(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170039
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】対物レンズおよびそれを備えた対物レンズ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 21/02 20060101AFI20241129BHJP
【FI】
G02B21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086965
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】592163734
【氏名又は名称】京セラSOC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 健史
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA09
2H087LA01
2H087NA04
2H087NA14
2H087PA06
2H087PA09
2H087PA12
2H087PA17
2H087PB06
2H087PB09
2H087PB12
2H087QA02
2H087QA03
2H087QA06
2H087QA17
2H087QA19
2H087QA21
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA32
2H087QA41
2H087QA45
2H087UA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】波長変化、気圧変化、温度変化等に由来する硝材の屈折率変化に際しても、光学性能変化の小さい対物レンズを提供すること。
【解決手段】対物レンズは、基準波長をλ
0とし、λ
1<λ
0<λ
2の範囲において使用可能であり、対物レンズを構成するすべてのレンズは1種類の硝材から構成され、下記の条件式を満足する。ただし、i,j:0,1,2、L'
i:波長λ
jの近軸像距離、S(L'
i,λ
j):像距離L'
iにおける波長λ
jの軸上ストレール比である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無限遠補正された対物レンズであって、
前記対物レンズを構成するすべてのレンズは1種類の硝材から構成され、
基準波長をλ
0とし、λ
1<λ
0<λ
2の範囲において、下記の条件式を満足することを特徴とする対物レンズ。
【数16】
i,j:0,1,2
L'
i:波長λ
jの近軸像距離
S(L'
i,λ
j):像距離L'iにおける波長λ
jの軸上ストレール比
【請求項2】
前記対物レンズを構成するすべてのレンズは蛍石で構成されていることを特徴とする請求項1記載の対物レンズ。
【請求項3】
最も有限共役側に少なくとも3枚の連続した凸メニスカスレンズを有し、全体として12枚以下のレンズで構成されている請求項1または2に記載の対物レンズ。
【請求項4】
下記の条件式を満足する請求項1または2に記載の対物レンズ。
【数17】
但し、
【数18】
u':屈折光線と光軸のなす角
r:最も有限共役側の面の曲率半径
NA:光学系の開口数
n:基準波長での硝材の屈折率
n
1:波長λ
1での硝材の屈折率
n
2:波長λ
2での硝材の屈折率
f:基準波長での全系の焦点距離
f
1:波長λ
1での全系の焦点距離
f
2:波長λ
2での全系の焦点距離
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の対物レンズと、波長の変化に応じてフォーカスを調整する機構とを備える対物レンズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズおよびそれを備えた対物レンズ装置に関し、特にレーザ光源を用いた観察・検査用途に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源を用いた半導体検査や顕微鏡観察などに用いられる種々の対物レンズが公知である。
【0003】
このような対物レンズの光学設計に際しては、レーザの波長幅は十分小さいことから、単波長とみなしてレンズ枚数を抑制しつつ収差補正がなされている。そのような例が特許文献1に開示されている。
【0004】
しかしながら、実際にはレーザ光源の個体ばらつきによって、中心波長が公称値からずれることがある。この波長変化に応じて各レンズの屈折率が変化し、対物レンズの光学性能が変化してしまうという課題がある。
【0005】
