌用水性組成物は、人の健康や環境を害する気体の発生がなく、大気圧下、100℃以下において優れた滅菌性能を有することが立証され、本発明の滅菌処理方法は、従来の滅菌方法と比較して、安全性、利便性、滅菌容器、滅菌対照製品等の選択性の豊富さなどにおいて非常に優れていることが明らかになり、幅広い処理対象物への応用の可能性がある。

【手続補正書】
【提出日】2024-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染性微生物を滅菌するための滅菌用水性組成物であって、滅菌のための成分としての過硫酸塩化合物を含み、前記過硫酸塩化合物がペルオキソ二硫酸塩であり、前記滅菌用水性組成物のpHが、1~10の範囲であることを特徴とする滅菌用水性組成物。
【請求項2】
過硫酸塩化合物が、水溶性である、請求項1に記載の滅菌用水性組成物。
【請求項3】
滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物の濃度が、0.01重量%以上飽和濃度以下である、請求項1に記載の滅菌用水性組成物。
【請求項4】
さらに、アルカリ化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の滅菌用水性組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の滅菌用水性組成物を用いて、感染性微生物を含む処理対象物を滅菌処理する工程を含む、感染性微生物の滅菌処理方法。
【請求項6】
感染性微生物が、
水中に分散した状態、
吸水性ポリマーゲル中に分散した状態、又は
固体表面に付着・吸着した状態
である、請求項に記載の滅菌処理方法。
【請求項7】
処理対象物が、医療用具又は医療機器である、請求項に記載の滅菌処理方法。
【請求項8】
処理対象物が、医療用防護服である、請求項に記載の滅菌処理方法。
【請求項9】
処理対象物が、紙オムツである、請求項に記載の滅菌処理方法。
【請求項10】
処理対象物が、食品である、請求項に記載の滅菌処理方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染性微生物を滅菌するための滅菌用水性組成物であって、滅菌のための成分としての過硫酸塩化合物を含み、前記過硫酸塩化合物がペルオキソ二硫酸塩であり、前記滅菌用水性組成物のpHが、1~10の範囲である滅菌用水性組成物を用いて、感染性微生物を含む処理対象物を滅菌処理する工程を含む、感染性微生物の滅菌処理方法であって、処理対象物が、医療用防護服、紙オムツ又は食品である、感染性微生物の滅菌処理方法
【請求項2】
過硫酸塩化合物が、水溶性である滅菌用水性組成物を用いる、請求項1に記載の感染性微生物の滅菌処理方法
【請求項3】
滅菌用水性組成物中の過硫酸塩化合物の濃度が、0.01重量%以上飽和濃度以下である滅菌用水性組成物を用いる、請求項1に記載の感染性微生物の滅菌処理方法
【請求項4】
さらに、アルカリ化合物を含む滅菌用水性組成物を用いる、請求項1に記載の感染性微生物の滅菌処理方法