ここで、波長変化による対物レンズの光学性能変化は、本質的には各レンズの屈折率変化による光学性能変化が複合的に影響したものであることに着目する。
【0006】
各レンズの屈折率の変化という視点に立てば、光源の波長変化以外にも考慮すべき事象が存在する。たとえば、対物レンズの使用環境の気圧変化、温度変化である。なお、温度変化については、熱膨張に伴う間隔変化等も発生するが、これは機構的な工夫によってある程度低減可能である。しかし、屈折率の変化は機構的に補償することは困難であり、光学設計段階で考慮する必要がある。
【0007】
ここまで述べた波長変化、気圧変化、温度変化はいずれも屈折率変化という事象を通じて光学系(対物レンズ)に対して影響を及ぼしている。よって、ある屈折率変化をもたらす気圧変化量、温度変化量は、波長変化量に換算することができる。
【0008】
この事実が示唆するように、ある波長幅の範囲内で光学系の色収差を補正する、いわゆる「色消し」によって、波長変化、気圧変化、温度変化に伴う屈折率変化に対してロバストな光学系を実現することができると考えられる。
【0009】
「色消し」は、光学系の使用波長が可視域であれば、光学系を構成する使用可能な硝材が豊富であることにより、十分可能である。しかし、使用波長が300nmを下回るいわゆる深紫外領域では、使用可能な硝材が、事実上、石英および蛍石に限定されてしまう。くわえて、この波長帯域では、光学系に接着剤を用いることが困難であり、接合レンズを用いた設計を実現することは困難である。そのため、わずかな波長幅であっても「色消し」を実現するには多くのレンズ枚数を要し、コスト増大につながってしまう。このことは、実際に±5nm程度の色消しを試みた特許文献2の実施例からも示される。特許文献1の対物レンズと特許文献2の対物レンズとを比較することによって、深紫外域で色消しをすると、対物レンズのレンズ枚数が大幅に増加することが理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000-155267号公報
【特許文献2】特許第3805735号公報
【特許文献3】特開2010-55006号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H. Gross, Handbook of Optical Systems: Volume 1: Fundamentals of Technical Optics, Volume 1, Wiley, 2005
【非特許文献2】Y. Matsui, K. Nariai, Fundamentals of practical aberration theory : fundamental knowledge and technics for optical designers, World Scientific, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものであり、簡便な構成でありながら、波長変化、気圧変化、温度変化等に由来する硝材の屈折率変化に際しても、光学性能変化の小さい対物レンズおよびそれを備えた対物レンズ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、無限遠補正された対物レンズ(3、10、20、30、40、50)であって、複数のレンズ(L11~L19、L21~L29、L31~L39、L41~L46、L51~L62、)によって構成され、すべての前記レンズは1種類の硝材から構成され、前記対物レンズは、基準波長をλ
0とし、λ
1<λ
0<λ
2の範囲において使用可能に構成され、下記の条件式を満足することを特徴としている。
【数1】
但し、
i,j:0,1,2
L'
i:波長λ
jの近軸像距離
S(L'
i,λ
j):像距離L'
iにおける波長λ
jの軸上ストレール比
【0014】
この態様によれば、簡便な構成でありながら、波長変化、気圧変化、温度変化等に由来する硝材の屈折率変化に際しても、光学性能変化の小さい対物レンズが実現される。
【0015】
上記の態様において、前記対物レンズは、最も有限共役側に少なくとも3枚の連続した凸メニスカスレンズ(L44~L46、L58~L62)を有し、全系を12枚以下のレンズで構成されている。
【0016】
この態様によれば、球面収差の発生が抑制される。
【0017】
上記の態様において、前記対物レンズは、更に、下記の条件式を満足している。
【数2】
但し、
【数3】
u':屈折光線と光軸とのなす角
r:最も有限共役側の面の曲率半径
NA:光学系の開口数
n:基準波長での硝材の屈折率
n
1:波長λ
1での硝材の屈折率
n
2:波長λ
2での硝材の屈折率
f:基準波長での全系の焦点距離
f
1:波長λ
1での全系の焦点距離
f
2:波長λ
2での全系の焦点距離
【0018】
この態様によれば、簡便な構成でありながら、波長変化、気圧変化、温度変化等に由来する硝材の屈折率変化に際しても、より一層、光学性能変化の小さい対物レンズが実現される。
【0019】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、対物レンズ装置(1)であって、上述の態様による対物レンズ(3、10、20、30、40、50)と、波長の変化に応じてフォーカスを調整する機構(5)とを備える。
【0020】
この態様によれば、波長変化に由来する硝材の屈折率変化に際しても、光学性能変化の小さい対物レンズ装置が実現される。
【発明の効果】
【0021】
以上の態様によれば、簡便な構成でありながら、波長変化、気圧変化、温度変化等に由来する硝材の屈折率変化に際しても、光学性能変化の小さい対物レンズが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】石英の屈折率を波長の関数として表したグラフ
【
図2】本実施形態の対物レンズの最も有限共役側の面における諸量を示す説明図
【
図6】実施例1の対物レンズの波長265nmの横収差図
【
図7】実施例1の対物レンズの波長266nmの横収差図
【
図8】実施例1の対物レンズの波長267nmの横収差図
【
図11】実施例2の対物レンズの波長247nmの横収差図
【
図12】実施例2の対物レンズの波長248nmの横収差図
【
図13】実施例2の対物レンズの波長249nmの横収差図
【
図16】実施例3の対物レンズの波長352nmの横収差図
【
図17】実施例3の対物レンズの波長355nmの横収差図
【
図18】実施例3の対物レンズの波長358nmの横収差図
【
図21】実施例4の対物レンズの波長264nmの横収差図
【
図22】実施例4の対物レンズの波長266nmの横収差図
【
図23】実施例4の対物レンズの波長268nmの横収差図
【
図26】実施例5の対物レンズの波長265nmの横収差図
【
図27】実施例5の対物レンズの波長265nmの横収差図
【
図28】実施例5の対物レンズの波長267nmの横収差図
【
図31】比較例の対物レンズの波長265nmの横収差図
【
図32】比較例の対物レンズの波長266nmの横収差図
【
図33】比較例の対物レンズの波長267nmの横収差図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、簡便のため、本明細書では光学系が配置される空間の気圧・温度の変化を環境変化と総称する。
【0024】
はじめに、本発明の課題解決に用いられる「擬似色消し」の概念について説明する。光源にレーザを使用する場合、中心波長の変化とスペクトル幅の変化は区別して扱う必要がある。通常問題になるのは中心波長の変化である。ところで、通常、対物レンズ装置はピエゾ駆動等で焦点調整を行う機能が搭載されていることが多い。そこで、中心波長がシフトしても、その波長でのベスト焦点位置に調整すれば、良好な光学性能が維持されると考えられる。つまり、軸上色収差を補正しなくても、ある範囲内で単色収差が十分に補正されていれば、その波長ごとに焦点調整を行うという運用方法をとることで、実用上は波長変化に対して光学性能が良好に維持された光学系が実現できる。
【0025】
一般に、軸上色収差(各波長のガウス像点の位置のずれ)を補正すること、および補正されている状態を「色消し」と呼ぶことが多い。そこで、本明細書では「軸上色収差(各波長のガウス像点の位置のずれ)は補正されていないが、各波長の単色収差は良好に補正されており、波長ごとに焦点位置を調整することで良好な光学性能が得られる状態」を、「擬似色消し」と呼称する。
【0026】
「擬似色消し」は、波長変化に対して光学性能の変化の少ない光学系を実現するものであり、環境変化に対しても光学性能変化の少ない光学系へも応用できるものである。
【0027】
先述したように、環境変化が光学系に与える影響は本質的には屈折率の変化であるから、その屈折率変化に相当する波長の変化量に換算することができる。これを本明細書では波長換算量と呼ぶ。
【0028】
波長換算量について、
図1を参照しながら説明する。
図1は代表的な硝材である石英について、環境温度が20℃および25℃における屈折率を波長の関数として表したものである。なお、温度や気圧変化に伴う光学材料の屈折率変化は非特許文献1に解説されている。
図1において、符号WR20は20℃における分散特性を、符号WR25は25℃における分散特性を各々示している。基準波長を266nmとして、環境温度が20℃から25℃に変化したとすると、それに伴い屈折率がΔRで示した量だけ変化する。このとき、波長がΔWで示す量だけ変化しても、ΔRと同等の屈折率変化が得られることが分かる。すなわち、このΔWがΔRの温度変化に相当する波長換算量である。
図1は温度について表したものであるが、気圧についても同様に考えることができる。
【0029】
波長換算量は硝材の種類によって決まる量である。よって、単一の硝材を用いて設計することで、すべてのレンズにおいて波長換算量を統一することができる。つまり、屈折率の変化という点において、波長変化と環境変化を完全に等価に扱うことが可能となる。
【0030】
したがって、単一硝材を用い、「擬似色消し」の設計とすることで、光源の波長変化、環境変化によるいずれの屈折率変化に対しても、光学性能変化の少ない光学系が実現できる。
【0031】
本実施形態の対物レンズは、無限遠補正された対物レンズであって、対物レンズを構成するすべてのレンズは1種類の硝材から構成されている。
【0032】
本実施形態の対物レンズは、基準波長をλ0とし、λ1<λ0<λ2の範囲において使用可能に構成され、「擬似色消し」のために、次の条件式(1)~(3)を満足している。
【0033】
【数4】
ここで、
i,j:0,1,2
L'
i:波長λ
jの近軸像距離
S(L'
i,λ
j):像距離L'
iにおける波長λ
jの軸上ストレール比
である。
【0034】
「擬似色消し」では軸上色収差を補正するのではなく、各波長それぞれの単色収差を補正することを主眼としている。
【0035】
式(1)の|λ1-λ2|が下限1nmを超えると、擬似色消しされている波長範囲が狭くなりすぎ、屈折率変化に対して光学性能の変化が大きくなってしまう。
式(2)の軸上ストレール比S(L'i,λj)が下限0.8を超えると、回折限界を下回ってしまい、対物レンズとして必要な光学性能を満足できなくなる。
式(3)の軸上ストレール比S(L'i,λj)が上限0.1を超えると、一般的な色消しに近くなり、対物レンズを構成するレンズ枚数の増加につながる。
【0036】
「擬似色消し」のために、本実施形態の対物レンズは、より好ましくは、条件式(1')~(3')を満足している。
【0037】
【0038】
本実施形態の対物レンズは、最も有限共役側に、少なくとも3枚の連続した凸メニスカスレンズを有していることを特徴とする。これにより、光線を緩やかに曲げ、球面収差の発生を抑制することができる。レンズの各面で発生する球面収差を抑制しておくことは、屈折率変化に際しても球面収差の発生量を抑制することにつながる。
【0039】
本実施形態の対物レンズを構成するすべてのレンズの硝材は蛍石であることを特徴としている。先述したように、深紫外領域で使用可能な硝材は実質的に蛍石と石英とに限られるが、蛍石の方が、より分散が少ないため優位である。
【0040】
また、対物レンズの鏡筒等には真鍮やステンレス材が用いられることが多い。蛍石を採用することによって、これら金属材料との線膨張係数差を少なくし、温度変化に伴う形状変化による性能変化を低減することが可能となる。
【0041】
本実施形態の対物レンズは、全体として12枚以下のレンズで構成されている。対物レンズは、「擬似色消し」とすることによって、単波長設計と同等程度のレンズ枚数で構成することができ、コストの低減を実現している。
【0042】
次に、「擬似色消し」を実現するための詳細な条件について説明する。
【0043】
「擬似色消し」は、屈折率変化に伴う単色収差の変動が少ない状態と考えることができる。
【0044】
いま、複数のレンズから構成される光学系のうち1枚に着目する。まず、当該レンズの屈折率変化によって収差が変化する。このとき、そのレンズよりも前に位置するレンズの屈折率も変化しているため、当該レンズに入射する光線の諸量も変化している。
【0045】
単一硝材で構成された光学系の場合、軸上色収差は累積的に足し合わされる傾向にある。そのため、全系の屈折率変化に際しては、最終面における見かけ上の物体距離変化は必然的に大きくなる。よって、全系で球面収差の屈折率変化を抑制するためには、少なくとも最終面での変化を抑制しておくことが必要と考えられる。
【0046】
そこで、最終面における、屈折率変化に対する球面収差変化について、
図2を参照しながら検討する。球面収差係数Iは、非特許文献2で解説されており、式(4)により示される。
【0047】
【数6】
h:軸上マージナル光線高さ
A:アッベの不変量
L:物体距離
L':像距離
である。
【0048】
いま、光学系の最終面を着目していることに注意すると、
【数7】
が成り立つ。
【0049】
【0050】
【0051】
また、入射瞳径2h
1は波長によらず一定とすると、全系の基準波長での焦点距離fと開口数NAとを用いて、
【数10】
を得る。
【0052】
以上を用い、球面収差係数を屈折率で微分すれば、屈折率変化に対する球面収差変化を表す式が得られる。特に基準波長について求め、焦点距離で正規化したうえで絶対値をとると、式(13)が得られる。
【0053】
【0054】
ここで、
u':屈折光線と光軸とのなす角
r:最も有限共役側の面の曲率半径
NA:光学系の開口数
n:基準波長での硝材の屈折率
n1:波長λ1での硝材の屈折率
n2:波長λ2での硝材の屈折率
f:基準波長での全系の焦点距離
f1:波長λ1での全系の焦点距離
f2:波長λ2での全系の焦点距離
である。
【0055】
式(13)の|ΔI/Δn|の値が小さいほど、最終面において、屈折率に対する球面収差の変化が少なくなる。
本実施形態の対物レンズは、|ΔI/Δn|の値が数式(22)に示す以下の範囲であることを特徴としている。
【0056】
【0057】
|ΔI/Δn|の値が上限5を超えると、屈折率変化に伴う最終面での球面収差変化が大きくなり、他のレンズで補償することが困難になる。
【0058】
より好ましくは、|ΔI/Δn|の値が数式(23)に示す範囲である。
【数14】
【0059】
ここで、本発明で開示された対物レンズの特徴について改めて説明する。本明細書で便宜上「擬似色消し」と呼称した、「軸上色収差を補正するのではなく、各波長で単色収差を補正し、波長ごとに焦点を合わせる手法」は公知である。たとえば、特許文献3の実施例1が該当する。
【0060】
この先行例が示すように、これまで擬似色消しは一般的な色消しと同様に複数の硝材を用いて実現されていた。その背景のひとつとして、擬似色消しが一般的な色消しの延長ないしは簡易的なものとして考えられてきたことが挙げられる。そのため、先行例のようにダブレットやトリプレットを連続して配置することになり、枚数の増加につながってきた。
【0061】
本実施形態の対物レンズは、擬似色消しを屈折率変化による収差変化として再考し、かつ単一の硝材のみで実現したことで、比較的枚数の少ない簡便な構成でありながら、屈折率変化に対しても光学性能変化の少ない光学系を実現した。
【0062】
また、これまで環境変化と波長変化は別個として扱われることが多かった。本実施形態は単一の硝材のみで構成し、かつ擬似色消しとすることによって、これらを環境変化と波長変化を等価とみなせる光学系を実現し、環境変化と波長変化いずれにおいても光学性能変化の少ない光学系を実現した。
【0063】
したがって、本実施形態の対物レンズは、簡便な構成でありながら、波長変化、気圧変化、温度変化等に由来する硝材の屈折率変化に際しても、光学性能変化の小さい対物レンズを実現したものである。
【0064】
以下、本発明の対物レンズにかかる実施例1~5および比較例について、
図4~
図33及び表1~表24を参照して説明する。
【0065】
表1、表5、表9、表13、表17、表21は各実施例および比較例のレンズの諸元を、表2、表6、表10、表14、表18、表22は各実施例および比較例の可変間隔データ(波長の変化に伴う可変間隔の値)を、表3、表7、表10、表15、表19、表23は各実施例および比較例の屈折率データ(各波長における硝材の屈折率)を、表4、表8、表11、表16、表20、表24は各実施例および比較例の焦点距離などの各種データを各々示している。
【0066】
なお、レンズの諸元は特に断りのない限り基準波長での値である。以下の全ての諸元の値において、記載している焦点距離、曲率半径、レンズ面間隔、その他の長さの単位は、特記のない限りミリメートル(mm)を使用するが、光学系では比例拡大と比例縮小とにおいても同等の光学性能が得られるので、これに限られるものではない。
【実施例0067】
実施例1の対物レンズ10は、
図4に示されているように、無限遠共役側から有限共役側へ順に、凹メニスカスレンズL11、両凹レンズL12、凸メニスカスレンズL13、両凸レンズL14、凹メニスカスレンズL15、両凸レンズL16、両凸レンズL17、凸メニスカスレンズL18および凸メニスカスレンズL19から構成され、全体として9枚構成のレンズ群を備えている。レンズL11~L19はすべて蛍石から構成されている。つまり、すべてのレンズL11~L19は1種類の硝材から構成されている。
【0068】
対物レンズ10は、レンズL11~L19によるレンズ構成において無限遠補正され、基準波長をλ0とし、λ1<λ0<λ2の範囲において使用可能であり、前述の条件式(1)~(3)を満たしている。
【0069】
図5は実施例1の対物レンズ10の波長265nm、266nm、267nmの縦収差を示す縦収差図、
図6(A)~(C)は対物レンズ10の波長265nmにおける横収差を示す横収差図、
図7(A)~(C)は対物レンズ10の波長266nmにおける横収差を示す横収差図、
図8(A)~(C)は同対物レンズ10の波長267nmにおける横収差を示す横収差図である。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】